説明

一対の回折光学要素を備える光学デバイス

本発明は、相互に平行に連続して配置された、特別に設計された板状の一対の回折光学要素を有する光学デバイスを提供する。2つの回折光学要素を連続状態で且つ特定の距離をあけて相互に平行に配置することにより、その組み合わせが単一の回折光学要素に光学的に対応し、また同様の役割を果たすことができ、レンズ、アキシコン、位相シフタ、またはらせん状位相板として機能する。一方の回折光学要素が他方に対して共通の中心軸を中心として回転すると、焦点距離、屈折力、ヘリカルインデックス、または位相シフト量のような光学デバイスの特性が連続的に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の回折光学要素を有し、連続的に光学特性が変化可能な特別な光学要素として機能する光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
回折光学要素(以下、DOEと称する)は、一般には、ガラス、プラスチックなどから作製された光学的に透明な平板の形であり、極めて微細な位相変調のために特別に設計された位相パターンが形成されている。特定の目的のために、DOEは商業的に使用することができ、例えば、ラインまたはパターンジェネレータ、ホログラムプロジェクタ、レーザビームプロファイルコンバータ、レンズ、レンズアレイ、アキシコン(例えば、リング状プリズム)、またはその他のものとして機能する。例えば、回折レンズ(フレネルレンズ)は、高級カメラの光学系に、標準的な屈折レンズと組み合わせて商業的に使用されている。DOE−レンズの1つの利点は、薄いガラスプレートから構成される、または標準的なガラスレンズの表面をコーティングすることのみで構成されることにより、非常に薄くて軽量であることである。さらに、DOEの好適に設計された分散特性が上述の標準的な屈折ガラスの光学系を補正する場合、色誤差なしの分散フリーの光学系を構成することができる。
【0003】
A.W.Lohmann著の「A new class of varifocal lenses」(Appl.Opt.9、1669−1671(1970))には、2つの回折要素の横方向シフトに基づく回折ズームレンズ系が開示されている。A.Kolodziejczyk、Z.Jaroszewicz著の「Diffractive elements of variable optical power and high diffraction efficiency」(Appl.Opt.32、4317−4322(1993))には、符号化された単純位相波面を備えた複数の回折構造体の相互移動に基づいて屈折力を変更可能な回折要素の作製について述べられている。相互移動として、一方の回折構造体が他方に対して平行移動する、または回転する、もしくはそのサイズが変化する。位相回折格子の相互回転されるキノフォームの重ね合わせが線形位相を備えた共役波面を発生させることが記載されており、特定の角度単位で反対方向にキノフォームが回転することにより、力可変のRisley−Herschelプリズムに相当する回折が起こる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の目的は、連続的に特性が変化する特別な光学要素として機能し、コンパクトなサイズであって高い効率である光学デバイスを提供することである。さらにまた、この光学デバイスは、光学特性それぞれのあらゆる変化についての光学要素の精度を向上させる。
【0005】
これらの目的は、請求項の特徴によって達成される。
【0006】
本発明は、一対の特別に設計された回折光学要素(DOEs)を連続的に位置変更(arrange)するという概念に基づいている。DOEは、通常、直径が約50mmまたはそれより小さい、もしくは1mmぐらいの円板である。2つのDOEを連続して且つ特定の距離、好ましくは10μmまたはそれより小さい距離をあけて平行に配置することにより、その組み合わせは、単一のDOEに光学的に対応し、また同様の役割を果たすことができ、例えば特定の焦点距離を備えたレンズとして機能する。一方のDOEが他方に対して共通の中心軸を中心として回転する場合、回折レンズの焦点距離のような光学デバイスの特定の特性が、設計されたどおりに有利な方向に連続的に変化する。
【0007】
本発明は、特に、2つのDOEの相互回転によって焦点距離が広い範囲で連続的に変化する回折レンズ、いわゆるフレネルレンズとして機能する一対のDOEの構造について記載する。このようなレンズは、例えば結像(imaging)(カメラ、望遠鏡、顕微鏡)のために、またはビーム投射の目的(例えば、プロジェクタ、オーバーヘッドプロジェクタ、レーザスキャナ)のために、屈折ガラスレンズと同様に使用されるが、焦点距離が可変であるという付加的な利点を備えている。これにより、結像用途において、レンズの位置を軸方向にシフトすることによってその役割を果たすかさばるズーム光学系を使用する代わりとして、レンズの屈折力を変化させることによって焦点を合わせることができる、人間の目のように機能する光学系を構成することができる。その上、本発明のデバイスは、横方向に関してコンパクトな構造を提供する。
【0008】
類似して、一対のDOEは、回折アキシコン、すなわち、屈折によって光のリング(ring)を発生し、DOE対の相互回転によって屈折力が変化するおおむね球形のプリズムとして機能するように構成可能である。アキシコンは、ビームシェイピング(shaping)目的のための科学的用途において、例えば特殊化された顕微鏡の照明光学系(STED)のために、原子トラッピング、光ピンセット、ファイバーカップリング光学系、またはその他の分野において、重要な光学要素である。
【0009】
さらに、本発明に係るDOE対は、2つのDOEの相互回転角によって位相シフト量を極めて正確に調整可能な単純位相シフタ(pure phase shifter)として機能することができる。このようなデバイスはまた、一方のDOEが他方に対して連続的に回転する場合、光ビームの極めて正確な周波数シフタとして使用できる。このような極めて正確な位相シフタおよび周波数シフタは、多くの用途に適用でき、例えば、波長スケールで物体の変化を定量的に測定するために使用される光学干渉計に用いられる。
【0010】
本発明の別の実施形態は、入射光ビームをヘリカルチャージ(helical charge)が可変ないわゆるドーナツ状モードビームに変換する、ヘリカルインデックス(helical index)が調整可能ないわゆるらせん状位相板として機能するDOE対の構造である。このようならせん状位相板は、微細粒子に伝達される角運動量を運ぶ光ビームを作り出せるため、例えば原子トラッピングや光ピンセットのような科学的用途において重要な要素である。特に今日では、このようならせん状位相板は、光学式位相差顕微鏡の分野における新手法では必要不可欠な要素になっている。
【0011】
DOEの相互回転を原因として、光学的特性が組み合わせDOEの他の部分と異なる組み合わせDOEの部分(section)が形成され、例えば、光学デバイスがレンズとして機能する場合は、焦点距離が異なる。この影響を回避するために、本発明の光学デバイスはさらに、不要な光学特性を持つ扇形領域(セクタ:sector)を覆う扇形状の吸収体(absorber)を有する。不要な光学特性を持つ扇形領域の形成は、回折光学要素の中心から縁に向かって延びる径方向の直線に沿って現れる位相形状における不連続性(discontinuity)を除くことによって回避することが可能である。このことは、DOEの計算の最中に、位相形状を表す透過関数の変数(argument)を丸めること(rounding)によって実行することができる。さらに、本発明の実施形態は、例えば製造工程上の限界の結果として個々のDOEの効率が100%より小さい場合、光学デバイスから放出された不要光を十分に減少させる。
【0012】
全ての用途において、DOEは、組み合わせることにより、いわゆるブレーズド位相回折格子構造体、例えば、全体としての回折効率がほとんど100%であるのこぎり歯形状の回折格子を生み出すように好適に設計される。好適には、本発明の光学デバイスの2つのDOEは、特定の回転角では互いに鏡像であって、言い換えれば、同一のマスター要素の2つのコピーであり、それらのコピーを、位相形状が形成されている側のDOEの「面」同士が対向した状態で互いに相手の裏側に配置するだけである。したがって、一方のDOEの光学的位相伝達関数は、他方に対して幾何学的に対称である。言い換えると、2つの同一要素が位相形状の形成面同士が対向した状態で使用されるため、生産コストが減少する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、次に示す複数の図面を参照しつつ、以下の詳細で説明されている。
【図1】本発明に係る光学デバイスの原理的な機構を示す図
【図2】組み合わせた後に相互回転角によって決定される屈折力を持つフレネルレンズとして機能する、2つのDOEの位相パターンを示す図
【図3】各相互回転角における、図2の2つのDOEを重ね合わせた結果として生じた位相パターンを示す図
【図4】図2に示すものと同様に、組み合わせた後に相互回転角によって決定される屈折力を持つフレネルレンズとして機能する、扇形領域の形成の影響が生じないように改良された2つのDOEの位相パターンを示す図
【図5】各相互回転角における、図4の2つのDOEを重ね合わせた結果として生じた位相パターンを示す図
【図6】2つのDOE間の相互回転角の関数である、扇形領域の形成を回避したフレネルレンズの回折効率と屈折力とのプロット図
【図7】屈折力がオフセットされた焦点可変フレネルレンズとして機能する組み合わせDOEを提供する、2つのDOEの位相パターンを示す図
【図8】組み合わせた後に相互回転角によって決定される屈折力を持つアキシコンとして機能する、2つのDOEの位相パターンを示す図
【図9】ヘリカルインデックスがm=1とm=5のらせん状位相要素の側面視と上面視の図
【図10】互いに相手の裏側に接近して対向状態に配置された、ヘリカルインデックスがm=1の2つの同一らせん状位相板を示す図
【図11】本発明の実施形態に係る、シグナル対ノイズが最適化されたDOEの原理を示す図
【図12】ヘリカルインデックスがm=1とm=−1のらせん状位相要素の位相パターンと(上段)、フォーカスレンズ項およびデフォーカスレンズ項が重ねられた同一の位相関数(下段)とを示す図
【図13】組み合わせた後に2つのDOE間の相互回転角によって線形的に決定されるヘリカルインデックスが可変ならせん状位相要素として機能する、2つのDOEの位相パターンを示す図
【図14】各相互回転角における、図13の2つのDOEを重ね合わせた結果として生じた位相パターンを示す図
【図15】図13に示すようなヘリカルインデックスが可変な同一らせん状位相要素を提供し、発散レンズ項および収束レンズ項をそれぞれが備えている第1および第2のDOEを重ねることによってシグナル対ノイズ比が大きく増加した、最適化された一対のDOEを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(回折光学要素の原理)
DOE(diffractive optical element)は、商業的に使用可能な、透明材料に微小の位相構造(phase structures)を構成してなる光学要素である。これらは、レンズ、レンズアレイ、または平面光波の照射によって特定のパターン(直線、十字線、ドットの配列など)を投影するように設計されているホログラム(いわゆるキノフォーム(kinoforms))として機能することができる。DOEの各ピクセルは、入射光ビームの位相を0から2πの間でシフトする。したがって、このようなDOEに入射平面波が照射されると、DOE板の裏側からの出力波は、設計どおりの波面変調を受ける。対応するDOEsは、それらが所望の目的を達成できるように、よく知られたアルゴリズム(例えば、キノフォームアルゴリズム、Gerchberg−Saxtonアルゴニズムなど)によって算出される。そのアルゴリズムの出力は、所望のDOEのいわゆる透過関数T(x,y)に対応し、この場合は、数式T(x,y)=exp(iΦ(x,y))の「位相−オンリ−地形(phase−only−landscape)」である。Φ(x,y)は0から2πの範囲のピクセル配列であって、対応する点を通過するときに光ビームが取得する位相シフト量に対応する。
【0015】
次のプロセスステップにおいて、算出された位相地形(phase landscapes)が、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、または機械式のマイクロ機械加工(ダイヤモンドターニング加工)などの技術によって材料に形成される。これにより、材料の各点が入射光線の位相を所望の位相量遅延する。これは、変調表面形状により(例えば、エッチングされた石英板)、または、例えばフォトポリマーフィルムのように平面を備えた材料の空間的に変調された屈折率によって達成される。各ピクセルの代表的なサイズは0.1〜3ミクロンの間の範囲であって、DOEの代表直径は2〜10mmのオーダである。
【0016】
コンピュータが生み出したDOEと標準的なホログラム(物体波と参照波とを重ね合わせることによって記録されたホログラム)との大きな違いは、算出されたDOEの位相構造が一般的に正弦曲線ではない、すなわち、局所的にのこぎり歯状格子のように見えるΦ(x,y)の構造であることである。この特徴により、DOEsの回折効率は、好適に設計されているのであれば、入射光の100%に達する。これに対して位相ホログラムの場合、(対称性を有する格子構造であるため)、回折効率は最大でも40%である。
【0017】
図1は、本発明に係る光学デバイスの原理的な機構を示している。2つのDOEが小さい間隔をあけて互いに相手の裏側に配置されている。これらは、表面に対して直交する中心軸を中心として相互的に回転される。このDOEの組み合わせは、相互回転角によって決定される予め指定された方向に、入射光波の波面を操作する。
【0018】
透過関数がT(x,y)=exp(iΦ(x,y))のDOEと透過関数がT(x,y)=exp(iΦ(x,y))のDOEとが、概ね光の波長のオーダと同じくらい十分に小さい距離をあけて互いに相手の裏側に直接的に配置されている場合、2つの隣接するDOEの組み合わせは、光学的には、数式1に示す透過関数の単一のDOEに対応する。すなわち、組み合わせDOEの位相地形は、数式2のようになる。
【数1】

【数2】

【0019】
したがって、2つのDOEの組み合わせは、2つのDOEが相互的に回転する場合、連続的に変化する、様々な特定の目的に応じることができる透過関数を得ることができる。基本的な原理はある程度はモアレ効果に関連しており、このことは、例えば、S.Bara、Z.Jaroszewicz、A.Kolodziejczyk、およびV.Moreno著の「Determination of basic grids for subtractive moire patterns」(Appl.Opt.30,1258−1262(1991))、J.M.Burch、D.C.Williams著の「Varifocal moire zone plates for straightness measurement」(Appl.Opt.16,2445−2450(1977)、またはZ.Jaroszewicz、A.Kolodziejczyk、A.Mira、R.Henao、S.Bara著の「Equilateral hyperbolic moire zone plates with variable focus obtained by roatations」(Opt.Express 13,918−925(2005))において議論されている。モアレ効果において、格子定数が同じような微細な2つの回折格子構造体の組み合わせは、微視変調回折格子構造体を生み出す。しかしながら、標準的なモアレ効果は、位相構造体ではなく吸収性(absorptive)によって発生し、また、一般的には、組み合わせ透過関数の範囲内において「ブレーズド」位相回折格子構造体を作らず、モアレ構造体の全体的な効率は数パーセントに制限される。
【0020】
(可変焦点フレネルレンズ)
特別に設計された連続する2つのDOEのセットは、相互回転により、広い(選択可能な)範囲内において焦点距離を連続的に変化させることができる高効率(ほとんど100%)のフレネルゾーン板(すなわちレンズ)として機能することができる。このような焦点距離が変更可能な光学レンズ要素は、カメラ、顕微鏡、アイピース(eye−pieces)、望遠鏡のような結像系や、ファイバーカプラ、光学式バーコードスキャナ、光学式マニピュレータなどのビーム制御の用途において、重くてスペースを消費する、ガラスレンズから作られたズーム光学系の代わりにすることができる。
【0021】
2つのDOEの対応する透過関数は、数式3に基づいて算出される。
【数3】

x,yは、点(x,y)の直交座標であって、板の中心がx=0,y=0の原点に対応する。また、r(x,y)=(x+y1/2とθ(x,y)=angle(x+iy)は、同一点における極座標に対応する。以下に示すように、定数aは、組み合わせDOE光学系の屈折力に比例する。これらの透過関数から2つのDOEを作製するためには、各点におけるこれらの位相を計算する必要があり、また、その結果が、0〜2πの間の範囲内の位相値配列からなるようなmodulo(2π)から得られる必要がある。2つのDOEの対応する位相パターンは、ゼロにプロットされる。
【0022】
図2において、また後述の全ての更なるDOEのプロットにおいて、白と黒の間の濃淡値(grey value)は、0と2πの間の範囲の位相値に対応する。2つの透過関数Tlens1、Tlens2は、複素共役である。DOEの対称性考慮とDOEの図2の画像は、2つのDOEが互いに鏡像であることを示している(これら両方が90度単位で回転される場合)。したがって、同一の透過関数Tlens1を持つ2つの同一のDOEが使用される。これらが対面配置されている場合に2つのDOEのうちの第2の方が上下逆さまに反転されると、これは、所望の鏡像された関数Tlens2に正確に対応する。第2のDOE(透過関数Tlens2を持つ)が−2πと2πの間の範囲で調整される特定の角度φ単位で回転すると、組み合わせDOEのトータルの透過関数は数式4のようになる。
【数4】

【0023】
ここで留意すべきは、透過関数Tcombiは、数式5に示す屈折力を持つ理想的なレンズのそれと正確に対応することである。
【数5】

(ジオプタにおいて、焦点距離fの逆数に対応)、λは光の波長である。したがって、屈折力の変化は、2つのDOE間の相互回転角によって線形的に決まる、すなわち、df−1/dφ=aλ/πである。
【0024】
組み合わせDOE光学系の対応する位相透過関数(phase transmission function)は、それが非対称ののこぎり歯状の位相格子構造であるため(modulo 2π演算が原因で)、非限定(unlimited)の回折効率をもつ理想的なレンズのキノフォームのそれに対応する。すなわち、このようなDOE要素は、不要光の寄与を発生せずに、まさしく「標準的」なガラスレンズのように、所望の光の波長のために使用することができる。
【0025】
組み合わせDOE光学系によって作り出される対応する位相パターンが図3にプロットされている。上段は回転角φが−75、−30、−15度、下段は+15、+30、+70のものである。また、位相値は、0から2πの間の範囲の位相に正確に対応する濃淡値(gray−values)としてプロットされている。
【0026】
図3は、第2のDOEの回転が、その回転方向によって決定されるプラスまたはマイナスの屈折力を持つフレネルレンズを生み出すことを示している(プラスとマイナスの屈折力は、径方向の位相の変化により、プロットにおいて区別される)。
【0027】
興味深いことに、図3からわかるように、所望のフレネルレンズに加えて、組み合わせDOEの扇形領域(セクタ:sector)は、違う焦点距離を持つフレネルレンズのパターンを示しているようである。この扇形領域は、2つのDOEの中心からπの極角方向に現れるこれらの径方向の直線の間の領域からなる。これらの扇形領域が現れる理由は、数式5に定義される位相の周期性、すなわち、一方のDOEの他方に対するφの角回転が、角度φ±2π(この数字は|φ±2π|<2πを満たすように選択される必要がある)の回転と区別ができないからである。この2つの場合、数式5によれば、屈折力がf−1=aφλ/πとf−1=−a(φ±2π)λ/πとにそれぞれ異なる2つのフレネルレンズが得られる。回転角φが−2πと2πとの間の範囲で調整されるため、対応する2つの焦点距離fとfは、φ=πを除いて、常に異なる符号になるとともに異なる絶対値になる。φ=πの場合、屈折力の絶対値が等しい凸形状のフレネルレンズと凹形状のフレネルレンズとして機能する、2つの半球からなる組み合わせDOEを生み出す。
【0028】
この影響は、結像用途においては妨げになるが、相互回転角が2πの全範囲に比べて相当に小さい範囲に限定されているのであれば、それは減少する。さらに、レンズの「悪い(wrong)」扇形領域が、DOEの前に位置する扇形状のアブソーバによって覆われる。しかしながら、2つの扇形領域の屈折力が大きく異なり、また符号も異なるため、DOE対は、マスキングすることなく、様々な実用的な用途に使用することが可能である。
【0029】
(扇形領域の形成を回避する可変焦点フレネルレンズ)
本発明はさらに、このような扇形領域の形成を回避する方法を提供する。不要な扇形領域の出現は、数式3(T1,2=exp[±iarθ])に係る2つのDOEを作製するための数式が、θ=πからθ=−πに推移するときにおいて不連続である、すなわち、各DOEの中心から左側縁までの径方向の直線において不連続である(図2参照)ことが原因である。しかしながら、DOEでのこの不連続な直線は、DOEを生み出すための数式を数式6のようにわずかに変更すれば、回避することができる。round{・・・}演算は、変数をすぐ上の整数値に丸めること(rounding)を意味する。
【数6】

【0030】
図4に、2つのDOEの対応する位相パターンの例がプロットされている。この位相パターンは、図2に示す第1の方法のものと類似するように見えるが、位相のエッジに「粗さ」が現れている。一方、θ=πの径方向直線に不連続性が現れていない。2つのDOEは、鏡面対称であるという特性を今もなお持つ、すなわち、一方が上下逆さまに反転され且つ他方の表面に対して対面配置されている場合、これらは同一の位相構造である。
【0031】
その組み合わせDOE光学系の対応する位相値が、図5にプロットされている。上段は回転角度φが−75、−30、−15度、下段は+15、+30、+70のものである。
【0032】
図に示すように、扇形領域が形成されていない。相互回転角φがプラスからマイナスに変化するとき、屈折力はマイナスからプラスに完全に滑らかに推移し、相互回転角が小さい場合(例えば、図5に示すφ=−30からφ=30の範囲)ほぼ「完璧」なブレーズドフレネルレンズを形成する。しかしながら、相互回転角が大きい場合(例えば、φ=75)、組み合わせフレネルレンズはわずかに効率が小さくなり、すなわち、対応するのこぎり歯状回折格子が、滑らかさを維持する代わりに、バイナリ化(binarized)していく。
【0033】
このような挙動の理由は、上述のケースと同様に、φの角回転とφ±2πの角回転との間に、回転角の潜在的な曖昧性が存在するからである。これら2つのケースは、事実上、屈折力がそれぞれf−1=aφλ/πとf−1=−a(φ±2π)λ/π(|φ±2π|<2π)の2つの重ね合わせフレネルレンズを形成する。2つのレンズの相対的な寄与は、相互回転角の関数として変化し、すなわち、角度φが小さい場合はfが主に寄与し、それに対して角度が180度より大きい(または−180度より小さい)場合はfが優位に立つ。したがって、組み合わせDOEの回折挙動は、凸レンズと凹レンズとの重ね合わせとして機能するバイナリ(binary)フレネルレンズの回折挙動と類似する。しかし、両者には違いがあって、2つの重ね合わせレンズの回折効率と屈折力が異なる。
【0034】
図6は、−360度から360度の間の範囲の相互回転角の関数である、2つの重ね合わせレンズの回折効率の演算値を示している。ボックスの左下コーナと右下コーナとを接続するcos形状(cos−shape)の曲線は、望ましいフレネルレンズの回折効率に対応する。その効率は、相互回転角がゼロ、屈折力もゼロのときに最大になり、−90度と90度の間の区間ではなだらかに(15%未満)減少する。これに対し、この区間における、第2の重ね合わせフレネルレンズの効率は15%未満である。さらに、この不要なレンズの屈折力は、第1のレンズと大きく異なり、すなわち、f−1の最大値±2aλに近い。興味深いことに、相互回転角がゼロのときの第2レンズの屈折力は、f−1=+2aλからf−1=−2aλにジャンプする。しかしながら、ジャンプ位置で対応するレンズの効率は消えているが、このジャンプは実験の現実の結果ではない。
【0035】
図6のグラフは、2つのDOEの相互回転が−90度と90度の間の角度のであれば、組み合わせフレネルレンズの効率が15%の低い損失で済むことを示している。
【0036】
2つのDOEの一方が他方に対して一定の速度で連続的に回転する場合、対応するフレネルレンズは、焦点距離の調整可能な範囲で周期的に走査(scanning)する。これは、結像系(検査カメラ)やビーム走査系(バーコードリーダなど)に応用できる。例えば、シャッタを使用する結像系に組み込まれた周期的に回転するDOEは、シャッタの開放とDOEの回転との間の相対的位相によって決定される特定の距離内にある物体に焦点が合うようなDOEの回転で位相固定される(すなわち、シャッタが、DOEが特定の角度位置であるときに常に開く)。シャッタが電子式である場合(例えば、開放可能なイメージインテンシファイア)、焦点調節は、電子機器によって、DOEの回転とシャッタの開放との間の位相を単に変化させることによって単純に制御される。
【0037】
実際には、2つのDOEの組み合わせによって変化されるフレネルレンズの最大限に利用可能な焦点範囲は、数式5、すなわち、f−1=aφλ/πによって与えられ、φは−2πから2πの間の範囲で変化する。しかしながら、定数aの最大値は、物質的なDOEの分解能によって限界が存在する。ピクセル配列として形成される回折格子を解像するためには、2つの隣接するピクセル間の最大位相シフト量をπより小さくする必要がある。すなわち、数式7を満たす必要がある。
【数7】

pは1つのDOEピクセルの最小サイズであって、主として屈折法によって限定される。第1の条件は径方向の位相分解能に関し、第2の条件は接線方向の位相分解能に関する。DOEが作り出すフレネルレンズに関して、第1の条件の方が、第2の条件に比べて常に制限されることが分かっており、したがって、以下では、それが唯一の条件とみなされる。
【0038】
フレネルレンズを作製するDOEの透過関数がT1,2=exp[±iarθ]であるため、Φ=arθが得られる。これと数式7とにより、数式8の条件が得られる。
【数8】

maxはDOEの最大半径であり、θmaxは最大極角である。θが−πからπの間の範囲に限定される場合、θmaxはπに対応し、その条件は数式9のようになる。
【数9】

したがって、特定のDOEに関するaの最大値amaxは、そのピクセルの分解能とその最大所望半径との両方によって決まる。数式5によれば、amaxを持つ組み合わせDOEレンズの屈折力はf−1=amaxφλ/πになる。上述において、85%のオーダまたはそれ以上の効率を得るためには、回転角φは−π/2から+π/2の間の間に限定すべきことを示した。したがって、φ=π/2を代入すると、数式10の制限が得られる。
【数10】

【数11】

数式11は、±90度の相互回転角のときに達成され、且つ85%より大きい回折効率を得ることができる、組み合わせDOE光学系の達成可能な最小の焦点距離である。
【0039】
実例として、標準ピクセルサイズp=1μm、直径2rmax=5mmのDOEは、波長が500nmである場合、−50〜50ジオプタの範囲(±2cm〜±∞の焦点距離に対応)で調整可能な屈折力をもつ。このことは、この利用範囲の制限が、ファクタ2(factor 2)のみにより、同一条件での単一−DOE−フレネルレンズに関する制限より厳しいことを示している。すなわち、上述の例において、単一のDOEは1cmの最小焦点距離を持つ。
【0040】
多くの場合、ゼロ近傍で対称的にレンズの屈折力が変化することは望まれないが、特定のオフセット値近傍では望まれることがある。これは、組み合わせDOE要素が「標準的な」ガラスレンズの裏側に直接的に配置されて、屈折力を「オフセット」することにより達成される。また一方、それは、組み合わせDOE要素で直接的にオフセットすることによっても達成される。
【0041】
これは、2つのDOEの透過関数の両方にオフセットレンズ項(offset lens term)を掛け算することによって、すなわち数式12によって行われる。それぞれに要求オフセット焦点距離foffsの半値が含まれている。
【数12】

【0042】
これは、組み合わせDOEが、foffsに対応するオフセット焦点距離をもつけれども、特に相互回転角の関数である屈折力の変化が等しく且つ効率が等しい状態で、上述したように相互回転角の関数としてその焦点距離を変化させることを示している。有利に、2つの要素が互いに鏡像(特定の相対的回転において)であるため、対面状態で配置される、且つ透過関数Tlens1である同一の2つの要素を作製すればよい。組み合わせ後にオフセット屈折力を持つ焦点可変フレネルレンズを形成する2つのDOEの例が、図7に示されている。
【0043】
(屈折力が可変なアキシコン)
調整可能なフレネルレンズと同様に、特別に設計された2つのDOEの別のセットは、相互回転角によって屈折力が調整可能なアキシコン(またはアキシコンレンズ)として機能することができる。このようなアキシコンは、主に、ファイバーカプラ、光ピンセット、または、小さい焦点の軸方向領域を拡張すること(いわゆる「ベッセルビーム」)ができるレーザカッタシステムのためのビーム制御の用途に必要とされる。
【0044】
2つのDOEの透過関数を計算する数式は数式13である。
【数13】

【0045】
このような透過関数に対応するDOEの例が図8(A)にプロットされている。上述と同様に、これら2つのDOEの組み合わせによって形成されたアキシコンの屈折力は、定数aと、相互回転角φとに比例する。図8(A),(B),(C)に示す全てのDOEは、第1のDOEと同一の第2のDOEが上下さかさまに反転されて組み合わせられる必要がある。
【0046】
25度の角度で相互回転した後のTaxi1とTaxi2の組み合わせDOEの例が図8(D)に示されている。この場合、相互回転角に対応する角度広がりを持ち、異なる屈折力を備えるアキシコンレンズを含んでいる不要な扇形領域が形成されている。上述と同様に、このような扇形領域の形成は、その数式に丸め込み演算を組み込むことによって、すなわち数式14によって避けることができる。
【数14】

【0047】
さらに、相互回転角が25度の例が図8(E)にプロットされている。上述と同様に、第1のアキシコン構造体に重ねられた、異なる屈折力を持つ第2のアキシコン構造体が現れている。しかしながら、第2のアキシコン構造体の相対的効率は、相互回転角が−90度から90度の間の範囲に制限されるのであれば、15%より下である。
【0048】
最終的に、「アキシコンレンズ」、すなわち、焦点力foffsが固定の「標準的」な合焦レンズまたは発散レンズに重ね合わせられた屈折力が可変のアキシコンを作り出すことが求められる。このような要素を得るための対応する数式15を示す。
【数15】

対応するDOEの例は、0(C)にプロットされる。
【0049】
このような構造体は、要素の裏側から特定の距離の位置で焦点が合う入射平面光波からリング形状の光強度分布を生み出すことができる。さらに、このような構造体は、所望のアキシコン形状の光照射野(light field)が回折しない残留光と異なる発散をするという利点を有する。このような残留光は、組み合わせDOE要素のゼロ次の回折次数に対応し、DOEが完璧に作製されたものでない場合、例えば、算出された位相値が物質的なDOE構造体に完全に再構築されない場合に現れる。所望のアキシコン状の回折光と不要なゼロ次数の非回折光(すなわち透過光)とは発散が異なるため、この2つの成分は、例えば、非回折光の焦点面に開口絞りを設けることによって簡単に分離することができる。
【0050】
(連続的に調整可能な位相および周波数シフタ)
2つの連続する、特別に設計されたDOEは、相互回転したとき、正確に、連続的に調整可能な位相シフタとして機能することができる。このような位相シフト能力は、例えば、光干渉法、干渉顕微鏡法、ホログラフィの分野、また、様々な科学的分野(原子トラッピングなどにおいて、永続的な光波を連続的に位相シフトするような)において必要とされている。DOE光学系はまた、DOEの一方が他方に対して連続的に回転すれば、連続的に透過光ビームの周波数をシフトするシフタとして機能することができる。
【0051】
このような周波数シフタは、干渉法(ヘトロダイン干渉法)の分野や科学的用途に必要とされる。
【0052】
この目的のために、対応するDOEは、数式16の透過関数によって定義される、いわゆるらせん状位相板からなる。
【数16】

ヘリカルインデックス(helical index)(ときどき「ヘリカルチャージ(helical charge)」として表示される)mは整数である。ヘリカルインデックスがm=1とm=5とであるらせん状位相板の例が図9にプロットされている。
【0053】
2つの同一のらせん状位相板がお互いに相手の裏側に接近した状態で対面配置された場合、これらの有効なヘリカルインデックスの符号は反対になり、組み合わせDOEは、可変位相シフタとして機能する。m=1の場合の組み合わせDOEの例が図10に示されている。図10に示すように、ヘリカルインデックスがm=1の2つの同一のらせん状位相板が、お互いに相手の裏側に接近した状態で対面配置されている。一方のDOEが他方に対して上下逆さまに反転しているため、このような配置における2つのDOEの有効なヘリシティ(helicities)は異符号となる。一方のDOEが他方に対して回転した場合、透過光波の位相は、0から2πの間の範囲で連続的にシフトする。
【0054】
一方のDOEが他方に対して角度φ回転すると、組み合わせ透過関数は数式17のようになる。
【数17】

したがって、その組み合わせ透過関数は、組み合わせDOE要素を通過する入射波上に誘発される静的な平面位相シフト量mφに対応する。
【0055】
2つの要素の一方が一定の各周波数ωrotで連続的に回転した場合、数式17の静的な回転角φはωrottに置換され、光学系は周波数シフタとして機能し、入射光ビームの光周波数ωinは、数式18に示すωoutに変化する。
【数18】

【0056】
周波数(または位相)のシフト量の符号は、回転方向によって選択される。数式17および18は、ヘリカルインデックスmが固有の「ギヤ−トランスミッション(gear−transmission)」係数の役割をすることを示しており、すなわち、透過ビームの位相または周波数のシフト量それぞれは、係数mに対して回転するDOEの回転角または回転周波数を掛け算したものに対応する。
【0057】
(相対的効率が増加した組み合わせDOE)
上述の位相シフタのようにDOE対が好適に作製された場合、対状態の2つのDOEの両方、および組み合わせDOE要素はq=100%の効率を有する、すなわち、目的方向に方向付けされない入射波面が全くない。もし、物質的なDOE要素の実質的な限界を原因として、各ピクセルの実際の位相シフト量が計画値に正確に対応しない場合、2つのDOEそれぞれ、および組み合わせDOEの回折効率は減少する。2つのDOEのそれぞれで光が誤操作される主の不要な寄与は、いわゆるゼロ次の回折次数であって、すなわち、影響を受けることなくただDOEを透過するだけのわずかの光である。このゼロ次数の寄与が小さくても、全ての透過波には大きな影響があって、コーヒレントに残留光に干渉するため、通常はその結果として、DOEが相互的に回転する場合、透過光波の空間強度変調は変化する。
【0058】
「標準的」なDOE対の場合、それぞれのDOEの効率(対応する方向に変調される入射光Iinの一部(fraction)Imodとして定義される効率、すなわち、q=Imod/Iin)はq<1であり、組み合わせDOEのトータルの効率はqであって、一方、全ての残留光からなる不要な光波Inoiseの効率は、1−qである。したがって、標準的なDOE対の「シグナル対ノイズ」比は、数式19によって与えられる。
【数19】

【0059】
しかしながら、2つの鏡面対称の要素からなるためにDOE対の特性を犠牲にすることにより、DOE対の性能が大きく向上する方法が存在する。この考えは、2つの波成分に分かれる異なるビームを導入することにより、所望の操作光波から不要なゼロ次数の寄与を分離することである。例えば、この場合、正確に操作されたビームが、その発散が変化することなく組み合わせDOE要素を透過する。一方、不要な寄与が強く発散し、DOEの裏側からある程度離れた位置で「希釈」する。
【0060】
これは、強発散レンズ項を2つのDOEの一方に重ねることにより、これに対して、他方が第1のDOEの効果を正確に相殺する強収束レンズを重ねられることにより、達成される。したがって、所定の光波は、2つのDOEを通過した後、全体的な発散が変わっておらず、これに対して、2つのDOEの一方でのみ回折したゼロ次数のビーム成分は発散する。所望波と同様に発散し続ける外乱(disturbing)ビーム成分は、ゼロ次数(すなわち非回折)光としてDOEの両方を通過する。しかしながら、この影響が現れる可能性は、DOEがレンズ項がない状態で作製された場合には線形的に減少するのに比べて、DOEの効率の関数として二次的に減少する。この方法の原理が図11にスケッチされている。
【0061】
図11は正確な縮尺ではないが、2つのDOEの間の実際の距離は、実際のビームが広がることがないように、可能な限り短くされている。図は2つのDOEのセットを示し、第1のDOEには発散レンズ項が重ねられ(適合された位相形状に加えて)、これに対して、第2のDOEは、屈折力の絶対値が同一の収束レンズ項が重ねられている。図の(A)は理想のケースを示しており、光波は両方のDOEによって所望の1次の回折次数に回折される。その結果、出力波は、入射波と同じように発散し、付加的に所望の誘起位相面変調を受ける。個々のDOEでの回折効率をqと仮定すると、トータルの回折効率はqである。
【0062】
図11のスケッチ(B),(C)は2番目に高い可能性のシチュエーションを示しており、回折は2つのDOEの一方のみで起こり、これに対して他方のDOEは波が単に透過する。この両方のシチュエーションにおいて、出力波は発散し、図11(A)に示す所望のシグナル波から簡単に分離される。
【0063】
図11の最後のスケッチ(D)は、シグナル波と同じように発散し、且つ「ノイズ」として機能する不要光の寄与のみの発生を示している。それは、回折されることなく両方のDOEを透過する入射波の一部からなる。このシチュエーションでの対応する効率は(1−q)である。したがって、最適化されたDOE対の全体的な「シグナル対ノイズ」Soptimalは数式20のようになる。
【数20】

したがって、最適化されたDOE対と標準的なDOE対(数式19)との間におけるシグナル対ノイズ比の増加は、数式21のようになる。
【数21】

【0064】
収束/発散DOE対の増加された性能の一例として、単一のDOEそれぞれが90%(q=0.9)の回折効率を持つと、入射光の10%が回折せずにゼロ次数に伝わるケースが議論されている。他の回折次数への回折は、ブレーズドDOE構造体であるため無視することができる。
【0065】
このケースの場合、標準的なDOE対(数式19に係る)のシグナル対ノイズ比は、Snormal=4.3となる。一方、最適化されたDOE対(数式20に係る)の対応するシグナル対ノイズ比は、Soptimal=81であって、およそ20倍に相当する。この方法を上述の連続的な位相シフタや連続的な周波数シフタに応用すれば、2つのDOEの対応する透過関数は、数式22のようになる。
【数22】

【0066】
divは、重ね合わせられる収束フレネルレンズと発散フレネルレンズの焦点距離であって、好適には、DOE対の後方で発散することによって不要なビーム成分の早い「希釈」を実現するために、実際的に可能である限り小さくされる。
【0067】
組み合わせDOE要素は、数式16によって表される「標準的」なDOE対とは異なり、相互回転角φの関数であって同一である透過Tcombi=exp(−imφ)を持つ。「標準的」なDOE対と最適化された対の対応するDOE要素が図12において比較されている。図12は、ヘリカルインデックスがm=1とm=−1のらせん状位相要素の位相パターン(上段)と、フォーカスレンズ項が重ねられた、またデフォーカスレンズ項が重ねられた同一の位相関数(下段)とを示している。下段のDOE対によって作り出された位相/周波数シフタは、所望に位相がシフトされた波成分と残りの非回折成分との間の相対的効率が著しく増加する。
【0068】
(ヘリカルインデックスが可変ならせん状位相要素のためのDOE対)
らせん状位相要素は、いわゆるドーナツビームを発生させるためのビーム成形の分野において重要なアプリケーションであって、光トラッピング(レーザピンセットや原子トラップ)のために、また角運動量を微細粒子に伝達するために(光ポンプ)、特に最近では顕微鏡法や干渉分光法の分野のらせん状位相差画像法のために使用される。
【0069】
2つの連続するDOEのセットは、2つのDOEの相互回転角を調整することにより、選択された範囲において連続的に調整可能な(また逆も可能な)ヘリカルチャージを備えるらせん状位相要素として機能することができる。
【0070】
対応するDOEの基本的な透過関数は数式23のように与えられる。
【数23】

aは定数であって、回転角の関数である組み合わせDOEのヘリカルインデックスの変化を決定する。したがって、相互回転角がφである場合の組み合わせDOEの透過関数は、数式24のようになる。
【数24】

【0071】
これは、−aφ(第2のファクタ)だけシフトする付加的な単純な位相シフタに組み合わせられた、ヘリカルインデックスがm=2aφ(第1のファクタ)のらせん状位相板の透過関数に対応する。このような組み合わせDOEが干渉分光法に使用されず、モードコンバータとして使用される場合、位相シフト項は無視され、組み合わせらせん状位相要素のヘリカルインデックスが、相互回転角φによって線形的に決定される。
【0072】
数式24に係る透過関数を持つDOEのセットの例を図13に示す。
【0073】
DOEの中心近傍領域の分解能は最も厳しく要求される。その結果としての、2つのDOEを重ねた後の組み合わせ透過関数が図14に示されている。図14は、相互回転角が−25,−5,−1.5,+1.5,+5,+25の場合を示している。対応する透過関数それぞれは、ヘリカルインデックスがおおよそ−13,−3,−1,+1,+3,+13であるらせん状位相要素に対応する。
【0074】
図3の扇形領域の形成と同様の、扇形領域の形成が起こっている。その理由もまた同様であって、すなわち、この扇形領域の形成は、組み合わせDOEの透過関数の数式24内の回転角φの曖昧性を原因とする。すなわち、φの回転とφ±2πの回転とを区別することができない。そのために、組み合わせらせん状位相要素が同時に2つのヘリカルインデックスを持ち、不要な第2のインデックスが、2つのDOEの相互回転角の反映である扇形領域に含まれる。したがって、DOEの設計において大きい係数aを使用することにより、かなり小さい相互回転角でヘリカルインデックスの変化が大きいDOE要素を作製し、それにより、不要な扇形領域を多くの実際の用途において無視できる面積にする。
【0075】
上述されたDOEを最適化する方法と同様に、2つのDOEに発散レンズ項や収束レンズ項(焦点距離±fdiv)を重ねることにより、シグナル対ノイズ比を増加させることができる。この場合、2つの最適化された透過関数は、数式25のようになる。
【数25】

【0076】
これらの透過関数によって算出された2つのDOEの例が図15に示されている。
【0077】
組み合わせDOEの透過関数は、上述の一対のDOE(図13参照)のものと対応するが、個々のDOEの回折効率が1より小さければ、数式21によって与えられるシグナル対ノイズ比は増加する。
【0078】
上述の詳細な説明において、連続的に調整可能な位相シフタと、調整可能なフレネルゾーン板およびアキシコンと、調整可能ならせん状位相要素のような、ここまで説明してきた2つの連続するDOEの相互回転によって完全に制御される光学要素の設計は、光学系の様々な課題を解決する技術的な方法を提供する。以下には、上述で言及された用途と異なる用途のための技術的解決法が記載されている。
【0079】
(焦点距離が連続的に調整可能なレンズとしてのフレネルゾーンプレート)
このようなレンズは技術的用途において多くの需要がある。一例として、このようなレンズを備えることにより、複数の光学要素の間の距離を調整することなく(レンズを軸方向にシフトさせることなく)、結像レンズの焦点距離を調整することによって、−人間の目のように−、焦点をあわせる結像系の実現が可能である。可変焦点レンズの生産は、今もなお研究段階であるが、レンズとして液体の滴(drops)を使用する方法がある。滴の曲率は、電場を印加することによって制御される。類似の方法では、電場によって曲げられる、2つの液体の界面を使用する。ようやくになって、焦点可変レンズとして機能することができる、特別に設計された液晶システムが存在する。本発明と比較すると、これらの方法の全ては、複雑で手間がかかるものであり、また焦点面を周期的に走査することができない(DOEの一方を他方に対して連続的に回転させることにより)。これらの方法において、相互回転することによって焦点可変ゾーンプレートを実現する2つのモアレパターンの対が使用されるが、その効率は16%が限界である。一方、本願発明は、略100%の効率が可能である。
【0080】
(屈折力を調整可能なアキシコン)
屈折力が調整可能なアキシコン(主にビーム制御の用途で必要とされる)を実現する技術的方法は、上述で言及したものと類似する。この場合もやはり、モアレパターンを使用する上述の要素を実現する方法が提案されているが、効率は16%が限界である。
【0081】
(ヘリカルチャージが可変ならせん状位相要素)
ドーナッツビームを発生するための、または空間フィルタリングを目的とするらせん状位相要素は、通常、ホログラムとして、またはDOEとして作製される。しかしながら、この場合、対応するヘリカルチャージは可変ではない。ヘリカルチャージが可変ならせん状位相要素は、プログラム化されて高解像度の標準的な液晶ディスプレイ、またはカスタマイズされた液晶ディスプレイで動作する。両方法は非常に高コストである。また、機械的な方法を用いてらせん状プレキシグラスディスクの変形を制御することによって可変型らせん状位相要素を作り出すことが報告されている。しかしながら、この方法は、非常に複雑な機械および生産方法を必要とする。
【0082】
(干渉計などのための位相シフタおよび周波数シフタ)
標準的な位相のシフトの用途に関し、既知の解決法では、ピエゾに搭載されたミラーによって、または、ビーム路内に一対の補足的なガラスのくさび(wedge)を挿入することによって、もしくは、水平軸または鉛直軸を中心として傾くことができるガラスプレートを挿入することによって光路長をシフトする。これらの方法は全て、位相のシフトが連続的でないという欠点がある。すなわち、位相シフトを続けて行う前に、使用される光学要素が「停止位置」から「開始位置」に戻る必要がある。このことによってこれらの方法は、本発明に係るDOEの連続的な相互回転によって得られる調整可能な周波数シフタになりえない。
【0083】
連続的な位相シフトを実現する既知の方法は、2つの4分の1波長板と1つの半波長板とを組み合わせてビーム路内において相互回転させることによる、いわゆるPancharatnam位相を使用することである。しかしながら、本発明と大きく異なっている。Pancharatnam法は、光を特定の偏光状態にすることが可能なだけである。本発明の特有の利点は、位相シフトが高精度であって、「ギヤトランスミッション」を実現すること、すなわち、fHzで空間的に回転したときに+/−nfの周波数シフトを実行するDOE対を作り出すことができることである(nはDOEの設計によって決定される整数であって、1000までの値である)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に平行に連続して配置された一対の回折光学要素を有する光学デバイスであって、
回折光学要素は表面に位相形状が形成され、
一対の回折光学要素は組み合わせ状態でレンズ、アキシコン、位相シフタ、またはらせん状位相板として機能し、
1つまたは両方の回折光学要素が表面と直交する軸を中心として相対的に回転するように構成され、
その回転によって光学デバイスの光学特性が連続的に変化する光学デバイス。
【請求項2】
一対の回折光学要素が組み合わせ状態でレンズとして機能する場合、
連続的に変化する光学特性が焦点距離である請求項1に係る光学デバイス。
【請求項3】
一対の回折光学要素が組み合わせ状態でアキシコンとして機能する場合、
連続的に変化する光学特性が屈折力である請求項1に係る光学デバイス。
【請求項4】
一対の回折光学要素が組み合わせ状態でらせん状位相板として機能する場合、
連続的に変化する光学特性がヘリカルインデックス(helical index)である請求項1に係る光学デバイス。
【請求項5】
一対の回折光学要素が組み合わせ状態で位相シフタとして機能する場合、
連続的に変化する光学特性が位相シフト量である請求項1に係る光学デバイス。
【請求項6】
回折光学要素が、直径が50mmまたはそれ以下の円板である上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項7】
回折光学要素が、10μmまたはそれ以下の間隔をあけて配置されている上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項8】
回折光学要素に形成されている位相形状が、10μmまたはそれ以下、好ましくは光の波長のオーダ、またはより大きいサイズのピクセルを備えている上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項9】
一方の回折光学要素の位相形状が、他方の回折光学要素の位相形状の鏡像である上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項10】
回折光学要素の位相形状が、複素透過関数によって表される上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項11】
透過関数の変数を丸めることにより、回折光学要素の中心から縁に延びる直線に沿った回折光学要素の位相形状での不連続性を回避する請求項10に係る光学デバイス。
【請求項12】
一対の回折光学要素の扇形領域を覆う扇形状の吸収体をさらに有する上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項13】
扇形状の吸収体によって覆われる扇形領域が、一方の回折光学要素の他方に対する回転角に対応する角度を持つ上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項14】
一方の回折光学要素が、90度と−90度の間の角度で他方に対して相対的に回転するように構成されている上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項15】
一方の回折光学要素が、光学デバイスの光学特性が連続的に変化するように連続的に回転するように構成されている請求項1から13に係る光学デバイス。
【請求項16】
一対の回折光学要素が、協働して、レンズ、アキシコン、らせん状位相板、位相シフタの中の少なくとも2つの組み合わせとして機能する上記請求項のいずれかに係る光学デバイス。
【請求項17】
一方の回折光学要素の位相形状に強発散レンズに対応する位相形状が重ねられ、
他方の回折光学要素の位相形状に強発散レンズの効果を相殺する強収束レンズの位相形状が重ねられている請求項3,4,または5に従属する請求項6から16のいずれか1つに係る光学デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2010−533895(P2010−533895A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517272(P2010−517272)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006490
【国際公開番号】WO2009/012789
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510019059)メディツィーニシェ・ウニヴェルジテート・インスブルック (2)
【氏名又は名称原語表記】MEDIZINISCHE UNIVERSITAET INNSBRUCK
【Fターム(参考)】