説明

ワックス状材料及びオルガノポリシロキサンを含むパーソナルケアエマルジョン

本発明はパーソナルケア、ヘルスケア又はハウスホールドケア組成物に用いられる水性エマルジョンを提供する。このエマルジョンは少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を少なくとも1重量%及び該ワックス状材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを少なくとも1重量%含む。エマルジョンは、10℃未満の融点を有し、溶融時に該ワックス状材料と混和性であり、5:95〜95:5の範囲内の油対ワックス状材料の重量比で存在する油も含有する。これは低温で安定なエマルジョンを得ることを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックス状材料を含有する、スキンケア及びヘアケア組成物、化粧品並びにトイレタリーのような、パーソナルケア組成物に関する。ワックス状材料、とくに植物性バターは、パーソナルケア組成物にますますよく使われている。植物性バターは、その主成分(一般的には90%超)がトリグリセリドである植物由来の脂質である。それらは多官能性成分と見なされ、皮膚軟化剤、保湿剤、乳化剤又は潤滑剤として用いられる。とくに、本発明はオルガノポリシロキサン(シリコーン)及びワックス状材料を含有するパーソナルケア組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性バターは、とくにエマルジョンに高濃度で用いる場合、それらの結晶化挙動のため化粧品及び他のパーソナルケア組成物の製剤者にとって問題を引き起こし得る。結晶化は温度がバターの融点未満まで降下すると起こり得る。これらのバターのいくつかは室温に近い又はこれより少し高い融点を有する。所定のバターの結晶化傾向は主にその化学構造、その濃度、その融点及びその多形性に依存している。化粧品産業では、化粧品製品のその貯蔵寿命中のコンシステンシー及び質感の維持が重要である。これらの特性は完成品の品質と関連する。これらの用途に用いられるバターは脂質結晶ネットワークの形成を促進する傾向を有する。これはエマルジョンを不安定化する。この後者の現象はコンシステンシー(クリーム状から粗い外観を有する粒状へ)及び外観(液滴合体からもたらされる、油又は脂肪の目に見える分離相を確認することができる)の変化もたらす。エマルジョンのレオロジー特性における変更もある。オルガノポリシロキサンは多くのパーソナルケア、ヘルスケア及びハウスホールドケアエマルジョンの有益な成分であるが、一般的には植物性バターと混和性でなく、植物性バターを含有するエマルジョンを低温での不安定化に対して安定させない。
【0003】
日本国特許公開第2009/019023号公報は、(A)米ぬかワックス及び/又は水素化米ぬかワックス、(B)カンデリラワックス、(C)非イオン性界面活性剤並びに(D)分岐脂肪酸及び/又は分岐脂肪酸エアステルを含む整髪用乳化化粧品について記載する。
【0004】
国際公開第03/013447号公報は、シリコーン流体、シリコーン不混和性物質、及びシロキサン系ポリアミドを含むヘア及びスキンケア組成物について記載する。
【0005】
Langmuir 2005、21、4316〜4323頁に掲載されるJ.Giermanska−Kahn他による論文 「Particle−stabilized emulsions comprised of solid droplets」は、コロイドサイズの固体シリカ粒子を油/水界面で吸着することにより動力学的に安定させたパラフィンワックス結晶を含む水中油型エマルジョンについて記載する。得られるエマルジョンは、しかしながら、シリカ粒子の存在のため大きな粒径を有し、ワックスの融点未満での冷却に際する結晶化に対して安定化されているが、外部界面活性剤には敏感である。これらの種類のエマルジョン(粒子による安定化)は化粧品及びトイレタリー製剤には適さない。
【0006】
Langmuir 2008、24、13364〜13375頁に掲載されるF.Thivilliers他による論文 「Thermally induced gelling of oil−in−water emulsions comprising partially crystallized droplets: the impact of interfacial crystals」は、結晶化する傾向を有するバターを含むエマルジョンを安定化させるためのタンパク質及び低分子量界面活性剤の混合物の使用について記載する。タンパク質の使用は、長い貯蔵寿命を有することを目的とする化粧品製品においていくつかの不利点を有する。一般的には、タンパク質はこの用途に通常用いられる従来の界面活性剤と相溶性でない。また、タンパク質は細菌増殖を促進し、保存するのが難しい。
【発明の概要】
【0007】
本発明の1つの態様によれば、少なくとも1重量%の少なくとも10.5℃、好適には少なくとも20℃の融点を有するワックス状材料、及び少なくとも1重量%の該ワックス材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを含む水性エマルジョンを安定化する方法であって、10℃未満の融点を有し、該溶融ワックス状材料と混和性がある油を、該エマルジョン中に5:95〜95:5の範囲内の油対ワックス状材料の重量比で組み込むステップを含む方法を提供する。ワックス状材料を溶融した際、油をワックス状材料中に相分離なしに混合することができる場合、油はワックス状材料と混和性があると見なす。
【0008】
低温での安定性は、実質的に変わらないままであるはずの粒径により、及びエマルジョンを低温下に置いた後エマルジョンを顕微鏡で評価することにより観測することができる。エマルジョンを低温下に置いた後エマルジョンの粒径が実質的に増大せず、顕微鏡で結晶を見ることができない場合、エマルジョンは低温で安定である。
【0009】
パーソナルケア、ヘルスケア又はハウスホールドケア組成物に用いられる本発明による水性エマルジョンは、少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を、少なくとも1重量%、好適には少なくとも5重量%、該ワックス状材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを少なくとも1重量%、好適には少なくとも5重量%含み、10℃未満の融点を有し、溶融時に該ワックス状材料と混和性であり、5:95〜95:5の範囲内の油対ワックス状材料の重量比で存在する油も含有する。
【0010】
本発明は、少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を、少なくとも1重量%、好適には少なくとも5重量%含む、パーソナルケア、ヘルスケア又はハウスホールドケア組成物に用いられる水性エマルジョンを低温で安定させるための10℃未満の融点を有する油の使用を含む。
【0011】
安定性を必要とする目標低温に応じて、異なる融点を有する異なる液体油を用いることができる。10℃の融点を有する油は、20℃又は15℃までの温度での不安定化に対してエマルジョンを安定させることができる。0℃以下の融点を有する油は5℃までの温度での不安定化に対してエマルジョンを安定させるだろう。我々は、植物性バター又は他のワックス状材料への−20℃未満の融点の油の添加が10℃以下の低温、とくに5℃から−10℃又は−20℃までの超低温での著しい安定性向上を有するエマルジョンを形成することを見出した。
【0012】
少なくとも10.5℃、好適には少なくとも20℃、より好適には少なくとも25℃の融点を有するワックス状材料は、多くの製剤において、植物性バターのような植物の種子、果実、堅果又は核種由来のトリグリセリドワックスであるが、あるいは炭化水素ワックスとすることができる。ワックス状材料は好適には、15〜20℃の温度で可塑性又は可鍛性であり、少なくとも10.5℃の融点を有し、溶融時に低粘度を有する材料である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の目的のため、植物性バターは少なくとも10.5℃のタイター又は融点を有することにより定義する。いくつかの植物性バターは40.5℃(又は45℃)未満だが20℃より高い融点又はタイターを有する(AOCS法Tr 1a−64Tに準ずるJ.O’Lenickによる「Oil of nature」)。本発明のエマルジョンに用いることができる植物性バターの例としては、一般的には30〜45℃の範囲内の融点を有する、マンゴバター、シアバター、ココアバター、及びコクムバターのような、スキンケア及び他のパーソナルケア並びに化粧品用途によく用いられるものが挙げられる。さらなる例としては、イリッペ、クプアス、ムルムル、サル、ツクマ及びモーラバターが挙げられる。いくつかの植物性トリグリセリド生成物は植物性バターの特性を有するが、一般的には油と呼ばれ、例えばスキンケア及び他のパーソナルケア並びに化粧品用途によく用いられ、20〜28℃の範囲内の融点を有するココナツ油、融点34〜43℃のマンゴ核油、融点37℃のヤシ油、パームオレイン及びパームステアリンがある。こうした生成物は本発明にワックス状材料として用いることができる。このエマルジョンを生成するためバターの混合物を用いることができる。天然バターに匹敵する審美性をもたらすいくつかの人工バターが化粧品産業に導入されている。これらのバターは主に、水素化を行った、又は水素化若しくは分画植物性油と物理的にブレンドした、オリーブ、アボカド、マカダミア、ホホバ及びアーモンドのような、精製化粧品植物性油である。こうした人工バターは、本発明のエマルジョンにワックス状材料として、別々に又は他の植物性バターと組み合わせて用いることができる。本発明のエマルジョンは好適には少なくとも1重量%の植物性バター、より好適には少なくとも5又は10重量%の植物性バターを含有し、最大50又は70重量%の植物性バターを含有することができる。
【0014】
本発明のエマルジョンに用いることができる植物の種子、果実、堅果又は核種由来の他のワックス状材料としては、ヤシワックス、米ぬかワックス又は大豆ワックスが挙げられる。用いることができるカルボン酸エステル、とくにトリグリセリドを含む他のワックスとしては、ビーワックス、ラノリン、タロー、カルナバ、カンデリラ及びトリベヘニンが挙げられる。
【0015】
ワックス状材料はあるいは、石油由来のワックス、とくにパラフィンワックス若しくは微結晶ワックス、フィッシャートロプシュワックス、セレシンワックス、ポリエチレンワックス又はこれらの混合物のような、炭化水素ワックスとすることができる。パラフィンワックスは主に炭素原子20〜30個の平均鎖長を有する直鎖炭化水素を含有する。微結晶ワックスは高い割合の分岐炭化水素及びナフテン炭化水素を含有する。用いることができる他の有機炭化水素ワックスはモンタンワックス(別名イグナイトワックス)、オゾケライト又はスラグワックスである。
【0016】
ワックス状材料はあるいは長鎖脂肪酸、長鎖脂肪族アルコール、長鎖脂肪族アミン、長鎖脂肪族アミド、エトキシル化脂肪酸若しくは脂肪族アルコール、又は長鎖アルキルフェノールとすることができる。一般的には脂肪酸、アルコール、アミン又はアミドの長鎖は少なくとも12個及び好適には少なくとも16個の炭素原子、しばしば最大30個以上の炭素原子のアルキル基である。ワックス状材料はあるいはポリエーテルワックス、例えば固体ポリエーテルポリオール若しくはワックス状ポリビニルエーテルとすることができ、又はシリコーンワックス、一般的には12個以上の炭素原子を有する炭化水素置換基を含有するポリシロキサンとすることができる。
【0017】
少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料はエマルジョン中に少なくとも1重量%の濃度で存在する。本発明が改善する結晶化挙動は、とくにワックス状材料をエマルジョン中に高濃度で、例えばエマルジョン中少なくとも10又は15重量%からエマルジョン中50又はさらに70重量%までの濃度で用いる場合に起こる。
【0018】
オルガノポリシロキサンは一般的には、それぞれ一般的にはM、D、T、及びQシロキサン単位と称される、(RSiO0.5)、(RSiO)、(RSiO1.5)、又は(SiO)シロキサン単位から独立して選択されるシロキサン単位を含有するが、式中、Rは1〜30個の炭素原子を含有するいずれかの有機基、例えば1〜6個の炭素原子を含有するアルキル基、とくにメチル若しくはエチル、フェニル基、アラルキル基又はアミノアルキル基若しくは四級化アミノアルキル基のような1〜6個の炭素原子を含有する置換アルキル基であってもよい。適切なオルガノポリシロキサンとしては、完全に若しくは主にD単位で構成される線状若しくは分岐ポリジオルガノシロキサン、例えばポリジメチルシロキサン、メチル基のいくつかを置換アルキル基により置き換えた官能置換ポリジメチルシロキサン、又はT及び/若しくはQ単位を含有する分岐シロキサン樹脂、例えばD及びT単位を含有するDT樹脂若しくはM及びQ単位を含有するMQ樹脂が挙げられる。ポリジオルガノシロキサン、例えばポリジメチルシロキサン又はメチル基のいくつかをアミノアルキル基により置き換えた置換ポリジメチルシロキサンは、コンディショナーとしてヘアケア組成物に広く用いられる。オルガノポリシロキサンはシリコーンガムとして知られる超高分子量ポリオルガノシロキサンを含むことができる。
【0019】
オルガノポリシロキサンはエマルジョン中に少なくとも1重量%、好適には少なくとも5重量%の濃度で存在し、例えば10又は15重量%〜50又は70重量%の濃度で存在することができる。
【0020】
10℃又は安定性を必要とする他の目標低温より低い融点を有する油は、例えば鉱物油のような炭化水素油又はトリグリセリド油のようなエステル油とすることができる。鉱物炭化水素油は例えば石油留分とすることができ、又は水素化、例えば水素化ポリデセンのような化学反応により形成することができる。所望の低融点を有するトリグリセリド油は、とくに目標低温が10℃未満、例えば0℃未満又は10℃若しくは20℃未満である場合、通常高い割合の不飽和及び多価不飽和脂肪酸残基を含有する。例としては、シア油、大豆油、ホホバ油、ヒマワリ油、グレープシード油、菜種油、トウモロコシ油、オリーブ油、月見草油、ルリヂサ油、アマニ油、米ぬか油及びヒマシ油が挙げられるが、これらすべては0℃より十分に低い融点を有し、0℃未満の目標低温での安定性を向上させるのに適している。トリグリセリド油のさらなる例としては、綿実油、ラッカセイ(ピーナッツ)油、ゴマ油及びキリ油が挙げられるが、これらすべては0℃に近い融点を有し、10又は15℃の目標温度での安定性を向上させるのに適している。エマルジョンを低温で安定させるのに液体油の混合物、例えば炭化水素油及びトリグリセリド油の混合物又は異なるトリグリセリド油の混合物を用いることができる。
【0021】
10℃又は他の目標低温より低い融点を有する油はあるいは、溶融植物性バター又は他の溶融ワックス状材料と混和性がある有機変性シリコーン油、例えばダウコーニングよりDC 556(登録商標)で市販される油であるポリフェニルメチルシロキサンとすることができる。
【0022】
10℃又は他の目標低温より低い融点を有する油はあるいは、デカメチルシクロペンタシロキサン若しくはオクタメチルシクロテトラシロキサンのような環状オルガノポリシロキサン、又は溶融植物性バター若しくは他の溶融ワックス状材料と混和性がある別の低分子量シリコーンとすることができる。我々は、こうした環状オルガノポリシロキサン、及び同様の分子量の線状ポリオルガノシロキサンがシアバター及びマンゴバターのような植物性バターと混和性があることを見出した。
【0023】
溶媒を必要に応じて液体油と組み合わせて用い、低温安定性を向上させることができる。こうした溶媒の1つの例としてはエタノールがある。
【0024】
本発明のエマルジョンは好適には、水中油型又は油中水型エマルジョンとして、ワックス状材料及びオルガノポリシロキサンを乳化するのに適した少なくとも1つの界面活性剤を含有する。界面活性剤はパーソナルケア製品に用いられることが知られるもののいずれかとすることができ、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性及びポリマー性界面活性剤から選択することができる。2つ以上の界面活性剤、例えば異なるタイプの界面活性剤又は2つ以上の同じタイプ(イオン性又は非イオン性)の界面活性剤を用いることができる。
【0025】
非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、例えばSteareth−21(UniqemaのBrij 721)及びCeteth−20(UniqemaのBrij 58)のようなポリエチレングリコーン長鎖(12〜20C)アルキルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタンエーテル、ポリオキシアルキレンアルコキシレートエステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェノールエーテル、エチレングリコールプロピレングリコールコポリマー、長鎖脂肪酸アミド及びココアミドジエタノールアミド(Cocoamide EDA)のようなそれらの誘導体、並びにアルキルポリサッカリドが挙げられる。
【0026】
適切なアニオン性界面活性剤の例としては、エトキシル化ラウリル硫酸ナトリウム(ラウレス硫酸ナトリウム又はSLES)、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、ラウレス硫酸アンモニウム、ポリナフタレンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、及びキシレンスルホン酸アンモニウムが挙げられる。
【0027】
適切なカチオン性界面活性剤の例としては、塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ドデシルトリメチルアンモニウム、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、塩化オクチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化デシルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ジドデシルジメチルアンモニウム、塩化ジオクタデシルジメチルアンモニウム、塩化タロートリメチルアンモニウム及び塩化ココトリメチルアンモニウムのようなハロゲン化第4級アンモニウム、並びにこれらの材料、脂肪族アミン及び塩基性ピリジニウム化合物の対応する水酸化物又は他の塩、ベンズイミダゾリン及びポリプロパノールポリエタノールアミンの第4級アンモニウム塩基が挙げられる。
【0028】
適切な両性界面活性剤の例としては、コカミドプロピルベタイン(CAPB)、ヒドロキシ硫酸コカミドプロピル、ココベタイン、ココアミド酢酸ナトリウム、ココジメチルベタイン、N−ココ−3−アミノブチル酸及びイミダゾリニウムカルボキシル化合物が挙げられる。
【0029】
適切なポリマー性界面活性剤の例としては、ポリビニルアルコール、タンパク質、エチレンオキシド/プロピレンオキシドブロックコポリマー界面活性剤(商品名Pluronicで市販)、及びポリエーテル/ポリエステルコポリマー(商品名Marloquest HSCB及びMarloquest UKで市販)が挙げられる。
【0030】
水性エマルジョンの水分含有量は通常少なくとも10重量%であり、最大85又は90重量%であってもよい。スキンクリームエマルジョンの水分含有量は一般的には15〜50重量%の範囲内であってもよいが、シャワージェル又はヘアシャンプーはより高い水分含有量を有するだろう。
【0031】
エマルジョンの界面活性剤含有量は通常少なくとも1重量%であり、例えば保湿剤のようなスキンクリームについては2〜10重量%の範囲内とすることができ、又はシャンプーのようなクレンジング製品については実質的により高く、例えば最大25〜40重量%とすることができる。
【0032】
エマルジョンは各種プロセスにより調製することができる。1つのプロセスは2つのエマルジョンを別々に生成するステップで構成される。1つのエマルジョンはオルガノポリシロキサンのみのエマルジョンであり、第2のエマルジョンは植物性バターのようなワックス状材料のエマルジョンである。通常植物性バター及び低融点油を混合し、バター/油ブレンドを形成した後、乳化する。次に別々に調製したバターエマルジョン及びシリコーンエマルジョンを混合する。あるいはエマルジョンはワックス状材料、オルガノポリシロキサン及び低融点油を混合し、それらをともに乳化することにより調製することができる。
【0033】
オルガノポリシロキサン(シリコーン)は高度に疎水性であるので、安定なエマルジョンは機械的に生成することが困難であり得る。これを克服するため、シリコーンを界面活性剤及び少量の水と高機械的せん断下で混合し、低せん断速度で超高粘度を有し(低せん断速度でシリコーンポリマー単独よりかなり粘性であり)、しばしば降伏応力(粘塑性挙動)を示す非ニュートン「粘性相」エマルジョンを形成することができる。「粘性相」の界面活性剤含有量は例えば、少なくとも0.5%、好適には少なくとも1%〜10又は20%の水の量とともに、2重量%〜10又は20重量%の範囲内とすることができる。得られるエマルジョンはさらなる水及び界面活性剤で希釈することができる。この「粘性相」プロセスを用い、シリコーンとワックス状材料及び油との混合物のエマルジョンを調製することができる。あるいは、油を界面活性剤溶液と混合し、高せん断又は高圧装置を用いて乳化することができる。高せん断装置の例としては、それぞれUltraturax(IKA Gmbh)、Rannie(APV)、又はソノレーター(Sonic)がある。
【0034】
本発明のエマルジョンは、毛髪、皮膚、粘膜又は歯上でのパーソナルケア用途において有用である。スキンケア用途では、シリコーンは滑らかであり、スキンクリーム、スキンケアローション、保湿剤、顔用トリートメント、例えばニキビ又はしわ除去剤、パーソナル及び洗顔クレンザー、例えばシャワージェル、液体石鹸、ハンドサニタイザー、バスオイル、香水、香料、オーデコロン、サシェット、制汗剤、日焼け防止クリーム、ローション及びワイプ、カラー化粧品、例えばファンデーション及びマスカラ、セルフタンニングクリーム及びローション、プレシェーブ及びアフターシェーブローション、アフターサンローション及びクリーム、制汗剤スティック、軟固体及びロールオン、シェービングソープ及びシェービングフォームの特性を向上させるだろう。植物性バター又は同様のワックス状材料は皮膚と接触すると審美的に心地よい鎮静効果をもたらしながらすぐに溶け、パーソナルケア製品に酸化安定性から保湿特性、抗炎症特性までの利点をもたらすこともできるだろう。本発明のエマルジョンは同様に、例えばシリコーンがスタイリング及びコンディショニング上の利点を提供する、シャンプー、洗い流すタイプ及び洗い流さないタイプのコンディショナー、ヘアスタイリング助剤、例えばスプレー、ムース及びジェル、染毛剤、縮毛矯正剤、パーマネント、脱毛剤、並びにキューティクルコートのようなヘアケア製品に用いることができる。化粧品では、シリコーン及び植物性バターの両方が、メイク、カラー化粧品、コンパクトジェル、クリーム及びリキッドファンデーション(油中水型及び水中油型エマルジョン、又は無水ローション)、チーク、アイライナー、アイシャドー、マスカラ、及びメイク落としの顔料のレベリング及び展着剤としての役割を果たす。シリコーン及びワックス状材料のエマルジョンは同様にビタミン、香料、皮膚軟化剤、着色剤、有機日焼け防止剤、又は薬剤のような油及び水溶性物質の送達システムとして有用である。
【実施例】
【0035】
本発明を以下の実施例により示すが、単位は重量部及び重量パーセントである。
【0036】
(実施例1)
18gの溶融HY−4003シアバター(ダウコーニング製)及び18gのシア油ultra refined(Biochemica製)をボトル中で計量及びブレンドした。36gの粘度350センチストークのトリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン200 fluid(PDMS)を別々に計量した。
【0037】
1.23gの溶融Brij 721(Uniqema製)、2.47gの溶融Brij 58(Uniqema製)、2.3gの温水、2gのPDMS及び2gのシアバター/シア油液化ブレンドを歯科用ポット中で一緒に計量した。混合物全体を、Hauschildデンタルミキサー(DAC 40)を用いて、2750RPMで36秒間乳化した。シアバター/シア油ブレンド及びシリコーンを、すべてのバター/油ブレンド及びすべてのシリコーンがブレンド中に取り込まれるまで、溶融バター/油ブレンド2g及びPDMS2g分を連続して添加した。各添加後に歯科用ミキサーにおける混合を行い、バター/油ブレンド及びシリコーンを両方添加するごとに2.3gの水を添加し、混合物の粘度を低下させた。最後に残りの水をいくつかの画分で添加した(合計23.32g)。各水添加後に歯科用ミキサーにおける混合を行う。次にソルビン酸カリウム及びフェノキシエタノール殺生物剤並びにエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩(EDTA−2NA)を添加し、以下の表1に示す製剤処方をもたらした。
【0038】
いずれかの候補液体油の有効性は、等量の溶融植物性バター及び同量の液体油を混合し、このブレンドを上述のプロセスを用いて乳化剤、水及びシリコーンで乳化することにより試験することができる。得られるエマルジョンは目標低温に応じて温度プロファイル下に置くことができ、その後粒径を測定する。エマルジョンを低温下に置いた後粒径が変化していない場合、油はバター/シリコーンエマルジョンを安定させるという点で効果的であると見なされる。
【0039】
(実施例2)
実施例1をバター/油ブレンドとして27gのシアバター及び9gのシア油を用いて繰り返した。
【0040】
(比較例C1)
実施例1をバター/油ブレンドの代わりに36gのシアバターを用いて繰り返した。
【表1】

【0041】
実施例1、2及びC1のそれぞれにおいて、室温(RT)で安定な油中水型エマルジョンを生成した。エマルジョンの粒径をMalvern Mastersizer 2000で測定し、表2に示す。
【0042】
各エマルジョンを気候室(Votsch Industrietechnik GmbH提供;装置タイプ:VT 4011)において熟成の各種サイクル下で試験した。熟成のサイクルは:
― 10℃で24時間
― 5℃で24時間
― 0℃で24時間
― −5℃で24時間
― −10℃で24時間
― −18℃で24時間
とした。
【0043】
熟成の各サイクル後、エマルジョンを放置して室温に戻した。その後それらを外観及びエマルジョン粒径について確認した。試料が許容可能な外観を有する場合、試料を低温での次のサイクルのために気候室に戻し、試料を室温まで温めた際に明らかな変化、例えば粒状外観又は明らかな油浸出が見られるまで試験を繰り返した。各エマルジョンの粒径を熟成の各サイクル後にMalvern Mastersizer 2000により測定し、以下の表2に記録する。
【0044】
シアバターのみを含有する(液体油なしの)比較例C1のエマルジョンは15℃で安定であったが、10℃で24時間後、エマルジョンは粒状性を示した。この時点で、粒径をMalvern Mastersizer 2000により正確に測定することはできなかったが、光学顕微鏡(Zeiss Axioplan、透過照明において作動する対物100倍)によりシアバターの大きな塊が見られることを確認することができた。
【0045】
50:50のシアバター及びシア油を含有する実施例1のエマルジョンに−10℃まで繰り返される気候室における24時間サイクルを行ったが、エマルジョンは不安定化のいずれの兆候も示さなかった。表2に示すように、−10℃までの一定粒径で安定性が確認された。−10℃で24時間後、外観の変化は観察されなかった。
【0046】
シアバター及びシア油の75:25ブレンドを含有する実施例2のエマルジョンは−5℃まで安定だった。このエマルジョンは−10℃で不安定化を示した。−10℃で24時間後、エマルジョンは粒子を示し、粒径はMalvern Mastersizer 2000により測定することができなかった。光学顕微鏡はエマルジョンの不安定化の兆候であるシアの塊を示した。実施例2のエマルジョンはよって、−10℃では実施例1のエマルジョンほど安定ではなかったが、比較例C1のエマルジョンより実質的に向上した低温保存特性を示した。

【表2】

【0047】
(実施例3)
実施例1をシアバターの代わりにダウコーニングから商品名HY−4001で市販されるマンゴバター及びシア油の代わりにダウコーニングから商品名HY−4008で市販される植物性油を用いて繰り返した。実施例1と同じプロセス及び活性材料のレベルを用いた。
【0048】
(比較例C2)
シアバターの代わりにマンゴバターHY−4001を用いて比較例C1を繰り返す比較例C2を行った。実施例3及びC2を実施例1について記載したように試験し、結果を表3に示す。
【表3】

【0049】
マンゴバターのみを含有する(液体油なしの)比較例C2のエマルジョンは室温では安定だったが、10℃で24時間後、エマルジョンは粒状性を示した。
【0050】
等量のマンゴバター及び植物性油を含有する実施例3のエマルジョンに−10℃まで繰り返される気候室における24時間サイクルを行ったが、エマルジョンは不安定化のいずれの兆候も示さなかった。表3に示すように、−10℃までの一定粒径で安定性が確認された。
【0051】
(実施例4)
BrenntagからEmulac(乳カゼイン)を、ダウコーニングからシアバターHY−4003を入手し、グレープシード油はID BIO SASから購入した。シアバターを結晶が見られなくなるまで電子レンジで溶融した。次に溶融シアバターをグレープシード油及び粘度100センチストークのトリメチルシリル末端ポリジメチルシロキサン200 fluid(PDMS)と混合した。再結晶化は起きなかった。
【0052】
カゼインタンパク質を水中に6%の濃度で簡易プロペラを用いて溶解した。タンパク質を溶解する前にNeolone DSP殺生物剤を水に1%の濃度で添加した。60%油相のエマルジョンを高せん断混合(Ultraturrax、1分、最大速度)により調製した後、720バールで作動するRannieホモジナイザーを用いて精製を行った。エマルジョンの製剤処方を以下の表4に示す。
【0053】
(比較例C3)
比較例C3では、グレープシード油をさらなるシアバターにより置き換えた実施例4のプロセスを用いてエマルジョンを調製した。このエマルジョンの製剤処方を表4に示す。
【0054】
(実施例5)
PDMSなしで高濃度のシアバター及びグレープシード油を含有するエマルジョンを実施例4のプロセスを用いて調製し、製剤処方を表4に示す。
【表4】

【0055】
実施例4及び5並びに比較例C3のエマルジョンを実施例1について記載したように試験し、結果を表5に報告する。
【表5】

【0056】
シアバターを含有し、液体油を含まず、乳化剤として乳タンパク質を用いる比較例3のエマルジョンは−5℃まで安定だったが、−10℃で24時間後、エマルジョンは粒状性を示した。比較例C3のエマルジョンはよって、植物性バターを含有し、液体油を含まず、乳化剤としてポリオキシアルキレンアルキルアルキルエーテル界面活性剤を用いる比較例C1のエマルジョンより低温ではかなり安定であり、タンパク質が結晶化する傾向を有するバターを含むエマルジョンを安定させるという、Langmuir 2008、24、13364〜13375頁に掲載のThivilliers他の教示を裏付けた。
【0057】
実施例4及び5のエマルジョンは、−18℃まで粒径はほとんど変化せず、安定なままだった。実施例4と比較例C3との比較は、低融点グレープシード油の添加が植物性バターを含有するエマルジョンに、エマルジョンがタンパク質安定剤を含有する場合でも、十分な超低温安定性をもたらしたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を少なくとも1重量%及び該ワックス状材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを少なくとも1重量%含み、
10℃未満の融点を有し、溶融時に該ワックス状材料と混和性であり、5:95〜95:5の範囲の油対ワックス状材料の重量比で存在する油もまた含むことを特徴とする、パーソナルケア、ヘルスケア又はハウスホールドケア組成物に用いられる水性エマルジョン。
【請求項2】
前記ワックス状材料が植物性バターであることを特徴とする、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
前記植物性バターがシアバター、マンゴバター、ココアバター又はコクムバターであることを特徴する、請求項2に記載のエマルジョン。
【請求項4】
前記エマルジョンが1〜70重量%の植物性バターを含有することを特徴とする、請求項2又は3に記載のエマルジョン。
【請求項5】
前記ワックス状材料が炭化水素ワックスであることを特徴とする、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項6】
前記油は、10℃未満、好適には0℃、より好適には−10℃、さらにより好適には−20℃未満の融点を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項7】
前記油が液体植物性油又は少なくとも1つの液体植物性油を含む混合物であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項8】
前記油が炭化水素油であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項9】
前記油は、前記ワックス状材料と混和性の、シリコーン変性油又は低分子量シリコーンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項10】
油対ワックス状材料の前記重量比が、10:90〜90:10、好適には50:50〜90:10、より好適には60:40〜80:20の範囲内であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項11】
油対ワックス状材料の前記重量比が50:50〜75:25の範囲内であることを特徴とする、請求項10に記載のエマルジョン。
【請求項12】
前記エマルジョンが、前記ワックス状材料と混和性がない前記オルガノポリシロキサンを10〜60重量%含有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項13】
前記エマルジョンが10〜85重量%の水を含有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のエマルジョン。
【請求項14】
少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を少なくとも1重量%及び該ワックス状材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを少なくとも1重量%含み、
10℃未満の融点を有し、溶融時に該ワックス状材料と混和性であり、5:95〜95:5の範囲の油対ワックス状材料の重量比で存在する油もまた含むことを特徴とする、水性エマルジョン形態のスキンケア、ヘアケア又は化粧品組成物であるパーソナルケア組成物。
【請求項15】
低温での不安定化に対して、少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を少なくとも1重量%及び該ワックス状材料と混和性がないオルガノポリシロキサンを少なくとも1重量%含む水性エマルジョンを安定化する方法であって、
10℃未満の融点を有し、溶融時に該ワックス状材料と混和性がある油を、該エマルジョンに5:95〜95:5の範囲内の油対ワックス状材料の重量比で組み込むことを特徴とする、方法。
【請求項16】
少なくとも10.5℃の融点を有するワックス状材料を少なくとも1重量%含む、パーソナルケア、ヘルスケア又はハウスホールドケア組成物に用いられる水性エマルジョンを、低温で安定させるための10℃未満の融点を有する油の使用。


【公表番号】特表2012−531395(P2012−531395A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516774(P2012−516774)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059135
【国際公開番号】WO2011/000801
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(590001418)ダウ コーニング コーポレーション (166)
【氏名又は名称原語表記】DOW CORNING CORPORATION
【Fターム(参考)】