説明

不織布用エマルション

【課題】ウェット強度、吸水性のいずれにも優れ、かつホルムアルデヒドの発生が少ないのみならず、柔軟性に優れ風合いの良い不織布の製造に好適なエマルションの提供。
【解決手段】アクリル酸を必須単量体成分とした酸価が200mgKOH/g以上である水溶性重合体の中和物の存在下に、アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物を乳化重合させることにより得られるガラス転移温度が80℃以下の不織布用エマルション。
該水溶性重合体の中和物のpHが3〜6.5であり、該単量体混合物がアクリル酸アルキル、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを必須成分とするものであって、アクリル酸アルキルの割合が該混合物に対し55質量%以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布製造用エマルションに関するものであり、さらに詳しくは、コットン、パルプ、麻、レーヨン等のセルロース系繊維からなる不織布の製造に適するエマルションに関するものである。本発明のエマルションを使用して得られるセルロース系不織布は、吸水性や柔軟性に優れており、ワイプ用および吸水シート用を含む広範な用途に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
セルロース系繊維を原料繊維とするセルロース系不織布は、水系液体に対して優れた吸水性を示すことから、家庭用および産業用のワイプまたは吸水シートとして使用されている。上記セルロース系不織布は、親水性に優れる反面、繊維・繊維間または繊維・結合剤間に水が浸入し易く、その結果ウェット状態では強度(以下、ウェット強度という)が低下するという問題があった。従来、セルロース系不織布の親水性を保持しながら、しかもウェット状態での強度を高めることができる繊維用バインダーとして、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびアクリル系共重合体等を主成分とする水性樹脂分散体等が知られている。
【0003】
しかしながら、上記の水性樹脂分散体を繊維バインダーとして用いても、なお十分なウェット強度が得られないため、上記水性樹脂分散体とともに他の樹脂を併用することが提案されている。すなわち、特開平3−74416号公報には、該樹脂分散体とともに部分メチル化メチロールメラミン樹脂を併用することが提案されている。しかしながら、この方法で得られる不織布からはホルムアルデヒドが発生するという問題があり、その用途は限られていた。また、特開昭61−289161号公報には、ホルムアルデヒドを発生しない含窒素グリオキザール樹脂を併用することが提案されているが、この方法では不織布が黄変するという問題があった。それ以外にも、カルボキシル基またはスルホン酸基を有する水溶性高分子を併用することが知られているが、不織布への吸水性の付与とウェット強度を両立させることが難しく、得られる不織布の総合的な性能は今一歩であった。
【0004】
特開平6−263807号公報や特開2000−110059号公報には、不織布への吸水性の付与とウェット強度を両立させ、かつホルムアルデヒドを低減させる目的で、(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする共重合体を用いることが提案されている。しかし、該共重合体を使用した不織布は、ウェット強度を高めようとすると、柔軟性に劣り、風合いが硬く使用感の悪いものであったり、ホルムアルデヒドの低減が不十分なものであった。
【0005】
【特許文献1】特開平3−74416号公報
【特許文献2】特開昭61−289161号公報
【特許文献3】特開平6−263807号公報
【特許文献4】特開2000−110059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ウェット強度、吸水性のいずれにも優れ、かつホルムアルデヒドの発生が少ないのみならず、柔軟性に優れ風合いの良い不織布の製造に好適なエマルションの提供を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、アクリル酸単量体を必須成分として特定の酸価を有する水溶性重合体の存在下、アクリル酸アルキルを主成分とする単量体混合物を乳化重合させることにより得られたエマルションにより、本目的が達成できることを見出し本発明を完成させた。すなわち、本発明は、
〔1〕アクリル酸を必須単量体成分とした酸価が200mgKOH/g以上である水溶性重合体の中和物の存在下に、アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物を乳化重合させることにより得られるガラス転移温度が80℃以下の不織布用エマルション。
〔2〕水溶性重合体の中和物のpHが3〜6.5である〔1〕に記載の不織布用エマルション。
〔3〕水溶性重合体がアクリル酸、またはアクリル酸単量体と、アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミドおよびアクリルアミドアルカンスルホン酸(塩)からなる群より選ばれた1種以上の単量体を共重合させたものである〔1〕〜〔2〕のいずれかに記載の不織布用エマルション。
〔4〕アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物が、混合物の全単量体に対しアクリル酸アルキルの割合が55質量%以上のものである〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の不織布用エマルション。
〔5〕アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物が、アクリル酸アルキル、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを必須成分とするものである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の不織布用エマルション。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の不織布用エマルションおよびセルロース系繊維からなる不織布。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の不織布用エマルションを使用すれば、ウェット強度、吸水性のいずれにも優れ、かつホルムアルデヒドの発生が少ないのみならず、柔軟性に優れ風合いの良い不織布が得られる。このようなバランスの良い性能は、従来のセルロース系不織布になかったものであり、本発明の価値は大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明で使用する水溶性重合体は、アクリル酸を必須単量体として、その単独重合体またはその他の単量体との共重合体である。アクリル酸を必須単量体として使用するのは、単量体の親水性が大きくて吸水率が向上し、柔軟性のよい不織布が得られるためである。
その他の共重合体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル等のアクリル酸アルキル類、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類(なお、アクリルアミドとメタクリルアミドを総称して(メタ)アクリルアミドという)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミドエタンスルホン酸、2−アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリルアミドブタンスルホン酸等のアクリルアミドアルカンスルホン酸(その塩であってもよい。塩として用いる場合はナトリウム塩、カリウム塩などが例示され、ナトリウム塩が好ましい。以下、アクリルアミドアルカンスルホン酸およびその塩をアクリルアミドアルカンスルホン酸(塩)と総称する。)類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキル類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の官能基含有単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のカルボン酸ビニル類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類が例示される(なお、以後アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルを総称して(メタ)アクリル酸エステルという)。
柔軟性が良く、不織布に処理しやすいエマルションを得るために、その他の単量体には、アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミド、アクリルアミドアルカンスルホン酸(塩)の少なくとも1種以上を使用することが好ましい。より好ましい単量体は、アクリル酸アルキルおよび/または(メタ)アクリルアミドである。
アクリル酸アルキルとしては、柔軟性や安定性を高めるために該アルキル基がC=1〜18の整数のいずれかが好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルを使用することがより好ましい。
(メタ)アクリルアミドとしては、共重合性が良い点からアクリルアミドが好ましい。
アクリルアミドアルカンスルホン酸(塩)としては、入手のし易さから2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)が好ましい。
もちろん、上記の3種類の単量体に変えて、または上記の単量体とともに、水溶性重合体の物性を損なわない範囲で、その他の単量体を共重合しても良い。
【0010】
本発明で使用する水溶性重合体は、その酸価が200mgKOH/g以上、好ましくは250mgKOH/g、更に好ましくは300mgKOH/g以上である。200mgKOH/g未満となると不織布として使用する場合のウェット強度が低下する。
前記水溶性重合体におけるアクリル酸と前記アクリル酸アルキル等のその他単量体との比率は、該重合体の酸価が200mgKOH/g以上になるようにすれば良い。
水溶性重合体の分子量は、GPCで測定した重量平均分子量が1000〜50万であり、好ましくは3000〜5万である。1000未満となるとウェット強度が低下し、かつホルマリン発生量を十分低減できない。50万を超えると、出来上がったエマルションの粘度が高くなり、使用上の問題がある。
本発明の水溶性重合体のガラス転移温度(以下、Tgという)については、特に制限ないが、不織布の柔軟性の点から100℃未満が好適に使用できる。
【0011】
本発明の水溶性重合体は、その重合方法について特に限定されないが、例えば、水および/またはアルコールの存在下、所定の単量体を重合開始剤によってラジカル重合することにより製造することができる。
【0012】
本発明の水溶性重合体は、その合成後に、不織布のウェット強度を向上させたり、ホルムアルデヒド発生量を十分低減させるために、塩基性化合物によりpH3〜6.5に中和して使用するのが好ましい。pHが6.5を超えると不織布を製造する際に、最終製品である不織布用エマルションの架橋が不十分となり、ホルムアルデヒドが発生しやすい。pHが3未満では該エマルションの酸性が強すぎ、取り扱いし難い。
かかる中和に用いる塩基性化合物としては、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジメタノールアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン類、水酸化ナトリウム等の無機水酸化物、アンモニア等が例示される。好ましい塩基性化合物は、不織布作成時の加熱により揮発可能なアンモニアである。
【0013】
本発明においては、前記水溶性重合体の中和物の存在下で、アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物を乳化重合して、目的の不織布用エマルションを得る。
かかる単量体混合物と水溶性重合体の割合は、単量体混合物が100質量部に対して水溶性重合体が0.5〜50質量部(固形分換算)であり、好ましくは1〜30質量部である。0.5質量部未満であると、該エマルションのホルムアルデヒドの発生量が増え、50質量部を超えると不織布のウェット強度が低下する可能性がある。
【0014】
単量体混合物で使用するアクリル酸アルキルとしては、前記水溶性重合体で例示した単量体を使用することができる。最終製品である不織布用エマルションの柔軟性を高め風合いを良くする目的で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルが好ましく用いられる。
かかるアクリル酸アルキルの使用量は、単量体混合物の全単量体を基準にして55質量%以上が最終製品の強度と柔軟性のバランスの点から好ましい。
【0015】
単量体混合物は、前記アクリル酸アルキル以外に、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを必須成分とすることが好ましい。
本発明に使用するN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミドとしては、 N− メトキシメチル(メタ)アクリルアミドおよび N− ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド(以下これらを架橋性アミドと総称する)では、N−メチロール(メタ)アクリルアミドがより好ましい。本発明における共重合エマルションを不織布の繊維バインダーとして使用するとき、加熱処理の工程において、該共重合体を構成する上記架橋性アミドによる自己架橋またはセルロース繊維の水酸基との架橋反応が起こり、その結果不織布の強靱性と耐水性が得られると同時に、ウェット強度が向上する。
【0016】
本発明に使用する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシポリオキシエチレン、(メタ)アクリル酸ヒドロキシポリオキシプロピレンおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシポリオキシブチレン等のアルキル基のみならず酸素を含んだアルキル基を含むことができる。入手がし易く価格も安い(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルが好ましい。かかる(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルは、エマルションの架橋性を高め、不織布のウェット強度を上げるために効果がある。
【0017】
本発明の単量体混合物には、それ以外の単量体も所望により使用することができる。かかる単量体としては、スチレン、α―メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸およびフマル酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸類、酢酸ビニル等のビニルエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類、エチレン、プロピレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン類、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等のジエン類、ビニルピリジンおよびN−ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0018】
上記その他の単量体の内、好ましい単量体の一つは、スチレン類である。スチレン類は不織布用エマルションのガラス転移温度を調整するために使用することができる。アクリル酸アルキル、架橋性アミドおよび(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルと共重合しやすい点からスチレンがより好ましい。
また、もう一つの好ましい単量体は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸のカルボキシル基は、架橋性アミドの自己架橋および架橋性アミドと水酸基との架橋において触媒として作用し、得られる不織布のウェット強度を向上させることができる。
【0019】
本発明の単量体混合物の各単量体の割合は、混合物の全単量体を基準にして、アクリル酸アルキル55〜90質量%、架橋性アミド0.2〜5質量%、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル0.1〜5質量%、その他単量体0〜45質量%(ただし、全量が100質量%となる)であることが好ましい。より好ましくは、アクリル酸アルキル55〜70質量%、架橋性アミド0.5〜3質量%、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル0.5〜3質量%、その他単量体としてスチレンであり20〜40質量%(ただし、全量が100質量%となる)である。
【0020】
本発明の単量体混合物は、水溶性重合体の存在下に、通常の乳化重合法により重合することができる。かかる乳化重合において使用される乳化剤としては、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のノニオン界面活性剤、ポリカルボン酸系高分子界面活性剤、ポリビニルアルコール等のノニオン型高分子界面活性剤が挙げられ、それらは単独でまたは2種以上併用で使用できる。乳化剤の好ましい使用量は、使用する乳化剤の種類によって異なるものの、通常単量体100質量部当たり、0.05〜5質量部である。
【0021】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過酸化水素、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が使用できる。これらは、重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を併用したレドックス系で使用してもよい。この使用量は、公知の乳化重合体において使用される量と同程度でよい。また、最終製品である不織布用エマルションにおける好ましい単量体混合物の濃度は10〜70重量%である。
【0022】
本発明の不織布用エマルションは、そのTgが80℃以下である。Tgが高いと風合いが悪くなる。好ましいTgは30℃以下である。
【0023】
本発明の不織布用エマルションは、所望により他の物質が添加されていても良い。添加し得る物質の具体例としては、消泡剤、防腐剤、N−メチロール系架橋反応用の触媒およびホルムアルデヒド補集剤等が挙げられる。不織布を製造するために、本発明のエマルションとともに使用される原料繊維としては、コットン、パルプおよび麻等の天然セルロース系、レーヨン系、ポリエステル系、ポリアミド系、羊毛およびジュート等が挙げられる。好ましくは、大きな吸水性と優れたウェット強度の両立が従来困難とされていたレーヨンおよび天然セルロース系の繊維であり、さらに好ましくは、天然セルロース系繊維である。
以下、試験例および比較例を挙げることにより、本発明をさらに具体的に説明する。なお、各例における「部」または「%」は、いずれも質量基準である。
【0024】
各例によって製造された共重合体および不織布については、以下の物性および性質を測定することにより、性能を評価した。
1)共重合体の性質
a)ガラス転移温度
共重合体を40℃で24時間乾燥した後、150℃で4分間熱処理した樹脂について、示差走査熱量測定装置〔セイコー電子工業(株) ディスクステーションSSC5200H〕で測定した。
【0025】
b)酸価
共重合体を固形分換算で1gとり、フェノールフタレイン指示薬を添加し、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し中和するまでの水酸化ナトリウムの固形分のmg数として求めた。
【0026】
c)遊離ホルマリン量
昭和49年厚生省令34号に定められたアセチルアセトン法に従って、エマルションから遊離するホルムマリンの量を評価した。既知量のホルマリン溶液で検量線を作成し、エマルションに含まれるホルマリン量をppmとして求めた。
【0027】
d)分子量
以下の条件でGPCの測定をおこない、共重合体の分子量を算出した。
検出器 日立 L−3300 RI410nm
ポンプ 日立 L−6200
恒温槽 日立 L−5020
カラム 東ソー TSK-GEL G-6000PWxl、G-4000PWxl、G-2500PWxl
基準 ポリアクリル酸ナトリウム
溶離液 0.1M-リン酸バッファー+0.1M−NaCl 水溶液
【0028】
2)不織布性能
a)評価用不織布の作成
市販のパルプ不織布を以下のように処理したものを用いて、不織布用エマルションの性能評価を実施した。繊維目付量約40グラム/m2のパルプ不織布を1時間熱水で処理したのち、40℃で24時間乾燥した。このパルプ不織布にエマルションの固形分が、繊維目付量に対して15%量付着するように含浸加工した後、150℃で4分間乾燥し、さらに190℃で1分間熱処理を実施した。
【0029】
b)不織布風合い
評価用不織布(以下単に試験布という)を手で触り、その風合いを市販のパルプ不織布を普通とした時、軟らかい、やや軟らかい、普通、やや硬い、硬いの5 段階で評価した。
【0030】
c)不織布ウェット強度
試験布を25mm幅に裁断し、23℃で24時間水に浸漬した後、水から取り出し直ちに、引張試験機〔東洋精機(株) TENSILON/UTM−4 L〕を用いて、引張速度200mm/分、チャック間距離50mm、23℃、湿度65%の雰囲気下で引張試験を行った。
【0031】
d)吸水時間
試験布を100mm×100mmの正方形に切断し、5枚を重ね、四隅をホッチキスで止めたものを、試験片とした。試験片を20℃に調整した水に静かに落とし、5枚全体が濡れるまでの時間を測定した。吸水時間が短いほどその不織布は吸水性に優れることになる。目標よりも極めて短い吸水時間が得られた場合は◎、短い吸水時間が得られた場合は○、さらに目標よりも長い吸水時間しか得られない場合は×とした。
【0032】
〔参考例1〕
温度計、攪拌機、還流冷却器、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器内を窒素ガスで置換した後、イソプロピルアルコール200部を仕込んだ。別にアクリル酸50部、アクリル酸メチル50部、水100部を混ぜて単量体液とした。反応器を80℃まで加熱した後、過硫酸アンモニウムの25%水溶液を3部添加し、前記単量体液と過硫酸アンモニウムの25%水溶液を20部3時間かけて滴下した。滴下終了後1.5時間反応を継続した後、水を添加しながらイソプロピルアルコールを減圧除去した後、25%アンモニア水でpH5.5に調整することで、固形分40%、重量平均分子量8000、酸価390mgKOH/gの水溶性重合体a1を得た。
【0033】
〔参考例2〜5〕
参考例1と同様にして水溶性重合体a2〜a5を得た。結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
〔試験例1〕
アクリル酸n−ブチル(BA)35部、アクリル酸エチル(EA)28部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)1部、N−メチロールアクリルアミド(N−MAM)1部、スチレン(St)35部を水30部およびラウリル硫酸ナトリウム0. 5部と混合し、ホモミキサーを使用して単量体混合物の乳化液を作製した。水90部、参考例1の水溶性重合体a1を10部(固形分4.0部)仕込んだフラスコを85℃に加温した後、25%過硫酸アンモニウム0.8部を添加した。次に単量体混合物の乳化液と25%過硫酸アンモニウム2部を4時間かけて滴下した。
乳化液滴下終了後、2時間放置した後冷却し、目的の不織布用エマルションを得た。結果を表2に示した。
【0036】
〔試験例2〕
アクリル酸n−ブチル30部、アクリル酸エチル27部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)1部、N−メトキシメチルアクリルアミド(N−MMA)2部、スチレン40部に変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0037】
〔試験例3〕
アクリル酸n−ブチル60部、アクリル酸2−エチルへキシル(HA)7部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1部、N−メトキシメチルアクリルアミド2部、スチレン30部に変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0038】
〔試験例4〕
アクリル酸n−ブチル40部、メタクリル酸ブチル(BMA)16部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2部、N−メチロールアクリルアミド2部、スチレン40部に変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0039】
〔試験例5〕
参考例1のa1を30部(固形分12.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0040】
〔試験例6〕
参考例1のa1を70部(固形分28.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0041】
〔試験例7〕
参考例1のa1を110部(固形分44.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0042】
〔試験例8〕
参考例1のa3を10部(固形分4.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0043】
〔試験例9〕
参考例1のa2を10部(固形分4.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0044】
〔試験例10〕
アクリル酸ブチル16部、アクリル酸エチル26部、メタクリル酸ブチル14部、、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2部、N−メチロールアクリルアミド2部、スチレン40部に変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0045】
〔試験例11〕
アクリル酸n−ブチル20部、アクリル酸エチル6部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2部、N−メチロールアクリルアミド2部、スチレン70部に変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0046】
〔試験例12〕
参考例1のa4を10部(固形分4.0部)仕込んだ以外は試験例1と同様に重合した。結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【0048】
〔比較例1〕
スチレン35部、アクリル酸n−ブチル35部、アクリル酸エチル28部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル1部、N−メチロールアクリルアミド1部を水30部およびラウリル硫酸ナトリウム1.5部と混合し、ホモミキサーを使用して単量体エマルションを作製した。水90部、参考例1のa5を30部(固形分12.0部)仕込んだフラスコを85℃に加温した後、25%過硫酸アンモニウム0.8部を添加した。次に単量体エマルションと25%過硫酸アンモニウム2部を4時間かけて滴下した。
単量体エマルション滴下終了後、2時間放置した後冷却し、目的のエマルションを得た。結果を表3に示した。
【0049】
〔比較例2〕
スチレン80部、アクリル酸n−ブチル10部、アクリル酸エチル6部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル2部、N−メチロールアクリルアミド2部を変えた以外は試験例1と同様に重合した。結果を表3に示した。
【0050】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、大きな吸水性を有し、ウェット強度に優れ、且つ風合いにも優れた不織布用エマルションが容易に得られ、ホルムアルデヒドの発生が少ないため、衛生面で環境汚染物質低減の要求が大きい家庭用、工業用のワイプ、吸水シートや紙お絞り用のセルロース系不織布に好適に使用できる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸を必須単量体成分とした酸価が200mgKOH/g以上である水溶性重合体の中和物の存在下に、アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物を乳化重合させることにより得られるガラス転移温度が80℃以下の不織布用エマルション。
【請求項2】
水溶性重合体の中和物のpHが3〜6.5である請求項1に記載の不織布用エマルション。
【請求項3】
水溶性重合体がアクリル酸、またはアクリル酸単量体と、アクリル酸アルキル、(メタ)アクリルアミドおよびアクリルアミドアルカンスルホン酸(塩)からなる群より選ばれた1種以上の単量体を共重合させたものである請求項1〜2のいずれかに記載の不織布用エマルション。
【請求項4】
アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物が、混合物の全単量体に対しアクリル酸アルキルの割合が55質量%以上のものである請求項1〜3のいずれかに記載の不織布用エマルション。
【請求項5】
アクリル酸アルキルを必須成分とする単量体混合物が、アクリル酸アルキル、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはN−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、および(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルを必須成分とするものである請求項1〜4のいずれかに記載の不織布用エマルション。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の不織布用エマルションおよびセルロース系繊維からなる不織布。




【公開番号】特開2007−138325(P2007−138325A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−332127(P2005−332127)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】