説明

一体形成電線支持具を予め備えた車両用電気機器筐体、およびその車両用電気機器筐体内に電気装置を搭載した車両用電気機器

【課題】構造が簡単な電線固定具を備えた車両用電気機器筐体の提供。
【解決手段】棒状部材と基部からなる電線支持具3であって、複数の棒状部材と基部から成り一体形成した電線支持具を筐体の内部底面部5に予め複数配置した車両用電気機器筐体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の電気機器用の筐体に係り、特に、内部に電気装置の配線用電線を支持するために、一体形成された電線支持具を予め備えた電気機器筐体、およびその車両用電気機器筐体内に電気装置を搭載した車両用電気機器に関するものである。
【0002】
また、本発明は、電気装置の配線用電線を支持するための一体形成された電線支持具の新規な構成も提案するものである。
【背景技術】
【0003】
鉄道車両搭載用の電気機器内の配線においては、車体の振動によって電線が破損することを防止するために、電線がぐらつくのを防止する必要がある。そのため、機器箱の中に設けた電線支持具に電線を固定する方式がとられている。
【0004】
配線本数が多い機器になるほど配線の固定箇所も増加する。こういった電線固定箇所が多い機器では、固定するための支持具を多量に設ける必要があり、機器箱を製作する時間短縮の障害となっていた。
【0005】
鉄道車両に搭載される電気機器箱内の配線固定方法については、特許文献1(特開平6−178411号公報 )に示されている。この文献においては、制御箱内部には、車両用電気品が収納されている。車両用電気品と制御箱内外部との電気的接続をする電線は電線束に区分けして、電線固定具の電線固定部材に固定される。そして電線固定具の支持枠を制御箱内部に取り外し可能に取りつけて車両用制御装置は構成される。その効果としては、本発明によれば、電線の束分け、電線固定具への実装を制御箱外部で行ってから、電線固定具を制御箱内部に取りつけることができるため、電線実装の品質の安定化をはかることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−178411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、電線を固定する支持具の例としては、上記特許文献1(特開平6−178411号公報)が知られていた。
【0008】
これは、複数の電線固定箇所を有する支持具である。鉄道車両搭載用の電気機器内部の配線では、ノイズ対策として、同じ系統の配線をひとつの電線束とし、複数の電線束を平行に敷設することが多い。そのため、上記特許文献1(特開平6−178411号公報)のように、電線支持具は、棒状の電線固定箇所が複数本平行して配置される場合が多い。
【0009】
しかし、この支持具は、支持枠2に電線固定部材3を取り付けする方式であった。そして、この支持枠2と電線固定部材3との取り付け方法としては、溶接、ネジ、リベットが考えられる。いずれにしても、複数の部材から構成される電線固定具1であり、そのため、電線固定具1自体の製作性にも難があった。
【0010】
また、この電線固定具1を制御箱8に取り付けるには、電線束4をあらかじめ電線固定具1の電線固定部材3に固定しておき、制御箱8の側面のカバ―9を開け、電気品10を収納し、電線固定具1を入れ、支持枠2の固定用穴7を制御箱8内面の取りつけ枠11にねじ座12を設けてねじ止め又はリベット止め等で固定するものであるため、取付作業の時間がかかり、制御箱全体としての組み上げ時間がかかっていた。
【0011】
さらに、このような電線支持具に電線を固定する場合、車両の振動により電線が支持具と擦れて破損することを防止する目的で、支持具に保護チューブを取り付けた後に電線を固定する。保護チューブは、プラスチックでできた中空の円筒形状のものが一般的である。
【0012】
この保護チューブを支持具に取り付ける際に、支持具に保護チューブを挿入するための開放端部がない場合には、チューブを挿入できないものであり、保護チューブを取り付けるには、中空円筒のチューブを長手方向に裂いてから取り付ける必要があった。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、複数の電線支持部を有した電線支持具を筐体内に予め装備したものであり、それにより、当該車両用電気機器筐体内に電気装置を搭載した車両用電気機器の製作性を向上しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車両用電気機器筐体は、棒状部材と基部からなる電線支持具であって、複数の棒状部材と基部から成り一体形成した電線支持具を筐体の内部に予め複数配置したことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明の車両用電気機器筐体は、前記複数の棒状部材が矩形断面をもち、板厚が均一である電線支持具であることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の車両用電気機器筐体は、複数種類の前記電線支持具を前記筐体の内部に予め配置したことを特徴とする。
【0017】
さらに、本発明の車両用電気機器は、上記の車両用電気機器筐体の内部に電気装置を配置して配線したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、以上説明したように、電線支持具を一体形成することにより部品点数を低減して、それを予め筐体に備えておくことにより、当該車両用電気機器筐体内に電気装置を搭載して車両用電気機器を組み上げる作業の時間が短縮できる。
【0019】
また、電線支持具が自由解放端部を備えることにより、電線保護チューブを取り付ける作業性も向上できる。
【0020】
このように、電線支持具の構造を簡単にできることにより、電線支持具自体の製作時間の短縮を図れる。また、電線支持具を筐体に取り付ける作業時間の短縮も図れる。さらに、電線保護チューブの取り付けも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】複数の電線固定部を有し、一体成形された複数種類の電線支持具を予め車両用電気機器筐体の底面部に備えた実施例。
【図2】図1の筐体底面部に対して、筐体の両端面部と上面部を取り付けた状態の車両用電気機器筐体の斜視図。
【図3】複数の棒状電線支持部を両側基部の間に配置した電線支持具の実施例。
【図4】基部を1箇所とし、複数の棒状電線支持部を基部の片側に配置した電線支持具の実施例。
【図5】基部を1箇所とし、複数の棒状電線支持を基部の両側に配置した電線支持具の実施例。
【図6】基部を1箇所とし、複数の棒状電線支持部を基部の両側に斜めに配置した電線支持具の実施例。
【図7】基部を1箇所とし、複数の棒状電線支持部を基部の片側に斜めに配置した電線支持具の実施例。
【図8】複数種類の電線支持具を予め車両用電気機器筐体の内部に備えた実施例で底面の拡大図。なお、電線支持具は電線の固定具として車両用電気機器筐体内部のあらゆる箇所に取り付けることができる。
【図9】(a)(b)(c)電線支持具を製作する工程を示した図。
【図10】(a)(b)電線保護チューブを電線支持具に取り付ける状態を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の車両用電気機器筐体の電線支持具は、板厚が均一で矩形断面をもつ電線支持具とする。これは、複数の電線固定部を有する電線支持具を、一枚の平板から打ち抜きにより切り出して、曲げ加工を行うプレス加工によって一体形成して作ることができ、製作時間の短縮となる。さらに、電線支持具の基部を平板状とすることにより、基部を筐体に固定しやすくなる。
【0023】
本発明の車両用電気機器筐体においては、複数の電線支持具を必要箇所に予め配置する。これにより、複数の電線固定部を一括して筐体の内部に予め取り付けるので、車両用電気機器筐体の製作時間の短縮となる。さらに、電線固定部の一端を自由端として開放することにより、電線保護チューブの取付作業性が向上し、車両用電気機器筐体の組立時間の短縮となる。
【0024】
以下、本発明の実施例を図1〜図8に示す実施例により説明する。
図3は、矩形断面を持った複数の棒状の電線固定部11と基部12とを有する一体形成された電線支持具3である。そして、図1及び図2には、複数の電線支持具3を機器筐体1の底面部に溶接又はリベット締めするなどの方法を用いて予め取り付けた状態を示している。
【0025】
本発明の電線支持具3は、後述するように平板から打ち抜いて一体形成したものであるので、電線固定部11は矩形断面であり、その電線固定部11が平行に複数形成できる方式である。機器筐体1への取付箇所は基部12であり、電線支持具3の両端部或いは片面部に形成されている。機器筐体1への取り付け・固定方法は、溶接やリベット締めなどの方法が用いられる。
【0026】
電線固定部11が矩形断面であることにより、プレス加工により平板から一体的に成形することができるという利点がある。即ち、図6(a)乃至(c)に電線支持具3の加工工程を示すように、1枚の平板材料21(図6(a))を切断により打ち抜き板22を形成し(図6(b))、それを曲げ加工することで電線支持具3を得ることができる(図6(c))。これにより、電線支持具3の構成部品点数を削減することができる。
【0027】
図3の電線支持具3は、電線固定部11の両側に基部12が配置された構成であり、図4の電線支持具3は、電線固定部11が基部12の片側に配置された構成である。何れも、複数の電線固定部11は平行に配置されている。
【0028】
図5は、図4の電線支持具3に対し、基部12の両側に矩形断面の棒状電線固定部11を配置したものである。基部12の両側に棒状の電線固定部11があるので、図4の片側配置に比べ、基部1箇所あたりの電線固定部の本数を2倍とすることができる。これにより、スペース効率の向上や、電線支持具3を筐体1に取り付ける作業の効率向上を図ることができる。
【0029】
また図5の電線支持具3は、図4の実施例に比べると、重心が中央の基部12付近になるため、この電線支持具を平面上に置いた際に、倒れることなく安定する。このため、機器筐体1への取付時(溶接、またはリベット締結)の安定性向上による作業性向上を図ることができる。
【0030】
図6の電線支持具3は、複数の電線固定部11を斜めにした実施例である。このような電線支持具3を用いると、斜めに配線をすることができるので、配線長を短縮できる。この電線支持具3は、板材21からプレス加工で形成きる(図6と類似の工程であるので図示は省略する)ため、電線固定部11の角度は自在に設定できる。
【0031】
図8は、図3乃至図7で示された電線支持具3を予め複数取り付けた電気機器箱1の底面5の一部分を示している。これは、図1を拡大したものである。図1及び図8では、電線支持具3が電気機器箱に複数種類取り付けられている。図8における符号15は、機器筐体1内に配置する電気装置の設置場所を示している。上記の説明で示したように、本発明による電線支持具3により、部品点数や作業時間の低減を図ることができる。本発明の電気機器筐体においては、予め複数種類の電線支持具3が複数個取り付けられているので、その本数分の部品点数の削減、及び作業時間の低減効果を得ることができる。
【0032】
図2は、複数種類の電線支持具3が筐体底面部5に対して、予め複数個取り付けられており、その両方の筐体端面部6,8と筐体上面部7を取り付けた状態の車両用電気機器筐体1の斜視図である。本発明の車両用電気機器筐体1は、この図2に示された状態で電気装置の据え付け作業及び配線作業が行われる。つまり、まず複数種類の電線支持具3が用意され、それらの電線支持具3を車両用電気機器筐体1の底面部5の予め定められた位置に溶接やリベット等で固定される。次いで、複数の電線支持具3を配置させた筐体底面部5に両方の筐体端面部6,8と筐体上面部7を取り付け(図2の状態)、配線の敷設を行った後、所定位置に電気装置を据え付ける。その後に残りの筐体両側面部(図2では開放された状態が示されている)に蓋を取り付けて車両用電気機器が完成する。なお、電線支持具3は電線の固定具として車両用電気機器筐体内部のあらゆる箇所に取り付けることができる。
【0033】
その際に、電線支持具3は図3から図7に示すように、いくつもの種類が用意され、それ等の電線支持具3を選択して、車両用電気機器筐体1の内部の所定位置に配置し、固定するものである。図により詳細には示していないが、一つの種類の電線支持具3として、一つの基部12に対して1本の電線固定部11を設けたものも作ることは可能である(図1,2又は図8参照)。この場合の1本の電線固定部11は、水平に配置されても、斜めに配置されても、又は垂直に配置されても良い。
【0034】
図9は、図1の電線支持具3を加工する工程を示したものである。金属素材21を抜き加工する(図6(a))ことにより、曲げ加工前電線支持具22を得る(図6(b))。さらに、これを曲げ加工することにより、電線支持具3を得る(図6(c))。これにより、1枚の平板部材21により電線支持具3を得ることができる。公知例の電線支持具が複数の部材を接合して製作するのに対し、本方式では部材の点数を削減できる。
【0035】
図10(a)(b)は、電線支持具3に電線保護チューブ31を取り付ける工程図である。図示の電線支持具3のように、電線固定部11の片端が自由端として開放されているタイプでは、電線保護チューブ31をそのまま挿入すればよい。
【符号の説明】
【0036】
1…車両用電気機器筐体
3…電線支持具
5…車両用電気機器筐体の内部底面部
6…車両用電気機器筐体の一方の端面部
7…車両用電気機器筐体の上面部
8…車両用電気機器筐体の他方の端面部
11…電線支持具の電線固定部
12…電線支持具の基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状部材と基部からなる電線支持具であって、複数の棒状部材と基部から成り一体形成した電線支持具を筐体の内部に予め複数配置したことを特徴とする車両用電気機器筐体。
【請求項2】
請求項1記載の車両用電気機器筐体であって、前記複数の棒状部材が矩形断面をもち、板厚が均一である電線支持具であることを特徴とする車両用電気機器筐体。
【請求項3】
請求項1又は2記載の車両用電気機器筐体であって、複数種類の前記電線支持具を前記筐体の内部に予め配置したことを特徴とする車両用電気機器筐体。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用電気機器筐体の内部に電気装置を配置して配線したことを特徴とする車両用電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−147553(P2012−147553A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3132(P2011−3132)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】