説明

不飽和ニトリル製造用触媒の製造方法

【課題】 プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する際に用いる、飛散性の少ないアンチモンを含有し、不飽和ニトリルの収率が高く、しかも空時収量の高い触媒の製造方法を提供する
【解決手段】 モリブデン、バナジウムおよびアンチモンを含有する混合液を酸化処理して得られた触媒調合液を用いる触媒製造方法および該触媒製造方法により得られた触媒を用いるプロパンまたはイソブタンからの不飽和ニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応に用いる、モリブデン、バナジウムおよびアンチモンを含有する触媒の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】最近、プロピレンまたはイソブチレンに代わってプロパンまたはイソブタンを原料とし、気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する技術が着目されており、多数の触媒が提案されている。例えば、Mo−V−Te−Nbを含む複合酸化物触媒が特開平2−257号公報、特開平5−148212号公報、特開平5−208136号公報、特開平6−227819号公報、特開平6−285372号公報、特開平7−144132号公報、特開平7−232071号公報、特開平8−57319号公報、特開平8−141401号公報等に開示されている。これらの触媒を用いた場合においては収率が高く、不飽和ニトリルの空時収量も大きいが、触媒成分であるテルルが飛散して、触媒劣化の原因となるという問題がある。
【0003】特開平5−293374号公報には、バナジウム、アンチモンを主成分としモリブデンを微量添加した酸化物触媒が記載されている。この触媒においては、反応温度が高いうえに不飽和ニトリルの収率が低いという問題がある。New Developments in Selective Oxidation pp.515〜525(1990)において、Mo/V/Sb=1/0.14/0.71のモル比を持つ複合酸化物をアルミナに担持して調製した触媒についてプロパンのアンモ酸化反応の成績が報告されているが、選択性および活性が低いという問題がある。
【0004】米国特許第4760159号明細書にはBi−V−Mo−Sbからなる酸化物触媒が記載されている。該触媒の主成分はビスマスやバナジウム、アンチモンであるが、反応温度が高い上に不飽和ニトリルの収率が低いという問題がある。特開平9−157241号公報、特開平10−28862号公報等にMo−V−Sb−Nbからなる酸化物触媒が開示されている。これらの触媒はモリブデン、バナジウム、アンチモンを含む水性溶液を用いて調製されているが、調製方法としてバナジウムの5価の化合物と、アンチモンの3価の化合物の間の酸化還元反応を用い、バナジウムを還元する方法や、モリブデンの6価の化合物とアンチモンの3価の化合物の間の酸化還元反応を用い、モリブデンを還元する方法が教示されており、具体的な製造方法としては、5価のバナジウムと3価のアンチモンを含む水性スラリーを加熱熟成後、モリブデンを含む化合物及びNbを含む化合物を添加して水性混合液を得、そののちに乾燥工程を行う、あるいは、該水性スラリーをモリブデン添加後に直ちに冷却して水性混合液を得、そののちに乾燥工程を行う方法等が示されている。これらの触媒は、不飽和ニトリルの収率は比較的高いが、空時収量が0.11〜0.22(μmol/((g・s/ml)・g))と小さく、反応器あたりの生産性が低くなるという問題がある。一方、空時収量を大きくするために反応温度を高くすると、不飽和ニトリルの選択率が下がり、その結果収率が下がるという問題が生じる。触媒劣化がなく、収率が高く、しかも空時収量の高い触媒は得られていない。
【0005】
【発明の解決しようとする課題】本発明の目的は、プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する際に用いる、飛散性の少ないアンチモンを含有し、不飽和ニトリルの収率が高く、しかも空時収量の高い触媒の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、プロパンまたはイソブタンをアンモニア存在下に気相接触酸化させて不飽和ニトリルを製造するための、モリブデン、バナジウムおよびアンチモンを含有する酸化物触媒を鋭意検討した結果、触媒の原料調合工程においてモリブデン、バナジウムおよびアンチモンを含有する混合液を酸化処理することによって、不飽和ニトリルの収率が高く、しかも空時収量の著しく大きい触媒を製造することができることを見いだし、本発明をなすに至った。
【0007】即ち、本発明は、(1)プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する際に用いる、下記式(I)で示される成分組成を有する触媒の製造方法において、モリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を(a)および/または(b)の方法で酸化処理して得られる触媒調合液を用いて製造されることを特徴とする触媒の製造方法、Mo1 a Sbb c n (I)
(式中、XはNb、W、Cr、Ti、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素であり、a、b、cおよびnはMo1原子あたりの原子比を表し、0.1≦a≦1、0.01≦b≦0.6、0≦c≦1、そしてnは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
(a)酸化性ガスを含む雰囲気下でモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を50〜300℃にて1時間以上加熱する方法、(b)酸化性液体をモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液に添加する方法、(2)酸化性ガスが酸素、窒素酸化物から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする(1)に記載の触媒の製造方法、(3)酸化性液体が過酸化水素水、硝酸、次亜塩素酸水溶液から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)に記載の触媒の製造方法、(4)過酸化水素/アンチモンのモル比が0.01〜2であることを特徴とする(3)に記載の触媒の製造方法、(5)プロパンまたはイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させ対応する不飽和ニトリルを製造するにあたり、(1)、(2)、(3)または(4)に記載の触媒の製造方法で得られた触媒を用いることを特徴とする不飽和ニトリルの製造方法、に関するものである。
【0008】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の触媒は、下記式(I)で示される成分組成を有する。
Mo1 a Sbb c n (I)
式中、XはNb、W、Cr、Ti、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素であり、好ましくはNb、W、Sn、Ti、特に好ましくはNb、Tiである。a、b、cおよびnはMo1原子あたりの原子比を表し、aは0.1≦a≦1であり、好ましくは0.1≦a≦0.5、特に好ましくは0.2≦a≦0.4である。bは0.01≦b≦0.6であり、好ましくは0.1≦b≦0.3、特に好ましくは0.1≦b≦0.25である。cは0≦c≦1であり、好ましくは0.01≦c≦0.5、特に好ましくは0.01≦c≦0.2である。なお、nは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。
【0009】本発明の触媒の製造方法は、原料調合工程、乾燥工程、焼成工程からなる製造方法の原料調合工程において充分に酸化処理するところに特徴がある。すなわち、モリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を、下記(a)および/または(b)の方法で酸化処理することで、酸化過程を著しく促進して該混合液の酸化状態を高めることにある。
(a)酸化性ガスを含む雰囲気下でモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を50〜300℃にて1時間以上加熱する方法。
(b)酸化性液体をモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液に添加する方法。
【0010】まず、(a)の酸化処理方法について説明する。(a)の酸化処理方法は酸化性ガスを含む雰囲気下で酸化する方法である。酸化性ガスとは、酸素、窒素酸化物等であり、好ましくは酸素が用いられる。ここで窒素酸化物とは亜酸化窒素、一酸化窒素、二酸化窒素等である。通常は空気中で行われる。空気は酸素富化してもよい。加熱温度は50℃〜300℃であり、好ましくは50℃〜200℃、さらに好ましくは70℃〜110℃である。加熱時間については1時間以上であるが、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは4時間以上15時間以下である。
【0011】次に(b)の酸化処理方法について説明する。酸化性液体として、過酸化水素水、硝酸、次亜塩素酸水溶液等を用いることができるが、好ましくは過酸化水素水である。用いる過酸化水素水の量は限定されないが、過酸化水素水に含まれる過酸化水素の量としては、好ましくは過酸化水素/アンチモンのモル比が0.01〜2、さらに好ましくは過酸化水素/アンチモンのモル比が0.1〜1である。
【0012】本発明の触媒は、シリカに担持させて用いることができる、用いるシリカ量は20〜60重量%、好ましくは20〜40重量%である。本発明の触媒製造方法において用いられる成分金属原料として、下記の化合物等が挙げられる。モリブデン原料としては、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸化物、モリブデンのオキシ塩化物、モリブデンの塩化物、モリブデンのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはヘプタモリブデン酸アンモニウムである。
【0013】バナジウム原料としてはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)、バナジウムのオキシ塩化物、バナジウムのアルコキシド等を用いることができ、好ましくはメタバナジン酸アンモニウム、酸化バナジウム(V)である。アンチモン原料としては酸化アンチモン(III)、酸化アンチモン(V)アンチモン(III)、塩化アンチモン(III)、塩化酸化アンチモン(III)、硝酸酸化アンチモン(III)、アンチモンのアルコキシド、アンチモンの酒石酸塩等の有機酸塩、3価のアンチモンを含む化合物を用いることができ、好ましくは酸化アンチモン(III)である。
【0014】Xの原料としては、Xのシュウ酸塩、水酸化物、酸化物、硝酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、炭酸塩、アルコキシド等を用いることができる。Xとしてニオブ、チタンを用いる場合は、シュウ酸塩の水溶液を好適に用いることができる。ニオブのシュウ酸塩については、例えばニオブ酸をシュウ酸水溶液に溶解することで製造できる。その際、不溶物がある場合には、濾過等で該不溶物を分離除去しておくことが好ましい。シュウ酸/ニオブのモル比は、好ましくは1〜10であり、さらに好ましくは2〜6である。
【0015】担体としてシリカを用いる場合は原料としてシリカゾルが好適に用いられる。アンモニウムイオンで安定化したゾルを用いることが好ましい。本発明の触媒の製造方法は、前記したように、原料調合工程、乾燥工程及び焼成工程の3つの工程からなる。以下にこれらの工程について具体例を挙げて説明する。
【0016】<原料調合工程>メタバナジン酸アンモニウムと酸化アンチモン(III)を含有する混合液を空気下にて加熱しつつ反応させる。加熱したときの該混合液の温度は70℃〜110℃が好ましい。該混合液の加熱は蒸散する水分を補給しつつ行ってもよいし、または冷却管を反応容器に取り付けて還流条件で行ってもよい。加熱時間は3時間以上、特に好ましくは4〜50時間である。バナジウム源として、メタバナジン酸アンモニウムを用いる代わりに酸化バナジウム(V)の過酸化水素水溶液を用いてもよく、また前記した他のバナジウム原料の水溶液を用いてもよい。なお、ここでいうメタバナジン酸アンモニウムと酸化アンチモン(III)を含んだ混合液は、水溶液であってもよいし、また微細な粒子が懸濁したスラリーでもよい。このようにして得たバナジウムとアンチモンを含有する混合液にヘプタモリブデン酸アンモニウム、またはその水溶液を添加することによりモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を得ることができる。
【0017】モリブデン、バナジウム、アンチモンの混合液の調製法はほかに、ヘプタモリブデン酸アンモニウムと酸化アンチモン(III)を含んだ混合液を加熱しつつ反応させて、のちにバナジウムを含有する化合物または水溶液を添加してモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を得る方法もある。なお、モリブデン、バナジウム、アンチモンの原料としてアルコキシドを用いた場合、アルコール性のモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を得ることができる。
【0018】そののち、ここで得られたモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を酸化処理する。本発明において、触媒調合液とは、(a)および/または(b)の酸化処理を行ったのちのモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液をいう。酸化処理の方法として、上記したように(a)酸化性ガスを含む雰囲気下でモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を50〜300℃にて1時間以上加熱する方法と、(b)酸化性液体をモリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液に添加する方法がある。
【0019】(a)の方法を更に詳細に説明する。酸化性ガス雰囲気下、モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を70℃〜110℃で酸化する場合には、還流器を備えた装置で加熱することが好ましい。還流器を用いない場合には、適宜水を補給して乾固が生じないようにする。100℃〜110℃以上で酸化する場合にはオートクレーブに該混合液を入れたのち酸化性ガスを導入することによって行うことができる。アルコール性溶液、たとえばエタノール溶液を用いる場合には、50〜110℃で還流器を備えた装置で加熱することができる。加熱時間は、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは4時間以上15時間以下である。特開平9−157241号公報、特開平10−28862号公報等に開示されている酸化物触媒の調製段階において、大気下で触媒を調製する場合に原料調合工程にて若干の酸化が起きると考えられるが、本発明の特徴は、酸化過程を著しく促進することで触媒原料液の酸化状態を高めることにある。なおここでいう触媒原料液とは、原料調合工程で最終的に得られる混合液、すなわち乾燥工程に移る前の混合液をいい、X成分を含まない触媒の場合は触媒原料液と触媒調合液は同じものを指す。
【0020】(b)の方法を更に詳細に説明する。モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液に酸化性液体を添加する。酸化性液体を添加したのち、溶媒が凝固しない温度、例えば溶媒に水を用いる場合は0〜20℃に該混合液を冷却して撹拌してもよいし、室温程度、例えば20〜30℃で撹拌してもよいし、30℃以上に加熱することもできる。溶媒の沸点以上に加熱する場合は、オートクレーブを用いることができる。酸化処理する時間は、好ましくは30分間以上、さらに好ましくは1時間〜2時間である。酸化性液体としては、過酸化水素水、硝酸、次亜塩素酸水溶液等を用いることができるが、好ましくは過酸化水素水である。
【0021】過酸化水素水を用いる場合、過酸化水素水に含まれる過酸化水素の量は、好ましくは過酸化水素/アンチモンのモル比が0.01〜2であるが、さらに好ましくは過酸化水素/アンチモンのモル比が0.1〜1である。(a)および/または(b)の方法で酸化処理して得られた触媒調合液は、不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。
【0022】X成分を含む触媒を調製する場合には、(a)および/または(b)の方法で酸化処理して得られた触媒調合液にX成分を含む化合物を添加し、モリブデン、バナジウム、アンチモン及びXを含有する混合液を得る(以下、得られる混合液を触媒原料液という。)。X成分としてNbを用いる場合、ニオブ酸とシュウ酸を水に溶解して水溶液を調製することが好ましい。この水溶液のシュウ酸/Nb比のモル比は好ましくは1〜10、特に好ましくは2〜6である。
【0023】W、Cr、Ti、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属を用いる場合には、これらの金属の硝酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、水酸化物、酸化物、アンモニウム塩、炭酸塩等や、それらの水溶液やスラリーを触媒調合液に添加する。(a)および/または(b)の方法による酸化処理は、X成分を含む化合物を添加したのちに行っても良い。
【0024】シリカ担持触媒を製造する場合には、上記原料調合工程のいずれかのステップにおいてシリカゾルを添加して触媒原料液を得ることができる。
<乾燥工程>原料調合工程で得られた触媒原料液を噴霧乾燥法または蒸発乾固法によって乾燥させ、乾燥粉体を得ることができる。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式または高圧ノズル方式を採用することができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。このとき熱風の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましい。噴霧乾燥は簡便には100℃〜300℃に加熱された鉄板上へ触媒原料液を噴霧することによって行うこともできる。
【0025】<焼成工程>乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物触媒を得ることができる。焼成は回転炉、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用い、実質的に酸素を含まない窒素等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは、不活性ガスを流通させながら、500〜700℃、好ましくは550〜650℃で実施することができる。焼成時間は0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間である。不活性ガス中の酸素濃度は、ガスクロマトグラフィーまたは微量酸素分析計で測定して1000ppm以下、好ましくは、100ppm以下である。焼成は反復することができる。この焼成の前に大気雰囲気下または大気流通下で200℃〜420℃、好ましくは250℃〜350℃で10分〜5時間前焼成することができる。また焼成の後に大気雰囲気下で200℃〜400℃、5分〜5時間、後焼成することもできる。焼成触媒を粉砕してさらに焼成することができる。
【0026】このようにして製造された触媒の存在下、プロパンまたはイソブタンを気相接触アンモ酸化させて、不飽和ニトリルを製造する。プロパンまたはイソブタンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用することができる。反応系に供給する酸素源として空気、酸素を富化した空気、または純酸素を用いることができる。更に、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素などを供給してもよい。
【0027】反応系に供給するアンモニアのプロパンまたはイソブタンに対するモル比は0.1〜1.5、好ましくは0.2〜1.2である。反応に供給される分子状酸素のプロパンまたはイソブタンに対するモル比は、0.2〜6、好ましくは0.4〜4である。反応圧力は0.1〜10atm、好ましくは1〜3atmである。反応温度は350℃〜600℃、好ましくは380℃〜470℃である。接触時間は0.1〜30(g・s/ml)、好ましくは0.5〜10(g・s/ml)である。反応は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できる。反応は単流方式でもリサイクル方式でもよい。
【0028】
【発明の実施の形態】以下に、本発明をプロパンのアンモ酸化反応の実施例で説明する。各例において、プロパン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリロニトリル収率およびアクリロニトリルの空時収量は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)={(反応したプロパンのモル数(μmol))/(供給したプロパンのモル数(μmol))}×100アクリロニトリル選択率(%)={(生成したアクリロニトリルのモル数(μmol))/ (反応したプロパンのモル数(μmol))}×100アクリロニトリル収率(%)={(生成したアクリロニトリルのモル数(μmol))/(供給したプロパンのモル数(μmol))}×100アクリロニトリルの空時収量(μmol/((g・s/ml)・g))=(生成したアクリロニトリルのモル数(μmol))/((接触時間(g・s/ml))・(触媒重量(g)))
【0029】
【実施例1】<触媒調製>成分組成式がMo10.33Sb0.17Nb0.05nで示される触媒を次のようにして調製した。水80gにメタバナジン酸アンモニウム[NH4 VO3 ]2.19gと酸化アンチモン(III)[Sb2 3 ]1.41gを添加し、油浴を用いて100℃で計24時間、撹拌しつつ大気下で還流して得られた混合液にヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH4 6 Mo7 24・4H2 O]10.0gを添加した後、更にこの混合液を大気下、水浴で85℃に保ちつつ4時間撹拌して触媒調合液を得た。
【0030】一方、水25gにNb2 5 換算で76重量%を含有するニオブ酸0.50g、シュウ酸二水和物[H2 2 4 ・2H2O]0.96gを加え70℃にて加熱溶解したのち、30℃にて放冷し、ニオブ酸含有水溶液を得た。該ニオブ酸含有水溶液を上記触媒調合液に添加したのち、大気下、30℃で30分間撹拌して触媒原料液を得た。得られた触媒原料液を140℃に加熱したテフロンコーティング鉄板上に噴霧し乾燥粉体を得た。得られた粉体から2.2gを、300℃の恒温槽にて空気を流通させながら1時間加熱処理したのち、内径20mmの石英管に充填し、350Nml・min-1の窒素ガス流通下、600℃で2時間焼成して触媒を得た。用いた窒素ガスの酸素濃度は微量酸素分析計(306WA型テレダインアナリティカルインスツールメント社製)を用いて測定した結果、1ppmであった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>触媒0.3gを内径4mmの固定床型反応管に充填し、反応温度T=430℃、プロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:1.2:2.8:12のモル比の混合ガスを流量F=5.5Nml・min-1で流した。このとき圧力Pは1atmであった。接触時間は1.17g・s/mlである(接触時間は、触媒重量をW(g)として、W/F×60×273/(273+T)×Pから求めた。)。反応ガスの分析はオンラインガスクロマトグラフィー(GC−14B (株)島津製作所製)で行った。プロパン転化率、アクリロニトリル選択率、アクリロニトリルの空時収量を表1に示す。
【0031】
【実施例2】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を水浴で100℃に保ちつつ6時間撹拌し、触媒調合液を得たのち室温まで冷却した以外は、実施例1の触媒調製と同様にして触媒を得た。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0032】
【実施例3】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を水浴で75℃に保ちつつ8時間撹拌し、触媒調合液を得たのち室温まで冷却した以外は、実施例1の触媒調製と同様にして触媒を得た。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、混合ガス流量F=4.3Nml・min-1とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。接触時間は1.50(=W/F×60×273/(273+T)×P)(g・s/ml)である。得られた結果を表1に示す。
【0033】
【実施例4】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を水浴で95℃に保ちつつ10時間撹拌し、触媒調合液を得たのち室温まで冷却した以外は、実施例1の触媒調製と同様にして触媒を得た。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表1に示す。
【0034】
【実施例5】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を、テフロン製の内筒を備えた500mlのオートクレーブに封入し、撹拌しつつ150℃で2時間加熱し、触媒調合液を得たのち室温まで冷却した以外は、実施例1の触媒調製を反復して触媒を得た。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、混合ガス流量F=4.6Nml・min-1とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。接触時間は1.40(=W/F×60×273/(273+T)×P)(g・s/ml)である。得られた結果を表1に示す。
【0035】
【実施例6】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を加熱撹拌する代わりに、該混合液に5%(w/w)過酸化水素[H2 2 ]水6.6gを添加し、30℃で30分撹拌して、触媒調合液を得た以外は、実施例1と同様にして触媒を得た。このとき、(過酸化水素のモル量/3元系混合液中のアンチモンのモル量)=0.12であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を、実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0036】
【実施例7】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液に5%(w/w)過酸化水素水28.6gを添加し、30℃で1時間撹拌して、触媒調合液を得た以外は、実施例6と同様にして触媒を得た。このとき、(過酸化水素のモル量/触媒調合液中のアンチモンのモル量)=0.52であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0037】
【実施例8】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液を5%(w/w)過酸化水素水16.5gを添加し、20℃で2時間撹拌して、触媒調合液を得た以外は、実施例6と同様にして触媒を得た。このとき、(過酸化水素のモル量/触媒調合液中のアンチモンのモル量)=0.30であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0038】
【実施例9】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液に5%(w/w)過酸化水素水45.7gを添加し、25℃で45分撹拌して、触媒調合液を得た以外は、実施例6と同様にして触媒を得た。このとき、(過酸化水素のモル量/触媒調合液中のアンチモンのモル量)=0.83であった。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒についてプロパンのアンモ酸化反応試験を実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0039】
【比較例1】<触媒調製>モリブデン、バナジウム、アンチモンを含有する混合液に、加熱撹拌処理を施すかわりに該3元系混合液を30分間で30℃まで冷却した後、ニオブ酸含有水溶液を添加した以外は実施例1と同じ条件下にて触媒を調製した。
<プロパンのアンモ酸化反応試験>得られた触媒について触媒のアンモ酸化反応試験を、流量F=2.75Nml・min-1、接触時間2.33(=W/F×60×273/(273+T)×P)(g・s/ml)とした以外は実施例1と同じ条件下にて行った。得られた結果を表2に示す。
【0040】
【表1】


【0041】
【表2】


【0042】
【発明の効果】本発明方法によれば、比較的低い温度にて、プロパンまたはイソブタンから高い収率および空時収量で効率よく不飽和ニトリルを製造することができる、飛散性の少ないアンチモンを含む触媒の製造が可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プロパンまたはイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって不飽和ニトリルを製造する際に用いる、下記式(I)で示される成分組成を有する触媒の製造方法において、モリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を(a)および/または(b)の方法で酸化処理して得られる触媒調合液を用いて製造されることを特徴とする触媒の製造方法。
Mo1 a Sbb c n (I)
(式中、XはNb、W、Cr、Ti、Ta、Zr、Hf、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Zn、B、Ga、In、Ge、Sn、P、Pb、Bi、Y、希土類元素およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素であり、a、b、cおよびnはMo1原子あたりの原子比を表し、0.1≦a≦1、0.01≦b≦0.6、0≦c≦1、そしてnは構成金属の酸化状態によって決まる原子比である。)
(a)酸化性ガスを含む雰囲気下でモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液を50〜300℃にて1時間以上加熱する方法。
(b)酸化性液体をモリブデン、バナジウム及びアンチモンを含有する混合液に添加する方法。
【請求項2】 酸化性ガスが酸素、窒素酸化物から選ばれる少なくとも1種のガスであることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項3】 酸化性液体が過酸化水素水、硝酸、次亜塩素酸水溶液から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の触媒の製造方法。
【請求項4】 過酸化水素/アンチモンのモル比が0.01〜2であることを特徴とする請求項3に記載の触媒の製造方法。
【請求項5】 プロパンまたはイソブタンを気相接触アンモ酸化反応させ対応する不飽和ニトリルを製造するにあたり、請求項1、2、3または4に記載の触媒の製造方法で得られた触媒を用いることを特徴とする不飽和ニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2000−70714(P2000−70714A)
【公開日】平成12年3月7日(2000.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−243739
【出願日】平成10年8月28日(1998.8.28)
【出願人】(000000033)旭化成工業株式会社 (901)
【Fターム(参考)】