説明

中空形状物品の内面メッキ方法及びその装置

【課題】 中空形状物品の内面の必要内面域には、少量のメッキ液を使用して、性状の安定した貴金属メッキ層が効果的に形成されること。
【解決手段】 中空形状物品の内面メッキ方法及びその装置は、陽電極4を内挿した絶縁スペーサ5が中空形状物品1の内面2に配置される。この絶縁スペーサ5の筒状本体5aに形成されるメッキ液の通過穴7は、貴金属メッキ層3の必要内面域Aに対応する位置に穿設される。絶縁スペーサ5内では、荷電後に、前記メッキ液が注入されることによって、前記通過穴7を介して貴金属メッキ層3が必要内面域Aに付着形成される。メッキ液注入は、スポイトなど適宜の方法で行えるが、注入管8及び溢水受け9を備えるようにすれば、メッキ液の管理が容易に行え省資源化にも寄与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空形状物品の内面メッキ方法及びその装置に関し、特に、中空形状物品の内面には、貴金属メッキ層が必要内面域に効果的に施され、しかもその作業性及び安全性がそれぞれ確保されるようにしたメッキ処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅などの電導性素材を貴金属メッキする場合、一般的には、メッキ液中に素材全体をそのまま浸漬する方法が知られている。そして、この方法によれば、中空形状物品の内面メッキでは、メッキの不要な部分があっても、そのままメッキされてしまうことになる。つまり、必要な部分に必要な貴金属メッキを効果的に施すことができないという問題点を有する。
また、メッキの不要な部分を予め電気的な絶縁体でマスキングすることも知られているが、前処理工程が必要となるという基本的な問題点があった。
さらに、従来方法では、多量のメッキ液を浴槽内に供給しなければならないという不都合な点もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
解決しようとする課題は、中空形状物品の内面メッキ方法及びその装置では、少量のメッキ液を使用して、しかもマスキングなどの前処理工程がなく、必要内面域に貴金属メッキ層を効果的に付着形成できること、また、その作業性及び安全性が確保されることにある。
このため、本発明に係る中空形状物品の内面メッキ方法及びその装置では、これらの課題を基本的に解消することを目的とし、また、品質性状も良好なメッキ処理が効率よく行われることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に係る請求項1記載の中空形状物品の内面メッキ方法は、銅などの電導性素材からなる中空形状物品の内面には、貴金属メッキ層の必要内面域が設定され、しかもメッキ液の通過穴を備えた筒形状の絶縁スペーサに内挿された陽電極に対し、中空形状物品を陰電極とすることにより、貴金属メッキ層が必要内面域に形成されるようにした中空形状物品の内面メッキ方法であって、前記貴金属メッキ層は、荷電した後に、メッキ液が前記絶縁スペーサ内に注入されることによって、前記必要内面域に対応する絶縁スペーサの通過穴を介して付着形成されるようにしたことを特徴とする。
【0005】
上記構成によれば、貴金属メッキ層は、必要内面域を設定しているので、必要な部分だけにメッキ処理すればよく効率的となる。
また、メッキ液は、絶縁スペーサを介して中空形状物品内に注入されることから少量使用が可能にあり、荷電した後に注入されることから金属同士のイオン化傾向に基づく貴金属イオンの早期析出が防止される。このため、貴金属メッキ層は、安定した品質性状を有するものとして形成される。
さらに、絶縁スペーサ内に注入されたメッキ液は、絶縁スペーサの通過穴を介して必要内面域に貴金属メッキ層を付着形成する。このため、開口していない絶縁スペーサ部分にみられる電流密度の減衰がなく、安定したメッキ処理が可能になる。
【0006】
本発明に係る請求項2記載の中空形状物品の内面メッキ装置は、銅などの電導性素材からなる中空形状物品の内面には、筒形状の絶縁スペーサを配置して、この絶縁スペーサ内にメッキ液を注入することにより、貴金属メッキ層が必要内面域に形成されるようにした中空形状物品の内面メッキ装置であって、前記絶縁スペーサは、筒状本体内に陽電極が内挿され、しかもその筒状本体には、これに注入されるメッキ液の通過穴が、前記必要内面域に対応する位置に穿設されていることを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、中空形状物品の内面には、陽電極を内挿した筒形状の絶縁スペーサが配置され、この絶縁スペーサ内にメッキ液が注入されることにより貴金属メッキ層が必要内面域に形成される。したがって、この装置は、必然的に小型化されており、これに伴って注入されるメッキ液も少量使用になるものである。
また、絶縁スペーサに内挿される陽電極は、中空形状物品を陰電極として、通電可能に構成されているため、メッキ処理の操作性が容易となる。
さらに、絶縁スペーサの備えられたメッキ液の通過穴は、貴金属メッキ層の必要内面域に対応する位置に穿設されている。このため、荷電に際しても、電流密度の減衰がなく、安定した品質性状を有する貴金属メッキ層が得られる。
【0008】
請求項3記載の中空形状物品の内面メッキ装置は、前記絶縁スペーサ内には、メッキ液の注入管が備えられ、しかも、その注入端側には、メッキ液のオーバーフローに対する溢水受けが備えられていることを特徴とする請求項2に記載の中空形状物品の内面メッキ装置である。
上記構成によれば、メッキ液の注入管及び溢水受けが備えられていることから、メッキ液の供給及び管理が確実に行われるため、省資源化にも寄与する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る中空形状物品の内面メッキ方法は、貴金属メッキ層が注入されるメッキ液によって、荷電後に必要内面域に付着形成される。このため、メッキ液は、注入量が少量で、しかも通電しながらの注入によってイオン化傾向に基づく金属のイオンの析出が防止される。
本発明に係る中空形状物品の内面メッキ装置は、中空形状物品の内面には、筒形状の絶縁スペーサを配置して、この絶縁スペーサ内にメッキ液を注入することにより、貴金属メッキ層が必要内面域に形成きれる。このため、本発明装置では、小型化され、メッキ液も少量使用の省資源の利点を有する。
また、本発明に係る中空形状物品の内面メッキ装置は、絶縁スペーサの通過穴が貴金属メッキ層の必要内面域に対応するように穿設されている。このため、貴金属メッキ層の必要内面域には、注入されたメッキ液が適切な電流密度を保持でき、品質性状の安定した貴金属メッキ層を形成できる。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明に係る中空形状物品の内面メッキ方法について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ方法を概念的に示す説明図である。
図1において、第1実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ方法では、得られた中空形状物品1は、図2(a)(b)で示されるように銅などの電導性素材からなり、その内面2には、貴金属メッキ層3の必要内面域Aが設定されている。
前記必要内面域Aは、内面2のうち、全部又は一部を対象としているもので、図2(a)の場合では、約下半分を必要内面域Aとし、図2(b)の場合では、約上半分を必要内面域Aとしている点で異なっている。なお、本発明では、図示を省略しているが、当然のことながら、前記必要内面域Aは,内面2の全部に形成される場合も含まれている。
また、貴金属メッキ層3は、金、銀などのメッキ層を対象にしており、これに応じて、陽電極4の材質が選択される。
前記メッキ液は、通常使用されるものでよく、例えば銀メッキ層では、シアン化銀、シアン化カリ、炭酸カリなど適当な組成で適用する。温度は、25℃程度で、電流密度は、約2.0A/dm程度である。また、例えば金メッキでは、シアン化金、シアン化カリなど適当な組成で適用するが、付着強度などから下地メッキ層を備えることが望ましい。温度は45℃前後で、電流密度は約1.2A/dm程度である。
【0011】
ところで、前記中空形状物品1は、例えば電気部品に適用されるものであり、前記貴金属メッキ層3を形成するに際して、前記内面2内には、前記陽電極4を内挿した筒形状の絶縁スペーサ5が配置される。
前記陽電極4は、前記中空形状製品1を陰電極6として通電が可能になるよう配線される。この場合、前記陽電極4は、前述したように、貴金属メッキ層3の対象金属によって、その材質が選択される。
また、陽電極4の挿入端は、陰電極6となる中空形状物品に直接接触しないよう絶縁スペーサ5の底面との間にギャップBを存在させている。これは、陰電極6との接触によるショートを防止するためであり、これによってメッキ処理作業の電気に対する安全性が確保される。
【0012】
前記絶縁スペーサ5は、ゴム、プラッチックなど電気の絶縁体からなり、その筒状本体5aには、メッキ液の通過穴7が穿設されている。そして、この通過穴7は、前記中空形状物品1の貴金属メッキ層3の必要内面域Aに対応する位置に備えられる。
このようにして配置された絶縁スペーサ5は、荷電した後に、貴金属メッキ層3に適合するメッキ液が、矢印Cで示されるように筒状本体5a内に注入される。そして、このメッキ液の注入によって、貴金属メッキ層3が、前記通過穴7を介して必要内面域Aに付着形成される。この場合、メッキ液の注入は、例えばスポイトなど適宜の方法で行われる。注入されるメッキ液は、通過穴7の存在によって適切な電流密度を保つことができ、これによって、貴金属メッキ層3が必要内面域Aに付着形成される。
【実施例2】
【0013】
次に、本発明に係る中空形状物品の内面メッキ装置について、図3(a)(b)を参照して説明するが、前述した中空形状物品の内面メッキ方法と同様な部分或いは重複する部分については、説明を省略または簡略化する。図3(a)(b)は、本発明の第2実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ装置の主要な構成部品を示す概念的な説明図である。
図3(a)(b)において、絶縁スペーサ5は、前述したようにゴム、プラスチックなどの絶縁体からなり、その筒状本体5a内には、前記陽電極4が内挿され、前述したように、この陽電極4は、陰電極6となる中空形状物品1間で通電可能になるよう構成される。そして、図3(a)は、図2(a)に示される中空形状物品1の内面メッキ方法に適用された絶縁スペーサ5であり、図3(b)は、有底筒状をなし、図2(b)にみられる中空形状物品1の内面メッキ方法に適用された絶縁スペーサ5である。
また、絶縁スペーサ5の筒状本体5aには、前述したように、荷電後に注入されるメッキ液の通過穴7が穿設されるようになっている。そして、この通過穴7は、中空形状物品1における貴金属メッキ層3の必要内面域Aに対応する位置にあって、絶縁スペーサ5内に注入されるメッキ液の電流密度が適切に保たれるよう機能する。これに対し、開口していない絶縁スペーサ5の部分では、絶縁機能により電流の減衰がみられ、貴金属メッキ層3の付着量が減少する。
なお、前記通過穴7の形状、個数などについては、特定されるものではないが、図示の丸穴の場合では、周方向で90°間隔、軸方向では4個及び5個の隣合せになるよう形成している。
【実施例3】
【0014】
さらに、本発明に係る中空形状物品の内面メッキ装置について、図4を参照して説明するが、前述した実施例1及び実施例2と同様な部分或いは重複する部分については、説明を省略または簡略化する。図4は、本発明の第3実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ装置を示す概念的な説明図である。
図4において、第3実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ装置では、得られた中空形状物品1は、図2(a)に示されているが、中空形状物品1の内面2には、その約上半分に貴金属メッキ層3の必要内面域Aが設定されている。
そして、前記中空形状物品1の内面2には、陽電極4を内挿した絶縁スペーサ5が配置され、絶縁スペーサ5の筒状本体5a内に注入されたメッキ液は、前記必要内面域Aに対応する位置に設けられた通過穴7を介して貴金属メッキ層3を付着形成する。
前記絶縁スペーサ5は、その筒状本体5aには、陽電極4が内挿されるとともに、約下半分には、メッキ液の通過穴7が穿設されている。この場合、この通過穴7は、前述したように、貴金属メッキ層3の必要内面域Aに対応する位置にあって、絶縁スペーサ5内に注入されるメッキ液の電流密度が適切に保たれるように機能する。
また、前記陽電極4は、前述したものと同様に、陰電極6となる中空形状物品との間で通電可能になるよう構成されている。
【0015】
さらに、メッキ液は、前述したように、荷電した後に注入されるが、この注入に際して、絶縁スペーサ5の内部に注入管8が備えられるようになっている。この注入管8は、中空形状物品1の内面2の奥側にも、メッキ液を行き渡せる配慮である。つまり、メッキ液は、内面2の奥側では、流動、攪拌などがあれば、メッキ処理が有効に行われるからである。
また、メッキ液の注入端側では、メッキ液のオーバーフローを配慮したことから、溢水受け9が備えられている。この溢水受け9は、Oリング10によって密封性を高めた受け皿11及び排水口12などからなっている。この場合、排水口12から流出したメッキ液は、リサイクルの観点から資源の再利用が考慮されている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 本発明の第1実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ方法を概念的に示す説明図である。
【図2】 第1実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ方法により得られた中空形状物品を示す説明図で、図2(a)は、約下半分を内面メッキした断面図、図2(b)は、約上半分を内面メッキした断面図である。
【図3】 本発明の第2実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ装置の主要な構成部品を示す概念的な説明図で、図3(a)は、約下半分に通過穴を形成した絶縁スペーサの正面図、図3(b)は、約上半分に通過穴を形成した絶縁スペーサの正面図である。
【図4】 本発明の第3実施形態に係る中空形状物品の内面メッキ装置を概念的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 中空形状物品
2 内面
3 貴金属メッキ層
4 陽電極
5 絶縁スペーサ
5a 筒状本体
6 陰電極
7 通過穴
8 注入管
9 溢水受け
A 必要内面域
B ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅などの電導性素材からなる中空形状物品の内面には、貴金属メッキ層の必要内面域が設定され、しかもメッキ液の通過穴を備えた筒形状の絶縁スペーサに内挿された陽電極に対し、中空形状製品を陰電極とすることにより、前記貴金属メッキ層が必要内面域に形成されるようにした中空形状物品の内面メッキ方法であって、
前記貴金属メッキ層は、荷電した後に、メッキ液が、前記絶縁スペーサ内に注入されることによって、前記必要内面域に対応する絶縁スペーサの通過穴を介して付着形成されるようにしたことを特徴とする中空形状製品の内面メッキ方法。
【請求項2】
銅などの電導性素材からなる中空形状物品の内面には、筒形状の絶縁スペーサを配置して、この絶縁スペーサ内にメッキ液を注入することにより、貴金属メッキ層が必要内面域に形成されるようにした中空形状物品の内面メッキ装置であって、
前記絶縁スペーサは、筒状本体内に陽電極が内挿され、しかもその筒状本体には、これに注入されるメッキ液の通過穴が、前記必要内面域に対応する位置に穿設されていることを特徴とする中空形状物品の内面メッキ装置。
【請求項3】
前記絶縁スペーサ内には、メッキ液の注入管が備えられ、しかも、その注入端側には、メッキ液のオーバーフローに対する溢水受けが備えられていることを特徴とする請求項2に記載の中空形状物品の内面メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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