説明

三次元成形回路部品の製造方法

【課題】非回路となる部分についてレーザー光を照射して除去できない部分とマスク材で被覆できない部分との双方が存在する場合にも、無電解めっきを選択的に形成することができる。
【解決手段】絶縁性基体1の粗化面に触媒2を付与し、レーザー光3の照射による除去が容易な非回路となる部分12a、12b、12cについて、このレーザー光の照射によって触媒を除去すると共に、このレーザー光の照射によって除去されていない非回路となる部分をマスク材4で被覆する。レーザー光3の照射によって除去されておらず、かつマスク材4で被覆されていない回路となる部分11、11に無電解銅めっき5を積層した後、マスク材4を溶解除去し、さらにこのマスク材で覆われていた部分に残存する触媒2を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元成形回路部品の製造方法に関し、特に絶縁性基体の表面に無電解めっきを選択的に形成する三次元成形回路部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から絶縁性の基体の表面に、回路となる部分を除いてマスク材で被覆し、このマスク材で被覆されていない部分に、選択的に無電解めっきを施して導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法が提案されている(例えば特許文献1等参照。)。また絶縁性の基体の表面に無電解めっき用の触媒を付与し、この触媒に選択的にレーザー光を照射して非回路となる部分の触媒を除去し、触媒が除去されていない回路となる部分に無電解めっきを施して、導電性回路を形成する成形回路部品の製造方法が提案されている(例えば特許文献2等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−145583号公報
【特許文献2】特開昭61−6892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、特に三次元の成形回路部品については、非回路となる部分について上述したマスク材の被覆が困難な部分と、レーザー光の照射による触媒の除去が困難な部分との、双方が存在する場合がある。例えば図3に示すヘリカルアンテナ等では、絶縁性基体201の表面において回路となる部分211は、長さがスパイラル状に長いため、この回路となる部分に隣接する、幅が狭く、かつ長さがスパイラル状に長い非回路となる部分212について、マスク材を射出成形して被覆する場合には、このマスク材となる樹脂の流動抵抗が大きくなるために、射出圧力を高くする必要がある。ところが射出圧力を高くすると、基体の変形等の問題が生じるため、マスク材を射出成形して被覆することが困難となる。
【0005】
そこでヘリカルアンテナ等の絶縁性基体201の全表面を粗化して、この粗化面に無電解めっき用の触媒を付与し、非回路となる部分212にレーザー光203を照射することによって、この非回路となる部分の触媒の作用を消失させて、この触媒の作用が消失されなかった回路となる部分211に、無電解めっきを行なうことが考えられる。ところがレーザー光203を使用すれば、幅が狭く、かつ長さがスパイラル状に長い非回路となる部分212の触媒の作用を消失させることができるものの、例えば絶縁性基体201に形成した開口孔212dの内部は、レーザー光の照射が困難であるため、この開口孔の内部表面に付与された触媒の作用を消失することができない。
【0006】
さらにレーザー光の照射領域は円状であって、その照射エネルギーは、この円状の中心に向かって密度が高くなる円錐状のエネルギー分布になっている。したがって、被加工物表面に対しては、垂直に照射することが望ましく、被加工物表面に対して斜めに照射すると、照射領域が楕円形等になって広がり、照射領域におけるエネルギー密度が分散されて低下してしまう。このためレーザー光の照射による加工が困難となる。しかるに三次元形状の被加工物においては、被加工面が垂直面、傾斜面、あるいは円筒内部など多様に亘る場合がある。このうち有効なレーザー光の照射領域は、せいぜい照射方向から30度以上傾いた傾斜面であって、垂直な側面、裏面、あるいは円筒内部等は、レーザー光の照射によって加工することが困難となる。
【0007】
例えば図4に示すように、中央に略V字状の溝312eを有する絶縁性基体301において、この略V字状の溝を挟む両側の上面に、幅が狭く、かつ長い回路となる部分311に導電性回路を形成する場合には、この回路となる部分に挟まれた、幅が狭く、かつ長い非回路となる部分312にマスク材を射出成形することは困難となる。したがって絶縁性基体301の全表面を粗化して、この粗化面に無電解めっき用の触媒を付与し、非回路となる部分312にレーザー光303を照射することによって、この非回路となる部分の触媒の作用を消失させて、この触媒の作用を消失させなかった回路となる部分311に、無電解めっきを行なうことが考えられる。
【0008】
しかるに上述したように、略V字状の溝312eの両斜面の角度:θが、60度以上であると、この両斜面へのレーザー光303の照射エネルギー密度が低下して、レーザー光の照射による触媒の作用を消失させることが困難となる。また絶縁性基体301の右側面に開口する横溝322f内においては、レーザー光303の照射によって、触媒の作用を消失させることが困難となる。
【0009】
そこで本発明の目的は、非回路となる部分について、レーザー光を照射して除去できない部分とマスク材で被覆できない部分との双方が存在する場合にも、無電解めっきを選択的に形成することができる、三次元成形回路部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による三次元成形回路部品の製造方法の特徴1は、触媒を付与した非回路となる部分について、レーザー光の照射が容易な部分は、このレーザー光の照射によって触媒の作用を消失または低下させると共に、このレーザー光を照射していな部分をマスク材で覆うことによって、この触媒の作用が消失または低下しておらず、かつマスク材で覆われていない回路となる部分に、無電解めっきを選択的に行なうことにある。
【0011】
すなわちこの三次元成形回路部品の製造方法は、絶縁性基体を成形する第1工程と、上記絶縁性基体の表面について、無電解めっきとの接着性を向上させるための粗化または表面改質のいずれかを行なう第2工程と、上記粗化または表面改質のいずれかを行なった絶縁性基体の表面に、無電解めっき用の触媒を付与する第3工程と、上記触媒を付与した絶縁性基体を乾燥させて、この触媒を絶縁性基体の表面に定着させる第4工程と、上記絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、レーザー光の照射が容易な部分について、このレーザー光の照射によって、この触媒の作用を消失または低下させる第5工程と、上記絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、上記レーザー光が照射されていない部分にマスク材を射出成形して覆う第6工程と、上記絶縁性基体の表面であって、上記レーザー光が照射されておらず、かつ上記マスク材で覆われていない回路となる部分に無電解めっきを行なう第7工程と、上記マスク材を除去する第8工程と、上記マスク材で覆われていた部分に残存する上記触媒を除去する第9工程とを備えている。
【0012】
本発明による三次元成形回路部品の製造方法の特徴2は、絶縁性基体の表面であって触媒を付与した非回路となる部分について、マスク材による被覆が容易な部分は、このマスク材によって覆うと共に、このマスク材で覆われていない部分は、レーザー光の照射によって触媒の作用を消失または低下させることによって、この触媒の作用が消失または低下しておらず、かつマスク材で覆われていない回路となる部分に、無電解めっきを選択的に行なうことにある。
【0013】
すなわちこの三次元成形回路部品の製造方法は、絶縁性基体を成形する第1工程と、上記絶縁性基体の表面について、無電解めっきとの接着性を向上させるための粗化または表面改質のいずれかを行なう第2工程と、上記粗化または表面改質のいずれかをおこなった絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、マスク材による被覆が容易な部分について、このマスク材を射出成形して覆う第3工程と、上記マスク材を射出成形した絶縁性基体の表面に、無電解めっき用の触媒を付与する第4工程と、上記マスク材を除去する第5工程と、上記マスク材を除去した絶縁性基体を乾燥させて、上記触媒を絶縁性基体の表面に定着させる第6工程と、上記触媒を定着させた絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、上記マスク材で覆われていなかった部分に残存する上記触媒にレーザー光を照射して、この触媒の作用を消失または低下させる第7工程と、上記絶縁性基体の表面であって上記マスク材で被覆されず、かつ上記レーザー光が照射されなかった回路となる部分に無電解めっきを行なう第8工程とを備えている。
【0014】
上記特徴1において、上記レーザー光を照射した部分と上記マスク材で被覆する部分とが相互に隣接する部分は、このレーザー光を照射した部分の上に、この隣接する部分から所定の幅分だけ、このマスク材がオーバーラップするように被覆することが望ましい。
【0015】
さらに上記特徴1におけるマスク材は、加水分解性のポリグリコール酸若しくはポリ乳酸のいずれかであって、上記第7工程における無電解めっきは、中性浴組成または酸性浴組成のいずれかで行うことが望ましい。また上記特徴2におけるマスク材は、水溶性のポリビニールアルコールであることが望ましい。
【0016】
ここで、「絶縁性基体」とは、例えば合成樹脂、セラミックス、あるいはガラスが該当する。合成樹脂としては、熱可塑性樹脂が好ましいが、熱硬化性樹脂でもよく、かかる樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエステル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、ポリアミド、変性ポリフェニレンオキサイド樹脂、ノルボルネン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂が該当する。また「絶縁性基体」は、その形状を問わない。三次元的なものに限らず、二次元的なものも含む。例えば平板状のもの、多角形のブロック状のもの、表面が曲面状のもの、あるいは表面に開口孔や開口溝を有するものが該当し、複数の部品からなる場合も含む。
【0017】
「絶縁性基体を成形する」とは、射出成形に限らず、例えばブロック材からの削り出しも含む。「無電解めっきとの接着性を向上させるための粗化」とは、公知の技術であって、例えば合成樹脂等の絶縁性基体の表面を、エッチング液、サンドブラスト、レーザー照射、及びマイクロ波プラズマ等によって粗化することが該当する。また「無電解めっきとの接着性を向上させるための表面改質」とは、電子線、放射線、プラズマ若しくは紫外線等の照射によって表面の濡れ性を向上等させる手段、コロナ放電によって表面の濡れ性を向上等させる手段が該当する。さらに本発明おける「無電解めっきとの接着性を向上させるための表面改質」には、機能性分子接着剤若しくは導電性高分子等を絶縁性基体の表面に付与する手段も含まれている。
【0018】
「無電解めっき」とは、公知の技術であって、例えば無電解銅めっき、及び無電解ニッケルめっきが該当する。「レーザー光」としては、例えばYAGレーザー、第2高調波レーザー、COレーザー、及びArレーザー等が該当する。「レーザー光の照射による除去が容易な部分」とは、レーザー光の照射方向から30度未満の範囲で傾いた傾斜面、並びにレーザー光で照射が困難な開口孔の内部、開口溝の内部、及び裏面等を除く部分を意味する。「マスク材」とは、その表面に無電解めっきが形成されない絶縁材を意味し、絶縁性基体との相溶性が良い樹脂であれば、その種類を問わない。ここで「マスク材」として、加水分解性の高分子材料であるポリグリコール酸またはポリ乳酸のいずれかを使用すれば、後工程において、このマスク材をアルカリ性溶液で加水分解することによって、容易に除去することができる。また「マスク材」として、水溶性のポリビニールアルコールを使用すれば、後工程において、このマスク材を温湯において容易に除去することができる。
【0019】
「この隣接する部分から所定の幅分だけ、このマスク材がオーバーラップするように被覆する」とは、レーザー光の照射によって触媒の作用を消失または低下させた部分において、この部分の外縁から、この部分の内側に向かって、マスク材が所定の幅分だけ侵入するように被覆することを意味する。
【発明の効果】
【0020】
絶縁性基体の表面であって非回路となる部分について、レーザー光を照射できない部分とマスク材で被覆できない部分との双方が存在する場合にも、レーザー光の照射と、マスク材による被覆との双方を、本発明に特有な工程順序で行なうことによって、この絶縁性基体の表面に無電解めっきを選択的に形成することができる。レーザー光の照射によって触媒の作用を消失または低下させた部分と、マスク材で被覆した部分とが相互に隣接する部分においては、このレーザー光の照射した部分の上に、この隣接する部分から所定の幅分だけオーバーラップするように、このマスク材で被覆することによって、レーザー光の照射によって除去した部分とマスク材で被覆した部分との間に隙間が生じることを、容易かつ確実に防止することが可能となり、非回路となる部分に意図しない無電解めっきが積層されることを防止できる。またマスク材に加水分解性の高分子材料であるポリグリコール酸またはポリ乳酸のいずれかを使用すれば、後工程において、アルカリ水溶液の加水分解によって、容易に除去することができる。さらにマスク材にポリビニールアルコールを使用すれば、後工程において、温湯によって容易に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】三次元成形回路部品の製造方法を示す工程図である。
【図2】三次元成形回路部品の製造方法を示す他の工程図である。
【図3】非回路となる部分にマスク材の被覆が困難なヘリカルアンテナの斜視図である。
【図4】レーザー光の照射によって非回路となる部分における触媒の除去が困難な形状を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示す工程図を参照しつつ、本発明による成形回路部品の製造方法を説明する。なお本発明による成形回路部品の製造方法は、第1工程〜第9工程を備えている「図1(A)〜図1(I)」。さて第1工程「図1(A)」においては、熱可塑性樹脂を射出成形して、ブロック形状の絶縁性基体1を形成する。ここで熱可塑性樹脂としては、例えば芳香族系液晶ポリマー(ポリプラスチック株式会社製の「べクトラ#C820」)を使用する。次の第2工程「図1(B)」において、後工程における無電解めっきとの密着性を向上させるために、絶縁性基体1の全表面をエッチングにより粗化する。
【0023】
このエッチングは、カ性ソーダまたはカ性カリを所定濃度、例えば45重量%に溶解したアルカリ性水溶液を、所定温度、例えば50〜90℃に加熱し、絶縁性基体1を所定時間、例えば30分浸漬して行う。次に第3工程「図1(C)」として、絶縁性基体1の粗化した表面に触媒2を付与して、無電解めっきを析出させるための核を形成する。この触媒の付与手順としては、例えば、錫、パラジウム系の混合触媒液に、絶縁性基体1を浸漬した後、塩酸、硫酸などの酸で活性化し、表面にパラジウムを析出させる。または、塩化第1錫等の比較的強い還元剤を表面に吸着させ、金などの貴金属イオンを含む触媒溶液に浸漬し、表面に金を析出させる。液の温度は15〜23℃で5分間浸漬すれば良い。
【0024】
次の第4工程「図1(D)」において、触媒2を付与した絶縁性基体1を乾燥させて、この触媒を絶縁性基体の表面に定着させる。この乾燥工程は、例えば熱風乾燥機によって、120℃の熱風を60分間吹き付けて行なう。
【0025】
次に第5工程「図1(E)」において、絶縁性基体1の表面のうち非回路となる部分であって、レーザー光3の照射による除去が容易な部分について、このレーザー光の照射によって触媒2を除去し、この触媒の作用を消失させる。ここでレーザー光3の照射によって触媒2の除去が容易な部分としては、絶縁性基体1の上面が該当する。一方レーザー光3の照射によって触媒2の除去が困難な部分としては、絶縁性基体1の側面と裏面とが該当する。したがってレーザー光3の照射によって触媒2を除去する部分は、絶縁性基体1の上面であって、幅が狭く、かつ長い回路となる部分11、11に隣接する、非回路となる部分12a,12b,12cとなる。なお回路となる部分11,11に挟まれた、幅が狭く、かつ長い非回路となる部分12bは、上述したようにマスク材となる樹脂の流動抵抗が大きくなるために、マスク材の射出成形によって被覆することが困難な部分である。なおレーザー光3としては、例えば出力6Wの第2高調波であって、スキャンスピード1000mm/秒、Qスイッチ周波数30kHzにて3回走査する。
【0026】
次に第6工程「図1(F)」として、絶縁性基体1の表面のうち非回路となる部分であって、レーザー光3が照射されていない部分にマスク材4を射出成形して覆う。具体的には、絶縁性基体1の裏面と両側面、及び上面の両端部分を、マスク材4で覆う。なお絶縁性基体1の上面の両端部分において、レーザー光3を照射した非回路となる部分12a,12cと、マスク材4で被覆する部分とが相互に隣接する部分は、このレーザー光を照射した非回路となる部分の上に、この隣接する部分から所定の幅分だけ、このマスク材がオーバーラップ4aするように被覆する。またマスク材4としては、耐酸性でかつ加水分解性のポリグリコール酸(例えば、株式会社クレハ製の「#KSK08」)を使用する。
【0027】
次の第7工程「図1(G)」において、絶縁性基体1の表面であって、レーザー光3が照射されておらず、かつマスク材4で覆われていない回路となる部分11、11に無電解銅めっき5を行なう。これらの回路となる部分11、11では、触媒2が除去されていないため、この触媒を核として、無電解銅めっき5のめっき金属が析出する。なお無電解銅めっき5のめっき液は、酸性浴組成として、耐酸性を有するマスク材4の溶解を回避する。例えば酸性の硫酸銅浴を用い、その浴組成を、CuSO・5HO(75g)/lHSO(190g)/lCl(60ppm)/添加剤(適量)とする。また陽極材料を含リン銅として、浴温度は25℃に設定し、陰極電流密度を2.5A/dm2とする。なお電解銅めっき5の替わりに、浴組成が中性または酸性の無電解ニッケルめっきを積層してもよい。
【0028】
次に第8工程「図1(H)」として、絶縁性基体1を覆うマスク材4を除去する。マスク材4は、加水分解性であるため、このマスク材で覆われた絶縁性基体1を、例えば濃度2〜15重量%、温度25〜70℃の苛性アルカリ(NaOH、KOHなど)水溶液中に、1〜120分程度浸漬して、このマスク材を除去する。
【0029】
最後の第9工程「図1(I)」において、マスク材4で覆われていた部分に残存する触媒2を公知の手段を用いて除去する。例えばマスク材4を除去した絶縁性基体1を、過マンガン酸カリウムを含む温度80℃の水溶液に浸漬し、次いで芳香族ニトロ化合物、アミン化合物、アミノカルボン酸、カルボン酸、及び水酸化ナトリウムを含む温度90℃の水溶液に浸漬して、残存する触媒2を除去する。
【0030】
次に図2に示す工程図を参照しつつ、本発明による成形回路部品の他の製造方法を説明する。なお図1に示した部品または部分と同等のものは、参照の便宜等を図るため、図1に示した部品番号に、一律に100を加えた番号にしてある(同様に図3及び図4では、図1に示した部品番号に、それぞれ一律に200、及び300を加えた番号にしてある。)。さてこの製造方法は、第1工程〜第8工程を備えている「図1(A)〜図1(H)」。さて第1工程「図2(A)」の絶縁性基体101の製作、及び第2工程「図2(B)」における、この絶縁性基体の表面の粗化は、図1において説明したものと同等である。
【0031】
次の第3工程「図2(C)」において、絶縁性基体101の表面のうち非回路となる部分であって、マスク材104による被覆が容易な部分を、このマスク材を射出成形して覆う。ここでマスク材104による被覆が容易な部分としては、絶縁性基体101の裏面、両側面、及び上面の両端部分である。なお後述する第7工程の「図2(G)」に示す、回路となる部分111、111に挟まれた、狭く、細長い非回路となる部分112bは、上述したようにマスク材104の射出成形が困難な部分である。また絶縁性基体101の裏面及び両側面は、後述する第7工程「図2(G)」において、レーザー光103の照射が困難な部分である。ここでマスク材104は、水溶性のポリビニールアルコール(日本合成化学工業株式会社の「#AX2000」)を使用する。なお図2に示す製造方法では、無電解銅めっき「図2(H)」は、マスク材104の除去「図2(E)」より後で行うため、このマスク材に水溶性のポリビニールアルコールを使用しても、この無電解銅めっきのめっき液によって、このマスク材が溶解することを考慮する必要がない。
【0032】
次に第4工程「図2(D)」として、マスク材104で覆った絶縁性基体101の表面に、触媒102を付与する。なお、触媒102は、図1(C)において説明したものと同じ工程で行なう。その後第5工程「図2(E)」として、マスク材104を除去する。なおマスク材104は、水溶性であるため、マスク材104で覆った絶縁性基体101を、温度70℃の温水に浸漬して溶解除去する。次の第6工程「図2(F)」において、触媒102を付与した絶縁性基体101を乾燥させて、この触媒を絶縁性基体の表面に定着させる。この乾燥は、上述した図1(D)で示したものと同等の工程で行う。
【0033】
次に第7工程「図2(G)」として、触媒102を定着させた絶縁性基体101の表面のうち非回路となる部分であって、マスク材104で覆われていない部分112a,112b,112cに残存する触媒に、レーザー光103を照射して、この触媒の作用を消失させる。なおレーザー光103の照射は、上述した「図1(E)」で示したものと同等の工程で行う。
【0034】
最後の第8工程「図2(H)」として、絶縁性基体101の表面であって、レーザー光103が照射されておらず、かつマスク材104で覆われていない回路となる部分111、111に無電解銅めっき105を行なう。これらの回路となる部分111、111では、触媒102が除去されていないため、この触媒を核として、無電解銅めっき105のめっき金属が析出する。無電解銅めっき105は、上述した「図1(G)」で示したものと同等の工程で行う。なおマスク材104は既に除去されているため、無電解銅めっき105のめっき液は、酸性浴組成に限ることなく、アルカリ性の浴組成も使用することができる。さらに電解銅めっき105の上に、無電解ニッケルめっきや、電解銅めっき等を積層してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
絶縁性基体の表面に、レーザー光を照射して除去できない部分とマスク材で被覆できない部分との双方が存在する場合にも、電解めっきを選択的に形成することができるため、電子機器等に関する産業に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
1、101〜301 絶縁性基体
11、111〜311 回路となる部分
12a、12b、12c レーザー光の照射が容易な非回路となる部分
112a、112b、112c レーザー光の照射が容易な非回路となる部分
2、102 触媒
3、103〜303 レーザー光
4、104 マスク材
5、105 無電解銅めっき(無電解めっき)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基体を成形する第1工程と、
上記絶縁性基体の表面について、無電解めっきとの接着性を向上させるための粗化または表面改質のいずれかを行なう第2工程と、
上記粗化または表面改質のいずれかを行なった絶縁性基体の表面に、無電解めっき用の触媒を付与する第3工程と、
上記触媒を付与した絶縁性基体を乾燥させて、この触媒を絶縁性基体の表面に定着させる第4工程と、
上記絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、レーザー光の照射が容易な部分について、このレーザー光の照射によって、上記触媒の作用を消失または低下させる第5工程と、
上記絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、上記レーザー光が照射されていない部分をマスク材を射出成形して覆う第6工程と、
上記絶縁性基体の表面であって、上記レーザー光が照射されておらず、かつ上記マスク材で覆われていない回路となる部分に無電解めっきを行なう第7工程と、
上記マスク材を除去する第8工程と、
上記マスク材で覆われていた部分に残存する上記触媒を除去する第9工程とを備える
ことを特徴とする三次元成形回路部品の製造方法。
【請求項2】
絶縁性基体を成形する第1工程と、
上記絶縁性基体の表面について、無電解めっきとの接着性を向上させるための粗化または表面改質のいずれかを行なう第2工程と、
上記粗化または表面改質のいずれかを行なった絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、マスク材による被覆が容易な部分について、このマスク材を射出成形して覆う第3工程と、
上記マスク材を射出成形した絶縁性基体の表面に、無電解めっき用の触媒を付与する第4工程と、
上記マスク材を除去する第5工程と、
上記マスク材を除去した絶縁性基体を乾燥させて、上記触媒を絶縁性基体の表面に定着させる第6工程と、
上記触媒を定着させた絶縁性基体の表面のうち非回路となる部分であって、上記マスク材で覆われなかった部分に残存するこの触媒にレーザー光を照射して、この触媒の作用を消失または低下させる第7工程と、
上記絶縁性基体の表面であって上記マスク材で被覆されず、かつ上記レーザー光が照射されなかった回路となる部分に無電解めっきを行なう第8工程とを備える
ことを特徴とする三次元成形回路部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、上記レーザー光を照射した部分と上記マスク材で被覆する部分とが相互に隣接する部分は、このレーザー光を照射した部分の上に、この隣接する部分から所定の幅分だけ、このマスク材がオーバーラップするように被覆する
ことを特徴とする三次元成形回路部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または3のいずれかにおいて、上記マスク材は、加水分解性のポリグリコール酸またはポリ乳酸のいずれかであって、
上記第7工程における無電解めっきは、中性浴組成または酸性浴組成のいずれかで行う
ことを特徴とする三次元成形回路部品の製造方法。
【請求項5】
請求項2において、上記マスク材は、水溶性のポリビニールアルコールである
ことを特徴とする三次元成形回路部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−42818(P2011−42818A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190342(P2009−190342)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000175504)三共化成株式会社 (28)
【Fターム(参考)】