説明

一方向クラッチ及びそれを使用した電動パーキングブレーキ装置

【課題】 一方向クラッチにおいて、出力回転部材側から入力回転部材側への動力伝達を阻止する作用を高める。
【解決手段】 出力回転部材25側から入力回転部材22側への回転の伝達がなされようとした場合に互いに当接される出力カム26の切欠き27の一部27dとコイルスプリング28の折曲部29の一部29aの何れか一方に、他方との当接によりコイルスプリングの折曲部付近を固定部材21の周面21aに押圧する力を生じさせるカム面29aを形成し、入力カム23の円周方向外端面23aと切欠き27の円周方向内端面27aの何れか一方に、他方に向けて突出され入力回転部材22側から出力回転部材25側への回転の伝達がなされようとする際には他方の端面に当接してカム面29aとこれに当接する一部とを離隔させるとともに回転の伝達を行う突出部23bを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力回転部材の回転は出力回転部材に伝達されるが、出力回転部材の回転が入力回転部材に伝達されることは阻止する一方向クラッチ、及びそれを使用した電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パーキングブレーキ装置としては、特許文献1に開示されたものがある。これは、正逆両方向に回転する出力軸を有する電動モータと、この電動モータにより正方向に回転駆動されればパーキングブレーキを制動状態とし逆方向に回転駆動されればパーキングブレーキを解除状態とする回転伝達機構と、この回転伝達機構の回転伝達経路の一部に設けられ電動モータ側となる入力回転部材の回転がパーキングブレーキ側となる出力回転部材に伝達されることは許容するが出力回転部材の回転が入力回転部材に伝達されることは阻止する一方向クラッチ(ブレーキ機構)よりなるものであり、一方向クラッチは、円筒状の内周面が形成されてハウジングにロックされた外輪と、この外輪内に回転自在に設けられ扇形開口部が形成された端部を有する出力軸と、外輪内に回転自在に設けられ半径方向に突出して出力軸の扇形開口部内に収容される扇形膨出部を有する入力軸と、外輪の内周面に所定の摩擦係合力で内接され内方向に折曲された各端部が扇形開口部と扇形膨出部の間の周方向隙間内に介在されるコイルスプリングにより構成されている。
【0003】
この特許文献1の一方向クラッチでは、電動モータ側から入力軸に回転が与えられた場合は扇形膨出部がコイルスプリングの端部に当接して回転力を加えるが、この回転力は回転の向きが正逆何れの場合でも、コイルスプリングの外径を縮めるように作用するので、コイルスプリングは外輪に対し摺動して入力軸とともに回転し、これにより扇形開口部の内端面が押されて出力軸も回転される。これと逆に、パーキングブレーキ側から出力軸に回転が与えられた場合は扇形開口部の内端面がコイルスプリングの端部に当接して回転力を加えるが、この回転力は回転の向きが正逆何れの場合でも、コイルスプリングの外径を広げるように作用し、コイルスプリングは外輪の内周面に強く圧接されるので、外輪に対するコイルスプリングの摺動は阻止され、従って入力軸は回転されない。すなわち、入力軸側から出力軸側への回転は伝達されるが、出力軸側から入力軸側への回転の伝達は阻止される。
【0004】
この特許文献1には、一方向クラッチの変形実施例として、コイルスプリングをハウジングにロックされたシャフトの外周面に所定の摩擦係合力で外接させたものが記載されている。
【特許文献1】特開2004−161192号公報(段落〔0019〕〜〔0023〕、段落〔0045〕〜〔0049〕、図1〜図4)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、特許文献1の一方向クラッチによれば、出力軸側から入力軸側への回転の伝達は阻止されるが、コイルスプリングと外輪の間に潤滑油が浸入したり、一方向クラッチに振動や衝撃が加わるなどの作動条件によっては、出力軸側から回転が与えられた場合に外輪に対してコイルスプリングが摺動して入力軸側への回転の伝達を阻止する作用が弱まり、一方向クラッチとしての機能が低下するおそれがある。本発明はこのような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、請求項1の発明による一方向クラッチの構成上の特徴は、円筒状の周面が形成された固定部材と、この固定部材に回転自在に設けられた出力回転部材に一体的に設けられて回転軸線を中心とする扇形の切欠きが形成された出力カムと、前記固定部材に回転自在に設けられた入力回転部材に一体的に設けられて前記切欠きの円周方向内端面の間に円周方向に隙間をおいて挿入される入力カムと、弾性により前記周面に押圧されて摩擦係合されるとともに少なくとも一端に前記切欠きの円周方向内端面と前記入力カムの円周方向外端面の間の隙間内に位置される折曲部が形成されたコイルスプリングよりなり、前記入力回転部材側から前記出力回転部材側への回転は伝達するが、前記出力回転部材側から前記入力回転部材側への回転の伝達は阻止する一方向クラッチにおいて、前記出力回転部材側から前記入力回転部材側への回転の伝達がなされようとする際に互いに当接される前記出力カムの切欠きの一部と前記コイルスプリングの折曲部の一部の何れか一方に形成されて、他方との当接により前記コイルスプリングの折曲部付近を前記固定部材の周面に押圧する力を生じさせるカム面と、前記入力カムの円周方向外端面と前記切欠きの円周方向内端面の何れか一方に形成されて他方に向けて突出され、前記入力回転部材側から前記出力回転部材側への回転の伝達がなされようとする際には他方の端面に当接して前記カム面とこれに当接する前記一部とを離隔させるとともに前記回転の伝達を行う突出部を備えたことを特徴とするものである。
【0007】
請求項2にかかる発明の構成上の特徴は、請求項1に記載の発明において、前記折曲部は前記コイルスプリングの両端に形成され、前記各折曲部はそれぞれ前記切欠きの両側の円周方向内端面と前記入力カムの両側の円周方向外端面の間の各隙間内に位置され、前記突出部は前記入力回転部材側から前記出力回転部材側への回転の伝達がなされようとする際には両回転方向の何れに場合にも他方の端面に当接して前記カム面とこれに当接する前記一部とを離隔させるとともに前記回転の伝達を行うようにしたことである。
【0008】
請求項3にかかる発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記固定部材は内側に前記円筒状の周面が形成されたシリンダであり、前記コイルスプリングは前記シリンダの内側の前記周面に弾性により押圧されて摩擦係合され、前記折曲部は半径方向内向きに折曲されていることである。
【0009】
請求項4にかかる発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記固定部材は外側に前記円筒状の周面が形成された円柱であり、前記コイルスプリングは前記円柱の外側の前記周面に弾性により押圧されて摩擦係合され、前記折曲部は半径方向外向きに折曲されていることである。
【0010】
また、請求項5の発明による電動パーキングブレーキ装置の構成上の特徴は、正逆両方向に回転される出力軸を有する電動モータと、この電動モータにより正方向に回転駆動されればパーキングブレーキを制動状態とし正方向に回転駆動されればパーキングブレーキを解除状態とする回転伝達機構と、この回転伝達機構の回転伝達経路の一部に設けられ前記電動モータ側となる入力回転部材の回転が前記パーキングブレーキ側となる出力回転部材に伝達されることは許容するが前記出力回転部材の回転が前記入力回転部材に伝達されることは阻止する一方向クラッチよりなる電動パーキングブレーキ装置において、前記一方向クラッチとして請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の一方向クラッチを使用したことである。
【発明の効果】
【0011】
上記のように構成した請求項1の発明による一方向クラッチによれば、出力回転部材側から入力回転部材側への回転の伝達がなされようとする際には、出力カムの切欠きの一部がコイルスプリングの折曲部の一部を押し、その押圧力は、コイルスプリングの径を変化させて固定部材の周面に対するコイルスプリングの押圧力を増大させるのに加えて、コイルスプリングの折曲部付近を固定部材の周面に押圧し、これにより固定部材の周面に対するコイルスプリングの摺動を阻止する力は増大するので、出力回転部材側から入力回転部材側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止される。
【0012】
上記のように構成した請求項2の発明によれば、入力回転部材及び出力回転部材の回転の向きが正逆何れの場合でも、出力回転部材側から入力回転部材側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止され、また入力回転部材側から出力回転部材側への回転の伝達はなされる。
【0013】
上記のように構成した請求項3の発明は、入力回転部材及び出力回転部材が軸部材である場合に適しており、これによっても、請求項1または請求項2の発明と同じ作用効果が得られる。
【0014】
上記のように構成した請求項4の発明は、入力回転部材及び出力回転部材が歯車やプーリなどの外周部から入出力を行う部材である場合に適しており、これによっても、請求項1または請求項2の発明と同じ作用効果が得られる。
【0015】
また、上記のように構成した請求項5による電動パーキングブレーキ装置の発明によれば、電動パーキングブレーキ装置において、パーキングブレーキ保持時におけるブレーキのゆるみを確実に阻止して電動パーキングブレーキ装置の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図1〜図5に示す第1実施形態により、本発明による一方向クラッチ及びそれを使用した電動パーキングブレーキ装置の説明をする。
【0017】
先ず、図1により、本発明による電動パーキングブレーキ装置Aの全体構造の説明をする。電動パーキングブレーキ装置Aのハウジング10の中間部に設けた仕切壁10aには後述する一方向クラッチ20のシリンダ(固定部材)21が固定されている。シリンダ21からは入力軸(入力回転部材)22及びねじ軸14が互いに逆向きに同軸的に突出され、ハウジング10の一方の室内に突出する入力軸22には減速大ギヤ13が固定されている。ハウジング10には正逆両方向に駆動可能な電動モータ11が設けられ、一方の室内に突出するモータ軸11aに固定された減速小ギヤ12が減速大ギヤ13と噛合して、入力軸22を正逆両方向に減速回転駆動するようになっている。両減速ギヤ12,13及び一方向クラッチ20が、電動モータ11の回転をねじ軸14に伝達する回転伝達機構Bを構成している。
【0018】
ハウジング10の他方の室内に長く突出するねじ軸14にはナット16がねじ係合され、ねじ軸の先端には抜け止め14aが設けられている。このナット16には細長いイコライザ15の中央部が、枢支ピン16aにより揺動自在に取り付けられている。ねじ軸14と直交するハウジング10の外壁には、ねじ軸14の中心軸線に対し対称となる位置に、1対のコントロールケーブル18A,18Bの各アウタチューブ18cの一端が取付金具18dを介して支持されており、各アウタチューブ18cを通って延びる各インナワイヤ18aは、イコライザ15の枢支ピン16aから等距離となる両端部に連結ピン18bにより揺動自在に連結されている。各コントロールケーブル18A,18Bのインナワイヤ18a及びアウタチューブ18cの他端は、それぞれ別のパーキングブレーキ(図示省略)に連結されている。電動モータ11のモータ軸11aが正回転方向に回転され回転伝達機構Bを介してねじ軸14が正方向に回転されれば、ナット16に枢支されたイコライザ15は一方向クラッチ20側に引き寄せられて各パーキングブレーキは同一の力で作動され、電動モータ11のモータ軸11aが逆回転方向に回転されてねじ軸14が逆方向に回転されれば、イコライザ15は抜け止め14a側に戻されて各パーキングブレーキが解除される。
【0019】
次に図2及び図3により一方向クラッチ20の説明をする。一方向クラッチ20の主要な構成部材は、シリンダ21、入力軸(入力回転部材)22に設けられた入力カム23、出力回転部材25に設けられた出力カム26及びコイルスプリング28である。シリンダ21は取付ねじ19により仕切壁10aに固定され、円筒状の内周面(周面)21aが形成されている。ねじ軸14と一体的に形成される出力回転部材25は、仕切壁10aに形成した軸受孔11bによりシリンダ21に同軸的に回転自在に支持されている。シリンダ21内となる出力回転部材25の一端には、フランジ部25aと出力カム26が連続して同軸的に形成されている。出力カム26には、出力回転部材25の回転軸線を中心とする扇形の切欠き27が外周の一部に形成され、中心部には同軸的に円筒孔25bが形成されている。切欠き27の円周方向両端の各内端面27aは半径方向に延びて、その先端部には鈍角をなして円周方向外向きに延びる傾斜面(一部,カム面)27cと、その先端からさらに半径方向に延びて出力カム26の外周に達する短い外側端面27bが形成され、この傾斜面27cと外側端面27bは円周方向内端面27aの一部を形成している。
【0020】
入力軸22はシリンダ21の頂壁の中心に形成した軸受孔21bによりシリンダ21に同軸的に回転自在に支持されている。シリンダ21内となる入力軸22の一端には、出力カム26の端面と対向するフランジ部22aが同軸的に形成され、このフランジ部22aには、出力回転部材25の切欠き27内に円周方向両内端面27aとの間に円周方向に隙間をおいて挿入される扇形の入力カム23が一体的に形成されている。この入力カム23の円周方向両外端面23aの半径方向内端部には、出力回転部材25の切欠き27の円周方向両内端面27aに向けて突出する1対の円弧状の突出部23bが形成されている。シリンダ21の内周面21aと入力カム23及び出力カム26の各外周の間には、次に述べるコイルスプリング28を収容するのに充分な隙間が設けられている。
【0021】
シリンダ21の内周面21aには、巻き数が複数(図示の例では4巻きあまり)のコイルスプリング28が、その弾性により押圧されて摩擦係合されるように嵌挿されている。コイルスプリング28の両端部には、比較的大きい半径で約90度内向きに折曲されて、先端部が入力カム23の円周方向各外端面23aと切欠き27の円周方向各内端面27aの間の各隙間内に位置する折曲部29が形成されている。コイルスプリング28の各折曲部29の先端面29aは、折曲部29の内周面と交わる一端と出力カム26の回転中心との距離が、折曲部29の外周面と交わる他端と出力カム26の回転中心との距離よりも小となるように傾斜したカム面となっており、このカム面29aが切欠き27の円周方向内端面27aと傾斜面27cとの間の角部27dと当接するような寸法関係になっている。また突出部23bの長さは、図5に示すように、突出部23bが切欠き27の円周方向内端面27aに当接され、かつ折曲部29の内周面が入力カム23の円周方向外端面23aに当接された状態において、折曲部29先端のカム面29aと円周方向内端面27aの角部27dとの間に隙間が生じるような寸法となっている。この第1実施形態のコイルスプリング28は、四角い断面形状の線材を使用しているが、丸い断面形状の線材を使用してもよい。
【0022】
次に上述した第1実施形態の作動の説明をする。図2において出力回転部材25が反時計回転方向に回転して入力軸22側への回転の伝達がなされようとした場合には、出力回転部材25に固定された出力カム26は、図2に示す不作動状態から反時計回転方向に回転し、図4に示すように円周方向内端面27aの角部27dはコイルスプリング28の折曲部29のカム面29aに当接してこれを押圧する。この押圧力は当接部におけるカム面29aの傾斜角に応じて、コイルスプリング28を内周面21aに沿って反時計回転方向に回転させようとする力と、カム面29aを法線方向に押す力F1とに分けられる。
【0023】
前者の力は従来技術の説明の際に述べたように、コイルスプリング28の外径を広げるように作用して、シリンダ21の内周面21aに対するコイルスプリング28の摩擦力が増大されるので、内周面21aに対するコイルスプリング28の摺動は阻止される。また後者の力F1によってはコイルスプリング28の折曲部29付近をシリンダ21の内周面21aに押圧する力F2が生じ、この力F2による摩擦力が前者の力による摩擦力に加わる。このように切欠き27の角部27dがコイルスプリング28のカム面29aを押す力は、前述した従来技術と同様、コイルスプリング28の外径を広げてシリンダ21の内周面21aに対するコイルスプリング28の押圧力を増大させるのに加えて、コイルスプリング28の折曲部29付近をシリンダ21の内周面21aに押圧し、これによりシリンダ21の内周面21aに対するコイルスプリング28の摺動を阻止する力は増大するので、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止されるようになる。
【0024】
この場合、出力カム26から加えられる回転力が増大すると角部27dとカム面29aとの間に生じる面圧が増大するが、この回転力が所定の限度を越えれば折曲部29の外周面が円周方向内端面27aの外側端面27bに当接することにより上記回転力は受け止められて、上記面圧が過大になることは防がれる。出力回転部材25が時計回転方向に回転して入力軸22側への回転の伝達がなされようとした場合にも、同様にして、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止される。
【0025】
また図2において入力軸22が時計回転方向に回転して出力回転部材25側への回転の伝達がなされようとした場合には、入力軸22に固定された入力カム23は、図2に示す不作動状態から時計回転方向に回転して、先ず円周方向外端面23aがコイルスプリング28の折曲部29の内側に当接して図5の矢印F4に示すようにこれを押圧する。この押圧力F4は力F5を生じてコイルスプリング28の外径を縮めるので、入力カム23の回転に従ってコイルスプリング28は回転され、次いで入力カム23の突出部23bが切欠き27の円周方向内端面27aに当接して力F3に示すように押圧する。従って入力カム23はコイルスプリング28と出力カム26と出力回転部材25を回転させる。
【0026】
なお、不作動状態において、図4に示すようにコイルスプリング28の折曲部29のカム面29aに出力カム26の切欠き27の角部27dが当接していた場合は、先ず入力カム23の突出部23bが切欠き27の円周方向内端面27aに当接して力F3に示すように押圧し、出力カム26及び出力回転部材25を回転させて角部27dをカム面29aから離隔させた後に、円周方向外端面23aがコイルスプリング28の折曲部29の内側に当接し、力F4に示すように押圧してコイルスプリング28を回転させる。すなわちこの場合も、入力カム23は出力カム26と出力回転部材25とコイルスプリング28を回転させる。入力軸22が反時計回転方向に回転して出力回転部材25側への回転の伝達がなされようとした場合にも、上述と同様にして、入力軸22側から出力回転部材25側への回転の伝達がなされる。
【0027】
上述した第1実施形態では、コイルスプリング28の両側にそれぞれ折曲部29を形成して、各折曲部29の先端部を入力カム23の円周方向各外端面23aと出力カム26の切欠き27の円周方向各内端面27aの間の各隙間内に位置させており、このようにすれば、入力軸22及び出力回転部材25の回転の向きが正逆何れの場合でも、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は、一方向クラッチ20に与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止され、入力軸22側から出力回転部材25側への回転の伝達はなされる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、折曲部29をコイルスプリング28の片側だけに形成し、その先端部を入力カム23の円周方向外端面23aと出力カム26の切欠き27の円周方向内端面27aの間の隙間の何れか一方内に位置させるようにして実施することも可能であり、そのようにすれば、一方向回転のみを行う軸系において、入力軸側から出力回転部材側への回転は伝達するが、出力回転部材側から入力軸側への回転の伝達は阻止するようにすることができる。
【0028】
ハウジング10に固定したシリンダ21の内周面21aにコイルスプリング28を嵌挿し、それらの内側に入力カム23及び出力カム26を設けたこの第1実施形態は、2本の軸の間で回転を伝達する場合に使用するのに適している。
【0029】
またこの第1実施形態の一方向クラッチは、電動パーキングブレーキ装置に適用したものであり、このような電動パーキングブレーキ装置はパーキングブレーキ保持時におけるブレーキのゆるみを確実に阻止できるので、電動パーキングブレーキ装置の信頼性を高めることができる。
【0030】
図6は、上述した第1実施形態における、コイルスプリング28の折曲部29の先端部と出力カム26の切欠き27の円周方向内端面27aとの当接部の構造の第1の変形例を示すものである。この第1の変形例では、コイルスプリング28の折曲部29の外周面と先端面の間にはアール面取り部29bが形成されている。また出力カム26の切欠き27の円周方向内端面27aの先端部の傾斜面27cと外側端面27bは第1実施形態と実質的に同一であるが、傾斜面27cはアール面取り部29bに当接されるカム面となっている。
【0031】
この第1の変形例では、出力回転部材25から入力軸22側への回転の伝達がなされようとした場合には、出力カム26の切欠き27のカム面27cはコイルスプリング28の折曲部29の先端のアール面取り部29bに当接してこれを押圧する。前述と同様、この押圧力はカム面27cの傾斜角に応じて、コイルスプリング28を回転させようとする力と、アール面取り部29bをその当接部におけるカム面27cの法線方向に押す力F5とに分けられる。前者の力はコイルスプリング28の外径を広げるように作用して、コイルスプリング28の摺動を阻止する。また後者の力F5によりコイルスプリング28の折曲部29付近をシリンダ21の内周面21aに押圧する力F6が生じ、この力F6による摩擦力が前者の力による摩擦力に加わる。これによりシリンダ21の内周面21aに対するコイルスプリング28の摺動を阻止する力は増大するので、第1実施形態と同様、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止される。その他の構成及び作用は前述した第1実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0032】
図7は、上述した第1実施形態における、コイルスプリング28の折曲部29の先端部と出力カム26の切欠き27の円周方向内端面27aとの当接部の構造の第2の変形例を示すものである。この第2の変形例では、コイルスプリング28の折曲部29Aは半円周近くまで折曲されており、その外周面の先端部近くの一部29cがカム面を形成している。出力カム26の切欠き27の円周方向内端面27aの先端部の傾斜面27cと外側端面27bは第1実施形態と実質的に同一であり、外側端面27bと傾斜面27cの間の角部27dが、折曲部29Aのカム面29cと当接されるようになっている。
【0033】
この第2の変形例では、出力回転部材25から入力軸22側への回転の伝達がなされようとした場合には、出力カム26の切欠き27の角部27dはコイルスプリング28の折曲部29Aのカム面29cに当接してこれを押圧する。この押圧力は当接部におけるカム面29cの傾斜角に応じて、コイルスプリング28を回転させようとする力と、カム面29cをその当接部における法線方向に押す力F7とに分けられる。前者の力はコイルスプリング28の外径を広げるように作用して、コイルスプリング28の摺動を阻止する。また後者の力F7によりコイルスプリング28の折曲部29A付近をシリンダ21の内周面21aに押圧する力F8が生じ、この力F8による摩擦力が前者の力による摩擦力に加わる。これによりシリンダ21の内周面21aに対するコイルスプリング28の摺動を阻止する力は増大するので、第1実施形態と同様、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止される。その他の構成及び作用は前述した第1実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0034】
次に、図8及び図9に示す第2実施形態の一方向クラッチ説明をする。この第2実施形態の一方向クラッチ30の主要な構成部材は、円柱(固定部材)31、入力ギヤ(入力回転部材)32に一体的に形成された入力カム33、出力ギヤ(出力回転部材)35に一体的に形成された出力カム36及びコイルスプリング38である。この第2実施形態は、コイルスプリング38を保持する固定部材がシリンダ21ではなく円柱31であり、入力カム33及び出力カム36をそれらの外側に設けた点が前述した第1実施形態と異なっている。
【0035】
一方向クラッチ30の機枠に固定された円柱31には、入力ギヤ32と出力ギヤ35が軸線方向に所定の距離をおいて回転自在に支持されている。出力ギヤ35には扇形の切欠き37が形成された円筒状の出力カム36が一体的に形成されて、入力ギヤ32に向かって突出されている。入力ギヤ32には、出力カム36の切欠き37の円周方向内端面37aの間に円周方向に隙間をおいて挿入される扇形の入力カム33が一体的に形成されて、出力ギヤ35に向かって突出されている。円柱31の外周面31aと入力カム33及び出力カム36の各内周面の間には次に述べるコイルスプリング38を設置可能な隙間が設けられている。
【0036】
入力ギヤ32と出力ギヤ35の間となる円柱31の外周面31aには、巻き数が複数のコイルスプリング38が、その弾性により押圧されて摩擦係合されるように巻き付けられている。コイルスプリング38の両端部には、比較的大きい半径で外向きに約90度折曲されて、先端部が入力カム33の円周方向外端面33aと切欠き37の円周方向内端面37aの間の各隙間内に位置する折曲部39が形成されている。切欠き37の円周方向各内端面37aの半径方向内側となる半部には内向きに広がる傾斜面37bがそれぞれ形成され、各傾斜面37bと出力カム36の内周面の間に形成される各角部(一部)37cは、コイルスプリング38の各折曲部39の湾曲した内周面の一部により形成されるカム面(一部)39aと当接可能である。
【0037】
入力カム33の一方の円周方向外端面33aには、これと向かい合うコイルスプリング38の一方の折曲部39と緩衝しない軸線方向の範囲に、切欠き37の円周方向内端面37aに向かって突出する突出部33bが形成されている。また、入力カム33の他方の円周方向外端面33aには、これと向かい合うコイルスプリング38の他方の折曲部39と緩衝しない軸線方向の範囲に、切欠き37の円周方向内端面37aに向かって突出する突出部33cが形成されている。
【0038】
次に上述した第2実施形態の作動の説明をする。図8において実線に示す位置から出力ギヤ35が反時計回転方向に回転して入力ギヤ32側への回転の伝達がなされようとした場合には、出力ギヤ35に一体形成された出力カム36は、反時計回転方向に回転し、二点鎖線37aAに示すように円周方向内端面37aの角部37cはコイルスプリング38の折曲部39のカム面39aに当接してこれを押圧する。この押圧力は、第1実施形態の場合と同様、当接部におけるカム面39aの傾斜角に応じて、コイルスプリング38を外周面31aに沿って反時計回転方向に回転させようとする力と、カム面39aを法線方向に押す力とに分けられ、前者の力はコイルスプリング38の内径を縮めるように作用することにより外周面31aに対するコイルスプリング38の摺動を阻止する摩擦力となり、後者の力はコイルスプリング38の折曲部39付近を円柱31の外周面31aに押圧してこれによる摩擦力が前者の力による摩擦力に加わる。これにより円柱31の外周面31aに対するコイルスプリング38の摺動を阻止する力は増大するので、出力ギヤ35側から入力ギヤ32側への回転の伝達は、一方向クラッチに与えられる作動条件にかかわらず、確実に阻止される。出力回転部材25が時計回転方向に回転して入力軸22側への回転の伝達がなされようとした場合にも、同様にして、出力回転部材25側から入力軸22側への回転の伝達は確実に阻止される。
【0039】
また図8において入力ギヤ32が時計回転方向に回転して出力ギヤ35側への回転の伝達がなされようとした場合には、入力ギヤ32に一体形成された入力カム33は図8において時計回転方向に回転し、突出部33bの先端が切欠き37の円周方向内端面37aに当接するとともに折曲部39のカム面39aと切欠き37の角部37cとの当接を離脱させるので出力カム36及び出力ギヤ35は入力カム33とともに時計回転方向に回転され、また円周方向外端面33aがコイルスプリング38の折曲部39に当接してコイルスプリング38の内径を広げるのでコイルスプリング38も入力カム33とともに時計回転方向に回転される。入力ギヤ32が反時計回転方向に回転して出力ギヤ35側への回転の伝達がなされようとした場合にも、上述と同様、入力ギヤ32側から出力ギヤ35側への回転の伝達がなされる。なお突出部33b(33c)の長さは、図8において、突出部33b(33c)が切欠き37の円周方向内端面37aに当接され、かつコイルスプリング38の折曲部39が入力カム33円周方向外端面33aに当接された状態において、折曲部39のカム面39aと切欠き37の角部37cとの間に隙間が生じるような寸法となっている。第2実施形態のその他の構成及び作用は前述した第1実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明による一方向クラッチを使用した電動パーキングブレーキ装置の一実施形態の全体構造を示す図。
【図2】図1に示す一方向クラッチの2−2線に沿った拡大断面図。
【図3】図2の3−3断面図。
【図4】出力回転部材側から入力軸側への回転の伝達が阻止された作動状態における図2と同じ断面図。
【図5】入力軸側から出力回転部材側への回転の伝達がなされている作動状態における図2と同じ断面図。
【図6】第1実施形態の第1の変形例を示す部分断面図。
【図7】第1実施形態の第2の変形例を示す部分断面図。
【図8】本発明による一方向クラッチの第2実施形態の図2に相当する断面図。
【図9】図8の9−9断面図。
【符号の説明】
【0041】
11…電動モータ、11a…モータ軸、20,30…一方向クラッチ、21,31…固定部材(シリンダ、円柱)、21a,31a…周面(内周面、外周面)、22,32…入力回転部材(入力軸、入力ギヤ)、23,33…入力カム、23a,33a…円周方向外端面、23b,33b,33c…突出部、25,35…出力回転部材(出力ギヤ)、26,36…出力カム、27,37…切欠き、27a,37a…円周方向内端面、27c,27d,37c…切欠きの一部、27c,29a,29c,39a…カム面、28,38…コイルスプリング、29,39…折曲部、29a,29b,29c,39a…折曲部の一部、A…電動パーキングブレーキ装置、B…回転伝達機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の周面(21a,31a)が形成された固定部材(21,31)と、この固定部材に回転自在に設けられた出力回転部材(25,35)に一体的に設けられて回転軸線を中心とする扇形の切欠き(27,37)が形成された出力カム(26,36)と、前記固定部材(21,31)に回転自在に設けられた入力回転部材(22,32)に一体的に設けられて前記切欠き(27,37)の円周方向内端面(27a,37a)の間に円周方向に隙間をおいて挿入される入力カム(23,33)と、弾性により前記周面(21a,31a)に押圧されて摩擦係合されるとともに少なくとも一端に前記切欠き(27,37)の円周方向内端面(27a,37a)と前記入力カム(23,33)の円周方向外端面(23a,33a)の間の隙間内に位置される折曲部(29,39)が形成されたコイルスプリング(28,38)よりなり、前記入力回転部材(22,32)側から前記出力回転部材(25,35)側への回転は伝達するが、前記出力回転部材(25,35)側から前記入力回転部材(22,32)側への回転の伝達は阻止する一方向クラッチにおいて、
前記出力回転部材(25,35)側から前記入力回転部材(22,32)側への回転の伝達がなされようとする際に互いに当接される前記出力カム(26,36)の切欠き(27)の一部(27c,27d,37c)と前記コイルスプリング(28,38)の折曲部(29,39)の一部(29a,29b,29c,39a)の何れか一方に形成されて、他方との当接により前記コイルスプリング(28,38)の折曲部(29,39)付近を前記固定部材(21,31)の周面(21a,31a)に押圧する力を生じさせるカム面(27c,29a,29c,39a)と、
前記入力カム(23,33)の円周方向外端面(23a,33a)と前記切欠き(27,37)の円周方向内端面(27a,37a)の何れか一方に形成されて他方に向けて突出され、前記入力回転部材(22,32)側から前記出力回転部材(25,35)側への回転の伝達がなされようとする際には他方の端面(27a,37a,23a,33a)に当接して前記カム面(27c,29a,29c,39a)とこれに当接する前記一部とを離隔させるとともに前記回転の伝達を行う突出部(23b,33b,33c)を備えたことを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の一方向クラッチにおいて、前記折曲部(29,39)は前記コイルスプリング(28,38)の両端に形成され、前記各折曲部(29,39)はそれぞれ前記切欠き(27,37)の両側の円周方向内端面(27a,37a)と前記入力カム(23)の両側の円周方向外端面(23a)の間の各隙間内に位置され、前記突出部(23b,33b,33c)は前記入力回転部材(22,32)側から前記出力回転部材(25,35)側への回転の伝達がなされようとする際には両回転方向の何れに場合にも他方の端面(27a,37a,23a,33a)に当接して前記カム面(27c,29a,29c,39a)とこれに当接する前記一部とを離隔させるとともに前記回転の伝達を行うことを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の一方向クラッチにおいて、前記固定部材(21)は内側に前記円筒状の周面(21a)が形成されたシリンダ(21)であり、前記コイルスプリング(28)は前記シリンダ(21)の内側の前記周面(21a)に弾性により押圧されて摩擦係合され、前記折曲部(29)は半径方向内向きに折曲されていることを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の一方向クラッチにおいて、前記固定部材(31)は外側に前記円筒状の周面(31a)が形成された円柱(31)であり、前記コイルスプリング(28)は前記円柱(31)の外側の前記周面(31a)に弾性により押圧されて摩擦係合され、前記折曲部(29)は半径方向外向きに折曲されていることを特徴とする一方向クラッチ。
【請求項5】
正逆両方向に回転される出力軸(11a)を有する電動モータ(11)と、この電動モータ(11)により正方向に回転駆動されればパーキングブレーキを制動状態とし正方向に回転駆動されればパーキングブレーキを解除状態とする回転伝達機構(B)と、この回転伝達機構(B)の回転伝達経路の一部に設けられ前記電動モータ(11)側となる入力回転部材(22)の回転が前記パーキングブレーキ側となる出力回転部材(25)に伝達されることは許容するが前記出力回転部材(25)の回転が前記入力回転部材(22)に伝達されることは阻止する一方向クラッチ(20,30)よりなる電動パーキングブレーキ装置において、前記一方向クラッチ(20,30)として請求項2〜請求項4の何れか1項に記載の一方向クラッチを使用したことを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−92801(P2007−92801A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280375(P2005−280375)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】