説明

ワイヤ放電加工装置

【課題】給電子に通水を供給しつつ、必要な動力を抑えることで省エネルギー化と装置の小型化を図ることのできるワイヤ放電加工装置を得ること。
【解決手段】ワイヤ放電加工装置は、放電加工のための電力をワイヤ電極に供給する給電子を備えたワイヤ放電加工装置において、給電子を保持して、給電子をワイヤ電極に押し付ける位置とワイヤ電極から退避させる位置とに移動が可能とされた給電子ブロック19と、給電子ブロックを移動可能に保持するワイヤガイド上部ブロック18と、給電子ブロックの上方に配置され、給電子ブロックの移動中における位置が固定された配管ブロック20と、を備え、配管ブロックには冷却液を供給する配管が接続される接続部20aが設けられ、配管ブロックに供給された冷却液は、給電子ブロックに流れ落ちてワイヤ電極と給電子との接触部に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を加工液中にて加工するワイヤ放電加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工装置において、放電加工に必要な電力が給電子を通してワイヤ電極に供給される。そのため、ワイヤ電極と給電子とを接触させる必要があり、ワイヤ電極に押付けられる位置に給電子が配置される。そのため、給電子が障害となって、ワイヤ電極の自動結線する場合に給電子が障害となる場合がある。そこで、自動結線時に給電子をワイヤ電極の経路から退避させる技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、放電加工中のワイヤ電極は、一方向に走行されているため、ワイヤ電極と給電子との摩擦により、ワイヤ電極から金属粉が発生する。ワイヤ電極を支持するワイヤガイド上に堆積した金属粉によって、ワイヤ電極の断線が引き起こされる場合がある。そのため、ワイヤ電極と給電子の接触部に液を通水し、金属粉を除去しながら放電加工を行う技術が、例えば特許文献2に開示されている。なお、ワイヤ電極と給電子との接触部への液の通水は、ワイヤ電極と給電子の接触により発生する発熱を抑制し、熱による断線を防止することを目的としている場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−96221号公報
【特許文献2】特開2010−69541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ワイヤ電極の自動結線時に退避動作を行う給電子に通水用の配管(ホース)を接続すると、給電子を退避動作させる際に配管も変形させる必要がある。給電子の退避動作に合わせて配管を変形させることで、配管を変形させる分の余計な動力が必要になってしまうという問題があった。また、必要な動力が増すことで、装置の大型化を招くという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、給電子に通水を供給しつつ、必要な動力を抑えることで省エネルギー化と装置の小型化を図ることのできるワイヤ放電加工装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、放電加工のための電力をワイヤ電極に供給する給電子を備えたワイヤ放電加工装置において、給電子を保持して、給電子をワイヤ電極に押し付ける位置とワイヤ電極から退避させる位置とに移動が可能とされた給電子ブロックと、給電子ブロックを移動可能に保持するワイヤガイド上部ブロックと、給電子ブロックの上方に配置され、給電子ブロックの移動中における位置が固定された配管ブロックと、を備え、配管ブロックには冷却液を供給する配管が接続される接続部が設けられ、配管ブロックに供給された冷却液は、給電子ブロックに流れ落ちてワイヤ電極と給電子との接触部に供給されること特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、給電子ブロックの移動中における位置が固定された配管ブロックに冷却液を供給する配管が接続されるので、給電子ブロックを移動させる際に配管を変形させる必要がない。そのため、給電子ブロックを移動させる際に、配管を変形させるための余計な動力が不要となる。これにより、給電子に通水としての冷却液を供給しつつ、必要な動力を抑えることで省エネルギー化と装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、上部ワイヤガイドの外観斜視図である。
【図3】図3は、給電子ブロックの平面図である。
【図4−1】図4−1は、図3に示すA−A線に沿った矢視断面図であって、給電子ブロックを退避させた状態を示す図である。
【図4−2】図4−2は、図3に示すA−A線に沿った矢視断面図であって、給電子をワイヤ電極に接触させた状態を示す図である。
【図5】図5は、実施の形態1の変形例にかかる給電子ブロックの概略構成を示す外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態にかかるワイヤ放電加工装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるワイヤ放電加工装置の概略構成を示す図である。ワイヤ電極1は、金属製のワイヤであり、ワイヤボビン3から供給される。プーリ4,5は、ワイヤ電極1の走行経路を変換する。
【0012】
張力制御装置6は、ワイヤ電極1の張力を制御する。張力制御装置6には、キャプスタンローラ7が接続されている。ピンチローラ8,9は、キャプスタンローラ7との間にワイヤ電極1を挟む一対のローラである。
【0013】
たわみ取りプーリ10は、プーリ5とピンチローラ8間のワイヤ経路上にあるワイヤ電極1のたわみを吸収する。ガイドダイス26,27は、ワイヤ電極1を拘束する。上部ワイヤガイド11と下部ワイヤガイド12とで、被加工物2を切断する領域でのワイヤ電極1の経路を規制する。
【0014】
上部加工液ノズル13は、被加工物2の上方から加工液を噴出させる。下部加工液ノズル14は、被加工物2の下方から加工液を噴出させる。ローラ15は、被加工物2を放電加工するときに、下部ワイヤガイド12を通過したワイヤ電極1の走行方向を変換させる。ガイドパイプ16は、加工領域を過ぎたワイヤ電極1の経路をガイドする。ガイドパイプ16を過ぎたワイヤ電極1は、巻き上げローラ17に狭持されて巻き上げられる。
【0015】
上記のように構成されたワイヤ放電加工装置において、ワイヤ電極1は、ワイヤボビン3から送り出され、プーリ4およびプーリ5によって方向変換され、たわみ取りプーリ10、張力制御部(図示せず)、ワイヤ自動供給装置本体300、上部ワイヤガイド11を通り、被加工物2の間で放電加工を行った後、下部ワイヤガイド12、ローラ15、ガイドパイプ16を通り、巻き上げローラ17によって巻き上げられ、回収箱(図示せず)に回収される。
【0016】
次に、上部ワイヤガイド11について詳細に説明する。図2は、上部ワイヤガイド11の外観斜視図である。図3は、給電子ブロックの平面図である。図4−1は、図3に示すA−A線に沿った矢視断面図であって、給電子ブロックを退避させた状態を示す図である。図4−2は、図3に示すA−A線に沿った矢視断面図であって、給電子をワイヤ電極に接触させた状態を示す図である。
【0017】
上部ワイヤガイド11は、ワイヤガイド上部ブロック18、給電子ブロック19、配管ブロック20を備える。ワイヤガイド上部ブロック18は、ワイヤ自動供給装置本体300に固定される。ワイヤガイド上部ブロック18には、配管ブロック20が固定される。ワイヤガイド上部ブロック18のうち、配管ブロック20が固定される部分の下方には、給電子ブロック19を嵌めるためのブロック用溝18aが形成される。
【0018】
配管ブロック20には、ホースなどの通水用配管を接続するための接続部20aが設けられている。また、配管ブロック20には接続部20aを介して供給された通水(以下、冷却液という)をブロック用溝18aに向けて流れ落ちさせるための通路(図示せず)が形成されている。
【0019】
給電子ブロック19は、ブロック用溝18aにスライド移動可能に嵌め込まれる。給電子ブロック19は、ブロック用溝18aの底面に形成された案内用溝18bに沿って(矢印Xに示す方向)スライド移動可能となっている。給電子ブロック19には、ワイヤ電極1が貫通する貫通孔19aが形成されている。
【0020】
貫通孔19aの内部には、給電子23が設けられている。給電子23は、給電子ブロック19がスライド移動することで、ワイヤ電極1に押し付けられる位置(図4−2参照)と、ワイヤ電極1から退避する位置(図4−1参照)との間で移動可能とされる。給電子23をワイヤ電極1に押し付けることで、ワイヤ電極1に電力を供給することができるようになる。
【0021】
ワイヤ電極1の自動結線をする場合に、給電子23が障害とならないように、給電子ブロック19を退避させて、給電子23をワイヤ電極1から退避させて接触を解除する。給電子ブロック19は、例えばシリンダなどの駆動部(図示せず)によって駆動されて退避動作を行う。なお、配管ブロック20は、ワイヤガイド上部ブロック18に固定されているので、給電子ブロック19が移動しても配管ブロック20は移動せず、その位置は固定されている。
【0022】
給電子ブロック19の天面には、貫通孔19aを囲むように通水溝19bが形成されている。通水溝19bの端部には、凸部19cが形成されている。そのため、通水溝19bには一定量の冷却液を溜めることができる。配管ブロック20からの冷却液は、通水溝19bに流れ落ちるようになっている。通水溝19bには、さらに貫通孔19aの内部につながる通水孔22が形成されている。
【0023】
通水溝19bに流れ落ちた冷却液は、通水孔22を通って貫通孔19aの内部に至る。そして、給電子23とワイヤ電極1の接触部に冷却液が供給され、給電子ブロック19の側面に形成された開口部24から排出される。
【0024】
したがって、給電子23とワイヤ電極1の接触部で発生する金属粉を冷却液で除去することができる。これにより、溜まった金属粉によってワイヤ電極1が断線するのを抑えることができる。
【0025】
また、冷却液は温度管理されているので、給電子23とワイヤ電極1の接触部で温度が上昇するのを冷却液で抑えることができる。これにより、温度上昇によってワイヤ電極1が断線するのを抑えることができる。
【0026】
また、開口部24から排出された冷却液や、通水溝19bの端部であふれた冷却液は、給電子ブロック19とワイヤガイド上部ブロック18との接触部に供給される。これにより、ワイヤガイド上部ブロック18のブロック用溝18aの底面に流れ、さらにブロック用溝18aの外部へと流れる。したがって、ブロック用溝18aの底面に溜まる金属粉を冷却液で除去することができる。これにより、金属粉の堆積によって給電子ブロック19の円滑な退避動作が阻害されるのを抑えることができる。
【0027】
また、ホースなどの通水用の配管が配管ブロック20に接続されており、給電子ブロック19が移動しても配管ブロック20は移動しないので、配管を変形させずに給電子ブロック19を退避動作させることができる。したがって、配管を変形させるための余計な動力を使わずに、給電子ブロック19を退避動作させることができる。これにより、給電子ブロック19を退避動作させるために駆動部に要求される動力を抑えることができ、ワイヤ放電加工装置の小型化や省エネルギー化を図ることができる。
【0028】
なお、配管ブロック20は、ワイヤガイド上部ブロック18に固定される場合に限られず、給電子ブロック19が移動しても、配管ブロック20が移動しないように固定されていれば、いずれの場所に固定されても構わない。
【0029】
図5は、実施の形態1の変形例にかかる給電子ブロック19の概略構成を示す外観斜視図である。図5に示すように、通水溝19bの端部に凸部19c(図2〜図4−2を参照)を設けずに、通水溝19bの周囲を囲むすべての壁面を、給水ブロック19の天面と同じ高さで形成しても構わない。このように構成した場合であっても、通水溝19bからあふれた冷却液が、給電子ブロック19とワイヤガイド上部ブロック18との接触部に供給される。これにより、ワイヤガイド上部ブロック18のブロック用溝18aの底面に流れ、さらにブロック用溝18aの外部へと流れる。したがって、ブロック用溝18aの底面に溜まる金属粉を冷却液で除去することができる。これにより、金属粉の堆積によって給電子ブロック19の円滑な退避動作が阻害されるのを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上のように、本発明にかかるワイヤ放電加工装置は、給電子とワイヤ電極との接触部に冷却液を供給しながら放電加工を行う場合に有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤ電極
2 被加工物
3 ワイヤボビン
4,5 プーリ
6 張力制御装置
7 キャプスタンローラ
8,9 ピンチローラ
10 たわみ取りプーリ
11 上部ワイヤガイド
12 下部ワイヤガイド
13 上部加工液ノズル
14 下部加工液ノズル
15 ローラ
16 ガイドパイプ
17 巻き上げローラ
18 ワイヤガイド上部ブロック
18a ブロック用溝
18b 案内用溝
19 給電子ブロック
19a 貫通孔
19b 通水溝
19c 凸部
20a 接続部
20 配管ブロック
22 通水孔
23 給電子
24 開口部
26,27 ガイドダイス
300 ワイヤ自動供給装置本体
X 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電加工のための電力をワイヤ電極に供給する給電子を備えたワイヤ放電加工装置において、
前記給電子を保持して、前記給電子を前記ワイヤ電極に押し付ける位置と前記ワイヤ電極から退避させる位置とに移動が可能とされた給電子ブロックと、
前記給電子ブロックを移動可能に保持するワイヤガイド上部ブロックと、
前記給電子ブロックの上方に配置され、前記給電子ブロックの前記移動中における位置が固定された配管ブロックと、を備え、
前記配管ブロックには冷却液を供給する配管が接続される接続部が設けられ、
前記配管ブロックに供給された冷却液は、前記給電子ブロックに流れ落ちて前記ワイヤ電極と前記給電子との接触部に供給されること特徴とするワイヤ放電加工装置。
【請求項2】
前記給電子ブロックの天面に前記冷却液を溜める通水溝を有し、前記通水溝を介して前記ワイヤ電極と前記給電子との接触部に前記冷却液が供給されることを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項3】
前記給電子ブロックの天面に前記冷却液を溜める通水溝を有し、前記通水溝を介して前記給電子ブロックと前記ワイヤガイド上部ブロックとの接触部に前記冷却液が供給されることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤ放電加工装置。
【請求項4】
前記給電子ブロックの天面に前記冷却液を溜める通水溝を有し、前記通水溝からあふれた前記冷却液が、前記給電子ブロックと前記ワイヤガイド上部ブロックとの接触部に供給されることを特徴とする請求項1または2に記載のワイヤ放電加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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