説明

ワクチン用ペプチド

本発明は、チリダニアレルギーを予防または治療するためのペプチドを含む組成物に関し、具体的には、前記アレルギーを予防または治療するためのペプチドの最適な組み合わせに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(参照による援用)
次の優先出願:2009年2月5日に出願された英国特許出願第0901928.2号、2009年2月5日に出願された英国特許出願第0901927.4号、2009年7月20日に出願された英国特許出願第0912578.2号、2009年8月14日に出願された国際特許出願第PCT/GB09/01995号、および2009年10月12日に出願された英国特許出願第0917871.6号の内容は、参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、イネ科草本アレルギーを予防または治療するための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
T細胞が抗原を認識するには、抗原提示細胞(antigen presenting cells)(APC)が、その細胞表面上に抗原断片(ペプチド)を、主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex)(MHC)分子と結合した状態で、提示することを要する。T細胞は、その抗原特異的T細胞受容体(T-cell receptors)(TCR)を使用し、APCによって提示された抗原断片を認識する。かかる認識は、免疫系に対するトリガーとして作用し、認識された抗原を根絶するための一連の応答を生じさせる。
【0004】
ヒトなどの生物の免疫系によって、外部の抗原が認識されると、場合によっては、アトピー状態として知られる疾患が生じ得る。アトピー状態の例は、喘息、アトピー性皮膚炎およびアレルギー性鼻炎を含むアレルギー性疾患である。この疾患群においては、Bリンパ球が、外部由来の抗原に結合するIgEクラスの抗体を産生し(ヒトにおいて)、該抗原は、この関係においては、アレルゲンと称される。こうした分子は、アレルギー反応を誘発するからである。アレルゲン特異的IgEの産生は、やはりアレルゲンによって活性化される(アレルゲンに対して特異的である)Tリンパ球に依存する。アレルゲン特異的IgE抗体は、好塩基球およびマスト細胞などの細胞の表面に、これらの細胞によるIgEの表面受容体の発現によって、結合する。
【0005】
表面に結合したIgE分子がアレルゲンによって架橋されると、これらのエフェクター細胞の脱顆粒が生じ、ヒスタミン、5-ヒドロキシトリプタミン(5-hydroxtryptamine)などの炎症性メディエーター、およびスルフィドロイコトリエン(sulphidoleukotrienes)などの脂質メディエーターの放出が引き起こされる。喘息などのある種のアレルギー性疾患は、IgE依存性の現象に加えて、IgE非依存性の現象を特徴とする。
【0006】
アレルギー性IgE媒介性疾患は、現在、症状の軽減または予防をもたらす薬剤で治療されている。かかる薬剤の例は、抗ヒスタミン剤、β2作動薬およびグルココルチコステロイドである。また、IgE媒介性疾患には、アレルゲン成分またはアレルゲン抽出物の定期的な注射を含む脱感作手順によって治療されているものもある。脱感作治療は、アレルゲンについてIgEと競合するIgG反応を誘導し得、またはアレルゲンに対するIgEの合成を阻止する特異的サプレッサーT細胞を誘導し得る。この形態の治療は、必ずしも効果的であるわけではなく、深刻な副作用、特に全身性アナフィラキシーショックを誘発する危険性をもたらす。これは、直ちに認識され、アドレナリンで治療されない限り、致命的になり得る。他の外来抗原に対する免疫反応性を変化させることも、アレルギー反応自体を誘発することもなしに、特定のアレルゲンに対する望まれないアレルギー性免疫応答を減少または解消する治療的処置は、アレルギーの個体に非常に有益となる。
【0007】
一般に、イネ科草本アレルゲンは、喘息、アレルギー性鼻炎およびアレルギー性皮膚炎を含む、ヒトおよび動物のアレルギー性疾患の主要な原因として認識されている。イネ科草本花粉に存在するタンパク質は、特に重要である。例えば、枯草熱(hayfever)患者の約90%は、イネ科草本花粉に対してアレルギーを有している。枯草熱は、くしゃみ、鼻汁および目のかゆみを特徴とする季節性アレルギーの一形態の一般的な用語である。用語「枯草熱」は、この形態のアレルギー性疾患が「干し草作りの季節」の間に最も蔓延することから生じたものであり、この季節は、多くのイネ科草本の開花期に相当し、その時、イネ科草本植物は最高量の花粉を放出する。枯草熱は、夏に、典型的には5月下旬から8月下旬までに(北半球では)、特に蔓延する。
【0008】
米国の成人について、枯草熱は、5番目に主要な慢性疾患であり、仕事の欠勤の主要な原因であり、毎年ほぼ4百万日の欠勤され、または失われた就業日が生じており、失われた総生産力として7億ドルよりも多くの総経費が生じていると算出されている。アレルギーはまた、子供においても、最も頻繁に報告される慢性症状であり、40%よりも多くの子供について活動を制限している。毎年、米国において、アレルギーは、外来患者の来院の1700万件よりも多くにのぼり、枯草熱などの季節性アレルギーは、こうしたアレルギーの来診の半分よりも多くを占めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、治療的治療または予防的治療は、イネ科草本アレルギーを患っているか、または患う危険性のあるヒトに対して、非常に有益となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
イネ科草本花粉アレルゲンは、典型的には複数のグループに分類され、各グループ中の少なくとも1種の花粉アレルゲンを大部分の種は発現する。グループの例としては、
・例えば、ホソムギ(Rye grass)(Lolium perenne)に由来するタンパク質Lol p 1およびオオアワガエリ(Timothy grass)(Phleum pratense)に由来するタンパク質Phl p 1を含む、グループ1イネ科草本花粉アレルゲン;ならびに
・例えば、ホソムギ(Rye)に由来するタンパク質Lol p 5aおよびLol p 5b、オオアワガエリ(Timothy)に由来するタンパク質Phl p 5、およびギョウギシバ(Bermuda grass)(Cynodon dactylon)に由来するタンパク質Cyn d 5を含む、グループ5イネ科草本花粉アレルゲン
が挙げられる。
【0011】
本発明者らは、イネ科草本種の花粉の中の主要なアレルゲンに由来する特定のペプチド断片が、こうしたアレルゲンに対して個体を脱感作するのに特に有用であることを発見した。本発明のポリペプチドの組み合わせは、多数のMHCクラスII分子に結合し、ヒスタミンの放出を最小限にしながらT細胞の増殖を引き起こす、その能力について選択されたものである。したがって、本発明の組成物、製品、ベクターおよび製剤は、寛容化によって、イネ科草本アレルギーを予防または治療するために、個体に提供することができる。
【0012】
本発明のペプチドは、ペプチド-MHC相互作用を予測するインシリコ解析、およびMHCクラスII結合アッセイの使用により、MHCクラスII結合性T細胞エピトープとして選択されたものである。相同性によって、さらなるエピトープを同定した。本発明のペプチドおよびペプチドの組み合わせは、インビトロのT細胞応答アッセイに基づいて、さらに選択されたものである。
【0013】
しかしながら、本発明のペプチドの組み合わせでは、複数の異なるMHC分子を標的とすることによって、ヒト集団にわたって、広い範囲の効果が提供される。そのため、本発明のペプチドを用いて製剤化されたワクチンは、広範な有用性を有することになる。
【0014】
本発明者らの研究により、以下の特徴を有するペプチドの組み合わせが生み出された。
・組み合わせは、多数の異なるMHCクラスII分子に結合する。
・組み合わせは、イネ科草本アレルギーの個体において、サイトカイン放出の有意な刺激を与える。
・組み合わせのペプチドは、有意なヒスタミン放出を示さない。
【0015】
ペプチドの組み合わせは、イネ科草本アレルギーの個体において、特に良好なMHC結合特性およびサイトカイン反応プロフィールを有する中核的ペプチドを同定するためにイネ科草本のエピトープ配列を広範囲にわたって解析することによって、選択される。組み合わせは、3種のかかるペプチドの中核部を含むことができ、それぞれのペプチドの1種は最もよく見られるイネ科草本のオオアワガエリ、ペレニアルライグラス(Perennial Rye)およびギョウギシバ(Bermuda)から選択される。組み合わせは、4種のかかるペプチドの中核部を含むことができ、これらのペプチドはそれぞれ、互いに組み合わせて特に有効であることが示されたペプチドから選択される。
【0016】
この方法により、同じ組成物中に、3種の最もよく見られるイネ科草本を表すポリペプチドの中核的群、好ましくは4種以上の異なる個々のポリペプチドの中核的群を含む、ペプチドの中核的群を提供することで、種々のMHC結合性エピトープが提供され、したがってMHCの多型性を許容する重複性が組み込まれる。本発明の中核的群、好ましくは特に良好なMHC結合特性およびサイトカイン反応プロフィールを有する4種以上の異なる個々のポリペプチドの中核的群を提供することでもまた、複数のT細胞エピトープが提供され、寛容を誘導する広範囲のT細胞特異性を補充することが可能になる。したがって、本発明の組成物は、単一のポリペプチドの使用を超える、有利な相加効果を有する。本発明者らはまた、本発明の組成物が、サイトカイン反応によって測定した場合、多型の研究集団を極めて高度にカバーすることを提供することができたことも示している。
【0017】
したがって、本発明は、
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)、Tim 10B(KYTVFETALKKAITAMSE)、Tim 04A(WGAIWRIDTPDKL)、Tim 07G(FKVAATAANAAPANDK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)、Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)およびBer 02B KDSDEFIPMKSSWGAIWRの少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、Bio02A(KYDAYVATLTEALR)、Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)、Rye 08A(ETYKFIPSLEAAVKQAY)、Rye 05C(NAGFKAAVAAAANAPPK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体
[前記変異体は、
I)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列(この配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物を提供する。
【0018】
本発明は、さらに、
(a)Tim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体;
(b)Ber01(SGKAFGAMAKKGQED)またはその変異体;
(c)Bio04A(LKKAVTAMSEAEK)またはその変異体;
(d)Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)またはその変異体;
(e)Ber02(FIPMKSSWGA)またはその変異体;
(f)Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)またはその変異体;
(g)Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)またはその変異体;および
(h)Bio02A(KYDAYVATLTEALR)またはその変異体
[前記変異体は、
I)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列(この配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
から選択される少なくとも4種の異なるポリペプチドを含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物を提供する。
【0019】
本発明の組成物は、典型的には集団におけるイネ科草本花粉アレルギーの個体のパネル(panel)の少なくとも50%もしくは少なくとも60%を寛容化することができ、かつ/または少なくとも1種のさらなるポリペプチドを合計で14種のポリペプチドまで含み、さらなるポリペプチドは、(a)以下に記載する配列番号1〜73のいずれか中の少なくとも9個以上連続したアミノ酸と少なくとも65%の配列同一性を有する配列を含み、かつ(b)9〜30アミノ酸長のものである。
【0020】
(本明細書中で言及する配列の説明)
配列番号1〜73は、表2〜4に示した本発明のポリペプチド配列を与えるものである。配列番号1〜27は、グループ1イネ科草本アレルゲンに由来するペプチドに対応している。配列番号28〜73は、グループ5アレルゲンに由来するペプチドに対応している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(発明の詳細な説明)
本発明は、寛容化に使用することができるペプチドに関する。かかるペプチドは、以下に記載するように、本明細書中に記載されるどのイネ科草本アレルゲンに由来していてもよく、またその変異体であってもよい。ペプチド免疫に基づく脱感作へのアプローチに関連する困難性は、免疫化に使用するペプチドの基礎として、アレルゲンの適切な大きさおよび領域を、いかに選択するかにある。選択されたペプチドの大きさは、きわめて重要である。ペプチドが小さすぎる場合、ワクチンは、免疫反応の誘導に効果的とならない。ペプチドが大きすぎる場合、または抗原全体が個体の中に導入される場合、アナフィラキシーなどの有害反応を誘導する危険性があり、これは致死的であり得る。
【0022】
本発明のポリペプチドは、T細胞特異性を保持するように選択されているものの、分子全体のIgE結合性エピトープの立体配座を該ポリペプチドが保持することを可能にする重要な三次構造を有しないほど大きさが十分に小さい。したがって、本発明のポリペプチドは、マスト細胞および好塩基球などの細胞上の隣接する特異的IgE分子の有意な架橋を誘導せず、その結果、有意なヒスタミン放出を引き起こさない。
【0023】
本発明の利点は、ペプチドが、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子を広く標的とすることができることである。T細胞受容体(TCR)は、その特異性が高度に可変性である。可変性は、抗体分子と同様に、細胞内部での遺伝子組換え現象により生じる。TCRは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の遺伝子によってコードされた分子に結合した短鎖ペプチドの形態で抗原を認識する。これらの遺伝子産物は、移植において使用される「組織型」を生じさせる同じ分子であり、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen)分子(HLA)とも称され、これらの用語は、互換的に使用することができる。個々のMHC分子は、ペプチド結合溝を有し、この溝は、その形状および電荷に起因して、限られたペプチド群のみを結合させることができる。1つのMHC分子によって結合されたペプチドは、他のMHC分子によって必ずしも結合されない場合がある。
【0024】
抗原またはアレルゲンなどのタンパク質分子は、Bリンパ球、樹状細胞、単球およびマクロファージなどの抗原提示細胞によって拾い上げられると、該細胞内部で酵素的に分解される。分解プロセスは、該分子のペプチド断片を生じさせ、このペプチド断片は、それが、適切な大きさ、電荷および形状のものである場合、次いで特定のMHC分子のペプチド結合溝の内側に結合し得、その後に抗原提示細胞の表面上に提示され得る。ペプチド/MHC複合体は、抗原提示細胞表面上に十分な数で存在する場合、適切なペプチド/MHC特異的T細胞受容体を有するT細胞を活性化し得る。
【0025】
MHCの多型性に起因して、ヒトなどの非近交系集団の個体は、その細胞表面上に、種々の組み合わせのMHC分子を発現することになる。MHC分子が異なれば、それは、ペプチドの大きさ、電荷および形状に基づき、同じ分子に由来する異なるペプチドに結合することができるため、個体が異なれば、そのMHC分子上に結合された異なるレパートリーのペプチドが提示されることになる。ヒトなどの非近交系集団における普遍的なMHC結合性ペプチドエピトープの同定は、近交系動物(ある系統の実験用マウスなど)におけるよりも困難である。個体間のMHC発現の差異、ならびにこれがもたらすペプチドの結合および提示における固有の相違に基づけば、ヒトの脱感作療法に有用となる単一のペプチドを同定することができる可能性は低い。
【0026】
以下に述べるように、本発明は、1種よりも多くのペプチド、すなわちペプチドの組み合わせに基づく組成物を提供することによって、この問題に対処する。こうした組み合わせは、個別に試験した場合、また特に組み合わせて与えた場合に、イネ科草本アレルギーの患者において、驚くほど強い反応を示すとして実験的に同定されたペプチドの中核的群に基づいている。こうしたペプチドの中核的サブセットは、イネ科草本ペプチドワクチンに含めた場合、有利な性質を有する。
【0027】
中核的群は、オオアワガエリに由来する少なくとも1種のペプチド、ペレニアルライグラスに由来する少なくとも1種のペプチド、およびギョウギシバに由来する少なくとも1種のペプチドを含むことができ、それぞれのペプチドは、特に良好な個別の反応特性を示す。かかるペプチドを組み合わせた状態で含めることで、3種の最もよく見られるイネ科草本をカバーすることが可能になり、さらには以下にさらに述べるように、相同性によって、他のイネ科草本をカバーするにまで及ぶ。
【0028】
さらに、中核的群は、試験した群からの、最も高いランクの個別の反応特性を有するペプチドであって、さらに、一緒に組み合わせて与えた場合、イネ科草本ワクチンの最適な反応特性を与えることが示されたペプチドから選択される少なくとも4種のペプチドを含むことができる。
【0029】
かかるペプチドの組み合わせは、グループIイネ科草本アレルゲンに由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体、およびグループVイネ科草本アレルゲンに由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体を含むことが好ましい。グループIイネ科草本アレルゲンおよびグループVイネ科草本アレルゲンとしてのイネ科草本アレルゲンの分類は、当業者に周知であり、本明細書においてさらに述べる。好ましいグループIイネ科草本アレルゲンは、ギョウギシバアレルゲンCyn d 1である。好ましいグループVイネ科草本アレルゲンは、ホソムギアレルゲンLol p 5である。いくつかの実施態様において、本発明は、Cyn d1に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体、およびLol p 5に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体を含む、組成物に関する。Cyn d 1ペプチドおよびLol p 5ペプチドまたはこれらの変異体の組み合わせに基づく組成物については、以下にさらに述べる。
【0030】
本発明の好ましいペプチドは、配列番号1〜73のいずれかに示された配列を含むことができ、該配列からなることができ、または本質的に該配列からなることができる。これらの特定のペプチドの変異体も使用することができる。変異体は、配列番号1〜73のいずれかまたは配列番号1〜73のいずれかの相同体のいずれかの断片である配列を含むことができ、該配列からなることができ、または本質的に該配列からなることができる。
【0031】
すなわち、本発明は、
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)、Tim 10B(KYTVFETALKKAITAMSE)、Tim 04A(WGAIWRIDTPDKL)、Tim 07G(FKVAATAANAAPANDK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)、Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)およびBer 02B KDSDEFIPMKSSWGAIWRの少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、Bio02A(KYDAYVATLTEALR)、Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)、Rye 08A(ETYKFIPSLEAAVKQAY)、Rye 05C(NAGFKAAVAAAANAPPK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体
[前記変異体は、
I)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列(この配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物を提供する。
【0032】
a)〜c)の他の好ましい変異体は、
i)9〜30アミノ酸長を有し、
・a)〜c)の対応する配列のいずれか、もしくは
・a)〜c)の対応する配列のいずれかと少なくとも65%の相同性を有する配列[この配列は、a)〜c)の配列のいずれかに対して個体を寛容化することができる]
からなる領域を含む、ポリペプチド、または
ii)9〜30アミノ酸長を有し、
・a)〜c)の配列のいずれかの断片、もしくは
・a)〜c)の配列のいずれかの断片の相同体
のいずれかを表す配列[この配列は、a)〜c)の配列のいずれかに対して個体を寛容化することができ、少なくとも9アミノ酸長を有し、前記相同体は、a)〜c)の配列のいずれか中の9個連続したアミノ酸のいずれかと少なくとも65%の相同性を有する]
からなる領域を含む、ポリペプチド(任意に、4種のポリペプチドは、いずれも、a)〜c)のいずれか1つによって定められる同じ元の配列の変異体ではない)
である。
【0033】
このように、組成物は、a)のポリペプチドまたはその変異体である第一のポリペプチド、b)のポリペプチドまたはその変異体である第二のポリペプチド、およびc)のポリペプチドまたはその変異体である第三のポリペプチドの、最低限3種のポリペプチドを含む。したがって、例えば、組成物は、Tim07Bの変異体、Ber01、およびRye09Bの変異体を含んでいてもよい。上記組成物は、中核的な3種のポリペプチドに加えて、第四のa)、b)もしくはc)のポリペプチドまたはこれらのいずれかの変異体を含むことが好ましい。組成物は、a)、b)、c)のポリペプチドまたはこれらの変異体を、4種、5種、6種、7種、8種またはそれよりも多く含んでいてもよい。
【0034】
いくつかの態様において、組成物は、a)のポリペプチドまたはその変異体を、2種、3種、4種またはそれよりも多く含み得る。さらなる態様において、組成物は、b)のポリペプチドまたはその変異体を、2種、3種、4種またはそれよりも多く含み得る。さらなる態様において、組成物は、c)のポリペプチドまたはその変異体を、2種、3種、4種、5種、6種またはそれよりも多く含み得る。これらの選択は、少なくとも1種のa)のポリペプチドまたはその変異体、少なくとも1種のb)のポリペプチドまたはその変異体を含む組成物に従属している。群a)、b)およびc)から選択される3種のポリペプチドの好ましい組み合わせは、ポリペプチドTim07Bまたはその変異体、ポリペプチドBer01またはその変異体、およびポリペプチドBio04Aまたはその変異体である。
【0035】
組成物は、群a)から選択される少なくとも2種のポリペプチドまたはそれらの変異体、群b)から選択される少なくとも2種のポリペプチドまたはそれらの変異体、および群c)から選択される少なくとも2種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含んでいてもよい。
【0036】
好ましい組成物は、ポリペプチドTim07Bまたはその変異体、および群b)から選択される少なくとも2種、3種もしくは4種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含み得る。この好ましい組成物は、群c)から選択される2種もしくは3種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含み得、好ましくはBio04Aまたはその変異体を含む。別の好ましい組成物は、ポリペプチドTim07Bまたはその変異体、および群c)から選択される少なくとも2種、3種もしくは4種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含み得る。この好ましい組成物は、群b)から選択される2種もしくは3種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含み得、好ましくはBer01またはその変異体を含む。
【0037】
a)〜c)に基づく上の組成物はすべて、a)〜c)に従って先に選択されなかった、配列番号1〜74のいずれかから選択されるさらなるポリペプチド、またはその変異体を含むことができる。
【0038】
本発明はまた、
(a)Tim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体;
(b)Ber01(SGKAFGAMAKKGQED)またはその変異体;
(c)Bio04A(LKKAVTAMSEAEK)またはその変異体;
(d)Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)またはその変異体;
(e)Ber02(FIPMKSSWGA)またはその変異体;
(f)Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)またはその変異体;
(g)Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)またはその変異体;および
(h)Bio02A(KYDAYVATLTEALR)またはその変異体
[前記変異体は、
I)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列(この配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
から選択される少なくとも4種の異なるポリペプチドを含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物も提供する。
【0039】
a)〜h)の他の好ましい変異体は、
i)9〜30アミノ酸長を有し、
・a)〜h)の対応する配列のいずれか、もしくは
・a)〜h)の対応する配列のいずれかと少なくとも65%の相同性を有する配列[この配列は、a)〜h)の配列のいずれかに対して個体を寛容化することができる]
からなる領域を含む、ポリペプチド、または
ii)9〜30アミノ酸長を有し、
・a)〜h)の配列のいずれかの断片、もしくは
・a)〜h)の配列のいずれかの断片の相同体
のいずれかを表す配列[この配列は、a)〜h)の配列のいずれかに対して個体を寛容化することができ、少なくとも9アミノ酸長を有し、前記相同体は、a)〜h)の配列のいずれか中の9個連続したアミノ酸のいずれかと少なくとも65%の相同性を有する]
からなる領域を含む、ポリペプチド(任意に、4種のポリペプチドは、いずれも、a)〜h)のいずれか1つによって定められる同じ元の配列の変異体ではない)
である。
【0040】
すなわち、組成物は、最低限4種のポリペプチドを含み、前記4種のポリペプチドは、それぞれa)〜h)のポリペプチドまたはそれらの変異体から選択される。上記組成物は、a)〜h)のさらなるポリペプチドまたはそれらのいずれかの変異体、例えば5種、6種、7種、8種もしくはそれよりも多くのa)〜h)のポリペプチドまたはそれらの変異体などを含んでいてもよい。
【0041】
いくつかの態様において、組成物は、a)のポリペプチドまたはその変異体、b)、e)もしくはf)から選択される少なくとも1種のポリペプチドまたはそれらのいずれかの変異体、およびc)、d)、g)もしくはh)から選択される少なくとも1種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含み得る。あるいは、好ましくは、組成物は、a)のポリペプチドまたはその変異体、およびb)、e)もしくはf)から選択される少なくとも2種もしくは3種のポリペプチドまたはそれらのいずれかの変異体を含み得る。好ましくは、この組成物は、ポリペプチドBer01またはその変異体を含み得る。別の実施態様において、組成物は、a)のポリペプチドまたはその変異体、およびc)、d)、g)もしくはh)から選択される少なくとも2種、3種もしくは4種のポリペプチドまたはそれらのいずれかの変異体を含み得る。好ましくは、この組成物は、ポリペプチドBio04Aまたはその変異体を含み得る。
【0042】
好ましくは、かかる組成物はすべて、ポリペプチドTim07Bまたはその変異体、ポリペプチドBer01またはその変異体、およびポリペプチドBio04Aまたはその変異体を含み得る。
【0043】
好ましくは、a)〜h)から選択された上記組成物は、a)〜h)の少なくとも4種の異なるポリペプチドを含むか、またはそれぞれa)〜h)の異なる元の配列もしくはベースライン配列に対応する少なくとも4種の変異体を含む。したがって、典型的には、組成物は、由来する4種の異なるエピトープの配列に基づいて選択される。組成物は、ギョウギシバ(Bermuda)由来の少なくとも1種のエピトープの配列、ホソムギ由来の少なくとも1種のエピトープの配列、およびオオアワガエリ由来の少なくとも1種のエピトープの配列を含むことが好ましい。適切なエピトープの配列は、配列番号1〜74のいずれかまたはそれらの変異体から選択することができる。
【0044】
したがって、a)〜h)に基づく上記組成物はすべて、a)〜h)に従って先に選択されなかった、配列番号1〜74のいずれかから選択されるさらなるポリペプチド、またはその変異体を含んでいてもよい。選択はすべて、a)〜h)から選択される少なくとも4種のポリペプチドまたはそれらの変異体を含む組成物に従属している。
【0045】
任意選択で、本明細書中に記載した特定のポリペプチドの組成物は、いずれも合計で14種の独特のポリペプチドまで、さらなるポリペプチドを含むことができる。典型的には、さらなるポリペプチドは、既に選択されたポリペプチドの1つではない他の配列、すなわち配列番号1〜73と関連することになる(すなわち、典型的には該他の配列の相同体および/または断片である)。典型的には、さらなるペプチドは、配列番号1〜73のペプチドの1つの機能的変異体である。さらなるポリペプチドは、配列番号1〜73のいずれかと同一であってもよい。したがって、組成物は、上に定義した(a)および(b)のそれぞれから選択される少なくとも1種のポリペプチドに従属する、配列番号1〜73のいずれかで与えられる異なるポリペプチドを14種まで含むことができる。しかしながら、任意選択のさらなるポリペプチドは、配列番号1〜73のいずれかと100%同一である必要はない。好ましくは、さらなるポリペプチドは、(a)および(b)のそれぞれから選択された少なくとも1種のポリペプチドの中のまだ選択されていない、配列番号1〜73のいずれか中の少なくとも9個(例えば少なくとも10個、11個、12個または13個)以上の連続したアミノ酸と、少なくとも65%同一である。こうした連続したアミノ酸は、MHCクラスIIエピトープ、例えば本明細書において言及したMHC分子のいずれかに結合するMHCクラスIIエピトープを含み得る。
【0046】
本発明はまた、寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するための、本発明のポリペプチドを含む製品および製剤、ならびに本発明のポリペプチドを発現することができるポリヌクレオチドを含む組成物、製品およびベクターも提供する。典型的には、かかる寛容化は、配列番号1〜74のいずれか中に存在するエピトープ(例えばMHCクラスII結合性T細胞エピトープ)に対するものとなる。
【0047】
イネ科草本種
イネ科草本種ホソムギ(Rye)(Lolium perenne)、オオアワガエリ(Timothy)(Phleum pratense)およびギョウギシバ(Bermuda)(Cynodon dactylon)は、世界中でイネ科草本アレルギー、特に枯草熱などのイネ科草本花粉と関連するアレルギーの、比率が高い原因である。他の重要なイネ科草本種としては、シラゲガヤ(Velvet grass)(Holcus lanatus)、カモガヤ(Orchard grass)(Dactylis glomerata)、カナリークサヨシ(Canary grass)(Phalaris canariensis)およびナガハグサ(Meadow grass)/ケンタッキーブルーグラス(Kentucky bluegrass)(Poa pratensis)が挙げられる。
【0048】
ホソムギは、世界で最もよく見られるイネ科草本の1つであり、動物飼料の原料として広く使用されている。ホソムギは、ヨーロッパ原産であるが、世界中のすべての大陸に導入されており、すべての温帯で普通に見られる。ホソムギは、夏の間中、開花し得るが、典型的には北半球では5月〜7月に開花し得る。ホソムギは、温暖な温帯湿潤気候に十分に適応しており、やや粘土質の(heavy)、肥沃な、湿潤な土壌で、最も良好に生育する。ホソムギはまた、十分に肥料を施した、より軽い、十分な水分を有する土壌でも良好に生育する。ホソムギは、日陰を嫌い、水はけのよい土壌を必要とする。典型的には、ホソムギは、約6〜約7の範囲内の土壌pHを有する場所で生育するが、好ましくは約21 cm〜約180 cmの範囲の年間降水量で、約4.5〜約8.5の範囲に耐容性を示し得る。
【0049】
オオアワガエリは、世界で最もよく見られるイネ科草本のもう1つのものであり、動物飼料の主要な原料である。オオアワガエリは、ヨーロッパ、北アフリカおよび北アジアの大部分において、原産のものであり、広範囲に及んでいる。オオアワガエリは、北アメリカおよび南アメリカ、南アフリカならびにオーストラリアにおいて、導入され、広範囲に及んでいる。典型的には、オオアワガエリは、約35 cm〜約180 cmの範囲内の年間降水量、約4℃〜約22℃の年間気温範囲、および約4.5〜約8の土壌pHを有する場所で生育する。オオアワガエリは、涼しい、湿潤な、温帯気候に最もよく適応し、粘土質の(heavy)、深さのある、湿潤な土壌で、またはぬれた土壌でさえも、最も良好に生育する。生育に最適な温度は、18℃〜21℃であり、15℃/10℃および21℃/15℃の日中気温/夜間気温で変化する。典型的には、オオアワガエリの開花期は、初夏に限られており、オオアワガエリの花粉は、この季節の間のイネ科草本アレルギーの主要な原因である。諸研究では、アレルギー性鼻炎または他の症状を有する患者の最大で21%までがオオアワガエリの花粉に反応することがわかっている。
【0050】
典型的には、ギョウギシバは、約9 cm〜約429 cmの年間降水量、約5℃〜約28℃の年間気温範囲、および約4〜約8.5、好ましくは約6〜約7の範囲内の土壌pHを有する場所で生育する。典型的には、ギョウギシバの開花期は、晩夏(北半球では8月〜10月)である。ギョウギシバ植物は、多量の花粉を産生し、したがって枯草熱の主要な原因である。ギョウギシバ植物はまた、接触性皮膚炎を引き起こすことも報告されている。ギョウギシバは、世界中、主として温暖な気候で広く生育しており、典型的には北緯約30°と南緯約30°との間で見られる。
【0051】
グループ1イネ科草本花粉アレルゲンおよびグループ5イネ科草本花粉アレルゲンのペプチド断片
イネ科草本の主要なアレルゲンとしては、グループ1イネ科草本花粉アレルゲンおよびグループ5イネ科草本花粉アレルゲンが挙げられる。種々の種に由来するタンパク質が、アミノ酸配列の相同性に基づき、複数のグループに割り振られている。例えば、グループ1の主要なイネ科草本花粉アレルゲンとしては、オオアワガエリのタンパク質Phl p 1およびホソムギのタンパク質Lol p 1が挙げられ、グループ5の主要なイネ科草本花粉アレルゲンとしては、オオアワガエリのタンパク質Phl p 5およびホソムギのタンパク質Lol p 5が挙げられる。
【0052】
本発明者らは、特定のイネ科草本花粉アレルゲンタンパク質において、MHCクラスII結合性T細胞エピトープを含む領域を同定した。本発明者らはまた、主要なイネ科草本花粉アレルゲンの内部の、MHCクラスII結合性T細胞エピトープに相当する領域が、所与のグループの代表種の間で高度に保存されていることも示した。例えば、実施例2を参照されたい。この情報に基づけば、所与のグループのタンパク質の当該領域に由来するペプチドは、そのグループのイネ科草本アレルゲンに対する寛容化によって、イネ科草本アレルギーを予防または治療するのに適する。例えば、例えばオオアワガエリのPhl p 1またはホソムギのLol p 1に由来する当該領域は、グループ1イネ科草本アレルゲンに対する寛容化による、イネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するのに適している。
【0053】
本発明のペプチドは、グループ1(配列番号1〜27)イネ科草本アレルゲンおよびグループ5(配列番号28〜73)イネ科草本アレルゲンに由来している。用語「ペプチド」および「ポリペプチド」は、本明細書において互換的に使用される。上記タンパク質は、本明細書において「アレルゲン」とも称される。
【0054】
表2〜4に、本発明のペプチドの配列を、それぞれのペプチドが由来する親タンパク質を示して、示す。
【0055】
本発明の組成物が、a)〜h)のポリペプチドまたはそれらの変異体から選択される4種以上のポリペプチドを含む場合、典型的には、組成物は、a)配列番号1〜27およびb)配列番号28〜73のそれぞれから選択される少なくとも1種のポリペプチドまたはその変異体(例えば機能的変異体)を含む。組成物は、a)配列番号1〜27およびb)配列番号28〜73のそれぞれから選択される少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種または少なくとも7種のポリペプチドまたはその変異体(例えば機能的変異体)を含むことができる。いくつかの実施態様において、組成物は、a)配列番号1〜10およびb)配列番号28〜52のそれぞれから選択される少なくとも1種のポリペプチドまたはその変異体(例えば機能的変異体)を含み得る。組成物は、a)配列番号1〜10およびb)配列番号28〜52のそれぞれから選択される少なくとも2種、少なくとも3種、少なくとも4種、少なくとも5種、少なくとも6種または少なくとも7種のポリペプチドまたはその変異体(例えば機能的変異体)を含むことができる。
【0056】
したがって、上で概説したように、a)〜h)のポリペプチドまたはそれらの変異体に基づく好ましい組成物としては、Cyn d 1に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体、およびLol p5に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体を含む組成物が挙げられる。特に好ましい組成物は、Cyn d 1に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体、Lol p5に由来する少なくとも1種のペプチドまたはその変異体、およびPhl p 5に由来する少なくとも1種のペプチドを含む組成物である。いくつかの実施態様において、a)〜h)の組成物は、2種、3種、4種またはそれよりも多くの、Cyn d 1に由来するペプチドまたはそれらの変異体、および/または2種、3種、4種またはそれよりも多くの、Lol p 5に由来するペプチドまたはそれらの変異体を含み得る。いくつかの実施態様において、組成物は、Cyn d 1に由来するペプチドおよびLol p 5に由来するペプチドまたはそれらの変異体からなり得るか、または本質的に該ペプチドまたはそれらの変異体からなり得る。他の実施態様において、任意に、組成物は、Lol p1に由来するペプチドまたはその変異体を含まない。
【0057】
以下に述べるように、Cyn d 1ペプチドおよびLol p 5ペプチドに基づく組成物は、イネ科草本アレルギーの治療に特に有用である。
【0058】
本発明の特に好ましい組成物としては、
a)配列番号1、2および5のポリペプチドの少なくとも1種または本明細書中で定義したそれらの変異体;
b)配列番号28、29、31および46のポリペプチドの少なくとも1種または本明細書中で定義したそれらの変異体;ならびに任意に
c)配列番号69のポリペプチドまたは本明細書中で定義したその変異体
を含むか、これらからなるか、または本質的にこれらからなる組成物が挙げられる。
【0059】
こうした組成物により、特に好ましいCyn d 1ペプチド、特に好ましいLol p5ペプチド、および任意選択で特に好ましいPhl p5ペプチドが提供される。より好ましくは、組成物は、a)で定義した少なくとも2種のポリペプチドまたは3種のポリペプチドすべて、およびb)で定義した少なくとも2種のポリペプチドまたは少なくとも3種のポリペプチドを含む。さらに好ましくは、組成物は、c)で定義したポリペプチドを含む。組成物は、i)配列番号1、ii)配列番号2および配列番号5の1つ、ならびにiii)配列番号46を含むことが特に好ましい。
【0060】
具体的な好ましい組成物としては、表7に示した組み合わせ1〜10が挙げられる。かかる組成物において、任意選択で配列番号1、2、5、28、29、31、46および69の個々のポリペプチドの1種以上をその変異体に置換することができる。いくつかの実施態様において、組み合わせ1〜10に存在する配列番号1、2、5、28、29、31、46および69のポリペプチドの2種、3種、4種、5種またはそれよりも多くをそれらの変異体に置換することができる。典型的には、その変異体に置換されるポリペプチドの数は、組成物に含まれるポリペプチドの総数に依存する。例えば、4種のポリペプチドに基づく組み合わせ(すなわち組み合わせ6、8、10)においては、1種または2種のポリペプチドのみがその変異体に置換されることが好ましい。あるいは、配列番号1、69、31、46、2、5、29、28、43、53、35、27、4および70のいずれかから選択される4種以上のポリペプチド、またはそれらの変異体を含む任意の組成物も好ましい。
【0061】
さらに好ましい組成物は、配列番号1、2、5、28、31、91および93のポリペプチドもしくはそれらの変異体を含むか、これらからなるか、または本質的にこれらからなる。他の好ましい組成物は、配列番号1、2、5、28、31、91および93を含むか、またはこれらのポリペプチドの1種、2種もしくは3種、4種もしくはそれよりも多くの代わりにこれらの変異体を含む。いくつかの実施態様において、上記の7種のペプチドの組成物は、さらなるポリペプチドを何ら含まず、またはイネ科草本アレルゲンに由来するさらなるポリペプチドも何ら含まない。好ましい実施態様において、組成物は、配列番号1、2、5、28、31、91および93またはこれらの変異体を含み、本明細書において言及した、いずれかのイネ科草本の種のタンパク質と20%よりも大きい相同性を有するさらなるタンパク質は何ら含まない。上記の組成物は、担体またはアジュバントなどのさらなる非ペプチド成分を含んでいてもよい。
【0062】
本発明はまた、
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)、Tim10B(KYTVFETALKKAITAMSE)、Tim 04A(WGAIWRIDTPDKL)、Tim 07G(FKVAATAANAAPANDK)、または本明細書中に記載したこれらのいずれかの変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)、Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)およびBer02B KDSDEFIPMKSSWGAIWRの少なくとも1種、または本明細書中に記載したこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、およびBio02A(KYDAYVATLTEALR)、Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)、Rye 08A(ETYKFIPSLEAAVKQAY)、Rye 05C(NAGFKAAVAAAANAPPK)の少なくとも1種、または本明細書中に記載したこれらのいずれかの変異体
を含み、それぞれの異なるポリペプチドが、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に、同時に、別々に、または連続的に使用するためのものである、製品も提供する。
【0063】
本発明の製品における4種以上のポリペプチドは、本発明の寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するための組成物に関して上で概説した基準と同じ基準に従って、選択することができる。
【0064】
変異体
したがって、本発明の組成物または製品は、配列番号1〜73のいずれかの変異体を含み得る。典型的には、変異体は、配列番号1〜73の対応するペプチド中に存在する1つ、2つ、3つまたはそれよりも多くのMHCクラスIIエピトープを含む。
【0065】
機能的変異体について、本明細書中で述べる。かかる変異体は、配列番号1〜59の対応するペプチド中に存在するクラスII MHCエピトープに対して個体を寛容化することができる場合があり、したがって、典型的には、同じMHCクラスII分子に結合する配列を含むこととなり、かつ/または配列番号1〜73のポリペプチドの中の対応するエピトープを認識するT細胞によって認識される。したがって、その配列は、天然のポリペプチドの中の対応する配列に対して、寛容化することができる。したがって、変異体ポリペプチドは、対応する天然のポリペプチドに対して寛容化し得る。
【0066】
配列番号1〜73の変異体は、短縮化、例えばポリペプチドのN末端端部および/またはC末端端部から1つ以上のアミノ酸を除去すること、によって得られる断片であってもよい。断片はまた、T細胞エピトープを構成する中核部の9個のアミノ酸が実質的に破壊されていないことを条件として、1つ以上の内部欠失によっても生じ得る。
【0067】
例えば、配列番号1の変異体は、配列番号1の断片、すなわちより短い配列を含み得る。これは、配列番号1のN末端端部または配列番号1のC末端端部から1個、2個、3個または4個のアミノ酸が欠失したものを含み得る。かかる欠失は、配列番号1の両端から生じ得る。配列番号1の変異体は、配列番号1の端部(1つまたは複数)を越えて延びる、さらなるアミノ酸(例えばペプチドが由来する親タンパク質の配列に由来する)を含み得る。変異体は、上で述べた欠失および付加を組み合わせたものを含み得る。例えば、アミノ酸は、配列番号1の一方の端部から欠失していてもよいが、全長の親タンパク質配列に由来するさらなるアミノ酸が、配列番号1の他方の端部に付加していてもよい。上の変異体についての考察と同じ考察が、配列番号2〜73にもあてはまる。
【0068】
変異体ペプチドは、配列番号1〜73のいずれかまたはその断片のアミノ酸配列から1つ以上のアミノ酸が置換されたものを含み得る。変異体ペプチドは、配列番号1〜73のいずれか中の少なくとも9個以上連続したアミノ酸と少なくとも65%の配列同一性を有する配列を含み得る。より好ましくは、適切な変異体は、配列番号1〜73のいずれかの少なくとも9個連続したアミノ酸と、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも98%のアミノ酸同一性を有し得る。このレベルのアミノ酸同一性は、ペプチドのどの部分で見られてもよいが、中核的領域に存在することが好ましい。このレベルのアミノ酸同一性は、少なくとも9個連続したアミノ酸にわたるものであるが、比較のペプチドの大きさによっては、少なくとも10個、少なくとも11個、少なくとも12個、少なくとも13個、少なくとも14個、少なくとも15個、または少なくとも16個もしくは少なくとも17個のアミノ酸にわたるものであってもよい。したがって、上で特定したレベルの同一性はいずれも、配列の全長にわたるものであってもよい。
【0069】
本発明の特に好ましいペプチドに対する配列同一性に基づいて選択された好ましい変異体の例は、以下のものである。
Ber01(配列番号1)の変異体:SGKAFGAMAKKGEED(配列番号74)、シラゲガヤ(Holcus lanatus)、Hol l 1;ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)Poa p 1;SGHAFGSMAKKGEED(配列番号75)、カモガヤ(Dactylis glomerata)、Dac g 1;ホソムギ(Lolium perenne)Lol p 1;SGIAFGSMAKKGDED(配列番号76)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p 1、SGTAFGAMAKKGEEE(配列番号77)、トウモロコシ(Zea mays)、Zea m 1。
Bio02A(配列番号28)の変異体:KYDAYVATLTESLR(配列番号78)、オオムギ(Hordeum vulgare)、Hor v 5;KYDAYVATLSEALR(配列番号79)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p 5;ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)、Poa p 9;KYDAFVAALTEALR(配列番号80)、カモガヤ(Dactylis glomerata)、Dac g 5;KYDAFVTTLTEALR(配列番号81)、シラゲガヤ(Holcus lanatus)、Hol l 5。
Bio03A(配列番号29)の変異体:KFIPTLEAAVKQAYAA(配列番号82)、カモガヤ(Dactylis glomerata)、Dac g 5;オニクサヨシ(Phalarus aquatica)、Pha a 5;KFIPALEAAVKQAYAA(配列番号83)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p 5。
Tim07B(配列番号69)の変異体:KIPAGELQIVDKIDA(配列番号84)、カモガヤ(Dactylis glomerata)、Dac g 5;オニクサヨシ(Phalarus aquatica)、Pha a 5;KIPTGELQIVDKIDA(配列番号85)、ホソムギ(Lolium perenne)、Lol p 5;KIPAGEQQIIDKIDA(配列番号86)、ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)、Poa p 5。Tim07Bは、シラゲガヤ(Holcus lanatus)、Hol l5bにおいても保存されている。
Bio04A(配列番号31)の変異体:LKKAITAMSEAQK(配列番号87)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p5;シラゲガヤ(Holcus lanatus)、Hol l 5b;LKKAITAMSQAQK(配列番号88)、ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)、Poa p 5。
Ber02C(配列番号5)の変異体:KESWGAIWRIDTPDK(配列番号89)、オニクサヨシ(Phalaris aquatica)、Pha a 1;オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p 1。
Rye09B(配列番号46)の変異体:PQVKYAVFEAALTKAIT(配列番号90)、オオアワガエリ(Phleum pratense)、Phl p 5。
【0070】
このように、配列番号74〜90は、本発明の組成物中の上記天然ペプチドの代用物として使用することができる好ましい変異体である。本発明の天然ペプチドの他の好ましい(referred)変異体は、トウモロコシアレルゲンに由来する。トウモロコシアレルゲンは、イネ科草本花粉アレルゲンと密接な相同性を有し、したがってトウモロコシに由来する配列は、イネ科草本花粉アレルギーに対する寛容化に有用な交差反応性エピトープを含み得る。
【0071】
アミノ酸配列との関連で、「配列同一性」は、以下のパラメータによりClustalW(Thompsonら, 1994、上掲)を用いて評価した場合に、示された値を有する配列をいう。
ペアワイズアラインメントパラメータ−方法:正確(accurate)、マトリクス:PAM、ギャップオープンペナルティ(Gap open penalty):10.00、ギャップ伸長ペナルティ(Gap extension penalty):0.10;マルチプルアラインメントパラメータ−マトリクス:PAM、ギャップオープンペナルティ:10.00、遅延の同一性%(% identity for delay):30、端部のギャップにペナルティを与える(Penalize end gaps):オン、ギャップ分離距離(Gap separation distance):0、ネガティブマトリクス(Negative matrix):なし、ギャップ伸長ペナルティ:0.20、残基特異的ギャップペナルティ(Residue-specific gap penalties):オン、親水性ギャップペナルティ(Hydrophilic gap penalties):オン、親水性残基:GPSNDQEKR。特定の残基における配列同一性は、単に誘導体化されているだけである同一の残基を含むことを意図したものである。
【0072】
変異体ペプチドは、配列番号1〜73のいずれかから、1個、2個、3個、4個、5個もしくはそれよりも多くのアミノ酸、または10個までのアミノ酸を置換したものを含み得る。好ましくは、置換変異体は、1つ以上のアミノ酸を同数のアミノ酸で置換したもの、および保存的なアミノ酸置換をしたものを含む。例えば、アミノ酸は、同様の性質を有する別のアミノ酸、例えば、別の塩基性アミノ酸、別の酸性アミノ酸、別の中性アミノ酸、別の荷電アミノ酸、別の親水性アミノ酸、別の疎水性アミノ酸、別の極性アミノ酸、別の芳香族アミノ酸または別の脂肪族アミノ酸で置換することができる。適切な置換成分を選択するために使用することができる20種の主要なアミノ酸のいくつかの性質は、以下の通りである。
【0073】
【表1】

【0074】
さらなる変異体には、天然に存在するアミノ酸の代わりに、配列中に現れているアミノ酸がその構造類似体であるものが含まれる。配列中で使用されるアミノ酸はまた、ペプチドの機能が著しく悪影響を受けない限り、修飾、例えば標識されていてもよい。ペプチドが、配列番号1〜73のいずれかまたはその断片の配列と異なる配列を有する場合、置換は、配列の全長にわたって、配列番号1〜73のいずれかの配列の内部、または配列番号1〜73のいずれかの配列の外部で、起こってもよい。例えば、付加、欠失、置換および修飾などの本明細書中で記載した変異は、配列番号1〜73のいずれかの配列の内部で起こってもよい。変異体ペプチドは、1個、2個、3個、4個またはそれよりも多くのアミノ酸の置換がなされた配列番号1〜73のいずれかのアミノ酸配列を含んでいてもよく、本質的に該アミノ酸配列からなっていてもよい。変異体ペプチドは、配列番号1〜73のいずれかよりも大きい親タンパク質の断片を含んでいてもよい。この実施態様において、置換および修飾などの本明細書中で記載した変異は、配列番号1〜73のいずれかの配列の内部および/または外部で起こってもよい。
【0075】
本発明の変異体ペプチドは、9〜30アミノ酸長(9および30を含む)である。好ましくは、それらは、9〜20アミノ酸長であってもよく、またより好ましくは13〜17アミノ酸長であってもよい。該ペプチドは、配列番号1〜73のいずれか1つのペプチド配列と同じ長さであってもよい。
【0076】
該ペプチドは、例えばタンパク質分解による切断によって、ポリペプチドアレルゲンから化学的に誘導されていてもよく、または例えばポリペプチドアレルゲンのアミノ酸配列を利用し、該配列に基づきペプチドを合成することによって、ポリペプチドアレルゲンから知的な意味で誘導されていてもよい。ペプチドは、当該技術分野で周知の方法を用いて合成することができる。
【0077】
用語「ペプチド」は、アミノ酸残基がペプチド(-CO-NH-)結合によって連結されている分子だけでなく、ペプチド結合が逆向きにされた分子も含む。かかるレトロインベルソ(retro-inverso)ペプチド模倣体は、例えばMeziereら (1997) J. Immunol.159, 3230〜3237に記載された方法などの、当該技術分野で公知の方法を用いて調製することができる。このアプローチは、主鎖に関係する変化を含み、側鎖の配向に関係する変化を含まない疑似ペプチドを調製することに関する。Meziereら(1997)は、少なくともMHCクラスIIおよびヘルパーT細胞応答について、こうした疑似ペプチドが有用であることを示している。CO-NHペプチド結合の代わりにNH-CO結合を含むレトロインバース(retro-inverse)ペプチドは、タンパク質分解に対して、はるかに耐性がある。
【0078】
同様に、アミノ酸残基の炭素原子間の間隔を保持する適切なリンカー部分が使用されることを条件として、ペプチド結合を完全になくすことができ、該リンカー部分がペプチド結合と実質的に同じ電荷分布および実質的に同じ平面性を有している場合、特に好ましい。エキソ型タンパク質分解消化(exoproteolytic digestion)に対する感受性を減少させる助けとなるように、ペプチドをそのN末端またはC末端でブロックすることが好都合であり得ることも理解されるであろう。例えば、ペプチドのN末端アミノ基をカルボン酸と反応させることによって保護することができ、ペプチドのC末端カルボキシル基をアミンと反応させることによって保護することができる。修飾の他の例としては、グリコシル化およびリン酸化が挙げられる。別の可能な修飾は、RまたはKの側鎖アミンの水素をメチレン基で置換することができる
【0079】
【化1】

【0080】
ということである。
【0081】
本発明によるペプチドの類似体は、ペプチドのインビボの半減期を増加または減少させるペプチド変異体も含み得る。本発明に従って使用されるペプチドの半減期を増加させることが可能な類似体の例としては、該ペプチドのペプトイド類似体、該ペプチドのD-アミノ酸誘導体およびペプチド−ペプトイドハイブリッドが挙げられる。本発明に従って使用される変異体ポリペプチドのさらなる実施態様は、D-アミノ酸形態のポリペプチドを含む。L-アミノ酸ではなくD-アミノ酸を用いてポリペプチドを調製することで、通常の代謝過程によるかかる薬剤の望まれない分解が大きく減少し、その投与頻度とともに、投与することが必要な薬剤量が減少する。
【0082】
本発明によって提供されるペプチドは、親タンパク質鎖をコードする一次転写物の選択的スプライシングによって生成するmRNAによってコードされる親タンパク質のスプライス変異体に由来していてもよい。ペプチドはまた、少なくともアレルゲンのMHC結合特性を保持する、親タンパク質のアミノ酸変異体、グリコシル化変異体および他の共有結合性誘導体に由来していてもよい。例示的な誘導体としては、本発明のペプチドが、置換、化学的手段、酵素的手段または他の適切な手段により、天然に存在するアミノ酸以外の部分について、共有結合的に修飾されている分子が挙げられる。さらに、種々のダニにおいて見出される親タンパク質の天然に存在する変異体が挙げられる。かかる変異体は、対立遺伝子変異体によってコードされていてもよく、また選択的スプライシング変異体を表していてもよい。
【0083】
前述した変異体は、ペプチドの合成中に、もしくは産生後の修飾により、またはペプチドが組換え型である場合には、部位特異的変異誘発、ランダム変異誘発もしくは核酸の酵素による切断および/もしくはライゲーションという公知の技術を用いて、調製することができる。
【0084】
本発明によれば、組成物が含み得るさらなる1種以上のペプチドは、好ましくは、配列番号1〜73のいずれかの機能的変異体である。すなわち、ペプチドは、好ましくは、免疫応答を誘導することができる。具体的には、ペプチドは、イネ科草本アレルギーを有する個体において、遅発型反応(late phase response)を誘導することができる場合がある。このことは、T細胞の試料において、T細胞増殖を誘導するペプチドの能力によって、調べることができる。T細胞増殖の誘導を調べる方法は、当該技術分野で周知であり、1つのかかる方法は、実施例4に例示されている。好ましくは、1種以上のさらなるペプチドは、T細胞の試料の少なくとも20%において、T細胞増殖を引き起こすことができ、ここで各試料は、集団における種々のイネ科草本アレルギーの個体から得られる。好ましくは、本発明の組成物は、イネ科草本アレルギーの個体のパネルから得られたT細胞の試料の30%以上において、T細胞増殖を誘導することができる。より好ましくは、組成物は、パネルにおける感作された個体から得られた試料の35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上において、T細胞増殖を誘導することができる。
【0085】
組成物はまた、パネルにおける感作された個体から得られたT細胞の試料において、好ましくはインターフェロンγ、インターロイキン10およびインターロイキン13の1種以上を含む、1種以上のサイトカインの有意な放出も誘導することができる場合がある。「有意な」放出は、実施例5において後述する基準と同様の基準によって判定することができる。すなわち、組成物は、パネルにおける感作された個体から得られた試料の35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上において、1種以上のサイトカインの放出を誘導することができる場合がある。イネ科草本アレルギーの個体のパネルにおける個体数は、1よりも大きい任意の数、例えば少なくとも2、少なくとも3、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも50、少なくとも80、または少なくとも100の個体であり得る。
【0086】
ペプチドが、T細胞増殖は引き起こすが、感作された個体に由来する好塩基球またはマスト細胞の調製物からのヒスタミン放出はもたらさない場合が好ましい。ヒスタミンはいくらか放出され得るが、組成物は有意な量のヒスタミンを放出させないことが好ましい。有意なヒスタミン放出は、個体からの白血球の試料が、インビトロで組成物により刺激された場合に、利用できる全白血球ヒスタミンの20%以上を放出することであると考えることができる。典型的には、通常の個体は、約150 ng/107細胞の白血球のヒスタミン含量を有する。
【0087】
TCRに結合することができる適切な変異体は、実験的に得ることができ、または既知の基準に従って選択することができる。単一ペプチド内に、MHC抗原結合溝の内部で結合に寄与する特定の残基、およびT細胞受容体の超可変領域と相互作用する他の残基が存在する(Allenら(1987) Nature 327: 713〜5)。
【0088】
T細胞受容体相互作用に寄与する残基の範囲内で、所与のペプチド残基を置換することに対するT細胞活性化の依存性に関する階層性が実証されている。いくつかのグループが、異なるアミノ酸で置換された1つ以上のT細胞受容体接触残基を有しているペプチドを用いて、T細胞活性化の過程に対する重要な影響を実証している。EvavoldおよびAllen (1991) Nature 252: 1308〜10)は、T細胞増殖とサイトカイン産生とに関係がないことを実証した。このインビトロモデルにおいては、ヘモグロビンの残基64〜76に特異的なT細胞クローン(I-Ekとの関連において)に、グルタミン酸の代わりのアスパラギン酸による保存的置換がなされているペプチド類似体が負荷された。この置換により、該類似体がI-Ekに結合する能力は有意には妨げられなかった。
【0089】
この類似体をT細胞クローンにインビトロで負荷した後、そのクローンがB細胞応答を助ける能力と同様に、IL-4分泌は維持されたが、増殖は検出されなかった。その後の研究において、同じグループは、T細胞媒介性細胞溶解が、サイトカイン産生から分離していることを実証した。この場合、前者は不変のままであったが、後者は障害された。改変されたペプチドリガンドのインビボの有効性は、McDevittおよび同僚により、EAE(実験的アレルギー性脳脊髄炎(experimental allergic encephalomyelitis))のマウスモデルにおいて、最初に実証された(Smilekら (1991) Proc Natl Acad Sci USA 88 : 9633〜9637)。このモデルにおいて、EAEは、MBP(ミエリン塩基性タンパク質(myelin basic protein))の脳炎誘発性ペプチドAc1-11による免疫によって誘導される。アラニン残基による4位(リジン)における置換により、ペプチドが生成され、このペプチドは、その制限要素(restricting element)(Aαuu)にはよく結合したが、感受性PL/JxSJLF1系統において非免疫原性であり、さらに、脳炎誘発性ペプチドによる免疫の前または後のいずれかに投与された場合、EAEの発症を防止した。したがって、T細胞の種々の機能を誘導するペプチドの能力に影響する残基をペプチド中に同定することができる。
【0090】
有利には、ペプチドは、T細胞増殖、および脱感作の誘導に有利であるように設計することができる。MetzlerおよびWraithは、ペプチド-MHC親和性を増大させる置換がなされたペプチドの免疫寛容誘発能の向上を実証している(MetzlerおよびWraith(1993) Int Immunol 〜 : 1159〜65)。改変されたペプチドリガンドが、クローン化T細胞において、長期間のかつ強いアネルギーを引き起こし得ることが、Sloan-Lancasterら (1993) Nature 363: 156〜9によって実証された。
【0091】
本発明の組成物は、アレルゲンに感作されている個体において遅発型反応を誘導することができる場合がある。用語「遅発型反応」は、Allergy and Allergic Diseases (1997) A. B. Kay (編), Blackwell Science, 1113〜1130頁に示されている意味を含む。遅発型反応は、任意の遅発型反応(LPR)であってもよい。ペプチドは、遅発型喘息反応(late asthmatic response)(LAR)もしくは遅発型鼻炎反応(late rhinitic response)または遅発型皮膚反応(late phase skin response)もしくは遅発型眼球反応(late phase ocular response)を誘導することができる場合があることが好ましい。特定のペプチドがLPRを生じさせ得るか否かは、当該技術分野で周知の方法を用いて判定することができる。特に好ましい方法は、Cromwell O, Durham SR, Shaw RJ, Mackay JおよびKay AB, Provocation tests and measurements of mediators from mast cells and basophils in asthma and allergic rhinitis, 於:Handbook of Experimental Immunology (4) 127章, 編集者:Weir DM, Blackwell Scientific Publications, 1986に記載されている方法である。
【0092】
したがって、本発明の個々のペプチドは、アレルゲンに感作された個体において、LPRを誘導することができることが好ましい。アレルゲンに個体が感作されているか否かは、周知の手順、例えばアレルゲン抽出物溶液を用いる皮膚プリックテスト、皮膚LPRの誘導、病歴、アレルゲン負荷、およびアレルゲン特異的IgEの測定のための放射性アレルゲン吸着試験(radioallergosorbent test)(RAST)などによって、判定することができる。特定の個体が治療の利益を受けると期待されるか否かは、例えばかかる試験に基づき、医師が判定することができる。
【0093】
アレルゲンに対して個体を脱感作または寛容化することは、適切に感作された個体において、アレルゲンによって誘導されるアレルギー性組織反応を抑制することまたは弱めることを意味する。T細胞は、選択的に活性化することができ、その後非応答性にすることができることが示されている。さらに、こうしたT細胞をアネルギー化すること(anergising)またはなくすことは、特定のアレルゲンに対して患者を脱感作することにつながる。脱感作は、アレルゲンまたはアレルゲン由来ペプチドの二度目の投与およびさらなる投与の際に、そのアレルゲンまたはアレルゲン由来ペプチドに対する応答の減少、または好ましくはかかる応答の消失として現れる。二度目の投与は、脱感作を起こさせるために、適切な期間が経過した後にすることができ、この期間は、1日〜数週間の任意の期間であることが好ましい。約2週間の間隔が好ましい。
【0094】
本発明の組成物は、イネ科草本アレルギーの個体においてLPRを誘導することができる場合があるが、組成物が患者を治療するために使用される場合、次の(好ましくはより多い)用量を与えることができるように、観察可能なLPRは起こらないがその反応がT細胞を部分的に脱感作するのに十分となるように、十分に低い濃度の組成物が使用されることが好ましいこと等を理解するべきである。このようにして、完全な脱感作は与えるが、大抵は患者においてLPRを誘導することがないように、用量を増大させる。とはいえ、該組成物またはペプチドは、投与されるよりも高い濃度でそのようにすることが可能である。
【0095】
本発明の組成物は、集団からのイネ科草本アレルギーの個体のパネルの50%以上において、遅発型反応を誘導することができる場合がある。より好ましくは、組成物は、パネルにおける感作された個体の55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上または90%以上において、LPRを誘導することができる。組成物が、対象のパネルの特定のパーセンテージでLPRを誘導することができるか否かは、当該技術分野で周知の方法によって判定することができる。
【0096】
本発明のペプチドは、MHCクラスIIが結合するのに必要な最低限の必要不可欠な配列である中核部の9個のアミノ酸からなるT細胞エピトープを含むことが理解されるであろう。しかしながら、該ペプチドはまた、中核部の9個のアミノ酸に隣接するさらなる残基も含み得る。したがって、該ペプチドは、エピトープの機能に影響を及ぼすことなしにいくつかの残基が修飾され得る、T細胞エピトープ含有領域を含み得る。したがって、上に定義したペプチドの機能的変異体は、その溶解度を天然配列のペプチドと比較して向上させるように改変されたペプチドを含む。溶解度の不十分な薬剤を対象に投与すると、望ましくない非寛容化炎症反応を引き起こすため、溶解度の向上は、本発明のペプチドが由来するアレルゲンに対して対象を寛容化するのに有利である。ペプチドの溶解度は、T細胞エピトープを含む領域に隣接する残基を改変することによって、向上させることができる。本発明のペプチドは、それが
i)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のN末端側:ペプチドが由来するタンパク質の配列中の前記残基のすぐN末端側の2個〜6個の連続したアミノ酸に対応する1個〜6個の連続したアミノ酸;および/または
ii)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のC末端側:ペプチドが由来するタンパク質の配列中の前記残基のすぐC末端側の1個〜6個の連続したアミノ酸に対応する1個〜6個の連続したアミノ酸;または
iii)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のN末端側およびC末端側の双方:アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸から選択される少なくとも1種のアミノ酸
を含むように、より溶解性を高くするよう操作することができる。
【0097】
任意選択で、さらに、ペプチドは、
i)ペプチドの天然配列中の任意のシステイン残基が、セリンもしくは2-アミノ酪酸で置換され;かつ/または
ii)ペプチドの天然配列のN末端もしくはC末端における3つまでのアミノ酸の中の、T細胞エピトープに含まれていない任意の疎水性残基が欠失し;かつ/または
iii)ペプチドの天然配列のN末端もしくはC末端における4個までのアミノ酸の中の配列Asp-Glyを含む、T細胞エピトープに含まれていない任意の2つの連続したアミノ酸が欠失し;かつ/または
iv)1つ以上の正に荷電した残基が、N末端および/もしくはC末端に付加する
ように、より溶解性を高くするよう操作することができる。
【0098】
溶解度を向上させるように操作されたペプチドの例は、実施例8に記載したRye 09BおよびTim07Bである。溶解度の向上した変異体を、表8に示す。すなわち、ペプチドRye 09B1(配列番号91)、KPEVKYAVFEAALTKAIT;Rye 09B2(配列番号92)、KKPEVKYAVFEAALTKAIT、Tim 07B1(配列番号93)、KKIPAGELQIIDKIDA、Tim 07B2(配列番号94)、KKIPAGELQIIDKIDAKは、溶解度の向上した変異体の好ましい例である。したがって、配列番号91〜94は、本発明の組成物における上記天然ペプチドの代用物として、優先的に使用することができる。
【0099】
核酸およびベクター
本発明の組成物および製品を構成する個々のペプチドは、直接投与してもよく、またはコード配列からの発現により間接的に投与してもよい。例えば、本発明のペプチドの組み合わせ、例えば上記のペプチドのいずれかの組み合わせなどをコードするポリヌクレオチドを提供することができる。したがって、本発明のペプチドの組み合わせは、それをコードし、かつ発現することができるポリヌクレオチドから製造することができ、また該ポリヌクレオチドの形態で送達することができる。本発明のペプチドの組み合わせの使用、送達または投与への本明細書におけるどの言及も、それをコードするポリヌクレオチドからの発現を介した、かかるペプチドの組み合わせの間接的な使用、送達または投与を含むことを意図したものである。
【0100】
したがって、本発明は、発現されると、前述した寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するのに適する組成物の産生をもたらす、少なくとも1種のポリヌクレオチド配列を含む、寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用する組成物を提供する。
【0101】
本発明はまた、前述したa)〜h)のポリペプチドまたはこれらの変異体をコードする4種以上の異なるポリヌクレオチドを含む製品も提供し、ここで異なるコードされたポリペプチドは、それぞれ、ヒトにおけるイネ科草本アレルギーの予防または治療において同時に、別々にまたは(of)連続的に使用するためのものである。
【0102】
用語「核酸分子」および「ポリヌクレオチド」は、本明細書において互換的に使用され、任意の長さの重合体形態のヌクレオチド、すなわちデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはこれらの類似体のいずれかをいう。ポリヌクレオチドの非限定的な例としては、遺伝子、遺伝子断片、メッセンジャーRNA(mRNA)、cDNA、組換えポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマーが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドは、単離された形態または精製された形態で提供することができる。
【0103】
選択されたポリペプチドを「コードする」核酸配列は、適切な制御配列の制御下に置かれたときに、インビボで転写され(DNAの場合)、ポリペプチドへと翻訳される(mRNAの場合)核酸分子である。コード配列の境界は、5'(アミノ)末端の開始コドンおよび3'(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決まる。本発明では、かかる核酸配列には、ウイルス、原核生物または真核生物のmRNAに由来するcDNA、ウイルスまたは原核生物のDNAまたはRNAに由来するゲノム配列、さらには合成DNA配列さえも含めることができるが、これらに限定されない。転写終結配列は、コード配列の3'側に位置し得る。
【0104】
本発明のポリヌクレオチドは、Sambrookら(1989, Molecular Cloning - a laboratory manual; Cold Spring Harbor Press)において例として記載された当該技術分野で周知の方法に従って、合成することができる。
【0105】
本発明のポリヌクレオチド分子は、挿入された配列に機能できるように連結された制御配列を含み、したがって標的とする対象においてインビボで本発明のペプチドが発現することを可能にする、発現カセットの形態で提供することができる。典型的には、こうした発現カセットは、核酸免疫用試薬としての使用に適したベクター(例えばプラスミドまたは組換えウイルスベクター)の中に入れて提供される。かかる発現カセットは、宿主対象に直接投与することができる。あるいは、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを、宿主対象に投与することができる。ポリヌクレオチドは、遺伝子ベクターを用いて調製し、かつ/または投与することが好ましい。適切なベクターは、十分な量の遺伝情報を運ぶことができ、本発明のペプチドを発現させることができる、任意のベクターであり得る。
【0106】
したがって、本発明には、かかるポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターが含まれる。すなわち、本発明は、本発明の異なるポリペプチドをコードする4種以上のポリヌクレオチド配列を含み、任意に、本明細書中で定義した異なるポリペプチドをコードする1種以上のさらなるポリヌクレオチド配列を含む、寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するベクターを提供する。ベクターは、本発明の異なるポリペプチドをコードする4種、5種、6種または7種のポリヌクレオチド配列を含み得る。ベクターは、上記の配列番号1〜27から選択されるポリペプチドまたはその変異体をコードする第一のポリヌクレオチド配列、および上記の配列番号28〜73から選択されるポリペプチドまたはその変異体をコードする第二のポリヌクレオチド配列を含むことが好ましい。この(第一の)ベクターは、第一のベクターによってコードされない本発明の異なるポリペプチドのコード配列を提供する1種以上の他のベクターと組み合わせて使用することができる。
【0107】
さらに、本発明の組成物および製品は、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの混合物を含み得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、ポリペプチドのいずれか1種の代わりに、該ポリペプチドを発現することができるポリヌクレオチドが存在する、本明細書において定義した組成物または製品を提供する。
【0108】
発現ベクターは、分子生物学の技術分野で日常的に構築されており、例えば、プラスミドDNA、ならびに本発明のペプチドを発現させるために、必要な場合があり、かつ正しい配向で位置している適切なイニシエータ、プロモーター、エンハンサーおよび他の要素、例えばポリアデニル化シグナルなどの使用を必要とするものであってもよい。他の適切なベクターは、当業者に明らかである。このことに関するさらなる例として、本発明者らはSambrookらを引用する。
【0109】
したがって、かかるベクターを細胞に送達し、そのベクターからの転写を起こさせることにより、本発明のポリペプチドを提供することができる。好ましくは、ベクターの中の本発明のまたは本発明に使用するためのポリヌクレオチドは、宿主細胞によるコード配列の発現をもたらすことができる制御配列に、機能できるように連結されている。すなわちこのベクターは、発現ベクターである。
【0110】
「機能できるように連結された(operably linked)」は、そのように記載された構成成分が、その通常の機能を果たすように構成されている、構成要素の配置を指す。したがって、核酸配列に機能できるように連結されたプロモーターなどの所与の制御配列は、適切な酵素が存在する場合、その配列の発現をもたらすことができる。プロモーターは、その配列の発現を導くように機能する限り、その配列と連続している必要はない。したがって、例えば、翻訳されないが転写はされる介在配列がプロモーター配列と核酸配列との間に存在し得、プロモーター配列は、それでもなおコード配列に「機能できるように連結されている」と見なすことができる。
【0111】
多くの発現系が当該技術分野において記述されており、それらはそれぞれ、典型的には、発現制御配列に機能できるように連結された目的の遺伝子またはヌクレオチド配列を含むベクターからなる。これらの制御配列には、転写プロモーター配列ならびに転写開始配列および転写終結配列が含まれる。本発明のベクターは、例えば、複製起点を備え、任意に前記ポリヌクレオチドの発現のためのプロモーターを備え、任意にプロモーターのレギュレーターを備える、プラスミドベクター、ウイルスベクターまたはファージベクターであってもよい。「プラスミド」は、染色体外遺伝因子の形態のベクターである。ベクターは、1種以上の選択マーカー遺伝子、例えば細菌プラスミドの場合のアンピシリン耐性(resistence)遺伝子、または真菌ベクターについての耐性遺伝子を含むことができる。ベクターは、例えばDNAまたはRNAを産生するためにインビトロで使用することができ、または宿主細胞、例えば哺乳動物宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換するために使用することができる。ベクターはまた、例えばポリペプチドをインビボで発現させるために、インビボで使用されるように適合させることもできる。
【0112】
「プロモーター」は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始および調節するヌクレオチド配列である。プロモーターには、誘導性プロモーター(この場合、プロモーターに機能できるように連結されたポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補因子、調節タンパク質などによって誘導される)、抑制可能なプロモーター(この場合、プロモーターに機能できるように連結されたポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補因子、調節タンパク質などによって抑制される)、および構成的プロモーターが含まれ得る。用語「プロモーター」または「制御要素」は、全長のプロモーター領域、およびこうした領域の機能的(例えば転写または翻訳を制御する)部分を含むことを意図したものである。
【0113】
本発明によるポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクターは、さらにシグナルペプチド配列を含むことができる。一般に、シグナルペプチド配列は、シグナルペプチドが発現されるようにプロモーターに機能できるように連結して挿入され、やはりプロモーターに機能できるように連結したコード配列によってコードされるポリペプチドの分泌を促進する。
【0114】
典型的には、シグナルペプチド配列は、10個〜30個のアミノ酸、例えば15個〜20個のアミノ酸のペプチドをコードする。これらのアミノ酸は、大部分が疎水性であることが多い。典型的な状況では、シグナルペプチドは、そのシグナルペプチドを有する成長するポリペプチド鎖を発現細胞の小胞体に向ける。シグナルペプチドは、小胞体内で切り離され、ゴルジ体を通じてポリペプチドを分泌させる。したがって、本発明のペプチドは、個体内の細胞からの発現およびこうした細胞からの分泌によって、個体に提供することができる。
【0115】
あるいは、本発明のポリヌクレオチドを、適切な方法で発現させ、抗原提示細胞の表面において、MHCクラスII分子によって、本発明のペプチドを提示させることができる。例えば、本発明のポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクターは、抗原提示細胞に向けられる場合があり、またはコードされたペプチドの発現が、かかる細胞において、優先的に刺激され、または誘発される場合がある。
【0116】
実施態様によっては、ポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクターはアジュバントをコードすることとなり、またはアジュバントはその他の方法で提供されることとなる。本明細書中で使用される場合、用語「アジュバント」は、特異的にまたは非特異的に抗原特異的免疫応答を改変し、高め、方向づけ、方向を変え、増強し、または開始することができる任意の物質または組成物をいう。
【0117】
目的のポリヌクレオチドは、本発明のペプチドを産生させる際に、インビトロ、エクスビボまたはインビボで使用することができる。かかるポリヌクレオチドは、寛容化によるアレルギーの予防または治療において、投与または使用することができる。
【0118】
遺伝子送達の方法は、当該技術分野で知られている。例えば、米国特許第5,399,346号、第5,580,859号および第5,589,466号を参照されたい。核酸分子は、例えば標準的な筋肉内注射または皮内注射;経皮的粒子送達;吸入;局所または経口、鼻腔内投与方法または粘膜投与方法などによって、レシピエント対象内に直接的に導入することができる。あるいは、該分子は、対象から取り出された細胞中にエクスビボで導入することができる。例えば、本発明のポリヌクレオチド、発現カセットまたはベクターは、エクスビボで個体のAPC内に導入することができる。目的の核酸分子を含む細胞は、核酸分子によってコードされるペプチドに対して免疫応答が開始され得るように、対象内に再導入される。かかる免疫化に使用される核酸分子は、概して、本明細書において「核酸ワクチン」という。
【0119】
本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、実質的に単離された形態で存在し得る。これらは、これらの意図された使用を妨げない担体または希釈剤と混合することができ、それでもなお実質的に単離されていると見なすことができる。これらはまた、実質的に精製された形態とすることもでき、この場合、これらは、製剤のタンパク質、ポリヌクレオチド、細胞または乾燥質量の概ね少なくとも90%、例えば少なくとも95%、98%または99%を構成することとなる。
【0120】
抗原提示細胞(APC)
本発明は、本発明のペプチドをその表面上に提示し、その後に治療に使用され得るAPC集団の産生方法のインビトロの使用を包含する。かかる方法は、患者から得られた細胞の試料で、エクスビボで実施することができる。したがって、このようにして産生されたAPCは、寛容化によるイネ科草本アレルギーの治療または予防に使用することができる医薬品を形成する。この細胞は、個体の免疫系に認容されるはずである。なぜならば、該細胞は、その個体に由来するからである。したがって、このようにして産生された細胞の、それがもともと得られた個体への送達は、本発明の治療に関する実施態様を形成する。
【0121】
製剤および組成物
本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび細胞は、単独でまたは組み合わせて、個体に提供することができる。本発明の分子または細胞は、それぞれ、単離された形態、実質的に単離された形態、精製された形態または実質的に精製された形態で、個体に提供することができる。例えば、他のペプチドを実質的に含まない本発明のペプチドを、個体に提供することができる。あるいは、標準的なペプチドカップリング試薬を用いて、組成物中の4種以上のペプチドを、一緒に化学的にカップリングさせ、好ましいエピトープを含む単一のペプチドを提供することができる。かかるペプチドは、個々のペプチドのようにヒスタミン放出がないことを確証するために、好塩基球のヒスタミン放出について、スクリーニングする。さらなる実施態様において、組成物中の4種以上のペプチドは、単一のポリペプチド鎖の一部として、すなわちコードするポリヌクレオチドから組換え手段によって、提供することができる。4種以上のペプチドは、連続するように融合させることができ、あるいは適切なリンカーによって分離することができる。
【0122】
本発明によるペプチド、ポリヌクレオチドまたは組成物は、未加工の形態で提供することが可能であり得るが、これらを医薬製剤として提供することが好ましい。したがって、本発明のさらなる態様によれば、本発明により、1種以上の薬学的に許容される担体または希釈剤および任意に1種以上の他の治療成分とともに、本発明による組成物、ベクターまたは製品を含む、寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用する医薬製剤が提供される。担体(1種または複数)は、製剤の他の成分と適合性があり、そのレシピエントに有害ではないという意味で、「許容される」ものでなければならない。典型的には、注射用担体および最終的な製剤は、無菌であり、発熱物質を含まない。担体または希釈剤は、チオグリセロールであることが好ましい。
【0123】
本発明のペプチド、ポリヌクレオチドまたは細胞を含む組成物の製剤化は、標準的な医薬製剤化学および方法論を利用して行うことができ、これらはすべて当業者に容易に利用できる。
【0124】
例えば、1種以上の本発明の分子または細胞を含む組成物を、1種以上の薬学的に許容される賦形剤またはビヒクルと組み合わせることができる。賦形剤またはビヒクルの中には、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質が存在していてもよい。これらの賦形剤、ビヒクルおよび補助物質は、一般に、組成物を受ける個体において免疫応答を誘導しない製薬用薬剤であり、過度の毒性なしで投与することができる。薬学的に許容される賦形剤としては、水、生理食塩水、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、チオグリセロールおよびエタノールなどの液体が挙げられるが、これらに限定されない。その中に、薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸塩も含めることができる。薬学的に許容される賦形剤、ビヒクルおよび補助物質の詳細な考察は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co., ニュージャージー州 1991)において入手できる。
【0125】
かかる組成物は、ボーラス投与または継続投与に適した形態で、調製し、包装し、または販売することができる。注射用組成物は、アンプルなどの単位投薬形態、または保存剤を含む複数回投与容器を用いて、調製し、包装し、または販売することができる。組成物としては、懸濁液、溶液、油性または水性のビヒクルを用いたエマルション、ペースト、および埋め込み型の徐放性製剤または生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。かかる組成物は、懸濁剤、安定化剤または分散剤を含むがこれらに限定されない、1種以上のさらなる成分をさらに含んでいてもよい。非経口投与用組成物の1つの実施態様において、有効成分は、適切なビヒクル(例えば無菌の発熱物質を含まない水)を用いて再構成するための乾燥した(例えば粉末または顆粒)形態で提供されてから、再構成された組成物が非経口投与される。医薬組成物は、無菌の注射用の水性もしくは油性の懸濁液もしくは溶液の形態で、調製し、包装し、または販売することができる。この懸濁液または溶液は、公知の技術に従って製剤化することができ、活性成分に加えて、本明細書中で記載した分散剤、湿潤剤または懸濁剤などのさらなる成分を含んでいてもよい。かかる無菌の注射製剤は、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒、例えば水または1,3-ブタンジオールなどを用いて調製することができる。他の許容される希釈剤および溶媒としては、リンガー溶液、等張塩化ナトリウム溶液、および合成モノグリセリドまたはジグリセリドなどの不揮発性油が挙げられるが、これらに限定されない。有用な他の非経口的に投与できる(parentally-administrable)組成物としては、微結晶形態で、リポソーム製剤で、または生分解性高分子系の構成成分として、活性成分を含む組成物が挙げられる。徐放用組成物または埋め込み用組成物は、エマルション、イオン交換樹脂、難溶性のポリマーまたは難溶性の塩などの薬学的に許容されるポリマー材料または疎水性材料を含んでいてもよい。
【0126】
あるいは、本発明のペプチドまたはポリヌクレオチドは、粒子状担体に封入し、吸着させ、または結合させることができる。適切な粒子状担体としては、ポリメチルメタクリレートポリマーに由来する粒子状担体、ならびにポリ(ラクチド)およびポリ(ラクチド-コ-グリコリド)に由来するPLG微粒子が挙げられる。例えば、Jefferyら(1993)Pharm. Res. 10:362〜368を参照されたい。他の粒子状の系およびポリマー、例えば、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリオルニチン、スペルミン、スペルミジンなどのポリマー、ならびにこれらの分子の結合体も使用することができる。
【0127】
本明細書において言及したどのペプチド、ポリヌクレオチドまたは細胞の製剤も、物質の性質および送達方法などの要因に依存することになる。かかる物質は、いずれも種々の投薬形態で投与することができる。それは、経口で(例えば錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水性もしくは油性の懸濁液、分散性の散剤もしくは顆粒剤として)、局所的に、非経口的に、皮下に、吸入により、静脈内に、筋肉内に、胸骨内に(intrasternally)、経皮的に、皮内に、舌下に、鼻腔内に(instranasally)、口腔内に、または点滴技術によって、投与することができる。該物質はまた、坐剤として投与することもできる。医師は、特定の個体ごとに必要とされる投与経路を決定することができる。
【0128】
本発明の組成物または製剤は、有害反応を引き起こすことなく有効であるように、適切な濃度の各ペプチド/ポリヌクレオチド/細胞を含むことになる。典型的には、組成物中の各ペプチドの濃度は、0.03〜200 nmol/mlの範囲内となる。より好ましくは、0.3〜200 nmol/ml、3〜180 nmol/ml、10〜150 nmol/ml、5〜200 nmol/mlまたは30〜120 nmol/mlの範囲内となる。組成物または製剤は、95%もしくは98%よりも高い純度、または少なくとも99%の純度を有するべきである。
【0129】
本発明の1つの態様において、本発明のポリペプチド/ポリヌクレオチド/細胞と組み合わせて、アジュバントを使用することができる。アジュバントは、本発明のポリペプチド/ポリヌクレオチド/細胞の効果を増強するのに十分な量で投与することが好ましく、その逆も同様である。アジュバントまたは他の治療剤は、本発明の分子の効果を増強する薬剤であってもよい。例えば、該他の薬剤は、本発明のペプチドまたは細胞に対する応答を高める免疫調節性分子すなわちアジュバントであってもよい。
【0130】
したがって、1つの実施態様において、本発明のペプチド、ポリヌクレオチド、細胞または組成物は、1種以上の他の治療剤と組み合わせて、治療に使用される。これらの薬剤は、別々に、同時に、または連続的に投与することができる。これらの薬剤は、同一の組成物または異なる組成物中に入れて投与することができる。したがって、本発明の方法においては、さらなる治療剤を用いて、対象を治療することもできる。
【0131】
したがって、本発明の分子および/または細胞を含み、1種以上の他の治療用分子も含む組成物を製剤化することができる。あるいは、本発明の組成物は、併用療法の一部としての1種以上の他の治療用組成物と、同時に、連続的に、または別々に使用することができる。
【0132】
アジュバントの非限定的な例としては、ビタミンD、ラパマイシン、ならびにデキサメタゾン、フルチカゾン、ブデソニド、モメタゾン、ベクロメタゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾンおよびトリアムシノロンなどのグルココルチコイドステロイド薬が挙げられる。好ましいグルココルチコイドは、デキサメタゾンである。
【0133】
治療方法および治療される個体
本発明は、上記のアレルゲンに対してヒトの個体を脱感作または寛容化することができ、したがってイネ科草本アレルギーの治療または予防に有用なペプチド、ポリヌクレオチド、ベクターおよび細胞に関する。本発明は、寛容化によるイネ科草本アレルギーの予防または治療に使用するための組成物、製品、ベクターおよび製剤を提供する。本発明の組成物は、アレルギーの個体のアレルギー症状を減少させ、またはアレルギーの個体の状態を改善するために、使用することができる。本発明はまた、単独または組み合わせのいずれかで、上記の本発明のポリペプチド/ポリヌクレオチド/細胞を投与することを含む、イネ科草本アレルギーの個体の寛容化方法または脱感作方法も提供する。
【0134】
本発明の組成物もしくは製剤により治療され、または該組成物もしくは製剤を提供される個体は、ヒトであることが好ましい。治療される個体は、アレルゲンに感作されているか、感作される危険性があるか、または感作されている疑いがあることがわかっているものであってもよいことが理解されるであろう。個体は、当該技術分野で周知の技術および本明細書中で記載した技術を用いて、感作について試験することができる。あるいは、個体は、イネ科草本アレルギーの家族歴を有するものであってもよい。個体は、イネ科草本に曝露されるとアレルギー症状を示し得るため、イネ科草本に対する感作について個体を試験することは必要ではないことがある。曝露によって、例えば、イネ科草本植物、またはイネ科草本植物に由来する物質もしくは製品、または上記のいずれかを含む(containing)かもしくは含む(comprising)物質もしくは製品に近接することが意味される。典型的には、イネ科草本植物に由来する物質または製品は、イネ科草本花粉である。近接によって、上記の物品から10メートル以下、5メートル以下、2メートル以下、1メートル以下または0メートルが意味される。アレルギー症状としては、目のかゆみ、鼻水、呼吸困難、赤い皮膚のかゆみまたは発疹を挙げることができる。
【0135】
治療される個体は、どのような年齢のものであってもよい。しかしながら、個体は、好ましくは1〜90歳、5〜60歳、10〜40歳、またはより好ましくは18〜35歳の年齢群に入っていてもよい。
【0136】
治療される個体は、白人集団に代表的な頻度の範囲内のMHCアレル頻度を有する集団に由来していることが好ましい。11個の一般的なDRB1アレルファミリーについて基準集団のアレル頻度を表Aに示す(データは、HLA Facts Book, ParhamおよびBarberより)。
【0137】
【表2】

【0138】
基準頻度は、頻度を報告する複数の研究の解析によって得られたものであり、示した数値は、平均値である。したがって、治療される個体は、表Aで言及したアレル(少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、またはすべてのアレルなど)について、基準集団と同等のMHCアレル頻度、例えばそれらの数値プラスまたはマイナス1%、2%、3%、5%、10%、15%または20%の範囲内のアレル頻度を有する集団に由来することが好ましい。
【0139】
個体は、次のDRB1アレルのアレル頻度が、
4:少なくとも9%
7:少なくとも10%
11:少なくとも8%
である集団に由来することが好ましい。
【0140】
個体は、少なくとも2週間、1箇月間、6箇月間、1年間または5年間、イネ科草本アレルギーを有していたものであってもよい。個体は、アレルギーによって引き起こされる発疹、鼻づまり、鼻汁および/または咳嗽で苦しんでいるものであってもよい。個体は、イネ科草本アレルギーを治療する他の組成物/化合物を投与されていたものであってもよく、投与されていなかったものであってもよい。個体は、
・温帯気候、および/または
・約3.5、4もしくは4.5から約5.5、6、7もしくは8までの範囲内の典型的な土壌pH;および/または
・1年につき約9 cm以上、10 cm以上、11 cm以上、12 cm以上、13 cm以上、14 cm以上、15 cm以上、16 cm以上、17 cm以上、18 cm以上、19 cm以上もしくは20 cm以上、かつ1年につき約180 cm以下、250 cm以下、300 cm以下、400 cm以下もしくは500 cm以下の平均年間降水量;および/または
・約-5℃以上、-4℃以上、-3℃以上、-2℃以上、-1℃以上、0℃以上、1℃以上、2℃以上、3℃以上、4℃以上もしくは5℃以上の年間最低気温、および/または
・約35℃以下、約30℃以下、約29℃以下、約28℃以下、約27℃以下、約26℃以下、約25℃以下、約24℃以下、約23℃以下もしくは約22℃以下の年間最高気温
を有し;かつ/または
・北緯約30°と南緯約30°との間に位置する、
地理的領域に住んでいるものであってもよい。
【0141】
典型的には、個体は、特定の季節にイネ科草本アレルギーを患っている。この季節は、典型的にはイネ科草本の開花期に相当し、これは、典型的には、夏、好ましくは初夏(例えば北半球では5月〜6月)または晩夏(例えば北半球では8月〜10月)である。典型的には、イネ科草本アレルギーの個体は、イネ科草本花粉アレルギーである。
【0142】
併用免疫療法
多くの個体は、いくつかのポリペプチド抗原に対して、アレルギーがあり、または脱感作することが必要であり得るため、本発明は、複数の抗原に対してアレルギーがある個体を脱感作する手段も提供する。個体において、最初のポリペプチド抗原またはアレルゲンに対して誘導される「寛容」は、その個体において、他の抗原に対する寛容を提供するために、他の抗原に対する不適切な免疫応答を下方制御することができる「寛容原性環境(tolerogenic environment)」をつくり出し得る。
【0143】
この知見は、複数のアレルゲンに対してアレルギーがある個体は非常に短縮された期間で治療することができること、およびいくつかのアレルゲン(例えばピーナッツ)に対するアレルギーが重篤であるが、他のアレルゲン(例えばネコ鱗屑)に対してはアレルギーがより穏やかである個体は、より穏やかなアレルゲンに対する寛容を確立させ、次いでこの寛容原性環境を使用して、他のより強烈なアレルゲンに対する寛容を提供する治療法から利益を享受し得ること、を意味する。また、自己免疫障害を患い、さらに無関係の抗原もしくはアレルゲンに感作された(またはその他の方法で免疫された)個体は、その無関係の抗原またはアレルゲンに対する寛容を最初に確立させ、次いでこの寛容原性環境を使用して、自己免疫障害と関連する自己抗原に対する寛容を提供する治療計画から利益を享受し得る。
【0144】
したがって、上記のイネ科草本アレルゲンおよび1種以上のさらなる異なるポリペプチド抗原に対するイネ科草本アレルギーの個体の脱感作方法が提供される。この方法は、最初の工程において、本明細書中に記載した本発明による組成物/製品/製剤(一次組成物)を個体に投与することを必要とし、この投与は、イネ科草本アレルゲンに対する低応答性状態を生じさせるのに十分な様式で行われる。イネ科草本アレルゲンに対する低応答性状態が確立された後、または少なくとも脱感作に向かう変化が起こった後、該方法では、個体が感作されるべき第二の異なるポリペプチド抗原を含む二次組成物の投与が必要となる。二次組成物の投与は、一次組成物の使用によって確立された寛容原性環境を利用するように行われ、このとき、これで、第二の異なるポリペプチド抗原に対する寛容を確立することが可能となる。二次組成物は、最初の一次組成物またはイネ科草本アレルゲン(単数または複数)のより大きな断片のいずれかと同時投与される。「同時投与される」によって、同時(simultaneous)投与または同時(concurrent)投与のいずれかが意味され、例えば、それらの2つのものが、同一の組成物中に存在するか、またはほぼ同時に、しかし異なる部位において、別個の組成物として投与される場合であり、および異なる時間に別個の組成物としてポリペプチド抗原を送達することである。例えば、二次組成物は、最初の組成物の送達の前または後に、同一の部位または異なる部位において、送達することができる。送達間のタイミングは、約数秒間隔から約数分間隔の範囲にわたってもよく、約数秒間隔から数時間間隔の範囲にわたってもよく、約数秒間隔から数日間隔の範囲にまでもわたってよい。さらに、異なる送達方法を使用してもよい。
【0145】
適切なアレルゲンの種類としては、イエダニアレルゲン、花粉、動物鱗屑(特にネコ鱗屑)、イネ科草本、カビ、ダスト、抗生物質、刺咬昆虫毒、ならびに種々の環境アレルゲン(化学物質および金属を含む)、薬物アレルゲンおよび食物アレルゲンが挙げられるが、これらに限定されない。一般的な樹木アレルゲンとしては、ハコヤナギ、ポプラ(popular)、セイヨウトネリコ、カバノキ、カエデ、オーク、ニレ、ヒッコリー、およびペカンの樹木に由来する花粉が挙げられ;一般的な植物アレルゲンとしては、ヨモギ、ブタクサ、ヘラオオバコ、スイバ(sorrel-dock)およびアカザに由来するものが挙げられ;植物接触アレルゲンとしては、有毒オーク、ツタウルシおよびイラクサに由来するものが挙げられ;一般的なイネ科草本アレルゲンとしては、ホソムギ、オオアワガエリ、ジョンソングラス(Johnson)、ギョウギシバ(Bermuda)、ウシノケグサおよびイチゴツナギのアレルゲンが挙げられ;一般的なアレルゲンは、アルテルナリア属(Alternaria)、フザリウム属(Fusarium)、ホルモデンドラム属(Hormodendrum)、アスペルギルス属(Aspergillus)、ミクロポリスポラ属(Micropolyspora)、ムコール属(Mucor)および好熱性放線菌などのカビまたは真菌からも得ることができ;表皮性アレルゲンは、ハウスダストもしくは有機粉塵(典型的には真菌由来)、または羽毛およびイヌ鱗屑などの動物源から得ることができ;一般的な食物アレルゲンとしては、牛乳およびチーズ(乳製品)、卵、コムギ、ナッツ(例えばピーナッツ)、海産食品(例えば甲殻類)、エンドウマメ、マメならびにグルテンのアレルゲンが挙げられ;一般的な環境アレルゲンとしては、金属(ニッケルおよび金)、化学物質(ホルムアルデヒド、トリニトロフェノールおよびテレビン油)、ラテックス、ゴム、繊維(綿または羊毛)、バーラップ、染毛剤、化粧品、洗剤および香料のアレルゲンが挙げられ;一般的な薬物アレルゲンとしては、局所麻酔薬およびサリチル酸塩のアレルゲンが挙げられ;抗生物質アレルゲンとしては、ペニシリン、テトラサイクリンおよびスルホンアミドのアレルゲンが挙げられ;一般的な昆虫アレルゲンとしては、ハチ毒、スズメバチ毒およびアリ毒、ならびにゴキブリ腎杯(calyx)のアレルゲンが挙げられる。特によく特徴づけられたアレルゲンとしては、主要なネコアレルゲンFel d 1、ハチ毒ホスホリパーゼA2(PLA)(Akdisら (1996) J. Clin. Invest. 98:1676〜1683)、カバノキ花粉アレルゲンBet v 1(Bauerら(1997) Clin. Exp. Immunol. 107:536〜541)、およびエピトープが複数の組換えイネ科草本アレルゲンrKBG8.3(Caoら (1997) Immunology 90:46〜51)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
特に好ましいT細胞エピトープは、アレルゲン:ネコ鱗屑タンパク質Fel d 1;チリダニタンパク質Der p 1、Der p 2およびDer p 7;ブタクサタンパク質amb a 1.1、amb a 1.2、amb a 1.3またはamb a 1.4;ホソムギタンパク質Lol p 1およびLol p 5;オオアワガエリタンパク質Phl p 1およびPhl p 5;ギョウギシバタンパク質Cyn d 1;アルテルナリア・アルテルナータ(Alternaria alternate)タンパク質Alt a 1、Alt a 2およびエノラーゼ(Alt a 6);カバノキタンパク質Bet v 1およびP14;チャバネゴキブリタンパク質Bla g 1、Bla g 2、Bla g 3、Bla g 4、Bla g 5およびBla g 6;ヨモギ(Mugwort)タンパク質Art v 1;ロシアアザミ(Russian thistle)タンパク質Sal k 1およびSal k 2;ピーナッツAra h 1、Ara h 2、Ara h 3、Ara h 4、Ara h 5、Ara h 6、植物プロフィリンもしくは脂質輸送タンパク質、またはヒト白血球抗原、に由来するものである。
【0147】
これらの適切なアレルゲンおよび他の適切なアレルゲンは、市販されており、かつ/または以下の公知の技術に従って、抽出物として、容易に調製することができる。
【0148】
好ましくは、第二のポリペプチドアレルゲンは、イネ科草本アレルゲンまたはイネ科草本アレルゲン断片であり、より具体的には、以下のデータベースのアクセッション番号(NCBI Entrezアクセッション番号)によってインデックス化されたイネ科草本アレルゲン配列のリストから選択されるイネ科草本アレルゲンまたはイネ科草本アレルゲン断片である。NCBIは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology information)であり、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の一部門である。データベースへのアクセスを求めることができるNCBIのウェブサイトは、www.ncbi.nlm.nih.gov/である。アレルゲンの配列は、データベースのアクセッション番号によってインデックス化されている。
75232277 Dac g 1、75139988 Dac g 1、75232276 Dac g 1、33149335 Dac g 1、33149333 Dac g 1、75163303 Dac g 5、75163399 Dac g 5、75163400 Dac g 5、14423124 Dac g 5、14423122 Dac g 5、14423120 Dac g 5、1171005 Hol l 1、3860384 Hol l 1、414703 Hol l 1、1167836 Hol l 1、1085628 Hol l 1、2266625 Hol l 5、2266623 Hol l 5、75172041 Hol l 5、75098038 Hol l 5、75098037 Hol l 5、11991229 Hol l 5、2266623 Hol l 5、2506771 Hor v 1、282991 Hor v 1、75219009 Hor v 5、126385 Lol p 1、168314 Lol p 1、6599300 Lol p 1、75274600 Lol p 1、168316 Lol p 1、3210053 Lol p 1、3210049 Lol p 1、3210047 Lol p 1、3210050 Lol p 1、3210044 Lol p 1、3210043 Lol p 1、3210041 Lol p 1、3210039 Lol p 1、3210037 Lol p 1、3210036 Lol p 1、3210035 Lol p 1、3210034 Lol p 1、3210033 Lol p 1、3210032 Lol p 1、3210030 Lol p 1、100636 Lol p 1、320616 Lol p 1、320614 Lol p 1、100638 Lol p 1、100636 Lol p 1、320614 Lol p 1、100637 Lol p 1、126386 Lol p 2a、126387 Lol p 3、2498581 Lol p 5 a、4416516 Lol p 5 a、485371 Lol p 5 a、100639 Lol p 5 a、3409495 Lol p 5 a、3409494 Lol p 5 a、3409493 Lol p 5 a、3409489 Lol p 5 a、3409488 Lol p 5 a、3409487 Lol p 5 a、3409486 Lol p 5 a、3409484 Lol p 5 a、3409483 Lol p 5 a、3409481 Lol p 5 a、3409479 Lol p 5 a、3409478 Lol p 5 a、3409477 Lol p 5 a、3409476 Lol p 5 a、3409475 Lol p 5 a、3409474 Lol p 5 a、3409473 Lol p 5 a、3409472 Lol p 5 a、3409471 Lol p 5 a、3409470 Lol p 5 a、3409469 Lol p 5 a、3409468 Lol p 5 a、3409467 Lol p 5 a、3409466 Lol p 5 a、3409456 Lol p 5 a、3209999 Lol p 5 a、3210002 Lol p 5 a、3210003 Lol p 5 a、3210004 Lol p 5 a、3210005 Lol p 5 a、3210006 Lol p 5 a、3210007 Lol p 5 a、3210008 Lol p 5 a、3210009 Lol p 5 a、3210010 Lol p 5 a、3210011 Lol p 5 a、3210012 Lol p 5 a、3210013 Lol p 5 a、3210014 Lol p 5 a、3210015 Lol p 5 a、3210017 Lol p 5 a、3210018 Lol p 5 a、3210019 Lol p 5 a、3210020 Lol p 5 a、3210021 Lol p 5 a、3210022 Lol p 5 a、3210023 Lol p 5 a、3210024 Lol p 5 a、3210025 Lol p 5 a、3210026 Lol p 5 a、542129 Lol p 5 a、2498582 Lol p 5 b、3409457 Lol p 5 b、626028 Lol p 5 b、542131 Lol p 5 b、455288 Lol p 5 b、6634467 Lol p 5c、455288 Lol pアイソフォーム9、1582249 Lol p 11、さらなるロリウム属(Lolium)配列:135480;417103;687261;687259;1771355;2388662;631955;542131;542130;542129;100636;626029;542132;320616;320615;320614;100638;100634;82450;626028;100639;283345;542133;1771353;1763163;1040877;1040875;250525;551047;515377;510911;939932;439950;2718;168316;168314;485371;2388664;2832717;2828273;548867;3409458 Pha a 1、3210038 Pha a 1、2498576 Pha a 1、1246116 Pha a 1、3210031 Pha a 1、3210027 Pha a 1、3210028 Pha a 1、3210029 Pha a 1、82450 Pha a 1、409328 Pha a 1、2498580 Pha a 5、2498579 Pha a 5、2498578 Pha a 5、2498577 Pha a 5、1246120 Pha p 5、1246119 Pha p 5、1246118 Pha p 5、1246117 Pha p 5、3409480 Pha p 5、3409482 Pha p 5、3409490 Pha p 5、1171008 Phl p 1、28373838 Phl p 1、28373839 Phl p 1、473360 Phl p 1、3901094 Phl p 1、1582250 Phl p 1、75221090 Phl p 1、3210052 Phl p 1、3210046 Phl p 1、3210040 Phl p 1、629812 Phl p 1、481432 Phl p 1、1684718 Phl p 5、13430402 Phl p 5、3135501 Phl p 5、3135499 Phl p 5、3135497 Phl p 5、1684720 Phl p 5、40644796 Phl p 5、3309039 Phl p 5、3309041 Phl p 5、739542 Phl p 5、3309047 Phl p 5、3309045 Phl p 5、3309043 Phl p 5、3135503 Phl p 5、626037 Phl p 5、2851456 Phl p 5a、2398757 Phl p 5a、1092249 Phl p 5a、29500897 Phl p 5a、422005 Phl p 5a、3409492 Phl p 5a、2851457 Phl p 5b、481397 Phl p 5b、1096197 Phl p 5b、2398759 Phl p 5b、3409491 Phl p 5b;さらなるフレウム属(Phleum)配列:458878;548863;2529314;2529308;2415702;2415700;2415698;542168;542167;626037;542169;541814;542171;253337;253336;453976;439960;75267691 Poa p 1、4090265 Poa p 1、280414 Poa p 1、320620 Poa p 1、250525 Poa p 5、75172042 Poa p 5、113562 Poa p 9、113561 Poa p 9、113560 Poa p 9、729944 Zea m 1、115502168 Zea m 1b、11550238 Zea m 1d、115502167 Zea m 1c、122238295 Zea m 1、75272187 Zea m 1、115502389 Zea m 1、162459584 Zea m 1、89892723 Zea m 1、293902 Zea m 1、89892721 Zea m 1、114794319 Zea m 1、478272 Zea m 1。
【0149】
送達方法
本発明の組成物は、製剤化された後、種々の公知の経路および技術を用いて、インビボで対象に送達することができる。例えば、組成物は、注射用溶液、懸濁液またはエマルションとして提供することができ、通常の針および注射器を用いて、または液体ジェット式注射システムを用いて、非経口注射、皮下注射、表皮注射、皮内注射、筋肉内注射、動脈内注射、腹腔内注射、静脈内注射によって、投与することができる。組成物はまた、皮膚または粘膜組織に局所的に、例えば鼻腔内、気管内、腸管内(intestinal)、直腸内、または膣内などに投与することもでき、または呼吸器投与もしくは肺内投与に適した微細に分割された噴霧剤として提供することもできる。他の投与様式としては、経口投与、坐剤、舌下投与、および能動的または受動的な経皮送達技術が挙げられる。
【0150】
本発明のペプチドが投与される場合、そのペプチドが適切な抗原提示細胞と接触する能力を有することになり、かつこれまたはこれらが個体のT細胞と接触する機会を有することになる体内の部位に、ペプチドを投与することが好ましい。APCが投与される場合、そのAPCが個体の適切なT細胞と接触し、かつ該T細胞を活性化する能力を有することになる体内の部位に、APCを投与することが好ましい。
【0151】
送達レジメン
ペプチド/ポリヌクレオチド/細胞(例えば複数のペプチドを含む組成物など)の投与は、上記の任意の適切な方法によるものであってよい。ペプチドの適切な量は、実験的に決定することができるが、典型的には、下に示す範囲内である。各ペプチドの単回投与は、患者が有益な効果を有するのに十分であり得るが、ペプチドが1回よりも多く投与される場合、有益となり得ることが理解されるであろう。この場合、典型的な投与レジメンは、例えば、1週間に1回または2回を6箇月毎に2〜4週間、または1日1回を4〜6箇月毎に1週間のものであり得る。理解されるように、各ペプチドもしくはポリヌクレオチド、またはペプチドおよび/もしくはポリヌクレオチドの組み合わせは、単独で、または組み合わせて、患者に投与することができる。
【0152】
投与用量は、組成物の性質、投与経路ならびに投与レジメンのスケジュールおよびタイミングを含む、多くの要因に依存することとなる。本発明の分子の適切な用量は、投与1回あたり、およそ15 μgまで、20 μgまで、25 μgまで、30 μgまで、50 μgまで、100 μgまで、500 μgまで、またはそれよりも多い用量であり得る。適切な用量は、15 μg未満であり得るが、少なくとも1 ng、または少なくとも2 ng、または少なくとも5 ng、または少なくとも50 ng、または少なくとも(least)100 ng、または少なくとも500 ng、または少なくとも1 μg、または少なくとも10 μgであり得る。本発明のいくつかの分子については、使用される用量はより多くてもよく、例えば1 mgまで、2 mgまで、3 mgまで、4 mgまで、5 mgまで、またはより多い用量であってもよい。かかる用量は、選択された経路による投与に適切な容量を可能にするのに適した濃度で、液体製剤として、提供することができる。
【0153】
キット
本発明はまた、容器中にキットの形態で包装された、本発明の治療に使用するのに適した、本明細書中に記載した成分の組み合わせにも関する。かかるキットは、本発明の治療を可能にする一連の成分を含むことができる。例えば、キットは、本発明の1種以上の異なるペプチド、ポリヌクレオチドおよび/もしくは細胞、または本発明の1種以上のペプチド、ポリヌクレオチドもしくは細胞、ならびに同時投与もしくは連続的投与もしくは別々の投与に適した1種以上のさらなる治療剤を含むことができる。任意選択で、キットは、他の適切な試薬または使用説明書などを含むことができる。
【0154】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例】
【0155】
実施例1
MHCクラスII結合性調査
この研究の目的は、8種の最も一般的なヒトMHCクラスII HLA-DRB1*アロタイプに対して強い親和性を有するペプチドの別個のパネルを同定することである。主要なイネ科草本アレルゲンホソムギ(Rye)Lol p 1、ホソムギ(Rye)Lol p Va、Lol p Vb、Lol p 5aおよびLol p 5b、ギョウギシバ(Bermuda)Cyn d 1、ならびにオオアワガエリ(Timothy)Phl p 5の中の結合性ペプチドを同定するために、市販のEpiMatrixアルゴリズム(EpiVax Inc.)を使用して、「ペプチドスレディング(peptide threading)」として知られるインシリコのアプローチを用いた。これは、MHCクラスII HLA-DR分子の結合溝の内部に収容される可能性について、ある配列からのペプチドを生物情報学的に解析するものである。EpiMatrixは、選択されたMHC分子のそれぞれに結合する推定確率によって、任意のポリペプチド配列に由来する、8個のアミノ酸だけ重複する9アミノ酸長のセグメントをランク付けする、マトリクスに基づくアルゴリズムである。(De Grootら, AIDS Research and Human Retroviruses 13:539〜41 (1997))。マトリクスモチーフをつくり出す手順は、Schaferら, 16 Vaccine 1998 (1998)によって公開された。本実施例においては、HLA DR1、HLA DR3、HLA DR4、HLA DR7、HLA DR8、HLA DR11、HLA DR13およびHLA DR15について、結合可能性を評価する。タンパク質配列中の各9マーのフレームをスコア化することにより、推定MHCリガンドを選択する。このスコアは、9マーの配列を、各MHCアレルに結合することが知られているアミノ酸配列のマトリクスと比較することによって、得られる。遡及研究により、EpiMatrixが、公開されたMHCリガンドを正確に予測することが実証されている(Jesdaleら, 於Vaccines '97 (Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, ニューヨーク州, 1997))。複数のMHC分子に結合するペプチドをうまく予想することも確認されている。
【0156】
選択したMHC分子に結合する推定確率を、EpiMatrixにより、次のように計算する。既知のMHC結合物(binders)と比較して、各アミノ酸について、所与のMHCアレルに対する結合の相対的な促進または阻害を推定することにより、ペプチドをスコア化する。この情報を、ペプチド全体にわたって総計し、要約したスコア(EMXスコア)をペプチド全体に割り当てる。EpiMatrixは、EMXスコアを既知のMHCリガンドのスコアと比較した後、「推定結合確率(estimated binding probability)」(EBPと略記するが、厳密には確率ではない)に到達する。EBPは、所与のMHC分子に結合することになるほど高いか、またはより高いEpiMatrixスコアを有するペプチドの割合を記述するものである。EBPは、100%(結合する可能性が非常に高い)から1%未満(結合する可能性が非常に低い)の範囲にわたる。
【0157】
EpiMatrixによって解析したポリペプチド配列を表1に示す。
【0158】
【表3】

【0159】
これらの配列のEpiMatrix解析の結果に基づき、良好なMHC結合特性を有していると予測される中核的ペプチドを同定した。選択したペプチドを表2に示す。灰色でハイライトし、*の印を付けたペプチドは、選択したペプチドではない。これらのペプチドは、EpiMatrixで解析した元の配列に該当し、その後に続く選択されたペプチドはこの元の配列に由来している。例えば、Ber01は、Ber01 oriに由来している。
【0160】
【表4−1】

【0161】
【表4−2】

【0162】
【表4−3】

【0163】
【表4−4】

【0164】
N末端のグルタミン酸(E)残基またはグルタミン(Q)残基を有する上に示したペプチド(例えばRye 08A)は、いずれもこの残基をピログルタミン酸で置換して、製造の間に、ペプチドの機能に影響を及ぼすことなく、安定性を向上させることができる。典型的には、かかる置換を行ったペプチドを用いて、これらのペプチドのさらなる試験からのデータを得る。
【0165】
3種の既知のオオアワガエリの配列:オオアワガエリPhl p 1(NCBIアクセッション番号1N10A)、オオアワガエリPhl p Va(NCBIアクセッション番号Q40962)およびオオアワガエリPhl p Vb(アクセッション番号Q40963)の全配列に対して、さらなるEpiMatrix解析を行った。この解析により、良好なMHCクラスII結合性を有すると予測されるさらなる中核的ペプチド(およびその隣接配列)が同定された。これらの配列を、以下に、表3のA〜Cにおいて示す。それぞれの表において、「主要配列中の残基」は、解析した配列内のペプチドの位置を示す。中核的ペプチド(中央部の太字で強調したアミノ酸)によって、解析中に同定された実際の結合性配列が規定される。安定化する隣接部(flanks)(N末端およびC末端、太字ではない)は、中核的配列とともに使用するために含めたものであり、典型的にはペプチドの製造を助けるのに必要である。「ヒット数」は、試験したすべてのMHCの種類に対する、配列内の高い予測結合親和性の数をいう。「EpiMatrixクラスタースコア」は、クラスターの長さに対して正規化したヒット数から得られる。したがって、クラスタースコアは、無作為抽出のペプチド標準に対する、予測された凝集MHC結合特性の過剰または不足である。10を超えるスコアは、広範なMHC結合特性を示すものとみなされる。
【0166】
【表5】

【0167】
実施例2
相同性探索
MHCクラスII結合性として上で同定したそれぞれのペプチドの配列を使用して、親配列が由来するイネ科草本アレルゲングループの中の別のタンパク質の配列を探索した。例えば、ペプチドRye01は、Lol p 1に由来し、したがってRye01の配列を使用して、他のイネ科草本種、特にオオアワガエリに由来するグループ1における保存配列を探索した。この解析の結果を、示したホソムギ(Rye)Lol p 1の残基について、オオアワガエリPhl p 1およびギョウギシバ(Bermuda)Cyn d 1に由来する対応配列と比較して、以下に示す。
【0168】
【表6】

【0169】
同様に、示したホソムギ(Rye)Lol p 5の残基についての結果を、示したオオアワガエリPhl p5の変異体に由来する対応配列と比較して、以下に示す。
【0170】
【表7】

【0171】
実施例1で選択したホソムギ(Rye)の配列に対して高度に保存されたオオアワガエリタンパク質に由来する配列に基づき、これらの配列に由来するさらなるペプチドが良好なMHC結合特性を有するものと予測された。これらのさらなるペプチドを表4に示す。
【0172】
【表8】

【0173】
実施例3
インビトロの結合解析
MHCクラスIIに結合する可能性があると同定されたペプチドを、水性の酸性環境での溶解性についてプレスクリーニングし、ペプチドをインビトロMHCクラスII結合アッセイにおいて、試験する。
【0174】
方法
使用するアッセイは、競合的MHCクラスII結合アッセイであり、このアッセイでは、それぞれのペプチドを、調べるそれぞれのヒトMHCクラスIIアロタイプから既知の対照結合物(binder)を置換するその能力について、解析する。この研究で使用するアロタイプおよび対照ペプチドは、典型的には以下に示したものである。
【0175】
【表9】

【0176】
競合アッセイにおいて、表2〜4のペプチド(*の印を付けたものを除く)をそれぞれ解析し、対照ペプチドと比較した相対的結合性について、スクリーニングする。競合アッセイの性質に起因して、各ペプチドのデータは、対照ペプチドのIC50に対するそれ自体のIC50の比として測定する。したがって、対照ペプチドと同等のIC50値を有するペプチドは、同一の結合親和性を有するが、1未満の比を有するペプチドは、より高い親和性を有し、1よりも大きな比を有するペプチドは、より低い親和性を有する。
【0177】
水溶液中での溶解性は、ペプチドが効果的な治療剤であるための必須の基準である。したがって、溶解性スクリーニングの結果として、多数の結合性の記録における、大きな疎水性アミノ酸残基の頻度が高い、非常に疎水性の高いペプチドは、排除されることになる。このことは、雑多なHLA-DRB1*結合物(binders)の特徴である。1種以上のMHCクラスIIアロタイプに結合するペプチドを同定する。かかるペプチドは、MHC構造の相同性により、試験していない同様のアロタイプに結合する能力を有することが期待される。
【0178】
実施例4
以下の方法を、実施例3と同じペプチドに適用する。
【0179】
細胞増殖アッセイ
PBMC(試験するすべてのパラメータについて140×106個の細胞を要する)で、細胞増殖アッセイを行う。放射標識化合物3H-チミジンの取り込みによって、増殖を測定する。より詳細には、適切な抗原またはペプチドの濃縮物100 μlを、96ウェルプレートの適切なウェルの中に分配する。次いで、プレートを、37℃に設定したCO25%の加湿インキュベーターの中に、最長で4時間まで置く。上記の単離されたPBMCを、室温で、完全培地中2×106細胞/mlの濃度に調製する。次いで、抗原/ペプチドを含む96ウェルプレートの各ウェルの中に、細胞溶液100 μlを分配する。次いで、プレートを6〜8日間インキュベートする。各ウェルに、トリチウム化チミジンストック溶液(無血清RPMI培地中1.85 MBq/ml)10 μlを加えることによって、培養物をトリチウム化チミジン溶液でパルスする。次いで、プレートを8〜16時間インキュベーターに戻しておく。次いで、Canberra Packard FilterMate 196セルハーベスターを用いて、培養物を収集する。適切なβ線シンチレーションカウンターを用いて、乾燥させたろ過マットをカウントする。
【0180】
ペプチドを含むウェルからのカウントを、培地単独を含むウェル(1つの群につき12ウェル)と統計的に比較する。ノンパラメトリックマンホイットニー(Mann-Whitney)検定を使用する。すべての対象について、同じ統計的検定を使用する。培地のみのウェルとペプチドで刺激したウェルとの間の統計的に有意な差は、ペプチドによるPBMCの陽性刺激とみなす。
【0181】
実施例5
MHCクラスIIアレル(HLA DR01、HLA DR03、HLA DR04、HLA DR07、HLA DR08、HLA DR11、HLA DR13、HLA DR15)の少なくとも5/8に結合すると予測される1つ以上のエピトープを含む、実施例1のEpiMatrix解析によって同定した59種のペプチドを、さらなる研究のために選択した。多くの場合、エピトープは、これら8種のアレルすべてに結合すると予測されたものである。いくつかの配列は、同一または異なるMHCクラスIIアレルに結合する、2つ以上の重複するエピトープ、または重複しないが近接するエピトープを有するものであった。選択したペプチドを、下の表5Aおよび表5Bに示す。
【0182】
48のイネ科草本アレルギーの個体からの末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cells)(PBMC)を用いて、記載したインビトロT細胞サイトカイン放出アッセイにおいて、活性について、44種のペプチドを試験した。フィコール(Ficoll)密度勾配遠心分離によって、ヘパリン処置した血液から末梢血単核球(PBMC)を単離した。結果を表5Aに示す。28のイネ科草本アレルギーの対象において、別の群の15種のペプチドを試験した。表5Bに結果を示す。対象は、カナダのオンタリオ州のハミルトンおよび周辺の地域からのものであった。PBMC培養物の上清中のインターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン10(IL-10)およびインターロイキン13(IL-13)の産生の刺激について、ペプチドを試験した。
【0183】
サイトカイン放出アッセイ
ペプチド刺激に応答した、PBMCからのサイトカイン分泌プロフィールを解析した。ELISAアッセイを用いて、3種のサイトカイン、IFN-γ、IL-10およびIL-13の存在について、サイトカイン放出アッセイからの上清を試験した。多重ビーズアレイ(multiplex bead array)(Luminex Corporation)を用いて、3種のサイトカインすべての存在について、アッセイを行った。典型的には、サイトカイン放出アッセイでは、1対象あたり40×106個のPBMCを要した。より詳細には、200 μg/mlの適切な抗原またはペプチドの濃縮物の溶液250 μlを、48ウェルプレートの適切なウェルの中に分配した。次いで、プレートを、37℃のCO25%の加湿インキュベーターの中で、最長で4時間までインキュベートした。次いで、各ウェルに、5×106細胞/mlのPBMC懸濁液250 μlを加え、プレートを5日間インキュベーターに戻しておく。刺激した後、標準的なプロトコルに従って多重ビーズアッセイによって試験するために、培養物上清の試料を収集した。典型的には、試料は収集して3つのアリコートとし、ELISAアッセイを行うまで凍結させた。
【0184】
読み取りが、ペプチドを加えなかった対照ウェルの4倍よりも大きい場合、サイトカイン分泌の刺激についての陽性結果であると見なした。第一の群の48の対象のうちの18よりも多くの対象、または第二の群の28の対象のうちの9よりも多くの対象において、1種以上のサイトカインについて陽性の結果を示すペプチドを、イネ科草本アレルギーの治療に特に有用であると見なした。第一の群の48の対象において試験した44種のペプチドのうちの20種、および第二の群の28の対象において試験した15種のペプチドのうちの8種が、上記の基準を満たした。
【0185】
表5Aは、48の群からの3種のサイトカインについての陽性の数を示し、表5Bは、28の群からの3種のサイトカインについての陽性の数を示す。上に規定した基準を満たす好ましいペプチドは、太字で強調している。
【0186】
【表10−1】

【0187】
【表10−2】

【0188】
【表10−3】

【0189】
実施例6
個々のイネ科草本ペプチドのランク付けの基準
実施例5で使用した基準に基づいて、イネ科草本アレルギーの治療に特に有用であるとして選択した28種のペプチドを、それらの特徴を比較するために、さらに評価した。これは、各ペプチドについての3種全てのサイトカインに対して認められた累積的反応の計算、すなわち総スコア(3種のサイトカインについてのレスポンダー数の和)に関係するものである。物理的性質および化学的性質、特に溶解度、pIおよび疎水性指標(GRAVY)に基づいて、各ペプチドの医薬品開発の態様も考慮した。Epimatrixソフトウェアを使用して、MHCクラスII HLA DRアレルに対する結合強度も予測し、示した特定のMHCクラスII HLA DRアレルそれぞれについて、値を、高い(1%)親和性、中程度の(5%)親和性、および低い(10%)親和性として示した。
【0190】
14種の特に好ましいペプチドについてのこの解析の結果を、表6に示す。これらの特に好ましいペプチドに、イネ科草本アレルギーの治療についてのそれらの相対的有用性に関する本発明者らの評価に対応する1〜14の内部ランキングの順位を割り当てる。IFN-γ反応にいくらか重みを付け、主に総スコア(3種のサイトカインについてのレスポンダー数の和)に従って、14種のペプチドをランク付けした。上で概説したように、医薬品開発の態様およびMHCのカバー範囲も考慮に入れた。
【0191】
【表11】

【0192】
したがって、特に好ましいイネ科草本ペプチドのランキングの順位は、1、Ber01(配列番号1)、Cyn d 1;2、Tim07B(配列番号69)、Phl p 5;3、Bio04A(配列番号31)、Lol p 5;4、Rye09B(配列番号46)、Lol p 5;5、Ber02(配列番号2)、Cyn d 1;6、Ber02C(配列番号5)、Cyn d 1;7、Bio03A(配列番号29)、Lol p 5;8、Bio02A(配列番号28)、Lol p 5;9、Rye08A(配列番号43)、Lol p 5;10、Tim10B(配列番号53)、Phl p 5;11、Rye05C(配列番号35)、Lol p 5;12、Tim04A(配列番号27)、Phl p 1;13、Ber02B(配列番号4)、Cyn d 1;14、Tim07G(配列番号70)、Phl p 5である。
【0193】
驚くべきことに、最上位にランク付けされたペプチドBer01、および上位14種のうち3種の他のペプチド(Ber02、Ber02CおよびBer02B)は、ギョウギシバアレルゲンCyn d 1に由来するものであった。ギョウギシバは、熱帯気候および亜熱帯気候に適応した暖地型多年生種である。ギョウギシバは、長期間の高い気温、暖冬、および適度の降水量から高度の降水量の下で、最も良好に生育する。温度は、ギョウギシバの適応性を世界の熱帯地域および亜熱帯地域へ制限する、主要な環境因子である。ギョウギシバの北限は、低温が華氏10度よりも下に下がることがめったにない米国の移行地帯に及んでいる。このため、ギョウギシバアレルゲンは、カナダの対象によって認識される主要なアレルゲンではないと予想される。さらに、ペレニアルライグラスは、存在はするものの、カナダにおける最も一般的なイネ科草本ではなく、上位14種のペプチドのうち6種(Bio02A、Bio03A、Bio04A、Rye05C、Rye08A、Rye09B)は、ペレニアルライグラス(Perennial rye)アレルゲンに由来するものであった。
【0194】
下記は、カナダでよく見られるイネ科草本の種類についての概要である。カナダにおけるほとんどすべての飼料イネ科草本は、ヨーロッパの種の改良栽培品種である。土壌および気候条件に応じて、種々のイネ科草本が、カナダの種々の地域で生育するよう適応されている。オオアワガエリ(Phleum pratense)は、領域の乾燥地域の外側で最も広範に生育しているイネ科草本であり、カナダ東部における主要な飼料イネ科草本である。クレステッドホイートグラス(Agropyron cristatum)は、カナダ西部における主要な飼料イネ科草本である。カモガヤ(Dactylis glomerata)およびロシアワイルドライグラス(Russian wild ryegrass)(Elymus junceus)は、ブリティッシュコロンビア州における主要な飼料イネ科草本である。ブロムグラス(Bromegrass)(Bromus inermis)は、カナダ東部およびプレーリーで生育している。ケンタッキーブルーグラス(Poa pratensis)は、多くの地域で一般に生育している。プレーリーのイネ科草本に関しては、スリーアウングラス(3-awn grass)(Aristida longiseta)はブリティッシュコロンビア州の乾燥地域で見出され、ワイルドライス(Zizania aquatica)はカナダ東部の湖で見出される。ある種の属(例えばアルクタグロスティス属(Arctagrostis)およびアルクトフィラ属(Arctophila))は、カナダ北極圏原産のものである。望ましい特性、例えば生育の密集度、播種後の生育の速さ、緑色のままであり続ける能力、などを示す種から、芝草が開発される。カナダでは、耐寒性および頻繁な乾燥への耐性も重要である。一般的なカナダの芝草の混合物は、イチゴツナギ属(Poa)の種(例えばケンタッキーブルーグラス、オオスズメノカタビラ(roughstalk bluegrass))およびウシノケグサ属(Festuca)の種(特にオオウシノケグサ(creeping red fescue)、チューイングフェスク(chewing fescue))を含むことが多いが、他の有用な種が開発されている。
【0195】
カナダにおけるイネ科草本の諸種類の普及率に基づけば、カナダからのイネ科草本アレルギーの個体が、ギョウギシバおよびペレニアルライグラス(Perennial rye)に由来するペプチドに対し高度に応答性であるという観察結果は、予想外のものである。したがって、かかるペプチドは、世界中のイネ科草本アレルギーの個体の治療に広範な有用性を有する可能性を有する。さらに、一般に、高レベルの反応(すなわち高い総スコア)を誘導することがわかったペプチドは、通常「マイナーなアレルゲン」として記述されるアレルゲンタンパク質、例えばLol p 5およびPhl p 5に由来している。イネ科草本アレルギーの対象においてIgE抗体によって認識される主要なオオアワガエリアレルゲンおよびペレニアルライグラス(Perennial Rye)アレルゲンは、それぞれPhl p 1およびLol p 1である。アレルギーの個体におけるこれらの主要なアレルゲンに対する抗体の誘導は、T細胞依存性のプロセスであり、したがって、高レベルのT細胞反応を誘導するペプチドは、主としてPhl p 1およびLol p 1に由来することが予想される。
【0196】
実施例5で試験した59種のペプチドの群から上位14種のT細胞刺激性ペプチドを決定すること、特に組み合わせて最も最適に使用することができる上位8種のペプチドを同定することは、狭く、かつ特定の選択を必要とするものであった。莫大な数の、もともとあり得るペプチドの組み合わせから、狭いサブセットの組み合わせを同定した。上位14種にランク付けされたペプチドから8種のペプチドを選択することに関して、あり得る組み合わせの総数は3003である。この組み合わせの数(3003)は、73種のペプチドの元の群からの8種のペプチドのあり得る組み合わせ(13,442,126,049)のうちの、非常にわずかな割合を表している。したがって、上位8種にランク付けされるペプチドを偶然同定する可能性は、極めて低い。
【0197】
実施例7
イネ科草本ペプチドの組み合わせ
イネ科草本アレルギーの治療に最適なワクチンを同定することを目的として、表6における上位8種にランク付けされたペプチドからの選択に基づくペプチドの組み合わせを調べた。各混合物について、実施例5と同様に、サイトカインアッセイを行なった。表7に10個の最適な組み合わせについての結果を収載する。組み合わせ1は、最も最適な組み合わせであり、上位8種にランク付けされたペプチドすべてを含む。これらの特定の組み合わせは、実施例1および実施例2で元々スクリーニングされたペプチドのあり得る組み合わせの数のうちの、極めて小さな割合を表していることに留意すべきである。
【0198】
48のアレルギーの個体の研究群の大部分においてIFN-γ、IL-10およびIL-13の有意な放出を示したことに基づいて、最適なイネ科草本ワクチン混合物を選択した。したがって、好ましい個々のイネ科草本ペプチドを組み合わせて提供することで、MHCカバー範囲が増大し、イネ科草本ワクチンとして一般に有用な最適化された製品が提供される。最適なイネ科草本ワクチン混合物はまた、組み合わせ中の各ペプチドの物理的特性および化学的特性を含む製造上の考慮事項にも基づいて、選択した。
【0199】
【表12】

【0200】
組み合わせ:
1:Ber01;Ber02;Ber02C;Bio02A;Bio03A;Rye09B;Tim07B;Bio04A
2:Ber01;Ber02;Ber02C;Bio02A;Bio03A;Rye09B;Tim07B
3:Ber01;Ber02;Ber02C;Rye09B;Tim07B;Bio04A
4:Ber01;Ber02;Ber02C;Rye09B;Tim07B
5:Ber01;Ber02;Ber02C;Rye09B;Bio04A
6:Ber01;Ber02;Ber02C;Rye09B
7:Ber01;Ber02C;Bio03A;Rye09B;Tim07B;Bio04A
8:Ber01;Ber02C;Rye 09B;Tim07B
9:Ber01;Ber02C;Bio03A;Rye09B;Bio04A
10:Ber01;Ber02C;Bio03A;Rye09B
【0201】
組み合わせ1は、サイトカイン放出特徴に基づく最も最適な組み合わせであり、上位8種にランク付けされたペプチドをすべて含む。この組み合わせは、3種のイネ科草本アレルゲン、Cyn d1(Ber01;Ber02;Ber02C)、Lol p 5(Bio03A;Rye09B、Bio04A)およびPhl p 5(Tim07B)に由来するペプチドを提供するものである。したがって、該組み合わせは、特定のアレルゲンに曝露された際に、地域的バリエーション(regional variations)を無効にする(カナダの研究グループからのデータは、これが重要な要因ではないかもしれないことを示唆しているが)。
【0202】
特定の最適な組み合わせは、それぞれ実施例で元々スクリーニングされたペプチドのあり得る組み合わせの数のうちの、極めて小さな割合を表していることに留意されたい。例えば、上で概説したように、組み合わせ1の8種のペプチドの混合物は、実施例1および実施例2でスクリーニングされた73種のペプチドの13,442,126,049個のあり得る組み合わせのうちの1つを表すものである。最適な組み合わせは、それぞれ、39/48以上の個体において、IFN-γ、IL-10およびIL-13の有意な放出をもたらす。
【0203】
ペプチド数、および実施例6で同定された上位8種からのどの特定のペプチドが含まれているか、の双方における大幅な変動にもかかわらず、高度なMHCカバー範囲が組み合わせ2〜10で維持されていることは、注目に値する。4種のペプチドの混合物(組み合わせ10)の選択でさえもなお、IFN-γ反応については100%のカバー範囲、IL-10反応/IL-13反応については83%のカバー範囲を与えることがわかる。組み合わせ10は、ギョウギシバに由来する2種のペプチド、およびペレニアルライグラスに由来する2種のペプチドに基づく。かかる混合物で得られるカバー範囲は、カナダでこれらのイネ科草本が普及していないこと、およびイネ科草本アレルギーの個体においてIgE抗体によって認識される主要なアレルゲンであるLol p 1に由来するペプチドが含まれていない事実、の双方を考慮すると、驚くべきものである。
【0204】
実施例8
溶解度の改良
上位8種のペプチドのうちの2種、Rye09BおよびTim07Bを、向上させることが可能な溶解度特性を有するものとして同定した(表6参照)。溶解度を向上させるために、ペプチドのN末端またはC末端における1種以上のリジン残基を利用して、種々の類似体を設計した。ペプチドをEpimatrixソフトウェアで評価して、修飾がペプチド内のT細胞エピトープに影響を及ぼしていないこと、および新規エピトープ(neoepitope)をつくり出していないことを確実にした。Rye09B(Rye09B1およびRye09B2)ならびにTim07B1およびTim07B2)について、2種の変異体ペプチドを選択した。これらの配列を、溶解度の値とともに表8に示す。Rye09Bの変異体は、溶解性が天然ペプチドの2倍ある。Tim07Bの変異体は、天然ペプチドの20倍を越える溶解性がある。双方の変異体は、溶解度の向上に加えて、10対象の群で試験したところ、T細胞のサイトカイン放出を誘導するそれらの能力も保持していた。したがって、Rye09BおよびTim07Bのこれらの変異体は、例えば治療用ワクチンに使用するイネ科草本ペプチドの任意の混合物において、天然ペプチドの好ましい代替物である。
【0205】
【表13】

【0206】
実施例9
好ましいイネ科草本ワクチンの選択
試験的製造時に、上記の組み合わせ1に存在する最上位にランク付けされたペプチドのうちの1種のペプチド(Bio03A)は、ひと続きの5個の連続した疎水性アミノ酸を有しているために、製造することが困難であることがわかった。イネ科草本ワクチンにBio03Aを含めないことの影響を評価するにあたり、48対象について、組み合わせ1に存在する残り7種の最上位にランク付けされたペプチドの全体としてのカバー範囲を解析した。この7種のペプチドの混合物(Ber01、Ber02、Ber02C、Bio02A、Rye09B、Tim07BおよびBio04A)において、Tim07BおよびRye07Bは、任意選択で、向上した溶解度を有する変異体Tim07B1およびRye07B1に置換される。
【0207】
Bio03Aを含む8種の存在するペプチドにより、47/48の対象(IL-10)、41/48の対象(IL-13)および48/48の対象(IFN-γ)が、陽性のサイトカイン反応を示した。それに比べて、Bio03Aを除く7種の存在するペプチドでは、47/48の対象(IL-10)、40/48の対象(IL-13)および48/48の対象(IFN-γ)が、陽性のサイトカイン反応を示した。そのため、製造のためにイネ科草本ワクチンにBio03Aを含めないことの影響はほとんどないと結論づけた。
【0208】
上記のペプチドの組み合わせの反応特性を、オオアワガエリ、ペレニアルライグラスおよびギョウギシバの花粉を含む一体的なイネ科草本花粉抽出物(Greer Laboratories)、およびさらなる陽性対照のマイトジェンSEBと比較した。一体的なイネ科草本花粉抽出物は、11/48(IL-10)、42/48(IL-13)および43/48(IFN-γ)においてサイトカイン反応を誘導し、一方、他の陽性対照のマイトジェンSEBは、47/48(IL-10)、48/48(IL-13)および48/48(IFN-γ)において反応を誘導した。したがって、7種のペプチドの混合物は、一体的なイネ科草本アレルゲンの場合と同様に、同様の割合の集団において、強いサイトカイン反応をもたらす。
【0209】
好ましい7種のペプチドのイネ科草本ワクチン用ペプチドBer01、Ber02、Ber02C、Bio02A、Rye09B、Tim07BおよびBio04Aの選択はまた、相同性の考慮に基づくものでもあった。これらの7種のペプチドの配列を種々のイネ科草本の間で比較すると、多くの場合、かなりの相同性があり、イネ科草本アレルギーの個体が、これらのペプチドに反応する可能性が増大する。これは、その優勢なアレルギー反応がギョウギシバ(Bermuda)、オオアワガエリまたはペレニアルライグラス(Perennial rye)以外のイネ科草本に対するものである対象においてさえも、これらのペプチドが有用性を有していることを意味している。上記の7種のペプチドの、他のイネ科草本に由来する相同配列は、上に配列番号74〜90として示している。例えば、Ber01ペプチドは、9マーのエピトープFGAMAKKGQを含み、これは、多数の他の一般的なイネ科草本において、密接な相同体を有する。
【0210】
さらに、該7種のワクチンペプチドは、3種の最もよく見られるイネ科草本(オオアワガエリ、ペレニアルライグラスおよびギョウギシバ)に由来するグループ1アレルゲンおよびグループ5アレルゲンの双方に由来しており、他の一般的なイネ科草本(カモガヤ(Orchard)、シラゲガヤ(Velvet)、ケンタッキーブルーグラス(Kentucky blue)およびカナリークサヨシ(Canary))に対する完全なまたは有意な相同性を有するエピトープを含んでいる。したがって、この7種のペプチド配列は、イネ科草本花粉アレルギーの個体のカバー範囲を最大限にし、ワクチンをすべてのイネ科草本花粉アレルギーの個体の治療に適したものにしている。
【0211】
実施例10
ヒスタミン放出アッセイ
このアッセイの目的は、実施例9の好ましい7種のペプチドの組み合わせが、治療の間にアレルギー反応を引き起こし得るヒスタミン放出をもたらす血中好塩基球(組織マスト細胞の代わりとして)を活性化することができるかどうかを同定することであった。頻繁にヒスタミン放出を誘導するペプチドの組み合わせは、ペプチドワクチンとしての使用に適さないと見なされる場合がある。
【0212】
ヒスタミン放出には、好塩基球の表面での隣接する特異的IgE分子の架橋が必要である。評価するペプチドは、小さく(10〜18アミノ酸長)、そのため該ペプチドがその分子全体のIgE結合性エピトープの立体配座を保持することを可能にする、有意な三次構造は有しないはずである。さらに、溶液中のペプチド単量体は、IgEによって結合されている場合であっても、隣接するIgE分子を架橋できるものであってはならない。イネ科草本アレルギーの対象から得た末梢全血から単離した末梢血好塩基球からのヒスタミン放出を評価した。アッセイをするには実際的ではない組織マスト細胞の代わりとして、末梢血好塩基球を使用した。アッセイには、1対象あたり3×106個の末梢血単核球(PBMC)が必要であった。PBMCを、実施例9の組み合わせた7種のイネ科草本ペプチドとともに、インビトロでインキュベートした。オオアワガエリ、ペレニアルライグラスおよびギョウギシバの花粉を含む一体的なイネ科草本花粉アレルゲン抽出物(Greer Laboratories)に応答したヒスタミン放出を、対照として含めた。各アッセイにおいて、細胞を2回凍結/解凍することによって生じさせた、総ヒスタミン放出を表す陽性対照も含めた。
【0213】
ELISAによってヒスタミン濃度を測定し、陽性対照に対する割合(陽性対照に対する%)として結果を表した。Immunotechヒスタミン放出イムノアッセイ(Immunotech Histamine Release Immunoassay)キットを製造業者の使用説明書に従って用いて、アッセイを行った。マイクロタイタープレートのウェルにおいて、PBMCに、ペプチド、ペプチド混合物、一体的なアレルゲン、または緩衝液をインビトロで負荷した後、上清を取り出し、試料中のヒスタミンをアシルヒスタミンに転換させた。アシル化した試料を競合的アシルヒスタミンELISAによって試験した。
【0214】
ペプチドを、ヒスタミン放出を誘導するその能力について、5 log10の範囲(1〜10,000 ng/mL)にわたってアッセイした。アッセイした濃度範囲は、治療の間に達成され得るペプチドの理論的なインビボ用量に基づいて選択した。皮内注射によるペプチドの送達に基づけば、ペプチド1種につき最大で10 μg/mLまでの高い局所的ペプチド濃度が存在し得る。可能性は低いが、全用量が血流に注入され得る危険性がある。この可能性が低い事象では、5リットルの血液量に入る各ペプチドの最大臨床用量20 μg(12ナノモル)は、理論上の最大血中濃度4.0 ng/mLをもたらすことになる。この濃度は、ヒスタミン放出アッセイの用量範囲の下限であり、このアッセイで使用した最大濃度よりも2000倍低い。
【0215】
10〜100,000 ng/mLの5 log10の範囲にわたるヒスタミン放出の対照として、オオアワガエリ、ペレニアルライグラスおよびギョウギシバの花粉を含む、一体的なイネ科草本アレルゲンの調製物(Greer Laboratories)を使用した。自発的なヒスタミン放出についての陰性対照を、細胞を緩衝液のみに入れてインキュベートすることによって、生じさせた。
【0216】
各希釈溶液について、単一の測定を行った。ELISAが完了した後、ELISAアッセイで作成した検量線から、内挿法によって、個々のヒスタミンレベルを決定した。希釈度を考慮に入れるように、試料からの結果を調整した。ペプチド/アレルゲン調製物の2つ以上の連続希釈溶液が、凍結解凍した陽性対照において見られた総ヒスタミン放出の15%よりも多く(陽性対照の15%よりも多く)を誘発した場合、または試験した最も高い濃度(ペプチドについて10 μg/mL)で陽性対照の15%よりも大きい単一の値が得られた場合、これを「陽性のヒスタミン放出」とみなした。
【0217】
研究の間に、合計45回のヒスタミン放出アッセイを完了させた。これらのうち、培養液プラス緩衝液の陰性対照のウェルにおける容認し難いほど高いレベル(15%を超える)のヒスタミン放出に起因して、また陽性対照のウェルにおいて全く反応がなかったことに起因して、3回のアッセイを排除した。そのため、合計42の対象を解析に含めた。研究の所見を表9にまとめている。
【0218】
【表14】

【0219】
一体的なイネ科草本アレルゲンの調製物は、100 ug/mLで、32/42(76%)の対象において15%以上のヒスタミン放出を誘導した。一体的なアレルゲンは、最も低い濃度の10 ng/mLでさえも、21/42の個体(50%)において、高レベルのヒスタミン放出を誘導した。
【0220】
対照的に、7種のペプチドの組み合わせは、各ペプチドが10 μg/mLで存在した、データを示していない最も高い濃度でさえ、試験した42対象のいずれにおいても、著しいヒスタミン放出を誘発できなかった。これは、過半数の対象において非常に高いレベルのヒスタミン放出を依然として示す一体的なアレルゲンの濃度(10 ng/mL)よりも、1000倍高い濃度である。したがって、7種のペプチドの組み合わせでは、非常に感受性の高い個体においてさえも、IgE媒介性反応を引き起こす可能性は無視できる。
【0221】
イネ科草本ワクチンの臨床的投与後のあり得るペプチド濃度と比較した、このアッセイで試験した大過剰のペプチド用量を考慮すると、7種のペプチドの組み合わせの投与では、IgE媒介性もしくは直接的なペプチド媒介性の好塩基球またはマスト細胞の活性化および脱顆粒による著しいヒスタミン放出は引き起こされないことが予想される。ヒスタミン放出のデータは、7種のペプチドの組み合わせが、好塩基球の活性化を誘導せず、従ってイネ科草本アレルギーの個体において、全身的に、または皮膚において局所的に、IgE媒介性急性アレルギー反応を誘導する可能性が非常に低いことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)、Tim 10B(KYTVFETALKKAITAMSE)、Tim 04A(WGAIWRIDTPDKL)、Tim 07G(FKVAATAANAAPANDK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)、Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)およびBer 02B KDSDEFIPMKSSWGAIWRの少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、Bio02A(KYDAYVATLTEALR)、Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)、Rye 08A(ETYKFIPSLEAAVKQAY)、Rye 05C(NAGFKAAVAAAANAPPK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体
[前記変異体は、
I)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列であって、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる配列を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)、(b)もしくは(c)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物。
【請求項2】
a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体、
b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)またはその変異体、および
c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)またはその変異体
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)Tim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体;
(b)Ber01(SGKAFGAMAKKGQED)またはその変異体;
(c)Bio04A(LKKAVTAMSEAEK)またはその変異体;
(d)Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)またはその変異体;
(e)Ber02(FIPMKSSWGA)またはその変異体;
(f)Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)またはその変異体;
(g)Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)またはその変異体;および
(h)Bio02A(KYDAYVATLTEALR)またはその変異体
[前記変異体は、
I)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列を含む、30アミノ酸長までのより長いポリペプチド、または
II)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列と少なくとも65%の相同性を有する配列であって、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる配列を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド;または
III)(a)〜(h)で特定された対応するポリペプチドの配列の少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは前記少なくとも9個連続したアミノ酸と少なくとも65%の相同性を有する配列(この少なくとも9個連続したアミノ酸の配列、もしくは相同配列は、前記対応するポリペプチドに対して寛容化することができる)を含む、9〜30アミノ酸長のポリペプチド
である]
から選択される少なくとも4種の異なるポリペプチドを含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するのに適した組成物。
【請求項4】
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)およびBer02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、ye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、Bio02A(KYDAYVATLTEALR)およびBio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)の少なくとも1種、またはこれらのいずれかの変異体;ならびに
(a)上で選択されなかったb)またはc)の少なくとも1種のさらなるポリペプチド
を含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)またはその変異体、ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)またはその変異体、ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)またはその変異体、および上で選択されなかったb)またはc)の少なくとも1種のさらなるポリペプチドを含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
上で先に選択されなかった、表2〜4に示された配列番号1〜73のいずれかの1種以上のポリペプチドまたはその変異体をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
・集団におけるイネ科草本花粉アレルギーの個体のパネルの少なくとも50%もしくは少なくとも60%を寛容化することができ、かつ/または
・少なくとも1種のさらなるポリペプチドを合計で14種の異なるポリペプチドまで含み、さらなるポリペプチドが、
(a)上で選択されなかった配列番号1〜73のいずれか中の少なくとも9個以上連続したアミノ酸と少なくとも65%の配列同一性を有する配列を含み;
(b)9〜30アミノ酸長のものである、
先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
9〜20アミノ酸長または13〜17アミノ酸長のものである前記ポリペプチドを少なくとも1種含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
表7に示した組み合わせ1〜10のいずれか1つのポリペプチドを含み、任意に、前記ポリペプチドの1種以上を、1の(I)または(II)で定義されたその変異体に置換することができる、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
ポリペプチド:
(a)Tim07B1(KKIPAGELQIIDKIDA);
(b)Ber01(SGKAFGAMAKKGQED);
(c)Bio04A(LKKAVTAMSEAEK);
(d)Rye09B1(KPEVKYAVFEAALTKAIT);
(e)Ber02(FIPMKSSWGA);
(f)Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK);および
(g)Bio02A(KYDAYVATLTEALR)
を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
1種以上のポリペプチドが、以下のもの:
(i)N末端のアセチル化;
(ii)C末端のアミド化;
(iii)アルギニンおよび/またはリジンの側鎖アミンの1つ以上の水素のメチレン基による置換;
(iv)グリコシル化;ならびに
(v)リン酸化
から選択される1つ以上の修飾を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
ペプチドの少なくとも1種が、
(i)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のN末端側:ペプチドが由来するタンパク質の配列中の前記残基のすぐN末端側の2個〜6個の連続したアミノ酸に対応する1個〜6個の連続したアミノ酸;および/または
(ii)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のC末端側:ペプチドが由来するタンパク質の配列中の前記残基のすぐC末端側の1個〜6個の連続したアミノ酸に対応する1個〜6個の連続したアミノ酸;または
(iii)T細胞エピトープに隣接するペプチド残基のN末端側およびC末端側の双方:アルギニン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸およびアスパラギン酸から選択される少なくとも1種のアミノ酸
を含むように、溶解性にするよう操作されており、
該ポリペプチドが少なくとも3.5 mg/mlの溶解度を有し、T細胞エピトープが3.5 mg/ml未満の溶解度を有する、
先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
ペプチドの少なくとも1種が、さらに
(i)ペプチドの天然配列中の任意のシステイン残基が、セリンもしくは2-アミノ酪酸で置換され;かつ/または
(ii)ペプチドの天然配列のN末端もしくはC末端における3つまでのアミノ酸の中の、T細胞エピトープに含まれていない疎水性残基が、欠失し;かつ/または
(iii)ペプチドの天然配列のN末端もしくはC末端における4個までのアミノ酸の中の配列Asp-Glyを含む、T細胞エピトープに含まれていない任意の2つ連続したアミノ酸が、欠失し;かつ/または
(iv)1つ以上の正に荷電した残基が、N末端および/もしくはC末端に付加される
ように、溶解性にするよう操作されている、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
各ポリペプチドが、0.03〜200 nmol/ml、0.3〜200 nmol/ml、50〜200 nmol/mlまたは30〜120 nmol/mlの範囲内の濃度を有する、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項15】
発現すると、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物の産生をもたらす少なくとも1種のポリヌクレオチド配列を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するための組成物。
【請求項16】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の異なるポリペプチドをそれぞれコードする4種以上のポリヌクレオチド配列を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するためのベクター。
【請求項17】
(a)ポリペプチドTim07B(KIPAGELQIIDKIDA)、Tim10B(KYTVFETALKKAITAMSE)、Tim 04A(WGAIWRIDTPDKL)、Tim 07G(FKVAATAANAAPANDK)、または請求項1の(I)もしくは(II)で定義したこれらのいずれかの変異体;
(b)ポリペプチドBer01(SGKAFGAMAKKGQED)、Ber02(FIPMKSSWGA)、Ber02C(KSSWGAIWRIDPKKPLK)およびBer02B KDSDEFIPMKSSWGAIWRの少なくとも1種、または請求項1の(I)もしくは(II)で定義したこれらのいずれかの変異体;ならびに
(c)ポリペプチドBio04A(LKKAVTAMSEAEK)、Rye09B(PEVKYAVFEAALTKAIT)、およびBio02A(KYDAYVATLTEALR)、Bio03A(KFIPTLVAAVKQAYAAKQ)、Rye 08A(ETYKFIPSLEAAVKQAY)、Rye 05C(NAGFKAAVAAAANAPPK)の少なくとも1種、または請求項1の(I)もしくは(II)で定義したこれらのいずれかの変異体
を含み、それぞれの異なるポリペプチドが、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に、同時に、別々に、または連続的に使用するためのものである、製品。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物;請求項16に記載のベクター;または請求項17に記載の製品;および薬学的に許容される担体もしくは希釈剤を含む、寛容化によるイネ科草本花粉アレルギーの予防または治療に使用するための医薬製剤。
【請求項19】
経口投与、局所投与、鼻腔内投与、皮下投与、舌下投与、皮内投与、口腔内投与、表皮投与もしくは貼付剤投与、または吸入による投与もしくは注入による投与のために製剤化された、請求項18に記載の組成物、ベクターまたは製品。
【請求項20】
さらなるポリペプチドアレルゲンに対する個体の寛容化に使用するためのさらなるポリペプチドアレルゲンをさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物、または請求項17に記載の製品。
【請求項21】
T細胞が請求項1〜14のいずれか1項に記載の組成物を認識するかどうかのインビトロでの判定方法であって、前記T細胞を前記ポリペプチドに接触させ、前記T細胞が前記ポリペプチドによって刺激されるかどうかを検出することを含む、方法。
【請求項22】
個体が、イネ科草本花粉アレルギーを有しているか、または有する危険性があるかどうかを判定するために行なわれる、請求項21に記載の方法。


【公表番号】特表2012−516693(P2012−516693A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548765(P2011−548765)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000198
【国際公開番号】WO2010/089554
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(509330965)サーカッシア リミテッド (7)
【Fターム(参考)】