説明

乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体

【課題】航空機の飛行空域に存在し得る乱気流発生空域を検出して安全且つ快適な飛行を支援する乱気流検出装置及び方法並びにそれをコンピュータに実行させるプログラム及びそれを格納する記憶媒体を提供する。
【解決手段】レーダー装置20に基づいて、コンピュータ120のアプリケーションプログラム130により航空機の位置情報及び高度情報を検出して乱気流発生空域の存在を判定・検出する。そして、航空機の高度差が設定時間内に高度基準値を超え且つそれが所定回数以上発生したとき乱気流発生空域と判定し、航空機の飛行空域情報と共に乱気流発生空域をディスプレイ110に表示して、管制官が後続航空機40の飛行ルートの変更等を指示することを可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乱気流検出装置及び方法に関し、特に航空機の安全な飛行のために飛行経路中に存在し得る乱気流を事前に検出して管制室のレーダー装置に表示する乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
中距離以遠の場所間の移動(又は旅行)には、移動速度が速いというメリットを有するので航空機の使用が一般的になっている。航空機は、航空機自体に搭載されたレーダー及びその他の通信装置により地上の管制官の支援により決められた空域を飛行するので、安全な移動手段である。しかし、航空機が飛行する航路は空中であるので、気象条件や他の航空機の飛行により生じえる乱気流等により影響を受ける。空域を通過する航空機には管制室に備えられたレーダーで取得した気象情報を管制官から受け取ることにより航空機側で安全な飛行に必要な予防処置をとることが可能となる。
【0003】
ここで、「レーダー」とは、航空管制等で使用される、1次レーダー、2次監視レーダー、警戒管制レーダー及び放送型自動位置情報伝送・監視機能(ADS−B)をいう。
【0004】
従来のレーダー表示は、一般に次のように行われている。
レーダーによりリアルタイムに更新される航空機情報を管制システムより入力する。
管制システムより入力した航空機情報に基づき、レーダーから航空機までの距離の位置にシンボルを表示して、シンボル周辺に航空機の高度情報等を文字情報として表示する。
気象情報は、管制を行う飛行場の気象状態を文字情報として表示する。
【0005】
斯かるレーダーにより航空機の飛行を管制する又は航空機の安全な飛行を支援する技術は、幾つかの技術文献に開示されている。ドップラレーダーを使用する乱気流検出装置により検出した乱気流発生情報を管制室に表示して管制業務を効率化する管制情報表示システムが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。また、航空機の飛行に伴ってその後方に発生する乱気流をドップラレーダー等により観測して、後続する航空機の飛行や離着陸の安全を保証する乱気流予測装置及び乱気流予測方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2000−206245号公報(第4−5頁、第1図)
【特許文献2】特開2003−67900号公報(第9−10頁、第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の如き従来技術は、本発明が意図する技術内容を開示しないか又は解決するべき課題を有する。先ず、上述した特許文献1に開示する従来技術は、空港面探知レーダによる空港、即ち航空機の離発着する滑走路を含む空港施設とそこから離発着する航空機による乱気流を合成して表示して管制業務を効率化するのみであって、航空機の飛行空域に存在し得る乱気流空域を検出して表示するものでもなければ、航空機の飛行空域と共に乱気流発生空域を表示して後続の航空機に斯かる乱気流発生空域を回避するよう適切な指示を可能にする技術を開示するものではない。また、上述した特許文献2に開示される従来技術は、観測データに基づいて乱気流の寿命を予測する乱気流予測方法であって、本発明が意図する技術や解決手段を開示するものではない。
【0007】
本発明は、従来技術の上述した課題に鑑みなされたものであり、航空機の飛行空域に安全な飛行を阻止する可能性のある乱気流発生空域を判定・検出して、航空機の管制官が後続航空機の安全且つ快適な飛行を支援するのに好適な乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体は、次の如き特徴的な構成を採用している。
【0009】
(1)航空機の安定飛行を妨害する可能性のある乱気流の発生空域を航空機の飛行状態により検出する乱気流発生空域検出手段と、
該乱気流発生空域検出手段で検出された乱気流発生空域の高度情報及び位置情報を保存し、航空機の飛行空域と共に前記乱気流発生空域を表示画面に表示する表示画面生成手段と
を備える乱気流検出装置。
(2)前記乱気流発生空域検出手段は、レーダー装置からの情報に基づいて、予め設定された設定時間内における前記航空機の高度基準値を超える飛行高度差に基づいて決定する上記(1)の乱気流検出装置。
(3)前記乱気流発生空域検出手段は、前記航空機の高度基準値を超える飛行高度差の変化が予め決められた回数以上発生する場合に乱気流発生空域とする上記(2)の乱気流検出装置。
(4)前記航空機の高度基準値及び/又は発生回数の判定基準を複数設けて、前記乱気流の強度情報を取得する乱気流強度判定手段を備える上記(2)又は(3)の乱気流検出装置。
(5)航空機の管制室内に設けられ、前記乱気流発生空域を飛行予定の後続航空機に対して管制官が適切な迂回航路を指示可能にする上記(1)乃至(4)の何れかの乱気流検出装置。
(6)航空機の安定飛行を妨害する可能性のある乱気流発生空域を検出して該乱気流発生空域を飛行予定の航空機に乱気流発生情報を提供可能にする乱気流検出方法において、
航空機の飛行位置及び高度をレーダー装置により定期的に監視する航空機飛行監視ステップと、
該航空機飛行監視ステップで取得した航空機の飛行位置情報及び高度情報に基づいて乱気流発生空域を判定する乱気流発生空域判定ステップと、
該乱気流発生空域判定ステップで判定された乱気流発生空域情報及び航空機の飛行航路を含む表示画面生成ステップと、
該表示画面生成ステップに基づいてディスプレイに前記乱気流発生空域情報を含む画面を表示するステップと
を備える乱気流検出方法。
(7)前記乱気流発生空域判定ステップは、航空機情報を入力するステップと、前記航空機の設定時間内の飛行高度差が高度基準値を超えるか否か判定するステップと、前記高度基準値を超える航空機の高度情報及び位置情報を保存するステップと、前記航空機の高度基準値を超える回数を検出するステップとよりなる上記(6)の乱気流検出方法。
(8)前記高度基準値及び/又は高度差の発生回数の判定基準を複数用意して前記乱気流発生強度を示す強度情報を取得するステップを更に備える上記(7)の乱気流検出方法。
(9)上記(6)乃至(7)の何れかのステップをコンピュータに実行させるように構成されたプログラム。
(10)上記(9)のプログラムが格納されている記憶媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明による乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体は、次の如き実用上の特有の効果を奏する。即ち、乱気流発生空域をレーダー表示装置上に表示することにより、管制官は航空機に乱気流が発生した状況を目視で確認することが可能になり、航空機の状況を確認する労力を低減させることが可能である。また、航空機に乱気流が発生した状況から、管制官はそのときの気象状況と乱気流発生空域から最適な航路を航空機に対して指示することができる。
【0011】
更に、管制官は、乱気流の強度を目視で確認できるため、更に正確な管制指示をパイロットに与えることが可能となり、航空機の安全且つ円滑な運行を可能にする。また、乱気流の強度を判定して表示画面に表示可能であるので、管制官はその領域を飛行予定の後続航空機の種類等に応じて一層適切な指示を提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明による乱気流検出装置及び方法並びにそのプログラム及びそれを格納する記憶媒体の好適な実施の形態の構成及び動作を、添付図を参照して詳細に説明する。
【0013】
先ず、図1を参照して、本発明による乱気流検出装置の構成及び動作の概要を説明する。乱気流検出装置10は、設定情報ファイル11、高度情報処理装置12及び表示装置13を含んでいる。この乱気流検出装置10には、レーダー(又はレーダー装置)20が接続され、そのアンテナ21から電波を発射し、乱気流空域30からの反射電波を受信する。
【0014】
レーダー20により検出した乱気流空域30からの高度情報は、乱気流検出装置10の高度情報処理装置12に入力され、設定情報ファイル11の情報を活用して必要な処理を行ない、処理結果を表示装置13に表示する。管制官14は、この表示装置13の表示に基づいて、他の航空機(後続機)40等に乱気流情報提供する。また、高度情報処理装置12は、処理結果を関連システムへも出力する。図1中に示す如く、乱気流検出装置10は、レーダー装置20により、設定時間内の高度差から乱気流発生空域30を検出し、設定情報ファイル11に保存する。
【0015】
次に、図2は、図1中に示す本発明による乱気流検出装置(又は乱気流予測装置)10の好適な実施の形態の詳細構成を示す機能ブロック図である。この乱気流検出装置10は、ディスプレイ(表示装置)110及び情報処理装置であるコンピュータ120により構成される。このコンピュータ120は、乱気流検出(又は乱気流予測)用のアプリケーションプログラム130を搭載している。
【0016】
コンピュータ120は、このアプリケーションプログラム130を動作させる。ディスプレイ110は、アプロケーションプログラム130により生成された乱気流発生空域(図1中の30)の画像を、図1中の管制官14が容易且つ迅速に理解可能な形態で表示するCRT(ブラウン管)、LCD(液晶表示パネル)、プラズマディスプレイパネル等の表示装置である。
【0017】
アプリケーションプログラム130は、航空機位置情報入力処理部131、乱気流発生空域の判定処理部132、表示データ作成処理部133及び表示画面生成処理部134を含んでいる。航空機位置情報入力処理部131は、管制官14の操作に基づき航空機の位置情報を入力する。乱気流発生空域の判定処理部132は、レーダー20からの情報に基づいて乱気流発生空域30を判定する。表示データ作成処理部133は、ディスプレイ110に入力するためのデータを作成する。表示画面生成処理部134は、ディスプレイ110に実際に表示される画像情報を生成する。
【0018】
次に、図1乃至図3を参照して、本発明による乱気流検出装置及び方法の第1実施の形態の動作を詳細に説明する。図3は、本発明による乱気流検出装置の動作例を示すフローチャートである。
【0019】
アプリケーションプログラム130には「乱気流判定フェーズ」が含まれている。この乱気流判定フェーズでは、以下のステップA1〜A5で処理を行う。
(1)航空機位置情報入力処理部131で航空機情報を入力する(ステップA1)。
(2)乱気流発生空域の判定処理部132により、同一航空機の前回入力した高度情報と今回の高度情報を比較する(ステップA2)。
(3)高度差が予め設定していた高度基準値よりも大きい場合(ステップA2:Yes)には、高度情報と航空機の位置情報を保存する(ステップA3)。
(4)ステップA3の処理が予め設定していた基準エリア内で一定回数以上発生したか否かを確認する(ステップA4)。
(5)ステップA4の処理が予め設定していた基準エリア内で一定回数以上発生していた場合(ステップA4:Yes)には、高度情報と航空機の位置情報を乱気流発生空域として保存する(ステップA5)。
(6)上述したステップA1からステップA5を繰り返す。
【0020】
一方、上述したステップA2及びステップA4の確認結果がNoである場合には、上述したステップA1へ戻り、上述した処理動作を繰り返す。
【0021】
また、アプリケーションプログラム130には「画面表示フェーズ」も含まれている(図4参照。)。この画面表示フェーズは、以下のステップB1及びB2で処理を行う。
(1)乱気流発生空域が存在するか否かを確認する(ステップB1)。
(2)表示データ作成処理部133により、乱気流発生空域として保存した高度情報と航空機の位置情報から乱気流発生空域を表示するための画像データを作成する(ステップB2)。
上述したステップB1に戻る。
尚、上述したステップB1の確認結果がNoの場合にも、上述したステップB1へ戻り、乱気流発生空域の存在を待つ。
【0022】
次に、本発明による乱気流検出装置及び方法の第2実施の形態又は変形例を説明する。この実施の形態又は変形例は、上述した第1の実施の形態に類似するので、図3及び図4を参照して相違点を中心に説明する。
(1)ステップA3にて高度基準値を複数準備し、乱気流発生状況を強度別に求める。
(2)ステップA5にて乱気流発生状況の強度を示すデータを高度情報と航空機の位置情報に追加して乱気流発生空域として保存する。
(3)ステップB2にて、乱気流発生状況の強度を示すデータを追加して画像データを作成する。
【0023】
尚、乱気流の強度は、上述した航空機の飛行高度差のみに限定されない。例えば、航空機の高度基準値を越える飛行高度の変化の回数や飛行高度の変化の早さ(急激度)等に基づいて判定することも可能である。
【0024】
以上、本発明による乱気流検出装置及び方法の好適な実施の形態について説明した。しかし、斯かる実施の形態は、本発明の単なる例示に過ぎず、何ら本発明を限定するものではないことに留意されたい。本発明の要旨や精神を逸脱することなく、特定用途に応じて種々の変形変更が可能であること、当業者には容易に理解できよう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による乱気流検出装置の全体概略構成を示す説明図である。
【図2】本発明による乱気流検出装置の好適な実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図3】本発明による乱気流検出装置の乱気流判定フェーズを説明するフローチャートである。
【図4】本発明による乱気流検出装置の画面表示フェーズを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0026】
10 乱気流検出装置
20 レーダー(レーダー装置)
30 乱気流空域
40 後続機
110 ディスプレイ(表示装置)
120 コンピュータ
131 航空機情報入力処理部
132 乱気流発生空域の判定処理部
133 表示データ作成処理部
134 表示画面生成処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の安定飛行を妨害する可能性のある乱気流の発生空域を航空機の飛行状態により検出する乱気流発生空域検出手段と、
該乱気流発生空域検出手段で検出された乱気流発生空域の高度情報及び位置情報を保存し、航空機の飛行空域と共に前記乱気流発生空域を表示画面に表示する表示画面生成手段と
を備えることを特徴とする乱気流検出装置。
【請求項2】
前記乱気流発生空域検出手段は、レーダー装置からの情報に基づいて、予め設定された設定時間内における前記航空機の高度基準値を超える飛行高度差に基づいて決定することを特徴とする請求項1に記載の乱気流検出装置。
【請求項3】
前記乱気流発生空域検出手段は、前記航空機の高度基準値を超える飛行高度差の変化が予め決められた回数以上発生する場合に乱気流発生空域とすることを特徴とする請求項2に記載の乱気流検出装置。
【請求項4】
前記航空機の高度基準値及び/又は発生回数の判定基準を複数設けて、前記乱気流の強度情報を取得する乱気流強度判定手段を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の乱気流検出装置。
【請求項5】
航空機の管制室内に設けられ、前記乱気流発生空域を飛行予定の後続航空機に対して管制官が適切な迂回航路を指示可能にすることを特徴とする請求項1内視4の何れかに記載の乱気流検出装置。
【請求項6】
航空機の安定飛行を妨害する可能性のある乱気流発生空域を検出して該乱気流発生空域を飛行予定の航空機に乱気流発生情報を提供可能にする乱気流検出方法において、
航空機の飛行位置及び高度をレーダー装置により定期的に監視する航空機飛行監視ステップと、
該航空機飛行監視ステップで取得した航空機の飛行位置情報及び高度情報に基づいて乱気流発生空域を判定する乱気流発生空域判定ステップと、
該乱気流発生空域判定ステップで判定された乱気流発生空域情報及び航空機の飛行航路を含む表示画面生成ステップと、
該表示画面生成ステップに基づいてディスプレイに前記乱気流発生空域情報を含む画面を表示するステップと
を備えることを特徴とする乱気流検出方法。
【請求項7】
前記乱気流発生空域判定ステップは、航空機情報を入力するステップと、前記航空機の設定時間内の飛行高度差が高度基準値を超えるか否か判定するステップと、前記高度基準値を超える航空機の高度情報及び位置情報を保存するステップと、前記航空機の高度基準値を超える回数を検出するステップとよりなることを特徴とする請求項6に記載の乱気流検出方法。
【請求項8】
前記高度基準値及び/又は高度差の発生回数の判定基準を複数用意して前記乱気流発生強度を示す強度情報を取得するステップを更に備えることを特徴とする請求項7に記載の乱気流検出方法。
【請求項9】
請求項6乃至7の何れかに記載されているステップをコンピュータに実行させるように構成されたことを特徴とするプログラム。
【請求項10】
請求項9に記載のプログラムが格納されていることを特徴とする記憶媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−241545(P2008−241545A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84252(P2007−84252)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】