説明

ロータリ式シリンダ装置

【課題】シャフトを中心に等速回転運動が可能な回転部品が軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けられ、複数クランク軸周りの回転運動を合成してピストン組の直線往復運動を実現し、かつ回転部品間の質量バランスをとって回転による振動を抑えて静音化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供する。
【解決手段】第1,第2ピストン組7,8の第2仮想クランク軸14a,14bを中心とした第1の回転バランス、ピストン複合体Pの第1クランク軸5を中心とする第2の回転バランス及びシャフト4を中心とする第1クランク軸5及びピストン複合体Pの第3の回転バランスが第1,第2バランスウェイト9,10によりバランス取りされたまま、シャフト4を中心に第1クランク軸5が回転し、当該第1クランク軸5を中心にピストン複合体Pが回転することで、第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする半径2rの第2仮想クランク軸14a,14bの転がり円23の径方向に沿って直線往復運動を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの回転動作とシリンダ内のピストン組の往復動作を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置、より具体的には内燃機関、圧縮機、真空ポンプ、流体回転機など様々な装置に適用可能なロータリ式シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関、圧縮機、真空ポンプ、流体回転機などの原動機においては、クランク軸に連繋するピストン組の往復運動で流体の吸込みと送出しを繰り返すレシプロ駆動方式、固定スクロールに対して旋回スクロールを回転させて流体の吸込みと送出しを繰り返すスクロール駆動方式、ローラーの回転運動で流体の吸込みと送出しを繰り返すロータリ駆動方式(特許文献1参照)、その他スクリュー方式、ベーン方式など用途に応じた各種駆動方式が採用されている。
中でも、中速回転(回転数10000rpm)以下で高い気密性を必要とする内燃機関、圧縮機、真空ポンプなどを含む原動機等においては、レシプロ駆動方式が主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−190613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したレシプロ駆動方式では、シリンダ内のピストン組の往復運動によるエネルギー損失が発生してエネルギー変換効率が低下し易い。また、ピストン組の往復運動に伴う機械振動による騒音が発生する等の課題がある。また、シリンダ内を往復運動するピストン組を支持するコネクティングロッド、コネクティングロッドに接続するクランクシャフトクランクシャフトに連結するクランクアームが必要であり、ピストン組の往復運動を回転運動に変換するためのエネルギー変換装置が大型になり易い。また、ピストン組が往復運動する際に回転部品の質量バランスの偏り(重心の偏り)によって発生する振動を、ダンパー等を設けて吸収する必要があった。
【0005】
本発明の目的は、シャフトを中心に等速回転運動が可能な回転部品が軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けられ、複数クランク軸周りの回転運動を合成してピストン組の直線往復運動を実現し、かつピストン組の直線往復運動により発生する偏重心量を含めた回転部品間の質量バランスをとることによって回転による振動を抑えて静音化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は次の構成を有する。
シリンダ内を往復運動するピストンとシャフトの回転運動を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置であって、前記シャフトの軸芯に対して偏芯して組み付けられ、当該シャフトを中心に半径rの第1仮想クランクアームを介して回転可能に組み付けられた第1クランク軸と、前記第1クランク軸に同芯状に嵌め込まれた第1筒体と、該第1筒体の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸を軸芯とする第2筒体が軸方向両側に連続して形成された偏芯筒体を備え、一方の第2筒体に第1ピストン組が他方の第2筒体に第2ピストン組が互いに交差したまま第1クランク軸を中心に半径rの第2仮想クランクアームを介して回転可能に嵌め込まれたピストン複合体と、前記ピストン複合体が嵌め込まれた前記第1クランク軸の両端部に各々組み付けられ、前記シャフトを中心とする回転部品間の回転バランスをとる第1,第2バランスウェイトと、前記シャフトを回転可能に軸支し、当該シャフトを中心に回転する前記第1クランク軸及び前記第1,第2バランスウェイト、前記第1クランク軸を中心に回転する前記ピストン複合体を回転可能に収容する本体ケースと、を具備し、前記第1,第2ピストン組の前記第2仮想クランク軸を中心とする第1の回転バランス、前記ピストン複合体の第1クランク軸を中心とする第2の回転バランス及び前記第1クランク軸及びピストン複合体の前記シャフトを中心とする第3の回転バランスが前記第1,第2バランスウェイトにより各々バランス取りされたまま、前記シャフトを中心に前記第1クランク軸が回転し、当該第1クランク軸を中心に前記ピストン複合体が回転することで、前記第2筒体に組み付けられた前記第1,第2ピストン組が前記シャフトを中心とする前記第2仮想クランク軸の半径2rの転がり円の径方向に直線往復運動を行なうことを特徴とする。
ここで、第1仮想クランクアームとは、シャフトと第1クランク軸の軸芯間を連結する部位を言い、部品単体でクランクアームが存在しなくても構造上クランクアームの存在が認められるものを言う。また、第2仮想クランクアームとは、第1クランク軸と第2仮想クランク軸の軸芯間を連結する部位をいい、クランクアームが省略されていても機構上クランクアームの存在が認められるものを言う。また、第2仮想クランク軸とは、機構上のクランク軸が存在しなくとも回転中心となる軸芯の存在が仮想上認められるクランク軸を言う。また、ピストン組とは、ピストン単体のピストンヘッド部にシールカップ及びシールカップ押さえ部材やピストンリングなどのシール材が一体に組み付けられたものを言う。
【0007】
また、前記第1クランク軸の両軸端部には軸方向と交差する向きにピン孔が形成されており、前記第1,第2バランスウェイトの軸部には軸孔と軸方向と交差する向きにピン孔が各々形成されており、前記第1クランク軸の両軸端部が前記第1,第2バランスウェイトの軸孔にピン孔どうしが連通するように各々嵌め込まれ、該連通するピン孔にピンが抜け止めされて嵌め込まれることにより、前記第1クランク軸と第1,第2バランスウェイトとが一体に組み付けられていることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1,第2のバランスウェイトの少なくとも一方に前記シャフトが一体に形成されていることを特徴とする。
【0009】
また、各第2筒体の内外周部には軸受保持部が各々凹設され各軸受保持部には内側軸受及び外側軸受が各々保持されており、前記第1クランク軸は内側軸受に回転可能に支持され、前記第1,第2ピストン組は外側軸受に回転可能に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るロータリ式シリンダ装置を用いれば、シャフトを回転させると、当該シャフトを中心に第1クランク軸が回転し、当該第1クランク軸を中心にピストン複合体が回転することで、第2筒体に組み付けられた第1,第2ピストン組がシャフトを中心とする第2仮想クランク軸の半径2rの転がり円の径方向に直線往復運動を行なう。
このとき、第1,第2ピストン組の第2仮想クランク軸を中心とした第1の回転バランス、ピストン複合体の第1クランク軸を中心とする第2の回転バランス及び第1クランク軸及びピストン複合体のシャフトを中心とする第3の回転バランスが第1,第2バランスウェイトによりバランス取りされたまま回転運動するので、第1,第2ピストン組の直線往復運動により発生する偏重心量を含めたバランス取りによって回転による振動を抑えて静音化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供することができる。
また、シャフトを中心とした回転による振動を低減することで機械的な損失が少なくエネルギー変換効率を高めることができ、しかもダンパー等の防振構造を簡略化することができる。
また、通常のクランク機構を構成するクランク軸やクランクアームなどの機構部品を省略して部品点数が少なく機構的に簡略化されたクランク機構を実現することができる。
【0011】
第1クランク軸と第1,第2バランスウェイトとがピン孔どうしが連通するように各々嵌め込まれ、該連通するピン孔にピンが抜け止めされて嵌め込まれることにより、第1クランク軸の両軸端部に連結する第1,第2バランスウェイトの軸直角方向の組み付け精度を向上させることができる。
【0012】
また、第1,第2バランスウェイトの少なくとも一方にシャフトが一体に形成されていると部品点数が少ないうえに、シャフトと第1クランク軸を結ぶ第1仮想クランクアームの長さを第1,第2バランスウェイトの回転半径により調整して、シャフトを中心として第1クランク軸を軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
【0013】
また、各第2筒体の内外周部には軸受保持部が各々凹設され各軸受保持部には内側軸受及び外側軸受が各々保持されており、第1クランク軸は内側軸受に回転可能に支持され、第1,第2ピストン組は外側軸受に回転可能に支持されていると、第1クランク軸と第2仮想クランク軸を結ぶ第2仮想クランクアームの長さを第2円筒体の回転半径により調整して、第1クランク軸を中心として偏芯筒体を含むピストン複合体を軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ロータリ式シリンダ装置の斜視図である。
【図2】図1のロータリ式シリンダ装置の第1本体ケースを取り外した斜視図である。
【図3】図1のロータリ式シリンダ装置の軸方向断面斜視図である。
【図4】ロータリ式シリンダ装置の分解斜視図である。
【図5】シャフトを中心とする第1クランク軸、第2仮想クランク軸の回転運動と複数のクランクアームの往復運動の関係を示す模式原理図である。
【図6】圧縮機に応用した第1本体ケースを取り外した平面図、圧縮機のZ軸方向断面図、交差するピストン組を含むZ軸方向断面図である。
【図7】第1クランク軸の正面図である。
【図8】第1バランスウェイトの正面図、上視図及び下視図である。
【図9】第2バランスウェイトの正面図、上視図及び下視図である。
【図10】偏芯筒体の平面図及びX軸方向断面図である。
【図11】第1本体ケースの平面図及びX軸方向断面図である。
【図12】第2本体ケースの平面図及びX軸方向断面図である。
【図13】第1ピストン本体の一部破断平面図、Z軸方向半断面図、右側面図及び底面図である。
【図14】内燃機関用ピストンリングを装着したピストン組の平面図及び本体ケースに収納された状態の部分断面図である。
【図15】シリンダの平面図及びX軸方向断面図である。
【図16】シリンダシールカップの平面図及びX軸方向半断面図である。
【図17】シール押さえの平面図及びX軸方向断面図である。
【図18】真空ポンプ用のシリンダシールカップの組み付けを示す部分断面図である。
【図19】第1本体ケースを取り外した状態のシャフト回転位置とピストン組の平面視した状態の動作説明図である。
【図20】第1本体ケースを取り外した状態のシャフト回転位置とピストン組を平面視した状態の動作説明図である。
【図21】第1本体ケースを取り外した状態のシャフト回転位置とピストン組を平面視した状態の動作説明図である。
【図22】第1本体ケースを取り外した状態のシャフト回転位置とピストン組を平面視した状態の動作説明図である。
【図23】ピストン組及びシリンダの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明を実施するための一実施形態について添付図面に基づいて詳細に説明する。先ず、図1乃至図23を参照して一例として圧縮機に用いられるロータリ式シリンダ装置を中心として説明する。ロータリ式シリンダ装置は、シリンダに対するピストン組の往復運動とシャフトの回転運動とが相互に変換されて出力される装置を想定している。
【0016】
図1において、第1本体ケース1と第2本体ケース2とで構成される本体ケース3にシャフト4(入出力軸)が回転可能に軸支されている。第1本体ケース1と第2本体ケース2とは、ボルト3aにより四隅をねじ嵌合させて一体に組み付けられている。この本体ケース3内には、図3に示すように、第1クランク軸5を中心に回転可能な偏芯筒体6と該偏芯筒体6に軸受を介して組み付けられた第1ピストン組7及び第2ピストン組8(以下、これらを「ピストン複合体P」という;図2参照)が回転可能に収容されている。以下、具体的に説明する。
【0017】
図3において、第1クランク軸5は、シャフト4の軸芯に対して偏芯して連結される。本実施形態では、シャフト4は、第1バランスウェイト9と一体に形成されている。尚、第2バランスウェイト10側にもシャフトが形成されていてもよい。第1,第2バランスウェイト9,10は第1クランク軸5の両軸端部に各々嵌め込まれる。図7において、第1クランク軸5の両軸端部には軸方向にスリット5aが各々形成されている。各スリット5aには、第1クランク軸5と直交する向きにピン孔5bが設けられている。ピン孔5bの孔径はスリット5aの幅より大きく、ピン孔5bはスリット5aの一部に重なり合うように形成されている。また、第1クランク軸5の両端外周部には、Dカット部5cが形成されている。第1クランク軸5の両端部に第1,第2バランスウェイト9,10がピン孔9b,10b(図8(a),図9(a)参照)とピン孔5bとを位置合わせして嵌め込まれている。
【0018】
図8及び図9において、第1,第2バランスウェイト9,10の軸部にはボルト孔9a,10a及びピン孔9b,10bが各々設けられている。このピン孔9b,10bと第1クランク軸5のピン孔5b(図7参照)を連通するように位置合わせして第1,第2バランスウェイト9,10が第1クランク軸5に嵌め込まれ、ピン11a(図3参照)を互いに連通するピン孔9b,5bに、ピン11b(図3参照)を連通するピン孔10b,5bに各々嵌め込む。そして、ボルト孔9a,10aにボルト12a,12bを各々嵌め込んでスリット5a及びピン孔5bの幅を狭めることで、ピン11a,11bが抜け止めされて第1,第2バランスウェイト9,10が第1クランク軸5の両端部に一体に組み付けられる(図4参照)。これにより、第1クランク軸5の両軸端部に連結する第1,第2バランスウェイト9,10の軸直角方向の組み付け精度を向上させることができる。
【0019】
図3において、第1バランスウェイト9に一体形成されたシャフト4は第1軸受13aにより回転可能に軸支されており、第2バランスウェイト10に形成されたシャフト4と同軸状に形成された軸部10cは第2軸受13bにより回転可能に軸支されている。第1,第2バランスウェイト9,10は、例えば扇型などのブロック形状をしており(図8(b)(c),図9(b)(c)参照)、後述するようにシャフト4を中心として組み付けられる第1クランク軸5及びピストン複合体Pを含む回転部品間の回転バランスを取るために設けられている。
このように、第1,第2バランスウェイト9,10の少なくとも一方にシャフト4が一体に形成されていると部品点数が少ないうえに、シャフト4と第1クランク軸5を結ぶ第1仮想クランクアームの長さを例えば第1,第2バランスウェイト9,10の回転半径rにより調整して、シャフト4を中心として第1クランク軸5を軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
【0020】
また、図10(b)に示すように、偏芯筒体6は、第1クランク軸5の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸14a,14bを有する。本実施形態では、交差して組み付けられるピストン組が2組であるため、第2仮想クランク軸14a,14bは第1クランク軸5を中心として180度位相がずれた位置に形成されている。
【0021】
図3に示すように、第1,第2ピストン組7,8が互いに交差して第1クランク軸5を中心に回転する偏芯筒体6に組み付けられている。具体的には、図10(b)において、偏芯筒体6は、回転中心となる第1クランク軸5が挿通する第1筒体6aと、該第1筒体6aの軸芯方向両側に第2筒体6bが各々連続して形成されている。第1筒体6aには第1クランク軸5が同芯状に嵌め込まれており、偏芯筒体6の回転中心となっている。また、第2筒体6bの軸芯は、第1クランク軸5(第1筒体6a)の軸芯に対して偏芯した第2仮想クランク軸14a,14bと一致するようになっている。図3に示すように、第2筒体6bには、外側軸受16a,16bを介して第1,第2ピストン組7,8が互いに交差して回転可能に嵌め込まれている。
【0022】
図10(a)(b)において、第2筒体6bの内周部及び外周部には、軸受保持部6c,6dが各々凹設されている。図3に示すように、内周側の軸受保持部6cには内側軸受15a,15bが保持されており、外周側の軸受保持部6dには外側軸受16a,16bが各々保持されている。内側軸受15a,15bは第1のクランク軸5を回転可能に支持している。また、図3に示すように第1,第2ピストン組7,8は外側軸受16a,16bを介して第2円筒部6bに第2仮想クランク軸14a,14bと軸直角方向に交差して嵌め込まれたまま回転可能に支持されている。
【0023】
これにより、第1クランク軸5と第2仮想クランク軸14a,14bを結ぶ第2仮想クランクアームの長さを第2円筒体6bの回転半径rにより調整して、第1クランク軸5を中心として偏芯筒体6を含むピストン複合体Pを軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
また、第1,第2ピストン組7,8が、偏芯円筒6の第2筒体6bに第2仮想クランク軸14a,14bと軸直角方向に交差(直交)して重なり合い、第1,第2ピストンヘッド部7c,8cどうしが同一平面上で往復動可能に組み付けられている。よって、ピストン複合体P(図2参照)を軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができ、省スペースで小型軽量化を図ることができる。
【0024】
また、図2において、第1,第2ピストン本体7A,8Aの長手方向両端部には、第1ピストンヘッド部7c,第2ピストンヘッド部8cが形成されている。第1ピストンヘッド部7c,第2ピストンヘッド部8cには、リング状のシールカップ17a,17b(図16(a)(b)参照)、シールカップ押さえ部材18a,18b(図17(a)(b)参照)が各々ボルト19により組み付けられている。シールカップ17a,17bは、オイルフリーのシール材(例えばPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂材等)が用いられる。シールカップ17a,17bの外周縁部にはピストン摺動方向に沿って起立部17cが起立形成されている(図16(a)(b)参照)。圧縮機や流体回転機などにおいては、起立部17cは第1,第2ピストンヘッド部7c,8cの摺動方向外側に向けて組み付けられる(図23(a)参照)。
【0025】
また、図2及び図3において、本体ケース3(第1本体ケース1及び第2本体ケース2)の側面部(4面)に設けられた開口部20には、シリンダ21がボルト22により組み付けられている。図2において、第1,第2ピストン組7,8は、シールカップ17a,17b(起立部17c)によって、シリンダ21の内壁面21f(図15(b)参照)とのシール性を保ちながら摺動するようになっている。尚、シールカップ17a,17bは、他の回転部品に比べて回転質量が無視できるほど軽量であるため、第1,第2バランスウェイト9,10による第1乃至第3のバランス取りに影響を与えない。
【0026】
図13(a)〜(d)は、シールカップ及びシールカップ押さえ部材を外した第1ピストン本体7Aの一部破断平面図、Z軸方向半断面図、右側面図及び底面図である。第1,第2ピストン本体7A,8Aは同形状をしているため、第1ピストン本体7Aのみを用いて説明する。第1ピストン本体7Aに存在する構成は第2ピストン8A(図2参照)にも存在するものとする。
第1ピストン本体7Aの中央部には、シャフト4の軸部9c(図8(a)参照)との干渉を防ぐ逃げ孔7aが設けられている(図13(a)参照)。逃げ孔7aの中心は第2仮想クランク軸14aに相当する。逃げ孔7aより外周側には、外側軸受16aを保持する軸受保持部7bが設けられている(図13(b)(d)参照)。
【0027】
また、第1ピストン本体7Aの長手方向両端には円板状の第1ピストンヘッド部7cが各々設けられている。この第1ピストンヘッド部7cには、ボルト孔7eを有する台座7dが各々設けられている(図13(c)参照)。図13(a)に示すように、第1ピストンヘッド部7cの両端面に台座7dが設けられて外周側に形成される段差部7fに図4に示すシールカップ17aを重ね合わせ、該シールカップ17aにシールカップ押さえ部材18aを、ボルト孔18cがボルト孔7e(図13(c)参照)と位置合わせして重ね合わせる。そして、ボルト19をボルト孔18c,ボルト孔7eに嵌め込むことでシールカップ17aがシールカップ押さえ部材18aと第1ピストンヘッド部7cに挟み込まれて一体に組み付けられる。第2ピストン組8の第2ピストンヘッド部8cについても同様にしてシールカップ17bがシールカップ押さえ部材18bと第2ピストンヘッド部8cに挟み込まれて一体に組み付けられる。
【0028】
図14(a)(b)は、内燃機関に用いられる場合の第1ピストン組7の構成例を示す。第1ピストンヘッド部7cの外周面には、複数の周溝部7gが形成されている。各周溝部7gには、ピストンリング(シール材)7hが嵌め込まれている。第1ピストン組7が本体ケース3の開口部20に組み付けられたシリンダ21の内壁面21fに沿って、シール材7hが摺動するようになっている。これにより、シリンダ21に図示しないシリンダヘッドが装着されて形成されるシリンダ室の気密性が保たれるようになっている。
【0029】
図18は、真空ポンプに用いられる吸引用の第1ピストン組7の構成例を示す。第1ピストンヘッド部7cの端面に形成される段差部7fに、シールカップ17aを起立部17cが第1ピストンヘッド部7cの摺動方向内側に向けて重ね合わせる。シールカップ17aにシールカップ押さえ部材18aを重ね合わせ、ボルト19を嵌め込むことによりシールカップ17aがシールカップ押さえ部材18aと第1ピストンヘッド部7cに挟み込まれて一体に組み付けられている(図4参照)。
【0030】
図15(a)(b)に示すように、シリンダ21は開口部21aの周囲にフランジ部21bが形成されており、該フランジ部21bより円筒状のシリンダ胴部21cが形成されている。第1ピストン組7の第1ピストンヘッド部7c、第2ピストン組8の第2ピストンヘッド部8cは、シリンダ胴部21c及びフランジ部21bの内壁面21fに沿って摺動するように組み付けられる(図1,図2参照)。
【0031】
フランジ部21bには、貫通孔21dが2箇所に設けられている。本体ケース3の開口部20(図3参照)にシリンダ胴部21cを挿入してフランジ部21bを側面部に重ね合わせる。このとき、貫通孔21dは、第1本体ケース1のボルト孔1d及び第2本体ケース2のボルト孔2dと各々位置合わせされ、ボルト22を、貫通孔21d及びボルト孔1d若しくはボルト孔2dと嵌合することにより一体に組み付けられる(図4参照)。
【0032】
また、図15(a)(b)において、フランジ部21bには、複数箇所にボルト孔21eが設けられている。これは、後述するように、シリンダ21に重ね合わせてシリンダヘッドを組み付ける際に、ボルト嵌合用のボルト孔が必要になるためである。
【0033】
図11(a)(b)において、筐体上の第1本体ケース1の側面部(4面)には、第1開口部20aが各々設けられている。第1本体ケース1の軸方向端面部には、軸受保持部1aが設けられている。軸受保持部1aには第1軸受13aが嵌め込まれる(図3参照)。軸受保持部1aの中央部には、開口部1bが形成されている。第1バランスウェイト9に一体形成されたシャフト4は、軸受保持部1aに保持される第1軸受13aを挿通し、開口部1bより本体ケース3の外側へ延出して組み付けられる(図3参照)。また、第1本体ケース1の四隅にはボルト3a(図1参照)が各々嵌め込まれるボルト孔1cが設けられている。また、第1本体ケース1の側面部(4面)には、シリンダ21を固定するボルト22(図1参照)のボルト孔1dが設けられている。
【0034】
図12(a)(b)において、第2本体ケース2の側面部(4面)には、第2開口部20bが設けられており、第2本体ケース2の軸方向端面部には、軸受保持部2aが設けられている。軸受保持部2aには、第2軸受13bが嵌め込まれる(図3参照)。軸受保持部2aには、開口部2bが形成されている。第2バランスウェイト10に一体形成された軸部10cは、軸受保持部2aに保持された第2軸受13bに嵌め込まれている(図3参照)。また、第2本体ケース2の四隅には、第1本体ケース1のボルト孔1cと位置合わせしてボルト3a(図1参照)が嵌め込まれるボルト孔2cが設けられている。また、第2本体ケース2の側面部(4面)には、シリンダ21を組み付けるボルト22(図1参照)のボルト孔2dが設けられている。
【0035】
次にロータリ式シリンダ装置の組立構成の一例について図4を参照して説明する。
偏芯筒体6の軸受保持部6cに内側軸受15a,15bを組み付ける。また、内側軸受15a,15bが組み付けられた第1円筒体6aの中心孔に第1クランク軸5を嵌め込む(図3参照)。また、第1,第2ピストン組7,8を第2円筒部6bに外側軸受16a,16bを介して交差するように嵌め込む。
【0036】
また、第1クランク軸5の両端部に第1,第2バランスウェイト9,10を嵌め込んで、ピン11a,11bをピン孔5bに嵌め込み、ボルト12a,12bを締付けて第1,第2バランスウェイト9,10を第1クランク軸5に一体に組み付ける。また、第1本体ケース1の軸受保持部1aに第1軸受13a、第2本体ケース2の軸受保持部2aに第2軸受13bを嵌め込む。そして、第1軸受13aにシャフト4を嵌め込み、第2軸受13bに第2バランスウェイト10の軸部10cを嵌め込むようにして、第1本体ケース1と第2本体ケース2を組み合わせる。これにより、第1クランク軸5、第1,第2バランスウェイト9,10、及びピストン複合体P(図2参照)を本体ケース3(図1参照)内に収容する。そして、ボルト孔1cとボルト孔2cを位置合わせして重ね合わせた状態で、ボルト3aを嵌め込んで本体ケース3(図1参照)が組み立てられる。最後に、本体ケース3の側面(4面)に形成される開口部20(図2,図3参照)にシリンダ21を嵌め込んで、第1ピストンヘッド部7c,第2ピストンヘッド部8cがシリンダ21の開口部21a(図15(a)(b)参照)内に各々摺動可能に嵌め込まれて(図2参照)、ロータリ式シリンダ装置が組み立てられる。
【0037】
上述のように組み立てられたロータリ式シリンダ装置は、第1,第2ピストン組7,8の第2仮想クランク軸14a,14bを中心とした第1の回転バランス、ピストン複合体Pの第1クランク軸5を中心とする第2の回転バランス及び第1クランク軸5及びピストン複合体Pのシャフト4を中心とする第3の回転バランスが第1,第2バランスウェイト9,10によりバランス取りされて組み立てられている。
これにより、後述するようにシャフト4を中心とする第1クランク軸5の回転運動と、第1クランク軸5を中心とするピストン複合体Pの回転運動により、第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする第2仮想クランク軸14a,14bの半径2rの転がり円23(図5(a)参照)の径方向に沿って直線往復運動を行なっても、第1,第2ピストン組7,8の直線往復運動により発生する偏重心量を含めたバランス取りをすることによって回転による振動を抑えて静音化を図ることができる。また、回転による振動を低減することで、第1,第2ピストン組7,8は従来のレシプロタイプに比べてピストンヘッドの往復運動による機械的な損失を防いでエネルギー変換効率を高めることができ、しかもダンパー等の防振構造を簡略化することができる。
【0038】
ここで、シャフト4を中心とする第1クランク軸5、第2仮想クランク軸14a,14bの回転運動と複数のピストン組の直線往復運動の関係を図5(a)〜(l)に示す模式構造原理図を参照して説明する。図5(a)〜(l)において、転がり円23の中心Oはシャフト4の軸芯と一致する。また、中心Oより偏芯した位置に第1クランク軸5が存在し、第1クランク軸5の回転に伴い第2仮想クランク軸14a,14bが滑らずに回転するものとする。第2仮想クランク軸14a,14bの数は、ピストン組の数に対応している。
【0039】
シャフト4(中心O)と第1クランク軸5との軸芯間距離rを第1仮想クランクアーム及び第2仮想クランクアームのアーム長(回転半径)とする。また、シャフト4の軸芯(中心O)周りに第1仮想クランクアームのアーム長rを回転半径とする回転軌道30上を第1クランク軸5が回転する。更には、第1クランク軸5を中心とする第2仮想クランクアームのアーム長rを回転半径とする回転軌道(仮想円24)上を第2仮想クランク軸14a,14bが見かけ上回転する。これにより、中心Oの周りに仮想円24の直径R(2r)を半径とする転がり円23の径方向に沿って第1,第2ピストン組7,8が各々往復動するようになっている。
【0040】
本実施例では、互いに直交する第1、第2ピストン組7,8が連繋する第2筒体6bの第2仮想クランク軸を14a,14bとして例示するものとする。図5(a)において、第2仮想クランク軸を14a,14bは、第1クランク軸5を中心に半径rの仮想円24の円周上に180°位相が異なる位置に配置されている。第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1の交点(下端位置)にあり、第2仮想クランク軸14bは、転がり円23の中心O(シャフト4の軸芯位置)にある。第1クランク軸5は転がり円23の中心Oから半径rの位置にあるものとする。
【0041】
第1クランク軸5が転がり円23の中心Oの周りに反時計回り方向に1回転する場合について説明する。仮想円24は時計回り方向に転がり円23の内周に沿って滑らずに回転するものとする。図5(a)〜(l)は第1クランク軸5が30度ずつ変位した状態を示している。
【0042】
第1クランク軸5が図5(a)の位置から反時計回り方向に90度回転すると図5(d)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23の直径R1上を中心Oへ移動し、第2仮想クランク軸14bは直径R1と直交する直径R2と転がり円23との交点(右端位置)まで移動する。
【0043】
第1クランク軸5が図5(d)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図5(g)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1との交点(上端位置)へ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の中心Oへ移動する。
【0044】
第1クランク軸5が図5(g)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図5(j)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23の中心Oへ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23と直径R2との交点(左端位置)へ移動する。
【0045】
第1クランク軸5が図5(j)の位置から反時計回り方向にさらに90度回転すると図5(a)の位置となる。このとき、第2仮想クランク軸14aは転がり円23と直径R1との交点(下端位置)へ移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の中心Oへ移動する。
【0046】
以上のように、第1クランク軸5が中心O(シャフト4)の周りに回転すると、第2仮想クランク軸14aは仮想円24の回転軌跡である転がり円23の直径R1上を往復移動し、第2仮想クランク軸14bは転がり円23の直径R2上を往復移動する。
【0047】
即ち、シャフト4の軸芯(中心O)を中心とした半径rの回転軌道30に沿った第1クランク軸5の回転運動及び第1クランク軸5を中心とした半径rの第2仮想クランク軸14a,14bの回転運動に伴い、第2仮想クランク軸14a,14bを軸芯に有する第2円筒部6bに連繋する第1ピストン組7が半径2rの転がり円23(シャフト4の軸芯を中心Oとする同心円)の直径R1上で往復動を繰り返し、第2ピストン組8が半径2rの転がり円23(シャフト4の軸芯を中心Oとする同心円)の直径R2上で往復動を繰り返すことになる。
【0048】
例えば、図6(a)〜(c)に示すように、第1,第2ピストンヘッド部7c,8cを収納するシリンダ21に、第1,第2シリンダヘッド25,26をボルト孔21e(図15(a)(b)参照)を用いて第1、第2ピストンヘッド部7c,8cに対向して組み付けることで、シリンダ室27a,27b,27c,27dが形成され、各シリンダ室27a〜27dに各々連通する流体の送出口28と吸込み口29が各々形成される。
【0049】
よって、シャフト4を例えば電動機等により回転駆動すると、第1クランク軸5及び偏芯筒体6が回転し、該第1クランク軸5を中心に偏芯円筒6が回転するので、第1ピストン組7と第2ピストン組8がシャフト4を中心とする半径2rの同心円(転がり円23;図5(a)参照)の径方向に沿って各々直線往復運動する。このとき、各シリンダ室27a,27b,27c,27dにおいて吸込み口29より流体を吸込み、送出口28より圧縮された流体を送り出す動作が行なわれて流体圧縮機や流体ポンプ装置を形成することができる。
【0050】
図19乃至図22は、シャフト4の回転位置と第1,第2ピストンヘッド部7c,8cの直線往復動位置との関係を例示する動作説明図である。
図19は原点位置、図20は原点位置より90度回転した位置、図21は原点位置より180度回転した位置、図22は原点位置より270度回転した位置を示す。図19から図20において、第1ピストン組7は平面視で上方向に移動しており、第2ピストン組8は平面視で右方向に移動している。シリンダ室27a,27cでは流体の吸込みが行なわれ、シリンダ室27b,27dでは流体の送り出しが行なわれる。図20から図21において、第1ピストン組7が平面視で上方向に移動しており、第2ピストン組8が平面視で左方向に移動し始めているため、シリンダ室27b,27cでは流体の送り出し行なわれ、シリンダ室27a,27dでは流体の吸込みが行なわれる。図21から図22において、第1ピストン組7が平面視で下方向に移動し始め、第2ピストン組8が平面視で左方向に移動しているため、シリンダ室27a,27cでは流体の送り出し行なわれ、シリンダ室27b,27dでは流体の吸込みが行なわれる。
【0051】
尚、第1ピストンヘッド部7c,第2ピストンヘッド部8cの形状は真円である必要はなく、例えば角型であってもよい。また、圧縮機に備えた一部のピストン組を真空ポンプとして使用するハイブリッド型のポンプとすることも可能である。
この場合、圧縮機として使用するピストンヘッド部には、シールカップ17a,17bの起立部17cを摺動方向外側に向けて装着し、真空吸引を行なうピストンヘッド部にはシールカップ17a,17bの起立部17cを摺動方向内側に向けて装着するのが好ましい(図18参照)。また、流体が水や油等の液体の場合には、シールカップ17a,17bは省略することもできる。
【0052】
また、ピストン組を2組備えたロータリーシリンダ装置について説明したが、3組以上のピストン組を備えていてもよい。例えばピストン組を3組設ける場合には、図5(a)の仮想円24において、第1クランク軸5を回転中心として120度ずつ位相を異ならせて第2仮想クランク軸が配置されるように組み付けることも可能である。
また、2組のピストン組のうち一方のピストンヘッド部を省略することも可能である。この場合、1ピストン組の第2仮想クランク軸がシャフト4の軸芯と重なり合うと回転死点が生ずるおそれがある。しかしながら、ピストンヘッド部を省略されたピストン組の存在により、1ピストン組の回転死点を回避して回転し続けることができる。
【0053】
また、本実施形態では、第1,第2ピストンヘッド部7c,8cが同一平面上(X−Y平面上)で往復動可能に偏芯筒体6に組み付けられていたが、偏芯筒体を複数に分割する必要はあるが、複数のピストン組を高さ方向(Z軸方向)に異なる位置に交差するように配置することも可能である。
また、第1,第2ピストン組7,8は互いに直交するように配置したが、これに限定されるものではなく、第1クランク軸5を中心として例えば位相差が60度等に配置することも可能である。
【0054】
また、図14(a)(b)に示すように、第1,第2ピストンヘッド部にピストンリング7hを設けることで、内燃機関に応用することも可能である。
具体的には、シリンダ21にシリンダヘッドを装着して形成されるシリンダ室には給気弁、排気弁、インジェクター、点火プラグ等を備えることにより、エンジンに応用することも可能である。この場合には、シリンダ室内の燃料の燃焼爆発により生ずるピストン組(第1,第2ピストン組7,8)が往復運動することで、偏芯円筒6及び第1クランク軸5(ピストン複合体P)のシャフト4を中心とする回転運動に変換して出力することができる。
【0055】
図23(a)は圧縮機や流体回転機などに用いられる第1ピストン組7のシリンダ21内の部分断面図、図23(b)は内燃機関などに用いられる第1ピストン組7のシリンダ21内の部分断面図である(第2ピストン組8も同様であるため構造は省略する)。
図23(a)において、シリンダ21の内壁面21fとピストンヘッド7c及びシールカップ押さえ部材18aの外周面7j,18dとの隙間Gは加工誤差や温度変化による寸法変化等を考慮して機械的な干渉が生じないように設定される。かかる隙間Gは最小になるように設定されるので、シールカップ17aの起立部17cが第1ピストン組7の往復運運動によってシリンダ21の内壁面21fとの間に噛み込まれずシール性を維持したまま摺動することができる。
【0056】
図23(b)において、ピストンヘッド7cの周溝部7gにピストンリング(シール材)7hを設ける場合には、周溝部7gとピストンリング7hとの間に隙間Gが設けられる。この場合、シャフト4を中心とする第1クランク軸5及びピストン複合体Pの第3の回転バランスを取るうえで、ピストンリング7hはシリンダ21内で径方向を拘束されるため、完全なバランス取りはできないが3%以内の誤差となるバランス設計とすることが望ましい。
【0057】
また、図6(a)に示すように2ピストン4ヘッドのロータリ式シリンダ装置においては、シリンダヘッドが4か所に設けられるので、1部を正圧発生部に使用し、その他のシリンダヘッドを負圧発生部に使用することも可能である。
また、4か所のシリンダヘッドを用いて気体を多段圧縮することも可能である。この場合、ピストン組のストロークは変えられないので、ピストン径とシリンダ径を一つのピストン組であっても変更する必要がある。このような場合であっても、第1,第2バランスウェイト9,10によって、第1の回転バランス乃至第3の回転バランスのバランス取りがなされていることが望ましい。
【0058】
以上説明したように、シャフト4を回転させると、当該シャフト4を中心に第1クランク軸5が回転し、当該第1クランク軸5を中心に偏芯筒体6が回転することで、第2仮想クランク軸14a,14bの回転軌跡(内サイクロイド)に沿って第2筒体6bに組み付けられた第1,第2ピストン組7,8がシャフト4を中心とする半径2rの同心円(転がり円23;図5(a)参照)の径方向に直線往復運動を行なう。
【0059】
このとき、第1,第2ピストン組7,8の第2仮想クランク軸14a,14b(図10(b)参照)を中心とする第1の回転バランス、ピストン複合体Pの第1クランク軸5を中心とする第2の回転バランス及び第1クランク軸5及びピストン複合体Pのシャフト4を中心とする第3の回転バランスが第1,第2バランスウェイト9,10によりバランス取りされているので、第1,第2ピストン組7,8の直線往復運動により発生する偏重心量を含めたバランス取りをすることにより回転による振動を抑えて静音化を実現した小型のロータリ式シリンダ装置を提供することができる。
また、シャフト4を中心とする回転による振動を低減することで機械的な損失が少なくエネルギー変換効率を高めることができ、しかもダンパー等の防振構造を簡略化することができる。
また、通常のクランク機構を構成するクランク軸やクランクアームなどの機構部品を省略して部品点数が少なく機構的に簡略化されたクランク機構を実現することができる。
【0060】
尚、第1の回転バランスに誤差を生ずると、第2の回転バランスや第3の回転バランスにも誤差が発生する。内サイクロイド方式のロータリ式シリンダ装置においては、回転部品のバランス取りについて言及した先行技術として、特公昭63−24158号公報(第6欄第31行〜第34行)が存在することが知られている。しかしながら、上記公報に開示されたバランス取りはシャフトとクランク軸についてのみバランス取りするもので、クランク軸に連繋するスライダーやスライダーに連繋するピストン組を含めた回転部品間の回転バランスを考慮した技術思想まで開示されていない。従来は、ピストン組の直線往復運動により発生する偏重心量をバランス取りするという発想がなかったため、かかる偏重心量によって生ずる振動は、ダンパーなどの振動吸収機構により吸収するのが一般的な考え方である。
これに対して、本願発明にかかるロータリ式シリンダ装置は、シャフト4、第1クランク軸5、第2仮想クランク軸14a,14bを中心とした各回転部品は各々の回転中心に対して等速回転運動可能に組み付けられ、これらの間には第1,第2バランスウェイト9,10により上述した第1〜第3のバランス取り、即ち第1,第2ピストン組7,8の直線往復運動により発生する偏重心量を含めたバランス取りがなされている。よって、シャフト4を中心とした回転運動の結果、第1,第2ピストン組7,8が直線往復運動しても回転による振動を抑えた内サイクロイド方式のロータリ式シリンダ装置を提供することができる。
【0061】
ちなみに排気量46ccの圧縮機についてバランス取りした結果を従来構造と比較すると以下の通りである。シャフト4を中心とする第1クランク軸5のシャフト4周りの偏芯重量は10gである。第1クランク軸5に組み付けられたピストン複合体Pの偏芯重量は210g(第1,第2ピストン組7,8、偏芯筒体6、内側軸受15a,15b、外側軸受16a,16bを含む)である。
本願発明の場合、第1,第2バランスウェイト9,10によって第1〜第3の回転バランスを取ることにより、シャフト4を中心に回転する220gの偏芯重量の回転バランスをとって回転運動を行なっているため、回転による振動が少なく機械的な損失も少ないのでエネルギー変換効率が高くしかも静音化することができる。これに対して、特公昭63−24158号公報に開示されたシャフトを中心とするクランク軸についてのみバランス取りを行なっても、シャフトを中心とした第1クランク軸(10g)のバランス取り(5%程度)にとどまるため、回転による振動が大きく機械的な損失も大きいためエネルギー変換効率が低下し、騒音が激しいためダンパーなどで振動を吸収する必要がある。
【0062】
また、第1,第2バランスウェイト9,10の少なくとも一方にシャフト4が一体に形成されていると部品点数が少ないうえに、シャフト4と第1クランク軸5を結ぶ第1仮想クランクアームの長さを第1,第2バランスウェイト9,10の回転半径により調整して、シャフト4を中心として第1クランク軸5を軸方向及び径方向にコンパクトに組み付けることができる。
【0063】
また、第2筒体16bの内外周部には軸受保持部6c,6dが各々凹設され各軸受保持部6c,6dには内側軸受15a,15b及び外側軸受16a,16bが各々保持されており、第1クランク軸5は内側軸受15a,15bに回転可能に支持され、第1,第2ピストン組7,8は外側軸受16a,16bに回転可能に支持されていると、第1クランク軸5と第2仮想クランク軸14a,14bを結ぶ第2仮想クランクアームの長さを第2円筒体6bの回転半径により調整して、第1クランク軸5を中心として偏芯筒体6を含むピストン複合体Pを軸方向にコンパクトに組み付けることができる。
【0064】
また、第1,第2ピストン組7,8の先端には第1,第2ピストンヘッド部7c,8c及び第1,第2ピストンヘッド部7c,8cに対向してシリンダ室27a〜27dを形成する第1,第2シリンダヘッド25,26が本体ケース3に組み付けられていると、閉止されたシリンダ室27a〜27dを2つのピストン組が往復運動する動作を利用して、流体回転機、真空吸引装置、内燃機関など様々な駆動装置への利用が見込まれる。
【符号の説明】
【0065】
P ピストン複合体
1 第1本体ケース
1a,2a,6c,6d,7b,8b 軸受保持部
1b,2b,20,21a 開口部
1c,1d,2c,2d,7e,9a,10a,18c,21e ボルト孔
2 第2本体ケース
3 本体ケース
3a,12a,12b,19,22 ボルト
4 シャフト
5 第1クランク軸
5a スリット
5b ピン孔
5c Dカット部
6 偏芯筒体
6a 第1筒体
6b 第2筒体
7 第1ピストン組
7A 第1ピストン本
7a 逃げ孔
7c 第1ピストンヘッド部
7d 台座
7f 段差部
7g 周溝部
7h ピストンリング(シール材)
7j,18d 外周面
8c 第2ピストンヘッド部
8 第2ピストン組
8A 第2ピストン本体
9 第1バランスウェイト
9b,10b ピン孔
9c,10c 軸部
10 第2バランスウェイト
11a,11b ピン
13a 第1軸受
13b 第2軸受
14a,14b 第2仮想クランク軸
15a,15b 内側軸受
16a,16b 外側軸受
17a,17b シールカップ
17c 起立部
18a,18b シールカップ押さえ部材
20a 第1開口部
20b 第2開口部
21 シリンダ
21a 開口部
21b フランジ部
21c シリンダ胴部
21d 貫通孔
21f 内壁面
23 転がり円
24 仮想円
25 第1シリンダヘッド
26 第2シリンダヘッド
27a,27b,27c,27d シリンダ室
28 送出口
29 吸込み口
30 回転軌道
G 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内を往復運動するピストンとシャフトの回転運動を相互に変換可能なロータリ式シリンダ装置であって、
前記シャフトの軸芯に対して偏芯して組み付けられ、当該シャフトを中心に半径rの第1仮想クランクアームを介して回転可能に組み付けられた第1クランク軸と、
前記第1クランク軸に同芯状に嵌め込まれた第1筒体と該第1筒体の軸芯に対して偏芯した複数の第2仮想クランク軸を軸芯とする第2筒体が軸方向両側に連続して形成された偏芯筒体を備え、一方の第2筒体に第1ピストン組が他方の第2筒体に第2ピストン組が互いに交差したまま第1クランク軸を中心に半径rの第2仮想クランクアームを介して回転可能に嵌め込まれたピストン複合体と、
前記ピストン複合体が嵌め込まれた前記第1クランク軸の両端部に各々組み付けられ、前記シャフトを中心とする回転部品間の回転バランスをとる第1,第2バランスウェイトと、
前記シャフトを回転可能に軸支し、当該シャフトを中心に回転する前記第1クランク軸及び前記第1,第2バランスウェイト、前記第1クランク軸を中心に回転する前記ピストン複合体を回転可能に収容する本体ケースと、を具備し、
前記第1,第2ピストン組の前記第2仮想クランク軸を中心とする第1の回転バランス、前記ピストン複合体の第1クランク軸を中心とする第2の回転バランス及び前記第1クランク軸及びピストン複合体の前記シャフトを中心とする第3の回転バランスが前記第1,第2バランスウェイトにより各々バランス取りされたまま、前記シャフトを中心に前記第1クランク軸が回転し、当該第1クランク軸を中心に前記ピストン複合体が回転することで、前記第2筒体に組み付けられた前記第1,第2ピストン組が前記シャフトを中心とする前記第2仮想クランク軸の半径2rの転がり円の径方向に沿って直線往復運動を行なうことを特徴とするロータリ式シリンダ装置。
【請求項2】
前記第1クランク軸の両軸端部には軸方向と交差する向きにピン孔が形成されており、前記第1,第2バランスウェイトの軸部には軸孔と軸方向と交差する向きにピン孔が各々形成されており、前記第1クランク軸の両軸端部が前記第1,第2バランスウェイトの軸孔にピン孔どうしが連通するように各々嵌め込まれ、該連通するピン孔にピンが抜け止めされて嵌め込まれることにより、前記第1クランク軸と第1,第2バランスウェイトとが一体に組み付けられている請求項1記載のロータリ式シリンダ装置。
【請求項3】
前記第1,第2のバランスウェイトの少なくとも一方に前記シャフトが一体に形成されている請求項1又は2記載のロータリ式シリンダ装置。
【請求項4】
各第2筒体の内外周部には軸受保持部が各々凹設され各軸受保持部には内側軸受及び外側軸受が各々保持されており、前記第1クランク軸は内側軸受に回転可能に支持され、前記第1,第2ピストン組は外側軸受に回転可能に支持されている請求項1乃至3のいずれか1項記載のロータリ式シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−117432(P2011−117432A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53633(P2010−53633)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【特許番号】特許第4553977号(P4553977)
【特許公報発行日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(504272408)有限会社ケイ・アールアンドデイ (9)
【Fターム(参考)】