説明

乗用車の燃料タンク損傷防止構造

【課題】本発明は、コストを抑えた状態で、乗用車の衝突時におけるプロペラシャフトによる燃料タンクの損傷を防止できるようにすることである。
【解決手段】本発明は、前輪と後輪との間の床下に燃料タンク19とプロペラシャフト20とが配置されている乗用車の燃料タンク損傷防止構造であって、床下には、プロペラシャフト20と燃料タンク19間に、その燃料タンク19と空間Sを介した状態でガイド部材35が設けられており、前記乗用車の衝突によりプロペラシャフト20が燃料タンク19側に移動しようとするときに、そのプロペラシャフト20がガイド部材35に当接し、そのガイド部材35により燃料タンク19から離れる方向にガイドされるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前輪と後輪との間の床下に燃料タンクとプロペラシャフトとが配置されている乗用車の燃料タンク損傷防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
前輪と後輪との間の床下に燃料タンクとプロペラシャフトとが配置されている乗用車の場合、前方衝突時にエンジン及びトランスミッション等が後退すると、前記プロペラシャフトが前記トランスミッションと後部のディファレンシャルギヤ間で軸方向両側から押圧力を受けるようになる。これにより、プロペラシャフトが途中のジョイント部分で折れ曲がり、そのプロペラシャフトが横方向に移動して燃料タンクに衝突することがある。
【0003】
特許文献1には、乗用車の衝突時におけるプロペラシャフトと燃料タンクとの干渉による燃料タンクの破損を防止する技術が記載されている。即ち、特許文献1に記載の技術では、図5に示すように、燃料タンク100がバンド状部材102によって乗用車の床下の梁部101に吊り支持されている。そして、前記バンド状部材102に前記燃料タンク100を保護するプロテクタ部材105が取付けられている。プロテクタ部材105は、プロペラシャフト110と燃料タンク100との間に配置されて、その燃料タンク100の側面を覆うようにバンド状部材102の表面側に取付けられている。これにより、乗用車の衝突時にプロペラシャフト110が横方向に移動すると、前記プロペラシャフト110は、先ず、プロテクタ部材105に当たり、そのプロテクタ部材105で緩衝された状態で燃料タンク100に当たるようになる。即ち、プロテクタ部材105が緩衝材となることで燃料タンク100の保護が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭64−39140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した乗用車の燃料タンク100の損傷防止構造では、プロテクタ部材105と燃料タンク100とでプロペラシャフト110の衝突を受ける構成である。このため、前記プロテクタ部材105によって燃料タンク100の損傷を防止できる程度にまで前記衝突力を吸収するためには、大掛かりなプロテクタ部材105が必要になる。したがって、燃料タンク100の損傷防止構造のコストが高くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、コストを抑えた状態で、乗用車の衝突時におけるプロペラシャフトによる燃料タンクの損傷を防止できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、前輪と後輪との間の床下に燃料タンクとプロペラシャフトとが配置されている乗用車の燃料タンク損傷防止構造であって、前記床下には、前記プロペラシャフトと前記燃料タンク間に、その燃料タンクと空間を介した状態でガイド部材が設けられており、前記乗用車の衝突により前記プロペラシャフトが前記燃料タンク側に移動しようとするときに、そのプロペラシャフトが前記ガイド部材に当接し、そのガイド部材により前記燃料タンクから離れる方向にガイドされるように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によると、乗用車の衝突によりプロペラシャフトが燃料タンク側に移動しようとするときに、そのプロペラシャフトが前記ガイド部材に当接し、そのガイド部材により前記燃料タンクから離れる方向にガイドされる。このため、プロペラシャフトが燃料タンクと衝突することがなくなり、燃料タンクの損傷を防止できる。
さらに、ガイド部材と燃料タンク間には空間が設けられているため、プロペラシャフトが前記ガイド部材に当接(衝突)したときに、仮にガイド部材が変形したとしても、そのガイド部材が燃料タンクに衝突することがない。
また、ガイド部材はプロペラシャフトを燃料タンクと干渉しない方向に導く部材であって、そのプロペラシャフトの移動を止める部材ではないため、前記プロペラシャフトの衝突力を全面的に受けるだけの強度は必要とされない。このため、ガイド部材が大掛かりにならず、コストを抑えた状態で、燃料タンクの損傷を防止できるようになる。
【0009】
請求項2の発明によると、ガイド部材は、プロペラシャフトを支持するブラケットの一部に形成されていることを特徴とする。
即ち、ガイド部材を単独で設ける必要がなくなるため、部品点数の増加を抑え、コスト低減を図ることができる。
【0010】
請求項3の発明によると、ガイド部材は、プロペラシャフトが当接する位置が傾斜面になっており、その傾斜面に沿って前記プロペラシャフトが斜め下方に導かれるように構成されていることを特徴とする。
即ち、傾斜面でプロペラシャフトを斜め下方に導く構成のため、ガイド部材の構成が複雑化しない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、コストを抑えた状態で、乗用車の衝突時におけるプロペラシャフトによる燃料タンクの損傷を防止できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1に係る燃料タンク損傷防止構造を備える乗用車の模式平面図である。
【図2】図1のII-II矢視拡大図である。
【図3】図2のIII-III矢視図である。
【図4】本発明の実施形態1に係る燃料タンク損傷防止構造で使用されるガイド部を備えるプロペラシャフトの右側ブラケットの斜視図である。
【図5】従来の乗用車のタンク損傷防止構造を表す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態1]
以下、図1から図4に基づいて本発明の実施形態1に係る燃料タンク損傷防止構造について説明する。
なお、図中に示す前後左右、及び上下は、乗用車の前後左右、及び上下に対応している。
【0014】
<乗用車10の概要について>
本実施形態に係る乗用車10は、二輪駆動と四輪駆動とでボディ12を共用できるように構成されたフラットフロア型の乗用車である。ここで、図1は、四輪駆動方式の前記乗用車10の模式平面図を表している。
前記乗用車10は、エンジン13及びトランスミッション15をボディ前部に配置した乗用車であり、前記トランシミッション15の出力が前輪16を駆動する左右のドライブシャフト16dと中央のプロペラシャフト20とに伝達されるように構成されている。そして、前記プロペラシャフト20の回転がディファレンシャルギヤ17を介して後輪18を駆動する左右のドライブシャフト18dに伝達されるようになっている。
【0015】
前記プロペラシャフト20は、前側シャフト21と、後側シャフト22、及び両シャフト21,22をつなぐユニバーサルジョイント23から構成されている。そして、前側シャフト21の途中部分がボディ12の床下に設けられた軸受25によって支持されている。
軸受25は、図2に示すように、軸受本体25mと、その軸受本体25mから半径方向外側に突出する左右の張出板25fとから構成されている。そして、軸受25の左右の張出板25fがボディ12の床下に設けられた左右のブラケット30,39(後記する)に固定ボルト25bでボルト止めされる。これにより、前記軸受25はボディ12の床下に固定され、プロペラシャフト20は左右のブラケット30,39の間に位置決めされる。
また、ボディ12の床下には、図1、図2に示すように、右側ブラケット30のさらに右側の位置に燃料タンク19が吊り支持されている。即ち、右側ブラケット30は、プロペラシャフト20と燃料タンク19との間に配置されるようになる。
ここで、二輪駆動方式の乗用車10の場合、上記したプロペラシャフト20、ディファレンシャルギヤ17、及び後輪18駆動用のドライブシャフト18dは省略される。
【0016】
<ブラケット30,39について>
ブラケット30,39は、図2に示すように、前側シャフト21(以下、プロペラシャフト20という)の軸受25を左右両側から支持する部材であり、ボディ12の床板12fの裏側に溶接により固定されている。
左側ブラケット39は、上部開放型の角形容器状に形成されており、その容器の上部開放部周縁にフランジ部39fがほほ一定幅で折り曲げ形成されている。そして、左側ブラケット39の底部39bの中央位置に貫通孔(図示省略)が形成されて、その貫通孔の内側に前記固定ボルト25bが螺合されるナット(図示省略)が取付けられている。左側ブラケット39は、側面がプロペラシャフト20と平行になるように位置決めされた状態で、その左側ブラケット39のフランジ部39fがボディ12の床板12fに溶接される。これにより、左側ブラケット39がボディ12の床板12fの裏側に固定される。
【0017】
右側ブラケット30は、図4等に示すように、プロペラシャフト20の軸受25を支持する軸受支持部33と、乗用車10の衝突時にプロペラシャフト20を斜め下方にガイドするためのガイド部35とから構成されている。
前記軸受支持部33は左側ブラケット39と等しい高さ寸法の角形容器状に形成されており、前記ガイド部35は前記軸受支持部33の後側でその軸受支持部33よりも深い角形容器状に形成されている。ここで、ガイド部35の高さ寸法は、そのガイド部35がプロペラシャフト20の下面からそのプロペラシャフト20の直径寸法以上張出するような高さ寸法に設定されている(図2参照)。
前記軸受支持部33の上部開放部とガイド部35の上部開放部とは、図4に示すように、連続した状態で長方形状に構成されており、その連続した上部開放部の周縁にフランジ部36がほほ一定幅で折り曲げ形成されている。また、軸受支持部33の底部33bには、中央位置に貫通孔(図示省略)が形成されており、その貫通孔の内側に固定ボルト25bが螺合されるナット33nが取付けられている。さらに、軸受支持部33の底部33bとガイド部35の底部35bとの境界位置には段差34が設けられている。
【0018】
右側ブラケット30は、側面がプロペラシャフト20と平行になるように、かつ、前記軸受支持部33が左側ブラケット39と前後方向において同位置になるように位置決めされた状態で、その右側ブラケット30のフランジ部36がボディ12の床板12fに溶接される。
前記プロペラシャフト20の外周面と対向するように設けられた右側ブラケット30の側面(ガイド部35の側面)は、図2に示すように、斜め下方を指向するように傾斜した傾斜面35kとなっている。ここで、鉛直線Hに対する傾斜面35kの傾斜角度がθに設定されている。また、プロペラシャフト20と下向き傾斜面35k間の隙間が寸法Lに設定されている。さらに、右側ブラケット30と燃料タンク19との間には、その右側ブラケット30が変形した場合でも燃料タンク19に当たらないように、空間Sが設けられている。
右側ブラケット30と左側ブラケット39とがボディ12の床板12fに溶接により固定されると、プロペラシャフト20を支持する軸受25の左右の張出板25fが、上記したように、固定ボルト25bによって右側ブラケット30の軸受支持部33と左側ブラケット39とにボルト止めされる。これにより、プロペラシャフト20が左右のブラケット30,39の間に設置される。
ここで、乗用車10の床板12fに使用される鋼板の厚み寸法は約1.6mmに設定されており、左右のブラケット30,39に使用される鋼板の厚み寸法は約1.8mmに設定されている。
【0019】
<本実施形態に係る燃料タンク損傷防止構造の動作について>
次に、本実施形態に係る燃料タンク損傷防止構造の動作について説明する。
乗用車10が前方衝突すると、図1の点線に示すように、エンジン13及びトランスミッション15等が後退し、プロペラシャフト20がトランスミッション15と後部のディファレンシャルギヤ17間で軸方向両側から押圧力を受ける。これにより、プロペラシャフト20が途中のジョイント23部分で折れ曲がる(点線参照)。この結果、プロペラシャフト20を支持する軸受25の張出板25fが左右のブラケット30,39から外れ、プロペラシャフト20が燃料タンク19の方向に横移動することがある(点線参照)。前述のように、右側ブラケット30のガイド部35は、プロペラシャフト20の下面よりも下方に張出しているため、横移動したプロペラシャフト20は、図2に示すように、右側ブラケット30(ガイド部35)の傾斜面35kに衝突するようになる。前記傾斜面35kは、傾斜角度がθに設定されて斜め下方を指向するように傾斜しているため、その傾斜面35kに衝突したプロペラシャフト20は前記傾斜面35kにガイドされ、さらに自重で下方に移動する。このため、プロペラシャフト20が燃料タンク19に衝突することがなくなり、燃料タンク19の損傷を防止できるようになる。
即ち、前記右側ブラケット30のガイド部35が本発明のガイド部材に相当する。
【0020】
<本実施形態に係る燃料タンク損傷防止構造の長所について>
本実施形態に係る燃料タンク損傷防止構造によると、乗用車10の衝突によりプロペラシャフト20が燃料タンク19側に移動しようとするときに、そのプロペラシャフト20が右側ブラケット30のガイド部35(ガイド部材)に当接し、そのガイド部35により燃料タンク19から離れる方向にガイドされる。このため、プロペラシャフト20が燃料タンク19と衝突することがなくなり、燃料タンク19の損傷を防止できる。
さらに、ガイド部35と燃料タンク19間には空間Sが設けられているため、プロペラシャフト20がガイド部35に当接(衝突)したときに、仮にガイド部36が変形したとしても、そのガイド部35が燃料タンク19に衝突することがない。
【0021】
また、ガイド部35はプロペラシャフト20を燃料タンク19と干渉しない方向に導く部材であって、そのプロペラシャフト20の移動を止める部材ではないため、プロペラシャフト20の衝突力を全面的に受けるだけの強度は必要とされない。このため、ガイド部35が大掛かりにならず、コストを抑えた状態で、燃料タンク19の損傷を防止できるようになる。
また、ガイド部35は、プロペラシャフト20を支持する右側ブラケット30の一部に形成されているため、ガイド部35を単独で設ける必要がなく、部品点数の増加を抑え、コスト低減を図ることができる。
さらに、ガイド部35は、プロペラシャフト20が当接する位置が傾斜面35kになっており、その傾斜面35kに沿ってプロペラシャフト20が斜め下方に導かれるように構成されているため、ガイド部35の構成が簡単になる。
【0022】
<変更例>
ここで、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更が可能である。例えば、本実施形態では、プロペラシャフト20を支持する右側ブラケット30の後部にガイド部35を形成する例を示したが、右側ブラケット30とガイド部35とを分けて形成し、右側ブラケット30とガイド部35との板厚寸法を変えることも可能である。
また、本実施形態では、ユニバーサルジョイント23を有するプロペラシャフト20を使用した乗用車10に本発明を適用する例を示したが、ユニバーサルジョイント23を有しないプロペラシャフト20を使用した乗用車に本発明を適用することも可能である。
また、本実施形態では、下向きの傾斜面35kでプロペラシャフト20を斜め下方にガイドする例を示したが、下向きの傾斜面35kの代わりに下向きの凹円弧面等を使用することも可能である。
また、本実施形態では、プロペラシャフト20の右側に燃料タンク19を配置し、右側ブラケット30にガイド部35を設ける例を示したが、プロペラシャフト20の左側に燃料タンク19を配置し、左側ブラケット39にガイド部35を設けることも可能である。
【符号の説明】
【0023】
10・・・・乗用車
16・・・・前輪
18・・・・後輪
19・・・・燃料タンク
20・・・・プロペラシャフト
30・・・・右側ブラケット
35・・・・ガイド部(ガイド部材)
35k・・・下向き傾斜面(傾斜面)
39・・・・左側ブラケット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪と後輪との間の床下に燃料タンクとプロペラシャフトとが配置されている乗用車の燃料タンク損傷防止構造であって、
前記床下には、前記プロペラシャフトと前記燃料タンク間に、その燃料タンクと空間を介した状態でガイド部材が設けられており、
前記乗用車の衝突により前記プロペラシャフトが前記燃料タンク側に移動しようとするときに、そのプロペラシャフトが前記ガイド部材に当接し、そのガイド部材により前記燃料タンクから離れる方向にガイドされるように構成されていることを特徴とする乗用車の燃料タンク損傷防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載された乗用車の燃料タンク損傷防止構造であって、
前記ガイド部材は、前記プロペラシャフトを支持するブラケットの一部に形成されていることを特徴とする乗用車の燃料タンク損傷防止構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載された乗用車の燃料タンク損傷防止構造であって、
前記ガイド部材は、前記プロペラシャフトが当接する位置が傾斜面になっており、その傾斜面に沿って前記プロペラシャフトが斜め下方に導かれるように構成されていることを特徴とする乗用車の燃料タンク損傷防止構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166591(P2012−166591A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26904(P2011−26904)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】