説明

乳癌の診断、予後診断及び治療方法

タンパク質pRb2/p130は、ER-α遺伝子の発現を抑制する。pRb2/p130複合体結合を変えるためのpRb2/p130発現のブロッキング又はER-α遺伝子メチル化の変更は、ER-α遺伝子の転写活性を回復させる。ER-α遺伝子のメチル化状態の検出及び調節は、場合により、ER-α遺伝子プロモーターに結合したpRb2/p130複数分子複合体の検出及び調節と共に、エストロゲン-非感受性乳癌細胞を同定させる。それにより、正確な予知が得られ、及び好適な治療コースが投与できる。また、pRb2/p130の阻害又はER-α遺伝子のメチル化パターンの変更は、pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複合体内のDNMT1を標的化することにより、エストロゲン非感受性乳癌細胞をエストロゲン-感受性乳癌細胞に転換することができる。エストロゲン-感受性乳癌細胞は、一般的に、現行の抗癌治療剤に対して感受性が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、乳癌、特にエストロゲン-鈍感乳癌の診断方法、乳癌の対象の予後診断の決定方法、及びエストロゲン-鈍感乳癌細胞の増殖の阻害方法に関する。特に、本発明の方法は、pRb2/p130の活性を測定又は阻害すること、又はER-α遺伝子プロモーターのメチル化状態及び/又は乳癌細胞内のER-α遺伝子プロモーター上の特異的pRb2/p130-複数分子複合体の存在を決定することに関連する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの研究は、多数の組織型、例えば直腸、膵臓及び肺、の細胞形質転換のマーカーとして、癌遺伝子及び腫瘍抑制遺伝子を同定してきたが、乳癌の比較されうる研究では成功が限定されてきた(Westら, 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98, 11462)。これは、乳癌の大部分において遺伝的及び後生的変化の発見の困難性を反映し、乳癌の形質異種性を浮き彫りにしてもいる。乳癌の初期診断の分子標的の同定は、診断の改良及び分子診断に基づく治療をもたらした。
【0003】
ほとんどの哺乳動物の悪性腫瘍は、乳癌の診断及び予後診断、及び治療的選択肢を決定するために重要な因子であるエストロゲン受容体(ER)を含む(Osborne, 1998, Breast Cancer Res. Treat., 51,227)。エストロゲンは、ホルモン-応答性ヒト乳癌細胞の直接的マイトジェンである。すなわち、エストロゲンは、細胞周期の進行を促進し、及び「ごく初期」の転写活性化及びサイクリン遺伝子を誘導する。エストロゲン受容体アルファ(ER-α)及びそのリガンド(17β-エストラジオール)は、健全な乳房発達に重要な役割を果たし、及び乳癌対象における哺乳動物の腫瘍形成及び臨床転帰にも関連している。しかしながら、乳癌の最高3分の1は、診断時にER-αが欠如し、及び初めはER-α-陽性である乳癌の1部分は腫瘍の進行中にERを喪失する(Hortobagyi, 1998, New Engl.JMed., 339, 974)。乳癌の大部分では、ER-α遺伝子発現の不存在は、そのCpG島の異常なメチル化に関連している(Hortobagyi, 1998; Weigel及びConinck, 1993, Cancer Res., 53,3472)。
【0004】
クロマチンの構造及び化学的組成は直接遺伝子発現に影響を与える、という豊富な証拠がある。ヒストンはクロマチンの一次構成成分である。ヌクレオソームは、クロマチンの基本的繰り返し単位である;更に、ヒストンH1及び他の非-ヒストンタンパク質によって、ヌクレオソームの凝集体は、凝縮クロマチン状態をもたらす(Hayes及びHansen, 2001, Curr. Opin. Genet. Dev., 11, 124)。従って、クロマチンは、転写機械には利用できず、遺伝子沈黙が起こる。
【0005】
クロマチン構造及び機能は、ヌクレオソームのヒストンの翻訳後の修飾によって、少なくとも部分的には制御される。核ヒストンテールは、多数の共有的修飾、例えばアセチル化、メチル化、ホスホリル化及びユビキノン化に感受性である。種々の研究は、ヒストン修飾の「ヒストンコード仮説」を総体的に支持する(Strahl及びAllis, 2000, Nature, 403,41)。当該仮説は、ヒストンテール上の所与の修飾の存在が、同一ヒストン上の至る所の第二修飾の存在を命令又は阻害する、ことを示唆するものである。そのため、ヒストン修飾は、クロマチン機能、例えば遺伝子発現を調節する、種々のタンパク質又はタンパク質複合体の供給用のマーカーとして役立つことができる。
【0006】
DNAメチル化は、転写抑制にも重要である。従って、DNAメチル化及びヒストン脱アセチル化は、一体となって働いて、抑制クロマチン環境及び沈黙遺伝子発現を構築することができる、ことが提案されてきた(Cameronら, 1999, Nat. Genet., 21, 103)。例えば、転写抑制複合体、例えばDNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)/ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の形成は、遺伝子発現調節において重要なメカニズムとして現れる(Grunstein, 1997, Nature, 389, 349; Struhl, 1998, Genes & Dev. 12, 599; Linら, 1998, Nature, 391, 811; Laird及びJaenisch, 1996, Annu. Rev. Genet. 30,441)。HDAC活性の異常供給は、特定のヒト癌の発症とも関連し(Nanら, 1998, Nature, 393, 386)、及びCpG-メチル化のパターンでの変化は、ヒト悪性腫瘍の固有の特徴であるようである(Jonesら, 1998, Nat. Genet., 19,187)。しかしながら、メチル化による遺伝子沈黙のメカニズムは、未だによく理解されていない。最近の研究は、ヒストン脱アセチル化に類似するヒストンメチル化が、DNAメチル化に協力して機能する(Bird及びWolffe, 1999, Cell,99, 451)ことを示唆するか、又はヒストンメチルトランスフェラーゼSUV39H1によるリシン上のヒストンメチル化が転写抑制に重要であることを示唆する。メチル化ヒストンに関連する具体的なクロマチン構造はまた、DNAメチル化を引き起こすために必要である(Ng and Bird, 1999,Curr. Opin. Genet. Dev., 9, 158)。
【0007】
Rbタンパク質による転写抑制を説明する様々なメカニズムが提案されている(Magnaghi-Jaulinら, 1998, Nature, 391,601; Dunaiefら, 1994, Cell, 79,119; Troucheら, 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 11268)。モデル案のいくつかは、転写活性の調節におけるクロマチン構造の重要性を強調する。Rbファミリーメンバーによる活性抑制は、凝縮クロマチン構造がヒストン脱アセチル化及びメチル化によって亢進されるメカニズムに関係付けられた。Rbタンパク質は、HDAC1/2を供給することによってE2F-依存的転写を抑制することが明らかとなった(Iavarone及びMassague, 1999, Mol. Cell Biol., 19, 916; Stieglerら, 1998, Cancer Res., 58, 5049)。最近のデータは、pRb2/p130及びp107が、A/BポケットドメインによってHDAC1と物理的に相互作用できる、ことを示している(Magnaghi-Jaulinら, 1998; Iavarone及びMassague, 1999; Ferreiraら, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95, 10493)。
【0008】
休止期細胞におけるE2F-応答プロモーターの抑制は、E2F-4及びpRb2/p130供給、及び低ヒストンアセチル化レベルに関連する。最近、様々な研究により、SUV39H1が網膜芽細胞腫タンパク質Rb1/p105による転写抑制に関連する、ことが明らかになっている(Vandelら, 2001, Mol. Cell. Biol., 21, 6484)。
【0009】
ヒストン脱アセチル化及びDNAメチル化によって仲介されるクロマチン不活性化は、ヒト乳癌細胞におけるER-α抑制の重要な成分である。In vitro研究により、DNMT1がHDAC1又は2のいずれかに物理的に相互作用し、DNMT1及びHDAC阻害剤による共処置がER-α陰性乳癌細胞におけるER-α遺伝子発現を相乗的に誘導することができる、ことが明らかとなっている(Rountreeら, 2000, Nat. Genet., 25,269; Robertsonら, 2000, Nat. Genet., 25, 338; Yangら 2001, Cancer Res., 60, 6890)。しかしながら、DNMT1及びHDAC相互作用を促進し、又はER-α遺伝子発現を調節する分子因子は、これまで同定されてなかった。
【0010】
より悪性の疾患を有する乳癌対象を同定する能力は、正確な予後診断及び適当な治療計画に重要である。例えば、エストロゲン-受容体陰性(エストロゲン-鈍感乳癌)である乳癌対象は、悪性の可能性がより高い。典型的には、転移可能性は、組織型、分化の程度、進入の深さ及びリンパ節転移の程度を含む病理学的腫瘍の特徴の範囲を考慮して決定される。不幸なことに、これらの因子は、必ずしも、乳癌の転移可能性の十分に正確に決定することができない。かかるパラメータはまた、問題の多い再現性を有する。エストロゲン-受容体陰性乳癌はまた、抗癌剤、例えばタモキシフェンによる治療に対して感受性が低い。
【0011】
従って、ER-α遺伝子発現、特にエストロゲン受容体-陰性乳癌細胞における、を制御する分子因子の検出及び調節方法が求められている。かかる因子の検出及び調節は、正確な予後診断が得られるようにエストロゲン-鈍感乳癌細胞の同定を可能にし、及び好適な治療経路を投与することができるだろう。また、ER-α遺伝子発現を制御する分子因子の検出及び調節は、エストロゲン-鈍感細胞を、一般的に、現行の抗癌治療に対してより感受性のあるエストロゲン-感受性細胞に転換することができるだろう。
【0012】
タンパク質pRb2/p130は、ER-α遺伝子の発現を抑制する。pRb2/p130ブロッキング活性又はpRb2/p130と共にER-α遺伝子に結合するタンパク質の改変は、ER-α遺伝子の転写活性を元に戻すことができる。エストロゲン受容体陰性乳癌細胞の場合には、ER-α遺伝子の転写活性は、当該細胞をエストロゲン受容体-陽性細胞に転換する。
【0013】
いずれかの理論に拘束されるものではないが、pRb2/p130は、ER-αプロモーターに結合する2種の複数分子複合体に関連すると、考えられている。様々な生理的に重要な酵素及び転写因子は、ER-αプロモーターに対してpRb2/p130によって供給することができる。再度、任意の理論に拘束されるものではないが、供給酵素の同定及び一時的特異性、及びpRb2/p130複合体における転写因子は、種々のアセチル化及びメチル化レベルを誘導することによってクロマチン組織化を制御するらしい。次に、これらの種々のアセチル化及びメチル化は、ER-α遺伝子の転写調節に影響を与える。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
従って、本発明は、乳癌細胞の試料を取得するステップ、及びER-α遺伝子プロモーターのDNAメチル化パターン及び場合により、当該細胞中のER-α遺伝子プロモーター上の特異的pRb2/p130-複数分子複合体の存在を決定するステップを含む、乳癌の診断方法を提供する。ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域のDNAメチル化の存在は、場合により、乳癌細胞中のER-α遺伝子プロモーター上のpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複数分子複合体の存在と併せて、乳癌細胞がエストロゲン受容体-陰性乳癌細胞であることを示す。ER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在は、場合により、pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300複数分子複合体の存在と併せて、乳癌細胞がエストロゲン受容体-陽性乳癌細胞であることを示す。
【0015】
本発明は、乳癌罹患対象の予後診断の決定方法であって、当該対象から乳癌細胞の試料を取得するステップ、ER-α遺伝子プロモーターのDNAメチル化パターンを決定するステップ、及び場合によりER-α遺伝子プロモーター上の特異的pRb2/p130複数分子複合体の存在を決定するステップを含む、前記方法を更に提供する。ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域のDNAメチル化の存在は、場合により、ER-α遺伝子プロモーター上のpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複数分子複合体の存在と併せて、乳癌細胞がエストロゲン受容体-陰性であることを示す。エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞は、転移可能性が高く、そのため、対象は予後が不良である。
【0016】
ER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在は、場合により、ER-α遺伝子プロモーター上のpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300複数分子複合体の存在と併せて、乳癌細胞がエストロゲン受容体-陽性であり、及び対象の予後がより良好であることを示す。
【0017】
本発明は、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞の製造方法であって、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞の試料を取得するステップ、及び当該細胞中のER-α遺伝子の転写を活性化するステップを含む、前記方法を更に提供する。ER-α遺伝子の転写活性は、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞をエストロゲン受容体-陽性乳癌細胞に転換する。
【0018】
本発明は、エストロゲン受容体-陰性乳癌の治療方法であって、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞を有する対象を提供するステップ、及びエストロゲン-陰性乳癌細胞をER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物の有効量に曝露するステップを含む、前記方法をなお更に提供する。ER-α遺伝子の転写活性化は、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞をエストロゲン受容体-陽性乳癌細胞に転換する。次いで、対象は、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞を標的とする乳癌療法を受けることができる。
【0019】
本発明は、エストロゲン受容体-陰性乳癌の治療用医薬の製造のための、ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物の使用を更に提供する。
【0020】
発明の詳細な説明
ER-α遺伝子は、健常な乳房の発達に重要な役割を果たし、及び哺乳動物の腫瘍の発症及び進行にも関連する(Osborne, 1998; Hortobagyi,1998 ; Yang, 2001)。いずれかの理論に拘束されるものではないが、ER-α遺伝子の転写抑制が、2種の複合体;pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300及びpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMTl-SUV39H1を経て、ER-陰性乳癌細胞中のpRb2/p130によって仲介される、と考えられている。これらのpRb2/p130複合体は、生理的環境内のER-α遺伝子転写の調節におけるpRb2/p130及びクロマチン-修飾酵素間の関連を提供するらしい。いずれかのpRb2/p130複合体中の供給酵素及び転写因子の特定及び一時的特異性は、様々なヒストンアセチル化及びメチル化レベルを誘導することによってクロマチン組織化を制御することができる。これらの様々なヒストンアセチル化及びメチル化レベルは、ER-α遺伝子の基本的な転写機械への利用性に影響する。
【0021】
例えば、SUV39H、HDAC1及びp300 bypRb2/p130の供給は、エストロゲン受容体-陽性MCF-7乳癌細胞中のER-αの発現を調節し、更に、(p300/CBPの同時放出を伴う)DNMT1の供給は、エストロゲン受容体-陰性MDA-MB-231乳癌細胞内の長期間ER-α遺伝子沈黙を必要とする(図4a及びbを参照されたい)。pRb2/p130は、GenBank登録受託番号NM_005611、及び本明細書に参考文献としてその全体が開示されている、Tedesco Dら, Genes Dev. 16 (22), 2946-2957, 2002に記載されている。pRb2/p130のcDNA配列は、配列番号1として本明細書に記載され、対応するpRb2/p130アミノ酸配列は、配列番号2として本明細書に記載されている。
【0022】
従って、乳癌細胞種は、ER-α遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化パターンに基づいて同定することができる。このパターンは、ER-α遺伝子がpRb2/p130タンパク質によって転写抑制を受けるか否かを示すものである。ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化は、遺伝子が転写的に抑制され、及びER-αが全く産生されない、ことを示す。従って、ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化を示す乳癌細胞は、エストロゲン-受容体陰性乳癌細胞である。ER-α遺伝子はかかる細胞中で転写的に抑制されるため、ER-α遺伝子プロモーターにおいて全くDNAメチル化を示さない又はER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみDNAメチル化を示す乳癌細胞は、エストロゲン受容体-陽性である。
【0023】
好ましい実施態様では、乳癌細胞種は、ER-α遺伝子プロモーター内のDNAメチル化パターンに基づいて同定することができ、同時に、ER-α遺伝子プロモーター上の特異的pRb2/p130-複数分子複合体の存在を検出することができる。この好ましい実施態様では、ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化は、pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複合体の存在と併せて、ER-α遺伝子が転写的に抑制され、及びER-αが全く産生されないことを示す。ER-α遺伝子プロモーターにおいて全くDNAメチル化が起こらないこと、又はER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみDNAメチル化が起こることは、pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300の存在と併せて、ER-α遺伝子が転写的に抑制され及び乳癌細胞がエストロゲン受容体-陽性であることを示す。ER-α遺伝子のメチル化パターン及びER-α遺伝子プロモーター上の特異的pRb2/p130複数分子複合体の存在の決定方法は、当該技術内であり、及び代表的方法が以下の「実施例」に記載されている。
【0024】
当業者は、所与のER-α遺伝子プロモーターにおけるメチル化がER-α遺伝子プロモーター配列の領域内でそれぞれシトシンを生じ、3'-方向にグアノシンが続く(すなわち、配列5'-CG-3')、ことを理解するだろう。従って、「ER-α遺伝子プロモーターの領域におけるメチル化の存在」は、そこでER-α遺伝子プロモーターがメチル化される、得られる5'-CG-3'メチル化部位を意味する。ER-α遺伝子のメチル化パターンの決定方法は当該技術内にあり、代表的方法は以下の「実施例」に記載されている。
【0025】
対象のある種の乳癌細胞の存在は、その種の乳癌を診断する。すなわち、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞が存在するならば、その時、当該対象はエストロゲン受容体-陽性乳癌に罹患している。エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞が存在するならば、その時、当該対象はエストロゲン受容体-陰性乳癌に罹患している。
【0026】
遺伝子に関して「発現」とは、当該遺伝子内でコードされた遺伝子情報が具現化され、機能性RNA又はタンパク質を産生することを意味する。従って、当該用語は、反対の意味を示さないのであれば、転写又は翻訳のいずれか、及び遺伝子の成熟タンパク質産物の活性を含むように、その広義の意味で使用される。従って、細胞内のpRb2/p130タンパク質活性のブロッキング又は非存在(例えば、pRb2/p130タンパク質が突然変異する)は、「pRb2/p130発現阻害」と考えられるだろう。「pRb2/p130発現阻害」は、ER-陰性乳癌細胞中のER-αの再発現をもたらす。
【0027】
本発明の方法で使用するための細胞又は組織試料は、標準的方法、例えばパンチ生検又は針生検、外科生検等によって入手できる。例えば、乳癌と疑われる対象からの組織又は細胞試料は外科生検によって得られる。対照として、対象の非罹患乳房組織又は健常対象由来の組織又は細胞試料も取得できる。ゲノムDNAは、次いで、ER-α遺伝子プロモーターメチル化レベルの決定のために、標準的方法を用いて試験試料及び対照試料から単離することができる。
【0028】
エストロゲン受容体-陽性乳癌罹患対象は、エストロゲン受容体-陰性乳癌罹患対象よりも予後が良好である。一般的に、エストロゲン受容体-陽性乳癌は、抗-エストロゲン癌治療薬、例えばタモキシフェン、トレミフェン又はラロキシフェンによる治療に不応性ではない。反対に、エストロゲン受容体-陰性乳癌罹患対象は、予後が不良である。この種の乳癌は、高転移性であることが知られ、一般的に抗-エストロゲン治療薬に耐性があるからである。本発明の実施では、乳癌罹患対象の予後は、上記のように、対象の乳癌細胞がエストロゲン受容体-陽性であるか又はエストロゲン受容体-陰性であるかを評価することによって決定することができる。
【0029】
エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞におけるpRb2/p130発現阻害は、ER-α遺伝子の転写抑制を排除する。その後、当該遺伝子は、転写的に活性になり、かつ当該細胞にER-αを産生する。ER-α転写の活性化は、ER-α遺伝子プロモーターのメチル化パターンを変更すること、例えばpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複合体におけるDNMT1活性を標的とすることによっても達成される。従って、元々ER-陰性である乳癌細胞は、ER-α遺伝子の転写を活性化することによって、ER-陽性乳癌細胞に転換することができる。さて、ER-αは、転写的に活性なER-α遺伝子からかかる細胞中に産生されるため、かかる細胞は、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞として分類することができる。上で考察したように、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞は、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞よりも悪性の可能性が低く、及び抗-エストロゲン治療薬、例えばタモキシフェンに対して不応性が少ない。
【0030】
好ましい実施態様では、細胞中のpRb2/p130発現又は活性を阻害することによって、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞は、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞から産生されるので、ER-α遺伝子は転写的に活性である。pRb2/p130発現は、RNAレベル又はタンパク質レベル、又はその両方において阻害される。本明細書で用いる「RNAレベルでの遺伝子発現の阻害」とは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用又はRNA干渉の誘導を含む、タンパク質産物へのRAN転写産物の転写又は翻訳の抑制を言う。本明細書で用いる「タンパク質レベルでの遺伝子発現の阻害」とは、タンパク質分解又は抗体もしくはアプタマーによるタンパク質の結合を含む、タンパク質機能の完全又は部分的遮断を言う。
【0031】
pRb2/p130発現は、当業者に公知の任意の好適な方法によって阻害することができる。例えば、pRb2/p130発現は、pRb2/p130 mRNA(例えば配列番号:1)を標的とするように設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することによって阻害することができる。pRb2/p130は、単一鎖もしくは二重鎖DNA又はRNAを標的とすることができる;しかしながら、単一鎖DNA又はRNA標的が好ましく、単一鎖mRNA標的が特に好ましい。本発明のpRb2/p130アンチセンスオリゴヌクレオチドが指向される標的は、pRb2/p130のアレル型を含む、ことを理解されたい。特に、本発明は、所与の対象における特異的pRb2/p130アレル又はアレル(複数)という標的化を考慮する。当該アレルは標準的な分子生物学的方法によって決定することができる。対象-特異的pRb2/p130アレルという標的化は、対象の癌のいわゆる「個別治療」を可能にする。これは、所与の個体の疾患に効く点で、非常に有効であることが分かる。
【0032】
標的ポリヌクレオチドの配列知識が既知であるアンチセンスオリゴヌクレオチドの特定の配列を選択するための実質的指針が文献に記載されている;例えば、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、Peyman and Ulmann, 1990, Chemical Reviews, 90, 543; Crooke, 1992, Ann. Rev. Pharmacal. Toxicol., 32, 329; 及び、Zamecnik and Stephenson, Proc. Natl. Acad. Sci., 75, 280。好ましくは、pRb2/p130アンチセンス化合物の配列は、G-C含量が少なくも60%であるように選択される。好ましいpRb2/p130 mRNA標的は、5'キャップ部位、tRNAプライマー結合部位、開始コドン部位、mRNAドナースプライス部位及びmRNAアクセプタースプライス部位を含む;例えば、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、Gooodchildら,米国特許第4,806,463号明細書。
【0033】
標的ポリヌクレオチドがpRb2/p130 mRNA転写物を含む場合に、当該転写物の任意の位置に相補的なオリゴヌクレオチドは、原則として、翻訳を阻害し、かつ本明細書に記載の効果を誘導するために有効である。翻訳は、開始コドン部位又はその近辺でmRNAをブロッキングすることにより最も効率的に阻害される、と考えられる。従って、pRb2/p130 mRNA転写物の5'-部位に相補的なオリゴヌクレオチドが好ましい。pRb2/p130 mRNAの5'-部位に相補的なオリゴヌクレオチド、例えば開始コドン(pRb2/p130転写物の翻訳部位の5'-末端の第一コドン)又は開始コドンの隣接コドンが好ましい。
【0034】
pRb2/p130 mRNA転写物の5'-部位に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、特に開始コドンを含む部位が好ましいが、有用なアンチセンスオリゴマーは、mRNA転写物の翻訳部位に見られる配列に相補的な配列に限定されず、mRNA転写物の5'-及び3'-非翻訳部位内の又は当該部位まで及ぶヌクレオチド配列に相補的なオリゴマーも含む。
【0035】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、モノマーとヌクレオシド間の相互作用、例えばワトソン-クリック塩基対、Hoogsteen塩基対又は逆Hoogsteen塩基対等の規則的パターンによって、ポリヌクレオチドを標的化するために特異的に結合することができる任意のポリマー性化合物を含むことができる。本発明のアンチセンス化合物は、ポリマーの基本的反復単位の一部分として又は当該単位とは別に、ぶら下がり基又は部分をも含み、特異性、ヌクレアーゼ耐性、送達又は効果に関連する他の性質;例えば、コレステロール部分、二重鎖インターカレーター例えばアクリジン、ポリ-L-リシン、1以上のヌクレアーゼ耐性結合基例えばホスホロチオエートを有する「末端キャッピング」等を亢進することができる。
【0036】
例えば、脂質溶解性及び/又はヌクレアーゼ消化耐性の増加は、アルキル基又はアルコキシ基の、ヌクレオチド間ホスホジエステル結合内のリン酸エステルの酸素原子との置換により、アルキルホスホネートオリゴヌクレオシド又はアルキルホスホトリエステルオリゴヌクレオチドを形成する、ことは知られている。非-イオン性オリゴヌクレオチド、例えばこれらは、ヌクレアーゼ加水分解に対する耐性の増加及び/又は細胞内取り込みの増加によって特徴付けられると同時に、相補性核酸配列を有する安定複合体を形成する能力を保持する。特に、アルキルホスホネートは、ヌクアレーゼ開裂に安定であり、かつ脂質中で溶解性である。アルキルゴスホネートオリゴヌクレオシドの調製は、Tsoら, 米国特許第4,469,863号明細書に開示されている。
【0037】
好ましくは、ヌクレアーゼ耐性は、ヌクレアーゼ耐性ヌクレオシド間結合を提供することによって、本発明のアンチセンス化合物に付与される。多くのかかる結合は当該分野で公知である;例えばホスホロチオエート: Zon及びGeyser, 1991, Anti-Cancer Drug Design, 6: 539; Stecら, 米国特許第5,151,510号明細書; Hirschbein, 米国特許第5,166,387号明細書; Bergot, 米国特許第5,183,885号明細書; ホスホロジチオエート: Marshallら, 1993, Science, 259, 1564; Caruthers及びNielsen, PCT/US89/02293号; ホスホラミデート, 例えば-OP(=O)(NR1NR2)-O-(但し、R1及びR2が水素原子又はC1〜C3アルキルである); Jagerら, 1988, Biochemistry, 27, 7237; Froehlerら, 国際出願第PCT/US90/03138号; ペプチド核酸: Nielsenら, 1993, Anti-Cancer Drug Design, 8, 53; 国際出願第PCT/EP92/01220号;メチルホスホネート: Millerら, 米国特許第4,507,433号明細書, Ts'oら, 米国特許第4,469,863号明細書; Millerら, 米国特許第4,757,055号明細書;並びに、様々な種類のP-キラル結合、特にホスホロチオエート, Stecら, 欧州特許出願第506,242号(1992)及びLesnikowski, Bioorganic Chemistry, 21, 127。追加のヌクレアーゼ結合は、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニリデート、アルキルホスホトリエステル例えばメチル-及びエチルホスホトリエステル、カーボネート例えばカルボキシメチルエステル、カルバメート、モルホリノカルバメート、3'-チオホルムホルムアセタール、シリル例えばジアルキル(C1〜C6)-又はジフェニルシリル、スルファメートエステル等を含む。かかる結合及びそれらをオリゴヌクレオチドへ導入するための方法は、多くの文献に記載されている;例えば、一般的には、Peyman及びUlmann, 1990, Chemical Reviews 90: 543; Milliganら, 1993, J; Med. Chem., 36, 1923; Matteucciら, 国際出願第PCT/US91/06855号を参照されたい。この段落に言及される全ての文献の開示は全て、本明細書に参考文献として組み込まれている。
【0038】
ヌクレアーゼ消化への耐性は、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、 Dagleら, 1990, Nucl. Acids Res. 18, 4751の方法に従って、5'及び3'末端のヌクレオチド間結合をホスホロアミデートで修飾することによっても達成することができる。
【0039】
好ましくは、ホスホジエステル結合のリン類縁体は、本発明の化合物、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミデート又はメチルホスホネートで使用される。より好ましくは、ホスホロチオエートがヌクレアーゼ耐性結合として使用される。
【0040】
ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチドホスホジエステル結合の酸素のイオウ置換を含む。ホスホロチオエート・オリゴヌクレオチドは、二重鎖形成のための効果的ハイブリダイゼーション特性及び実質的なヌクレアーゼ耐性を有し、同時に荷電リン酸エステル類縁体の水溶性を保持する。電荷は、受容体による細胞取り込み性を付与すると考えられる(Lokeら, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci., 86,3474を参照されたい、当該文献は参考文献として開示が全て本明細書に組み込まれている)。
【0041】
好ましい結合基に加えて、本発明のアンチセンス化合物は、追加の修飾;例えばホウ素化塩基(例えば、Spielvogelら, 米国特許第5,130,302号明細書を参照されたい); コレステロール部分(例えばSheaら, 1990, Nucl. Acids Res., 18, 3777、又はLetsingerら, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 6553を参照されたい);及びピリミジ類の5-プロピニル修飾(例えば、Froehlerら, 1992, Tetrahedron Lett., 33, 5307を参照されたい)を含む、ことを理解されたい。この段落で言及された全ての文献の開示は全て、本明細書に参考文献として組み込まれている。
【0042】
好ましくは、本発明のアンチセンス化合物は、商業的に入手可能な自動DNAシンセサイザー、例えば Applied Biosystems(Foster City, CA)モデル380B、392又は394 DNA/RNAシンセサイザーで一般的方法によって合成される。好ましくは、ホスホラミデート化学は、例えば以下の文献に開示されているように採用される:Beaucage及びIyer, 1992, Tetrahedron, 48, 2223; Molkoら, 米国特許第4,980,460号明細書; Kosterら, 米国特許第4,725,677号明細書; Caruthersら, 米国特許第4,415,732号明細書; 同4,458,066号明細書; 及び同4,973,679号明細書。本明細書には、参考文献として開示が全て組み込まれている。
【0043】
三重鎖核酸形成が望ましい実施態様では、標的配列の選択に制限がある。一般的に、Hoogsteen型結合による第三鎖結合は、二重鎖標的内のホモピリミジン-ホモプリン軌道(tracks)に沿って最も安定である。通常、塩基三重項は、T-A*T又はC-G*Cモチーフ(「-」は、Watson-Crick塩基対を示し、そして「*」は、Hoogsteen型結合を示す)内に生成する;しかしながら、他のモチーフも可能である。例えば、Hoogsteen塩基対は、条件及び鎖の組成に応じて、第三鎖(Hoogsteen鎖)と、それに第三鎖が結合する二重鎖のプリンが多い鎖との間の平行及び逆平行を可能にする。具体的実施態様で望まれるような三重鎖安定性を最適化し又は調節するために、好適な配列、配向、条件、ヌクレオチド種(例えば、リボースヌクレオシド又はデオキシリボースヌクレオシドを使用するか)、塩基修飾(例えば、メチル化シトシン等)を選択するための文献には、過剰の指針がある;例えば、Robertsら, 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88, 9397 ; Robertsら, 1992, Science, 258, 1463; Distefanoら, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 1179; Mergnyら, Biochemistry, 30, 9791-9798 (1992); Chengら, J. Am. Chem. Soc., 114: 4465-4474 (1992); Beal及びDervan, Nucleic Acids Research, 20: 2773-2776 (1992); Beal及びDervan, J. Am. Chem. Soc., 114: 4976-4982; Givovannangeliら, Proc. Natl. Acad. Sci., 89: 8631-8635 (1992); Moser及びDervan, Science, 238: 645-650 (1987); McShanら, J. Biol. Chem., 267: 5712-5721 (1992); Yoonら, Proc. Natl. Acad. Sci., 89: 3840-3844 (1922); 及びBlumeら, Nucleic Acids Research, 20: 1777-1784 (1992)。本明細書には開示が全て参考文献として組み込まれている。
【0044】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは、多くの文献で説明されているように、特異的結合が所望の標的ポリヌクレオチドでのみ起こり、他の偶然の部位では起こらないことを確実にするくらいに十分に長くなければならない;例えば、Rosenbergら, 国際特許出願第PCT/US92/05305号; 又はSzostakら, 1979, Meth. Enzymol., 68, 419。長さの上限は、多数の因子、例えば約30〜40ヌクレオチド長より長いオリゴマーを合成し及び精製する不都合及び費用、ミスマッチに対してより短鎖のオリゴヌクレオチドよりもより長鎖のオリゴヌクレオチドが高く許容される、結合又は特異性を向上させる修飾が存在するか、二重鎖結合又は三重鎖結合が好ましいかなどによって決定される。通常、本発明のアンチセンス化合物は、約12〜60ヌクレオチドの範囲の長さを有する。より好ましくは、本発明のアンチセンス化合物は、約15〜40ヌクレオチドの範囲の長さを有し;及び最も好ましくは、約18〜30ヌクレオチドの範囲の長さを有する。
【0045】
一般的に、本発明の実施に用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的ポリヌクレオチドの選択された部分に完全に相補的である配列を有するだろう。しかしながら、絶対的な相補性は、特に大きなオリゴマーでは必要とされない。従って、本明細書で言う標的ポリヌクレオチド「に相補的なヌクレオチド配列」とは、標的断片と100 %相補性を有する配列を必ずしも意味しない。一般的に、標的(例えば、pRb2/p130 mRNA)と安定な二重鎖を形成するために十分な相補性を有するオリゴヌクレオチドはいずれも好適である。安定な二重鎖形成は、ハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの配列及び長さ、及び標的ポリヌクレオチドとの相補性の程度に依拠する。一般的に、ハイブリダイズするオリゴマーが大きくなればなる程、ミスマッチが許容される。2以上のミスマッチは、おそらく、約21ヌクレオチド未満のアンチセンスオリゴマーには、許容されないだろう。当業者は、得られた二重鎖の融点、及びその結果その熱安定性基づいて、任意の所与のアンチセンスオリゴマー及び標的配列間で許容されるミスマッチの程度を容易に決定することができる。
【0046】
好ましくは、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドによって形成されたハイブリッドの熱安定性は、融解法又は鎖解離曲線によって決定される。50 %鎖解離温度は、融解温度Tmで表され、これは安定性の簡便な指標を提供する。Tm測定は、典型的には、中性pHの生理食塩水中で、標的及び濃度約1.0〜2.0 μMのアンチセンスオリゴヌクレオチドで実行される。典型的な条件は以下の通りである:150 mM NaCl及び10 mM MgCl2を含む10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.0)又は10 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.0)。融解曲線のデータは、アンチセンスオリゴヌクレオチド/標的ポリヌクレオチド複合体の試料を室温から約85〜90℃で加熱することによって累算される。試料温度が高い場合には、260 nm光の吸収は、例えば、Cary (Australia)モデル 1E又はHewlett-Packard (Palo Alto, CA)モデル HP 8459 UV/VIS分光光度計及びモデル HP 89100A温度コントローラ、あるいは類似の機器を用いて、1℃間隔で観察される。かかる技術は、種々の長さ及び組成のアンチセンスオリゴヌクレオチドの結合力を測定しかつ比較する簡便な手段を提供する。
【0047】
pRb2/p130発現は、「RNA干渉」又は「RNAi」によっても阻害することができる。「RNAi」は、多くの真核細胞生物で保存される翻訳後遺伝子調節の方法である。RNAiは、短(すなわち30未満ヌクレオチド)二重鎖RNA(「dsRNA」)分子によって誘導される(Fire Aら (1998), Nature 391:806-811)。
【0048】
「短干渉RNA」又は「siRNA」と称されるこれらの短いdsRNA分子は、siRNAと配列相同性を共有するRNAの破壊を招き、1ヌクレオチド以内の分解を生じる(Elbashir SMら (2001), Genes Dev, 15: 188-200)。siRNA及び標的RNAは、標的RNAを開裂する「RNA-誘導抑制複合体」又は「RISC」と結合する、と考えられている。siRNAは、約1000RNA分子の開裂を誘導することができる1種のsiRNA分子を有する多重代謝回転酵素(multiple-turnover enzyme)とほとんど同様に循環されるらしい。従って、RNAのsiRNA-介在RNAi分解は、標的遺伝子の発現を阻害するための現在利用できる技術よりも有効である。対象の乳癌の「個別治療」が達成できるように、siRNA-誘導RNAiの特異性は、対象特異的pRb2/p130アレルのターゲティングを許容する。
【0049】
本発明のsiRNAは、配列番号1を標的とする、約17ヌクレオチド長〜約29ヌクレオチド長、好ましくは約19〜約25ヌクレオチド長の短二重鎖RNAを含む。siRNAは、標準的なワトソン-クリック塩基対相互作用(本明細書では以下「塩基対」と称する)によって互いにアニールされたセンスRNA鎖及び相補性アンチセンスRNA鎖を含む。以下に詳細に記載されるように、センス鎖は、標的RNA内に含まれる標的配列と同一である核酸配列を含む。上記のように、標的RNAは、いずれのpRb2/p130アレル、例えば配列番号1でもよく、又は所与対象から単離されたアレルでもよい。
【0050】
本siRNAのセンス及びアンチセンス鎖は、2種の相補的な単鎖RNA分子を含むことができ、又はその中で2種の相補性部分が塩基対を形成しかつ単一-鎖「ヘアピン」部位によって共有結合的に連結されている単一分子を含んでもよい。任意の理論に拘束されるものではないが、siRNA分子の後者の種類のヘアピン部位が「Dicer」様タンパク質(又はその等価体)によって細胞間で開裂され、2種の各々の塩基対RNA分子を形成する、と考えられている(前出Tuschl, T. (2002)を参照されたい)。
【0051】
本明細書で用いる「単離」分子は、合成的又はヒトインターベンションによって天然型を変更された又は当該天然型から除去された分子である。例えば、生きている動物に元々存在するsiRNAは「単離」されないが、合成siRNA又はその天然型の共存材料から部分的もしくは完全に分離されたsiRNAは「単離」される。単離siRNAは、実質的に精製型で存在することができるか、又は非野生型環境例えばそこにsiRNAが導入される細胞、中で存在することができる。天然のプロセスで細胞内に産生され、「単離」前駆体分子からは産生されない分子は、「単離」分子とも考えられる。例えば、単離二重鎖RNA(dsRNA)は、dsRNAがDicer様タンパク質(又はその等価体)によってsiRNAにプロセッシングされる標的細胞に導入することができる。当該細胞内の元の単離dsRNAから産生されたsiRNAは、本発明の目的のための単離分子である。細胞内の発現ベクターから産生されたRNA転写産物は、「単離」分子であるとも考えられる。
【0052】
本発明のsiRNAは、部分的精製RNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA又は組換え産生RNA、並びに1以上のヌクレオチドの付加、削除、置換及び/又は変更によって天然RNAと異なる改変RNAを含むことができる。かかる改変は、例えばsiRNAの末端(複数)又はsiRNAの1以上の内部ヌクレオチドに対する非-ヌクレオチド原料の付加、又はヌクレアーゼ消化に対してsiRNA耐性を生じる修飾、又はsiRNA内の1以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドでの置換を含むことができる。
【0053】
本発明のsiRNAの1鎖又は両鎖はまた、3'突出を含むことができる。本明細書で用いる「3'突出」とは、RNA鎖の3'-末端から伸びている少なくとも1つの非対ヌクレオチドを言う。
【0054】
従って、1つの実施態様では、本発明のsiRNAは、(リボヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドを含む)1〜約6ヌクレオチド長、好ましくは1〜約5ヌクレオチド長、より好ましくは1〜約4ヌクレオチド長、特に好ましくは約2〜約4ヌクレオチド長の少なくとも1つの3'突出を含む。
【0055】
siRNA分子の両鎖が3'突出を含む実施態様では、突出の長さは、各鎖について同一でも又は異なってもよい。最も好ましい実施態様では、3'突出は、siRNAの両鎖に存在し、2ヌクレオチド長である。例えば、本発明のsiRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)又はジウリジン酸(「uu」)の3'突出を含むことができる。
【0056】
本siRNAの安定性を向上させるために、分解に対して3'突出を安定化することもできる。1つの実施態様では、突出は、プリンヌクレオチド、例えばアデノシン又はグアノシンヌクレオチドを含むことによって安定化される。あるいは、ピリミジンヌクレオチドの改変類縁体による置換、例えば3'突出内のウリジンヌクレオチドの2'-デオキシチミジンによる置換は、許容されず、RNAi分解効率に影響を与えない。特に、2'-デオキシチミジンの2'-ヒドロキシルの存在は、組織培地中で3'突出のヌクレアーゼ耐性を顕著に向上させる。
【0057】
本発明のsiRNAは、標的RNA中の約9〜25の連続ヌクレオチド(「標的配列」)の任意の伸張を標的とすることができる。一般的に、標的RNA上の標的配列は、標的RNAに対応する所与のcDNA配列、好ましくは、開始コドンから50〜100 nt下流(すなわち3'方向へ)から選ばれる。しかしながら、標的配列は、5'もしくは3'非翻訳部位又は開始コドンの隣接部位に存在する。siRNAのための標的配列を選択する方法は、例えば、2002年10月11日改訂のTuschl Tら,「The siRNA User Guide」に記載されている。本明細書には開示が全て参考文献として組み込まれている。「The siRNA User Guide」は、細胞生物化学部門, AG 105, マックスプランク生物物理化学研究所, 37077 Gottingen, GermanyのDr. Thomas Tuschlによって維持されるウェブサイトのワールド・ワイド・ウェブで利用でき、及びマックスプランク研究所のウェブサイトにアクセスしてキーワード「siRNA」を探すことによって見つけることができる。従って、本siRNAのセンス鎖は、標的RNA中に、約19〜約25ヌクレオチドの任意の連続伸張と同一のヌクレオチド配列を含む。
【0058】
本発明のsiRNAは、当業者に公知の多数の技術を用いて得られる。例えば、siRNAは、当該分野で公知の方法、例えば、Tuschlらの米国特許公開出願第2002/0086356号に記載のショウジョウバエのin vitro系、を用いて化学的に合成又は組換え的に産生させることができる。本明細書には当該文献の開示が全て参考文献として組み込まれている。
【0059】
好ましくは、本発明のsiRNAは、好適に保護されたリボヌクレオチドホスホラミデート及び一般的なDNA/RNAシンセサイザーを用いて化学的に合成することができる。siRNAは、2種の個々の相補的RNA分子として又は2種の相補的部位を有する単一RNA分子として合成することができる。合成RNA分子又は合成試薬の商業的供給業者は、Proligo (Hamburg, Germany)、Dharmacon Research (Lafayette, CO, USA)、Pierce Chemical (Perbio Scienceの一部門, Rockford, IL, USA)、Glen Research (Sterling, VA, USA)、ChemGenes (Ashland, MA, USA)及びCruachem (Glasgow, UK)を含む。
【0060】
あるいは、siRNAは、組換え環状又は線状DNAプラスミドから発現することもできる。プラスミドから本発明のsiRNAを発現するための好適なプロモーターは、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の好適なプロモーターの選択は、当該技術の範囲内にある。本発明の組換えプラスミドは、特定の組織又は特定の細胞内環境において、siRNA発現のための誘導可能な又は調節可能なプロモーターを含むこともできる。
【0061】
組換えプラスミドから発現したsiRNAは、標準的方法によって培養細胞発現系から単離するか又は細胞内で発現することができる。本発明のsiRNAを細胞にin vivoで送達するための組換えプラスミドの使用は、以下により詳細に考察される。
【0062】
本発明のsiRNAは、2種の個々の相補的RNA分子として又は2種の相補的部位を有する単一RNA分子として、組換えプラスミドから発現することもできる。
【0063】
本発明のsiRNAを発現するために好適なプラスミドの選択、siRNAを発現するための核酸配列のプラスミドへの挿入、及び組換えプラスミドを対象の細胞へ送達する方法は、当該技術の範囲内である。例えば、本明細書に開示が全て参考文献として組み込まれている、Tuschl, T. (2002), Nat. Biotechnol, 20: 446-448; Brummelkamp TRら (2002), Science 296: 550-553; Miyagishi Mら (2002), Nat. Biotechnol. 20: 497-500; Paddison PJら (2002), Genes Dev. 16: 948-958; Lee NSら (2002), Nat. Biotechnol. 20: 500-505; 及び、Paul CPら (2002), Nat. Biotechnol. 20: 505-508を参照されたい。
【0064】
本発明のsiRNAは、in vivoで細胞内的に、組換えウイルスベクターから発現することもできる。本発明の組換えウイルスベクターは、本発明のsiRNAをコードする配列及び当該siRNA配列を発現するための任意の好適なプロモーターを含む。好適なプロモーターは、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターを含む。他の好適なプロモーターの選択は、当該技術の範囲内である。本発明の組み換えウイルスベクターは、特定の組織又は特定の細胞内環境において、siRNA発現のための誘導可能な又は調節可能なプロモーターを含むこともできる。本発明のsiRNAをin vivoで細胞に送達するための組換えウイルスベクターの使用は、以下により詳細に考察される。
【0065】
本発明のsiRNAは、2種の個々の相補的RNA分子として又は2種の相補的部位を有する単一RNA分子として、組換えウイルスベクターから発現することができる。
【0066】
発現されるsiRNA分子(複数)のコーディング配列を許容することができるいずれかのウイルスベクターは、例えば、アデノウイルス(AV);アデノ-関連ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えばレンチウイルス(LV)、狂犬病ウイルス、マウス白血病ウイルス); ヘルペスウイルス等から誘導されるベクターである。ウイルスベクターの親和性は、エンベロープタンパク質又は他のウイルス由来の他の表面抗原を有するベクターをシュードタイプ化することによっても修飾することができる。例えば、本発明のAAVベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病、エボラ、モコラ等由来の表面タンパク質でシュードタイプ化することができる。
【0067】
本発明の使用に好適な組換えウイルスベクターの選択、siRNAを発現するための核酸配列を当該ベクター内に挿入する方法、及びウイルスベクターを問題の細胞に送達する方法は、当該技術の範囲内である。例えば、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、Dornburg R (1995), Gene Therap. 2: 301-310; Eglitis MA (1988), Biotechniques 6: 608-614; Miller AD (1990), Hum Gene Therap. 1: 5-14; Anderson WF (1998), Nature 392: 25-30; 及びRubinson DAら, Nat. Genet. 33: 401-406を参照されたい。
【0068】
好ましいウイルスベクターは、AV及びAAV由来のベクターである。特に好ましい実施態様では、本発明のsiRNAは、例えばU6もしくはH1 RNAプロモーター又はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターのいずれかを含む組み換えAAVベクターから、2種の個々の相補性単一-鎖RNA分子として発現される。本発明のsiRNAを発現するための好適なAVベクター、組換えAVベクターを構築する方法、及びベクターを標的細胞へ送達する方法は、Xia Hら (2002), Nat. Biotech. 20: 1006-1010に記載されている。本発明のsiRNAを発現するための好適なAVベクター、組換えAVベクターを構築する方法、及びベクターを標的細胞へ送達する方法は、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、Samulski Rら (1987), J. Virol. 61: 3096-3101; Fisher KJら (1996), J Virol., 70: 520-532; Samulski Rら (1989), J. Virol. 63: 3822-3826; 米国特許第5,252,479号明細書; 同5,139,941号明細書; 国際特許出願第 WO94/13788号パンフレット; 及び国際特許出願第 WO93/24641号明細書に記載されている。
【0069】
pRb2/p130発現は、化合物、例えば抗-pRb2/p130抗体及び抗-pRb2/p130アプタマーによってタンパク質レベルで阻害することもできる。抗-pRb2/p130抗体は、配列番号2又はその免疫原生断片から標準的方法によって得られる。抗体は、所与の対象から単離されたpRb2/p130タンパク質からも得られ(又は所与の対象から単離されたpRb2/p130cDNAから発現することもでき)、対象の乳癌の「独自の治療」を可能にする。抗-pRb2/p130抗体は、配列番号2のエピトープ又は他のpRb2/p130タンパク質に結合することができるモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体又は抗体断片でもよい。かかる抗体は、キメラ、単一鎖及びヒト化抗体、並びにFab断片及びFab発現ライブラリーの発現産物を含む。
【0070】
ポリクローナル抗-pRb2/p130抗体は、当該分野で周知の技術を用いて、実質的に純粋なpRb2/p130タンパク質又はその免疫原生断片で動物を免疫することによって産生することができる。抗体断片、例えばFab抗体断片は、当該断片が由来する抗体の抗原に選択的に結合する能力を保持し、当該分野の周知の方法を用いて作られる。かかる方法は、一般的には、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、米国特許第5,876,997号明細書に記載されている。
【0071】
モノクローナル抗-pRb2/p130抗体は、本明細書に参考文献として開示が組み込まれている、Mishell, B. B.ら, Selected Methods In Cellular Immunology, (Freeman WH著) San Francisco, 1980に記載の方法を用いて調製することができる。すなわち、ペプチドは、Balb/Cマウスの脾臓細胞を免疫するために用いられる。当該免疫脾臓細胞は、ミエローマ細胞に融合される。脾臓及びミエローマ細胞を含む融合細胞は、HAT培地での培養により単離される。HAT培地は、両親細胞を死滅させるが、融合産物を生存かつ増殖させることができる。
【0072】
本発明の別の実施態様では、ER-α遺伝子の転写は、ER-α遺伝子プロモーターのメチル化パターンを変更することによって活性化することができる。例えば、DNA脱メチル化剤は、ER-α遺伝子プロモーターを脱メチル化するために使用することができる。上で考察したように、ER-α遺伝子プロモーターのメチル化パターンは、転写的に抑制されないER-α遺伝子を生じる。このようにしてER-α遺伝子プロモーターを脱メチル化することによって、元々ER-α陰性である(及び、そのため、より転移性が高く、かつ抗癌剤例えばタモキシフェンでは効果がない)乳癌細胞は、ER-陽性である乳癌細胞へ変換される。上で考察したように、ER-陽性である乳癌細胞は、転移可能性がより低く、かつ抗癌剤(例えば、タモキシフェンによる治療)に対してより反応性が高い。
【0073】
好適なDNA脱メチル化は、5-アザシチジン(5-アザ)及び5-アザ-2'-デオキシシチジン(5-アザ-2dc)を含む。好ましい実施態様では、DNA-脱メチル化剤は、5-アザ-2dcである。DNAを脱メチル化し、ER-α遺伝子プロモーターのメチル化パターンを決定するための方法は、当該技術の範囲内にあり、代表的方法は以下の「実施例」に記載されている。本発明はまた、ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物を対象に投与すること、好ましくは腫瘍への局所投与によって、当該対象におけるエストロゲン受容体-陰性乳癌の治療方法を提供する。ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物は上に記載されており;例えば、かかる化合物は、エストロゲン受容体-陰性癌細胞中のpRb2/p130の発現を阻害し、又はER-α遺伝子プロモーターを脱メチル化することができる。かかる化合物を投与することによるER-α遺伝子の転写活性は、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞をエストロゲン受容体-陽性乳癌細胞に転換する。当該対象は、次いで、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞を標的とする乳癌治療を受けることができる。例えば、上記のような抗-エストロゲン治療薬は、標準的治療投与計画を用いて対象に投与することができる。
【0074】
従って、本発明の1実施態様では、pRb2/p130の発現を阻害又はER-αプロモーターを脱メチル化する少なくとも1つの化合物の有効量は、エストロゲン受容体-陰性乳癌に罹患した対象に投与される。かかる化合物は上に詳細に記載されている。
【0075】
本方法の実施では、ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物、例えば上記化合物、の有効量は、エストロゲン受容体-陰性乳癌に罹患した対象に投与される。本明細書で用いる「ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物の有効量」は、ER-α遺伝子の転写抑制を除き、ER-α遺伝子発現を細胞に戻すために十分な量である。細胞内のER-α遺伝子発現は、ER-α遺伝子発現のレベルを決定し又はER-α遺伝子プロモーターのメチル化パターンを決定するための、当該技術の範囲内の方法によって評価することができる。
【0076】
例えば、ER-α遺伝子発現のレベルを決定するために使用するための細胞又は組織試料は、標準的方法、例えばパンチ又は針生検、外科生検等によって得ることができる。例えば、乳癌が疑われる対象由来の組織又は細胞試験試料は、外科生検によって得られる。対照として、非罹患乳癌組織由来又は標準的対象由来の組織又は細胞試料も得られる。ER-αRNA又はタンパク質は、その後、ER-α発現レベルの決定のために、標準的方法を用いて試験試料及び対照試料から単離することができる。あるいは、試験試料のER-α発現レベルは、標準的対照対象群について先に得られたER-α遺伝子発現平均レベルと比較することができる。
【0077】
細胞中の特定の遺伝子のRNA転写物のレベルを決定する好適な方法は、当該技術の範囲内である。かかる1方法によれば、全細胞RNAは、核酸抽出緩衝液の存在下での均質化に次ぐ遠心分離によって細胞から精製することができる。次いで、核酸は沈殿し、DNAはDNaseによる処理によって除去される。DNA分子は、その後、例えばいわゆる「ノーザン」ブロッティング法によって、標準的方法に従うアガロースゲル・ゲル電気泳動によって分離され、ニトロセルロース又は他の好適なフィルターに転写される。RNAは加熱によってフィルター上に固定される。特定のRNAの検出及び定量は、問題のRNAに相補的な好適に標識化されたDNA又はRNAプローブを用いて達成される。本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら著, 第2版, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989, 第7章を参照されたい。
【0078】
ER-αRNAに対するプローブハイブリダーゼーションのオートラジオグラフ検出は、ハイビリダイズフィルターを写真フィルムに曝露することによって実行することができる。ハイブリダイズフィルターによって曝露された写真フィルムのデンシトメトリー走査は、RNA転写レベルの正確な測定をもたらす。あるいは、RNA転写レベルは、ハイブリダイズフィルター、例えばAmersham Biosciences, Piscataway, NJ製のMolecular Dynamics 400-B 2D Phosphorimagerのコンピューター化画像によって定量することができる。
【0079】
ブロッティングハイブリダイゼーション法に加えて、所与の遺伝子由来のRNA転写物の検出は、in situハイブリダーゼーションによって実行することができる。この方法は、ノーザンブロッティング法よりも細胞数が少なくてすみ、細胞全体を顕微鏡カバースリップ上に置き、次いで細部の核酸量を放射活性又は他の標識cDNA又はcRNAプローブを含む溶液で精査することを含む。この方法は、乳癌組織生検試料の分析に特に適している。In situハイブリダイゼーション法の実施は、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、米国特許第5,427,916号明細書に詳細に記載されている。
【0080】
試験又は対照試料中のER-α転写物数は、ER-α転写物の逆転写後、ポリメラーゼ連鎖反応によって決定することができる(RT-PCR)。ER-α転写物のレベルは、内部標準と比べて、例えば、同一試料に存在する「ハウスキーピング」遺伝子から得られたmRNAレベルと比較することによって、定量することができる。内部標準として使用するための好適な「ハウスキーピング」遺伝子は、ミオシン、アクチン又はグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)を含む。定量的RT-PCR法及びその改変は、当該技術の範囲内にある。
【0081】
ER-α遺伝子発現は、対照試料に対する試験試料中のER-αタンパク質のレベルを測定することによって決定することもできる。例えば、試験及び対照組織試料は、上記のように外科生検によって取得することができ、ER-αタンパク質は、標準的免疫検出(例えば免疫蛍光)法によって当該細胞表面上に検出することができる。
【0082】
pRb2/p130タンパク質レベルを測定するための他の方法は、当該分野では公知であり、電気泳動分離及び同定、ペプチド消化、配列解析、及び免疫アッセイ、例えば放射免疫アッセイ、ELISA(酵素免疫測定法)、「サンドウィッチ」免疫アッセイ、ゲル内沈降、in situ免疫アッセイ、補体結合アッセイ、及び免疫電気泳動アッセイを含む。当業者であれば、ファクター、例えば、サイズ及び体重;乳癌成長又は疾患の侵出の程度;対象の年齢、健康及び性別;投与経路;及び投与が局所的(regional)(例えば局所的)又は全身性か、を考慮することによって、所与の対象に投与される、ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物の有効量を容易に決定することができる。
【0083】
一般的に、ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物の有効量は、約5〜3000 μg化合物/kg体重、好ましくは約700〜1000 μg化合物/kg体重、及びより好ましくは約1000 μg化合物/kg体重より多い。ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物がpRb2/p130の発現を阻害し、かつ核酸を含む化合物である場合には、かかる化合物の有効量は、約1ナノモーラー(nM)〜約100 nM、好ましくは約2 nM〜約50 nM、より好ましくは約2.5 nM〜約10 nMの腫瘍部位又はその近傍での細胞間濃度を含む。より多い量又はより少ない量の本発明の化合物を対象に投与することができることも考慮される。
【0084】
ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物は、乳癌細胞を当該化合物に曝露するために好適な任意の手段により、対象に投与することができる。例えば、当該化合物は、遺伝子銃、エレクトロポレーション又は他の好適な非経口もしくは経腸投与経路によって投与することができる。好適な経腸投与経路は、経口、直腸又は鼻腔内送達を含む。好適な非経口投与経路は、血管内投与(例えば、静脈内ボーラス、静脈内輸液注入、動脈内ボーラス、動脈内輸液注入及び血管へのカテーテル注入); 腫瘍周囲及び腫瘍内注射; 皮下注射又は皮下注射を含む滞留(例えば浸透圧ポンプによる); 対象の組織への直接適用、例えばカテーテル又は他の設置具(例えば多孔性、無孔性もしくはゼラチン性材料を含む座剤又はインプラント); 及び吸入を含む。好ましくは、pRb2/p130発現を阻害する化合物は、注射又は輸液によって、より好ましくは腫瘍への直接注射によって投与される。
【0085】
当業者はまた、ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物を対象に投与するための好適な投与計画を容易に決定することができる。例えば、当該化合物は、1回、例えば単回注射又は単回滞留として対象に投与することができる。あるいは、当該化合物は、約3〜約28日間、より好ましくは約7〜約10日間の期間、日に1回又は2回、対象に投与することができる。好ましい投薬計画では、当該化合物は、7日間、日に1回、投与される。投与計画が複数投与を含む場合には、対象に投与される化合物の有効量は、全投薬計画の間に投与される化合物の総量を含むことができる、ことが理解できよう。
【0086】
ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物(特に、核酸、例え、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチド又はsiRNAを含む化合物)は、化合物そのものとして対象に投与することもでき、又は送達剤と組み合わせて投与することもできる。好適な送達剤は、Mirus Transit TKO 脂肪親和性剤; リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン; 又はポリカチオン類(例えばポリリシン)及びリポソームを含む。
【0087】
ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物のための好ましい送達剤は、リポソームである。例えば、リポソームは、核酸又はヌクレオチドの特定組織、例えば腫瘍組織への送達を助け、及び核酸又はヌクレオチドの血中半減期を増加させることもできる。本発明の使用に好適なリポソームは、標準的小胞形成脂質からつくられる。当該小胞形成脂質は、一般的に天然の又は負荷電リン脂質及びステロール、例えばコレステロールを含む。脂質の選択は、一般的に、ファクター、例えば所望のリポソームサイズ及び血中でのリポソームの半減期を考慮してなされる。リポソームを調製するための多数の方法が知られている。例えば、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、Szokaら, 1980, Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9: 467; 及び米国特許第4,235,871号明細書、同第4,501,728号明細書、同第4,837,028号明細書及び同第5,019,369号明細書に記載されている。
【0088】
ER-α遺伝子の転写を活性化する化合物を包含するリポソームは、好ましくは、当該リポソームを乳癌細胞に標的化することができるリガンド分子を含む。特に好ましくは、これらの化合物を包含するリポソームは、単核マクロファージ及び細網内皮系により、例えば、構造表面に結合されたオプソニン化−阻害部分を有することにより、食作用を回避するように修飾される。1実施態様では、本発明のリポソームは、オプソニン化−阻害部分及びリガンドを含むことができる。
【0089】
本発明のリポソームの調製において使用するためのオプソニン化−阻害部分は、典型的には、リポソーム膜に結合される大きな親水性ポリマーである。本明細書で使用されるオプソニン化阻害部分は、化学的又は物理的に、例えば脂質溶解性アンカーのリポソーム膜自身への挿入によって、又は膜脂質の活性基への直接的結合によって当該膜に付着される場合に、当該膜に「結合」される。これらのオプソニン化−阻害親水性ポリマーは、マクロファージ−単球系(「MMS」)及び細網内皮系(「RES」)により、リポソーム取り込みを顕著に減少させる保護表面層を形成する;これは、例えば、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている、米国特許第4,920,016号明細書に記載されている。従って、オプソニン化−阻害部分で修飾されたリポソームは、非修飾リポソームよりも長く循環内に残る。この理由により、かかるリポソームは、「ステルス」リポソームと称されることがある。
【0090】
ステルスリポソームは、多孔性又は「漏出」微小血管系によって送られる組織内で刺激することが知られている。従って、かかる微小血管系異常によって特徴付けられる組織、例えば充実性腫瘍は、これらのリポソームを効果的に刺激するだろう;Gabizonら (1988), P. N. A. S., USA, 18: 6949-53を参照されたい。加えて、RESによる取り込みの減少は、肝臓及び脾臓での顕著な蓄積を抑制することによって、ステルスリポソームの毒性を低減する。従って、オプソニン化−阻害部分で修飾される本発明のリポソームは、特にpRb2/p130発現を阻害する化合物であって核酸を含む化合物を、乳癌細胞に送達するのに適する。
【0091】
リポソームを修飾するために好適なオプソニン化阻害部分は、好ましくは、約500〜約40,000ダルトン、及びより好ましくは約2,000〜約20,000ダルトンの平均分子量数を有する水溶性ポリマーである。かかるポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール(PPG)誘導体; 例えばメトキシPEG又はPPG、及びPEG又はPPGステアリン酸エステル; 合成ポリマー、例えばポリアクリルアミド又はポリN-ビニルピロリドン; 直鎖、分岐鎖又は樹状ポリアミドアミン類; ポリアクリル酸類; ポリアルコール類、例えばカルボキシル基又はアミノ基が化学的に結合されたポリビニルアルコール及びポリキシリトール、並びにガングリオシド、例えばガングリオシドGMsを含む。PEGのコポリマー、メトキシPEGもしくはメトキシPPG又はそれらの誘導体も好適である。加えて、オプソニン化阻害ポリマーは、PEG、及びポリアミノ酸、ポリサッカライド、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン又はポリヌクレオチドのいずれかのブロックコポリマーでよい。オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸又はカルボン酸、天然ポリサッカライド、例えばガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲーナン;アミノ化ポリサッカライド又はオリゴサッカライド(直鎖又は分岐鎖);又は、カルボキシル化ポリサッカライド又はオリゴサッカライド、例えば得られたカルボキシル基結合を有する炭酸誘導体との反応、でもよい。
【0092】
好ましくは、オプソニン化-阻害部分は、PEG、PPG又はそれらの誘導体である。PEG又はPEG誘導体で修飾されたリポソームは、「PEG化リポソーム」と呼ばれることがある。
【0093】
オプソニン化阻害部分は、多数の周知の方法のいずれかにより、リポソーム膜に結合することができる。例えば、PEGのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル-エタノールアミン脂質溶解性アンカーに結合し、次いで膜に結合することができる。同様に、デキストランポリマーは、Na(CN)BH3、及びテトラヒドロフラン及び水の30:12の混合溶媒を60℃で用いる還元的アミノ化により、ステアリルアミン脂質-溶解性アンカーで誘導体化することができる。
【0094】
本方法がER-陽性乳癌細胞内のER-α遺伝子の発現を維持するために使用することができる、ことが理解できよう。従って、ER-陽性乳癌細胞は、上記のように、pRb2/p130発現阻害又はER-α遺伝子プロモーターの脱メチル化に供することができる。ER-α遺伝子は依然として転写的に活性であるため、このような方法で処置されたER-陽性乳癌細胞は、ER-陰性乳癌細胞に自然には転換しない。従って、本発明は、ER-陽性乳癌細胞が、低転移性を維持し、抗癌剤例えばタモキシフェンに対して感受性を残しているように、ER-陽性乳癌細胞内のER-α遺伝子発現を維持する方法を提供する。
【0095】
ER-α遺伝子の転写を活性化する本発明の化合物は、当該分野で公知の方法に従って、対象に投与する前に医薬組成物又は医薬として調合することができる。従って、エストロゲン受容体-陰性乳癌の治療用医薬組成物又は医薬の製造のための、エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞内のER-α遺伝子の転写を活性化する化合物の使用は、特に本発明によって考慮される。
【0096】
本発明の医薬組成物又は医薬は、少なくとも殺菌されかつピロゲンがないことが特徴である。本明細書で用いる「医薬製剤」又は「医薬」は、ヒト及び獣医使用のための製剤を含む。本発明の医薬組成物及び医薬の調製方法は、例えば、開示が全て本明細書に参考文献として組み込まれている、Remington's Pharmaceutical Science, 第17版, Mack Publishing Company, Easton, Pa. (1985)に記載されているように、当該分野の技術内にある。
【0097】
本発明の医薬製剤又は医薬は、ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物(例えば0.1〜90重量%)、又は生理的に許容される担体と混合されたその生理的に許容される塩を含む。好ましい生理的に許容される担体は、水、緩衝液、標準的生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0098】
本発明の医薬組成物又は医薬は、一般的な医薬賦形剤及び/又は添加剤を含んでもよい。好適な医薬賦形剤は、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調節剤、緩衝剤及びpH調整剤を含む。好適な添加剤は、生理的に生体適合性の緩衝剤(例えばトロメタミン塩酸塩)、キレート剤(chelants)の添加(例えばDTPA又はDTPA-ビスアミド)、又はカルシウムキレート複合体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA-ビスアミド)、あるいは場合により、カルシウム又はナトリウム塩の添加(例えば塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム又は乳酸カルシウム)を含む。本発明の医薬組成物は、液剤での使用のために包装することができ又は凍結乾燥することができる。
【0099】
固体組成物用としては、一般的な非毒性固体担体を用いることができる;例えば、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウム等。例えば、経口投与用の固体医薬組成物は、上記の担体及び賦形剤のうちのいずれか及びER-α遺伝子の転写を活性化する1以上の本発明の化合物の10〜95%、好ましくは25%〜75%を含むことができる。アエロゾル(吸入)投与用の医薬組成物及び医薬は、ER-α遺伝子の転写を活性化する本発明の化合物の0.01〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%を含むことができる。当該化合物は、上記のようにリポソーム又は発射薬中に包含される。所望により、担体を含めることもできる;例えば鼻腔内送達のためのレシチン。
【0100】
本発明を次の非限定的実施例によって説明する。
【実施例】
【0101】
以下の材料及び方法を以下の「実施例」に使用した。
【0102】
細胞株及び原発腫瘍
乳癌細胞株MCF-7(エストロゲン受容体-陽性)、MDA-MB-231(エストロゲン受容体-陰性)及び標準哺乳動物上皮細胞株MCF-12AをATCC(Roclcville, MD)から入手し、製造者のプロトコールに従って培養した。乳房原発腫瘍をエストロゲン受容体状態を基準に選択した。
【0103】
メチル化特異的PCR(MSP)
メチル化シトシンではなく非メチル化シトシンをウラシルへ転換するために、細胞株及び原発腫瘍由来のゲノムDNAを亜硫酸水素ナトリウムによる修飾に供した(GpGenome DNA修飾キット, Intergene Company)。CpG島を含むER-α及びER-βプロモーター内の領域をPCRによって増幅するために、亜硫酸水素塩反応によって修飾したDNAを使用した。ER-αプライマーの10対(Lapidusら, 1998)及びER-βプライマーの4対
(領域a:
ベータMl フォワード
5'-AAATTTGTTAGTTGGATTAGATCGA-3' (配列番号3);
ベータM2 リバース
5'-TTCAAAAAAACCTTTAATTAAAACG-3' (配列番号4);
ベータUl フォワード
5'-AAATTTGTTAGTTGGATTAGATTGA-3' (配列番号5) ;
ベータU2 リバース
5'-CAAAAAAACCTTTAATTAAAACACA-3' (配列番号6);
領域b:
ベータM3 リバース
5'-AAACGACGAACGCTAAACCGAAAAAAAA-3' (配列番号7);
ベータU3 リバース
5'-AACAAACAACAAACACTAAACCAAAAAAAAA-3' (配列番号8))
を修飾(M)及び非修飾(U) DNAを識別するために設計した。対照として、DNAを増幅するために以下の野生型プライマーを用い、亜硫酸水素ナトリウム修飾には供しなかった:
WTアルファ1 フォワード 5'-AGGAGCTGGCGGAGGGCGTTCG-3' (配列番号9);
WTアルファ2 リバース 5'-AGCGCATGTCCCGCCGACACGC-3' (配列番号10);
WTベータ1 フォワード 5'-CGAGCGCTGGGCCGGGGAGGG-3' (配列番号11);
WTベータ2 リバース 5'-CTCCCGGCGCGCGCCCCGCC-3' (配列番号12)。
【0104】
ER-α及びER-βプロモーター占有をin vivoで決定するための架橋クロマチン免疫沈降(XChIP)
クロマチン免疫沈降は、ウェスタンブロット及びPCR法と組み合わせて、先に公表された方法の改変手段を用いて実行した(例えば、Orlandoら, 1997, Methods及び11, 205; Kellerら, 2002, J; Biol. Chem., 277, 31430を参照されたい、これらは、本明細書に参考文献として開示が全て組み込まれている。)。培地に直接ホルムアルデヒド(1%最終濃度)を加え、次いで37℃で8分間、約1 x 106 MCF-7及びMDA-MB-231細胞をインキュベートすることによって、当該細胞を架橋した。
【0105】
培地を除いた後、細胞を、プロテアーゼインヒビター(1 mM フェニルメチル-スルホニルフロリド, 1 μg/ml アプロチニン及び1μg/ml ペプスタチンA)を含む冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)でプレート上から3回洗浄し、捨て、冷PBSで再度2回洗浄した。細胞ペレットをSDS溶解緩衝液(1 % SDS, 10 mM EDTA, 50 mM Tris-HCl, pH 8.1)で再懸濁し、氷上で10分間インキュベートし、超音波をかけてDNAを300〜500 bpの長さにせん断し、次いで4℃、13,000 rpmで10分間、遠心した。超音波処理細胞上清を、ChIP希釈緩衝液(0.01 % SDS, 1.1 % Triton X-100, 1.2 mM EDTA, 16.7 mM Tris-HCl, pH 8.1, 167 mM NaCl)で希釈し、4℃で2時間、サケ精子DNA/protein Aアガロースで2回、安全性を確認した。アガロースをペレット化し、上清画分を集め、免疫沈降抗体で4℃にて終夜、インキュベートした。
【0106】
各免疫沈降は、pRb2/p130、E2F4、E2F5、HDAC1、SUV39H1、p300、DNMT1、アセチル化ヒストンH3及びH4(Santa Cruz Biotechnology, CA及びUpstate Biotechnology, MA)に対する抗体の3〜4 μgを用いて実行した。陰性対照として、「抗体なし」免疫沈降は、サケ精子DNA/protein Aアガロースで上清画分をインキュベートし、無関連抗体で混合物を免疫沈降することによって実行した。免疫複合体-DNAをサケ精子DNA/protein Aアガロースの50μlで回収し、低塩濃度洗浄用緩衝液(1 % Triton X-100, 0.1 % SDS, 2 mM EDTA, 20 mM Tris-HCl, pH 8.1, 150 mM NaCl)、高塩濃度洗浄用緩衝液(1% Triton X-100, 0.1% SDS, 2 mM EDTA, 20 mM Tris-HCl, pH 8.1, 500 mM NaCl)、リチウム洗浄用緩衝液 (0.25 M LiCl, 1% NP40, 1 % デオキシコール酸塩, l mM EDTA, lO mM Tris-HCl, pH 8.1)で2回、1X TE緩衝液 (10 mM Tris- HCl ,1 mM EDTA, pH 8.0)で4回、洗浄した。
【0107】
洗浄済みの免疫複合体-DNA/protein Aをウェスタンブロッティング用及びDNA抽出用に分割した。ウェスタンブロッティング分析では、試料をビーズから溶出し、SDS-ポリアクリルアミドゲルに充填し、ブロッティング膜に転写した。イムノブロッティングは、pRb2/p130、E2F4、E2F5、HDAC1、SUV39H1、DNMT1及びp300に対する抗体(Santa Cruz Biotechnology, CA及びUpstate Biotechnology, MA)を用いて実行した。
【0108】
DNA抽出のため、洗浄済の免疫複合体-DNA/protein Aに溶出用緩衝液(1% SDS, 0.1 M NaHCO3)を添加した。65℃で終夜、試料をインキュベートすることによって架橋を反転させ、DNAをフェノール:クロロホルム及びエタノール沈降で抽出した。DNAペレットをTris-EDTA緩衝液(TE)に再懸濁し、特異的プライマーを用いてPCTを実行し、ER-αプロモーター(フォワード 5'AGGAGCTGGCGGAGGG CGTTCG-3' (配列番号13);リバース 5'-AGCGCATGTCCCGCCGACACGC-3') (配列番号14)及びER-βプロモーター(フォワード 5'-CGAGCGCTGGGCCGGGGAGGG-3'(配列番号15); リバース 5'-CTCCCGGCGCGCGCCCCGCC-3' (配列番号16))を増幅した。総クロマチン(インプット)をPCR反応では、陽性対照として使用した。
【0109】
実施例1 遺伝子の発現に影響を与えたER-α及びER-βプロモーターのメチル化部位の密度
循環性MDA-MB-231 (エストロゲン-陰性)、MCF-7 (エストロゲン-陽性)及びMCF-12A (標準的上皮乳房)細胞株におけるER-αプロモーターのエストロゲン受容体のDNAメチル化レベルを試験した。ER-αプロモーターの5部位をメチル化特異的-PCR (MSP)により解析し、MDA-MB-231及びMCF-7乳癌細胞株内でメチル化された種々の濃度のCpGジヌクレオチドを見出した。MDA-MB-231細胞では、ER-αプロモーター上の部位A、B、C、Eがメチル化されることが分かり、部位Dはメチル化されなかった(図1a)。反対に、MCF-7細胞株では、D部位のみがメチル化された(図1b)。MCF-12A細胞では、ER-αプロモーターの解析した全ての部位がメチル化されなかった。更に、原発性乳癌におけるER-αプロモーターの部位Dは、5種の試料でメチル化された(図1c)。興味深いことに、免疫組織化学による診断時に、これらの原発性癌をER-α陽性と分類した。最後に、2つのER-βプロモーター部位のメチル化部位はいずれも、MCF-7及びMDA-MB-231細胞中でメチル化された(図1d)。
【0110】
これらのデータは、ER-αプロモーター内でメチル化された高濃度のCpG部位が、ER-陰性MDA-MB-231細胞内のER-α遺伝子の転写的脱活性化に起因するものである、ことを示す。その上、MDA-MB-231及びMCF-7細胞株におけるER-βメチル化の存在は、当該細胞株内のER-β発現の欠如を説明することができた。
【0111】
実施例2 pRb2/p130によるin vivoでのERプロモーター占有
pRb2/p130によるin vivoでのER-α及びER-βプロモーター占有を研究するために、ウェスタンブロッティング及びPCRと組み合わせて、ホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降アッセイ(XChIP)の改変方法を使用した。pRb2/p130-E2F4/5-HDACl-SUV39H1-p300及びpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-DNMT1によって形成された複合体は、それぞれ、循環性MCF-7及びMDA-MB-231乳癌細胞株において、ER-αプロモーターに結合し、ER-βプロモーターには結合しないことが分かった(図2a、b、c及びdを参照されたい)。興味深いことに、上記の複合体が結合したER-αプロモーター部位は、pRb2/p130複数分子複合体の結合可能性部位である転写開始付近に、2種のE2F部位を含んだ。更に、TATA及びCAATボックスは、E2F部位から下流に存在した。これらのデータ及び観察は、pRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300及びpRb2/p130-E2F4/5-HDACl-SUV39H1-DNMT1複合体の存在が、おそらく、クロマチンパッケージング及び基本的転写機械へのER-α遺伝子の利用性を調節することによって、ER-α遺伝子転写を調節することができた、ことを示す。pRb2/p130は、当該遺伝子の一時的沈黙のためのER-αプロモーター上に特異的ヒストンメチルトランスフェラーゼ(SUV39H1)及びデアセチラーゼ(HDAC1)を先ず運ぶことにより、転写抑制を仲介することができた、らしい。第二の抑制ステップでは、pRb2/p130は、DNMT1を更に供給して、長期間の遺伝子沈黙のためのER-αプロモーターDNAをメチル化することができた。
【0112】
実際に、ER-α陽性MCF-7細胞株では、選別できたのは、メチル化CpG部位1つにすぎず、XChIPによって見出した複合体は、DNMT1が劣化しているように見えた。一方、ER-α陰性MDA-MB-231細胞株は、選別したCpG部位の大部分がメチル化されていることを示し、複合体は、DNMT1を含んだ。任意の理論に拘束されるものではないが、従って、ER-α活性化からER-α沈黙までのシフトは、ヒストン脱アセチル化/アセチル化、ヒストンメチル化及びDNAメチル化の間のバランスに依拠する。これは、おそらく、ヒストンアセチルトランスフェラーゼp300をpRb2/p130-E2F4/5-HPAC1-SUV39H1複合体内のDNMT1と置換することによって調節される。
【0113】
従って、これらの結果は、乳癌細胞株内のER-βではなくER-α転写調節における、pRb2/p130及びクロマチン-修飾酵素の架橋に生理的証拠を提供するものである。
【0114】
実施例3 ER-αプロモーターのヒストンアセチル化レベルはER-α遺伝子転写活性化に相関する
ER-αプロモーター上のpRb2/p130複数分子複合体を同定してきたが、次いで、MDA-MB-231及びMCF-7細胞株内のER-αヒストンH3及びH4アセチル化の相対的レベルを決定した。ヒストンH3及びH4のアセチル化とER-α遺伝子の活性化との相関を見出した。興味深いことに、MCF-7細胞中では、アセチル化ヒストンH4及びH3のレベルが検出されたが、MDA-MB-231細胞株ではヒストンH4アセチル化のみが検出された(図3)。pRb2/p130、HDAC1、p300、SUV39H1及びDNMT1の相互作用は、当該データからは明確でないが、pRb2/p130を有する複合体中の異なった酵素の存在は、これらの複合体が明確な効果を有し、HAT活性を仲介することができた、ことを示唆する。言い換えれば、及び特定の理論に拘束されるものではないが、pRb2/p130、HDAC1及びSUV39H1を有する複合体中のDNMT1の存在は、MDA-MB-231細胞内のp300関与を排除し、遺伝子の転写因子へのアクセスを拒む高次元クロマチン構造をもたらすことによって、ER-α転写抑制状態の維持に機能を果たしているらしい。一方、pRb2/p130複数分子複合体中のDNMT1の非存在は、ER-αプロモーター上に高レベルのヒストンアセチル化を維持し、その結果、CF-7細胞内の遺伝子の転写活性化をもたらすように要求されるp300供給を容易にすることができた。
【0115】
更に、MDA-MB-231細胞内のヒストンH3アセチル化の非存在は、遺伝子沈黙と相関した。事実、ヒストンH3のメチル化及びアセチル化は互いに相容れず、H3アセチル化は転写活性と相関する、ことが報告されている。これは、MDA-MB-231細胞内で、SUV39H1メチル化ヒストンH3、同時に(MCF-7細胞内で)ヒストンメチルトランスフェラーゼ活性が、ヒストンH3をアセチル化することができるp300活性によって抑制された、という本発見と一致する。
【0116】
実施例4 MDA-MB-231細胞内のER-αの発現に対する脱メチル化剤5-アザ-2dCの効果
5 x 105細胞/100-mmの濃度まで、MDA-MB-231細胞をDMEM培地で増殖させ、24、36、48、72及び96時間、2.5 μMのDNAメチルトランスフェラーゼインヒビター 5-アザ-2-デオキシチジン(5-アザ-2dC)で処置した。対照細胞は処置しないままとした。総RNAを処置及び対照細胞から単離し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によってER-αRNAを検出した。RNAローディングを標準化するために、処置及び対照細胞から単離した総RNAで、β-アクチンRNA発現もRT-PCTによって検出した。24、36、48、72及び96時間、非処置又は2.5 μM 5-アザ-2dCで処置したMDA-MB-231細胞から得た全細胞溶解物を用いて、ウェスタンブロッティングにより、ER-αタンパク質を検出した。β-アクチンタンパク質の発現は、タンパク質ローディングを標準化するために評価した。
【0117】
5-アザ-2dCによるMCF-7細胞処置は、細胞内のER-αRNA又はタンパク質の発現にほとんど影響を与えなかった。しかしながら、図5a及び5b各々から明らかなように、当該処置は、MDA-MB-231細胞内のER-α及びタンパク質の発現を顕著に亢進した。特に長い時点(例えば48〜96時間)では明らかであった。
【0118】
実施例5 MDA-MB-231及びMCF-7細胞で処置した5-アザ-2dC内のpRb2/p130-複数分子複合体によるER-αプロモーター占有
ER-αプロモーターへのpRb2/p130-複数分子複合体の供給をXChIPによってMCF-7及びMDA-MB-231細胞で分析した。細胞を72時間、5-アザ-2dCで処置し、ホルムアルデヒドで架橋した。pRb2/p130、E2F4、HDAC1、SUV39H1、DNMT1及びp300を認識する特異的抗体で、溶解性クロマチンを免疫沈降した。免疫沈降物中のER-αプロモーター配列の存在は、上記の特異的プライマースパニング(spanning)ER-αプロモーターを用いて、PCRによって試験した。
【0119】
図6から明らかなように、5-アザ-2dC処置MDA-MB-231細胞内のER-αRNAの最高発現の時点では(72時間MDA)、特異的pRb2/p130-複数分子複合体をER-αプロモーターに供給した。当該複合体は、pRb2/p130、E2F4、SUV39H1、p300及びHDAC1を含んだが、DNMT1を含まなかった。従って、この複合体は、非処置MCF-7細胞内のER-αプロモーターと関連すると先に説明した複合体と同一である。反対に、MCF-7細胞の5-アザ-2dC処置は、当該細胞株内のER-αプロモーターに供給したpRb2/p130-複数分子複合体の組成物に影響を与えなかった。当該複合体は、非処置MCF-7細胞内のER-αプロモーターに結合すると先に説明した複合体と同一であるからである。ER-αプロモーターに対するクロマチン-修飾酵素の結合への5-アザ-2dc作用効果のモデル案を図7に示す。
【0120】
全ての文献は、本明細書に参考文献として組み込まれている。本発明を好ましい実施態様及び種々の図と関連して記載してきたが、本発明を逸脱することなく本発明の同一の機能を達成するために、他の類似の実施態様を使用し又は修飾することができ、かつ記載の実施態様に付加することができる、ことを理解されたい。従って、本発明は、任意の単一の実施態様に限定されるべきではなく、むしろ、添付クレームの記載に従う幅及び範囲内で構成されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1a】図1aは、ER-αプロモーターのメチル化解析を示す:MDA-MB-231乳癌細胞株(U)。
【図1b】図1bは、ER-αプロモーターのメチル化解析を示す:MCF-7乳癌細胞株。
【図1c】図1bは、ER-αプロモーターのメチル化解析を示す:5種の原発性乳癌。
【図1d】図1dは、ER-βプロモーターのメチル化解析を示す:MDA-MB-231及びMCF-7細胞株。C1及びC2は、各々、陰性対照及び陽性対照である。
【図2a】図2aは、ホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降物(XChIP)が、循環MCF-7及びMDA-MB-231乳癌細胞株におけるpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-DNMT1-p300によるER-αプロモーター占有をin vivoで解析したことを示す図である:E2F4、E2F5、HDAC1、SUV39H1、p300及びDNMT1に対する抗体を用いる、架橋(免疫沈降抗体としてpRb2/p130を使用した)後の免疫沈降クロマチンのウェスタンブロット。
【図2b】図2bは、ホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降物(XChIP)が、循環MCF-7及びMDA-MB-231乳癌細胞株におけるpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-DNMT1-p300によるER-αプロモーター占有をin vivoで解析したことを示す図である:免疫沈降物から抽出されたDNA及びER-α及びER-βプロモーター断片をスパニングする特異的プライマーを用いるPCRにより増幅されたDNA。インプットは、免疫沈降前の架橋クロマチンを示す。
【図2c】図2cは、ホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降物(XChIP)が、循環MCF-7及びMDA-MB-231乳癌細胞株におけるpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-DNMT1-p300によるER-αプロモーター占有をin vivoで解析したことを示す図である:PCR産物の1つの直接塩基配列決定クロマトグラムをbに示す。
【図2d】図2dは、ホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降物(XChIP)が、循環MCF-7及びMDA-MB-231乳癌細胞株におけるpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-DNMT1-p300によるER-αプロモーター占有をin vivoで解析したことを示す図である:XChIPは、免疫沈降抗体としてのE2F4、E2F5、HDAC1、SUV39H1、p300及びDNMT1を用いて解析し、PCRは、図2bに記載のプライマーと同一のER-αをスパニングするプライマーを用いて行った。
【図3】図3は、MDA-MB231及びMCF-7乳癌細胞株内にER-αプロモーターのホルムアルデヒド架橋クロマチン免疫沈降(XChIPs)ヒストンアセチル化レベルを示す。インプットは、免疫沈降前の総クロマチンを示す。
【図4a】図4aは、ER-α転写のpRb2/p130調節のモデル案を示す:pRb2/p130は、MCF-7細胞内のER-αプロモーター上の複数分子複合体に、ヒストンデアセチラーゼ1(HDAC1)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(SUV39H1)及びヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT又はp300)を供給する。
【図4b】図4bは、ER-α転写のpRb2/p130調節のモデル案を示す:DNAメチルトランスフェラーゼ1(DNMT1)の供給及び複数分子複合体からのHATの同時放出。
【図5a】図5aは、MDA-MB-231細胞内のER-α及びタンパク質発現に与える5-アザ-2dCの影響を示す:24、36、48、72及び96時間、非処置又は2.5 μM 5-アザ-2-デオキシシチジン(5-アザ-2dC)処置の濃度5 x 105細胞/100-mmのプレートで、DMEM培地中で培養したMDA-MB-231細胞からの総RNA調製物中で、RT-PCRによって、ER-αRNAを検出した。RNAローディングを標準化するために、βアクチンRNA発現をRT-PCRによって各試料について測定した。
【図5b】図5bは、MDA-MB-231細胞内のER-α及びタンパク質発現に与える5-アザ-2dCの影響を示す:24、36、48、72及び96時間、非処置又は2.5 μM 5-アザ-2dCで処置したMDA-MB-231細胞由来の全溶解物を用いて、ウェスタンブロッティングによって検出したER-αタンパク質。各試料中のβ-アクチンタンパク質の発現は、タンパク質ローディングを標準化するために評価した。
【図6】図6は、MDA-MB-231細胞内のER-αプロモーターに対するpRb2/p130-複数分子複合体の供給のXChIP解析を示す。細胞は、72時間、5-アザ-2dCで処理し、ホルムアルデヒドで架橋した。溶解性クロマチンをRb2/p130、E2F4、HDAC1、SUV39H1、DNMT1及びp300を認識する特異的抗体で免疫沈降した。免疫沈降物中のER-αプロモーター配列の存在は、ER-αプロモーターをスパニングする特異的プライマーを用いてPCRにより試験した。
【図7a】図7aは、MDA-MB-231細胞内のER-αプロモーターに対する5-アザ-2dC作用のモデル案を示す:図7aは、5-アザ-2dC処置前にER-αプロモーターに結合したpRb2/p130複数分子複合体の成分及びアセンブリを示す。
【図7b】図7bは、MDA-MB-231細胞内のER-αプロモーターに対する5-アザ-2dC作用のモデル案を示す:図7bは、5-アザ-2dCによるMDA-MB-231細胞の処置がER-αの再発現を誘導し、それによってER-αプロモーターに結合したpRb2/p130複数分子複合体の再組織化を引き起こす、ことを示す。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)乳癌細胞の試料を取得するステップ;及び
(2)当該細胞中のER-α遺伝子プロモーターのDNAメチル化パターンを決定するステップ
を含む乳癌の診断方法であって、ここで、
(i)当該細胞中のER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化の存在は、当該細胞がエストロゲン受容体-陰性であることを示し;及び
(ii)当該細胞のER-α遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化の不存在又はER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在は、当該細胞がエストロゲン受容体-陽性であることを示す、前記方法。
【請求項2】
前記2番目のステップが、前記ER-α遺伝子プロモーターに結合した複数分子複合体を検出するステップを更に含み、ここで、
(i)前記細胞中のER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化の存在、及び前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターに結合したpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1- UV39H1複合体の存在が、前記細胞がエストロゲン受容体-陰性であることを示し;及び
(ii)前記細胞の前記ER-α遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化の不存在、又は前記細胞中のER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在、及び前記細胞中のER-α遺伝子プロモーターに結合したpRb2/pl30-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300複合体の存在が、前記細胞がエストロゲン受容体-陽性であることを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(1)乳癌に罹患した対象から乳癌細胞の試料を取得するステップ;及び
(2)当該試験細胞中のER-α遺伝子プロモーターのDNAメチル化パターンを決定するステップを含む、乳癌に罹患した対象の予後の決定方法であって、ここで、
(i)当該ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化の存在が、当該対象がエストロゲン受容体-陰性乳癌を有し、かつ当該対象が予後不良であることを示すか;又は
(ii)当該ER-α遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化の不存在、又は当該ER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在が、当該対象がエストロゲン受容体-陽性乳癌を有し、かつ当該対象が予後良好であることを示す、前記方法。
【請求項4】
前記2番目のステップが、前記ER-α遺伝子プロモーターに結合した複数分子複合体を検出するステップを更に含み、ここで、
(i)前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターのA、B、C及びE領域におけるDNAメチル化の存在、及び前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターに結合したpRb2/p130-E2F4/5-HDAC1-DNMT1-SUV39H1複合体の存在が、前記対象がエストロゲン受容体-陰性乳癌を有し、かつ前記対象が予後不良であることを示し;及び
(ii)前記細胞の前記ER-α遺伝子プロモーターにおけるDNAメチル化の不存在、又は前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターのD領域にのみのDNAメチル化の存在、及び前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターに結合したpRb2/pl30-E2F4/5-HDAC1-SUV39H1-p300複合体の存在が、前記対象がエストロゲン受容体-陽性乳癌を有し、かつ前記対象が予後良好であることを示す、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記試験細胞が、外科生検によって得られる、請求項3記載の方法。
【請求項6】
(1)エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞の試料を取得するステップ;及び
(2)前記細胞中の前記ER-α遺伝子の転写を活性化するステップ
を含む、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞の製造方法。
【請求項7】
前記ER-α遺伝子の転写が、前記細胞中のpRb2/p130の発現を阻害することによって活性化される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
pRb2/p130発現が、前記細胞中でRNAレベルで阻害される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
pRb2/p130発現が、pRb2/p130 mRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することによって阻害される。請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、ヌクレアーゼ消化に対して耐性であるように修飾される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
pRb2/p130発現が、pRb2/p130 mRNAを標的とするsiRNA分子を投与することによって阻害される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記siRNA分子が、ヌクレアーゼ消化に対して耐性であるように修飾される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記siRNA分子が、少なくとも1つの3'単一-鎖突出を含む、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記siRNA分子が、プラスミド又はウイルスベクターから発現される、請求項11記載の方法。
【請求項15】
pRb2/p130発現が、タンパク質レベルで阻害される、請求項7記載の方法。
【請求項16】
pRb2/p130発現が、抗-pRb2/p130抗体によって阻害される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
抗-pRb2/p130抗体が、モノクローナル抗体である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ER-α遺伝子の転写が、前記細胞中の前記ER-α遺伝子プロモーターの脱メチル化によって活性化される、請求項6記載の方法。
【請求項19】
前記ER-α遺伝子プロモーターが、5-アザシチジン又は5-アザ-2'-デオキシシチジンによって脱メチルされる、請求項18記載の方法。
【請求項20】
(1)エストロゲン受容体-陰性乳癌細胞を有する対象を提供するステップ;
(2)ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物の有効量を当該対象に投与することによって、当該細胞中の当該ER-α遺伝子の転写を活性化するステップ;及び
(3)癌治療薬を当該対象に投与するステップ
を含む、エストロゲン受容体-陰性乳癌の治療方法。
【請求項21】
前記癌治療薬が、タモキシフェン、トレミフェン又はラロキシフェンである、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、pRb2/p130の発現を阻害する、請求項20記載の方法。
【請求項23】
pRb2/p130発現が、RNAレベルで阻害される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
pRb2/p130発現が、pRb2/p130 mRNAを標的とするアンチセンスヌクレオチドを投与することによって阻害される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが、ヌクレアーゼ消化に対して耐性であるように修飾される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
pRb2/p130発現が、pRb2/p130 mRNAを標的とするsiRNA分子を投与することによって阻害される、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記siRNA分子が、ヌクレアーゼ消化に対して耐性であるように修飾される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記siRNA分子が少なくとも3'単一-鎖突出を含む、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記siRNA分子がプラスミド又はウイルスベクターから発現される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
pRb2/p130発現が、タンパク質レベルで阻害される、請求項22記載の方法。
【請求項31】
pRb2/p130発現が、抗-pRb2/p130抗体によって阻害される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
抗-pRb2/p130抗体が、モノクローナル抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、DNA脱メチル化剤である、請求項20記載の方法。
【請求項34】
前記DNA脱メチル化剤が、5-アザシチジン又は5-アザ-2'-デオキシシチジンである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、経腸投与によって投与される、請求項20記載の方法。
【請求項36】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、経口、直腸又は鼻腔内送達によって投与される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、非経口投与によって投与される、請求項20記載の方法。
【請求項38】
前記非経口投与が、血管内投与;腫瘍周囲注射;腫瘍内注射;皮下注射;皮下沈着;対象組織への直接適用;及び吸入からなる群より選ばれる、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記ER-α遺伝子の転写を活性化する前記少なくとも1つの化合物が、送達剤と組み合わせて投与される。請求項20記載の方法。
【請求項40】
前記送達剤が、リポフェクチン;リポフェクタミン;セルフェクチン;ポリカチオン;及びリポソームからなる群より選ばれる、請求項39記載の方法。
【請求項41】
(1)エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞を提供するステップ;及び
(2)ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物に当該細胞を曝露するステップ
を含む、エストロゲン受容体-陽性乳癌細胞におけるER-α遺伝子発現の維持方法。
【請求項42】
ER-α遺伝子の転写を活性化する少なくとも1つの化合物及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。

【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【公表番号】特表2006−526415(P2006−526415A)
【公表日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515077(P2006−515077)
【出願日】平成16年6月1日(2004.6.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/017308
【国際公開番号】WO2005/027712
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(591135163)テンプル・ユニバーシティ−オブ・ザ・コモンウェルス・システム・オブ・ハイアー・エデュケイション (11)
【氏名又は名称原語表記】TEMPLE UNIVERSITY−OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
【Fターム(参考)】