説明

ワイヤソー

【課題】ワイヤソー本体へのワークの装填を容易に行い得るようにする。
【解決手段】ワーク4と係合してこれを保持する第2ガイド部を有するワーク保持具5を備える。ワイヤソー本体2は第1支持軸25を有し、ワーク保持具5は、第1支持軸25の径よりも所定以上大径の挿通部を含みかつ、第1支持軸25が挿通される第1支持孔と、リフター3を用いてワイヤソー本体2の第1支持軸25に対しワーク保持具5が吊り下げ支持されたときに、ワイヤソー本体2の第1ガイド部24とワーク保持具5の第2ガイド部とが互いに同軸で連続するように、ワーク保持具5の位置決めを自動的に行う位置決め機構と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば半導体シリコンインゴット等のワークをスライス加工するワイヤソー本体と、そのワークをワイヤソー本体に装填したり、ワイヤソー本体から取り出したりするために用いられるリフターと、を備えたワイヤソーが知られている(例えば特許文献1参照)。このワイヤソーでは、前記リフターが、ワイヤソー本体に対して移動可能でかつ、保持したワークを上下及び左右方向に微少移動可能に構成されており、例えば次のような手順で、ワイヤソー本体にワークが装填される。すなわち、リフターにワークを保持させると共に、そのリフターをワイヤソー本体に対して所定の位置に位置付ける。そうして、ワークの位置を上下左右に微調整した上で、そのワークを水平方向にスライド移動させることにより、ワイヤソー本体の所定の装填位置にワークを装填する。
【0003】
ここで、こうしたワイヤソーにおいて、ワークの装填位置には高い位置精度が要求されるため、ワイヤソー本体の装填位置におけるワークのクリアランスは極めて小さく設定される。そのため、ワイヤソー本体へのワークの装填作業は熟練を要する作業となる。例えば特許文献1のワイヤソーでは、リフターにワイヤソー本体に対する位置決め治具を設けることで、リフターをワイヤソー本体に対して精度良く位置付けるようにしており、それによってワークの装填作業の容易化を図るようにしている。
【特許文献1】特開2000−218614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に開示されたワイヤソーでは、リフターをワイヤソー本体に対して精度良く位置付けたとしても、最終的には、ワークの位置を手動で上下左右に微調整する必要がある。このため、ワークの装填作業に熟練を要することには変わりない。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ワイヤソー本体へのワークの装填を容易に行い得るようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、ワイヤソーは、所定の装填方向に沿って延びると共に、ワークが係合される第1ガイド部を有しかつ、当該第1ガイド部によって前記装填方向に案内移動されることにより所定の装填位置に装填された前記ワークを装填方向に所定ピッチでスライスするワイヤソー本体と、前記ワイヤソー本体の第1ガイド部に前記ワークを係合させるために、当該ワークを少なくとも昇降移動させる、前記ワイヤソー本体とは別体で移動可能なリフターと、前記装填方向に沿って延びると共に、当該ワークと係合してこれを保持する第2ガイド部を有しかつ、前記リフターに対して着脱自在に支持されるワーク保持具と、を備える。
【0007】
そして、前記ワイヤソー本体は、それぞれ前記装填方向に延びると共に、当該装填方向に直交する水平方向に互いに離されて配置された、少なくとも2の第1支持軸を有し、前記ワーク保持具は、それぞれ前記ワイヤソー本体の第1支持軸の径よりも所定以上大径の挿通部を含みかつ、前記第1支持軸が挿通される第1支持孔を有し、前記ワーク保持具は、前記リフターを用いて前記各第1支持孔に前記各第1支持軸が挿通されることにより前記ワイヤソー本体の第1支持軸に対し吊り下げ支持されたときに、前記ワイヤソー本体の第1ガイド部と前記ワーク保持具の第2ガイド部とが互いに同軸で連続するように、前記ワーク保持具の位置決めを自動的に行う位置決め機構をさらに有する。
【0008】
この構成のワイヤソーにおいては、次の手順により、ワイヤソー本体にワークが装填される。先ず、ワーク保持具の第2ガイド部にワークが保持されることにより、ワークは、ワーク保持具を介してリフターに支持される。
【0009】
そのリフターをワイヤソー本体に対して相対的に移動させると共に、必要に応じてワーク保持具を昇降移動させることによって、ワーク保持具の第1支持孔内に、ワイヤソー本体の第1支持軸を挿通させる。
【0010】
そうして、第1支持孔内に第1支持軸を挿通させれば、そのワーク保持具を第1支持軸によって吊り下げ支持の状態にする。こうすることで、ワーク保持具の位置決め機構によって、ワーク保持具が自動的に所定の位置に位置付けられる。つまり、ワイヤソー本体の第1ガイド部とワーク保持具の第2ガイド部とが互いに同軸で連続するようになる。その状態で第2ガイド部に保持されていたワークを装填方向に移動させることにより、ワークは、第2ガイド部及び第1ガイド部に案内されながらワイヤソー本体の装填位置に装填されるようになる。
【0011】
この構成のワイヤソーでは、リフターを用いて、ワーク保持具の第1支持孔内に第1支持軸を挿通させることになるが、第1支持孔は、第1支持軸よりも所定以上大径の挿通部を有しているため、リフターをワイヤソー本体に対して所定の位置に精度良く位置付けなくても、第1支持孔(挿通部)内にワイヤソー本体の第1支持軸を挿通させることができる。つまり、リフターを用いて、ワーク保持具をワイヤソー本体に対し吊り下げ支持させる作業は比較的容易に行い得る。
【0012】
そうして、第1支持軸にワーク保持具を吊り下げ支持させれば、ワークの位置決めが自動的に行われるため、ワークの位置を手動で微調整しなくてもワークを装填位置に装填させることができる。つまり、ワークの装填作業に熟練を要しないことになる。
【0013】
前記各第1支持軸は、その外周面が円形状であり、前記位置決め機構は、前記各第1支持孔の挿通部の上側にその挿通部に連続して形成されかつ、全体として逆V字状をなすよう傾斜した一対の傾斜部によって構成されており、前記ワーク保持具は、前記各第1支持孔の一対の傾斜部が前記各第1支持軸の中心軸を挟んだ水平方向両側で当該第1支持軸の外周面に対し対称に当接することによって、前記ワイヤソー本体の第1支持軸に対し吊り下げ支持される、としてもよい。
【0014】
こうすることで、ワーク保持具を第1支持軸に対して吊り下げ支持したときには、その第1支持軸の軸方向に見て、一対の傾斜部が円形状の第1支持軸に対し対称に2点で当接した状態になる。これによって、各第1支持孔は、第1支持軸に対して相対的に、所定の位置に自動的に位置付けられるから、それに伴い、ワーク保持具、ひいてはワークの位置決めが自動的に行われることになる。
【0015】
前記リフターは、外周面が円形状であると共に、前記装填方向に延びる第2支持軸を有し、前記ワーク保持具は、前記第2支持軸が挿通される第2支持孔をさらに有していて、当該第2支持孔に前記第2支持軸を挿通させることにより、前記リフターの第2支持軸に対して吊り下げ状態で支持され、前記第2支持孔は、前記第2支持軸の径よりも所定以上大径の挿通部と、当該挿通部の上側にその挿通部に連続して形成されかつ、全体として逆V字状をなすよう傾斜した一対の傾斜部と、を含む、としてもよい。
【0016】
この構成において、ワークをワイヤソー本体に装填するときには、先ず、ワーク保持具の第2支持孔内にリフターの第2支持軸を挿通させて、その第2支持軸によりワーク保持具を吊り下げ状態にする。そうして、リフターをワイヤソー本体に対して相対的に移動させると共に、必要に応じてワーク保持具を昇降移動させることによって、ワーク保持具の第1支持孔内に、ワイヤソー本体の第1支持軸を挿通させる。
【0017】
その後、リフターからワイヤソー本体側にワーク保持具を載せ替えるべく、ワーク保持具を第1支持軸によって吊り下げ支持の状態にする。つまり、リフターをワイヤソー本体に対して後退させることにより、第2支持軸を第2支持孔から抜く。
【0018】
ここでこの構成のワイヤソーでは、リフター側におけるワーク保持具の支持構造が、ワイヤソー本体側におけるワーク保持具の支持構造と同じであり、支持軸と支持孔と間で許容される位置ずれ量が互いに同じになる。このことから、リフターの第2支持軸にワーク保持具を支持させた状態で、そのワーク保持具の第1支持孔内に第1支持軸を挿通させることができれば、第2支持軸を第2支持孔内から抜くことも可能になる。従って、ワーク保持具の載せ替えをスムースに行い得る点で有利である。
【0019】
前記ワイヤソー本体は2つの第1支持軸を有し、前記ワーク保持具の2つの第1支持孔及び第2支持孔は、第2支持孔が2つの第1支持孔の間に位置するよう前記水平方向に並んで配置される、としてもよい。
【0020】
こうすることで、ワイヤソー本体における第1支持軸同士(及び第1支持孔同士)の間隔は、水平方向に比較的広くなるため、ワーク保持具をワイヤソー本体の第1支持軸に吊り下げ支持させたときには、ワーク保持具が安定して支持される。それによって、ワーク保持具、ひいてはワークの位置決め精度がさらに向上する。
【0021】
前記ワーク保持具は、前記水平方向に並設された2以上の第2ガイド部を有し、前記第2ガイド部はそれぞれ、それらに保持されるワークの重心位置が前記2つの第1支持孔の間に位置するように配置される、としてもよい。
【0022】
こうすることで、複数のワークを保持する構成のワーク保持具において、各ワークは、水平方向に比較的大きな間隔を空けて配置された2つの第1支持軸の間に位置するようになる。このため、前述したように、ワーク保持具をワイヤソー本体に吊り下げ支持させたときには、ワーク保持具が安定して支持される。それによって、ワーク保持具、ひいては各ワークの位置決め精度がさらに向上する。
【0023】
ここでこの構成のワイヤソーにおいては、第2支持軸及び第2支持孔は、ワーク保持具に保持されたワークの重心位置よりも内側に位置する場合がある。その場合において、前記ワーク保持具に保持可能な最大数よりも少ない数のワークを保持した状態で、前記リフターの第2支持軸に前記ワーク保持具を支持させたときには、前記第2支持軸周りのモーメントによる前記ワーク保持具の回転変位が生じる場合がある。
【0024】
そこで、そのワーク保持具の回転変位を規制するために、前記ワイヤソーは、前記ワーク保持具を前記第2支持軸に対し回転方向に固定する固定部材をさらに備える、としてもよい。
【0025】
こうすることで、ワーク保持具がリフターに安定して支持されるようになり、リフターからワイヤソー本体へのワーク保持具の載せ替えが安定して行い得る。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明によると、ワイヤソー本体に対するワークの装填の際に、位置決め機構を有するワーク保持具を利用することによって、ワークの位置決めを、手動で高精度に行わなくても、自動的に精度良く行うことができ、その結果、ワークの装填作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0028】
(ワイヤソーの全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤソー1の全体構成を示し、このワイヤソー1は、ワイヤソー本体2と、リフター3と、を備えて構成されている。
【0029】
前記ワイヤソー本体2は、ワーク(本実施形態では半導体シリコンインゴット(以下、単にインゴットと呼ぶ))4をスライス加工するものである。ワイヤソー本体2は、上下方向に並んで配設された上段部2aと下段部2bとを備えており、上段部2a及び下段部2bはそれぞれ、一対のローラ21,21と、前記インゴット4が装填される装填部23と、を有している。
【0030】
前記一対のローラ21,21は、それぞれローラ軸が前後方向(図1における紙面左手前から右奥に向かう方向)に延びるように配設されていると共に、左右方向(図1における紙面左奥から右手前に向かう方向)に互いに離されて配設されている。この一対のローラ21,21には、図示は省略するが、1本のワイヤが、そのローラ軸方向に所定のピッチで複数列巻き掛けられている。この2つのローラ21,21間で左右方向に延びる複数列のワイヤによって前記インゴット4が切断加工されることになる。
【0031】
前記装填部23は、前記一対のローラ21,21の上方位置に、上下方向に移動可能に配設されており、それぞれインゴット4を保持すると共に、その保持したインゴット4を前後方向に案内移動させる、左右方向に並んだ2つの第1ガイド部24,24を備えている。
【0032】
ここで、インゴット4及び、そのインゴット4に接着固定される被ガイド部41について簡単に説明する。図3,5に示すように、本実施形態におけるインゴット4は、横断面矩形状の四角柱状とされており、この四角柱状インゴット4は、本実施形態においては、前記ワイヤによってその柱軸方向に所定ピッチでスライスされる。従って、このインゴット4は、ワイヤソー本体2に装填されるときには、その柱軸が水平方向(前後方向)となる姿勢にされる。
【0033】
前記被ガイド部41は、インゴット4の上面に対して接着される固定部42と、この固定部42の上面に対して取り付けられ、左右方向の両側に突出する係合部43,43と、を備えている。各係合部43は所定の方向に延びていて、下向きのガイド面を有している。このガイド面が、後述するように、ワイヤソー本体2における第1ガイド部24の上向きのガイド面、及び、ワーク保持具5における第2ガイド部54の上向きのガイド面と当接することによって、インゴット4は、第1又は第2ガイド部24,54に保持されると共に、そのガイド部24,54に沿って案内移動されることになる。
【0034】
前記各第1ガイド部24は、前記装填部23の下端部で前後方向に延びて配設されており、被ガイド部41及びインゴット4を前後方向に案内移動させるように構成されている。尚、各第1ガイド部24は、ワーク保持具5の第2ガイド部54とほぼ同様の形状を有しているため、その詳細な構成についての説明は、後述する第2ガイド部54の説明において行う。
【0035】
このワイヤソー本体2において従来公知のワイヤソー本体と比較して異なる点は、前記装填部23が、ワーク保持具5を吊り下げ支持するための一対の第1支持軸25,25を備えている点である。この一対の第1支持軸25,25はそれぞれ、その横断面形状が円形状の棒状の部材であって、装填部23の前端面から前方に向かって所定長さだけ延びて配設されていると共に、左右方向に比較的広い所定間隔を空けて配設されている。尚、各第1支持軸25の先端はテーパ状にされており、これによって、後述するように、各第1支持軸25をワーク保持具5の第1支持孔51a内に挿通し易くしている。
【0036】
前記リフター3は、図1,2に示すように、上下方向に延びるメインフレーム31を備えており、このメインフレーム31の下端部には、前後左右に合計4個の車輪32,32,…が取り付けられている。これによってリフター3は、人手によって自由に移動可能に構成されている。尚、前記メインフレーム31の上下方向の中間位置には、当該リフター3を移動させる際に人手によって把持される把持部33,33が取り付けられている。
【0037】
前記メインフレーム31には、当該メインフレーム31に沿って上下方向に移動可能な上下フレーム34が取り付けられていると共に、この上下フレーム34に対しては、左右方向に移動可能な左右フレーム35が取り付けられている。そうして、図2,7等に示すように、その左右フレーム35に対して、ワーク保持具5を吊り下げ支持するための一対の第2支持軸36,36が取り付けられている。
【0038】
この一対の第2支持軸36,36はそれぞれ、前記ワイヤソー本体2の第1支持軸25と同様に、その横断面形状が円形状の棒状の部材であって、前記左右フレーム35から突出するように所定長さだけ延びて配設されていると共に、左右方向に比較的狭い所定間隔を空けて配設されている。尚、第2支持軸36の先端はテーパ状になっており、これによって、後述するように、各第2支持軸36をワーク保持具5の第2支持孔51bに挿通し易くしている。
【0039】
尚、符号37は、上下フレーム34をメインフレーム31に対して上下方向に移動させるために操作される操作ハンドルであり、符号38は、左右フレーム35を上下フレーム34に対して左右方向に移動させるために操作される操作ハンドルである。これらの操作ハンドル37,38を操作することによって、ワーク保持具5の位置が上下及び左右に調整されることになる。
【0040】
また、前記第2支持軸36の下方位置には受け皿39が配設されており、この受け皿39は、左右フレーム35に固定されている。受け皿39は、スライス加工後のインゴット4をワイヤソー本体2から取り出したときに、そのインゴット4に付着しているスラリーが床面に落ちないように受け止めるためのものである。
【0041】
そうして、本実施形態に係るワイヤソー1では、図1,2に示すように、インゴット4を、ワーク保持具5を介してリフター3に支持させるようになっている。そうして、そのワーク保持具5をリフター3からワイヤソー本体2に載せ替えることで、ワイヤソー本体2においてワーク保持具5を一旦支持した後に、ワーク保持具5に保持されているインゴット4を前記装填部23の第1ガイド部24に保持させて、インゴット4をワイヤソー本体2の装填位置に装填する。
【0042】
(ワーク保持具の構成)
前記ワーク保持具5は、図3〜5に示すように、前後方向に所定距離だけ互いに離されて立設された前側及び後側の一対の支持板53a,53bと、一対の支持板53の下面同士を互いに連結することによって、第2ガイド部54を構成する合計3つのガイド板52と、を備えて構成されている。
【0043】
各支持板53は、左右方向に延びる横長形状を有しており、板厚方向に貫通する4つの貫通孔51がその左右方向に並んで形成されている。この4つの貫通孔51の内、相対的に内側に位置する2つの貫通孔51b,51bは、その中心間距離がリフター3における2つの第2支持軸36の軸間距離と一致している一方、相対的に外側に位置する2つの貫通孔51a,51aは、その中心間距離がワイヤソー本体2における2つの第1支持軸25の軸間距離と一致している。それによって、相対的に内側に位置する2つの貫通孔は、前記リフター3の第2支持軸36が挿通される第2支持孔51b,51bとされ、相対的に外側に位置する2つの貫通孔は、前記ワイヤソー本体2の第1支持軸25が挿通される第1支持孔51a,51aとされている。
【0044】
各支持孔51は、その下側位置で略円形状を有する挿通部57と、挿通部57よりも上側位置で挿通部57に連続する一対の傾斜部58,58と、を含んで構成されている。
【0045】
前記挿通部57は、前記ワイヤソー本体2の第1支持軸25及びリフター3の第2支持軸36の径よりも所定以上大径にされており、これによって、詳しくは後述するが、第1及び第2支持軸25,36をこの挿通部57に挿通させることは比較的容易に行い得るようになっている。
【0046】
前記一対の傾斜部58,58は、第1又は第2支持軸25,36の中心軸を挟んだ左右両側で、その中止軸を通る鉛直線に対し線対称に傾斜して配設されることで全体として逆V字状をなしている。このため、ワイヤソー本体2又はリフター3において、ワーク保持具5が第1又は第2支持軸25,36に吊り下げ状態で支持されたときには、その支持軸25,36の軸方向に見て、一対の傾斜部58,58が支持軸25,36の外周面に対して2点で線接触するようになる(図3参照)。それによって、各支持孔51の、支持軸25,36に対する相対位置が所定の位置に自動的に位置付けられ、その結果、ワーク保持具5は、支持軸25,36に対して所定の位置に自動的に位置付けられるようになる。
【0047】
前記各支持板53a,53bには、ワーク保持具5が第1又は第2支持軸25,36に吊り下げ支持されたときに、その軸方向に対する位置決めを行うと共に、ワーク保持具5が軸方向に移動することを規制するための鉤部50が取り付けられている。この鉤部50は、例えば図6に示すように、第1支持軸25及び第2支持軸36の先端部に形成された窪みに係合するものであるため、第1支持軸25に係合するための鉤部50は、後側の支持板53bの第1支持孔51aの上部に取り付けられているのに対し、第2支持軸36に係合するための鉤部50は、前側の支持板42aの第2支持孔51bの上部に取り付けられている。
【0048】
また、各支持板53a,53bの下端部には、その下端に開口した切り欠き59が、左右方向に並んで2つ形成されており、前述したように、一対の支持板53a,53bの下面同士を互いに連結するように各支持板53a,53bに取り付けられた3つのガイド板52a,52bと、前記2つの切り欠き59,59と、によって、左右方向に並設された2つの第2ガイド部54が構成されている。
【0049】
すなわち、3つのガイド板の内の、相対的に幅狭の2つのガイド板52aは、各支持板53a,53bの左右の両端部にそれぞれ配設されている。この各ガイド板52aの内方側の縁部は切り欠き59内に位置しており、この縁部によって前後方向に延びると共に、被ガイド部41の下向きのガイド面に当接する上向きのガイド面が構成されている。一方、3つのガイド板の内の、相対的に幅広の残りの1つのガイド板52bは、各支持板53a,53bの中央部に配設されており、そのガイド板52bの両側縁部はそれぞれ、切り欠き59,59内に位置している。この各縁部によって、前後方向に延びると共に、被ガイド部41の下向きのガイド面に当接する上向きのガイド面が構成されている。
【0050】
そうして、この2つの第2ガイド部54,54は、ワーク保持具5をワイヤソー本体2の第1支持軸25,25に吊り下げ支持させたときに、ワイヤソー本体2の2つの第1ガイド部24,24に対して同軸で連続するようになる。
【0051】
(インゴットの装填手順)
次に、ワイヤソー本体2に対するインゴット4の装填手順について、図6等を参照しながら説明する。先ず、インゴット4がワーク保持具5に保持されるように、インゴット4に接着固定された被ガイド部41の係合部43,43と、ワーク保持具5の第2ガイド部54とが互いに係合した状態で、前記被ガイド部41(及びインゴット4)をワーク保持具5の前側から後側に向かってスライド移動させる。そうして、ワーク保持具5に対して、2つのインゴット4が保持されるようにする(図3,5参照)。
【0052】
次に、2つのインゴット4を保持したワーク保持具5を、リフター3に対して支持させる。つまり、リフター3の第2支持軸36,36を第2支持孔51b,51b内に挿通させることで、ワーク保持具5を第2支持軸36,36に対して吊り下げ支持させる。ここで、各第2支持孔51bの一対の傾斜部58は、第2支持軸36に対して2点で当接することになるため、ワーク保持具5は、所定の位置に自動的に位置付けられることになる。尚、前記とは順番を変えて、ワーク保持具5をリフター3の第2支持軸36,36に吊り下げ支持させた後に、各インゴット4をワーク保持具5に保持させるようにしてもよい。
【0053】
リフター3を人手によって移動させ、ワイヤソー本体2に対して相対した状態にし、操作ハンドル37,38を適宜操作することによって、ワーク保持具5の位置を上下及び左右に調整して、ワーク保持具5の第1支持孔51a,51aにおける挿通部57の位置が、ワイヤソー本体2の第1支持軸25,25の位置に略一致するようにする。そうして、リフター3をワイヤソー本体2側に向かって前進移動させて、各第1支持軸25を各第1支持孔51aの挿通部57内に挿入させる(図6のP1,P2参照)。ここで、前述したように、第1支持孔の挿通部57は、第1支持軸25の径よりも大径であるため、第1支持軸25を比較的容易に挿通させることが可能である。
【0054】
この状態では、図7に示すように、ワーク保持具5の第1及び第2支持孔51a,51bに対して、第1支持軸25及び第2支持軸36の合計4本の支持軸が挿入された状態になるが、ワーク保持具5は未だリフター3側に吊り下げ支持されている。この状態において、リフター3の上下フレーム34を若干下降させて、ワーク保持具5を下降させることにより、ワーク保持具5の各第1支持孔51aの傾斜部58が、ワイヤソー本体2の各第1支持軸25に当接するようにする。そうして、ワーク保持具5が、ワイヤソー本体2の第1支持軸25,25に吊り下げ支持されるようにする。尚、これに伴い、リフター3の各第2支持軸36は、ワーク保持具5の第2支持孔51bにおける挿通部57内に位置するようになる。
【0055】
このようにワーク保持具5を第1支持軸25,25に吊り下げ支持したときには、一対の傾斜部58が第1支持軸25に対して2点で当接することに伴い、ワーク保持具5は、所定の位置に自動的に位置付けられるようになる。つまり、ワーク保持具5の第2ガイド部54と、ワイヤソー本体2の第1ガイド部24とが、互いに同軸でかつ連続するようになる。
【0056】
そうして、リフター3を後退移動させることにより、第2支持軸36,36を第2支持孔51b,51bから抜く(図6のP3参照)。ここで、リフター3側におけるワーク保持具5の支持構造と、ワイヤソー本体2側におけるワーク保持具5の支持構造とは同じであるため、支持軸と支持孔との間で許容される位置ずれ量は互いに同じにされている。このことから、リフター3に支持させたワーク保持具5の第1支持孔51a内に第1支持軸25を挿通させることができれば、第2支持軸36を第2支持孔51b内から抜くことも可能になる。従って、リフター3からワイヤソー本体2へのワーク保持具5の載せ替えをスムースに行うことができる。
【0057】
そうして、ワーク保持具5がワイヤソー本体2の第1支持軸25,25に支持されれば、ワーク保持具5の第2ガイド部54に保持されたインゴット4を、ワイヤソー本体2側にスライド移動させる。このときに、前述したように、第1及び第2ガイド部24,54は互いに同軸でかつ連続しているため、インゴット4は、第2ガイド部54から第1ガイド部24へとスムースに移動する(図6のP4参照)。そうして、インゴット4は、ワイヤソー本体2における所定の装填位置に位置付けられる。
【0058】
尚、スライス加工後のインゴット4をワイヤソー本体2から取り出すときには、前記と逆の手順で行われる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態では、一対の傾斜部58からなる位置決め機構を有するワーク保持具5を利用して、ワイヤソー本体2の第1支持軸25,25にワーク保持具5を吊り下げ支持させることだけでインゴット4の位置決めが自動的に行われるようにしている。
【0060】
従って、ワーク保持具5を第1支持軸25,25に支持させることだけで、インゴット4の位置決めが可能になるが、第1支持軸25が挿通される第1支持孔51aの挿通部57は、その第1支持軸25の径よりも所定以上大径であるため、第1支持軸25を第1支持孔51aに挿通させることは比較的容易に行い得る。従って、リフター3を用いて、ワーク保持具5をワイヤソー本体2の第1支持軸25に吊り下げ支持させることは比較的容易に行い得るため、インゴット4の装填作業に熟練を要しないことになる。
【0061】
また、図3に示すように、前記ワーク保持具5は、ワイヤソー本体2の第1支持軸25が挿通される2つの第1支持孔51a,51aが左右方向に広い間隔で配置されていると共に、インゴット4は、その2つの第1支持孔51a,51aの間に位置するように構成されている。これによって、ワーク保持具5をワイヤソー本体2に吊り下げ支持させたときには、ワーク保持具5が安定して支持されるようになり、インゴット4の位置決め精度をさらに向上させることができる。
【0062】
(ワーク保持具に1つのインゴットのみを保持させる場合の構成)
前記ワーク保持具5は、最大2つのインゴット4,4を保持することが可能に構成されているが、例えば図9に示すように、ワーク保持具5における左側の第2ガイド部54のみにインゴット4を保持させた状態で、そのワーク保持具5をリフター3に支持させたときには、インゴット4の重心位置が第2支持軸36よりも外側に位置することになるため、ワーク保持具5に対して、同図における反時計回り方向のモーメントが生じる。これにより、ワーク保持具5は、リフター3に対して安定して支持されなくなる。
【0063】
このような場合には、図8に示す固定部材6を、第2支持軸36の先端部に取り付けることによって、ワーク保持具5を第2支持軸36に対して回転方向に固定するようにすればよい。
【0064】
つまり、この固定部材6は、所定の大きさ及び板厚を有する略矩形の板状部材であって、板厚方向に貫通する所定形状の貫通孔61が形成されている。この貫通孔61は、図9に示すように、鉤部50が内嵌される矩形部分62と、第2支持軸36が内挿される円形部分63とを含んでいる。
【0065】
この固定部材6は、図9,10に示すように、ワーク保持具5の鉤部50と、第2支持軸36の先端部とがそれぞれ貫通孔61に内嵌されるようにして、第2支持軸36の先端部分に取り付けられる。このことによって、ワーク保持具5を第2支持軸36に対して回転方向に固定することができ、ワーク保持具5に1つのインゴット4を保持したときでも、リフター3に対してワーク保持具5を安定して支持することが可能になる。尚、ワイヤソー本体2の第1支持軸25,25は、インゴット4の重心位置よりも外側に位置しているため、第1支持軸25,25にワーク保持具5を支持させたときには、そのワーク保持具5を常に安定して支持することができる。
【0066】
尚、前記実施形態では、ワーク保持具5に保持可能なインゴット4の数を2個にしているが、ワーク保持具5に保持可能なインゴット4の数は2個に限定されるものではなく、適宜設定すればよい。
【0067】
また、第1及び第2支持軸25,36はそれぞれ、2つに限定されるものではなく、ワーク保持具5を安定して支持できるように、適宜設定すればよい。
【0068】
さらに、ワーク保持具5の位置決め機構は、一対の傾斜部58によって構成するものに限らない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上説明したように、本発明は、ワイヤソー本体に対して、ワークを容易に装填することができるから、例えば半導体シリコンインゴット等のワークをスライスするワイヤソーとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ワイヤソー全体構成を示す斜視図である。
【図2】リフターの全体構成を示す斜視図である。
【図3】ワーク保持具の正面図である。
【図4】ワーク保持具の平面図である。
【図5】ワーク保持具の側面図である。
【図6】ワークをワイヤソー本体に装填する手順を示す説明図である。
【図7】リフターからワイヤソー本体にワーク保持具を載せ替えるときの平面図である。
【図8】固定部材を示す斜視図である。
【図9】固定部材を取り付けた状態のワーク保持具5を示す正面図である。
【図10】図9のX−X断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 ワイヤソー
2 ワイヤソー本体
24 第1ガイド部
25 第1支持軸
3 リフター
36 第2支持軸
4 インゴット(ワーク)
5 ワーク保持具
54 第2ガイド部
57 挿通部
58 傾斜部(位置決め機構)
6 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の装填方向に沿って延びると共に、ワークが係合される第1ガイド部を有しかつ、当該第1ガイド部によって前記装填方向に案内移動されることにより所定の装填位置に装填された前記ワークを装填方向に所定ピッチでスライスするワイヤソー本体と、
前記ワイヤソー本体の第1ガイド部に前記ワークを係合させるために、当該ワークを少なくとも昇降移動させる、前記ワイヤソー本体とは別体で移動可能なリフターと、
前記装填方向に沿って延びると共に、当該ワークと係合してこれを保持する第2ガイド部を有しかつ、前記リフターに対して着脱自在に支持されるワーク保持具と、を備え、
前記ワイヤソー本体は、それぞれ前記装填方向に延びると共に、当該装填方向に直交する水平方向に互いに離されて配置された、少なくとも2の第1支持軸を有し、
前記ワーク保持具は、それぞれ前記ワイヤソー本体の第1支持軸の径よりも所定以上大径の挿通部を含みかつ、前記第1支持軸が挿通される第1支持孔を有し、
前記ワーク保持具は、前記リフターを用いて前記各第1支持孔に前記各第1支持軸が挿通されることにより前記ワイヤソー本体の第1支持軸に対し吊り下げ支持されたときに、前記ワイヤソー本体の第1ガイド部と前記ワーク保持具の第2ガイド部とが互いに同軸で連続するように、前記ワーク保持具の位置決めを自動的に行う位置決め機構をさらに有するワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーにおいて、
前記各第1支持軸は、その外周面が円形状であり、
前記位置決め機構は、前記各第1支持孔の挿通部の上側にその挿通部に連続して形成されかつ、全体として逆V字状をなすよう傾斜した一対の傾斜部によって構成されており、
前記ワーク保持具は、前記各第1支持孔の一対の傾斜部が前記各第1支持軸の中心軸を挟んだ水平方向両側で当該第1支持軸の外周面に対し対称に当接することによって、前記ワイヤソー本体の第1支持軸に対し吊り下げ支持されるワイヤソー。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤソーにおいて、
前記リフターは、外周面が円形状であると共に、前記装填方向に延びる第2支持軸を有し、
前記ワーク保持具は、前記第2支持軸が挿通される第2支持孔をさらに有していて、当該第2支持孔に前記第2支持軸を挿通させることにより、前記リフターの第2支持軸に対して吊り下げ状態で支持され、
前記第2支持孔は、前記第2支持軸の径よりも所定以上大径の挿通部と、当該挿通部の上側にその挿通部に連続して形成されかつ、全体として逆V字状をなすよう傾斜した一対の傾斜部と、を含むワイヤソー。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤソーにおいて、
前記ワイヤソー本体は2つの第1支持軸を有し、
前記ワーク保持具の2つの第1支持孔及び第2支持孔は、第2支持孔が2つの第1支持孔の間に位置するよう前記水平方向に並んで配置されるワイヤソー。
【請求項5】
請求項4に記載のワイヤソーにおいて、
前記ワーク保持具は、前記水平方向に並設された2以上の第2ガイド部を有し、
前記第2ガイド部はそれぞれ、それらに保持されるワークの重心位置が前記2つの第1支持孔の間に位置するように配置されるワイヤソー。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤソーにおいて、
前記ワーク保持具に保持可能な最大数よりも少ない数のワークを保持した状態で、前記リフターの第2支持軸に前記ワーク保持具を支持させたときに、前記第2支持軸周りのモーメントによる前記ワーク保持具の回転変位を規制するために、前記ワーク保持具を前記第2支持軸に対し回転方向に固定する固定部材をさらに備えるワイヤソー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−246643(P2008−246643A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92760(P2007−92760)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】