説明

乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及び診断装置

【課題】移動手摺りの走行抵抗の異常増大による走行異常の有無を診断し得る乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及び診断装置の提供を目的とする。
【解決手段】上記目的は、移動手摺り6の移動時にその移動手摺り6から発生する摺動音響を検出手段18により検出し、その検出された摺動音響の特徴周波数を抽出してその特徴周波数を基に識別指標値を算出記録装置19により算出し、その算出された識別指標値が予め設定した閾値を越えた場合に走行異常と評価手段20により評価することで、達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法を実施するのに好適な診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアの代表であるエスカレーター1は、図4に示す構造になっている。すなわち、エスカレーター1は、無端状に連結されて2つの乗降口間を走行する複数個の踏み段(図示せず)と、これら踏み段の両側に立設された欄干2と、この欄干2に設けた手摺りガイド3、複数個のガイドローラ4、4A及び複数個の支えローラ5、5A、5Bに沿って走行する移動手摺り6と、この移動手摺り6を走行させるための移動手摺り駆動装置7とを備えている。
【0003】
従来のエスカレーター1における移動手摺り駆動装置7は、図4に示すように、複数個の駆動輪8と押圧車輪9との間で移動手摺り6を挟圧する挟圧部10と、複数個の駆動輪8を回転させる駆動源となる駆動源部11と、この駆動源部11の回転を複数個の駆動輪8に伝達するためのチェーンなどからなる伝達機構部12からなっており、複数個の駆動輪8及び押圧車輪9と移動手摺り6との間の摩擦力により、移動手摺り6を、踏み段の走行方向と同方向に、かつ、踏み段の走行速度と同速度で、走行させる機能を有している。また、従来のエスカレーター1では、図4に示すように、欄干2における移動手摺り6の折り返し部分であって、移動手摺り6が湾曲する部分に摺接するようにガイドローラ4、4Aが設けられると共に、支えローラ5、5Aが設けられている近傍に移動手摺り6が浮き上がるのを押えるための押えガイド板13が設けられている。
【0004】
さらに、従来のエスカレーター1における移動手摺り6は、図5に示すように、複数枚の帆布材を貼着して形成した帆布層14と、この帆布層14の表面を覆うゴム材からなる化粧層15と、帆布層14の帆布材間に設けた複数本のスチールコードなどの磁性体からなる線状の抗張体16とからなっており、その帆布層14の裏面(背面)が、ガイドローラ4、4A、移動手摺り駆動装置7の駆動輪8及び押えガイド板13に摺接するようにしてある。
【0005】
そして、上記従来の移動手摺り6では、複数個のガイドローラ4、4Aの固渋や複数個の支えローラ5、5A、5Bの固渋あるいは移動手摺り6を乗客が把持することなどにより、移動手摺り6の走行抵抗が増大しても、移動手摺り駆動装置7の駆動輪8及び押圧車輪9による移動手摺り6の挟圧力を増大させることで、移動手摺り6が円滑に移動するようにしてある。そのために、上記従来の移動手摺り6では、その移動手摺り6の走行抵抗が異常に増大した場合に、その異常増大に気付かずに、移動手摺り6をそのまま、連続走行させてしまっていた。
【0006】
しかしながら、従来の乗客コンベア用移動手摺りの診断装置としては、抗張体16の破断部からの漏洩磁束を検出することで抗張体抗張体16の破断の有無を検出するようにしたもの(例えば、特許文献1を参照)、複数本の抗張体16の片寄れによる磁束変化を検出することで、その片寄れの状態を判定するようにしたもの(例えば、特許文献2を参照)及びX線透視画像により移動手摺り6内の抗張体16の状態を判定するようにしたもの(例えば、特許文献3を参照)が知られているが、移動手摺り6の走行抵抗の異常増大の有無を診断するものがなかった。
【特許文献1】特開平6−316394号公報(段落番号0005〜段落番号0007、図1)
【特許文献2】特開平2002−80185号公報(段落番号0042〜段落番号0055、図6〜図8)
【特許文献3】特開平10−10060号公報(段落番号0012及び段落番号0016、図10〜図11)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのために、上記従来のエスカレーター1では、移動手摺り6の走行抵抗の異常増大の状態に気付かずに、移動手摺り6を走行させてしまうことと、移動手摺り6を手摺りガイド3から取り外して移動手摺り6の帆布層14の裏面を目視しないとその帆布層14の裏面の摩耗状態確認できないこととが相俟って、その移動手摺り6の帆布層14の裏面の異常摩耗を許してしまう問題があった。
【0008】
本発明は、上述の問題点にかんがみ、なされたものであって、その目的は、移動手摺りの走行抵抗の異常増大による走行異常の有無を診断することのできる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出工程と、この検出工程で検出された摺動音響の特徴周波数を抽出する周波数分析処理工程と、この周波数分析処理工程で抽出された摺動音響の特徴周波数を基に識別指標値を算出する算出工程と、この算出工程で算出された識別指標値が予め設定した閾値を越えた場合に走行異常と評価する評価工程とからなる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法としたことを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明は、移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出手段と、この検出手段により検出された摺動音響の特徴周波数を抽出してその特徴周波数を基に識別指標値を算出すると共に、その識別指標値を記録しておく算出記録装置と、この算出記録装置に記憶された識別指標値が予め設定した閾値を越えた場合に走行異常と評価する評価手段とを少なくとも具備してなる構成の乗客コンベア用移動手摺りの診断装置としたことを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明は、移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出手段を、移動手摺りのターミナル部の上方に、その移動手摺りの上面から隙間を隔てて設置してなることを特徴とする。
【0012】
移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出手段を、欄干の側板に吸着させた自在継ぎ手によって保持するようにしたことを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明は、移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出手段を、移動手摺り駆動装置の駆動源部から離れた側の、移動手摺りのターミナル部の上方に、設置してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動手摺りの走行抵抗の異常増大による走行異常の有無を、簡単に確認し得る乗客コンベア用移動手摺りの診断方法が得られた。また、本発明によれば、移動手摺りの走行抵抗の異常増大による走行異常の有無を、効率よく診断し得る乗客コンベア用移動手摺りの診断装置が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置の実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置の概略説明図である。図2は、本発明の一実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法の手順の流れ図である。図3は、本発明の他実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置の概略説明図である。図1〜図3において、従来の乗客コンベアを示す図4〜図5と同一符号は、同一内容を表している。
【0016】
図1において、本発明の一実施形態に係わる移動手摺り6の診断方法に用いられる診断装置17は、移動手摺り6の走行中にその移動手摺り6から発生する摺動音響を検出する検出手段18と、この検出手段18により検出された摺動音響の特徴周波数Fを抽出してその特徴周波数Fを基に識別指標値Pを算出すると共に、その識別指標値Pを記録しておく算出記録装置19と、この算出記録装置に記憶された識別指標値Pが予め設定した閾値Qを越えた場合に走行異常と評価するパソコンなどからなる評価手段20とを、少なくとも、具備している。
【0017】
診断装置17の検出手段18は、移動手摺り6から発生する摺動音響を検出する音響センサーを有しており、診断作業を行う作業者21が持ち上げ保持できる大きさ及び重さに設計されている。算出記録装置19は、検出手段18とは電気コード19Aで接続されており、検出手段18で検出した摺動音響の特徴周波数Fを抽出してその特徴周波数Fを基に識別指標値Pを算出する演算部と、その識別指標値Pを記録しておく記憶部とを、少なくとも、有している。評価手段20は、予め設定した閾値Qが記憶されている記憶部と、その記憶部に記憶されている閾値Qと算出記録装置19に記録されている識別指標値Pとを比較してその識別指標値Pが閾値Qを越えた場合に走行異常であると評価判定し、かつ、その識別指標値Pが閾値Qを越えない場合に走行異常ではないと評価判定する比較判定部と、この比較判定部による評価判定の結果を表示する画面表示部とを、少なくとも、有している。
【0018】
診断装置17は、図1に示すように、診断作業をする際、移動手摺り6の駆動源となる駆動源部11から離れた側に設置される。その場合、診断装置17の検出手段18は、移動手摺り6のターミナル部における水平部分の上面上方に、約10mmの隙間Gを隔てた状態が維持されるように、作業者21によって、診断作業中、設置される。診断装置17の算出記録装置19及び評価手段20は、エスカレーター1の乗降口の床面に設置される。評価手段20は、電気コード(図示せず)によって、算出記録装置19に接続されている。
【0019】
次に、上記構成の診断装置17を用いた移動手摺り6の診断方法の作業手順を、図1及び図2に基づき説明する。
【0020】
始めに、図2のステップS1に示すように、診断装置17の設置工程を実行する。すなわち、移動手摺り6をエスカレーター1の手摺りガイド3から外すことなく、図1に示すように、エスカレーター1のターミナル部側に位置するところの移動手摺り6の水平部分の上方に、診断装置17の検出手段18を、作業者21が保持すると共に、診断装置17の算出記録装置19及び評価手段20をエスカレーター1の乗降口の床面に設置する。
【0021】
次いで、移動手摺り6の上面と診断装置17の検出手段18の下面との隙間Gが、10mm以内に保持した状態で、図2のステップS2に示すように、検出工程を実行する。すなわち、診断装置17を作動させた状態で、移動手摺り6を一定速度で一周走行させることにより、検出手段18における音響センサーによって、移動手摺り6と手摺りガイド3、複数個のガイドローラ4、4A及び複数個の支えローラ5、5A、5Bとの摺動により発生するところの摺動音響を検出する。
【0022】
次いで、図2のステップS3に進み、ステップS2の検出工程において、検出された摺動音響の特徴周波数を抽出する周波数分析処理工程を実行する。すなわち、短時間FFT分析によって、移動手摺り6と手摺りガイド3、複数個のガイドローラ4、4A及び複数個の支えローラ5、5A、5Bとの摺動により発生するところの摺動音響の特徴周波数を抽出する。
【0023】
次いで、図2のステップS4に進み、ステップS3の周波数分析処理工程において、抽出された摺動音響の特徴周波数を基に識別指標値Pを算出する算出工程を実行する。
【0024】
次いで、図2のステップS5に進み、ステップS4の算出工程において算出された識別指標値Pと予め設定した閾値Qとを比較して移動手摺り6の走行が異常か否かを評価判定する評価工程を実行する。すなわち、評価手段20の記憶部に記憶されている閾値Qと算出記録装置19に記録されている識別指標値Pとを比較して、走行異常であるか否かの評価判定を評価手段20の比較判定部で行い、かつ、その評価判定の結果を評価手段20の画面表示部に表示する。したがって、移動手摺り6の走行異常の有無は、評価手段20の画面表示部を見ることで、簡単に確認することができる。
【0025】
最後に、移動手摺り6の走行異常の有無を確認したならば、図2のステップS6に進み、診断装置17の片付け工程を実行する。すなわち、診断装置17を構成する検出手段18、算出記録装置19及び評価手段20を、エスカレーター1から撤去することで、すべての移動手摺り6の診断作業が終了する。
【0026】
上記構成の診断装置17を用いた診断方法の作業手順によれば、移動手摺り6を手摺りガイド3から外すことなく、しかも、エスカレーター1を停止させることなく、移動手摺り6の診断作業を行うことができるので、その診断作業を効率よく短時間で終了させることができる。
【0027】
さらに、上記構成の診断装置17を用いた診断方法で、定期的に移動手摺り6の診断作業を行うことにより、移動手摺り6の走行異常の発生を確認することができ、移動手摺り6が異常摩耗する前に修理・交換などの対策を行うことができるので、移動手摺り6が異常摩耗してその抗張体16が移動手摺り1の裏面に飛び出すなどの事故の発生を阻止できる。
【0028】
さらに、上記構成の診断装置17によれば、検出手段18を、移動手摺り駆動装置7の駆動源部11から離れた側の、移動手摺り6のターミナル部側に設置することで、移動手摺り駆動装置7の駆動源部11が発生する音響の影響が少ないと共に、最も大きい摺動音響を発生するところの移動手摺り6とガイドローラ4の摺動部位近傍で、その摺動音響が検出されるため、その摺動音響の検出精度を向上させることができる。
【0029】
さらに、上記構成の診断装置17によれば、検出手段18が、移動手摺り6のターミナル部の上方に、その移動手摺り6の上面から隙間Gを隔てて設置されるので、移動手摺り6を、円滑に、連続して、一定速度で一周走行させて、診断作業を行うことができ、その診断作業性を向上させることができる。
【0030】
図3は、本発明の他実施形態に係わる移動手摺り6の診断装置22を示す。図3において、図1と同一符号は同一内容を表している。図3に示す他実施形態の診断装置22と図1に示す一実施形態の診断装置17とは、前者が「検出手段18を、欄干2の側板に吸盤23で吸着させた自在継ぎ手24によって保持する」構成にしたのに対して、後者が「検出手段18を、作業者21が持って保持する」ようにした点でのみ、両者は相違しているにすぎず、他の点では両者は全く同一である。
【0031】
図3に示す他実施形態の診断装置22によれば、吸盤23及び自在継ぎ手24によって検出手段18を保持するようにしたので、作業者21によることなく、診断装置22の検出手段18と移動手摺り6の上面との間の隙間Gを、確実に、かつ、簡単に、保持することができ、作業者21の労力を大幅に軽減させることができる。
【0032】
上記実施形態は、エスカレーター1の移動手摺り6に適用した例で説明しているが、これに限定されない。本発明は、動く歩道などに使用される移動手摺りの診断にも適用できる。また、上記実施形態では、診断装置17の算出記録装置19及び評価手段20をエスカレーター1の乗降口の床面に設置すると共に、評価手段20を電気コードによって算出記録装置19に接続するようにしているが、評価手段20をエスカレーター1の保守会社の事務所に設置して、その評価手段20に無線などにより、算出記録装置19に記録されている識別指標値Pなどの各種データを送信するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置の概略説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法の手順の流れ図である。
【図3】本発明の他実施形態に係わる乗客コンベア用移動手摺りの診断方法及びその方法に用いられる診断装置の概略説明図である。
【図4】従来の乗客コンベアの代表であるエスカレーターの構造説明図である。
【図5】従来の乗客コンベアの代表であるエスカレーターに用いられる移動手摺りの構造説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 エスカレーター
2 欄干
3 手摺りガイド
4、4A ガイドローラ
5、5A、5B 支えローラ
6 移動手摺り
7 移動手摺り駆動装置(一実施形態)
8 駆動輪
9 押圧車輪
10 挟圧部
11 駆動源部
12 伝達機構部
13 押えガイド板
14 帆布層
15 化粧層
16 抗張体
17 診断装置
18 検出手段
19 算出記録装置
19A 電気コード
20 評価手段
21 作業者
22 診断装置(他実施形態)
23 吸盤
24 自在継ぎ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出工程と、この検出工程で検出された摺動音響の特徴周波数を抽出する周波数分析処理工程と、この周波数分析処理工程で抽出された摺動音響の特徴周波数を基に識別指標値を算出する算出工程と、この算出工程で算出された識別指標値が予め設定した閾値を越えた場合に走行異常と評価する評価工程とからなることを特徴とする乗客コンベア用移動手摺りの診断方法。
【請求項2】
移動手摺りの走行中にその移動手摺りから発生する摺動音響を検出する検出手段と、この検出手段により検出された摺動音響の特徴周波数を抽出してその特徴周波数を基に識別指標値を算出すると共に、その識別指標値を記録しておく算出記録装置と、この算出記録装置に記憶された識別指標値が予め設定した閾値を越えた場合に走行異常と評価する評価手段とを少なくとも具備してなることを特徴とする乗客コンベア用移動手摺りの診断装置。
【請求項3】
前記検出手段を、移動手摺りのターミナル部の上方に、その移動手摺りの上面から隙間を隔てて設置してなることを特徴とする請求項2記載の乗客コンベア用移動手摺りの診断装置。
【請求項4】
前記検出手段を、欄干の側板に吸着させた自在継ぎ手によって保持するようにしたことを特徴とする請求項3記載の乗客コンベア用移動手摺りの診断装置。
【請求項5】
前記検出手段を、移動手摺り駆動装置の駆動源部から離れた側の、移動手摺りのターミナル部の上方に、設置してなることを特徴とする請求項3若しくは4記載の乗客コンベア用移動手摺りの診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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