説明

不斉水素化反応で使用されるビス(フェロセニルホスフィノ)フェロセン配位子

ラセミ化合物、鏡像異性的に純粋なジアステレオ異性体又はジアステレオ異性体の混合物の形態の式I(式中、基Rは、同一又は異なり、それぞれがC〜Cアルキルであり、mは、0又は1〜4の整数であり、nは、0又は1〜3の整数であり、pは、0又は1〜5の整数であり、Rは、芳香族炭化水素基又はC結合芳香族ヘテロ炭化水素基であり、そして、Rは、脂肪族又はヘテロ脂肪族炭化水素基であり、R及びRは、同一又は異なり、それぞれが脂肪族又はC結合へテロ脂肪族炭化水素基であり、Rは、非置換又はC〜Cアルキル、C〜Cアルコキシもしくはハロゲン置換炭化水素基であり、Aは、第二級アミノ基である)の化合物は、均一系触媒として好適な金属錯体のための配位子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−置換フェロセニル基が二つのP原子それぞれに結合しており、P原子上の第二の置換基が、二つのP原子上で同一の又は異なる脂肪族炭化水素基である、又は第一のP原子上では芳香族C結合基であり、第二のP原子上では脂肪族炭化水素基である、フェロセン−1,1’−ジホスフィンに関する。本発明はまた、これらのフェロセン−1,1’−ジホスフィンを配位子として有する遷移金属の錯体及び触媒としてのそのような金属錯体の存在下、プロキラルな有機化合物を不斉水素化する方法に関する。
【0002】
有機ジホスフィンのようなキラルな配位子は、均一系立体選択性触媒反応における触媒にとって特別に重要な助剤であることがわかった。満足な触媒活性だけでなく、高い立体選択性をも達成することを可能にする金属錯体が実用的である。これら二つの性質を有しなければ、経済的な理由のため、工業プロセスにおける使用が保証されないか、代替の欠如のせいで、非経済的なプロセスを運用しなければならない。そのような非経済的なプロセスを避けるため、最近の数十年間、数多くの様々なキラルなジホスフィンが利用可能になった。
【0003】
フェロセンは、配位子の調製に非常に有用な骨格であり、第二級ホスフィノ基による様々な置換を提供するために首尾よく使用されてきた。さらには、フェロセン骨格を有し、ステレオジェニック(stereogenic)なP原子を含むジホスフィン配位子が公知である。たとえば、C. Gambs et al., Helvetica Chimica Acta volume 84 (2001), pages 3105-3126又はWO2005/068477を参照。しかし、純粋なジアステレオ異性体の調製は複雑であり、ジアステレオ異性体はしばしば望ましくないエピマー化を受ける傾向にあるため、そのようなジホスフィンは実用的な重要性を達成していない。
【0004】
WO2006/075166及びWO2006/075177は、橋かけ基を介して結合されており、そのP又はAs原子に対し、P又はAs結合に対してα位置でキラルな基によって置換されているフェロセニル基が結合しているジホスフィン及びジアルシンを記載している。1,1’−フェロセニレン橋かけ基を有する唯一の特定のジホスフィンは1,1’−ビス−[(Sp,RC,SFe)(1−N,N−ジメチルアミノ)エチルフェロセニル)フェニルホスフィノ]フェロセンであり、このように、さらなる置換基としてフェニル基をP上に含む。この配位子は、α,β−不飽和カルボン酸の水素化において高い光学選択性を与える。しかし、触媒活性はなおも不満足であり、また、高い転換率を達成するために長い反応時間が必要であるため、水素化は非経済的である。加えて、完全な転換は、触媒に対する基質の比較的低い比率でしか達成することができないため、触媒生産性が不満足である。より高い比率では、転換率は急激に低下する。
【0005】
驚くことに今、一方のP原子がC結合芳香族基によって置換され、他方のP原子が脂肪族基によって置換されている場合、この配位子タイプとの金属錯体の触媒活性をかなり大きく増すことができ、ひいては、触媒に対する基質の高い比率で不斉水素化を経済的に実施することができるということがわかった。さらには、驚くべきことに、二つのP原子が、同一又は異なることができる脂肪族基のみによって置換されている場合、触媒活性におけるさらなる実質的な増大を達成することができるということがわかった。また、驚くべきことに、活性及び生産性におけるこのような増大にもかかわらず、優れた、ときには改善された光学選択性を達成することができるということがわかった。
【0006】
本発明は、第一に、ラセミ化合物、鏡像異性的に純粋なジアステレオ異性体又はジアステレオ異性体の混合物の形態の、式I
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、
基R1は、同一又は異なり、それぞれがC1〜C4アルキルであり、
mは、0又は1〜4の整数であり、
nは、0又は1〜3の整数であり、
pは、0又は1〜5の整数であり、
2は、芳香族炭化水素基又はC結合芳香族ヘテロ炭化水素基であり、そして、R3は、脂肪族又はC結合ヘテロ脂肪族炭化水素基であり、
2及びR3は、同一又は異なり、それぞれが脂肪族又はC結合ヘテロ脂肪族炭化水素基であり、
4は、非置換又はC1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシもしくはハロゲン置換炭化水素基であり、
Aは、第二級アミノ基である)
の化合物を提供する。
【0009】
アルキル基R1は、たとえば、メチル、エチル、n−又はi−プロピル、n−、i−又はt−ブチルであり、メチルが好ましい。m及び/又はnが1である、特に好ましくは0である(この場合、R1は水素原子である)及び/又はpが5である、特に好ましくは0であるものが好ましい。
【0010】
炭化水素基R2及びR3は、非置換若しくは置換されており、及び/又は、O、S、−N=、−NH−及びN(C1〜C4アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含むことができる。脂肪族基は、1〜22個、好ましくは1〜18個、特に好ましくは1〜12個、非常に特に好ましくは1〜8個の炭素原子及び0〜4個、好ましくは0、1又は2個の前記ヘテロ原子を含むことができる。芳香族及びヘテロ芳香族基は、3〜22個、好ましくは3〜18個、特に好ましくは4〜14個、非常に特に好ましくは4〜10個の炭素原子及び1〜4個、好ましくは1又は2個の前記ヘテロ原子を含むことができる。
【0011】
芳香族基R2は、非置換又はハロゲン(フッ素、塩素又は臭素)、C1〜C6アルキル、トリフルオロメチル、C1〜C6アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C653Si、(C1〜C12アルキル)3Si又はsec−アミノによって置換されているC6〜C14アリール及びC4〜C12ヘテロアリールからなる群より選択される基であることができる。ヘテロアリール基は、好ましくは、O、S、−N(C1〜C4アルキル)−及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含む。
【0012】
アリール基R2の例は、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フルオレニル及びベンジルである。ヘテロアリール基R2の例は、フリル、チオフェニル、N−メチルピロリジニル、ピリジル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフェニル及びキノリニルである。置換アリール、アラルキル、ヘテロアリール及びヘテロアラルキル基R2の例は、メチル、エチル、n−及びi−プロピル、n−、i−及びt−ブチル、エトキシ、メトキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、フッ素及び塩素からなる群より選択される1〜3個の基によって置換されているフェニル、ナフチル、フリル、チオフェニル、ベンゾフリル及びベンゾチオフェニルである。いくつかの好ましい例は、2−、3−又は4−メチルフェニル、2,4−又は3,5−ジメチルフェニル、3,4,5−トリメチルフェニル、4−エチルフェニル、2−、3−又は4−メトキシフェニル、2,4−又は3,5−ジメトキシフェニル、3,4,5−トリメトキシフェニル、2−、3−又は4−トリフルオロメチルフェニル、2,4−又は3,5−ジ(トリフルオロメチル)フェニル、トリストリフルオロメチルフェニル、2−又は4−トリフルオロメトキシフェニル、3,5−ビス−トリフルオロメトキシフェニル、2−又は4−フルオロフェニル、2−又は4−クロロフェニル及び3,5−ジメチル−4−メトキシフェニルである。
【0013】
特に好ましい実施態様において、アリール又はヘテロアリール基R2は、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C1〜C6アルキル)C64、3−(C1〜C6アルキル)C64、4−(C1〜C6アルキル)C64、2−(C1〜C6アルコキシ)C64、3−(C1〜C6アルコキシ)C64、4−(C1〜C6アルコキシ)C64、2−(トリフルオロメチル)C64、3−(トリフルオロメチル)C64、4−(トリフルオロメチル)C64、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C63、3,5−ビス(C1〜C6アルキル)263、3,5−ビス(C1〜C6アルコキシ)263及び3,5−ビス(C1〜C6アルキル)2−4−(C1〜C6アルコキシ)C62である。
【0014】
脂肪族又はC結合ヘテロ脂肪族炭化水素基R2は、直鎖状又は分岐鎖状C1〜C12アルキル及び好ましくはα分岐C3〜C12アルキル、直鎖状又は分岐鎖状C2〜C12ヘテロアルキル、非置換又はC1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C4〜C12シクロアルキル又はC4〜C12シクロアルキル−CH2−、非置換又はC1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C3〜C12ヘテロシクロアルキル又はC3〜C12ヘテロシクロアルキル−CH2−、C7〜C14アラルキル及びC4〜C12ヘテロアラルキルからなる群より選択される基であることができ、環式基は、ハロゲン(フッ素、塩素又は臭素)、C1〜C6アルキル、トリフルオロメチル、C1〜C6アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C653Si、(C1〜C12アルキル)3Si又はsec−アミノによって置換されていることができる。好ましいヘテロ原子は、O、S、−NH−及び−N(C1〜C4アルキル)−からなる群より選択される。
【0015】
好ましくは1〜6個の炭素原子を含むアルキル基R2及びR3の例は、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチルならびにペンチル及びヘキシルの異性体である。非置換又はアルキルもしくはアルコキシ置換シクロアルキル基R2及びR3の例は、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル及びエチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ノルボルニルならびにアダマンチルである。非置換又はアルキルもしくはアルコキシ置換C5〜C12シクロアルキル−CH2−基R2及びR3の例は、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、シクロオクチルメチル、メチルシクロヘキシルメチル及びジメチルシクロヘキシルメチルである。置換又は非置換アラルキル又はヘテロアラルキル基R2及びR3の例は、ベンジル、メチルベンジル及びフリルメチルである。ヘテロアルキル基R2及びR3の例は、メトキシメチル、メトキシエチル、メチルチオメチル及びジメチルアミノメチル又はジメチルアミノエチルである。非置換又はアルキルもしくはアルコキシ置換ヘテロシクロアルキル基R2及びR3の例は、ピロリジニル、ピペリジニル及びテトラヒドロフラニルである。非置換又はアルキルもしくはアルコキシ置換ヘテロシクロアルキル基R2及びR3の例は、ピロリジニルメチル、ピペリジニルメチル及びテトラヒドロフラニルメチルである。本発明に関して、「シクロアルキル」の用語は、多環式、橋かけ及び場合によっては縮合した環系、たとえばノルボルニル又はアダマンチルをも包含する。
【0016】
特に好ましい実施態様において、R2及びR3は、互いに独立して、C1〜C6アルキル、C5〜C8シクロアルキル、C5〜C8シクロアルキルメチル又はC7〜C10ポリシクロアルキルである。
【0017】
さらなる特に好ましい実施態様において、R2は、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C1〜C6アルキル)C64、3−(C1〜C6アルキル)C64、4−(C1〜C6アルキル)C64、2−(C1〜C6アルコキシ)C64、3−(C1〜C6アルコキシ)C64、4−(C1〜C6アルコキシ)C64、2−(トリフルオロメチル)C64、3−(トリフルオロメチル)C64、4−(トリフルオロメチル)C64、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C63、3,5−ビス(C1〜C6アルキル)263、3,5−ビス(C1〜C6アルコキシ)263及び3,5−ビス(C1〜C6アルキル)2−4−(C1〜C6アルコキシ)C62であり、R3は、C1〜C6アルキル、C5〜C8シクロアルキル、C5〜C8シクロアルキルメチル又はC7〜C10ポリシクロアルキルである。
【0018】
炭化水素基R4は、1〜18個、好ましくは1〜12個、特に好ましくは1〜8個、非常に特に好ましくは1〜4個の炭素原子を含むことができる。R4は、直鎖状又は分岐鎖状C1〜C8アルキル、非置換又はハロゲン(F、Cl又はBr)、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C4〜C8シクロアルキル又はC4〜C8シクロアルキル−CH2−、非置換又はハロゲン(F、Cl又はBr)、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C6〜C14アリール又はC7〜C14アラルキルからなる群より選択される基であることができる。
【0019】
4に好ましい置換基は、F、Cl、Br、C1〜C4アルキル、特にメチル又はエチル及びC1〜C4アルコキシ、特にメトキシ又はエトキシである。
【0020】
好ましい実施態様において、R4は、C1〜C4アルキル、特にメチル、C5〜C6シクロアルキル、フェニル、C1〜C4アルキルフェニル又はC1〜C4アルキルベンジルである。R4は、非常に特に好ましくはメチルである。
【0021】
第二級アミノ基は式−NR56(式中、R5及びR6は、同一又は異なり、それぞれがC1〜C8アルキル、C5〜C8シクロアルキル、フェニル又はベンジルであるか、R5及びR6が、N原子といっしょになって、五〜八員環を形成する)に対応することができる。R5及びR6は、好ましくは同一の基であり、好ましくは、それぞれがC1〜C4アルキル、たとえばメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル又はn−もしくはi−ブチルであるか、いっしょになって、テトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサ−1,5−ペンチレンである。
【0022】
5及びR6は、好ましくは、それぞれがメチル又はエチルである。非常に特に好ましい基−CHR4−Aは、1−ジメチルアミノエタ−1−イル及び1−(ジメチルアミノ)−1−フェニルメチルである。
【0023】
式Iの化合物は、鏡像異性的に純粋なジアステレオ異性体としても、簡単かつ規格的なやり方(modular fashion)で高収率で調製することができる。多くの場合、中間体が鏡像異性的に純粋なジアステレオ異性体として得られ、それが、純粋なジアステレオ異性最終生成物の調製をより容易にする。アルキルリチウムのようなメタレーション試薬(metallation reagents)によってハロゲンを選択的に金属で置換することができる、市販されている1,1’−ジハロフェロセン、たとえば1,1’−ジブロモフェロセンから出発することが有利である。
【0024】
第一の変形態様においては、1−ブロモ−1’−リチオフェロセンとR3−P(Hal)2との反応によって基R3HalP−を導入する。基−CHR4−Aによって置換されたオルトメタレーションされたフェロセンと反応させ、加熱及びその後のたとえば再結晶又はクロマトグラフィー精製により、式Bの中心中間体を純粋なジアステレオ異性体として得ることができる。
【0025】
【化2】

【0026】
式中、Halは、ハロゲン(Cl、Br又はI、好ましくはBr)であり、m、n、p、A、R3及びR4は、式Iの化合物に関して定義したとおりである。
【0027】
第二の変形態様において、式Bの化合物は、非置換又はR1置換1−ハロ−1’−リチオフェロセンを非置換又はR1置換1−(CHR4−A)−2−(R3)PHal−フェロセン(Halは、ハロゲン(Cl、Br又はI、好ましくはCl)である)と反応させることによって調製することができる。
【0028】
式Bの化合物を再度メタレーションし(Halの置換)、非置換又はR1置換1−(CHR4−A)−2−(R2)PHal−フェロセンと反応させると、式Iの化合物を得ることができる(Halは好ましくはClである)。代替の変形態様として、基R2HalP−(Halは好ましくはClである)は、R2−P(Hal)2との反応によって式Bのメタレーションされた化合物に導入することもできる。その後、非置換又はR1置換1−(CHR4−A)−2−Li−フェロセンとの反応が式Iの化合物を生じさせる。
【0029】
式Bの化合物の調製は、通常、Pキラルな化合物のジアステレオ異性体の混合物を与える。式Bの化合物のジアステレオ異性体の混合物は、公知の方法、たとえばクロマトグラフィーによって様々な立体異性体に分離することができる。
【0030】
式Iの化合物は、一般に、ジアステレオ異性体の混合物として得られる。これらの混合物は、簡単な熱処理によって驚くほど簡単なやり方で所望のジアステレオ異性体へと少なくとも大幅に濃縮することができ、純粋なジアステレオ異性体は、場合によっては、その後の再結晶及び/又はクロマトグラフィー分離によって得ることができる。熱処理は、たとえば、反応生成物を不活性担体(溶媒)中にとり、40〜200℃、好ましくは60〜160℃で数分〜数時間、たとえば30分〜10時間、加熱することによって実施することができる。溶媒の除去後、抽出された固体残渣を熱処理することがより有利である。このようにして、所望のジアステレオ異性体を高い収率及び純度で得ることができる。
【0031】
使用するジハロフェロセン及びジハロホスフィンは公知であり、それらのいくつかは市販されているか、同様な方法によって調製することもできる。メタレーションされたフェロセンは公知であるか、公知の又は同様な方法によって調製することができる。好ましい方法は、公知のCHR4−A置換フェロセンから出発し、それらをオルト位置でメタレーションしたのち、ジハロホスフィンと反応させる方法である。アルキルリチウム又はマグネシウムグリニャール化合物によるフェロセンのメタレーションは、たとえばT. Hayashi et al., Bull. Chem. Soc. Jpn. 53 (1980), pages 1138-1151又はJonathan Clayden Organolithiums: Selectivity for Synthesis (Tetrahedron Organic Chemistry Series), Pergamon Press (2002)によって記載されている公知の反応を含む。アルキルリチウム中のアルキルは、たとえば、1〜6個の炭素原子、好ましくは1〜4個の炭素原子を含むことができる。多くの場合、メチルリチウム、s−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム及びt−ブチルリチウムが使用される。マグネシウムグリニャール化合物は、好ましくは、式(C1〜C4アルキル)MgX0(X0はCl、Br又はIである)の化合物である。
【0032】
式Iの新規な化合物は、不斉合成、たとえばプロキラルな不飽和有機化合物の不斉水素化のための優れた触媒又は触媒前駆体である遷移金属錯体のための配位子である。プロキラルな不飽和有機化合物が使用されるならば、有機化合物の合成で非常に大きく過剰な光学異性体を誘導することができ、短い反応時間で高い化学転換率を達成することができる。達成することができるエナンチオ選択性及び触媒活性は優秀である。さらには、そのような配位子は、他の不斉触媒反応、たとえば付加又は環化反応で使用することもできる。
【0033】
本発明はさらに、遷移金属の群から選択される金属、たとえばTM8金属(元素周期表8、9及び10族)と、配位子としての式Iの化合物の一つとの錯体を提供する。本発明に関して、好ましい遷移金属は、元素周期表7、8、9、10及び11族の金属である。
【0034】
可能な金属は、たとえば、Cu、Ag、Au、Fe、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtである。好ましい金属は、ロジウム及びイリジウムならびにルテニウム、白金及びパラジウムである。
【0035】
特に好ましい金属は、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムである。
【0036】
金属錯体は、金属原子の酸化数及び配位数に依存して、さらなる配位子及び/又はアニオンを含むことができる。錯体はまた、カチオン金属錯体であることもできる。このような同様の金属錯体及びそれらの調製は文献で広く記載されている。
【0037】
金属錯体は、たとえば、一般式II及びIIIに対応することができる。
【0038】
【化3】

【0039】
式中、A1は、式Iの化合物の一つであり、
Lは、同一又は異なる単座アニオン又は非イオン配位子を表すか、同一又は異なる二座アニオン又は非イオン配位子を表し、
rは、Lが単座配位子である場合には2、3又は4であり、Lが二座配位子である場合には1又は2であり、
zは、1、2又は3であり、
Meは、Rh、Ir及びRuからなる群より選択される金属であり、当該金属は酸化状態0、1、2、3又は4を有するものであり、
-は、オキソ酸又は錯酸のアニオンであり、
アニオン配位子が、金属の酸化状態1、2、3又は4の電荷を均衡させる。
【0040】
上記の好ましい要素及び実施態様は式Iの化合物に当てはまる。
【0041】
単座非イオン配位子は、たとえば、オレフィン(たとえばエチレン、プロピレン)、溶媒和性溶媒(ニトリル、直鎖状又は環式エーテル、非アルキル化又はN−アルキル化アミド及びラクタム、アミン、ホスフィン、アルコール、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル)、一酸化窒素及び一酸化炭素からなる群より選択することができる。
【0042】
適当な多座アニオン配位子は、たとえば、アリル(アリル、2−メタリル)又は脱プロトン化1,3−ジケト化合物、たとえばアセチルアセトネート(acetylacetonate)である。
【0043】
単座アニオン配位子は、たとえば、ハロゲン化物(F、Cl、Br、I)、擬ハロゲン化物(シアン化物、シアン酸塩、イソシアネート)及びカルボン酸、スルホン酸及びホスホン酸のアニオン(炭酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、メチルスルホン酸、トリフルオロメチルスルホン酸、フェニルスルホン酸、トシル酸のアニオン)からなる群より選択することができる。
【0044】
二座非イオン配位子は、たとえば、直鎖状又は環式ジオレフィン(たとえばヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン)、ジニトリル(マロンニトリル)、非アルキル化又はN−アルキル化カルボン酸ジアミド、ジアミン、ジホスフィン、ジオール、ジカルボン酸ジエステル及びジスルホン酸ジエステルからなる群より選択することができる。
【0045】
二座アニオン配位子は、たとえば、ジカルボン酸、ジスルホン酸及びジホスホン酸(たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、メチレンジスルホン酸及びメチレンジホスホン酸)のアニオンからなる群より選択することができる。
【0046】
好ましい金属錯体はまた、Eが−Cl-、−Br-、−I-、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、(CF3SO22-、(CF3SO23-、テトラアリールボレート、たとえばB(フェニル)4-、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4-、B[ビス(3,5−ジメチル)フェニル]4-、B(C654-及びB(4−メチルフェニル)4-、BF4-、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-である錯体を含む。
【0047】
水素化に特に適した特に好ましい金属錯体は式IV及びVに対応する。
【0048】
【化4】

【0049】
式中、
1は、式Iの化合物の一つであり、
Me2は、ロジウム又はイリジウムであり、
1は、二つのオレフィン又は一つのジエンを表し、
Zは、Cl、Br又はIであり、そして
は、オキソ酸又は錯酸のアニオンである。
【0050】
上記の好ましい要素及び実施態様は式Iの化合物に当てはまる。
【0051】
オレフィンY1は、C2〜C12−、好ましくはC2〜C6−、特に好ましくはC2〜C4−オレフィンであることができる。例は、プロペン、1−ブテン及び特にエチレンである。ジエンは、5〜12個、好ましくは5〜8個の炭素原子を含むことができ、開鎖、環式又は多環式ジエンであることができる。ジエンの二つのオレフィン基は、好ましくは、一つ又は二つのCH2基によって接続されている。例は、1,4−ペンタジエン、シクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,4−又は1,5−ヘプタジエン、1,4−又は1,5−シクロヘプタジエン、1,4−又は1,5−オクタジエン、1,4−又は1,5−シクロオクタジエン及びノルボルナジエンである。Yは、好ましくは、二つのエチレンを表すか、1,5−ヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン又はノルボルナジエンである。
【0052】
式IV中、Zは、好ましくはCl又はBrである。E1の例は、BF4-、ClO4-、CF3SO3-、CH3SO3-、HSO4-、B(フェニル)4-、B[ビス(3,5−トリフルオロメチル)フェニル]4-、PF6-、SbCl6-、AsF6-又はSbF6-である。
【0053】
本発明の金属錯体は、文献から公知の方法によって調製される(US−A−5,371,256、US−A−5,446,844、US−A−5,583,241ならびにE. Jacobsen, A. Pfaltz, H. Yamamoto (Eds.), Comprehensive Asymmetric Catalysis I to III, Springer Verlag, Berlin, 1999及びその中で引用されている参考文献を参照)。
【0054】
本発明の金属錯体は、プロキラルな不飽和有機化合物に対する不斉付加反応のために使用することができる均一系触媒又は反応条件下で活性化することができる触媒前駆体である。
【0055】
金属錯体は、たとえば、炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合を有するプロキラルな化合物の不斉水素化(水素付加)のために使用することができる。均一系反応媒体中で可溶性金属錯体を使用するそのような水素化は、たとえば、Pure and Appl. Chem., Vol. 68, No. 1, pages 131-138 (1996)に記載されている。水素化される好ましい不飽和化合物は、基C=C、C=N及び/又はC=Oを含む。本発明にしたがって、好ましくは、ルテニウム、ロジウム及びイリジウムの金属錯体が水素化に使用される。
【0056】
本発明はさらに、キラルな有機化合物の調製のための、好ましくはプロキラルな有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加のための均一系触媒としての、本発明の金属錯体の使用を提供する。
【0057】
本発明のさらなる態様は、触媒の存在下、プロキラルな有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によってキラルな有機化合物を調製する方法であって、付加反応が、本発明の少なくとも一つの金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする方法である。
【0058】
水素化される好ましいプロキラルな不飽和化合物は、開鎖又は環式有機化合物中に一つ以上の同一又は異なる基C=C、C=N及び/又はC=Oを含むことができ、当該基C=C、C=N及び/又はC=Oは、環系又は環外基の一部であることもできる。プロキラルな不飽和化合物は、アルケン、シクロアルケン、ヘテロシクロアルケン及び開鎖又は環式ケトン、α,β−ジケトン、α−又はβ−ケトカルボン酸ならびにそれらのエステル及びアミド、α,β−ケトアセタール又はケタール、ケトイミン及びケトヒドラゾンであることができる。
【0059】
不飽和有機化合物のいくつかの例は、アセトフェノン、4−メトキシ−アセトフェノン、4−トリフルオロメチルアセトフェノン、4−ニトロアセトフェノン、2−クロロアセトフェノン、対応する非置換又はN−置換アセトフェノンベンジルイミン、非置換又は置換ベンゾシクロヘキサノン又はベンゾシクロペンタノン及び対応するイミン、非置換又は置換テトラヒドロキノリン、テトラヒドロピリジン及びジヒドロピロールからなる群からのイミンならびに不飽和カルボン酸、エステル、アミド及び塩、たとえばα−及び、適当ならばβ−置換アクリル酸又はクロトン酸である。カルボン酸は、式
01−CH=C(R02)−C(O)OH
のカルボン酸ならびにそれらの塩、エステル及びアミドであることができる。式中、R01は、炭素原子を介して結合された置換又は非置換炭化水素基であり、R02は、直鎖状又は分岐鎖状C1〜C18アルキル、非置換又は置換C3〜C12シクロアルキル、非置換又は置換C6〜C14アリールオキシ、非置換又は置換C1〜C18アルコキシ、C1〜C18ヒドロキシアルコキシ、C1〜C18アルコキシ−C1〜C6アルキル又は保護されたアミノ(たとえばアセチルアミノ)である。
【0060】
基R01及びR02は、一つ以上の同一又は異なる置換基、たとえば保護された又は保護されていないヒドロキシ、チオールもしくはアミノ、CN、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C4アルコキシ、C6〜C10アリール(好ましくはフェニル)、ヘテロアリール、エステル基又はアミド基によって置換されていることができる。
【0061】
炭化水素基R01は、非置換又は置換されていることができ、及び/又は、O、S、−N=、−NH−又はN(C1〜C4アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含むことができる。脂肪族炭化水素基は、1〜30個、好ましくは1〜22個、特に好ましくは1〜18個、非常に特に好ましくは1〜12個の炭素原子及び0〜4個、好ましくは0、1又は2個の前記ヘテロ原子を含むことができる。芳香族及びヘテロ芳香族炭化水素基は、3〜22個、好ましくは3〜18個、特に好ましくは4〜14個、非常に特に好ましくは4〜10個の炭素原子及び1〜4個、好ましくは1又は2個の前記ヘテロ原子を含むことができる。
【0062】
炭化水素基の例及び好ましい実施態様は、基R2及びR3に関して先に挙げたものであり、それらがR01及びR02にも当てはまる。
【0063】
01は、好ましくは、たとえば保護された又は保護されていないヒドロキシ、チオールもしくはアミノ、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C4アルコキシ、エステル基又はアミド基によって置換されていてもよい、単環式又は多環式(たとえば二〜四環式)C6〜C14アリール又はO、S、−N=、−NH−又は−N(C1〜C4アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含むC3〜C14ヘテロアリールである。アリール及びヘテロアリールは、たとえば、ベンゼン、ナフタレン、インダン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、チオフェン、フラン、ピロール、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、イソインドール及びキノリンから誘導されることができる。
【0064】
驚くべきことに、ロジウム錯体及び式Iの配位子を触媒として使用する、α−アルキル−β−アリールアクリル又はβ−ヘテロアリールアクリル酸、特に式VIのカルボン酸の水素化において、2000以上の、触媒に対する基質の高い比率でさえ、97%ee(エナンチオマー過剰率)を超える非常に傑出した光学収率及び高い化学転換率を短い反応時間内に達成することが可能である、すなわち、高い触媒活性が認められるということがわかった。キラルな二座配位子の金属錯体を使用する式VIのカルボン酸の水素化は、WO2002/02500A1に記載されている。
【0065】
本発明の方法の特に好ましい実施態様は、式VI
【0066】
【化5】

【0067】
(式中、
03及びR04は、互いに独立して、H、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C6アルキル又はC1〜C6アルコキシ−C1〜C6アルキルオキシであり、そして、R05は、C1〜C6アルキルである)
の化合物が、触媒としての、式Iの配位子とのロジウム錯体の存在下、水素によって水素化されて、式VII
【0068】
【化6】

【0069】
(R03は、好ましくはメトキシプロピルオキシであり、R04は、好ましくはメトキシであり、そして、R05は、好ましくはイソプロピルである)
の化合物を与えるということを特徴とする。
【0070】
さらには、驚くべきことに、ロジウム錯体及び式Iの配位子を触媒として使用する、α−アルコキシ−β−アリールアクリル又は−β−ヘテロアリールアクリル酸、特に式VIIIのカルボン酸の水素化において、200以上の、触媒に対する基質の高い比率でさえ、97%ee(ee=エナンチオマー過剰率)を超える非常に傑出した光学収率及び高い化学転換率を短い反応時間内に達成することが可能である、すなわち、高い触媒活性が認められるということがわかった。
【0071】
本発明の方法のさらなる特に好ましい実施態様は、式VIII
【0072】
【化7】

【0073】
(式中、
06は、C1〜C8アルキル、保護された又は保護されていないC1〜C8ヒドロキシアルキル又はC1〜C8アルコキシ−C1〜C6アルキルであり、R07は、非置換であってもよいし、保護された又は保護されていないヒドロキシ、チオールもしくはアミノ、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C4アルコキシ、エステル基又はアミド基によって置換されていてもよい、C6〜C14アリール又はO、S、−N=、−NH−又は−N(C1〜C4アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含むC3〜C14ヘテロアリールである)
の化合物が水素化されて式IX
【0074】
【化8】

【0075】
(R06は、好ましくはC1〜C4アルキルであり、R07は、好ましくは、非置換であってもよいし、保護された又は保護されていないヒドロキシもしくはチオール、C1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C4アルコキシ、エステル基又はアミド基によって置換されていてもよい、フェニル、ナフチル、チオフェニル、フリル、ベンゾチオフェニル又はベンゾフリルである)
の化合物を与えるということを特徴とする。保護基の例は、ベンジル、トリチル、トリアルキルシリル及びアミノカルボニルである。
【0076】
本発明の方法は、低温又は高温、たとえば−20〜150℃、好ましくは−10〜100℃、特に好ましくは10〜80℃の温度で実施することができる。一般に、光学収率は、高めの温度よりも比較的低い温度でより良好である。
【0077】
本発明の方法は、大気圧又は過圧で実施することができる。圧力は、たとえば、105〜2×107Pa(パスカル)であることができる。水素化は、大気圧又は過圧で実施することができる。
【0078】
触媒は、水素化される化合物に基づいて、好ましくは0.0001〜10モル%、特に好ましくは0.001〜10モル%、非常に特に好ましくは0.01〜5モル%の量で使用される。
【0079】
配位子及び触媒の調製ならびに水素化は、溶媒なしで実施することもできるし、不活性溶媒の存在下で実施することもでき、その場合、一つの溶媒又は溶媒の混合物を使用することができる。適当な溶媒は、たとえば、脂肪族、脂環式及び芳香族炭化水素(ペンタン、ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン)、脂肪族水素化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン及びテトラクロロエタン)、ニトリル(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル)、エーテル(ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールモノメチル又はモノエチルエーテル)、ケトン(アセトン、メチルイソブチルケトン)、カルボン酸エステル及びラクトン(エーテル又はメチルアセテート、バレロラクトン)、N−置換ラクタム(N−メチルピロリドン)、カルボキサミド(ジメチルアミド、ジメチルホルムアミド)、非環式尿素(ジメチルイミダゾリン)及びスルホキシド及びスルホン(ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシド、テトラメチレンスルホン)及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル)ならびに水である。溶媒は、単独で使用することもできるし、少なくとも二つの溶媒の混合物として使用することもできる。
【0080】
反応は、共触媒、たとえば第四級アンモニウムハロゲン化物(ヨウ化テトラブチルアンモニウム)の存在及び/又はプロトン酸、たとえば鉱酸の存在で実施することができる(たとえば、US−A−5,371,256、US−A−5,446,844及びUS−A−5,583,241ならびにEP−A−0691949を参照)。同じく、フッ素化アルコール、たとえば1,1,1−トリフルオロエタノール又は塩基(アミン、アルカリ金属水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩)の存在が触媒反応を促進することができる。触媒として使用される金属錯体は、別個に調製された独立した化合物として加えることもできるし、反応の前にその場で形成したのち、水素化される基質と混合することもできる。独立した金属錯体を使用する反応にさらなる配位子を加えること又はその場での調製において過剰量の配位子を使用することが有利であることもある。過剰量は、調製に使用される金属化合物に基づいて、たとえば6モルまで、好ましくは2モルまでであることができる。
【0081】
本発明の方法は、一般に、触媒を反応容器に入れ、次いで基質、場合によっては反応助剤及び追加される化合物を加え、その後、反応を開始することによって実施される。追加される気体化合物、たとえば水素又はアンモニアは、好ましくは加圧下で導入される。方法は、様々なタイプの反応器中、連続的又はバッチ式に実施することができる。
【0082】
本発明にしたがって調製されるキラルな有機化合物は、特に香味料及び芳香剤、医薬品ならびに農薬の調製における活性物質又はそのような物質の調製のための中間体である。
【0083】
以下の実施例が本発明を例示する。略号は以下の意味を有する。
TBME=tert−ブチルメチルエーテル、s−BuLi=sec−ブチルリチウム、n−BuLi=n−ブチルリチウム、EtOAc=酢酸エチル、Et3N=トリエチルアミン、THF=テトラヒドロフラン、DE=ジエチルエーテル、TMEDA=テトラメチルエチレンジアミン、nbd=ノルボルナジエン、cod=シクロオクタ−1,5−ジエン
【0084】
A)中間体の調製
実施例A1:式(A1)[Ph=フェニル、Me=メチル]の(RC,SFc,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル]フェニルホスフィノ−1’−ブロモフェロセンの調製
【0085】
【化9】

【0086】
a)1−フェニルクロロホスフィノ−1’−ブロモフェロセン(X1)の調製
n−BuLi(ヘキサン中1.6M)14.5ml(23.2mmol)を、−30℃未満(<−30℃)の温度で、THF30ml中1,1’−ジブロモフェロセン8g(23.2mmol)の溶液に滴下した。混合物をこの温度でさらに30分間撹拌した。次いで、−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン3.15ml(23.2mmol)を、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。−78℃でさらに10分間撹拌したのち、温度を室温まで上昇させ、混合物をさらに1時間撹拌した。これによりモノクロロホスフィンX1の懸濁液を得た。
【0087】
b)A1(ジアステレオ異性体の混合物)の調製
t−ブチルリチウム(t−BuLi)(ペンタン中1.5M)15.5ml(23.2mmol)を、−10℃未満(<−10℃)で、DE40ml中(R)−1−ジメチルアミノ−1−フェロセニルエタン5.98g(23.2mmol)の溶液に滴下した。同じ温度で10分間撹拌したのち、温度を室温まで上昇させ、混合物をさらに1.5時間撹拌した。これにより化合物X2の溶液を得て、それを、カニューレを介して、モノクロロホスフィンX1の冷却懸濁液に、温度が−30℃を超えないような速度で加えた。−30℃でさらに10分間撹拌したのち、温度を0℃まで上昇させ、混合物をこの温度でさらに2時間撹拌した。反応混合物を水20mlと混合した。有機相を分別し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を、ロータリーエバポレータで、減圧下で留去した。クロマトグラフィーによる精製(シリカゲル60、溶離剤=ヘプタン/EtOAc/Et3N85:10:5)で二つのジアステレオ異性体の混合物として目的生成物11.39gを得た。
【0088】
c)A1(一つのジアステレオ異性体)の調製
望むならば、以下のような熱処理により、ジアステレオ異性体の混合物を単一のジアステレオ異性体に転換することができる。プロセスステップb)で得られた生成物をトルエン50mlに溶解し、4時間環流させた。トルエンを留去したのち、残渣をエタノールから再結晶させた。これにより、黄色の結晶として化合物X3を、また、純粋なジアステレオ異性体として、理論値の59%の収率で得た。
31P−NMR(121.5MHz),CDCl3):δ−35.3(s)
【0089】
実施例A2:式(A2)[Cy=シクロヘキシル、Me=メチル]の(RC,SFc,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセン−1−イル]シクロヘキシルホスフィノ−1’−ブロモフェロセンの調製
【0090】
【化10】

【0091】
a)モノクロロホスフィンX4の調製
シクロヘキサン中1.3M s−BuLi溶液(7.7ml、10mmol)を、−20℃未満の温度で、TBME(15ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](2.57g、10mmol)の溶液に10分かけて加えた。添加が完了したのち、反応混合物を0℃に加温し、この温度で1.5時間撹拌した。次いで、ジクロロシクロヘキシルホスフィン(1.51ml、10mmol)を−60℃未満の温度で10分かけて加えた。次いで、混合物を−78℃でさらに30分間撹拌し、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌した。これによりモノクロロホスフィンX4を得た。
【0092】
b)1−ブロモ−1’−リチオフェロセンX5の調製
n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を、−30℃未満(<−30℃)で、テトラヒドロフラン(THF)10ml中1,1’−ジブロモフェロセン3.43g(10mmol)の溶液に滴下した。この混合物をこの温度でさらに1.5時間撹拌したのち、−78℃に冷却した。これにより1−ブロモ−1’−リチオフェロセンX5の懸濁液を得た。
【0093】
c)化合物A2の調製
モノクロロホスフィンX4を含む反応混合物a)を、−20℃未満の温度で撹拌しながら、1−ブロモ−1’−リチオフェロセンX5の懸濁液b)に滴下した。次いで、冷却を取り除き、反応混合物を室温で1時間撹拌した。これにより二つのジアステレオ異性体の混合物として化合物X6を得た。反応混合物は、さらに次の反応ステップに直接使用することができる。必要ならば、実施例A1c)と同様なやり方で、中間体X6を処理し、熱的に異性化し、純粋なジアステレオ異性体として単離することもできる。
【0094】
代替方法として、化合物A1を実施例A2と同様なやり方で調製する、又は化合物A2を実施例A1と同様なやり方で調製することもできる。
【0095】
B)配位子の調製
実施例1:式(B1)[R=フェニル、Me=メチル、R’=シクロヘキシル]の[(RC,RC,)(SFc,SFc,)(SP,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製
【0096】
【化11】

【0097】
反応混合物a)
シクロヘキサン中1.3M s−BuLi溶液(3.85ml、5mmol)を、−20℃未満の温度で、TBME(10ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](1.28g、5mmol)の溶液に10分かけて加えた。添加が完了したのち、反応混合物を0℃に加温し、この温度で1.5時間撹拌した。次いで、ジクロロシクロヘキシルホスフィン(0.76ml、5mmol)を−60℃未満の温度で10分かけて加えた。次いで、反応混合物を−78℃でさらに30分間撹拌し、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌して、モノクロロホスフィンX7を得た。
【0098】
反応混合物b)
別の反応容器中、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M、3.85ml、5mmol)を、−60℃未満の温度で、TMBE(10ml)中、化合物A1(3.15g、5mmol)の溶液に加えたのち、混合物を−78℃でさらに1時間撹拌した。これによりリチウム化化合物X3の溶液を得た。
【0099】
c)反応混合物b)を、−78℃に冷却しておいた反応混合物a)に、温度が−60℃を超えないような速度で加えた。添加が完了したのち、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1.5時間撹拌した。次いで、撹拌しながらNaHCO3飽和水溶液5mlを加えた。次いで、有機相を分別し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下、蒸発乾固させた。次いで、残渣を150℃で2時間加熱し、その後、クロマトグラフィーによって精製した(SiO2:120g、まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にヘキサン:EtOAc=3:1、Et3N1%含有)。第一の画分が純粋な標記化合物B1を与えた(2.10g、45.7%)。第二の画分は様々なジアステレオ異性体の混合物であった(1.20g、26.1%)。第二の画分を再び150℃で1.5時間加熱し、前記と同様にクロマトグラフィーによって精製した。単離された第一の画分は、純粋な標記化合物B1をさらに0.57g(12.4%)を得た。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例2:式(B2)[R=フェニル、Me=メチル、R’=イソプロピル]の[(RC,RC,)(SFc,SFc,)(SP,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]イソプロピルホスフィノフェロセンの調製
反応混合物a)中でシクロヘキシルジクロロホスフィンの代わりにイソプロピルジクロロホスフィンを使用したことを除き、実施例1の化合物B1と同様なやり方で化合物B2を調製した。粗生成物をクロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル、溶離剤=まず酢酸エチル/ヘキサン1:5、その後さらに1%のトリエチルアミン)。二つのジアステレオ異性体の混合物(比=5:4)を得た。これを、溶媒なしで150℃で2時間加熱したのち、クロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル、溶離剤=まず酢酸エチル/ヘキサン1:3、その後さらに1%のトリエチルアミン)。第一の画分によりオレンジ色固体として清浄なB2を47.5%の収率で得た。第二の画分(30%)により様々なジアステレオ異性体の混合物を得た。
【0102】
【表2】

【0103】
式B1及びB2の化合物は、以下の代替ルートによって得ることもできる。
【0104】
【化12】

【0105】
実施例3:式(B1)[R=フェニル、Me=メチル、R’=シクロヘキシル]の[(RC,RC,)(SFc,SFc,)(SP,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製
a)シクロヘキサン中1.3M s−BuLi溶液(3.85ml、5mmol)を、−20℃未満の温度で、TBME(10ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](1.28g、5mmol)の溶液に10分かけて加えた。添加が完了したのち、反応混合物を0℃に加温し、この温度で1.5時間撹拌した。これによりリチウム化UgiアミンX9を得た。
【0106】
b)別の反応容器中、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M、3.85ml、5mmol)を、−60℃未満の温度で、TMBE(10ml)中、化合物A1(3.15g、5mmol)の溶液に加えたのち、混合物を−78℃で1時間撹拌した。これがリチウム化化合物X3の溶液を得た。次いで、ジクロロシクロヘキシルホスフィン(0.76ml、5mmol)を−60℃未満の温度で10分かけて加えた。次いで、この混合物を−78℃で30分間撹拌し、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌した。
【0107】
c)a)に記載のようにして調製した化合物X9を含む懸濁液を、−60℃未満の温度で撹拌しながら、b)に記載のようにして調製した反応混合物に加えた。次いで、冷却槽を取り除き、混合物をさらに1.5時間撹拌した。次いで、撹拌しながらNaHCO3飽和水溶液5mlを加えた。次いで、有機相を分別し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下、蒸発乾固させた。次いで、残渣を150℃で2時間加熱し、その後、クロマトグラフィーによって精製した(SiO2:120g、まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にヘキサン:EtOAc=3:1、Et3N1%含有)。第一の画分により純粋な標記化合物B1を得た。第二の画分は様々なジアステレオ異性体の混合物であった。1H−NMR及び31P NMRは、実施例B1に記載のようにして調製した化合物B1と同一であった。
【0108】
実施例4:式(B2)[R=フェニル、Me=メチル、R’=イソプロピル]の[(RC,RC,)(SFc,SFc,)(SP,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]イソプロピルホスフィノフェロセンの調製
a)シクロヘキサン中1.3M s−BuLi溶液(3.08ml、4mmol)を、−20℃未満の温度で、TBME(10ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](1.03g、4mmol)の溶液に10分かけて加えた。添加が完了したのち、反応混合物を0℃に加温し、この温度でさらに1.5時間撹拌した。これによりリチウム化UgiアミンX9を得た。
【0109】
b)別の反応容器中、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M、3.08ml、4mmol)を、−60℃未満の温度で、TMBE(5ml)中、化合物A1(2.52g、4mmol)の溶液に加えたのち、混合物を−78℃で1時間撹拌した。これによりリチウム化合物X3の溶液を得た。次いで、ジクロロイソプロピルホスフィン(0.49ml、4mmol)を−60℃未満の温度で10分かけて加えた。次いで、この混合物を−78℃で30分間撹拌し、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌した。
【0110】
c)a)に記載のようにして調製した懸濁液を、−60℃未満の温度で撹拌しながら、b)に記載のようにして調製した反応混合物に加えた。次いで、冷却槽を取り除き、混合物をさらに1.5時間撹拌した。次いで、撹拌しながらNaHCO3飽和水溶液5mlを加えた。次いで、有機相を分別し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下、蒸発乾固させた。次いで、残渣を150℃で2時間加熱し、その後、クロマトグラフィーによって精製した(SiO2:120g、まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にヘキサン:EtOAc=3:1、Et3N1%含有)。第一の画分により純粋な標記化合物B2を得た。第二の画分は様々なジアステレオ異性体の混合物であった。1H−NMR及び31P NMRスペクトルは、実施例B2に記載のようにして調製した化合物B2のスペクトルと同一であった。
【0111】
実施例5:式(B3)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−メトキシフェニル)ホスフィノフェロセン[(SP,SP)−3c]の調製
【0112】
【化13】

【0113】
反応混合物a)中でシクロヘキシルジクロロホスフィンの代わりに4−メトキシフェニルジクロロホスフィンを使用したことを除き、実施例1の化合物B1と同様なやり方で化合物B3を調製した。反応混合物を水で急冷して、黄色固体として沈殿する生成物を得た。ろ過及び酢酸エチルでの洗浄により純粋な生成物B3を64%の収率で得た。
【0114】
【表3】

【0115】
実施例6:式(B4)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−(トリフルオロメチル)フェニル]ホスフィノフェロセン[(SP,SP)−3d]の調製
【0116】
【化14】

【0117】
反応混合物a)中でシクロヘキシルジクロロホスフィンの代わりに4−トリフルオロメチルフェニルジクロロホスフィンを使用したことを除き、実施例1の化合物B1と同様なやり方で化合物B4を調製した。反応後、反応混合物を水で急冷して、酢酸エチルで抽出した。有機相を捕集し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒をロータリーエバポレータ上で留去した。粗生成物を、溶媒なしで150℃で1時間加熱したのち、クロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル、溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:5、トリエチルアミン1%含有)。生成物B4がオレンジ色固体として56%の収率で得られた。
【0118】
【表4】

【0119】
実施例7:式(B5)[R=シクロヘキシル、Me=メチル、R’=イソプロピル]の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]イソプロピルホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製
【0120】
【化15】

【0121】
a)実施例A2に記載のようにして調製した反応混合物c)(10mmolバッチ)を−50℃に冷却した。次いで、温度を−30℃未満に維持しながらn−BuLi(ヘキサン中2.5M)4ml(10mmol)を滴下した。次いで、温度を0℃まで上昇させ、混合物をその温度で30分間撹拌し、−50℃まで冷却し直した。これにより(RC,SFc)−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノ−1’−リチオフェロセンの懸濁液を得た。
【0122】
b)容器中、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)7.7ml(10mmol)を、−20℃未満の温度で、TMBE(15ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](2.57g、10mmol)の溶液に10分かけて加えた。添加が完了したのち、反応混合物を0℃に加温し、この温度でさらに1.5時間撹拌した。次いで、ジクロロイソプロピルホスフィン(1.23ml、10mmol)を−60℃未満の温度で10分かけて加えた。次いで、混合物を−78℃でさらに30分間撹拌し、冷却槽を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌した。これによりモノクロロホスフィンX8を得た。
【0123】
c)b)に記載のようにして調製したモノクロロホスフィンX8の懸濁液を、撹拌し、温度を−20℃未満に維持しながら、a)に記載のようにして調製した(RC,SFc)−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノ−1’−リチオフェロセンの懸濁液に滴下した。その後、冷却を取り除き、混合物を1.5時間撹拌した。反応混合物をNaHCO3飽和水溶液5mlと混合し、有機相を分別し、Na2SO4で乾燥させ、減圧下、蒸発乾固させた。残渣を150℃で1.5時間加熱した。この処理中、ジアステレオ異性体混合物は優先的に一つのジアステレオ異性体へと異性化した。クロマトグラフィー精製(SiO2:まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にさらに1%のEt3N)により、第一の画分中に生成物B5(オレンジ色固体、収率63%)5.60gを得た。第二の画分はジアステレオ異性体の混合物であった。新たな熱処理及びその後のクロマトグラフィーにより最終的に全部で7.83gの生成物B5を得た(収率89%)。
【0124】
【表5】

【0125】
実施例8:式(B6)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−メトキシフェニル)ホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製
【0126】
【化16】

【0127】
反応混合物a)
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)7.7ml(10mmol)を、TBME(15ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン]2.57g(10mmol)の冷却溶液に、温度が−20℃未満にとどまるような速度で滴下した。添加後、温度を0℃まで上昇させ、混合物をこの温度でさらに1.5時間撹拌した。次いで、混合物を−78℃に冷却し、シクロヘキシルジクロロホスフィン1.52ml(10mmol)を、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。混合物を−78℃でさらに30分間撹拌したのち、冷却を取り除き、モノクロロホスフィン(RC,SFc)−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルクロロホスフィンを含む懸濁液をさらに1時間撹拌した。
【0128】
反応混合物b)
第二の反応フラスコ中、n−BuLi(ヘキサン中2.5M)4.0ml(10mmol)を、−30℃に冷却しておいたTHF10ml中1,1’−ジブロモフェロセン3.43g(10mmol)の溶液に、温度が−30℃を超えないような速度で滴下した。その後、混合物を−30℃でさらに1.5時間撹拌し、1−ブロモ−1’−リチオフェロセンを含む混合物を最終的に−78℃に冷却した。
【0129】
反応混合物c)
反応混合物a)を、冷却した反応混合物b)に、温度が−20℃を超えないような速度で加えた。添加後、冷却を取り除き、反応混合物をさらに1時間撹拌した。次いで、混合物を少なくとも−50℃に冷却し直し、s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)7.7ml(10mmol)を、温度が−30℃を超えないような速度で加えた。その後、混合物を氷中で冷却し、0℃で撹拌した。(RC,SFc)−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィン−1’−リチオフェロセンを含む反応混合物を最終的に−50℃未満(<−50℃)に冷却した。
【0130】
反応混合物d)
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)7.7ml(10mmol)を、TBME(15ml)中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン](2.57g、10mmol)の冷却溶液に、温度が−20℃未満にとどまるような速度で滴下した。添加後、温度を0℃まで上昇させ、混合物をこの温度でさらに1.5時間撹拌した。次いで、−78℃に冷却し、4−メトキシフェニルジクロロホスフィン2.09g(10mmol)を、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。混合物を−78℃でさらに30分間撹拌したのち、冷却を取り除き、モノクロロホスフィン(RC,SFc)−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]−4−メトキシフェニルクロロホスフィンを含む懸濁液をさらに1時間撹拌した。
【0131】
反応混合物d)を、冷却した反応混合物c)に、温度が−20℃を超えないような速度で加えた。添加後、冷却を取り除き、反応混合物を室温でさらに1.5時間撹拌した。
【0132】
NaHCO3飽和溶液15mlを加え、反応混合物を酢酸エチルで抽出し、有機相を捕集し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を、ロータリーエバポレータで、減圧下で留去した。残渣を150℃で1.5時間加熱したのち、クロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル;溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:3)。第一の画分により黄〜オレンジ色固体として生成物を54%の収率で得た。
【0133】
【表6】

【0134】
実施例9:式(B7)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンの調製
【0135】
【化17】

【0136】
反応混合物d)中で4−メトキシフェニルジクロロホスフィンの代わりに4−トリフルオロメチルフェニルジクロロホスフィンを使用したことを除き、実施例8の化合物B6と同様なやり方で化合物B7を調製した。
【0137】
熱処理(溶媒なしで150℃で1時間加熱)後、粗生成物をクロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル;溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:8)。第一の画分により目的生成物を53%の収率で得た。
【0138】
【表7】

【0139】
実施例10:式(B8)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィノ−1’−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル](4−メトキシフェニル)ホスフィノフェロセンの調製
【0140】
【化18】

【0141】
反応混合物a)に関してはシクロヘキシルジクロロホスフィンの代わりに4−メトキシフェニルジクロロホスフィンを使用し、反応混合物d)に関しては4−メトキシフェニルジクロロホスフィンの代わりに4−トリフルオロメチルフェニルジクロロホスフィンを使用したことを除き、実施例8の化合物B6と同様なやり方で化合物B8を調製した。
【0142】
熱処理(溶媒なしで150℃で1時間加熱)後、粗生成物をクロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル、溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:5)。第一の画分により目的生成物を52%の収率で得た。
【0143】
【表8】

【0144】
実施例11:式(B9)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−メトキシエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノフェロセンの調製
【0145】
【化19】

【0146】
反応混合物a)
t−BuLi(ペンタン中1.5M)3.4ml(5mmol)を、TBME(5ml)中(R)−1−メトキシエチルフェロセン1.22g(5mmol)の冷却溶液に、温度が−40℃未満にとどまるような速度で滴下した。添加後、温度を0℃まで上昇させ、混合物をこの温度でさらに1.5時間撹拌した。次いで、混合物を−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン0.68ml(5mmol)を、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。反応混合物を−78℃でさらに30分間撹拌したのち、冷却を取り除き、モノクロロホスフィン(RC,SFc)−[2−(1−メトキシエチル)−1−フェロセニル]フェニルクロロホスフィンを含む反応混合物をさらに1時間撹拌した。
【0147】
反応混合物b)
第二の反応フラスコ中、sec−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)3.85ml(5mmol)を、−78℃に冷却しておいたTMBE10ml中(RC,,SFc,SP)−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−ブロモフェロセン3.15g(5mmol)の溶液に、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。その後、リチウム化フェロセンを含む反応溶液を−78℃でさらに1時間撹拌した。
【0148】
反応混合物b)を、−78℃に冷却しておいた反応混合物a)に、温度が−60℃を超えないような速度で加えた。添加後、冷却を取り除き、反応混合物をさらに1.5時間撹拌した。次いで、水10mlを加え、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機相を捕集し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を、ロータリーエバポレータで、減圧下で留去した。残渣をクロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル;溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:5)。これにより二つのジアステレオ異性体の混合物(比約1:1)を得た。熱処理(145℃で1.5時間)が、約9:1のジアステレオ異性体比を生じさせた。クロマトグラフィーにより(シリカゲル;溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:5)、主要なジアステレオ異性体が純粋な形態で61%の収率で得られた。
【0149】
【表9】

【0150】
実施例12:式(B10)の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(α−N,N−ジメチルアミノフェニルメチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノフェロセンの調製
【0151】
【化20】

【0152】
反応混合物a)
s−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)3.85ml(5mmol)を、TBME(5ml)中(R)−[α−(N,N−ジメチルアミノ)フェニルメチル]フェロセン1.60g(5mmol)の冷却溶液に、温度が−40℃未満にとどまるような速度で滴下した。添加後、温度を0℃まで上昇させ、混合物をこの温度でさらに1.5時間撹拌した。次いで、混合物を−78℃に冷却し、フェニルジクロロホスフィン0.68ml(5mmol)を、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。混合物を−78℃でさらに30分間撹拌したのち、冷却を取り除き、モノクロロホスフィン(RC,SFc)−[2−(α−N,N−ジメチルアミノフェニルメチル)−1−フェロセニル]フェニルクロロホスフィンを含む反応混合物をさらに1時間撹拌した。
【0153】
反応混合物b)
第二の反応フラスコ中、sec−BuLi(シクロヘキサン中1.3M)3.85ml(5mmol)を、−78℃に冷却しておいたTMBE10ml中(RC,SFc,SP)−1−[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−ブロモフェロセン3.15g(5mmol)の溶液に、温度が−60℃を超えないような速度で滴下した。その後、リチウム化フェロセンを含む反応混合物を−78℃でさらに1時間撹拌した。
【0154】
反応混合物b)を、−78℃に冷却しておいた反応混合物a)に、温度が−60℃を超えないような速度で加えた。添加後、冷却を取り除き、反応混合物をさらに1.5時間撹拌した。次いで、水10mlを加え、反応混合物を酢酸エチルで抽出した。有機相を捕集し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を、ロータリーエバポレータで、減圧下で留去した。残渣を150℃で1時間加熱したのち、クロマトグラフィーによって精製した(シリカゲル;溶離剤=酢酸エチル/ヘキサン1:5)。生成物が43%の収率で得られた。
【0155】
【表10】

【0156】
実施例13:式(B11)[R=シクロヘキシル、Me=メチル]の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1,1’−ビス[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセン
【0157】
【化21】

【0158】
a)n−BuLi13.7ml(22mmol、ヘキサン中1.6M)を、ヘキサン20ml中フェロセン(10mmol)1.86g及びTMDEA(20mmol)3.20mlの懸濁液に10分かけて加えた。撹拌を50℃でさらに2時間継続したのち、ジチオフェロセンX10を含む反応混合物を次のステップで使用した。
【0159】
b)s−BuLi(1.3M、22mmol)のシクロヘキサン溶液15.4mlを、20℃未満(<20℃)で、t−ブチルメチルエーテル(TBME)30ml中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン]5.14g(20mmol)の溶液に10分かけて加えた。次いで、混合物を撹拌しながら0℃に加熱し、この温度で1.5時間維持した。次いで、60℃未満(<60℃)に冷却し、ジクロロシクロヘキシルホスフィン3.0ml(20mmol)を10分かけて加えた。混合物を−78℃で30分間撹拌したのち、ゆっくりと室温まで温まらせ、その温度で1.5時間撹拌した。
【0160】
c)a)に記載のようにして調製した懸濁液を、−20℃未満で、b)に記載のようにして調製した反応混合物に加えた。混合物を室温で2.5時間撹拌したのち、水20mlを加えた。有機相を分別し、硫酸ナトリウムで乾燥させたのち、混合物が乾燥するまで溶媒を除去した。これが、生成物B4を、オレンジ色固体として、三つのジアステレオ異性体(SP,SP)、(SP,RP)及び(RP,RP)の比1:4:6の混合物として与えた。この比は31P NMRによって決定した。
31P NMR(CDCl3,101MHz):(RP,RP)異性体:δ−21.6(s)、(SP,RP)異性体:δ−21.3(s)及び−26.9(s);(SP,SP)異性体:δ−26.5(s)。
【0161】
d)c)に記載のようにして得た固体を150℃で2時間維持した。そのとき、(SP,SP):(SP,RP):(RP,RP)の比は2.5:1:0であった。次いで、ジアステレオ異性体の混合物をクロマトグラフィーによって分離した(SiO2、まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にヘキサン:EtOAc=3:1、Et3N1%含有)。純粋な標記化合物B4を5.43g(理論値の58.7%)含む第一の画分が得られた。
【0162】
【表11】

【0163】
第二の画分は、ジアステレオ異性体(SP,SP)及び(SP,RP)の混合物(2.96g、理論値の32.0%)を含むものであった。新たな熱処理及びその後のクロマトグラフィー分離によって目的のジアステレオ異性体の収率を高めることができた。
【0164】
実施例14:式(B12)[R=イソプロピル、Me=メチル]の[(RC,RC),(SFc,SFc),(SP,SP)]−1,1’−ビス[2−(1−N,N−ジメチルアミノエチル)−1−フェロセニル]イソプロピルホスフィノフェロセンの調製
【0165】
a)n−BuLi13.7ml(22mmol、ヘキサン中1.6M)を、ヘキサン20ml中フェロセン(10mmol)1.86g及びTMDEA(20mmol)3.20mlの懸濁液に10分かけて加えた。撹拌を50℃で2時間継続したのち、ジチオフェロセンX10を含む反応混合物を次のステップで使用した。
【0166】
b)s−BuLi(1.3M、22mmol)のシクロヘキサン溶液15.4mlを、20℃未満(<20℃)で、t−ブチルメチルエーテル(TBME)30ml中(R)−N,N−ジメチル−1−フェロセニルエチルアミン[(R)−Ugiアミン]5.14g(20mmol)の溶液に10分かけて加えた。次いで、混合物を撹拌しながら0℃に加温し、この温度で1.5時間維持した。次いで、60℃未満(<60℃)に冷却し、ジクロロイソプロピルホスフィン2.47ml(20mmol)を10分かけて加えた。−78℃で30分間撹拌したのち、混合物をゆっくりと室温まで温め、その温度で1.5時間撹拌した。
【0167】
c)a)に記載のようにして調製した懸濁液を、−20℃未満で、b)に記載のようにして調製した反応混合物に加えた。混合物を室温で2.5時間撹拌したのち、水20mlを加えた。有機相を分別し、硫酸ナトリウムで乾燥させたのち、混合物が乾燥するまで溶媒を除去した。生成物B5が、三つのジアステレオ異性体(SP,SP)、(SP,RP)及び(RP,RP)の比1:4.8:7.7の混合物を含むオレンジ色固体として得られた。この比は31P NMRによって決定した。
31P NMR(CDCl3,101MHz):(RP,RP)異性体:δ−16.4(s)、(SP,RP)異性体:δ−18.8(s)及び−24.1(s);(SP,SP)異性体:δ−23.8(s)。
【0168】
d)c)に記載のようにして得られた固体を150℃で2時間維持した。そのとき、(SP,SP):(SP,RP):(RP,RP)の比は14:7:1であった。次いで、クロマトグラフィー分離(SiO2、まずヘキサン:EtOAc=3:1、次にヘキサン:EtOAc=3:1、Et3N1%含有)を実施した。これが、純粋な標記化合物B5を4.85g(理論値の57.5%)含む第一の画分を得た。
【0169】
【表12】

【0170】
第二の画分は、三つのジアステレオ異性体(SP,SP)、(SP,RP)及び(RP,RP)の混合物(2.20g、理論値の32.0%)を含むものであった。新たな熱処理及びその後のクロマトグラフィー分離によって目的のジアステレオ異性体の収率を高めることができた。
【0171】
C)金属錯体の調製
実施例C1:ロジウム錯体の調製(nbdはノルボルナジエンである)
配位子B3 11.6mg(0.0131mmol)及び[Rh(nbd)2]BF44.9mg(0.0131mmol)をCD3OD/CH2Cl2(1:1)0.8mlに溶解し、溶液を10分間撹拌した。次いで、溶液を測定のためにNMR管に移した。
31P NMR(121.5MHz,CD3OD):二つの二重項。可能な割り当て:δ11.5(d,JRh−P=172Hz)、8.3(d,JRh−P=172Hz)。
【0172】
D)使用例(水素化)
実施例D1〜D7:
【0173】
【化22】

【0174】
の水素化
【0175】
すべての操作は、アルゴン下、脱気された溶媒を使用して実施した。
【0176】
配位子B1 2.17mg(0.00238mol)及び[Rh(nbd)2]BF40.85mg(0.00227mmol)を、磁気撹拌機及びゴム製隔壁を備えた25mlのシュレンク(Schlenk)容器に秤量し、メタノール8mlに溶解した。溶液を約10分間撹拌したのち、メタノール27ml中、基質S1 8.4g(27.24mmol)の溶液を加えた。次いで、トリフルオロ酢酸1.7mgを加えた。得られた溶液を、加圧下、カニューレを介して、事前にアルゴンを充填しておいた50mlスチール製オートクレーブに移した。オートクレーブを、減圧弁を介して水素タンクに接続した。オートクレーブを閉じ、所望の温度の加熱浴に入れ、水素での加圧及び圧抜きを二回実施することによってアルゴンを水素で置き換えた。次いで、オートクレーブを水素で所望の圧まで加圧し、撹拌機をオンにすることによって水素化を開始した。水素化後、撹拌機をオフにし、オートクレーブを圧抜きし、水素化溶液を取り出した。転換率及びエナンチオマー過剰率(ee)をHPLCによって測定した(Chirapak AD;0.46×250mm、ヘキサン/エタノール(EtOH)/酢酸(AcOH)950:50:1、流量=0.7ml/min、20℃)。
【0177】
配位子B2〜B5及び比較用配位子C1に対しても同様な手順を使用した。
【0178】
比較用配位子C1は[(RC,RC,)(SFc,SFc,)(SP,SP)−1−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]フェニルホスフィノ−1’−[2−(1−ジメチルアミノエチル)フェロセニル]シクロヘキシルホスフィノフェロセンであった(WO2006/075166、実施例1を参照)。
【0179】
実施例D6〜D7及び比較例は、メタノール17ml中、基質S1 6gを使用し、トリフルオロ酢酸を加えなかったことを除き、実施例D1〜D5と同様なやり方で実施した。
【0180】
結果を表1に示す。
【0181】
【表13】

【0182】
実施例D8〜D10:
【0183】
【化23】

【0184】
の水素化
【0185】
すべての操作は、アルゴン下、脱気された溶媒を使用して実施した。
【0186】
[Rh(nbd)2]BF40.94mg(0.0025mmol)及び配位子(表2を参照)0.00275mmolを、磁気撹拌機及びゴム製隔壁を備えた25mlのシュレンク(Schlenk)容器に秤量した。メタノール1mlの添加後、混合物を20分間撹拌した。得られた触媒溶液に、メタノール4ml中、基質S2 143mg(0.5mmol)の溶液を加えた。得られた溶液を、加圧下、カニューレを介して、ガラスライナー及び磁気撹拌機を備えた50mlスチール製オートクレーブに移した。次いで、実施例D1〜D7と同様なやり方で水素化を実施した。転換率及びエナンチオマー過剰率(ee)をHPLCによって測定した(Chirapak AD-H)。結果を表2にまとめる。
【0187】
【表14】

【0188】
実施例D11〜D13:様々な基質の水素化
1.2mlアンプル中で水素化を実施した。撹拌の代わりに、アンプルを激しく振とうした。グローブボックス中、組成を表1から取り出すことができる組成物である、約0.5mlの量を有する溶液を、窒素雰囲気下、1.2mlアンプル中に調製した。触媒は、ジクロロエタン中、金属前駆体1当量を配位子1.3当量と混合したのち、減圧下でジクロロエタンを留去することにより、その場で調製した。基質を水素化溶媒に溶解し、溶液として触媒に添加した。アンプルを圧力定格加熱可能容器中に固定し、容器を閉じ、所望の温度をセットし、容器中の窒素雰囲気を、所望の圧を有する水素雰囲気で置き換え、シェーカをオンにすることによって水素化を開始した。
【0189】
【表15】

【0190】
結果を表3にまとめる。
【0191】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラセミ化合物、鏡像異性的に純粋なジアステレオ異性体又はジアステレオ異性体の混合物の形態の、式I
【化24】


(式中、
基R1は、同一又は異なり、それぞれがC1〜C4アルキルであり、
mは、0又は1〜4の整数であり、
nは、0又は1〜3の整数であり、
pは、0又は1〜5の整数であり、
2は、芳香族炭化水素基又はC結合芳香族ヘテロ炭化水素基であり、そして、R3は、脂肪族又はヘテロ脂肪族炭化水素基であり、
2及びR3は、同一又は異なり、それぞれが脂肪族又はC結合ヘテロ脂肪族炭化水素基であり、
4は、非置換又はC1〜C6アルキル、C1〜C6アルコキシもしくはハロゲン置換炭化水素基であり、
Aは、第二級アミノ基である)
の化合物。
【請求項2】
アルキル基R1がメチルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
m及びnが、互いに独立して、1又は0であり、pが5又は0であることを特徴とする、請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
炭化水素基R2及びR3が、非置換又は置換されており、及び/又はO、S、−N=、−NH−又はN(C1〜C4アルキル)からなる群より選択されるヘテロ原子を含み、脂肪族基が1〜22個の炭素原子及び0〜4個の前記ヘテロ原子を含み、芳香族基が3〜22個の炭素原子を含み、ヘテロ芳香族基が3〜22個の炭素原子及び1〜4個の前記ヘテロ原子を含むことを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項5】
芳香族基R2が、非置換又はハロゲン、C1〜C6アルキル、トリフルオロメチル、C1〜C6アルコキシ、トリフルオロメトキシ、(C653Si、(C1〜C12アルキル)3Si又はsec−アミノによって置換されているC6〜C14アリール及びC4〜C12ヘテロアリールからなる群より選択される基であり、ヘテロアリール基の場合、O、S、−N(C1〜C4アルキル)−及び−N=からなる群より選択されるヘテロ原子を含むことを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項6】
2が、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C1〜C6アルキル)C64、3−(C1〜C6アルキル)C64、4−(C1〜C6アルキル)C64、2−(C1〜C6アルコキシ)C64、3−(C1〜C6アルコキシ)C64、4−(C1〜C6アルコキシ)C64、2−(トリフルオロメチル)C64、3−(トリフルオロメチル)C64、4−(トリフルオロメチル)C64、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C63、3,5−ビス(C1〜C6アルキル)263、3,5−ビス(C1〜C6アルコキシ)263又は3,5−ビス(C1〜C6アルキル)2−4−(C1〜C6アルコキシ)C62であることを特徴とする、請求項5記載の化合物。
【請求項7】
脂肪族又はC結合ヘテロ脂肪族炭化水素基R2が、直鎖状又は分岐鎖状C1〜C12アルキル、直鎖状又は分岐鎖状C2〜C12ヘテロアルキル、非置換又はC1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C4〜C12シクロアルキル又はC4〜C12シクロアルキル−CH2−、非置換又はC1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C3〜C12ヘテロシクロアルキル又はC3〜C12ヘテロシクロアルキル−CH2−、C7〜C14アラルキル及びC4〜C12ヘテロアルキルからなる群より選択される基であり、ヘテロ原子が、O、S、−NH−及び−N(C1〜C4アルキル)−からなる群より選択されるものであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項8】
2及びR3が、互いに独立して、C1〜C6アルキル、C5〜C8シクロアルキル、C5〜C8シクロアルキルメチル又はC7〜C10ポリシクロアルキルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項9】
2が、o−フリル、フェニル、ナフチル、2−(C1〜C6アルキル)C64、3−(C1〜C6アルキル)C64、4−(C1〜C6アルキル)C64、2−(C1〜C6アルコキシ)C64、3−(C1〜C6アルコキシ)C64、4−(C1〜C6アルコキシ)C64、2−(トリフルオロメチル)C64、3−(トリフルオロメチル)C64、4−(トリフルオロメチル)C64、3,5−ビス(トリフルオロメチル)C63、3,5−ビス(C1〜C6アルキル)263、3,5−ビス(C1〜C6アルコキシ)263及び3,5−ビス(C1〜C6アルキル)2−4−(C1〜C6アルコキシ)C62であり、R3が、C1〜C6アルキル、C5〜C8シクロアルキル、C5〜C8シクロアルキルメチル又はC7〜C10ポリシクロアルキルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項10】
4が、直鎖状又は分岐鎖状C1〜C8アルキル、非置換又はハロゲン(F、Cl又はBr)、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C4〜C8シクロアルキル又はC4〜C8シクロアルキル−CH2−、非置換又はハロゲン(F、Cl又はBr)、C1〜C6アルキルもしくはC1〜C6アルコキシ置換C6〜C14アリール又はC7〜C14アラルキルからなる群より選択される基であることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項11】
4が、C1〜C4アルキル、C5〜C6シクロアルキル、フェニル、C1〜C4アルキルフェニル又はC1〜C4アルキルベンジルであることを特徴とする、請求項10記載の化合物。
【請求項12】
4がメチルであることを特徴とする、請求項10記載の化合物。
【請求項13】
第二級アミノ基が、式−NR56(式中、R5及びR6は、同一又は異なり、それぞれがC1〜C8アルキル、C5〜C8シクロアルキル、フェニル又はベンジルであるか、R5及びR6が、N原子といっしょになって、五〜八員環を形成する)に対応することを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項14】
5及びR6が同一の基であり、それぞれがC1〜C4アルキルであるか、いっしょになって、テトラメチレン、ペンタメチレン又は3−オキサ−1,5−ペンチレンであることを特徴とする、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
基−CHR4−Aが、1−ジメチルアミノエタ−1−イル及び1−(ジメチルアミノ)−1−フェニルメチルであることを特徴とする、請求項1記載の化合物。
【請求項16】
遷移金属の群から選択される金属と、配位子としての、請求項1〜15のいずれか記載の式Iの化合物の一つとの錯体。
【請求項17】
遷移金属が、Cu、Ag、Au、Fe、Ni、Co、Rh、Pd、Ir、Ru及びPtからなる群より選択される、請求項16記載の金属錯体。
【請求項18】
触媒の存在下、プロキラルな有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加によってキラルな有機化合物を調製する方法であって、付加が、請求項16記載の少なくとも一つの金属錯体の触媒量の存在下で実施されることを特徴とする方法。
【請求項19】
有機化合物が、式VI
【化25】


(式中、
03及びR04は、互いに独立して、H、C1〜C6アルキル、C1〜C6ハロアルキル、C1〜C6アルコキシ、C1〜C6アルコキシ−C1〜C6アルキル又はC1〜C6アルコキシ−C1〜C6アルキルオキシであり、そして、R05は、C1〜C6アルキルである)
に対応し、金属錯体及び触媒としての、式Iの配位子とのロジウム錯体の存在下、水素によって水素化されて、式VII
【化26】


の化合物を与える、請求項18記載の方法。
【請求項20】
キラルな有機化合物の調製のための、好ましくはプロキラルな有機化合物中の炭素−炭素又は炭素−ヘテロ原子二重結合への水素の不斉付加のための均一系触媒としての、請求項16記載の金属錯体の使用。

【公表番号】特表2010−519272(P2010−519272A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550696(P2009−550696)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051836
【国際公開番号】WO2008/101868
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(599163159)ソルヴィーアス アクチェンゲゼルシャフト (22)
【氏名又は名称原語表記】Solvias AG
【Fターム(参考)】