説明

乳癌の早期診断に適した、赤外線による受動的及び能動的断層撮像方法

非侵襲的に生存組織領域の内部の病斑を識別する装置及び方法が開示されている。領域に対して、中赤外線放射を照射し、選択的に病斑を加熱する。そして、領域は中赤外線における黒体放射によりスキャンされる。病斑は周囲の組織よりも高温であり、この病斑は中赤外線の局所的に増大された放射力を有する箇所として検出される。さらに、第2の波数帯でスキャンあるいは加熱することで、病斑における特定の分類を識別する。本発明は特に早期における悪性の乳癌を識別する際に便利である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織内の異常構造を特定する、非侵襲的方法及び装置に関する。さらに詳細に述べると、本発明は様々な病斑、特に乳癌を非侵襲的に検出及び特定する方法及び装置に関する。本方法及び装置は、積分型及びスペクトル型に基づき、赤外線光信号の受動分析及び能動分析を組み合わせて行ない、潜在的な危険箇所について早期に警告し、その危険箇所を治療する。
【背景技術】
【0002】
一般的に疑わしい病斑について、生体検査が行なわれ、病斑部の状態を測定する。生体検査には、明らかに不利な点を多く有する。第1に、生体検査は、非侵襲的に組織を除去する必要がある。この生体検査は痛みを伴うとともに、費用がかかる。1回の生体検査では、非常に限定された範囲しか切り取って調べることができない。そして患者は、費用のかかる検査を何度も耐えられそうにない。さらに、生検標本は、保存され、研究室に輸送され、専門家が分析を行なう。標本の保存及び輸送には費用がかかるとともに、標本の取り扱いを誤ったり、標本を破壊したり、標本を喪失したりすることが有り得る。そして、標本の保存及び輸送により、検査結果を得るのに非常に時間がかかる。このような検査結果を得るのに時間がかかるため、さらに、患者を再び医者の元へ呼び戻し、別の検査を行なう必要性が生じる。上述のように、患者には不利な点が増加するとともに、コストがかかり、患者からの連絡が途絶える危険性がある。また、病気は治療されないままである。さらに、検査結果を待つ時間が長ければ、患者を非常に不安にさせる。最後に、生体検査は顕微鏡による分析がおこなわれるため、検査は検査者の主観による定性的結果になる。従って、このような結果は、首尾一貫した検査判断には適さない。
【0003】
従って、医学的診断において、特に癌の場合、安全的、非侵襲的な検出技術が重要となる。癌はゆっくりと進行する病気だが、定期的な検査を通して癌化する病斑の可能性のある部位を、観察することにより防ぐことができる。時間、コスト、不便さの点において制限はあるが、健康な患者は基本的に献身的に定期検査を受ける必要がある。従って、この検査で、確実に危険な腫瘍を識別するとともに、低コストでなおかつ安全に、該危険な腫瘍が良性であるとすぐに判定できなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
よく知られているが、能動的な型を用いることで、スペクトル解析及び組織異常部を撮像する方法が多く存在する。これらの方法には、光スペクトルや熱を用いた撮像法が含まれ、該方法は、可視光線、赤外線だけでなく電磁波、音波、磁気波、紫外線、そしてX線を用いて行なわれる。[Fear E. C., and M.A. Stuchly, 「Microwave detection of breast tumors: comparison of skin subtraction algorithms」SPIE, vol.4129, 2000pp. 207-217;R.F Brem, D.A. Kieper, J.A. Rapelyea and S. Majewski, 「Evaluation of a high resolution, breast specific, small field of view gamma camera for the detection of breast cancer」,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, vol. A 497,2003,pp.39-45]
【0005】
X線技術は1960年代前半から人間の体内の異常部の検出にうまく用いられているが、このX線技術は早期の癌の検出には適していない。なぜなら、X線の放射は人間の健康に悪影響を及ぼすからであり、短期間ごとに集中して再検査を必要とする患者にはほとんどX線を用いることができない。
【0006】
有効な音波的手法は、人間の体内の構造体の検出に有効だが、この手法も乳癌を早期に診断するには有効でない。前癌性病斑は顕微鏡的次元のものが大抵である。(およそミリメータ及びマイクロメータの単位)これらの前癌性病斑は音波を用いた手法では識別及び検出できない。(この方法は、音波の波長[およそセンチメータの単位]よりも大きい構造体にのみ検出可能である。)
【0007】
マイクロ波による腫瘍の検出は、正常組織および異常組織の誘電特性のコントラストに基づき行なわれる。マイクロ波技術は非常に複雑であり、かつマイクロ波を用いて人体に放射を行なう。このことにより、危険を及ぼす可能性がある。さらに、マイクロ波信号は、数mmから数cmの波長を有する。この波長は、直径が1/2mm以下の構造体は識別できない。しかし、この1/2mm以下の大きさの異常部は、初期癌の診断において非常に重要である。[Bruch, R., et al, 「Development of X-ray and extreme ultraviolet (EUV) optical devices for diagnostics and instrumentation for various surface applications」, Surface and Interface Anal. vol. 27, 1999, pp.236-246]
【0008】
磁気的方法(MRI及びMRS)により、複数面における解剖学的画像が提供される。これにより、組織の特徴が識別可能となる。造影核磁気共鳴の研究は、乳癌と関連がある密集細胞内の小腫瘍の診断、及び良性異常と悪性異常を識別するに有用であることが知られている。[U. Sharma, V. Kumar and N.R. Jagannathan, 「Role of magnetic resonance imaging (MRI), MR spectroscopy (MRS) and other imaging modalities in breast cancer, National Academy Science Letters-India, vol.27, No.11-12, pp.373-85, 2004」]生体内でMRSが用いられ、正常組織と罹患組織の生化学状態を判断する。これらのMR法を用いると、非常に費用が高くつき、悪性と良性との識別は不可能である。また、微小石灰化像の識別は不可能である。
【0009】
光学的手法によって体内の異常の検出、識別及び診断が行なわれる。該光学的手法は、上述した従来の生体検査及びその結果判断における問題点を解消する。光学的手法は、2つの型に分類できる。1つの型は、積分型と称される。この積分型で、信号の空間分布が測定され、特性(温度もしくは化学物質含有量)の変化についての情報を得る。このことで、正常領域と異常領域との間の境界を明らかにする。第2の型は、スペクトル型と称される。このスペクトル型で、さまざまな波長帯における放射強度が測定される。スペクトル型は、周波数範囲における異常部の「特徴」に該当する情報に基づいて、特定の異常部を識別するのに有益である。
【0010】
従来技術における内部組織の光学的手法は、近赤外線の波長を有する光源を用いた活性照明に基づいている。なぜなら、近赤外線の光源は安全であり、近赤外線の放射光は健常な皮膚組織を貫通し、非侵襲的に異常的な内部構造を検出可能であるためである。従来から幅広く知られている技術、例えば、光学撮像法、光スペクトル解析及び熱撮像法は、乳癌や癌前駆体の検出や識別には十分適合していない。
【0011】
蛍光分析法は、紫外線光源を疑わしい病斑箇所に照射し、近赤外線領域/可視領域における蛍光スペクトルを検出する。正常組織と癌組織から発せられる自己蛍光スペクトルの違いにより、悪性腫瘍が識別される。[Y.Chen, X. Intes and B. Chance, 「Development of high-sensitivity near infrared fluorescence imaging device for early cancer detection」, Biomedical Instrumentation & Rechnology, vol.39, No.1, pp.75-85, 2005] 自己蛍光スペクトルを用いて癌の早期検出を行なう際、大きな問題が生じる。癌性の病斑の自己蛍光スペクトルは、幅広い波長、 を有する弱い信号を発し、該信号は、大きく分光され、ヒト組織内の様々な化学物質により発せられる他信号と混乱が生じる。このように信号は分光されるため、自己蛍光画像は特定異常部位のはっきりとした焦点画像を生成可能である。さらに、弱い自己蛍光画像を検出することは非常にコストがかかる。
【0012】
力強くかつ鮮明な近赤外線蛍光画像を生成するために、Licha他[米国特許第 7025949]は、蛍光色素を患者に注入することを提案した。色素が開発されることで、色素が癌組織に蓄積し、強い狭帯域の蛍光信号を生成する。これにより、蛍光信号をより容易かつ正確に検出及び配置可能となる。色素を使用することに不利な点がある。開発された色素は非常にコストがかかる。さらに、患者に対する色素注入は侵襲的であり、不便である。従って、患者は定期的に診断を行なう際に、色素注入を拒絶することもありえる。
【0013】
光子移動法は他の非侵襲的な臨床技術であり、該臨床技術は、乳房組織から放射される近赤外線の波長の吸収及び散乱を測定する技術である。[Shah, N., A.E. Cerrusi, D. Jakubowski, D. Hsianq, J. Butler and B. J. Tromberq, 「Spatial variations in optical and physiological properties of healthy breast tissue」, Journal of Biomedical Optics, vol.9, No.3, 2004, pp.534-40]光子移動法により、オキシヘモグロビン及びデオキシヘモグロビン、そして脂質濃度及び水濃度が測定可能である。健康的な細胞と病的な細胞との間におけるこれらの濃度の特徴的な違いにより、病気を識別することが可能である。上述した全ての近赤外線技術は、光子の移動と散乱を検出するのに、高価な技術が必要である。さらに、上述した近赤外線による方法は全て良性と悪性の病斑を識別することが不可能である。従って、近赤外線による方法を用いると、誤った正の結果が数多く出てしまう。このため、患者が不安になり、侵襲的なスクリーニングが必要となる。
【0014】
狭帯域の中赤外線スペクトルの方法により、病斑の分析や分類を行う。該方法はラマン分光法を含み、該方法は赤外線による分光学的診断に基づいている(すなわち、フーリエ変換赤外分光 FTIR)。これにより、狭帯域の赤外線スペクトルの方法は、光ファイバ技術とともに利用可能である(光ファイバのエバネッセント波による方法, FEW)。[Afanasyeva, N., S. Kolyakov, V. Letokhov, et al, 「Diagnostic of cancer by fiber optic evanescent wave FTIR (FEW-FTIR) spectroscopy」, SPIE, vol. 2928, 1996, pp. 154-157; Afanasyeva, N., S. Kolyakov, V. Letokhov, et al, 「Noninvasive diagnostics of human tissue in vivo」, SPIE, vol.3195, 1997, pp. 314-322; Afanasyeva, N., V. Artjushenko, S. Kolyakov, et al., 「Spectral diagnostics of tumor tissuesx by fiber optic infrared spectroscopy method」, Reports of Academy of Science of USSR, vol. 356, 1997, pp.118-121; Afanasyeva, N., S. Kolyakov, V. Letokhov, and V. Golovkina, 「Diagnostics of cancer tissues by fiber optic evanescent wave Forier transform IR (FEW-FTIR) spectroscopy」, SPIE, vol. 2979, 1997, pp.478-486; Bruch, R., S. Sukuta, N. I. Afanasyeva, et al., 「Fourier transform infrared evanescent wave (FTIR-FEW) spectroscopy of tissues」, SPIE, vol. 2970, 1997, pp.408-415; Sukuta, S., and R. Bruch, 「Factor analysis of cancer Fourier transform evanescent wave fiber-optical (FTIR-FEW) spectra」, Lasers in Surgery and Medicine, vol. 24, No.5, 1999, pp. 325-329; Afanasyeva, N., L. Welser, R. Bruch, et al., 「Numerous applications of fiber optic evanescent wave Frourier transform infrared (FEW-FTIR) spectroscopy for subsurface structural analysis」, SPIE, vol.3753, 1999, pp.90-101]これらの技術は、中赤外線 (MIR) 領域におけるスペクトル狭帯域(3-5μmもしくは10-14μm)を用いる。(Artjushenko, V., A. Lerman, A. Kryukov, et al., 「MIR fiber spectroscopy for minimal invasive diagnostics」, SPIE, vol. 2631, 1995)これらの狭帯域の赤外線による方法は正常な組織と異常組織を区別するのに有効である。しかしながら、これらの方法は、これらの赤外線狭帯域の測定に限られているので、非病的状態と初期の癌前駆体との微妙な違いを検出することはできない。そして、病斑が進行し、良性から前駆体、そして悪性へと変化するのを追跡できない。
【0015】
従来技術による非侵襲的な受動中赤外線方法において、熱及び/又はFLIRカメラを用いて、病的異常部のカラー画像を作成する。該カラー画像は、正常組織及び癌組織から放出される中赤外線の相違に基づき、作成される。これらの方法は、体表面における癌を検出し識別するのに非常に有用である(例えば、メラノーマと皮膚癌)。皮膚腫瘍の場合、熱画像を確認することで、医者は各病的異常部を主に4つのパラメータに区分可能である。:パラメータは、a)異常部の形状の非対称性、b)異常部の境界、c)異常部の色、d)異常部の寸法である。しかしながら、これらの方法は、乳癌のような内部の病斑の検出には適用することはできない。
【0016】
FLIRカメラは、7から13μmの波長帯(この波長帯は、人間の体の放射エネルギの波長帯として最大値である)で、人間の体から放射される光子を「黒体」として検出する。この波長帯では、人体と同程度の温度(すなわち、280Kから320K)を有する、背景の環境ノイズが多く発生する。従来技術では、このようなノイズが存在すると、内部病斑が発する減弱された受動信号を確実に区別することは不可能である。
【0017】
2から5μmの波長帯において、熱カメラは、人間からの熱流量を、「熱の波長」として測定する。この熱カメラは、上述のFLIRカメラと類似する欠点を有する。熱カメラは、FLIRが検出する波長よりも、短い波長を検出する。この短い波長は、高温時(350 Kから400K)における波長を指す。従って、熱カメラは、環境や障害の影響を深刻に受けない。人体から放射される「黒体」の受動的な熱波の強度は、2から5μmの波長帯域である。数mm以上の深さにある病斑の波長を検出する際、周囲組織が邪魔となり、病斑の強度が弱くなってしまうため、上記波長の狭帯域では病斑を検出不可能である。
【0018】
従って、従来技術による、非侵襲的な受動中赤外線検出方法(FTIR, FEW, FLIRもしくは熱カメラによる熱撮像)は、皮膚癌を検出する際には非常に有用であったが、皮膚表面から数センチメートルも下方にある乳癌を検出する際には用いることができない。このような深さにある場合、健康な組織よりも僅かに腫瘍温度は自然と上昇する(0.1°Kの単位)だけであるため、増大した放射強度は多いに減少し、通常用いられている器具では放射強度の検出不可能である。
【0019】
非侵襲的方法は、生体組織から数センチメートルの深さにある病斑及び早期の癌前駆体を検出し識別することが可能である。従って、この方法は、大いに有用であり、必要とされている。癌組織が中赤外線放射を選択吸収することを利用し選択的に癌組織に能動加熱を行うことで、そして、さまざまな方法により中赤外線強度の僅かな違いを検出する感度を向上させることで、本発明はニーズを満たすことが可能である。このように熱コントラストを増大させ検出感度を向上させることにより、光吸収時における正確なスペクトル定量の変化、そして様々な形状の病斑及び様々な癌の進行段階に特有の熱生成を検出、識別することが可能となる。従って、本発明は、非常に検出感度の高い非侵襲的方法を開示し、この方法により生体内の正常細胞と病斑異常を有する細胞との識別を行うことが可能である。下記に示す実施例において、様々な測定法及びコントラストを用いて、積分型及びスペクトル型の分析を行うことで、正常細胞と病斑異常を有する細胞との識別を行う。積分型を用いる際、幅広い波数帯におけるコントラストが空間分布していることを考慮に入れ、病斑を検出し、病斑の位置、大きさ、そして形状を判断する。周波数依存の違い、周波数依存の大きさ及びその兆候を用いて、脈管及び代謝活動を判断する。これらは、正常組織と病斑異常を有する組織とでは異なる。積分型とスペクトル型を結合させ、両方を用いることで、異常組織を正確に診断し、癌症状及び前癌症状を早期に発見し患者に症状の通告をすることが可能となる。非侵襲的方法であるため、本発明は、コストを削減し、癌スクリーニングの不快性及び危険性を削減する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、生体組織内部の病斑を識別する、非侵襲的方法及び装置である。さらに詳細に述べると、本発明は、様々な種類の腫瘍、病斑、そして癌(すなわち、乳癌)を非侵襲的に検出及び識別する方法並びに装置に関し、該検出及び識別は、積分型及びスペクトル型による赤外線光信号を能動的/受動的に分析することで、行われる。これにより、潜在的な危険状態を検出するとともにその画像を撮像し、患者に早期に症状の通告を行うことが可能となる。
【0021】
本発明の記載によると、患者の皮下における異常領域を特定する非侵襲的方法が提供される。この方法は、健常組織上から優先的に異常領域を加熱する段階と、前記加熱後に領域の温度が上昇し、前記異常領域からの放射物を測定する段階を備える。異常領域は、前記測定後に検出される。
【0022】
本発明の記載によると、患者の皮下の異常領域を明確にする検出装置が提供される。この装置は、ランプを備え、該ランプは中赤外線を皮膚に照射することで前記領域を加熱する。特に、中赤外線の放射により、異常領域を選択的に加熱する。検出装置は、さらに、タイマを備え、一定時間前記ランプが中赤外線を照射した後に、前記ランプの電源を切る。検出装置は、さらに、中赤外線センサを備え、該センサは、一定時間前記ランプで加熱された領域から照射される放射物を測定することを特徴とする。
【0023】
以下に示す本発明の好適な実施例によると、加熱する段階は、第1波数帯の赤外線を前記領域へと放射する段階を備えることを特徴とする。
【0024】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記第1波数帯は前記放射物の波数帯とは異なることを特徴とする。
【0025】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記方法は、第2波数帯で前記領域へと赤外線を放射する段階を備えることを特徴とする。
【0026】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、第1波数帯は波数1600-1700 cm-1の赤外線を含むことを特徴とする。
【0027】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記測定された放射物は中赤外線の黒体放射を含むことを特徴とする。
【0028】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記領域は患者の乳房の一部を含むことを特徴とする。
【0029】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、加熱する段階は一定時間継続し、測定する段階は加熱が終了してから行なわれることを特徴とする。
【0030】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、異常の存在を決定するのに用いられる測定結果は、前記放射物の示差測定であることを特徴とする。
【0031】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、示差測定は、コントラストによる測定であることを特徴とする。コントラストは、領域内の照射強度と背景放射との間のコントラストである。あるいは、コントラストは、第1波数帯での領域への放射強度と、第2波数帯での領域への放射強度との間のコントラストであることを特徴とする。
【0032】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記方法は、スペクトル分析を行い、異常領域を特定する段階をさらに備えることを特徴とする。
【0033】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、前記方法は、前記異常領域の深さを決定する段階をさらに備えることを特徴とする。
【0034】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、測定装置はさらにバンドパスフィルタを備え、該フィルタは前記中赤外線センサの測定感度を第1の狭波数帯に制限することを特徴とする。
【0035】
さらに、以下に示す本発明の好適な実施例によると、測定装置は第2センサを備え、該センサは第2波数帯での放射を測定することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は本明細書において実施例を示すことで記載される。なお、本発明については、図面を参照することにより、説明を行なう。本発明の皮膚の病斑を識別する非侵襲的な方法及び装置の原理及び操作について、添付の図面及び以下の説明を参照することで、よりよく理解される。
上述の記載は、実施例を示すものであり、他の多くの実施例は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく組み込まれる。
【0037】
図1は、本発明における内部の組織異常を検出する第1の実施例(11)を示す。実施例(11)は4つの焦電気性の赤外線センサ(22a−d)を備え、これらは人体からの熱の波(中赤外線放射)を検出する。焦電気性センサ(22a−d)は熱カメラと同じ原理に基づいているが、熱カメラよりも幅広いスペクトルの波長帯(1から20-40μm)で作用する。各センサ(22b−d)はバンドパスフィルタ(23b−d)をそれぞれ有する。このセンサ(22a)は広帯域の放射信号(1−30μm)を測定する。センサ(22b−d)は、バンドパスフィルタ(23b−d)を通過する狭帯域の信号を測定する。
【0038】
広帯域の波長を用いることで、センサ(22a)は、「黒体」として人体から放射されているエネルギを、累算する。このエネルギは、広帯域に渡るものである。従って、人体深くの構造体から発せられる弱い信号を検出する。特に、本発明により、乳房内部の異常(例えば、癌の病斑)を検出することを促進する。広帯域放射を収集することで、センサ(22a)は狭帯域のノイズも収集する。このノイズは、環境や障害により発生するノイズである。信号対雑音比が増大するため、本発明は、温度を変更することでエネルギの測定を行うのではなく(従来技術における熱カメラもしくはFLIRを用いる事例)、様々な測定法で放射強度のコントラストを用いて、エネルギの測定を行う。放射強度のコントラストを用いて、放射強度の少しの差を検出するコントラストの利点は、電波天文学の分野において周知である。[A.T. Nesmyanovich, V.N. Ivchenko, G.P. Milinevsky, 「Television system for observation of artificial aurora in the conjugate region during ARAKS experiments」, Space Sci. Instrument, vol.4, 1978, pp. 251-252. N.D. Filipp, V. N. Oraevskii, N. Sh. Blaunshtein, and Yu. Ya. Ruzhin, Evolution of Artificial Plasma Formation in The Earth's Ionosphere, Kishinev: Shtiintsa, 1986, 246 pages.]
【0039】
本発明の実施例において、コントラストCは以下の式によって算出される。
【0040】
【数1】

【0041】
R'は健康な組織からの全体熱流量を示し、R''は異常領域からの全体熱流量を示す。さまざまな帯域を有するスペクトル測定において、コントラストは上述した通りだが、R'とR''はスペクトルのエネルギ密度R'(λi)及びR''(λi)に置き換えられる。測定された組織からの熱流量における平均スペクトル密度は以下の算式により算出される。
【0042】
【数2】

【0043】
Sλiは選択されたλi波長帯(第i波長帯)の熱流量における平均的なスペクトルのエネルギ密度を示す。;R(λi)は選択されたλi波長帯での熱流量の測定値を示す。;Δ(λi)は選択された第i番目の波長帯のスペクトル幅を示す。
【0044】
黒体により放射されるスペクトルのエネルギ密度は、以下に示す式により求められる。
【0045】
【数3】

【0046】
黒体の放射強度は体の黒体度に比例する。従って、特定の波数帯において体から放出される光強度は、その波数帯における吸収強度に比例する。コントラストは放射強度に反比例するので、図3と吸収データを示す図2を比較するとわかるように、黒体放射のコントラストは、吸収強度に反比例する。図2における吸収データを基に、図3のデータは算出される(図2は、以下に示す文献を基とする測定法である。Afanasyeva, N., S. Kolyakov, V. Letokhov, et al, 「Diagnostic of cancer by fiber optic evanescent wave FTIR (FEW-FTIR) spectroscopy」, S`IE, vol.2928, 1996, pp. 154-157. Afanasyeva, N., S. Kolyakov, V. Letokhov, and V. Golovkina, 「Diagnostics of cancer tissues by fiber optic evanescent wave Fourier traqnsform IR (FEW-FTIR) spectroscopy」, SPIE, vol.2979, 1997, pp.478-486, Brooks, A., N. Afanasyeva, R. Bruch, et al., 「FEW-FTIR spectroscopy applications and computer data processing for noninvasive skin tissue diagnostics in vivo」, SPIE, vol.3595, 1999, pp.140-151)
【0047】
本発明は、能動的方法を用いて、信号強度及び信号対雑音比をさらに上昇させ、選択的に病斑を加熱し、容易に検出することを可能とする。能動的方法において、中赤外線の光源であるランプ(24a)は、10mW/mm2の強度にて、1600-1700 cm-1の周波数帯(波数帯)を有する中赤外線を乳房に放射し、乳房を加熱する。代替的に、ランプ(24a)は照明調節スイッチを有し、これにより、より低い強度で加熱することが可能である。正常な組織は1600-1700cm-1(図2a及び図4b参照)の中赤外線放射は吸収しないので、この範囲の波数帯の光は、健康な組織を通過し、健康な組織を加熱しない。一方、1600-1700cm-1の波数帯で照射すると、癌組織(図2a及び図4b参照)により波長は非常に吸収されるため、癌組織を加熱させる。従って、1600-1700cm-1の波数帯で照射すると、癌の病斑や健康組織の裏側にある目立たない病斑を加熱するが、健康組織は加熱しない。図4a-cは以下に示す文献を基とする測定法である。[Liu, C., Y. Zhang, X. Yan, X. Zhang, C. Li, W. Yang, and D. Shi, 「Infrared absorption of human breast tissues in vitro」, J. of Luminescence, vol. 199-120, 2006, pp.132-136]
【0048】
さらに詳細を述べると、ランプ(24a)はタイマ(26)により、3分の一定期間作動させることが可能である。乳房を1600-1700cm-1の波数帯を有する光で3分間照射させることで、正常組織周囲は加熱せず、癌病斑を加熱する。これにより、癌病斑と正常組織周囲との間の温度差は約0.3から1°K大きくなる。この癌病斑と正常組織周囲との間の0.3から1°Kの温度差が存在し、黒体熱放射された異常部が十分な大きさを有する場合、焦電気性の検出装置により、異常部を検出できる。
【0049】
3分後タイマ(26)はランプ(24a)を停止し、センサ(22a-d)を作動させる。そして、積分スキャンが乳房に対して施される。センサ(22a)は1-30μmの広波数帯の積分信号を測定する。センサ(22b-d)は狭波数帯の信号を測定する。センサ(22a)は1600-1700 cm-1、センサ(22b)は1000-1050 cm-1、センサ(22d)は3250-3350 cm-1の波数帯にある信号を測定する。図4a-cはセンサ(22a-c)が正常組織、癌病斑、そして前癌病斑に対応し、癌病斑はより高い吸収度を有し、前癌病斑は僅かに高い吸収度を有することを示している。センサ(22d)の波数帯では、癌病斑はより高い吸収度を有するが、前癌病斑は正常組織ほど吸収度は高くない。
【0050】
上述の算式から、R'(λi)及びR'' (λi)を算出する、図2及び図3は正の吸収が負のコントラストと対応することを示す。従って、癌病斑の位置において、4つ全てのセンサ(22a-d)は負のコントラストを検出し、前癌病斑の位置において、センサ(22a-c)は負のコントラストを検出する。センサ(22d)は正のコントラストを検出する。10mW/mm2の強度で3分間中赤外線に暴露させ、乳房組織を1°K加熱させることは有毒ではなく、無痛であり、また、非侵襲的である。
【0051】
背景ノイズを減少させるために、測定は冷室で行われる。乳房外部はプラスチックフレームで固定される。一方、患者は腹臥位であり、対象領域の外部組織はファンを用いて冷却される。
【0052】
図2は、異常組織が吸収する赤外線のスペクトル分析結果を示す。異常組織は乳房の前癌(102)(103)及び癌(101)を示す。以下に開示されているように、前癌(102)(103)は癌進行での早期段階及び後期段階である。Afanasyeva他,1996; Afanasyeva他, 1997; そしてBrooks他, 1999。図2及び吸収係数、透過係数、放射係数そしてコントラスト係数(上述で定義したように)との関係に基づき、前癌(152)(153)及び癌(151)の組織のコントラストが算出され、その結果を図3に示す。[Liu等 2006]
【0053】
図2及び図3において、前癌(102)(103)(152)(153)及び癌(101)(151)は、1630cm-1までの波長帯では、最大吸収度を有する。同様の結果は図4b[Liu他, 2006]で示され、前癌(203b)及び癌(202b)は1655 cm-1において、最大吸収度を有する。上述したように、1650 cm-1近くの波長帯での放射は、健康な乳房組織を通過し、前癌病斑及び癌病斑を加熱する。加熱後、温度が上昇するため、病斑の放出する黒体の中赤外線放射により病斑が検出される。特に、1Kの温度上昇により、皮膚表面(病斑から3cm)において10-7から10-6W/cm2中赤外線信号を生成する。この中赤外線信号は、通常用いられている焦電気性の検出装置を用いることで、容易に、確実に、かつ正確に検出される。
【0054】
中赤外線の吸収及び放射においてスペクトルの違いを有することが、本発明の利点である。これにより、良性病斑と悪性病斑を識別することが可能である。特に、図4cに示すように、3300 cm-1 においては、乳癌(203c)は正常組織(201c)よりも強く中赤外線を吸収する。3000 cm-1の波数帯においては、前癌病斑(202c)は正常組織(201c)ほど中赤外線光を吸収しない。従って、上述の式より、3300cm-1において癌(203c)の黒体放射のコントラストは負の値を示す。そして3300cm-1において、前癌病斑(202c)の黒体放射コントラストは正の値を示す。
【0055】
あるいは、図3に示すように、1750cm-1までの癌病斑のコントラスト(153)はほぼゼロである。一方、前癌病斑のコントラスト(151)(152)は正の値である。また、図4bに示すように、1750cm-1における前癌病斑(202b)の吸収度は正常組織(201b)の吸収度よりも大きい。一方、悪性病斑の吸収度(203b)は正常組織(201b)の吸収度より小さい。この事実は、早期診断時に、前癌構造体と癌構造体を識別するのに用いられる。
【0056】
あるいは、様々なタイプの病斑は、病斑の吸収度により直接区別できる。従って、乳房が1650cm-1近くの波数帯で加熱されると、癌病斑(103)(153)(203b)及び良性病斑(102)(101)(151)(152)(202b)は加熱され、これらは中赤外線の積分型スキャンの幅広い波長帯において加熱点として検出される。一方、放射により乳房が1550cm-1近くの波数で加熱されると、癌病斑(103)(153)(203b)は加熱される。従って、1550cm-1及び1650cm-1の両方で加熱後に、これらの病斑(103)(153)(203b)は検出され、悪性として識別される。1650cm-1で加熱した後、これらの病斑(102)(101)(151)(152)(202b)は、積分スキャンによりはっきりと確認される。しかし、1550cm-1で加熱した後、これらの病斑は良性だと判断される。
【0057】
図5は本発明の第1の実施例を示すフローチャートである。放射スペクトルの違いにより悪性病斑と良性病斑を識別する。従って、図5の実施例において、中赤外線の様々な示差吸収により、選択加熱が行なわれ、前癌病斑及び癌を正常乳房組織と識別する。一方、放出スペクトルの差が用いられ、悪性病斑と良性病斑を識別する。まず、診断セッションの開始時(302)において、患者は検査の準備を行なう(304)。検査は冷室で行なわれ、検査が施される外部箇所は、ファンで冷気をかけることにより、冷却される。患者を、スキャンされる箇所を可能な限り静止させるよう、配置する(例えば、腹臥位になる。このことは、出願人Harrison他 米国特許第5,999,842号に記載されている。)受動的積分スキャン(306)が実行される。好ましくは、図1の検出装置が用いられて、スキャンが行なわれる。受動的積分スキャン(306)、ランプ(24a)は停止している。
【0058】
積分スキャン(306)の間、センサ(22a)は幅広い波数帯333-10,000 cm-1にわたって、測定を行なう。同時にセンサ(22b-d)は狭数帯1600-1700 cm-1(センサ22a)、1000-1050 cm-1(センサ22b)、そして3250-3350cm-1(センサ22d)にわたって、測定を行なう。結果(308)は格納される。受動的積分スキャン(306)で悪性領域を示す熱流量が識別されると(310)、これらの領域はさらに、受動スペクトルスキャン(312)を用いて詳細な検査が行なわれる。受動スペクトルスキャン(312)で検査を行なうために、背景の熱流量(R'311)は、受動積分スキャンの結果(308)に基づき、決定される(314)。この熱流量は、異常熱流量が観察されない箇所での放射強度を平均することで、決定される。なお、この異常熱流量が観察されない箇所は、センサ(12a-d)で設定される、各スペクトルの波数帯では観察されないことを意味する。そして、スペクトルスキャン(312)が実行され、R''(313)は、受動積分スキャン(306)により異常熱流量を示す領域において測定される。受動積分スキャン(312)の使用時において、検出装置(11)は積分スキャン(306)よりも長い時間スキャン領域上で保持される(長い時間をかけて平均化させ、一時ノイズを低減させる)。受動スペクトルスキャン(312)の使用時において、検出装置(11)はスキャン領域の皮膚に可能な限り近づけ、異常部を様々な角度からスキャンし、皮膚表面下の深さを含めた異常領域の3次元画像を獲得する。上述の算式を用いて、異常熱流量の領域におけるコントラストCが算出される(315)。
【0059】
あるいは、より詳細に述べると、図1の検出装置が積分スキャンに用いられるが、スペクトルスキャンは、広範囲のスペクトルによる方法(例えばFTIR)で行なわれる。または、スペクトルの詳細な結果が所望の結果よりも少ない場合、1つの波数帯においてのみ積分型のスキャンが行なわれる。スペクトルの詳細な結果が得られる時においてのみ、複数の波数帯に設定し、測定が行なわれる。
【0060】
受動積分スキャン(306)で異常熱流量が検出されない場合は(310)、受動スペクトルスキャン(312−315)はスキップされる。
【0061】
受動スキャン(306−315)の後で、まず能動積分スキャン(316)が実行される。能動積分スキャン(316)を実行するために、対象の全体領域は、3分間中赤外線放射が行なわれる(318)。該中赤外線放射は、加熱ランプ(24a)を用いて、1600-1700cm-1の波数帯かつ10mW/mm2の強度で、行なわれる(冷気と上述のファンを用いて、まだ領域表面を冷却している間)。1600-1700cm-1の波数帯で中赤外線放射すると、中赤外線は正常組織を選択的に貫通し、癌組織あるいは前癌組織を加熱させる。このことは、図2、図3、図4bに記載されている。加熱ランプ(24a)が停止してから、3分間、能動積分スキャン(316)が実行される。能動積分スキャン(316)が受動積分スキャン(306―315)と全く同様に行なわれる。加熱(318)により病斑と正常組織との間の温度差が増大するため、積分スキャン(316)は受動積分スキャン(312)よりも検出精度がよくなる。異常箇所の決定、背景放射量、そしてコントラスト(317)は受動積分スキャン(上述の306−315)とほぼ同じ要領である。
【0062】
異常熱流量の領域が受動積分スキャン(312)及び能動積分スキャン(316)において観察されない場合(316)、患者は異常検出箇所を有さない(320)と診断され、セッション(340)は終了する。
【0063】
異常熱流量の領域が受動積分スキャン(306)あるいは能動積分スキャン(316)において観察される場合(319)、異常熱流量の領域は、能動スペクトルスキャン(328)を実行し、検査が行なわれる。能動スペクトルスキャン(328)を行なうために、まず、異常部を有さない数箇所に対して、能動スキャンを行ない(324)、背景スペクトル強度R'(λi)が決定される。図5に例示されるように、積分スキャンで検出される異常熱流量は非常に弱い。従って、積分スキャンの結果を分析する際、タイマー(26)は一定時間(5分間)に設定され、スペクトルスキャンの検出感度を増加させる。この5分間の設定は、能動積分スキャン(3分間)での加熱時間よりも長い。ランプ(24a)からの中赤外線放射は、患者が危険もしくは不快に感じる強度よりもはるかに低い。しかしながら、患者に長時間中赤外線を放射することは望ましくはない。従って、初期のスキャン時に、病斑を疑義する理由がない場合については、検出感度よりも短い放射時間が優先され、3分間中赤外線が放射される。病斑があると疑義される場合については、より強い程度の加熱を行なうことに価値があるため、検査の検出感度が高められる。能動スペクトルスキャン(328)の背景放射レベルを決定するために、異常部が発見されなかった数箇所は、ランプ(24a)で5分間局所的に加熱される。そして、各波数帯(λ1=333-10,000cm-1、λ=1600-1700cm-1、λ=1000-1050cm-1、λ4=3250-3350cm-1)でスキャンが行なわれる(324)。数箇所のスキャン結果は、平均化され、各スペクトル帯域(λi)の背景レベルR'(λi)(325)を決定する。平均化することで、局部的なノイズの影響を低減させる。
【0064】
より長い時間(5分間)スペクトルスキャンを行ない(328)、各波数帯(λi)の背景の放射レベルR'(λi)(325)を決定する。そして、異常部と識別される特定の領域は、ランプ(24a)により5分間加熱される(326)。加熱後(326)、異常領域はスキャンされ(328)、能動スペクトルの局所的な放射強度R''(λi)(329)が決定される。
【0065】
能動スペクトルの結果R'(λi)(325)及びR''(λi)(329)はコントラスト(330)を算出するのに用いられる。
【0066】
様々な波数帯の結果を比較することで(332)、結果分析が開始される。これにより、検出された病斑が良性であるかどうかを決定する(334)。
【0067】
【数4】

【0068】
図5の実施例により、スペクトルスキャンを行い、様々な病斑を即座に識別することが可能である(スキャンごとに乳房を加熱する。次のスキャンを行うまでの間に冷やす必要はない。)。しかしながら、図5の実施例において、スペクトルスキャンの結果に交絡効果があると考えられる。特に、1600-1700 cm-1の波数帯における中赤外線放射により、腫瘍の前駆体を周囲の組織よりも高い温度にまで加熱する。また、受動型においては、癌前駆体はさらなる代謝活動により、健常組織よりもしばしば高温である。この周波数において高温の病斑は冷温の健常組織よりも多い放射量を放出する。しかし(図4cに示すように)病斑及び健康な組織は同じ温度であるにもかかわらず、3300 cm-1における前癌病斑の放射量は、健康組織の放射量よりも少ない。従って、図4cに示す負のコントラストは、図5の例においては観察されない。スペクトルコントラストを用いることで、このような難しさは減少するが、
【0069】
【数5】

【0070】
確認される病斑(319)全てが良性である場合、能動及び受動スキャンにおける結果は比較される。受動積分スキャンにおいて、十分に識別可能な(336)大きさの病斑が見つからない場合(336)、患者は健康であり、検査から解放される。確認される(319)全ての病斑が良性であるが、受動積分スキャンにおいて、いくつかの病斑が十分に識別可能な(310)大きさである場合(336)、患者は更なる検査(338)が行われる。再検査には、より注意深く異常領域を再びスキャンすること、様々な波数帯を有する中赤外線で照射してから加熱してからスキャンを行うこと(図6a、b及び関連する記述)、あるいは従来から既知の試験を行うことが含まれる。
【0071】
本発明の代替可能な第2の実施例は、図6a、bにおいて記載されている。図6a、bの実施例において、中赤外線エネルギの吸収度及び放射率が異なることによる加熱の相違が、健康的な乳房組織、悪性病斑、そして良性病斑を識別するのに用いられる。従って、図6a,bの実施例は、図5の実施例における準備試験で疑わしい結果が出た場合において用いられる試験である。
【0072】
図6aはシステムの第2の実施例を示し、このシステムは患者の乳房内部の病斑を識別する。システムは2つの中赤外線のランプを備える。第1ランプ(24b)は第1波数帯1600-1700 cm-1の波数帯において、エネルギを放射する。そして第2ランプ(24c)は第2波数帯3250-3350 cm-1の波数帯において、エネルギを放射する。システムはまた検出装置(400)を備え、該装置は2つの焦電気性センサ(22e)と(22f)を備える。これらのセンサは333-10,000 cm-1の波数帯における中赤外線の放射に対し、検出感度を有している。また、装置は、代替可能なバンドパスフィルタ(23e)を備える。検出装置(400)は広波数帯333-10,000 cm-1をスキャンする。同時に、適切な波数帯をスキャンする。
【0073】
図6bはシステムの第2の実施例を示すフローチャートである。このシステムは患者の乳房内の病斑を識別するのに用いられる。方法は患者(404)が検査の準備をするところから始まる(404)(この準備の段階は、図5に示す段階(304)と同様である)。スキャンされる領域は第1波数帯1600-1700cm-1、10mW/mm2の強度で3分間加熱ランプ(24b)により加熱される(406)。第1波数帯での中赤外線放射は選択的に腫瘍及び良性病斑により吸収される。領域は1600-1700 cm-1の可変フィルタ(23e)を用いて、検出装置(408)でスキャンされる(408)。従って、領域は、有効エネルギの大部分を受容する(可能な限り最も強い信号を獲得した)幅広い波数帯333-10000 cm-1においてスキャンされる。また同時に、波数帯1600-1700 cm-1においてスキャンされる。この波数帯1600-1700 cm-1は、病斑を最も強く示す波数帯である(最も優れた信号対雑音比を獲得する)。
【0074】
領域は冷却され(409)、温度は均衡される。領域を冷却することで(409)、新たな手順が付け加えられ、時間が必要になる。しかし、もし、前癌領域が冷却されないと、次の段階において、悪性領域との区別することは難しくなる。領域における温度が均衡されてから、領域は、加熱ランプ(24c)を用いて、第2波数帯3250-3350 cm-1、強度10mW/mm2の強度を有する中赤外線放射で3分間加熱される(410)。第2波数帯における中赤外線放射を、腫瘍が選択的に吸収するが、良性病斑は吸収しない。その後、3250-3350 cm-1の可変フィルタ(23e)を用いて、検出装置で(410)、領域はスキャンされる(412)。従って、領域は、有効エネルギの大部分を受容する(可能な限り最も強い信号を獲得した)幅広い波数帯333-10000 cm-1においてスキャンされる。また同時に、波数帯3250-3350 cm-1においてスキャンされる。この波数帯3250-3350 cm-1は、病斑を最も強く示す波数帯である(最も優れた信号対雑音比を獲得する)。
【0075】
異常部が見つからない場合(414)、患者は疑わしい病斑を全く有していないことが判明し、検査から開放される。異常部が見つかり(414)、第2スキャンではなく第1スキャンでの中赤外線放射時において、異常部が正常組織よりも高い中赤外線放射する場合、病斑は良性であると判明し(416)、患者は検査から解放される(424)。また、この良性の病斑は、癌性を有するようにはならない。一方、第1スキャン(408)及び第2スキャン(412)の両方が施された少なくとも1つの領域において、正常組織の放出する中赤外線放射よりも高いことが判明した場合(414)、病斑は悪性であると考えられ(418)、患者は更なる検査及び処置(422)が行なわれる。同様に、第1スキャン(408)ではなく第2スキャン(412)において更なる放射が見つかると(414)、検査は結論に達していないことを示す(420)。そして、患者はさらなる検査に送られ(412)、何の病斑を有しているのか決定される。
【0076】
本明細書内で記載されるあらゆる刊行物、特許、及び特許出願書類は、本明細書において参考として全て組み込まれている。同様に、本明細書内で記載される個々の刊行物、特許、及び特許出願書類は、特に、そして、個々に参考文献として本明細書に組み込まれている。加えて、本出願におけるあらゆる引用文献は、本出願の内容としては解釈されない。これらは、本発明の従来技術として理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】検出装置であり、本発明の第1の実施例を示す。
【図2】第1の波数帯1500-1800 cm-1(λ=6-7)における、健康な乳房組織、良性の乳房組織、悪性の乳房組織の中赤外線の吸収スペクトルグラフを示す。
【図3】第1の波数帯1500-1800 cm-1(λ=6-7)における、健康な乳房組織、良性の乳房組織、悪性の乳房組織の中赤外線のスペクトルグラフの対比を示す。
【図4a】第2の波数帯900-1200 cm-1(λ=8-11)における、健康な乳房組織、良性の乳房組織、悪性の乳房組織の中赤外線の吸収スペクトルグラフを示す。
【図4b】第3の波数帯1400-1750 cm-1(λ=6-7)における、健康な乳房組織、良性の乳房組織、悪性の乳房組織の中赤外線の吸収スペクトルグラフを示す。
【図4c】第4の波数帯2700-3600 cm-1(λ=3-4)における、健康な乳房組織、良性の乳房組織、悪性の乳房組織の中赤外線の吸収スペクトルグラフを示す。
【図5】本発明の第1実施例を示すフローチャートである。
【図6a】本発明における装置の第2の実施例を示し、この装置により、生体組織内部の病斑を識別する。
【図6b】本発明の第2の実施例を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の皮下における異常領域を特定する非侵襲的方法であって、前記方法は、
健常組織上から選択的に異常領域を加熱する段階と、
前記加熱後に前記異常領域からの放射物を測定する段階と
前記測定後に前記異常領域を検出する段階を備えることを特徴とする、非侵襲的方法。
【請求項2】
前記加熱する段階は、第1波数帯の赤外線を前記領域へと放射する段階を備えることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1波数帯は前記放射物の波数帯とは異なることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
d)第2波数帯で前記領域へと赤外線を放射する段階をさらに備えることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
第1波数帯は波数1600-1700 cm-1の赤外線を含むことを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記放射物は中赤外線の黒体放射を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記領域は患者の乳房の一部を含むことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記加熱する段階は、一定時間行われ、前記測定する段階は、一定時間を経てから行なわれることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記結果は、前記放射物の示差測定であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記示差測定は、コントラストによる測定であることを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
d)スペクトル分析を行い、異常領域を特定する段階をさらに備えることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項12】
d)前記異常領域の深さを決定する段階をさらに備えることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項13】
患者の皮下の異常領域を明確にする検出装置であって、
ランプを備え、該ランプは中赤外線を皮膚に照射することで前記領域を加熱し、
前記検出装置は、さらに、
タイマを備え、一定時間前記ランプが中赤外線を照射した後に、前記ランプの電源を切り、
前記検出装置は、さらに、
c) 中赤外線センサを備え、該センサは、一定時間前記ランプで加熱された領域から照射される放射物を測定することを特徴とする、検出装置。
【請求項14】
d) バンドパスフィルタを備え、該フィルタは前記中赤外線センサの測定感度を、第1の狭波数帯に制限することを特徴とする、請求項12記載の検出装置。
【請求項15】
e) 第2の中赤外線センサを備え、放射物の第2の波数帯を測定することを特徴とする、請求項14記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【公表番号】特表2010−504763(P2010−504763A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549102(P2008−549102)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001139
【国際公開番号】WO2007/080567
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508204261)メディカル オプティカル イメージング システムズ エルティーディ. (1)
【Fターム(参考)】