説明

乳化香料組成物

【課題】乳化香料組成物を食品に使用した際における透明性と、香味の発現性を向上させた乳化香料組成物を提供する。
【解決手段】油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解した油相成分を特定の割合で、乳化剤溶液中に微分散又は乳化することによって乳化香料組成物を調製することにより、食品に添加した際の透明性、香味の発現性を飛躍的に向上させることが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化香料に関し、詳しくは油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解した油相成分を、乳化剤溶液中に微分散又は乳化して得られる、透明性、保存安定性に優れ、且つ優れたトップノートを付与し、香味の発現性が改善された乳化香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造業において、香料は食品に様々な風味、香味を付与する添加物として幅広い食品に使用されている。様々な風味を付与することが出来る香料は、油溶性のもの、水溶性のものが多種多様に存在し、係る香料を使用する食品に応じて水溶性、油溶性の製剤に調製して使用されている。油溶性の香料成分は、そのままでは食品への添加が困難であるために、保護コロイド物質や乳化剤を用いて水溶液中に分散させた水中油型の乳化香料とするのが一般的である。
【0003】
乳化香料には、油溶性香料と比重調整の目的で使用される比重調整剤を含有した油相成分を保護コロイド物質であるアラビアガム、加工澱粉、大豆食物繊維等、若しくはグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート等の化学的合成法により得られる界面活性剤又は/及びレシチン、酵素分解レシチン、サポニン等の天然物由来の界面活性剤等を用いて乳化し、使用時に混濁果汁に近い濁りと油溶性香料特有の香味を発現するもの、油溶性香料をグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート等の化学的合成法により得られる界面活性剤又は/及びレシチン、酵素分解レシチン、サポニン等の天然物由来の界面活性剤を用いて乳化し、水に透明に溶解するものが広く利用されている。
【0004】
しかしながら、保護コロイド物質等を用いた混濁溶解タイプの乳化香料は、食品中で濁りを呈するために使用できる食品に制限があり、且つ、保護コロイド物質を用いて乳化することにより香料の保留性は向上するが、油溶性香料本来の香味が発揮されず水溶性香料に比べると香味の発現性に劣るものであった。
【0005】
一方、界面活性剤を用いて乳化した透明に溶解する乳化香料は、水に透明に溶解するものの、乳化香料自体の経時変化安定性、食品への使用時の乳化安定性に劣るため、経時的、使用時の透明性の低下及び、界面活性剤特有の風味が最終食品使用時の風味に影響し、使用できる食品に制限のあるものであった。
【0006】
これら諸問題を解決するため、添加する香料製剤に様々な改良を加え、香味の発現性を改善する検討が重ねられている。
【0007】
具体的には、解乳化香料と安定乳化香料組成物を3:7〜7:3の範囲で混合した乳化組成物を含有する飲料(特許文献1)、油溶性化合物と乳化剤とを含有する糖アルコール組成物を加熱溶融した後、加熱溶融物を5〜40℃で保持して、油溶性化合物が乳化剤により被覆されて糖アルコール中に分散されてなる構造物(特許文献2)、植物性材料を気−液向流接触抽出法に供して得られる回収香を植物油脂類、動物油脂類、それらの硬化油、中鎖脂肪酸トリグリセライドなどで抽出された香料(特許文献3)、重量無調整オイル、水および食品用等級の安定剤を含む水中油飲料用エマルションを含有する飲料製品(特許文献4)が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−168909号公報
【特許文献2】特開2004−33820号公報
【特許文献3】特開2002−105485号公報
【特許文献4】特許第3488469号公報
【0009】
しかし、これらの方法はいずれも、香味の発現性を高めるために、従来の香料製剤を調製する手段とは異なる新たな成分や、手順等を追加する必要があった。
【0010】
また、乳化香料組成物の安定性改善については様々な製剤が開示されているが(具体的には特開昭48−58169、特開平11−178551、他上記特許文献等)、これらはいずれも飲料に添加した際に、リングや沈殿物を生じず安定した香気を与えることを目的とする乳化物を提供するに止まり、香気の呈味感、具体的には優れたトップノートを付与し、香味の発現が向上する点に関する技術の開示・示唆はなされていない。
【0011】
さらに、透明に溶解するタイプの乳化香料組成物の香味発現性向上については、これまでに開示された文献においてはなんらの知見も示唆されていないのが実情である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明では、特別な手段を用いることなく、従来の乳化香料組成物を調製する技術をほぼそのまま実施することにより、飛躍的に使用時の透明性と香味の発現性を向上させた乳化香料組成物の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記のような課題を残す香料製剤、特に保護コロイド物質を乳化剤として使用した乳化香料の透明性と香味の発現性に着目し、鋭意検討の結果、油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解した油相成分を特定の割合で、乳化剤溶液中に微分散又は乳化することによって、乳化安定性の面では従来の保護コロイド物質を使用した乳化香料組成物と同等の安定性を有し、かつ、従来の乳化香料組成物では得られなかった、透明性と優れた香味発現性を発揮する乳化香料組成物を得るに至った。本発明は係る知見に基づくものである。
【0014】
即ち本発明は、次の態様を有するものである:
項1:油溶性香料と油溶性成分を100:1〜1:1の割合で混合又は溶解した油相成分を、乳化剤溶液中に微分散又は乳化して得られる、水に透明に溶解し、且つ香味発現性が改善されたことを特徴とする乳化香料組成物。
項2:油相成分の乳化粒子の平均粒子径が0.5μm以下であり、水に1%濃度で希釈した液の測定波長720nm、セル幅;1cmで水を対照に測定した吸光度が0.5以下である、項1に記載の乳化香料組成物。
項3:乳化剤が、アラビアガム、ガティガム、大豆食物繊維、加工澱粉から選ばれる1種以上であり、油溶性香料と油溶性成分との合計と乳化剤の配合比率が、1:1から1:10である項1〜2に記載の乳化香料組成物。
項4:アラビアガムが、アラビアガム、改質アラビアガムからなる群より選ばれる1種以上である項3に記載の乳化香料組成物。
項5:油溶性成分が、中鎖トリグリセライド及び/又は、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ロシン、エステルガム、ダンマル樹脂、エレミ樹脂、マスティック樹脂、臭素化植物油、動植物油からなる群より選ばれる1種以上である項1〜4に記載の乳化香料組成物。
項6:油溶性成分中の中鎖トリグリセライドと、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ロシン、エステルガム、ダンマル樹脂、エレミ樹脂、マスティック樹脂、臭素化植物油からなる群より選ばれた1種以上の成分との重量比が、1:0.1から1:2である項1〜5に記載の乳化香料組成物。
項7:項1〜6の何れかに記載の乳化香料組成物を含有することを特徴とする香味発現性の改善された着香製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明者らは上記のような課題を残す香料製剤の香味の発現性を改善するに当たり、本発明に係る技術、即ち油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解した油相成分を特定の割合で、乳化剤溶液中に微分散又は乳化することによって乳化香料組成物を調製することにより、食品に添加した際の透明性、香味の発現性を飛躍的に向上させることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
既に述べたように、本発明は油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解した油相成分を、乳化剤溶液中に微分散又は乳化して得られる、透明性、保存安定性に優れ、さらに優れたトップノートを付与し、香味の発現性が改善された乳化香料組成物に関するものである。
【0017】
本発明で使用する油溶性香料は、油溶性の香気成分を含有する物質であれば制限無く利用できる。その例としては、動物性・植物性の天然原料から、不揮発性溶剤による抽出、揮発性溶剤による抽出、超臨界抽出などにより得られる抽出物、水蒸気蒸留や圧搾法などにより得られる精油や回収フレーバー等の天然香料、化学的手法で合成された合成香料、これらの香料を油脂や溶媒に配合・溶解した香料ベースが例示できる。天然香料の例として、アブソリュート、エキストラクト、オレオレジン等の抽出物、コールドプレス等の精油、チンキと呼ばれるアルコール抽出物などが挙げられる。
【0018】
これら香料の具体例としては、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、マンダリン油等の柑橘系精油類;ラベンダー油等の花精油又はアブソリュート類;ペパーミント油、スペアミント油、シナモン油等の精油類;オールスパイス、アニスシード、バジル、ローレル、カルダモン、セロリ、クローブ、ガーリック、ジンジャー、マスタード、オニオン、パプリカ、パセリ、ブラックペパー等のスパイス類の精油又はオレオレジン類;リモネン、リナロール、ゲラニオール、メントール、オイゲノール、バニリン等の合成香料類;コーヒー、カカオ、バニラ、ローストピーナッツ等の豆由来の抽出油;紅茶、緑茶、ウーロン茶等のエキストラクト類;その他合成香料化合物、調合香料組成物及びこれらの1種以上を任意で組み合わせて利用することもできる。
【0019】
本発明で上述した油溶性香料と混合する油溶性成分は、香料の溶媒として利用されている油溶性成分を制限無く利用することが出来る。好ましくは中鎖トリグリセライドである。
【0020】
本発明で使用する中鎖トリグリセライド(MCT)は、炭素数6〜12程度の中鎖脂肪酸からなるトリアシルグリセロールをいい、一般に市販されているものを制限無く選択できる。具体的にはカプリル酸トリグリセライド、カプロン酸トリグリセライド、カプリル酸、カプロン酸混合トリグリセライド等とこれらの混合物が例示できる。
【0021】
また、本発明の効果を妨げない範囲において、食品分野で通常使用されている油溶性成分を制限無く利用することができる。好ましいものとしてはショ糖酢酸イソ酪酸エステル(SAIB)、ロシン、ダンマル樹脂、エステルガムの他、菜種油、パーム油、大豆油、オリーブ油、ヤシ油、エレミ樹脂、マスティック樹脂等の植物性油脂類、牛脂、豚脂等の動物性油脂類が例示できる。
【0022】
本発明では、係る油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合・溶解し油相成分として乳化剤溶液中に微分散又は乳化して乳化香料組成物を得る。油溶性香料と油溶性成分の混合比は100:1〜1:1の範囲が例示できる。係る混合比の範囲以下であってもそれ以上であっても、本発明の効果として得られる乳化香料組成物による透明性、安定性、香味の発現性が不十分となる。
【0023】
本発明では、上記で得られた油相成分を、乳化剤を添加した溶液中に分散又は乳化することにより乳化香料組成物を得る。係る乳化剤は特に制限されないが、食品等に広く使われている既知の乳化剤、分散剤等を例示することができる。具体的にはポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル;レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチン等のリン脂質;キラヤ抽出物、エンジュサポニン、大豆サポニン、酵素処理大豆サポニン、茶種子サポニン、ユッカフォーム抽出物等のサポニン;ポリソルベート(ポリソルベート20、60、65、80);アラビアガム、ガティガム、キサンタンガム、大豆食物繊維;加工澱粉等が例示でき、これらの1種以上を組み合わせて使用することもできる。好ましくはアラビアガム、ガティガム、加工澱粉、大豆食物繊維、キサンタンガム、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルである。より好ましくは、アラビアガム、ガティガム、大豆食物繊維、加工澱粉である。これらは何れも一般に市販されているものを利用することができる。
【0024】
上記アラビアガムとしては、通常入手できるマメ科植物アカシア属(Acacia Senegal L,willdenow)または同属植物の幹から得る分泌物をそのまま、若しくは溶解し噴霧乾燥により粉末化したもの、若しくは特許第3600833号に記載の変性アラビアガム、特開2003−321502号公報に記載の方法、即ちアラビアガムを水分3〜30重量%に調整する工程と、30℃以上で加温する工程を行うことにより得られる改質アラビアガム、国際公開公報WO2004/089991号に記載の特定の加熱により重量平均分子量90万以上である改質アラビアガム等が例示でき、さらにはオーブンなどの恒温器を用いて加熱して調製し、重量平均分子量が100万以上としたアラビアガムを使用することも可能である。
【0025】
上記グリセリン脂肪酸エステル類としては、高HLBのものが望ましく、例えば炭素数12〜22、重合度3以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルでHLB8以上のもの、或いはショ糖脂肪酸エステルでHLB8以上のものが好ましい。
【0026】
ポリソルベートとしては、具体的にはポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65及びポリソルベート80が知られており、一般にも市販されている。本発明においてはこれらの1種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
上記乳化剤を適当な溶媒に溶解し、乳化剤溶液とする。本発明で利用できる溶媒は、通常利用される溶媒が制限無く利用でき、水、グリセリン、プロピレングリコール、D-ソルビトール、果糖ブドウ糖液糖等が例示でき、これらの1種以上を組み合わせて乳化剤溶液を調製すればよい。
【0028】
さらに、係る乳化剤溶液中に多価アルコールを添加することもできる。多価アルコールを添加することで、乳化香料組成物の安定性、香味の発現性がより改善されるためである。
【0029】
本発明で使用する多価アルコールの例としては、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、オリゴトース、果糖ブドウ糖液糖、シュクロースなどを例示することができ、これらの1種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0030】
乳化剤溶液への多価アルコールの添加量は、特に制限されないが乳化香料100重量部に対し1〜90重量部の範囲が例示できる。
【0031】
上記で得られた油溶性香料と油溶性成分を特定の割合で混合又は溶解した油相成分と、乳化剤溶液を混合することにより、本発明に係る乳化香料を得ることができる。乳化香料を得る方法としては、乳化製剤を調製する従来技術を利用するだけでよく、具体的にはホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、衝突式超高圧ホモジナイザー等を用いて油相成分と乳化剤溶液を攪拌・混合する方法が例示できる。この攪拌・混合の際に任意で加温・加熱してもよい。
【0032】
乳化香料組成物における油溶性香料の添加量は、使用する香料や乳化剤の種類、賦香する食品の種類により適宜変更する事が可能であるが、例えば、乳化香料組成物100重量部に対し油溶性香料を0.1〜5重量部の範囲を挙げることができる。
【0033】
更に本発明に係る乳化香料組成物は、その形状を特に問うものではない。例えば、溶液状態であってもよいし、適当な担体等を添加して噴霧乾燥もしくは凍結乾燥等の常法に従って製造される粉末等の固体状態としたものであってもよいし、ソフトカプセル、ハードカプセル何れのカプセルに封入することも可能である。
【0034】
斯くして製造される乳化香料組成物は、食品に添加した際の透明性、安定性、香味の発現性に優れているという特徴を有している。
【0035】
以上のようにして得られる乳化香料組成物は、例えば、乳化香料組成物を原料の一つとして使用して調製される着香製品へ使用することができる。
【0036】
また、本発明に係る乳化香料組成物には、本発明の効果を妨げない範囲において、上記成分に加えてさらに抗酸化剤、キレート剤、色素、香料又は酸化防止剤、ビタミン類、増粘多糖類等を含んでいても良い。
【0037】
さらに本発明で得られる乳化香料組成物は、それ自体を原材料の一つとして従来各種の飲食物等に使用されていた香料に代わって添加することも可能である。
【0038】
本発明が対象とする着香製品としては、飲食物、アルコール含有飲食物、医薬品、医薬部外品が例示できる。具体的には飲食物、アルコール含有飲食物として乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、果実飲料(果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果汁入り炭酸飲料、果肉飲料を含む)、野菜飲料、野菜・果実飲料、リキュール類等のアルコール飲料、コーヒー飲料、粉末飲料、スポーツ飲料、サプリメント飲料等の飲料類;紅茶飲料、緑茶、ブレンド茶等の茶飲料類(以上、「飲料」);カスタードプリン、ミルクプリン、果汁入りプリン等のプリン類、ゼリー、ババロア及びヨーグルト等のデザート類;ミルクアイスクリーム、果汁入りアイスクリーム及びソフトクリーム、アイスキャンディー等の冷菓類;チューインガムや風船ガム等のガム類(板ガム、糖衣状粒ガム);マーブルチョコレート等のコーティングチョコレートの他、イチゴチョコレート、ブルーベリーチョコレート及びメロンチョコレート等の風味を付加したチョコレート等のチョコレート類;ハードキャンディー(ボンボン、バターボール、マーブル等を含む)、ソフトキャンディー(キャラメル、ヌガー、グミキャンディー、マシュマロ等を含む)、ドロップ、タフィ等のキャラメル類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;セパレートドレッシング、ノンオイルドレッシング、ケチャップ、たれ、ソースなどのソース類;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム、杏ジャム、プレザーブ等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;バター、マーガリン、チーズ、ホイップクリーム等の酪農・油脂製品類等を挙げることができる。好ましくは飲料、リキュール、ゼリーの飲食物である。また、医薬品、医薬部外品の例としては、シロップ剤、ドリンク剤、錠剤、カプセル剤、チンキ剤、クリーム、軟膏剤等を例示できる。好ましくはドリンク剤、シロップ剤である。
【0039】
本発明に係る着香製品は、製造の任意の工程で、その素材の一つとして、上記本発明に係る乳化香料を配合することを除けば、各種着香製品の慣用の製造方法に従って製造することができる。よって、本発明の実施に際し、特別な製造装置や製造条件の設定を行う必要がないため、工業的にも有意である。
【0040】
着香製品への本発明に係る乳化香料組成物の添加量は、所望の香味・風味を着香製品に賦香するために通常添加されている量であれば特に制限されない。
【0041】
以下に、本発明の構成ならびに効果をより明確にするために実施例を記載する。但し本発明は、これらの実施例に何ら影響されるものではない。
【0042】
実施例1
表1の処方に従い、本発明に係る乳化香料組成物(実施例1乃至4)を調製した。また比較例として油溶性香料と油溶性成分の配合割合を変えた乳化香料組成物(比較例1乃至3)を調製した。
【0043】
【表1】

【0044】
<調製方法>
表1の処方に記載された量の油溶性香料のオレンジフレーバーと油溶性成分の中鎖トリグリセライドを均一に混合した後、アラビアガム又は平均分子量150万の改質アラビアガム、安息香酸ナトリウムを水に溶解して調製した乳化剤溶液に添加し、攪拌混合した。次いでAPV Gaulin社製高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、圧力350kg/cm2で4回処理を行い、乳化香料組成物(実施例1〜4、比較例1〜3)を得た。尚、実施例4で用いた改質アラビアガムは、WO2004/089991A1記載の方法、即ち粗挽きされたアラビアガム70kgを100L容ステンレススチール製ドラム缶に入れ、110℃のオーブンで36時間加熱して得られた、平均分子量150万のものである(詳細は該公報参照)。
【0045】
得られた各乳化香料組成物の調製直後と、60℃恒温槽内で3日間保存後の乳化粒子径をレーザー回析式粒度分布計SALD-2100(島津製作所製)を用いて測定した。
【0046】
さらに、得られた乳化香料組成物を1%濃度にイオン交換水に希釈し、720nmに於ける吸光度をイオン交換水を対照に測定し、透明性を比較した。
【0047】
また、得られた乳化香料組成物を0.1%濃度に水で稀釈した溶液を試飲して香味のトップノートと発現性の評価を下記基準に基づき行った。これらの評価結果を表2に示す。
【0048】
香味評価基準 ; 5:非常に強く感じる
4:やや強く感じる
3:感じる
2:やや弱く感じる
1:非常に弱く感じる
さらに、下記処方にて清涼飲料を調製し、25℃3ヶ月間保存後の状態安定性を評価基準に従って評価した。
【0049】
<清涼飲料処方>
果糖ぶどう糖液糖(Brix75°) 10.7 kg
クエン酸(無水) 0.1 kg
クエン酸三ナトリウム 0.015kg
乳化香料組成物 0.1 kg
イオン交換水で全量 100 L
<調製方法>
上記処方における全成分を溶解した後、93℃達温にて殺菌し、200ml容量のガラス瓶にホットパック充填した。以下の飲料状態評価基準に基づき、該飲料の評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
飲料状態評価基準(リング・沈殿) ; +++: 多量認める
++ : 少量認める
+ : 極少量認める
− : 認めない
【0051】
【表2】

【0052】
<結果>
油相成分中に含まれる油溶性成分の添加量が増えると、乳化粒子径が粗大化する傾向にあり透明性が低下していた。また、香料の呈味感とトップノート、呈味感が抑えられ、香味発現性に劣っていた。
【0053】
油相成分が油溶性香料のみの場合(比較例1)、透明性、香味の発現性は非常に良好であるが、乳化香料組成物を60℃に保存すると乳化粒子径の粗大化が認められた。これにより油溶性香料単独の場合は乳化組成物としたときの保存安定性に欠けるとの結果が得られた。
【0054】
また、同じく油相成分が油溶性香料のみの場合(比較例1)、飲料保存によりリングの生成を認め、飲料安定性にも劣る結果が得られた。
【0055】
油相成分における油溶性香料と油溶性成分及び乳化剤を特定の比率で組み合わせて乳化香料組成物を調製することで(実施例1〜4)、透明性に優れ、60℃保存後の粒子径の粗大化も認められず、香味の呈味感も良好な乳化香料組成物が得られた。特に、油溶性香料と油溶性成分の配合割合が、油溶性香料が重量比で同等或いは多い条件(実施例1〜4)において保存安定性及び飲料安定性に優れた乳化香料組成物が得られるとの結果が得られ、油溶性香料の量が油溶性成分量より少ない場合(比較例2、3)では、濁りが生じたり、60℃保存後の粒子径の粗大化が認められ、香味の発現性も低い評価となった。
【0056】
実施例2
表3の処方に従い、本発明に係る乳化香料組成物(実施例5、6)と、油溶性成分の配合割合を変えた乳化香料組成物(比較例4)、乳化条件を変えた乳化香料組成物(比較例5)を調製した。
【0057】
【表3】

【0058】
<調製、評価方法>
表3の処方に記載された量の油溶性香料のオレンジフレーバーと油溶性成分の中鎖トリグリセライドを均一に混合した後、アラビアガム、安息香酸ナトリウムを水に溶解して調製した乳化剤溶液に添加し、攪拌混合した。次いでAPV Gaulin社製高圧ホモジナイザー15MR-8TAを用いて、上記圧力で処理を行い、乳化香料組成物(実施例5、6、比較例4、5)を得た。乳化組成物の安定性と飲料を調製した際の濁り、香味の発現性を実施例1と同様の方法で評価を行った。結果を表3に示す。
<結果>
混濁タイプの乳化香料組成物(比較例4)と本発明で得られた乳化香料組成物(実施例5、6)は、60℃での保存による粒子、濁りの顕著な変化は見られず安定であったが、界面活性剤を用いた乳化香料(比較例5)は保存安定性に劣るものであった。
【0059】
また、本発明で得られた乳化香料組成物(実施例4、5)は、飲料での透明性が高く、殆ど濁りを呈さないものであった。
【0060】
香味の発現に於いても優れており、本乳化香料組成物(実施例4、5)を用いて得られた飲料は良好な風味発現性を有していた。しかし、比較例4で得られた飲料はトップノート、呈味感に欠けた飲料となっていた。係る比較例4の処方は、請求項3記載の油溶性香料と油溶性成分との合計量(重量)と乳化剤量(重量)の配合比率の要件を満たしていても、請求項1記載の油溶性香料と油溶性成分の配合比率の要件を満たしていないものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溶性香料と油溶性成分を100:1〜1:1の割合で混合又は溶解した油相成分を、乳化剤溶液中に微分散又は乳化して得られる、水に透明に溶解し且つ香味発現性が改善されたことを特徴とする乳化香料組成物。
【請求項2】
油相成分の乳化粒子の平均粒子径が0.5μm以下であり、水に1%濃度で希釈した液の測定波長720nm、セル幅;1cmで水を対照に測定した吸光度が0.5以下である、請求項1記載の乳化香料組成物。
【請求項3】
乳化剤が、アラビアガム、ガティガム、大豆食物繊維、加工澱粉から選ばれる1種以上であり、油溶性香料と油溶性成分との合計と乳化剤の配合比率が、1:1から1:10である請求項1〜2記載の乳化香料組成物。
【請求項4】
アラビアガムが、アラビアガム、改質アラビアガムからなる群より選ばれる1種以上である請求項3に記載の乳化香料組成物。
【請求項5】
油溶性成分が、中鎖トリグリセライド及び/又は、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ロシン、エステルガム、ダンマル樹脂、エレミ樹脂、マスティック樹脂、臭素化植物油、動植物油からなる群より選ばれる1種以上である請求項1〜4記載の乳化香料組成物。
【請求項6】
油溶性成分中の中鎖トリグリセライドと、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ロシン、エステルガム、ダンマル樹脂、エレミ樹脂、マスティック樹脂、臭素化植物油からなる群より選ばれた1種以上の成分との重量比が、1:0.1から1:2である請求項1〜5記載の乳化香料組成物。
【請求項7】
請求項1〜5何れかに記載の乳化香料組成物を含有することを特徴とする香味発現性の改善された着香製品。

【公開番号】特開2006−257246(P2006−257246A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76133(P2005−76133)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】