説明

ワッシャ、及び該ワッシャを製造する方法

【課題】 ワッシャが嵌入されたナットを回転させて、部材に備わる孔に、ナットを挿入し、ボルトに螺合し、部材が締結されるときに、ナットに嵌入されたワッシャが、ナットと共回りしないようにすること。
【解決手段】 ワッシャ90は、ワッシャ用素材の金属板9と、光沢剤を含むジンケート浴により該ワッシャ用素材の金属板9に形成された亜鉛めっき層14と、亜鉛めっき層14に形成され、シリカ粒子11が均一に懸濁された三価のクロム酸溶液によるクロメート処理層13とにより形成される。光沢剤と三価のクロム酸溶液との優れた反応性のため、シリカ粒子11がクロメート処理層13に均一分布し固着される。ワッシャ90が嵌入されたナット10、ボルト17の螺合により、シリカ粒子11が部材7(塗装面12)に食い込み、ワッシャ90とナット10との間ではシリカ粒子11が粉砕されて、ナット10とワッシャ90との共回りが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワッシャ、及び該ワッシャを製造する方法に関する。さらに詳細には、十分な防錆力を有しながら、ナット締結中にワッシャがナットと共に回ることを防止できる表面処理が施されたワッシャ、及び該ワッシャを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワッシャ、特に平ワッシャをナットに嵌入して用いると、しばしば不具合が発生することがある。以下、この不具合について、図7を参照して説明する。
【0003】
図7には、ナットヘッド1と、ワッシャ用素材の金属板9が嵌入された軸内部に螺刻部を有するナット軸3とからなるハブナット10(以下、「ナット10」という。)を、金属部材7の孔5に挿入し、ハブボルト17(以下、「ボルト17」という。)に螺合し回転させて、部材7及び部材19を締結する態様が示されている。通常、このような態様では、ナット10の座面1´の径D1よりもワッシャ用素材の金属板9の径D2が大きく設計されているので、両者の回転抵抗(摩擦抵抗)が異なり、ナット10の回転中にナット10とワッシャ9との間で回転速度の差が生じる。その結果、ワッシャ9は回転せず、ナット10とワッシャ9との間で回転し、ナット10がボルト17に螺合され、部材7と部材19が締結されることになる。
【0004】
ところが、ワッシャ9が金属部材7の面に対して回転抵抗が小さい場合(例えば、潤滑油を当該ナット10の周辺に注入した場合)には、ナット10とワッシャ9の回転抵抗が同等となる結果、ナット10とワッシャ9との間に回転速度の差が実質的になくなり、ナット10とワッシャ9が共に回ってしまう不具合が発生することがある(この不具合を本明細書では「共回り」という。)。この共回りが起こると、本来、ナット10とワッシャ9がそれぞれの回転時の発生軸力を想定して設計されているところ、設計どおりの発生軸力と異なりが生じ、共回りのために円滑なナット10の締結作業が行われなくなる。
【0005】
ところで、特許文献1に、金属鋼板に、直接的に、シリカ粉子と、酸と、金属鋼板の金属との反応生成物からなる被膜を成膜する化成処理被膜を形成する表面処理技術が開示されており、この鋼板によりワッシャを作製すれば、シリカ粒子が後述するような回転摩擦力をもたらし、共回りが防止できるのではないかとも検討された。
【0006】
しかし、特許文献1に開示された表面処理技術を、当該共回り防止に対して適用する以前に、そもそも、特許文献1の表面処理は、鋼板、例えば、鉄の上に形成されたシリカと化成処理だけの被膜層に係るものである。そのため、シリカと鉄との密着力が弱いばかりでなく防錆力が乏しいものであった。一般に、化成処理層は、高温高湿環境に弱く、かつ、引っ掻き傷等が付き易い等、物理的にも弱い(表面硬度が弱い)ため、この層のみでは、例えば、自動車の厳しい環境の用途においては、到底、それだけでは防錆膜として実用に耐えないためである。
【0007】
そこで、鉄素材に対する防錆めっき膜として好適な亜鉛めっきを、ワッシャの金属の表面に形成し、この亜鉛めっきの上にシリカ(コロイダルシリカ若しくは気相シリカ)粒子を均一に懸濁させたクロメート処理液によって、特許文献1の表面処理を改良することが検討された。
【特許文献1】特開2006−265708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、単に、上記のように亜鉛めっき上に、シリカ粒子を含むクロメート処理を適用しても、シリカ粒子が容易にワッシャから脱離してしまい、防錆力は改善されるものの、本来の目的の共回りの防止ができないという問題が依然として残っていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、上記課題を解決するために、三価のクロム酸溶液によるクロメート処理層との反応性に優れた亜鉛めっき用の光沢剤を含む亜鉛めっき液を用いて、ワッシャ用素材(例えば、鉄製の平ワッシャ)に亜鉛めっき層を形成し、上記に亜鉛めっき層の上に、三価のクロム酸溶液によって、クロメート処理層を形成する。この三価のクロム酸溶液には、シリカ粒子(例えば、コロイダルシリカ)が略均一に懸濁されている。
このような表面処理によって、亜鉛めっき液中に、三価のクロム酸溶液によるクロメート処理層との反応性に優れた亜鉛めっき用の光沢剤が、クロメート処理層と好適に反応し、同時に、シリカ粒子が、クロメート処理層に均一に分布、固着する。このようにして、十分な防錆力を有しながらも、最外層にシリカ粒子が表面に均一かつ固着されて存在するワッシャが製造可能となり、ナットとの共回りが防止できるようになった。
【0010】
本発明のワッシャの各種態様、並びにそれらの作用及び効果、即ち、当該ワッシャを用いると当該共回りが防止できる態様については、発明の態様の項において詳しく説明する。
(発明の態様)
【0011】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。なお、以下の各項において、(1)項、(2)項、及び(3)項の各々が、請求項1、請求項2、及び請求項3の各々に相当する。
【0012】
(1) ワッシャ用素材の金属板と、該金属板に、光沢剤を含むジンケート浴を用いた亜鉛めっきが形成された亜鉛めっき層と、該亜鉛めっき層に、シリカ粉子を含む三価クロム酸溶液を用いたクロメート処理により形成されたクロメート処理層と、を含むことを特徴とするワッシャ。
【0013】
本態様では、ワッシャ用素材の金属板に、所定の光沢剤を含むジンケート浴を用いて、例えば、回転めっきバレルを用いた電気めっきにより、亜鉛めっき層が形成される。次に、この亜鉛めっき層の上に、コロイダルシリカ粒子(若しくは気相シリカ粒子)からなるシリカ粉子を均一に分散かつ懸濁されたクロム酸溶液に浸漬させて、クロメート処理を行い、クロメート処理層を形成する。このとき、所定の光沢剤と上記のクロム酸溶液との反応性を良好なものとしたため、クロム酸溶液に含まれているシリカ粒子がクロメート処理層に均一に分布、固着され、もって、本発明に係るワッシャが作製される。
【0014】
この本発明に係るワッシャを嵌入したナットまたはボルトが、自動車の塗装されたボディや、タイヤのアルミホイールのように、特に、表面硬度が比較的低い部材の孔へ挿入され、ボルト等の螺刻部に嵌合され、部材が締結されるとき、ナットまたはボルトが回転(締結)中、ワッシャとナットまたはボルト(ナットまたはボルト座部)との間に、シリカ粒子よりも高い硬度の、例えばクロムめっきの硬質金属めっきがナットまたはボルト座部に施されていると、シリカ粉子がワッシャとナットまたはボルト座部との間でミル粉砕のように粉砕され、クロメート処理層の成分と共にワッシャとナットまたはボルトとの間に層を形成する。この層は、さらに、ワッシャとナットまたはボルトとの間の防錆層や緩み防止層として機能しうる。
【0015】
一方、ワッシャと、上記に例示した部材(基板)との間は、部材表面の硬度がシリカ粒子よりも低いと、粉砕されたシリカ粒子の表面に備わる凸状部が、当該部材表面にスパイク状に食い込む。そのため、ナットがボルトに螺合され、部材が締結されるときに、ワッシャが部材上に固着され、ナットまたはボルトのみが回転する。
【0016】
また、このようにナットまたはボルトに嵌入されたワッシャが部材に食い込み、ナットまたはボルトが螺合かつ締結されて、このように共回りが防止されると、当該締結作業が、油等が当該孔周りに付着する等の外的要因に影響されなくなる。その結果、ナットまたはボルトが螺合かつ締結されるときに、ナット締結の作業性を向上させるような潤滑油やμ安定剤を、ナットや孔周りに積極的に付与することができ、発生軸力(μ)を安定させ、製造歩留りを向上させることができる。
【0017】
「ワッシャ用素材の金属板」は、市販の鉄製のワッシャを用いることが好ましい。ワッシャは、平ワッシャ、スプリングワッシャ、テーパーワッシャ、ウェーブワッシャ等が選択されうるが、最も共回りが生じ易いが部品コストが低い、平ワッシャが、本発明に係る表面処理を施して共回りを防止するのに製造上好適である。「亜鉛めっき」は、好ましくは、5μm〜13μmをその平均膜厚として、鉄製のワッシャ用素材の金属板に亜鉛を電析することが好ましい。そして、亜鉛めっきは、鉄に対して亜鉛の犠牲陽極作用が働き、優れた防錆力を発揮するので鉄製のワッシャ用素材の金属板に対する防錆層として好適である。また、ジンケート浴は、膜厚の均一性が良好であり、電気めっき特有の、ワッシャのエッジ部の盛り上がりが抑制されるため、ナットを締め込む部材面に損傷を与えることを防止するのに好適である。
【0018】
「クロメート処理層」は、コロイダルシリカ粉子又は気相シリカ粉子を、均一に分懸濁されるように含有させたクロム酸溶液に、亜鉛めっき処理されたワッシャを浸漬することで形成される。ここで、クロム酸溶液(三価クロメート溶液)に、あらかじめシリカ粉子が含有された、例えば、ディップソール社のZT−444(商品名)を使用することが好ましい。これにより、製造工程数を減らすことができ、かつ、クロメート処理層にシリカ粉子を含ませながら防錆力を向上させることができる。
【0019】
「シリカ粒子」は、その物性が脆性であり、特に破断面に方向性がないため、ナットが回転され、ナットがワッシャに当接し、かつ、ワッシャが部材面に当接して、当該回転が進行するにつれ、当該シリカ粒子の表面にランダムな突起部(スパイク状部)を持つようになる。この形状によって、ナットの回転中に、各シリカ粉子を部材に食い込ませることができ、ワッシャを部材面に固着させることができ、もって、上述したように、ワッシャとナットとの共回りを防止できる。
シリカ粒子の粒径は、0.001μmから0.02μm程度のものが好ましい。0.02μmに比して、より大きな粒径であるとシリカ粒子が、クロメート溶液中に均一に懸濁しにくくなるからである。また、ワッシャに固着させるべきシリカ粒子は、ワッシャ用素材の金属板9を被覆する表面処理被膜の全体重量部を100wt%とすると、そのうち4wt%以上であることが好ましい。4wt%未満であると、締め付けるべき部材面との間で好適な摩擦力を生じさせないからである。
【0020】
(2) 前記光沢剤は、アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなることを特徴とする請求項1に記載のワッシャ。
本態様の光沢剤は、少なくとも、ベース成分(亜鉛めっきの析出平滑剤)としてアンモニウム水溶性ポリマーを、光沢成分(光沢付与成分)としてアルデヒド系溶液を含むものであり、三価クロム酸との反応性が優れていることを特徴とする。この光沢剤は、好まし
くは、アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなるものである。
【0021】
当該光沢剤は、例えば、三価クロメート液が、ディップソール社の444AB(商品名)である場合、同社のジンケート浴亜鉛めっき用光沢剤(商品名:NZ−200)を用いることが好ましい。本来、光沢剤は、製品に美観や品位を与え、かつ、めっき被膜に圧縮応力を加えることでピンホール発生を防止することを主たる目的とする。しかし、近年、亜鉛めっきにさらなる防錆力をもたらすためにシリカを含有したクロム酸溶液を用いてクロメート処理をすることが普及し始めている。しかるに、従来、クロメート処理層は、下地めっき、すなわち亜鉛めっきとの密着性に課題があった。そこで、特にジンケート浴亜鉛めっき用光沢剤と、クロム酸との優れた反応性をもたらす性質を与えることができるようにしたものを用いるようになってきており、例えば、上記のディップソール社のような商品が製販されている。
【0022】
(3) ワッシャ用素材の金属板を、アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなる光沢剤を含有するジンケート浴に浸された回転めっきバレル内に投入し、亜鉛めっき層を形成し、次に、前記亜鉛めっき層が形成された金属板を、水洗し、酸で活性化し、シリカ粒子が懸濁されている三価クロム酸溶液に浸漬することにより、シリカ粒子が、略均一に分布、固着されたクロメート処理層が形成されることを特徴とするワッシャの製造方法。
【0023】
本態様に記載のワッシャの製造方法では、まず、ワッシャ用素材の金属板を準備するが、嵌入されるナットに適合する好適な寸法の鉄製のワッシャ用素材の金属板を選択し、錆、汚れ、油付着等のないことを要する。なお、加工歪層や、エッジが切り立っているときは、めっきの密着度を良好にし、エッジ部のピンホール発生を防ぐため、例えばバレル研磨のような表面調整を適宜行うことが好ましい。また、ワッシャ用素材の金属板は、平ワッシャ、スプリングワッシャ、ウェーブワッシャ、テーパーワッシャ等を選択することができるが、製造コストを鑑みると、最も共回りが起こり易いが部品コストが低い鉄製の平ワッシャ用素材が、金属板として好ましい。
【0024】
「アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなる光沢剤を含有するジンケート浴」について、光沢剤については前述の通りであるが、亜鉛めっき浴種に、他に青化浴や酸化浴(酸性浴)もあるが、ジンケート浴は、毒性の強いCNを除いたものであり環境問題を招来しないため好ましい。
【0025】
亜鉛めっきの前に、ワッシャ用素材の金属板のめっき前処理は、常法のものである。例えば、脱脂、水洗、酸洗、水洗、電解脱脂、及び水洗によって行う。
【0026】
亜鉛めっきの基本条件は、めっき浴温を、好ましくは、20℃から30℃、陰極電流密度を、好ましくは、0.5A/dmから1.5A/dm、陽極電流密度を、好ましくは、3A/dmから7A/dmとし、前処理が完了した鉄製のリング円板状の金属板を、上記の光沢剤を含有するジンケート浴に浸された回転めっきバレルに入れ、電気めっき処理(バレルめっき)を行い、亜鉛めっき層を形成することが望ましい。ワッシャを多量かつ効率的に量産的に、めっき処理するには、バレルめっきが好適である。
【0027】
ここで、めっき浴温を、20℃から30℃とするのは、20℃より低いと、亜鉛のめっき効率(亜鉛の電析効率)が低下しがちであり膜厚がつきにくく、生産性を上げることができず、一方、30℃よりも高いと、亜鉛めっきの表面が粗くなりめっき品質を下げるの
で好ましくないと考えられるためである。また、陰極電流密度を、0.5A/dmから1.5A/dmとするのは、0.5A/dm未満では、亜鉛がワッシャ用素材の金属板に電析しにくく、一方、1.5A/dmよりも高いと、水素気泡が発生し、亜鉛のワッシャ用素材の金属板への電析を妨げる要因となり好ましくないと考えられるためである。なお、陽極電流密度は、陰極電流密度に呼応して決定されるものである。
【0028】
次に、亜鉛めっき層が形成されたワッシャ用素材の金属板を、水洗し、その表面を酸で活性化した後、シリカ粒子、好ましくはコロイダルシリカ粒子(若しくは、気相シリカ粒子)があらかじめ均一に分散かつ懸濁されている三価のクロム酸溶液に浸漬する。
【0029】
活性化のための「酸」は例えば、硝酸を用いる。これは、亜鉛めっき後、取り出しや水洗時に亜鉛めっき上にできる酸化被膜を除去し、亜鉛と酸化クロム酸が反応し易い状態を形成するためである。シリカ粒子は、三価のクロム酸溶液に、コロイド状に懸濁するシリカ粒子を用いることが好ましい。また、三価のクロム酸溶液にあらかじめコロイダルシリカ粒子が懸濁されている市販のものを用いれば工程数を減らすことができ好ましい。
【0030】
本態様では、環境問題の観点から、クロム酸溶液には、六価でなく三価のクロムを用いている。このとき、クロム酸溶液中、三価のクロム酸を60ml/L〜150ml/Lとし、コロイダルシリカ粒子を30ml/L〜100mL/Lとすることが好ましい。また
、浴温度は、好ましくは、25℃〜40℃、浴pHは、好ましくは、2〜3に設定する。投入するワッシャの数量(表面積)にもよるが、当該クロム酸溶液に、ワッシャを重ならないように亜鉛めっきのときと同様に回転めっきバレルを用いて回転させながら、好ましくは、30秒〜50秒浸漬させる。クロメート処理後は、水洗を行い、水切りが好適に行われる遠心分離乾燥機を用いて乾燥させることが好ましい。
【0031】
ここで、三価のクロム酸を60ml/L〜150ml/Lとするのは、60ml/Lより小さいとクロメート処理層が亜鉛めっき層に付着しにくくなり、一方、150ml/Lより大きいとクロメート処理層の形成にばらつきが大きくなり好ましくないと考えられるためである。コロイダルシリカ粒子を30ml/L〜100mL/Lとするのは、30m
l/Lより小さいと、シリカ粒子の析出を低下させ、一方、100mL/Lより大きいと
、シリカ粒子をワッシャに均一に形成しにくくなり(ばらつきが大きくなり)好ましくないと考えられるためである。クロメート溶液の浴温度を、25℃〜40℃とするのは、25℃より低いと、亜鉛めっき層との反応性が低下すると共に、シリカのクロメート処理層への固着を困難とし、一方、40℃より高いと、亜鉛めっき層との反応が過剰になり、クロメート処理層が均一に形成しにくくなり(ばらつきが大きくなり)好ましくないと考えられるためである。クロメート溶液の浴pHを、2〜3とするのは、2より小さいと亜鉛めっき層との反応性が低下すると共に、シリカの固着(析出)を困難とし、一方、3より大きいと亜鉛めっき層との反応性が同様に低下し、シリカの固着(析出)を困難とするため好ましくないと考えられるためである。
【0032】
以上のようにして、三価クロム酸溶液と上記の光沢剤との良好な反応性により、当該ワッシャ用素材の金属板に形成された亜鉛めっき14(図1)に、シリカ粒子が略均一に分布され固着されたクロメート処理層が形成され、ワッシャが作製される。
【0033】
(4) (1)又は(2)に記載のワッシャを、硬質めっき処理されたナットに嵌入し、該ナットを前記シリカ粒子よりも表面硬度が低い部材の孔に挿入し、該ナットを螺刻部に螺合し、部材を締結するためのナット締結方法であって、前記ナットを前記部材に設けられた孔へ挿入し、かつ螺刻部へ螺合し、前記ナットの座面と前記ワッシャとの間で、前記ナットの座面と前記ワッシャによって前記シリカ粒子を粉砕して、前記ナット座面と前記ワッシャとの間の摩擦抵抗を低下させ、一方、前記平ワッシャ面と前記部材面との間で、
前記シリカ粒子を粉砕し、この粉砕されたシリカ粒子が前記部材面へスパイク状に食い込ませて、前記平ワッシャ面と前記部材面との間の摩擦抵抗を向上させて、前記ナット締結時に、前記ナットと前記ワッシャとが共回りすることを防止することを特徴とする方法。
本項の態様は、発明を実施するための最良の形態の欄で後述する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によって、ワッシャに好適な表面処理が形成され、ナットにこのワッシャが嵌入されて用いられるときに、ナットと共回りしないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の、ナットと共回り防止可能なワッシャ、及び当該ワッシャが用いられるナット締結方法の実施の形態を、以下の実施例を通じて、添付図面を参照して説明する。図1から図4は、本発明を実施する形態、すなわち、本発明の、ワッシャおよびワッシャが用いられるナット締結方法を実施する形態の一例を示す概念図であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成は図に示す従来のものと同様である。なお、各図は、本発明を分かり易く説明するための概念図であるため、各図において、各構成要素の実寸や各構成要素同士の寸法比が正確に示されているものではない。
【0036】
ワッシャの製造方法
図1に示された、本発明の構成を有するワッシャ90の製造方法について以下説明する。
(1)ワッシャ用素材の金属板9の準備工程
嵌入されるナット10に適合する、好適な寸法の、好ましくは、鉄製のワッシャ用素材の金属板9を準備し、錆、汚れ、油付着等のないことを検査した。ワッシャ用素材の金属板9は、平ワッシャ、スプリングワッシャ、ウェーブワッシャ、テーパーワッシャ等を選択することができるが、ここでは、最も共回りが起こり易いが部品コストが低い鉄製のワッシャ用素材を金属板9として準備した。
(2)ワッシャ用素材の金属板9への亜鉛めっき層14の形成の前処理工程
次に、ワッシャ用素材の金属板9について、亜鉛めっき層形成前の前処理を、脱脂、水洗、酸洗、水洗、電解脱脂、及び水洗によって行った。
(3)ワッシャ用素材の金属板9への亜鉛めっき層14の形成工程
前処理が完了した鉄製のリング円板状の金属板9を、アンモニウム水溶性ポリマーが80vol%、アルデヒド系溶液が20vol%からなる光沢剤(ディップソール社のNZ−200(商品名))を含有するジンケート浴に浸された回転めっきバレルに入れ、電気めっき処理(バレルめっき)を行い、亜鉛めっき層14を形成した。ここでの、亜鉛めっきの基本条件は、めっき浴温を25℃、陰極電流密度を0.8A/dm、陽極電流密度を4A/dmとし、平均膜厚が5μm〜13μmとなるようにした。なお、亜鉛イオンはアノードバッグからめっき液に補充し、光沢剤は、適宜補充した。
【0037】
(4)亜鉛めっき層14へのシリカを含むクロメート処理層13の形成工程
次に、亜鉛めっき層14が形成されたワッシャ用素材の金属板9を、水洗し、その表面を酸で活性化した後、コロイダルシリカ粒子があらかじめ均一に分散かつ懸濁されている三価のクロム酸溶液(ディップソール社のZT−444A、B(Aは濃青紫色液体の建浴剤、Bは無色透明液体の建浴剤(補給剤))に浸漬した(このZT−444Bの液体にシリカ粒子が含有されている)。この三価クロム酸溶液と上記の光沢剤との良好な反応性により、当該ワッシャ用素材の金属板9に形成された亜鉛めっき層14に、シリカ粒子が略均一に分布され固着されたクロメート処理層13が形成され、ワッシャ90(図1)が作製された。
ワッシャ90の改善前後の、10,000倍のSEM観察写真像、及びワッシャ90表面のX線回折のプロファイルを、EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置(20kV
))を用いて測定した出力結果を、それぞれ図5(a)(b)、及び図6(a)(b)に示す。改善後には、Siのピークがあり、シリカがクロメート処理層13に固着されたこ
とが分かった。
【0038】
ワッシャ90を用いたナット締結方法
次に、図1から図4を参照しながら、ワッシャ90を用いたナット締結方法を説明する。
(1)ナット1(ナット軸3)へのワッシャ90の嵌入工程; 得られたワッシャ90を、硬質クロムめっき処理がされたナット10のナット軸3に嵌入した。
(2)ナット10によるボルト17への螺合、及び部材7、部材19の締結工程; ワッシャ90が嵌入されたナット10を、部材7の孔5に、挿入し、かつ、ナットヘッド1を、ナット締め工具によって、回転方向2に回転させて、ナット10を、ボルト17へ螺合し、部材7及び19を締結した。部材7は、表面12が塗装面であり、金属部材12´に塗装されている表面硬度がシリカより小さい部材である。
【0039】
このとき、図2には、ナットヘッド1の回転始動時の態様が示されているが、ナットヘッド1の回転が始動すると、図3に示されるように、ナット10の螺合部が、ボルト17に螺合され、部材7及び部材19が締結されるときに、ナットヘッド1の座面と、ワッシャ90の上面との間で、ミル粉砕されるかのように、シリカ粒子11が粉砕され、ナットヘッド1の座面と、ワッシャ90の上面の間が埋められた(図2の16の層)。
一方、図3や図4に示されるように、ワッシャ90と部材7との間においても、シリカ粒子11が粉砕されるが、すぐにシリカ粒子11に突起状部分(スパイク状部分)が創出されて、シリカ粒子11が、部材7の上層の塗装面12にスパイク状に食い込んでいく。
【0040】
このようにして、本発明に係る実施態様によれば、ワッシャ90が嵌入されたナット10が、塗装面12と金属部12´からなる部材7に形成された孔5に、回転、螺合し、部材7、19が締結されるときに、ナット10とワッシャ90との間では、ナット10にめっき処理された硬質クロムめっき層の硬度が、ワッシャ90のシリカ粒子よりも硬いので、ナット10が、ワッシャ90との間でシリカ粒子を粉砕しながら回転し、もって、両者の間の回転抵抗(摩擦抵抗)が、低くなる。
【0041】
一方、ワッシャ90と部材7(塗装面12)との間では、ワッシャ90に固着されたシリカ粒子の硬度が、塗装面12よりも硬いので、ナット10の回転中、ワッシャ90が塗装面12に食い込み、もって、両者の間の回転抵抗(摩擦抵抗)が高くなる。このようにして、本発明に係るワッシャ90を用いると、ナット10の回転中に、ナット10とワッシャ90との間に回転速度の差が生じ、ナット10とワッシャ90とが共回りすることが防止された。
【0042】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本実施形態では、ナット側に当該ワッシャを嵌合させたが、ボルト側に同様にして嵌合させて、ボルトとワッシャとの共回りを防止することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
ワッシャ(特に、平ワッシャ)、及び当該ワッシャが用いられるナットまたはボルト締結方法は、部材の孔に、ワッシャが嵌入されたナットが部材を挿入し、ボルト等の螺刻部へ螺合し、部材を締結し、部材の接合(接続)をするときに利用される。また、螺刻部がないボルトにワッシャを嵌入させ、それを部材の螺刻部のない孔へ、回転させながら圧入させて孔埋めをするようときにも利用される。また、本発明を部品同士の接合面に適用することにより、ずれが防止できるため、締結性能を向上させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、本発明に係るワッシャ90を説明するための概念図である。
【図2】図2は、本発明に係るワッシャ90が用いられるナット締結方法を説明するための概念図である。
【図3】図3は、本発明に係るワッシャ90が用いられるナット締結方法を説明するための概念図である。
【図4】図4は、図3の一部を拡大したナット締結方法の過程を説明するための概念図である。
【図5】図5は、(a)従来のワッシャ90の表面のSEM観察像(10,000倍)と(b)表面の蛍光X線回折によるプロファイルである。
【図6】図6は、(a)本発明に係るワッシャ90の表面のSEM観察像(10,000倍)と(b)蛍光X線回折によるプロファイルである。
【図7】図7は、従来のワッシャ9が用いられるナット締結方法を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0045】
ワッシャ用素材の金属板:9、シリカ粒子:11、クロメート処理層:13、ワッシャ:90

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワッシャ用素材の金属板と、
該金属板に、光沢剤を含むジンケート浴を用いた亜鉛めっきが形成された亜鉛めっき層と、
該亜鉛めっき層に、シリカ粉子を含む三価クロム酸溶液を用いたクロメート処理により形成されたクロメート処理層と、を含むことを特徴とするワッシャ。
【請求項2】
前記光沢剤は、アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなることを特徴とする請求項1に記載のワッシャ。
【請求項3】
ワッシャ用素材の金属板を、アンモニウム水溶性ポリマーが70vol%〜95vol%、アルデヒド系溶液が5vol%〜30vol%からなる光沢剤を含有するジンケート浴に浸された回転めっきバレルに投入し、亜鉛めっき層を形成し、次に、前記亜鉛めっき層が形成された金属板を、水洗し、酸で活性化し、シリカ粒子が懸濁されている三価クロム酸溶液に浸漬することにより、
シリカ粒子が、略均一に分布、固着されたクロメート処理層が形成されることを特徴とするワッシャの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−275278(P2009−275278A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130027(P2008−130027)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000147109)株式会社杉浦製作所 (11)
【Fターム(参考)】