説明

ロールの油回収方法及び装置

【課題】抄紙機等に用いられるロールにおいて、ロール外套内の潤滑油を排出して、動力低減及び潤滑油による発熱の低減を図る油回収装置であって、センターシャフト(静止支持体)の熱変形に起因したシュー齧りを防止する。
【解決手段】静止したセンターシャフト(支持体)3と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套4と、支持体3に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシュー5とを備えたロール2からロール外套内の油を回収する方法において、シュー5のロール外套回転方向上流側で支持体3に断熱ブロック(断熱層)23を介して取り付けられた油収集容器22でロール外套4の回転に伴って連れ回りした油lを収集し、油収集容器22に収集された油を排油管32を介してロール外套4の外部に回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば抄紙機のプレスパートにおけるプレスロールや、紙表面平滑化工程におけるカレンダロール等に適用され、静止した支持体と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套と、前記支持体に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシューとを備えたロールに潤滑用又は冷却用として供給された油を回収するに際して、静止支持体の熱変形に起因するシュー齧りを防止するようにした油回収方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前述のようなロールでは、油は、潤滑を目的として前記シューとロール外套内面との間のスペースに送り込まれ、油膜を形成するようになっている。また冷却を目的としてロール外套の内面に噴霧される。ロール外套が回転する時は、油は、遠心力によってロール外套の内面に沿って連れ回りする。しかし油は、ロール外套の回転に伴ってロール外套の内周面とシューとの摺接面における油のせん断仕事に起因する摩擦力により次第に温度上昇していき、粘性が低下してしまう。そのため適正な油膜形成ができなくなり、ロール外套の内周面が損傷してしまうおそれがあるとともに、ロール外套に装着されている表面のゴム製円筒の寿命を縮めてしまう。
【0003】
ロール外套の内面に過剰に蓄積された油は、ロール外套を回転するために必要なエネルギ量を増大してしまう。そこで油回収装置によってロール作動時にロール外套内の油を回収した後、回収した油を冷却してロール外套内に循環供給している。
例えば特許文献1(特表2002−525518号公報)には、この種のロールの油除去装置が開示されている。この油除去装置には、シューに衝突した油をロール外へ排出する排油管に通じるガイドプレートが設けられている。
【0004】
また特許文献2(特開2005−221027号公報)には、図8に示すロールの油回収装置が開示されている。この油圧回収装置は、例えば抄紙機のプレス装置やカレンダ装置などに設けられたロールに装備される。
図8において、このロール02は、ロール軸方向(装置幅方向)に延設され静止したセンターシャフト(支持体)03と、センターシャフト03を覆うようにセンターシャフト03の軸周りに配置され、軸端部に設けられた図示しない駆動装置により回転駆動する円筒状のロール外套04と、センターシャフト03の上部に支持されセンターシャフト03の軸方向に延設されてロール外套04内周側から周外向きに押圧するシュー05とを備えている。
【0005】
なおシュー05については、シュー05をロール軸方向において複数に分割して、これらの各シュー05による押圧力を独立に調整することで、ロール外套04の軸方向外形の形状を調整(クラウンコントロール)できるようにした、マルチシュータイプ・コントロールド・クラウン・ロール(M.C.C.R.)として構成してもよい。またロール外套04は、自ら回転駆動力を受けて回動する回転駆動式のものの他、従動式のものでもよい。ロール外套04は、シュー05によってカウンタロール06との間でニップ部を構成し、抄紙機のプレスパートでは、このニップ部にフェルトで両側を挟んだ湿紙を通し、加圧脱水する。またロール外套をゴム製円筒で被覆し、湿紙に対してニップ範囲を広げるようにしている。
【0006】
このようなロール装置では、ロール外套04とシュー05との摺接部07の摩擦係数を小さくしてロール外套04を円滑に回転させるようにロール外套04の内部に油(潤滑油)lを供給して摺接部07に油膜を形成するようにしているが、ロール外套04が矢印R1方向に回転し、その回転速度が速くなると、ロール外套04内の油lは、図8中の矢印R2で示すように摺接部07で激しく衝突してロール外套04の回転方向上流側の一帯にしぶき状の反転流として跳ね返る。
【0007】
このため油回収装置01は、前述のように摺接部07に激しく衝突して回転方向上流側に跳ね返ってくる油lを効率良く回収するように、摺接部07の下方でかつ摺接部07よりもロール外套04の回転方向上流側に設けられた油受け皿としての油回収パン08を備え、油回収パン08は、ロール軸方向に延設されており、その一側部がボルト09によりセンターシャフト03に取り付けられている。
【0008】
また油回収パン08の他端部には、油飛散防止板010がボルト011により取り付けられ、この油飛散防止板010は、その上端部012がロール外套04内で連れ回りする油膜と干渉しない範囲でかつロール外套04内面に接近した位置に配置されるように取り付けられている。
また油回収パン08に底部には、排油口013が形成され、図示しない排油管に接続されてロール外套02の外部へ排出されるようになっている。なおロール外套02の外部へ排出された油lは、冷却等の適宜処理が行なわれた後、センターシャフト03の軸端部に形成された図示しない給油口からロール外套04内に供給される。
【0009】
またシュー05は、作動油供給管014を通して圧力室015に供給される作動油により上下方向に駆動されるようになっている。
かかる構成の油回収装置01によって、ロール02の回転速度が速くなり、油lが摺接部07に激しく衝突してロール外套04の回転方向上流側にの一帯に跳ね返るようになっても、ロール外套04内で連れ回りする油lにより形成される油膜に干渉することなく、摺接部07から跳ね返った油までも効率良く確実に回収するようにしている。
【0010】
【特許文献1】特表2002−525518号公報
【特許文献2】特開2005−221027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図8に示す従来の油回収装置は、ロール外套内の潤滑油を積極的に排出して、潤滑油の攪拌に費やされる動力を低減し、また潤滑油による発熱を大幅に低減することができるが、高温になった潤滑油がロール外套回転方向上流側のセンターシャフト03にかかるので、センターシャフト03に熱変形が生じるという問題がある。即ちロール外套の回転速度が速くなると、ロール外套の回転に伴いロール外套の内周面に連れ回りする潤滑油がロール回転方向上流側でシュー05に衝突し、跳ね返り、又はシュー05の壁面に沿って垂れ落ち、油回収パン08に回収される。
【0012】
このとき潤滑油は、センターシャフト03の表面を伝わって、センターシャフト03の表面に接触した排油装置の油入口部を通るため、センターシャフト03に潤滑油のもつ熱が伝わる。このためセンターシャフトのロール回転方向上流側と下流側とで温度差が生じ、これによってセンターシャフトの熱変形、即ち曲がりが発生しかねない。
シューはロールの軸方向に延設された一体のものであるため、センターシャフトの曲がりによりロール外套内周面に対して齧りが発生するという問題がある。この問題は、シューが複数に分割されたM.C.C.R.タイプのシューにおいても同様に発生する。
シュー齧りが発生すると、ロール外套内周面での油膜の形成が阻害され、シュー端面との間で潤滑性に支障をきたし、ロール外套の円滑な回転を阻害する。
【0013】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、ロール装置において、ロール外套内の潤滑油を積極的に排出して、潤滑油の攪拌に費やされる動力を低減し、また潤滑油による発熱を大幅に低減する油回収装置であって、かつセンターシャフト(静止支持体)の熱変形に起因したシュー齧りを防止して、ロール外套の円滑な回転を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するため、本発明のロールの油回収方法は、
静止した支持体と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套と、前記支持体に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシューとを備えたロールから前記ロール外套内の油を回収する方法において、
前記シューのロール外套回転方向上流側で前記支持体に断熱層を介して取り付けられ前記シューに近接した位置に開口を有する油収集容器で前記ロール外套の回転に伴って連れ回りした油を収集し、
該油収集容器に収集された油を排油管を介して前記ロール外套の外部に回収することを特徴とする。
【0015】
また本発明のロールの油回収装置は、
静止した支持体と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套と、前記支持体に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシューとを備えたロールに装備され、前記ロール外套内の油を回収する油回収装置において、
前記シューのロール外套回転方向上流側で前記支持体に取り付けられ前記シューに近接した位置に開口を有する油収集容器と、
該油収集容器に収集された油を前記ロール外套の外部に回収する排油管と、
前記支持体と前記油収集容器との間に介在された断熱層とを備え、
前記ロール外套の回転に伴って連れ回りした油を前記油収集容器に収集し、前記排油管を介して前記ロール外套の外部に回収するように構成したことを特徴とする。
【0016】
本発明においては、ロール外套の内周面に連れ回った油がシューに対して衝突し、跳ね返る位置に当るシューのロール回転方向上流側にシューに近接した位置に開口を有する油収集容器を設けて、シューに衝突して跳ね返った油を該油収集容器に効率良く収集するようにするとともに、該油収集容器と静止支持体との間に断熱層を介在させることにより、油を収集して油の保有熱により加熱された油収集容器の熱が静止支持体に伝わるのを防止している。
これによって支持体のロール回転方向上流側のみが加熱されて支持体が熱変形するのを防止することができる。
【0017】
前記断熱層は、断熱材、たとえば多孔質板やフェルト、又はこれらの複合板を使った断熱層としてもよく、あるいはこれらを薄板で覆い断熱性を向上させた断熱ブロックを使用してもよい。
また前記断熱層を空気層(空隙)又は内部に空気を封入したブロックで構成してもよい。内部に空気を封入したブロックでは、ブロックの内部で生じる温度差のため自然対流が発生し、静止した空気層よりも熱伝達率が大きくなり望ましくない。
【0018】
この場合熱伝達率の増大を押えるため、ブロック内の空間を小さくしてブロック内の空気と壁面の粘性力が自然対流を妨げるように、ブロックを油収集容器及び支持体を横切る方向に複数に分割した構造、例えばハニカム構造とするとよい。
かかる断熱ブロックを油収集容器と静止支持体との間に挟みこみ、ボルト等の締結具で落下しないように固定することができる。また断熱層を構成するブロックの内部に冷却水を循環させて断熱機能のみならず冷却機能をもたせてもよい。
【0019】
また本発明において、好ましくは、油収集容器に収集した油を排油管を介してロール外套の外部に排出するに際し、油の一部をシューのロール回転方向下流側の支持体近傍に排出して、シューを挟んだロール外套回転方向上流側と下流側との支持体の温度差を解消するようにしてもよい。
その場合排油管から油の一部をシューのロール回転方向下流側の支持体近傍に供給する迂回管を設けるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シューのロール外套回転方向上流側で支持体に断熱層を介して取り付けられシューに近接した位置に開口を有する油収集容器でロール外套の回転に伴って連れ回りした油を収集し、該油収集容器に収集された油を排油管を介してロール外套の外部に回収するように構成したことにより、ロール外套内周面に連れ回りシューに衝突して跳ね返った油を油収集容器で効率良く回収することができ、かつ油収集容器と静止支持体との間に断熱層が介在されているので、油の保有熱が支持体に伝達することがない。従って支持体の構成部位のうち油が衝突するロール回転方向上流側のみ加熱されることがなくなるため、支持体の熱変形が生じず、ロール外套内周面に対するシューの齧りが発生しない。
【0021】
このように簡素な構成で油を効率良く回収できるため、潤滑油の攪拌に費やされる動力を低減でき、また潤滑油による発熱を大幅に低減することができるため、常に適正な油膜を形成しておくことができ、このためロール外套の内周面が損傷するおそれがなく、またロール外套に装着されている表面のゴム製円筒の寿命を縮めることもない。
また好ましくは、排油管から排出される油の少なくとも一部をシューのロール外套回転方向下流側の支持体近傍に供給することにより、シューを挟んだロール回転方向上流側及び下流側の支持体の温度差を一層効率良く解消することができる。
【0022】
また本発明装置によれば、シューのロール回転方向上流側で支持体に取り付けられシューに近接した位置に開口を有する油収集容器と、該油収集容器に収集された油をロール外套の外部に回収する排油管と、支持体と油収集容器との間に介在された断熱層とを備え、ロール外套の回転に伴って連れ回りした油を油収集容器に収集し、排油管を介してロール外套の外部に回収するように構成したことにより、油の保有熱が支持体に伝達することがなく、油の回収を効率良く行なうことができるので、前記本発明方法と同様の作用効果を奏することができる。
【0023】
また好ましくは、排油管から油の一部をシューのロール回転方向下流側の支持体近傍に供給する迂回管を設けて、排油管の油の一部をロール回転方向下流側の支持体近傍に供給することにより、シューのロール回転方向上流側と下流側の支持体の温度差を効果的に解消することができる。
なお本発明は、シューがロールの軸方向に一体で延設されたCCRタイプのロールのみならず、シューがロール軸方向に複数に分割されたMCCRタイプのロールにも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
図1は、本発明を抄紙機等に適用されるコントロールド・クラウン・ロール(CCR)に適用した第1実施例を示す縦断立面図(カバー41を取り払って図示したものである)、図2は、図1のII−II線に沿う横断面図、図3は、図1のIII−III線に沿う横断面図、図4は、図3中のIV−IV線に沿う断面図である。
【実施例1】
【0025】
本発明の第1実施例を示す図1〜図4において、本実施例のCCRロール2は、ロール外套4と、ロール外套4の内部でロール外套4の軸方向に延設され両端がロール軸21に接続されたセンターシャフト3と、センターシャフト3の上部に支持されセンターシャフト3の軸方向に延設されてロール外套4内周側から周外向きに押圧するシュー5とを備えている。またシュー5のロール回転方向R1の上流側には、内部が中空でロール軸方向に延設された一体型の油収集容器22が断熱ブロック23を介在させてセンターシャフト3に取り付けられている。油収集容器22の開口22aは、シュー5に近接配置されている。24は、油収集容器22及び断熱ブロック23をセンターシャフト3に取り付けるボルトである。
【0026】
また一方のロール軸21には給油管31及び排油管32が軸方向に平行に穿設され、給油管31には、ロール外套4の内部でロール外套4の軸方向に分散して3〜4本に分岐した給油枝管33を介して、センターシャフト3の内部に穿設された作動油供給管14に接続され、作動油供給管14はシュー5の圧力室15に連通している。
シュー5は、ロール外套4の内周面に対面する摺接面7に油溜め5aが凹設され、油溜め5aには圧力室15からセンターシャフト3とに接触面に設けられた図示しない毛細管を通して作動油が供給され、ロール外套4の内周面に対して潤滑油による静圧軸受を構成している。
【0027】
排油管32は、ロール外套4の内部でロール外套4の軸方向に分散して3〜4本に分岐した排油枝管34を介して油収集容器22に連通している。排油枝管34は、油収集容器22の下部にロール外套4の軸方向に亘って分散して排油管32に接続され、図3に示すように、排油管32は、ボルトによりセンターシャフト3に水平方向に固設したサポート36に管押え37によって固定されている。また給油管31は、同様にボルト35でセンターシャフト3に水平方向に固設されたサポート38に管押え39によって固定されている。
【0028】
断熱ブロック23は、薄板23aによって中空ケーシングが構成され、内部にフェルトや多孔質の断熱材を充填してもよいし、あるいは空気を封入してもよい。狭隘部23aは、その断面を図4に示すが、3〜4mm以下の厚さを有し、内部が中空のブロックとなっており、内部に断熱材を充填してもよいし、あるいは中空にして空気層としてもよい。
図2において、ロール外套4においてセンターシャフト3のロール回転方向上流側及び下流側には、センターシャフト3を覆うカバー41及び42が設けられているが、これは、ロール外套4の内周面に沿って連れ回りし温度が高くなった油からセンターシャフト3及び給油管系統、排油管系統を遮断し、油による熱影響を少なくしてセンターシャフト3等の熱変形を防止するためである。
【0029】
かかる構成の第1実施例において、ロール外套4は、自らの回転駆動力により、あるいはカウンタロール6とのニップ部を通る湿紙に従動して矢印R1の方向に回転する。本実施例のロール外套が抄紙機のプレスパートに設置されたプレスロールである場合は、湿紙の水分を吸収するため湿紙の両側をフェルトで挟み、ロール外套4の外表面にはニップ範囲を広げるためゴム製の円筒で被覆する。
【0030】
ロール外套4が回転すると、遠心力でロール外套4の内周面に油膜lが形成される。ロール外套4の回転に伴ってロール外套4の内周面とシュー5との摺接面7における油のせん断仕事に起因する摩擦力により油の温度が次第に上昇していき、湿紙の走行速度が速くなると、ロール外套4の回転に伴いロール外套4の内周面に連れ回りする潤滑油lがロール回転方向上流側でシュー5に衝突し、跳ね返るようになる。湿紙の走行速度が1300m/分に達すると、油の温度が65〜70℃に達し、ロール外套4の外表面を覆うゴム製円筒が劣化し始める。
【0031】
本実施例では、シュー5のロール回転方向上流側に油収集容器22を配設したことにより、その開口22aからシュー5に衝突して跳ね返った油を効率良く油収集容器22に収容することができ、油収集容器22に収容した油は、油収集容器22の下部に取り付けられた排油枝管34kから排油管32を経由してロール外套4の外部へスムーズに排出することができる。
この際油収集容器22とセンターシャフト3との間には断熱ブロック23が介装されているので、油収集容器22内に収容された油の保有熱がセンターシャフト3に伝達されることがない。
【0032】
従ってセンターシャフト3のロール回転方向上流側と下流側とで温度差が生じることはなく、このためセンターシャフト3に熱変形による曲がりが生じることはなく、ロール外套4内周面に対するシュー5の齧りが生じることはない。
通常油の熱伝達率は50〜1500kcal/m2hr℃であり、これに対して静止している空気の熱伝達率1〜20kcal/m2hr℃であることから、例えば断熱ブロック23を空気断熱層とすることで、センターシャフト3のシュー5の上流側と下流側とで最大9℃程度と予想される温度差がなくなる。従って、従来では発生していたロール周方向のセンターシャフト熱変形約7mmが抑制され、センターシャフト端ブロックでのシュー齧りが発生することはない。
【実施例2】
【0033】
次に第2実施例を図5により説明する。図5はロール外套内部の一部拡大横断面図である。図5において、第2実施例の断熱ブロック51は、薄板52でつくられたブロック(ケーシング)の内部に油収集容器22からセンターシャフト3に向けて横切る方向にブロック内部の空間を分割したハニカム構造53としている。その他の構成は第1実施例と同一であり、第1実施例と同一の部位には同一の符号を付している。
このように断熱ブロック51の内部をハニカム構造53とすることにより、ブロック内での空気の対流をなくし、静止した空気と同等の熱伝達率を得ることができ、これによって油収集容器22からセンターシャフト3への熱伝達を防止することができる。
【実施例3】
【0034】
次に本発明の第3実施例を図6により説明する。図6は、ロール外套内部の一部拡大横断面図である。図6において、第3実施例の断熱ブロック61は、薄板62で形成されるブロックの内部に前記第2実施例と同様にハニカム構造53を有し、このハニカム構造53の中にロール軸方向に冷却水管62を配設したものである。その他の構成は前記第1実施例と同一であり、第1実施例と同一部位には同一の符号を付している。
第3実施例では、冷却水管62がロール2の軸受部に設けた冷却水用の給水孔に連通しており、該給水孔から冷却水管62に給水し、反対側の排水孔から排水する強制冷却機構を具備している。
【0035】
かかる構成に第3実施例では、断熱ブロック61は、内部のハニカム構造53による断熱機能のみならず、冷却水管62内を流れる冷却水による冷却機能をも具備しており、油収集容器22に収容された油は断熱ブロック61によって冷却される。シュー5近辺の排油温度は60℃程度であるため、冷却水管62に供給する冷却水は、ロールの油圧ユニットの冷却排水又は潤滑油と温度交換した後の排水(約40〜50℃)を使用すればよい。
【0036】
かかる構成によって、油収集容器22内の油の保有熱が断熱ブロック51によって確実に遮断され、センターシャフト3に油の保有熱が伝達されることはなく、センターシャフト3の熱変形が生じることがなくなる。
なお第3実施例では、断熱ブロック51の内部にハニカム構造53と冷却水管62が装備されているが、これらの部材を取り除き、断熱ブロック51内を空洞とし、その空洞部分に冷却水を直接注入するようにしてもよい。
【実施例4】
【0037】
次に本発明の第4実施例を図7により説明する。図7は、ロール外套内部の構成を示す横断面図である。図7において、本実施例は、排油管32に接続され、センターシャフト3を横切ってシュー5のロール回転方向下流側のセンターシャフト近傍に開口71aを有する迂回管71を配設したものである。その他の構成は第1実施例と同一であり、第1実施例と同一の部位には第1実施例と同一の符号を付している。
【0038】
かかる構成により、油収集容器22に収容した油の一部を排油管32から迂回管71を通してシュー5のロール回転方向下流側のセンターシャフト近傍にシャワ状に吹き付けるため、センターシャフト3のシュー5付近のロール回転方向上流側と下流側との温度差をさらに解消することができ、センターシャフト3の熱変形が抑制されるので、シュー5のロール外套4内周面に対する齧りを防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、ロール装置において、ロール外套内の高温化された潤滑油をスムーズに排出するロールの動力低減及び温度低減を図ることができるとともに、静止支持体の熱変形に起因したシューのロール外套に対する齧りをなくして、ロール外套とシューとの摺接面の潤滑を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を抄紙機等に適用されるコントロールド・クラウン・ロール(CCR)に適用した第1実施例を示す縦断立面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う横断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う横断面図である。
【図4】図3中のIV−IV線に沿う断面図である。
【図5】本発明の第2実施例の一部拡大断面図である。
【図6】本発明の第3実施例の一部拡大断面図である。
【図7】本発明の第4実施例の一部拡大断面図である。
【図8】従来の抄紙機に用いられるロールの横断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 油回収装置
2 ロール
3 センターシャフト(静止支持体)
4 ロール外套
5 シュー
22 油収集容器
23,51,61 断熱ブロック(断熱層)
23a,51a,61a 狭隘部
31 給油管
32 排油管
33 給油枝管
34 排油枝管
41,42 カバー
53 ハニカム構造
62 冷却水管
71 迂回管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止した支持体と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套と、前記支持体に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシューとを備えたロールから前記ロール外套内の油を回収する方法において、
前記シューのロール外套回転方向上流側で前記支持体に断熱層を介して取り付けられ前記シューに近接した位置に開口を有する油収集容器で前記ロール外套の回転に伴って連れ回りした油を収集し、
該油収集容器に収集された油を排油管を介して前記ロール外套の外部に回収することを特徴とするロールの油回収方法。
【請求項2】
前記排油管を流れる油の少なくとも一部を前記シューのロール外套回転方向下流側の前記支持体近傍に供給し、
前記シューを挟んだロール外套回転方向上流側及び下流側の前記支持体の温度差を解消することを特徴とする請求項1記載のロールの油回収方法。
【請求項3】
静止した支持体と、該支持体の周囲に配設されて回転するロール外套と、前記支持体に支持され該ロール外套を内周側から周外方向に押圧するシューとを備えたロールに装備され、前記ロール外套内の油を回収する油回収装置において、
前記シューのロール外套回転方向上流側で前記支持体に取り付けられ前記シューに近接した位置に開口を有する油収集容器と、
該油収集容器に収集された油を前記ロール外套の外部に回収する排油管と、
前記支持体と前記油収集容器との間に介在された断熱層とを備え、
前記ロール外套の回転に伴って連れ回りした油を前記油収集容器に収集し、前記排油管を介して前記ロール外套の外部に回収するように構成したことを特徴とするロールの油回収装置。
【請求項4】
前記断熱層を断熱材、空気層又は内部に空気を封入したブロックで構成したことを特徴とする請求項3記載のロールの油回収装置。
【請求項5】
内部に空気を封入した前記ブロックを前記油収集容器及び前記支持体を横切る方向に複数に分割したことを特徴とする請求項4記載のロールの油回収装置。
【請求項6】
前記ブロックの内部に冷却水を循環させるように構成したことを特徴とする請求項4記載のロールの油回収装置。
【請求項7】
前記排油管から油の少なくとも一部を前記シューのロール外套回転方向下流側の前記支持体近傍に供給する迂回管を設けたことを特徴とする請求項3記載のロールの油回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−146978(P2007−146978A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−342721(P2005−342721)
【出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】