不要なドメインタンパク質をコードする遺伝子におけるエクソンスキッピングのためのアデノ関連ウイルスベクター
本発明は、U7タイプ改変snRNA配列、天然のU7プロモーター、及びジストロフィンの不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンの、少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列を含むアデノ関連ウイルスベクターに関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞に対して、不要なドメインタンパク質をコードする遺伝子のスプライス部位に対するアンチセンス配列を送達する、アデノ関連ウイルスベクターまたはAAVベクターの使用、並びにその治療的(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィの治療における)応用に関する。
【0002】
かくして、注意深く選択された、本発明に係るベクターに導入される配列は、デュシェンヌ型筋ジストロフィの特定の形態を治す、短いが機能的なジストロフィンタンパク質を生産する転写物を生じさせることができる。
【背景技術】
【0003】
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、X染色体上に保有される遺伝病であり、3500人に約1人の少年が罹っている。デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、427キロダルトンのタンパク質である細胞骨格のジストロフィンの不在によって特徴付けられており、進行性の重度の筋肉劣化に関連する筋線維の死を生じさせる。
【0004】
ジストロフィンは、24スペクトリン様反復ドメインからなる中心の領域を有するモジュールタンパク質である。しかしながら、これらの反復配列の幾つかを欠失しているタンパク質は完全に機能的であるか、またはDMDの弱い形態(ベッカー型筋ジストロフィ)で認められるように少なくとも部分的に欠陥を有する可能性がある。
【0005】
一方、ジストロフィン遺伝子の深刻な変異の大半は、最終的なメッセンジャーRNAのリーディングフレームを混乱させる1つ以上のエクソンの欠失または点変異からなり、エクソンまたはコード領域に存在し、ストップコドンを導入またはリーティングフレームをシフトする。両方の場合において、これらの変異はジストロフィンの不在を生じさせる。
【0006】
例えば、多数の臨床例のデュシェンヌ型筋ジストロフィは複数のエクソン欠失に関連しており(重度のDMD遺伝子型:Δ45-50;Δ47-50;Δ48-50;Δ49-50;Δ50;Δ52)、リーディングフレームがエクソン51の欠失によって再確立されるであろう(軽度なBMDの遺伝子型:Δ45-51;Δ47-51;Δ48-51;Δ49-51;Δ51-52)。
【0007】
各種のストラテジー及び技術が構想されて、変異したジストロフィン遺伝子の「修復」が試みられている。
【0008】
影響を受けた筋線維におけるジストロフィン遺伝子の置き換え、または正常細胞移植片による壊死した細胞の埋合せは、明らかに重大な困難性を有する。第3の構想された経路は、現在最も使用されており、特定のエクソンのスキップを可能にして、切断されているが機能的に有効なタンパク質の発現に至るアンチセンスオリゴヌクレオチド(またはAON)を使用するDNAの変異の修復の試みからなる。このいわゆる「エクソンスキッピング」技術は、マスクされるエクソンのスプライシングに関与する配列に対して相補的なオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0009】
この方面における最近の研究は、ほとんどの場合、マウスジストロフィン遺伝子のエクソン23にストップコドンを導入するナンセンス変異によって、この疾患を有するmdxマウスにおいて実施されている。
【0010】
この技術の主な困難性は、特にin vivoで分解されていないオリゴヌクレオチド(AON)を、安定で持続可能な方法で疾患の筋線維に導入する工程に存在する。
【0011】
まず第1に、おそらく、例えばF127剤のような合成界面活性剤と組み合わせて、前記オリゴヌクレオチドの直接的な注入が構想された。ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン19または45をマスクするためのこの経路によって投与される有利な配列は、例えば、特許出願EP 1054058及びEP 1191098の各々に記載されているものである。しかしながら、筋肉中のこれらのオリゴヌクレオチドの短い寿命を鑑みると、この治療方法は、定期的な比較的制限される注入を必要とする。
【0012】
更に、これらの配列をベクターに導入して、これらを標的細胞に送達することが試みられている。これまで、in vitroにおける試みのみが実施されている;使用されている構築物はレトロウイルスの使用に基づいており、細胞培養物に対してのみ試験されている。報告されている結果は、in vivoに置き換えることを構想するのに非常に説得力のあること、または少なくも十分であることを明らかにしていない。
【0013】
例えば、文献WO 02/24906は、ヒトの細胞においてエクソン46を除外するこれら2つの方法の使用を説明している。
【0014】
AONのベクターによる移動に対して実施された研究は全体として以下のことを主に明らかにしている。
【0015】
小さいsnRNA(低分子核内RNA(small nuclear RNA))タイプの配列の存在は、標的細胞の核内へのより良好な移行及び配列の良好な転写を可能にする。かくして、文献WO 03/095647は、U2及びU3 snRNAを選択する利点を主張している。
【0016】
i)同一のエクソンのスプライシングに関与する2つの標的配列が同時に存在することは、そのエクソンスキッピングにおける効率を改善する(1, 2)。
【特許文献1】EP 1054058
【特許文献2】EP 1191098
【特許文献3】WO 02/24906
【特許文献4】WO 03/095647
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述の不利なオリゴヌクレオチドの注入を除いて、in vivoにおけるエクソンスキッピングのための解決法は現在まで提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は初めて、ジストロフィンタンパク質の活性の回復がデュシェンヌ型筋ジストロフィに関連する範囲で顕著である、in vivoにおける結果を生じる構築物を提案する。
【0019】
更に、ジストロフィンに対して得られるこれらの結果は、任意の不要なドメインタンパク質まで拡張されて良い。これらの結果は、不要なドメインタンパク質をコードするいかなる複数エクソン遺伝子にも関係して良く、そこで(エクソンスキッピングによる)欠失はタンパク質の活性に影響を全くまたはほとんど与えない。
【0020】
これに関して、本発明は、
改変U7 snRNA配列;
天然のU7プロモーター;
ジストロフィンの不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列
を含むアデノ関連ウイルスベクターの構築を目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下の記述において、これら3つ(snRNA配列/U7プロモーター/アンチセンス配列)からなる組み合わせを「U7カセット」と称する。
【0022】
多数の入手可能なベクターの中で、本出願人は、ウイルス起源のベクター、つまりアデノ関連ウイルス誘導体またはAAVの利益を得ることを選択した。8の同定されている血清型の中で、DMDとの関連の中で使用されるAAVは、好ましくはAAV1である(すなわち、血清型1カプシドを有するAAV)。実際に、AAV1は筋肉細胞に最も効果的に形質導入する。
【0023】
一方、オリジナルなウイルスの配列、特に導入遺伝子と関連するITRはAAV2由来が有利である。結果として、有利な実施態様では、最終的なアデノ関連ウイルスベクターは2/1偽型である。
【0024】
前記ベクターは、改変snRNA配列も含有する。低分子核内RNA、またはsnRNAは細胞の核内に存在する小さいサイズのRNAであり、プレmRNAの成熟の特定の段階に関係付けられている。それらはU1、U2、...U10と称されている。
【0025】
これらの各種のタイプのsnRNAの中で、通常はヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟に関与するU7タイプが、輸送体として好ましく使用される。
【0026】
問題のsnRNAは、これらの小さい配列が異なる種の間で高度に保存されている限り、ヒトまたはマウス起源のものであって良い。好ましくは、本発明で使用されるsnRNAはマウスのものである。
【0027】
「改変snRNA」は、snRNAの本来の機能に関与する配列が不活性化されているRNAを意味する。これらの配列は、前記snRNAの発現レベルを増大するように改変されても良い。
【0028】
例えば、U7の場合では、「低分子核内リボ核タンパク質」(またはSmタンパク質)の固定部位の配列が、ヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟を不活性化するため、及び同時にU7snRNAの核内濃度を増大するために改変される。更に、ヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの3'成熟部位における18の相補的なヌクレオチド配列が、興味のあるアンチセンス配列に置き換えられる。
【0029】
実際に、これらの改変はPCRを使用して部位特異的変異導入によって導入されて良い。
【0030】
次いで、この様な改変snRNAが、好ましくは2つのITR配列の間でAAVベクターにおいてクローニングされて良い。
【0031】
本発明は、より多くの改変とより少ない有効な成果ではあるが、U1またはU2配列を使用して実施されても良い。
【0032】
本発明に係るベクターは、生物学的及び治療的な活性を確実にするために、十分なレベルでアンチセンス配列を発現させるプロモーターを含んで良い。AAVとの関連の中で多数の使用可能なプロモーターが当業者に知られている。しかしながら、本発明の好ましい実施態様では、アンチセンス配列の発現は、構築物中で使用されるsnRNAの天然の配列によって調節される。U7が好ましい場合は、アンチセンス配列を転写するU7プロモーターである。
【0033】
本発明に係るベクターは、少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列も含む(すなわち、前記エクソンのスプライシングを妨害することが可能である)。前記アンチセンス配列は、好ましくは、5'スプライス部位(ドナー);3'スプライス部位(アクセプター);BP(ブランチポイント)イントロン配列;及びおそらくはプリンリッチ内部領域、さらに特にはESE(エクソン内部スプライシングエンハンサー)の群より選択される少なくとも1つの配列を有する相補的な配列である。
【0034】
有利には、所定のエクソンの除外を確実にするために、別個の標的を有する2つのアンチセンス配列、好ましくは5'ドナー部位及びBP配列が、本発明に係る単一の組換えベクターに導入される。
【0035】
少なくとも2つの別個のエクソンのスプライス部位に対するアンチセンス配列が、同一の構築物の中で結合されても良い。
【0036】
代替的に、1つ以上のエクソンに対する、異なるアンチセンス配列を各々有する複数の構築物を使用しても良い。
【0037】
実際に、(同一のエクソンまたは複数の別個のエクソンに対する)複数のアンチセンス配列が組み合わされる際は、以下の状況が揚げられる:
-前記アンチセンス配列が、単一のAAVベクターによって同一のU7カセットに組み込まれる。
-前記アンチセンス配列が、単一のAAVベクターによって異なるU7カセットに組み込まれる。
-前記アンチセンス配列が、AAVベクターによって異なるU7カセットに組み込まれる。
【0038】
本発明との関連の中で、前記アンチセンス配列は、いずれの起源であっても、ジストロフィン遺伝子を形成するエクソンの別個のスプライス部位に特異的な配列である。
【0039】
マウスが一般的に好まれる実験動物モデルであるため、マウスのジストロフィンが明らかに興味のあるものである。不活性な切断されているタンパク質を生じるマウスジストロフィン遺伝子のエクソン23の変異を有するmdxマウスは、DMDの症状を示す。そのため、この事との関連の中で、前記アンチセンス配列は、エクソン23のスプライシングに関与する配列に対する配列である。
【0040】
さらに特には、本発明に係るベクターは、AAVベクターの2つのITR配列の間に導入される、U7プロモーターの調節下に置かれるマウスジストロフィン遺伝子のエクソン23の5'ドナー部位に対するアンチセンス配列(配列番号2)及びBP配列に対するアンチセンス配列(配列番号3)が組み込まれ、上述のように改変されたU7snRNA遺伝子からなる配列番号1を含む。
【0041】
非上に興味深いことに、その様なベクターの機能性を、大きな動物であるイヌにおいて本明細書において評価した。エクソン7が最終的なmRNAに含まれないという事実がリーディングフレームを無効にする(エクソン6及び8が一致しない)ような、イントロン6のスプライスアクセプター部位における変異によって、天然に筋障害を有するイヌが存在する。理論的には、作動可能なリーディングフレームは、エクソン6及び8を同時にスキップすることによって修復される事が可能であり、最終的なmRNAはエクソン6、7、及び8が除去されている。エクソン6及び8の各々のESE領域に対するアンチセンス配列(配列番号27及び28)を含む、本発明に係るベクターの結合は、確実に効果的であった。
【0042】
ヒトにおける治療に関しては、選択されるアンチセンス配列は、その除去が切断されているが活性を有するタンパク質を生じさせる、ヒトジストロフィン遺伝子の少なくとも1つのエクソンの、少なくとも1つのスプライス部位に対するものである。
【0043】
過去に考察されているように、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51、さらに特にはそのスプライシングに関与する配列が、本発明との関連の中で有利な標的である。かくして、ジストロフィンをコードする転写物からのその配列の除去が、デュシェンヌ型筋ジストロフィに関する遺伝型として記録されている今日の臨床的なケースの約20%の治療において有利である可能性がある。
【0044】
本発明者によって、本発明の適切な構築物は、配列番号1における配列番号2及び3の配列の位置に、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51のプリンリッチ内部領域に対する2つのアンチセンス配列(配列番号5及び配列番号6)を結合している、配列番号4を含むことを示した。
【0045】
本発明との関連の中で使用されて良い他のヒトアンチセンス配列は、以下のものである:
-エクソン51の5'部位に対する配列番号7のDA5'配列;
-エクソン51の3'部位に対する配列番号8のDA3'配列;
-エクソン51の5'部位に対する配列番号9のG5'配列;
-エクソン51のBP部位に対する配列番号10のGBP配列;
-エクソン51のESEタイプ部位に対する配列番号11、12、及び13の各々のESE4、ESE16、及びESE28配列;
-配列番号25のEx51AONlong1配列;
-配列番号26のEx51AONlong2配列。
【0046】
これらの配列は、好ましくは、本発明に係るベクター中で直列に結合される。好ましくは、DA5'(配列番号7)及びDA3'(配列番号8)またはG5'(配列番号9)及びGBP(配列番号10)が結合される。
【0047】
配列番号25及び配列番号26の配列は、配列番号5及び配列番号6のより長い配列に相当する。それらは好ましくは結合される。それらの大きなサイズに鑑みて、同一のAAVベクター、または同時に使用される2つの別個のAAVベクターのいずれかによって、各々が有利にU7カセットに組み込まれる。
【0048】
非常に興味深いことに、本出願人は、本発明において、前記アンチセンス配列の性質は、前記構築物の効力において重要な役割を担う可能性があることを示し、レンチウイルスベクターにおいて前記U7カセットを置き換えることによって、標的筋肉細胞に対するin vitroにおける実験によって、これらの配列の効力を評価することが可能であることも示した。
【0049】
かくして、本発明は、
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然U7プロモーター
-配列番号2、配列番号3、配列番号27、配列番号28、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、配列番号26からなる群より選択される少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、レンチウイルスベクターにも関する。
【0050】
本出願人は、ヒトエクソン51のスキップにおいて、前記ベクターが、De Angelis et al (1)の構築物で認められたものよりも非常に効率的であることを示した。はじめて、本発明に係るレンチウイルスベクターを使用して、遺伝的に改変されている患者細胞(Δ49-50)のSCID-mdxマウスへの注入後の、in vivoにおけるジストロフィンの明解な生産を報告している。
【0051】
好ましくは、本発明に係るアデノ関連ウイルスベクターに置き換わるレンチウイルスベクターは、最新の世代のSIN(自己不活性化)レンチウイルスである。しかしながら、任意のレンチウイルスベクターを使用してU7カセットを挿入してよい。レンチウイルスベクターの構築物及び操作は、当業者によく知られている。
【0052】
これらのレンチウイルスベクターは、本発明に係る組換えAAVの応用と相補的な応用を有する。後者は標的の筋肉におけるin situにおける注入が意図されるが、一方でレンチウイルスを使用して、潜在的なアンチセンス配列の効力が、治療される患者由来の分化した筋肉細胞内で直接的に、in vitroで試験される。また、これらのベクターが筋芽細胞、筋肉前駆体、または幹細胞にも導入される場合には、トランスフェクトされた細胞のin situにおける移植が構想されて良い。
【0053】
そのため、前記組換えベクターによってトランスフェクトされる任意のタイプの細胞、特に筋肉細胞、及び特には筋繊維タイプ(筋管)、筋肉前駆体(筋芽細胞)、または筋肉に分化可能な任意の細胞が、本発明の一部である。
【0054】
前記ベクターによってトランスフェクトされる任意の筋肉組織または非ヒトの生物も、請求する保護の範囲内に含まれる。非ヒトの生物の中では、動物、特にマウスが好ましい。
【0055】
本明細書は、前記ベクターに関する治療的な潜在能力を初めて記載する。かくして、本発明は、本明細書で規定される少なくとも1つのベクターを活性成分として含む製薬組成物、並びに医薬品としての本発明のベクターの使用にも関する。更に、レンチウイルスに関して上述したように、トランスフェクトされた細胞も移植との関連の中で治療的な潜在能力を有する可能性がある。
【0056】
本発明に係る製薬組成物は、製薬学的に許容される不活性媒体と関連して前記ベクターまたは細胞を含有する。
【0057】
本発明に係るベクターを病気の筋肉に注入すべき際には、前記製薬組成物は液状であることが好ましいであろう。前記ベクターの濃度、注入する量、及び注入の頻度は、当業者によって容易に決定される。
【0058】
DMDによって影響を受けている筋繊維におけるジストロフィンの修復においてin vivoで確認された顕著な効果に鑑みて、デュシェンヌ型筋ジストロフィの治療を意図する医薬品の調製のための本発明に係るベクターまたは細胞の使用に関しても特許請求の範囲に記載する。
【0059】
更に一般的には、本発明に係るベクターが、不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンのスキッピングがその機能を修復可能である、不要なドメインタンパク質の機能障害と関連する任意の疾患の治療のために使用されても良い。
【0060】
本明細書で示されるデュシェンヌ型筋ジストロフィと関連するジストロフィンの機能障害とは異なる、ある筋障害は、例えば不要なドメインタンパク質であるdysferlinの機能障害に関連しているため、本発明に係るベクターを使用して治療してよい。
【0061】
in vivoにおける使用の間では、本発明に係るベクターは安定であり、特異的な細胞内局在を有して、治療的に活性量のアンチセンスを永続的に生産することが明らかである。
【0062】
さらに一般的には、本明細書では、動物においてmRNAを不活性化または改変するためのツールとしてのAAV-U7snRNAシステムの可能性を明らかにする。
【0063】
本発明及び本発明によって生じる利点は、移管実施態様及び添付の図面によってより良く説明される。
【実施例】
【0064】
A.マウスにおける実験的な試験
I 原料及び方法
1.構築物
完全なU7 snRNA遺伝子(445 bp)を、オリゴヌクレオチド:5'-TAACAACATAGGAGCTGTG-3' (配列番号14)と5'-CAGATACGCGTTTCCTAGGA-3' (配列番号15)とを使用してマウスのゲノムDNAに対するPCRによって得た。Smドメイン(AATTTGTCTAG;配列番号16)は、過去(3)に記載されているようにsmOPT(AATTTTTGGAG;配列番号17)に最適化し、プレmRNAと適合することが可能なU7領域を、ジストロフィン遺伝子のエクソン23の前のBP(ブランチポイント)配列をカバーする領域(BP22;5'-AAATAGAAGTTCATTTACACTAAC-3';配列番号3)、及びスプライスドナー部位の後の領域(SD23;5'-GGCCAAACCTCGGCTTACCT-3';配列番号2)の双方の44の相補的なヌクレオチド配列で置き換えた。次いで、結果として得られたU7smOPT-SD23/BP22フラグメントを、2つのAAV2の逆向き末端反復配列の間に挿入した(配列番号1)。
【0065】
2.ベクター
AAV2/1偽型組換えベクターを、以前(4)に記載されているように、3つのプラスミド:ゲノムrAAV2をコードするpAAV2(U7smOPT-SD23/BP22)、アデノウイルスヘルパー機能を有するpXX6、及びAAV1のrep及びcap遺伝子を提供するpAAV1plTRCO2の共トランスフェクトによって293細胞において調製した。ベクターの濃度は、1012と1013ベクターゲノム(vg) ml-1の間で変化した。
【0066】
3.動物及び送達方法
いかなる動物の手法も、生物学的に抑制された限定的な条件で、研究所によって認められたプロトコルに従って実施した。mdxマウスの第1の群(8週齢)は、右後肢の前脛骨筋に1012 (vg) AAV(U7-SD23/BP22)を含有する50μlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)の注入を受けた。対側の筋肉を対照として使用した。同じ週齢のmdxマウスの第2の群は、大腿動脈を介して2×1013のベクターの動脈内注入を受けた。そのマウスを所定の時間で屠殺し、筋肉を液体窒素で冷却したイソペンタンで凍結し、-80℃で保存した。
【0067】
4.組織学
筋肉の長さに沿って200μmで作製した連続する横断切片(8μm)を、製造業者の指示に従って、免疫検出によってジストロフィン(NCL-DYS2;C末端ドメインに対するマウスモノクローナル抗体;Novocastra)及びジストロフィンと結合するタンパク質(β-ジストログリカン、α及びβ-サルコグリカン)に関して試験した。前記モノクローナル抗体を、アビジン-FITCによってビオチン化抗体で検出した(M.O.M Kit、Vector Laboratories)。調製した前記切片を、レーザー走査共焦点顕微鏡(Leica)によって分析した。中間組織を、タンパク質及びRNAの後に続く分析のために回収した。
【0068】
5.免疫学的検出による分析
中間層の切片を回収し、4% SDS、125mM Tris-HCl pH 6.4、4M 尿素、10% β-メルカプトエタノール、10% グリセロール、0.001% ブロモフェノールブルーを含有するリシスバッファーを使用して抽出した。遠心分離の後、Bio-Rad Protein Assay試験を使用してタンパク質量を測定した。40μgのタンパク質に調節されたサンプルを、6% アクリルアミドゲルにロードし、電気泳動にかけ、ニトロセルロース膜に転写し、その膜を1:100に希釈したNCL-DYS1(ジストロフィンのスペクトリン様ロッドドメインのR8反復配列に対するマウスモノクローナル抗体;Novocastra)またはNCL-DYS2のいずれかと共にインキュベートし、続いてセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(1:1000)と共にインキュベートしてECL Analysis System(Amersham)を使用して分析した。
【0069】
6.RNA分析
TRIzol試薬(Life Technologies)を使用して、中間切片のプールからRNA全体を単離した。U7及びU7smOPT-SD23/BP22を検出するために、始めに、ランダムヘキサマー(Invitrogen)の存在下でSuperscript II逆転写酵素を使用して、RNA全体に対して逆転写を実施した。次いで、30サイクル(94℃/30s;55℃/30s;72℃/30s)で、5'-AAGTGTTACAGCTCTTTTAG-3' (野生型U7に位置する配列番号18)または5'-AAGGCCAAACCTCGGCTTAC-3' (U7smOPT-SD23/BP22に位置する配列番号19)及び5'-AGGGGTTTTCCGACCGAAG-3' (配列番号20)と共に、Taqポリメラーゼ(Promega)を使用してcDNAを増幅した。そのPCR産物を2%アガロースゲルで分析した。ジストロフィンRNAを検出するために、200ngのRNA全体を使用してネステッドRT-PCRを実施した。30サイクル(94℃/30s;55℃/1分;72℃/2分)で、Ex20ext(配列番号21;5'CAGAATTCTGCCAATTGCTGAG-3')及びEx26ext(配列番号22;5'-TTCTTCAGCTTGTGTCATCC-3')を使用して、第1の反応を実施した。Ex20int(配列番号23;5'-CCCAGTCTACCACCCTATCAGAGC-3')及びEx26int(配列番号24;5'-CCTGCCTTTAAGGCTTCCTT-3')を使用して、2μlの第1の反応物を23サイクルで増幅した。PCR産物を2%アガロースゲルで分析して、特異的なバンドを配列分析のために精製した。
【0070】
7.筋肉の生理学
対照のまたは処理されたマウスの肢の長指伸筋を解剖して、それらの収縮性/機械性の性質を評価した。単離した筋肉の片側に電磁プラー(electromagnetic puller)を接続して、他の側に力センサーを接続し、筋肉に並んで置かれた電極を使用して刺激した。短ショック(125Hz;360ms、3分の休息期間に隔てられて)に関連する持続性の等尺収縮を、L0(最大の等尺の持続力が観察された長さ)で試験した。筋肉の推定の切片領域(CSA)によって力を割ることによって、等尺張力を算出した。筋肉が円柱形であり、1.06mg.mm-3の密度を有すると仮定すると、CSAは、繊維長で割った筋肉の湿重量に相当する(5)。偏心収縮は、特徴的な様式で膜断裂に関連する筋肉損傷を誘導する。それらは、最大に収縮した筋肉を強制的に伸長させる際に生じ、力の損失を誘導する。ここで、前記筋肉は、1繊維長/秒の速度で最大の力を生じるL0長の10%まで伸長した。5の偏心収縮を3分間の間隔で適用した。等尺力における蓄積された衰えを過去に記載されているように定量した(5)。
【0071】
II)結果
核内のメッセンジャーRNA(mRNA)成熟プロセスを妨害するアンチセンス配列を導入するためにU7タイプRNAを改変した。マウスジストロフィン遺伝子のイントロン22及び23に対するアンチセンス配列を移行するために、前記U7snRNAを最適化した。イントロン22の中の配列を選択して、BP(ブランチポイント)スプライス部位(BP22;配列番号3)におけるU2snRNAの固定と競合させ、イントロン23の中の配列はドナーサイトにおけるU1の固定部位に相当した(SD23;配列番号23)(図1)。Brun et al.(2)に推奨されるような二重標的ストラテジーにおいて、これらの配列を使用した。
【0072】
プロモーター及び3'因子の双方を含む、改変U7遺伝子をAAV-2に基づく構築物に導入し、その構築物を、骨格筋への遺伝子の転移のより高い転移効率を得るために、AAV-1カプシドに導入した。成体mdxマウス(8週齢)に、前脛骨筋への注入によって単回用量の1010ベクターゲノムを与え、2から16週の間に分析した。注入された筋肉より調製されたRNA全体に対するネステッドRT-RNAによって、エクソン23のスキッピングの分子分析を実施した。エクソン23を欠いている、より短い転写物が検出された。その転写物は、注入の2週間後に増幅された物質の5から10%を占め、1ヵ月後には大部分のタイプとなった(図2B及び2C)。2及び4週で測定される改変U7のレベルは、内生のU7snRNAのレベルの同等及び5倍であったように、エクソンスキッピングされた、この転写物の遅い蓄積は、AAVによって改変された遺伝子の転移後の第1週の間の導入遺伝子の穏やかな発現の結果ではない(図2A)。むしろ、この事は、筋肉繊維におけるプレmRNAの制限されたアベイラビリティーと、成熟ジストロフィンmRNAの遅い回転とを示す。
【0073】
エクソンスキッピングを受けた転写物の産生と一致して、ジストロフィンタンパク質が筋肉抽出物における免疫検出及び組織切片に対する免疫蛍光の双方によって検出された(図3)。ジストロフィンのレベルは、産生されたmRNAのレベル(2及び4週の各々で通常のレベルの0.5%及び30%)を反映した。エクソンスキッピングが、複数の破損タンパク質の存在の所見なしで、予想されたサイズの免疫反応性のタンパク質種を生じさせた。野生型と切断されたタンパク質の間の分子量の差は示されているゲルにおいて分離することができないことに注意するべきである。実質的には、注入を受けた筋肉繊維の全てについて、注入の4週間後から検出され、前記タンパク質は繊維の周辺部分に典型的に位置していた。処理された筋肉の組織学的な切片は、正常な多角形状及び炎症性細胞の不在を再び得た繊維と共に、ジストロフィのフェノタイプの消失を明らかに示した。
【0074】
mdx動物の群は、より低い肢部における高圧動脈内灌流によってAAV-U7ベクターを受けた。1ヵ月後、TA及びEDL筋肉を含む灌流を受けた肢部の全筋肉において、大多数の繊維におけるジストロフィンの効果的な修復を生じた(図3F)。ジストロフィンに加え、αサルコグリカン、β-サルコグリカン、及びβ-ジストログリカンを含む結合するタンパク質が、処理された動物の繊維の周辺部分において検出された(図4)。この事は、エクソンスキッピングを受けたmRNA産物が、ジストロフィンを膜にアンカーする機能に必須であるC末端ジストログリカン固定ドメインを含むことを確証している。
【0075】
運動によって誘導される損傷に対する感受性を、等尺伸縮後の強制的な伸長に対する抵抗を測定することによって処理された動物において評価した。この実験のために、前記マウスは単回用量のAAV-U7をEDL筋肉に受け、そのマウスを45日後に分析した。mdx動物の筋肉は繰り返される伸長に抵抗することが不可能であるが、一方で繊維において70%を超えて回復されたジストロフィンを発現している処理された筋肉は、野生型の15%と比較して、5回の刺激後に17%の力の損失を有し、正常な筋肉と同等に実施された(図5A)。運動によって誘導される損傷を、前脛骨筋に注入されたmdxマウスを広範に動かし、細胞は不浸透性である染色剤のEvans blueを注入することによっても評価した。繊維に浸入した染色剤によって明らかであるように、筋肉の領域は、処理された筋肉において顕著であり(図5B)、同一の動物の対側の未処理の筋肉においては認められなかった(図5C)。
【0076】
B.イヌにおけるin vivo試験
マウスで得られた結果は、大きな動物であるGRMDイヌに対して置き換えることができるであろう。GRMDイヌはイントロン6のスプライスアクセプター部位における点変異を有し(AGがGGに変異している;図6A)、ジストロフィンmRNAにおけるエクソン7の含有を妨害する(図6B)。かくして、形成されるmRNA(Δエクソン7)は、エクソン6及び8が一致しないことに関連するリーディングフレームシフトを有する(図6B及びC)。エクソン6、7、及び8を最終的なmRNAに取り込ませないように(マルチスキッピング;図7B)、エクソン6及び8の領域におけるスプライシング機構を妨害する(図7A)であろうアンチセンス配列を導入するために、2つのU7タイプRNAを改変した。修復されたリーディングフレームを有するこのmRNAは、ABDドメインの中で僅かに切断されているが(図7C)、理論的には完全に機能的であるタンパク質を生産することが可能である。
【0077】
配列番号27のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex6)ベクター及び配列番号28のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex8)を、成体のGRMD被験体における局所的/局部的な注入によって、in vivoにおいて試験した。図8は、2つのベクターの混合物を含有する(〜1011ウイルス粒子)500μlの調製物の単回の筋肉内注入の2ヵ月後に得られたジストロフィンレベルを示す。このジストロフィンは、ウエスタンブロットを使用しても検出可能であった(図9)。マウスと同様に、ジストロフィンと結合するタンパク質複合体も間接的に修復され、複数エクソンスキッピングによって誘導された擬似ジストロフィンが正確に機能することを示した。
【0078】
C.ヒトにおけるin vitro試験
本発明者は、in vivoにおける筋肉再生に関与することが可能な細胞集団において、細胞治療及びエクソンスキッピングを組み合わせることが可能である方法を開発した。これを実施するために、本発明者は、治療的なスキッピングを誘導するU7カセットを有するレンチウイルスベクターを開発した(マウス、イヌ、及びヒトモデル)。
【0079】
例として、エクソン49-50の欠失を有するDMD患者の細胞におけるジストロフィンの修復を以下に記載する。各種のレンチ(U7ex51 ヒト)ベクターを作製し、それらの1つはDe Angelis (1)に以前に記載された配列を有した(図10A及び10B)。本発明者の結果では、形質導入、培養、及び分析の同一の条件下で、以前に公開されている標的配列(U7-ASDS)のみが非常に限定された程度で作用し、合理的な治療と適合するジストロフィンレベルを回復しない(図10C)。一方で、配列番号5及び6のアンチセンス配列を含む、前記(U7-H51ab)ベクターは非常に効率的であり、ベクターによって標的とされるエクソン51が除去されるジストロフィンmRNAをほぼ完全に改変する(図10C)。DMD患者由来の細胞を使用するin vivoにおける治療的なエクソンスキッピングの可能性を証明することを意図して、DMD患者(Δ49-50)より新たに得られた循環AC133+幹細胞(20×104)を、配列番号5及び6のアンチセンス配列を含むレンチ(U7-H51ab)ベクターを使用して形質導入し、SCID-mdxマウスの前脛骨筋に即時に再注入した。1ヵ月半後の組織学的な分析は、多数の、おそらくはヒト/マウスキメラ筋肉繊維におけるヒトジストロフィンの修復を結果として明らかにした(図11)。
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】(A)上図はインタクトなジストロフィンの構造を図示する(427kDa)。前記ジストロフィンは複数のドメインからなる:N末端アクチン結合ドメイン(ABD)、24スペクトリン様反復(R)及び柔軟性を提供可能な4ヒンジ部(H)からなる中央のロッドドメイン、並びにβ-ジストロフィン及びC末端の付近でジストロフィンと結合する複合体の他のメンバーを固定するシステインリッチドメイン(CR)。中央の図は、79のエクソンからなるジストロフィンmRNA(約14,000塩基)を表す。mdxマウスでは、コード配列の3185位におけるエクソン23のチミジンによるシトシンの置き換えが未成熟なストップコドンを作り出す。下図は、オープンリーディングフレームを維持して、変異のエクソンをスキップするためのスプライシングを調節する機構を働かせるエクソン23の前のBP配列(ブランチポイント;BP22;配列番号3)及びスプライスドナーサイト(SD23;配列番号2)の後における標的配列を示す。(B)AAV(U7-SD23/BP22)ベクターの構造。U7-SD23/BP22カセットは、U7プロモーター(-267位から+1、斜線部)、改変U7 snRNA配列(灰色部、以下の配列に相当する)、並びに116位の後の配列(白色部)からなる。このカセットをAAV2(配列番号1)の2つの逆向き末端配列(ITR)の間にセットした。
【図2】AAVベクターの筋肉内注入後の、U7-SD23/BP22改変snRNA;(a)及び内生のU7 snRNA(b)の検出。RT-PCRによってRNA全体のサンプルを0、15、及び30日に分析した(カラム1、2、及び3の各々)。60bpに相当する産物がアガロースゲル上で可視化された。エクソン23がスキップされたジストロフィンmRNAの検出。エクソン20及び26のプライマー対を使用してネステッドRT-PCRによってRNA全体のサンプルを0、15、及び30日に分析した。スキップ(*)されていないmRNAに相当する901bpのバンドが0日に検出された唯一のタイプであった(カラム1)。そのバンドが、エクソン23が欠失したmRNAに相当する688bpのフラグメント(**)によって徐々に置き換わっている。(B)ゲル上で精製した後の688bpのバンドのDNA配列。(C)抗ジストロフィンDys1モノクローナル抗体を使用して染色された前脛骨筋から抽出されたタンパク質全体の免疫検出(矢印は427kDaの完全なジストロフィンを示す:カラム1、注入されていないmdx;カラム2、注入の2週間後のmdx;カラム3、注入の1ヵ月後のmdx;カラム4、C57B16)。各カラムを40μgの総タンパク質量でロードした。同一のプロフィールがDys2抗体を使用して認められた(結果は示さず)。
【図3】AAV(U7-SD23/BP22)投与後のmdxマウスにおけるジストロフィンの修復。(A)正常なC57B16、(B)未処理のmdx、(C-E)筋肉内注入の2、4、及び12週後のmdxマウス、並びに(F)動脈内ベクター放出の4週後のmdxの後肢前部の完全な横切片のDys2-Abを使用する免疫学的な染色(前脛骨筋=TAであり、足の長指伸筋*=EDLである)。スケール(A-D):0.5mm;(E-F):1mm。
【図4】処理されたmdxマウスにおけるジストロフィンと結合するタンパク質複合体の修復。左、中央、及び右のカラムは、正常なC57B16、未処理のmdx、及び処理後のmdxマウスの前脛骨筋の切片を示す。前記切片は、ジストロフィン(A,B,C)、α-サルコグリカン(D,E,F)、β-サルコグリカン(G,M,I)、並びにβ-ジストログリカン(J,K,L)に関して免疫染色した。ジストロフィン及び結合複合体タンパク質を示す、同一のセットの復帰突然変異繊維(*)が未処理のマウス由来の一連の切片に示されている。
【図5】処理されたmdx筋肉におけるジストロフィンの修復は、運動によって誘導された損傷に対する通常の感受性を再確立する。(A)強制的な伸長による5の持続性伸縮の間の、a)C57B16、b)未処理mdx、及びc)処理の45日後のmdxマウスのEDL筋肉によって生じた伸長の重ね合わせた記録。単離された筋肉を、3分間の間隔で360ms間の反復刺激(125Hz)にかけた。最初の160msの間は等尺に発達する伸長であり、次いで筋肉が最大の力を生じるL0長の10%に相当する伸長力が1秒当たり1繊維長の速度で課される。弛緩後、筋肉は休息時の長さに戻った。力の低減を、(F1-F5)/F1として表した(F1は第1の強縮性収縮における伸長の直前に生じる等尺力であり、F5は五回目の強縮性収縮における伸長の直前に生じる等尺力である)。力における低減は、mdxマウスの65%に対してC57B16の筋肉に関して15%の平均値に達した。c)に示されている処理されたmdxに関して、力における低減は17%まで減少し、筋肉繊維の機械的な特性の完全な再獲得を示す(B及びC)。同一のmdx動物の未処理(B)または処理(C)された肢の前脛骨筋において、運動によって損傷した筋肉繊維のEvance blueを使用する検出。損傷した繊維はEvans blueを取り込み、レッドチャンネルにおいてその蛍光が検出される。ジストロフィンをAb-dys2(グリーン)を使用して免疫学的に染色した。
【図6】(A)GRMDイヌにおけるイントロン5-イントロン8の領域の配列。フェノタイプに関する変異が同定されている。(B)GRMDイヌにおけるmRNAスプライシングの図。(C)萎縮したジストロフィンを生じるエクソン6の末端におけるリーディングフレームの中断の図。
【図7】(A)エクソン6(C6ESE2;配列番号27)及びエクソン8(C8ESE1;配列番号28)のESE配列に位置する標的配列の配置。(B)アンチセンス配列C6ESE2及びC8ESE1を使用して実施される複数エクソンスキッピング後の、GRMDイヌにおけるmRNAスプライシングの図。(C)複数エクソンスキッピング後に合成されるジストロフィンのタンパク質配列の図。
【図8】配列番号27のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex6)ベクター及び配列番号28のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex8)ベクターを含有する調製物の単回の筋肉内注入の2ヵ月後に得られる、成体GRMDイヌにおけるジストロフィンの修復。Dys2-Abを使用する完全な横切片の免疫学的な染色。スケール1mm。
【図9】抗ジストロフィンDys2モノクローナル抗体を使用して染色された前脛骨筋より抽出されるタンパク質全体の免疫検出:カラム1、健康な被験者におけるヒトジストロフィン;カラム2、健康なイヌにおけるジストロフィン、カラム3、処理の2ヵ月後のGRMDイヌ;カラム4未処理のGRMDイヌ。各カラムとも40μgの総タンパク質量でロードした。
【図10】(A)ヒトジストロフィン遺伝子中のエクソン51のスキッピングを可能にする標的配列の配置:アンチセンス配列H51aは、配列番号6の配列を有し、アンチセンス配列H51bは配列番号5の配列を有する。アンチセンス配列AS及びSDはDe Angelis(1)によって記載されている。(B)レンチウイルスベクターへのU7カセットの組込みの図。(C)エクソン51のスキッピングを使用するヒトジストロフィンmRNAの検出。RNA全体のサンプルをネステッドRT-PCRによって分析した。黒矢印はスキッピング(*)のないmRNAに相当し、白矢印はエクソン51を欠いているmRNAを示す。
【図11】配列番号5及び6のアンチセンス配列を含むレンチ(U7-H51ab)ベクターによって形質移入されたΔ49-50幹細胞の、前脛骨筋への注入の1ヵ月半後に得られたSCID-mdxマウスのジストロフィンの修復。Dys3を使用して免疫学的に染色している。
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的細胞に対して、不要なドメインタンパク質をコードする遺伝子のスプライス部位に対するアンチセンス配列を送達する、アデノ関連ウイルスベクターまたはAAVベクターの使用、並びにその治療的(特にデュシェンヌ型筋ジストロフィの治療における)応用に関する。
【0002】
かくして、注意深く選択された、本発明に係るベクターに導入される配列は、デュシェンヌ型筋ジストロフィの特定の形態を治す、短いが機能的なジストロフィンタンパク質を生産する転写物を生じさせることができる。
【背景技術】
【0003】
デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、X染色体上に保有される遺伝病であり、3500人に約1人の少年が罹っている。デュシェンヌ型筋ジストロフィ(DMD)は、427キロダルトンのタンパク質である細胞骨格のジストロフィンの不在によって特徴付けられており、進行性の重度の筋肉劣化に関連する筋線維の死を生じさせる。
【0004】
ジストロフィンは、24スペクトリン様反復ドメインからなる中心の領域を有するモジュールタンパク質である。しかしながら、これらの反復配列の幾つかを欠失しているタンパク質は完全に機能的であるか、またはDMDの弱い形態(ベッカー型筋ジストロフィ)で認められるように少なくとも部分的に欠陥を有する可能性がある。
【0005】
一方、ジストロフィン遺伝子の深刻な変異の大半は、最終的なメッセンジャーRNAのリーディングフレームを混乱させる1つ以上のエクソンの欠失または点変異からなり、エクソンまたはコード領域に存在し、ストップコドンを導入またはリーティングフレームをシフトする。両方の場合において、これらの変異はジストロフィンの不在を生じさせる。
【0006】
例えば、多数の臨床例のデュシェンヌ型筋ジストロフィは複数のエクソン欠失に関連しており(重度のDMD遺伝子型:Δ45-50;Δ47-50;Δ48-50;Δ49-50;Δ50;Δ52)、リーディングフレームがエクソン51の欠失によって再確立されるであろう(軽度なBMDの遺伝子型:Δ45-51;Δ47-51;Δ48-51;Δ49-51;Δ51-52)。
【0007】
各種のストラテジー及び技術が構想されて、変異したジストロフィン遺伝子の「修復」が試みられている。
【0008】
影響を受けた筋線維におけるジストロフィン遺伝子の置き換え、または正常細胞移植片による壊死した細胞の埋合せは、明らかに重大な困難性を有する。第3の構想された経路は、現在最も使用されており、特定のエクソンのスキップを可能にして、切断されているが機能的に有効なタンパク質の発現に至るアンチセンスオリゴヌクレオチド(またはAON)を使用するDNAの変異の修復の試みからなる。このいわゆる「エクソンスキッピング」技術は、マスクされるエクソンのスプライシングに関与する配列に対して相補的なオリゴヌクレオチドの使用を含む。
【0009】
この方面における最近の研究は、ほとんどの場合、マウスジストロフィン遺伝子のエクソン23にストップコドンを導入するナンセンス変異によって、この疾患を有するmdxマウスにおいて実施されている。
【0010】
この技術の主な困難性は、特にin vivoで分解されていないオリゴヌクレオチド(AON)を、安定で持続可能な方法で疾患の筋線維に導入する工程に存在する。
【0011】
まず第1に、おそらく、例えばF127剤のような合成界面活性剤と組み合わせて、前記オリゴヌクレオチドの直接的な注入が構想された。ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン19または45をマスクするためのこの経路によって投与される有利な配列は、例えば、特許出願EP 1054058及びEP 1191098の各々に記載されているものである。しかしながら、筋肉中のこれらのオリゴヌクレオチドの短い寿命を鑑みると、この治療方法は、定期的な比較的制限される注入を必要とする。
【0012】
更に、これらの配列をベクターに導入して、これらを標的細胞に送達することが試みられている。これまで、in vitroにおける試みのみが実施されている;使用されている構築物はレトロウイルスの使用に基づいており、細胞培養物に対してのみ試験されている。報告されている結果は、in vivoに置き換えることを構想するのに非常に説得力のあること、または少なくも十分であることを明らかにしていない。
【0013】
例えば、文献WO 02/24906は、ヒトの細胞においてエクソン46を除外するこれら2つの方法の使用を説明している。
【0014】
AONのベクターによる移動に対して実施された研究は全体として以下のことを主に明らかにしている。
【0015】
小さいsnRNA(低分子核内RNA(small nuclear RNA))タイプの配列の存在は、標的細胞の核内へのより良好な移行及び配列の良好な転写を可能にする。かくして、文献WO 03/095647は、U2及びU3 snRNAを選択する利点を主張している。
【0016】
i)同一のエクソンのスプライシングに関与する2つの標的配列が同時に存在することは、そのエクソンスキッピングにおける効率を改善する(1, 2)。
【特許文献1】EP 1054058
【特許文献2】EP 1191098
【特許文献3】WO 02/24906
【特許文献4】WO 03/095647
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述の不利なオリゴヌクレオチドの注入を除いて、in vivoにおけるエクソンスキッピングのための解決法は現在まで提案されていない。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は初めて、ジストロフィンタンパク質の活性の回復がデュシェンヌ型筋ジストロフィに関連する範囲で顕著である、in vivoにおける結果を生じる構築物を提案する。
【0019】
更に、ジストロフィンに対して得られるこれらの結果は、任意の不要なドメインタンパク質まで拡張されて良い。これらの結果は、不要なドメインタンパク質をコードするいかなる複数エクソン遺伝子にも関係して良く、そこで(エクソンスキッピングによる)欠失はタンパク質の活性に影響を全くまたはほとんど与えない。
【0020】
これに関して、本発明は、
改変U7 snRNA配列;
天然のU7プロモーター;
ジストロフィンの不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列
を含むアデノ関連ウイルスベクターの構築を目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下の記述において、これら3つ(snRNA配列/U7プロモーター/アンチセンス配列)からなる組み合わせを「U7カセット」と称する。
【0022】
多数の入手可能なベクターの中で、本出願人は、ウイルス起源のベクター、つまりアデノ関連ウイルス誘導体またはAAVの利益を得ることを選択した。8の同定されている血清型の中で、DMDとの関連の中で使用されるAAVは、好ましくはAAV1である(すなわち、血清型1カプシドを有するAAV)。実際に、AAV1は筋肉細胞に最も効果的に形質導入する。
【0023】
一方、オリジナルなウイルスの配列、特に導入遺伝子と関連するITRはAAV2由来が有利である。結果として、有利な実施態様では、最終的なアデノ関連ウイルスベクターは2/1偽型である。
【0024】
前記ベクターは、改変snRNA配列も含有する。低分子核内RNA、またはsnRNAは細胞の核内に存在する小さいサイズのRNAであり、プレmRNAの成熟の特定の段階に関係付けられている。それらはU1、U2、...U10と称されている。
【0025】
これらの各種のタイプのsnRNAの中で、通常はヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟に関与するU7タイプが、輸送体として好ましく使用される。
【0026】
問題のsnRNAは、これらの小さい配列が異なる種の間で高度に保存されている限り、ヒトまたはマウス起源のものであって良い。好ましくは、本発明で使用されるsnRNAはマウスのものである。
【0027】
「改変snRNA」は、snRNAの本来の機能に関与する配列が不活性化されているRNAを意味する。これらの配列は、前記snRNAの発現レベルを増大するように改変されても良い。
【0028】
例えば、U7の場合では、「低分子核内リボ核タンパク質」(またはSmタンパク質)の固定部位の配列が、ヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの成熟を不活性化するため、及び同時にU7snRNAの核内濃度を増大するために改変される。更に、ヒストンをコードするプレメッセンジャーRNAの3'成熟部位における18の相補的なヌクレオチド配列が、興味のあるアンチセンス配列に置き換えられる。
【0029】
実際に、これらの改変はPCRを使用して部位特異的変異導入によって導入されて良い。
【0030】
次いで、この様な改変snRNAが、好ましくは2つのITR配列の間でAAVベクターにおいてクローニングされて良い。
【0031】
本発明は、より多くの改変とより少ない有効な成果ではあるが、U1またはU2配列を使用して実施されても良い。
【0032】
本発明に係るベクターは、生物学的及び治療的な活性を確実にするために、十分なレベルでアンチセンス配列を発現させるプロモーターを含んで良い。AAVとの関連の中で多数の使用可能なプロモーターが当業者に知られている。しかしながら、本発明の好ましい実施態様では、アンチセンス配列の発現は、構築物中で使用されるsnRNAの天然の配列によって調節される。U7が好ましい場合は、アンチセンス配列を転写するU7プロモーターである。
【0033】
本発明に係るベクターは、少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列も含む(すなわち、前記エクソンのスプライシングを妨害することが可能である)。前記アンチセンス配列は、好ましくは、5'スプライス部位(ドナー);3'スプライス部位(アクセプター);BP(ブランチポイント)イントロン配列;及びおそらくはプリンリッチ内部領域、さらに特にはESE(エクソン内部スプライシングエンハンサー)の群より選択される少なくとも1つの配列を有する相補的な配列である。
【0034】
有利には、所定のエクソンの除外を確実にするために、別個の標的を有する2つのアンチセンス配列、好ましくは5'ドナー部位及びBP配列が、本発明に係る単一の組換えベクターに導入される。
【0035】
少なくとも2つの別個のエクソンのスプライス部位に対するアンチセンス配列が、同一の構築物の中で結合されても良い。
【0036】
代替的に、1つ以上のエクソンに対する、異なるアンチセンス配列を各々有する複数の構築物を使用しても良い。
【0037】
実際に、(同一のエクソンまたは複数の別個のエクソンに対する)複数のアンチセンス配列が組み合わされる際は、以下の状況が揚げられる:
-前記アンチセンス配列が、単一のAAVベクターによって同一のU7カセットに組み込まれる。
-前記アンチセンス配列が、単一のAAVベクターによって異なるU7カセットに組み込まれる。
-前記アンチセンス配列が、AAVベクターによって異なるU7カセットに組み込まれる。
【0038】
本発明との関連の中で、前記アンチセンス配列は、いずれの起源であっても、ジストロフィン遺伝子を形成するエクソンの別個のスプライス部位に特異的な配列である。
【0039】
マウスが一般的に好まれる実験動物モデルであるため、マウスのジストロフィンが明らかに興味のあるものである。不活性な切断されているタンパク質を生じるマウスジストロフィン遺伝子のエクソン23の変異を有するmdxマウスは、DMDの症状を示す。そのため、この事との関連の中で、前記アンチセンス配列は、エクソン23のスプライシングに関与する配列に対する配列である。
【0040】
さらに特には、本発明に係るベクターは、AAVベクターの2つのITR配列の間に導入される、U7プロモーターの調節下に置かれるマウスジストロフィン遺伝子のエクソン23の5'ドナー部位に対するアンチセンス配列(配列番号2)及びBP配列に対するアンチセンス配列(配列番号3)が組み込まれ、上述のように改変されたU7snRNA遺伝子からなる配列番号1を含む。
【0041】
非上に興味深いことに、その様なベクターの機能性を、大きな動物であるイヌにおいて本明細書において評価した。エクソン7が最終的なmRNAに含まれないという事実がリーディングフレームを無効にする(エクソン6及び8が一致しない)ような、イントロン6のスプライスアクセプター部位における変異によって、天然に筋障害を有するイヌが存在する。理論的には、作動可能なリーディングフレームは、エクソン6及び8を同時にスキップすることによって修復される事が可能であり、最終的なmRNAはエクソン6、7、及び8が除去されている。エクソン6及び8の各々のESE領域に対するアンチセンス配列(配列番号27及び28)を含む、本発明に係るベクターの結合は、確実に効果的であった。
【0042】
ヒトにおける治療に関しては、選択されるアンチセンス配列は、その除去が切断されているが活性を有するタンパク質を生じさせる、ヒトジストロフィン遺伝子の少なくとも1つのエクソンの、少なくとも1つのスプライス部位に対するものである。
【0043】
過去に考察されているように、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51、さらに特にはそのスプライシングに関与する配列が、本発明との関連の中で有利な標的である。かくして、ジストロフィンをコードする転写物からのその配列の除去が、デュシェンヌ型筋ジストロフィに関する遺伝型として記録されている今日の臨床的なケースの約20%の治療において有利である可能性がある。
【0044】
本発明者によって、本発明の適切な構築物は、配列番号1における配列番号2及び3の配列の位置に、ヒトジストロフィン遺伝子のエクソン51のプリンリッチ内部領域に対する2つのアンチセンス配列(配列番号5及び配列番号6)を結合している、配列番号4を含むことを示した。
【0045】
本発明との関連の中で使用されて良い他のヒトアンチセンス配列は、以下のものである:
-エクソン51の5'部位に対する配列番号7のDA5'配列;
-エクソン51の3'部位に対する配列番号8のDA3'配列;
-エクソン51の5'部位に対する配列番号9のG5'配列;
-エクソン51のBP部位に対する配列番号10のGBP配列;
-エクソン51のESEタイプ部位に対する配列番号11、12、及び13の各々のESE4、ESE16、及びESE28配列;
-配列番号25のEx51AONlong1配列;
-配列番号26のEx51AONlong2配列。
【0046】
これらの配列は、好ましくは、本発明に係るベクター中で直列に結合される。好ましくは、DA5'(配列番号7)及びDA3'(配列番号8)またはG5'(配列番号9)及びGBP(配列番号10)が結合される。
【0047】
配列番号25及び配列番号26の配列は、配列番号5及び配列番号6のより長い配列に相当する。それらは好ましくは結合される。それらの大きなサイズに鑑みて、同一のAAVベクター、または同時に使用される2つの別個のAAVベクターのいずれかによって、各々が有利にU7カセットに組み込まれる。
【0048】
非常に興味深いことに、本出願人は、本発明において、前記アンチセンス配列の性質は、前記構築物の効力において重要な役割を担う可能性があることを示し、レンチウイルスベクターにおいて前記U7カセットを置き換えることによって、標的筋肉細胞に対するin vitroにおける実験によって、これらの配列の効力を評価することが可能であることも示した。
【0049】
かくして、本発明は、
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然U7プロモーター
-配列番号2、配列番号3、配列番号27、配列番号28、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、配列番号26からなる群より選択される少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、レンチウイルスベクターにも関する。
【0050】
本出願人は、ヒトエクソン51のスキップにおいて、前記ベクターが、De Angelis et al (1)の構築物で認められたものよりも非常に効率的であることを示した。はじめて、本発明に係るレンチウイルスベクターを使用して、遺伝的に改変されている患者細胞(Δ49-50)のSCID-mdxマウスへの注入後の、in vivoにおけるジストロフィンの明解な生産を報告している。
【0051】
好ましくは、本発明に係るアデノ関連ウイルスベクターに置き換わるレンチウイルスベクターは、最新の世代のSIN(自己不活性化)レンチウイルスである。しかしながら、任意のレンチウイルスベクターを使用してU7カセットを挿入してよい。レンチウイルスベクターの構築物及び操作は、当業者によく知られている。
【0052】
これらのレンチウイルスベクターは、本発明に係る組換えAAVの応用と相補的な応用を有する。後者は標的の筋肉におけるin situにおける注入が意図されるが、一方でレンチウイルスを使用して、潜在的なアンチセンス配列の効力が、治療される患者由来の分化した筋肉細胞内で直接的に、in vitroで試験される。また、これらのベクターが筋芽細胞、筋肉前駆体、または幹細胞にも導入される場合には、トランスフェクトされた細胞のin situにおける移植が構想されて良い。
【0053】
そのため、前記組換えベクターによってトランスフェクトされる任意のタイプの細胞、特に筋肉細胞、及び特には筋繊維タイプ(筋管)、筋肉前駆体(筋芽細胞)、または筋肉に分化可能な任意の細胞が、本発明の一部である。
【0054】
前記ベクターによってトランスフェクトされる任意の筋肉組織または非ヒトの生物も、請求する保護の範囲内に含まれる。非ヒトの生物の中では、動物、特にマウスが好ましい。
【0055】
本明細書は、前記ベクターに関する治療的な潜在能力を初めて記載する。かくして、本発明は、本明細書で規定される少なくとも1つのベクターを活性成分として含む製薬組成物、並びに医薬品としての本発明のベクターの使用にも関する。更に、レンチウイルスに関して上述したように、トランスフェクトされた細胞も移植との関連の中で治療的な潜在能力を有する可能性がある。
【0056】
本発明に係る製薬組成物は、製薬学的に許容される不活性媒体と関連して前記ベクターまたは細胞を含有する。
【0057】
本発明に係るベクターを病気の筋肉に注入すべき際には、前記製薬組成物は液状であることが好ましいであろう。前記ベクターの濃度、注入する量、及び注入の頻度は、当業者によって容易に決定される。
【0058】
DMDによって影響を受けている筋繊維におけるジストロフィンの修復においてin vivoで確認された顕著な効果に鑑みて、デュシェンヌ型筋ジストロフィの治療を意図する医薬品の調製のための本発明に係るベクターまたは細胞の使用に関しても特許請求の範囲に記載する。
【0059】
更に一般的には、本発明に係るベクターが、不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンのスキッピングがその機能を修復可能である、不要なドメインタンパク質の機能障害と関連する任意の疾患の治療のために使用されても良い。
【0060】
本明細書で示されるデュシェンヌ型筋ジストロフィと関連するジストロフィンの機能障害とは異なる、ある筋障害は、例えば不要なドメインタンパク質であるdysferlinの機能障害に関連しているため、本発明に係るベクターを使用して治療してよい。
【0061】
in vivoにおける使用の間では、本発明に係るベクターは安定であり、特異的な細胞内局在を有して、治療的に活性量のアンチセンスを永続的に生産することが明らかである。
【0062】
さらに一般的には、本明細書では、動物においてmRNAを不活性化または改変するためのツールとしてのAAV-U7snRNAシステムの可能性を明らかにする。
【0063】
本発明及び本発明によって生じる利点は、移管実施態様及び添付の図面によってより良く説明される。
【実施例】
【0064】
A.マウスにおける実験的な試験
I 原料及び方法
1.構築物
完全なU7 snRNA遺伝子(445 bp)を、オリゴヌクレオチド:5'-TAACAACATAGGAGCTGTG-3' (配列番号14)と5'-CAGATACGCGTTTCCTAGGA-3' (配列番号15)とを使用してマウスのゲノムDNAに対するPCRによって得た。Smドメイン(AATTTGTCTAG;配列番号16)は、過去(3)に記載されているようにsmOPT(AATTTTTGGAG;配列番号17)に最適化し、プレmRNAと適合することが可能なU7領域を、ジストロフィン遺伝子のエクソン23の前のBP(ブランチポイント)配列をカバーする領域(BP22;5'-AAATAGAAGTTCATTTACACTAAC-3';配列番号3)、及びスプライスドナー部位の後の領域(SD23;5'-GGCCAAACCTCGGCTTACCT-3';配列番号2)の双方の44の相補的なヌクレオチド配列で置き換えた。次いで、結果として得られたU7smOPT-SD23/BP22フラグメントを、2つのAAV2の逆向き末端反復配列の間に挿入した(配列番号1)。
【0065】
2.ベクター
AAV2/1偽型組換えベクターを、以前(4)に記載されているように、3つのプラスミド:ゲノムrAAV2をコードするpAAV2(U7smOPT-SD23/BP22)、アデノウイルスヘルパー機能を有するpXX6、及びAAV1のrep及びcap遺伝子を提供するpAAV1plTRCO2の共トランスフェクトによって293細胞において調製した。ベクターの濃度は、1012と1013ベクターゲノム(vg) ml-1の間で変化した。
【0066】
3.動物及び送達方法
いかなる動物の手法も、生物学的に抑制された限定的な条件で、研究所によって認められたプロトコルに従って実施した。mdxマウスの第1の群(8週齢)は、右後肢の前脛骨筋に1012 (vg) AAV(U7-SD23/BP22)を含有する50μlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水)の注入を受けた。対側の筋肉を対照として使用した。同じ週齢のmdxマウスの第2の群は、大腿動脈を介して2×1013のベクターの動脈内注入を受けた。そのマウスを所定の時間で屠殺し、筋肉を液体窒素で冷却したイソペンタンで凍結し、-80℃で保存した。
【0067】
4.組織学
筋肉の長さに沿って200μmで作製した連続する横断切片(8μm)を、製造業者の指示に従って、免疫検出によってジストロフィン(NCL-DYS2;C末端ドメインに対するマウスモノクローナル抗体;Novocastra)及びジストロフィンと結合するタンパク質(β-ジストログリカン、α及びβ-サルコグリカン)に関して試験した。前記モノクローナル抗体を、アビジン-FITCによってビオチン化抗体で検出した(M.O.M Kit、Vector Laboratories)。調製した前記切片を、レーザー走査共焦点顕微鏡(Leica)によって分析した。中間組織を、タンパク質及びRNAの後に続く分析のために回収した。
【0068】
5.免疫学的検出による分析
中間層の切片を回収し、4% SDS、125mM Tris-HCl pH 6.4、4M 尿素、10% β-メルカプトエタノール、10% グリセロール、0.001% ブロモフェノールブルーを含有するリシスバッファーを使用して抽出した。遠心分離の後、Bio-Rad Protein Assay試験を使用してタンパク質量を測定した。40μgのタンパク質に調節されたサンプルを、6% アクリルアミドゲルにロードし、電気泳動にかけ、ニトロセルロース膜に転写し、その膜を1:100に希釈したNCL-DYS1(ジストロフィンのスペクトリン様ロッドドメインのR8反復配列に対するマウスモノクローナル抗体;Novocastra)またはNCL-DYS2のいずれかと共にインキュベートし、続いてセイヨウワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(1:1000)と共にインキュベートしてECL Analysis System(Amersham)を使用して分析した。
【0069】
6.RNA分析
TRIzol試薬(Life Technologies)を使用して、中間切片のプールからRNA全体を単離した。U7及びU7smOPT-SD23/BP22を検出するために、始めに、ランダムヘキサマー(Invitrogen)の存在下でSuperscript II逆転写酵素を使用して、RNA全体に対して逆転写を実施した。次いで、30サイクル(94℃/30s;55℃/30s;72℃/30s)で、5'-AAGTGTTACAGCTCTTTTAG-3' (野生型U7に位置する配列番号18)または5'-AAGGCCAAACCTCGGCTTAC-3' (U7smOPT-SD23/BP22に位置する配列番号19)及び5'-AGGGGTTTTCCGACCGAAG-3' (配列番号20)と共に、Taqポリメラーゼ(Promega)を使用してcDNAを増幅した。そのPCR産物を2%アガロースゲルで分析した。ジストロフィンRNAを検出するために、200ngのRNA全体を使用してネステッドRT-PCRを実施した。30サイクル(94℃/30s;55℃/1分;72℃/2分)で、Ex20ext(配列番号21;5'CAGAATTCTGCCAATTGCTGAG-3')及びEx26ext(配列番号22;5'-TTCTTCAGCTTGTGTCATCC-3')を使用して、第1の反応を実施した。Ex20int(配列番号23;5'-CCCAGTCTACCACCCTATCAGAGC-3')及びEx26int(配列番号24;5'-CCTGCCTTTAAGGCTTCCTT-3')を使用して、2μlの第1の反応物を23サイクルで増幅した。PCR産物を2%アガロースゲルで分析して、特異的なバンドを配列分析のために精製した。
【0070】
7.筋肉の生理学
対照のまたは処理されたマウスの肢の長指伸筋を解剖して、それらの収縮性/機械性の性質を評価した。単離した筋肉の片側に電磁プラー(electromagnetic puller)を接続して、他の側に力センサーを接続し、筋肉に並んで置かれた電極を使用して刺激した。短ショック(125Hz;360ms、3分の休息期間に隔てられて)に関連する持続性の等尺収縮を、L0(最大の等尺の持続力が観察された長さ)で試験した。筋肉の推定の切片領域(CSA)によって力を割ることによって、等尺張力を算出した。筋肉が円柱形であり、1.06mg.mm-3の密度を有すると仮定すると、CSAは、繊維長で割った筋肉の湿重量に相当する(5)。偏心収縮は、特徴的な様式で膜断裂に関連する筋肉損傷を誘導する。それらは、最大に収縮した筋肉を強制的に伸長させる際に生じ、力の損失を誘導する。ここで、前記筋肉は、1繊維長/秒の速度で最大の力を生じるL0長の10%まで伸長した。5の偏心収縮を3分間の間隔で適用した。等尺力における蓄積された衰えを過去に記載されているように定量した(5)。
【0071】
II)結果
核内のメッセンジャーRNA(mRNA)成熟プロセスを妨害するアンチセンス配列を導入するためにU7タイプRNAを改変した。マウスジストロフィン遺伝子のイントロン22及び23に対するアンチセンス配列を移行するために、前記U7snRNAを最適化した。イントロン22の中の配列を選択して、BP(ブランチポイント)スプライス部位(BP22;配列番号3)におけるU2snRNAの固定と競合させ、イントロン23の中の配列はドナーサイトにおけるU1の固定部位に相当した(SD23;配列番号23)(図1)。Brun et al.(2)に推奨されるような二重標的ストラテジーにおいて、これらの配列を使用した。
【0072】
プロモーター及び3'因子の双方を含む、改変U7遺伝子をAAV-2に基づく構築物に導入し、その構築物を、骨格筋への遺伝子の転移のより高い転移効率を得るために、AAV-1カプシドに導入した。成体mdxマウス(8週齢)に、前脛骨筋への注入によって単回用量の1010ベクターゲノムを与え、2から16週の間に分析した。注入された筋肉より調製されたRNA全体に対するネステッドRT-RNAによって、エクソン23のスキッピングの分子分析を実施した。エクソン23を欠いている、より短い転写物が検出された。その転写物は、注入の2週間後に増幅された物質の5から10%を占め、1ヵ月後には大部分のタイプとなった(図2B及び2C)。2及び4週で測定される改変U7のレベルは、内生のU7snRNAのレベルの同等及び5倍であったように、エクソンスキッピングされた、この転写物の遅い蓄積は、AAVによって改変された遺伝子の転移後の第1週の間の導入遺伝子の穏やかな発現の結果ではない(図2A)。むしろ、この事は、筋肉繊維におけるプレmRNAの制限されたアベイラビリティーと、成熟ジストロフィンmRNAの遅い回転とを示す。
【0073】
エクソンスキッピングを受けた転写物の産生と一致して、ジストロフィンタンパク質が筋肉抽出物における免疫検出及び組織切片に対する免疫蛍光の双方によって検出された(図3)。ジストロフィンのレベルは、産生されたmRNAのレベル(2及び4週の各々で通常のレベルの0.5%及び30%)を反映した。エクソンスキッピングが、複数の破損タンパク質の存在の所見なしで、予想されたサイズの免疫反応性のタンパク質種を生じさせた。野生型と切断されたタンパク質の間の分子量の差は示されているゲルにおいて分離することができないことに注意するべきである。実質的には、注入を受けた筋肉繊維の全てについて、注入の4週間後から検出され、前記タンパク質は繊維の周辺部分に典型的に位置していた。処理された筋肉の組織学的な切片は、正常な多角形状及び炎症性細胞の不在を再び得た繊維と共に、ジストロフィのフェノタイプの消失を明らかに示した。
【0074】
mdx動物の群は、より低い肢部における高圧動脈内灌流によってAAV-U7ベクターを受けた。1ヵ月後、TA及びEDL筋肉を含む灌流を受けた肢部の全筋肉において、大多数の繊維におけるジストロフィンの効果的な修復を生じた(図3F)。ジストロフィンに加え、αサルコグリカン、β-サルコグリカン、及びβ-ジストログリカンを含む結合するタンパク質が、処理された動物の繊維の周辺部分において検出された(図4)。この事は、エクソンスキッピングを受けたmRNA産物が、ジストロフィンを膜にアンカーする機能に必須であるC末端ジストログリカン固定ドメインを含むことを確証している。
【0075】
運動によって誘導される損傷に対する感受性を、等尺伸縮後の強制的な伸長に対する抵抗を測定することによって処理された動物において評価した。この実験のために、前記マウスは単回用量のAAV-U7をEDL筋肉に受け、そのマウスを45日後に分析した。mdx動物の筋肉は繰り返される伸長に抵抗することが不可能であるが、一方で繊維において70%を超えて回復されたジストロフィンを発現している処理された筋肉は、野生型の15%と比較して、5回の刺激後に17%の力の損失を有し、正常な筋肉と同等に実施された(図5A)。運動によって誘導される損傷を、前脛骨筋に注入されたmdxマウスを広範に動かし、細胞は不浸透性である染色剤のEvans blueを注入することによっても評価した。繊維に浸入した染色剤によって明らかであるように、筋肉の領域は、処理された筋肉において顕著であり(図5B)、同一の動物の対側の未処理の筋肉においては認められなかった(図5C)。
【0076】
B.イヌにおけるin vivo試験
マウスで得られた結果は、大きな動物であるGRMDイヌに対して置き換えることができるであろう。GRMDイヌはイントロン6のスプライスアクセプター部位における点変異を有し(AGがGGに変異している;図6A)、ジストロフィンmRNAにおけるエクソン7の含有を妨害する(図6B)。かくして、形成されるmRNA(Δエクソン7)は、エクソン6及び8が一致しないことに関連するリーディングフレームシフトを有する(図6B及びC)。エクソン6、7、及び8を最終的なmRNAに取り込ませないように(マルチスキッピング;図7B)、エクソン6及び8の領域におけるスプライシング機構を妨害する(図7A)であろうアンチセンス配列を導入するために、2つのU7タイプRNAを改変した。修復されたリーディングフレームを有するこのmRNAは、ABDドメインの中で僅かに切断されているが(図7C)、理論的には完全に機能的であるタンパク質を生産することが可能である。
【0077】
配列番号27のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex6)ベクター及び配列番号28のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex8)を、成体のGRMD被験体における局所的/局部的な注入によって、in vivoにおいて試験した。図8は、2つのベクターの混合物を含有する(〜1011ウイルス粒子)500μlの調製物の単回の筋肉内注入の2ヵ月後に得られたジストロフィンレベルを示す。このジストロフィンは、ウエスタンブロットを使用しても検出可能であった(図9)。マウスと同様に、ジストロフィンと結合するタンパク質複合体も間接的に修復され、複数エクソンスキッピングによって誘導された擬似ジストロフィンが正確に機能することを示した。
【0078】
C.ヒトにおけるin vitro試験
本発明者は、in vivoにおける筋肉再生に関与することが可能な細胞集団において、細胞治療及びエクソンスキッピングを組み合わせることが可能である方法を開発した。これを実施するために、本発明者は、治療的なスキッピングを誘導するU7カセットを有するレンチウイルスベクターを開発した(マウス、イヌ、及びヒトモデル)。
【0079】
例として、エクソン49-50の欠失を有するDMD患者の細胞におけるジストロフィンの修復を以下に記載する。各種のレンチ(U7ex51 ヒト)ベクターを作製し、それらの1つはDe Angelis (1)に以前に記載された配列を有した(図10A及び10B)。本発明者の結果では、形質導入、培養、及び分析の同一の条件下で、以前に公開されている標的配列(U7-ASDS)のみが非常に限定された程度で作用し、合理的な治療と適合するジストロフィンレベルを回復しない(図10C)。一方で、配列番号5及び6のアンチセンス配列を含む、前記(U7-H51ab)ベクターは非常に効率的であり、ベクターによって標的とされるエクソン51が除去されるジストロフィンmRNAをほぼ完全に改変する(図10C)。DMD患者由来の細胞を使用するin vivoにおける治療的なエクソンスキッピングの可能性を証明することを意図して、DMD患者(Δ49-50)より新たに得られた循環AC133+幹細胞(20×104)を、配列番号5及び6のアンチセンス配列を含むレンチ(U7-H51ab)ベクターを使用して形質導入し、SCID-mdxマウスの前脛骨筋に即時に再注入した。1ヵ月半後の組織学的な分析は、多数の、おそらくはヒト/マウスキメラ筋肉繊維におけるヒトジストロフィンの修復を結果として明らかにした(図11)。
(参考文献)
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】(A)上図はインタクトなジストロフィンの構造を図示する(427kDa)。前記ジストロフィンは複数のドメインからなる:N末端アクチン結合ドメイン(ABD)、24スペクトリン様反復(R)及び柔軟性を提供可能な4ヒンジ部(H)からなる中央のロッドドメイン、並びにβ-ジストロフィン及びC末端の付近でジストロフィンと結合する複合体の他のメンバーを固定するシステインリッチドメイン(CR)。中央の図は、79のエクソンからなるジストロフィンmRNA(約14,000塩基)を表す。mdxマウスでは、コード配列の3185位におけるエクソン23のチミジンによるシトシンの置き換えが未成熟なストップコドンを作り出す。下図は、オープンリーディングフレームを維持して、変異のエクソンをスキップするためのスプライシングを調節する機構を働かせるエクソン23の前のBP配列(ブランチポイント;BP22;配列番号3)及びスプライスドナーサイト(SD23;配列番号2)の後における標的配列を示す。(B)AAV(U7-SD23/BP22)ベクターの構造。U7-SD23/BP22カセットは、U7プロモーター(-267位から+1、斜線部)、改変U7 snRNA配列(灰色部、以下の配列に相当する)、並びに116位の後の配列(白色部)からなる。このカセットをAAV2(配列番号1)の2つの逆向き末端配列(ITR)の間にセットした。
【図2】AAVベクターの筋肉内注入後の、U7-SD23/BP22改変snRNA;(a)及び内生のU7 snRNA(b)の検出。RT-PCRによってRNA全体のサンプルを0、15、及び30日に分析した(カラム1、2、及び3の各々)。60bpに相当する産物がアガロースゲル上で可視化された。エクソン23がスキップされたジストロフィンmRNAの検出。エクソン20及び26のプライマー対を使用してネステッドRT-PCRによってRNA全体のサンプルを0、15、及び30日に分析した。スキップ(*)されていないmRNAに相当する901bpのバンドが0日に検出された唯一のタイプであった(カラム1)。そのバンドが、エクソン23が欠失したmRNAに相当する688bpのフラグメント(**)によって徐々に置き換わっている。(B)ゲル上で精製した後の688bpのバンドのDNA配列。(C)抗ジストロフィンDys1モノクローナル抗体を使用して染色された前脛骨筋から抽出されたタンパク質全体の免疫検出(矢印は427kDaの完全なジストロフィンを示す:カラム1、注入されていないmdx;カラム2、注入の2週間後のmdx;カラム3、注入の1ヵ月後のmdx;カラム4、C57B16)。各カラムを40μgの総タンパク質量でロードした。同一のプロフィールがDys2抗体を使用して認められた(結果は示さず)。
【図3】AAV(U7-SD23/BP22)投与後のmdxマウスにおけるジストロフィンの修復。(A)正常なC57B16、(B)未処理のmdx、(C-E)筋肉内注入の2、4、及び12週後のmdxマウス、並びに(F)動脈内ベクター放出の4週後のmdxの後肢前部の完全な横切片のDys2-Abを使用する免疫学的な染色(前脛骨筋=TAであり、足の長指伸筋*=EDLである)。スケール(A-D):0.5mm;(E-F):1mm。
【図4】処理されたmdxマウスにおけるジストロフィンと結合するタンパク質複合体の修復。左、中央、及び右のカラムは、正常なC57B16、未処理のmdx、及び処理後のmdxマウスの前脛骨筋の切片を示す。前記切片は、ジストロフィン(A,B,C)、α-サルコグリカン(D,E,F)、β-サルコグリカン(G,M,I)、並びにβ-ジストログリカン(J,K,L)に関して免疫染色した。ジストロフィン及び結合複合体タンパク質を示す、同一のセットの復帰突然変異繊維(*)が未処理のマウス由来の一連の切片に示されている。
【図5】処理されたmdx筋肉におけるジストロフィンの修復は、運動によって誘導された損傷に対する通常の感受性を再確立する。(A)強制的な伸長による5の持続性伸縮の間の、a)C57B16、b)未処理mdx、及びc)処理の45日後のmdxマウスのEDL筋肉によって生じた伸長の重ね合わせた記録。単離された筋肉を、3分間の間隔で360ms間の反復刺激(125Hz)にかけた。最初の160msの間は等尺に発達する伸長であり、次いで筋肉が最大の力を生じるL0長の10%に相当する伸長力が1秒当たり1繊維長の速度で課される。弛緩後、筋肉は休息時の長さに戻った。力の低減を、(F1-F5)/F1として表した(F1は第1の強縮性収縮における伸長の直前に生じる等尺力であり、F5は五回目の強縮性収縮における伸長の直前に生じる等尺力である)。力における低減は、mdxマウスの65%に対してC57B16の筋肉に関して15%の平均値に達した。c)に示されている処理されたmdxに関して、力における低減は17%まで減少し、筋肉繊維の機械的な特性の完全な再獲得を示す(B及びC)。同一のmdx動物の未処理(B)または処理(C)された肢の前脛骨筋において、運動によって損傷した筋肉繊維のEvance blueを使用する検出。損傷した繊維はEvans blueを取り込み、レッドチャンネルにおいてその蛍光が検出される。ジストロフィンをAb-dys2(グリーン)を使用して免疫学的に染色した。
【図6】(A)GRMDイヌにおけるイントロン5-イントロン8の領域の配列。フェノタイプに関する変異が同定されている。(B)GRMDイヌにおけるmRNAスプライシングの図。(C)萎縮したジストロフィンを生じるエクソン6の末端におけるリーディングフレームの中断の図。
【図7】(A)エクソン6(C6ESE2;配列番号27)及びエクソン8(C8ESE1;配列番号28)のESE配列に位置する標的配列の配置。(B)アンチセンス配列C6ESE2及びC8ESE1を使用して実施される複数エクソンスキッピング後の、GRMDイヌにおけるmRNAスプライシングの図。(C)複数エクソンスキッピング後に合成されるジストロフィンのタンパク質配列の図。
【図8】配列番号27のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex6)ベクター及び配列番号28のアンチセンス配列を含むAAV(U7-ex8)ベクターを含有する調製物の単回の筋肉内注入の2ヵ月後に得られる、成体GRMDイヌにおけるジストロフィンの修復。Dys2-Abを使用する完全な横切片の免疫学的な染色。スケール1mm。
【図9】抗ジストロフィンDys2モノクローナル抗体を使用して染色された前脛骨筋より抽出されるタンパク質全体の免疫検出:カラム1、健康な被験者におけるヒトジストロフィン;カラム2、健康なイヌにおけるジストロフィン、カラム3、処理の2ヵ月後のGRMDイヌ;カラム4未処理のGRMDイヌ。各カラムとも40μgの総タンパク質量でロードした。
【図10】(A)ヒトジストロフィン遺伝子中のエクソン51のスキッピングを可能にする標的配列の配置:アンチセンス配列H51aは、配列番号6の配列を有し、アンチセンス配列H51bは配列番号5の配列を有する。アンチセンス配列AS及びSDはDe Angelis(1)によって記載されている。(B)レンチウイルスベクターへのU7カセットの組込みの図。(C)エクソン51のスキッピングを使用するヒトジストロフィンmRNAの検出。RNA全体のサンプルをネステッドRT-PCRによって分析した。黒矢印はスキッピング(*)のないmRNAに相当し、白矢印はエクソン51を欠いているmRNAを示す。
【図11】配列番号5及び6のアンチセンス配列を含むレンチ(U7-H51ab)ベクターによって形質移入されたΔ49-50幹細胞の、前脛骨筋への注入の1ヵ月半後に得られたSCID-mdxマウスのジストロフィンの修復。Dys3を使用して免疫学的に染色している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然のU7プロモーター;
-ジストロフィンの不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンの、少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、アデノ関連ウイルスベクター。
【請求項2】
前記AAVベクターが、血清型1カプシドからなることを特徴とする、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記AAVベクターが、2/1偽型であることを特徴とする、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記スプライス部位が、5'ドナー部位、3'アクセプター部位、BP(ブランチポイント)配列、及びESE配列を含む群より選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
2つのアンチセンス配列を含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
前記アンチセンス配列が、5'ドナー部位及びBP配列の各々に対する配列であることを特徴とする、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記アンチセンス配列が、配列番号2及び配列番号3の配列の各々を有することを特徴とする、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
配列番号1の配列を含有することを特徴とする、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
イヌのジストロフィン遺伝子のエクソン6及び/またはエクソン8のESE配列に対するアンチセンス配列、好ましくは配列番号27及び/または配列番号28の配列を含有することを特徴とする、請求項4に記載のベクター。
【請求項10】
少なくとも1つのアンチセンス配列が、ヒトジストロフィン遺伝子の少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する配列であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
少なくとも1つのエクソンがエクソン51であることを特徴とする、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
前記アンチセンス配列が、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、及び配列番号26の配列を含む群より選択される配列を有することを特徴とする、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
配列番号5及び配列番号6、または配列番号7及び配列番号8、または配列番号9及び配列番号10、または配列番号25及び配列番号26の配列の各々を含むことを特徴とする、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
配列番号4の配列を含有することを特徴とする、請求王13に記載のベクター。
【請求項15】
前記アンチセンス配列が、少なくとも2つの別個のエクソンのスプライス部位に対する配列であることを特徴とする、請求項1から5、9、及び10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然のU7プロモーター
-配列番号2、配列番号3、配列番号27、配列番号28、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、配列番号26からなる群より選択される少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、レンチウイルスベクター。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた細胞。
【請求項18】
筋肉細胞であることを特徴とする、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
筋芽細胞または筋肉に分化可能な細胞であることを特徴とする、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた筋肉組織。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた非ヒト生物。
【請求項22】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項17から19のいずれか一項に記載の細胞を含む製薬組成物。
【請求項23】
不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンにおけるスキッピングによって機能を再確立する、ジストロフィンの機能異常と関連する疾患の治療が意図される医薬品の調製のための、請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項17から19のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【請求項24】
前記疾患がデュシェンヌ型筋ジストロフィであることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【請求項1】
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然のU7プロモーター;
-ジストロフィンの不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンの、少なくとも1つのスプライス部位に対する少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、アデノ関連ウイルスベクター。
【請求項2】
前記AAVベクターが、血清型1カプシドからなることを特徴とする、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記AAVベクターが、2/1偽型であることを特徴とする、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記スプライス部位が、5'ドナー部位、3'アクセプター部位、BP(ブランチポイント)配列、及びESE配列を含む群より選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
2つのアンチセンス配列を含有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
前記アンチセンス配列が、5'ドナー部位及びBP配列の各々に対する配列であることを特徴とする、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
前記アンチセンス配列が、配列番号2及び配列番号3の配列の各々を有することを特徴とする、請求項6に記載のベクター。
【請求項8】
配列番号1の配列を含有することを特徴とする、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
イヌのジストロフィン遺伝子のエクソン6及び/またはエクソン8のESE配列に対するアンチセンス配列、好ましくは配列番号27及び/または配列番号28の配列を含有することを特徴とする、請求項4に記載のベクター。
【請求項10】
少なくとも1つのアンチセンス配列が、ヒトジストロフィン遺伝子の少なくとも1つのエクソンの少なくとも1つのスプライス部位に対する配列であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
少なくとも1つのエクソンがエクソン51であることを特徴とする、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
前記アンチセンス配列が、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、及び配列番号26の配列を含む群より選択される配列を有することを特徴とする、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
配列番号5及び配列番号6、または配列番号7及び配列番号8、または配列番号9及び配列番号10、または配列番号25及び配列番号26の配列の各々を含むことを特徴とする、請求項12に記載のベクター。
【請求項14】
配列番号4の配列を含有することを特徴とする、請求王13に記載のベクター。
【請求項15】
前記アンチセンス配列が、少なくとも2つの別個のエクソンのスプライス部位に対する配列であることを特徴とする、請求項1から5、9、及び10のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
-U7タイプ改変snRNA配列;
-天然のU7プロモーター
-配列番号2、配列番号3、配列番号27、配列番号28、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号25、配列番号26からなる群より選択される少なくとも1つのアンチセンス配列
を含む、レンチウイルスベクター。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた細胞。
【請求項18】
筋肉細胞であることを特徴とする、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
筋芽細胞または筋肉に分化可能な細胞であることを特徴とする、請求項18に記載の細胞。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた筋肉組織。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターによってトランスフェクトされた非ヒト生物。
【請求項22】
請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項17から19のいずれか一項に記載の細胞を含む製薬組成物。
【請求項23】
不要なドメインをコードする少なくとも1つのエクソンにおけるスキッピングによって機能を再確立する、ジストロフィンの機能異常と関連する疾患の治療が意図される医薬品の調製のための、請求項1から16のいずれか一項に記載のベクターまたは請求項17から19のいずれか一項に記載の細胞の使用。
【請求項24】
前記疾患がデュシェンヌ型筋ジストロフィであることを特徴とする、請求項23に記載の使用。
【図1】
【図3】
【図4】
【図8】
【図11】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図3】
【図4】
【図8】
【図11】
【図2】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2008−509695(P2008−509695A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526520(P2007−526520)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050642
【国際公開番号】WO2006/021724
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(503197304)
【出願人】(598118019)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (15)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050642
【国際公開番号】WO2006/021724
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(503197304)
【出願人】(598118019)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (15)
【Fターム(参考)】
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