説明

下肢用サポーター型ギプス装具

【課題】装用者の体力や下肢筋肉の機能の低下などがあっても、個々の装用者の体格や障害の状態に応じて、筋肉の補強に最適な装用状態を実現でき、更に充分な治療効果を発揮できるような、改良された下肢用サポーター型ギプス装具を提供する。
【解決手段】下肢用サポーター型ギプス装具は、少なくとも膝関節部より上方の下肢外周に締付できる緊締ベルト3を外側に具えて、該膝関節部を囲むように下肢に巻き付けることができる前開き型の可撓性布帛1と、該可撓性布帛の外側面の左右両側にそれぞれ設けた縦長支柱2と、からなるサポーター型ギプス装具であって、該可撓性布帛の内側面の該膝関節部より上方の大腿筋下部に対応する位置に、筋部圧迫用成形部材を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下肢における骨折等の治療に用いられるサポーター型のギプスに関し、特にサポーターと同様に着脱が容易であって、装着時に外力が加わっても装着姿勢に変化を起こすことがない、安定したギプス機能を備えた装具に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢に生じた骨折等の障害を治療するに当たっては、先ず障害を受けた部位の姿勢を安定した正常な状態に保つように、石膏ギプスなどで固定保存して障害の修復を待つ治療を行うが、ギプスによる固定範囲は、障害部を含んで隣接する関節部や筋肉部まで及ぶことが多い。そのため、こうした治療により障害部分の修復再生がある程度進んだ後には、固定されていた関節部や筋肉部の運動機能の衰えを回復させるために、サポーター型のギプスを装用することで、下肢の固定による負荷を緩和するようにしている。
【0003】
しかし、この場合に用いられる従来のサポーター型ギプスは、下肢を固定するための鉄製の支柱が組み込まれているため、老若男女と様々で体格も様々な患者にとっては、それを装用して歩行することが誰にでも容易とは言えず、元々足に障害がある人や筋力が弱くなっている人には負担が大きすぎる、という難点があり、また歩行するときにサポーターがずり下がりが起こり易い、という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、装用者の体力や下肢筋肉の機能の低下などがあっても、個々の装用者の体格や障害の状態に応じて、筋肉の補強に最適な装用状態を実現でき、更に充分な治療効果を発揮できるような、改良された下肢用サポーター型ギプス装具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、少なくとも膝関節部より上方の下肢外周に締付できる緊締ベルトを外側に具えて、該膝関節部を囲むように下肢に巻き付けることができる前開き型の可撓性布帛と、該可撓性布帛の外側面の左右両側にそれぞれ設けた縦長支柱と、からなるサポーター型ギプス装具であって、該可撓性布帛の内側面の該膝関節部より上方の大腿筋下部に対応する位置に、筋部圧迫用成形部材を設けたことを特徴とするものである。
【0006】
そして本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、上記の構成を具備することにより、大腿筋の一部を予め圧迫することで緊張状態としておけるので、大腿二頭筋や大腿四頭筋等の作用距離が短くなって強い力を出せるようになる。そのため、筋力が弱くなった装用者でも、歩行に際して脚に力が入り易く、安定した移動行動が容易に実行できるようになり、治療効果を大幅に向上させることができる。
【0007】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、上記の可撓性布帛の膝関節部より上方における緊締ベルトの他に、膝関節部より下方の下肢外周に締付できる緊締ベルトを、同様にして外側に設けた構成とすることができる。そしてまた、前記筋部圧迫用成形部材を、前記可撓性布帛の膝関節部より上方ばかりでなく、膝関節部より下方の内周面に沿ってもベルト体を設けて、ここに形成されたポケット内に挟持するように構成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、縦長支柱を設けた可撓性布帛で、下肢の膝関節部を含む部位を囲むように被覆し、その外周の少なくとも膝関節部より上方の部位と、更に望ましくは膝関節部より下方の部位とを、緊締ベルトによって外側から締め付けることで、装用して歩行しても装具がずり下がることがなく、安定して確実なギプス治療効果を得ることができる。そのうえ、可撓性布帛の内周面の膝関節部より上方部位や膝関節部より下方部位に、大腿筋の下部や下腿筋等の上部を圧迫するための筋部圧迫用成形部材を設けて、それぞれ弱っている筋力を補うようにすれば、自力での歩行が容易となり、大腿四頭筋や大腿二頭筋ばかりでなく腓腹筋や前脛骨筋等の強化にも有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の下肢用サポーター型ギプス装具を、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の下肢用サポーター型ギプス装具の第1例の外観を示す斜視図であり、これに対して図6は、上記本発明のギプス装具の基本構造の一部を備えた、従来の下肢用サポーターSの外観を示す斜視図である。そして図7は、上記従来の下肢用サポーターSを下肢Lに装着した状態を示す側面図である。
【0010】
これらの図において、1は前開き形式の可撓性布帛であり、膝関節部を膝裏側から囲むように左右の端縁1a、1aを前側に回して、互いを突き合わせるように下肢に巻き付けるが、その際に、左右の端縁1a、1aの間に膝蓋骨部分Cが露出できるような切り欠き部1b、1bが、それぞれ形成されている。そして、このように下肢に巻き付けた可撓性布帛1の左右両側位置には、縦長の支柱用ポケット1c、1cが設けてあり、それぞれには平板状の縦長支柱2、2が挿着されていて、膝関節の屈伸を制限すると共に、装用者の体重を支えるように作用するものである。
【0011】
更に、可撓性布帛1の左右両側の支柱用ポケット1c、1cの一方の外面位置には、可撓性布帛1を下肢外周に締付固定するための緊締ベルト3の起端が結合され、他方の支柱用ポケット1cの外面位置には、前記の緊締ベルト3を挿通することができる遊動環4が外方に向かって突設されている。このような緊締ベルト3と遊動環4とのセットは、少なくとも膝関節部より上方の下肢外周に締付できる高さ位置に設けられる必要があるが、そのほかにも所望に応じた高さ位置に締付できるよう、複数個を設けることが望ましく、例えば膝関節部より直ぐ下方の位置や、可撓性布帛1の上端近く、或いは下端近くの位置等に適宜に設けることができる。
【0012】
上述の下肢用サポーターSにおける緊締ベルト3の起端は、可撓性布帛1の一方側外面の支柱用ポケット1c位置に結合されているが、その先端部の表面には図示しないベルクロ等の面状ファスナーが設けられていて、緊締ベルト3自身の表面と結合し固定できるように構成されている。そして下肢用サポーターSを下肢に装用するときには、可撓性布帛1の左右の端縁1a、1aを突き合わせた後 緊締ベルト3を可撓性布帛1の外面に沿って前方から反対側に回して、その先端を遊動環4に挿通して折り返し、緊締ベルト3の先端部を起端部に向かって引き締めた後に、面状ファスナーによって緊締ベルト3の上面に結合固定させ、また同様にして設けられている緊締ベルト3の全てを順次に締め付けて、装用を完了することができる。
【0013】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、上述のような公知の下肢用サポーターSを利用して、その可撓性布帛1の内側面に筋部圧迫用成形部材を設けるようにしたものであるが、その筋部圧迫用成形部材の形状や大きさ、設ける位置などは、それぞれ装用者に対する医師の診断に基づく処方に従って設計され、特定の装用者専用のギプス装具として制作されたうえ、装用者の障害を治療するのに用いられる。
【0014】
そこで、本発明の下肢用サポーター型ギプス装具の第1の実施例として、大腿四頭筋を強化するに適したギプス装具の構造を、図1乃至図4によって説明する。
【0015】
図1に示した本発明のギプス装具の特徴は、可撓性布帛1の内側面に筋部圧迫用ベルト5を取り付けてあることである。即ち、大腿の周囲に巻き付け得る長さの筋部圧迫用ベルト5の外面の所望位置を、可撓性布帛1の支柱用ポケット1c、1cの略中間で膝関節部より上方の内側面位置に結合して、左右の2個の翼片に分け、この筋部圧迫用ベルト5の一方翼片の端部に、例えばベルクロ等の面状ファスナーを設けて、他方翼片の外面に重ねて結合するなどの、適宜な結合手段5aを構成し、下肢の大腿部などの周囲の長さに一致するベルトの環を形成できるようにしてある。そして更に、環を形成する筋部圧迫用ベルト5の内面側には,筋部圧迫用成形部材6を挿着保持できる、例えばポケットなどの圧迫用成形部材保持手段5bが、所望の数だけ設けてある。
【0016】
ところで上記の筋部圧迫用成形部材6は、前述のように医師の処方に従って設計されるものであるが、本例は大腿四頭筋の補強を目的としたギプス装具であるため、大腿四頭筋の筋部下端位置に当たる大腿直筋の下部、外側広筋の下部、内側広筋の下部などを、それぞれ同時に又は別々に圧迫できる形状を備えるように、例えば金属板や半硬質合成樹脂などの適宜の成形材料を用い、プレス又はモールドなどの方法で、表面が滑らかな曲面となるように成形した枕状の成形体などであることが好ましい。そして、装用者に適合するように調製された筋部圧迫用成形部材6は、それぞれの圧迫用成形部材保持手段5bに挿着されて、図2に示すような本発明の下肢用サポーター型ギプス装具が得られる。
【0017】
上記のようにして作成された本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、装用者の体格や障害の状態に適合するように調製されたギプス装具であるが、これを下肢Lに装着するには、図3に示すように、ギプス装具の可撓性布帛1を膝関節部の裏側から囲むように当て、膝関節部より上方の筋部圧迫予定位置、即ち大腿四頭筋の下部位置を、筋部圧迫用ベルト5の左右の翼片で囲み、結合手段5aで締め付ける。その後可撓性布帛1で膝関節部を含む下肢部分を包んで左右の端縁1a、1aを突き合わせ、次いで、可撓性布帛1の外側に設けた緊締ベルト3と遊動環4とを用いて、ギプス装具全体を下肢Lの周囲に締め付け固定する。
【0018】
上記のようにして、本発明の下肢用サポーター型ギプス装具を装用者の下肢に装着した状態は、図4の側面図に示すように、筋部圧迫用成形部材6を裏側に保持した筋部圧迫用ベルト5が、大腿四頭筋下部の圧迫目的位置を正確に押圧できる位置に締め付けてあり、その外側に可撓性布帛1が巻き付けてあって、更にその上を緊締ベルト3と遊動環4とによって締め付けた構造となっている。
【0019】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、上記の第1の実施例で、大腿四頭筋を強化するためのギプス装具について述べた。そこで第2の実施例として、異なる筋肉を強化することができるギプス装具を、図5によって説明する。
【0020】
図5は、第2の実施例のギプス装具の可撓性布帛1を広げて、その内側面の構造を前方から見た状況を示したもので、前記の第1の実施例と異なるところは、膝関節部より下方の内側面位置に、第1の実施例とは別の筋部圧迫用ベルト5を更に設けたことである。即ち、第2の実施例で増設した筋部圧迫用ベルト5は、下腿筋、或いは腓腹筋や前脛骨筋などの上部を圧迫するための、筋部圧迫用成形部材6を保持してなるもので、筋部圧迫用ベルト5の構造や、可撓性布帛1の内側面との結合構造などは、基本的に第1の実施例の筋部圧迫用ベルト5と同様である。従って、第2の実施例のギプス装具は、大腿四頭筋や大腿二頭筋等の強化と共に、腓腹筋や前脛骨筋等の強化にも同時に活用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の下肢用サポーター型ギプス装具は、従来のサポーターの膝関節部を固定する機能を利用して、着脱が容易なギプス装具として骨折などの障害の保存療法から機能回復療法に移行する際の歩行運動などの治療を支援するのに活用するものであるが、下肢の筋肉の機能低下度上の個人差にも、細かな調整を加えることで容易に対応でき、幅広い治療段階で使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の下肢用サポーター型ギプス装具の、第1の例の構成を示す斜視図である。
【図2】上記の第1の例のギプス装具の広げた状態を示す正面図である。
【図3】上記の第1の例のギプス装具を下肢に装着し始める状態の説明図である。
【図4】上記の第1の例のギプス装具を下肢に装着した状態の側面図である。
【図5】本発明の下肢用サポーター型ギプス装具の第2の例の広げた状態を示す正面図である。
【図6】従来の下肢用サポーターの例の構成を示す斜視図である。
【図7】上記の下肢用サポーターを下肢に装着した状態の側面図である。
【符号の説明】
【0023】
S 下肢用サポーター
L 下肢
C 膝蓋骨部分
1 可撓性布帛
1a 左右の端縁
1b 切り欠き部
1c 支柱用ポケット
2 縦長支柱
3 緊締ベルト
4 遊動環
5 筋部圧迫用ベルト
5a 結合手段
5b 圧迫用成形部材保持手段
6 筋部圧迫用成形部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも膝関節部より上方の下肢外周に締付できる緊締ベルトを外側に具えて、該膝関節部を囲むように下肢に巻き付けることができる前開き型の可撓性布帛と、該可撓性布帛の外側面の左右両側にそれぞれ設けた縦長支柱と、からなるサポーター型ギプス装具であって、該可撓性布帛の内側面の該膝関節部より上方の大腿筋下部に対応する位置に、筋部圧迫用成形部材を設けたことを特徴とする、下肢用サポーター型ギプス装具。
【請求項2】
前記可撓性布帛が前記膝関節部より下方の下肢外周に締付できる緊締ベルトを外側に具えてなる、請求項1に記載の下肢用サポーター型ギプス装具。
【請求項3】
前記筋部圧迫用成形部材が、前記可撓性布帛の内周面に沿って設けたベルト体により形成されたポケット内に挟持されてなる、請求項1又は2に記載の下肢用サポーター型ギプス装具。
【請求項4】
前記筋部圧迫用成形部材は、圧迫対象の筋肉の位置及び形状に適合するように、適宜の成形材料をプレス又はモールドしてなるものである、請求項1乃至3の何れかに記載の下肢用サポーター型ギプス装具。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−272042(P2008−272042A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−116474(P2007−116474)
【出願日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(390003230)株式会社啓愛義肢材料販売所 (8)
【Fターム(参考)】