説明

不織布製磁性体

【課題】 不織布類をウレタン一体発泡成形する際に使用する不織布製磁性体に関し、更に詳しくは不織布類を発泡成形型内の所定位置に簡単かつ正確に固定することができる不織布製磁性体を提供すること。
【解決手段】 不織布からなる基材1の表面に、アクリルエマルジョン溶液をスプレー塗布・乾燥してなる樹脂被膜2を設け、この樹脂被膜2上に平均粒度が15〜400ミクロン(μm)の軟鉄、硬鉄、鋳鉄、還元鉄などよりなる鉄粉をアクリルエマルジョン溶液中に混合した溶液をロールコーティングし乾燥させてなる磁性層3を設けたものとした。また、基材1の裏面に粘着剤層4を介して剥離紙5が貼着されているものとすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維系不織布類をウレタンと一体発泡成形する際に使用する不織布製磁性体に関し、更に詳しくは繊維系不織布類をウレタン発泡成形型内の所定位置に簡単かつ正確に固定することができる不織布製磁性体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば各種シート用のクッション材として、フェルト、不織布など繊維系の不織布類(以下、不織布類という)をウレタン発泡体の面に一体発泡成形したものが広く利用されている。このような不織布類の一体発泡成形品を成形する場合、不織布類を発泡成形型内の所定位置に固定する必要があり、そのために、例えば特許文献1や特許文献2に示されるように、発泡成形型内の所定位置に永久磁石を配設しておく一方、不織布類に磁性を付与しておき、磁力により両者を接合して不織布類を発泡成形型内の所定位置に固定する方法が採られている。
【0003】
しかしながら、従来方法によるときは、比較的単純な表面形状の発泡成形型には適用可能であるが、複雑な形状や3次元的に深く凹んだ部分等に不織布類を沿わせることは難しく、デザイン上の制約を受けるという問題点や、不織布類と型面との接合力も弱く、不織布類の裏面側へウレタン発泡溶液が侵入・固化してシート使用時に異音発生の要因になるという問題点もあった。このため、現在では磁力を強く帯び、かつ錆びにくいフェライト系や希土類元素の酸化物などの薄肉スチールテープ磁性体を粘着剤などで不織布類に貼り付けて使用されているが、これは非常に高価なうえに環境負荷物質である6価クロムを含有していることがわかり、環境面から使用できなくなってきているという問題が生じてきた。
【特許文献1】特開2001−252930号公報
【特許文献2】特開2002−120236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような問題点を解決して、不織布類一体発泡成形時において、該不織布類に適用して、複雑な形状や3次元的に深く凹んだ部分等を有する発泡成形型であっても不織布類を型面に沿わせて簡単かつ正確に固定することができ、また不織布類と型面との吸着力も強力で、不織布類の裏面側へのウレタン発泡溶液の侵入を確実に防止することができ、更には安価で取り扱い性にも優れている不織布製磁性体を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた本発明の不織布製磁性体は、不織布からなる基材表面に、予めアクリルエマルジョン溶液を50〜250g/mの割合でコーティングし乾燥させてなる樹脂被膜を形成しておき、この樹脂被膜の表面に4000〜15000cpsの高粘性または増粘したアクリルエマルジョン溶液中に平均粒度が15〜400ミクロンで角のない不定形の鉄粉を混合した溶液を、200〜500g/mの割合で均一に塗布乾燥させることにより、基材表面に磁束密度の高い磁性層を設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の不織布製磁性体は、不織布からなる基材表面に、予めアクリルエマルジョン溶液を50〜250g/mの割合でコーティングし乾燥させてなる樹脂被膜を形成しておき、この樹脂被膜の表面に4000〜15000cpsの高粘性または増粘したアクリルエマルジョン溶液中に平均粒度が15〜400ミクロンで角のない不定形の鉄粉を混合した溶液を、200〜500g/mの割合で均一に塗布乾燥させることにより、基材表面に磁束密度の高い磁性層を設けた構造で、柔軟性を有することから、不織布類一体発泡成形時において、3次元的に深く凹んだ部分等を有する発泡成形型であっても各種の不織布類を型面に沿わせて固定可能で、また不織布類と型面との吸着力も強力で、不織布類の裏面側へのウレタン発泡溶液の侵入も確実に防止できるのである。
なお、本発明品の永久磁石による吸着強さは、高価なスチールシートには及ばないものの、現在一部で使用されている不織布磁性体よりも約50%も吸着力が大きいことが確認できている(後述の、表1参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、図面を参照しつつ本発明の好ましい形態を示す。
図1は、本発明の構造を説明するための模式的な概略断面図を示すものであり、図中1は不織布類からなる基材、2は接合層である樹脂被膜、3は磁性層である。また、図2はその他の実施例、図3は図2の斜視図を示すものであり、図中4は粘着剤層、5は離型紙、6はハーフカットである。
【0008】
本発明の不織布製磁性体は、不織布からなる基材1表面に、汎用のアクリルエマルジョン溶液をスプレー塗布・乾燥してなる樹脂被膜2を介して、平均直径が15〜400ミクロン(μm)の軟鉄、硬鉄、鋳鉄、還元鉄などの鉄粉をアクリルエマルジョン接着剤溶液、またはアクリルエマルジョン溶液中に混合した溶液をロールコーティングし乾燥させてなる磁性層3を設けた構造となっている。
【0009】
基材1は、磁性を有する鉄粉を均一に繊維の表面へ保持して、発泡成形型の複雑な形状や3次元的な凹凸面にも十分になじむ柔軟性と、貼り付ける場合の取り扱い易い適度な剛性を有するもので、一体発泡成形すべき不織布類の適正箇所に貼って発泡成形型にセットされた際に、不織布類を所定の位置にしっかりと固定されて一体発泡成形に供するものであり、成形後は全く不必要なものとなる。このため、従来から磁性体基材として安価な不織布が注目されてはいたが、その表面に均一で緻密な金属粒子の層を形成し良好な永久磁石との吸着力を得ることは困難であり、広く実用化されていないのが現状である。
そこで本発明者は、細い繊維の特定の不織布からなる基材の表面に、均一で緻密な金属粒子の層を形成する方法について鋭意研究した結果、樹脂被膜を介して特定の磁性層を設けた構造とすることにより、均一で緻密な金属粒子の層をできるだけ多く不織布の表面部に形成できることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
前記基材1は、1〜5デニール、好ましくは1.5〜3デニールの細い長繊維からなり、目付けが45〜85g/m、好ましくは60〜70g/mの不織布からなるものが好ましい。
基材1となる不織布は、ウレタン一体発泡成形用の不織布類を成形型へ固定する際だけに必要なもので強度はほとんど不要なため、繊維は4デニール以下の比較的細いものでよく、長繊維のものが好ましい。また、繊維素材としてはポリエステルなどの各種の合成繊維の安価な再生繊維を用いることができる。
【0011】
不織布としては、同種類の繊維や混合繊維や再生繊維よりなるものを使用するが、磁性体の鉄粉を繊維表面に良好な状態で保持し強力な接合力を得るためには、繊維が1〜4デニールの細い繊維で、目付けが45〜86g/mの範囲のものが必要であることを見出した。繊維が4デニールより大きく、目付けが45g/m未満では、鉄粉がほとんど裏面側へ抜け出てしまい繊維の表面へ効率良く留めることが困難となり、磁性吸着力が低下する原因になる。一方、目付けが85g/mより大きいと、後述する鉄粉入りアクリルエマルジョン接着剤溶液の含浸が内部に深く進み乾燥時間が長くなって生産性が著しく低下するとともに、複雑な三次元的な面へなじみ易い柔軟性が低下し、鉄粉が不織布の内部へ多く侵入して表面に緻密な金属層が形成されにくくなり、より強い磁性体層が得られない原因になるからである。
【0012】
樹脂被膜2は、通常のアクリルエマルジョン溶液をスプレー塗布・乾燥してなるものである。
不織布からなる基材1に、予め汎用のアクリルエマルジョンなどの溶液を50〜250g/mの割合でスプレー塗布・乾燥して繊維の表面に薄い樹脂被膜2を作ることにより、後述するロールコートされる鉄粉を混合したアクリルエマルジョン溶液や鉄粉の粒子が繊維層の奥深くまで浸透しにくいようにしてロールコートし易くすると共に、金属粉末粒子ができるだけ繊維表面に留まるようにする。ここで、アクリルエマルジョン溶液の塗布量を50〜250g/mの割合としたのは、50g/m未満では十分な樹脂被膜ができず、鉄粉と混合したアクリルエマルジョン溶液の繊維への吸収を効果的に防ぐことができず、一方、250g/mより多い塗布量では不織布の柔軟性が阻害され良好な効果が得られないからである。
これにより本発明の繊維の太さ、不織布の目付け、鉄粉の平均粒度、鉄粉の混合割合、アクリリルエマルジョン溶液または接着剤溶液の粘度、その塗布量などの効果が相俟って、従来にない高容量の鉄粉層が不織布の表面部に形成され、永久磁石との良好な吸着力が鉄粉の磁性体でも得られるようになるのである。
【0013】
磁性層3は、平均粒度が15〜400ミクロン(μm)で、フェライト系や希土類元素の酸化物などの磁性体以外の通常の軟鉄、硬鉄、鋳鉄、還元鉄などの鉄粉を、アクリルエマルジョン溶液またはアクリルエマルジョン接着剤溶液中に混合した溶液をロールコーティングし乾燥させてなるものである。
より具体的には、鉄粉の微細粒子の平均粒度が15〜400ミクロン(μm)で角のとれた不定形のものを50〜90重量%、好ましくは60〜70重量%の割合でアクリル系エマルジョン溶液またはアクリルエマルジョン接着剤溶液に混合し、基材1に200〜500g/m、好ましくは250〜400g/mの割合でロールコーティングし乾燥させる。
【0014】
この時、上記アクリルエマルジョン溶液は鉄粉の粒子を混合する前に、予め4000〜15000cpsの高粘度のもの、またはアンモニヤ水で粘度調整を行い、比重の異なる混合溶液が均一に、かつ基材にあまり多く含浸しないで均一に塗布されるようにコントロールし、鉄粉の粒子ができるだけ繊維の上面に均一に適量留まるようにして乾燥させると、緻密な薄い鉄粉層の磁性体が形成されて成形型に取り付けられた永久磁石と接触した場合に全面が接触し良好な吸着力が得られることを解明した。
鉄粉の平均粒度が15ミクロン(μm)未満であると、繊維素材の中へ入り込む比率が大きくなり良好な鉄粉の面を構成するには多量の鉄粉が必要になりコスト高となる。また平均粒度が400ミクロン(μm)より大きいと、細い繊維との接触面積が小さくなり鉄粉が剥離しやすくなるうえ、鉄粉が重なり合って配列が不均一になりやすく永久磁石への吸着性が低下する恐れが生じる。
鉄粉のバインダーとなるアクリルエマルジョン溶液の粘度は、4000〜15000cpsに調整され、鉄粉を繊維素材の内部への浸入を少なくすると同時に繊維の表面へできるだけ多く均一に付着させ重要な作用をしている。粘度が4000cps未満であると、鉄粉表面の被膜はより薄くなって良好になるが繊維素材への浸透が多くなり鉄粉の細い繊維素材表面との接合性が小さくなって剥離しやすくなる傾向がある。
【0015】
また、磁性層3に、0.8〜1.5重量%の亜硝酸塩を添加することもできる。
鉄粉をアクリルエマルジョン溶液へ混合し塗布すると、その鉄粉は乾燥後アクリルエマルジョン中の界面活性剤によって非常に錆やすくなることが一般に知られている。これを防ぐ方法は種々あるが、亜硝酸ソーダを添加して行うのが最も安価で、しかもこれを0.8〜1.5重量%の割合で添加すれば、鉄粉のアクリルエマルジョンによる錆の発生を防止するとともに、アクリルエマルジョン溶液の粘度が若干増加する利点があり、更にはアンモニヤ水による増粘操作がより簡単になり作業性が向上する利点もある。
【0016】
また、図2および図3に示すように、基材1裏面に粘着剤層4を介して剥離紙5を貼着したものとすることもできる。更に、任意の形状に切り離すためのハーフカットを形成貼着したものとすることもできる。
粘着剤層4は、基材1の裏面に一般的なアクリル系粘着剤を塗布・乾燥させ、次いで離型紙を貼り付けて使用しやすい大きさに、離型紙5が切断されないよう磁性層3側からハーフカット(切れ目)を入れ、不織布製磁性体が自由に剥がれやすようにして使い勝手の向上を図ることが好ましい。ハーフカットの形状は、発泡成形型に取り付けられている永久磁石の形状に適した三角、四角、丸型、テープ状など自由な形状に加工できる。
【0017】
次に、本発明の不織布製磁性体の成形例について説明する。
ポリエステルなどの各種合成繊維の繊維が4デニール以下で、繊維の比較的長い再生品、または新生品を一部混合した再生品よりなる目付けが45〜85g/mの一定幅の不織布を製作し、その表面に予めアクリルエマルジョンなどの溶液を50〜250g/mの割合でスプレー塗布などによって塗布・乾燥させ、不織布の表面の繊維に薄い樹脂被膜を形成する。
【0018】
次いで、この不織布の上へ平均粒度15〜400ミクロン(μm)の鉄粉50〜90重量%を、予めアンモニヤ水で4000〜15000csに粘度を調整したアクリルエマルジョン溶液に加え5分攪拌した。その後、防錆剤である亜硝酸ソーダを0.8〜1.5重量%の割合で添加し、5〜10分各版した後、200〜500g/mの割合でロールコーティングによって不織布上に塗布する。
【0019】
塗布後、60〜150℃で十分乾燥し、その不織布基材の裏側へアクリル系などの通常の粘着剤を塗布・乾燥して普通の離型紙をその上へ貼り付ける。更に、離型紙が切断されないよう必要な大きさの形状にハーフカットし、不織布製磁性体が剥がしやすいようにする。
このようにして得られた不織布製磁性体は、使用時は離型紙から剥離してウレタン一体発泡成形用の不織布類の指定された位置へ必要な数量を貼り付け、発泡成形型に予め設置された永久磁石の所定の箇所へセットして固定し、ウレタン発泡配合液を注入して不織布一体のウレタン発泡成形品の成形に供されることとなる。
得られた結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
以上の説明からも明らかなように、本発明は不織布からなる基材表面に、アクリルエマルジョン溶液をスプレー塗布・乾燥してなる樹脂被膜を設け、この樹脂被膜上に平均粒度が15〜400ミクロン(μm)の軟鉄、硬鉄、鋳鉄、還元鉄などよりなる鉄粉をアクリルエマルジョン溶液中に混合した溶液をロールコーティングし乾燥させ、不織布の表面部に高密度の磁性層を設けたものであり、複雑な形状や3次元的に深く凹んだ部分等を有する発泡成形型であっても不織布類を型面に沿わせて簡単かつ正確に固定することができ、また不織布類と型面との吸着力も強力で、不織布類の裏面側へのウレタン発泡溶液の侵入を確実に防止することができることとなる。更には、安価で取り扱い性にも優れているという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】その他の実施の形態を示す概略断面図である。
【図3】図2の斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
1 基材
2 樹脂被膜
3 磁性層
4 粘着剤層
5 剥離紙
6 ハーフカット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布からなる基材表面に、予めアクリルエマルジョン溶液を50〜250g/mの割合でコーティングし乾燥させてなる樹脂被膜を形成しておき、この樹脂被膜の表面に4000〜15000cpsの高粘性または増粘したアクリルエマルジョン溶液中に平均粒度が15〜400ミクロンで角のない不定形の鉄粉を混合した溶液を、200〜500g/mの割合で均一に塗布乾燥させることにより、基材表面に磁束密度の高い磁性層を設けたことを特徴とする不織布製磁性体。
【請求項2】
不織布は、ポリエステルなどの合成繊維からなる1〜4デニールの細い長繊維で、目付けが45〜85g/mのものである請求項1に記載の不織布製磁性体。
【請求項3】
磁性層に、0.8〜1.5重量%の亜硝酸塩が添加されている請求項1または2に記載の不織布製磁性体。
【請求項4】
基材裏面に、粘着剤層を介して剥離紙が貼着され、かつ任意の形状に切り離すためのハーフカットが形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の不織布製磁性体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−241637(P2006−241637A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59850(P2005−59850)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(596012674)協成産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】