説明

一酸化二塩素を含む抗菌溶液ならびにその製造方法および使用方法

触媒によって活性化されている次亜塩素酸溶液を用いて、哺乳動物の創傷もしくは感染症を治療するためか、または表面を消毒するための、方法、および製品が提供される。さらに、抗菌剤として使用するための活性化次亜塩素酸溶液を生成させる抗菌製品の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本特許出願は、参照によって援用される2007年3月13日に出願された米国仮特許出願第60/906,939号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
皮膚潰瘍は、重大な臨床上の問題であり、さらには例えば壊疽、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory syndrome)、および敗血症などのより重篤な合併症さえも引き起こし得る。こうした合併症が四肢の皮膚潰瘍において起こった場合、現在の治療計画は、患者にとってその明らかな影響を伴う、ひざよりも上の脚の切断(above-the-knee leg amputation)(AKA)、ひざよりも下の脚の切断(below-the-knee leg amputations)(BKA)、および手指の切断を含めた切断を必要とし得る。
【0003】
皮膚潰瘍は、静脈不全、動脈不全、虚血にする圧迫(ischemic pressure)、および神経障害を含む多くの原因を有する。静脈性皮膚潰瘍は、男性よりも女性が多く罹患している最も一般的な種類の下腿皮膚潰瘍である。静脈性皮膚潰瘍は、静脈性高血圧、および静脈瘤と関連している。動脈性皮膚潰瘍は、心疾患または脳血管疾患、脚の跛行、インポテンス、および足尖部の痛みの病歴を有する高齢患者に典型的に見られる。圧迫性皮膚潰瘍(pressure skin ulcers)は、組織虚血に起因する。圧迫性皮膚潰瘍は、一般に深在性であり、骨ばっている突出部上に大抵位置する。神経障害性皮膚潰瘍は、外傷、長期的な圧迫、大抵は例えば糖尿病、神経障害、またはらい病を有する患者の足の足底面と関連している。
【0004】
糖尿病はまた足の皮膚潰瘍の頻出する原因でもある。糖尿病はアメリカ合衆国で非常に流行している。また、2型糖尿病がアメリカ合衆国で増加しているようである。糖尿病は、アメリカ合衆国において、切断の主要な非外傷性原因である。アメリカ合衆国の糖尿病患者における下肢切断(lower-extremity amputations)(LEA)の総数は、毎年80,000を超えている。糖尿病によるLEA後の3年死亡率は、35〜50%である。アメリカ合衆国における糖尿病によるLEAの直接医療費は非常に高い。糖尿病を有する患者のLEAの約85%に先立って、足の皮膚潰瘍が起こっている。アメリカ合衆国の糖尿病を有する患者における新たな足の皮膚潰瘍の1年の発生率は、1.0%から2.6%に及んでいる。V. R. Driverら, Diabetes Care 2005 28:248-253。
【0005】
業務に関係する熱傷は、アメリカ合衆国における急性の労働災害の主要な原因である。熱傷による入院全体の推計20〜30%が職場での暴露の結果起こったものである。こうした傷害は、かなりの直接経費の原因となり、生産性の著しい損失をもたらした。
【0006】
腹膜炎は、腹腔の内膜の炎症である。腹膜炎の最も一般的な原因は、細菌感染および化学刺激である。細菌性腹膜炎は、虫垂炎、急性胆嚢炎、消化性潰瘍、憩室炎、腸閉塞、膵臓炎、腸間膜血栓、骨盤内炎症性疾患、腫瘍、もしくは貫通性外傷、またはこれらの組み合わせなどの障害で起こるように、通常は腹部器官を通じた細菌の侵入に二次的なものである。なお特発性細菌性腹膜炎(spontaneous bacterial peritonitis)(SBP)は、明らかな汚染源なしで発生し得る。SBPは、肝硬変腹水、またはネフローゼ症候群などの免疫抑制状態と頻繁に関連している。腹膜炎はまた、持続的携帯型腹膜透析(chronic ambulatory peritoneal dialysis)(CAPD)の一般的な合併症でもある。
【0007】
歯肉炎および歯周炎を含めて、歯周(periodontal)(歯周(gum))病は、治療せずに放置した場合、歯の損失につながり得る深刻な感染症である。歯周病は、1つの歯、または多数の歯を冒し得る。歯周病は、歯の上に絶えず生じる粘着性の無色の膜である「プラーク」の中の細菌が歯肉に炎症を引き起こす場合に発症する。該疾患の最も軽度の形態、歯肉炎では、歯肉は赤くなり、膨張し、容易に出血する。歯肉炎は、不十分な口腔衛生によって引き起こされることが多い。歯肉炎は、専門的な治療、および十分な口腔の在宅ケアで回復可能である。
【0008】
しかしながら、未治療の歯肉炎は、歯周炎に進展し得る。時間と共にプラークは広がり、歯肉線の下で成長し得る。プラーク中の細菌によって産生された毒素は、歯肉を刺激する。次いで歯肉が歯から分離し、歯と感染している歯肉との間にスペースを形成し得る。疾患が進行するにつれて、歯肉組織および骨は破壊される。最終的に歯は緩くなり得、歯周外科手術によって取り除かなければならないことがある。
【0009】
さらに、病因が細菌によるものである感染性疾患、根管感染は、世界中で歯の損失の重要な原因となっている。現在の治療の様式としては、歯垢および歯石を除去するための歯の表面のスケーリングおよびルートプレーニング、ならびに広範囲の口腔微生物によって引き起こされる感染過程に対抗する殺菌液の使用が挙げられる。しかしながら、こうした殺菌剤は高い毒性を有し、その結果長期間にわたって使用することができない。不運にも、一般に使用される殺菌剤には、味覚の歪み、および歯の染色などの有害な副作用を有するものがある。
【0010】
非毒性の消毒剤が、種々の状況で、細菌、ウイルス、および胞子を含めた微生物を根絶するために使用されている。かかる消毒剤は、例えば、創傷のケア、医療機器の滅菌、食品の滅菌、病院、消費者の家庭、およびバイオテロリズム対策に用途が見出されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
酸化還元電位(oxidative-reductive potential)(「ORP」)水溶液は、前記病状、および他の病状に対して、非常に効果的であり、それでもなお非毒性の治療を提供する。さらに、ORP水溶液は、効果的な消毒剤である。しかしながら、公知のORP水溶液は、製造するために、かなりコストのかかる電気分解による製造工程を必要とし、また安定性および有効期間の問題も有する。非毒性、かつ創傷および他の病状(例えば感染症)の治療に効果的であり、なおかつ製造に比較的費用がかからず、また向上した有効期間を有するORP水の製品に対するニーズが存在する。本発明は、かかるORP水の製品、ならびにかかる製品の製造方法、および使用方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の概要)
本発明は、哺乳動物の創傷または感染症の治療方法を提供し、該方法は有効量の次亜塩素酸を含む溶液に、次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を添加し、治療有効量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成させること、および該活性化溶液を投与し、創傷または感染症を治療することを含む。
【0013】
本発明はまた、表面の消毒方法も提供し、該方法は有効量の次亜塩素酸を含む溶液に、次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を添加し、表面の消毒に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成させること、および表面と該活性化溶液とを接触させ、該表面を消毒することを含む。
【0014】
また本発明は、創傷または感染症を治療するための製品を提供し、該製品は、有効量の次亜塩素酸溶液を含む第一の成分、および次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を含む第二の成分を含み、該第一の成分および第二の成分は、合わせた場合、治療有効量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する。
【0015】
本発明はさらに、表面を消毒するための製品を提供し、該製品は、有効量の次亜塩素酸溶液を含む第一の成分、および次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を含む第二の成分を含み、該第一の成分および第二の成分は、合わせた場合、表面の消毒に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する。
【0016】
本発明の製品は、該第一の成分と第二の成分とを合わせ、活性化溶液を生成させること、および該活性化溶液を用いて創傷もしくは感染症を治療するか、または表面を消毒することについての説明書をさらに含み得る。
【0017】
さらに他の実施態様において、本発明は、第一の容器と第二の容器とを含む抗菌製品の製造方法を提供し、該方法は
有効量の次亜塩素酸を含む溶液を調製すること;
該次亜塩素酸溶液を該第一の容器内に容れること;および
次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を第二の容器の中に容れること
を含み、該次亜塩素酸溶液と触媒とを合わせた際に、その合わせたものは、抗菌に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する。
【0018】
本発明の方法(methods)、製品、および方法(processes)は、次亜塩素酸溶液が、例えばリン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、またはこれらの組み合わせなどの緩衝液を含む、実施態様を含む。
【0019】
したがって、該次亜塩素酸溶液は約5.0〜約6.0のpHを有する。他の実施態様において、該活性化溶液は約5.0〜約6.0のpHを有する。
【0020】
触媒としては、例えばリン酸イオン、塩化物イオン、第三級アミン、次亜塩素酸ナトリウム、およびクエン酸、またはこれらの組み合わせを挙げることができる。いくつかの実施態様において、触媒はトリエタノールアミンである。特に好ましい実施態様において、該トリエタノールアミンは、約0.3 ppm〜約1.5 ppmの濃度で存在する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の方法(methods)、製品、および方法(processes)は、細菌、ウイルス、酵母、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる、肺感染症、眼感染症、耳の感染症、鼻の感染症、または副鼻腔感染症を含めた感染症を治療することができる。本発明による治療に適切な創傷としては、例えば口腔潰瘍、皮膚潰瘍、熱傷、腹膜炎、歯周病、歯肉疾患、またはこれらの組み合わせが挙げられる。適切な皮膚潰瘍としては糖尿病性足潰瘍が挙げられ、治療可能な形態の腹膜炎としては感染性腹膜炎が挙げられる。
【0022】
次亜塩素酸溶液は、例えば塩素をアルカリ金属水酸化物の希薄水溶液に溶解することによって、または電気分解によって、製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】溶液の250 nmでのUV吸収が、異なる条件下で2分間にわたって測定され、キュベットの中で生成した一酸化二塩素によって4-ヒドロキシ安息香酸が消失することを示している。
【図2】一酸化二塩素の形成に対する次亜塩素酸塩の触媒効果(非常に少ない塩化物の溶液)
【図3】一酸化二塩素の形成に対する塩化物イオンの効果
【図4】左の写真は0.3 ppmのTEAでの写真である(化学的に製造)。右の写真は1.5 ppmのTEAでの写真である(電気分解により製造)。それぞれの写真の左側のペトリ皿は対照である。平板培地は、それぞれの写真において右から左に1分、5分、30分の曝露時間のものである。
【図5】例示的な活性化された次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液によるpHに依存する、胞子の殺傷。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
「次亜塩素酸溶液」は、化学平衡にある次亜塩素酸と一酸化二塩素とを含む水溶液を意味し、例えば次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換速度が、速度を増大させる塩を排除することによって、最小に保たれている次亜塩素酸溶液を含む。「活性化溶液」、または「活性化次亜塩素酸溶液」は、触媒を添加した後の次亜塩素酸溶液を意味する。
【0025】
当業者は、本発明の活性化次亜塩素酸溶液の適切な投与方法は利用可能であること、および1つよりも多くの投与経路を使用することができるが、特定の経路が他の経路よりも速効性かつ効率的である反応を与え得ることを理解する。「有効量」は、個々の患者における活性化次亜塩素酸溶液の「有効濃度」を達成するために必要な量であり得る。「有効量」は、例えば、患者の病状を予防または治療するための本発明のORP水の血中濃度、組織内濃度、および/または細胞内濃度を達成するために個々の患者に投与することが必要とされる量と定義することができる。有効量は、「治療有効量」を含み得ることは理解されるであろう。「表面の消毒に有効な量」は、その表面の意図する用途に適切な程度の消毒作用のものである。
【0026】
疾患または病状の「治療」は、疾患を治癒させようとするか、もしくは改善しようとすること、または疾患もしくは病状によって引き起こされる病的状態を許容され得る水準に減少させることを意味する。疾患または病状の「予防」は、疾患または病状の可能性という発生率を、統計的に有意な量減少させること、例えば該発生率を5%、10%、20%、30%、33%、50%、67%、90%、またはより高パーセント減少させるといったことを意味する。
【0027】
酸化還元電位(ORP)水溶液は、典型的には水溶液内で微量の一酸化二塩素と平衡状態にある次亜塩素酸(HOCl)を含む。
【0028】
【化1】

【0029】
pH=6の非常に希薄なHOCl水溶液において、存在しているC12Oの量は、平衡をCl2Oから離れる方へ移動させる大過剰の水によって非常に少なくなっている。本発明は、希薄溶液においてさえも、平衡を幾分C12Oの方に移動させる触媒を提供する。例えば、塩化物イオン(Cl-)、および次亜塩素酸イオン(hypochlorite)(OCl-)を含めた種々の強さのいくつかの触媒を特定している。例えばナトリウム塩、カリウム塩、およびカルシウム塩を含めたCl-、およびOCl-の塩もまた、触媒として有用である。
【0030】
また、本発明は、例えばわずか1 ppbという添加濃度でC12Oへの割合が高い(high rates)転換をもたらすトリエタノールアミン(TEA)を含めた他の触媒の使用を提供する。抗菌溶液中に存在する触媒の量は、触媒の性質に依存する。一般に、触媒は少なくとも1 ppbの量で存在する。触媒が添加された後、ORP水溶液は「活性」となる。すなわち、該水溶液はC12Oを急速に生成させる。
【0031】
1つの態様において、本発明は、細菌、ウイルス、または酵母に対して活性がある抗菌溶液の平衡状態を提供する。この溶液は、化学平衡にある次亜塩素酸と一酸化二塩素とを含み、次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換速度は、速度を増大させる塩を排除することによって、最小に保たれている。例えば塩化物イオンを含む塩などの速度を増大させる塩は、抗菌溶液の安定性に有害な影響を与え得る。
【0032】
別の態様において、抗菌溶液は、1つ以上の一酸化二塩素を生成させる触媒を含み得る。例示的な触媒としては、該製品のpH範囲(±約1.5のpH単位)において緩衝剤として機能する任意の化合物または化学種を挙げることができる。触媒としては、例えば、リン酸塩などの無機塩;クエン酸、および酢酸などのカルボン酸;トリエタノールアミン(「TEA」)などの窒素含有化合物;ならびに/またはアミンを挙げることができる。2つ以上の触媒の組み合わせを使用してもよい。
【0033】
好ましいカルボン酸は、そのpKaの約1pH単位内のpHを有するものである。触媒はトリエタノールアミン、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)、塩化物イオン、リン酸塩、および/またはクエン酸であることが好ましい。
【0034】
触媒は、種々の濃度で存在し得る。1つの態様において、触媒は、一般に約1 ppb〜約100 ppm、好ましくは約1 ppm〜10 ppmの範囲にわたる、特定の触媒に依存する濃度で典型的には存在する。トリエタノールアミンは、触媒として使用される場合、1 ppb〜約10 ppm、より好ましくは約100 ppb〜約5 ppm、さらに好ましくは約0.3 ppm〜約1.5 ppmの範囲の濃度で存在する。
【0035】
触媒がトリエタノールアミンである場合、トリエタノールアミンは、好ましくは1:10-8M〜1:10-5 Mのモル濃度と相関する約1 ppb〜約10 ppm、またはより好ましくは約0.3 ppm〜約1.5 ppmの範囲の濃度で存在する。さらに、トリエタノールアミンは、好ましくは約7のpHで、より好ましくは約5〜約6のpHで触媒として使用される。
【0036】
触媒が塩化物イオンである場合、触媒の塩化物イオンは、好ましくは約30 ppm〜約5500 ppm、好ましくは約35 ppm〜約500 ppm、より好ましくは約40 ppm〜約300 ppmの範囲の濃度で存在し、全く好ましくは5のpHで存在する。
【0037】
本発明の抗菌溶液は、種々のpHのレベルに適合する。実際には、pHの変化は、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムの触媒効果により、次亜塩素酸と一酸化二塩素との間の平衡に影響を及ぼし得ることがわかっている。抗菌溶液についての適切なpHのレベルは、一般に約4〜約10、好ましくは約5 〜約9、より好ましくは約5〜7.5、例えば約5〜約6の範囲である。
【0038】
さらなる態様において、抗菌溶液は、緩衝剤を含み得る。例えばリン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、および種々の他の有機緩衝剤を含めた多種多様の緩衝剤を使用することができる。
【0039】
1つの態様において、本発明の抗菌溶液は、例えば副鼻腔(sinus)、口腔咽頭、または肺の組織への送達のために霧化することができる。本発明による治療に適切な気道(respiratory track)の状態はまた、米国特許出願公報第2007/0196434号にも開示されている。
【0040】
本発明の抗菌溶液を生成させるために、種々の技術または方法を使用することができる。例えば、抗菌溶液は、非常に低濃度の塩素が存在するように希薄なNaOH溶液にCl2ガスを溶解させることによって、まず溶液を調製し、溶液内のCl2Oを最小限にするか、または排除するためにpHを約4〜6の範囲に維持することによって形成することができる。Cl2の濃度は、用途に応じて変化させることができる。例えば適切なCl2ガスの濃度は、一般に約10 ppm〜約500 ppm(遊離有効塩素(free available chlorine)に基づく)であり、好ましくは約150 ppm〜約450 ppm(遊離有効塩素に基づく)である。NaOHの濃度は、典型的には約4〜約6、好ましくは約4.5〜約5.5、例えば約5〜約6である所望のpHをもたらすために十分なものにすることになる。
【0041】
活性化溶液は、好ましくは約5〜約6の範囲のpHに緩衝化し、一酸化二塩素を生成させる触媒を溶液に加えることによって製造することができる。好ましくは約5〜6の範囲のpHにこの溶液を緩衝化することは、ほぼ純粋なHOClの製品をもたらす。触媒の添加によって、HOClからHOCl/Cl2Oの混合されたものの範囲にわたる製品を生成させることが可能である。このことは、種々の用途のための本発明によるCl2Oの効率的な生成を可能にする。別の好ましい態様において、触媒は、好ましくはトリエタノールアミン、次亜塩素酸ナトリウム、およびクエン酸からなる群から選択される。触媒の組み合わせもまた使用され得る。
【0042】
抗菌溶液は、酸化還元電位水溶液を電気分解によって生成させ、好ましくは約5〜約6の範囲のpHに該溶液を緩衝化し、一酸化二塩素を生成させる触媒を該溶液に加えることによっても製造することができる。ORP水溶液の製造は、例えば、本明細書中に参照によって援用される、米国特許出願公報第2007/0196357号および第2005/0142157号A1、ならびに米国特許第7,090,753号に記載されている。別の好ましい態様において、触媒は、トリエタノールアミン、次亜塩素酸ナトリウム、およびクエン酸からなる群から選択される。かかる触媒の組み合わせもまた使用され得る。
【0043】
本発明の別の態様において、例示的な溶液は、希薄なNaOH溶液にCl2ガスを溶解させ、該溶液を好ましくは約5〜約6のpHに適切な緩衝剤を用いて緩衝化し、トリエタノールアミンをこの化合物の濃度が好ましくは約0.3 ppm〜約1.5 ppmとなるまで添加することによって製造することができる。本発明の活性化溶液はまた、抗炎症活性、抗ヒスタミン活性、および/または血管拡張活性も有し得ると考えられる。
【0044】
本発明の抗菌溶液は、次亜塩素酸、一酸化二塩素、トリエタノールアミン、およびリン酸緩衝液を含む霧化した抗菌溶液を感染部位に投与することによって、鼻の感染症、または副鼻腔感染症を治療するために使用することができる。好ましくは、トリエタノールアミンは、約0.3 ppm〜約1.5 ppmの濃度で存在し、溶液のpHは、約5〜約6である。
【0045】
鼻の感染症、または副鼻腔感染症の治療は、例えば、次亜塩素酸、一酸化二塩素、トリエタノールアミン、およびリン酸緩衝液を含む抗菌溶液に吸収材料を浸漬することによっても達成することができる。好ましくは、トリエタノールアミンは、約0.3 ppm〜約1.5 ppmの濃度で存在し、溶液のpHは、約5〜約6であり、鼻気道を介して浸漬した材料の煙霧を吸入する。
【0046】
本発明によれば、抗菌溶液を、皮膚および/または1つ以上の粘膜の表面を含み得る任意の冒された生体組織の表面に、非経口的に、内視鏡的に、透析カテーテルを通じて、または直接的に投与し得る。非経口投与としては、例えば、抗菌溶液の腹腔内、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内、くも膜下腔内、膀胱内、または滑膜腔内の投与を挙げることができる。抗菌溶液の内視鏡による投与としては、例えば気管支鏡検査法、結腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査法、子宮鏡検査法(hysterscopy)、腹腔鏡検査法(laproscopy)、関節鏡検査法(athroscopy)、胃内視鏡検査、または経尿道的アプローチを使用するものを挙げることができる。抗菌溶液の粘膜表面への投与としては、例えば食道、胃、腸、腹膜、尿道、小胞、膣、子宮、ファロピウス管(fallopian)、滑膜の粘膜表面、および鼻への投与を挙げることができ、また該溶液の口腔、気管、または気管支の粘膜表面への投与も挙げることができる。本発明によって提供される抗菌溶液は、バイオフィルムを形成している感染症を治療するために投与し得る。
【0047】
本発明によれば、使用する抗菌溶液を、例えば、スプレー、ミスト、エアロゾル、または蒸気として、任意の適切な方法、例えばエアロゾル化、噴霧化、または微粒化によって、例えば約0.1ミクロン〜約100ミクロン、好ましくは約1ミクロン〜約10ミクロンの範囲の直径を有する液滴の形態で、局所的に投与し得る。エアロゾル化、噴霧化、および微粒化に有用な方法、および装置は、当該技術分野で周知である。例えば医療用ネブライザーが、例えば受容者による吸入のために、計量された用量の生理学的に活性のある液体を吸気ガスの流れの中に送達するために使用されている。例えば米国特許第6,598,602号(本明細書によって参照によって援用される)を参照されたい。医療用ネブライザーは、液滴を発生させるように作動し得、該液滴は例えば吸気ガスでエアロゾルを形成する。他の状況において、医療用ネブライザーは、水滴を吸気ガスの流れの中に注入し、適切な含水量を有するガスを受容者に提供するために使用されており、該ガスは、吸気ガスの流れが、レスピレーター、ベンチレーター、または麻酔薬送達システムなどの機械的な呼吸補助物によって与えられる場合に、特に有用である。
【0048】
米国特許第5,312,281号(本明細書によって参照によって援用される)は、水、または液体を低温で微粒化し、報告されたところによるとミストの大きさを調節し得る、超音波ネブライザーを記載している。また、米国特許第5,287,847号(本明細書によって参照によって援用される)は、医薬のエアロゾルを新生児、小児、および成人に送達するための、計測可能な流速および排出容積を有する、空気式の噴霧装置を記載している。さらに、米国特許第5,063,922号(本明細書によって参照によって援用される)は、超音波アトマイザーを記載している。該抗菌溶液はまた、肺および/もしくは気道の感染症の治療のために、または身体のかかる部分の創傷の治癒のために、吸入器システムの一部として、エアロゾルの形態で投薬され得る。
【0049】
より大きな規模の用途のために、該抗菌溶液を空気中に分散させるために、限定されないが、加湿器、霧吹き器、噴霧器、気化器、アトマイザー、水噴霧器、および他の噴霧装置を含めた、適切な装置が使用され得る。かかる装置は、抗菌溶液を連続的に投薬することを可能にする。ノズル内で空気と水とを直接的に混合する排出装置が使用され得る。抗菌溶液は、低圧蒸気などの蒸気に変換することができ、空気の流れの中に放出され得る。超音波加湿器、水蒸気加湿器または水蒸気気化器、および蒸発加湿器などのさまざまな種類の加湿器が使用され得る。抗菌溶液を分散させるために使用される特定の装置は、換気システムに組み込むことができ、全家屋または医療施設(例えば病院、養護施設など)にわたる抗菌溶液の幅広い適用が提供され得る。
【0050】
本発明による消毒に適した表面としては、例えばプラスチック表面、金属表面、ガラス表面、有機物の表面、またはこれらの組み合わせが挙げられる。特に、埋入された医療機器および獣医学的機器は、本発明による方法および製品によって(buy)、消毒することができ、特に、人工心臓弁(artificial heart value)、矯正器具、埋入されたペースメーカー、埋入されたチューブ、埋入されたステント、埋入された網、またはこれらの組み合わせである。さらに、例えば手術器具、気管支鏡、結腸鏡、S状結腸鏡、子宮鏡、腹腔鏡(laproscope)、関節鏡(athroscope)、胃内視鏡、または膀胱鏡などの医療機器の全体、または一部の表面を、本発明の実施態様の方法、および製品によって消毒し得る。
【0051】
本発明の溶液は、生存する微生物の濃度を4log(104)減少させ得る低レベルの消毒剤として機能し得、また生存する微生物の濃度を6log(106)減少させ得る高レベルの消毒剤としても機能し得る。好適な微生物としては、細菌、真菌、酵母、およびウイルスが挙げられる。
【0052】
好適な微生物の例としては、限定されないが、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター属(Acinetobacter)種、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Vancomycin resistant-Enterococcus faecium)(VRE, MDR)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus saprophyticus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、豚コレラ菌(Salmonella choleraesuis)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、および他の感受性細菌、ならびに酵母、例えば毛瘡白癬菌(Trichophyton mentagrophytes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)が挙げられる。ウイルスとしては、例えばアデノウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ライノウイルス、インフルエンザ(例えばA型インフルエンザ)、肝炎(例えばA型肝炎)、コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因である)、ロタウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、および他の感受性ウイルスが挙げられる。
【0053】
例えば、抗菌溶液は、抗菌溶液の調製の少なくとも2箇月後に測定した場合、30秒以内の曝露で、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター属(Acinetobacter)種、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)(VRE, MDR)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus saprophyticus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)からなる群から選択される生存する微生物の試料の濃度を少なくとも約5log(105)、約6log(106)、好ましくは少なくとも約6log(106.5)、より好ましくは少なくとも約7log(107)減少させ得る。
【0054】
バイオフィルムは、工業での環境、環境状況、および臨床での環境において、ほとんどどんな固体-液体の界面でも見出され得る、表面に付着した微生物の集合体である。微生物にとって、バイオフィルムのライフスタイルは、保護されたニッチを限定し、維持するための効率的な手段であるという説得力のある証拠がある。バイオフィルムに関連する感染は、重大な罹病率および死亡率をもたらしている。例えば、日和見性の細菌性病原体である緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、肺嚢胞性線維症(cystic fibrosis)(CF)、熱傷による創傷、耳漏、および角膜と関連する持続性感染症の原因である。バイオフィルムに関連する他の具体的な感染症としては、例えば固有弁心内膜炎、中耳炎、慢性細菌性前立腺炎、および歯周炎が挙げられる。これらの感染症の不応性に寄与している要因の1つは、これらの組織内でバイオフィルムを形成する、緑膿菌(P. aeruginosa)の能力である。
【0055】
バイオフィルムにおける細菌の生育は、非バイオフィルム関連(すなわち「浮遊生物」)の細菌の生育に比べて、抗生物質、および他の殺生物剤に対して、最大で1000倍まで抵抗性となり得る。この抵抗性の増大の結果、バイオフィルムによる感染症は、従来の抗生物質療法では、効果的に治療することができない。この粘り強いバイオフィルムの表現型の原因であるとみなし得る単一のメカニズムは存在せず、該表現型は、抗菌薬の不十分な浸透、酸素および栄養分が限定されていること、ゆっくりとした生育、および適応性のあるストレス反応を含む、多様な要因に起因すると考えられている。
【0056】
1つの実施態様において、本発明の抗菌溶液は、抗菌溶液の調製の少なくとも約2箇月後に測定した場合、約1分以内の曝露で、限定されないが、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)を含む、生存する微生物の試料を、約1×106〜約1×108 生体/mlの初期濃度から、約0 生体/mlの最終濃度まで、減少させ得る。このことは、生体濃度を約6log(106)〜約8log(108)減少させることに相当する。好ましくは、抗菌溶液は、調製の少なくとも約6箇月後に測定した場合、より好ましくは調製の少なくとも約1年後に測定した場合、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、またはカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)の生体の106〜108の減少を達成し得る。
【0057】
あるいは、本発明により投与される抗菌溶液は、抗菌溶液の調製の少なくとも約2箇月後に測定した場合、約5分以内の曝露で、バチルス・アスロフェウス(Bacillus athrophaeus)胞子の胞子懸濁液の濃度の約6log(106)、好ましくは約6.5log(106.5)、より好ましくは約7log(107)の減少を生じ得る。本発明により投与される抗菌溶液は、調製の少なくとも約6箇月後に測定した場合、より好ましくは調製の少なくとも約1年後に測定した場合、バチルス・アスロフェウス(Bacillus athrophaeus)の胞子の濃度の約106の減少を達成し得ることが好ましい。
【0058】
本発明の抗菌溶液はまた、抗菌溶液の調製の少なくとも約2箇月後に測定した場合、約三十(30)秒以内の曝露で、バチルス・アスロフェウス(Bacillus athrophaeus)胞子の胞子懸濁液の濃度の約4log(104)、好ましくは約5log(105)、より好ましくは約6log(106)の減少を生じ得る。
【0059】
本発明の抗菌溶液はさらに、抗菌溶液の調製の少なくとも約2箇月後に測定した場合、約5〜約10分以内の曝露で、黒色アスペルギルス(Aspergillis niger)胞子などの真菌胞子の濃度の約6log(106)、好ましくは約6.5log(106.5)、より好ましくは約7log(107)の減少を生じ得る。
【0060】
あるいは、本発明により投与される抗菌溶液は、好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ウェルシュ菌(C. perfingens)、淋菌(Neisseria gonorrhea)、クラミジア・トラコマティス(Chlamydia trachomatis)、連鎖球菌(streptococci)、腸球菌(enteroococci)、およびカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ならびにこれらの組み合わせからなる群から選択される生存する微生物の試料の濃度の少なくとも約106の減少をもたらし得る。
【0061】
さらに、本発明の抗菌溶液は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびアデノウイルスなどのウイルスの濃度の3log(103)を超える減少、好ましくは4log(104)を超える減少、より好ましくは5log(105)を超える減少を生じ得る。
【0062】
本発明の抗菌溶液は、例えば抗生物質、抗炎症薬などとの併用療法において使用し得る。好適な抗生物質としては、限定されないが、ペニシリン、セファロスポリン類、または他のβ-ラクタム類、マクロライド類(例えばエリスロマイシン、6-O-メチルエリスロマイシン、およびアジスロマイシン)、フルオロキノロン類、スルホンアミド類、テトラサイクリン類、アミノグリコシド類、クリンダマイシン、キノロン類、メトロニダゾール、バンコマイシン、クロラムフェニコール、これらの抗菌的に有効な誘導体、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。好適な抗感染薬としてはまた、例えばアムホテリシンB、フルコナゾール、フルシトシン、ケトコナゾール、ミコナゾール、これらの誘導体、およびこれらの組み合わせなどの抗真菌剤も挙げることができる。好適な抗炎症剤としては、例えば1種以上の抗炎症薬、例えば1種以上の抗炎症性ステロイド、または1種以上の非ステロイド系抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs)(NSAID)を挙げることができる。例示的な抗炎症薬としては、例えばシクロフィリン類、FK結合タンパク質、抗サイトカイン抗体(例えば抗TNF)、ステロイド、およびNSAIDを挙げることができる。
【0063】
本発明は、何らかの適切な方法で活性化次亜塩素酸溶液を投与することによって、患者の皮膚潰瘍を治療する方法を提供する。例えば、該活性化溶液は、該溶液で皮膚潰瘍を洗浄または灌注することによって、患者に投与され得る。あるいは、活性化次亜塩素酸溶液は、該溶液に皮膚潰瘍を浸漬することによって、患者に投与され得る。皮膚潰瘍は、活性化次亜塩素酸溶液に、いくらかの適切な時間、通常少なくとも約1分間、好ましくは少なくとも約2分間、浸漬され得る。
【0064】
別の実施態様において、活性化次亜塩素酸溶液は、該溶液をいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材で皮膚潰瘍に包帯することによって、患者に投与され得る。このいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材は、創傷を治療するのに十分な時間、創傷と接触させられて放置され得る。このいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材は、例えば1日に1回、または1日に何回もといった周期的な交換をし、創傷に新鮮な包帯材を提供することが好ましい。
【0065】
本発明はさらに、好ましくは(1)該活性化溶液で潰瘍を洗浄または灌注すること;(2)該活性化溶液に潰瘍を浸漬すること;(3)該活性化溶液をいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材で潰瘍に包帯すること;および(4)任意選択で工程(1)〜(3)を繰り返すことを含む、皮膚潰瘍の治療方法を提供する。さらに、該活性化溶液を基剤とするゲルもまた、創傷を被覆するための包帯材またはガーゼに付けられ得る。該方法の工程(1)〜(3)は、皮膚潰瘍を治療するために、必要に応じてたびたび繰り返され得る。
【0066】
皮膚潰瘍は、創傷に活性化次亜塩素酸溶液を適用する前か適用した後かのいずれかに、任意選択で創傷清拭(debrided)され得る。皮膚潰瘍は、活性化溶液を適用する前に創傷清拭されることが好ましい。皮膚潰瘍はまた、ORP水溶液をいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材を当てる前にも創傷清拭され得る。
【0067】
皮膚潰瘍は、関連する感染症を適切に制御するために、最初の3〜4日間は、灌注、洗浄、および/または浸漬によって、1日に1回、清浄化され得る。潰瘍は、石鹸および水道水で洗浄することができ、創傷清拭することができ、1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、または必要に応じてより頻繁に活性化次亜塩素酸溶液を噴霧することができる。清浄化の後、潰瘍は、いくらかの適切な時間、通常約60〜約120分間、好ましくは約15〜約60分間、より好ましくは約5〜約15分間、活性化次亜塩素酸溶液に浸漬するか、または他の方法により該溶液で湿潤化させることができる。潰瘍には、任意にさらにすすぎがなされ得る。皮膚潰瘍を湿潤化させた後に、創傷は、湿潤化したゲル(その有効成分はORP水溶液であり得る)で被覆し、乾燥した包帯材を当てることが好ましい。湿潤化したゲルはさらに、活性化溶液を含み得る。治療の最初の72時間は、任意選択でこの手順を1日1回、1日2回、1日3回、1日4回、またはより頻繁に繰り返す。その後、臨床評価に応じて、該手順は任意選択で、3〜4日ごとに1回、繰り返され得る。
【0068】
本発明により治療される患者は、ヒト、または獣医の患者(例えば非ヒト哺乳動物)であり得る。活性化次亜塩素酸溶液が適用される皮膚潰瘍は、患者のどこにでも位置し得、限定されないが、皮膚潰瘍が、頭部、頸部、上肢、手、手指、体幹、生殖器、下肢、足(foot)、足指、足(paws)、蹄、またはこれらの組み合わせに位置するものを含む。1人の患者の多数の皮膚潰瘍が、同時に治療され得る。
【0069】
本発明は、任意の深さ、形状、または大きさの皮膚潰瘍の治療を提供する。治療に適した皮膚潰瘍としては、例として、表面の表皮に限定される潰瘍、表皮基底層を維持する潰瘍、表皮を貫通する潰瘍、真皮を巻き込む潰瘍、真皮を貫通して皮下組織にまで達する潰瘍、ならびに筋肉、脂肪、および骨を含めた深部組織にまで浸透する潰瘍が挙げられる。該皮膚潰瘍は、任意の形状、例えば円形、楕円形、直線状、または不規則な形状であってもよい。例えば少なくとも約1 mm2、少なくとも約5 mm2、少なくとも約1 cm2、または少なくとも約2 cm2の表面積を含む、任意の適した表面積を有する皮膚潰瘍が治療され得る。
【0070】
本発明は、患者の皮膚潰瘍の治療方法を提供し、該皮膚潰瘍は、例えば動脈不全、静脈不全、リンパ管不全、神経障害、圧迫、外傷、またはこれらの組み合わせによって引き起こされるものである。
【0071】
患者の種々の種類の皮膚潰瘍が、本発明による活性化次亜塩素酸溶液で治療され得る。例えば以下の皮膚潰瘍:糖尿病性足潰瘍、虚血性潰瘍、壊疽性潰瘍、静脈鬱滞性潰瘍、褥瘡性潰瘍、または外傷性潰瘍は、治療に適するものである。また、本発明は、動脈不全を有する患者の皮膚潰瘍の治療方法を提供し、該動脈不全は、例えば、限定されないが、アテローム性動脈硬化症、高血圧症、喫煙、塞栓、糖尿病、動脈炎、移植片対宿主病(graph-versus-host disease)、レイノー病、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる。
【0072】
本発明はさらに、例えば、限定されないが、鬱血性心不全、静脈炎、血栓、静脈弁の異常、遺伝的要因、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる静脈不全を有する患者の皮膚潰瘍の治療方法を提供する。皮膚潰瘍はまた、例えば、限定されないが、鎌状赤血球貧血、凝固性亢進状態、白血球停滞、過粘稠度症候群、DIC、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる血管内の血流異常を有する患者においても治療され得る。
【0073】
本発明はまた、リンパ管不全を有する患者の皮膚潰瘍の治療方法も提供し、該リンパ管不全は、例えば、限定されないが、腫瘍塞栓、フィラリア症(filarasis)、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる。同様に、本発明は、浮腫を有する患者の皮膚潰瘍の治療方法を提供し、該浮腫は、例えば、限定されないが、鬱血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群、栄養失調、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる。
【0074】
本発明は、圧迫性皮膚潰瘍の治療方法も含み、圧迫虚血は、患者が動けないこと、麻痺、肥満、またはこれらの組み合わせに起因する。本発明はさらに、神経障害を有する患者の皮膚潰瘍の治療方法を提供し、該神経障害は、例えば、限定されないが、糖尿病、尿毒症、毒素、アミロイド、多発性硬化症、遺伝性ニューロパシー、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる。
【0075】
本発明はまた、代謝障害(例えば糖尿病、痛風など)、炎症性疾患(例えば狼瘡、混合性結合組織疾患、関節リウマチ、任意の種類の一次性もしくは二次性の血管炎、過敏性反応、多形性紅斑、水疱性皮膚症(bullous skin dieases)、尋常性天疱瘡など)、感染症(例えば疱疹、らい病、水痘帯状疱疹、敗血症など)、新生物(例えば皮膚癌、血管腫など)、変性疾患(例えば強皮症、限局性強皮症など)、遺伝性疾患(例えば鎌状赤血球貧血など)、外傷/環境からの損傷(例えば擦過傷、放射線、術後瘻孔など)、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる、患者の皮膚潰瘍の治療方法も提供する。
【0076】
本発明によれば、活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液を、他の療法(therapries)と組み合わせて用いて、皮膚潰瘍を治療し得る。例えば、限定されないが、静脈鬱滞性下腿潰瘍は、硬化療法を含み得る包括的な外来患者の治療の一部として、活性化次亜塩素酸溶液を、必要とされる数の静脈に投与することによって、治療され得る。各硬化療法の時間の後に、患者は、治療した静脈の閉鎖を補助するために、クラス2の加圧ストッキングをはくことができる。ストッキングをはく必要がある時間は、注射される静脈の大きさにより、約3日から約3週間まで変化した。圧迫包帯は、任意選択で使用される。適当な患者においては、伏在静脈切除術を行うこともできる。
【0077】
本発明はさらに、糖尿病患者の足部潰瘍である皮膚潰瘍の治療方法を提供する。本発明は、糖尿病患者の足部潰瘍の治療方法を提供し、例えば(1)潰瘍を創傷清拭すること;(2)活性化水溶液で潰瘍を洗浄または灌注すること;(3)潰瘍を該溶液に少なくとも2分間浸漬すること;(4)潰瘍を少なくとも約2分間乾燥させること;(5)該溶液をいっぱいにしみ込ませた創傷包帯材で潰瘍に包帯すること;および(6)任意選択で工程(1)〜(5)を繰り返すことを含み得、該潰瘍は感染グレード(infected Grade)2または感染グレード3の糖尿病患者の足部潰瘍であり、前記潰瘍は少なくとも約2.0 cm2の表面積を有する。かかる糖尿病患者の足部潰瘍の治療方法は、潰瘍が実質的に治癒するまで、工程(1)〜(5)をいくらかの適切な回数繰り返すことを含み得る。工程(1)〜(5)は、少なくとも1回繰り返すことが好ましい。本発明による治療に適した潰瘍はまた、米国特許出願公報第2006/0235350号にも開示されている。
【0078】
治療有効量の活性化次亜塩素酸溶液は、例えば重力によって(例えば容器もしくは装置から活性化次亜塩素酸溶液を注ぐか、または分注することによって)、または加圧下で活性化次亜塩素酸溶液を送達することによって(例えば噴霧することによって)、腹膜腔に送達し得る。腹膜(peritonium)を1回以上洗い流すことを行うことができ、すなわち腹膜(peritonium)を「洗浄」することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、任意の適切な時間、例えば治療への反応をもたらすのに効率的な時間、例えば数秒、数分、数時間、または数日、腹膜腔の中に保持させることができ、任意の適切な方法を用いて任意選択で除去することができる。適切な除去方法としては、例えば該活性化次亜塩素酸溶液を1つ以上の周囲の組織に自然に吸収させること、1つ以上の吸収材料(例えばガーゼ、スポンジ、タオル、または網目状織物)で吸い取ること、吸引による除去など、およびこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0079】
1つの実施態様において、本発明の方法は、例えば腹膜炎を有しているか、もしくは腹膜炎を発症する危険性のある患者、または腹膜炎(peritonits)と関連する癒着もしくは膿瘍を発生させる危険性のある患者の腹膜腔にアクセスすること;腹膜組織と治療有効量の活性化次亜塩素酸溶液とを接触させるのに十分な体積の活性化次亜塩素酸溶液を患者の腹膜腔に送達すること;活性化次亜塩素酸溶液を治療効果をもたらすのに十分な時間、腹膜腔に残存させること;任意選択で腹膜腔から活性化次亜塩素酸溶液を除去すること;および任意選択で腹膜洗浄を繰り返すことを含む。
【0080】
腹膜腔には、例えば外科的または経腹壁的に、存在する創傷の開口部を通じて、といった任意の適当な方法によりアクセスすることができる。任意の適切な体積、例えば約0.01〜約10リットル(例えば約0.1〜約10リットル、約0.2〜約10リットル、約0.5〜約10リットル、または約1〜約10リットル)の活性化次亜塩素酸溶液を腹膜腔に送達することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、任意選択で除去することができ、また所望される場合、例えば本明細書中に記載されるように、洗浄が繰り返される。洗浄(1回または複数回)は、単独で、またはさらなる療法と組み合わせて、例えば1回以上の無菌の生理食塩水での洗浄、抗生物質療法、およびこれらの組み合わせと組み合わせて、行うことができる。
【0081】
活性化次亜塩素酸溶液は、皮膚および/または1つ以上の粘膜表面を含み得る任意の冒された生体組織の表面に、内視鏡的に、透析カテーテルを通じて、または直接的に、投与し得る。非経口投与としては、例えば活性化次亜塩素酸溶液の腹腔内、筋肉内、皮下、静脈内、動脈内、くも膜下腔内、膀胱内、または滑膜腔内の投与を挙げることができる。活性化次亜塩素酸溶液の内視鏡による投与としては、例えば気管支鏡検査法、結腸内視鏡検査、S状結腸鏡検査法、子宮鏡検査法(hysterscopy)、腹腔鏡検査法(laproscopy)、関節鏡検査法(athroscopy)、胃内視鏡検査、または経尿道的アプローチを使用するものを挙げることができる。活性化次亜塩素酸溶液の粘膜表面への投与としては、例えば食道、胃、腸、腹膜、尿道、小胞、膣、子宮、ファロピウス管(fallopian)、滑膜の粘膜表面、および鼻への投与を挙げることができ、また該溶液の口腔、気管、または気管支の粘膜表面への投与も挙げることができる。
【0082】
本発明はさらに、何らかの原因に由来する創傷などの、障害または損傷された組織の治療方法を提供し、該方法は、障害または損傷された組織と、治療有効量の活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液とを接触させることを含む。該方法は、手術によって障害または損傷されている組織、または手術に必ずしも関係しない原因、例えば熱傷、切り傷、擦過傷、かすり傷、発疹、潰瘍、刺創、感染などによって障害または損傷されている組織の治療を含む。
【0083】
本発明の方法は、例えば手術によって、障害または損傷されている組織の治療において使用することができる。例えば、本発明の方法は、切開術によって障害または損傷されている組織の治療に使用することができる。また、本発明の方法は、口腔内手術、移植手術(graft surgery)、埋入手術、移植手術(transplant surgery)、焼灼術、切断術、放射線療法、化学療法、およびこれらの組み合わせによって障害または損傷されている組織の治療に使用することができる。口腔内手術としては、例えば、例えば根管手術、抜歯、歯肉手術などの、歯科外科手術を挙げることができる。本発明による治療に適した組織傷害としてはまた、米国特許出願公報第2007/0173755号にも開示されている。
【0084】
本発明の方法はまた、必ずしも手術によって引き起こされたものではない、1つ以上の熱傷、切り傷、擦過傷、かすり傷、発疹、潰瘍、刺創、これらの組み合わせなどによって障害または損傷されている組織の治療も含む。本発明の方法はまた、感染した障害または損傷された組織、または感染によって障害もしくは損傷された組織の治療にも使用することができる。かかる感染は、例えば本明細書中に記載されるウイルス、細菌、および真菌からなる群から選択される1種以上の微生物などの1種以上の感染性病原体によって引き起こされ得る。
【0085】
好ましい実施態様において、本発明の活性化次亜塩素酸溶液は、第1度熱傷、第2度熱傷、または第3度熱傷を有する患者を治療するために投与され得る。第2度熱傷、および第3度熱傷などの各熱傷の組み合わせを有する患者もまた、ORP水溶液で治療され得る。第1度熱傷は、表皮、または皮膚表面を冒す。第2度熱傷は、表皮、および下にある真皮を冒す。第3度熱傷は、表皮、真皮、および皮下組織を冒す。活性化次亜塩素酸溶液は、第2度熱傷、または第3度熱傷を有する患者を治療するために投与することがより好ましい。本発明による治療に適する熱傷は、例えば火、沸騰している液体(例えば水、牛乳など)、または電気との接触を含めた種々の傷害によって引き起こされ、通常患者の組織の約0%〜約69%に及ぶ。
【0086】
活性化次亜塩素酸溶液は、任意の適切な方法で、熱傷を有する患者に投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、熱傷に噴霧すること、熱傷を浸漬洗浄すること(bathing)、浸漬すること、拭くこと、または他の方法により湿潤化することによって、局所的に投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、熱傷を治療するのに十分な量で投与される。活性化次亜塩素酸溶液は、少なくとも1日に1回、好ましくは1日に1回よりも多くの回数、熱傷に投与される。活性化次亜塩素酸溶液は、1日に3回熱傷に投与されることがより好ましい。
【0087】
活性化次亜塩素酸溶液は、例えば容器から注ぐことによって、または貯蔵容器から噴霧することによって、熱傷部位に直接的に適用することができる。熱傷は、任意の適切な装置を用いて噴霧することができる。熱傷上に活性化次亜塩素酸溶液を噴霧するために、高圧灌注装置が使用されることが好ましい。
【0088】
熱傷は、ORP水溶液に、部分的にか完全にかのいずれかで、熱傷を沈めることによって浸漬され得る。熱傷は、いくらかの適切な時間浸漬され得る。通常、熱傷は、少なくとも約1分間活性化次亜塩素酸溶液に浸漬される。熱傷は、約5分間〜約15分間浸漬されることが好ましい。
【0089】
あるいは、活性化次亜塩素酸溶液は、例えば活性化ORP水をいっぱいにしみ込ませたガーゼなどの基材を用いて熱傷に適用され得る。噴霧を含む多数の方法によって活性化次亜塩素酸溶液が適用され、かつ熱傷には噴霧と浸漬がともになされることが好ましい。
【0090】
熱傷は、任意に、活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液をいっぱいにしみ込ませた湿潤な創傷包帯材を当てることによって包帯することができる。熱傷は、任意に、湿潤な創傷包帯材に加えて、乾燥したガーゼ、および粘着性のある被覆物で包帯することができる。活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液の投与後に、任意の適切なスワーヴ(suave)、クリーム、ゲル、および/または軟膏剤もまた熱傷の表面に適用することができる。
【0091】
1つの実施態様において、治療を必要とする熱傷を有する患者は、本発明の活性化次亜塩素酸溶液を用いる洗浄手順を受ける。活性化次亜塩素酸溶液は、まず高圧灌注装置を用いて熱傷に噴霧される。次に、熱傷を適切な時間、活性化次亜塩素酸溶液に浸漬する。浸漬の後、次いで熱傷に活性化次亜塩素酸溶液を再度噴霧する。次いで熱傷を少なくとも5分間、湿潤化した状態で放置する。この手順を患者の熱傷に1日に少なくとも1回、好ましくは1日に2回、より好ましくは1日に3回行う。
【0092】
活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液の投与の前に、熱傷は、創傷清拭療法を受け、過角化した(hyperkeratinized)組織、壊死組織、および他の不健康な組織を、健康に見える組織に達するまで、除去することが好ましい。熱傷の創傷清拭において、創縁は健康な出血組織に達するまで切除される。熱傷は、創傷清拭の後、壊死組織片除去済みであり得る。
【0093】
必要な場合、活性化次亜塩素酸溶液の投与は、熱傷の治癒を促進するために、皮膚移植と組み合わせて使用され得る。任意に、該活性化溶液の投与は、局所的および/または全身的な抗生物質の投与と併用される。適切な抗生物質としては、セファロスポリン類(例えばセフォタキシム、セフトリアキソンなど)、カルバペネム類、モノバクタム類、ペニシリン類などが挙げられる。活性化次亜塩素酸溶液は、抗生物質を投与せずに、熱傷に適用することが好ましい。
【0094】
本発明の別の実施態様において、患者の第2度熱傷、および/または第3度熱傷は、初めに創傷清拭され、次いで好ましくは高圧灌注装置によって活性化次亜塩素酸溶液が噴霧される。熱傷の洗浄に使用される活性化次亜塩素酸溶液の量は、壊死組織片の除去に十分なものであることが好ましい。次いで熱傷は適切な時間、活性化次亜塩素酸溶液に浸漬することが好ましい。次に患者の熱傷には、ORP水溶液が噴霧され、該溶液によって、適切な時間、好ましくは約5分〜約15分間、熱傷を湿潤化させる。噴霧、および湿潤化は、1日に3回繰り返す。ORP水溶液の投与と投与の間に、熱傷の表面は包帯されないことが好ましい。
【0095】
高圧で熱傷に噴霧するプロセス、任意選択で熱傷を浸漬するプロセス、熱傷に噴霧するプロセス、および熱傷を湿潤化するプロセスは、適切な間隔で繰り返すことができる。熱傷が高圧で噴霧される手順、任意選択で浸漬される手順、噴霧される手順、および湿潤化される手順は、好ましくは1週間に1回、より好ましくは1日に1回繰り返される。活性化次亜塩素酸溶液を用いる熱傷の治療は、熱傷が十分に治癒するまで続けることができ、典型的には数日にわたって該手順を繰り返すことを要する。通常、活性化次亜塩素酸溶液は、少なくとも3日の間、毎日適用される。典型的には、活性化次亜塩素酸溶液は、少なくとも5日の間、好ましくは少なくとも7日の間、より好ましくは少なくとも10日の間、毎日適用される。熱傷の治癒は、典型的には、瘢痕収縮および上皮形成(epithielization)の速度によって、評価される。本発明による治療に適する熱傷はまた、米国特許第20060241546号にも開示されている。
【0096】
本発明はまた、口腔または顎顔面の、歯科的処置(procedure)における灌注薬(irrigant)として、活性化次亜塩素酸溶液を、患者に、該部位を灌注するのに十分な量投与することによる、活性化次亜塩素酸溶液の使用方法にも関する。好ましい実施態様において、本発明の活性化次亜塩素酸溶液は、種々の歯科の用途に利用され得る。第一に、活性化次亜塩素酸溶液は、継続している口腔衛生プログラムの一環として、口腔のルーチン的な消毒のために、患者に投与され得る。第二に、活性化次亜塩素酸溶液は、口腔または顎顔面の処置中に、口腔組織、歯の表面、齲歯、または歯根管(tooth canal)を灌注および/または消毒するために使用され得る。第三に、活性化次亜塩素酸溶液は、例えば、口腔もしくは顎顔面の処置または疾患によって引き起こされる、口腔組織の損傷を有する患者を治療するために投与され得る。最後に、活性化次亜塩素酸溶液は、例えば歯科用器具、歯科医院の灌注システムの灌注用導管、および義歯を含めた歯科学に関連する物を消毒するために使用され得る。
【0097】
1つの実施態様において、活性化次亜塩素酸溶液は、継続している口腔衛生プログラムの一環として、口腔のルーチン的な消毒のために、患者に投与され得る。活性化次亜塩素酸溶液は、口腔内に存在する広範囲の口腔微生物の濃度を減少させ、それにより感染症の発症を減少させ得る。活性化次亜塩素酸溶液は、任意の適切な方法で、患者に投与される。活性化次亜塩素酸溶液は、マウスリンス(mouthrinse)、またはマウスウォッシュとして投与されることが好ましい。患者は、少なくとも約30秒間、より好ましくは少なくとも約1分間、また最も好ましくは少なくとも約2分間、すすぎをすることが好ましい。患者は、毎日、例えばすなわち、1日に2回、または1日に3回、すすぎをする。患者は、食後に活性化次亜塩素酸溶液ですすぎをすることが好ましい。患者は、ORP水溶液を用いてすすぎをするとともに、毎日、その歯を磨き、その歯にフロスをかけるべきである。患者は、例えば、ORP水溶液でのすすぎの前に、その歯を磨き、その歯にフロスをかけることができる。
【0098】
活性化次亜塩素酸溶液を用いてすすぎをした時の口腔微生物叢の減少は、モニタリングすることができる。口腔微生物叢の濃度は、頬粘膜から採取した細菌の拭き取り検体(bacteriological swabs)を培養することにより測定される。最初にベースラインである細菌の拭き取り検体を採取する。活性化次亜塩素酸溶液を用いてすすぎをした時の口腔微生物叢の急速な減少は、すすぎの約10分後、およびすすぎの約15分後に、細菌の拭き取り検体を採取することによって、測定することができる。すすぎのレジメンの後の口腔微生物叢の長期的な減少もまた、測定することができる。例えば、細菌の拭き取り検体は、該活性化溶液を用いたすすぎの1箇月後に採取することができる。
【0099】
もう一つの実施態様において、活性化次亜塩素酸溶液は、口腔または顎顔面の手術(procedures)中に、灌注薬、および/または消毒剤としても使用され得る。活性化次亜塩素酸溶液は、超音波スケーリングにおける灌注薬として使用され得る。超音波スケーリングは、歯肉線の上下のプラークを取り除く歯周病の治療のための処置である。超音波スケーラーは、冷却液、または灌注薬と併用して操作され、該溶液内のキャビテーションによる作用がプラークの破壊および除去に寄与する。典型的には、灌注薬は水である。水の代わりに活性化次亜塩素酸溶液を使用すると、プラークの除去後に、微生物のコロニーの再形成が遅くなり得る。治療は、炎症、出血、およびポケットの深さの評価について、モニタリングされ得る。灌注薬としての活性化次亜塩素酸溶液を用いた超音波スケーリングは、他の追跡治療と併用され得る。患者は、毎日、歯を磨き、歯にフロスをかけるべきである。超音波スケーリングは、すすぎの形態での活性化次亜塩素酸溶液の外来での投与と組み合わせることが好ましい。患者は、超音波スケーリングの処置の後、少なくとも約2箇月間、または好ましくは少なくとも約3箇月間、活性化次亜塩素酸溶液を用いてすすぎをする。
【0100】
活性化次亜塩素酸溶液は、歯の修復時に、齲歯、または歯根管(tooth canal)を清浄化および消毒するために灌注薬として(an irrigant)使用される。齲蝕、または齲歯の治療は、齲蝕された物質を除去し、これを修復材、または充填材で置き換えることからなる。最初に、齲蝕された物質をドリルで穿孔することにより除去する。次に、歯は、象牙質表面、および/またはエナメル質を浄化および消毒する工程を含む充填のための準備がなされる。活性化次亜塩素酸溶液は、創傷清拭される歯の物質などの壊死組織片を洗い流すための灌注溶液として使用され得る。あるいは、活性化次亜塩素酸溶液は、充填の前に、象牙質表面、および/またはエナメル質を消毒するために使用され得る。活性化次亜塩素酸溶液は、該表面に噴霧するか、またはブラシもしくはスポンジで該表面を湿潤化することによって、適用され得る。同様に、活性化次亜塩素酸溶液は、歯内または根管の治療時に、灌注溶液として使用され得る。歯内治療は、患者が歯の神経組織に細菌感染を有する場合、必要とされる。歯内治療は、ドリルで髄腔にアクセス用の孔をつくること、歯の内部を空にすること、歯の内部に根管充填材を充填し、密封すること、およびアクセス用の孔に充填することからなる。浄化工程の一部として、壊死組織片を溶解させ、洗い流すために、灌注薬が使用される。活性化次亜塩素酸溶液は、歯内治療時に灌注薬として使用され得る。あるいは、活性化次亜塩素酸溶液は、浄化後、かつ充填の前に、内部の歯を消毒するために使用され得る。
【0101】
活性化次亜塩素酸溶液は、抜歯の間に、灌注薬、および/または殺菌薬として使用される。歯が抜かれた後、該抜歯窩は、壊死組織片を溶解させ、洗い流すために、活性化次亜塩素酸溶液で灌注される。該抜歯窩は、少なくとも約30秒間、もしくは少なくとも約1分間、もしくは少なくとも約2分間、または必要とされる場合はより長い時間、灌注され得る。膿瘍、または歯周病のために歯が抜かれる場合、活性化次亜塩素酸溶液が使用されることが好ましい。
【0102】
活性化次亜塩素酸溶液は、顎顔面手術時に、灌注薬、および/または手術中の殺菌薬として、使用され得る。顎顔面手術における2つの再発性の問題は、出血および感染症である。活性化次亜塩素酸溶液は、手術野の出血を減少させる。活性化次亜塩素酸溶液はまた、手術後の治癒時間も減少させ得る。
【0103】
活性化次亜塩素酸溶液は、顎顔面手術を受ける患者に、任意の適切な方法で投与される。活性化次亜塩素酸溶液は、手術の直前、手術時、または手術の直後に投与することができる。例えば、切開術の前に、口腔全体に、1回、2回、または3回すすぎがなされ得る。口腔は、2回すすがれることが好ましい。活性化次亜塩素酸溶液は、手術部位に灌注するために使用することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、縫合前に、手術部位を洗い流すために使用することが好ましい。手術部位は、少なくとも1分間、もしくは少なくとも2分間、もしくは少なくとも3分間、または必要とされる場合はより長い時間、灌注され得る。
【0104】
さらに別の実施態様において、活性化次亜塩素酸溶液は、疾患、または口腔もしくは顎顔面の処置によって損傷された口腔組織を有する患者に投与され得る。活性化次亜塩素酸溶液は、歯周病を患う患者に投与されることが好ましい。歯周病は、歯肉、および歯を支えている骨を冒す慢性細菌感染症であり、歯の喪失の主要な原因の1つである。疾患を引き起こす細菌は、歯肉線の上下のプラークに存在している。歯周病の例としては、歯肉炎、すなわち歯肉組織の炎症、および歯周組織の炎症性疾患である歯周炎が挙げられる。活性化次亜塩素酸溶液による治療は、感染の抑止をもたらす。炎症、および出血もまた、減少し、消失する。さらに、多くの場合、活性化次亜塩素酸溶液を用いた治療は、骨再生をもたらし、歯周付着喪失を停止させる。
【0105】
活性化次亜塩素酸溶液は、任意の適切な方法で、歯周病を患う患者に投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、マウスリンス、またはマウスウォッシュとして投与することが好ましい。好ましくは、患者は、少なくとも約30秒間、より好ましくは少なくとも約1分間、また最も好ましくは少なくとも約2分間、すすぎをする。患者は、毎日、すなわち、1日に2回、または好ましくは1日に3回、すすぎをする。患者は、食後に活性化次亜塩素酸溶液ですすぎをすることが好ましい。患者は活性化溶液を用いてすすぎをするとともに、毎日、その歯を磨き、その歯にフロスをかけるべきである。活性化次亜塩素酸溶液を用いる歯周病の治療は、該疾患が治るまで続けることができる。疾患の進行に応じて、活性化次亜塩素酸溶液は、少なくとも約1箇月間、もしくは好ましくは約2箇月間、もしくはより好ましくは約3箇月間、またはより長期の間、投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液の投与は、歯周病の他の治療と併用することができる。かかる治療は、プラーク、および歯石の機械的な除去、ならびに抗生物質の投与を含む。活性化次亜塩素酸溶液の投与は、プラーク、および歯石の機械的な除去と併用することが好ましい。活性化次亜塩素酸溶液の投与は、抗生物質と併用しないことが好ましい。
【0106】
活性化次亜塩素酸溶液はまた、口腔粘膜の障害、または潰瘍を有する患者に投与することもできる。障害は、痛みおよび赤みを伴い、咀嚼、および嚥下を害し得る。障害、または潰瘍は、多くの原因を有する。例えば、義歯性口内炎は、義歯を装着することによって引き起こされる障害である。免疫無防備状態の患者もまた、口腔粘膜の障害、または潰瘍を発症する可能性が高い。粘膜の真菌感染症である口腔カンジダ症は、口腔の周りに障害を引き起こす。口腔粘膜炎は、化学療法、放射線療法、または骨髄移植などの癌治療を受けている患者が経験する一般的な副作用である。
【0107】
活性化次亜塩素酸溶液は、口腔粘膜の障害、または潰瘍を患う患者に任意の適切な方法で投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、マウスリンス、またはマウスウォッシュとして投与されることが好ましい。患者は、少なくとも約30秒間、より好ましくは少なくとも約1分間、また最も好ましくは少なくとも約2分間、すすぎをすることが好ましい。患者は、毎日、すなわち、1日に2回、またはより好ましくは1日に3回、すすぎをする。活性化次亜塩素酸溶液を用いる口腔粘膜の障害または潰瘍の治療は、障害または潰瘍が治癒するまで継続することができる。疾患の進行に応じて、活性化次亜塩素酸溶液は、例えば、約2週間、もしくは約3週間、もしくは約4週間、もしくは約2箇月間、またはより長い期間、投与され得る。活性化次亜塩素酸溶液の投与は、口腔粘膜の障害、または潰瘍にかかりやすい患者において、予防になり得る。
【0108】
活性化次亜塩素酸溶液は、患者に、任意の適切な方法で、口腔または顎顔面の処置を受けた後に、投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液は、マウスリンス、またはマウスウォッシュとして投与されることが好ましい。患者は、少なくとも約30秒間、より好ましくは少なくとも約1分間、また最も好ましくは少なくとも約2分間、すすぎをすることが好ましい。患者は、毎日、もしくは好ましくは1日に2回、またはより好ましくは1日に3回、すすぎをする。活性化次亜塩素酸溶液は、約1週間、もしくは約2週間、もしくは約1箇月、もしくは約3箇月間、または必要である場合はより長期の間、投与され得る。活性化次亜塩素酸溶液は、NSAIDと併用して投与することができる。活性化次亜塩素酸溶液はまた、抗生物質と併用して投与することもできる。抗生物質は、投与されないことが好ましい。本発明による治療に適する、歯および口腔の障害はまた、米国特許出願公報第2006/0253060号にも開示されている。
【0109】
活性化次亜塩素酸溶液は、歯科用機器を消毒および滅菌するために適用することができる。例えば、歯科用器具を消毒および滅菌するために、機器に存在する生物のレベルを所望のレベルまで減少させるのに十分な時間、該器具を活性化次亜塩素酸溶液と接触させて保持することができる。例えば、歯科医院の灌注導管を消毒および滅菌するために、灌注導管が、該活性化溶液によって洗い流される。細菌のレベルの減少は、該導管を洗い流す前、および洗い流した後の、細菌培養物を採取することによって測定することができる。
【0110】
本発明によって投与される活性化次亜塩素酸溶液はまた、口腔の障害を創傷清拭するために使用される、注水手術(hydrosurgery)装置用の灌注溶液としても使用することができる。好適な注水手術装置としては、例えば、Smith and Nephewによって米国で販売されているVersaJet装置、Medaxisによる欧州のDebritom、DeRoyalによる米国および欧州のJetOx、またはイタリアのPulsaVacを挙げることができる。活性化次亜塩素酸溶液は、口腔の障害における微生物の負荷を減少させること、および創傷清拭の処置時の感染性のミストの形成を回避することによって、該装置と相乗的に作用し得ると考えられている。したがって、本発明によれば、該装置を使用して、連続的な灌注により口腔の障害を創傷清拭し、感染プロセスを減少させ、感染性のミストの形成を回避し得る。
【0111】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するが、当然、本発明の範囲をなんら限定するものではないと解釈するべきである。
【実施例】
【0112】
実施例1
本実施例は、一酸化二塩素形成速度の測定方法を示す。
【0113】
希薄溶液中、次亜塩素酸は、微量の一酸化二塩素と平衡状態にある。
【0114】
【化2】

【0115】
大過剰の水は、平衡をHOClの方へ押し進め、その結果溶液内に一酸化二塩素はほとんど存在しない。しかしながら、重要なことは、HOClがCl2Oに変えられる速度である。この反応は、多数の種々の化学物質によって触媒される。Cl2Oは、HOClよりも、ある化学物質に対して、有意に、より反応性であるため、該溶液と指示薬の化学物質との反応速度を通じて、Cl2Oの形成速度を測定することが可能である。4-ヒドロキシ安息香酸(「4OH BA」)を、以下の反応であると信じられている反応における指示薬化合物として使用する。
【0116】
【化3】

【0117】
4OH BAの反応速度を、4OH BAと試験溶液との混合物の経時的な250 nmでのUV吸収を測定することによって、決定する。この波長は、4OH BAの吸収を最大にし、HOClの吸光度を最小にするように選択されたものである。該手順において、石英のキュベット内で、過剰の4OH BAを含む溶液を、試験溶液と混合する。該溶液の250 nmでのUV吸収を2分間にわたって測定する。時間=0での速度(該線の傾き)が、反応速度に相当する。pH 6での反応、pH 7での反応、および添加された触媒を伴う反応の典型的な曲線を図1に示す。
【0118】
図1において、最初のUV吸光度は、指示薬にHOClを加えたもののUV吸光度に等しい。曲線の第2の点は、キュベットをUV分光計に置いてすぐに(12 秒)、最初に測定された値である。4OH BAの減少の正確な測定ではないが、これは、反応の相対速度、したがって存在するCl2Oの量を見る、間接的な方法である。
【0119】
実施例2
本実施例は、本発明による一酸化二塩素の生成を示す。
【0120】
次亜塩素酸/次亜塩素酸塩溶液におけるCl2O濃度のpH依存性を図2に示す。塩化物イオンの一酸化二塩素の形成に対する触媒効果は、高いpHの範囲(pH > 5)で最も効率的である。このことは、2つの例示的な前もって抗菌性にした(pre-antimicrobial)次亜塩素酸/次亜塩素酸塩を含有する溶液について、図3において見ることができる。低い塩化物イオン濃度を有する溶液は、pH 4〜6で非常に少ないCl2Oの形成を示す。高い方の塩化物含有量では、pH 4で該溶液の塩素消毒する(chlorinating)能力は、はるかに高い。このpHでの塩素消毒する(chlorinating)能力は、一酸化二塩素の形成、およびやはり塩素ガスの形成の組み合わせによるものである。塩化物イオンを増大させると、この点をより高いpHに移動させることになる。いったんpHが6に達すると、次亜塩素酸イオンによる効果は、塩化物の効果を目立たなくする。
【0121】
これらの結果は、次亜塩素酸/次亜塩素酸塩溶液に存在する一酸化二塩素の量が、塩化物イオン、およびpHに依存することを示している。
【0122】
実施例3
本実施例は、創傷における、例示的な活性化次亜塩素酸溶液の胞子殺傷作用を示す。
【0123】
本実施例は、5.5〜8.5のpHのレベルの活性化次亜塩素酸溶液における必要な遊離有効塩素(Free Available Chlorine)(FAC)の最小量について研究し、胞子殺傷試験における効力を示した。さらに、このpH範囲における次亜塩素酸(HOCl)含有量の製品効力に対する効果を調査した。得られたデータは、溶液のpHが増大するにつれ、胞子に対して同じ効力を示すために、より高い濃度のFACが必要とされることを示している。
【0124】
胞子殺傷試験は、胞子を製品に懸濁させ、次いで10分間曝す、懸濁試験である。次いで該溶液は、中和し、培養基で培養する。該平板培地をインキュベートし、細菌の生育について調べる。「完全な殺傷」を示すFAC濃度は、その平板培地が生育を示さない溶液のものである。結果を図5に示し、治療される組織において、約7.5未満のpHを維持することが望ましいことを示す。
【0125】
例示的な活性化次亜塩素酸溶液を希釈し、pHを調節して、5.5〜8.5の範囲にわたるpH、および20〜77 ppmのFAC濃度を有する諸溶液を調製した。次いでこれらの溶液を胞子殺傷効力試験において試験した。この解析の結果を以下の表に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
FACが20 ppmの製品の溶液を、pH 6およびpH 7の、0.2 M NaClO4か200 ppmの塩化物かのいずれかになるように調製し、胞子に対する効力について試験した。該塩化物溶液、およびNaClO4溶液は、双方のpHのレベルで15分後に完全に近い殺傷を示した。この解析の結果を以下の表に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
実施例4
本実施例は、アルブミンの高い有機物負荷の存在下の創傷における、例示的な活性化次亜塩素酸溶液の抗菌活性を示す。
【0130】
大腸菌(E. coli)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、および緑膿菌(P. aeruginosa)を、アルブミンの形態での有機物の負荷の存在下、3つの異なるFAC溶液に対して試験した。30秒の曝露の後、500 μLのアリコートを滅菌したアガロース平板培地に蒔いて培養し、インキュベートして生育させた。平板培地を24時間、および48時間で確認した。細胞のコロニーを計数し、記録した。
【0131】
使用した活性化次亜塩素酸溶液、例えば活性化ORP水溶液は、
1. 71.9 ppmのFAC, pH 7.0
2. 72.8 ppmのFAC, pH 4.9
3. 81.4 ppmのFAC, pH 4.9, TEA含有
であった。
【0132】
使用したアルブミンの濃度は、
1. 750 ppm
2. 1000 ppm
3. 1250 ppm
であった。
【0133】
結果を以下の表に示す。
【0134】
【表3】

【0135】
この結果は、有機物の100%の殺傷が得られない点に有効成分を減少させるのに、pH 5ではpH 7でよりも高い濃度の有機物を要することを示している。
【0136】
本明細書中に引用された刊行物、特許出願、および特許を含むすべての参照文献は、本明細書中にそれぞれの参照文献が個別にかつ具体的に参照によって援用されるように示され、その全体が記述されているのと同じ程度に、本明細書によって参照によって援用される。
【0137】
本明細書中に別段示されない限り、または文脈によって明らかに否定されない限り、本発明の説明との関係における(特に以下の特許請求の範囲との関係における)、語「1つの(a)」および「1つの(an)」および「該(the)」、ならびに類似の指示対象の使用は、単数および複数の双方をカバーするように解釈されるべきである。別段記載しない限り、用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、および「含む(containing)」は、オープンエンドの用語(すなわち「含むが限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。本明細書中に別段示さない限り、本明細書中の値の範囲の記載は、該範囲に入るそれぞれの別個の値を個々に指す略記方法として役立つことを意図したものであるにすぎず、それぞれの別個の値は、それが本明細書中に個々に記載されているのと同様に本明細書中に取り込まれる。本明細書中に別段示されない限り、または文脈によって別段明らかに否定されない限り、本明細書中に記載されたすべての方法は、任意の適切な順序で行うことができる。別段特許請求しない限り、本明細書中に提供される任意の、かつすべての例または例示的な言葉(例えば「など」)の使用は、本発明をより上手く説明することを意図したものにすぎず、本発明の範囲に限定をもたらすものではない。本明細書における言葉は、特許請求がなされていない任意の要素を本発明の実施に不可欠なものとして示すものと解釈されるべきではない。
【0138】
本発明の好ましい実施態様は、本明細書中に記載されており、本発明者らが知る本発明を実施するための最良の形態を含んでいる。こうした好ましい実施態様の変形形態は、前述の説明を読んだ際に当業者に明らかになり得る。本発明者らは当業者はかかる変形形態を適宜使用するものと思っており、本発明者らは本発明が本明細書において具体的に説明したのとは別の方法で実施されることを意図している。したがって、本発明は、本明細書に添付された特許請求の範囲に記載された要旨の、適用され得る法律によって許容されるすべての修正形態および均等物を含む。また、本明細書中に別段示されない限り、または文脈によって別段明らかに否定されない限り、上記要素のすべての可能な変形形態における上記要素の任意の組み合わせは、本発明に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量の次亜塩素酸を含む溶液に、次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を添加し、治療有効量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成させること、および該活性化溶液を投与し、創傷または感染症を治療することを含む、哺乳動物の創傷または感染症の治療方法。
【請求項2】
有効量の次亜塩素酸を含む溶液に、次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を添加し、表面の消毒に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成させること、および表面と該活性化溶液とを接触させ、該表面を消毒することを含む、表面の消毒方法。
【請求項3】
次亜塩素酸溶液が緩衝液を含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
緩衝液が、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、またはこれらの組み合わせである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
緩衝液がリン酸緩衝液である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
次亜塩素酸溶液が約5.0〜約6.0のpHを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
触媒が、リン酸イオン、塩化物イオン、第三級アミン、次亜塩素酸ナトリウム、およびクエン酸、またはこれらの組み合わせである、請求項1および2記載の方法。
【請求項8】
触媒が第三級アミンである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
触媒がトリエタノールアミンである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
触媒が塩化物イオンである、請求項7記載の方法。
【請求項11】
トリエタノールアミンが約0.3 ppm〜約1.5 ppmの濃度で存在する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
該活性化溶液が約5.0〜約6.0のpHを有する、請求項1または2記載の方法。
【請求項13】
感染症が、細菌、ウイルス、酵母、またはこれらの組み合わせによって引き起こされる、請求項1記載の方法。
【請求項14】
細菌が、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、大腸菌(Escherichia coli)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、アシネトバクター属(Acinetobacter)種、バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis)、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム(Vancomycin resistant-Enterococcus faecium)(VRE, MDR)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、ミクロコッカス・ルテウス(Micrococcus luteus)、プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)、スタフィロコッカス・ヘモリチカス(Staphylococcus haemolyticus)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis)、スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus saprophyticus)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、豚コレラ菌(Salmonella choleraesuis)、志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)、またはこれらの組み合わせである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
創傷が、口腔潰瘍、皮膚潰瘍、熱傷、腹膜炎、歯周病、歯肉疾患、またはこれらの組み合わせである、請求項1記載の方法。
【請求項16】
皮膚潰瘍が糖尿病性足潰瘍である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
腹膜炎が感染性腹膜炎である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
感染症が、肺感染症、眼感染症、耳の感染症、鼻の感染症、または副鼻腔感染症である、請求項1記載の方法。
【請求項19】
肺感染症が嚢胞性線維症を患うヒト哺乳動物におけるものである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
表面が、プラスチック表面、金属表面、ガラス表面、またはこれらの組み合わせである、請求項2記載の方法。
【請求項21】
表面が、人工心臓弁、矯正器具、埋入可能なペースメーカー、埋入可能なチューブ、埋入可能なステント、埋入可能な網、またはこれらの組み合わせの上のものである、請求項2記載の方法。
【請求項22】
表面が、気管支鏡、結腸鏡、S状結腸鏡、子宮鏡、腹腔鏡(laproscope)、関節鏡、胃内視鏡、または膀胱鏡の上のものである、請求項2記載の方法。
【請求項23】
有効量の次亜塩素酸溶液を含む第一の成分、および次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を含む第二の成分を含み、該第一の成分および第二の成分を合わせた場合、その合わせたものが、治療有効量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する、創傷または感染症を治療するための製品。
【請求項24】
該第一の成分と第二の成分とを合わせ、活性化溶液を生成させること、および該活性化溶液を用いて創傷または感染症を治療することについての説明書をさらに含む、請求項23記載の製品。
【請求項25】
有効量の次亜塩素酸溶液を含む第一の成分、および次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を含む第二の成分を含み、該第一の成分および第二の成分を合わせた場合、その合わせたものが、表面の消毒に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する、表面を消毒するための製品。
【請求項26】
該第一の成分と第二の成分とを合わせ、活性化溶液を生成させること、および該活性化溶液を用いて表面を消毒することについての説明書をさらに含む、請求項25記載の製品。
【請求項27】
次亜塩素酸溶液が、該活性化溶液のpHを約5.0〜約6.0に維持する緩衝液を含む、請求項23〜26のいずれか1項に記載の製品。
【請求項28】
次亜塩素酸溶液が第一の容器内に入っており、触媒が第二の容器内に入っている、請求項23〜27のいずれか1項に記載の製品。
【請求項29】
第一の容器と第二の容器とを含む抗菌製品の製造方法であって、
有効量の次亜塩素酸を含む溶液を調製すること;
該次亜塩素酸溶液を該第一の容器内に容れること;および
次亜塩素酸の一酸化二塩素への変換を触媒する触媒を第二の容器の中に容れること
を含み、
該次亜塩素酸溶液と触媒とを合わせた際に、その合わせたものが、抗菌に有効な量の一酸化二塩素を含む活性化溶液を生成する、方法。
【請求項30】
次亜塩素酸溶液が電気分解により調製される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
次亜塩素酸溶液が、塩素をアルカリ金属水酸化物の希薄水溶液に溶解することによって調製される、請求項29記載の方法。


【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−521489(P2010−521489A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553790(P2009−553790)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際出願番号】PCT/US2008/056919
【国際公開番号】WO2008/112940
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(504217487)オキュラス イノヴェイティヴ サイエンシズ、インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】