説明

ローラねじ

ローラねじは、外周面に螺旋状のローラ転走溝1aが形成されたねじ軸1と、内周面にローラ転走溝1aに対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成されたナット部材2と、ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの一端と他端を繋ぐリターンパイプ4と、負荷ローラ転走路3及びリターンパイプ4内に収容される複数のローラ6とを備える。隣接する一対のローラ6,6間には、一対のローラ6,6が互いに接触するのを防止するスペーサ31が介在される。このようなローラねじにより、スキューを起こすことなくローラを円滑に循環させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじ軸とナット部材との間に転がり運動可能にローラを介在させたローラねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ軸とナット部材との間に転がり運動可能にボールを介在させたボールねじが知られている。ボールは、ねじ軸の外周面に形成される螺旋状のボール転走溝とナット部材の内周面に形成される螺旋状の負荷ボール転走溝との間に介在される。ナット部材に対してねじ軸を相対的に回転させると、複数のボールがねじ軸のボール転走溝及びナット部材の負荷ボール転走溝上を転がる。ナット部材の負荷ボール転走溝の一端まで転がったボールは、負荷ボール転走溝の一端と他端を繋ぐボール戻し部材によって掬い上げられ、負荷ボール転走溝の元の位置に戻される。これによりボールが循環する。
【0003】
ボールねじを使用すると、ナット部材に対してねじ軸を回転させる際の摩擦係数を低減できるので、工作機械の位置決め機構、送り機構、あるいは自動車のステアリングギヤ等に実用化されている。しかし、ボールと該ボールの周囲のねじ軸のボール転走溝及びナット部材の負荷ボール転走溝との接触が点接触に近くなるので、ボールねじに加えられる許容荷重を大きくできないという欠点があった。
【0004】
許容荷重を大きくすべく、ボールの替わりにローラを使用したローラねじが、例えば特許文献1,2に開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−210858号公報
【特許文献2】実開平6−87764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転動体にボールを使用したボールねじは製品化されているが、転動体としてローラを使用したローラねじは例えば特許文献1及び2のように考案されてはいるものの未だ製品化されているものはない。ボールは四方八方いずれの方向にも転がることができるが、ローラはその転がり運動する方向に制限があるのが原因の一つだと考えられる。転動体としてローラを使用する場合、転がり運動するローラの軸線が所定の軸線に対して傾かないように(所謂スキューを起こさないように)ローラを循環させる必要がある。ローラがスキューを起こすと、ローラが循環路内で詰まって円滑に循環できなくなる。しかもローラを循環させる場合、ローラの軌道は負荷ローラ転走路において螺旋状になり、一方戻し部材内においては例えば直線状になる。この2つの異なる軌道をローラがスキューを起こさずに循環させる必要がある。
【0007】
そこで本発明は、スキューを起こすことなくローラを円滑に循環させることができるローラねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照番号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものでない。
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、外周面に螺旋状のローラ転走溝(1a)が形成されたねじ軸(1)と、内周面に前記ローラ転走溝(1a)に対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝(2a)が形成されたナット部材(2)と、前記ナット部材(2)の前記負荷ローラ転走溝(2a)の一端と他端を繋ぎ、前記ねじ軸(1)の前記ローラ転走溝(1a)と前記ナット部材(2)の前記負荷ローラ転走溝(2a)との間の負荷ローラ転走路(3)を転がるローラ(6)を循環させる戻し部材(4)と、前記負荷ローラ転走路(3)及び前記戻し部材(4)内に収容される複数のローラ(6)と、を備え、隣接する一対のローラ(6,6)間には、前記一対のローラ(6,6)が互いに接触するのを防止するスペーサ(31)が介在されることを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載のローラねじにおいて、前記スペーサ(31)の進行方向の両端には、ローラ(6)の外周面に接触する凹部(31a,31a)が形成され前記ローラ(6)は、その軸線方向の長さの略全長に渡って前記凹部(31a)に接触することを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のローラねじにおいて、前記スペーサ(31)の進行方向の両端に配置される前記一対のローラ(6,6)が、前記スペーサ(31)の前記凹部(31a,31a)に接触した状態で、ローラ(6,6)の一対の軸線(6a,6b)それぞれは、実質的に平行な一対の平面(P1,P2)内それぞれに配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載のローラねじにおいて、前記スペーサ(31)の前記凹部(31a)と、前記凹部を除くスペーサ(31)の周囲面(31c)との交差部分が、スペーサが円滑に循環できるように面取りされていることを特徴とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のローラねじにおいて、前記戻し部材(4)は、直線状に伸びる中央部(14)と、中央部(14)の両側に折り曲げられた一対の端部(15,15)とを備え、前記端部(15)の先端部(15b)は、ねじ軸(1)の軸線方向から見た状態において、前記負荷ローラ転走路の接線方向に配置され、且つねじ軸(1)の側方から見た状態において、前記負荷ローラ転走路のリード角方向に傾けられることを特徴とする。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載のローラねじにおいて、前記ねじ軸(1)の前記ローラ転走溝(1a)と前記ナット部材(2)の前記負荷ローラ転走溝(2a)との間に断面正方形の負荷ローラ転走路(3)が形成され、前記複数のローラ(6)は、ローラ(6)の進行方向から見た状態において、隣接する一対のローラ(6,6)の回転軸が直交するようにクロス配列されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、スペーサの凹部がローラに接触してローラを所定の姿勢に保つので、ローラがスキューを起こすことなく円滑に循環する。
【0016】
請求項2の発明によれば、ローラのスキューを確実に防止できる。
【0017】
請求項3の発明によれば、負荷ローラ転走路の螺旋状の軌道、及び戻し部材内の例えば直線状の軌道のいずれに対してもローラがスキューを起こすことなく円滑に循環する。詳しくは後述するが、ねじ軸の軸線方向から見た状態において螺旋状の負荷ローラ転走路内のローラの軸線がねじ軸の中心を向くようにスペーサの両端の凹部を傾けて形成すると、ローラが戻し部材内の例えば直線状の軌道内でよろよろと乱れ、円滑に循環することができないことを実験により確認している。
【0018】
請求項4の発明によれば、負荷ローラ転走路と戻し部材との継ぎ目等でスペーサが引っ掛かるのを防止することができる。
【0019】
本発明は請求項5に記載のように、直線状に伸びる中央部と、中央部の両側に折り曲げられた一対の端部とを備える戻し部材に好ましく適用することができる。また端部の先端部の配置を負荷ローラ転走路の接線方向且つリード角方向にすることで、負荷ローラ転走路と戻し部材との継ぎ目でローラ及びスペーサを円滑に移動させることができる。
【0020】
本発明は請求項6に記載のように、スキューを起こし易いクロス配列されたローラに好ましく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の一実施形態におけるローラねじを示す側面図である。
【図2】図2は、ねじ軸を示す側面図である。
【図3】図3は、ローラ転走溝及び負荷ローラ転走溝の詳細断面図である。
【図4】図4は、ナット部材を示す平面図である。
【図5】図5は、ナット部材を示す正面図である。
【図6】図6は、ナット部材を示す平面図(リターンパイプを取り外した状態)である。
【図7】図7は、ナット部材を示す正面図(リターンパイプを取り外した状態)である。
【図8】図8は、リターンパイプを示す図である。
【図9】図9は、リターンパイプを示す図である。
【図10】図10は、リターンパイプを示す図である。
【図11】図11は、リターンパイプの中央部におけるローラ戻し路の断面形状の変化を示す断面図である。
【図12】図12は、ローラの姿勢の変化を示す図である。
【図13】図13は、スペーサを示す詳細図(図中(a)は正面図、図中(b)は側面図)である。
【図14】図14は、ローラ間に介在されるスペーサを示す図(図中(A)はA−A線断面、図中(B)はB−B線断面図、図中(C)は正面図)である。
【図15】図15は、ローラ間に介在されるスペーサの比較例を示す図(図中(A)はA−A線断面、図中(B)はB−B線断面図、図中(C)は正面図)である。
【図16】図16は、負荷ローラ転走路とリターンパイプの継ぎ目を示す平面図である。
【図17】図17は、図16のA部拡大図である。
【図18】図18は、負荷ローラ転走路とリターンパイプの継ぎ目を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 ナット部材、1a ローラ転走溝、2 ナット部材、2a 負荷ローラ転走溝、3 負荷ローラ転走路、4 リターンパイプ(戻し部材)、6 ローラ、6a,6b ローラの軸線、14 中央部、15 端部、15b 先端部、31 スペーサ、31a 凹部、P1,P2 一対の平面。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態におけるローラねじを示す。ローラねじは、外周面に螺旋状のローラ転走溝1aが形成されたねじ軸1と、内周面に前記ローラ転走溝1aに対応する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成されて、ねじ軸1に相対的に回転可能に組み付けられたナット部材2とを備える。ナット部材2には、ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間の負荷ローラ転走路3の一端と他端を繋ぐ戻し部材としてのリターンパイプ4が取り付けられる。リターンパイプ4の内部には軸線方向に沿って断面四角形、この実施形態では正方形のローラ戻し路5が形成される。ねじ軸1のローラ転走溝1aとナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとの間の負荷ローラ転走路3、及びリターンパイプ4内のローラ戻し路5には複数のローラ6が配列・収容される。隣接する一対のローラ間には一対のローラが互いに接触するのを防止するリテーナ31が介在される。
【0024】
ねじ軸1のナット部材2に対する相対的な回転に伴って、ナット部材2がねじ軸1に対してねじ軸1の軸線方向に相対的に直線運動する。このときローラ6はローラ転走溝1aと負荷ローラ転走溝2aとの間を転がり運動する。ローラ6,6間にはスペーサ31が介在されているので、ローラ6がスペーサ31に対してすべり運動しつつスペーサ31はローラ6と共に負荷ローラ転走路3を移動する。負荷ローラ転走溝2aの一端まで転がったローラ6は、スペーサ31と共にリターンパイプ4内のローラ戻し路5に導かれ、数巻き前の負荷ローラ転走溝2aの他端に戻される。これによりローラ6及びスペーサ31が負荷ローラ転走路3及びローラ戻し路5で構成されるローラ循環路を循環する。
【0025】
図2はねじ軸1を示す。ねじ軸1の外周には所定のリードを有する螺旋状のローラ転走溝1aが形成される。ローラ転走溝1aの断面はV字形状でその開き角度は90度に設定される。ねじには一条ねじ、二条ねじ、三条ねじ等様々なものを用いることができるが、この実施形態では二条ねじを用いている。
【0026】
図3はねじ軸1のローラ転走溝1a及びナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの詳細図を示す。ナット部材2にはローラ転走溝1aに対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝2aが形成される。ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの断面もV字形状でその開き角度は90度に設定される。ローラ転走溝1aと負荷ローラ転走溝2aとにより断面四角形、この実施形態では正方形の負荷ローラ転走路3が形成される。負荷ローラ転走路3には複数のローラ6がローラの進行方向から見た(負荷ローラ転走路に沿って見た)状態において隣接するローラ6の回転軸7,8が互いに直交するようにクロス配列される。
【0027】
ボールねじではボールがねじ軸の軸線方向の一方向及び該一方向と反対の他方向の荷重を負荷する。これに対してローラ6は、その周面がローラ転走溝1aの一方の壁面と該壁面に対向する負荷ローラ転走溝2aの一方の壁面との間で圧縮されることで荷重を負荷するので、ねじ軸1の軸線方向の一方向の荷重しか負荷できない。本実施形態のようにローラ6をクロス配列することで、ねじ軸1の軸線方向の一方向(1)及び他方向(2)の荷重を負荷することができる。
【0028】
ローラ6の直径Dは軸線方向の長さLよりも大きい。ローラ6の直径Dには、ローラ転走溝1aの壁面9と該壁面9に対向する負荷ローラ転走溝2aの壁面10との間の距離よりも大きい所謂オーバーサイズのものが用いられる。このため負荷ローラ転走路3内でローラは弾性変形していることになり、それに見合う荷重が予圧荷重としてナット部材2の内部に存在する。ローラ6は負荷ローラ転走路3内でクロス配列されているので、ローラ6からナット部材2に加わる荷重は隣接するローラ6,6で互いに反発する方向に作用する。
【0029】
図3に示されるように、ねじ軸1のローラ転走溝1a及びナット部材2の負荷ローラ転走溝2aそれぞれの溝の底部には溝に沿ってさらに逃げ溝1b,2bが形成される。ローラ6の上面と周囲面との交差部分、及び底面と周囲面との交差部分には丸み6aが付けられている。ローラ6の軸線方向の寸法Lはローラ6の直径Dよりも小さいので、転がり運動しているときにローラ6が偏ってローラ6の丸み6aが逃げ溝1b,2bに接触することがある。ローラ6に予圧を与えるとこの偏り現象が生じ易い。ローラ6が偏ったとき抵抗が生じてローラ6の回転を妨げないように、逃げ溝1b,2bの丸み半径はローラの丸み半径よりも大きく設定される。また逃げ溝1b,2bを形成することで、V溝の尖った先端を切削加工する必要もなくなるので、切削の加工性も勿論向上する。
【0030】
図4及び図5はナット部材2を示し、図6及び図7はリターンパイプ4を取り外したナット部材2を示す。図4及び図6はナット部材の平面図を示し、図5及び図7はねじ軸1の軸線方向からみたナット部材2の正面図を示す。図4に示されるようにナット部材2は2つの分離ナット12,12に分離されていて、2つの分離ナット12,12間にはシム13が介在されている。このシム13はローラ6に予圧をかけるために設けられるのではなく、製造を容易にする観点から設けられている。ナット部材2が軸線方向に長くなると、リードを精度良く加工するのも困難になる。ナット部材2の半分の軸線方向の長さの分離ナット12,12それぞれにリードを形成し、後にシム13を介して2つの分離ナットを結合させる。そして2つの分離ナット12,12の軸線方向に空けられたボルト挿入穴22にボルト25を通し、分離ナット12,12を挟むようにボルト25とナット部材2を相手方の部品に取り付けるためのフランジ16とをねじ結合して、2つの分離ナット12,12を結合する。シム13は2つの分離ナット12,12が周方向にずれているときに、周方向に位置決めする役割を果たす。2つの分離ナット12,12の互いに向かい合う端面が合わされたときに2つの分離ナット12,12のボルト挿入穴22が位置決めされるのであればシム13は不要になる。またボルト挿入穴22の径がボルト25よりも大きい馬鹿穴であればシム13が不要になる。
【0031】
図8及び図9はナット部材2に取り付けられるリターンパイプ4を示す。ナット部材2には循環すべきローラ列に対応して複数のリターンパイプ4が取り付けられる。リターンパイプ4は、負荷ローラ転走路3の一端と他端とを繋ぎ、負荷ローラ転走路3の一端まで転がったローラ6を数巻き手前の負荷ローラ転走路3の他端に戻す。リターンパイプ4の内部には軸線方向に沿って断面正方形のローラ戻し路5が形成される。このリターンパイプ4は、直線状に伸びる中央部14と、中央部の両側に約90°折り曲げられた1対の端部15とを有し、その全体形状が門形に形成される。端部15は曲率一定の円弧部15aと円弧部15aから伸びる直線状の先端部15bとからなる。図9(c)に示されるように中央部14の軸線に対して一対の端部15は互いに反対方向にねじられ、これにより図8(b)、図9(a)に示されるように先端部15bはねじ軸1の側方から見た状態において、リード角方向に互いに逆方向に傾けられる。また図9(c)に示されるように、ねじ軸1の軸線方向から見た状態において、先端部15bは負荷ローラ転走路の接線方向を向いている。リターンパイプ4をナット部材2に据え付け、リターンパイプ4の中央部14を水平方向に配置した状態において、リターンパイプ4の端部の先端28はねじ軸1の軸線を含む水平面17まで伸びる。リターンパイプ4は切削加工により製造されても樹脂成型により製造されてもよい。
【0032】
クロスローラリングのような環状のローラ転走路に比べて、螺旋状の負荷ローラ転走路3ではローラ6の軸線がリード角分傾いている。円滑にローラを循環させるためには、ローラ6が負荷ローラ転走路3からリターンパイプ4内に導かれる際、またリターンパイプ4内から負荷ローラ転走路3に戻される際のローラ6の姿勢が極めて大事である。ローラ6の姿勢をリード角分傾けてリターンパイプ4から負荷ローラ転走路3へ戻すことで、リターンパイプ4から負荷ローラ転走路3へ入るときにローラ6の姿勢が変化することがなく(ローラ6の軸線が傾く所謂スキューが生じることがなく)、負荷ローラ転走路3にローラ6をすんなり戻すことができる。また負荷ローラ転走路3からリターンパイプ4内にローラ6をすんなり導くこともできる。
【0033】
リターンパイプ4とねじ軸1のねじ山との干渉を避けるために、先端部15bにはローラ6の軌道の中心線に沿ったアーチ形状の切れ目18が形成される。ねじ軸1の軸線方向からみた切れ目18の形状は円弧形状に形成される。また切れ目18の内側にはねじ軸1の軸線方向から見た状態において、ねじ山の内部に入り込むローラ案内部19が形成される。ローラ案内部19の位置における、ローラ戻し路5の断面形状は四角形、この実施形態では正方形に形成される。ローラ案内部19を設けることによってリターンパイプ4の軸線に直交する面でのローラ戻し路5の断面形状が正方形に形成される区間が長くなる。このため、断面正方形のローラ戻し路5が形成されていない隙間hを小さくすることができ、負荷ローラ転走路3とローラ戻し路5との断面形状の連続性をもたせることができる。図8(b)に示されるように、ローラ案内部19の先端20はねじ軸1の側方からみた状態において、直線状で水平面17に対してリード角だけ傾けられている。また隙間hをより小さくすることができるように、リターンパイプ4の軸線方向に沿ったローラ案内部19の断面は先端20に向かって除々に幅が狭くなるテーパに形成される。
【0034】
ローラ6は断面正方形の負荷ローラ転走路3内を転がった後、リターンパイプ4内に導かれる。負荷ローラ転走路3で負荷を受けながら螺旋状に移動するローラ6から負荷を開放すれば、ローラ6は自然に負荷ローラ転走路3のリード角方向及び接線方向に移動する。上述の隙間hが大きいと、負荷ローラ転走路3とリターンパイプ4との継ぎ目部分にローラ6が引っ掛かったり、ローラ6の軸線が傾いたりする所謂スキューが生じるおそれがある。ローラ案内部19を設けることにより、隙間hを小さくすることができ、したがってローラ6を負荷ローラ転走路3のリード角方向及び接線方向へ円滑に移動させることができる。ローラ6は切れ目18が形成されている部分の先端部15bにも勿論案内されているが、ねじ山の内部に入り込むローラ案内部19を設けることによってさらに安定して案内することが可能になる。
【0035】
図10はリターンパイプ4を示し、図11はリターンパイプ4の中央部14におけるローラ戻し路5の断面形状の変化を示す。リターンパイプ4の中央部14のローラ戻し路5は、ローラ6が中央部14の軸線方向に移動するにしたがってその姿勢を変化するようにねじられている。中央部14内のローラ戻し路5は、中央部14の軸線方向の中央位置E−Eから両端A−A又はI−Iに向かって等しい角度ねじられていて、位置A−Aから位置E−Eまでのねじり角度α°は、位置E−EからI−Iまでのねじり角度α°に等しい。すなわち、ここでは一対の端部15,15から掬い上げられたローラ6を中央部14の中央位置E−Eで姿勢を一致させることができるように、ローラ戻し路5をねじっている。なおローラ戻し路5は中央部14のみでねじれるのに限られることなく、ねじり区間を長くとるために端部15,15に至ってねじってもよい。
【0036】
リターンパイプ4内に導かれたローラ6は、端部15内で一定の姿勢を保ったまま軸線方向に移動する。中央部14内に導かれると、ローラ6は位置A−Aから位置I−Iまで除々に例えば右回りに回転しながら軸線方向に移動する。ローラ6が他方の端部15に移動すると、端部15内で一定の姿勢を保ったまま軸線方向に移動する。その後ローラは負荷ローラ転走路3に戻される。
【0037】
リターンパイプ4の分割体23a,23bは、ローラ戻し路5を構成する溝部26,27を有する。中央部14のローラ戻し路5がねじられる区間において、溝部26の一方の壁面26aが他方の壁面26a´に対して傾斜し、そして一方の分割体23aの壁面26a´(分割面29に直交する面)と、当該壁面26aと対向する他方の分割体23bの壁面27a´(分割面29に直交する面)との間でローラ6を案内する。これはリターンパイプ4を樹脂成型した場合の型抜きの容易さ、すなわちアンダーカットを生じさせないことを考慮したものである。このように構成してもローラ6の姿勢は一方の壁面26a´と他方の壁面27a´との間で確実に規制される。なお分割体23a,23bの分割面29もローラ戻し路5のねじりに合わせてねじれているが、樹脂成型の容易さを考慮するとねじらないこともある。
【0038】
図12はローラ6の姿勢の変化を示す図である。図中(a)は平面図を示し、図中(b)はねじ軸1の軸線方向からみた図を示す。ローラ6は負荷ローラ転走路3の一端から数巻き手前の負荷ローラ転走路3の他端に戻される。ローラ戻し路5においてローラ6の姿勢を回転させる角度を最少にすべく、ローラ6はリターンパイプ4を通過することでちょうど反転する。具体的には図中一端P1に位置するローラ6の辺ABがねじ軸1のローラ転走溝1a上を転がり、ローラ6の辺CDがナット部材2の負荷ローラ転走溝2a上を転がり、軸線方向(1)の荷重を負荷する。ローラ6がリターンパイプ4を通過して他端P2まで移動すると、ローラ6はリターンパイプ4に直交する線30を中心として反転する。そしてローラ6の辺CDがねじ軸1のローラ転走溝1a上を転がり、ローラ6の辺ABがナット部材2の負荷ローラ転走溝2aを転がり、方向(2)の荷重を負荷するようになる。このようにローラ6を反転させると、ローラ戻し路5のねじり角度を最少にすることができる。ローラ6を反転させないことも可能であるが、この場合はリターンパイプ4内でローラをさらに45°,90°等姿勢を回転させる必要がある。
【0039】
図13はローラ6間に介在されるスペーサ31を示す。スペーサ31の進行方向の両端には、隣り合うローラ6の外周面に形状を合わせ、ローラ6の外周面に摺動自在に接触する曲面状の凹部31a,31aが形成される。スペーサ31の角部31b(凹部31aと凹部を除くスペーサ31の周囲面31cとの交差部分)が鋭く尖っていると、負荷ローラ転走路3とリターンパイプ4との継ぎ目にスペーサ31が引っ掛かるおそれがある。このためスペーサ31の角部31bは面取りされる。
【0040】
図14はスペーサの詳細図を示す。凹部31a,31aはローラをクロス配列できるように形成され、その曲率半径はローラ6の半径よりも若干大きく設定される。図中(B)に示されるように、ローラ6は、その軸線方向の長さの略全長に渡って凹部31bに接触する。スペーサ31の進行方向の両端に配置される一対のローラ6,6が、スペーサ31の凹部31a,31aに接触した状態で、ローラ6,6の一対の軸線6a,6bそれぞれは、実質的に平行な一対の平面P1,P2内それぞれに配置される。パラレル配列になるように平面P1内でローラ6の軸線6aを90度回転させると、ローラ6,6の軸線6a,6bは平行になる。複数のローラ6及び複数のスペーサ6は、ローラ6,6がスペーサ31の凹部31a,31aに接触した状態で積み重ねると、直線状に繋がっていくことになる。このように複数のローラ6及び複数のスペーサ31を直線状に繋げることで、複数のローラ6及び複数のスペーサ31が、負荷ローラ転走路3の螺旋状の軌道及びリターンパイプ4内の直線上の軌道いずれに対してもスキューを起こすことなく円滑に循環することを実験により確認している。ここで実質的に平行とは、完全に平行な場合のみならず、複数のローラ6及びスペーサ31が2つの軌道を円滑に循環する範囲で若干一方の平面が他方の平面に対して傾いている場合をも含む。
【0041】
図15は、ローラ6の軸線6bが配置される平面P2をローラ6の軸線6aが配置される平面P1に対して角度β傾けた比較例を示す。この場合、複数のローラ6及び複数のスペーサ6は、ローラ6,6がスペーサ31の凹部31a,31aに接触した状態で積み重ねると、円環状に繋がっていくことになる。ローラを組み込んだローラベアリングでは、負荷ローラ転走路が円環状に形成されるので、ローラ6の軸線が円環状の負荷ローラ転走路の中心を向くように、スペーサの凹部の一方31aが他方31aに対して傾けられることが多い。本発明者は凹部31aを傾けると、複数のローラ6及び複数のスペーサ31が、負荷ローラ転走路の螺旋状の軌道では円滑に循環するが、リターンパイプ4内の直線状の軌道内でよろよろと乱れ、円滑に循環することができないことを実験により確認した。
【0042】
再び図14(A)に示されるように、このスペーサ31の正面形状は、正方形状の負荷ローラ転走路3内でスペーサ31が傾かないように負荷ローラ転走路3の断面形状に合わせて略正方形に形成される。スペーサ31の中央には、一対の凹部31a,31aを連通する潤滑剤保持孔33が開けられる。この潤滑剤保持孔33の両端には、潤滑剤保持孔33よりも径を大きくした潤滑剤溜め凹部34が形成され、この潤滑剤溜め凹部34からローラ6とスペーサ31の凹部31aとの間に潤滑剤が供給される。スペーサ31の周囲面31cには、潤滑剤を多量に保持できるよう潤滑剤保持溝35が4ヶ所形成される。なお、スペーサ31の一隅には、組み立て時の目印として切欠き36が形成される。
【0043】
図16は負荷ローラ転走路3とリターンパイプ4の継ぎ目を示し、図17は図16のA部詳細図(ナット部材のローラ転走溝の入り口の断面形状と、リターンパイプ4の入り口の断面形状とを比較した図)を示す。リターンパイプ4の入り口のローラ戻し路5の断面形状は、ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aの断面形状よりも若干大きい。このためナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとリターンパイプ4のローラ戻し路5との継ぎ目でわずかな段差が生じる。しかしナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとリターンパイプ4のローラ戻し路5とは、90度の開き角度を有する断面V字形状の相似形なので、図18に示されるように、ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aのリターンパイプ4に近い部分32をクラウニングする(斜めに削りこむ)ことで、ナット部材2の負荷ローラ転走溝2aとリターンパイプ4のローラ戻し路5の形状を一致させることができる。これにより継ぎ目に段差が生じることなく、ローラ6を円滑に循環させることができる。またローラ6がリターンパイプ4から負荷ローラ転走溝2aに入っていくときの応力を緩和することができる。
【0044】
なお本発明の実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば本実施形態では、ローラはクロス配列されているが、隣接するローラの軸線が平行になるようにパラレル配列されてもよい。また複数のスペーサを帯状の可撓バンドで一連に繋げることも可能である。さらに戻し部材はローラ戻し路が形成されるものであればリターンパイプに限られることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のローラ転走溝が形成されたねじ軸と、
内周面に前記ローラ転走溝に対向する螺旋状の負荷ローラ転走溝が形成されたナット部材と、
前記ナット部材の前記負荷ローラ転走溝の一端と他端を繋ぎ、前記ねじ軸の前記ローラ転走溝と前記ナット部材の前記負荷ローラ転走溝との間の負荷ローラ転走路を転がるローラを循環させる戻し部材と、
前記負荷ローラ転走路及び前記戻し部材内に収容される複数のローラと、
を備え、
隣接する一対のローラ間には、前記一対のローラが互いに接触するのを防止するスペーサが介在されることを特徴とするローラねじ。
【請求項2】
前記スペーサの進行方向の両端には、ローラの外周面に接触する凹部が形成され、
前記ローラは、その軸線方向の長さの略全長に渡って前記凹部に接触することを特徴とする請求項1に記載のローラねじ。
【請求項3】
前記スペーサの進行方向の両端に配置される前記一対のローラが、前記スペーサの前記凹部に接触した状態で、
ローラの一対の軸線それぞれは、実質的に平行な一対の平面内それぞれに配置されることを特徴とする請求項2に記載のローラねじ。
【請求項4】
前記スペーサの前記凹部と、前記凹部を除くスペーサの周囲面との交差部分が、スペーサが円滑に循環できるように面取りされていることを特徴とする請求項2又は3に記載のローラねじ。
【請求項5】
前記戻し部材は、直線状に伸びる中央部と、中央部の両側に折り曲げられた一対の端部とを備え、
前記端部の先端部は、ねじ軸の軸線方向から見た状態において、前記負荷ローラ転走路の接線方向に配置され、且つねじ軸の側方から見た状態において、前記負荷ローラ転走路のリード角方向に傾けられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のローラねじ。
【請求項6】
前記ねじ軸の前記ローラ転走溝と前記ナット部材の前記負荷ローラ転走溝との間に断面正方形の負荷ローラ転走路が形成され、
前記複数のローラは、ローラの進行方向から見た状態において、隣接する一対のローラの回転軸が直交するようにクロス配列されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のローラねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【国際公開番号】WO2005/038300
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514716(P2005−514716)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012943
【国際出願日】平成16年9月6日(2004.9.6)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】