説明

両端開放形半波長共振器およびこれを用いた誘電定数測定方法

【課題】 上下面に導体が配置された誘電体薄層の誘電定数を高い精度で測定でき、特に厚さが50μm以下となっても無負荷Q値の低下を抑制する誘電定数測定方法および両端開放形半波長共振器を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の両端開放形半波長共振器A1は、誘電体薄層1の一方の面に矩形状のストリップ導体3を設けるとともに、誘電体薄層1の他方の面に環状のグランド導体4を設け、ストリップ導体3の長軸方向における少なくとも一方の端部とグランド導体4の一部とが積層方向から見て重なり合うように配置されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体薄層の上下面に配置された導体によって挟まれる領域のマイクロ波帯域における誘電定数を測定するための両端開放形半波長共振器およびこれを用いた誘電定数測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、移動体通信技術の発展、普及に伴い、マイクロ波回路構成用の誘電体基板の誘電定数測定方法が強く求められている。誘電体基板のマイクロ波における誘電定数測定方法は種々提案されているが、その中でも空洞共振器法(JIS R 1641、2002年制定)は高精度測定法として認知されている。なお、この空洞共振器法では基板の面方向の誘電定数が測定される。
【0003】
一方、セラミックスが電子部品として使用される場合、同時焼成技術によりメタライズとセラミックスとが同時に焼成され、電子部品を構成する場合が多い。この場合、セラミックスの誘電定数は、セラミックスだけで焼成した場合との焼成条件の違いや、メタライズとの相互拡散により変化する可能性があるので、誘電定数測定は同時焼成体、特にメタライズ間に挟まれたセラミックス(試料)で測定する必要がある。しかしながら、前記空洞共振器法は、一対の金属製有底筒状部材で測定試料を挟持するようにして測定するものであるため、測定できる試料はセラミックス単体の基板である必要があり、メタライズと同時焼成されたセラミック基板の測定はできない。
【0004】
そこで、メタライズと同時焼成されたセラミック基板、特にメタライズ間に挟まれたセラミック基板の誘電特性を測定する方法として、マイクロストリップラインリング共振器を利用した測定方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このマイクロストリップラインリング共振器は、セラミック層の上面にリング状導体を形成し、下面にベタグランド導体を形成してなるもので、この測定方法では、同一形状のリング状導体を具備する厚さの異なるセラミック基板をそれぞれ同時焼成することによってマイクロストリップラインリング共振器を形成し、これらのマイクロストリップラインリング共振器の無負荷Q値の差を測定して、メタライズの導電率とセラミック層の誘電正接を決定している。この方法では、セラミック層の厚さが薄いと導体損が大きくなることを測定原理として利用しており、さらに厚さの異なるセラミック層を構成する誘電体の誘電特性は等しいと仮定している。
【非特許文献1】Aly E. Fathy, et al., “An Innovative Semianalytical Technique for Ceramic Evaluation at Microwave Frequencies,” IEEE Trans. MTT., vol. 50, pp. 2247-2252, Oct. 2002.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メタライズと同時焼成されたセラミックス基板においては、セラミック層の厚さが薄いとき、メタライズからの拡散による誘電特性の変化が相対的に大きくなるため、上記測定法は精度が低いという問題があった。また、セラミック層の厚さが50μm以下となるとき、上記のマイクロストリップラインリング共振器では導体損が非常に大きくなるため、無負荷Q値が低下し、測定が困難であるという問題があった。
【0006】
本発明は、上下面に導体が配置された誘電体薄層の誘電定数を高い精度で測定でき、特に厚さが50μm以下となっても無負荷Q値の低下を抑制する誘電定数測定方法および両端開放形半波長共振器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、誘電体薄層の一方の面に矩形状のストリップ導体を設けるとともに、前記誘電体薄層の他方の面に環状のグランド導体を設け、前記ストリップ導体の長軸方向における少なくとも一方の端部と前記グランド導体の一部とが積層方向から見て重なり合うように配置されていることを特徴とする両端開放形半波長共振器である。
【0008】
このような両端開放形半波長共振器は、後述の誘電定数測定方法に有効に用いることができる。この両端開放形半波長共振器によれば、両端部のキャパシタンスを大きくできるため、フィルタ等の小型化に有効である。また、後述の図4に示すような両端開放形マイクロストリップライン共振器に比較して、導体損を小さくできるので、低損失化に有効である。なお、後述の誘電定数測定方法に用いるだけでなく、セラミックス基板を利用したフィルタ等の電子部品の基本構造となる共振器としても有効である。
【0009】
そして、本発明の第一の誘電定数測定方法は、前記両端開放形半波長共振器を励振させて共振周波数および無負荷Q値の少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数および前記無負荷Q値の少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とするものである。なお、両端開放形半波長共振器における半波長とは、ストリップ導体の長軸方向の長さが半波長であることを意味する。
【0010】
このような誘電定数測定方法によれば、共振空間に対する電界エネルギーの比率が、ストリップ導体とグランド導体とが積層方向に重なり合う部分で高くなるため、これらの導体間に挟まれた誘電体薄層の誘電定数を高精度で測定できる。また、グランド導体が環状に形成されグランド導体の内側に導体非形成領域が存在することで、導体損を抑制でき無負荷Q値を高くすることができる。これにより、測定が容易となるとともに測定精度の改善を図ることができる。さらに、誘電定数測定のための両端開放形半波長共振器と誘電体薄層とを平面回路として一体に作製できるため、立体共振器を利用する場合に比べ、共振器組み立てに伴う測定誤差を除くことができる。即ち、共振器作製は、例えば、通常の同時焼成技術により、誘電体を形成するグリーンシートの上下面にスクリーン印刷等によりストリップ導体とグランド導体とを形成するメタライズペーストを塗布し、これを焼成することによって容易に作製することができ、共振器作製に伴う測定誤差を最小限に抑制できる。
【0011】
また、本発明の第二の誘電定数測定方法は、前記両端開放形半波長共振器からなり前記環状のグランド導体で囲まれる導体非形成領域の面積が異なる第一の両端開放形半波長共振器と第二の両端開放形半波長共振器とを励振させて前記第一の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに前記第二の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数fおよび前記共振周波数fと前記無負荷Q値Qおよび前記無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とするものである。
【0012】
この誘電定数測定方法は、両端開放形半波長共振器の導体損が環状のグランド導体で囲まれる導体非形成領域の面積に依存し、この導体非形成領域の面積の異なる第一の両端開放形半波長共振器の無負荷Q値と第二の両端開放形半波長共振器の無負荷Q値との間に差が生じることを利用している。この方法において、前記第一の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに、前記第二の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、これらのデータを用いて、FEM(有限要素法)等の数値解析により、導体の導電率、誘電体薄層の比誘電率及び誘電正接のうち少なくとも一種を算出できる。
【0013】
第二の誘電定数測定方法においては、第一の両端開放形半波長共振器におけるストリップ導体の長軸方向における少なくとも一方の端部とグランド導体の一部とが積層方向から見て重なり合う領域の面積と、第二の両端開放形半波長共振器におけるストリップ導体の長軸方向における少なくとも一方の端部とグランド導体の一部とが積層方向から見て重なり合う領域の面積とを適宜調整することによって、共振周波数fとfの差を小さくすることができ、導体の導電率、誘電体薄層の比誘電率及び誘電正接の周波数依存性による精度低下を容易に抑制することができる。また、第一の両端開放形半波長共振器と第二の両端開放形半波長共振器との間で誘電体薄層の厚みを同じにすることによって、メタライズからの拡散による影響を等しくすることができ、誘電体薄層の厚さが極めて薄い場合においても精度の高い誘電定数を得ることができる。
【0014】
さらに、本発明の第三の誘電定数測定方法は、前記両端開放形半波長共振器と該両端開放形半波長共振器の前記環状のグランド導体に代えてベタグランド導体を設けてなる両端開放形マイクロストリップライン共振器とを励振させて前記両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに前記両端開放形マイクロストリップライン共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数fおよび前記共振周波数fと前記無負荷Q値Qおよび前記無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とするものである。
【0015】
このような誘電定数測定方法も、両端開放形マイクロストリップライン共振器の導体損が非常に大きく、両端開放形半波長共振器の無負荷Q値と両端開放形マイクロストリップライン共振器の無負荷Q値との間に差が生じることを利用している。この方法において、前記両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに、前記両端開放形マイクロストリップライン共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、これらのデータを用いて、FEM等の数値解析により、導体の導電率、誘電体薄層の比誘電率及び誘電正接のうち少なくとも一種を算出できる。
【0016】
第三の誘電定数測定方法においては、両端開放形半波長共振器におけるストリップ導体の長軸方向における少なくとも一方の端部とグランド導体の一部とが積層方向から見て重なり合う領域の面積を適宜調整することによって、共振周波数fとfの差を小さくすることができ、導体の導電率、誘電体薄層の比誘電率及び誘電正接の周波数依存性による精度低下を容易に抑制することができる。また、両端開放形半波長共振器と両端開放形マイクロストリップライン共振器との間で誘電体薄層の厚みを同じにすることによって、メタライズからの拡散による影響を等しくすることができ、誘電体薄層の厚さが極めて薄い場合においても精度の高い誘電定数を得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の両端開放形半波長共振器およびこれを用いた誘電定数測定方法によれば、上下面に導体が配置された誘電体薄層の誘電定数を高い精度で測定でき、特に厚さが50μm以下となっても無負荷Q値の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(両端開放形半波長共振器)
本発明の両端開放形半波長共振器の実施形態を、図1に基づいて説明する。
【0019】
図1に示す本発明の両端開放形半波長共振器A1は、誘電体薄層(試料層)1と、誘電体試料1の上面に設けられた矩形状のストリップ導体3と、誘電体薄層(試料層)1の下面に設けられた環状のグランド導体4とから構成されている。
【0020】
具体的には、誘電体薄層(試料層)1は積層方向から見て略正方形の形状になっていて、この誘電体薄層(試料層)1の上面に積層方向から見て細長い形状をしたストリップ導体3が形成され、誘電体薄層(試料層)1の下面に積層方向から見て周辺部に沿って環状のグランド導体4が形成され、ストリップ導体3の長軸方向における両端とグランド導体4の一部とが積層方向から見て重なり合うように配置されている。
【0021】
この積層方向から見てストリップ導体3の端部であるグランド導体4と重なり合う領域で電界エネルギーが高くなるため、誘電体薄層1のこれらストリップ導体3とグランド導体4とで挟まれる部分における厚さ方向の誘電定数を高精度で測定できる。また、この重なり合う領域はストリップ導体3の両端であることから、導体損はおこりにくく、Q値の低下が抑制できる。
【0022】
なお、積層方向からみて重なり合う領域は、ストリップ導体3の両端に限らず、一方の端部であってもよい。また、ストリップ導体3とグランド導体4とは必ずしも表層に露出している必要はなく、誘電体薄層(試料層)1が50μm以下と極めて薄い場合には、グランド導体4の下面に、さらに反りの発生を抑制するための誘電体支持層2が設けられていることが望ましい。また、誘電体支持層2としては、誘電体薄層(試料層)1と組成及び構造が同一である必要はなく、導体等が形成されたものであっても良い。特に、反りの発生を抑制する上で、両端開放形半波長共振器A1全体としては上下対称構造になっていることが望ましい。
【0023】
(第一の誘電定数測定方法)
本発明の第一の誘電定数測定方法を、図1に基づいて説明する。
先ず、測定試料として、図1に示す両端開放形半波長共振器A1を作製する。
そして、この両端開放形半波長共振器A1を例えば3〜30GHzのマイクロ波を用いて励振させて両端開放形半波長共振器の共振周波数および無負荷Q値を測定するが、この測定に際しては、図1に示すように一方の同軸ケーブル5の先端に形成されたループアンテナ6で両端開放形半波長共振器A1を励振させ、他方の同軸ケーブル5の先端に形成されたループアンテナ6で検波し、ネットワークアナライザー等の測定器で共振周波数fと無負荷Q値Qを測定する。なお、両端開放形半波長共振器A1を励振させるためには、ループアンテナに限らず、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレナーライン、スロットライン及びNRDガイドを採用してもよい。
【0024】
ここで、両端開放形半波長共振器A1の放射損が無視できない場合には、図2に示すように、両端開放形半波長共振器A1を囲むように遮蔽導体7を設置することが望ましい。この遮蔽導体7としては、箱形、中空矩形構造などが好適である。
【0025】
その後、共振周波数fより誘電体薄層(試料層)1の比誘電率ε’を算出し、無負荷Q値Qより誘電体薄層(試料層)1の誘電正接tanδを算出する。以下、これらの誘電定数の算出方法について説明する。
【0026】
ここで、誘電体薄層(試料層)1の比誘電率の算出のためには、想定される範囲で比誘電率と共振周波数の関係をFEM等の数値解析で求めておき、この関係を適当な関数で近似し、この近似関数と共振周波数の測定値から比誘電率を算出する。また、導体の導電率、誘電体薄層(試料層)1の誘電正接の算出のためには、共振器の形状因子Gや誘電体試料の電界エネルギー集中率PeをFEM等で計算し、このG、Peと無負荷Q値の測定値から試料の誘電正接を算出する。
【0027】
まず、両端開放形半波長共振器A1の共振周波数fの測定値から、有限要素法(FEM)やモードマッチング法などの数値解析により、誘電体薄層(試料層)1の比誘電率ε’を求める。ここでは有限要素法を用いる場合について述べる。
【0028】
図1で示される両端開放形半波長共振器A1の共振周波数fは、誘電体薄層(試料層)1の比誘電率ε’、厚さT、誘電体支持層2の比誘電率ε’s、厚さTs、ストリップ導体3とグランド導体4の厚さTc、ストリップ導体3の幅Wc、長さLc、グランド導体4で囲まれる導体非形成領域の幅Wo、ストリップ導体3の長軸方向における各端部がグランド導体4と積層方向から見て重なり合う領域の長さ(ストリップ導体3の長軸方向の長さ)Lr、Llの関数となっている。従って、T、ε’s、Ts、Tc、Wc、Lc、Wo、Lr、Llを測定値、あるいは設計値に固定し、誘電体薄層(試料層)1の比誘電率ε’を予想される範囲で数点設定し、対応する共振周波数fを有限要素法で計算する。これらの計算結果から、共振周波数fと比誘電率ε’の関係を適当な関数で近似した近似式と共振周波数fの測定値とから、比誘電率ε’を計算する。
【0029】
次に、無負荷Q値Qの測定値から、誘電体薄層(試料層)1の誘電正接tanδを下記の式1により求める。
【数1】

【0030】
上記の式1において、μは導体の透磁率であり、非磁性導体では、μは真空の透磁率μ=4π×10−7H/mに等しい。Pは誘電体薄層(試料層)1内の電界エネルギーの集中率、Pesは誘電体支持層2内の電界エネルギーの集中率、Gは両端開放形半波長共振器A1の形状因子であり、例えば文献「J. Krupka, K. Derzakowski, A. Abramowicz, M.E. Tobar and R.G. Geyer, “Use of whispering-gallery modes for complex permittivity determinations of ultra-low-loss dielectric materials,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 47, pp.752-759, June 1999」に記載されている。また、tanδsは誘電体支持層2の誘電正接である。
【0031】
なお、電界エネルギーの集中率は、両端開放形半波長共振器A1に蓄えられる電界エネルギーに対する、個々の部分に蓄えられる電界エネルギーの分率として定義される。PとPesは下記の式2および式3で与えられる。
【0032】
また、両端開放形半波長共振器A1の形状因子であるGは、下記の式4で与えられる。
【数2】

【0033】
【数3】

【0034】
【数4】

【0035】
式2乃至式4は、有限要素法(FEM)やモードマッチング法などの数値解析法により求める。そして、計算されたPe、es、Gと、別法による導電率σの測定値や文献値、さらに別法によるtanδの測定値や文献値を式1に代入し、tanδを求める。
【0036】
σを求める別法としては「A. Nakayama, Y. Terashi, H. Uchimura and, A. Fukuura, “Conductivity measurement at the interface between the sintered conductor and dielectric substrate at microwave frequencies,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. MTT-50, No.7, pp. 1665-1674, July 2002. 」が望ましい。また、tanδを求める別法としてはJIS−R1641:2002が望ましい。
【0037】
(第二の誘電定数測定方法)
本発明の第二の誘電定数測定方法を、図1および図3に基づいて説明する。
先ず、測定試料として、図1に示すような両端開放形半波長共振器A1と、図3に示すような図1に示す両端開放形半波長共振器A1とは環状のグランド導体4で囲まれる導体非形成領域の面積が異なる両端開放形半波長共振器A2とを作製する。なお、導体非形成領域とは環状のグランド導体4の内周で表される領域であって、図1(a)および図3(a)に一点鎖線で示される領域である。
【0038】
測定に際しては、第一の誘電定数測定方法と同様に、一方の同軸ケーブル5の先端に形成されたループアンテナ6で共振器を励振し、他方のループアンテナ6で検波し、ネットワークアナライザー等の測定器で図1に示す両端開放形半波長共振器A1の共振周波数fと無負荷Q値Qを測定するとともに図3に示す両端開放形半波長共振器A2の共振周波数fと無負荷Q値Qを測定する。
【0039】
次に誘電定数の算出方法について説明する。まず、共振器の共振周波数f、fの測定値から、有限要素法(FEM)やモードマッチング法などの数値解析により、それぞれの共振器における誘電体薄層試料1の比誘電率ε’を求める。図1で示される両端開放形半波長共振器A1の共振周波数fは、上記の通り、誘電体薄層試料1の比誘電率ε’、厚さT、支持層2の比誘電率ε’s、厚さTs、ストリップ導体3とグランド導体4の厚さTc、ストリップ導体3の幅Wc、長さLc、グランド導体4開口部の幅Wo、ストリップ導体3の長さ方向における各端部がグランド導体4と上下方向に重なり合う長さ(電極長さ)Lr、Llの関数となっている。従って、T、ε’s、Ts、Tc、Wc、Lc、Wo、Lr、Llを測定値、あるいは設計値に固定し、試料層1の比誘電率ε’を予想される範囲で数点設定し、対応する共振周波数fを有限要素法で計算する。同様にして、共振周波数fの測定値から、両端開放形半波長共振器A2の誘電体薄層(試料層)1の比誘電率ε’を計算する。
【0040】
次に、無負荷Q値Q、Qの測定値から、導体の導電率σと誘電体薄層(試料層)1の誘電正接tanδを式1により求める。有限要素法(FEM)やモードマッチング法などの数値解析により、それぞれの共振器について、式2、3、4で与えられるP、Pes、Gを求め、これを式1に代入する。これによって得られた連立方程式を解くことにより、導体の導電率σと誘電体薄層(試料層)1の誘電正接tanδを求めることができる。
【0041】
(第三の誘電定数測定方法)
本発明の第三の誘電定数測定方法を、図1および図4に基づいて説明する。
先ず、測定試料として、図1に示すような両端開放形半波長共振器A1と、図4に示すような図1に示す両端開放形半波長共振器A1における環状のグランド導体にかえてベタグランド導体41とした両端開放形マイクロストリップライン共振器A3を作製する。
【0042】
測定に際しては、第一および第二の誘電定数測定方法と同様に、一方の同軸ケーブル5の先端に形成されたループアンテナ6で共振器を励振し、他方のループアンテナ6で検波し、ネットワークアナライザー等の測定器で図1に示す両端開放形半波長共振器A1の共振周波数fと無負荷Q値Qを測定するとともに図4に示す両端開放形マイクロストリップライン共振器A3の共振周波数fと無負荷Q値Qを測定する。
【0043】
誘電定数の算出方法については、第二の誘電定数測定方法で記載した算出方法と同様であって、第二の誘電定数測定方法で記載した算出方法における共振周波数fおよびfをfおよびfに置換するとともに、第二の誘電定数測定方法で記載した算出方法における無負荷Q値QおよびQをQおよびQに変更して計算すればよい。
【0044】
なお、本発明の誘電定数測定方法においては、異なる温度の雰囲気下で測定することで、共振周波数及び無負荷Q値の温度依存性を容易に測定することができるため、導体の導電率、誘電体試料の比誘電率及び誘電正接の温度依存性を得ることができる。また、本発明の誘電定数測定方法においては、ストリップ導体とグランド導体との間に容易に直流電圧を印加することで、誘電体薄層試料の比誘電率及び誘電正接の直流電界依存性を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の測定方法に用いられる両端開放形半波長共振器を示すもので、(a)は上から見た平面図、(b)と(c)は断面図である。
【図2】両端開放形半波長共振器に遮蔽導体を設けた構造を説明するための説明図である。
【図3】本発明の測定方法に用いられる両端開放形半波長共振器の他の例を示すもので、(a)は上から見た平面図、(b)と(c)は断面図である。
【図4】本発明の測定方法に用いられる両端開放形マイクロストリップライン共振器を示すもので、(a)は上から見た平面図、(b)と(c)は断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1・・・誘電体薄層(試料層)
2・・・誘電体支持層
3・・・ストリップ導体
4・・・グランド導体
41・・・ベタグランド導体
5・・・同軸ケーブル
6・・・ループアンテナ
7・・・遮蔽導体
A1、A2・・・両端開放形半波長共振器
A3・・・両端開放形マイクロストリップライン共振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体薄層の一方の面に矩形状のストリップ導体を設けるとともに、前記誘電体薄層の他方の面に環状のグランド導体を設け、前記ストリップ導体の長軸方向における少なくとも一方の端部と前記グランド導体の一部とが積層方向から見て重なり合うように配置されていることを特徴とする両端開放形半波長共振器。
【請求項2】
請求項1に記載の両端開放形半波長共振器を励振させて共振周波数および無負荷Q値の少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数および前記無負荷Q値の少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とする誘電定数測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の両端開放形半波長共振器からなり前記環状のグランド導体で囲まれる導体非形成領域の面積が異なる第一の両端開放形半波長共振器と第二の両端開放形半波長共振器とを励振させて前記第一の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに前記第二の両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数fおよび前記共振周波数fと前記無負荷Q値Qおよび前記無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とする誘電定数測定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の両端開放形半波長共振器と該両端開放形半波長共振器の前記環状のグランド導体に代えてベタグランド導体を設けてなる両端開放形マイクロストリップライン共振器とを励振させて前記両端開放形半波長共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定するとともに前記両端開放形マイクロストリップライン共振器の共振周波数fおよび無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方を測定し、前記共振周波数fおよび前記共振周波数fと前記無負荷Q値Qおよび前記無負荷Q値Qの少なくともいずれか一方の測定値から前記誘電体薄層の厚さ方向における誘電定数を算出することを特徴とする誘電定数測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−198975(P2007−198975A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−19576(P2006−19576)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】