説明

不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化におけるイリジウム錯体の応用

本発明は、キラルカルボン酸の製造方法、詳しくは、キラルP−N配位子とのイリジウム錯体を触媒として用いる三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応に関し、触媒的不斉水素化において高活性及び高エナンチオ選択性(最大99.8%eeに達する)を示し、非常に有用なキラルカルボン酸を得ることができる。また、キラルカルボン酸類の触媒的不斉水素化のためのより高効率かつ高エナンチオ選択的な方法を提供する。α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応に対して重要な応用価値を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性を有するカルボン酸の製造方法に関し、詳しくはキラルなリン−窒素の二座配位子(P−N配位子)を有するイリジウム錯体の、三置換α,β−不飽和カルボンの酸触媒的不斉水素化によるキラルカルボン酸の製造における応用を開示する。本発明において、高活性及び高エナンチオ選択性(最大99.8%eeに達する)を示すキラルP−N配位子とイリジウムとの錯体を触媒として用い、三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化により、非常に有用なキラルカルボン酸が得られる。これは現在、触媒的不斉水素化によって光学活性を有するカルボン酸を合成する最も効率的な方法の1つである。
【背景技術】
【0002】
有機合成において、キラルカルボン酸は、多くの生物学的活性を有する天然物や薬物分子の重要な構成成分であり、したがって光学的に純粋なカルボン酸類の化合物の合成方法の開発は、現在の学術界及び工業界において注目されている研究分野の1つである(Lednicer, D.; Mitscher, L. A. The Organic Chemistry of Drug Synthesis 1977 and 1980, Wiley: New York, Vols. 1 and 2)。多くのキラルカルボン酸の合成法の中では、α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素反応が、その高い原子経済性及び環境への配慮から、研究者から大きな注目を浴びている(Jacobsen, E. N.; Pfaltz, A.; Yamamoto, H. Comprehensive Asymmetric Catalysis, Springer: Berlin, 1999, Vols. I.; Tang, W.; Zhang, X. Chem. Rev. 2003, 103, 3029)。1987年、Noyoriは、BINAPの酢酸ルテニウムとの錯体を触媒として、α,β−不飽和カルボン酸、最初はチグリン酸、の均質相の触媒的不斉水素化を実現し、91%のee値を得た。また、同様の触媒を用いて(S)−ナプロキセンを製造し、97%のee値を得た(Ohta, T.; Takaya, H.; Kitamura, M.; Nagai, K.; Noyori, R. J. Org. Chem. 1987, 52, 3176)。その後、人々はいくつかのキラルなルテニウムとロジウムとの錯体触媒を開発し、彼らはα,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応で非常に優れた触媒効果を得、工業化に成功した多くの実例がある(Boogers J. A. F.; Felfer, U.; Kotthaus, M.; Lefort, L.; Steinbauer, G.; de Vries, A. H. M.; de Vries, J. G. Org. Proc. Res. Dev. 2007, 11, 585)。しかし、触媒的水素化反応の特異性のため、それぞれの触媒は1種類又は少数種類の特定の基質に対してのみ有効であり、今のところ依然として多くの基質は良好に触媒されない。その上、多数の公知のキラル触媒は、主に触媒の使用量が多い、反応条件が厳しい、反応時間が長すぎる等の各種の欠点を有する。従って、α,β−不飽和カルボン酸の高エナンチオ選択的水素化を実現するため、より有効なキラル触媒の開発が求められている。ルテニウムとロジウムとの錯体に加えて、遷移金属イリジウムとキラル配位子とによって形成されキラル触媒も、触媒的不斉水素化反応において広く用いられており、特に官能基を有さないオレフィン及びイミンの不斉水素化反応において、他の遷移金属触媒の結果よりも優れた結果を得ることができる(Blaser, H.-U. Adv. Synth. Catal. 2002, 344, 17; Zhou, Y.-G. Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1357; Roseblade, S. J.; Pfaltz, A. Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1402)。しかし、不飽和カルボン酸の不斉水素化反応に対して、イリジウム錯体は今のところ1例が報告されているだけである。Matteoliらは、キラルイリジウム触媒を用いて二置換α,β−不飽和カルボン酸、α−フェニルエチルアクリル酸(スチリルアクリル酸)、の不斉水素化を触媒したが、その触媒は中程度の活性とエナンチオ選択性とを示すにとどまった(Scrivanti, A.; Bovo, S.; Ciappa, A.; Matteoli, U. Tetrahedron Lett. 2006, 47, 9261)。従って、α,β−不飽和カルボン酸の高効率の不斉水素化反応を実現する新規なイリジウム錯体触媒の開発は、重要な研究価値及び応用価値を有する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Lednicer, D.; Mitscher, L. A. The Organic Chemistry of Drug Synthesis 1977and 1980, Wiley: New York, Vols. 1 and 2
【非特許文献2】Jacobsen, E. N.; Pfaltz, A.; Yamamoto, H. Comprehensive Asymmetric Catalysis, Springer: Berlin, 1999, Vols. I.
【非特許文献3】Tang, W.; Zhang, X. Chem. Rev. 2003, 103, 3029
【非特許文献4】Ohta, T.; Takaya, H.; Kitamura, M.; Nagai, K.; Noyori, R. J. Org. Chem.1987, 52, 3176
【非特許文献5】Boogers J. A. F.; Felfer, U.; Kotthaus, M.; Lefort, L.; Steinbauer, G.; de Vries, A. H. M.; de Vries, J. G. Org. Proc. Res. Dev. 2007, 11, 585
【非特許文献6】Blaser, H.-U. Adv. Synth. Catal. 2002, 344, 17
【非特許文献7】Zhou, Y.-G. Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1357
【非特許文献8】Roseblade, S. J.; Pfaltz, A. Acc. Chem. Res. 2007, 40, 1402
【非特許文献9】Scrivanti, A.; Bovo, S.; Ciappa, A.; Matteoli, U. Tetrahedron Lett. 2006, 47, 9261
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、キラルP−N配位子を有するイリジウム錯体を用いた、三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反によるキラルカルボン酸の製造方法を提供することであり、すなわちそれは三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応におけるイリジウム錯体触媒の成功的な応用であり、キラルカルボン酸類の不斉合成における高活性かつ高エナンチオ選択性の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る、三置換α,β−不飽和カルボン酸の不斉水素化を触媒するキラルP−N配位子とのイリジウム錯体を用いる、キラルカルボン酸の製造方法は、添加剤及びキラルP−N配位子とのキラルイリジウム錯体の存在下で三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化を行い、所定の光学純度を有するキラルカルボン酸を得るというものである。
【0006】
本発明に係るキラルカルボン酸の製造方法は、以下の触媒的水素化反応過程によって実行されることを特徴とする:
【化1】


ここで、[Ir]は、キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒である;R,Rは、それぞれハロゲン基、水酸基、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、フェノキシ基、C〜Cアルキル基で置換されたフェノキシ基、水酸基で置換されたフェノキシ基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェノキシ基、C〜Cアシルオキシ基で置換されたフェノキシ基、ハロゲン化フェノキシ基、アミノ基で置換されたフェノキシ基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェノキシ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェノキシ基、C〜Cアシル基で置換されたフェノキシ基、C〜Cエステル基で置換されたフェノキシ基、ナフチルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基、ベンジルオキシ基、C〜Cアシルオキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、(C〜Cアシル)アミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、フェニル基、C〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、水酸基で置換されたフェニル基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシルオキシ基で置換されたフェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノ基で置換されたフェニル基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェニル基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシル基で置換されたフェニル基、C〜Cエステル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、である。;RとRとは同じでも良いし、異なっていても良い。;「*(星印)」をつけた位置はキラル中心である。
【0007】
本発明に係るキラルカルボン酸の製造方法は、以下の一般式を有するキラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒によって実現される。
【化2】


ここで、
【化3】


はキラルP−N配位子である;
【化4】


はシクロオクタジエンである;Xは、ハロゲン、C〜Cカルボキシレート、硫酸、四(3,5−ビス−トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸、四(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸、四(パーフルオロ−tert−ブトキシ)アルミニウムイオン、四(ヘキサフルオロイソプロポキシ)アルミニウムイオン、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸である;シクロオクタジエニル配位子は、エチレン又はノルボルナジエンによって置換可能である。
【0008】
前記キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒に含まれるキラルP−N配位子は、以下の構造式を有する。
【化5】


ここで、m=0〜3、n=0〜4、p=0〜6;R,Rは、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、(C〜Cアシル)アミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、フェニル基、C〜Cアルキルで置換されたフェニル基、水酸基で置換されたフェニル基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシルオキシル基で置換されたフェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノ基で置換されたフェニル基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェニル基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシル基で置換されたフェニル基、C〜Cエステル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いは脂環又は芳香環の複合環である(m、n、pが2以上の場合)。;RとRとは同じでも良いし、異なっていても良い。
,R,R,Rは、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、(C〜Cアシル)アミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、フェニル基、C〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、水酸基で置換されたフェニル基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシルオキシル基で置換されたフェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノ基で置換されたフェニル基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェニル基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシル基で置換されたフェニル基、C〜Cエステル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いはR〜R、R〜Rは脂環又は芳香環の複合環である;R,R,R,Rは同じでも良いし、異なっていても良い。
,R10は、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、(C〜Cアシル)アミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、ベンジル基、フェニル基、C〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、水酸基で置換されたフェニル基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシルオキシル基で置換されたフェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノ基で置換されたフェニル基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェニル基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシル基で置換されたフェニル基、C〜Cエステル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いはR〜R10は脂環又は芳香環の複合環である;RとR10とは同じでも良いし、異なっていても良い。
11は、C〜Cアルキル基、フェニル基、C〜Cアルキル基で置換されたフェニル基、水酸基で置換されたフェニル基、スルホ基で置換されたフェニル基、C〜Cアルコキシ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシルオキシル基で置換されたフェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノ基で置換されたフェニル基、(C〜Cアシル)アミノ基で置換されたフェニル基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基で置換されたフェニル基、C〜Cアシル基で置換されたフェニル基、C〜Cエステル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、である。
前記C〜Cアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソアミル(イソペンチル)基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、ネオヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、又はシクロオクチル基、である。
前記C〜Cアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、ネオヘプチルオキシ基、sec−ヘプチルオキシ基、tert−ヘプチルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、ネオオクチルオキシ基、sec−オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、又はシクロオクチルオキシ基、である。
前記C〜Cアシル基は、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、n−ブチリル(ブタノイル)基、イソブチリル基、n−ペンタノイル(バレリル)基、イソペンタノイル基、sec−ペンタノイル基、ネオペンタノイル基、n−ヘキサノイル(カプロイル)基、イソヘキサノイル基、ネオヘキサノイル基、sec−ヘキサノイル基、n−ヘプタノイル(エナントイル)基、イソヘプタノイル基、ネオヘプタノイル基、sec−ヘプタノイル基、n−オクタノイル基、イソオクタノイル基、ネオオクタノイル基、sec−オクタノイル基、1−シクロプロピルホルミル基、1−シクロブチルホルミル基、1−シクロペンチルホルミル基、1−シクロヘキシルホルミル基、又は1−シクロヘプチルホルミル基、である。
前記C〜Cアシルオキシル基は、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、n−ブチリルオキシ(ブタノイルオキシ)基、イソブチリルオキシ基、n−ペンタノイルオキシ(バレリルオキシ)基、イソペンタノイルオキシ基、sec−ペンタノイルオキシ基、ネオペンタノイルオキシ基、n−ヘキサノイルオキシ(カプロイルオキシ)基、イソヘキサノイルオキシ基、ネオヘキサノイルオキシ基、sec−ヘキサノイルオキシ基、n−ヘプタノイルオキシ(エナントイルオキシ)基、イソヘプタノイルオキシ基、ネオヘプタノイルオキシ基、sec−ヘプタノイルオキシ基、n−オクタノイルオキシ基、イソオクタノイルオキシ基、ネオオクタノイルオキシ基、sec−オクタノイルオキシ基、1−シクロプロピルホルミルオキシ基、1−シクロブチルホルミルオキシ基、1−シクロペンチルホルミルオキシ基、1−シクロヘキシルホルミルオキシ基、又は1−シクロヘプチルホルミルオキシ基、である。
前記C〜Cエステル基は、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、sec−ペンチルオキシカルボニル基、tert−ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、イソヘキシルオキシカルボニル基、ネオヘキシルオキシカルボニル基、sec−ヘキシルオキシカルボニル基、tert−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、イソヘプチルオキシカルボニル基、ネオヘプチルオキシカルボニル基、sec−ヘプチルオキシカルボニル基、tert−ヘプチルオキシカルボニル基、又はシクロヘプチルオキシカルボニル基、である。
前記ハロアルキル基は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素、を含むハロアルキル基である。
【0009】
本発明に係るキラルカルボン酸の製造方法は、アルゴンガス又は窒素ガスの保護下で、触媒と基質とを反応器内管に添加し、その後添加剤と溶媒とを注入し、反応器をシールしてその反応器内を3〜5回水素ガスで注意深く置換し、反応器内を所定圧力の水素ガスで充填した後に、反応終了まで攪拌する。
使用する溶媒は、酢酸エチル又はC〜Cアルコールである;触媒の量は0.001〜1mol%である;基質濃度は0.001〜10.0Mである;添加剤は、ヨウ素、イソプロピルアミン、tert−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(DBU)、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキシド、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、カリウムtert−ブトキシド、水酸化セシウム、及び炭酸セシウム、の中の一種又は複数種である;反応温度は0〜100℃である;水素ガス圧力は0.1〜10Mpaである;三置換α,β−不飽和カルボン酸を反応器内で攪拌して0.5〜48時間反応させる。
【0010】
本発明は、三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応における、キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒の成功的な応用を提供する。高活性及び高エナンチオ選択性(最大で99.8%ee)を示す、キラルP−N配位子とイリジウムとの錯体を触媒として用い、三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化反応により、非常に有用なキラルカルボン酸を得ることができる。これにより、本発明は、キラルカルボン酸類の不斉合成において高活性かつ高エナンチオ選択性の製造方法を提供し、α,β−不飽和カルボン酸の不斉水素化反応に対して重要な応用的価値を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に示す実施例により、本発明をより詳細に理解することができるが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。本発明に係る製造方法は、代表的な化合物と共に、更に以下のように表される。
【0012】
(一般的説明)
実施例においては以下の略語を用いる。
Meはメチル基を表し、Prはn−プロピル基を表し、Prはイソプロピル基を表し、Buはイソブチル基を表し、Buはtert−ブチルを表し、Phはフェニル基を表し、Bnはベンジル基を表し、Anはメトキシフェニル基を表し、Xylは3,5−ジメチルフェニル基を表し、DMMは3,5−ジメチル−4−メトキシフェニル基を表し、DTBは3,5−ジ-tert−ブチルフェニル基を表し、BARFは四(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ホウ酸を表し、PFはヘキサフルオロリン酸を表し、Naphthylはナフチル基を表し、Furan-2-ylは2−フリル基を表し、NMRは核磁気共鳴を表し、キラルSFCはキラルカラムを備える超臨界流体クロマトグラフィーを表し、キラルHPLCはキラルクロマトカラムを備える高圧液体クロマトグラフィーを表し、ee値は鏡像異性体過剰率を表す。
【0013】
用いる溶媒は、使用前に標準操作によって精製・乾燥される;用いる試薬は、市販品として、又は従来文献に記載された方法で合成して得られ、使用前に精製される。
【0014】
(実施例1)
α−メチル桂皮酸の触媒的不斉水素化反応
【化6】

【0015】
グローブボックス内において、触媒(0.00125mmol)とα−メチル桂皮酸1a(81mg、0.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、添加剤と溶媒(2mL)とを添加する。その後反応内管を水素化反応器内に配置し、0.6〜10Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物2aを得る。H NMRによってそのコンバージョン率(転化率)を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLCによってee値を分析する。得られた実験結果を表1に示す。
【0016】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0017】
(実施例2)
α−メチル桂皮酸誘導体の触媒的不斉水素化反応
【化7】

【0018】
グローブボックス内において、触媒
【化8】


(2.4mg、0.00125mmol)と基質1(0.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、トリエチルアミン(35μL,0.25mmol)と無水メタノール(2mL)とをシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物2を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
(実施例3)
チグリン酸の触媒的不斉水素化反応
【化9】

【0021】
グローブボックス内において、触媒(0.00125mmol)とチグリン3a(50mg,0.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、添加剤と溶媒(2mL)とを添加する。その後反応内管を水素化反応器内に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物4aを得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表3に示す。
【0022】
【表3−1】

【表3−2】

【0023】
(実施例4)
チグリン酸誘導体の触媒的不斉水素化反応
【化10】

【0024】
グローブボックス内において、触媒
【化11】


(2.4mg,0.00125mmol)、基質3(0.5mmol)、炭酸セシウム(82mg,0.25mmol)を、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、無水メタノール(2mL)をシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物4を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表4に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
(実施例5)
(E)−2−[3−(3−メトキシ−プロポキシ)−4−メトキシフェニルメチレン]−3−メチル酪酸の触媒的不斉水素化反応
【化12】

【0027】
グローブボックス内において、触媒(0.0025mmol)と(E)−2−[3−(3−メトキシ−プロポキシ)−4−メトキシフェニルメチレン]−3−メチル酪酸5(77.1mg,0.25mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、トリエチルアミン(12.6mg,0.125mmol)と無水メタノール(2mL)とをシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で24時間、室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物6を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表5に示す。
【0028】
【表5】

【0029】
(実施例6)
(R)−2−[3−(3−メトキシ−プロポキシ)−4−メトキシベンジル]−3−メチル酪酸の不斉合成
【化13】

【0030】
グローブボックス内において、触媒
【化14】


(0.8mg,0.417μmol)と(R)−2−[3−(3−メトキシ−プロポキシ)−4−メトキシベンジル]−3−メチル酪酸5(771mg,2.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、トリエチルアミン(1.26g,12.5mmol)と無水メタノール(3.5mL)とをシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、70℃の油浴中1.2Mpaの水素圧力下で7時間、混合液を攪拌する。その後、攪拌を停止し、室温まで冷却した後で水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、白色固体の目的生成物(R)−6を得る。H NMRの解析によれば、転化率は100%であり、収率は96%である。
【0031】
Mp 44〜℃45℃;[α]21D +42.2(c 1.0,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl): d 9.71 (brs, 1H, COOH), 6.73-6.68 (m, 3H, Ar-H), 4.06 (t, J= 6.4 Hz, 2H, CH2), 3.79 (s, 3H, CH3), 3.53 (t, J = 6.4 Hz, 2H, CH2), 3.32 (s, 3H, CH3), 2.81-2.71 (m, 2H, CH2 and CH), 2.43-2.38 (m, 1H, CH2), 2.08-2.01 (m, 2H, CH2), 1.90 (sextet, J = 6.4 Hz, 1H, CH), 1.00 (dd, J = 13.2 and 6.8 Hz, 6H, CH3);アミドへの変換後、キラルSFC分析によるee値は98%である。同じ条件の下、触媒の使用量をさらに0.01mol%まで低減して18時間反応させた場合には、転化率は97%、収率は95%、ee値は95%である。
【0032】
(実施例7)
α−メトキシ桂皮酸の触媒的不斉水素化反応
【化15】

【0033】
グローブボックス内において、触媒(0.00125mmol)とα−メトキシ桂皮酸7a(89mg,0.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、添加剤と溶媒(2mL)とをシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で攪拌する。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物8aを得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表6に示す。
【0034】
【表6】

【0035】
(実施例8)
α−メトキシ桂皮酸誘導体の触媒的不斉水素化反応
【化16】

【0036】
グローブボックス内において、触媒
【化17】


(2.4mg,0.00125mmol)、基質7(0.5mmol)、炭酸セシウム(82mg,0.25mmol)を、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、無水メタノール(2mL)をシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物8を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表7に示す。
【0037】
【表7】

【0038】
(実施例9)
α−フェノキシクロトン酸の触媒的不斉水素化反応
【化18】

【0039】
グローブボックス内において、触媒(0.0025mmol)とα−フェノキシクロトン酸9a(89mg,0.5mmol)とを、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、添加剤と溶媒(2mL)とをシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物10aを得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表8に示す。
【0040】
【表8】

【0041】
(実施例10)
α−フェノキシクロトン酸誘導体の触媒的不斉水素化反応
【化19】

【0042】
グローブボックス内において、触媒
【化20】


(4.8mg,0.0025mmol)、基質9(0.5mmol)、炭酸セシウム(82mg,0.25mmol)を、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、無水メタノール(2mL)をシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、40℃の油浴中0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物10を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表9に示す。
【0043】
【表9】

【0044】
(実施例11)
α−フェノキシ桂皮酸及びその誘導体の触媒的不斉水素化反応
【化21】

【0045】
グローブボックス内において、触媒
【化22】


(4.8mg,0.0025mmol)、基質11(0.5mmol)、炭酸セシウム(82mg,0.25mmol)を、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、無水メタノール(2mL)をシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、40℃の油浴中0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物12を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルHPLC又はキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表10に示す。
【0046】
【表10】

【0047】
(実施例12)
α−フェニル桂皮酸の触媒的不斉水素化反応
【化23】

【0048】
グローブボックス内において、触媒(0.0025mmol)、α−フェニル桂皮酸13(56mg、0.25mmol)、炭酸セシウム(41mg、0.125mmol)を、攪拌子を備える反応内管に計り取り、その後反応内管をシールする。反応内管を取り出した後、無水メタノール(2mL)をシリンジによって添加する。その後反応内管を水素化反応器に配置し、0.6Mpaの水素圧力下で、圧力が降下しなくなるまで室温で混合液を攪拌して反応させる。その後、攪拌を停止して水素を放出する。反応系の溶媒を回転蒸発除去して濃縮した後、3N塩酸溶液を用いて反応系のpHが3未満となるように調整する。ジエチルエーテル(10mL×3)による抽出と分液とにより有機相を収集し、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥する。吸引ろ過によって乾燥剤を除去後、溶媒を回転蒸発除去し、目的生成物14を得る。H NMRによってその転化率を解析し、アミドに変換した後にキラルSFCによってee値を分析する。得られた実験結果を表11に示す。
【0049】
【表11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラルP−N配位子とのキラルイリジウム錯体及びアルカリ添加剤の存在下で、三置換α,β−不飽和カルボン酸の触媒的不斉水素化を行い、所定の光学純度を有するキラルカルボン酸を得る、キラルカルボン酸の製造方法。
【請求項2】
下記の反応式で表される触媒的水素化反応過程によって実行される請求項1に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【化1】


[ここで、[Ir]は、キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒であり、R,Rは、それぞれハロゲン基、水酸基、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、フェノキシ基、(C〜Cアルキル)フェノキシ基、水酸化フェノキシ基、(C〜Cアルコキシ)フェノキシ基、(C〜Cアシルオキシ)フェノキシ基、ハロゲン化フェノキシ基、アミノフェノキシ基、(C〜Cアシルアミノ)フェノキシ基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェノキシ基、(C〜Cアシル)フェノキシ基、(C〜Cエステル)フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基、ベンジルオキシ基、C〜Cアシルオキシ基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、(C〜Cアシルアミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、フェニル基、(C〜Cアルキル)フェニル基、水酸化フェニル基、(C〜Cアルコキシ)フェニル基、(C〜Cアシルオキシ)フェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノフェニル基、(C〜Cアシルアミノ)フェニル基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェニル基、(C〜Cアシル)フェニル基、(C〜Cエステル)フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、RとRとは同じでも良いし、異なっていても良く、「*(星印)」をつけた位置はキラル中心である。]
【請求項3】
前記キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒は、以下の構造式を備える請求項1又は2に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【化2】


[ここで、
【化3】


はキラルP−N配位子であり、
【化4】


はシクロオクタジエンであり、Xは、ハロゲン、C〜Cカルボキシレート、硫酸、四(3,5−ビス−トリフルオロメチルフェニル)ホウ酸、四(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸、四(パーフルオロ−tert−ブトキシ)アルミニウムイオン、四(ヘキサフルオロイソプロポキシ)アルミニウムイオン、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、又はトリフルオロメタンスルホン酸であり、シクロオクタジエニル配位子は、エチレン又はノルボルナジエンによって置換可能である。]
【請求項4】
前記キラルP−N配位子とのイリジウム錯体触媒に含まれるキラルP−N配位子は、以下の構造式を有する請求項3に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【化5】


[ここで、m=0〜3、n=0〜4、p=0〜6であり、R,Rは、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、C〜Cアシルアミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、フェニル基、C〜Cアルキルで置換されたフェニル基、水酸化フェニル基、(C〜Cアルコキシ)フェニル基、(C〜Cアシルオキシル)フェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノフェニル基、(C〜Cアシルアミノ)フェニル基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェニル基、(C〜Cアシル)フェニル基、(C〜Cエステル)フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いは脂環又は芳香環の複合環であり(m、n、pが2以上の場合)、RとRとは同じでも良いし、異なっていても良く、
,R,R,Rは、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、C〜Cアシルアミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、フェニル基、(C〜Cアルキル)フェニル基、水酸化フェニル基、(C〜Cアルコキシ)フェニル基、(C〜Cアシルオキシル)フェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノフェニル基、(C〜Cアシルアミノ)フェニル基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェニル基、(C〜Cアシル)フェニル基、(C〜Cエステル)フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いはR〜R、R〜Rは脂環又は芳香環の複合環であり、R,R,R,Rは同じでも良いし、異なっていても良く、
,R10は、それぞれH、C〜Cアルキル基、ハロアルキル基、C〜Cアルコキシ基、C〜Cアシルオキシル基、C〜Cアシル基、C〜Cエステル基、C〜Cアシルアミノ基、ジ(C〜Cアルキル)アミノ基、ハロゲン基、ベンジル基、フェニル基、(C〜Cアルキル)フェニル基、水酸化フェニル基、(C〜Cアルコキシ)フェニル基、(C〜Cアシルオキシル)フェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノフェニル基、(C〜Cアシルアミノ)フェニル基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェニル基、(C〜Cアシル)フェニル基、(C〜Cエステル)フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、或いはR〜R10は脂環又は芳香環の複合環であり、RとR10とは同じでも良いし、異なっていても良く、
11は、C〜Cアルキル基、フェニル基、(C〜Cアルキルフェニル基、水酸化フェニル基、スルホフェニル基、(C〜Cアルコキシ)フェニル基、(C〜Cアシルオキシル)フェニル基、ハロゲン化フェニル基、アミノフェニル基、(C〜Cアシルアミノ)フェニル基、(ジ(C〜Cアルキル)アミノ)フェニル基、(C〜Cアシル)フェニル基、(C〜Cエステル)フェニル基、ナフチル基、フリル基、チエニル基、であり、
前記C〜Cアルキル基は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、ネオヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、イソヘプチル基、ネオヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、シクロヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ネオオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、又はシクロオクチル基、であり、
前記C〜Cアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、ネオヘキシルオキシ基、sec−ヘキシルオキシ基、tert−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、ネオヘプチルオキシ基、sec−ヘプチルオキシ基、tert−ヘプチルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、ネオオクチルオキシ基、sec−オクチルオキシ基、tert−オクチルオキシ基、又はシクロオクチルオキシ基、であり、
前記C〜Cアシル基は、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、n−ブチリル基、イソブチリル基、n−ペンタノイル基、イソペンタノイル基、sec−ペンタノイル基、ネオペンタノイル基、n−ヘキサノイル基、イソヘキサノイル基、ネオヘキサノイル基、sec−ヘキサノイル基、n−ヘプタノイル基、イソヘプタノイル基、ネオヘプタノイル基、sec−ヘプタノイル基、n−オクタノイル基、イソオクタノイル基、ネオオクタノイル基、sec−オクタノイル基、1−シクロプロピルホルミル基、1−シクロブチルホルミル基、1−シクロペンチルホルミル基、1−シクロヘキシルホルミル基、又は1−シクロヘプチルホルミル基、であり、
前記C〜Cアシルオキシル基は、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、n−ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、n−ペンタノイルオキシ基、イソペンタノイルオキシ基、sec−ペンタノイルオキシ基、ネオペンタノイルオキシ基、n−ヘキサノイルオキシ基、イソヘキサノイルオキシ基、ネオヘキサノイルオキシ基、sec−ヘキサノイルオキシ基、n−ヘプタノイルオキシ基、イソヘプタノイルオキシ基、ネオヘプタノイルオキシ基、sec−ヘプタノイルオキシ基、n−オクタノイルオキシ基、イソオクタノイルオキシ基、ネオオクタノイルオキシ基、sec−オクタノイルオキシ基、1−シクロプロピルホルミルオキシ基、1−シクロブチルホルミルオキシ基、1−シクロペンチルホルミルオキシ基、1−シクロヘキシルホルミルオキシ基、又は1−シクロヘプチルホルミルオキシ基、であり、
前記C〜Cエステル基は、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、n−ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、sec−ペンチルオキシカルボニル基、tert−ペンチルオキシカルボニル基、シクロペンチルオキシカルボニル基、n−ヘキシルオキシカルボニル基、イソヘキシルオキシカルボニル基、ネオヘキシルオキシカルボニル基、sec−ヘキシルオキシカルボニル基、tert−ヘキシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、n−ヘプチルオキシカルボニル基、イソヘプチルオキシカルボニル基、ネオヘプチルオキシカルボニル基、sec−ヘプチルオキシカルボニル基、tert−ヘプチルオキシカルボニル基、又はシクロヘプチルオキシカルボニル基、であり、
前記ハロアルキル基は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素、を含むハロアルキル基である。]
【請求項5】
アルゴンガス又は窒素ガスの保護下で、触媒と基質とを反応器内管に添加し、その後添加剤と溶媒とを注入し、反応器をシールしてその反応器内を3〜5回水素ガスで注意深く置換し、反応器内を所定圧力の水素ガスで充填した後に、反応終了まで攪拌し、
前記触媒的不斉水素化の反応条件は、使用する溶媒は酢酸エチル又はC〜Cアルコールであり、触媒の量は0.001〜1mol%であり、基質濃度は0.001〜10.0Mであり、添加剤は、ヨウ素、イソプロピルアミン、tert−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムtert−ブトキシド、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、カリウムtert−ブトキシド、水酸化セシウム、及び炭酸セシウム、の中の一種又は複数種であり、反応温度は0〜100℃であり、水素ガス圧力は0.1〜10Mpaであり、三置換α,β−不飽和カルボン酸を反応器内で攪拌して0.5〜48時間反応させるものである請求項1又は2に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒は、酢酸エチル、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールである請求項5に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【請求項7】
前記添加剤は、ジイソプロピルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、又は炭酸セシウムである請求項5に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【請求項8】
前記三置換α,β−不飽和カルボン酸は、α−メチル桂皮酸、α−メチル桂皮酸誘導体、チグリン酸、チグリン酸誘導体、(E)−2−[3−(3−メトキシ−プロポキシ)−4−メトキシフェニルメチレン]−3−メチル酪酸、α−メトキシ桂皮酸、α−メトキシ桂皮酸誘導体、α−フェノキシクロトン酸、α−フェノキシクロトン酸誘導体、α−フェノキシ桂皮酸、α−フェノキシ桂皮酸誘導体、又はα−フェニル桂皮酸である請求項1に記載のキラルカルボン酸の製造方法。
【請求項9】
最適な水素化反応条件の下で、前記キラルカルボン酸の光学純度が少なくとも90%eeである請求項1から8のいずれか一項に記載のキラルカルボン酸の製造方法。

【公表番号】特表2011−520789(P2011−520789A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505351(P2011−505351)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【国際出願番号】PCT/CN2009/070231
【国際公開番号】WO2009/129701
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510283476)浙江九洲▲薬▼▲業▼股▲分▼有限公司 (2)
【Fターム(参考)】