説明

中空繊維毛細管膜ならびにその製造方法

この発明は、共有押出し成形された2つの層AおよびBからなり、層Bが0.1ないし10μmの網目幅をもったフリース状の構造を有し、層Aは細孔構造を有してなる中空繊維膜に関する。本発明はさらに前記の膜の製造方法ならびにその適用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は中空繊維毛細管膜とその製造方法、ならびに特に血漿交換療法における適用に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な成分からなる毛細管膜は特に透析技術あるいは血漿交換療法における適用が増加していることが知られている。透析技術における膜、特に毛細管膜の使用および製造は、例えば2004年クルワー社発行のヘール氏等による「腎臓機能の代替」第5版の第709ないし724頁中におけるサムトレーベン氏およびライソート氏の論文中に記載されている。
【0003】
国際公開第96/37282号パンフレットには、500ないし500000ダルトンのカットオフ値を有する分離層と保護層と液体透過性に影響を与える層とからなる特に血液透析用の膜が記載されており、その際分離境界と液体透過性は互いに独立して設定することができる。しかしながら、個々の層内で異なった細孔大を有する膜の構造は極めて高コストである。
【0004】
欧州特許出願公開第1547628号A1明細書には血漿浄化膜ならびに血漿浄化システムが記載されており、特に血漿浄化に際しての強い負荷のための膜の破損耐久性に関しての固有物理特性について記述されている。これは特にタンパク質および免疫グロブリン透過性に関するものである。その際にスポンジ構造の膜内に細孔大の階調が設定され、そこで膜の外側の表面上には内側表面に比べて大きな細孔大が存在する。
【0005】
米国特許第6,565,782号明細書は、ポリビニルピロリドン等の親水性のポリマーを有するスルホンポリマーのコバルト沈殿によって得られる高い表面多孔性を有する人工ポリマーマイクロ濾過膜材料に関する。この膜においては、小径細孔の膜の使用のため血液細胞への圧力によってその血液細胞の破壊が生じる危険性があるため、特に血液の細胞質の成分の血漿相からの分離に関して問題が生じる。
【0006】
この種の毛細管膜を製造するために大抵いわゆる中空繊維ノズルが使用される。これらおよびその他の中空繊維膜の製造技術についての概要が1996年クルワー社発行のM.マルダー氏による「薄膜技術の基礎原理」第2版の第71ないし91頁に開示されている。
【0007】
中空繊維ノズルによる中空繊維膜の製造に際して中空繊維膜はいわゆる沈殿スピンプロセスによって製造され、その際析出されるポリマーはノズル構成の環状間隙から流出し、一方沈殿剤は中央の沈殿剤流出口から流出する。
【0008】
前記の中空繊維ノズルは例えば独国特許出願公開第10211051号A1明細書に開示されている。
【0009】
現行の技術の典型的な血漿交換フィルタは大抵例えばポリプロピレン、ポリスルホン等からなる疎水性の膜を含んでいる。
【0010】
それらの疎水性の膜は水によって浸漬させることができないため、それらの膜を含んだフィルタは通常水圧をかけて親水化される。それによってその後の血液処理のために細孔内の全ての気泡が排除され従って血液循環内に侵入することがないように保持される。それらの疎水性の中空繊維膜を有するフィルタモジュールは水を充填して顧客および患者に納品しなければならないことが問題である。原材料費および管理費ならびにその種の充填されたモジュールの無菌性を保持する困難性が解決しなければならない課題である。
【0011】
既知の血漿膜の問題点は、大きなリポタンパク質に対する低い透過性、ならびに膜内外圧力差、すなわち膜壁上に付着し細孔開口部上に接合している血液細胞に作用する負圧による血液細胞の圧力誘導破壊である。細孔大が小さいほど特定の膜内外圧力差(TMP)について細孔大に比べて大きな血液細胞の該当する血液細胞部分に作用する圧力差が高くなる。そのような場合、該当する血液細胞の部分に作用する圧力が血液細胞壁を破壊するほど高くなりその結果溶血が生じることがしばしば確認されている。そのため、血液側の膜壁上に可能な限り高い多孔性を形成しそれによって血液細胞壁に対する負の圧力作用をより大きな血液壁の領域に分散させることが試みられている。
【0012】
従来の技術によって知られている膜のリポタンパク質に対する低い透過性のため特に高脂血症血液の濾過に際してふるい係数の低下によって困難が生じる。疎水性の血漿膜は血液処理に際してしばしば処理中に相互作用によって非極性の血液脂質と混合されるという不要な特性を示す。そのため血液処理の間にしばしばふるい係数の低下が観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第96/37282号パンフレット
【特許文献2】欧州特許出願公開第1547628A1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,565,782号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10211051A1号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ヘール氏等「腎臓機能の代替」第5版第709ないし724頁中のサムトレーベン氏およびライソート氏の論文、クルワー社発行(2004年)
【非特許文献2】M.マルダー「薄膜技術の基礎原理」第2版第71ないし91頁、クルワー社発行(1996年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って本発明の目的は、破壊を防止するような血漿交換療法、特に破壊を防止するような血液の血漿濾過を可能にする、中空繊維膜を提供することである。さらにその種の中空繊維膜は良好なリポタンパク質透過性のための大きな開孔と同時の高い選択性、ならびにより良好な血液融和性のための高い多孔性を備えるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の課題は本発明に従って、共有押出し成形された2つの層AおよびBから形成された複合中空繊維膜によって解決され、その際層Bが0.1ないし10μmの網目幅のフリース状の構造を有し層Aは細孔構造を有する。ここで“網目幅”という概念からフリースあるいは網状の構造においてそのフリースあるいは網を形成している構造の個々の分岐部の間の最も大きな距離が理解される。その際分岐部の枝の太さは0.1ないし0.5μmとなる。
【0017】
ここで例えば中空繊維内部を介して血液を誘導する血液処理に際して層Bが中空繊維膜のいわゆる血液接触側を形成し、層Aは濾液側を形成することが好適である。
【0018】
通常血液接触側は中空繊維膜の内側層であり、層Aすなわち濾液側は膜の外側層である。しかしながら、それほど好適な実施形態ではないものの層Bを外側層(血液接触側)とし層Aを内側層(濾液側)とすることも可能である。
【0019】
本発明に係る膜、特にフリース状の内部層Bの存在のため、血液細胞の一断片に膜内外圧力差により従来の細孔膜の場合に比べて小さな負圧が作用し、従って特に血液の細胞成分を極めて安静に血液の血漿相から分離することができる。
【0020】
層Aは異なった多孔度を有していて上下に重なった少なくとも3つの帯域A1,A2,A3からなることが好適であり、その際帯域A1が層Aの表面を形成するとともに0.7ないし2μmの平均細孔大を有する。帯域A1の厚みは通常9ないし11μmの範囲となり、特に約60μmの好適な壁厚の場合に10μmとなることが好適である。
【0021】
続いて帯域A1と帯域A3の間に配置された帯域A2が存在し、それが200nm超の細孔大を有している。
【0022】
この帯域A2の厚みは、好適な総壁厚60μmの場合に通常約10μmとなる。すなわち一般的に帯域A2の厚みは総壁厚の約6分の1となる。
【0023】
第3の帯域A3は層Bに対して直接的に隣接し、通常層Bのフリース状の構造と噛合い式に結合する。この帯域A3は層Bの方向に向かって階調式の細孔大を有し、すなわち細孔大が層Bの方向に向かって漸増する。帯域A3の厚みは60μmの総壁厚の場合に約30μmとなる。すなわち一般的に帯域A3の厚みは総壁厚の約50%を占める。
【0024】
帯域A1,A2,A3の層厚は総壁厚との相関において形成される。例えば総壁厚が100%増加すると個々の帯域の層厚もそれぞれ約100%増大し、各層厚間の比は一定に保持される。しかしながらさらに大きな総壁厚へ移行する場合はその製造に際して各層間の比が変化することが確認されており、特に帯域A2の層厚にはより薄い壁厚の膜の場合と比べて比較的少なめに反映される。
【0025】
本発明に係る共有押出し成形された2つの層AおよびBからなる毛細管膜においては、前述したように層AおよびB内の異なった細孔大あるいは網目大が重要であり、その際層B内の網目の網目大は前述した層Aの最も外側の帯域A1の細孔大に比べて大きいばかりでなく、層Aの全ての細孔に比べても大きくなる。
【0026】
両方の層AおよびBは本発明に従って異なった機能を有し:
外側の層Aはその大きな質量密度によって、特に以下に詳細に記述する本発明に係る方法による膜の製造に際して、本発明に係る中空繊維膜に機械的な強度を付加する。加えてこの層は、膜全体中において最も小さな平均細孔大(200nm超)を有する帯域を成すものであり、従って濾過に際して選択性を決定する層となる。従って層Aの機能は本発明に係る膜に安定性と選択性を提供することにある。
【0027】
好適には内側に配置される、すなわち血液あるいはその他の体液の側に向いている層Bは、その網状の構造内に層Aの細孔幅よりも大幅に大きな網目幅を有する。特にこの層はその網状あるいはフリース状の構造ならびにそれによってもたらされる小さな質量密度のため殆ど機械的な強度を備えず、従って層Aによって追加的に補強する必要がある。層Bは、血液処理工程に際して透過する液体中の細胞質の成分のみを阻止する目的を有する。
【0028】
意外なことにこのことは、層Bのフリース状の構造のため細胞に対して極めて安静(非破壊的)な方式で達成されることが判明した。従ってこの層は濾過される液体と膜の間の融和の機能を実質的に有する。
【0029】
さらに、層Bのフリース状の構造ならびにそれに伴った高い多孔性によって意外なほど改善されかつ処理工程全体にわたって一定である、例えばトリグリセリドあるいはリポタンパク質等の血液の高分子成分に対するふるいわけ係数がもたらされる。その際ふるいわけ係数が従来の血漿膜に比べて長い処理工程にわたって実質的に一定に保持される。従来の血漿膜においては内側表面の細孔が血液中に存在する血液脂質粒子によって閉塞し得ることが判明している。その結果、膜壁を介した総透過率が低下し実効透過率も低下することからふるいわけ係数の降下が観察される。それに対して本発明に係る膜の多孔性は、血液接触側における大きな血液脂質粒子の吸着に際しても所要の透過率を保持し得るために充分な液体透過性を提供し得る程高いものとなる。
【0030】
膜に安定性および選択性に関しての最適な特性を与えるためには、層A対層Bの層厚比が4:1ないし6:1となり、それによって層Aが特にその補強性の安定化機能を極めて良好に達成することができる。
【0031】
予想以上に大きな圧力あるいは圧力差にも耐久するためには、280ないし400μmの内径であれば計画される適用形態に対して好適であることが判明した。本発明に係る中空繊維膜の典型的な総壁厚は40ないし80μm、特に好適には60μmである。この種の本発明に係る膜は、0.3および0.6mの膜面積の血漿フィルタを製造するために通常1300ないし2600本の繊維からなる繊維束単位で使用される。
【0032】
膜面積はさらに膜の物理パラメータを決定するものでもあり:多数の本発明に係る中空繊維膜からなる束(“中空繊維束”)を有する総膜面積0.3mの血漿フィルタは100ml/分の血液流および30ml/mまでの濾過液流に対する使用のために提供され、0.6mの膜面積を有する血漿フィルタは200ml/分の血液流および3ml/分までの濾過液流に対する使用のために提供される。
【0033】
各層は、ポリスルホン(PS)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチロール(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、および/またはポリウレタン(PU)から選択される少なくとも2つのポリマーからなるポリマー混合物から形成される。
【0034】
特に好適なものは、ポリスルホンとポリビニルピロリドンの組合せである。
【0035】
異なった各層中の両方の成分の濃度は、膜構造の要求性能に従って互いに独立して設定することができる。外側の層のポリマー濃度を高くすれば未だ沈殿していない膜内に高い粘度とそれに伴って低い多孔度が生じ、内側の層Bのポリマー濃度を低くすれば高い多孔度のフリース状の膜構造が生じる。
【0036】
本発明の課題はさらに、
(a)2つの紡糸材料溶液AおよびBを生成して、その際に紡糸材料溶液Aの粘度が紡糸材料溶液Bの粘度よりも高くなるようにし、
(b)沈殿槽の温度を70℃超に設定し、
(c)中空繊維ノズルを介して両方の紡糸材料溶液AおよびBを内部沈殿剤と接触させ、
(d)中空繊維膜を沈殿させる、
ステップからなる本発明に係る中空繊維膜の製造方法によって解決される。
【0037】
沈殿槽の温度の70℃超、特に75℃超への設定によって沈殿スリットの周囲のより高い湿度が可能になり、それによって膜の外面上、特に前述した本発明に係る最も外側の層内に小さな直径を有する細孔が形成される。
【0038】
従って、個々の成分の濃度に応じて紡糸材料の粘度を設定することもできる。これは個別成分の分子量に依存する。
【0039】
紡糸材料溶液Aの粘度は必要とされる膜構造に従って7000ないし18000mPa・s、特に9000ないし14000mPa・sとなる。その際紡糸材料溶液Aは典型的に15ないし25%のポリスルホン(PSU)と、4ないし8%のポリビニルピロリドン(PVP)と、67ないし81%の溶媒(98ないし100%のDMACと0ないし2%の水)を含む。好適には、17.5ないし22.5%のPSUと、5ないし8%のPVPと、残りの分として溶媒(80ないし100%のDMACと0ないし20%の水)とされる。特に好適には、19ないし21%のPSUと、5.5ないし7%のPVPと、残りの分として溶媒(98ないし100%のDMACと0ないし2%の水)とされる。パーセント表記は別途に記載がない限り重量%に関するものとする。
【0040】
粘度の測定は40℃の温度に設定した回転粘度計(ハーケ社製のVT550)を使用し以下のステップによって実施した:
粘度測定に際して被検物質は同心上に配置されたシリンダ、“回転体”と“測定容器”の間の環状隙間内に存在した。予め回転数を設定しその際有効圧力(剪断応力)を測定した。まず温度調節容器と回転体MV−DINを基礎枠材にネジ固定した。続いてゼロ点を検査あるいは調節した。回転モータを停止し、回転トルク表示をそのために設けられたボタンを使用して0に調節した。実質的な測定のために、測定容器に被検溶液を気泡が発生しないようにして充填マークの位置まで充填し、ロックネジによって温度調節容器内に固定した。その後回転数レベルを事前設定した。プログラムを設定して測定時間の経過後に粘度を読み取った。
【0041】
測定のために装置の回転レベルを3に選択した。測定は30分継続した。粘度数値は装置に設定されているプログラムの指定に従って読み取った。手動モードでの測定のためにプログラムS1を選択した。
【0042】
紡糸材料溶液Bの粘度は1000mPa・s未満となり、5ないし15%のポリスルホンと、4ないし8%のポリビニルピロリドンと、77ないし91%の溶媒(100%のDMAC)と含むことが好適である。好適には、7ないし13%のPSUと、4ないし7%のPVPと、残りの分として溶媒(100%のDMAC)とされる。特に好適には、8ないし12%のPSUと、5ないし7%のPVPと、残りの分として溶媒(100%のDMAC)とされる。
【0043】
完成した膜は洗浄および乾燥工程の後に約3%のPVP含有率を有する。このPVPは結合していて最小限に溶出性となる。
【0044】
この点に関連して前述したように両方の紡糸材料溶液AおよびBが異なった粘度を有することが重要であり、それによって本発明に係る中空繊維膜の両方の共有押出しされた層AおよびB内においてそれぞれ異なった多孔度が得られる。
【0045】
さらに紡糸材料溶液Bの粘度に関してその粘度が過度に低く、特に300mPa・s未満にならないように注意する必要があり、そうでないと滴下の予兆であるいわゆる“数珠繋がり”の現象が発生するためである。その際沈殿剤はもはや均等には流動せず、それによって内径が次々と変化し、その結果中空糸がまるで数珠のような形態になる。このことは特に紡糸材料溶液Bが300未満、なかでも200mPa・s未満の粘度を有していて柔軟に沈殿する場合に発生する。この点に関して“柔軟に沈殿”という概念は、沈殿あるいは凝固浴槽の沈殿剤中に高い溶媒比率が存在し、それによって遅速なポリマー糸の凝固ならびに過度に大きな細孔がもたらされることを意味する。
【0046】
本発明の枠内において膜寸法、すなわち壁厚と内径は比較的大きな範囲で変化させることができ、それによって膜を多様な使用目的に適応させることができる。血液透析、血液透析透過および血液透過、ならびに血漿交換療法に際しては壁厚が通常10ないし70μmとなり、また限外濾過法においては壁厚を数百μm、例えば1000μmにすることができ、それらの寸法は当業者によって適宜上下に調節することができる。
【0047】
本発明に係る方法によれば、例えばジメチルアセトアミド(DMAC)と水の混合物、例えば70%のDMACと30%の水、好適には80%のDMACと20%の水からなる沈殿剤による沈殿によって所要の本発明に係るフリース状かつ大細孔の層Bの構造が得られる。
【0048】
また沈殿の速度も極めて好適であり、これは1秒当たり200ないし400mm、特に好適には1秒当たり200ないし250mmの紡糸速度と5ないし50mmの沈殿スリット高によって設定される。
【0049】
層B内に所要の大きな細孔を形成するためには、紡糸材料が遅速に沈殿する必要があり、それによって生成される中空繊維膜が沈殿スリット内に極めて柔軟かつ機械的に不安定に滞留する。
【0050】
本発明に従って設定される紡糸速度の範囲内において柔軟な沈殿剤は膜壁全体にわたって通流することはできず、外面上に既に細孔が形成されることなく膜が沈殿槽(あるいは凝固槽)内に進入する。外面上の細孔の形成は、前述したように沈殿槽の温度によって調節される沈殿スリットの周囲の可能な限り高い湿度によって開始される。押出しノズルから流出した後にポリマー糸は好適には封包材(管等)内で沈殿槽の表面の位置まで誘導される。封包材内においては湿度が調節可能である。
【0051】
本発明に係る膜は依然として約1g/mである多量の除去可能な自由ポリビニルピロリドンを含んでいる。これは洗浄槽内において例えば水等の溶媒によって除去される。
【0052】
その際洗浄槽の温度は通常60ないし80℃の範囲に維持される。膜は可能な限りポリビニルピロリドンを除去する必要があり、そうでないと溶出性のPVPが血液循環内に到達し得るためである。このことは、本発明に従って得られる膜の乾燥温度を80ないし110℃、特に90ないし100℃にすることによって好適に回避することもできる。
【0053】
本発明の別の対象は、ナノ濾過および限外濾過の分野における分離処理、特に血液透析、血液透析透過および血液透過に対しての本発明に係る中空繊維膜の適用である。
【0054】
本発明に係る二成分式の膜は、乾燥状態における強度および高い耐破壊伸張性等の良好な機械的特性を有する。この膜はフィルタモジュールとして乾燥状態で保管し乾燥状態で輸送することができる。血液処理の適用分野に対して、本発明に係る中空繊維を使用して形成されたフィルタモジュールが容易に血液を浸漬させ得るという事実が極めて重要である。
【0055】
次に、本発明の実施例につき添付図面を参照しながら以下詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】1000倍に拡大した層Bの走査型電子顕微鏡画像である。
【図2】5000倍に拡大した層Bの走査型電子顕微鏡画像である。
【図3】本発明に係る中空繊維膜の層Aの走査型電子顕微鏡画像である。
【図4】本発明に係る中空繊維膜の横断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【図5】本発明に係る中空繊維膜の縦断面の走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明に係る中空繊維膜を生成し、その際紡糸材料溶液Aは20%のポリスルホン(ソルベイ・ユーデル社製のP3500LCD)と6%のポリビニルピロリドン(ISP、PVP−K90)と1%の水と残りの成分としてのジメチルアセトアミドからなり、内側層Bのための紡糸材料溶液Bは10重量%のポリスルホンと5.5%のポリビニルピロリドンと残りの成分としてのジメチルアセトアミドからなるものとした。
【0058】
沈殿剤は80%のジメチルアセトアミドと20%の水からなるものとした。
【0059】
紡糸ノズルとしては独国特許第10211051号明細書に記載の紡糸ブロック内に取り付けられた紡糸ノズルを使用した。
【0060】
紡糸ブロックの温度は60℃に調節した。沈殿スリット高は30mm、紡糸速度は1秒当たり250mmとした。
【0061】
沈殿槽の温度は80℃とした。
【0062】
沈殿および乾燥の後に得られた本発明に係る中空繊維膜REM写真によって検査した。
【0063】
REM写真は市販の走査型電子顕微鏡によって作成した。
【0064】
図1および図2には層B、すなわち本発明に係る中空繊維膜の内面を1000倍(図1)および5000倍(図2)に拡大したREM写真が示されている。
【0065】
両方の写真には、多数の網状の筋(ウェブ)から形成されたフリース状の層Bの構造が示されている。このフリース状の構造は、例えば層A内に存在する従来の一般的な細孔構造ではない。
【0066】
図3には、沈殿の際の沈殿スリット内の高い湿度の結果として約1μmの平均細孔大を有した本発明に係る中空繊維膜の外面(層A)を5000倍に拡大したREM写真が示されている。全体として低いマトリクス材料含有率を伴った極めて高い細孔密度が確認可能である。
【0067】
図4には、いわゆる“極低温破断”によって露出された本発明に係る中空繊維膜の断面を1600倍に拡大したREM写真が示されている。“極低温破断”の概念は、本発明に係る中空繊維膜を液体窒素に浸漬してその後手で横断方向に破断することである。
【0068】
本発明に係る膜の二層式の構造は図4によって確認され、その際に層Aの帯域構造によって両方の層AとBの間に明確な境界線は示されず、両層が本発明に従って得られた階調によって層Aの個々の帯域内に相互に少しずつ侵入している。
【0069】
さらに、限外濾過、ふるいわけ係数、および透過性の測定を実施した。
【0070】
図5には、本発明に係る中空繊維膜の縦断面を200倍に拡大したREM写真が示されている。
【0071】
縦断面は、傾斜した切断装置、例えばいわゆるミクロトーム刃を使用して本発明に係る中空繊維を縦方向に切断することによって得られる。
【0072】
図においてはミクロトーム刃の切断軌跡から不規則な構造が中空繊維膜壁上に形成されている。
【0073】
図5により、本発明に係る中空繊維膜の内面のフリース状の網構造が明確に確認される。
【0074】
限外濾過
本発明に係る中空繊維膜の水性の限外濾過速度は次の式:
UF=(V濾過液×3600)/t×((pein+paus)/2)×0.75)
に従い従来の技術において知られている透析チューブシステムを使用して判定され、ここでUFは(ml/h×mm Hg)で示した限外濾過速度、V濾過液はml(本実施例においては:1000ml)で示した濾過液容量、tは(1000mlを濾過するための)時間(秒)、peinは装置上の血液側の流入圧力(mbar)、pausは血液側の流出圧力(mbar)を示す。
【0075】
血液排出(血液側の流出部)は測定の間閉鎖され、従って濾過のみが実施された。
【0076】
本発明に係る膜(面積0.6m)に対して、4500ないし5000ml/h×mm Hg×mの範囲の限外濾過値(UF値)が測定された。
【0077】
ふるいわけ係数
0.6mの面積を有するモジュールに対して、200ないし300mg/dlのトリグリセリド含有率を有する高脂血性の全血を1000ml使用する。この血液を1時間200ml/分の流速で繊維の管腔を介して循環させる。その間同時に60ml/分の濾過液流が繊維壁を介して外側に濾過して排出される。この条件下においてLDL(低密度リポタンパク)に対するふるいわけ係数は少なくとも90%、特に95ないし100%、殆どの場合は99%超となる。LDLに対するふるいわけ係数は、一般的な血漿濾過の血液処理時間に少なくとも相当する時間間隔にわたって一定となる。
【0078】
自由なポリビニルピロリドンの含有率
最終製品からの抽出後の本発明に係る膜のポリビニルピロリドン残留量は1mg未満であった。この数値は、特にそれによって本発明に係る中空繊維膜を極めて長時間にわたって実施される透析処置に使用することができるため極めて好適である。特に本発明に係る膜は膜血漿交換治療に使用することができ、それは後述する方法に従って判定して0.6mの膜面積のフィルタ当たりで5mgまでのポリビニルピロリドンの放出の限界値が好適なためである。本発明に係る膜はその限界値を大幅に下回る。
【0079】
ポリビニルピロリドン以外の残留物は、フィルタからの抽出物内に確認できなかった。
【0080】
ポリビニルピロリドンの抽出は下記の工程に従って実施した:
抽出に際して同じロットからの2つの血漿フィルタを使用した。
【0081】
サンプル1はサンプル2と同様に繊維束(膜総面積0.6m)から形成された。各血漿フィルタにおいて1000mlの水で37℃の温度で90分間還流しながら抽出を行った。
【0082】
血漿フィルタの血液側の流入部の流量は200mlであった。そのうち60ml/分が濾過され、140ml/分は血液側の流出部上で再びフィルタから流出した。
【0083】
血液側の流出部の水ならびに濾過液のいずれもが溶媒予備タンクに還流された。
【0084】
使用された1000mlの水の容量は、mg/lで示した測定値ならびにmg/フィルタの数値の双方に対応する。
【0085】
結果は表1に示されている。
【0086】
【表1】

【0087】
ポリビニルピロリドンの濃度は定量赤外線分光分析法によって判定し、0.86ないし0.9mg/フィルタの数値を示した。評価のために1630−1735cm−1の波長領域のCO振動帯を使用した。
【0088】
表1に示されているように溶出性のPVPに対する数値は両方にサンプルにおおいて1mg/フィルタ未満となり、それによって本発明に係る中空繊維膜は溶出性のPVPに関する厳格な規制に適合する。
【0089】
一般的に許容可能な溶出性PVPの量は5mg未満であるが、好適には3mg/フィルタ未満、さらに好適には2mg/フィルタ未満、特に好適には1mg/フィルタ未満である。
【0090】
完成した中空繊維膜の総PVP含有率は約3%(重量%)である。その際判定は例えば赤外線分光分析法あるいは窒素および硫黄検出を用いた熱分解ガスクロマトグラフィによって実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有押出し成形された2つの層AおよびBからなり、層Bが0.1ないし10μmの網目幅をもったフリース状の構造を有し、層Aは細孔構造を有してなる中空繊維膜。
【請求項2】
層Aがそれぞれ異なった多孔度を有する少なくとも3つの帯域A1、A2、A3から形成されることを特徴とする請求項1記載の中空繊維膜。
【請求項3】
帯域A1が層Aの表面を形成するとともに0.7ないし2μmの平均細孔大からなる細孔を有することを特徴とする請求項2記載の中空繊維膜。
【請求項4】
帯域A3が層Bに隣接するとともに層Bに向かって細孔大が漸増するような細孔大階調を層Bに向かって有することを特徴とする請求項3記載の中空繊維膜。
【請求項5】
帯域A2は帯域A1と帯域A3の間に配置され200nm超の細孔大を有することを特徴とする請求項4記載の中空繊維膜。
【請求項6】
中空繊維膜の内径が280ないし400μmであることを特徴とする請求項5記載の中空繊維膜。
【請求項7】
中空繊維膜の総壁厚が40ないし80μmであることを特徴とする請求項6記載の中空繊維膜。
【請求項8】
層A対層Bの層厚比が4:1ないし6:1であることを特徴とする請求項7記載の中空繊維膜。
【請求項9】
層Aおよび層Bのいずれもが少なくとも2つのポリマーの混合物からなることを特徴とする請求項8記載の中空繊維膜。
【請求項10】
ポリマーはポリスルホン(PS)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチロール(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリスルホン(PSU)および/またはポリウレタン(PU)から選択することを特徴とする請求項9記載の中空繊維膜。
【請求項11】
層Aおよび層Bの原料がポリスルホン(PS)とポリビニルピロリドン(PVP)の混合物であることを特徴とする請求項10記載の中空繊維膜。
【請求項12】
完成した膜中の自由な残留ポリビニルピロリドンの溶出性成分比率が5mg/膜面積0.6m未満であることを特徴とする請求項11記載の中空繊維膜。
【請求項13】
中空繊維膜のLDLふるいわけ係数が0.9超であることを特徴とする請求項12記載の中空繊維膜。
【請求項14】
(a)2つの紡糸材料溶液AおよびBを生成して、その際に紡糸材料溶液Aの粘度が紡糸材料溶液Bの粘度よりも高くなるようにし、
(b)沈殿槽の温度を70℃超に設定し、
(c)中空繊維ノズルを介して両方の紡糸材料溶液AおよびBを内部沈殿剤と接触させ、
(d)中空繊維膜を沈殿させる、
ステップからなる請求項1ないし13のいずれかに記載の中空繊維膜の製造方法。
【請求項15】
紡糸材料溶液Aの粘度が8000ないし15000mPa・sの範囲にあることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
紡糸材料溶液Aが15ないし35%のポリスルホンと4ないし8%のポリビニルピロリドンと残りの成分としての沈殿剤を含有することを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
紡糸材料溶液Bの粘度が1000mPa・s未満であることを特徴とする請求項14ないし16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
紡糸材料溶液Bが8ないし14%のポリスルホンと3ないし6%のポリビニルピロリドンと残りの成分としての溶媒を含有することを特徴とする請求項17記載の方法。
【請求項19】
紡糸速度が200ないし400mm/sとなることを特徴とする請求項14ないし18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
紡糸ブロックの温度を50ないし90℃に設定することを特徴とする請求項19記載の方法。
【請求項21】
沈殿剤はジメチルアセトアミドと水の混合物であることを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
ナノ濾過ならびに限外濾過分野における分離プロセスのための請求項1ないし13のいずれかに記載の中空繊維膜の適用。
【請求項23】
血液透析、血液透析濾過、ならびに血液濾過のための請求項1ないし13のいずれかに記載の膜の適用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2010−525932(P2010−525932A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504519(P2010−504519)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003195
【国際公開番号】WO2008/128749
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(509291747)フレゼニウス メディカル ケア ドイッチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1)
【Fターム(参考)】