説明

三環性トリアゾロベンゾアゼピン誘導体の新規結晶性物質

本発明は、溶解性および吸収性に優れた三環性トリアゾロベンゾアゼピン誘導体の新規な結晶性物質を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品として有用な2−(1−イソプロポキシカルボニルオキシ−2−メチルプロピル)−7,8−ジメトキシ−4(5),10−ジオキソ−2−1,2,3−トリアゾロ[4,5−c][1]ベンゾアゼピンの新規な結晶性物質に関する。
【背景技術】
【0002】
2−(1−イソプロポキシカルボニルオキシ−2−メチルプロピル)−7,8−ジメトキシ−4(5),10−ジオキソ−2−1,2,3−トリアゾロ[4,5−c][1]ベンゾアゼピン(以下、本明細書において「化合物A」という)は、下記の化学構造を示す化合物であり、WO99/16770号公報(日本特許第3188482号公報、米国特許第6372735号公報)に記載されているように抗アレルギー剤としての利用が期待されている(これら公報の記載は引用することにより本明細書の開示の一部とされる)。

【0003】
前記公報記載の方法に準じて得られる化合物Aの粗製物を塩化メチレンに溶解させ、メタノールを用いて再結晶させる場合、安定な化合物Aの結晶性物質を得ることができる(以下、「α型結晶性物質」という)。しかしながら、このα型結晶性物質は水などの溶媒に対して難溶性であり、そのままの形態では生体内に吸収されにくいことが、本発明者らの実験から明らかとなった。好適な化合物Aの薬理活性を発現させる製剤を設計・製造するためには、溶解性および吸収性に優れた化合物Aの新規な形態を創出することが望まれる。
【0004】
本発明者らは、今般、溶解性および吸収性に優れた化合物Aの新規な結晶性物質を得ることに成功した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
従って、本発明は、溶解性および吸収性に優れた化合物Aの新規結晶性物質の提供をその目的としている。
発明の概要
【0005】
そして、本発明による化合物Aの結晶性物質は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ):4.7±0.1°、7.4±0.1°、11.8±0.1°、13.4±0.1°、16.5±0.1°、18.6±0.1°に回折ピークを示すものである。
【0006】
本発明による化合物Aの結晶性物質は、水およびメタノール、エタノール等の水性有機溶媒に対して優れた溶解性を示すことができる。さらに、本発明による化合物Aの結晶性物質は、生体への吸収性に優れており、化合物Aについて顕著に優れた生物学的利用能を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
[図1]は、実施例1により得られた化合物Aの結晶性物質の粉末X線回折パターンである。
[図2]は、参考例1により得られた化合物Aの結晶性物質の粉末X線回折パターンである。
[図3]は、実施例1により得られた化合物Aの結晶性物質のDSCカーブである。
[図4]は、参考例1により得られた化合物Aの結晶性物質のDSCカーブである。
[図5]は、実施例1および参考例1により得られた化合物Aの結晶性物質の濃水への溶解性を示す図である。
[図6]は、実施例1または参考例1により得られた化合物Aの結晶性物質を、それぞれ1重量%メチルセルロース水溶液に懸濁させ、カニクイザルに経口投与した場合における、化合物Bの血漿中濃度推移を示す図である。
発明の具体的説明
【0008】
本発明による化合物Aの結晶性物質は、粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ):4.7±0.1°、7.4±0.1°、11.8±0.1°、13.4±0.1°、16.5±0.1°、18.6±0.1°に回折ピークを示す。また、示差走査熱量測定(DSC)によるDSCチャートにおいて、170〜190℃付近に幅の広い吸熱ピークを示し、さらに225℃付近に鋭い吸熱ピークを示すものである。このように同定された特定の物理化学的性質を示すような化合物A生成物は、本発明者らの知る限りでは、これまで知られておらず、化合物Aの新規な結晶性物質といえる。
【0009】
また、本発明による化合物Aの結晶性物質はアレルギー疾患の予防または治療に用いることが出来る。アレルギー疾患としては、例えば気管支喘息、湿疹、蕁麻疹、アレルギー性胃腸障害、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などが挙げられる。従って、本発明の別の態様によれば、本発明による化合物Aの結晶性物質を含んでなる組成物、とりわけ医薬組成物が提供される。
【0010】
本発明による化合物Aの結晶性物質は、そのまま経口投与することもできるが、一般的には公知の医薬上許容される担体とともに組成物として調製することができる。
本発明による化合物Aの結晶性物質を経口投与する場合には、公知の薬学的に許容される賦形剤(例えば、乳糖、結晶セルロース、デンプン、リン酸カルシウム等)、結合剤(例えば、デンプン、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等)、崩壊剤(カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク等)などを用いることにより、医療に通常供される錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ剤等の形態に処方することができる。また、本発明による結晶性物質は、水等への溶解性に優れていることから、シロップを含む各種液剤の製造および用時調製において有利に使用することができる。さらに、これらの各種製剤は、長時間にわたって作用が持続する徐放性製剤とすることもできる。
【0011】
また、本発明による化合物Aの結晶性物質は、経口投与以外の投与経路を介した各種の治療に適用することができる。そのための剤形としては、舌下錠、坐剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤、さらに経皮吸収製剤としての貼付剤または軟膏・クリーム剤などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明による化合物Aの結晶性物質は以下の製造方法により、好ましく製造することができる。
化合物Aを、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、および酢酸から選択される少なくとも一つの有機溶媒に、20〜80℃の温度下溶解する。ここで、有機溶媒は、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミドまたはジメチルスルホキシドとされる。この溶液を、所望により濾過した後、攪拌下、20〜40℃の水に約1〜3時間かけて滴下し、析出する沈殿物を濾取する。この沈殿物を、20〜40℃の水にて洗浄した後、20〜60℃にて減圧して乾燥させることにより、本発明による化合物Aの結晶性物質を得ることができる。
【0013】
また、以上から明らかなように、本発明による別の態様によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による化合物Aの結晶性物質の使用が提供される。また、本発明による別の態様によれば、抗アレルギー薬の製造のための、本発明による化合物Aの結晶性物質の使用が提供される。また、本発明の別の態様によれば、本発明による化合物Aの結晶性物質をヒトを含む動物に投与することを含んでなる、アレルギー疾患の予防または治療方法が提供される。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において、本発明による化合物Aの結晶性物質を「β型結晶性物質」という。
【0015】
実施例1:化合物Aのβ型結晶性物質の製造法1
WO99/16770号公報の実施例20に記載の方法に準じて得られた淡黄色粉末25.0gをN,N−ジメチルホルムアミド0.53Lに加え、約50℃に加熱しながら溶解させた後、この溶液を濾過した。得られた濾液を、攪拌下水2.5Lに約1時間かけて滴下して、析出した沈殿物を濾取した。この沈殿物を、1.25Lの水にて2度洗浄した後、室温減圧下にて16時間、40℃減圧下にて1日乾燥させ、β型結晶性物質を得た(24.2g、収率96.8%)。
【0016】
実施例2:化合物Aのβ型結晶性物質の製造法2
WO99/16770号公報の実施例20に記載の方法に準じて得られた淡黄色粉末25.6gを、ジメチルスルホキシド1Lに加え、約60℃に加熱しながら溶解させた後、この溶液を濾過した。得られた濾液を、パドル回転数200rpmで攪拌している水15Lに、約1.5時間かけて滴下し、析出した沈殿物を濾取した。この沈殿物を、2Lの水にて2度洗浄した後、室温減圧下で1日、40℃減圧下で1日乾燥させ、β型結晶性物質を得た(23.5g、収率91.8%)。
【0017】
実施例3:化合物Aのβ型結晶性物質の製造法3
WO99/16770号公報実施例20に記載の方法に準じて得られた淡黄色粉末9.98gを、N,N−ジメチルホルムアミド0.4Lに加え、約60℃に加熱しながら溶解させた後、この溶液を濾過をした。得られた濾液を、パドル回転数200rpmで攪拌している水6Lに約40分間かけて滴下し、析出した沈殿物を濾取した。この沈殿物を、1.2Lの水にて2度洗浄した後、室温減圧下にて1日乾燥させ、β型結晶性物質を得た(9.62g、収率96.4%)。
【0018】
参考例1:化合物Aのα型結晶性物質の製造法
WO99/16770号公報の実施例20に記載の方法に準じて得られた淡黄色粉末10.01gに塩化メチレン0.2Lを加え、攪拌して懸濁液を得た。次に、ロータリーエバポレータを用いて、この懸濁液中の溶媒を留去した。得られた残留物に2−プロパノール0.2Lを加えて3時間攪拌し、懸濁液を得た。この懸濁液を濾過し、得られた濾取物に、再度2−プロパノール0.2Lを加え3時間攪拌し、懸濁液を得た。さらに、この懸濁液を濾過し、得られた濾取物に10%2−プロパノール水溶液を0.2L加えて、1日攪拌して懸濁液を得た。この懸濁液を濾過後、得られた濾取物を約18時間室温にて減圧乾燥させ、化合物Aのα型結晶性物質を得た(9.79g、収率97.8%)。
【0019】
試験例1:粉末X線回折
実施例1により得られたβ型結晶性物質及び参考例1により得られたα型結晶性物質を粉末X線回折装置により評価した。その測定条件は以下の通りであった。
装置:RINT2100(理学電機製)
測定条件:X線;CuKα、管電圧;40kV、管電流;20mA、単色化;グラファイトモノクロメータ、スキャンスピード;4°/min、スキャンステップ;0.02°、走査軸;2θ/θ、走査範囲;2θ=3〜40°
【0020】
実施例1により得られたβ型結晶性物質の粉末X線回折パターンは図1に示される通りであり、参考例1により得られたα型結晶性物質の粉末X線回折パターンは図2に示される通りであった。β型結晶性物質は、回折角(2θ):4.7±0.1°、7.4±0.1°、11.8±0.1°、13.4±0.1°、16.5±0.1°、18.6±0.1°に特徴的な回折ピークを示していた。一方、α型結晶性物質は、11.2±0.1°、14.4±0.1°、15.5±0.1°、25.3±0.1°に特徴的な回折ピークを示していた。β型結晶性物質とα型結晶性物質の粉末X線回折パターンは明確に異なっていた。
【0021】
試験例2:DSC
実施例1により得られたβ型結晶性物質および参考例1により得られたα型結晶性物質を示差走査熱量計により評価した。その測定条件は下記の通りであった。
装置:DSC220U(セイコーインスツルメンツ製)
測定条件:パン;アルミニウム製開放パン、雰囲気;窒素、ガス流量;50mL/min、昇温速度;5℃/min、測定温度範囲;50〜280℃
【0022】
実施例1により得られたβ型結晶性物質は、図3に示されるDSCカーブにおいて、170℃から190℃付近に幅の広い吸熱ピークと225℃付近に鋭い吸熱ピークを示した。一方、参考例1により得られたα型結晶性物質は、図4に示されるDSCカーブにおいて、243℃付近に吸熱ピークを示し、170℃から190℃付近及び225℃付近には吸熱ピークを示さなかった。
【0023】
試験例3:溶解性試験
実施例1により得られたβ型結晶性物質または参考例1により得られたα形結晶性物質を試験サンプルとして用い、水(37℃)に対する溶解性評価を行った。試験サンプル(約10mg)を水(37℃)100mL中に加え、1000rpmにて攪拌した。そして、経時的に採取した試料をメンブランフィルター(Millex LG−13、ミリポア製)を用いて濾渦し、濾液中の化合物Aの濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分析した。その測定条件は以下の通りとした。
【0024】
HPLC:LC−10vpシリーズ(島津製作所製)
システムコントローラー:CBM−10A
ポンプ:LC−10Advp
デガッサー:DGS−14A
オートサンプラー:SIL−10Advp
カラムオーブン:CTO−ACvp
検出器:SPD−10Avp
測定波長:246nm
カラム:Mightysil RP−18 GP 4.6×250mm(関東化学製)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:メタノール/水混液(55:45)
流量:1mL/分
注入量:10μL
内標準溶液:パラオキシ安息香酸プロピルのアセトニトリル溶液(濃度:200μg/mL)
【0025】
実施例1により得られたβ型結晶性物質および参考例1により得られたα型結晶性物質のそれぞれの試験液中における化合物Aの濃度推移は図5に示される通りであった。各サンプリング時間における化合物Aの濃度を比較すると、β型結晶性物質の示す化合物Aの濃度は、α型結晶性物質の示す化合物Aの濃度の約2〜4倍となっており、β型結晶性物質はα型結晶性物質よりも水に対する溶解性が高いことが示された。
【0026】
試験例4:吸収性試験
化合物Aは生体内に吸収されると、その生理活性を発現する本体である7,8−ジメトキシ−4(5H),10−ジオキソ−2H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−c][1]ベンゾアゼピン(以下、化合物Bと称する)に変換される。この化合物Bを指標として、以下の試験を行った。
参考例1により得られたα型結晶性物質または実施例1により得られたβ型結晶性物質を、1重量%メチルセルロース水溶液を用いて懸濁液とした。この懸濁液を、1晩絶食させたカニクイザル(5mg/kg、n=5)に経口投与し、化合物Bの血漿中濃度推移および最終観察時点までの血漿中薬物濃度−時間曲線下面積(AUC)を比較することで、試料間の吸収性の差を評価した。採取した血液中の化合物Bの血漿中薬物濃度は下記の方法により定量した。
【0027】
伏在静脈から採取した血液(1mL)をヘパリン存在下遠心分離(4℃、3000rpm、10分間)して血漿を得た。得られた血漿(100μL)に、内標準物質(7−メチル−4(5H),10−ジオキソ−2H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−c][1]ベンゾアゼピンナトリウム)を含有するメタノール溶液(100ng/mL、100μL)およびメタノール(400μL)を添加・撹拌し、遠心分離(4℃、10000rpm、5分間)した。得られた上清に、再度メタノール(300μL)を添加し、上記と同様に遠心分離した後、上清を遠心減圧して濃縮乾固させ、残渣にHPLC移動相(150μL)を加えて再溶解させ、これをHPLC試料とした。試験例2に用いたHPLCの測定条件は以下の通りである。
【0028】
HPLCポンプ:600E(日本ウォーターズ製)
オートサンプラー:717plus(日本ウォーターズ製)
検出器:RF−10AXL(島津製作所製)
蛍光検出波長:Ex270nm、Em466nm
カラム:Cosmosil5C18−AR−II(4.6×150mm、ナカライテスク製)
ガードカラム:Cosmosil5C18−AR(4.6×10mm、ナカライテスク製)
カラム温度:35℃
移動相:10mmol/L リン酸緩衝液(pH7.0):メタノール(75:25)
流速:0.8mL/min
注入量:20μL
【0029】
結果は図6に示される通りであった。化合物Bの血漿中濃度については、β型結晶性物質の投与群は、α型結晶性物質の投与群よりも高い値を示した。さらに、AUCについては、β型結晶性物質の投与群は、α型結晶性物質の投与群よりも約5〜6倍大きかった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ):4.7±0.1°、7.4±0.1°、11.8±0.1°、13.4±0.1°、16.5±0.1°、18.6±0.1°に回折ピークを示す、2−(1−イソプロポキシカルボニルオキシ−2−メチルプロピル)−7,8−ジメトキシ−4(5),10−ジオキソ−2−1,2,3−トリアゾロ[4,5−c][1]ベンゾアゼピンの結晶性物質。
【請求項2】
示差走査熱量測定(DSC)によるDSCチャートにおいて、170〜190℃付近および225℃付近に吸熱ピークを示す、請求項1に記載の結晶性物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載の結晶性物質を含んでなる、組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の結晶性物質を含んでなる、医薬組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の結晶性物質を含んでなる、抗アレルギー薬。
【請求項6】
医薬組成物の製造のための、請求項1または2に記載の結晶性物質の使用。
【請求項7】
抗アレルギー薬の製造のための、請求項1または2に記載の結晶性物質の使用。
【請求項8】
請求項1または2に記載の結晶性物質をヒトを含む動物に投与することを含んでなる、アレルギー疾患の予防または治療方法。

【国際公開番号】WO2004/113343
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507257(P2005−507257)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008729
【国際出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】