説明

中枢血圧推定装置および方法

【課題】 中枢動脈の収縮期血圧の変化を簡単に推定する。
【解決手段】 生体の表面に接触されて、その直下の動脈の脈波をセンサユニット1にて検出する。CPU11は、検出された脈波の特徴点を抽出して、抽出した特徴点を用いて脈波における収縮期後方成分を求める。次に、求められた収縮期後方成分を用いて生体の中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を推定して、推定された収縮期血圧の時間的変化は表示部25に表示される。収縮期血圧の推定には、求められた収縮期後方成分と、電子血圧計30で予め測定しておいた抹消動脈の血圧とを用いた線形変換による演算が適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中枢血圧推定装置および方法に関し、特に中枢動脈の収縮期血圧の変化を推定することができる中枢血圧推定装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、冠動脈の循環が悪くなり心筋梗塞などの急性心疾患が発生した場合にニトログリセリンなどの冠動脈拡張薬が患者に投与される。このような薬剤の投与により中枢の動脈の血圧が下がった場合には、薬剤投与の効果が出ていると確認することができる。従来は中枢動脈の血圧は、正確に測ろうとする場合、医家が患者の体にカテーテルを挿入して侵襲して測定するので患者に痛みを与えることがあり、また大掛かりの装置となるために実用性にも優れない。そこで、痛みを伴わずに簡易に中枢動脈の血圧の変化をモニタするための手法として、末梢動脈において中枢動脈の血圧変化をモニタすることが望まれていた。
【0003】
抹消の血圧は市販の電子血圧計を用いて非侵襲に簡易に測定することができる。しかしながら、心臓より脳、腎臓へ至る大動脈の内圧(=中枢血圧)は上腕など末梢の比較的細い血管で測定する血圧(=末梢血圧)としばしば異なることが知られている。例えば特許文献1に示されているように、末梢血圧が変化しない場合でも中枢血圧が変化することが知られているから、電子血圧計で末梢血圧の変化をモニタしたとしても、必ずしも中枢血圧の変化を正確に把握できるとは限らない。
【0004】
そこで、特許文献2または特許文献3においては、中枢動脈の脈波波形を、すなわち中枢血圧波形をより確かに推定するための技術が提案された。
【特許文献1】特許第2620497号公報
【特許文献2】特開2003−555号公報
【特許文献3】特許第3400417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2により提案される技術では、伝達関数法を用いるためフーリエ変換などの複雑な演算が必要とされるので、高速な演算機能を有するプロセッサを搭載した装置が必要とされて装置価格が高くなる。また、特許文献3では、動脈モデルと脈波伝播速度とから、中枢動脈から末梢動脈へ圧脈波(動脈の内圧変化によって生じる経時的な血管伝導波を圧脈波という)が伝わる際にどのように変化するかを求めておき測定した末梢血圧から中枢血圧を測定するといった手法を用いているが、高性能の演算装置を用いなければ解析までに要する演算時間が長くなって、中枢血圧の現象の発生から確認までに要する時間が長くなり実用的でない。
【0006】
また、特許文献1においては、中枢の圧力降下の後に収縮期後方成分も降下していることを示唆しているけれども、上昇などについては触れていない。
【0007】
それゆえにこの発明の目的は、中枢動脈の収縮期血圧の変化を簡単に推定することのできる中枢血圧推定装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従う中枢血圧推定装置は、生体の表面に接触されて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出手段と、脈波検出手段により検出される脈波における収縮期後方成分を求める手段と、収縮期後方成分を求める手段によって求められた収縮期後方成分を用いて生体の中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を推定する推定手段と、推定手段により推定された収縮期血圧の時間的変化を表示する表示手段とを備える。
【0009】
好ましくは、推定手段は、生体において予め測定された血圧と、収縮期後方成分を求める手段によって求められた収縮期後方成分とを用いて、生体の中枢動脈の収縮期血圧を推定する。
【0010】
好ましくは、生体において予め測定された血圧は、該生体の抹消動脈の血圧である。
【0011】
好ましくは、推定手段には線形変換が用いられる。
【0012】
好ましくは、表示手段は、推定手段により推定された収縮期血圧を時系列に連続して表示する。
【0013】
好ましくは、1心拍毎の収縮期血圧を連続して表示する。
【0014】
好ましくは、表示手段は、収縮期血圧またはその時間的変化と血圧に関する他の指標とを関連付けて表示する。
【0015】
好ましくは、指標は、生体の抹消動脈の血圧またはその時間的変化である。
【0016】
好ましくは、表示手段は、収縮期血圧またはその時間的変化と前記生体の抹消動脈の血圧またはその時間的変化を、2次元グラフ上で比較して表示する。
【0017】
この発明の他の局面に従う中枢血圧推定装置は、生体の表面に接触されて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出手段と、脈波検出手段により検出される脈波における収縮期後方成分を求める手段と、収縮期後方成分を求める手段によって求められた収縮期後方成分の時間的変化を算出する算出手段と、算出手段により算出された収縮期後方成分の時間的変化を表示する表示手段とを備える。
【0018】
上述の収縮期後方成分は、反射波成分であり、中枢動脈における収縮期血圧を決定する要因の1つである。
【0019】
この発明のさらに他の局面に従う中枢血圧推定方法は、生体の表面に接触されたセンサを用いて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出ステップと、脈波検出ステップにより検出される脈波における収縮期後方成分を求めるステップと、収縮期後方成分を求めるステップによって求められた収縮期後方成分を用いて生体の中枢動脈の収縮期血圧を推定する推定ステップと、推定ステップにより推定された収縮期血圧の時間的変化を表示する表示ステップとを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、生体から検出した脈波において、その収縮期後方成分を求めるので、中枢動脈における収縮期血圧を決定する要因の1つである収縮期後方成分(反射波)を知ることができる。それにより、その収縮期後方成分を用いて中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を推定できる。したがって、中枢動脈の収縮期血圧の時間的変換を簡単に短時間のうちに推定できる。
【0021】
また医家は、表示される中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を参照することで、生体の心臓、すなわち中枢動脈の状態をモニタすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。図1〜図16は本実施の形態に係る装置または方法を説明する図であり、図17(A)と(B)〜図20は本実施の形態に係る技術的な背景を説明するための図である。
【0023】
<実施の形態のための背景の説明>
図17(A)と(B)には同一被験者について同時に測定した末梢動脈の圧脈波の変化と中枢動脈の圧脈波の変化を示す。図17(A)と(B)の波形は、中枢動脈の状態に左右される。図17(B)の中枢動脈の波形はカテーテルを挿入して侵襲に計測したものであり、図17(A)の末梢動脈の圧脈波は電子血圧計などを用いて上腕部の血圧をオシロメトリック法により測定して得たものである。図17(A)と(B)の横軸は時間経過を示し、縦軸は圧脈波信号(電圧信号)の電圧レベル(mV)を示しており、この電圧レベルは血圧に比例する。
【0024】
図17(B)の中枢動脈の圧脈波は、多くの場合には反射波の振幅レベルが大きく、反射波の振幅レベルが大きい人の場合には中枢動脈の最高血圧(収縮期血圧)は反射波の振幅レベルに左右される。図17(A)は抹消動脈の圧脈波の変化を示す。中枢動脈の圧脈波の反射波の振幅レベルが大きい人でも末梢動脈の圧脈波は進行波が大きい場合がある。これは圧脈波が血管を伝わる際にある周波数(5Hz程度)成分が強調される伝達特性があるためである。この場合、心臓の拍動に伴い心臓から血液が送出されるときの駆出波の振幅が大きいことが多く、末梢動脈の最高血圧(収縮期血圧)は駆出波の振幅レベルに大きく左右される。
【0025】
図18(A)と(B)は被験者の体にカテーテルを挿入して、ニトログリセリン投与前後の中枢動脈の血圧を測定した結果をグラフで示しており、グラフの横軸は時間経過を示し、縦軸は圧脈波の振幅レベルを示し、その単位は圧力(mmHg)で示されている。ニトログリセリン投与前の図18(A)とニトログリセリン投与後の図18(B)を参照すると、ニトログリセリンが血管細胞に作用して血管を拡張させるので、結果として中枢動脈の圧脈波について反射波成分が低減されたことが、圧脈波の振幅のピークが図中矢印で示されるように低減されていることでわかる。
【0026】
図19(A)と(B)には、ニトログリセリンの投与により、末梢動脈の圧脈波において反射波が低減される様子がグラフで示される。グラフの横軸は時間経過を示し、縦軸は圧脈波の振幅レベルを示し、その単位は圧力(mmHg)で示されている。ここで示される末梢動脈の圧脈波は、電子血圧計を用いたオシロメトリック法に従い測定された血圧の波形に対応する。末梢動脈の圧脈波の波形においては、圧脈波の振幅のピークであるポイントA1とA2、ポイントB1とB2において血圧が指示される。特許文献1で示されているように中枢動脈の圧脈波で出現する反射波成分は、抹消動脈の圧脈波ではポイントa1およびa2、ならびにポイントb1およびb2において出現する。したがって、末梢動脈における血圧を示す圧脈波の振幅レベルは反射波に影響されないことがわかる。図示されるように、ニトログリセリンを投与したことにより、血管が拡張しているので、図19(B)に出現する反射波の振幅レベルは図19(A)のそれに比べて低減されて、その結果ポイントa1のレベルはポイントb1のレベルにまで低下し、同様にポイントa2のレベルはポイントb2のレベルにまで低下していることがわかる。
【0027】
図20には、実験結果の実測値を用いた末梢動脈の圧脈波における反射波の振幅レベルの傾向を示すグラフ(以下、反射波トレンドという)L1と中枢動脈圧(最大値:収縮期血圧)の変化の傾向を示す中枢動脈圧トレンドL2が示されている。図20のグラフでは横軸に時間経過がとられて、縦軸に中枢動脈圧(収縮期血圧)と末梢動脈圧の圧脈波のピーク値(いずれも単位は(×100mmHg))を示している。前述したように、中枢動脈圧、すなわち中枢動脈の収縮期血圧は反射波の振幅レベルに左右されるので、反射波の振幅レベルが大きくなると収縮期血圧は上昇し、振幅レベルが低くなると収縮期血圧も低くなる。これに対し、末梢動脈の圧脈波においては、反射波の影響は収縮期血圧(図19(A)と(B)のポイントA1、A2、B1およびB2の血圧)の後方成分として図19(A)と(B)ポイントa1、a2、b1およびb2において出現している。
【0028】
したがって、図20に示されるように、反射波トレンドL1の変化点は、中枢動脈圧トレンドL2の変化点よりわずかに遅れて出現することになる。図20では、その変化点が僅かの時間差をもって対応付けて示されることになって、この変化点は心臓の拍動の1拍ごとに出現しており、反射波トレンドL1は、この1心拍毎の反射波のピーク値を変化点として時系列にプロットしたものである。このように図20のグラフからは、末梢動脈における反射波の振幅レベルの変化と中枢動脈における収縮期血圧の変化はほぼ一致しているということがわかるので、この実験によれば末梢動脈の圧脈波における反射波トレンドL1をモニタすることにより、中枢動脈における収縮期血圧の時系列の時間的変化(トレンド)を容易に把握することが可能になるという結果を得ることができる。
【0029】
<本実施の形態に係る装置の外観および構成>
図1にはセンサユニットと固定台との接続関係が示される。図2には、本実施の形態に係る中枢血圧推定装置に適用される脈波検出装置を生体に装着した状態が示される。
【0030】
図1および図2を参照して、脈波検出装置は手首の橈骨動脈における脈波を検出するために手首表面に装着されるセンサユニット1、脈波検出のために手首を固定するための固定台2および脈波検出に関する各種情報を入出力するための表示ユニット3(図示せず)を備える。図1ではセンサユニット1は筐体内に収容されており、図2ではスライド溝9(図1参照)を介して筐体内から外部にスライド移動されて、手首上に位置している状態が示される。
【0031】
固定台2は固定台ユニット7を内蔵しており、固定台ユニット7は後述する図4の表示ユニット3と外部接続インターフェース29とにUSB(Universal Serial Bus)ケーブル4を介して通信可能に接続される。また、固定台ユニット7とセンサユニット1とは通信ケーブル5とエア管6とを介して接続される。
【0032】
脈波検出時には、図2に示すように、ユーザは手首を固定台2の所定位置に載置した状態で、センサユニット1をスライド移動により手首の動脈側の表面に位置させてセンサユニット1の筐体と固定台2とをベルト8を介して締めて、手首上のセンサユニット1がずれないように止める。
【0033】
図3(A)〜(E)にはセンサユニット1の構成が示される。
【0034】
図3(A)のセンサユニット1の、手首装着時の手首を横断する方向の断面構造が図3(B)に示される。図3(C)には図3(B)の破線の枠内の一部が拡大して示される。図3(B)の押圧カフ18は、加圧ポンプ15および負圧ポンプ16によりカフ圧が調整されると、セラミックないしは樹脂により成型されたブロックを介して取付けられた半導体圧力センサ19は該カフ圧レベルに応じた量だけ自在に上下移動する。半導体圧力センサ19は、下方向に移動されることにより、筐体の予め設けられた開口部から突出して手首表面に押圧される。
【0035】
図3(D)と図3(E)に示すように、半導体圧力センサ19の複数個のセンサエレメント28の配列方向は、センサユニット1を手首に装着した時には動脈と略直交(交差)する方向に対応し、配列長は少なくとも動脈の径より長い。センサエレメント28それぞれは押圧カフ18のカフ圧により押圧されると、動脈から発生して生体表面に伝達される圧力振動波である圧力情報を電圧信号として出力する(以下、「圧力信号」という)。本実施の形態において、センサエレメント28は所定の大きさ(5.5mm×8.8mm)の測定面40において、たとえば40個配列される。
【0036】
図3(C)を参照して、センサエレメント28からの圧力信号は、フレキシブル配線27を介してPCB(Printed Circuit Board)26内のマルチプレクサ20、アンプ21
へと順次送られる。
【0037】
図4には、本発明の実施の形態に係る中枢血圧推定装置の機能構成が示される。図4を参照して、表示ユニット3は、外部から操作可能に設けられて脈波検出に関する情報を含む各種情報を入力するために操作される操作部24、および動脈位置検出結果や脈波測定結果や中枢血圧推定結果などの各種情報を外部に出力するためのLED(Light Emitting Diode)やLCD(Liquid Crystal Display)などからなる表示部25を含む。
【0038】
固定台ユニット7は、脈波検出および中枢血圧推定の動作を制御するためのデータやプログラムを記憶するROM(Read Only Memory)12やRAM(Random Access Memory)13、当該装置の動作を集中的に制御するために演算を含む各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)11、加圧ポンプ15、負圧ポンプ16、切換弁17、CPU11からの信号を受け取り加圧ポンプ15、負圧ポンプ16および切換弁17に送信するための制御回路14、少なくとも2つの特性値を有してそのいずれかの特性値に変更可能である特性可変フィルタ22、A/D変換部23を備える。CPU11には、外部接続インターフェース29を介して電子血圧計30、通信ユニット31および外部記憶装置32が接続される。電子血圧計30はオシロメトリック法を用いて被験者の上腕などの抹消動脈の血圧(収縮期血圧および拡張期血圧)を一般に良く知られている手順で測定して、測定結果のデータを外部接続インターフェース29を介してCPU11に出力する。CPU11は入力する血圧測定結果データを表示部25に表示し、また中枢血圧推定のために参照する。
【0039】
本実施の形態では、図2のように抹消動脈の圧脈波(単に脈波ともいう)の検出部位を手首とし、血圧測定部位を上腕としているが、脈波および血圧ともに測定部位はこれに限定されない。中枢血圧について、より高い推定精度を得るには両者の測定部位は近接していることが望ましい。
【0040】
また、ここでは脈波検出のためのセンサユニット1と血圧測定のための電子血圧計30は別個に設けているが、同一筐体に取り込んだ装置構成としてもよい。この場合には、上述した測定部位の近接配置が容易に可能となるであろう。
【0041】
CPU11はROM12にアクセスしてプログラムを読出してRAM13上に展開して実行し、当該装置全体の制御を行なう。そして、CPU11は、操作部24よりユーザからの操作信号を受取り、その操作信号に基づいて装置全体の制御処理を行なう。すなわち、CPU11は、操作部24から入力された操作信号に基づいて、制御信号を送出する。また、CPU11は、脈波測定結果などを表示部25に表示する。
【0042】
加圧ポンプ15は、後述の押圧カフ(空気袋)18の内圧(以下、「カフ圧」という)を加圧するためのポンプであり、負圧ポンプ16は、カフ圧を減圧するためのポンプである。切換弁17は、これらの加圧ポンプ15と負圧ポンプ16とのいずれかを選択的にエア管6に切換接続する。そして、制御回路14は、これらを制御する。
【0043】
センサユニット1は、複数のセンサエレメント28を含む半導体圧力センサ19、複数のセンサエレメントそれぞれが出力する圧力信号を選択的に導出するマルチプレクサ20、マルチプレクサ20から出力される圧力信号を増幅するためのアンプ21、および半導体圧力センサ19を手首上に押圧させるために加圧調整される空気袋を含む押圧カフ18を備える。
【0044】
半導体圧力センサ19は、単結晶シリコンなどからなる半導体チップに一方向に所定間隔に配列された複数のセンサエレメントを含んで構成され(図3(E)参照)、押圧カフ18の圧力によって測定中の被験者の手首などの測定部位に押圧される。その状態で、半導体圧力センサ19は撓骨動脈を介して被験者の脈波を検出する。半導体圧力センサ19は、脈波を検出することで出力する圧力信号を各センサエレメント28のチャネルごとにマルチプレクサ20に入力する。
【0045】
マルチプレクサ20は、各センサエレメント28が出力する圧力信号を選択的に出力する。マルチプレクサ20から送出される圧力信号は、アンプ21において増幅し、特性可変フィルタ22を介して選択的にA/D変換部23に出力する。本実施の形態において、マルチプレクサ20は、CPU11により動的に制御される。
【0046】
特性可変フィルタ22は、所定値以上の信号成分を遮断するための低域通過フィルタであり、遮断周波数を変更することができる。特性可変フィルタ22についても、後に詳述する。
【0047】
A/D変換部23は、半導体圧力センサ19から導出されたアナログ信号である圧力信号をデジタル情報に変換して、CPU11に与える。CPU11は、半導体圧力センサ1
9に含まれる各センサエレメント28が出力する圧力信号を、時間軸に沿ってマルチプレクサ20を介して同時に取得する。
【0048】
本実施の形態において、CPU11、ROM12およびRAM13を固定台ユニット7に備えることとしたので、表示ユニット3の小型化を図ることができる。
【0049】
なお、固定台2の固定台ユニット7と表示ユニット3とは別個に設けたが、両機能を固定台2に内蔵する構成であってもよい。また、固定台ユニット7にCPU11,ROM12,RAM13を備える構成にしたが、これらを表示ユニット3に設ける構成としてもよい。また、PC(Personal Computer)と接続されて、各種制御を行なうこととしてもよ
い。
【0050】
<本発明の実施の形態における装置の動作および構成>
ここで、上記の本発明の実施の形態において、特性可変フィルタ22を設けた脈波検出装置の動作について説明する。
【0051】
図5は、実施の形態における脈波測定処理を含む中枢血圧推定処理のフローチャートである。図5のフローチャートに示される処理は、CPU11が、ROM22にアクセスしてプログラムを読出してRAM23上に展開して実行することによって実現される。
【0052】
図5を参照して、始めに、電源スイッチ(図示せず)がONされると、CPU11は、制御回路14に対して負圧ポンプ16を駆動するように指示し、制御回路14はこの指示に基づいて切換弁17を負圧ポンプ16側に切換えて、負圧ポンプ16を駆動する(S101)。負圧ポンプ16が駆動されることで、切換弁17を介してカフ圧が大気圧よりも十分に低くするように作用され、半導体圧力センサ19を含むセンサ部分が不用意に突出して誤動作や故障するのを回避できる。
【0053】
その後、センサ部分が測定部位に移動される、あるいは操作部24に含まれる測定開始スイッチ(図示せず)が押される、などを検知して、測定の開始を判断する(S103)。前者の場合、センサ部分はその移動を検知するための図示されないマイクロスイッチなどを備え、CPU11は該マイクロスイッチの検出信号に基づいてセンサ部分が移動したか否かを判定する。
【0054】
測定の開始を判断すると(S103でYES)、CPU11は、電子血圧計30においてオシロメトリック法に従い血圧測定がされているので、その測定結果である末梢動脈の収縮期(最高)血圧と拡張期(最低)血圧のデータを入力する(S104)。そして、各センサエレメント28からの圧力信号を得るために、マルチプレクサ20を動作させてチャネルスキャンを開始する(S105)。また、このとき、CPU11は、特性可変フィルタ22の遮断周波数の特性を特性Aとする。本実施の形態においては、図6に示すように、特性可変フィルタ22を構成する切替回路に対して、フィルタA22aを選択するように制御信号を送信する(S107)。
【0055】
次に、CPU11は制御回路14に対し、加圧ポンプ15を駆動させるよう制御信号を送出する。制御回路14は、この制御信号に基づいて切換弁17を加圧ポンプ15側に切換えて、加圧ポンプ15を駆動する(S109)。これにより、カフ圧が上昇して、半導体圧力センサ19を含むセンサ部分が被験者の測定部位の表面に押圧される。
【0056】
センサ部分が測定部位に押圧されると、半導体圧力センサ19に含まれる各センサエレメント28から圧力信号がマルチプレクサ20において時分割され、アンプ21において増幅される。その後、増幅された圧力信号はフィルタA22aに入力される。そして、フィルタAにおいてフィルタ処理された圧力信号は、A/D変換部23に送出される。そして、A/D変換部23でデジタル情報に変換されて、CPU11に入力される。CPU11は、これらのデジタル情報を用いてトノグラムを作成し、表示部25に表示する(S111)。
【0057】
次に、CPU11は、ステップS111で作成したトノグラムに基づいて、動脈上に位置するセンサエレメント28を検出し、該センサエレメント28を最適チャネルとして選択するための処理を実行する(S113)。なお、最適チャネルを選択する処理については、本願出願人がすでに出願して公開されている特願2003−12313号公報に記載の技術などを用いることができる。
【0058】
本実施の形態において、最適チャネルとして、1つのセンサエレメント28が採用されることとする。
【0059】
同時に、CPU11は、各センサエレメント28から入力される圧力信号から、その直流成分を抽出する(S115)。直流成分は、圧力信号の一定時間の平均値、または圧力信号の低域通過フィルタを通過した成分(脈波除去した成分)、または脈波立上り点(脈波成分が混入する直前)の圧力信号レベルにより求められる。
【0060】
より具体的には、ステップS115において、圧力信号の出力変化を一定時間ごとのウィンドウ(区間)に分割し、各ウィンドウ内の平均を算出することで、直流成分を抽出することができる。あるいは、各ウィンドウ内の最大値と最小値との中間値を算出する、低域通過フィルタを用いて所定の周波数以下の値を抽出する、などを行なっても、同様に直流成分を抽出することができる。なお、上述の一定時間は、被験者の脈拍に拠らない予め脈波検出のために設定されている時間間隔であって、一般的な一脈拍時間が含まれる1.5秒程度であることが好ましい。
【0061】
次に、CPU11は、各センサエレメント28から入力される圧力信号よりステップS115において抽出した直流成分が、安定している箇所を検出する(S117)。直流成分が安定している箇所が検出されない場合には(S117でNO)、加圧ポンプ15による押圧カフ18に対する加圧を継続しながら、直流成分が安定している箇所が検出されるまで、上述のステップS111〜S117の処理を繰り返す。
【0062】
このように、最適チャネルの選択処理と直流成分を検出して行なう最適圧力調整処理とが並行されることにより、脈波測定開始までの時間を短縮することができる。
【0063】
なお、最適チャネルの選択が行なわれた後に、最適圧力調整をすることとしてもよい。
【0064】
そして、CPU11は、最適チャネルの選択が完了し、直流成分が安定している箇所を検出すると(S117でYES)、マルチプレクサ20に対し最適チャネルとして決定したセンサエレメント28からの圧力信号を選択して送出させるようにチャネルを固定する(S119)。同時に、CPU11は、特性可変フィルタ22の遮断周波数の特性を特性Bに切り替える(S121)。本実施の形態においては、特性可変フィルタ22の切替回路に対して、図6に示すフィルタB22bへと切り替える制御信号を送信する。
【0065】
そして、ステップS117において検出された直流成分が安定している箇所を押圧カフ18の最適押圧力として決定し、押圧カフ18の圧力を調整するよう、制御回路14に対し制御信号を送出する(S123)。
【0066】
さらに、ステップS123で押圧カフ18の押圧力を最適押圧力として決定した後、CPU11は、押圧カフ18の押圧力が最適押圧に保たれた状態で最適チャネルとして選択されたセンサエレメント28から出力された圧力信号、すなわち波形データの立上がり点の先鋭度(MSP)が適切であるか否か(S125)、さらに、波形歪みがあるか否か(S127)を判定する。
【0067】
波形データの立上がり点の先鋭度(MSP)が不適切である場合(S125でNO)、あるいは波形歪みが検出される場合(S127でNO)には、波形データの立上がり点の先鋭度が適切になるまで、あるいは波形歪みが検出されなくなるまで、ステップS123の押圧力の調整を繰り返す。
【0068】
そして、波形データの立上がり点の先鋭度(MSP)が適切であり(S125でYES)、かつ波形歪みが検出されない場合(S127でYES)には、CPU11は、マルチプレクサ20、アンプ21、フィルタB22bおよびA/D変換部23を介して、その時点の波形データを得る。そして、得た波形データを逐次蓄積することで、蓄積した波形データに基づき図20で示したような反射波トレンドL1のデータを生成して、生成したデータに基づき表示部25に反射波トレンドを表示する(S129)。表示される反射波トレンドL1を参照することで、医家は中枢動脈圧の時間的変化を簡単に読取る(推定する)ことができる。
【0069】
このとき、マルチプレクサ20は、S119においてチャネルが固定されているため、単一チャネルからの圧力信号のみがアンプ21を介してフィルタB22bに送出される。そして、フィルタB22bにおいてフィルタ処理された圧力信号は、A/D変換部23においてデジタル信号に変換される。
【0070】
そして、CPU11は、中枢血圧推定処理の終了の所定条件の成立を判定する(S131)。ステップS131で中枢血圧推定処理を終了するための条件は、ステップS103の測定開始から予め設定された所定時間(たとえば30秒)の経過であってもよいし、操作部24を介したユーザからの終了(あるいは中断)指示などであってもよい。すなわち、所定条件が成立するまで、上述のステップS129の処理が繰り返される。
【0071】
そして、終了のための所定条件が成立したときは(S131でYES)、CPU11は切換弁17を介して負圧ポンプ16を駆動するよう、制御回路14に対し制御信号を送出する(S133)。これにより、測定部位に対するセンサ部分の押圧状態は解かれて、一連の測定処理は終了する。
【0072】
このように、実施の形態において、CPU11は、マルチプレクサ20に対して、S105においてチャネルスキャンする動作と、S119においてチャネル固定する動作とを切り替え制御する。本実施の形態における脈波検出装置においては、脈波測定時間が30秒〜2分程度と短かいことから脈波測定中に体動によりずれる可能性が少ないため、このようにチャネルを固定することができる。
【0073】
次に、図6〜8を用いて、本発明の実施の形態における特性可変フィルタ22について説明する。
【0074】
図6は、実施の形態における特性可変フィルタ22を構成するフィルタ切替回路について説明するための図である。図6を参照して、特性可変フィルタ22は、異なる周波数特性を有するフィルタA22aとフィルタB22bとを含み、これらのフィルタを切り替えるための切替回路により構成される。また、図7(A)と(B)は、図6に示したフィルタA22aおよびフィルタB22bの周波数特性を示す図である。
【0075】
本実施の形態において、たとえば、40個のセンサエレメント28からの圧力信号の切替周波数fxを20kHzとする。そうすると、40個のうち1個のセンサエレメント28からの圧力信号のサンプリング周波数fsは、500Hzとなる。
【0076】
なお、以下、実施の形態において、サンプリング周波数fsとは、単一の圧力信号のサンプリング周波数のことをいう。
【0077】
図7(A)を参照して、フィルタA22aの遮断周波数fcAは、切替周波数fx(20kHz)以上の値とし、たとえば250kHzに設定する。一方、図7(B)を参照して、フィルタB22bの遮断周波数fcBは、サンプリング周波数fsの1/2の周波数fs/2(250Hz)よりも低い値とし、たとえば100Hzに設定にする。なお、上記条件下においては、フィルタB22bの遮断周波数fcBは、30Hz<fcB<250Hz(=fs/2)とすることが好ましい。
【0078】
図8は、実施の形態における特性可変フィルタ22の状態(モード)遷移例を示す図である。
【0079】
図8を参照して、CPU11は、マルチプレクサ20によって複数のセンサエレメント28からの圧力信号を順次切り替えながら最適チャネルの選択を開始すると、特性可変フィルタ22を多チャネルスキャンモードとする。そして、最適チャネル選択後は、単一チャネル詳細モードに変更する。実施の形態において、多チャネルスキャンモードとするには、CPU11は、図6に示すフィルタA22aを選択する。また、単一チャネル詳細モードとするには、CPU11は、図6に示すフィルタB22bに切り替える。
【0080】
上述のように、最適チャネル選択中は、マルチプレクサ20を動作させて圧力信号の切り替えを行なうので、フィルタA22aが適用される。フィルタA22aの遮断周波数fcAは、250kHzと、切替周波数fx(20kHz)よりも十分に高い値としているため、波形の復元に際してなまりが生じない。
【0081】
そして、最適チャネル選択後は、フィルタB22bを適用する。最適チャネル選択後は、CPU11がマルチプレクサ20を制御して単一のチャネルに固定するので、アンチエイリアシングフィルタとして機能するフィルタB22を適用することができる。
【0082】
図9を参照して、センサエレメント28から得られる圧力信号(センサ信号)の解析処理と中枢動脈圧算出と表示の処理について説明する。図9のフローチャートに示される処理もまた、固定台ユニット7内のCPU11が、ROM12にアクセスしてプログラムを読出してRAM13上に展開して実行することによって実現される。
【0083】
図9を参照して、始めに、複数のセンサエレメント28を有する半導体圧力センサ19において圧力信号を検出すると(S201)、半導体圧力センサ19はマルチプレクサ20を介してアンプ21に圧力信号を入力する。そして、アンプ21において半導体圧力センサ19で検出された圧力信号は所定の周波数まで増幅され(S203)、特性可変フィルタ22を構成するフィルタA22aまたはフィルタB22bを経ることによりアナログフィルタ処理がなされる(S205)。
【0084】
上記図5に示したS119においてチャネル固定されるまでの間は、CPU11によってフィルタA22aが適用され、S119においてチャネル固定された後は、フィルタB22bが適用される。
【0085】
特性可変フィルタ22を通過した圧力信号は、A/D変換部23においてデジタル化され(S207)、ノイズ除去などを目的として所定範囲の周波数を抽出するためのデジタルフィルタ処理がなされる(S209)。そして、A/D変換部23は、デジタル化した圧力信号を、CPU11に転送する。
【0086】
なお、上述のS119においてチャネル固定されるまでの間は、ここでセンサ信号解析処理を終了する。
【0087】
S119においてチャネル固定がされた後は、次に、CPU11は、A/D変換部23から圧力信号を受信し、ROM12に格納されているプログラムを実行することで圧力信号から得る脈波波形をN次微分する(S211)。そして、その微分結果に基づいて脈波波形を区切って1拍の脈波波形を抽出し(S213)、脈波波形を分類する(S215)。そして、分類された脈波波形から所定の特徴点を抽出し(S217)、抽出した特徴点に基づき末梢動脈圧脈波の反射波波形を算出する(S219)。以上でセンサ信号解析処理を終了する。
【0088】
このように多次(N次)微分を用いることで、脈波波形の形をより明確に出すことができるので、その後になされる特徴点抽出においても、精度よく特徴点を抽出できる。この特徴点により収縮期後方成分(反射波)を求めることができるから、収縮期後方成分も精度よく求めることができる。
【0089】
図10(A)は、本実施の形態において、特性可変フィルタ22の周波数特性を特性Aとした場合の1拍の脈波の表示例を示した図である。この場合、多チャネルスキャンモードであり、フィルタA22aが適用されている。一方、図10(B)は、特性可変フィルタ22の周波数特性を特性Bとした場合の1拍の脈波の表示例を示した図である。この場合は、単一チャネル詳細モードであり、フィルタB22bが適用されている。図10(A)と(B)ともに縦軸に脈波の振幅レベルを示すセンサ出力電圧(V)を、横軸には時間(sec)をそれぞれとる。
【0090】
図10(A)を参照すると、電圧の変化が少ない時間帯(たとえば45.2秒付近および45.8秒付近)の波形データには細かい振幅が見られ、ノイズが含まれていることが分かる。一方、図10(B)を参照すると、同じく電圧の変化の少ない時間帯の波形データにおいても(たとえば45.2秒付近および45.8秒付近)なめらかな曲線となっており、ノイズの削減が実現されていることが分かる。
【0091】
したがって、図9のステップS213において抽出される1拍の脈波波形の精度が高いため、1拍分の脈波波形からステップS219において精度の高い反射波の波形を算出することができて、ひいては該反射波成分を用いた中枢動脈の収縮期血圧の推定についても高い精度を得ることができる。
【0092】
なお、ステップS213で抽出した脈波の波形の特徴を示すAI(Augmentation Index)を求めて提示するようにしてもよい。このときAIは推定した中枢動脈圧と関連付けて時間的変化を示すように提示してもよい。AIは、血圧と同様に公知の指標であって、主に中枢血管の動脈硬化に対応する脈波の反射強度(脈波の反射現象であって、送出した血流量の受入れやすさを表わしている)を反映する特徴量を指標化したものである。AIは、特に循環器系疾患の早期発見のために有効な指標と言われており、血圧とは異なった挙動を示すことが知られている。
【0093】
また、本実施の形態において、脈波の特徴量として公知の指標ΔTpなどを算出して提示することとしてもよい。
【0094】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、マルチプレクサ20と特性可変フィルタ22とを動的に制御するため、適切にチャネル選択を行なうことができる。したがって、精度の高い脈波データを得ることができる。
【0095】
また、これにより、1拍分の脈波データを用いてさまざまな解析に利用することができる。たとえば、被検者が薬を飲んだ後の、1拍単位での心臓の動きの変化などをリアルタイムで検出することができる。
【0096】
また、1拍ごとの脈波解析が可能となるため、脈波測定に要する時間の短縮を図ることができる。
【0097】
なお、本実施の形態において、最適チャネルとして1つのセンサエレメント28が採用されることとしたが、センサエレメント28の数より少ない数であれば、2つ以上採用されることとしてもよい。
【0098】
<中枢動脈圧算出の手順>
図9のステップS221の中枢動脈圧算出(推定)の手順について図12と図13を参照して説明する。
【0099】
ここでは、中枢動脈圧として中枢動脈の収縮期血圧を求める。中枢動脈の収縮期血圧は、反射波により生じる収縮期後方成分(末梢動脈の圧脈波において検出される収縮期後方成分)と、電子血圧計30を用いてステップS104において取得した収縮期血圧と拡張期血圧とを用いて、所定の演算式を用いた線形変換により算出して推定することができる。推定には線形変換による簡単な演算が適用されるので、CPU11はそれほど高い演算処理能力をもっていなくてもよく、また短時間のうちに推定することができる。
【0100】
図12では、図9のステップS217とS219で検出した末梢動脈の反射波を含む圧脈波の波形に基づき圧脈波の振幅の最低レベルからピークレベルまでの差分をP1、また、この圧脈波の反射波により生じる収縮期後方成分の振幅の最低レベルからピークレベルまでの差分をP2、同時期に電子血圧計30で測定した末梢動脈圧、すなわち収縮期血圧をPSYS(mmHg)とし、拡張期血圧をPDIA(mmHg)とする。このとき、抹消動脈の収縮期後方成分の圧力PSYS2(mmHg)は次の式1で求まる。
【0101】
SYS2=P2/P1×(PSYS−PDIA)+PDIA…(式1)
末梢動脈における収縮期後方成分の圧力PSYS2が求まると、次に、中枢動脈の収縮期血圧c−PSYSを式2に従い求める。
【0102】
c−PSYS=α×PSYS2+β…(式2)
なお、式2中の変数αおよびβは、図13の直線の式の傾きと切片から、α=0.92、β=18.48と求めることができる。図13のグラフは縦軸に圧力PSYS2(mmHg)が、横軸に中枢動脈の収縮期血圧c−PSYS(mmHg)がそれぞれとられて、中枢動脈の収縮期血圧c−PSYSと末梢動脈の収縮期後方成分の圧力PSYS2の相関関係が示されている。両者の相関関係は強いものであるから、図示されるような直線を得ることができる。グラフ上にプロットされている値は、被験者(患者)の通常状態において予め実測して求めておいたものである。
【0103】
このように、式1と式2を用いた線形変換により、中枢動脈の収縮期血圧c−PSYSを算出して推定することができる。推定された中枢動脈の収縮期血圧c−PSYSは図9のステップS221で表示部25において表示される。このときの表示の態様は、例えば図14のトレンドグラフL4のようである。
【0104】
図14には縦軸に血圧(mmHg)を、横軸に経過時間(sec)をとってトレンドグラフL3とL4を示す。図14では実験により、同一被験者の中枢動脈の収縮期血圧について、カテーテルによる侵襲の測定と、ステップS221の算出(推定)による非侵襲の測定とを同時に実施した場合に、両方の測定で得られる1心拍毎の収縮期血圧の値を時系列に連続して繋ぐことで、時間的変化がトレンドグラフL3とL4で示されている。
【0105】
トレンドグラフL3とL4を比較してわかるように、本実施の形態により推定される中枢動脈の収縮期血圧の変化の傾向は、その実測血圧値の変化の傾向にほぼ一致していることがわかる。
【0106】
〈中枢動脈圧のトレンド表示〉
図15には、ステップS221で表示部25に画面表示される中枢動脈圧のトレンドの一例が示される。図15の画面の下段には推定した1心拍毎の推定した中枢動脈圧を時系列にプロットしたトレンドグラフが示されている。また右上段には末梢動脈において検出される圧脈波の波形の経時変化が示されており、左上段には、右上段の圧脈波の1つを切出して拡大された状態が示されている。
【0107】
医家は、ニトログリセリンなどの薬剤の投与に際して、図15の画面下段のトレンドグラフを観察することにより、図20で説明したように投薬前後における中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を把握することができる。その結果、中枢動脈における収縮期血圧が低下しているか否かなど投薬の効果の有無を確認できる。
【0108】
図15ではトレンドグラフの横軸は拍数(拍)を、縦軸は血圧(mmHg)をとる。トレンドグラフは時間軸の1目盛りは同じ時間期間を示すが、次のようにしてもよい。つまり、測定されて所定時間経過した部分のグラフは、時間軸方向に順次圧縮して表示するようにしてもよい。このようにすると、圧縮された部分では過去の比較的長い期間に亘るトレンドを観測でき、他の圧縮されてない部分では、現在を含む最近のトレンドを詳細に確認することができる。また、図15の横軸は拍数に代替して時間(sec)の軸であってもよい。
【0109】
〈他の表示例〉
図16に示す画面表示としてもよい。図16は横軸に電子血圧計30にて測定される抹消動脈の血圧(収縮期血圧)の変化量(mmHg)が、縦軸に図9のステップS221で算出(推定)される中枢動脈の血圧(収縮期血圧)の変化量(mmHg)がそれぞれとられて、両者の相関関係が2次元グラフにして示されている。グラフ上の両変化量が0である点(原点)を投薬直前の血圧値としたときに、該血圧値と投薬後の任意タイミングで取得した血圧値との間の変化量(差分)の相関関係を、矢印A、BおよびCで表示している。
【0110】
矢印Aのような変化量の相関関係が検出されたときは、中枢動脈の収縮期血圧のみが降下(末梢動脈においては血圧の変化が観測できない)という状況を示している。また矢印Bのような変化量の相関関係が検出されたときは、中枢動脈および末梢動脈においてともに収縮期血圧が降下していることがわかる。また矢印Cのような変化量の相関関係が検出されたときは、末梢動脈の収縮期血圧のみが降下しており、中枢動脈における収縮期血圧には変化が起きていないことがわかる。
【0111】
たとえば心筋梗塞が発生したときに、これを緩和するためには中枢動脈の還流を増加させる必要がある。還流を増加させるには中枢動脈の内圧を低下させる必要があるので、医家は患者に血管拡張作用を及ぼすニトログリセリンなどの薬剤を投与する。この場合に、図16のグラフの原点を心筋梗塞発症時とした場合に投薬後の任意タイミングで、矢印AとBのような相関関係が提示されたならば薬剤投与の効果が現われていることがわかるが、矢印Cのような相関関係が提示されたならば薬剤投与の効果が得られていないことがわかる。
【0112】
<変形例>
図5のフローチャートにおいては、電子血圧計30を用いた末梢動脈の最高血圧および最低血圧(収縮期血圧および拡張期血圧)はステップS104において予め測定されるとしたが、ステップS221において予め測定されるとしてもよい。
【0113】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施の形態におけるセンサユニットと固定台の接続態様を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における脈波測定時の使用態様を示す図である。
【図3】(A)〜(E)は本発明の実施の形態におけるセンサユニットの構成を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における装置の機能構成図である。
【図5】本発明の実施の形態における中枢血圧推定の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態における特性可変フィルタを構成するフィルタ切替回路について説明するための図である。
【図7】(A)はフィルタAの周波数特性を示す図であり、(B)はフィルタBの周波数特性を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における特性可変フィルタのモード遷移例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態におけるセンサ信号解析による反射波算出と中枢動脈圧算出の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】(A)は特性可変フィルタの周波数特性を特性Aとした場合の1拍の脈波の表示例であり、(B)は特性可変フィルタの周波数特性を特性Bとした場合の1拍の脈波の表示例である。
【図11】本発明の実施の形態における特性可変フィルタの変形例を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における中枢動脈圧算出の手順を説明するための図である。
【図13】本発明の実施の形態における中枢動脈圧算出の手順を説明するための図である。
【図14】カテーテルによる侵襲の測定と、本実施の形態による推定とを同時に実施した場合に、両方で得られる収縮期血圧の経時変化を示すトレンドグラフである。
【図15】本発明の実施の形態における表示画面例を示す図である。
【図16】本発明の実施の形態における他の表示画面例を示す図である。
【図17】(A)と(B)は同一被験者について同時に測定した末梢動脈の圧脈波の変化と中枢動脈の圧脈波の変化を示す図である。
【図18】(A)と(B)はカテーテルを挿入して、投薬前後の中枢動脈圧を測定した結果を示すグラフである。
【図19】(A)と(B)は投薬により、末梢動脈の圧脈波において反射波が低減される様子示すグラフである。
【図20】抹消動脈の圧脈波の反射波トレンドと中枢動脈圧の実験による測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0115】
1 センサユニット、2 固定台、3 表示ユニット、4 ケーブル、5 通信ケーブル、6 エア管、7 固定台ユニット、14 制御回路、15 加圧ポンプ、16 負圧ポンプ、17 切換弁、18 押圧カフ、19 半導体圧力センサ、20 マルチプレクサ、21 アンプ、22 特性可変フィルタ、23 A/D変換部、24 操作部、25 表示部、30 電子血圧計、L1,L2,L3,L4 トレンドグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の表面に接触されて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出手段と、
前記脈波検出手段により検出される前記脈波における収縮期後方成分を求める手段と、
前記収縮期後方成分を求める手段によって求められた前記収縮期後方成分を用いて前記生体の中枢動脈の収縮期血圧の時間的変化を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定された前記収縮期血圧の時間的変化を表示する表示手段とを備える、中枢血圧推定装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記生体において予め測定された血圧と、前記収縮期後方成分を求める手段によって求められた前記収縮期後方成分とを用いて、前記生体の中枢動脈の収縮期血圧を推定することを特徴とする、請求項1に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項3】
前記生体において予め測定された血圧は、該生体の抹消動脈の血圧であることを特徴とする、請求項2に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項4】
前記推定手段には線形変換が用いられることを特徴とする、請求項1に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記推定手段により推定された前記収縮期血圧を時系列に連続して表示することを特徴とする、請求項1に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項6】
1心拍毎の前記収縮期血圧を連続して表示することを特徴とする、請求項5に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項7】
前記表示手段は、前記収縮期血圧またはその時間的変化と血圧に関する他の指標とを関連付けて表示することを特徴とする、請求項1に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項8】
前記指標は、前記生体の抹消動脈の血圧またはその時間的変化であることを特徴とする、請求項7に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項9】
前記表示手段は、前記収縮期血圧またはその時間的変化と前記生体の抹消動脈の血圧またはその時間的変化を、2次元グラフ上で比較して表示することを特徴とする、請求項8に記載の中枢血圧推定装置。
【請求項10】
生体の表面に接触されて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出手段と、
前記脈波検出手段により検出される脈波における収縮期後方成分を求める手段と、
収縮期後方成分を求める手段によって求められた収縮期後方成分の時間的変化を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された収縮期後方成分の時間的変化を表示する表示手段とを備える、中枢血圧推定装置。
【請求項11】
生体の表面に接触されたセンサを用いて、その直下の動脈の脈波を検出する脈波検出ステップと、
前記脈波検出ステップにより検出される前記脈波における収縮期後方成分を求めるステップと、
前記収縮期後方成分を求めるステップによって求められた前記収縮期後方成分を用いて前記生体の中枢動脈の収縮期血圧を推定する推定ステップと、
前記推定ステップにより推定された前記収縮期血圧の時間的変化を表示する表示ステップとを備える、中枢血圧推定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2006−176(P2006−176A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176906(P2004−176906)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】