説明

乗客コンベア

【課題】待機モードにおける削減された消費電力量を容易に管理者が把握できる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】エスカレータ1における階高、定格速度、待機速度を含むパラメータに基づいて、待機モードにおける削減消費電力を演算し、削減消費電力と待機時間から削減消費電力量を演算し、削減消費電力量を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗客コンベアの多くは乗客の有無に関わらず常に定格速度で運転する。しかし、近年、電気料金削減などの経済的効果、環境面への配慮などの省エネ効果を図ることを目的として、自動運転機能を付加した乗客コンベアの設置が増えてきている。
【0003】
上記のような自動運転機能を付加した乗客コンベアは、乗降口近傍に設置するセンサにより、乗客の有無を検出し、乗客がいる場合のみ定格速度で運転する通常モードを実行し、乗客がいない場合は停止、又は、低速で運転する待機モードに変更している。
【0004】
この待機モードは、主に乗客の利用頻度が少ないと予想できる場所や、時間帯により利用頻度が著しく変化する場所などに設置される乗客コンベアにとって、効率のよい運転となり、省エネ効果が期待される。しかし、上記乗客コンベアは、省エネ効果の程度を実際に判断することは難しい。そのため、管理者は、効率のよい運転が行われているか否か、また、省エネ効果がどの程度であり、具体的な経済的効果や環境面への効果などを知ることができなかった。
【0005】
そのため、特許文献1に示すように、実際の消費電力量を電力計によって計測し、省エネ効果を消費電力量で把握し、制御装置に設置される表示部にて確認できるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2004−035453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記乗客コンベアは、管理者向けに情報を提供するものでなく、また、具体的な経済的効果や環境面への効果等を表示する手段がないという問題点があった。
【0008】
また、実際の消費電力量を計測するため、積算電力計の設置が必要であるという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は上記問題点に鑑み、待機モードにおける削減された消費電力量を簡単に管理者が把握できる乗客コンベアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態は、乗客がいない場合に、通常モード時の定格速度Voより減速した待機速度Vw(但し、Vo>Vw>=0である)で待機モードを行う乗客コンベアにおいて、前記待機モードの待機時間を計時する計時部と、前記乗客コンベアにおける階高、前記定格速度Vo、前記待機速度Vwを少なくとも含むパラメータに基づいて、前記待機モードにおける削減消費電力を演算し、前記削減消費電力と前記待機時間から削減消費電力量を演算する演算部と、前記削減消費電力量を表示する表示部と、を有することを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例におけるエスカレータの構造を示すブロック図である。
【図2】(a)は待機モードにおける表示部の画面の図であり、(b)は通常モードにおける表示部の画面の図である。
【図3】エスカレータの停止後の表示部の画面の図である。
【図4】演算部の初期処理を示したフローチャートである。
【図5】制御装置の制御処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の乗客コンベアについて図面に基づいて説明する。なお、本実施形態の実施例では、乗客コンベアとしてエスカレータ1を用いて説明する。
【0013】
(1)エスカレータ1の構造
本実施例のエスカレータ1の構造について、図1に基づいて説明する。
【0014】
図1に示すように、エスカレータ1は、制御装置20、手すりベルト2、欄干パネル3、スカートガード4、踏段5から構成され、駆動モータ6により手すりベルト2と踏段5を駆動する。
【0015】
制御装置20は、制御部7、演算部11、メモリ12、表示制御部13を含み、操作盤8、表示部14が接続され、また、光電センサ10a,10bも接続されている。制御部7、演算部11、メモリ12、表示制御部13は、制御ボックスに収納され、乗降口の下方にある機械室に配置されている。管理者がキー操作するための操作部8と表示部14とは、スカートガード4の下部に設置されている。また、光電ポール9a,9bが上階と下階の乗降口の前方にそれぞれ立設され、乗客検出用の光電センサ10a,10bが、これら光電ポール9a,9bに組み込まれている。なお、光電センサ10a,10bは、光電ポール9a,9bに組み込むタイプで本実施例は記載しているが、光電ポール9a,9bを省き、光電センサ10a,10bに反射型のセンサを使用し、インデット15付近に設置してもよい。
【0016】
制御部7は、駆動モータ6への給電を制御するものであり、操作盤8からの操作信号により、エスカレータ1の起動/停止及び速度を制御している。また、制御部7は、エスカレータ1に自動運転機能を実行させる。自動運転機能は、操作盤8の操作により起動後に、乗降口前方の光電ポール9a,9bに組み込まれた光電センサ10a,10bにより乗客を検出し、乗客がいる場合はエスカレータ1の運転を通常モードを実行し、乗客がいない場合は待機モードを実行する。通常モードとはエスカレータ1を定格速度Voで運転するモードであり、待機モードとはエスカレータ1を定格速度Voよりも減速した待機速度Vw(但し、Vo>Vw>=0)で運転させるモードである。
【0017】
演算部11は、予め設定するパラメータに基づいて、削減消費電力、削減電力料金、削減CO排出量Cよりなる省エネ効果値を演算する。この演算については後から詳しく説明する。演算部11で演算した省エネ効果は表示制御部13に出力され、表示制御部13は、例えば液晶表示装置よりなる表示部14にその情報を表示する。表示部14としては、設置場所としては上記以外に、欄干パネル3や光電ポール9a,9b等に設置してもよく、管理者が見れる位置であればよい。
【0018】
(2)演算部11の初期処理
次に、演算部11において、パラメータを設定し、削減消費電力Pwを演算する初期処理について図4のフローチャートに基づいて説明する。
【0019】
ステップS1において、保守員又は管理者はパラメータを設定し、メモリ12に記憶させる。パラメータは、通常モードにおける定格速度Vo、待機モードにおける待機速度Vw、伝達効率η、階高H、走行時の手すり損失係数Ah、走行時の踏段損失係数Asである。
【0020】
ステップS2において、演算部11はメモリ12に記憶された各パラメータに基づいて、待機モードにおける削減消費電力Pwを(1)式〜(7)式に基づいて演算する。すなわち、自動運転機能は、乗客がいないときは通常モードから待機モードに入り、エスカレータ1を定格速度Voから待機速度Vwで運転することで、省エネを図るため、通常モードの動力Loと待機モードの動力Lwの差が、待機時の削減消費電力Pwとなる。
【0021】

Loh=Ah・H・Vo ・・・(1)
Los=As・H・Vo ・・・(2)
Lo=(Loh+Los)/η ・・・(3)
Lwh=Ah・H・Vw ・・・(4)
Lws=As・H・Vw ・・・(5)
Lw=(Lwh+Lws)/η ・・・(6)
Pw=Lo−Lw ・・・(7)

但し、Lohは通常モードの手すり負荷損失、Losは通常モードの踏段負荷損失、Loは通常モードの動力(積載負荷無し)、Lwhは待機モードの手すり負荷損失、Lwsは待機モードの踏段負荷損失、Lwは待機モードの動力(積載負荷無し)である。そして、ステップS3に進む。
【0022】
ステップS3において、演算部11は、削減消費電力Pwをメモリ12に記憶させる。
【0023】
(3)制御装置20の制御処理
次に、管理者が操作盤8の操作で、エスカレータ1の自動運転機能を開始したときの制御装置20の制御処理について図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0024】
ステップS4において、制御装置20は、自動運転機能を開始し、ステップ5に進む。
【0025】
ステップS5において、演算部11が、乗客の有無を判断する。すなわち、光電センサ10a,10bが、乗客を検出した場合には乗客有りと判断し、所定時間(例えば、5分間)検出しない場合は乗客無しと判断する。そして、乗客が無い場合はステップS6に進み、乗客が有る場合はステップS8に進む。
【0026】
ステップS6において、乗客がいないため、制御部7は待機モードを開始して、エスカレータ1を待機速度Vwで運転する。また、演算部11は、待機モードの開始と共に待機時間Twの計時を開始する。そして、ステップS7に進む。
【0027】
ステップS7において、演算部11は、表示制御部13を介して表示部14に、省エネ運転効果の演算が算出中である画面16を表示する(図2(a)参照)。そして、ステップS15に進む。なお、待機モードにおいては、表示部14に画面16の表示を表示続ける。
【0028】
ステップS8において、乗客がいるため、制御部7は通常モードを開始して、エスカレータ1を定格速度Voで運転し、ステップS9に進む。
【0029】
ステップS9において、演算部11は、通常モードを開始したため、待機モードの時間の待機時間Twの計時を終了し、ステップS10に進む。
【0030】
ステップS10において、演算部11は、待機時間Twをメモリ12に記憶し、ステップS11に進む。
【0031】
ステップS11において、演算部11は省エネ効果値を演算する。すなわち、ステップS3においてメモリ12に記憶している削減消費電力Pwを呼出し、また、計時した待機時間Twを用いて、次の(8)式〜(10)式から削減消費電力量W0、削減電気料金R、削減CO排出量Cを演算する。
【0032】

W0=Pw×Tw ・・・(8)
R=W0×k1 ・・・(9)
C=W0×k2 ・・・(10)

但し、k1は電気料金換算係数、k2はCO排出量換算係数である。そして、ステップS12に進む。
【0033】
ステップS12において、演算部11は演算した省エネ効果値を時系列の順番に履歴結果としてメモリ12に記憶させると共に、これら履歴結果を順番に積算する。そして、ステップS13に進む。
【0034】
ステップS13において、演算部11は、表示制御部13を介して表示部14に画面17を表示させる(図2(b)参照)。画面17には、待機モード1回当たりの待機時間、削減消費電力量W0、削減電気料金R、削減CO排出量Cを数値で表示する。また、この表示欄の右側には、前回の待機モードの数値を表示し、その下にはその日における累積した待機時間、削減消費電力量、削減電気料金、削減CO排出量を表示する。さらに、右上には本日の年月日を表示する。具体的には、画面17には、2010年3月3日において、待機時間が0.5時間、削減消費電力量が0.6kWh、削減電気料金が11円、CO排出量は0.3kg/COであることを表示している。そして、ステップS14に進む。
【0035】
ステップS14において、演算部11は待機時間Twをクリアし、ステップS15に進む。
【0036】
ステップS15において、制御部7は、エスカレータ1の運転が終了したか否かを判断する。すなわち、操作盤8の操作信号により運転の終了を指示された場合には、ステップS16に進み、指示されていなければステップS5に戻る。
【0037】
ステップS16において、演算部11はエスカレータ1の運転開始から終了(例えば、1日間)までの削減消費電力量、削減電気料金、削減CO排出量を表示制御部13を介して表示部14に画面18を表示する(図3参照)。画面18においては、運転開始から終了までの全ての待機モードの累積した待機時間、累積した削減消費電力量、累積した削減電気料金、累積した削減CO排出量が表示されている。具体的には、1日間における累積した待機時間が3.5時間、累積した削減消費電力量が3.9kWh、累積した削減電気料金が77円、累積したCO排出量は1.9kg/COとなる。そして、ステップS17に進む。
【0038】
ステップS17において、演算部11は表示制御部13を介して図3における画面18を一定時間(例えば、10分)表示し、その後消灯して、終了する。
【0039】
(4)効果
本実施例によれば、予め設定したパラメータと待機時間の計時のみで省エネ効果値を演算し、その演算結果をエスカレータ1の表面に設置する表示部14に表示することで、保守員のみならず管理者にも情報を提供できる。そのため、実際に削減された電気料金等の経済的効果や、環境面へのアピールにも繋がり、客先のニーズに沿ったエスカレータ1を提供できる。
【0040】
また、これら削減消費電力量の演算過程においても実際の消費電力を計測することなく予め設定したパラメータにより演算できるため、電力計等の装置や制御を必要とせず、コストを削減できる。
【0041】
(5)変更例
上記実施例では、エスカレータ1の運転中の表示と停止操作後の一定時間の間、表示部14に省エネ効果値を表示したが、これに加えて停止中にも操作盤8を操作することにより、履歴を表示したり、また、省エネ効果値の積算を長期間続け、日単位だけでなく、月間単位、年間単位の積算値の表示を行ってもよい。
【0042】
また、スピーカなどの音声出力装置を演算部11に接続し、例えば運転停止中に音声によって「本日の省エネ効果は、削減消費電力量・・・」などといったアナウンスを行ってもよい。
【0043】
上記実施例では、エスカレータ1で説明したが、これに代えて動く歩道でも本実施例を適用できる。
【0044】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
1・・・エスカレータ、11・・・演算部、12・・・メモリ、14・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客がいない場合に、通常モード時の定格速度Voより減速した待機速度Vw(但し、Vo>Vw>=0である)で待機モードを行う乗客コンベアにおいて、
前記待機モードの待機時間を計時する計時部と、
前記乗客コンベアにおける階高、前記定格速度Vo、前記待機速度Vwを少なくとも含むパラメータに基づいて、前記待機モードにおける削減消費電力を演算し、前記削減消費電力と前記待機時間から削減消費電力量を演算する演算部と、
前記削減消費電力量を表示する表示部と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記演算部は、前記削減消費電力量から前記待機モードを行うことによって削減された電気料金、又は、CO排出量を演算し、
前記表示部は、前記電気料金、又は、前記CO排出量を表示する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記演算部は、1回の前記待機モード終了毎に前記表示部に前記削減消費電力量を少なくとも表示させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記演算部は、前記乗客コンベアの停止の後に、運転開始から前記停止までの積算削減電力量を演算し、
前記表示部は、前記積算削減消費電力量を少なくとも表示する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記演算部は、積算した月間、又は、年間の削減消費電力量を演算し、
前記表示部は、前記月間、又は、前記年間の削減消費電力量を表示する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記削減消費電力量を音声で出力する音声出力部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記演算部は、
前記定格速度Voにおける手すり負荷損失と踏段負荷損失から前記通常モード時の動力を演算し、
前記待機速度Vwにおける手すり負荷損失と踏段負荷損失から前記待機モード時の動力を演算し、
前記通常モード時の動力から前記定格運転時の動力を差し引いて前記削減消費電力を演算する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の乗客コンベア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−136307(P2012−136307A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288424(P2010−288424)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】