説明

不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法

本発明は、2つのルテニウム複合触媒を用いた、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法に関する。請求項に記載する方法により得られた、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルは、特に日焼け止め化粧料組成物に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UV領域、特にUV−B領域における改良された吸収を有する、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日焼け止め製剤に対して、UV吸収の向上、および、そのために皮膚および毛髪のUV保護を向上することに不変の必要性がある。ここでは特に短波長で高エネルギーのUV−B放射(280〜320nm)が、光紅斑、日光皮膚炎および皮膚壊死だけでなく、皮膚癌(黒色腫)も引き起こし得るため、重要である。しかしながら、製剤に関しては典型的なUV光防御フィルター物質は当業者に課題を与え、UV光防御フィルター物質に対する皮膚の過敏症も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,750,815号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Ngoら著、「JAOCS」、第83巻、No.7、第629−634頁、2006
【非特許文献2】J.Mol著、「Topics in Catalysis」、第27巻、No.1−4、第97−104頁、Feb.2004
【非特許文献3】A.Rybakら著、「Green Chem.2007」、第9巻、第1356−1361頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、UV領域、特にUV−B領域において改良された吸収を有し、既知のUV光防御フィルター物質の代わりに、または、既知のUV光防御フィルター物質に加えて使用できる物質を提供することである。これらの物質は、通常の化粧品原料と共に製剤化でき得る。
【0006】
さらに、わずかに有色の物質を得ることは興味深く、それらは無色または透明の化粧品製剤に配合するのに適する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
驚くべきことに、本発明の方法を用いることで、UV領域、特にUV−B領域において、増大した吸収を有する不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルが得られることが明らかになった。本発明の方法により得られる不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルは、したがって、日焼け防止用の化粧品製剤に特に適している。
【0008】
不飽和ジカルボン酸から出発する不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法は、先行技術において述べられており、非特許文献1(Ngoら著、「JAOCS」、第83巻、No.7、第629−634頁、2006)は、いわゆる第1世代および第2世代グラブス触媒を用いた不飽和カルボン酸のメタセシスを記載する。第1世代グラブス触媒を用いた方法は、米国特許第5,750,815号に記載されている。非特許文献2(J.Mol著、「Topics in Catalysis」、第27巻、No.1−4、第97−104頁、Feb.2004)および非特許文献3(A.Rybakら著、「Green Chem.2007」、第9巻、第1356−1361頁)もまた、このような方法を記載する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、触媒(1):
【化1】

、および/または、触媒(2):
【化2】

の存在下で、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステルを反応させる、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法を提供する。
【0010】
〔出発物質〕
本発明の方法に適当な出発物質は、任意に分枝であり得る14〜24個の炭素原子を有する、モノまたはポリ不飽和カルボン酸である。ここで、カルボン酸の二重結合はシスまたはトランス配位のどちらで存在してもよい。
【0011】
適当なカルボン酸は、次の式R−COOH(式中、R1は13〜23個の炭素原子を有するモノまたはポリ不飽和アルキル基である)の化合物である。例えば、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ不飽和アルキル基などのポリ不飽和アルキル基が挙げられる。
【0012】
基は環式または非環式であってよく、基Rは好ましくは非環式である。R基は分枝または非分枝であってよく、非分枝の基Rを有するカルボン酸が好ましい。非環状の基Rを有するカルボン酸が特に好ましい。
【0013】
次の略記を、不飽和カルボン酸を説明するのに用いる:1番目の数字はカルボン酸の炭素原子の総数を表し、2番目の数字は二重結合の数を表し、括弧内の数字はカルボン酸基に対する二重結合の位置を表す。その結果、オレイン酸の略記は、18:1(9)である。二重結合がトランス配位にある場合、略語「tr」によって示す。その結果、エライジン酸の略記は18:1(tr9)である。
【0014】
適当なモノ不飽和カルボン酸は、例えば、ミリストレイン酸[14:1(9);(9Z)−テトラデカ−9−エン酸]、パルミトレイン酸[16:1(9);(9Z)−ヘキサデカ−9−エン酸]、ペトロセリン酸[(6Z)−オクタデカ−6−エン酸]、オレイン酸[18:1(9);(9Z)−オクタデカ−9−エン酸]、エライジン酸[18:1(tr9);(9E)−オクタデカ−9−エン酸)]、バクセン酸[18:1(tr11);(11E)−オクタデカ−11−エン酸]、ガドレイン酸[20:1(9);(9Z)−エイコサ−9−エン酸]、エイコセン酸(=ゴンド酸)[20:1(11);(11Z)−エイコサ−11−エン酸]、セトレイン酸[22:1(11);(11Z)−ドコサ−11−エン酸]、エルカ酸[22:1(13);(13Z)−ドコサ−13−エン酸]、ネルボン酸[24:1(15);(15Z)−テトラコサ−15−エン酸]である。
【0015】
適当なポリ不飽和カルボン酸は、例えば、リノール酸[18:2(9,12);(9Z−12Z)−オクタデカ−9,12−ジエン酸]、アルファ−リノレン酸[18:3(9,12,15);(9Z,12Z,15Z)−オクタデカ−9,12,15−トリエン酸]、ガンマ−リノレン酸[18:3(6,9,12);(6Z,9Z,12Z)−オクタデカ−6,9,12−トリエン酸]、カレンジン酸[18:3(8,10,12);(8E,10E,12Z)−オクタデカ−8,10,12−トリエン酸]、プニカ酸[18:3(9,11,13);(9Z,11E,13Z)−オクタデカ−9,11,13−トリエン酸]、アルファ−エレオステアリン酸[18:3(9,11,13);(9Z,11E,13E)−オクタデカ−9,11,13−トリエン酸]、アラキドン酸[20:4(5,8,11,14),(5Z,8Z,11Z,14Z)−エイコサ−5,8,11,14−テトラエン酸]、チムノドン酸[20:5(5,8,11,14,17),(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)−エイコサ−5,8,11,14,17−ペンタエン酸]、クルパンドドン酸[22:5(7,10,13,16,19),(7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)−ドコサ−7,10,13,16,19−ペンタエン酸]、セルボン酸[22:6(4,7,10,13,16,19),(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)−ドコサ−4,7,10,13,16,19−ヘキサエン酸]である。
【0016】
上記のモノまたはポリ不飽和カルボン酸エステルも適当な出発物質である。適当なエステルは、特に、これらのカルボン酸とアルコールR−OH(式中、Rは1〜8個の炭素原子を有するアルキル基)とのエステルである。適当な基Rとしては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、2−メチルプロピル、ペンチル、2,2−ジメチルプロピル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、ヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチルおよびオクチル基が挙げられる。
【0017】
上記のモノまたはポリ不飽和カルボン酸とグリセロールのエステル(=グリセロールエステル)も適当な出発物質である。ここで、グリセロールモノエステル(=モノグリセリド、モノアシルグリセロール)、グリセロールジエステル(=ジグリセリド、ジアシルグリセロール)およびグリセロールトリエステル(=トリグリセリド、トリアシルグリセリル)、ならびに、これら種々のグリセロールエステルの混合物はいずれも適当である。
【0018】
不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルは、互いに単独あるいは混合物のどちらで存在してもよい。1つの不飽和カルボン酸のみ、または、1つの不飽和カルボン酸のみのエステルを用いれば、自己メタセシスと称される反応が起こる。異なる不飽和カルボン酸または異なる不飽和カルボン酸エステルを用いれば、クロスメタセシスと称される反応が起こる。
【0019】
本発明の1つの好ましい態様において、モノ不飽和カルボン酸および/またはモノ不飽和カルボン酸エステルおよび/またはモノ不飽和カルボン酸の混合物またはモノ不飽和カルボン酸エステルの混合物を使用する。
【0020】
〔触媒〕
本発明の方法は、触媒(1)および/または(2)の存在下で行う。
【0021】
触媒(1)は、次の構造式の化合物である。
【化3】

【0022】
この触媒の化学名は、ジクロロ[1,3−ビス(メシチル)−2−イミダゾリジニリデン]−(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)、CAS No.536724−67−1である。これは、例えばUmicore社からNeolyst(商標)M2の名称で市販されている。
【0023】
触媒(2)は、次の構造式の化合物である。
【化4】

【0024】
この触媒の化学名は、[1,3−ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−2−イミダゾリジニリデン]−[2−[[(4−メチルフェニル)イミノ]メチル]−4−ニトロフェノリル]−[3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン]ルテニウム(II)クロリド、CAS No.934538−04−2である。これは、例えばUmicore社からNeolyst(商標)M41の名称で市販されている。
【0025】
本発明の触媒は、好ましくは1000ppm以下、特に10〜1000ppmの範囲、好ましくは20〜200ppmの濃度で用いる。
【0026】
〔反応条件〕
本発明の方法は、0〜100℃、好ましくは20〜90℃、特に40〜80℃の温度で行うことができる。
【0027】
本方法は、出発物質と触媒が溶解する従来の溶媒(例えば、炭化水素またはアルコールが挙げられ得る)中で行うことができる。本発明の1つの好ましい態様においては、本方法を溶媒なしに行うことができる。
【0028】
〔精製〕
本発明の方法は、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステル、ならびに対応する不飽和炭化水素を製造する。その混合物は、例えば蒸留、分別晶出または抽出により分離することができる。
【0029】
必要に応じて、このようにして得られた生成物に水素付加を施すことができる。
【0030】
〔使用〕
驚くべきことに、本発明の方法により製造した不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ならびに不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルが、化粧品製剤における使用に適していることがわかった。それらのUV−B吸収のために、特に日焼け防止用の化粧品製剤に適当である。
【実施例】
【0031】
〔実施例(1a)〕
50mlのメチルエステル混合物(オレイン酸メチル92.0%およびリノール酸メチル2.9%からなる、割合は非較正面積パーセントGC法を示す)を、200ppmの触媒(1)[CAS No.536724−67−1]の存在下で、50℃で1.4時間反応させた。反応終了後、23.1%のジメチルジエステルと20.2%の9−オクタデセンが得られた。
【0032】
〔実施例(1b)〕
反応を40℃で4時間行った以外は、実施例(1a)を繰り返した。収率は実施例(1a)と同じであった。
【0033】
〔実施例(1c)〕
反応を30℃で7時間行った以外は、実施例(1a)を繰り返した。収率は実施例(1a)と同じであった。
【0034】
〔実施例(2)〕
50mlのメチルエステル混合物(オレイン酸メチル92.0%およびリノール酸メチル2.9%からなる)を、200ppmの触媒(2)[CAS No.934538−04−2]の存在下で、80℃で8時間反応させた。反応終了後、23.3%のジメチルジエステルと20.6%の9−オクタデセンが得られた。
【0035】
〔実施例(3)〕
10gの高オレイン酸のヒマワリメチルエステル(75〜93%のオレイン酸メチル含量)を50mlの二口丸底フラスコに計量添加し、0.2gのルテニウム触媒、Neolyst(商標)M2(Umicore社製)[CAS No.:536724−67−1](=触媒(1))と混合した。次いで、フラスコを窒素雰囲気下で水を満たしたペトリ皿に入れ、マグネチックスターラーの上に立て、35〜40℃で60分間攪拌した。室温まで冷却した後、シリカゲル60をつめたカラムを通して触媒固体をろ過した。赤褐色の液体が得られた。
【0036】
〔比較例(4)〕
10gの高オレイン酸のヒマワリメチルエステル(75〜93%のオレイン酸メチル含量)を50mlの二口丸底フラスコに計量添加し、0.2gのルテニウム触媒、ジクロロ(3−メチル−2−ブテニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウム(II)[Aldrich社よりカタログ番号576881で市販、CAS No.194659−03−5]と混合した。次いで、フラスコを窒素雰囲気下で水を満たしたペトリ皿に入れ、マグネチックスターラーの上に立て、35〜40℃で60分間攪拌した。室温まで冷却した後、シリカゲル60をつめたカラムを通して触媒固体をろ過した。赤褐色の液体が得られた。
【0037】
〔UV吸収〕
実施例(3)で得られた生成物、ならびに比較例(4)で得られた生成物のUV−B吸収を測定した。驚くべきことに、実施例(3)で得られた生成物は、先行技術により製造した生成物(比較例(4))と比較して、240〜280nmの範囲でより高い吸収を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの製造方法であって、
触媒(1):
【化1】

、および/または、触媒(2):
【化2】

の存在下で、不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステルを反応させる方法。
【請求項2】
不飽和C12〜C24カルボン酸を用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不飽和カルボン酸がC14〜C24のカルボン酸である場合、不飽和カルボン酸エステルを用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
C1〜C8のアルコールと不飽和カルボン酸のエステル、および/または、グリセロールと不飽和カルボン酸のエステルをエステルとして用いることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
グリセロールエステルがグリセロールモノエステル、グリセロールジエステルおよびグリセロールトリエステルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
モノ不飽和カルボン酸を用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
触媒を10〜1000ppm、好ましくは20〜200ppmの量で用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
0〜100℃、好ましくは20〜90℃、特に40〜80℃で反応を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
溶媒を用いない方法であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/またはアルファ,オメガジカルボン酸ジエステルおよび不飽和炭化水素を、蒸留によって分離することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の方法によって得られる、不飽和アルファ,オメガジカルボン酸および/または不飽和アルファ,オメガジカルボン酸ジエステルの、化粧品製剤、特に日焼け防止用化粧品製剤における使用。

【公表番号】特表2012−500237(P2012−500237A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523336(P2011−523336)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【国際出願番号】PCT/EP2009/005841
【国際公開番号】WO2010/020368
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(505066718)コグニス・アイピー・マネージメント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (191)
【氏名又は名称原語表記】Cognis IP Management GmbH
【Fターム(参考)】