説明

中枢神経系活動に用いるトロパンプロドラッグ

脂肪酸エステル及び芳香族置換体を有するトロパンを基礎としたプロドラッグ化合物を開示することを目的とする。前記化合物は、CNS障害の症状を緩和するために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な中枢神経系障害に関するものであり、より具体的には、中枢神経系障害の症状を緩和することに関する。
【背景技術】
【0002】
中枢神経系(CNS)障害は、経済的、社会的に多大な損失を与える。例えば、統合失調症は、高い罹患率及び致死率という特徴を有しており、0.6〜1.3%の生涯有病率である世界的な前記障害の主要な原因の一つである。この障害の患者は、競争力を有する被雇用者となり得るのは、ほんの15%以下だけで、約20%の人は自立した生活ができない。
【0003】
統合失調症は、一般的に、陽性症状(妄想、幻覚、解体された行動など)、陰性症状(アネルギー等)、感情症状(抑うつなど)、または認知障害によって分類される。
【0004】
このような障害の典型的な治療は、モナニン受容体系に作用する薬物を用いるものである。例えば、第1世代抗精神病薬の主要な効果は、ドーパミン(D2受容体)の遮断である。これらの薬は、統合失調症の陽性症状の治療に効果的ではあるものの、陰性症状及び認知障害についてはわずかな効果しか発揮しない。統合失調症のようなCNS障害の治療にいくつかの薬は有効であるが、CNS障害を治療するための方法及び化合物は、改良するべき多くの問題を有している。
【特許文献1】米国特許第5763455号明細書
【非特許文献1】Remington’s Pharmaceutical Sciences (18th Edition, A. R. Gennaro et al. Eds., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 1990)
【非特許文献2】Madras, B. K.; Fahey, M. A.; Bergman, J.; Canfield, D. R., Spealman, R. D. Effects of cocaine and related drugs in nonhuman primates. I. [3H] Cocaine binding sites in caudate-putamen. J. Pharmacol. Exp. Ther. 1989, 251, 132.
【非特許文献3】Cheng, Y.-C., Prusoff, W. H. Relationship between the inhibition constant (Ki) and the concentration of inhibitor that causes 50 per cent inhibition (IC50) of an enzymatic reaction. Biochem. Pharmacol. 1973, 22, 3099.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、脂肪酸エステル及び芳香族置換体を有するトロパンを基礎にしたプロドラッグ化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の化合物は、一般的に以下の式(1)で表される化合物、その鏡像異性体、またはそれらのラセミ混合物である。

【0007】
また、CNS障害の症状を緩和するためのトロパンを基礎にしたプロドラッグを用いる方法を提供する。前記方法は、前記CNS障害の症状を軽減するために効果的な量のトロパンプロドラッグを患者に投与する工程を備える。このような障害としては、これに限るものではないが、例えば、双極性障害のような広域スペクトル精神病、抑うつ症、気分障害、薬物嗜癖、認知障害、及び、例えば、アルツハイマー病及びパーキンソン病のような神経変性疾患である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、ここで示す方法により、CNS障害の症状を緩和するために用いることができる新規トロパン「プロドラッグ」を提供することを目的とする。
【0009】
ここで詳しく説明するトロパンプロドラッグは、ヒトにおいて著しい治療的有用性を示すモノアミン輸送体阻害剤として機能する。例えば、選択的セロトニン輸送体(SERT)阻害剤は、抗うつ薬として最も広く用いられているもののいくつかである。SERTだけでなく、ノルエピネフリン輸送体(NET)にも結合する非特異的リガンドは、抗うつ薬としても用いられ始めている。ドーパミン輸送体(DAT)阻害剤は、注意力欠如障害の治療に用いられるが、コカインのように乱用される虞がある。このように、前記モノアミン輸送体阻害剤は,ヒトにとって有益な効果を有すると認識されている。

【0010】
[化学反応]
ジアゾ酢酸ビニルとピリジンとの間の[3+4]付加環化は、トロパン合成のための直接法によるものであり、様々なアリールトロパンの合成(反応式1)のために、広範に用いられている。この化学的伸張によって、以下の通りにトロパンプロドラッグを合成することが可能になる。

【0011】
本発明の化合物は、以下の式(1)の構造、その鏡像異性体、またはそれらのラセミ混合物を有している。

【0012】
好ましくは、R1及びR3がそれぞれエチル基及びメチル基であり、R4はメチル基または炭素数が11個の直鎖アルカン基であり、R2は、p−メチル基またはR2を有する環が2−ナフチル基を形成する2位及び3位に隣接する環である。
【0013】
また、以下の式(2)に示すような、上述した化合物におけるエステル官能基がアルコールに置換されている化合物に対応する化合物もまた、本発明に含まれる。

【0014】
本発明のもう1つの態様は、CNS障害の症状を緩和するための方法を提供することである。前記方法は、前記CNS障害の症状を軽減するために効果的な量のトロパンプロドラッグからなる組成物を患者に投与することを備える。
【0015】
本発明の方法は、様々なCNS障害の症状の1つ以上を緩和するのに適している。CNS障害を有する患者は、しばしば、その特定の障害に特徴的な症状を1つ以上呈する。また、同一の患者において、複数のCNS障害による症状群が予期されることもある。この点に関して、CNS障害による症状を認識すること、及び、本発明の方法を実行している間またはその後に前記症状が緩和されたことを確定することは、当業者においてよく行われていることの範囲であり、適切な臨床技術、診断技術、観察技術または他の技術を用いて行われることができる。例えば、統合失調症の症状は、これに限定するものではないが、妄想、幻覚、緊張病性行動を含む。本発明の方法を行うことにより生じたこれら特定の症状のいずれかの軽減は、前記症状の緩和であると考える。本発明の方法によって緩和するのに適した症状を呈する特定のCNS障害は、これに限るものではないが、例えば、双極性障害のような広域スペクトル精神病、抑うつ症、気分障害、薬物嗜癖、認知障害、及び、例えば、アルツハイマー病及びパーキンソン病のような神経変性疾患、及びそれらの組合せである。これらの障害の各症状については、よく知られている。これら特定の障害のいずれかの症状軽減を認識し、確定することは、当業者によって容易に行われる。
【0016】
有効量の化合物からなる組成物は、従来の経路で投与される。前記投与は、これに限るものではないが、経口投与、非経口投与、筋注投与、静注投与、及び粘膜投与を挙げることができる。本発明の第1の態様では、経口投与が用いられる。
【0017】
前記化合物投与の用量・用法は、当業者によく知られている範囲である。服用レベルは、例えば、体重1kg当たり4μg〜50mgの範囲であってよい。他の例として、服用レベルは、体重1kgあたり20μg〜15mgの範囲であってよい。このような服用パラメータは、患者の体重に加えて、該患者の年齢、障害の段階を考慮した上で、従来の工程に従って決定されると認識される。
【0018】
前記化合物は、本発明の方法に用いるために、他の成分と結合して製剤を形成してもよい。このような構成要素は、とりわけ、これに限定するものではないが、投薬形態、患者特有の必要性、及び製造方法などの要因に応じて選択することができる。前記構成要素として、例えば、これに限定するものではないが、結合材、潤滑油、充填剤、香味料、防腐剤、着色料、希釈剤などを含む。本発明の方法に用いるための医薬品組成物成分に関する付加的情報が知られている(例えば、非特許文献1参照)。従って、本発明の組成物と共に用いる特定の物質の選択及びその互換性は、当業者であれば容易に確認することができる。また、付加的な詳細についても、知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0019】
次に、本発明について以下の実施例を用いて説明するが、これは例示的に説明するためのものであり、いかなる形であれ本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0020】
本実施例では、本発明の組成物の受容体結合特性について説明する。生体アミン輸送体における結合を、凍結したSprague−Dawley(SD)ラット脳を解剖して得た線条体および前頭皮質によって確定した(Pel−Freez, Rogers, AR)。ドーパミン輸送部位の類似体の親和力を、ラットの線条体の膜0.5mg(元の湿重量)及び10pM [125I]RTI−55を用い、該線条体の膜に結合している[125I]RTI−55の置換によって確定した。非特異的結合を、1μM WF−23(類似体3a)の存在によって確定した。5−HT輸送部位への類似体の親和力を、ラットの前頭皮質の膜50mg(元の湿重量)及び0.4nM[H]パロキセチンを用い、該前頭皮質の膜に結合している[H]パロキセチンの置換によって確定した。非特異的結合を10μM フルオキセチンの存在によって確定した。ノルエピネフリン輸送部位への類似体の結合は、0.7nM [H]ニソキセチンを用い、ラット前脳の膜に結合している[H]ニソキセチンの置換によって確定した。非特異的結合を、1μM デシプラミンの存在によって確定した。
【0021】
効力を、非線形曲線の当てはめによる分析により、7〜10濃度のラベル化されていない類似体を用いた置換曲線から計算した。ドーパミン輸送体におけるトロパンの結合は、一般的に多面的である(非特許文献2参照)と考えられているので、[125I]RTI−55結合を阻害する効力はIC50値として報告された。[H]パロキセチン及び[H]ニソキセチン結合アッセイとして、Ki値をCheng−Prusoff式を用いて計算した(非特許文献3参照)。全てのデータは、少なくとも3つの独立した実験により得たものであり、各実験は3重に(triplicate)行ったものであり、平均値±S.E.M.(標準誤差)で示す。
【0022】
PTT及びWF−23に関するプロドラッグに対するDAT及びSERTの生体外結合能の構造を表1にまとめて示す。これらの化合物は、前記輸送体に優れた結合能を示し、このため、薬をゆっくりと放出する機能を有しており、長く作用するアゴニストとして働くと思われる。
【0023】
[表1]

【0024】
上述した特定の実施形態は、本発明を説明することを目的としたものであり、これに限定して解釈されるものではない。本発明の教示から、当業者によって認識される多様な改良及び改変は、本発明の思想から逸脱するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式(1)または構造式(2)、若しくはその鏡像異性体、またはそれらのラセミ混合物の一つを有することを特徴とする化合物。



【請求項2】
R1は、炭素数が3個以下のアルカン基またはアルケン基であり、
R2は、炭素数が3個以下のアルカン基、p−メチル基、または2−ナフチル基を形成する2位及び3位に隣接する環であり、
R3は、炭素数が3個以下のアルカン基であり、
R4は、アルカン基またはアルケン基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R4は、炭素数が3個以上のアルカン基またはアルケン基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項4】
R4は、炭素数が6個以上のアルケン基またはアルカン基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項5】
R1は、エチル基であり、
R2は、p−メチル基であり、
R3は、メチル基であり、
R4は、水素または炭素数が11個の直鎖アルカン基であることを特徴とする請求項4記載の化合物。
【請求項6】
R1は、エチル基であり、
R2は、2−ナフチル基を形成する2位及び3位に隣接する環であり、
R3は、メチル基であり、
R4は、水素またはメチル基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項7】
R1は、エチル基であり、
R2は、p−メチル基であり、
R3は、メチル基であり、
R4は、水素または炭素数が11個の直鎖アルカン基であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項8】
R1は、エチル基であり、
R2は、2−ナフチル基を形成する2位及び3位に隣接する環であることを特徴とする請求項1記載の化合物。
【請求項9】
請求項1記載の化合物を備える処方からなる組成物を患者に投与する工程を備える患者のCNS障害の症状を1つ以上緩和するための方法。

【公表番号】特表2009−529532(P2009−529532A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558435(P2008−558435)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/006169
【国際公開番号】WO2007/106423
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(508271551)ザ・リサーチ・ファウンデーション・オブ・ステート・ユニバーシティ・オブ・ニューヨーク (5)
【氏名又は名称原語表記】THE RESEARCH FOUNDATION OF STATE UNIVERSITY OF NEW YORK
【Fターム(参考)】