説明

一塩基多型を含む二型糖尿病に関与するポリヌクレオチド、それを含むマイクロアレイ及び診断キット、並びにそれを利用したポリヌクレオチドの分析方法

配列番号1〜80のヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列の10以上の連続したヌクレオチドを含み、かつ前記ヌクレオチド配列の101位のヌクレオチドを含む、二型糖尿病の診断若しくは治療用ポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、二型糖尿病に関与するポリヌクレオチド、それを含むマイクロアレイ及び診断キット、並びに二型糖尿病に関与するポリヌクレオチドの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
あらゆる生物のゲノムは、永続的な進化の過程で自然突然変異を経るため、先祖の核酸配列の変異形態を生じる(Gusella,Ann.Rev.Biochem.55,831−854(1986))。変異形態は、先祖の形態に比べて進化上利益若しくは不利益を与えるか、またはその中間の場合もある。ある場合には、変異形態が致死の不利益を与えて、当該生物の次世代に伝達されることはない。他の場合には、変異形態が種に進化上の利益を与え、結局、その種のほとんどの個体のDNAに組み込まれることとなり、効果的に先祖形態となる。多くの場合、先祖形態及び変異形態は共に生き残り、種集団中に共存するようになる。配列の複数形態の共存により、多型が発生する。
【0003】
多型としていくつかのタイプが知られており、RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限断片長多型)、STR(short tandem repeat:短縦列反復配列)、VNTR(variable number tandem repeat:数の様々な縦列反復配列)、SNP(single nucleotide polymorphism:一塩基多型)などが含まれる。このうち、SNPは同じ種の個体間の単一ヌクレオチド変異の形態を取る。SNPは、タンパク質のコーディング配列内に発生すると、多型形態のうちいずれであっても欠陥タンパク質、または変異タンパク質が発現する場合がある。他方、SNPが非コーディング配列内に発生すると、それらの多型のうちの一部が、欠陥タンパク質若しくは変異タンパク質の発現を招くことがある(例えば、欠陥のあるスプライシングの結果として)。その他のSNPは、表現型に何らの影響も及ぼさない。
【0004】
ヒトのSNPは、約1,000bpごとに一回の頻度で発生することが知られている。それらSNPが疾病のような表現型の発現を誘導する場合、前記SNPを含むポリヌクレオチドは、かかる疾病の診断用のプライマーまたはプローブとして使用することができる。前記SNPと特異的に結合するモノクローナル抗体もまた疾病の診断に使用することができる。現在、多くの研究機関でSNPのヌクレオチド配列及び機能に関する研究が行われている。同定されたヒトSNPのヌクレオチド配列や他の実験結果はデータベース化され、容易に利用可能となってきている。
【0005】
現在までに利用可能となっている知見がたとえ、特定のSNPがヒトゲノム若しくはcDNA上に存在することを示していても、かかるSNPの表現型に及ぼす影響が明らかにされているわけではない。一部のSNPを除く、大半のSNPの機能はまだ明らかにされていない。
【0006】
二型糖尿病(TypeII Diabetes mellitus)は、糖尿病患者全体のうち90〜95%に該当すると知られている。二型糖尿病は、体内でインシュリンを異常に生産するか、またはインシュリン感受性が低い人間がかかる病気であり、これにより、血液中の血糖値が大きく変化してしまう。インシュリン分泌の異常によって二型糖尿病の状態となる場合、血中のグルコースを体細胞に運ぶことができず、食物をエネルギーに変換するのが困難になる。二型糖尿病の発病には、遺伝的要因があると知られている。二型糖尿病に関する、それ以外のリスク要因としては、45才以上の年齢、糖尿病に対する家族歴、肥満、高血圧、及び高コレステロール値がある。現在、糖尿病の診断は主に、病理学的な表現型の変化、すなわち空腹時血糖(FSB:fasting blood Sugar)試験、グルコース負荷試験(OGTT:oral glucose tolerance test)などを用いて血中グルコース値を評価することによって行われている(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases of the National Institutes of Health,http://www.niddk.nih.gov,2003)。二型糖尿病の診断がなされる場合、運動、特別な食餌療法、体重調節、薬物療法などを介して二型糖尿病の予防が可能となるか、またはその発症を遅らせることが可能となる。この点において、二型糖尿病は早期診断が非常に望まれている疾病であると言える。ミレニアム・ファーマシューティカルズ社(Millenium Pharmaceuticals Inc.)から、HNF1遺伝子上に存在する遺伝子型変異に基づいて、二型糖尿病の診断と予測とが可能であるという発表がなされた(PR newswire,Sept1,1998)。また、シーケノム社(Sequenom Inc.)からは、FOXA2(HNF3β)遺伝子が二型糖尿病に高度に関与しているという発表がなされた(PR Newswire,Oct28,2003)。二型糖尿病に関与するいくつかの遺伝子について報告されているが、二型糖尿病の発病に関する研究は、特定の集団における数本の染色体の特定遺伝子上に集中している。これにより、人種によって異なる研究結果が示される可能性がある。更に、二型糖尿病の原因遺伝子は全て、未だ同定されていない。かかる分子生物学的方法による二型糖尿病の診断はまだ一般的ではない。更に、二型糖尿病の発病前の早期診断は現在利用できない。このため、ヒトゲノム全体を対象に、二型糖尿病に高度に関与している新しいSNP及び関連遺伝子を探し出し、当該SNP及び関連遺伝子を用いて二型糖尿病の早期診断を行わなければならないという必要性が高まっている。
【発明の開示】
【0007】
発明の詳細な説明
発明の技術目的
本発明は、二型糖尿病に関与する一塩基多型を含むポリヌクレオチドを提供する。
【0008】
本発明はまた、各々、二型糖尿病に関与する一塩基多型を含むポリヌクレオチドを含むマイクロアレイ及び二型糖尿病診断キットを提供する。
【0009】
本発明はまた、二型糖尿病に関与するポリヌクレオチドの分析方法を提供することである。
【0010】
発明の開示
本発明は、配列番号1〜80のヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列の10以上の連続したヌクレオチドを含み、前記ヌクレオチド配列のうちの多型部位(101位)のヌクレオチドを含む、二型糖尿病の診断若しくは治療用ポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチドを提供する。
【0011】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号1〜80のヌクレオチド配列から選択されるヌクレオチド配列の多型部位を含む10ヌクレオチド以上の連続した範囲を含むものである。前記ポリヌクレオチドの長さは、10ないし400ヌクレオチド、好ましくは10ないし100ヌクレオチド、さらに好ましくは10ないし50ヌクレオチドである。ここで、配列番号1〜80の各ヌクレオチド配列の多型部位は、101位である。
【0012】
前記配列番号1〜80のヌクレオチド配列はそれぞれ多型配列である。多型配列とは、一塩基多型(SNP)が生じる多型部位を含むヌクレオチド配列をいう。多型部位とは、SNPの起こる多型配列の部位をいう。前記ヌクレオチド配列は、DNAまたはRNAのどちらであってもよい。
【0013】
本発明において、前記配列番号1〜80の多型配列の多型部位(101位)は、二型糖尿病に関与する。これは、二型糖尿病患者と正常者とからそれぞれ得られた血液試料のDNA配列を分析することにより確認されている。表1−1、1−2、2−1、及び2−2は、二型糖尿病を伴った前記配列番号1〜80の多型配列と二型糖尿病との関係、及び前記多型配列の特性をまとめたものである。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

【0017】
【表4】

【0018】
【表5】

【0019】
【表6】

【0020】
【表7】

【0021】
【表8】

【0022】
表1−1及び1−2において、各欄の内容が意味するところは次の通りである。
【0023】
Assay_IDは、マーカーの名称を表す。
【0024】
SNPは、SNP多型部位の多型塩基を示す。ここで、A1及びA2はそれぞれ、シーケノム社の均質的MassExtension(homogeneous MassExtension:hME)法による配列分析の結果として、質量の小さな対立遺伝子をA1、及び質量の大きい対立遺伝子をA2と表し、任意的に実験の便宜上命名したものである。
【0025】
SNP配列は、SNP部位を含む配列、すなわち、101位に対立遺伝子A1若しくはA2を含む配列を示す。
【0026】
対立遺伝子頻度(allele frequency)欄で、cas_A2、con_A2、及びDeltaは、それぞれ疾病群(case group)の対立遺伝子A2の頻度、正常群(normal group)の対立遺伝子A2の頻度、及び前記cas−A2とcon_A2との間の差の絶対値を表す。ここで、cas_A2は前記疾病群における、(遺伝子型A2A2の頻度×2+遺伝子型A1A2の頻度)/(試料数×2)であり、con_A2は前記正常群における、(遺伝子型A2A2の頻度×2+遺伝子型A1A2の頻度)/(試料数×2)である。
【0027】
遺伝子型頻度(genotype frequency)は、各遺伝子型の頻度を示す。ここで、前記疾病群においてcas_A1A1、cas_A1A2、及びcas_A2A2はそれぞれ遺伝子型A1A1、A1A2、及びA2A2を有する人の数を示し、前記正常群においてcon_A1A1、con_A1A2、及びcon_A2A2は、それぞれ遺伝子型A1A1、A1A2、及びA2A2を有する人の数を示す。
【0028】
df=2は、自由度が2であるカイ二乗値を示す。chi−valueはカイ二乗値を示し、p−valueは前記chi−valueに基づいて決定される。chi_exact_p−valueは、カイ二乗検定に対するフィッシャーの正確確率検定のp−value(p値)を示す。遺伝子型数が5未満の場合、カイ二乗検定の結果は不正確となりうる。そのため、フィッシャーの正確確率検定による、さらに正確な統計的有意性(p−value)の決定が求められる。chi_exact_p−valueは、フィッシャーの正確確率検定に用いられる変数である。本発明では、p−value≦0.05である場合、前記疾病群と前記正常群との遺伝子型が同じではない、すなわち、両者の間に有意差があると考えられる。
【0029】
リスク対立遺伝子(risk allele)の欄では、基準対立遺伝子をA2とし、前記疾病群での前記対立遺伝子A2の頻度が前記正常群での前記対立遺伝子A2の頻度より大きい(すなわち、cas_A2>con_A2である)場合には、前記対立遺伝子A2をリスク対立遺伝子とする。その反対の場合には、対立遺伝子A1をリスク対立遺伝子とする。
【0030】
オッズ比は、前記正常群中でのリスク対立遺伝子を有する確率に対する、前記疾病群中でのリスク対立遺伝子を有する確率の比を表す。本発明では、マンテルヘンツェル(Mantel−Haenszel)オッズ比法を使用した。CIは、オッズ比に対する95%信頼区間を示し、(下限信頼区間、上限信頼区間)で表される。1が前記信頼区間に該当すると、リスク対立遺伝子の疾病への関与はほとんどないと考えられる。
【0031】
HWEは、ハーディーワインバーグ平衡(Hardy−Weinberg Equilibrium)を示す。ここで、con_HWE及びcas_HWEは、それぞれ前記正常群及び前記疾病群におけるハーディーワインバーグ平衡からの偏位度を表す。カイ二乗(df=1)検定におけるchi_value=6.63(p−value=0.01、df=1)を基準に、6.63より大きい値はハーディーワインバーグ非平衡(HWD:Hardy−Weinberg Disequilibrium)と判断し、6.63より小さな値はハーディーワインバーグ平衡(HWE:Hardy−Weinberg Equilibrium)と判断した。
【0032】
call_rate(コール率)は、実験に使用された試料総数に対する遺伝子型の説明が可能な試料数を示す。ここで、cas_call_rate及びcon_call_rateは、それぞれ前記疾病群及び前記正常群に使用された総試料数(300人)に対する、遺伝子型の説明が可能な試料数の比を表す。
【0033】
表2−1及び2−2は、NCBI build 123を基準とする、SNPマーカーの特性を示す。
【0034】
表1−1、1−2、2−1、及び2−2に示すように、本発明の配列番号1〜80の多型マーカーについてのカイ二乗検定によれば、chi_exact_p−valueが95%の信頼区間で4.54×10−4〜0.0104の範囲をとる。このことは、配列番号1〜80の多型マーカーでの対立遺伝子の発生頻度において、予想値と測定値との間に有意差があるということを示している。オッズ比の範囲は1.34〜2.43であり、このことは、配列番号1〜80の多型マーカーは二型糖尿病に関与しないということを示している。
【0035】
本発明の配列番号1〜80のSNPは、二型糖尿病患者群及び正常群において有意な頻度で出現する。よって、本発明のポリヌクレオチドは、二型糖尿病の診断、フィンガープリント分析、または治療において効果的に利用可能である。具体的には、本発明のポリヌクレオチドは二型糖尿病の診断のためのプライマーまたはプローブとして使用可能である。更に、本発明のポリヌクレオチドは二型糖尿病治療のためのアンチセンスDNAまたは組成物として使用することも可能である。
【0036】
本発明はまた、配列番号1〜80のヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列の多型部位のヌクレオチドを含む10ヌクレオチド以上の連続した範囲を含むポリヌクレオチドとハイブリダイズする、二型糖尿病の診断用の対立遺伝子特異的ポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチドを提供する。
【0037】
対立遺伝子特異的ポリヌクレオチドとは、各対立遺伝子と特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドをいう。すなわち、前記対立遺伝子特異的ポリヌクレオチドは、配列番号1〜80の多型配列のうちの多型部位のヌクレオチドを識別し、前記ヌクレオチドの各々と特異的にハイブリダイズできる。ハイブリダイゼーションはストリンジェントな条件、例えば、1M以下の塩濃度及び25℃以上の温度という条件下で実行される。例えば、5×SSPE(750mM NaCl、50mM リン酸ナトリウム、5mM EDTA、pH7.4)及び25〜30℃の条件が対立遺伝子特異的プローブハイブリダイゼーションに適している。
【0038】
本発明において、前記対立遺伝子特異的ポリヌクレオチドは、プライマーであってもよい。本明細書で用いられる場合、「プライマー」という用語は、適当な条件下、例えば、4つの異なるヌクレオシド三リン酸塩、及びDNAポリメラーゼ若しくはRNAポリメラーゼ、または逆転写酵素などのポリメラーゼを含むバッファー中で、及び適当な温度下で、テンプレート方向のDNA合成の開始点として作用する一本鎖オリゴヌクレオチドをいう。前記プライマーの適当な長さは、使用目的によって変わりうるが、通常は15ないし30ヌクレオチドである。通常、プライマー分子が短いほど、テンプレートと安定なハイブリッドを形成するために、より低い温度を必要とする。プライマー配列は、必ずしもテンプレートと完全に相補的である必要はないが、前記テンプレートとハイブリダイズ可能な程度に相補的でなければならない。前記プライマーの3’末端が配列番号1〜80の各多型部位(101位)のヌクレオチドと整列することが好ましい。前記プライマーは、多型部位を含む標的DNAにハイブリダイズし、前記プライマーが前記標的DNAと完全な相同性を示す対立遺伝子の増幅を開始する。前記プライマーは、反対鎖とハイブリダイズする第2プライマーと対をなして使われる。前記2つのプライマーを用いた増幅によって増幅産物が得られ、これは、特定の対立遺伝子形態が存在するということを意味する。本発明のプライマーは、リガーゼ連鎖反応(ligase chain reaction:LCR)で使われるポリヌクレオチド断片を含む。
【0039】
本発明において、前記対立遺伝子特異的ポリヌクレオチドは、プローブであってもよい。本明細書で用いられる場合、「プローブ」という用語は、ハイブリダイゼーションプローブ、すなわち核酸の相補的な鎖と配列特異的に結合できるオリゴヌクレオチドを意味する。かかるプローブは、Science 254,1497−1500(1991)(Nielsen et al.)に開示されているような、ペプチド核酸であってもよい。本発明のプローブは、対立遺伝子特異的プローブである。従って、同種のうちの2個体から得られる核酸断片中に多型部位が存在する場合、前記プローブは1個体から得られるDNA断片にはハイブリダイズするが、もう1つの個体から得られるDNA断片にはハイブリダイズしない。この場合、ハイブリダイズ条件は、対立遺伝子間のハイブリダイゼーション強度における有意な差により、1つの対立遺伝子とだけハイブリダイズする程度にストリンジェントでなければならない。前記プローブの中心位置、すなわち、15ヌクレオチドからなるプローブであるなら7位が、16ヌクレオチドからなるプローブであるなら8位または9位が、配列番号1〜80のヌクレオチド配列の各多型部位と整列することが好ましい。このようにして、対立遺伝子間のハイブリダイゼーションにおける有意な差を誘発できる。本発明のプローブは、対立遺伝子検出用の診断方法に使用できる。前記診断方法には、サザンブロットなどの、核酸のハイブリダイゼーションに基づく検出方法が含まれる。核酸のハイブリダイゼーションに基づく検出方法にDNAチップを利用する場合、前記プローブはDNAチップの基板上に固定された形態で提供されうる。
【0040】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドを含む二型糖尿病の診断用マイクロアレイを提供する。前記マイクロアレイのポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAのどちらであってもよい。前記マイクロアレイは、本発明のポリヌクレオチドを含むことを除いては、一般的なマイクロアレイと同じである。
【0041】
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを含む二型糖尿病の診断用キットを提供する。前記二型糖尿病の診断用キットには、本発明のポリヌクレオチドだけではなく、重合に必要な試薬、例えば、dNTP、各種のポリメラーゼ及び発色剤などを含んでもよい。
【0042】
また、本発明は個体における二型糖尿病の診断方法を提供し、本法は、前記個体から核酸試料を単離する段階と;配列番号1〜80のポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチドのうちの1以上の多型部位(101位)のヌクレオチドを決定する段階と、を含む。ここで、前記核酸試料のうちの1以上の多型部位のヌクレオチドが、前記表1−1、1−2、2−1、2−2、3、4、及び5に示されている1以上のリスク対立遺伝子と同じである場合、前記個体は、二型糖尿病を発症する危険性があると診断される可能性が高いと決定されうる。
【0043】
前記個体から前記核酸試料を単離する段階は、通常のDNA単離方法によって行われうる。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により標的核酸を増幅し、その後精製することにより、前記核酸試料を得ることができる。PCR以外に、リガーゼ連鎖反応(LCR)(Wu及びWallace、Genomics 4、560(1989)、Landegren et al.、Science 241、1077(1988))、転写増幅(Kwoh et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86、1173(1989))、自家維持的配列複製(Guatelli et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87、1874(1990))、または核酸配列に基づく増幅(nucleic acid sequence based amplification:NASBA)を用いることも可能である。最後に挙げた2つの方法は、等温転写に基づく等温反応と関連するものであり、増幅産物として、30または100倍の一本鎖RNA及び二重鎖DNAを生産する。
【0044】
本発明の一実施形態によると、多型部位のヌクレオチドを決定する前記段階は、本発明の配列番号1〜80のヌクレオチド配列からなる群から得られる10以上の連続したヌクレオチドを含み、多型部位(101位)のヌクレオチドを含む二型糖尿病の診断または治療用ポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチドが固定化されているマイクロアレイ上に、前記核酸試料をハイブリダイズさせる段階と;前記ハイブリダイゼーション結果を検出する段階と、を含む。
【0045】
マイクロアレイ、及びプローブポリヌクレオチドを基板上に固定化することによりマイクロアレイを調製する方法は、当業界において周知である。本発明の二型糖尿病に関与するプローブポリヌクレオチドを基板上に固定化する過程は、従来技術を使用して容易に実行可能である。マイクロアレイ上での核酸のハイブリダイゼーション及び前記ハイブリダイゼーション結果の検出もまた、当業界において周知である。例えば、前記ハイブリダイゼーション結果の検出は、核酸試料を蛍光物質(例えば、Cy3及びCy5)などの検出可能な信号を発生させる標識物質で標識し、標識された核酸試料をマイクロアレイ上にハイブリダイズし、前記標識物質から発生する信号を検出することによって実行可能である。
【0046】
本発明の他の実施形態によると、多型部位のヌクレオチド配列を決定した結果、リスク対立遺伝子を含む配列番号2、4、5、8、9、11、13、16、18、20、21、23、25、27、30、32、33、36、38、40、42、44、46、47、49、51、53、55、57、59、62、63、65、67、69、71、75、77、及び80から選択される1以上のヌクレオチド配列が検出される場合、前記個体は二型糖尿病を発症する危険性があると診断される可能性が高いと決定されうる。前記リスク対立遺伝子を含むヌクレオチド配列が1つの個体から多く検出されればされるほど、前記個体は二型糖尿病を発症する危険性があると診断される可能性がさらに高いと決定されうる。
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【0048】
発明の効果
本発明のポリヌクレオチドは、二型糖尿病の診断、治療、またはフィンガープリント分析に使用することができる。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドを含むマイクロアレイ及び診断キットは、二型糖尿病の効果的な診断用に使用することができる。
【0050】
本発明の二型糖尿病に関与するポリヌクレオチドを分析する方法は、二型糖尿病の存在または危険性を効果的に検出することができる。
【実施例】
【0051】
発明を実施するための最良の形態
実施例
実施例1
本実施例では、二型糖尿病患者と診断され治療中であった、300人の韓国人からなる患者群、及び二型糖尿病の症状がなく前記患者群と同一の年齢層に該当する、300人からなる正常者群の血流からDNA試料を抽出し、特定のSNPの発生頻度を評価した。前記SNPは、公知のデータベース(NCBI dbSNP:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)または(シーケノム:http://www.realsnp.com/)から選択した。選択されたSNP周辺の配列にハイブリダイズするプライマーを利用し、前記DNA試料中のSNPのヌクレオチド配列を分析した。
【0052】
1.DNA試料の調製
二型糖尿病患者及び正常者の血流からDNA試料を抽出した。DNA抽出は、公知の抽出方法(Molecular cloning:A Laboratory Manual、p392、Sambrook、Fritsch and Maniatis、2nd edition、Cold Spring Harbor Press、1989)とCentra systemが製造している市販のキットの説明書とによって行われた。抽出されたDNA試料の中から、1.7以上の純度(A260/A280nm)を有するDNA試料だけを使用した。
【0053】
2.標的DNAの増幅
分析しようとするSNPを含む所定のDNA領域である標的DNAを、PCRにより増幅した。PCRは、一般的な方法で行い、その条件は、次の通りである。まず、標的ゲノムDNAを2.5ng/mlで調製した。次に、下記のようなPCR反応液を調製した。
【0054】
水(HPLCグレード) 2.24μl
10×バッファー(15mM MgCl、25mM MgCl) 0.5μl
dNTPミックス(GIBCO)(各25mM) 0.04μl
Taq pol(HotStar)(5U/μl) 0.02μl
フォワード/リバース プライマーミックス(各1μM) 0.02μl
DNA 1.00μl
総体積 5.00μl
ここで、前記フォワード及びリバースプライマーは、公知のデータベースにあるSNPの上流及び下流配列に基づいて設計した。前記プライマーを下記の表3に列記する。
【0055】
PCRの熱サイクルは次の通りである:95℃で15分間インキュベートし;95℃で30秒間、続いて56℃で30秒間、続いて72℃で1分間を45サイクル反復し;72℃で3分間インキュベートした後、4℃で保管した。その結果、200ヌクレオチド以下の長さを有する増幅DNA断片を得た。
【0056】
3.増幅された標的DNA断片中のSNPの分析
前記増幅DNA断片中のSNPの分析は、シーケノム社の均質的MassExtension(hME)法を利用して行った。前記MassExtension法の原理は、次の通りである。まず、前記標的DNA断片中のSNPの直前で終了するプライマー(「伸長プライマー」とも呼ばれる)を設計した。次に、前記プライマーを前記標的DNA断片にハイブリダイズさせ、DNA重合を行った。このとき重合反応液は、第1対立遺伝子ヌクレオチド(例えば、A対立遺伝子)に相補的なヌクレオチドの取り込み後ただちに重合を止める試薬(例えば、ddTTP)を含んでいた。その結果、前記標的DNA断片中に前記第1対立遺伝子(例えば、A対立遺伝子)が存在する場合には、前記第1対立遺伝子に相補的な1つのヌクレオチド(例えば、Tヌクレオチド)だけが前記プライマーから伸長した産物が得られることとなる。一方、前記標的DNA断片中に第2対立遺伝子(例えば、G対立遺伝子)が存在する場合には、前記第2対立遺伝子に相補的な1つのヌクレオチド(例えば、Cヌクレオチド)が前記プライマーの3’末端に付加され、その後、最も近接した前記第1対立遺伝子に相補的なヌクレオチド(例えば、Tヌクレオチド)が付加されるまで、前記プライマーは伸長する。前記プライマーから伸長された産物の長さを質量分析により決定した。このようにして、標的DNA断片中に存在する対立遺伝子を同定することができた。具体的な実験条件は、次の通りである。
【0057】
まず、未反応のdNTPを前記PCR産物から除去した。かかる除去用に、脱イオン水1.53μl、HMEバッファー0.17μl、エビアルカリホスファターゼ(SAP:shrimp alkaline phosphatase)0.30μlを1.5ml容チューブに入れて混合し、SAP酵素溶液を調製した。前記チューブを5,000rpmで10秒間遠心分離した。その後、前記PCR産物を前記SAP溶液チューブに加え、密封し、37℃で20分間、続いて85℃で5分間インキュベートし、その後4℃で保管した。
【0058】
次に、増幅された標的DNA断片をテンプレートとして用いて、均質的伸長反応を行った。伸長用反応液の組成は、次の通りであった。
【0059】
水(ナノスケールの脱イオン水) 1.728μl
hME伸長ミックス(2.25mM d/ddNTPを含む10×バッファー) 0.200μl
伸長プライマー(各100μM) 0.054μl
Thermosequenase(32U/μl) 0.018μl
総体積 2.00μl
前記反応液を前述の調製した標的DNA溶液に十分に混合した後、スピンダウン遠心分離した。前記反応液を含むチューブまたはプレートを密封し、94℃で2分間インキュベートした後、94℃で5秒間、続いて52℃で5秒間、続いて72℃で5秒間の条件を40サイクル反復し、その後4℃に保管した。このようにして得られた均質的伸長反応産物を樹脂(SpectroCLEAN)を用いて洗浄した。伸長反応に使われた伸長プライマーを下記の表3に列記する。
【0060】
【表9】

【0061】
【表10】

【0062】
前記伸長反応産物中の多型部位のヌクレオチドを、質量分析法であるMALDI−TOF(Matrix Assisted Laser Desorption and Ionization−Time of Flight)を利用して分析した。前記MALDI−TOFは以下の原理に従って行われる。検体がレーザビームを受けると、イオン化されたマトリックスと共に、真空状態の中を反対側にある検出器まで飛んで行く。このとき、前記検体が前記検出器に到達するまでの所要時間を計算する。質量の小さな物質ほど、前記検出器に早く達する。前記標的DNA断片中のSNPのヌクレオチドは、前記DNA断片間の質量の差と、前記SNPの既知のヌクレオチド配列とに基づいて決定できるのである。
【0063】
前記MALDI−TOFを用いて標的DNAの多型部位のヌクレオチドを決定した結果を、表1−1、1−2、2−1、及び2−2に示す。各対立遺伝子は、各個体においてホモ接合体(homozygote)またはヘテロ接合体(heterozygote)の形態で存在しうる。しかし、所定の集団における、ヘテロ接合体の頻度とホモ接合体の頻度との分布は、統計的に有意な水準を超えることはない。メンデルの遺伝法則及びハーディーワインバーグ(Hardy−Weinberg)の法則によれば、集団を構成する対立遺伝子の遺伝的構成は、一定の頻度に維持される。前記遺伝的構成が統計的に有意な場合、生物学的に意義深いものと考えられる。本発明のSNPは、表1−1、1−2、2−1、及び2−2に示すように、二型糖尿病患者においては、統計的に有意な水準で現れており、従って二型糖尿病の診断に効果的に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜80のヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列の10以上の連続したヌクレオチドを含み、前記ヌクレオチド配列の201位のヌクレオチドを含む、二型糖尿病の診断若しくは治療用ポリヌクレオチド、またはその相補的ポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドとハイブリダイズする、二型糖尿病の診断または治療用ポリヌクレオチド。
【請求項3】
長さが10ないし100ヌクレオチドである、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
プライマーまたはプローブである、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドを含む、二型糖尿病の診断用マイクロアレイ。
【請求項6】
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドを含む、二型糖尿病の診断用キット。
【請求項7】
(a)個体から核酸試料を単離する段階と;
(b)配列番号1〜80のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドのうちの1以上の多型部位(101位)のヌクレオチドを決定する段階と、
を含む、前記個体における二型糖尿病の診断方法。
【請求項8】
前記1以上の多型部位のヌクレオチドを決定する段階は、
請求項1に記載のポリヌクレオチドまたはその相補的ポリヌクレオチドが固定化されているマイクロアレイ上に前記核酸試料をハイブリダイズさせる段階と;
ハイブリダイゼーションの結果を検出する段階と、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
リスク対立遺伝子を含む、配列番号2、4、5、8、9、11、13、16、18、20、21、23、25、27、30、32、33、36、38、40、42、44、46、47、49、51、53、55、57、59、62、63、65、67、69、71、75、77、及び80から選択される1以上のヌクレオチド配列が検出される場合に、前記個体は二型糖尿病を発症する危険性があると診断される可能性が高いと決定する、請求項7に記載の方法。

【公表番号】特表2007−516719(P2007−516719A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546829(P2006−546829)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/KR2004/003441
【国際公開番号】WO2005/061711
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(503447036)サムスン エレクトロニクス カンパニー リミテッド (2,221)
【Fターム(参考)】