説明

中性子散乱を用いた構造マッピング法

【課題】
従来の中性子ラジオグラフィやトモグラフィでは実空間構造情報が得られない欠点を解消し、結晶粒又は磁区の方位情報をも含めた測定を可能とする新しい3次元マッピング法を提供する。
【解決手段】
パルス中性子源から導かれた中性子ビーム孔と移動機構を備えた試料部分とコリーメーターとスリットを備えたカウンター部分からなり、試料の一部分に中性子ビーム孔を絞ることで、その部分のみの原子核及びスピンの構造情報を測定し、試料全体の構造分布をマッピングする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス中性子源を用いた時間分解測定法に関する。更に詳しくは、本発明は、立体的な試料中の各位置における原子核及びスピンの実空間構造情報の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の中性子ラジオグラフィ又はトモグラフィにより、試料中に中性子を透過させることで、レントゲン写真のようにその試料の情報は得られていた。特に工夫された最近の中性子トモグラフィでは、試料の屈折率の分布を可視化できる(非特許文献1)。この中性子トモグラフィにおいては、中性子ビームがモノクロメーター(ア)で反射された後に、スリット(イ)を経て試料(ウ)に入射され、発生した散乱中性子ビームがアナライザー(エ)を経て中性子カウンター(オ)で測定される。
【0003】
又、一方で、全散乱装置や粉末回折装置により、試料全体に中性子を当てることで得られた散乱情報を解析して、構造情報が得られていた。
【非特許文献1】M.Strobl,W.Treimer,A.Hilger,「(中性子)電算化トモグラフィ用小角散乱シグナル」Applied PhysicsLetters,2004年7月、85、p.488−490
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前者の中性子ラジオグラフィやトモグラフィでは、その試料の吸収係数、屈折率の分布や小角散乱情報のみを可視化できる。又、後者の全散乱装置や粉末回折装置では、試料中の不均一さ又は構造の分布を調べることはできなかった。
【0005】
本発明は、以上のとおりの事情を鑑みてなされたものであり、従来の中性子ラジオグラフィやトモグラフィにおける実空間構造情報が得られない欠点を解消し、結晶粒又は磁区の方位情報をも含めた測定を可能とする、新しい3次元マッピング法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、試料前の中性子ビーム孔を十分に小さくし、それにあわせて試料を3次元的に動かすことで、試料の局所的な中性子散乱情報を得ようとするものである。この情報について、そのまま逆格子情報を得たり、散乱強度を規格化した後のフーリエ変換により実空間情報(パターソン関数)を得る。上記ビーム孔とは、中性子ビームが出てくる孔であり、その出口にスリットを置いて幅が狭められる。
【0007】
このことは、現在の優れたコンピューターを用いることで、短時間且つ自動的に行うことが可能である。混合物の逆格子及び実空間情報を元に、全試料の構造情報をマッピングするものである。実空間情報では最隣接の原子間距離やその配位数が最も重要な情報となるが、それに限らず、第二隣接以上の離れた原子間距離やその配位数を元にマッピングすることもできる。これにより、透過率の等しい物質が混合されていても、その結晶構造の違いを認識できる。
【0008】
特に、実空間情報とすることで、アモルファスなどで構造が同じものでも、構成元素の散乱長が異なれば、区別することができる。透過率が等しいのに、散乱長で区別できるのは、例えば、2原子核の平均散乱長が等しくても、各散乱長の値が異なれば、散乱長の積は異なり、それが実空間情報でのピーク強度となるからである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本発明の中性子散乱を用いた構造マッピング分析方法が用いられる測定装置の一実施例の断面図が示されている。中性子ビームが試料3を直線的に通り抜けることから、試料3と中性子カウンター5間のコリメーター4は、それに垂直な方向を狭めることが重要になる。又、中性子カウンターは一部のみを示したが、散乱角90度を中心として試料周りを取り囲むように数多く設置できる。
【実施例】
【0010】
以下図面に沿って実施例を示し、本発明の中性子散乱を用いた構造マッピング分析方法について更に詳しく説明する。
図1に示すように、比較的大きな試料3に対して、入射コリメーター1及びスリット2を通して入射中性子ビームを0.01から10mmと絞り、試料側をビームに対して正確に3次元的に移動させることで、試料中の特定の箇所にパルス中性子ビームを直線的に通過させる。その状態を、試料と中性子カウンター5との間に置いたコリメーター4により試料の見込み角(試料を見る領域)を絞り、更に必要に応じて中性子カウンター前にスリット6を置くことにより、パルス中性子ビームが通過した線上の特定の箇所のみの散乱中性子をカウントする。
【0011】
このことで、中性子ビームの物質に対する高い透過力を利用しながら、3次元(より低次元の板や線でもよい)試料の特定部分のみの散乱情報を得ることができる。入射中性子ビームに対して散乱角が2θのとき、中性子カウンターが見込む試料のビーム方向の幅は、1/sin 2θ倍拡がる。すなわち、コリメーター4が同じ条件では、2θ〜90度で最も高い位置分解能を出せる。
【0012】
このときパルス中性子では、時間変化に伴い、幅広いエネルギーを持つ散乱中性子が含まれることから、一箇所に置かれた中性子カウンターでも、幅広い大きさの散乱ベクトルをカバーすることができる。得られた幅広い散乱ベクトルの範囲の散乱情報を、予め測定しておいたバナジウムなどの標準試料の測定結果を利用して得た絶対散乱強度のフーリエ変換から実空間の相関関数情報をコンピューターによりリアルタイムで計算する。この実空間の相関関数情報には、測定している試料中の結晶構造の内、任意の原子からの原子間距離とそれを取り囲んでいる原子数すなわち配位数が含まれている。これらの情報の各々についてマッピングすることにより、様々な結晶構造情報の3次元マッピングが可能になる。
【0013】
そのマッピング例としては、fcc(面心立方格子)構造の銅A中に埋め込まれたbcc(体心立方格子)構造の鉄Bでは、その電子数や中性子の吸収係数が似ているために、従来のX線や中性子トモグラフィでは、はっきりと区別することはできないが、本発明の方法では、図3に示されるように、構造が異なるために強いコントラストで区別できる。
(発明の効果)
以上の説明のとおり、本発明によって、試料中の部分的な構造情報が得られるようになり、アモルファス中の相分離の検出や異なるアモルファス相の分布、又結晶性物質についても、結晶子(グレイン)の方位の分布、同じ組成でも構造が異なる相の分布、磁性体の磁区の分布、超伝導体中の磁束の3次元分布など、今までの中性子ラジオグラフィやトモグラフィでは検出できなかった実空間構造分布に関する情報が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の中性子散乱を用いた構造マッピング分析方法が用いられる測定装置の一実施例の断面図を示す図である。
【図2】従来の中性子トコグラフィー装置を示す図である。
【図3】本発明の方法により、銅中に埋め込まれた鉄をマッピングした例を示す図である。
【符号の説明】
【0015】
1:入射コリメーター、2:スリット、3:試料、4:コリメーター、5:中性子カウンター、6:スリット
ア:モノクロメーター、イ:スリット、ウ:試料、エ:アナライザー、オ:中性子カウンター
A:銅、B:鉄
















【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス中性子源から導かれた中性子ビーム孔と移動機構を備えた試料部分とコリーメーターとスリットを備えたカウンター部分からなり、試料の一部分に中性子ビーム孔を絞ることで、その部分のみの原子核及びスピンの構造情報を測定し、試料全体の構造分布をマッピングする方法。



















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−71449(P2006−71449A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255146(P2004−255146)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】