説明

乗客コンベアの安全装置

【課題】踏段上の乗客の状態を詳細に予測し、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を、乗客が転倒してしまう前に検出することが可能であって、踏段上の乗客の転倒を未然に防止することができる乗客コンベアの安全装置を提供する。
【解決手段】乗客コンベアの安全装置において、無端状に連結されて循環移動する踏段と、前記踏段上の乗客により前記踏段の上面にかかる荷重の重心の位置を検出する重心位置検出手段と、前記重心位置検出手段の検出結果に基づいて、前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起する注意喚起手段と、を備えた構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乗客コンベアの安全装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来における乗客コンベアの安全装置においては、踏段の両側にある欄干に多数の光電スイッチからなる乗客検出手段を設けたものが知られている。このような乗客コンベアの安全装置は、これらの乗客検出手段の検出状況から踏段上の乗客の状態を推測する。そして、踏段上の乗客が転倒していると推測される場合には乗客コンベアの運転を停止させるように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−008326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、特許文献1に示された従来における乗客コンベアの安全装置は、踏段上の乗客の姿勢を光学的に検出することにより、踏段上の乗客の現在の状態を推測するものである。従って、踏段上で乗客が転倒した後の状態しか検出することができず、転倒する前の状態を検出して転倒を未然に防止することは困難であるという課題がある。
また、乗客が踏段上でしゃがんでいる場合や踏段上の乗客が身長の低い小柄な子供等である場合等に、乗客が転倒していると誤って検出してしまう可能性があるという課題もある。
【0005】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、踏段上の乗客の状態を詳細に予測し、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を、乗客が転倒してしまう前に検出することが可能であって、踏段上の乗客の転倒を未然に防止することができる乗客コンベアの安全装置を得るものである。
また、第2の目的は、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を高い精度で検出することができ、誤検出の頻度を低減することが可能である乗客コンベアの安全装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る乗客コンベアの安全装置においては、無端状に連結されて循環移動する踏段と、前記踏段上の乗客により前記踏段の上面にかかる荷重の重心の位置を検出する重心位置検出手段と、前記重心位置検出手段の検出結果に基づいて、前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起する注意喚起手段と、を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明に係る乗客コンベアの安全装置においては、踏段上の乗客の状態を詳細に予測し、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を、乗客が転倒してしまう前に検出することが可能であって、踏段上の乗客の転倒を未然に防止することができるという効果を奏する。
また、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を高い精度で検出することができ、誤検出の頻度を低減することが可能であるという効果も併せ奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの安全装置の全体構成を模式的に示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る踏段の詳細な構成を示す斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る踏段上の乗客の立ち位置を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る図3における踏段上の乗客の立ち位置に対応する乗客の重心の位置を説明する図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る踏段の上面を領域に区分けした際における各領域の配置を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る踏段の乗客に対する注意喚起メッセージの内容例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る乗客コンベアの動作を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1から図7は、この発明の実施の形態1に係るものである。図1には、乗客コンベアの安全装置の全体構成が模式的に示されている。
図1において1は、設置された上下階間で乗客を運搬する乗客コンベアの基本的枠組みを構成する主枠である。この主枠1内には、無端状に連結された踏段2が循環移動可能に設けられている。そして、乗客はこれらの踏段2の上に搭乗して上下階間を移動する。主枠1の左右両側には欄干3が立設されている。これらの欄干3の外周には踏段2と同期して循環移動する無端状の移動手摺4が設けられている。
【0010】
図2は、それぞれの踏段の詳細な構成を示すものである。
2aは、それぞれの踏段2の上面を構成する踏板である。乗客コンベアを利用する乗客は、この踏板2aの上に立った状態で搭乗する。また、2bは、階段状に配置された踏段2の蹴上げ部を形成するライザである。踏板2aの、左右両側及び反ライザ2b側の三方の縁部には、デマケーションライン2c(黄色注意標色)が設けられている。このデマケーションライン2cは、隣接する踏段2や欄干3の下部に設けられたスカートガードとの間に靴などを挟まれないよう乗客に注意を促すためのものである。
【0011】
踏板2aには、踏板2aの上面にかかる荷重を検出する荷重センサ5が取り付けられている。この荷重センサ5は、踏板2aのうちデマケーションライン2cを除いた領域のほぼ四隅に位置するように配置されている。これらの荷重センサ5により検出された荷重データは、踏段2の備える判定装置6へと入力される。この判定装置6は、荷重センサ5により検出された踏板2a上面にかかる荷重の情報に基づいて、踏段2上の乗客による荷重の重心を計算して重心位置を特定し、この重心が踏板2a上のどの領域にあるのかの判定を行う。踏板2a上の領域については後に詳述する。
【0012】
踏段2上の乗客の位置と踏板2aにかかる荷重の重心との関係について説明するのが図3及び図4である。まず、これらの図及び後に触れる図5において、図面に向かって左側を左勝手、向かって右側を右勝手と呼ぶ。また、階段状に配置された踏段2の下階側を下部側、上階側を上部側と呼ぶことにする。
【0013】
図3の(イ)に示すように乗客7が踏段2の左勝手側に寄って乗っている場合、図4の(イ)における斜線部に示すように踏段2の上面にかかる荷重の重心も左勝手側に寄ると考えられる。また、図3の(ロ)に示すように乗客7が踏段2の右勝手側に寄って乗っている場合、図4の(ロ)における斜線部に示すように踏段2の上面にかかる荷重の重心も右勝手側に寄る。そして、図3の(ハ)に示すように乗客7が踏段2の下場側に寄って乗っている場合は、図4の(ハ)の斜線部が示すように踏段2の上面にかかる荷重の重心も下部側に寄ることになる。
【0014】
このように、踏段2の上面にかかる荷重の重心から、踏段2上の乗客の位置や姿勢を推定することができる。そして、判定装置6は、この重心位置から推定される乗客の位置が、転倒のおそれがある位置であるか否かを判定する。この判定は、踏板2aの上面を複数の領域に区分けし、重心位置がどの領域内にあるかによって行われる。図5は、この踏板2aの上面における領域の設定を示すものである。
【0015】
まず、踏板2a上面の上部側(反ライザ2b側)における、踏板2aの縁端部から所定の距離だけ内側までの領域であって、後述する領域Bを除いた領域を、領域Aとする。この領域A内に乗客による荷重の重心がある場合、隣接する踏段2のライザ2bに対する接触やつまずき等が発生する可能性が高い。次に、踏板2a上面の左右両側(左右勝手側)における、踏板2aの縁端部から所定の距離だけ内側までの領域であって、後述する領域Cを除いた領域を、領域Bとする。この領域B内に乗客による荷重の重心がある場合、スカートガードへの挟まれや欄干3・移動手摺4への寄りかかり、移動手摺4より外側への体の乗り出し等の可能性が考えられる。
【0016】
そして、踏板2a上面の下部側(ライザ2b側)における、踏板2aの縁端部から所定の距離だけ内側までの領域を、領域Cとする。この領域C内に乗客による荷重の重心がある場合、乗客が何らかのきっかけ等により踏段2から足を踏み外してしまうおそれがある。最後に、以上の領域A、領域B及び領域Cのいずれにも含まれない、踏板2a上面の中央部の領域を、領域Dとする。この領域D内に乗客による荷重の重心がある場合、乗客は正常な乗り位置・乗り方であると考えられる。
【0017】
判定装置6は、荷重センサ5により検出された踏板2a上面にかかる荷重の情報に基づいて、乗客による荷重の重心が踏板2a上の領域A〜Dのどの領域内にあるのかの判定を行う。そして、この判定結果に基づき、重心が領域A、B及びCのいずれかの中にあって乗客への注意喚起が必要である場合に、点灯指令及びメッセージ発報指令を出力する。
【0018】
図2に示すように、踏板2aの左右両側のデマケーションライン2c部分には、警告ランプ8が設けられている。この警告ランプ8は、発光ダイオード(LED)等の発光手段を備えており、発光することにより踏段2上の乗客に対して注意を喚起するものである。この警告ランプ8の発光動作は、踏段2に備えられた警告ランプ駆動装置9により制御される。そして、この警告ランプ駆動装置9に判定装置6から出力された点灯指令が入力されると、警告ランプ駆動装置9は警告ランプ8を点灯させる。
【0019】
また、図1に示すように、乗客コンベアの長手方向両端に設けられた乗降口の近傍には、スピーカ11が設置されている。このスピーカ11は、音声発報装置12からの指令信号に基づいて、踏段2上の乗客に所定の音声メッセージを報知する。
判定装置6から出力されたメッセージ発報指令は、踏段2に設けられた通信装置10を介して、音声発報装置12へと入力される。このメッセージ発報指令には、乗客による荷重の重心の位置が属する領域の情報が含まれている。そして、音声発報装置12は、入力されたメッセージ発報指令の示す領域に対応する音声メッセージをスピーカ11から報知させる。
【0020】
図6は、乗客による荷重の重心が位置する領域とスピーカ11から報知される音声メッセージとの対応を示すものである。重心が領域Aにある場合に対応するのはメッセージAである。このメッセージAは、例えば「ステップにつまずく危険性があります。ステップの中央にお乗り下さい。」という内容である。重心が領域Bにある場合に対応するのはメッセージBである。このメッセージBは、例えば「欄干に寄りかかるのは危険です。ステップの中央にお乗り下さい。」という内容である。そして、重心が領域Cにある場合に対応するのはメッセージCである。このメッセージCは、例えば「足を踏み外す危険性があります。ステップの中央にお乗り下さい。」という内容である。なお、重心が領域Dにある場合は、乗客に注意を喚起する必要はなく、判定装置6からメッセージ発報指令は出力されない。従って、この領域Dに対応するメッセージは存在しない。このようにして、乗客による荷重の重心が位置する領域から想定される状況に対して、報知が必要である音声メッセージの内容が予め定められる。
【0021】
図7のフロー図は、乗客コンベアの安全装置の動作を示すものである。
まず、ステップS1において、各踏段2の判定装置6は、荷重センサ5から出力される踏板2a上面にかかる荷重の情報に基づいて、踏段2上の乗客による荷重の重心を計算して重心位置を測定する。そして、続くステップS2以降において、この重心が踏板2a上のどの領域にあるのかの判定を行う。
【0022】
すなわち、ステップS2において、判定装置6は、ステップS1で得た重心が踏段2上の領域Aにあるか否かについて確認を行う。このステップS2において、重心が踏段2上の領域Aにあることが確認された場合には、ステップS3へと移る。このステップS3においては、判定装置6は、通信装置10介して音声発報装置12へと重心が領域Aにある旨を含むメッセージ発報指令を出力する。このメッセージ発報指令を受け取った音声発報装置12は、領域Aに対応する注意喚起メッセージであるメッセージA「ステップにつまずく危険性があります。ステップの中央にお乗り下さい。」をスピーカ11から発報させる。
【0023】
一方、ステップS2において、重心が踏段2上の領域Aにないことが確認された場合には、ステップS4へと移行する。このステップS4においては、判定装置6は、ステップS1で得た重心が踏段2上の領域Bにあるか否かについて確認を行う。このステップS4において、重心が踏段2上の領域Bにあることが確認された場合には、ステップS5へと移る。このステップS5においては、判定装置6は、通信装置10介して音声発報装置12へと重心が領域Bにある旨を含むメッセージ発報指令を出力する。このメッセージ発報指令を受け取った音声発報装置12は、領域Bに対応する注意喚起メッセージであるメッセージB「欄干に寄りかかるのは危険です。ステップの中央にお乗り下さい。」をスピーカ11から発報させる。
【0024】
ステップS4において、重心が踏段2上の領域Bにないことが確認された場合には、ステップS6へと移行する。このステップS6においては、判定装置6は、ステップS1で得た重心が踏段2上の領域Cにあるか否かについて確認を行う。このステップS6において、重心が踏段2上の領域Cにあることが確認された場合には、ステップS7へと移る。このステップS7においては、判定装置6は、通信装置10介して音声発報装置12へと重心が領域Cにある旨を含むメッセージ発報指令を出力する。このメッセージ発報指令を受け取った音声発報装置12は、領域Cに対応する注意喚起メッセージであるメッセージC「足を踏み外す危険性があります。ステップの中央にお乗り下さい。」をスピーカ11から発報させる。
【0025】
一方、ステップS6において、重心が踏段2上の領域Cにないことが確認された場合には、乗客により踏段2へとかかる荷重の重心が領域Dにある、又は、当該踏段2には乗客が乗っていない、のいずれかの状態であると考えられる。従って、音声メッセージを発報する等の注意喚起を行う必要はないことになる。そこで、動作はステップS1へと戻り、以上の動作を繰り返す。
【0026】
ステップS3、S5及びS7において、重心の位置から想定される状況に対して適切と思われる注意喚起のための音声メッセージを発報した後は、ステップS8へと移る。このステップS8においては、判定装置6は当該踏段2の警告ランプ駆動装置9へと点灯指令を出力する。この点灯指令を受け取った警告ランプ駆動装置9は、当該踏段2の警告ランプ8を点灯させて、当該踏段2上の乗客に対して注意を喚起する。こうして、一連の動作フローは終了する。
【0027】
なお、以上において、荷重センサ5及び判定装置6(の一部の機能)は、踏段2上の乗客により踏段2の上面にかかる荷重の重心の位置を検出する重心位置検出手段を構成している。また、判定装置6(の他の一部の機能)、警告ランプ8、警告ランプ駆動装置9、通信装置10、スピーカ11及び音声発報装置12は、重心位置検出手段の検出結果に基づいて、踏段2上の乗客に対して注意を喚起する注意喚起手段を構成している。
【0028】
以上のように構成された乗客コンベアの安全装置は、踏段上の乗客の状態を詳細に予測し、踏段上の乗客が転倒に至る可能性が高い状態を、乗客が転倒してしまう前に検出することが可能であって、踏段上の乗客の転倒を未然に防止することができる。また、乗客が踏段上でしゃがんでいる場合や踏段上の乗客が身長の低い小柄な子供等である場合等にも誤検出することがないため、誤検出の頻度を低減することが可能である。さらに、乗客の転倒の防止のみならず、移動手摺の外側への体の乗り出し等をしている乗客に対しても注意を喚起することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 主枠
2 踏段
2a 踏板
2b ライザ
2c デマケーションライン
3 欄干
4 移動手摺
5 荷重センサ
6 判定装置
7 乗客
8 警告ランプ
9 警告ランプ駆動装置
10 通信装置
11 スピーカ
12 音声発報装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されて循環移動する踏段と、
前記踏段上の乗客により前記踏段の上面にかかる荷重の重心の位置を検出する重心位置検出手段と、
前記重心位置検出手段の検出結果に基づいて、前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起する注意喚起手段と、を備えたことを特徴とする乗客コンベアの安全装置。
【請求項2】
前記重心位置検出手段は、前記踏段上の乗客により前記踏段の上面にかかる荷重を検出する荷重検出手段を備え、前記荷重検出手段の検出結果に基づいて前記重心の位置を検出することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項3】
前記注意喚起手段は、前記重心位置検出手段により検出された前記重心の位置が前記踏段の上面に予め設定された所定の領域内にある場合に、前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項4】
前記注意喚起手段は、前記踏段に設けられ、点灯することにより前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起する警告ランプを備えたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項5】
前記注意喚起手段は、所定の音声メッセージを発報して前記踏段上の前記乗客に対して注意を喚起する音声発報手段を備えたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の乗客コンベアの安全装置。
【請求項6】
前記音声メッセージの内容は、前記踏段の上面に予め設定された複数の所定の領域のそれぞれに対応して予め定められており、
前記音声発報手段は、前記重心位置検出手段により検出された前記重心の位置が属する前記領域に対応した前記音声メッセージを発報することを特徴とする請求項5に記載の乗客コンベアの安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−35964(P2012−35964A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177332(P2010−177332)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】