説明

中空シリコーン系微粒子凝集体及び透明被膜付基材

【課題】 本発明は、高い空隙率を持ち低い屈折率を示し、生産性も良く、壊れ難く、しかも粒子径分布の狭い1μm以下の粒子径を有する中空シリコーン系微粒子凝集体とマトリックス樹脂とからなる被膜によって、屈折率が低く膜強度の高い透明な被膜を有する基材を提供することを目的とする。
【解決手段】 中空シリコーン系粒子が凝集した、体積平均粒子径が0.04〜1μmの範囲にある中空シリコーン系粒子凝集体を使用する。該凝集体と有機溶剤およびマトリックス樹脂を含んでなる透明被膜形成用塗布液により屈折率が低く膜強度の高い透明な被膜を作成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空シリコーン系微粒子凝集体に関するものである。更には該中空シリコーン系微粒子凝集体を含んでなる透明被膜形成用塗布液と該塗布液から得られる被膜が形成されてなる透明被膜付基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明基材の最外層に基材より低屈折率の物質からなる低屈折率層(減反射層)を可視光波長の1/4の膜厚み(約100nm)で形成すると表面反射率が低減することが知られている。この原理を応用したフィルムやガラスの反射防止透明基材は電気製品、光学製品、建材等の分野で広く使用されている。
【0003】
減反射層の形成方法としては、フッ化マグネシウム等を蒸着またはスパッタリングするドライコーティング法と低屈折率材料の溶液を基材に塗布するウエットコーティング法が知られている。近年、適用できる基材の制約が少なく、連続生産性やコスト面でも優位なウエットコーティング法が注目されている。ウエットコーティング法の低屈折率材料としては、フッ素系樹脂や多孔質あるいは中空シリカとマトリックス樹脂とからなる材料が知られている。
【0004】
粒子径が0.1〜300μm程度の中空シリカとその製造法はすでに公知である。特許文献1に開示された技術では、先ず珪酸塩等の無機物に有機溶剤を添加混合して水中油滴型(O/W型)乳化液を作り、これに親油性界面活性剤を含む有機溶剤を添加混合して油中水中油滴型(O/W/O型)乳濁液を作り、最後に無機酸や無機酸のアンモニウム塩等により無機化合物を水不溶性沈殿物に変え無機中空微粒子を得ている。その後も中空シリカ粒子の様々な製造法が開示されている。特許文献2では、アルカリ金属等の珪酸塩等とアルカリ可溶な無機化合物をpH10以上のアルカリ水溶液でコロイド粒子にし、この粒子の珪素と酸素以外の元素の一部を除去した後、この粒子を加水分解性有機珪素化合物等で被覆する方法が開示されている。特許文献3では、水を可溶化したテトラアルコキシシランを界面活性剤で有機溶剤中にエマルジョン化すると、加水分解・縮合反応が起こり、含水率が高い場合にはミクロンサイズの中空シリカ粒子が合成できることが開示されている。また、特許文献4では、珪酸アルカリ金属から活性シリカをシリカ以外の材料のコア上に沈殿させ、コアを除去することにより中空シリカを得る製法が開示されている。
【0005】
近年、これら中空シリカをマトリックス樹脂と混合した反射防止用低屈折率薄膜の研究も行われている(特許文献5)。また、薄膜の耐擦傷性、膜硬度、スクラッチ強度、基材との密着性を向上させるため、これら中空シリカの凝集体を用いた反射防止用低屈折率薄膜の作成法(特許文献6)、また、中空シリカの凝集体を使用し薄膜に屈折率傾斜を付けることにより、彩度が高く膜強度に優れた反射防止薄膜の製法が開示されている(特許文献7)。
【0006】
しかしながら、これらの技術ではシリカ層中の多数の細孔や薄いシリカ層の厚みのために加工時に壊れ易いとか空洞内に核粒子のかなりの部分が残り空隙率が上がらないという課題、粒子径分布の広いミクロンサイズのものしか製造できないため用途が限定されるという課題、あるいは反応時間が長く工程が多いため生産性が悪いという課題、マトリックス樹脂への分散性が悪く、選択できるマトリックスが限定されるなど多くの問題を残していた。
【特許文献1】特開昭63−258642号公報
【特許文献2】特開平7−133105号公報
【特許文献3】特開平11−29318号公報
【特許文献4】特表2000−500113号公報
【特許文献5】特開2001−233611号公報
【特許文献6】国際公開WO04/099074
【特許文献7】特開2006−335881号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い空隙率を持ち低い屈折率を示し、生産性も良く、壊れ難く、しかも粒子径分布の狭い1μm以下の粒子径を有する中空シリコーン系微粒子凝集体とマトリックス樹脂とからなる被膜によって、屈折率が低く膜強度の高い透明な被膜を有する基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子を、シリコーン系化合物で被覆したコアシェル粒子を凝集させ、該凝集体の有機高分子および/または有機溶剤を除去して得られる中空シリコーン系微粒子凝集体を使用することにより、目的の低屈折率で高い膜強度をもつ透明な被膜を有する基材が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、中空シリコーン系粒子が凝集した、体積平均粒子径が0.04〜1μmの範囲にある中空シリコーン系粒子凝集体に関する。
【0010】
好ましい実施形態は、中空シリコーン系粒子が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物からなる中空粒子であることを特徴とする前記中空シリコーン系粒子凝集体に関する。
【0011】
中空シリコーン系粒子が平均連結数で2−50個連結した前記中空シリコーン系粒子凝集体に関する。
【0012】
前記中空シリコーン系粒子凝集体と有機溶剤およびマトリックス樹脂を含んでなる透明被膜形成用塗布液に関する。
【0013】
基材と、該基材上に設けられた透明被膜とを有し、該透明被膜が、前記透明被膜形成用塗布液を用いて形成されてなることを特徴とする透明被膜付基材に関する。
【0014】
下記工程(a)-工程(b)からなる中空シリコーン粒子凝集体の製造方法に関する。
(a)有機高分子微粒子および/または有機溶剤からなる粒子をシリコーン系化合物により被覆したコアシェル粒子に無機塩を加えることによってコアシェル粒子の凝集体を製造する工程
(b)コアシェル粒子凝集体中の有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子を除去して体積平均粒子径0.04〜1μmの中空シリコーン系微粒子凝集体を製造する工程。
【発明の効果】
【0015】
本発明の中空シリコーン系微粒子凝集体は、高い空隙率を持ち低い屈折率を示し、生産性も良く、壊れ難く、しかも粒子径分布の狭い1μm以下の粒子径を有するため、その微粒子凝集体とマトリックス樹脂とからなる被膜が表面に形成された基材は、安定的に屈折率が低く膜強度の高い透明な被膜を有する基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0017】
本発明の中空シリコーン系粒子凝集体は、中空のシリコーン系粒子が凝集した構造を有する。中空シリコーン系粒子のそれぞれが少なくとも1つの空洞を有するため、それらが凝集した構造を有する本発明の中空シリコーン系粒子凝集体は複数の空洞をもつことになる。
【0018】
中空シリコーン系粒子凝集体の形状にはとくに限定がなく、鎖状、葡萄の房状、紡錘形状、柱状、チューブ状、シート状、球状などが挙げられる。該中空シリコーン系粒子凝集体の体積平均粒子径は0.04〜1μmの範囲であり、好ましくは0.04〜0.5μmの範囲であり、より好ましくは0.05〜0.1μmの範囲である。0.04μm未満では余分な凝集が進行し薄膜屈折率が不均一化することにより反射率が十分に低下せず、1μmを超えると粒子凝集体による散乱光が増大し薄膜の透明性が悪化する。中空シリコーン系粒子の平均連結数は少なくとも2個以上であり、好ましくは2〜50個であり、より好ましくは2〜25個である。粒子が2個以上凝集すると薄膜の耐擦傷性が向上する。平均連結数が多すぎると、体積平均粒子径が大きくなりすぎるので好ましくない。
前記凝集体を構成する一次粒子である中空シリコーン系粒子の体積平均粒子径は0.001〜0.5μmの範囲であることが好ましく、更には0.01〜0.2μmの範囲であることがより好ましい。0.001μmより小さい粒子や0.5μmより大きな粒子を合成することは可能であるが、安定的に合成することは難しい傾向がある。
【0019】
中空粒子を構成するシリコーン系化合物は、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6ないし24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる、1単位又は2単位以上からなる。
【0020】
Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、オクタデシル基などの炭素数1乃至18のアルキル基;パーフルオロアルキル基などの炭素数1乃至18のハロアルキル基;フェニル基などの炭素数6ないし24の芳香族基;ビニル基;γ−メタクリロキシプロピル基などのγ−(メタ)アクリロキシプロピル基をもつ有機基;γ−メルカプトプロピル基などのSH基をもつ有機基、などが挙げられる。複数のRは全て同じであってもよく、各々異なっていても良い。マトリックス樹脂によっては、Rに少量のビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基と、多量のアルキル基または芳香族基を選択すると、中空シリコーン粒子凝集体とマトリックス樹脂の相溶性が向上させることも出来る。
【0021】
前記SiO4/2単位の原料としては、例えば、四塩化ケイ素、テトラアルコキシシラン、水ガラスおよび金属ケイ酸塩からなる群より選択される1種または2種以上が挙げられる。テトラアルコキシシランの具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、およびそれらの縮合物などが挙げられる。
【0022】
前記RSiO3/2単位の原料としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
【0023】
前記RSiO2/2単位の原料としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、エチルフェニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシランなど、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサンなどの環状化合物のほかに、直鎖状あるいは分岐状のオルガノシロキサンや、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン等があげられる。
【0024】
前記各単位の原料は1種または2種以上を組み合わせて適宜使用できる。
【0025】
本発明では、中空シリコーン系微粒子に柔軟性を持たせたい場合等にRSiO2/2単位を少量混入することができる。コアシェル粒子におけるシリコーン系化合物中のRSiO2/2単位の割合は20モル%以下であることが好ましく、さらには10モル%以下であることがより好ましい。RSiO2/2単位の割合が20モル%を越えると中空シリコーン系微粒子が柔軟になり過ぎて形状保持性に問題が起こる場合がある。なお、シリコーン系化合物中のRSiO2/2単位の割合の下限値は0モル%である。
【0026】
本発明のシリコーン系化合物中のRSiO3/2単位の割合は、コアシェル粒子の粒子径分布の安定性の観点から、50〜100モル%であることが好ましく、更には75〜100モル%であることがより好ましい。
【0027】
本発明において、シリコーン系化合物中のSiO4/2単位の割合は、中空シリコーン微粒子の形状保持性と相溶性のバランスの観点から、0〜50モル%であることが好ましく、更に好ましくは0〜25モル%であり、特に好ましくは0〜10モル%である。SiO4/2単位の割合が50モル%を越えるとマトリックス樹脂との相溶性が低下して被膜中で微粒子が凝集し、被膜つき基材の透明性が大きく低下することがある。
本発明の中空シリコーン粒子凝集体は、有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子を、シリコーン系化合物により被覆したコアシェル粒子を凝集させ、凝集体中の有機高分子および/または有機溶剤を除去することにより製造することが出来る。
【0028】
本発明の有機高分子粒子の組成については限定されるものではなく、例えば、ポリアクリル酸ブチル、ポリブタジエン系、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体等に代表される軟質重合体に限られず、アクリル酸ブチル−スチレン共重合体、アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、アクリル酸ブチル−スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体等の硬質重合体でも問題なく使用できる。後の凝固工程における除去性の観点から軟質重合体が好ましく、ポリアクリル酸ブチルがより好ましい。
【0029】
本発明の有機高分子粒子の製造法は、特に限定されず、乳化重合法、マイクロサスペンジョン重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法など公知の方法が使用できる。なかでも、粒子径の制御が容易であり、工業生産にも適する点から、乳化重合法により製造することが特に好ましい。
【0030】
前記有機高分子粒子の重合にはラジカル重合開始剤が用いられうる。ラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。上記重合を、例えば、硫酸第一鉄−ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ−エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩、硫酸第一鉄−グルコース−ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄−ピロリン酸ナトリウム−リン酸ナトリウムなどのレドックス系で行うと、低い重合温度でも効率的に重合を完了することができる。
【0031】
本発明の有機高分子粒子は、後の段階で行なわれる有機高分子の除去を有機溶媒により行う場合を考慮すると非架橋高分子であることが好ましく、有機高分子粒子の分子量は低い方が好ましい。有機溶剤への溶解性の観点から、重量平均分子量が30000未満であることが好ましく、10000未満であることがより好ましい。有機高分子粒子の重量平均分子量を低くするためには、例えば、連鎖移動剤の使用、高い重合温度に設定、多量の開始剤を使用するなど種々の手段を適宜組み合わせて選択することができる。連鎖移動剤としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等が使用できる。特に、生成する有機高分子粒子の分子量を低下させる観点から、t−ドデシルメルカプタンを有機高分子粒子の原料となる単量体100重量部あたり5〜50重量部使用するのが好ましく、10〜40重量部使用するのがより好ましく、20〜35重量部使用するのが特に好ましい。
有機高分子粒子の重量平均分子量の下限値は特に制限されるものではないが、合成の難易度の点から、概ね2000程度である。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析(ポリスチレン換算)によって測定できる。
【0032】
本発明においては、有機高分子粒子の粒子径分布を狭くするためにシード重合法を利用することもできる。なお、ラテックス状態の有機高分子粒子やコアシェル粒子の体積平均粒子径は、光散乱法または電子顕微鏡観察から求められうる。体積平均粒子径および粒子径分布は、例えば、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いることにより測定することができる。
【0033】
本発明においては、有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子がコアシェル粒子の製造におけるコアとして用いられうる。本発明では最終的に有機高分子および/または有機溶剤を除去するので、有機高分子粒子に対し有機溶剤を併用しても良く、各々の単独使用でも良い。本発明における有機溶剤は、水に溶けず、乳化剤により微粒子を形成できるものであればよく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。前記粒子において、有機高分子粒子および有機溶剤を併用する場合の使用割合については、重量比で有機高分子粒子/有機溶剤が100/0〜1/99の範囲が好ましい。
【0034】
本発明では、有機高分子粒子および/または有機溶剤との合計量と、シリコーン系化合物との重量比率は必ずしも制限されるものではないが、2/98〜95/5であることが好ましく、さらには10/90〜50/50がより好ましい。当該比率が2/98より小さいと中空シリコーン系微粒子凝集体の空隙率が低くなり過ぎる場合がある。また、逆に比率が95/5より大きいと中空シリコーン系微粒子凝集体の強度が不足して加工中に壊れる場合がある。
【0035】
本発明では、例えば、有機高分子粒子および/または有機溶媒と、酸触媒を含む5〜120℃の水に対し、乳化剤、SiO4/2単位の原料、RSiO3/2単位の原料、若しくはRSiO2/2単位の原料と水の混合物をラインミキサーやホモジナイザーで乳化した乳化液を一括あるいは連続的に追加することにより、シリコーン系化合物で被覆されたコアシェル粒子を得ることができる。乳化液の追加は一括でも連続でも構わない。時間的には長くなるがラテックス状粒子の安定性や粒子径分布を重視するなら連続追加を採用することが好ましい。乳化液の追加前に酸触媒を添加して、直ちに加水分解と縮合反応が進む条件で連続追加を行うと、コアシェル粒子は時間とともに大きく成長し、通常のシード重合のように、狭い粒子径分布を示すものを得ることができる。30分ないし1時間の比較的短い時間の連続追加を行うと、比較的良い生産性と狭い粒子径分布を両立することもできる。シリコーン系化合物の重合中に無機塩の水溶液を添加することにより、コアシェル粒子の凝集体を得ることが出来る。無機塩の種類は特に限定されないが、好ましくは塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。無機塩の濃度は特に限定されず、無機塩の種類やコアシェル粒子の濃度などに応じて調整すればよいが、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%である。無機塩の水溶液としては、硫酸ナトリウム10%水溶液が好ましい。無機塩の水溶液の使用量としては、コアシェル粒子固形分100重量部あたり0.1〜10重量部が好ましく、1〜5重量部がより好ましい。得られる中空シリコーン系粒子凝集体の形状を制御しやすいという観点からは、シリコーン系化合物の重合反応が開始した後、完了する前に無機塩の水溶液を添加することによりコアシェル粒子を凝集させることが好ましい。シリコーン系化合物の重合反応が開始する前に無機塩の水溶液の添加を開始すると、コア粒子同士の凝集体にシェルが被覆し、コアの除去後に空洞が一つしかない構造になり、本発明の中空シリコーン粒子凝集体の構造にならないため、十分な強度が得られない場合がある。好ましい形状としては、十分な強度が得られる一次粒子同士が凝集した形状である。
【0036】
本発明に使用できる乳化剤としては、アニオン系乳化剤やノニオン系乳化剤が好適に使用されうる。アニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、オレイン酸カリウムなどが挙げられるが、特にドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好適に用いられる。ノニオン系乳化剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルやポリオキシエチレンラウリルエーテルなどが挙げられる。
【0037】
本発明に用いることのできる酸触媒は、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸などのスルホン酸類、および硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸類が挙げられる。これらの中では、オルガノシロキサンの乳化安定性に優れる観点から、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸が好ましく、n−ドデシルベンゼンスルホン酸が特に好ましい。
【0038】
コアシェル粒子を製造する際の反応のための加熱は、適度な重合速度が得られるという点で5〜120℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。
【0039】
このようにして得られたコアシェル粒子のラテックスに有機溶剤または無機塩の水溶液を加えて固形分と水分とを分離した後、コアシェル粒子中の有機高分子および/または有機溶剤を除去することにより、本発明の中空シリコーン粒子凝集体を得ることが出来る。
ラテックスの固液分離に有機溶剤を使用する場合は、固液分離と有機高分子および/または有機溶剤の除去を同時に行うことも出来る。
【0040】
コアシェル粒子中から有機高分子および/または有機溶剤を除去する方法としては、有機溶剤を用いる方法が好ましい。コアシェル粒子中の有機高分子および/または有機溶剤を除去するのに使用される有機溶剤としては、コアになる有機高分子および/または有機溶剤を溶解し、シェルになるシリコーン系化合物を溶解しないものが好ましい。具体例としては、アセトン、トルエン、ベンゼン、キシレン、n−ヘキサン、メタノール等が挙げられる。
【0041】
本発明の塗布液は、中空シリコーン系微粒子凝集体が分散し易く、かつマトリックスと相溶する溶剤に中空シリコーン系微粒子凝集体を分散させ、この分散液と被膜形成用として使用するマトリックス樹脂とを混合することにより得られる。溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどのアルコール系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤等が挙げられる。マトリックス樹脂としてはアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂などの樹脂やアルコキシシラン等の加水分解性有機ケイ素化合物が挙げられる。
【0042】
この塗布液を用いてコート法、スピナー法、ディップ法、スプレー法等を用いて一定膜厚みの被膜を形成することが出来る。中でも、膜厚制御のし易さの観点から、コート法が好ましい。被膜中の中空シリコーン系微粒子凝集体とマトリックス樹脂の比率は、99/1〜1/99の範囲であることが好ましく、更には90/10〜20/80の範囲であることがより好ましい。この比率が99/1より大きくなり、中空シリコーン系微粒子凝集体が多くなると被膜強度が低下する傾向を示す。この比率が1/99より小さくなり、中空シリコーン系微粒子凝集体が少なくなると被膜の屈折率が下がらず、反射防止効果が小さくなる傾向を示す。本発明の中空シリコーン系微粒子凝集体は、従来の中空シリカに比較して空隙率が大きいため、少量の使用で屈折率を低下させることができる。このため、被膜強度の低下がなく低い反射率を示す被膜つき基材を得ることができる。
【0043】
本発明の中空シリコーン系微粒子凝集体を含有する被膜を基材上に形成することにより、本発明の透明被膜付基材を得ることが出来る。更に該透明被膜と高屈折率層やハードコート層を併用することにより反射防止膜を得ることができ、電気製品、光学製品、建材等の分野で広く使用できる。本発明に使用される基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート、アクリル等のプラスチックフィルムやガラス等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。なお、以下の実施例および比較例における測定および試験はつぎのように行った。
【0045】
[体積平均粒子径]
有機高分子粒子、コアシェル粒子の体積平均粒子径をラテックスの状態で測定した。測定装置として、リード&ノースラップインスツルメント(LEED&NORTHRUP INSTRUMENTS)社製のMICROTRAC UPAを用いて、光散乱法により体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0046】
[有機高分子の重量平均分子量]
有機高分子の重量平均分子量は、GPC測定データよりポリスチレン標準試料で作成した検量線を用いて換算して求めた。
【0047】
[コアシェル粒子の確認]
ラテックス状態のコアシェル粒子の確認は、ラテックスをエポキシ樹脂に溶解・硬化後、ルテニウムで染色しTEM観察することにより行った。
【0048】
[コアシェル粒子からの有機高分子等の除去の確認]
凝固後のコアシェル粒子を対ラテックス5倍量のアセトンで混合・撹拌・静置・分別を行い、更にn-ヘキサンとメタノールの混合液で洗浄したのち、透明な上澄み液中のポリアクリル酸ブチル量を求めることよりコアの除去を確認した。
【0049】
[反射率の測定]
塗布面と反対側のPETフィルム表面をサンドペーパーで荒し、艶消しアクリルラッカースプレー塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(日本分光株式会社製 紫外可視分光光度計V−560型、積分球装置ISV−469型)により反射率を測定し、可視光域での極小値を読み取った。
【0050】
[耐擦傷性の測定]
往復磨耗試験機HEIDON トライボギアTYPE:30S(新東科学株式会社製)を使用し、被膜付基材の表面を10g荷重、移動速度6000mm/min、移動距離50mmの条件下においてスチールウール(No.0000、日本スチールウール株式会社製)を使用し水平に10回往復させたのち、被膜付基材表面上の擦り傷の量を比較した。
【0051】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水400重量部(種々の希釈水も含む水の総量)およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(SDBS)2重量部(固形分)をとり混合した後、50℃に昇温し、液温が50℃に達した後、窒素置換を行った。その後、ブチルアクリレート10重量部、t−ドデシルメルカプタン3重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合液を加えた。30分後、硫酸第一鉄(FeSO・7HO)0.002重量部、エチレンジアミンテトラアセティックアシッド・2Na塩0.005重量部、ホルムアルデヒドスルフォキシル酸ソーダ0.2重量部を加えてさらに1時間重合させた。その後ブチルアクリレート90重量部、t−ドデシルメルカプタン27重量部、パラメンタンハイドロパーオキサイド0.1重量部の混合液を3時間かけて連続追加した。2時間の後重合を行い、有機高分子ラテックス(P−1)を得た。このラテックスの体積平均粒子径は0.015μm、重量平均分子量は6000であった。
【0052】
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、温度計を備えた5口フラスコに、水500重量部(種々の希釈水も含む水の総量)、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBSA)3重量部、有機高分子(P−1)25重量部(固形分)を混合した。この時のpHは1.8であった。80℃に昇温し、窒素置換を行った。その後、別途純水100重量部、SDBS(固形分)0.5重量部、多摩化学工業製エチルシリケート40(テトラエトキシシランの5量体相当)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)の表1に示す量の混合物を5分かけて一定速度で全量を追加した。メチルトリメトキシシランを半分量添加した時点で10%硫酸ナトリウム水溶液3重量部(固形分)の添加を開始し、3分かけて一定速度で追加した。追加終了後、5時間撹拌を続けた後、25℃に冷却して20時間放置し、ラテックス状のコアシェル粒子凝集体を得た。つづいて、ラテックス状のコアシェル粒子凝集体100重量部に対し、アセトンをまず50重量部加えて5分間攪拌し、その後アセトン150重量部を加えて25分間攪拌した。30分静置すると凝固粒子層と透明な上澄み層に分離する。上澄み液をデカンテーションにて除いた後、濾紙を用いて凝固粒子層を単離した。濾過した粒子凝集体を、メタノール70重量%とヘキサン30重量%との混合溶剤300重量部に加え、同様の操作にて混合・撹拌・濾過を行った。以上の操作により、溶剤によってコアのポリアクリル酸ブチルが除去され中空シリコーン粒子凝集体が得られる。この中空粒子凝集体をイソプロピルアルコールに分散させ、粒子濃度が5重量%の分散液を得た。また、マトリックス樹脂であるアクリル樹脂(ヒタロイド1007:日立化成製)をイソプロパノール:n-ブタノール=1:1混合液に溶解させて5.66重量%の溶液を調整した。中空粒子凝集体の分散液とアクリル樹脂溶液を混合し、乾燥後の塗膜中の粒子凝集体量とマトリックス樹脂の重量比率が1:2になるように混合した塗布液を作成した。
【0053】
この塗膜液を光学用PETフィルム(商品名:テトロンO3、帝人製)にバーコート法で塗布し(装置名:ワイヤーバー)、その後110℃で20分間乾燥し、被膜の厚さが0.1〜0.2μmの被膜付基材を得た。
【0054】
この被膜付き基材の反射率を測定し可視光域での最低反射率を求めた。また、同基材の耐擦傷性の評価結果も表1に示した。
【0055】
(実施例2)
実施例1において、重合の際に用いる10%硫酸ナトリウム水溶液を4重量部(固形分)使用した以外は同様の操作を行い、被膜付基材を作成し同様の評価法により評価した。
【0056】
(比較例1)
なにも塗布しないPETフィルムを実施例1と同様の評価法により評価した。
【0057】
(比較例2)
マトリックス樹脂である5.66重量%のアクリル樹脂溶液を混合し、中空粒子凝集体を混合しない以外は実施例1と同様の評価法により評価した。
【0058】
【表1】

本発明の中空シリコーン粒子凝集体を使用した被膜付基材(実施例1〜2)は、該凝集体を使用しない比較例2または基材そのものである比較例1に対し、低い屈折率を有し反射率低減効果と耐擦傷性の向上が見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空シリコーン系粒子が凝集した、体積平均粒子径が0.04〜1μmの範囲にある中空シリコーン系粒子凝集体。
【請求項2】
前記中空シリコーン系粒子が、SiO4/2単位、RSiO3/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)およびRSiO2/2単位(式中、Rは、炭素数1乃至18のアルキル基またはハロアルキル基、炭素数6乃至24の芳香族基、ビニル基、γ−(メタ)アクリロキシプロピル基又はSH基をもつ有機基の少なくとも1種を示す)からなる群より選ばれる1単位又は2単位以上からなり、RSiO2/2単位の割合が20モル%以下、RSiO3/2単位の割合が50モル%以上であるシリコーン系化合物からなる中空粒子であることを特徴とする請求項1に記載の中空シリコーン系粒子凝集体。
【請求項3】
中空シリコーン系粒子が平均連結数で2〜50個連結した請求項1または2に記載の中空シリコーン系粒子凝集体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の中空シリコーン系粒子凝集体と有機溶剤およびマトリックス樹脂を含んでなる透明被膜形成用塗布液。
【請求項5】
基材と、該基材上に設けられた透明被膜とを有し、該透明被膜が、請求項4に記載の透明被膜形成用塗布液を用いて形成されてなることを特徴とする透明被膜付基材。
【請求項6】
下記工程(a)-工程(b)からなる中空シリコーン粒子凝集体の製造方法。
(a)有機高分子微粒子および/または有機溶剤からなる粒子をシリコーン系化合物により被覆したコアシェル粒子に無機塩を加えることによってコアシェル粒子の凝集体を製造する工程
(b)コアシェル粒子凝集体中の有機高分子粒子および/または有機溶剤からなる粒子を除去して体積平均粒子径0.04〜1μmの中空シリコーン系微粒子凝集体を製造する工程。

【公開番号】特開2009−24032(P2009−24032A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185261(P2007−185261)
【出願日】平成19年7月17日(2007.7.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】