説明

中空導波路及びその製造方法

【課題】機械的に強固で、小さな曲げ半径においても破断せず、熱伝導性に優れ、伝送光を低損失で伝送できる中空導波路及びその製造方法を提供する。
【解決手段】内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成され、前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外波長帯における光の伝送媒体に係り、特に、高出力の光エネルギー伝送に好適な中空導波路及びその製造方法に関する。
また、本発明は、紫外波長帯における光の伝送媒体に係り、特に、高出力の光エネルギー伝送に好適な中空導波路及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)赤外光伝送用の光導波路
波長2μm以上の赤外光は、医療、工業加工、計測、分析、化学等の様々な分野で利用されている。特に、波長2.94μm帯のEr−YAGレーザ、5μm帯のCOレーザ、10.6μm帯のCOレーザは、発振効率か高く高出力が得られ、水に対しても大きな吸収を持つことから医療用のレーザ治療器や工業加工用の光源として利用されている。
【0003】
従来の通信用に使用されている石英系光ファイバは、波長2μm以上のレーザ光に対しでは分子振動による赤外吸収が大きいため高損失となる。このため、これら赤外レーザ光を伝送する導波路として通常の石英系光ファイバを使用することかできない。そこで、応用範囲の広い赤外波長帯でも適用可能な新しいタイプの光導波路の開発が活発に行われてきた。
【0004】
波長2μm以上の赤外光を伝送する光導波路として、伝送する光の波長帯において透明な誘電体層を内装した中空導波路が開発され、優れた伝送特性を有することが実証されている。
【0005】
図5は、従来の中空導波路4を示す断面図である。中空導波路4は、ガラスキャピラリ41と、ガラスキャピラリ41の内壁上に形成される金属層42と、金属層42上に形成される誘電体層43と、誘電体層43内側にコアとして形成される中空領域44から構成される。ガラスキャピラリ41は、中空導波路4の機械的強度を保持するための母材である。誘電体層43は、伝搬する光の波長帯において透明であり、その膜厚は通常サブミクロン以下であって伝搬する光の波長に応じて最適な厚さに設定される。中空導波路4を伝搬する光の波長帯では光の吸収が大きいので光エネルギーが金属層42内に深く入り込むことはないので、誘電体眉43に接する金属眉42の厚さはスキンデプス以上あればよい。中空導波路4を伝搬する光は、中空領域44と誘電体層43との境界、及び誘電体層43と金属眉42との境界で反射を繰り返すことにより伝搬される。
【0006】
具体的には、銀からなる金属層42がガラスキャピラリ41の内壁上にめっきにより形成され、誘電体層43がポリイミドの前駆体溶液またはオレフィンポリマを溶解した溶液等を熱硬化することにより形成される中空導波路が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
極めて平滑な下地を有するガラスキャピラリ41上に金属層42がめっきにより形成される場合であっても、金属層42の膜厚が厚くなる程、金属層42の表面粗さは増大する。その為、金属層42は数百Å程度の膜厚があれば光学的に十分寄与するので、金属層42は鏡面状態が損なわれないように出来る限り薄く形成されている。
【0008】
内装される誘電体層43を構成するポリイミドやオレフィンポリマ等の有機系材料は材料固有の赤外吸収ピーク波長を有する。しかしながら、誘電体層43の膜厚は十分薄く形成されているので、この赤外吸収ピーク波長を除く赤外領域の伝搬光は、誘電体層43内ではほとんど減衰しない。このため、誘電体層43は、それを介して伝搬光が金属層42まで達する透明材料であるとみなすことができる。特に、Er−YAGレーザやCOレーザ、COレーザの発振波長帯においては、ポリイミドやオレフィンポリマ等の特定の有機材料は大きな赤外吸収ピークを持たないので、中空導波路4は実用上重要な赤外レーザ光を低損失で伝送することかできる。さらに、金属層42はめっきにより非常に薄く形成され中空導波路内壁の平滑性が保たれるので、赤外レーザ光だけでなく、ガイド光としての可視光も伝送可能である。
【0009】
上述のように有機系材料からなる誘電体層43を有する中空導波路4以外に、金属層の一部を化学的に変化させた誘電体層を有する中空導波路も開発されている。例えば、ガラスキャピラリ内壁上に銀からなる金属層がめっきにより形成され、その金属層の一部がヨウ素化されてヨウ化銀層を生成し、このヨウ化銀層が透明な誘電体層として機能する中空導波路が知られている。ヨウ化銀は赤外波長帯において透明な無機物であり、ポリマ材料のような材料固有の赤外吸収ピークを有さないので、赤外波長領域において光が低損失で伝送可能である。
【0010】
中空導波路の機械的強度を確保する母材としては、上述のガラスキャピラリの他に、可撓性に優れるフッ素樹脂等から成る樹脂製チューブが提案されている。また、長尺光伝送路の先端に装着されるレーザプローブや可撓性を特に必要としない用途においては、ガラスキャピラリよりも機械的に強固なステンレスパイプ等を内面研磨した母材が提案されている。さらに、めっきによる銀層形成工程を省略するため、銀等の貴金属からなるパイプそのものが母材として使用され、これを内面研磨して誘電体層を形成した中空導波路が提案されている。
【特許文献1】特開平8−234026号公報
【特許文献2】特開2002−71973号公報
【0011】
(2)紫外光伝送用の光導波路
一方、波長250nm以下の紫外光もまた、医療、工業加工、計測、分析、化学等の様々な分野で利用されている。特に、波長248nmのKrFレーザ、波長193nmのArFレーザ、波長157nmのF2レ―ザ等のエキシマレーザ、あるいはQスイッチYAG高調波レーザは高出力が得られ、半導体露光、蛍光分析、また医療機器や工業加工用の光源として重要である。
【0012】
従来の通信用に使用されている石英系光ファイバは、概ね波長200nm以上の光を低損失で伝送することが可能である。さらに最近では、紫外光伝送を特に目的として充実型の石英系光ファイバが改良されている。
【0013】
紫外領域の吸収は電子遷移による吸収帯であり、含有する不純物や構造欠陥によって吸収スペクトル特性は大きく影響される。現在多く使用されている石英系光ファイバでは、金属不純物による吸収は無視できるほど高純度化が進んでいる。従って石英系光ファイバの紫外領域における透過率は、製造条件に依存する石英ガラス中の構造欠陥によって決定される。
【0014】
微量の構造欠陥は、製造条件に依存するが、例えば作成時の酸化還元雰囲気によって酸素欠乏型欠陥や酸素過多型欠陥などが生じる。光ファイバのようにすす状のシリカ粒子(スート)をハロゲン雰囲気において脱水処理し、熱処理により透明ガラス化する製造方法においては、酸素欠乏欠陥が生成し、その結果紫外領域の透過率が低下する。脱水処理によってOH基含有量が変化するため、紫外領域の透過率はOH基に依存する。
【0015】
脱水処理を施した無水タイプのシリカガラスは波長245nmおよび163nmにSi−Si酸索欠乏欠陥に起因する吸収帯が観測される。さらにスートを還元性雰囲気で焼結したシリカガラスでは240nmに吸収帯が観測される。
【0016】
これに対し、スートをHeガス雰囲気で焼結したシリカガラスでは、高濃度のOH基を含有し200〜400nmにおいて顕著な吸収帯は観測されない。以上のように紫外光伝送を目的とする石英ファイバはOH基の含有量に依存する。
【0017】
一方、このような充実型の石英系光ファイバとは別に、紫外光伝送を目的として中空ガラスキャピライリの内部に有機金属気相成長法(MOCVD法)によってアルミニウムを内装した中空導波路が提案されている(光アライアンス 1999.7月号pp.20-22)。石英系光ファイバと比較して、中空導波路のメリットは高いエネルギー密度に耐えることである。充実型の石英系光ファイバの場合、伝送エネルギー密度は50mJ/cm程度が限界であるのに対し、中空導波路の場合は2J/cm以上のエネルギー密度のビーム伝送が可能である。また紫外光用に改良された石英系光ファイバの場合でも、ArFレーザの波長193nmがほぼ限界で、さらに短波長の真空紫外領域の光を伝送することは難しい。これに対しアルミニウム薄膜を内装した中空導波路では、波長130nm程度までの伝送が可能で、157nmのF2レ―ザ伝送も可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
(1)赤外光伝送用の中空導波路の問題点
しかしながら、従来の赤外光伝送用の中空導波路は、以下の問題を有している。即ち、ガラスキャピラリ41を用いた中空導波路4は可撓性を有するが、小さい曲げ半径で長期間保持されると突然破断する可能性がある。さらに、人体に挿入したり、衝撃や外圧か加わるような使用環境で使用したりする場合には破損の可能性があり好ましくない。
【0019】
母材にフッ素樹脂等の樹脂製チューブを用いた中空導波路は、その破損の可能性がガラスキャピラリよりは低いものの、衝撃や外圧によって断面形状や長手方向の伝送路全体の曲げ形状が不規則に変化し、伝送特性が変動しやすい。また、樹脂製チューブは、ガラスキャピラリに比べ、内壁の表面が粗く、研磨やエッチングによって内壁表面の粗さをガラス並に改善することは難しい。そのため、可視光等の短波長伝送では損失が大きくなってしまう。
【0020】
また、中空導波路における伝搬光の損失は全て熱に変換されるため、熱伝導率が小さなガラス或いは樹脂製チューブを母材に用いた中空導波路は、局部的な発熱を伴う可能がある。
【0021】
めっきによりガラスキャピラリ内壁上に銀層を形成し、その内壁をヨウ素化してヨウ化銀を誘電体層とする中空導波路では、ヨウ素化される銀層がなくなってしまうことを避けるため、銀層は光学的に寄与する膜厚よりも十分厚く形成される必要がある。その結果ヨウ化銀層を内装した中空導波路内壁表面の粗さは、銀層の鏡面状態が損なわれており、特に可視光等の短波長の光伝送には不利である。
【0022】
可撓性を要しない用途で使用される場合には、機械的な強度が高い、或いは熱伝導率が 大きいという点で、金属パイプを中空導波路の母材に利用することが有利である。しかし、従来の内面を鏡面状態に研磨したステンレスパイプを母材として用い、その内壁にめっきにより銀層を形成した中空導波路は、めっきによって内壁表面の平滑性を損ない、ガラスキャピラリに銀めっきした中空導波路と比較して著しく平滑性が劣る。
図6は、ステンレスパイプの内壁を鏡面状態に研磨し、その内壁にめっきで銀層を形成した金属中空導波路に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性を示し、図7はガラスキャヒラリの内壁にめっきで銀層を形成した金属中空導波路に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性を示す。両金属中空導波路は長さ40cm、内径0.7mmであり、めっきによる銀層の膜厚も同じである。
【0023】
図6、7に示すように、ステンレスパイプの金属中空導波路の損失がガラスキャピラリの金属中空導波路の損失よりかなり大きい。特に、短波長ほど損失が大きくなっている。これは、ステンレスパイプの内面研磨がガラスキャピラリと同等の平滑さまで達していないか或いは両者の平滑さが同程度だとしても、下地材料の違いから銀層の表面粗さが異なり、下地の平滑さが維持されていないためと考えられる。このような特性により、ステンレスパイプを内面研磨し、めっきで銀層を形成した中空導波路は、ガラスキャピラリにめっきで銀層を形成した金属中空導波路よりも伝送損失の点で劣る。
【0024】
また、ガラスキャピラリの中空導波路は、外力への耐性が低いこと、母材に熱伝導率の低いガラスを用いているため局部発熱が起こりやすいこと、銀めっきが剥離し易いことといった問題点がある。
【0025】
また、ステンレスパイプを内面研磨し、さらに銀めっき層を形成した中空導波路の代わりに、銀パイプそのものを内面研磨し、金属膜をめっきする工程を削除することによって、その内壁の表面粗さを維持できる中空導波路も検討されている。この中空導波路は、母材全体が銀であるため、非常にコスト高になってしまう。赤外波長帯レーザ光を低損失で伝送するためには、中空導波路の光学的に寄与する金属材料としては銀以外にも金や銅が好適であることが知られている。中空導波路の母材を金で形成することは、コスト面から実用化が困難である。また、銀や銅は酸化や硫化によって著しく変色を起こすので、中空導波路の母材をこれらの材料で形成して、外部環境に晒されるのは好ましくない。また、これらの材料を母材に用いた中空導波路は、僅かな曲げによっても容易に塑性変形を受け、特に繰り返し曲げが生じる使用環境下では伝送特性の劣化が著しい。
【0026】
(2)紫外光伝送用の中空導波路の問題点
従来の紫外光伝送用の中空導波路は、以下の問題を有している。
即ち、一般に使用されている石英光ファイバに、紫外光のパルス光を入射すると、初期の透過率は良好でも、光照射時間とともに透過特性が劣化してしまう(Appl.Opt.27、p.3124,1988)。
【0027】
前述のようにOH基濃度を調整し、紫外用でも安定して伝送できる紫外光伝送用の石英光ファイバも開発が進められているが、応用範囲の広いArFレーザやKrFレーザ伝送などの伝送には長期的信頼性においてまだ難点がある。さらに短波長のF2レーザや高出力パルスになると石英ファイバでは、長時間安定した伝送を維持することはできない。
【0028】
一方、アルミニウム中空導波路は、波長190nm以下、あるいは高パワー強度の紫外レーザ伝送においては石英ファイバよりも有望である。しかし、前述の石英ガラスキャピラリの内部にMOCVD法によりアルミニウム薄膜を内装した中空導波路では、必ずしもアルミニウム薄膜の付着力が十分強くなく剥離しやすい。特に、中空導波路による紫外光伝送の場合には、空気中の酸素が紫外光を吸収するオゾンヘと変化し伝送損失が増加するのを防ぐために、中空内部を真空にするか、希ガスを封入するのが一般に行なわれる。この為、内装されるアルミニウム薄膜の付着力が弱いと、ガスの吸引、導入のときに薄膜が剥離してしまう可能性がある。
【0029】
またアルミニウム薄膜を石英キャピラリの内部に形成するには高価なMOCVD装置が必要である。
さらに、このようなガラスキャピラリを用いた中空導波路は、外力への耐性が低く、衝撃や曲がりに起因して破断するおそれがある。
【0030】
そこで、本発明の目的は、機械的に強固で、小さな曲げ半径においても破断せず、熱伝導性に優れ、伝搬光を低損失伝送できる中空導波路及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、高いピ―クパワーを有する短波長の紫外レ―ザ光に対しても長期間安定した伝送効率を維持し得る中空導波路及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
(1)本発明の一側面に従い、内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路が提供される。
【0032】
(2)本発明の他の側面に従い、内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管の内壁上に形成される誘電体層と、該誘電体層内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路が提供される。
【0033】
(3)本発明の他の側面に従い、金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程とから構成される中空導波路の製造方法が提供される。
【0034】
(4)本発明の他の側面に従い、金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程と、
前記研磨された内側の金属層の内壁上に誘電体層を形成する工程とから構成される中空導波路の製造方法が提供される。
【0035】
(5)本発明の他の側面に従い、互いに異なる金属材料から成る内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路であって、
前記外側の金属層と前記内側の金属層との接合強度は10MPa以上である中空導波路が提供される。
【0036】
前記内側の金属層は複素屈折率の絶対値の高い金属材料から成ることが望ましい。
前記内側の金属層は金、銀または銅から成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成り得る。
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成り得る。
前記内側の金属層は銀から成り、かつ、前記誘電体層はヨウ化銀から成り得る。
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記誘電体層は酸化アルミニウムから成り得る。
前記酸化アルミニウムから成る誘電体層は0.1μm以下の厚さを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、機械的に強固で、小さな曲げ半径においても破断せず、熱伝導性に優れ、伝搬光を低損失伝送できる中空導波路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0039】
図1は、本発明に従う第1の実施形態の中空導波路1を示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、中空導波路1は、金属パイプとして円筒形の銀パイプを内側に、ステンレスパイプを外側にして圧接により一体形成して、銀クラッド層12とステンレス層11からなる銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10を形成し、その内壁に誘電体層13としてオレフィンポリマ層を形成したものである。誘電体層13内の中空領域14は光を伝搬させるコアに相当する。
【0041】
この中空導波路1の製造方法について説明する。
【0042】
図3(a)に示すように、本実施の形態では、まずステンレスパイプ16と、ステンレスパイプ16の内径より小さな外径を有する銀パイプ15の2つの金属パイプを用意し、ステンレスパイプ16内に銀パイプ15を挿入し、押出圧延によってステンレス層と銀層か圧接された2重積層パイプを形成した。その後、所望の最終形状になるまで引き抜き加工を繰り返し、細径の銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10を得た。
【0043】
銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10形成後の、内側の銀パイプ15で形成された層を銀クラッド層12、外側のステンレスパイプ16で形成された層をステンレス層11と称する。銀クラッド層12とステンレス層11との接合強度は10MPa以上である。銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10における銀クラッド層12の膜厚は、無電解により形成される銀膜よりも十分に厚いので、銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10に曲げ等の加工を施しても、銀クラッド層12が剥離することはない。
【0044】
中空導波路1のサイズの例として、金属クラッド管10の外径は1.1mm、内径は0.66mm、ステンレス層11の厚さは0.15mm、銀クラッド層12の厚さは0.07mmとした。銀クラッド層12は、その厚さを研磨による研磨しろを考慮して0.05mm以上とするのか望ましく、また、同心円上に均一に形成され、曲げ加工等による銀クラッド層12の変形、剥離を抑えるため、ステンレス層11よりも薄くすることが好ましい。
一般には、中空導波路として好適な内側の金属パイプの材料として挙げられる金、銀、銅は、外側の金属パイプの材料として挙げられるステンレス、燐青銅、チタン、チタン合金よりも柔らかく塑性変形を受けやすいため、内側の金属パイプの厚さは外側の金属パイプの厚さの1/2以下にすることか望ましい。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、銀クラッド層12の内壁を機械化学研磨して鏡面状態にする。この工程は化学研磨による溶出と砥粒による擦過作用を併用したもので、内面の平滑化だけでなく銀クラッド層12の過去変質層の発生を防ぐことができる。研磨前後の内面粗さを比較すると中心線平均粗さRaは1.1μmから0.001μmに、また、最大粗さRmaxは8.9μmから0.03μmに低減できた。本発明に係る中空導波路は 主に赤外光の伝搬を目的としているか、同時に、ガイド光として波長の短い可視光の伝搬にも適用できる。よって、内面粗さは、伝搬させる光の波長に対して、Raで1/200以下、Rmaxで1/20以下とするのが好ましい。研磨後の銀クラッド層12の膜厚減少分は0.02mmとし、その結果最終的な銀クラッドステンレス管10の内径は0.7mmとなる。
【0046】
最後に図3(c)に示すように、内壁を鏡面状態に研磨した銀クラッドステンレス管10の内部にオレフィンポリマを溶解させた溶液を流入し、熱処理を行って硬化させると、銀クラッド層12の表面にオレフィンポリマ層(誘電体層13)を内装した中空導波路1か得られる。誘電体層13の膜厚は伝搬光の波長を考慮して、波長10.6μmのCOレーザ光を低損失で伝送できるように、0.3μmとした。
【0047】
次に本実施の形態の作用について説明する。
【0048】
中空導波路1は、金属クラッド管10及び誘電体層13をクラッド、中空領域14をコアとしてレーザ光を伝搬させる。詳細には、レーザ光は中空領域14と誘電体層13との境界と、誘電体層13と銀クラッド層12との境界とで反射を繰り返すことで伝搬方向(中空導波路長手方向)へ伝搬する。本実施の形態の中空導波路1は、波長10.6nmのCOレーザ光を、長さ40cm、透過率95%以上で伝送させることができる。
【0049】
中空導波路1は、母材にステンレスパイプ16を用いているため機械的に強固であると共に、曲げ半径の小さな曲げや外圧等によって塑性変形されないので破損や伝送特性の劣化がほとんどない。さらに、ステンレス層11、銀クラッド層12共に、熱伝導率の大きい金属で金属クラッド管10を形成しているため、局部的な発熱を抑えることかできる。金属クラッド管10の内側の金属層に複素屈折率の絶対値の大きな金属である銀を用いているため、反射率の大きいクラッドとすることができ、伝搬光の放射損失を小さくしている。また、銀パイプ15を母材のステンレスパイプ16に圧接して金属クラッド管10を形成しているため、銀クラット層12の母材であるステンレス層11からの剥離がほとんどない。
【0050】
ここで、図2に示す中空導波路1の波長−損失特性を図5、6に示した波長−損失特性と比較する。
【0051】
図2は、銀クラッド層12の内壁を鏡面状態に研磨した金属中空導波路(金属クラッド管)10に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性である。図2に示すように、金属中空導波路(金属クラッド管)10の波長−損失特性は、短波長帯で損失が大きくなる特性をしているか、図5のステンレス管の内壁にめっきによって銀層を形成した金属中空導波路の波長−損失特性と比較して、どの波長帯においても損失が小さい。また、図6のガラスキャピラリの内壁上にめっきによって銀層を形成した金属中空導波路と比較すると、両者の伝搬損失は略同程度である。よって、本実施の形態の中空導波路1は、上述の母材にステンレス管を用いた長所を備えつつ、光の低損失伝送を可能にする。
【0052】
さらに、図2の特性線から、めっきによって形成された銀層の屈折率よりも本実施の形態の銀クラッドの屈折率の方がバルクの銀の屈折率に近いことがわかる。
【0053】
また、本実施の形態の中空導波路1の製造方法によれば、上述の機械的強度か強く、小さな曲げや衝撃、外圧によって破損しにくく、光学的特性においても可視光から赤外波長帯にわたり光を低損失で伝搬できる中空導波路を製造することができる。
【0054】
上記実施の形態の中空導波路1では、誘電体層13にオレフィンポリマを用いたが、その変形例として、銀クラッド層の一部をヨウ素化することにより銀クラッド層の内壁上にヨウ化銀からなる誘電体層を形成してもよい。
【0055】
この誘電体層がヨウ化銀で形成された中空導波路の製造方法は、上述の図3(a)(b)までは中空導波路1の製造方法と同様であるが、銀パイプの内壁を研磨した後、銀クラッド層の一部をヨウ化銀に化学的に変化させる。この製造方法では銀クラッド層の一部を化学的に変化させてヨウ化銀層(誘電体層)を形成するので、ヨウ化銀層の厚さを考慮して銀クラッド層を形成する必要がある。
【0056】
ガラスキャピラリの内壁に銀めっき層を形成し、その一部をヨウ化銀層に化学的に変化させた従来の中空導波路においては、銀めっき層はヨウ素化する分だけ厚めに形成しなければならず、銀めっき層内壁の表面が粗くなってしまう。この従来の中空導波路に比較して、本実施の形態においては、内壁を鏡面状態に研磨した銀クラッドステンレス管を用いるので、表面が研磨された状態を維持でき、結果としてガラスキャピラリの内壁に銀めっきした場合よりも表面が平滑になり、レーザ光を低損失で伝送することかできる。さらに、上述の中空導波路1と同様の作用効果を有する。
【0057】
本実施の形態の中空導波路1では金属クラッド管の内側のクラッドに銀パイプ15を用いたが、ヨウ化銀からなる誘電体層を用いない中空導波路においては、銀に限らず、金や銅等の複素屈折率の絶対値の大きい金属からなるパイプを用いても、同様に赤外波長帯において低損失でレーザ光の伝送を行うことができる。
【0058】
また、本実施の形態の中空導波路1では外側の金属パイプにステンレスパイプ16を用いたか、これに限らず、塑性変形の生じにくい燐青銅パイプや、人体に挿入しても無毒安全なチタン、或いはニッケルチタン等のチタン合金を用いてもよい。
【0059】
図4は、本発明に従う第2の実施形態の中空導波路21を示す断面図である。図4において、同様の構成要素は、図1に使用される同一の符号で示されている。
【0060】
図4に示すように、中空導波路21は、金属パイプとして円筒形のアルミニウムパイプを内側に、ステンレスパイプを外側にし、圧接により―体形成して、アルミニウムクラッド層22とステンレス層11からなるアルミニウムクラッドステンレス管(複合金属管)20を形成し、さらにアルミニウムクラッド層22の内壁面を研磨したものである。アルミニウムクラッド層22の内壁面の表層を酸化させ酸化アルミニウム層23(Al)が形成され、中空領域14を紫外光が伝搬する。
【0061】
次に、この中空導波路21の製造方法について説明する。
本実施の形態では、まずステンレスパイプとステンレスパイプの内径より小さな外径を有するアルミニウムパイプの2つの金属パイプを用意し、ステンレスパイプ内にアルミニウムパイプを挿入し、押出圧延によってステンレス層とアルミニウム層が圧接された2重積層パイプを形成した。その後、所望の最終形状になるまで引き抜き加工を繰り返し、細径のアルミニウムクラッドステンレス管20を得た。
【0062】
アルミニウムクラッドステンレス管20を形成した後の、内側のアルミニウムパイプで形成された層をアルミニウムクラッド層22、外側のステンレスパイプで形成された層をステンレス層11と称する。アルミニウムクラッド層22とステンレス層11との接合強度は10MPa以上である。アルミニウムクラッドステンレス管20におけるアルミニウムクラッド層22の膜厚は、ガラスキヤピラリ内にMOCVD法により形成されるアルミニウム膜よりも十分厚いので、アルミニウムクラッドステンレス管に曲げ等の加工を施しても、アルミニウムクラッド層22が剥離することはない。
【0063】
中空導波路21のサイズは、例えば、アルミニウムクラッドステンレス管20の外径が1.1mm、内径は0.66mm、ステンレス層11の厚さは0.15mm、アルミニウムクラッド層22の厚さは0.07mmとした。アルミニウムクラッド層22は、その厚さを研磨による研磨しろを考慮して、0.05mm以上とすることが望ましい。
【0064】
また、同心円上に均―に形成されること、曲げ加工等によるアルミニウムクラッド層22の変形、剥離を抑えるため、ステンレス層11よりも薄くすることが好ましい。外側の金属パイプの材料としては、ステンレス以外に塑性変形の生じにくい燐青銅、人体に挿入しても無毒安全でしかも軽量なチタン、あるいはニッケルチタン等のチタン合金が挙げられる。アルミニウムは、外側の金属パイプの材料として候補となるこれらの材料よりも軟らかく塑性変形を受けやすいので、内側の金属パイプ(アルミパイプ)の厚さは外側の金属パイプの厚さの1/2以下にすることが望ましい。
【0065】
次に、アルミニウムクラッド層22の内壁面を機械化学研磨して鏡面状態にする。この工程は化学研磨による溶出と砥粒による擦過作用を併用したものである。研磨前後の内面粗さを比較すると、中心線平均粗さRaは1.1μmから0.01μm以下に、また、最大粗さRmaxは9μmから0.03μm以下に低減できた。研磨後のアルミニウムクラッド層12の膜厚減少分は0.02mmとし、その結果最終的なアルミニウムクラッドステンレス管20の内径は0.7mmになる。
【0066】
より好適には、最後に内壁を鏡面状態に研磨したアルミニウムクラッドステンレス管20の内部に水蒸気を流入させながら高温熱処理により、アルミニウムクラッド層22内壁面を酸化させ酸化アルミニウム層23を形成する。これによりアルミニウムクラッド層22の化学的変質を防止するとともに、高出力の紫外レーザ光によるアブレーションを抑制することができる。この効果は、0.1μm以下の膜厚を有する酸化アルミニウム層23において十分得られる。
【0067】
次に、本実施の形態の効果を説明する。
中空導波路21は、母材にステンレスパイプを用いているため、機械的に強固であると共に、曲げ半径の小さな曲げや外圧等によって変形を受けにくいので破損や伝送特性の劣化がほとんどない。
【0068】
さらに、ステンレス層11、アルミニウムクラッド層22が共に熱伝導率の大きい金属材料で形成されているので、レーザ光伝送によって発熱した場合でも、局部的な発熱を抑えることができる。
【0069】
アルミニウムパイプを母材のステンレスパイプに圧接してアルミニウムクラッドステンレス管20が形成されているので、アルミニウムクラッド層22が母材であるステンレス層11から剥離しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に従う第1の実施形態の中空導波路を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【図3】(a)〜(c)は第1の実施形態の中空導波路の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明に従う第2の実施形態の中空導波路を示す断面図である。
【図5】従来の中空導波路を示す断面図である。
【図6】中空導波路の母材としてステンレスを用いた従来の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【図7】中空導波路の母材としてガラスキャピラリを用いた従来の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【符号の説明】
【0071】
1、4、21 中空導波路
10 金属クラッド管
11 ステンレス層
12 銀クラッド層
13 誘電体層
14、44 中空領域
15 銀パイプ
16 ステンレスパイプ
20 アルミニウムクラッドステンレス管
22 アルミニウムクラッド層
23 酸化アルミニウム層
41 ガラスキャピラリ
42 金属層
43 誘電体層
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外波長帯における光の伝送媒体に係り、特に、高出力の光エネルギー伝送に好適な中空導波路及びその製造方法に関する。
また、本発明は、紫外波長帯における光の伝送媒体に係り、特に、高出力の光エネルギー伝送に好適な中空導波路及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)赤外光伝送用の光導波路
波長2μm以上の赤外光は、医療、工業加工、計測、分析、化学等の様々な分野で利用されている。特に、波長2.94μm帯のEr−YAGレーザ、5μm帯のCOレーザ、10.6μm帯のCOレーザは、発振効率か高く高出力が得られ、水に対しても大きな吸収を持つことから医療用のレーザ治療器や工業加工用の光源として利用されている。
【0003】
従来の通信用に使用されている石英系光ファイバは、波長2μm以上のレーザ光に対しは分子振動による赤外吸収が大きいため高損失となる。このため、これら赤外レーザ光を伝送する導波路として通常の石英系光ファイバを使用することかできない。そこで、応用範囲の広い赤外波長帯でも適用可能な新しいタイプの光導波路の開発が活発に行われてきた。
【0004】
波長2μm以上の赤外光を伝送する光導波路として、伝送する光の波長帯において透明な誘電体層を内装した中空導波路が開発され、優れた伝送特性を有することが実証されている。
【0005】
図5は、従来の中空導波路4を示す断面図である。中空導波路4は、ガラスキャピラリ41と、ガラスキャピラリ41の内壁上に形成される金属層42と、金属層42上に形成される誘電体層43と、誘電体層43内側にコアとして形成される中空領域44から構成される。ガラスキャピラリ41は、中空導波路4の機械的強度を保持するための母材である。誘電体層43は、伝搬する光の波長帯において透明であり、その膜厚は通常サブミクロン以下であって伝搬する光の波長に応じて最適な厚さに設定される。中空導波路4を伝搬する光の波長帯では光の吸収が大きいので光エネルギーが金属層42内に深く入り込むことはないので、誘電体43に接する金属42の厚さはスキンデプス以上あればよい。中空導波路4を伝搬する光は、中空領域44と誘電体層43との境界、及び誘電体層43と金属42との境界で反射を繰り返すことにより伝搬される。
【0006】
具体的には、銀からなる金属層42がガラスキャピラリ41の内壁上にめっきにより形成され、誘電体層43がポリイミドの前駆体溶液またはオレフィンポリマを溶解した溶液等を熱硬化することにより形成される中空導波路が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
【0007】
極めて平滑な下地を有するガラスキャピラリ41上に金属層42がめっきにより形成される場合であっても、金属層42の膜厚が厚くなる程、金属層42の表面粗さは増大する。その為、金属層42は数百Å程度の膜厚があれば光学的に十分寄与するので、金属層42は鏡面状態が損なわれないように出来る限り薄く形成されている。
【0008】
内装される誘電体層43を構成するポリイミドやオレフィンポリマ等の有機系材料は材料固有の赤外吸収ピーク波長を有する。しかしながら、誘電体層43の膜厚は十分薄く形成されているので、この赤外吸収ピーク波長を除く赤外領域の伝搬光は、誘電体層43内ではほとんど減衰しない。このため、誘電体層43は、それを介して伝搬光が金属層42まで達する透明材料であるとみなすことができる。特に、Er−YAGレーザやCOレーザ、COレーザの発振波長帯においては、ポリイミドやオレフィンポリマ等の特定の有機材料は大きな赤外吸収ピークを持たないので、中空導波路4は実用上重要な赤外レーザ光を低損失で伝送することかできる。さらに、金属層42はめっきにより非常に薄く形成され中空導波路内壁の平滑性が保たれるので、赤外レーザ光だけでなく、ガイド光としての可視光も伝送可能である。
【0009】
上述のように有機系材料からなる誘電体層43を有する中空導波路4以外に、金属層の一部を化学的に変化させた誘電体層を有する中空導波路も開発されている。例えば、ガラスキャピラリ内壁上に銀からなる金属層がめっきにより形成され、その金属層の一部がヨウ素化されてヨウ化銀層を生成し、このヨウ化銀層が透明な誘電体層として機能する中空導波路が知られている。ヨウ化銀は赤外波長帯において透明な無機物であり、ポリマ材料のような材料固有の赤外吸収ピークを有さないので、赤外波長領域において光が低損失で伝送可能である。
【0010】
中空導波路の機械的強度を確保する母材としては、上述のガラスキャピラリの他に、可撓性に優れるフッ素樹脂等から成る樹脂製チューブが提案されている。また、長尺光伝送路の先端に装着されるレーザプローブや可撓性を特に必要としない用途においては、ガラスキャピラリよりも機械的に強固なステンレスパイプ等を内面研磨した母材が提案されている。さらに、めっきによる銀層形成工程を省略するため、銀等の貴金属からなるパイプそのものが母材として使用され、これを内面研磨して誘電体層を形成した中空導波路が提案されている。
【特許文献1】特開平8−234026号公報
【特許文献2】特開2002−71973号公報
【0011】
(2)紫外光伝送用の光導波路
一方、波長250nm以下の紫外光もまた、医療、工業加工、計測、分析、化学等の様々な分野で利用されている。特に、波長248nmのKrFレーザ、波長193nmのArFレーザ、波長157nmのF2レ―ザ等のエキシマレーザ、あるいはQスイッチYAG高調波レーザは高出力が得られ、半導体露光、蛍光分析、また医療機器や工業加工用の光源として重要である。
【0012】
従来の通信用に使用されている石英系光ファイバは、概ね波長200nm以上の光を低損失で伝送することが可能である。さらに最近では、紫外光伝送を特に目的として充実型の石英系光ファイバが改良されている。
【0013】
紫外領域の吸収は電子遷移による吸収帯であり、含有する不純物や構造欠陥によって吸収スペクトル特性は大きく影響される。現在多く使用されている石英系光ファイバでは、金属不純物による吸収は無視できるほど高純度化が進んでいる。従って石英系光ファイバの紫外領域における透過率は、製造条件に依存する石英ガラス中の構造欠陥によって決定される。
【0014】
微量の構造欠陥は、製造条件に依存するが、例えば作成時の酸化還元雰囲気によって酸素欠乏型欠陥や酸素過多型欠陥などが生じる。光ファイバのようにすす状のシリカ粒子(スート)をハロゲン雰囲気において脱水処理し、熱処理により透明ガラス化する製造方法においては、酸素欠乏欠陥が生成し、その結果紫外領域の透過率が低下する。脱水処理によってOH基含有量が変化するため、紫外領域の透過率はOH基に依存する。
【0015】
脱水処理を施した無水タイプのシリカガラスは波長245nmおよび163nmにSi−Si酸欠乏欠陥に起因する吸収帯が観測される。さらにスートを還元性雰囲気で焼結したシリカガラスでは240nmに吸収帯が観測される。
【0016】
これに対し、スートをHeガス雰囲気で焼結したシリカガラスでは、高濃度のOH基を含有し200〜400nmにおいて顕著な吸収帯は観測されない。以上のように紫外光伝送を目的とする石英ファイバはOH基の含有量に依存する。
【0017】
一方、このような充実型の石英系光ファイバとは別に、紫外光伝送を目的として中空ガラスキャピライリの内部に有機金属気相成長法(MOCVD法)によってアルミニウムを内装した中空導波路が提案されている(光アライアンス 1999.7月号pp.20-22)。石英系光ファイバと比較して、中空導波路のメリットは高いエネルギー密度に耐えることである。充実型の石英系光ファイバの場合、伝送エネルギー密度は50mJ/cm程度が限界であるのに対し、中空導波路の場合は2J/cm以上のエネルギー密度のビーム伝送が可能である。また紫外光用に改良された石英系光ファイバの場合でも、ArFレーザの波長193nmがほぼ限界で、さらに短波長の真空紫外領域の光を伝送することは難しい。これに対しアルミニウム薄膜を内装した中空導波路では、波長130nm程度までの伝送が可能で、157nmのF2レ―ザ伝送も可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
(1)赤外光伝送用の中空導波路の問題点
しかしながら、従来の赤外光伝送用の中空導波路は、以下の問題を有している。即ち、ガラスキャピラリ41を用いた中空導波路4は可撓性を有するが、小さい曲げ半径で長期間保持されると突然破断する可能性がある。さらに、人体に挿入したり、衝撃や外圧か加わるような使用環境で使用したりする場合には破損の可能性があり好ましくない。
【0019】
母材にフッ素樹脂等の樹脂製チューブを用いた中空導波路は、その破損の可能性がガラスキャピラリよりは低いものの、衝撃や外圧によって断面形状や長手方向の伝送路全体の曲げ形状が不規則に変化し、伝送特性が変動しやすい。また、樹脂製チューブは、ガラスキャピラリに比べ、内壁の表面が粗く、研磨やエッチングによって内壁表面の粗さをガラス並に改善することは難しい。そのため、可視光等の短波長伝送では損失が大きくなってしまう。
【0020】
また、中空導波路における伝搬光の損失は全て熱に変換されるため、熱伝導率が小さなガラス或いは樹脂製チューブを母材に用いた中空導波路は、局部的な発熱を伴う可能がある。
【0021】
めっきによりガラスキャピラリ内壁上に銀層を形成し、その内壁をヨウ素化してヨウ化銀を誘電体層とする中空導波路では、ヨウ素化される銀層がなくなってしまうことを避けるため、銀層は光学的に寄与する膜厚よりも十分厚く形成される必要がある。その結果ヨウ化銀層を内装した中空導波路内壁表面の粗さは、銀層の鏡面状態が損なわれており、特に可視光等の短波長の光伝送には不利である。
【0022】
可撓性を要しない用途で使用される場合には、機械的な強度が高い、或いは熱伝導率が 大きいという点で、金属パイプを中空導波路の母材に利用することが有利である。しかし、従来の内面を鏡面状態に研磨したステンレスパイプを母材として用い、その内壁にめっきにより銀層を形成した中空導波路は、めっきによって内壁表面の平滑性を損ない、ガラスキャピラリに銀めっきした中空導波路と比較して著しく平滑性が劣る。
図6は、ステンレスパイプの内壁を鏡面状態に研磨し、その内壁にめっきで銀層を形成した金属中空導波路に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性を示し、図7はガラスキャヒラリの内壁にめっきで銀層を形成した金属中空導波路に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性を示す。両金属中空導波路は長さ40cm、内径0.7mmであり、めっきによる銀層の膜厚も同じである。
【0023】
図6、7に示すように、ステンレスパイプの金属中空導波路の損失がガラスキャピラリの金属中空導波路の損失よりかなり大きい。特に、短波長ほど損失が大きくなっている。これは、ステンレスパイプの内面研磨がガラスキャピラリと同等の平滑さまで達していないか或いは両者の平滑さが同程度だとしても、下地材料の違いから銀層の表面粗さが異なり、下地の平滑さが維持されていないためと考えられる。このような特性により、ステンレスパイプを内面研磨し、めっきで銀層を形成した中空導波路は、ガラスキャピラリにめっきで銀層を形成した金属中空導波路よりも伝送損失の点で劣る。
【0024】
また、ガラスキャピラリの中空導波路は、外力への耐性が低いこと、母材に熱伝導率の低いガラスを用いているため局部発熱が起こりやすいこと、銀めっきが剥離し易いことといった問題点がある。
【0025】
また、ステンレスパイプを内面研磨し、さらに銀めっき層を形成した中空導波路の代わりに、銀パイプそのものを内面研磨し、金属膜をめっきする工程を削除することによって、その内壁の表面粗さを維持できる中空導波路も検討されている。この中空導波路は、母材全体が銀であるため、非常にコスト高になってしまう。赤外波長帯レーザ光を低損失で伝送するためには、中空導波路の光学的に寄与する金属材料としては銀以外にも金や銅が好適であることが知られている。中空導波路の母材を金で形成することは、コスト面から実用化が困難である。また、銀や銅は酸化や硫化によって著しく変色を起こすので、中空導波路の母材をこれらの材料で形成して、外部環境に晒されるのは好ましくない。また、これらの材料を母材に用いた中空導波路は、僅かな曲げによっても容易に塑性変形を受け、特に繰り返し曲げが生じる使用環境下では伝送特性の劣化が著しい。
【0026】
(2)紫外光伝送用の中空導波路の問題点
従来の紫外光伝送用の中空導波路は、以下の問題を有している。
即ち、一般に使用されている石英光ファイバに、紫外光のパルス光を入射すると、初期の透過率は良好でも、光照射時間とともに透過特性が劣化してしまう(Appl.Opt.27、p.3124,1988)。
【0027】
前述のようにOH基濃度を調整し、紫外用でも安定して伝送できる紫外光伝送用の石英光ファイバも開発が進められているが、応用範囲の広いArFレーザやKrFレーザ伝送などの伝送には長期的信頼性においてまだ難点がある。さらに短波長のF2レーザや高出力パルスになると石英ファイバでは、長時間安定した伝送を維持することはできない。
【0028】
一方、アルミニウム中空導波路は、波長190nm以下、あるいは高パワー強度の紫外レーザ伝送においては石英ファイバよりも有望である。しかし、前述の石英ガラスキャピラリの内部にMOCVD法によりアルミニウム薄膜を内装した中空導波路では、必ずしもアルミニウム薄膜の付着力が十分強くなく剥離しやすい。特に、中空導波路による紫外光伝送の場合には、空気中の酸素が紫外光を吸収するオゾンヘと変化し伝送損失が増加するのを防ぐために、中空内部を真空にするか、希ガスを封入するのが一般に行なわれる。この為、内装されるアルミニウム薄膜の付着力が弱いと、ガスの吸引、導入のときに薄膜が剥離してしまう可能性がある。
【0029】
またアルミニウム薄膜を石英キャピラリの内部に形成するには高価なMOCVD装置が必要である。
さらに、このようなガラスキャピラリを用いた中空導波路は、外力への耐性が低く、衝撃や曲がりに起因して破断するおそれがある。
【0030】
そこで、本発明の目的は、機械的に強固で、小さな曲げ半径においても破断せず、熱伝導性に優れ、伝搬光を低損失伝送できる中空導波路及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、高いピ―クパワーを有する短波長の紫外レ―ザ光に対しても長期間安定した伝送効率を維持し得る中空導波路及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
(1)本発明の一側面に従い、内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路が提供される。
【0032】
(2)本発明の他の側面に従い、内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管の内壁上に形成される誘電体層と、該誘電体層内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路が提供される。
【0033】
(3)本発明の他の側面に従い、金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程とから構成される中空導波路の製造方法が提供される。
【0034】
(4)本発明の他の側面に従い、金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程と、
前記研磨された内側の金属層の内壁上に誘電体層を形成する工程とから構成される中空導波路の製造方法が提供される。
【0035】
(5)本発明の他の側面に従い、互いに異なる金属材料から成る内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路であって、
前記外側の金属層と前記内側の金属層との接合強度は10MPa以上である中空導波路が提供される。
【0036】
前記内側の金属層は複素屈折率の絶対値の高い金属材料から成ることが望ましい。
前記内側の金属層は金、銀または銅から成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成り得る。
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成り得る。
前記内側の金属層は銀から成り、かつ、前記誘電体層はヨウ化銀から成り得る。
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記誘電体層は酸化アルミニウムから成り得る。
前記酸化アルミニウムから成る誘電体層は0.1μm以下の厚さを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、機械的に強固で、小さな曲げ半径においても破断せず、熱伝導性に優れ、伝搬光を低損失伝送できる中空導波路が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0039】
図1は、本発明に従う第1の実施形態の中空導波路1を示す断面図である。
【0040】
図1に示すように、中空導波路1は、金属パイプとして円筒形の銀パイプを内側に、ステンレスパイプを外側にして圧接により一体形成して、銀クラッド層12とステンレス層11からなる銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10を形成し、その内壁に誘電体層13としてオレフィンポリマ層を形成したものである。誘電体層13内の中空領域14は光を伝搬させるコアに相当する。
【0041】
この中空導波路1の製造方法について説明する。
【0042】
図3(a)に示すように、本実施の形態では、まずステンレスパイプ16と、ステンレスパイプ16の内径より小さな外径を有する銀パイプ15の2つの金属パイプを用意し、ステンレスパイプ16内に銀パイプ15を挿入し、押出圧延によってステンレス層と銀層圧接された2重積層パイプを形成した。その後、所望の最終形状になるまで引き抜き加工を繰り返し、細径の銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10を得た。
【0043】
銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10形成後の、内側の銀パイプ15で形成された層を銀クラッド層12、外側のステンレスパイプ16で形成された層をステンレス層11と称する。銀クラッド層12とステンレス層11との接合強度は10MPa以上である。銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10における銀クラッド層12の膜厚は、無電解により形成される銀膜よりも十分に厚いので、銀クラッドステンレス管(金属クラッド管)10に曲げ等の加工を施しても、銀クラッド層12が剥離することはない。
【0044】
中空導波路1のサイズの例として、金属クラッド管10の外径は1.1mm、内径は0.66mm、ステンレス層11の厚さは0.15mm、銀クラッド層12の厚さは0.07mmとした。銀クラッド層12は、その厚さを研磨による研磨しろを考慮して0.05mm以上とするの望ましく、また、同心円上に均一に形成され、曲げ加工等による銀クラッド層12の変形、剥離を抑えるため、ステンレス層11よりも薄くすることが好ましい。
一般には、中空導波路として好適な内側の金属パイプの材料として挙げられる金、銀、銅は、外側の金属パイプの材料として挙げられるステンレス、燐青銅、チタン、チタン合金よりも柔らかく塑性変形を受けやすいため、内側の金属パイプの厚さは外側の金属パイプの厚さの1/2以下にすることか望ましい。
【0045】
次に、図3(b)に示すように、銀クラッド層12の内壁を機械化学研磨して鏡面状態にする。この工程は化学研磨による溶出と砥粒による擦過作用を併用したもので、内面の平滑化だけでなく銀クラッド層12の過去変質層の発生を防ぐことができる。研磨前後の内面粗さを比較すると中心線平均粗さRaは1.1μmから0.001μmに、また、最大粗さRmaxは8.9μmから0.03μmに低減できた。本発明に係る中空導波路は 主に赤外光の伝搬を目的としている、同時に、ガイド光として波長の短い可視光の伝搬にも適用できる。よって、内面粗さは、伝搬させる光の波長に対して、Raで1/200以下、Rmaxで1/20以下とするのが好ましい。研磨後の銀クラッド層12の膜厚減少分は0.02mmとし、その結果最終的な銀クラッドステンレス管10の内径は0.7mmとなる。
【0046】
最後に図3(c)に示すように、内壁を鏡面状態に研磨した銀クラッドステンレス管10の内部にオレフィンポリマを溶解させた溶液を流入し、熱処理を行って硬化させると、銀クラッド層12の表面にオレフィンポリマ層(誘電体層13)を内装した中空導波路1か得られる。誘電体層13の膜厚は伝搬光の波長を考慮して、波長10.6μmのCOレーザ光を低損失で伝送できるように、0.3μmとした。
【0047】
次に本実施の形態の作用について説明する。
【0048】
中空導波路1は、金属クラッド管10及び誘電体層13をクラッド、中空領域14をコアとしてレーザ光を伝搬させる。詳細には、レーザ光は中空領域14と誘電体層13との境界と、誘電体層13と銀クラッド層12との境界とで反射を繰り返すことで伝搬方向(中空導波路長手方向)へ伝搬する。本実施の形態の中空導波路1は、波長10.6μmのCOレーザ光を、長さ40cm、透過率95%以上で伝送させることができる。
【0049】
中空導波路1は、母材にステンレスパイプ16を用いているため機械的に強固であると共に、曲げ半径の小さな曲げや外圧等によって塑性変形されないので破損や伝送特性の劣化がほとんどない。さらに、ステンレス層11、銀クラッド層12共に、熱伝導率の大きい金属で金属クラッド管10を形成しているため、局部的な発熱を抑えることかできる。金属クラッド管10の内側の金属層に複素屈折率の絶対値の大きな金属である銀を用いているため、反射率の大きいクラッドとすることができ、伝搬光の放射損失を小さくしている。また、銀パイプ15を母材のステンレスパイプ16に圧接して金属クラッド管10を形成しているため、銀クラッ層12の母材であるステンレス層11からの剥離がほとんどない。
【0050】
ここで、図2に示す中空導波路1の波長−損失特性を図に示した波長−損失特性と比較する。
【0051】
図2は、銀クラッド層12の内壁を鏡面状態に研磨した金属中空導波路(金属クラッド管)10に白色光を伝搬させたときの波長−損失特性である。図2に示すように、金属中空導波路(金属クラッド管)10の波長−損失特性は、短波長帯で損失が大きくなる特性をしている、図のステンレス管の内壁にめっきによって銀層を形成した金属中空導波路の波長−損失特性と比較して、どの波長帯においても損失が小さい。また、図のガラスキャピラリの内壁上にめっきによって銀層を形成した金属中空導波路と比較すると、両者の伝搬損失は略同程度である。よって、本実施の形態の中空導波路1は、上述の母材にステンレス管を用いた長所を備えつつ、光の低損失伝送を可能にする。
【0052】
さらに、図2の特性線から、めっきによって形成された銀層の屈折率よりも本実施の形態の銀クラッドの屈折率の方がバルクの銀の屈折率に近いことがわかる。
【0053】
また、本実施の形態の中空導波路1の製造方法によれば、上述の機械的強度強く、小さな曲げや衝撃、外圧によって破損しにくく、光学的特性においても可視光から赤外波長帯にわたり光を低損失で伝搬できる中空導波路を製造することができる。
【0054】
上記実施の形態の中空導波路1では、誘電体層13にオレフィンポリマを用いたが、その変形例として、銀クラッド層の一部をヨウ素化することにより銀クラッド層の内壁上にヨウ化銀からなる誘電体層を形成してもよい。
【0055】
この誘電体層がヨウ化銀で形成された中空導波路の製造方法は、上述の図3(a)(b)までは中空導波路1の製造方法と同様であるが、銀パイプの内壁を研磨した後、銀クラッド層の一部をヨウ化銀に化学的に変化させる。この製造方法では銀クラッド層の一部を化学的に変化させてヨウ化銀層(誘電体層)を形成するので、ヨウ化銀層の厚さを考慮して銀クラッド層を形成する必要がある。
【0056】
ガラスキャピラリの内壁に銀めっき層を形成し、その一部をヨウ化銀層に化学的に変化させた従来の中空導波路においては、銀めっき層はヨウ素化する分だけ厚めに形成しなければならず、銀めっき層内壁の表面が粗くなってしまう。この従来の中空導波路に比較して、本実施の形態においては、内壁を鏡面状態に研磨した銀クラッドステンレス管を用いるので、表面が研磨された状態を維持でき、結果としてガラスキャピラリの内壁に銀めっきした場合よりも表面が平滑になり、レーザ光を低損失で伝送することかできる。さらに、上述の中空導波路1と同様の作用効果を有する。
【0057】
本実施の形態の中空導波路1では金属クラッド管の内側のクラッドに銀パイプ15を用いたが、ヨウ化銀からなる誘電体層を用いない中空導波路においては、銀に限らず、金や銅等の複素屈折率の絶対値の大きい金属からなるパイプを用いても、同様に赤外波長帯において低損失でレーザ光の伝送を行うことができる。
【0058】
また、本実施の形態の中空導波路1では外側の金属パイプにステンレスパイプ16を用いたか、これに限らず、塑性変形の生じにくい燐青銅パイプや、人体に挿入しても無毒安全なチタン、或いはニッケルチタン等のチタン合金を用いてもよい。
【0059】
図4は、本発明に従う第2の実施形態の中空導波路21を示す断面図である。図4において、同様の構成要素は、図1に使用される同一の符号で示されている。
【0060】
図4に示すように、中空導波路21は、金属パイプとして円筒形のアルミニウムパイプを内側に、ステンレスパイプを外側にし、圧接により―体形成して、アルミニウムクラッド層22とステンレス層11からなるアルミニウムクラッドステンレス管(複合金属管)20を形成し、さらにアルミニウムクラッド層22の内壁面を研磨したものである。アルミニウムクラッド層22の内壁面の表層を酸化させ酸化アルミニウム層23(Al)が形成され、中空領域14を紫外光が伝搬する。
【0061】
次に、この中空導波路21の製造方法について説明する。
本実施の形態では、まずステンレスパイプとステンレスパイプの内径より小さな外径を有するアルミニウムパイプの2つの金属パイプを用意し、ステンレスパイプ内にアルミニウムパイプを挿入し、押出圧延によってステンレス層とアルミニウム層が圧接された2重積層パイプを形成した。その後、所望の最終形状になるまで引き抜き加工を繰り返し、細径のアルミニウムクラッドステンレス管20を得た。
【0062】
アルミニウムクラッドステンレス管20を形成した後の、内側のアルミニウムパイプで形成された層をアルミニウムクラッド層22、外側のステンレスパイプで形成された層をステンレス層11と称する。アルミニウムクラッド層22とステンレス層11との接合強度は10MPa以上である。アルミニウムクラッドステンレス管20におけるアルミニウムクラッド層22の膜厚は、ガラスキヤピラリ内にMOCVD法により形成されるアルミニウム膜よりも十分厚いので、アルミニウムクラッドステンレス管に曲げ等の加工を施しても、アルミニウムクラッド層22が剥離することはない。
【0063】
中空導波路21のサイズは、例えば、アルミニウムクラッドステンレス管20の外径が1.1mm、内径は0.66mm、ステンレス層11の厚さは0.15mm、アルミニウムクラッド層22の厚さは0.07mmとした。アルミニウムクラッド層22は、その厚さを研磨による研磨しろを考慮して、0.05mm以上とすることが望ましい。
【0064】
また、同心円上に均―に形成されること、曲げ加工等によるアルミニウムクラッド層22の変形、剥離を抑えるため、ステンレス層11よりも薄くすることが好ましい。外側の金属パイプの材料としては、ステンレス以外に塑性変形の生じにくい燐青銅、人体に挿入しても無毒安全でしかも軽量なチタン、あるいはニッケルチタン等のチタン合金が挙げられる。アルミニウムは、外側の金属パイプの材料として候補となるこれらの材料よりも軟らかく塑性変形を受けやすいので、内側の金属パイプ(アルミパイプ)の厚さは外側の金属パイプの厚さの1/2以下にすることが望ましい。
【0065】
次に、アルミニウムクラッド層22の内壁面を機械化学研磨して鏡面状態にする。この工程は化学研磨による溶出と砥粒による擦過作用を併用したものである。研磨前後の内面粗さを比較すると、中心線平均粗さRaは1.1μmから0.01μm以下に、また、最大粗さRmaxは9μmから0.03μm以下に低減できた。研磨後のアルミニウムクラッド層2の膜厚減少分は0.02mmとし、その結果最終的なアルミニウムクラッドステンレス管20の内径は0.7mmになる。
【0066】
より好適には、最後に内壁を鏡面状態に研磨したアルミニウムクラッドステンレス管20の内部に水蒸気を流入させながら高温熱処理により、アルミニウムクラッド層22内壁面を酸化させ酸化アルミニウム層23を形成する。これによりアルミニウムクラッド層22の化学的変質を防止するとともに、高出力の紫外レーザ光によるアブレーションを抑制することができる。この効果は、0.1μm以下の膜厚を有する酸化アルミニウム層23において十分得られる。
【0067】
次に、本実施の形態の効果を説明する。
中空導波路21は、母材にステンレスパイプを用いているため、機械的に強固であると共に、曲げ半径の小さな曲げや外圧等によって変形を受けにくいので破損や伝送特性の劣化がほとんどない。
【0068】
さらに、ステンレス層11、アルミニウムクラッド層22が共に熱伝導率の大きい金属材料で形成されているので、レーザ光伝送によって発熱した場合でも、局部的な発熱を抑えることができる。
【0069】
アルミニウムパイプを母材のステンレスパイプに圧接してアルミニウムクラッドステンレス管20が形成されているので、アルミニウムクラッド層22が母材であるステンレス層11から剥離しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に従う第1の実施形態の中空導波路を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【図3】(a)〜(c)は第1の実施形態の中空導波路の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明に従う第2の実施形態の中空導波路を示す断面図である。
【図5】従来の中空導波路を示す断面図である。
【図6】中空導波路の母材としてステンレスを用いた従来の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【図7】中空導波路の母材としてガラスキャピラリを用いた従来の金属中空導波路の波長−損失特性を示す。
【符号の説明】
【0071】
1、4、21 中空導波路
10 金属クラッド管
11 ステンレス層
12 銀クラッド層
13 誘電体層
14、44 中空領域
15 銀パイプ
16 ステンレスパイプ
20 アルミニウムクラッドステンレス管
22 アルミニウムクラッド層
23 酸化アルミニウム層
41 ガラスキャピラリ
42 金属層
43 誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、
該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路。
【請求項2】
内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、
該金属クラッド管の内壁上に形成される誘電体層と、
該誘電体層内側に形成される中空領域とから構成され、
前記金属クラッド管は互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して形成される中空導波路。
【請求項3】
前記内側の金属層は複素屈折率の絶対値の高い金属材料から成る、請求項1または2に記載の中空導波路。
【請求項4】
前記内側の金属層は金、銀または銅から成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成る、請求項1または2に記載の中空導波路。
【請求項5】
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成る、請求項1または2に記載の中空導波路。
【請求項6】
前記内側の金属層は銀から成り、かつ、前記誘電体層はヨウ化銀から成る、請求項2または4に記載の中空導波路。
【請求項7】
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記誘電体層は酸化アルミニウムから成る、請求項2または5に記載の中空導波路。
【請求項8】
前記酸化アルミニウムから成る誘電体層は0.1μm以下の厚さを有する、請求項7に記載の中空導波路。
【請求項9】
金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程とから構成される中空導波路の製造方法。
【請求項10】
金属管と該金属管の内側に形成される中空領域とから構成される中空導波路を製造する方法であって、
互いに異なる金属材料から成る金属パイプを圧接して、内側の金属層と外側の金属層から成る金属クラッド管を形成する工程と、
前記内側の金属層表面を研磨する工程と、
前記研磨された内側の金属層の内壁上に誘電体層を形成する工程とから構成される中空導波路の製造方法。
【請求項11】
前記内側の金属層は複素屈折率の絶対値の高い金属材料から成る、請求項9または10に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項12】
前記内側の金属層は金、銀または銅から成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成る、請求項9または10に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項13】
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記外側の金属層はステンレス、燐青銅、チタンまたはチタン合金から成る、請求項9または10に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項14】
前記内側の金属層は銀から成り、かつ、前記誘電体層はヨウ化銀から成る、請求項10または12に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項15】
前記内側の金属層はアルミニウムから成り、かつ、前記誘電体層は酸化アルミニウムから成る、請求項10または13に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項16】
前記酸化アルミニウムから成る誘電体層は0.1μm以下の厚さを有する、請求項15に記載の中空導波路の製造方法。
【請求項17】
互いに異なる金属材料から成る内側の金属層と外側の金属層とから成る金属クラッド管と、
該金属クラッド管内側に形成される中空領域とから構成され、
前記外側の金属層と前記内側の金属層との接合強度は10MPa以上である中空導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−11378(P2006−11378A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−132852(P2005−132852)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(591150085)日立伸材株式会社 (1)
【Fターム(参考)】