説明

乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法

【課題】ローカバー下部の剛性が高い場合でもゴム噛みを防止し、外観、品質が良好な乗用車用空気入りタイヤを製造することができる乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法を提供する。
【解決手段】セグメント金型およびサイド金型を含む複数の金型からなる加硫金型を備える加硫装置を用いてローカバーを加硫シェーピングする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法であって、金型閉工程において、前記セグメント金型の接合面と前記サイド金型の接合面との間の距離がゼロになるまでに、金型閉動作を2〜5秒間一時停止した後、金型閉動作を再開することを特徴とする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローカバーの加硫成形に使用される乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車用空気入りタイヤなどの空気入りタイヤは、一般にローカバー(未加硫タイヤ)を加硫シェーピングする工程を経て製造されている。図2は加硫シェーピング方法を説明する図であって、加硫シェーピングに用いられる加硫金型の構成の一例を示す断面図である。図2に示すように、加硫金型1は、上下1対のセグメント金型2、サイド金型3およびビードリング4を備えている。5はブラダーである。
【0003】
加硫シェーピングは、ローカバーTを加硫金型1の内部に装着し、ブラダー5に内圧を掛けてローカバーTを加硫金型1のキャビティ面に押圧した状態で加熱することにより行われる。
【0004】
加硫シェーピングにおいて、加硫金型1を閉じる際(金型閉動作時)に、例えばセグメント金型2の接合面とサイド金型3の接合面との間でローカバーの噛みこみ(ゴム噛み)が発生することがある。
【0005】
このようなローカバーのゴム噛みを防止するために、例えば、金型の型締めに伴うブラダー内圧力の増加に対応して不活性ガスをブラダーから排出し、シェーピング圧力をほぼ一定に保持する加硫シェーピング方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−369534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のタイヤ加硫シェーピング方法では、ゴム噛みを充分に防止できない場合がある。即ち、図3に示すように、金型閉動作時にローカバー下部の表面Ts1(ローカバーの最大幅となる位置からビードまでの部分)がサイド金型3のキャビティ面に充分に当接せず、キャビティ面から離反した状態となる場合がある。図3においてTsはローカバー表面、Ts2はローカバー上部の表面、Sはセグメント金型2とサイド金型3との接合面間の隙間である。
【0008】
このような状態のまま金型閉動作を続けた場合、ローカバー上部の表面Ts2(バットレスからローカバーの最大幅となる位置までの部分)がより一層金型に強く押しつけられ、セグメント金型2とサイド金型3の接合面との間の隙間Sでゴム噛みが発生する可能性がある。特に、ローカバー下部T1の剛性が高い程この傾向が顕著である。
【0009】
そこで、本発明は、ローカバー下部の剛性が高い場合でもゴム噛みを防止し、外観、品質が良好な乗用車用空気入りタイヤを製造することができる乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
請求項1記載の発明は、
セグメント金型およびサイド金型を含む複数の金型からなる加硫金型を備える加硫装置を用いてローカバーを加硫シェーピングする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法であって、
金型閉工程において、前記セグメント金型の接合面と前記サイド金型の接合面との間の距離がゼロになるまでに、金型閉動作を2〜5秒間一時停止した後、金型閉動作を再開することを特徴とする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法である。
【0012】
請求項2記載の発明は、
前記金型閉動作の2〜5秒間の一時停止が、前記セグメント金型の接合面と前記サイド金型の接合面との間の距離が1〜10mmの範囲内において行われることを特徴とする請求項1に記載の乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法である。
【0013】
請求項3記載の発明は、
前記ローカバーをブラダーで内側から加圧する圧力が、0.05〜0.20MPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ローカバー下部の剛性が高い場合でもゴム噛みを防止することができる乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の加硫シェーピング方法において、金型閉動作を一時停止したときの加硫金型およびローカバーの状態を模式的に示す断面図である。
【図2】加硫シェーピング方法を説明する図である。
【図3】従来の加硫シェーピング方法におけるローカバーの状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施の形態に基づいて、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の加硫シェーピング方法において、金型閉動作を一時停止したときの加硫金型およびローカバーの状態を模式的に示す断面図である。図1において、2はセグメント金型、3はサイド金型、Sはセグメント金型2の接合面とサイド金型3の接合面間の隙間、dは隙間Sの距離、Tsはローカバー表面、Ts1はローカバー下部の表面、Ts2はローカバー上部の表面である。なお、以下の説明においては、図2、図3も参照して説明する。
【0018】
まず、ローカバーを加硫金型1に装着し、次に加硫金型閉動作を開始すると共にブラダー5(図2参照)内に加熱加圧媒体を注入する。そして、前記隙間Sの距離dが1〜10mmになったときに金型閉動作を2〜5秒間一時停止する。一時停止終了後、金型閉動作を再開して加硫シェーピングを続行する。
【0019】
本実施の形態では、金型閉動作中に金型閉動作を一時停止させることで、ローカバー下部T1を金型3に押し付けることにより、ローカバーの表面Tsは図3に示した状態から、図1に示した状態、即ちローカバー下部の表面Ts1がサイド金型3のキャビティ面に当接した状態になる。その結果、ローカバー下部の表面Ts1からローカバー上部の表面Ts2への曲線形状が緩やかになると共にローカバー上部T2(図2参照)に対するブラダー5の内圧が相対的に低下するため、ローカバー上部T2のセグメント金型2、サイド金型3への押しつけ力が抑制される。
【0020】
金型閉動作を一時停止する時のセグメント金型2の接合面とサイド金型3の接合面との間の距離dは、1〜10mmであることが好ましい。前記距離dが1mm以上であるとする理由は、1mm未満であると、ローカバーTの金型への当接(当たり)が確実になる前に、ゴム噛みが発生する恐れがあるからである。また、前記距離dが10mmを超えると、その後の金型閉動作によって、ローカバー下部T1(図2参照)の金型への当たりが弱くなり、所期するシェーピングが行われなくなる恐れがあるからである。
【0021】
なお、セグメント金型2とサイド金型3の接合面高さをセクション高さの20〜30%にした場合、より高い効果が得られるため好ましい。また、本発明は、ゴム噛みが発生しやすい高扁平タイプのタイヤの製造に適用した場合、より顕著な効果を発揮する。
【0022】
また、ブラダーの内圧が0.05MPa未満の場合は押しつけ不足でベアなどが発生する恐れがあり、一方、0.20MPaを超える場合は全体的な押しつけ力が大きくなり、噛みこみが発生する恐れがある。このため、ブラダーの内圧は0.05〜0.20MPaが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。
【0024】
1.ローカバーの加硫シェーピング
(実施例1〜4)
以下のタイヤサイズ、加硫シェーピング圧、加硫金型の条件で、乗用車用空気入りタイヤ用ローカバーの加硫シェーピングを実施した。
タイヤサイズ :195/65R15
加硫シェーピング圧:0.1MPa
加硫金型 :割りモールド
セグメント 9分割
セグメント/サイド接合面高さ 23%
【0025】
実施に際しては、ローカバー下部の最大厚みを13mmとし、金型閉動作を一時停止させるときのセグメント金型2とサイド金型3との接合面の隙間(距離d)を1mm、5mm、10mmの3水準、停止時間を2秒、3.5秒、5秒の3水準とした。実施例1〜4のそれぞれの隙間、停止時間を表1に示す。
【0026】
(比較例1、2)
ローカバー最大厚みを10mm、13mmとし、金型閉動作に一時停止期間を設けなかったこと以外は実施例と同じ方法で加硫シェーピングし、それぞれを比較例1、比較例2とした。
【0027】
(実施例5、6、比較例3、4)
隙間を、0.5mm、5mm、11mmの3水準とし、停止時間を1秒、3.5秒、6秒の3水準としたこと以外は実施例1〜4と同じ方法で加硫シェーピングした。それぞれの隙間、停止時間を表1に示す。
【0028】
2.評価
(実施例1〜6、比較例1〜4)
(1)評価方法
金型全閉直後にローカバーをとり出し、ゴム噛み発生の有無を調べた。
【0029】
(2)評価結果
評価結果をまとめて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1より、ローカバー下部最大厚みが10mm、即ちローカバー下部の剛性が低い場合には一時停止を行わなくてもゴム噛みが発生しないが、ローカバー下部最大厚みが13mmの場合はゴム噛みが発生した。また、一時停止を行った場合でも、隙間、停止時間のいずれかが2〜5秒の範囲に該当しない場合にはゴム噛みが発生した。一方、隙間、停止時間のいずれもが1〜10mm、2〜5秒の範囲に該当する場合には、ローカバー下部最大厚みが13mm、即ちローカバー下部の剛性が高くてもゴム噛みが発生しなかった。
【0032】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 加硫金型
2 セグメント金型
3 サイド金型
4 ビードリング
5 ブラダー
d セグメント金型の接合面とサイド金型の接合面との間の距離
S セグメント金型の接合面とサイド金型の接合面との間の隙間
T ローカバー
T1 ローカバー下部
T2 ローカバー上部
Ts ローカバー表面
Ts1 ローカバー下部の表面
Ts2 ローカバー上部の表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント金型およびサイド金型を含む複数の金型からなる加硫金型を備える加硫装置を用いてローカバーを加硫シェーピングする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法であって、
金型閉工程において、前記セグメント金型の接合面と前記サイド金型の接合面との間の距離がゼロになるまでに、金型閉動作を2〜5秒間一時停止した後、金型閉動作を再開することを特徴とする乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法。
【請求項2】
前記金型閉動作の2〜5秒間の一時停止が、前記セグメント金型の接合面と前記サイド金型の接合面との間の距離が1〜10mmの範囲内において行われることを特徴とする請求項1に記載の乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法。
【請求項3】
前記ローカバーをブラダーで内側から加圧する圧力が、0.05〜0.20MPaであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗用車用空気入りタイヤの加硫シェーピング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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