説明

ワイヤ電極切断装置

【課題】切断したワイヤ電極の先端が尖頭形状となり、かつ、癖を付けずに剛性を保ちながらワイヤ電極を切断すること。
【解決手段】ワイヤ放電加工機のワイヤ電極切断装置40が、ワイヤ電極12を挟み非接触状態で対向配置され、互いの対向部が針状に形成された一対の切断電極と、切断電極間にワイヤ電極を切断するアーク放電を発生させる電圧発生手段38と、電圧発生手段に電圧を印加するとき、ワイヤ電極に張力を付与するように、ワイヤ電極走行装置26、30を制御する制御手段28とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤ放電加工機のワイヤ電極切断装置に関し、特に、切断したワイヤ電極の自由端部が尖頭形状となり、ワイヤ電極の自動張設を迅速、確実に行えるようにしたワイヤ電極切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワイヤ電極を受容して該ワイヤ電極を挟持、解放するスリットと、該スリット内でワイヤ電極を切断するワイヤ切断手段とを備えたワイヤ電極自動張設機構が記載されている。
【0003】
特許文献2には、ワイヤ電極の走行経路沿いに離間させて配置された一対の通電子間でワイヤ電極に電流を流し、通電子間でワイヤ電極を加熱すると共にワイヤ電極に張力を与えてワイヤ電極を熱溶断するようにしたワイヤ放電加工機のワイヤ切断装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−21692号公報
【特許文献2】特許第4008435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のワイヤ電極自動張設機構では、ワイヤ切断装置によってワイヤ電極を切断したときのワイヤ電極の自由端部の形状については何ら考慮されていないために、ワイヤ切断装置により切断されたワイヤ電極の自由端が、図3Bのように潰れたりバリが形成されたりして、上部ワイヤガイド、下部ワイヤガイドのワイヤ通路又はワークに形成したワイヤ電極挿通孔に引掛り易く、上記ワイヤ通路やワークのワイヤ電極挿通孔に挿通することが難しいとの問題がある。
【0006】
特許文献2に記載のワイヤ切断装置では、ワイヤ電極に電流を流してワイヤ電極自体の電気抵抗でワイヤ電極を加熱しているので、通電子間でワイヤ電極のどの位置で切断されるのか、或いはどのように切断されるかといった観点から切断が不確定となり、従ってワイヤ電極を良好に切断することができない。更に、通電子間でワイヤ電極全体が加熱されるので、通電子間で大きな電圧を印加するとワイヤ電極自体が溶融してしまう危険性があり、良好な切断を得るためには通電子間の電圧も高くすることができず、ワイヤ電極の切断工程に要する時間が長くなる。更に、通電子間でワイヤ電極全体が加熱されるので、切断されたワイヤ電極の先端部が熱応力のために不正に曲がってしまう危険性がある。
【0007】
本発明はこうした従来技術の問題を解決することを技術課題としており、切断したワイヤ電極の先端が尖頭形状となり、かつ、癖を付けずに剛性を保ちながらワイヤ電極を切断し、その後のワイヤ電極の自動張設を迅速かつ確実に行えるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するために、本発明によれば、ワイヤ電極走行装置によって張設、走行されるワイヤ電極を切断するワイヤ放電加工機のワイヤ電極切断装置において、ワイヤ電極を挟み非接触状態で対向配置され、互いの対向部が針状に形成された一対の切断電極と、前記切断電極間にワイヤ電極を切断するアーク放電を発生させる電圧発生手段と、前記電圧発生手段に電圧を印加するとき、前記ワイヤ電極に張力を付与するように、前記ワイヤ電極走行装置を制御する制御手段とを具備するワイヤ電極切断装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、対向部が針状に形成された一対の切断電極がワイヤ電極を挟み非接触状態で対向配置されているので、アークが狭い空間内で安定し、低出力でもワイヤ電極を良好かつ短時間で切断可能となる。そして、定められた局所的な位置でワイヤ電極が切断される。また、ワイヤ電極に張力を付与した状態で切断することから、癖を付けずに剛性を保ちながら切断されたワイヤ電極の先端部が尖頭形状となり、その後のワイヤ電極の自動張設を迅速かつ確実に行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態によるワイヤ放電加工機の概略図である。
【図2】ワイヤ電極切断装置の一部を拡大して示す略図である。
【図3A】本発明により切断されたワイヤ電極の先端部を拡大して示す略図である。
【図3B】従来技術により切断されたワイヤ電極の先端部を拡大して示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明する。図1は本発明の好ましい実施の形態によるワイヤ放電加工機の概略図であり、図2はワイヤ電極切断装置を拡大して示す略図であり、図3はワイヤ電極切断装置によって切断されたワイヤ電極の自由端部の拡大図である。
【0012】
図1において、ワイヤ放電加工機10は、該ワイヤ放電加工機10の機体に取付けられワイヤ電極12の供給源としてのワイヤボビン14と、ワイヤ電極走行装置としての複数のプーリー13、テンションローラー30及び巻取りローラー26を具備している。ワイヤ電極12は、複数のプーリー13によって規定されるワイヤ電極12の走行経路沿いに、テンションローラー30及び巻取りローラー26によってワークWを横断して牽引、走行せしめられる。
【0013】
ワイヤ放電加工機10は、更に、直交するX軸方向及びY軸方向に移動可能に該ワイヤ放電加工機10の機体に取付けられワークWを載置、固定するテーブル(図示せず)と、該テーブルの上側および下側に配設された給電子22、24とを具備しており、該給電子22、24によってワイヤ電極12とワークWとの間に所定の加工電圧を印加しつつ、前記テーブルをX軸方向及びY軸方向に送ることによって、ワークWを所望形状に加工する。前記テーブル、テンションローラー30及び巻取りローラー26の各々の動作及び給電子22、24に印加する加工電圧は、制御装置28によって制御される。使用済ワイヤ電極12は、巻取りローラー26からワイヤ電極回収装置(図示せず)へ回収される。
【0014】
ワイヤ放電加工機10は、更に、ワイヤ電極12をワークWに予め形成されているワイヤ電極挿通孔へ案内、挿通し、加工中は走行するワイヤ電極12を保持するための上下ワイヤガイド16、18、ワイヤ電極12の先端部分を上ワイヤガイド16へ向けて駆動し該上ワイヤガイド16内に挿通させる自動張設装置を形成するワイヤ搬送ジェットノズル20、ワイヤ電極12の走行経路沿いにワイヤ搬送ジェットノズル20と上ワイヤガイド16との間に配設されたワイヤ電極切断装置40、該ワイヤ電極切断装置40の上方に配設されたワイヤ先端検出器32、ワイヤ電極切断装置40の下側に配設されたワイヤ排出装置34を具備している。本実施の形態では、ワイヤ電極切断装置40は、ワイヤ電極12をワークWに挿通する前段に設けられる。
【0015】
ワイヤ排出装置34は、ワイヤ電極12を挟持する一対のフィンガー34aと、該フィンガー34aを開閉するための流体シリンダ、例えば空圧シリンダのようなアクチュエータ(図示せず)を具備している。ワイヤ排出装置34は、更に、図1において破線で示すように、フィンガー34aがワイヤ電極12の走行経路内にありワイヤ電極12を挟持可能な係合位置と、実線で示すフィンガー34aがワイヤ電極12の走行経路外にある退避位置との間で該ワイヤ排出装置34を進退動作させる流体シリンダ、例えば空圧シリンダのようなアクチュエータ(図示せず)を具備している。ワイヤ排出装置34が退避位置にあるとき、ワイヤ排出装置34はフィンガー34aを開いて、該フィンガー34aが挟持するワイヤ電極片をワイヤ電極片回収装置(図示せず)内に落下させこれを回収するようにできる。
【0016】
制御装置28は、ワークWを載置、固定するテーブル(図示せず)を駆動するサーボモーター(図示せず)や、テンションローラー30及び巻取りローラー26を駆動する駆動モーター(図示せず)の制御ユニット(図示せず)に加えて、給電子16、18を介してワイヤ電極12とワークWと間に加工電圧を印加するための加工電源36並びにワイヤ電極切断装置40への高周波高電圧発生装置38を含んでいる。ワイヤ電極12を切断するアーク放電を発生させる電圧発生手段としての高周波高電圧発生装置38は、例えば、10k〜300kHzの周波数で3000〜5000Vの電圧をワイヤ電極切断装置40に印加可能な電源とすることができる。
【0017】
図2を参照すると、本実施の形態において、ワイヤ電極切断装置40は一対の切断電極42、44を具備している。切断電極42、44の各々は、例えばタングステンやグラファイトから、例えば直径2〜3mmで針状の先端42a、44aを有した丸棒状に形成することができる。また、切断電極42、44は、走行するワイヤ電極12を挟んで所定距離dを持って離間させて対向配置されている。距離dは、例えば2〜3mmとすることができる。
【0018】
未使用ワイヤボビン14をワイヤ放電加工機10に装着した後、ワイヤ電極12が手操作によってワイヤボビン14から引き出され、テンションローラー30、ワイヤ搬送ジェットノズル20に順次挿通され、ワイヤ搬送ジェットノズル20から更に下方にワイヤ排出装置34まで引出される。このとき、係合位置にあるワイヤ排出装置34のフィンガー34aによってワイヤ電極12の先端部分が挟持される。そして、テンションローラー30を逆転させてワイヤ電極12に張力が作用するようにする。張力は、例えばワイヤ電極径に応じて50〜500gとする。次いで、制御装置28の高周波高電圧発生装置38からワイヤ電極切断装置40の切断電極42、44に所定周波数で高電圧が印加され、切断電極42、44の先端42a、44aの間にアーク放電が発生し、ワイヤ電極12の先端部分が溶断される。テンションローラー30の逆転は停止され、ワイヤ排出装置34が退避位置へ移動し、切断されたワイヤ電極12の先端部分が前記ワイヤ電極片回収装置に回収される。
【0019】
ワイヤ電極12の先端部分がワイヤ電極切断装置40によって切断された後に、テンションローラー30を正転させるとともに、ワイヤ搬送ジェットノズル20に搬送流体、例えば水が供給され、この搬送流体を該ワイヤ搬送ジェットノズル20から噴出させることによって、ワイヤ電極12が上ワイヤガイド16へ向けて駆動される。ワイヤ電極12は、巻取りローラー26へ向けてワークWのワイヤ電極挿通孔及び下ワイヤガイド18に順次挿通され、その先端部分が巻取りローラー26のニップに捉えられる。こうしてワイヤ電極12は、巻取りローラー26によってワイヤボビン14から引出され、複数のプーリー13によって規定される走行経路沿いに所定の張力が付与された状態で走行可能となる。
【0020】
放電加工中にワイヤ電極12が破断した場合、通常、破断位置は上下ワイヤガイド16、18の間にある。テンションローラー30を逆転させてワイヤ先端検出器32がワイヤ搬送ジェットノズル20から下方に垂下するワイヤ電極12の先端部分を検知したら、テンションローラー30を所定量正転させる。該ワイヤ電極12の先端部分がワイヤ排出装置34のフィンガー34aによって挟持されると、テンションローラー30を逆転させることによってワイヤ電極12に張力が付与される。その状態でワイヤ電極切断装置40の切断電極42、44の間に所定の切断電圧を印加することによって、切断電極42、44の針状の先端42a、44aの間にアーク放電が発生し、ワイヤ電極12の先端部分が切断される。切断されたワイヤ電極12の先端部分は、ワイヤ排出装置34によってワイヤ電極片回収装置へ排出される。
【0021】
何らかの理由によりワイヤ先端検出器32が、ワイヤ電極12の先端部分を検知できない場合には、その旨ワイヤ放電加工機10の表示装置(図示せず)に表示したり、警報音を発するようにできる。その場合には、ワイヤ放電加工機10の操作者が手操作によって上述したようにワイヤ電極12をワイヤ搬送ジェットノズル20に挿通させ、ワイヤ排出装置34のフィンガー34aによりワイヤ電極12の先端部分を挟持させて、テンションローラー30によってワイヤ電極12に張力を付与した状態で、ワイヤ電極切断装置40によりワイヤ電極12の先端部分を切断するようにできる。
【0022】
また、ワークWの加工位置を変更するためにワイヤ電極12を一旦切断する場合にも、ワイヤ排出装置34のフィンガー34aによってワイヤ電極12が挟持され、上述したようにワイヤ電極12に張力が付与された状態でワイヤ切断装置40によってワイヤ電極12が切断される。切断されたワイヤ電極12のワイヤボビン14側の部分は、上述したようにワイヤ搬送ジェットノズル20によって再び自動張設される。切断されたワイヤ電極12の先端側(巻取りローラー26側)の部分は、巻取りローラー26によって前記ワイヤ電極回収装置に回収される。
【0023】
本実施の形態によれば、ワイヤ電極切断装置40の切断電極42、44は、針状の先端42a、44aが対向配置されているので、アークが狭い空間内で安定し、低出力でもワイヤ電極12を良好かつ短時間で切断可能となる。また、定められた局所的な位置で切断される。更に、ワイヤ電極12に張力を付与した状態で切断することから、切断されたワイヤ電極の先端部は、図3Aに示すように、癖が付かず、剛性を保ったまま尖頭形状となる。これによって、その後のワイヤ搬送ジェットノズル20による上ワイヤガイド16、ワークWのワイヤ電極挿通孔、下ワイヤガイド18へのワイヤ電極12の挿通操作が確実になる。
【符号の説明】
【0024】
10 ワイヤ放電加工機
12 ワイヤ電極
16 上ワイヤガイド
18 下ワイヤガイド
20 ワイヤ搬送ジェットノズル
26 巻取りローラー
28 制御装置
30 テンションローラー
34 ワイヤ排出装置
36 加工電源
38 高周波高電圧発生装置
40 ワイヤ電極切断装置
42 切断電極
44 切断電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤ電極走行装置によって張設、走行されるワイヤ電極を切断するワイヤ放電加工機のワイヤ電極切断装置において、
ワイヤ電極を挟み非接触状態で対向配置され、互いの対向部が針状に形成された一対の切断電極と、
前記切断電極間にワイヤ電極を切断するアーク放電を発生させる電圧発生手段と、
前記電圧発生手段に電圧を印加するとき、前記ワイヤ電極に張力を付与するように、前記ワイヤ電極走行装置を制御する制御手段と、
を具備することを特徴としたワイヤ電極切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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