説明

中空糸膜モジュール

【課題】湿潤した中空糸膜を内蔵した中空糸膜モジュールにおいても、エアロック現象が起きにくいモジュールを提供することにある。
【解決手段】表面張力が60mN/m以下の液体による湿潤状態下で放射線照射して得られた中空糸膜が内蔵されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤した中空糸膜を内蔵した中空糸膜モジュールに関するものである。更に詳しくは、人工腎臓や血液浄化用膜モジュール、限外濾過膜モジュール、浄水器などに用いることができ、特に人工腎臓や血液浄化用膜モジュールに好適に用いることができる中空糸膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
中空糸膜モジュールは、多数の中空糸膜を内蔵したモジュールであり、種々の液体を処理し、浄化するものである。例えば、血液を処理する人工腎臓、血漿分離膜モジュールや、水などを処理する限外濾過膜モジュール、浄水器などに広く利用されている。特に近年において、中空糸膜モジュール内に液体が満たされていないタイプのものが、軽量で取り扱い性に優れている。しかしながら、中空糸膜が完全に乾燥すると、親水性向上のために中空糸膜に混合されている親水性高分子の粒子径が、乾燥による収縮のため小さくなり、親水性効果を発揮しない場合がある(非特許文献1参考)。そのため、中空糸膜モジュール内に液体が満たされていないタイプの内、中空糸膜が湿潤状態にあるモイストタイプの中空糸膜人工腎臓が主流になりつつある。
【0003】
これらの中空糸膜モジュールにおいては、モジュール内が気体で満たされているために、中空糸内空部や、中空糸膜の分離機能層に気体が噛む、いわゆるエアロック現象がたびたび問題となる。中空糸膜内空部にエアロックが生じた場合は容易に解除されず、エアロックの存在している中空糸膜には処理する液体が流れにくい。エアロック現象が生じた中空糸膜を有する場合、処理する液体がその部分を通らなくなるために、性能の低下を引き起こす。
【0004】
このようなエアロック現象を防ぐために、水と混和性を持つ表面張力の低い液体で濡らし、次いで水に置換した後、使用することが行われてきた。しかしながら、本方法は中空糸膜モジュールを使用する直前に行うことで有効な方法と成り得るため、製品使用時に煩雑な操作が必要となる。
【0005】
そこで、膜を水やメタノール、エタノールなどに浸漬後、煮沸することによって中空糸膜のマクロボイド中にある空気を排除する方法が開示されている(特許文献1)。しかしながら、煮沸することによって中空糸膜の孔径が変化する懸念がある。
【0006】
また、中空糸膜モジュール内を脱気した水で密閉し、空隙率3%以下にする方法が開示されている。しかしながら、この方法によれば、中空糸膜モジュール内に液体が満水状態のものに限定されるため、上記モイストタイプの中空糸膜モジュールには適用できない。
【0007】
すなわち、湿潤した中空糸膜を内蔵したモイストタイプの中空糸膜モジュールにおいて、エアロックの発生を抑制しうる有効なモジュールは未だ得られていなかった。
【特許文献1】特開平02−298322号公報
【特許文献2】特開平10−165773号公報
【非特許文献1】膜(MEMBRANE),30(4),185−191(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、中空糸膜モジュール内に液体が満たされていないタイプの内、中空糸膜が湿潤状態にあるモイストタイプの中空糸膜モジュールにおいても、エアロック現象が起きにくいモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を達成するため、以下の構成を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、中空糸膜モジュール内に液体が満たされていないタイプの内、中空糸膜が湿潤状態にあるモイストタイプの中空糸膜モジュールにおいてもエアロック現象が起きにくいため、優れた性能のモジュールを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明でいうところの湿潤した中空糸膜を内蔵した中空糸膜モジュールとは、中空糸膜が液体により湿潤状態にあるが、中空糸内空部および中空糸膜とモジュールケースの間隙部に液体で満たされていない部分を有する中空糸膜モジュールである。湿潤状態とは、特に限定するものではないが、中空糸膜の抱液率が、4重量%以上であることが好ましく、100重量%以上がより好ましく、一方で600重量%以下であることが好ましく、350重量%以下がより好ましい。なお、中空糸膜の抱液率とは、下記(1)式で算出される値である。
【0012】
p=((w−w)/w)×100 (1)
(1)式において、p=中空糸膜の抱液率(重量%)、w=中空糸膜の重量(g)、w=中空糸膜の乾燥重量(g)である。
ここでいう中空糸膜の重量とは、液体で湿潤化されている中空糸膜重量である。また、乾燥重量とは、中空糸膜を1mmHg以下、40℃で減圧乾燥をおこない、24時間毎の重量測定を行ったとき、24時間前の測定結果に比べて重量変化が1%以下となったときの重量である。
【0013】
本発明においては、表面張力が60mN/m以下の液体、好ましくは50mN/m以下の液体で中空糸膜が湿潤された状態で、膜に放射線照射することで、エアロックを効果的に抑制できることを見いだした。
【0014】
この理由の詳細については不明であるが、エアロックの原因として中空糸膜を湿潤する液体中に形成され得る気泡が成長することが考えられるところ、表面張力の低い液体中に形成され得る気泡の体積は微小であるためではないかと考えられる。さらに放射線という高エネルギー線が照射された際に、微小気泡が湿潤している液体に溶解するのではないかと考えられる。
【0015】
さらに、中空糸膜内空部の気体が膜素材に接触すると膜に固定化されてエアロックの原因となりやすいが、本発明の方法によれば、中空糸膜内表面は湿潤されている上に、湿潤している液体中に微小気体が存在しないために、中空糸膜内空部に存在する気体が膜素材に直接触れることはない。従って、膜内の気体が中空糸膜内空部を塞ぐような大きな気泡に成長することがないため、エアロックの形成が抑制されるものと推測できる。
【0016】
一方、膜を湿潤している液体の表面張力が低すぎると膜素材の変性が懸念される場合がある。そのため、表面張力は0.1mN/m以上が好ましく、1mN/m以上がより好ましい。
【0017】
ここでいうところの表面張力は、20℃、1気圧(絶対圧)で測定した値であり、液滴法などにより測定できる。他の方法であってもよいが、下記する液滴法と同等以上の精度を有することが必要である。液滴法とは、垂直に固定した外径1mm程度のシリンジのような円管から1滴ずつ滴下した液滴の質量と、同じ円管から滴下した水の液滴の質量から、下記(2)式で表面張力を求める方法である。本発明においては、液滴の質量として100滴の平均値を用いる。湿潤する液体の量が少ないものに関しては、例えば中空糸膜を遠心回転させるなどして中空糸膜に含浸している液体を分離して測定することができる。
【0018】
γ=(m×γ)/m (2)
(2)式において、γ=表面張力(mN/m)、γ=水の表面張力(mN/m)、m=対象物質の液滴の質量(g)、m=水の液滴の質量(g)である。
【0019】
また、表面張力が60mN/m以下の液体としては、アルコール水溶液が好適に用いられる。特に限定されるものではないが具体的にはエタノールやプロパノール、ペンタノール、ブタノール、ヘキサノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、などが挙げられる。これは、アルコール水溶液の表面張力が低い上に中空糸膜素材の変性を誘起しにくいためである。なかでもエタノールなどの1価アルコールが低濃度で表面張力が低く、安価なため好適に用いられる。
【0020】
アルコール水溶液の濃度について、高ければ表面張力が低くなるため好ましいが、膜素材への影響が懸念される。また、通常、使用前にはモジュールを洗浄するが、アルコール濃度が高いと、洗浄時間や洗浄量が多くなる。従って、膜素材への影響や洗浄性の観点からはアルコール濃度は低いほうが好ましい。アルコールの種類や膜素材によって最適な濃度は異なるため、一概には言えないが、中空糸膜モジュールに充填されているアルコール濃度は0.1重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、また、70重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
本発明においては、特に人工腎臓や血液浄化用膜モジュールの場合、放射線照射によって滅菌操作を兼ねることができる。放射線としてはα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などが用いられる。これらのうちγ線が線量をコントロールでき、透過性も高いので好ましい。
【0021】
放射線照射線量としては、中空糸膜の材質や形状、湿潤している液体の種類にも依存するが、5kGy以上が好ましく、15kGy以上がより好まく、また、5000kGy以下が好ましく、1000kGy以下がより好ましく、100kGy以下がさらに好ましい。
【0022】
また、放射線照射する際に、中空糸膜モジュールの内部に不活性ガスが封入されていることが好ましい。不活性ガスの具体例としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドンが挙げられる。なかでも、窒素が安価なため好適に用いられる。ここでいう中空糸膜モジュールの内部とは、中空糸内空部および中空糸膜とモジュールケースとの間隙部およびヘッダー内部分などが挙げられる。モジュール内に酸素などの活性ガスが含まれていると、中空糸膜素材等の分解を促進させ、その結果、ガス成分が発生することから、酸素存在下での放射線照射は、エアロックを起こしやすくする。したがって、モジュール内の酸素濃度は3体積%以下が好ましい。
【0023】
酸素濃度は、中空糸膜モジュールを密閉した状態で、ヘッダー内部の空気を酸素濃度計で測定する。
【0024】
さらに、中空糸膜内表面の親水性高分子は20重量%以上が好ましく、25重量%以上がより好ましく、また、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましい。エアロックが発生するには、素材の種類や形状などが組み合わさることが条件であると考えられ、例えば、中空糸膜に疎水性の素材が含まれている場合、疎水性相互作用が起点となって起こりやすくなるものと考えられる。従って、中空糸膜内表面は、親水性成分が多い方が好ましい。一方で、内表面の親水性高分子が多すぎると、中空糸膜から溶出する懸念がある。
【0025】
本発明における親水性高分子とは、水溶性高分子か、または水中で膨潤する高分子を意味する。ここでいう水溶性高分子とは、常圧下で飽和濃度以下の濃度で高分子を水の中に添加したとき、添加した量の全てが溶解し、均一な溶液を与える高分子のことをいう。高分子の溶解に必要な時間や温度は特に限定されない。本発明における疎水性とは水との親和性が低いという意味であり、疎水性高分子とは、上記の親水性高分子の定義から外れる高分子であれば特に限定されない。
【0026】
また、上記内表面とは中空糸膜の内空側表面のことを言い、表面から膜の厚み方向に対して10nmまでの領域を指す。
【0027】
内表面親水性高分子量はX線光電子分光法などによって測定することができる。ただしX線光電子分光法を用いる場合、その入射角は90°とする。
【0028】
親水性高分子として、特に限定されるものではないが、具体的には、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。特に、ポリビニルピロリドンが入手のしやすさ、中空糸膜成型時の製膜性の良さから特に好適に用いられる。
【0029】
本発明に用いられる中空糸膜の素材としては、特に限定しないが、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリルニトリル、ポリスルホン及びポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系ポリマーなどが好適に用いられる。
【0030】
ポリスルホン系ポリマーとは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基をもつもので、例えば、次式(1)、(2)の化学式で示されるポリスルホンが好適に使用されるが、本発明ではこれらに限定されない。式中のnは、例えば50〜80の如き整数である。
【0031】
【化1】

【0032】
ポリスルホンの具体例としては、ユーデル(登録商標)ポリスルホンP−1700、P−3500(ソルベイ社製)、ウルトラゾーン(登録商標)S3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(登録商標)(住友化学)、レーデル(登録商標)A(ソルベイ社製)、ウルトラゾーン(登録商標)E(BASF社製)等のポリスルホンが挙げられる。又、本発明で用いられるポリスルホンとしては上記式(1)もしくは(2)またはこれらの両方で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していてもよい。特に限定するものではないが、他の共重合モノマーは10重量%以下であることが好ましい。
【0033】
本発明における人工腎臓とは、上記中空糸膜を充填してなるモジュールであって、透析治療に用いられるものである。すなわち、血液を体外に循環させ、中空糸膜の細孔を通して、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有したモジュールのことをいう。
【0034】
本発明に係る中空糸膜モジュールの大まかな工程としては、中空糸膜の製造工程と、その中空糸膜をモジュールに組み込む工程にわけることができる。
【0035】
人工腎臓に内蔵される中空糸膜の製造方法としては、一方法としてつぎのような方法がある。すなわち、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1よりポリスルホンの比率が大きいことが好ましく、5:1より大きいことがより好ましい。一方で、1:5よりポリスルホンの比率が小さいことが好ましく、1:1より小さいことがより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンまたはジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましい。一方で、30重量%以下が好ましく、25重量%以下がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側の管に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いるときは、45重量%以上、さらに好適には60重量%以上、かつ80重量%以下、さらに好適には75重量%以下の水溶液が好適に用いられる。
【0036】
紡糸された中空糸膜を凝固浴に通過させた後、水洗浴を通過させることで残留溶媒を洗浄した後、巻き取って束状にされる。
【0037】
中空糸膜束をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜束を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。
【0038】
中空糸膜束をケースに挿入後、両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、遠心回転によってポッティング剤をケース端部に集中移動させて封止部を形成させる方法であり、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0039】
その後、中空糸膜を湿潤させる。湿潤化の方法としては、例えば、中空糸膜モジュール内に液体を充填した後、この液体を気体で加圧または減圧することで抜き出し、中空糸膜モジュール内の中空糸膜を湿潤させる方法がある。中空糸内空部および中空糸膜とモジュールケースの間隙部およびヘッダー部分に不活性ガスを流し込んで密閉することで、不活性ガスを封入する。その後、γ線等の放射線を前述した条件で照射することで、モイストタイプの中空糸膜モジュールを得ることができる。
【0040】
この様に製造された中空糸膜モジュールは、エアロックの発生が少ないため、優れた性能を有する。モジュールの性能としては、尿素やクレアチニン、β−ミクログロブリンなどの除去能によって評価することができる。
【0041】
また、上記のようにして得られた中空糸膜モジュールを用いた人工腎臓の基本構造の一例を図1、図2に示す。
【0042】
中空糸膜モジュールの筒状のケース1には中空糸膜2が内蔵されている。ケース1には、ケース1の内部空間に連通した第2注入口5および、第2排出口6が設けられている。ケース1の両端には、それぞれケース1の内部空間と連通した第1注入口3を有する注入側ヘッダー7および第1排出口4を有する排出側ヘッダー8が接続されている。ケースおよびヘッダーの材質としては、特に限定しないが、成形が容易なことからプラスチックが用いられる。特に限定しないが具体例を挙げるとポリカーボネイト、ポリプロピレン及びポリスチレンが好ましい。
【0043】
また、ケース内において、第2注入口5および第2排出口6のそれぞれの開口位置よりそれぞれケース端部に近い側の部分には封止部9(ポッティング剤)が存在し、ケース1の内部表面と中空糸膜2の外表面との間および中空糸膜2同士の間隙部分を埋めている。封止部9により区画されるケース1の端部における内部空間は、中空糸膜2により、中空糸膜内表面側11と中空糸膜外表面側12に区画される。
【0044】
かかる中空糸膜内表面側11は、第1の液体(処理すべき液体、例えば血液)を通じる空間であり、注入側ヘッダー7の内部空間、排出側ヘッダー8の内部空間と連通し、それぞれ第1注入口3及び第1排出口4と連通してモジュール外部に通じている。中空糸膜外表面側12は、第2の液体(例えば透析液)を通じる空間であり、ケース1に設けられた第2注入口5及び第2排出口6と連通してモジュール外部に通じている。なお、ここでいう連通している状態とは、中空糸膜の孔を通じて連通している状態を意味するものではない。
【実施例】
【0045】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
1.中空糸膜モジュールの作成方法
ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)17重量%、ポリビニルピロリドンK30(インターナショナルスペシャルプロダクツ社;以下ISP社と略す)3.5重量%、ポリビニルピロリドンK90(ISP社)2.5重量%をジメチルアセトアミド76重量%、水1重量%と共に90℃で加熱溶解し、製膜原液とした。
【0046】
この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、外側の内径0.35mm、内側の内径0.25mmの2重スリット管から吐出させた。同時に芯液としてジメチルアセトアミド60重量部、水40重量部からなる溶液を内側の管より吐出させた。吐出させた原液を、温度30℃、露点39〜40℃で調湿したドライゾーン雰囲気を有する長さ350mmの空間を経由させ、ジメチルアセトアミド25重量%、水75重量%からなる温度40℃の凝固浴を通過させて中空糸膜を得た。その後、水洗工程、乾燥工程を通過させ、クリンプ工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り、束とした。中空糸本数は、膜内表面積が1.6mとなるような本数を図1に示す筒状ケースに充填し、端部をポリウレタン樹脂からなるポッティング剤によって封止し、端部における中空糸が両面とも外側に向かって開口するようにポッティング剤をケース断面と平行な方向に沿ってカットし、ポッティング剤カット後のケース両端に図1に示す筒状ヘッダーを取り付けて中空糸膜モジュールとした。
【0047】
次に中空糸膜を湿潤させる方法について、以下に記す。まず、図1における第2注入口5および第2排出口6を栓で閉じて、第1排出口4から第1注入口3まで所定の液体を500ml通液した。その後、第1注入口3および第2注入口5を閉じて、第1排出口4から第2排出口6まで同じ所定の液体を500ml通液し、中空糸膜内空部および、中空糸膜外側に両方に液体を満たした。
【0048】
次に、第1排出口4と第2排出口6を閉じ、第2注入口5から23℃、圧力0.1MPaの圧縮空気を15秒間流し、液体を排出した。その後、第2注入口5から23℃、0.1MPaの圧縮空気を流し、第2通液空間の圧力を0.1MPaの加圧状態とした状態で閉じた。第1排出口4を開け、第1注入口3から第1排出口4に、23℃、0.1MPaの圧縮空気を30秒間流し、液体を排出し、中空糸膜を湿潤状態とした。
【0049】
モジュール内に不活性ガスとして窒素を封入した。すなわち、第1注入口3から第1排出口4に、23℃の窒素を流速20L(Normal)/minで15秒間流し、第1注入口3および第1排出口4を閉じた。その後、第2注入口5と第2排出口6を開け、第2注入口5から第2排出口6に、23℃の窒素を流速20L(Normal)/minで15秒間流し、第2注入口5および第2排出口6を閉じた。
【0050】
窒素を封入後、γ線照射(25kGy )を行った。
2.抱液率の測定
中空糸膜モジュールの抱液率は、γ線照射後の中空糸膜モジュールから糸束を切りだし、測定を行い、前記(1)式により算出した。
3.表面張力測定
湿潤状態の中空糸膜を高速遠心することによって、湿潤化している液体をサンプリングした。内径0.7mm、外径1.25mmの円管を垂直に立て、円管の上方からサンプルを1滴ずつゆっくりと100滴、滴下した。100滴の質量の平均から、サンプル1滴当たりの質量を求めた。続いて、表面張力が既知である純水について、同様に1滴当たりの質量を求めた。温度、圧力条件は20℃、1気圧(絶対圧)として測定した。上記(2)式を用いて、サンプルの表面張力を算出した。
4.モジュール内の酸素濃度測定
酸素濃度は、第1注入口3、第1排出口4、第2収入口5および第2排出口6をゴム栓で密閉して測定した。
【0051】
酸素濃度は、酸素濃度計(飯島電子工業株式会社 RO−102)を用いて測定した。該酸素濃度計は、シリンジが一体化した型であり、針先から酸素濃度計内部に送り込まれた気体の酸素濃度を測定できる。
【0052】
酸素濃度計は、酸素濃度21%の気体を3回送り込み、校正した。校正は、測定の最初に1回おこなった。
【0053】
第1排出口4にした栓に酸素濃度計の針を差し込み、中空糸膜モジュール中の気体を3回送り込み、酸素濃度計内の気体を置換した。酸素濃度計の値が1分間で0.1%変化しなくなるまで安定したら、その値を酸素濃度とした。
5.内表面ポリビニルピロリドン量測定
内表面親水性高分子量は、X線光電子分光法(ESCA)によって測定した。中空糸膜を片刃で半円筒状にそぎ切り、中空糸膜の内表面を測定した。測定サンプルは、超純水でリンスした後、室温、0.5Torrにて10時間乾燥させた後、測定に供した。測定装置としてESCALAB220iXLを用い、サンプルを装置にセットして、X線の入射角に対する検出器の角度は90°にて測定を行った。なお検出器の角度が90°の場合は約10nmの深さまでの情報を検出できる。
【0054】
ESCAの測定により得られた、C1s、N1s、S2pスペクトルの面積強度より、装置付属の相対感度係数を用いて窒素の表面量(a)と硫黄の表面量(b)を求め、下式より内表面のポリビニルピロリドン量を算出した。
【0055】
内表面ポリビニルピロリドン量(重量%)=a×100/(a×111+b×442)
6.性能試験
中空糸膜モジュールの性能として、β−ミクログロブリンクリアランスを指標とした。測定方法を以下に示す。
(1)エチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを添加した牛血液について、ヘマトクリットが30±3%、総タンパク量が6.5±0.5g/dLとなるように調整した。
(2)次に、β−ミクログロブリン濃度が1mg/lになるように加え、撹拌した。かかる牛血液について、その2Lを循環用に、1.5Lをクリアランス測定用として分けた。
(3)回路を図3のようにセットした。透析装置としては、東レメディカル株式会社製 TR2000Sを用いた。TR2000Sは、図3のうち、Biポンプ、Fポンプ、および透析装置にあたる。
(4)透析装置に、透析液(キンダリー液AF2号 扶桑薬品工業株式会社製)A液およびB液をセットした。
(5)透析液側から血液側に向けて純水を流した。透析液濃度13〜15mS/cm、温度34℃以上、透析液側流量を500ml/minに設定した。
(6)透水装置の除水速度を10ml/(min・m)に設定した。
(7)Bi(Blood in:流入血液)回路入口部を上記で調整した牛血液2L(37℃)の入った循環用ビーカーに入れ、Biポンプをスタートし、Bo(Blood out:流出血液)回路出口部から排出される液体90秒間分を廃棄後、ただちにBo回路出口部および、Do(Dialysate out:流出透析液)回路出口部を循環用ビーカーに入れて循環状態とした。
(8)続いて透析装置のFポンプを動かし、循環を1時間行った後、BiポンプおよびFポンプを停止した。
(9)次に、Bi回路入口部を上記で調整したクリアランス測定用の牛血液に入れ、Bo回路出口部を廃棄用ビーカーに入れた。Do回路出口部から流出する液体は廃棄した。
(10)Di(Dialysate in:流入透析液)ポンプをスタートした。また、血液ポンプをスタートするとともに、トラップとBiチャンバーの間を開放した。
(11)スタートから2分経過後、クリアランス測定用の牛血液(37℃)からサンプルを10ml採取し、Bi液とした。スタートから4分30秒経過後に、Bo回路出口部からサンプルを10ml採取し、Bo液とした。これらのサンプルは、−20℃以下の冷凍庫で保存した。
(12)各液のβ−ミクログロブリンの濃度からクリアランスを下記(3)式によって算出した。牛血液のロットによって測定値が異なる場合があるので、実施例に用いたデータは全て同一ロットの牛血液を使用した。
【0056】
Co(ml/min)=(CBi−CBo)×Q/CBi (3)
(3)式において、C=β−ミクログロブリンクリアランス(ml/min)、CBi=Bi液におけるβ−ミクログロブリン濃度、CB=Bo液におけるβ−ミクログロブリン濃度、Q=Biポンプ流量(ml/min)である。
(実施例1)
前記1.において、湿潤化の液体として2重量%エタノール水溶液を用いた。該中空糸膜モジュールについて、抱液率、湿潤液の表面張力、モジュール内の酸素濃度、内表面のポリビニルピロリドン量および性能試験を行った。
【0057】
その結果、表1に示す通りであった。すなわち、該中空糸膜モジュールは、抱液率267%の湿潤状態の中空糸膜が内蔵されているものの、β−ミクログロブリンクリアランスは56ml/minと高い性能を示した。
(実施例2)
前記1.において、湿潤化の液体として10重量%エタノール水溶液を用いた。該中空糸膜モジュールについて実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。すなわち、該中空糸膜モジュールは、抱液率258%の湿潤状態の中空糸膜が内蔵されているものの、β−ミクログロブリンクリアランスは56ml/minと高い性能を示した。
(実施例3)
前記1.において、湿潤化の液体として40重量%エチレングリコール水溶液を用いた。該中空糸膜モジュールについて実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。すなわち、該中空糸膜モジュールは、抱液率280%の湿潤状態の中空糸膜が内蔵されているものの、β−ミクログロブリンクリアランスは51ml/minと高い性能を示した。
(比較例1)
前記1.において、湿潤化の液体として純水を用いた。該中空糸膜モジュールについて実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。すなわち、該中空糸膜モジュールは、抱液率265%の湿潤状態の中空糸膜が内蔵されており、β−ミクログロブリンクリアランスは43ml/minと実施例1〜3に比較し、低い性能となった。
(比較例2)
前記1.において、湿潤化の液体として2重量%エタノール水溶液を用いた。ただし、窒素封入後、γ線照射は行わなかった。該中空糸膜モジュールについて実施例1と同様の測定を行った結果を表1に示す。すなわち、該中空糸膜モジュールは、抱液率270%の湿潤状態の中空糸膜が内蔵されており、β−ミクログロブリンクリアランスは46ml/minと実施例1〜3に比較し、低い性能となった。
【0058】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に用いられる中空糸膜モジュールの一態様を示す。
【図2】本発明に用いられる中空糸膜モジュールの断面の一部を示す。
【図3】性能試験での回路図を示す。
【符号の説明】
【0060】
1 ケース
2 中空糸膜
3 第1注入口
4 第1排出口
5 第2注入口
6 第2排出口
7 注入側ヘッダー
8 排出側ヘッダー
9 封止部
10 中空糸膜の膜厚部分
11 中空糸膜の内側部分
12 中空糸膜の外側部分
13 端面長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面張力が60mN/m以下の液体による湿潤状態下で放射線照射して得られた中空糸膜が内蔵されたことを特徴とする中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記液体がアルコール水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
モジュール内部の酸素濃度が3重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記中空糸膜の内表面親水性高分子量が20重量%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項5】
人工腎臓であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の中空糸膜モジュール。
【請求項6】
表面張力60mN/m以下の液体で中空糸膜を湿潤した状態で放射線照射することを特徴とする中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項7】
前記液体がアルコール水溶液であることを特徴とする請求項6に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項8】
前記中空糸膜モジュールに、不活性ガスを封入することを特徴とする、請求項6または7に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項9】
前記中空糸膜の内表面親水性高分子量が20重量%以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項10】
人工腎臓であることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−183511(P2008−183511A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19018(P2007−19018)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】