説明

中空糸膜束の梱包方法

【課題】 作業性のよい中空糸膜束の梱包方法の提供。
【解決手段】 両端が開口し、周面に複数の穴12を有する筒状ケース11内に多数の中空糸膜が充填され、前記ケース11と多数の中空糸膜が少なくとも一端において固定されたものである中空糸膜束の梱包方法であり、プラスチック製袋15内に入った中空糸膜束を立てた状態のまま、前記プラスチック袋15内に所要量の保存液を注入する工程、及び中空糸膜束を立てた状態のまま、ヒートシール機30で袋口をヒートシールする工程、を有する中空糸膜束の梱包方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種水処理用の中空糸膜モジュールに用いられる中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種水処理に用いられる中空糸膜モジュールは、ハウジング内に所要本数の中空糸膜(中空糸膜束)を装入してなるものであるが、膜メーカーからの出荷の際には、ハウジングのない中空糸膜束(必要に応じて、複数の穴の開いたケースに装入された中空糸膜束)の状態で出荷されることが多い。
【0003】
しかし、中空糸膜束は、乾燥状態のままでは膜が劣化したり、細菌が繁殖したりすることがあるため、通常は、保存液と共にプラスチック袋の中に収容された状態で保存、出荷される。
【0004】
中空糸膜束の製造後から出荷(又は出荷待ちの保管)までの過程においては、中空糸膜束をプラスチック袋に入れる工程、プラスチック袋内に保存液を注入する工程、プラスチック袋の袋口をヒートシールする工程、及び箱に入れる工程等が必要となる。
【0005】
特許文献1では、ハウジングに中空糸膜を収容した状態のものをポリエチレン袋等に入れて保存しているが、一旦モジュール内に保存液を満水状態にした後、所定量になるまで保存液を抜き出す作業が必要である。また、ポリエチレン袋等のシール方法を含む、具体的な作業の改善についての開示はない。
【特許文献1】特許第3098282号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、中空糸膜束の製造後から出荷(又は出荷待ちの保管)までの作業は、保存液の注入やヒートシール等の利便を考慮して、横置き型で作業が行われているが、保存液の注入量によっては袋から保存液が流れ出るおそれがあるため、作業性が低下する。
【0007】
本発明は、中空糸膜束の製造後から出荷(又は出荷待ちの保管)までの作業性を向上させると共に、中空糸膜束の保存効果も高めることができる、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、
中空糸膜束、又は少なくとも片端が開口し、複数の穴を有する筒状ケース内に多数の中空糸膜が充填され、前記ケースと多数の中空糸膜が少なくとも一端において固定されたケース入り中空糸膜束の梱包方法であり、
プラスチック製袋内に入った中空糸膜束、又は前記ケース入り中空糸膜束を立てた状態のまま、プラスチック袋内に所要量の保存液を注入する工程、及び
前記中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を立てた状態のまま、ヒートシール機で袋口をヒートシールする工程、
を有する中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法を提供する。
【0009】
筒状ケースは、両端が開口しているものでもよく、周面に複数の穴を有するものでもよい。この方法によれば、プラスチック製袋から保存液がこぼれることがないため、作業性が良く、保存液の量も広い範囲から選択できる。
【0010】
本発明は、課題の他の解決手段として、保存液の注入工程において、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束に対して保存液を注ぎながら入れる、請求項1記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法を提供する。
【0011】
この梱包方法では、特に膜束の端面に対して液を注ぐことが好ましい。このように中空糸膜束に対して保存液を注ぐことで、中空糸膜束全体が、確実にかつ均一に湿潤されるため、保存効果を高めることができる。中空糸膜束がケースに入っていない場合は、結束手段で膜束を結束すると作業性がよくなるので好ましい。
【0012】
本発明は、課題の他の解決手段として、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を昇降自在な台上に置き、作業内容に応じてケース入り中空糸膜束の高さを調節する、請求項1又は2記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法を提供する。
【0013】
台は、車輪を有する台車でもよい。昇降自在な台(台車)を用いると、膜束の高さを自在に調整できるので、プラスチック製袋のシール位置の調整が容易になる。
【0014】
本発明は、課題の他の解決手段として、出荷用の箱内に中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を立てておき、袋口をヒートシールした後、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を横に倒し、そのまま箱の中に収容する、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法を提供する。
【0015】
中空糸膜束の製造後から出荷(又は出荷待ちの保存)までの作業を、連続的な流れ作業にすることができるため、作業時間の短縮となる。
【0016】
本発明の梱包方法においては、ヒートシール工程までは中空糸膜束を立てた状態で作業をするため、保存液の量を増加させた場合でも、作業性には影響を与えない。
【発明の効果】
【0017】
本発明の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法によれば、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜の製造から出荷までの作業性が大きく向上される結果、労力の軽減、作業時間の短縮が達成される。また、中空糸膜の保存効果も高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図4により、本発明を説明する。図1は、ケース入り中空糸膜の正面図であり、内部構造を説明するため、ケースの一部を切り欠いている。図2〜図4は、本発明の梱包方法を説明するための作業を説明するための図である。
【0019】
図1に示すとおり、中空糸膜束10は、周面に複数の穴11を有する筒状ケース12内に多数の中空糸膜が充填されたものであり、中空糸膜束10の両端とケースは接着剤13で固定されている。以下、この状態のものを「ケース入り中空糸膜束10」と称する。
【0020】
筒状ケース12は、プラスチック、金属からなるものであり、中空糸膜は酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン等からなるものを挙げることができる。
【0021】
まず、ケース入り中空糸膜束10を二重のプラスチック袋15内に入れた後に、図2に示す状態に立てる(縦置きにする)。この作業は、ケース入り中空糸膜束10を横にした状態でプラスチック袋15内に入れた後で立ててもよいし、最初から立った状態になるようにプラスチック袋15内に入れてもよい。
【0022】
プラスチック袋15の材質は、袋内に保存液を保持でき、ヒートシールできるものであれば特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からなるものを用いることができる。
【0023】
なお、ケース入り中空糸膜束10は、昇降機22を有する台20上に置くと、作業内容に応じて最適の高さになるように高さを調節することができるので好ましい。
【0024】
また、ケース入り中空糸膜束10は、出荷用の梱包箱25内に立てておくと、後工程においてプラスチック袋15の袋口をヒートシールした後、ケース入り中空糸膜束10を横に倒し、そのまま梱包箱25の中に収容できるので、後の作業が容易になる。
【0025】
次に、ケース入り中空糸膜束10を立てた状態のまま、プラスチック袋15内に所要量の保存液を注入する。
【0026】
この作業では、図1に示す矢印のとおり、プラスチック袋15に入ったケース入りの中空糸膜束10の端面上方から保存液を注ぐことが好ましい。このとき、ケース12の穴11からも保存液が入る。このような注入方法により、中空糸膜全体を、確実にかつ均一に保存液で湿潤させることができる。
【0027】
保存液の注入量は、中空糸膜の種類に応じて適宜設定することができるが、梱包される中空糸膜束の絶乾重量(中空糸膜を恒温乾燥機内で恒量になるまで乾燥させたときの重量)の5倍を超える量であることが好ましい。
【0028】
保存液としては、水(無菌水)、ホルムアルデヒドの水溶液、次亜塩素酸ナトリウムの水溶液、酸又はアルカリ水溶液等の公知の保存液を用いることができる。
【0029】
次に、図2、図3に示すとおり、ケース入り中空糸膜束10を立てた状態のまま、ヒートシール機30で2重のプラスチック袋15の袋口を一緒にヒートシールして、袋内を密封する。このとき、袋内に過度の空気が入らないようにすることが望ましい。なお、ヒートシール作業が容易になるように、必要に応じて、昇降機22により、台20の高さを調節してもよい。
【0030】
ヒートシール機30は、図3に示すように壁面固定されていてもよいし、作業現場の状況に応じて、ヒートシール機自体に車輪を付けて可動自在にしてもよい。また、ヒートシール機30自体の高さを調節できるようにしてもよい。
【0031】
次に、図4に示すとおり、プラスチック袋15内に封入されたケース入り中空糸膜束10を横に倒して、梱包箱25内に収容する。梱包箱25は、台20に取り付けられた梱包箱受け21で支持されている。なお、図4では、梱包箱25の正面部を無いものとして、箱内部が見えるように図示している。
【0032】
次に、図4に示すとおり、台20の昇降機22を操作して高さを調節し、ローラー台31、32と同じ高さにした後、ローラー台31、32上を転がして、ケース入り中空糸膜束10が入った梱包箱25をバンド掛け機35の所望位置まで移動させ、梱包箱25の所望位置にバンドを掛ける。
【0033】
この工程が終了したとき、ケース入り中空糸膜束10は、保存液が注入され、二重にプラスチック袋15内に封入されており、更にバンドが掛けられた梱包箱25の中に入っている。よって、そのまま出荷することもできるし、出荷待ちの間の保管も容易である。そして、保管時においては、ケース12の開口部側及び穴11から侵入した保存液が中空糸膜束10と接触し、安定した湿潤状態が維持されるため、保管が長期にわたった場合でも、中空糸膜の品質(濾過性能)には影響がない。このケース入り中空糸膜束10は、梱包箱25及びプラスチック袋15から取り出した後、そのまま所定のハウジング内に装入して組み立てることにより、直ちに中空糸膜モジュールとして使用できる。
【実施例】
【0034】
実施例1
図2〜図4に示す作業手順に従って、ケース入り中空糸膜束を梱包した。ケース入り中空糸膜束は、中空糸膜(ダイセン・メンブレン・システムズ社,FUS−1582)7,000本をケース(材質ポリスチレン,直径165mm,高さ1050mm)内に挿入し、中空糸膜の両端とケースをエポキシ系接着剤で固定したものである。
【0035】
台上に梱包箱を置き、梱包箱内において、ケース入り中空糸膜束を立てた状態でポリエチレン袋(二重)内に入れた。
【0036】
次に、ポリエチレン袋内のケース入り中空糸膜束の上から、3%ホルマリン水溶液5リットルを注いだ。
【0037】
次に、ヒートシール機にて、ポリエチレン袋の袋口をヒートシールして密封した後、ケース入り中空糸膜束を横に倒して、梱包箱内に収容し、図の作業手順によりバンド掛けをして作業を終了した。
【0038】
以上の梱包方法では、保存液の注入工程及びヒートシール工程は作業員が立った状態で作業できるため作業性が良く、それらの工程も含めて作業全体を連続的に行うことができるので、作業時間が短縮できる。更に、梱包終了時の製品は、そのまま出荷することができるものであるし、長期間保管した場合でも、保存液と中空糸膜との接触状態が良好であるため、製造当時の品質(濾過性能)を長期間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】保存対象となるケース入り中空糸膜束の正面図。
【図2】ケース入り中空糸膜束の梱包方法の作業手順を説明するための図。
【図3】ケース入り中空糸膜束の梱包方法の作業手順を説明するための図。
【図4】ケース入り中空糸膜束の梱包方法の作業手順を説明するための図。
【符号の説明】
【0040】
10 中空糸膜束
11 穴
12 ケース
20 台
25 梱包箱
30 ヒートシール機



【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜束、又は少なくとも片端が開口し、複数の穴を有する筒状ケース内に多数の中空糸膜が充填され、前記ケースと多数の中空糸膜が少なくとも一端において固定されたケース入り中空糸膜束の梱包方法であり、
プラスチック製袋内に入った中空糸膜束、又は前記ケース入り中空糸膜束を立てた状態のまま、プラスチック袋内に所要量の保存液を注入する工程、及び
前記中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を立てた状態のまま、ヒートシール機で袋口をヒートシールする工程、
を有する中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法。
【請求項2】
保存液の注入工程において、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束に対して保存液を注ぎながら入れる、請求項1記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法。
【請求項3】
ケース入り中空糸膜束を昇降自在な台上に置き、作業内容に応じて中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の高さを調節する、請求項1又は2記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法。
【請求項4】
出荷用の箱内に中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を立てておき、袋口をヒートシールした後、中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束を横に倒し、そのまま箱の中に収容する、請求項1〜3のいずれかに記載の中空糸膜束、又はケース入り中空糸膜束の梱包方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−143235(P2006−143235A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332621(P2004−332621)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】