説明

ワイヤーハーネスおよびノンハロゲン難燃性樹脂組成物

【課題】充分な難燃性と機械特性を備え、収束部材がハロゲンフリーであるワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】複数の電線と、前記電線を収束するための収束部材とを含み、前記収束部材は、難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、JIS K7201に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数(4秒法、0.5mm厚)の値が18.5以上の難燃性を備え、かつ、JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とする、ワイヤーハーネス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスと、その収束部材を構成するノンハロゲンの難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用等に用いられるワイヤーハーネスは、高度な難燃性を必要とするととともに、配線の際の曲げ特性等の様々な機械特性を備えることが必要である。さらに、昨今では環境問題への配慮から、ワイヤーハーネスにおいても可能な限りノンハロゲンの材料で構成することが求められている。
ハロゲンフリーの難燃性材料には、水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの金属水和物を難燃剤として用いることが提案されている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−1988号公報
【特許文献2】特開2009−295540号公報
【特許文献3】特開2006−348137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの金属水和物は難燃効率が低いことから、ワイヤーハーネスに必要とされる所定の難燃性規格を満たすためには、一般に、ベース樹脂に対する配合比を高めることが必要となる。しかし、金属水和物の配合比率が高まると、樹脂の柔軟性、伸び等の樹脂本来の機械的特性が大幅に減少してしまうという問題がある。また、テープ等の薄肉成形品とした場合に、充分な難燃性能を達成することができないという問題があった。
そこで本発明は、収束部材をハロゲンフリーの難燃性材料で構成し、かつ、充分な難燃性と機械特性を備えたワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、複数の電線と、前記電線を収束するための収束部材とを含み、前記収束部材は、難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、JIS K7201に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数(4秒法、0.5mm厚)の値が18.5以上の難燃性を備え、かつ、JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とする、ワイヤーハーネスが提供される。
【0006】
本発明の別の一側面によれば、難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含み、JIS K7201に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数(4秒法、0.5mm厚)の値が18.5以上の難燃性を備え、かつ、JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記構成を備えることにより、高度な難燃性と柔軟性を両立させることができ、特に、収束部材を薄肉化しても充分な難燃性を提供することができる。
また、本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いて、良好な難燃性と柔軟性を備えたノンハロゲン・ノンアンチモンの各種薄肉成形品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係るワイヤーハーネスは、少なくとも、複数の電線と、これらの電線を収束するための収束部材とを含む。ワイヤーハーネスに通常必要とされる、これら以外の部材が含まれていてもよい。
電線は、導体の外周が任意の被覆材により被覆された、被覆電線または絶縁電線である。導体の材質および導体径は特に限定されず、たとえば、複数の金属素線を組み合わせてなる芯線または撚線を、導体として好ましく使用できる。
【0009】
被覆材の材質も特に限定はされず、ノンハロゲン系被覆材であってもよいし、ポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系被覆材であってもよい。すなわち、電線としてノンハロゲン系絶縁樹脂で被覆されたノンハロゲン絶縁電線と、PVCで被覆されたPVC絶縁電線とを組み合わせて使用してもよい。使用する電線の本数および組み合わせも、特に限定されない。なお、電線の被覆材として、以下に説明する収束部材用のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を用いてもよい。
【0010】
上記電線を収束するための収束部材は、難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物から構成される。この収束部材が、特定の難燃性と破壊点強度の双方を備えていることが、本発明において重要である。こうした収束部材を用いることにより、ワイヤーハーネス全体のハロゲン含有量を抑制し、かつ、ワイヤーハーネス自身の難燃性と機械特性を確保することが可能となる。
【0011】
難燃性については、JIS K7201に規定する試験装置を用い、この規格に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数の値(4秒法、0.5mm厚)が18.5以上の難燃性を備えていることが必要である。ただし、JIS K7201とは異なり、接炎時間は10秒とし、「着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数の値」とは、10秒間接炎した試験片の燃焼が4秒以下で終了する(4秒以下で消炎する)最大の酸素指数を意味する。試験片の厚みは0.5mmである。つまり、4秒法とは、0.5mmの厚みの試料を用い、10秒接炎して測定する方法である。この4秒法により18.5以上の難燃性を備えることにより、自動車等の車両用ワイヤーハーネスとして好ましく使用することができる。
【0012】
収束部材の柔軟性に関しては、JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満であることにより、車両用のワイヤーハーネスとして、狭い庫内での引き回しにも良好な柔軟性を確保することができる。すなわち、必要な難燃性を確保するために難燃剤の配合比率を高くすると、樹脂の破壊点強度が増大してしまうというデメリットがあるが、本発明で使用する収束部材は、上記の難燃性と柔軟性とを兼ね備えていることを特徴とする。
この破壊点強度の下限値は特に限定されないが、5MPa以上程度であることが好ましい。
【0013】
さらに収束部材は、ワイヤーハーネスの柔軟性を確保する観点から、JIS K7215に準じて測定した硬度が51以下であることが好ましい。
【0014】
収束部材の形態は、複数の電線からなる電線束を結束しその外周を保護できるものであれば特に限定されないが、チューブ、テープなどを好ましく用いることができる。たとえば、薄肉のテープ形状であることが好ましい。テープの厚みは特に限定されないが、0.1mm〜1.0mmの厚みであることが好ましく、このような薄さであっても、充分な難燃性を提供することができる。
テープの少なくとも一方の面に、ゴム系粘着剤またはアクリル系粘着剤等からなる粘着層が積層されていてもよい。さらに、粘着層上に任意に剥離層などが設けられていてもよい。
【0015】
収束部材を構成するノンハロゲン難燃性樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物とも記す。)は、ハロゲン系難燃剤を含まず、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を難燃剤として含む。金属水和物の平均粒径は、電子顕微鏡で測定した平均一次粒子径を意味する。表面処理された金属水和物の場合は、表面処理後の平均粒径を意味する。
収束部材は、この平均粒径が大きい金属水和物(A)と、平均粒径が小さい金属水和物(B)とを含んでいる。この金属水和物(A)と(B)は、その平均粒径が互いに異なることが重要であって、化合物の種類については、両者が同じであっても異なっていても、どちらでもよい。このように、従来技術とは異なり異なる粒子径の金属水和物を組み合わせることにより、ハロゲン系難燃剤を含まなくても、収束部材として上記の優れた特性を発揮することができる。
【0016】
金属水和物は、結晶水として水分子を含む金属化合物であり、水和酸化物を形成する金属水酸化物も含む概念である。たとえば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウムなどを例示することができる。それらの金属化合物に含まれる水分子の数(水和数)は、特に限定されず、金属化合物の種類に応じて適宜選択することができる。これらの金属水和物は、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
より好ましくは、たとえば、水酸化マグネシウム(Mg(OH)またはMgO・nHO)、水酸化アルミニウム(Al(OH)またはAl・nHO)などを用いることができる。
【0018】
金属水和物は、その表面が表面処理剤で処理(表面被覆)されたものを使用することもできる。この表面処理剤としては、たとえば、炭素数6〜25程度の高級脂肪族カルボン酸(ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リノール酸等)、高級脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リノール酸等のマグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等)、炭素数6〜30程度の高級鎖式アルコール、高級脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらは複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
平均粒径が大きいほうの金属水和物(A)の平均粒径は0.5〜3μmであることが好ましく、1〜2μmであることがより好ましい。一方、平均粒径が小さいほうの金属水和物(B)の平均粒径は0.05〜0.3μmであることが好ましく、0.1〜0.2μmであることがより好ましい。つまり、金属水和物(A)は、従来用いられている平均粒径を有するものであり、その一部を微細粒子である金属水和物(B)で置き換えた構成となっている。
【0020】
さらに、金属水和物(A)と(B)は、お互いの平均粒径においてある一定の差があるように組み合わせることが好ましい。たとえば、金属水和物(A)の平均粒径を1とした場合に、平均粒径が、0.05〜0.3であるような金属水和物(B)を用いることが好ましい。この金属水和物(B)の平均粒径が0.5を超えると、薄肉成形品とした際に、充分な難燃効果が得られなくなる場合がある。たとえば好ましい一実施形態においては、平均粒径が1μmの金属水和物(A)に対しては、平均粒子径が0.05〜0.3μmの金属水和物(B)を組み合わせることができる。
【0021】
本発明者の検討によれば、平均粒径の小さい金属水和物(B)は、金属水和物(A)に比べ高い難燃効率を示すが、樹脂組成物の破断強度を増大させて伸びを低減させる傾向がある。したがって、樹脂組成物の破断強度の増大を抑制しつつ難燃性能を高めることのできる一定の配合比で、金属水和物(A)と(B)組み合わせることが好ましい。そこで好ましい一実施形態において、金属水和物(A)と金属水和物(B)の質量比A:Bを9:1〜6:4とすることができ、さらには9:1〜7:3とすることができる。金属水和物(B)が金属水和物全体の1割を占めることで、難燃性向上効果がより一層発揮される。一方、金属水和物(B)が金属水和物全体の5割以上になると、破壊点強度が増大する恐れがあり、150%以上の充分な破壊点伸び率を確保することが困難となる場合がある。
【0022】
収束部材を構成するベース樹脂としては、熱可塑性樹脂を用いることができ、その種類は特に限定されない。たとえば、ポリオレフィン、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、石油樹脂系炭化水素(石油樹脂、水添石油樹脂、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂等)、芳香族系ビニル系ゴム(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−プロピレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、水添スチレン−ブタジエンゴム等)の様々な熱可塑性樹脂が挙げられ、これらの複数種を併用してもよい。
【0023】
なかでも、金属水和物を樹脂中にうまく相容させ難燃性を発現させる観点から、ベース樹脂はポリオレフィン樹脂であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブチレン、4−メチルペンテン−1等のオレフィン炭化水素(二重結合を一つもつ不飽和炭化水素)をモノマーとして含むポリマーの総称であり、そのホモポリマーまたはコポリマーを意味する。このオレフィン炭化水素としては、炭素数2〜6のオレフィンを用いることが好ましい。共重合されるオレフィン炭化水素以外のモノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸低級(炭素数1〜6)アルキルエステル、酢酸ビニル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、これらを単独で、または複数種を組み合わせて使用できる。ここで、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の双方を意味しており、それらの誘導体の表示についても同様である。
【0024】
さらに具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・(メタ)アクリレート共重合体、プロピレン・ブテン−1共重合体、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリ4−メチルペンテン−1等が挙げられる。共重合形式は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよいが、ランダム共重合体であることが好ましい。エチレン−(メタ)アクリレート−無水マレイン酸三元共重合体などの不飽和カルボン酸で変性された変性エチレン共重合体を用いることも好ましい。
【0025】
上記金属水和物は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、合計で60〜150質量部の範囲で含まれることが好ましく、90〜110質量部であることがより好ましい。このように、熱可塑性樹脂100質量部に対し金属水和物の配合量が90質量部という少ない量であっても、充分な難燃性を備えた収束部材および薄肉成形品を製造することができる。
【0026】
収束部材を構成する樹脂組成物には、上記ベース樹脂と金属水和物に加え、その他の成分を任意に含むことができる。
たとえば、押出成形時の樹脂付着物(メヤニ)の発生とメルトフラクチャーによる外観不良を抑制する観点から、シリコーンポリマーおよび脂肪族カルボン酸またはその金属塩の少なくとも一方を含むことができる。この外観不良抑制効果をより高めるために、これらの2成分は併用されることが好ましい。
【0027】
任意の添加剤として使用できるシリコーンポリマーは、主鎖の繰り返し構造が(SiO)nでありケイ素の置換基として有機基を有する重合体である。その重合度、側基の種類、橋かけの程度などは特に限定されず、シリコーンオイル、シリコーンゴム、または固体状のシリコーン樹脂(ケイ素樹脂)などを含む概念であるが、ブリードアウトの抑制および樹脂組成物の成形性確保の観点からシリコーン樹脂を使用することが好ましい。シリコーン樹脂は、シラノール基、エポキシ基、アミノ基、カルボキシ基等により変性された変性シリコーン樹脂であってもよい。
シリコーンポリマーの配合量は、樹脂と金属水和物の合計100質量部に対し、0.3〜4質量部であることが好ましい。この範囲を超えて多量に配合されると、それが表面にブリードアウトして外観不良を引き起こす恐れがある。
【0028】
脂肪族カルボン酸またはその金属塩としては、炭素数2〜25の脂肪族カルボン酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が好ましい。具体的には、ラウリル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リノール酸等の高級脂肪族カルボン酸のマグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。これらは複数種を組み合わせて使用してもよい。
脂肪族カルボン酸またはその金属塩の配合量は、樹脂と金属水和物の合計100質量部に対し、0.1〜10質量部であることが好ましい。この範囲を超えて多量に配合されると、それが表面にブリードアウトして外観不良を引き起こす恐れがある。
さらに、上記のような脂肪族カルボン酸の誘導体、たとえばアルキルエステルなどを用いることもできる。
【0029】
収束部材を構成する樹脂組成物は、上記成分以外に、本発明の効果を阻害しない範囲内で、通常使用される各種の添加剤、たとえば着色剤、酸化防止剤、重金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸収剤、熱安定剤、帯電防止剤、抗菌剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、分散剤、滑剤、増粘剤、発泡剤、有機・無機充填材等の1種以上を必要に応じて含むことができる。さらに、上記金属水和物以外の公知のノンハロゲン・ノンアンチモン系難燃剤および/または難燃助剤を併用してもよい。
【0030】
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、通常の方法で各成分を混合して製造することができる。たとえば、パウダー状またはペレット状のベース樹脂成分に金属水和物と、必要に応じてその他の任意成分(添加剤等)を添加し、タンブラーやヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、リボンフィーダー、スーパーミキサー等を用いて混合した後、単軸または多軸の押出機(好ましくは脱気ができる溶融混練装置)、ロール等により、混練温度150℃〜200℃、好ましくは150℃〜170℃で溶融混練し、ペレット等にする方法が好適である。各配合成分の添加順序は任意であり、上記例示の方法とは異なる順序で各成分を混合してもよい。金属水和物(A)および(B)は、予め両者を混合してからベース樹脂に配合してもよい。さらに、他の添加剤等を高濃度に濃縮配合したマスターバッチを作成し、混合使用することもできる。
フィルムまたはシートの形成は、カレンダー法、Tダイ法、インフレーション法などの一般的な方法で行なうことができる。
【0031】
樹脂組成物の成形後に架橋を行なう場合、その方法は特に限定はされず、たとえば放射線照射架橋、有機過酸化物架橋、あるいはシラン架橋のいずれの方法でもよい。
放射線照射架橋の場合は、たとえば、γ線または電子線を放射線源として使用し、これらを樹脂に照射することにより分子中にラジカルが発生し、これらラジカル同士がカップリングすることにより分子間の架橋結合が形成される。有機過酸化物架橋では、樹脂組成物にベース樹脂の可塑化温度で分解しない有機過酸化物を配合しておき、成形加工と同時または成形後に高温高圧下に晒すことにより有機過酸化物が分解しラジカルが発生し、このラジカルにより分子間の架橋反応が進む。シラン架橋(水架橋)では、たとえば、ビニルシラン化合物をベース樹脂にグラフト付加反応させた後、このグラフトマーにシラノール縮合触媒を添加し成形加工し、水分雰囲気下に晒すことにより、グラフト末端のアルコキシシラン同士が加水分解し脱アルコールして、分子間の架橋結合が形成される。
【0032】
本発明に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、以上説明した上記収束部材を構成する樹脂組成物同じである。この樹脂組成物では、難燃剤として粒径の異なる金属水和物を組み合わせて使用することにより、従来に比べその配合比を抑えながら難燃性を向上させることができる。さらに、難燃剤を配合することに基づく樹脂の機械的特性の低下を抑制することができる。
したがって、これを用いてノンハロゲン・ノンアンチモンの各種薄肉成形品を製造することができる。
【0033】
たとえば、この樹脂組成物は、難燃性が高く、良好な機械的特性を備えているので、上記ワイヤーハーネスの収束部材以外にも、電気・電子部品、機械部品、車両用部品、建材、事務機器などの様々な用途に使用することができる。たとえば、絶縁電線の被覆材、薄肉建材シート、薄肉車両シート、壁紙、ホース、テープ、チューブ、コルゲートなどの薄肉成形品が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例および比較例>
表に示す配合比で、ベース樹脂(エチレン共重合体)に対し、金属水和物、酸化防止剤、および重金属不活性化剤を配合し、ヘンシェルミキサーで予備混合した。
得られた混合物を用いて、カレンダーロールによりシート化して、厚さ3mmのシート状試料を得た。また、得られた混合物を、ベント付37mmψ押出機で溶融混練し、ストランドカットによってペレット化して、コンパウンド状試料を得た。
【0035】
使用した成分は次のとおりである。
エチレン共重合体(1)(エチレン−エチルアクリレート共重合体):三井・デュポンポリケミカル(株)製「エバフレックスEEA A-710」
エチレン共重合体(2)(変性エチレン共重合体):住友化学(株)製「ボンダインLX4110」(エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸三元共重合体)
金属水和物(A)(ステアリン酸処理水酸化マグネシウム):協和化学工業(株)製「キスマ5AL」(平均粒径1.0μm)
金属水和物(B)(水酸化マグネシウム):白石カルシウム(株)製(平均粒径0.2μm)
酸化防止剤:チバ・ジャパン(株)製「イルガノックス 1010」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)
重金属不活性化剤:チバ・ジャパン(株)製「イルガノックス MD1024」(ヒドラジン構造とヒンダードフェノール構造を有する酸化防止剤)
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
得られたシート状試料またはコンパウンド状試料を用い、次の測定または試験を行なった。評価結果を併せて表に示す。
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210(1999)A法に準拠し、コンパウンド状サンプル(1mm×1mm×1mm)を用い、荷重21.6kgで、170℃、190℃および210℃のMFR(g/10分)を測定した。
<比重>
JIS−K7112に準じ、35mm×60mmの短冊形状のシート(厚み0.2mm)を試料として、A法(30秒測定)により比重を測定した。
【0039】
<硬度>
JIS K7215に準じ、35mm×60mmの短冊形状のシート(厚み2mm)を3枚重ねたものを試料として、10秒後の硬度を測定した。
測定値が51以下であれば充分な柔軟性を備えるためこれを○とし、51を超え53未満のものを△、53以上を×として評価した。
【0040】
<酸素指数>
JIS K7201に準じて、6mm×80mmのシート(厚み0.5mmまたは3mm)を試料として、酸素指数(0.5mm)を10秒接炎・4秒法で、酸素指数(3mm)を10秒接炎・3分法でそれぞれ測定した。
4秒法では、測定値が18.5以上を○、18.5未満を×として評価した。3分法では、測定値が28以上を○、26以上28未満を△、26未満を×として評価した。
【0041】
<破壊点伸び率>
1mm厚のプレスシートを用い、電子線照射架橋法により、印加電圧750kV、160kGyの条件で架橋を行なって試料とした。JIS K7161に準じて、ダンベル3号にて打抜いたサンプルを使用して測定した。
測定値が160%以上を○、140%以上160%未満を△、140%未満を×として評価した。
【0042】
<破壊点強度>
JIS K7161に準じて、破壊点伸び率と同様にして測定した。
測定値が23MPa未満を○、23MPa以上を×として評価した。
【0043】
実施例のシートはいずれも、評価したすべての特性において優れていることが確認された。
これに対し、金属水和物(A)と(B)のどちらか一方のみを用いた比較例のシートは、いずれかの特性が不良となることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線と、前記電線を収束するための収束部材とを含み、
前記収束部材は、難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含むノンハロゲン難燃性樹脂組成物であって、
JIS K7201に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数(4秒法、0.5mm厚)の値が18.5以上の難燃性を備え、かつ、
JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満であるノンハロゲン難燃性樹脂組成物からなることを特徴とする、ワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記収束部材が、厚み0.1mm〜1.0mmのテープである、請求項1記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記金属水和物として、平均粒径が0.5〜3μmの金属水和物(A)と、平均粒径が0.05〜0.3μmの金属水和物(B)とを含む、請求項1または2記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
難燃剤として、平均粒径が互いに異なる2種以上の金属水和物を含み、
JIS K7201に準じて測定し、着火から4秒以内に消炎するときの酸素指数(4秒法、0.5mm厚)の値が18.5以上の難燃性を備え、かつ、
JIS K7161に準じて測定した破壊点強度が23MPa未満である、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂と、平均粒径が0.5〜3μmの金属水和物(A)と、平均粒径が0.05〜0.3μmの金属水和物(B)とを含み、金属水和物(A)と金属水和物(B)の質量比A:Bが9:1〜6:4である、請求項4記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記金属水和物(A)の平均粒径を1とした場合の前記金属水和物(B)の平均粒径が0.1〜0.3である、請求項5記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記金属水和物が合計で60〜150質量部含まれる、請求項4〜6のいずれか1項記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−253756(P2011−253756A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127734(P2010−127734)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】