説明

ワイヤーハーネスの製造方法、及びワイヤーハーネス

【課題】封止部の気密性が高く、防水性に優れるワイヤーハーネスおよびその製造方法の提供。
【解決手段】導体5と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層6とからなる絶縁電線4が複数本束ねられてなる電線束2であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられ導体同士が接合されたスプライス部9を含む露出束部7と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部8と、を有する電線束2と、前記露出束部7と、隣接する被覆束部8の端部とを閉じ込める封止部3とを備え、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液を、前記電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に付与し、該組成物液の塗膜を形成する塗膜形成工程と、電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に形成された塗膜に、光を照射する硬化工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水等の目的でスプライス部が樹脂で封止されたワイヤーハーネスの製造方法、及びその製造方法により製造されたワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等には、ワイヤーハーネスが配索されている。この種のワイヤーハーネスは、導体を絶縁層で覆った複数本の電線の束からなり、各電線同士を電気的に接続したスプライス部を有する。このスプライス部は、各電線の絶縁層を剥いで露出させた導体同士を、溶接、半田付け、圧着等により接合して形成される。
【0003】
前記スプライス部等の露出した導体からなる部分は、そのままの状態であると、漏電、水の接触による腐食等の虞がある。そのため、このスプライス部等には、漏電防止、防水(止水)等の目的で樹脂からなる封止部が形成される。
【0004】
なお、スプライス部以外の各電線の導体が露出した個所は、導体が束状になっており、細い隙間を有する。そのため、前記封止部を形成する場合には、このような隙間にも樹脂を確実に充填させる必要がある。
【0005】
前記封止部は、スプライス部等の導体が露出した部分と共に、このスプライス部等と隣接する絶縁層で覆われた束状の電線の端部にも形成する必要がある。特に、各電線間には長手方向に沿った隙間が存在しているため、この隙間が充填されるように封止部を形成する必要がある。この電線間の隙間が封止部によって塞がれていないと、電線束の他端等から侵入した水がこの隙間を伝ってスプライス部等まで達する虞がある。
【0006】
この種のワイヤーハーネスは、エンジンルーム等の水と接触し易い個所に配索される場合がある。このような場合、特に、前記電線間の隙間等を確実に充填する封止部が求められる。
【0007】
特許文献1は、ワイヤーハーネスのスプライス部等を、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂で封止する技術を開示する。特許文献1の熱硬化性樹脂は、硬化の進行が比較的遅い温度範囲で加熱される。そのため、硬化による急激な粘度上昇が抑制される。この特許文献1に記載の技術によれば、束状の電線間の隙間、束状の露出した導体間等の狭小な隙間にも樹脂を充分、浸透させることができる。
【0008】
特許文献2は、ワイヤーハーネスのスプライス部等を、光硬化型樹脂で封止する技術を開示する。特許文献2では、ワイヤーハーネスのスプライス部等を光硬化型樹脂液中に浸漬し、その後、スプライス部等を引き上げ、スプライス部等に付着した光硬化型樹脂液を、光(紫外線)を照射して硬化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−317470号公報
【特許文献2】特開2005−347167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載の技術では、主剤と硬化剤の2液を適切に混合することが求められる。そのため正確に液を計量、注入、塗布等できる設備を整える必要があり、コストが高くなるという問題がある。
【0011】
特許文献2に記載の技術のように、封止部に光硬化性樹脂を利用した場合、条件によっては、硬化時間を非常に短くできる(例えば、数秒)。しかしながら、特許文献2に記載の技術では、ワイヤーハーネスの束状の電線間の隙間、露出した束状の導体部分の隙間等を確実に樹脂で封止できないという問題がある。なぜならば、これらの隙間には、光硬化性樹脂を硬化させるための光が届かず、これらの個所の光硬化性樹脂を充分、硬化できないからである。つまり、特許文献2に記載の技術によっては、隙間に充分樹脂が充填された封止部を形成することができない。
【0012】
また、今日では、より気密性の高い封止部を形成することが求められている。具体的には、従来、問題視されていなかった各電線の導体(撚線)と絶縁層との間に存在するごく僅かな隙間をも充填できる封止部の提供が望まれている。このようなごく僅かな隙間をも充填する封止部を、短時間でスプライス部に形成できる技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るワイヤーハーネスの製造方法は、導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスの製造方法であって、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液を、前記電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に付与し、該組成物液の塗膜を形成する塗膜形成工程と、光硬化と共に、集光熱によって熱硬化させるために、電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に形成された塗膜に、光を照射する硬化工程と、を有することを特徴とする。
【0014】
前記ワイヤーハーネスの製造方法は、塗膜形成工程において、透明容器内に前記組成物液を入れ、その組成物液の上面から、電線束を、露出束部と隣接する被覆束部の端部が漬かるまで該組成物液に入れ、塗膜を形成し、硬化工程において、前記透明容器の外側から光を照射する、ことが好ましい。
【0015】
前記ワイヤーハーネスの製造方法は、塗膜形成工程において、透明型内に電線束を配置し、その透明型内に前記組成物液を入れ、露出束部、及び該露出束部と隣接する被覆束部の端部に塗膜を形成し、光照射工程において、前記透明型の外側から光を照射することが好ましい。
【0016】
前記ワイヤーハーネスの製造方法は、光照射工程を、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0017】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、組成物液の粘度が、1000mP・s以下であることが好ましい。
【0018】
前記ワイヤーハーネスの製造方法において、重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとを含むことが好ましい。
【0019】
本発明に係るワイヤーハーネスは、導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスであって、前記封止部が、光硬化と共に、熱硬化された樹脂からなることを特徴とする。
【0020】
前記ワイヤーハーネスにおいて、封止部の樹脂が、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを含む組成物液の硬化物からなることが好ましい。
【0021】
前記ワイヤーハーネスにおいて、重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとを含むことが好ましい。
【0022】
前記ワイヤーハーネスにおいて、封止部の密着力が、100N/m以上であることが好ましい。
【0023】
前記ワイヤーハーネスにおいて、封止部の樹脂の硬化度が90%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のワイヤーハーネスの製造方法によれば、光が届かず光硬化できない封止部の個所も、集光熱によって熱硬化されるため、気密性の高い封止部を備えたワイヤーハーネスを提供できる。
【0025】
本発明のワイヤーハーネスは、封止部の気密性が高いため、特に防水性(止水性)に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】端末にスプライス部を有する電線束の概略を示す説明図である。
【図2】一実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。
【図3】光照射装置の概略を示す説明図である。
【図4】一実施形態に係るワイヤーハーネスの概略を示す説明図である。
【図5】図4で示されるワイヤーハーネスのA−A'直線における断面を示す説明図である。
【図6】中間部分にスプライス部を有する電線束の概略を示す説明図である。
【図7】他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法を示す説明図である。
【図8】他の実施形態に係るワイヤーハーネスの概略を示す説明図である。
【図9】ワイヤーハーネスの止水性能試験の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
〔ワイヤーハーネスの製造方法〕
本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法は、電線束に封止部を形成してなるワイヤーハーネスを製造する方法である。先ず、本実施形態で封止部が形成される電線束について説明する。
【0029】
図1は、電線束の概略を示す説明図である。図1に示されるように、電線束2は、複数本の絶縁電線4の束からなり、公知のものから適宜選択できる。絶縁電線4は、線状の導体5と、該導体5の表面を被覆する絶縁層6とからなる。導体5は、銅等の導電性材料からなり、絶縁層6は、ポリ塩化ビニル等の絶縁性材料からなる。
【0030】
電線束2の各絶縁電線4の端末部分は、導体5が絶縁層6で覆われておらず、露出している。つまり、端末部分の導体5が露出するように、絶縁層6が導体5の表面に形成されている。
【0031】
本明細書において、電線束2の各絶縁電線4の露出した導体5(露出導体)からなる個所を露出束部7と称し、各絶縁電線4の絶縁層6で被覆された導体5(被覆導体)からなる個所を被覆束部8と称する。
【0032】
前記露出束部7は、各絶縁電線4の露出した導体5の端末同士が接合されたスプライス部9を有する。このスプライス部9において、電線束2の絶縁電線4同士が互いに電気的に接続される。スプライス部9は、圧着(溶融圧着)、溶接等の公知の接合方法によって形成される。
【0033】
前記露出束部7のうち、スプライス部9以外の個所は、各絶縁電線4から露出した導体5が束状になっている。この束状の導体5間には、隙間が存在している。
【0034】
前記被覆束部8には、絶縁電線4間に形成される隙間が存在している。この隙間は、前記露出束部7の導体5間の隙間と、繋がっている。
【0035】
本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法では、前記電線束の露出束部7、及びこの露出束部7と隣接する被覆束部8の端部に、樹脂からなる封止部を形成する。本実施形態において形成される封止部は、前記露出束部7と、該露出束部7と隣接する被覆束部8の端部と共に閉じ込める。
【0036】
図2は、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。図2に示されるように、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、塗膜形成工程(a)、及び硬化工程(b)を有する。
【0037】
<塗膜形成工程>
塗膜形成工程は、組成物液を、電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に付与し、組成物液の塗膜を形成する工程である。
【0038】
前記組成物液は、熱ラジカル重合開始剤を含む光硬化性樹脂液からなる。このような組成物液としては、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液がある。
【0039】
前記光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、オルソベンゾイン安息香酸メチル、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン誘導体、チオキサントンとその誘導体、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイン誘導体、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシアルキルフェノン、α−アミノアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイド、モノアシルホスフィンオキサイド、ビスアシルホスフィンオキサイド、アクリルフェニルグリオキシレート、ジエトキシアセトフェノン、チタノセン化合物等が挙げられる。光重合開始剤は、硬化速度、黄変性等等を考慮して適宜選択できる。光重合開始剤は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
具体的な光重合開始剤の組合せとしては、例えば、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア184(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア651(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)とイルガキュア907(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、イルガキュア184とイルガキュア907(共にチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0040】
前記光重合開始剤の組成物液中における含有量は、0.5〜5質量%の範囲が好ましい。含有量が0.5質量%未満であると、光が十分当たる個所であっても、光硬化できない場合があり、5質量%を超えると未反応の光重合開始剤が多く残存することがある。残存した光重合開始剤は、熱、光等により活性化し、硬化後の封止部を変色させ、反応によりヤング率の増加や伸びの低下などの物性劣化を引き起こすことがある。
【0041】
前記熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ベンゾイルパーオキシド(BPO)、ラウロイルパーオキシド、アセチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、tert−ブチルパーベンゾエート、シクロヘキサノンパーオキサイド等の過酸化合物が挙げられる。
【0042】
前記熱ラジカル重合開始剤の組成物液中における含有量は、0.5〜5質量%の範囲が好ましい。
【0043】
前記重合性化合物としては、鎖状アクリレートモノマーと、環状アクリレートモノマー及び/又は環状N−ビニルモノマーとの組合せが、樹脂粘度、硬化速度、硬度、ヤング率、破断伸び、密着力等の調整のし易さの観点から好ましい。特に、環状構造を含む極性のモノマーは、硬化後の樹脂と基材との密着力向上に寄与する。
【0044】
前記アクリレート系化合物としては、ウレタンアクリレートオリゴマーと、アクリレートモノマーとを組み合わせたものが好ましい。
【0045】
前記ウレタンアクリレートオリゴマーとしては、ビスフェノールA・エチレンオキサイド付加ジオール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;ポリテトラメチレングリコール、トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート;トリレンジイソシアネート及びヒドロキシエチルアクリレートを反応させて得られるウレタンアクリレート等が挙げられる。これらのオリゴマーは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
前記アクリレートモノマーとしては、鎖状アクリレートモノマー、及び環状アクリレートモノマーが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとは、脂環、芳香環等の環状構造を有するアクリレートモノマーのことである。前記環状アクリレートモノマーとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の脂環式構造含有(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロへキシル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリンが挙げられる。前記環状アクリレートモノマーとしては、イソボルニル(メタ)アクリレートが好ましい。前記環状アクリレートモノマーとしては、IBXA(大阪有機工業化学製)、アロニックスM−111、M−113、M−114、M−117、TO−1210(以上、東亜合成製)を使用できる。本明細書において、鎖状アクリレートモノマーとは、環状構造を含まない直鎖状又は分岐鎖状アクリレートモノマーのことである。鎖状アクリレートモノマーとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジアクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、2−ブチル−2エチル−1,3−プロパンジオールジアクリレート、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオールジアクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、フェノキシヘキサエチレングリコールアセテート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0047】
前記アクリレート系化合物と共に、メタクリレート系化合物も使用してもよい。メタクリレート系化合物としては、例えば、ジ−2−メタクリロキシエチルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ジフェニルホスフェート、モノ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、ビス〔2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル〕ホスフェート、トリス〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ホスフェート、及び特開平11−100414号公報においてO=P(−R1)(−R2)(−R3)として示される化合物等が挙げられる。
【0048】
前記環状N−ビニルモノマーとは、芳香環、脂環等の環状構造を有し、かつ、窒素原子を含むビニルモノマーのことである。前記環状N−ビニルモノマーとしては、例えば、N−ビニルピロリドン(日本触媒製)、N−ビニルカプロラクタム、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン等が挙げられる。
【0049】
前記重合性化合物の組成物液中における含有量は、組成物液の粘度等に応じて、適宜設定される。
【0050】
前記組成物液の粘度は、1000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以下が更に好ましい。組成物液の粘度が、1000mPa・sを超えると、組成物液が、被覆電線束部の隙間、露出導線束部の隙間等に侵入し難くなる場合がある。
【0051】
前記粘度の測定は、JIS−K7117−Dに準拠して行う。測定装置として、B型粘度計(25℃条件下)を用いることができる。
【0052】
前記組成物液の接触角は、20°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。
【0053】
前記接触角は、銅・PVCからなる基材に対する接触角である。その測定は、JIS−K2396に準拠して行う。測定装置は、例えば、FACE(CA−X)(協和界面科学社製)を使用できる。
【0054】
前記組成物液の硬化物のヤング率は、10MPa〜1000MPaが好ましい。ヤング率がこの範囲であると、封止部の耐外傷性、ハンドリング性等がよい。また、前記ヤング率は、100MPa〜500MPaがより好ましい。ヤング率がこの範囲であると、更に、耐加圧変形性、耐摩耗性と柔軟性のバランスが良くなる。
【0055】
前記硬化物は、組成物液を、厚みが250μmであるアプリケーターバーを用いて、PETフィルム上に塗布し、コンベヤー式のUV照射器により、1J/cm2のUV照射を行って、硬化させて得られたフィルム状のものである。前記ヤング率の測定は、JIS−K7133に準拠して行うものである。測定装置としては、例えば、引張り試験機(AGS、島津製作所製)を使用できる。
【0056】
また、前記組成物液の硬化物の密着力は、100N/m以上が好ましく、200N/m以上がより好ましい。このような密着力を達成するには、組成物液中に極性基を有するアクリレート系オリゴマー、環状N−ビニルモノマーや前記環状アクリレートモノマー等の極性モノマーを配合することが好ましい。
さらに、望ましい密着力を達成するために、チオール化合物、特に多官能のチオール化合物を、前記組成物液に対して0.5質量%以上添加することが好ましい。このチオール化合物の具体例としては、Karenz MTシリーズ:BD1,NR1,PE1(昭和電工製)、SC有機化学工業製チオール:TMMP(トリメチロールプロパントリス),PEMP(ペンタエリスリトールテトラキス),DPMP(ジペンタエリスリトールヘキサキス),TEMPIC(トリス[(3−メルカプトプロピオニロキシ)−エチル]イソシアヌレート)等が挙げられる。前記チオール化合物としては、3官能以上の多官能チオールが好ましい。特にチオール化合物は、導体である金属に対する密着力を向上させるとともに、重合性組成物の硬化における硬化促進剤的な働きをするため、硬化樹脂の硬化度が増大することによるPVC電線等の電線被覆樹脂に対する密着力向上を実現できる。また、導体である金属に対しては、例えば、リン酸エステル系の化合物やキレート化合物を、密着性助剤として重合性化合物の性状を損なわない程度に添加してもよい。
【0057】
前記硬化物の密着力は、銅・PVCからなる基材上に、前記組成物液からなる樹脂を厚み500μmに形成し、これを硬化させた樹脂フィルムに対して、JIS−Z0237に準拠して90°ピール試験又はTピール試験を行うことにより求められる。
【0058】
また、前記組成物液の硬化物の破断伸び(%)は、少なくとも50%以上が好ましく、100%以上がより好ましい。
【0059】
前記硬化物の破断伸び(%)の測定は、JIS−K7113に準拠して行うものである。測定装置は、例えば、引張り試験機(AGS、島津製作所製)を使用できる。
【0060】
前記組成物液には、その他、適宜、本発明の封止部の特性を損なわない範囲で、例えば、酸化防止剤、着色材、紫外線吸収剤、光安定剤、シランあるいはチタン系などのカップリング剤、消泡材、硬化促進剤、チオール化合物やリン酸エステル系などの密着性助剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、重合禁止剤、可塑剤、滑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗膜改良剤等が添加されてもよい。
【0061】
前記組成物液の付与は、本実施形態においては、図2に示されるように、組成物液Lを入れた所定の透明容器20(例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)キャップ)内に、電線束2を、露出束部7と隣接する被覆束部8の端部まで組成物液に漬かるように、浸漬して行う。
【0062】
このようにして、露出束部7と、この露出束部7と隣接する被覆束部8の端部に、前記組成物液の塗膜が形成される。なお、他の実施形態においては、噴霧装置等を用いて塗膜を形成してもよい。
【0063】
<硬化工程>
硬化工程は、光硬化と共に、集光熱によって熱硬化させるために、電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に形成された塗膜に光を照射する工程である。本発明の硬化工程は、光硬化時に発生する硬化熱とUV硬化炉内にワークを停滞させることで集光熱を光硬化後直ちに与えて、光が当たらない部分の樹脂組成物の熱硬化をもっとも効率よく進めることを特徴としている。この方法と類似して、光照射後のワークに、直ちに熱風装置などの加温ヒータによって外部から硬化に足る熱を加えても同等の硬化状態を得ることができる。
【0064】
光を照射する手段としては、水銀ランプ、又はメタルハライドランプからの光を反射ミラーによって集光し、その集光熱によって加熱できる光照射装置(集光型UV照射装置)を利用できる。また、UVスポット照射器のような照射手段で集光して、熱を被照射体に与えるものであってもよい。なお、硬化均一性の確保、硬化歪みの抑制の観点等からは、集光型UV照射装置が好ましい。集光型UV照射装置は、ランプ長あたりのパワーが80W/cm以上のものが好ましい。集光部の温度は定常的に100℃以上になることが好ましい。
【0065】
図3は、本実施形態で使用する光照射装置10の概略を示す説明図である。光照射装置10は、楕円形状の側壁に沿って集光ミラー102が設けられた光照射室100を備える。その楕円形状の光照射室100において、一方の焦点に、ランプ(バルブ)104が配置され、他方の焦点に試料を入れるための石英管106が配置される。この石英管106の中に、塗膜が形成された透明容器内の電線束が入れられる。つまり、透明容器の外側から集光された光が照射される。
【0066】
被覆束部の各電線間の隙間、露出束部の各導体間の隙間等の光が届かない(光が届きにくい)個所に浸透している組成物液(塗膜)は、集光熱によって熱硬化される。
【0067】
本実施形態において、光照射時間は数秒程度で充分である。数秒程度で封止部3は充分硬化される。
【0068】
なお、硬化工程は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。硬化工程を、不活性ガス雰囲気下で行うと、酸素による硬化阻害が抑制される。図3に示される光照射装置10では、光照射室100内を窒素ガス(108)が循環するように設定されている。
【0069】
硬化工程後、図2に示されるように、電線束2の封止部3を覆う透明容器20が外される。このようにして電線束2に封止部3を形成してなるワイヤーハーネス1を製造できる。
【0070】
図4は、本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法によって製造された、ワイヤーハーネス1の概略を示す説明図である。図5は、図4で示されるA−A'直線におけるワイヤーハーネス1の断面を示す説明図である。
図4等に示されるように、ワイヤーハーネス1は、電線束2、及び封止部3を備える。
【0071】
封止部3は、光重合により硬化した樹脂と共に、熱重合により硬化した樹脂を含む。封止部3を構成する樹脂のうち、硬化の為に必要な外部からの光が届く個所は、光重合によって硬化され、露出束部7の導体5間の隙間部分、被覆束部8の絶縁電線4間の隙間等の外部からの光が届かない個所(又は光が届きにくい個所)は、熱重合によって硬化される。
なお、このワイヤーハーネスの封止部3は、樹脂の残留応力(歪み)が少ない。
【0072】
以下、他の実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法について説明する。
(第2実施形態)
本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、封止部3が形成される電線束12の形状が異なる。本実施形態で用いられる電線束12は、その途中(中間部分)にスプライス部9を有する。図6は、中間部分にスプライス部9を有する電線束12の概略を示す説明図である。
【0073】
図6に示されるように、この電線束12の各絶縁電線4の途中(中間部分)は、導体5が絶縁層6で覆われておらず、露出している。つまり、中間部分の導体5が露出するように、絶縁層6が導体5の表面に形成されている。この露出した中間部分の導体5同士が接合されて、スプライス部9が形成されている。この電線束12は、露出束部7が、2つの被覆束部8によって挟まれている。
【0074】
前記露出束部7のうち、スプライス部9以外の個所は、各絶縁電線4から露出した導体5が束状になっている。この束状の導体5間には、隙間が存在している。
【0075】
前記被覆束部8には、絶縁電線4間に形成される隙間が存在している。この隙間は、前記露出束部7の導体5間の隙間と、繋がっている。
【0076】
本実施形態においては、露出束部7と、この露出束部7と隣接する2つの被覆束部8のそれぞれの端部を覆うように、封止部が形成される。
【0077】
図7は、本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法の概略を示す説明図である。本実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法は、上記第1実施形態に係るワイヤーハーネスの製造方法と同様、塗膜形成工程(a)、及び硬化工程(b)を有する。なお、本実施形態において用いられる組成物液は、上記第1実施形態と同様である。
【0078】
<塗膜形成工程>
本実施形態の塗膜形成工程では、塗膜を形成するために石英等の透明材料からなる型(透明型)23が用いられる。電線束12は、前記型23の中(キャビティ内)に入れられる。型23のキャビティ内において、露出束部7が略中央に位置するように電線束12がセットされる。電線束12をセットした後、キャビティに通ずる注入口40から、組成物液が注がれる。すると、キャビティ内は組成物液で満たされ、電線束12の露出束部7等は、組成物液中に浸漬される。なお、前記型23のキャビティの大きさは、電線束12に形成される封止部の大きさに応じて適宜、設定されるものである。このようにして、電線束12に塗膜が形成される。
【0079】
<硬化工程>
本実施形態の硬化工程では、塗膜が形成された電線束12は、前記型23に入れたままの状態で、光が照射される。この型23は、第1実施形態と同様の光照射装置10を用いて、光が照射される。型23の外から塗膜を硬化させるための集光された光(本実施形態においては、紫外線)が照射されると、電線束12の塗膜が硬化する。そして、集光熱によっても硬化される。本実施形態においても、この硬化工程を、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0080】
前記硬化工程後、図7に示されるように、型23から電線束12を取り出すと、電線束12の中間部分に封止部3が形成されたワイヤーハーネス11が得られる。
【0081】
図8は、本実施形態のワイヤーハーネスの製造方法によって製造された、ワイヤーハーネス11の概略を示す説明図である。図8に示されるように、このワイヤーハーネス11は、電線束12の途中にスプライス部9を含む露出束7部が、封止部3によって、その露出束部7の両隣の被覆束部8の端部と共に、覆われている。
なお、このワイヤーハーネスの封止部3は、樹脂の残留応力(歪み)が少ない。
【実施例】
【0082】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0083】
〔実施例1〕
<組成物液の調製>
下記化合物を、下記組成比で混合して、組成物液を調製した。
【0084】
・2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(光重合開始剤)[BASF社製、ルシリンTPO]・・・・・・2重量部
・ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド(光重合開始剤)[チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184]・・・・・・1重量部
・クメンハイドロパーオキサイド(熱ラジカル重合開始剤)[化薬アクゾ社製、カヤクメン]・・・・・・1重量部
・ウレタンアクリレートオリゴマー(重合性化合物)[JSR社製]・・・・・・40重量部
・アクリレートモノマー(鎖状重合性化合物)・・・・・・50重量部
・イソボニルアクリレートモノマー(環状重合性化合物)[東亜合成製IBAX]・・・・・・15重量部
・チオール化合物(TMMP:堺化学工業製) ・・・・・・1重量部
・エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)〕プロピオネート(酸化防止剤)[チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガノックス245]・・・・・・0.3重量部
【0085】
調整した組成液の粘度は25℃で240mPa・sであった。
【0086】
<端末にスプライス部を有する電線束>
被覆径1.8mmのPVC電線(導体は、直径0.24mm、19本撚りの銅撚り線)9本からなり、端末にスプライス部を有する電線束を用意した。
【0087】
<塗膜形成工程>
PVCキャップからなる透明容器(型8Φ)に、上記組成物液1mlを入れた。その透明容器内の組成物液の中に、前記電線束を、被覆束部の端部の電線が10以上まで漬かるように露出束部側から入れた。
【0088】
<硬化工程>
上記のように組成物液中に浸漬されたままの電線束を、図3に示されるような光照射装置(オーク製作所株式会社製、800W)の光照射室内の集光部(焦点領域)にセットした。800Wのメタルハライドランプを光源とし、60秒間光(紫外線)を照射した。なお、別ワークでの同条件での実施において、電線束上の組成物液からなる塗膜の温度は、この紫外線照射中に、紫外線照射部表層で140℃、紫外線が当たりにくい電線間内部で105℃まで上昇していた。
【0089】
<止水性能試験>
図9は、ワイヤーハーネスの止水性能試験の様子を模式的に表した説明図である。図9に示されるように、得られたワイヤーハーネスを、封止部側の端末が水中に沈むように配置し、他方の端末側から電線1本ずつ、200kPaの圧縮空気を圧入して、封止部、及び圧縮空気を圧入していない開放されている他の複数の電線端から空気漏れが発生するか否か、1分間、目視で確認した。
その結果、実施例1で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)及び圧縮空気を圧入していない開放されている他の複数の電線端からの空気漏れは確認されなかった。
【0090】
<硬化度測定>
実施例1で得たワイヤーハーネスの封止部の硬化度を、FT−IRを用いて求めた。
組成物液の硬化度は、以下のようにして求めた。
未硬化の組成物液において、硬化度にかかわらず変化しない2900cm−1におけるメチレン基由来の吸収ピークを基準ピークとし、このピーク面積をAcとした。他方、硬化度によって変化する810cm−1におけるアクリル基由来のピークの面積をAaとした。未硬化の組成物液におけるそれらの面積比をAa/Ac=RL(硬化度0%)とした。
500mJ/cmのUV光照射(窒素雰囲気下)で作製した膜厚130μmの組成物液からなる硬化フィルムにおける面積比をAa/Ac=Rc(硬化度100%)とした。
求めたい部位の硬化度Dsは、この部位における2つのピーク面積比Aa/Ac=Rsとして、次式より求めた。
Ds={(Rs−RL)/(RL−Rc)}×100(%)
その結果、封止部の硬化度は、紫外線が当たった部分で98%、紫外線が届かない部分である電線間で93%であった。
このようにして、紫外線が届かない部分の硬化状態が90%以上と高い硬化率であることが確かめられた。
【0091】
〔実施例2〕
実施例1におけるPVCキャップの代わりに、内径7mmΦ、外径8mmΦの透明PVCチューブ4cmの片端にテフロン(登録商標)ゴム栓をはめた簡易キャップを用い、注入した樹脂量を0.8gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成してワイヤーハーネスを製造した。封止部に浸漬されている電線部分は約14mmであった。硬化工程後、片端にはめたテフロン(登録商標)栓は、容易に剥離除去することができ、PVCチューブで保護ざれた円筒状のハーネス外径に近い封止部が形成できた。形成した部分の止水性能と硬化状態は実施例1と同等であった。
【0092】
〔実施例3〕
実施例1の環状重合性化合物の代わりに、N−ビニルピロリドン(日本触媒社製)を15重量部とした組成液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成してワイヤーハーネスを製造した。形成した部分の止水性能と硬化状態は実施例1と同等であった。
【0093】
〔実施例4〕
実施例1におけるPVCキャップに代えて、ポリエチレン製の透明キャップとしたこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成してワイヤーハーネスを製造した。
なお、硬化工程後、透明キャップを切り裂いてから、透明キャップを封止部から外した。切り裂きを入れることで、ポリエチレン製の透明キャップを容易に外すことができた。封止部の外傷、変形等の問題は生じなかった。
【0094】
この実施例4のワイヤーハーネスについて、実施例1と同様の止水性能試験を行った。その結果、実施例4で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、この実施例4のワイヤーハーネスについて、実施例1と同様にして、硬化度を測定した。その結果、硬化度は紫外線が当たった部分で98%、紫外線が届かない部分である電線間で92%であった。
【0095】
〔実施例5〕
実施例1におけるPVCキャップに代えて、FEP製の透明チューブ(内径7/外径Φ)の片端にテフロン(登録商標)ゴム栓をした簡易キャップに変更し、かつUVランプをFusion system社製ランプ(Dバルブ)(パワー設定:low(出力1.5kW相当)、UV照射時間:20秒に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成してワイヤーハーネスを製造した。なお、別ワークでの実施においてUV照射中の樹脂の温度は表層で150℃まで、電線間は120℃まで上昇していた。硬化後、透明FEPチューブは切り裂き端からの剥離により、テフロン(登録商標)ゴム栓は抜き取りにより、容易に除去することが出来た。
【0096】
この実施例5のワイヤーハーネスについて、実施例1と同様の止水性能試験を行った。その結果、実施例5で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
また、この実施例5のワイヤーハーネスについて、実施例1と同様にして、硬化度を測定した。その結果、硬化度は紫外線が当たった部分の硬化度は99%、紫外線が当たりにくい電線間の樹脂の硬化度は、94%であった。
【0097】
〔比較例1〕
実施例1の組成物液に代えて、熱ラジカル開始剤を含まない組成物液1mlを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、端末にスプライス部を有する電線束に封止部を形成してワイヤーハーネスを製造した。
【0098】
この比較例1のワイヤーハーネスについて、実施例1と同様の止水性能試験を行った。その結果、ワイヤーハーネスの各絶縁電線からエア漏れ(線間リーク)とPVC電線と樹脂の間からのエア漏れ(封止部リーク)が発生した。光の当たりにくい電線間の電線表面は、樹脂がほとんど硬化しておらず粘性物が付着した状態だった。
【0099】
次いで、このエア漏れしたワイヤーハーネスの封止部を切断して、その断面を観察した。その結果、被覆束部の絶縁電線間に隙間が存在していることが確かめられた。この比較例1では、絶縁電線間の組成物液が未硬化であったため、止水性能試験中に未硬化の液状樹脂が押し出され隙間が生じたことが分かった。
【0100】
〔実施例6〕
実施例1の組成物液におけるイソボルニルアクリレートに代えて、N−ビニルモノマー:N−ビニルピロリドン(日本触媒社製)を用いて、実施例1と同様の形態の封止部を作製した。得られた封止部は、実施例1と同様に、200kPaの電線端末からの加圧1分に対し、他の電線端末や封止部からの空気の漏れは観測されなかった。また、光の当たり難い電線間の硬化度は92%であった。
【0101】
〔実施例7〕
<中間部分にスプライス部を有する電線束>
外径1.8mmのPVC電線5本を用意し、各電線の中間部分の絶縁層を除去し、露出した導体同士を圧接により一括接続してスプライス部を形成して、中間部分にスプライス部を有する電線束を得た。
【0102】
<組成物液>
実施例1と同じ組成物液を用いた。
【0103】
<塗膜形成工程>
上記電線束の露出束部と、この露出束部の両隣の被覆束部の端部とが収まるように、フッ素系離型剤が薄く塗布された石英ガラスの型内(8Φx40mm長)に、電線束を設置した。その後、この型に前記組成物液を注入した。なお、注入型の両端は電線束の隙間から樹脂が流れ出ないようにフッ素製のシールゴムを挿入した。
【0104】
<硬化工程>
次いで、型内に入れられた電線束を、実施例1と同様の光照射装置の集光部(焦点領域)に配置した。その状態で60秒間、紫外線を照射して、組成物液を硬化させた。
【0105】
その後、UV照射装置から、電線束を取り出し脱型すると、電線束の露出束部及び被覆束部の2つの端部を包む封止部を備えたワイヤーハーネスが得られた。
【0106】
<止水性能試験>
得られたワイヤーハーネスを、中間部分の封止部が水中に沈むように配置し、両端から200kPaの圧縮空気を圧入して、封止部から空気漏れが発生するか否か、目視で1分間確認した。その結果、実施例7で得たワイヤーハーネスの封止部(電線束と封止部との接触部)からの空気漏れは確認されなかった。
【0107】
<硬化度測定>
実施例7で得たワイヤーハーネスの被覆束部8の絶縁電線4間に存在する樹脂の硬化度と、露出束部7の導体5間に存在する樹脂の硬化度とを、上記実施例1と同様に、FT−IRを用いて求めた。その結果、封止部の硬化度は、紫外線が当たった部分で98%、紫外線が届かない部分である電線間で93%であった。
【符号の説明】
【0108】
1、11 ワイヤーハーネス
2、12 電線束
3 封止部
4 絶縁電線
5 導体
6 絶縁層
7 露出束部
8 被覆束部
9 スプライス部
L 組成物液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、
前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスの製造方法であって、
光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを少なくとも含む組成物液を、前記電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に付与し、該組成物液の塗膜を形成する塗膜形成工程と、
光硬化と共に、光硬化熱及び集光熱によって熱硬化させるために、電線束の露出束部及び該露出束部と隣接する被覆束部に形成された塗膜に、光を照射する硬化工程と、を有することを特徴とするワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項2】
塗膜形成工程において、透明容器内に前記組成物液を入れ、その組成物液の上面から、電線束を、露出束部と隣接する被覆束部の端部が漬かるまで該組成物液に入れ、塗膜を形成し、
硬化工程において、前記透明容器の外側から光を照射する、請求項1に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項3】
塗膜形成工程において、透明型内に電線束を配置し、その透明型内に前記組成物液を入れ、露出束部、及び該露出束部と隣接する被覆束部の端部に塗膜を形成し、
光照射工程において、前記透明型の外側から光を照射する請求項1に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項4】
重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状N−ビニルモノマー及び/又は環状アクリレートモノマーと、チオール化合物とを含む請求項1〜3の何れか1項に記載のワイヤーハーネスの製造方法。
【請求項5】
導体と、該導体の一部が露出するように該導体の表面を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線が複数本束ねられてなる電線束であって、各絶縁電線の露出導体が束ねられた個所であり該露出導体同士が接合されたスプライス部を含む露出束部と、各絶縁電線の被覆導体が束ねられた個所である被覆束部と、を有する電線束と、
前記露出束部と、この露出束部と隣接する被覆束部の端部とを閉じ込める封止部と、を備えるワイヤーハーネスであって、
前記封止部が、光硬化と共に、熱硬化された樹脂からなることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項6】
封止部の樹脂が、光重合開始剤と、熱ラジカル重合開始剤と、重合性化合物とを含む組成物液の硬化物からなる請求項5に記載のワイヤーハーネス。
【請求項7】
重合性化合物が、ウレタンアクリレートオリゴマーと、鎖状アクリレートモノマーと、環状N−ビニルモノマー及び/又は環状アクリレートモノマーと、チオール化合物とを含む請求項5又は6に記載のワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−113694(P2011−113694A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267021(P2009−267021)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】