説明

乳癌を検出するためのバイオマーカーの使用

本発明は、高い特異性及び高い感度を有する乳癌のための腫瘍バイオマーカーを同定する方法に関する。本発明の好ましい方法は、(a)被験動物からのサンプルについて、少なくとも1種の開示されたバイオマーカーを測定すること、及び(b)その測定値と乳癌の状態とを相関させることからなる被験動物の乳癌の状態を認定することを含む。本発明はさらに被験動物の乳癌の状態を認定するためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2002年3月6日出願された米国仮出願第60/362,473号の利益を主張するものであり、その全内容は参照として本明細書に取り込まれる。
【0002】
本発明は、乳癌の診断、予後、及び腫瘍の病期における進行度の同定に重要であるバイオマーカーの検出及び同定において、高い特異性及び高い感度を提供する。乳癌の患者における血漿タンパク質プロファイルは、バイオチップアレイ及びSELDI分析法を用いて、腫瘍非罹患の個人から識別される。この技術は、血漿サンプルを用いて乳癌を診断するための簡単であるが感度の高い方法を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
米国国立癌研究所(NCI)の罹患率、及び国立健康統計センター(NCHS)の死亡データに基づいて、米国癌学会は、2002年の米国において、乳癌が女性で最も多く診断される癌となるだろうと予測した。女性における新たな癌患者のうち、乳癌は31%(203,500)の割合を占めると予想され、39,600人がこの病気で死亡するであろうと報告されている(Jemal A,Thomas A,Murray T,Thun M.Cancer statistics,2002.CA Cancer J Clin.2002;52:23−47)。早期癌を検出するための発症前スクリーニングを、まだ治療の可能性があると認められる期間中に行えば、乳癌に関連する死亡率を著しく減少させることができる。残念なことに、診断の時には、乳癌の約50%しか、場所を突き止めることができない(米国国立癌研究所。Cancer Net PDQ Cancer Information Summaries.“Screening for breast cancer”に関するモノグラフ、http://cancernet.nci.nih.gov/pdq.html(2001年1月更新))。40歳以上の女性における定期的なスクリーニング法として、マンモグラフィーの有効性とそれの利用の推奨にも関わらず、総人口に対する乳癌死亡率を減少させることにおけるその有効性は、今もなお調査中である(K.Antman et al.,JAMA.1999;281:1470−2)。現在、乳癌の検出への利用について研究されている血清腫瘍マーカーは、大集団において早期の癌を検出するのに適用することができるための適切な感度及び特異性をいまだに持ち合わせていない。CA15.3やCA27.29のようなFDA承認腫瘍マーカーは、進行乳癌又は乳癌の再発のモニタリング治療法のためのみに推奨されている(D.W.Chan et al.,J Clin.Oncology.1997;15:2322−2328)。単独で、又は現存の診断法と組み合わせて使用することができる、費用効率の高い乳癌のスクリーニングのための新しいバイオマーカーが、今もなお早急に求められている。

以下の参考文献もまた、本明細書に参照として取り込まれる。
【非特許文献1】Jemal A, Thomas A, Murray T., Thun M., Cancer statistics, 2002. CA Cancer J Clin. 2002; 52:23-47.
【非特許文献2】National Cancer Institute. Cancer Net PDQ Cancer Information Summaries. Monographs on“Screening for breast cancer.”http://cancer net. nci. nih. gov/pdq. html (Updated January 2001年1月更新).
【非特許文献3】Antman K, Shea S. Screening mammography under age 50. JAMA.1999; 281:1470-2.
【非特許文献4】Chan DW, Beveridge RA, Muss H, Fritsche HA, Hortobagyi G, Theriault R, et al. Use of Truquant BR Radioimmunoassay for early detection of breast cancer recurrence in patients with stage II and stage III disease, J Clin. Oncology. 1997; 15:2322-2328.
【非特許文献5】Karas M, Hillenkamp F. Laser desorption ionization of proteins with molecular masses exceeding 10,000 daltons. Anal Chem. 1988; 60: 2299-2301.
【非特許文献6】Hutchens TW, Yip TT. New desorption strategies for the massspectrometricanalysis of micromolecules. Rapid Commun. Mass Spectrom. 1993; 7: 576-80.
【非特許文献7】Merchant M, Weinberger SR. Recent advancements in surface-enhanced laserdesorption/ionization-time of flight-mass spectrometry. Electrophoresis. 2000; 21:1164-67.
【非特許文献8】Wright Jr GL, Cazares LH, Leung S-M, Nasim S, Adam B-L, Yip T-T, et al. ProteinChipTM surface enhanced laser desorption/ionization (SELDI) mass spectrometry: a novel protein biochip technology for detection of prostate cancer biomarkers in complex protein mixtures. Prostate Cancer Prostate Dis. 1999; 2: 264-76.
【非特許文献9】Hlavaty JJ, Partin AW, Kusinitz F, Shue MJ, Stieg M, Bennett K, Briggman JV. Mass spectroscopy as a discovery tool for identifying serum markers for prostate cancer. Clin. Chem. [Abstract]. 2001; 47:1924-26.
【非特許文献10】Paweletz CP, Trock B, Pennanen M, Tsangaris T, Magnant C, Liotta LA, et al. Proteomic patterns of nipple aspirate fluids obtained by SELDI-TOF: potential for new biomarkers to aid in the diagnosis of breast cancer. Dis Markers. 2001; 17:301- 7.
【非特許文献11】Vlahou A, Schellhammer PF, Medrinos S, Patel K, Kondylis FI, Gong L, et al. Development of a novel proteomic approach for the detection of transitional cell carcinoma of the bladder in urine. Am J Pathol. 2001; 158:1491-502.
【非特許文献12】Patricoin EF III, Ardekani AM, Hitt BA, Levine PJ, Fusaro VA, Steinberg SM, et al. Use of proteomic patterns in serum to identify ovarian cancer. The Lancet. 2002; 359:572-577.
【非特許文献13】Zhang Z, Page G, Zhang H. Applying Classification Separability Analysis to Microarray Data, in Proc. of Critical Assessment of Techniques for Microarray Data Analysis (CAMDA'00), Kluwer Academic Publishers, 2001.
【非特許文献14】Vapnik VN, Statistical Learning Theory, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1998.
【非特許文献15】Efron B and Tibshirani R. Bootstrap Methods for Standard Errors, Confidence Intervals, and Other Measures of Statistical Accuracy. Statistical Science. 1986; 1:54- 75.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、異なる臨床病期における腫瘍サンプル中に異なった形で存在する、新しいタンパク質マーカーを初めて提供するものである。患者のサンプルにおけるこれらのマーカーの測定値は、単独であるいは組み合わせて、診断医がヒト癌の異なる臨床病期における予想される診断と相関することができる情報を提供する。これは、浸潤前癌についてのバイオマーカーを同定しようとする際に特に重要であり、したがって、このような診断は生命を救うと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のタンパク質マーカーは、いくつかの点において特徴付けることができる。
特に、一つの態様では、本発明のマーカーは、本明細書で特定されている条件下で、特にマススペクトル分析により決定されるような分子量によって特徴づけられる。
他の態様では、当該マーカーは、マーカーのスペクトルピークの大きさ(面積を含む)及び/又は形のようなマーカーのマススペクトル・シグネチャー(signature)の特性、隣接するピークの近接性、大きさ及び形を含む特性等により特徴付けることができる。
さらに他の態様では、当該マーカーは、親和性結合特性、特に特定の条件下におけるIMAC−Ni吸着剤に対する結合力により特徴付けることができる。
好ましい実施の形態では、本発明のマーカーは、このような態様、すなわち分子量、マススペクトル・シグネチャー、及びIMAC−Ni吸着結合のそれぞれによって特徴付けることができる。
本発明のタンパク質バイオマーカーは、本明細書において、マーカーI〜XIVとして指定された以下のものを含む。質量分析法により測定された分子量もまた、各マーカーについて特定される。
マーカーI(BC1):約4.3kDの分子量を持つ
マーカーII(BC2):約8.1kDの分子量を持つ
マーカーIII(BC3):約8.9kDの分子量を持つ
マーカーIV:約4.5kDの分子量を持つ
マーカーV:約4.0kDの分子量を持つ
マーカーVI:約8.3kDの分子量を持つ
マーカーVII:約17kDの分子量を持つ
マーカーVIII:約18kDの分子量を持つ
マーカーIX:約10.2kDの分子量を持つ
マーカーX:約6.0kDの分子量を持つ
マーカーXI:約8.4kDの分子量を持つ
マーカーXII:約7.5kDの分子量を持つ
マーカーXIII:約9.4kDの分子量を持つ
マーカーXIV:約16.3kDの分子量を持つ
マーカーI〜XIVも、マススペクトル・シグネチャーにより特徴付けられる。マーカーI〜XIVのそれぞれのマススペクトルを、図1A〜1Nにそれぞれ示す。
また、マーカーI〜XIVのそれぞれも、本明細書に明記しているように、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、IMAC−Ni吸着剤との結合力により特徴付けられる。
【0006】
一つの態様では、本発明は、
(a)被験動物からのサンプルについて、少なくとも1種のバイオマーカーを測定すること、
(ただし、このマーカーは、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、マーカーIII(BC3)、マーカーIV、マーカーV、マーカーVI、マーカーVII、マーカーVIII、マーカーIX、マーカーX、マーカーXI、マーカーXII、マーカーXIII、マーカーXIV、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される)、及び
(b)この測定値と乳癌の状態とを相関させること、
からなる被験動物の乳癌の状態を認定する方法を提供する。ある方法では、当該測定工程はサンプル中のマーカーの有無を検出することからなり、他の方法では、当該測定工程はサンプル中のマーカー(又はマーカー群)の量を測定することからなり、他の方法では、当該測定工程はサンプル中のバイオマーカーのタイプを認定することからなる。
ある方法では、当該測定工程はサンプル中のマーカーの有無を検出することからなり、他の方法では、当該測定工程はサンプル中のマーカー(又はマーカー群)の量を測定することからなり、他の方法では、当該測定工程は、サンプル中のバイオマーカーのタイプを認定することからなる。
【0007】
また、本発明は、当該測定工程が、血液又は血液由来物質である被験動物のサンプルをタンパク質バイオマーカーと結合する捕捉試薬からなる基質の表面に沈着させることからなる方法にも関する。被験動物のサンプルは、状況に応じて、そのような沈着工程の前に分画(例えばpH勾配において)してもよく、その回収され、及び選択されたフラクションを当該基質に沈着させてもよい。当該血液由来物質としては、例えば血清や血漿が挙げられる。好ましい実施の形態では、当該基質はIMAC−Ni表面からなるSELDIプローブであり、その中で当該タンパク質バイオマーカーがSELDIにより検出される。他の実施の形態では、当該基質は、上記のように同定されたマーカーI〜XIVなどに結合する生体特異的親和性試薬からなるSELDIプローブであり、その中で当該タンパク質バイオマーカーがSELDIにより検出される。他の実施の形態では、当該基質は、上記のように同定されたマーカーI〜XIVのうち1種以上と結合する生体特異的親和性試薬からなるマイクロタイタープレートであり、その1種以上のタンパク質バイオマーカーが免疫測定法により検出される。
【0008】
ある実施の形態で、当該方法は、さらに当該方法により決定された状態に基づいて、被験動物の治療を管理することからなる。例えば、本発明の方法の結果が結論に達しない、もしくは状態の確認が必要であるという根拠がある場合、医師はさらに検査をするよう命令することができる。また、状態が手術が妥当であることを示す場合は、医師は患者の手術を計画することができる。同様に、検査の結果が陽性である、例えば状態が末期の乳癌である場合、あるいは、さもなければ状態が深刻である場合、更なる措置は何ら是認されないとすることができる。さらに、その結果が、治療が成功したことを示す場合、更なる管理は必要ないとすることができる。
また本発明は、被験動物の管理後、少なくとも1種のバイオマーカーを再び測定する方法も提供する。このような場合、被験動物の治療を管理する工程は、その後得られた結果に応じて繰り返され、及び/又は変更される。
【0009】
「乳癌の状態」という用語は、患者の疾病の状態のことをいう。乳癌の状態の種類は、例えば被験動物の癌のリスク、疾病の有無、患者の疾病の病期、及び疾病の治療の有効性を含むが、これに限定されない。他の状態及びそれぞれの状態の程度は当該技術分野で周知である。
本発明のマーカーは、各種の分画技術、例えば、質量分析法と併用したクロマトグラフ分離法を用いることにより、あるいは従来の免疫測定法により、サンプル中の他のタンパク質から分離することができる。好ましい実施の形態では、当該分離方法は、質量分析プローブの表面が当該マーカーと結合する吸着剤からなる表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析に関連する。
【0010】
他の好ましい実施の形態では、比較タンパク質プロファイルが、乳癌であると診断された患者、及び公知の腫瘍性疾患に罹患していない患者から、プロテインチップ・バイオマーカー・システムを用いて作成される。バイオマーカーの一部は、教師付き分析法より得られた共同研究の結果に基づいて選択された。好ましい分析法は、統合最大分離可能度分析(Unified Maximum Separability Analysis (UMSA))アルゴリズムの線形バージョンを実行するProPeak(3Z Informatics,サウスカロライナ州)、及びバイオマーカー・パターン・ソフトウェアV4.0(BPS)(サイファージェン、カリフォルニア州)において実行される分類木と回帰木法(Classification And Regression Tree(CART))が挙げられる。
好ましい実施の形態では、この分析法は、乳癌の患者と癌に罹患していないコントロール間の識別に最も寄与しているピークを選別するために、単独で及び相互に比較して用いられる。
【0011】
他の態様では、当該バイオマーカーは精製され、同定された。選択されたバイオマーカーは、腫瘍マーカーであるCA15.3とCA27.29と共に、多変量ロジスティック回帰により、個別に及び組み合わせて評価された。
これらのマーカーの絶対的な正体(identity)はまだ分かっていないが、このような知識は、患者のサンプル中のマーカーを測定するのに必要ではない。なぜなら、マーカーは、例えば、質量や親和性により十分特徴付けられるからである。分子量及び結合性がこれらのマーカーの特徴であり、検出もしくは単離の手段を制限するものではないことを特筆しておく。さらに、本明細書で記述されている方法又は当該技術分野で周知である他の方法を用いて、当該マーカーの絶対的な正体(identity)を決定することができる。
【0012】
癌の検出及び診断における好ましい方法は、被験動物のサンプル中の、少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出すること、及びこの1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と癌の診断とを相関させることからなる。ただし、その相関は、それぞれの診断において正常な被験動物と比較しながら、1種以上のバイオマーカーの検出を考慮し、また、当該1種以上のタンパク質マーカーは、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、マーカーIII(BC3)、マーカーIV、マーカーV、マーカーVI、マーカーVII、マーカーVIII、マーカーIX、マーカーX、マーカーXI、マーカーXII、マーカーXIII、マーカーXIV、及びこれらの組み合わせからなる群より選択される。
検出における好ましい方法では、乳癌の臨床病期についての診断及び決定は、被験動物のサンプル中の、少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出すること(ただし、当該タンパク質マーカーは、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、マーカーIII(BC3)、及びこれらの組み合わせから選択される)、及びこの1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と乳癌の診断とを相関させること(ただし、その相関は、それぞれの診断において正常な被験動物と比較しながら、1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出を考慮する)からなる。
【0013】
検出における好ましい方法では、乳癌の最初期の臨床病期についての診断及び決定は、被験動物のサンプル中の、少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出すること(ただし、当該タンパク質マーカーは、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、マーカーIII(BC3)、及びこれらの組み合わせから選択される)、及びこの1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と乳癌の診断とを相関させること(ただし、その相関は、それぞれの診断において正常な被験動物と比較しながら、1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出を考慮する)からなる。当該マーカーは、乳癌の最も早い段階であるステージ0期にて検出されるのが好ましい。当該マーカーを早期に検出する感度及び特異度を示す結果は、以下に示す実施例に記述する。
【0014】
他の好ましい実施の形態では、複数の当該バイオマーカーが検出され、好ましくは少なくとも1種の当該バイオマーカーが検出され、より好ましくは少なくとも2種の当該バイオマーカーが検出され、最も好ましくは、少なくとも3種の当該バイオマーカーが検出される。最も好ましいマーカーを以下に示す。
マーカーI(BC1):約4.3kDの分子量を持つ
マーカーII(BC2):約8.1kDの分子量を持つ
マーカーIII(BC3):約8.9kDの分子量を持つ
癌の異なる悪性度を診断及び識別するための好ましい方法では、当該方法は、生物学的マーカーの第一セットを表す第一データセットを作成するために、バイオチップアレイを用いること、被験動物のサンプル中の少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出する第一データセットを評価すること、及び正常な被験動物と比較しながら、1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と癌の進行性悪性度とを相関させることからなる。
本発明の一つの態様では、当該方法は、癌の異なる悪性度を診断及び識別するために使用される1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出することからなる。ただし、当該1種以上のタンパク質マーカーは、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、マーカーIII(BC3)、マーカーIV、マーカーV、マーカーVI、マーカーVII、マーカーVIII、マーカーIX、マーカーX、マーカーXI、マーカーXII、マーカーXIII、マーカーXIV、及びこれらの組み合わせより選択される。
【0015】
他の態様では、本発明は、乳癌の異なる悪性度を診断及び識別する方法を提供する。当該方法は、被験動物のサンプル中の少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出すること、及びこの1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と乳癌の診断とを相関させることからなる。ただし、その相関は、それぞれの診断において正常な被験動物と比較しながら、1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出を考慮する。
本発明の他の態様では、癌の異なる悪性度を識別するために1種のバイオマーカーが使用される。また、癌を診断するための公知の癌バイオマーカー、例えば乳癌のマーカーであるCA15.3及びCA27.29を1種以上組み合わせて、癌の異なる悪性度を識別するための1種のバイオマーカーも提供する。乳癌のような癌に罹患しやすい、あるいは癌に罹患している患者からのタンパク質プロファイルと正常な被験動物のものと比較するために、1種以上のタンパク質バイオマーカーを使用するのが好ましい。
本発明の他の態様では、患者のサンプルが、血液、血漿、血清、尿、組織、細胞、器官及び膣液からなる群より選択される。
【0016】
好ましい検出方法は、バイオチップアレイを用いることを含む。本発明に有用なバイオチップアレイとしては、タンパク質アレイ及び核酸アレイが挙げられる。1種以上のマーカーを当該バイオチップアレイに固定化し、そのマーカーの分子量を検出するためにそれをレーザーイオン化する。マーカーの分析は、例えば、全イオン流に対して正規化される許容限界強度(threshold intensity)に対する当該1種以上のマーカーの分子量による。ピーク強度の範囲を減少させるために対数変換を用いて、検出するマーカーの数を制限するのが好ましい。
他の好ましい方法では、バイオチップアレイに固定化した被験動物のサンプルについてのデータは、前記のバイオチップアレイをレーザーイオン化して、質量/電荷比の信号強度を検出し、そのデータをコンピュータに読み込み可能な形式に変換し、乳癌に罹患している患者に存在し、癌に罹患していない被験動物コントロールには存在しないマーカーを表す信号を検出するためのユーザー・インプット・パラメータに従って、そのデータを分類するアルゴリズムを実行することにより作成される。
好ましくは、当該バイオチップの表面は、例えばイオン性、アニオン性であり、陽イオン及び陰イオンの混合物からなる固定化されたニッケルイオンからなり、1種以上の抗体、一本鎖又は二本鎖の核酸より構成され、タンパク質、ペプチド又はそれらのフラグメントあるいはアミノ酸プローブより構成され、あるいはファージ・ディスプレイ・ライブラリーより構成される。
【0017】
他の好ましい方法では、レーザー脱離/イオン化質量分析法を用いて1種以上の当該マーカーが検出される。この方法は、吸着剤が結合した質量分析計の使用に適したプローブを供与すること、被験動物のサンプルをその吸着剤に接触させること、当該マーカー又はマーカー群を当該プローブから脱離及びイオン化すること、及び質量分析計を用いてその脱離/イオン化されたマーカーを検出することからなる。
レーザー脱離/イオン化質量分析法は、吸着剤が結合した基質を供与すること、被験動物のサンプルをその吸着剤に接触させること、吸着剤が結合した質量分析計の使用に適したプローブにその基質を設置すること、当該マーカー又はマーカー群をプローブから脱離及びイオン化すること、及び質量分析計を用いてその脱離/イオン化されたマーカー又はマーカー群を検出することからなるのが好ましい。
【0018】
他の態様では、乳癌の診断をさらに補助するために、以下に示す種々の組成物が提供される:
マーカーI及びマーカーII〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーII及びマーカーI,III〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーIII及びマーカーI,II、IV〜XIVより選択される少なくとも一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーIV及びマーカーI,II、III,V〜XIVより選択される少なくとも一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーV及びマーカーI,II、III,IV、VI〜XIVより選択される少なくとも一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーVI及びマーカーI,II、III,IV、V〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーVII及びマーカーI,II、III,IV、V、VI,VIII〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーVIII及びマーカーI,II、III,IV、V、VI,VII〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーIX及びマーカーI,II、III,IV、V、VI,VII,VIII,X〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーX及びマーカーI〜IX,XI〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーXI及びマーカーI〜X,XII〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーXII及びマーカーI〜XI,XIII〜XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーXIII及びマーカーI〜XII,XIVより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物、
マーカーXIV及びマーカーI〜XIIIより選択される一種以上のバイオマーカーからなる組成物。これらの組成物において、当該マーカーは、実質的に純粋である及び/又は、例えば血清サンプルから単離されるのが好ましい。
【0019】
本明細書に開示されているマーカーの質量値については、スペクトル装置における質量の正確性は、その開示された分子量の値の約±0.15%以内であるとみなされる。さらに、そのように認識されている装置の正確性のばらつきについては、分光質量の決定は、約400〜1000m/dm(ただし、mは質量であり、dmは0.5のピーク高さにおけるマススペクトルのピーク幅である)の分解能限度の範囲内で変動することができる。質量分析装置及びそれらの操作に関連するこのような質量の正確性及び分解能のばらつきは、マーカーI〜XIVのそれぞれにおける質量に記載されている「約」という用語を用いることにより反映される。また、このような質量の正確性及び分解能のばらつき、及びマーカーI〜XIVのそれぞれにおける質量に関するこのような「約」という用語の意味は、被験動物の性別及び/又は民族性及び特定の癌もしくはその起源や病期により存在するかもしれない当該マーカーの変種も包含することを意図する。
【0020】
本発明の方法を用いる乳癌のための当該バイオマーカーの発見では、好ましい期日の分析は、検出されるマーカーの数を制限するために、ピーク強度範囲を減少させるための対数変換によるものであり、各サンプルのピーク強度から得られたデータを個々のポイントとして、三次元成分空間に投影する。この成分空間は、ピーク強度の線形結合である。各成分空間は、およそ二つの事前に指定されたデータグループが、コンピュータモニター上の双方向性三次元ディスプレイにより決定された最大分離を達成する方向に一致する。それぞれの質量ピークにおける有意性スコアを計算し、それぞれの質量ピークは、二つの事前に指定されたデータグループの最大分離に対する集団寄与率に従ってランク付けられる。有意性スコアはプラスでもマイナスでもよく、プラスのスコアは、癌に罹患している患者のサンプルから得られた対応する質量ピークの発現の増加に相関し、マイナスのスコアは、癌に罹患している患者のサンプルから得られた対応する質量ピークの発現の減少に相関する。
【0021】
固定化された分子は、各バイオマーカーの質量ピークを検出するためにレーザーイオン化され、当該1種以上のマーカーの質量ピークは、全イオン流に対して正規化された許容限界強度について解析される。選択された質量ピークは、約2K〜約150Kの間であるのが好ましい。
好ましい実施の形態では、定率のバイオマーカーサンプルが、中央値及び平均ランクがピークごとに決定される質量ピークの解析中ランダムに除外される。この解析は、少なくとも約100回行われる。
【0022】
他の好ましい実施の形態では、癌の進行段階を検出し、識別するためのバイオマーカーを表す質量ピークを予測するための方法が提供される。この方法は、正常な被験動物と癌に罹患している被験動物からサンプルを得ること、及び、当該サンプルの質量ピークを評価するためのバイオチップアレイを提供すること(ただし、当該バイオチップアレイは、化学修飾された金属親和性表面からなり、当該表面には、タンパク質、ペプチド又はそれらのフラグメントからなる群のうち少なくとも1種に選択的に結合することができる複数の分子が安定的に結合している)、バイオマーカーの第一セットを表す第一データセットを得るために、正常な被験動物と癌患者の被験動物からのサンプルを用いること、被験動物のサンプル中の少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出する第一データセットを評価すること、及び、正常な被験動物と比較しながら、1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と乳癌のような癌の進行性の悪性度とを相関させることからなる。
一つの態様では、コントロールデータセットが作成されるが、これは、正常な被験動物を表すバイオマーカーのコントロールセットを作成すること、当該バイオマーカーのコントロールセットを表すコントロールデータセットを作成するためにバイオチップアレイを用いること、及び、どの質量ピークが癌の進行の異なる悪性度を識別するバイオマーカーを表すかを予測するために、第一データセット及びコントロールデータセットを比較することからなる。
他の態様では、当該方法はさらに、癌に罹患している患者を表すバイオマーカーの第二のセットを作成すること、第一ステージの癌を表す第二のデータセットを作成するためにバイオチップアレイを用いること、及び、どの質量ピークが癌の進行の第一ステージ及び第二ステージを識別するバイオマーカーを表すかを予測するために、第二のデータセットとコントロールデータセットを比較することからなる。
当該方法は、悪性癌のあるステージを表す任意の有望なバイオマーカーの質量ピークを予測するために使用されるデータセットが得られるまで、少なくとも1回以上繰り返される。
【0023】
他の好ましい実施の形態では、乳癌の異なる病期を表す複数のデータセットを含むバイオマーカーデータベースが構築され、そのテストデータセットと当該データベースを比較することにより、乳癌の少なくとも1つの病期を検出するための有望なバイオマーカーである質量ピークが予測される。
当該データベースは、乳癌の任意の病期を検出し、異なる癌の異なる病期を識別する有望なバイオマーカーを評価し、予測するためのデータベースからデータをマイニングするための有望なバイオマーカーである質量ピークを予測するために使用される。
他の好ましい実施の形態では、乳癌のような腫瘍の浸潤前に存在する有望なバイオマーカーを決定するために使用される質量ピークのデータセットを得ることにより、癌患者からの組織サンプルを分析し、正常な被験動物のものと比較する。
本発明の他の態様は、以下に記述する。
【0024】
定義
特に明記しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野における当業者により一般に理解されている意味を持つ。以下の参考文献は、本発明で使用されている多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する:Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology(2nd ed.1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology(Walker ed.,1988);The Glossary of Genetics,5th Ed.,R.Rieger et al.,(eds.),Springer Verlag(1991);及びHale & Marham,The Harper Collins Dictionary of Biology(1991)。本明細書で使われているように、以下の用語は、特に明記しない限り記載された意味を持つ。
【0025】
「気相イオン分光分析装置」とは、気相イオンを検出する装置のことをいう。気相イオン分光分析装置は、気相イオンを供給するイオン源を含む。気相イオン分光分析装置としては、例えば質量分析計、イオン移動度分光計及び全イオン電流測定装置が挙げられる。「気相イオン分光分析」とは、気相イオン分光分析装置を用いて気相イオンを検出することをいう。
「質量分析計」とは、質量電荷比に変換することができる気相イオンのパラメータを測定する気相イオン分光分析装置のことをいう。質量分析計は、一般にイオン源及び質量分析器を含む。質量分析計としては、例えば飛行時間型質量分析計、磁場型質量分析計、四重極型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、イオンサイクロトロン共鳴質量分析計、扇形静電分析器及びそれらのハイブリッド型が挙げられる。「質量分析」とは、質量分析計を用いて気相イオンを検出することをいう。
「レーザー脱離質量分析計」とは、検体を脱離、気化及びイオン化させる手段としてレーザー光のエネルギーを利用する質量分析計のことをいう。
【0026】
「タンデム質量分析計」とは、イオン混合物中のイオンを含むイオンのm/zに基づく識別もしくは測定における二つの連続する段階を実行することができる任意の質量分析計のことをいう。この語句は、空間的に直列なイオンのm/zに基づく識別もしくは測定における二つの連続する段階を実行することができる二つの質量分析器を有する質量分析計を包含する。さらにこの語句は、時間的に直列なイオンのm/zに基づく識別もしくは測定における二つの連続する段階を実行することができる一つの質量分析器を有する質量分析計を包含する。従って、この語句は、Qq−TOF質量分析計、イオントラップ型質量分析計、イオントラップ−TOF質量分析計、TOF−TOF質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計、扇形静電−扇形磁場質量分析計及びこれらの組み合わせを明らかに包含する。
【0027】
「質量分析器」とは、質量電荷比に変換することができる気相イオンのパラメータを測定するための手段からなる質量分析計の部分組立品のことをいう。飛行時間型質量分析計では、当該質量分析器は、イオン光学組立品、飛行管及びイオン検出器からなる。
「イオン源」とは、気相イオンを供給する気相イオン分光分析装置の部分組立品のことをいう。一つの実施の形態では、当該イオン源は、脱離/イオン化プロセスを介してイオンを供給する。このような実施の形態は、一般に、イオン化エネルギー源(例えばレーザー脱離/イオン化源)と条件検索が可能である関係にあるプローブと、常圧、もしくは減圧下における同時通信で、気相イオン分光分析装置の検出器を、位置的に接合させるプローブインターフェースからなる。
【0028】
検体を固相から脱離し、イオン化するためのイオン化エネルギーの形態としては、(1)レーザー光エネルギー;(2)高速原子(高速原子衝撃において使用される);(3)放射性核種のβ分解により生成される高エネルギー粒子(プラズマ脱離において使用される);及び(4)二次イオンを生成する一次イオン(二次イオン質量分析において使用される)が挙げられる。固相の検体のためのイオン化エネルギーにおける好ましい形態としては、レーザー光(レーザー脱離/イオン化において使用される)が挙げられ、特に窒素レーザー、Nd−Yagレーザー、及び他のパルスレーザー源が好ましい。「フルエンス」とは、条件検索された画像の単位面積あたりにつき供給されるエネルギーのことをいう。レーザー光のような高フルエンス源は、約1mJ/mm2から50mJ/mm2を供給する。典型的には、サンプルはプローブの表面に設置され、そのプローブはプローブインターフェースに接合され、そのプローブ表面はイオン化エネルギーにより衝撃が与えられる。当該エネルギーは、検体分子をその表面から気相へと脱離させ、それをイオン化する。
【0029】
検体のためのイオン化エネルギーの他の形態としては、例えば、(1)気相のニュートラル(neutral)をイオン化する電子;(2)気相、固相又は液相のニュートラルからイオン化を誘導するための強い電場;及び(3)気相、固相又は液相のニュートラルの化学イオン化を誘導するためのイオン化粒子又は電場と中性化学物質との組み合わせを適用するソースが挙げられる。
本発明の文中における「プローブ」とは、気相イオン分光分析装置(例えば質量分析計)のプローブインターフェースを接合させ、及びイオン化及び気相イオン分光分析装置に導入させるためのイオン化エネルギーを検体に供給するために利用されるデバイスのことをいう。「プローブ」は、一般に検体がイオン化エネルギー源を供給される面を提供するサンプルからなる固体の基質(弾力性のある基質でも弾力性の無い基質でもどちらでもよい)より構成される。
「表面増強レーザー脱離/イオン化法」、すなわち「SELDI」とは、気相イオン分光分析装置のプローブインターフェースと接合するSELDIプローブの表面に検体が捕捉される、脱離/イオン化気相イオン分光分析(例えば質量分析)における方法のことをいう。「SELDI−MS」では、気相イオン分光分析装置は、質量分析計である。SELDI技術は、例えば米国特許第5,719,060号明細書(Hutchens and Yip)及び米国特許第6,225,047号明細書(Hutchens and Yip)に記載されている。
【0030】
「表面増強アフィニティーキャプチャー法」すなわち「SEAC」は、吸収性表面からなるプローブ(SEACプローブ)を使用するSELDIの変形である。「吸着性表面」とは、吸着剤が結合している表面のことをいう(「捕捉試薬」又は「親和性試薬」とも呼ばれる)。吸着剤は検体(例えば、ターゲットのポリペプチド又は核酸)を結合させることができる任意の物質である。「クロマトグラフ吸着剤」とは、クロマトグラフィーに典型的に使用される物質のことをいう。クロマトグラフ吸着剤としては、例えばイオン交換物質、金属キレート(例えば、ニトリロ酢酸又はイミノニ酢酸)、固定化金属キレート、疎水性相互作用吸着剤、親水性相互作用吸着剤、色素、単純生体分子(例えばヌクレオチド、アミノ酸、単純糖質及び脂肪酸)及び混合型吸着剤(例えば、疎水性誘引/静電反発吸着剤)が挙げられる。
「生体特異的吸着剤」とは、例えば核酸分子(例えばアプタマー)、ポリペプチド、多糖、脂質、ステロイド、あるいはこれらの抱合体(例えば、糖タンパク質、リポタンパク質、糖脂質、核酸(例えばDNA)−タンパク質抱合体)の生体分子からなる吸着剤のことをいう。ある場合では、当該生体特異的吸着剤は、多タンパク質複合体のような高分子構造体、生体膜あるいはウィルスとすることができる。生体特異的吸着剤としては、例えば抗体、受容体タンパク質、及び核酸が挙げられる。生体特異的吸着剤は、典型的にはクロマトグラフ吸着剤よりもターゲットの検体に対する特異性が高い。SELDIに使用される吸着剤の更なる例は、米国特許第6,225,047号明細書(Hutchens and Yip, “Use of retentate chromatography to generate difference maps”2001年5月1日)中に見出すことができる。
【0031】
ある実施の形態では、SEACプローブは、最適な吸着剤を提供するために修飾することができる、事前に活性化された表面として提供される。例えば、任意のプローブには、共有結合により生体分子と結合することがきる、反応部分が備わっている。エポキシド及びカルボジイミドゾール(carbodiimidizole)が、抗体や細胞受容体のような生体特異的吸着剤と共有結合するのに有用な反応部分である。
「吸着」とは、吸着剤又は捕捉試薬に対する検体の検出可能な非共有結合のことをいう。
【0032】
「表面増強ニート脱離法(Surface−Enhanced Neat Desorption)」すなわち「SEND」は、プローブの表面に化学結合されるエネルギー吸収分子からなるプローブ(SENDプローブ)を使用する、SELDIの変形である。「エネルギー吸収分子」(EAM)とは、レーザー脱離/イオン化源からのエネルギーを吸収することができ、その後、検体分子に接触してその検体分子の脱離及びイオン化に寄与することができる分子のことをいう。この語句は、しばしば「マトリックス」と呼ばれるMALDIに使用される分子を包含し、ケイ皮酸誘導体、シナピン酸(SPA),シアノ−ヒドロキシ−ケイ皮酸(CHCA)及びジヒドロキシ安息香酸、フェルラ酸、ヒドロキシアセトフェノン誘導体などを明らかに包含する。また、この語句は、SELDIに使用されるEAMも包含する。SENDについては、米国特許第5,719,060号明細書及び2002年9月4日に出願された米国特許出願公開第60/408,255号明細書(Kitagawa,“Monomers And Polymers Having Energy Absorbing Moieties Of Use In Desorption/Ionization Of Analytes”)にさらに記述されている。
「表面増強感光結合及び放出法(Surface−Enhanced Photolabile Attachment And Release)」すなわち「SEPAR」は、検体に共有結合することができ、次いで光(例えばレーザー光)照射後、プローブの部分における感光結合が切断されることにより検体が脱離することができる表面に結合する部分を有するプローブを使用する、SELDIの変形である。SEPARについては、米国特許第5,719,060号明細書にさらに記述されている。
【0033】
「溶離剤」又は「洗浄液」とは、吸着性表面への検体の吸着に影響を及ぼす、あるいはそれを改変する及び/又は非結合物質を当該表面から除去するために使用される薬剤、典型的には溶液のことをいう。溶離剤の溶離性は、例えばpH、イオン強度、疎水性、カオトロピック効果の度合い、洗浄強度及び温度によって左右される可能性がある。
「検体」とは、検出したいサンプルにおける任意の構成要素のことをいう。この用語は、サンプル中の1種の構成要素だけでなく複数の構成要素においても言及することができる。
アフィニティーキャプチャープローブの吸着性表面に吸着されるサンプルの「複雑度」とは、吸着される、異なるタンパク質種の数を意味する。
「分子結合パートナー」及び「特異的結合パートナー」とは、特異的結合を示す分子ペア、典型的には生体分子ペアのことをいう。分子結合パートナーは、受容体とリガンド、抗体と抗原、ビオチンとアビジン、及びビオチンとストレプトアビジンを含むが、これに限定されない。
「モニタリング」とは、連続的に変わるパラメータの変化を記録することをいう。
「バイオチップ」とは、一般に、吸着剤が結合する平面状の表面を有する固体の基質のことをいう。当該バイオチップの表面は、しばしば複数のアドレス可能な場所を含み、そのそれぞれの場所には吸着剤が結合される。バイオチップは、プローブインターフェースと接合するようになっており、従って、プローブとしても機能することができる。
【0034】
「タンパク質バイオチップ」とは、ポリペプチドの捕捉に適合したバイオチップのことをいう。タンパク質バイオチップについては、多くのものが当当該技術に説明されており、それらは例えば、サイファージェン・バイオシステムズ社(フレモント、カリフォルニア州)、パッカード・バイオサイエンス社(メリデン、コネチカット州)、ザイオミクス社(Zyomyx(ヘーワード、カリフォルニア州))及びファイロス社(Phylos(レキシントン、マサチューセッツ州))により製造されるタンパク質バイオチップが含まれる。このようなタンパク質バイオチップの例は、以下の特許又は特許出願書に記載されている:米国特許第6,225,047号明細書(Hutchens and Yip,“Use of retentate chromatography to generate difference maps”,2001年5月1日);国際公開第WO 99/51773号明細書(Kuimelis and Wagner,“Addressable protein arrays”,1999年10月14日)、米国特許第6,329,209号明細書(Wagner et al.,“Arrays of protein−capture agents and methods of use thereof”,2001年12月11日);及び国際公開第WO 00/56934号明細書(Englert et al.,“Continuous porous matrix arrays”,2000年9月28日)。
【0035】
サイファージェン・バイオシステムズ社により製造されるタンパク質バイオチップは、クロマトグラフ吸着剤もしくは生体特異的吸着剤が、アドレス可能な場所に結合した表面からなる。サイファージェンのプロテインチップ(ProteinChip(登録商標))アレイとしては、NP20,H4,H50,SAX−2,WCX−2,CM−10,IMAC−3,IMAC−30,LSAX−30,LWCX−30,IMAC−40,PS−10,PS−20及びPG−20が挙げられる。これらのタンパク質バイオチップは、細長い切れ(ストリップ)状のアルミニウム基質からなる。このストリップの表面は、二酸化ケイ素でコーティングされている。
NP−20バイオチップの場合、酸化ケイ素は親水性のタンパク質を捕捉するための親水性吸着剤として機能する。
【0036】
H4,H50,SAX−2,WCX−2,CM−10,IMAC−3,IMAC−30,PS−10及びPS−20のバイオチップは、さらに物理的にバイオチップの表面に結合する、あるいはシランを介してバイオチップの表面に共有結合するヒドロゲル状の機能付与された架橋ポリマーからなる。H4バイオチップは、疎水結合のためのイソプロピル官能基を有し、H50バイオチップは、疎水結合のためのノニルフェノキポリ(エチレングリコール)メタクリレートを有し、SAX−2バイオチップは、陰イオン交換のための第四級アンモニウム官能基を有し、WCX−2及びCM−10バイオチップは、陽イオン交換のためのカルボン酸官能基を有し、IMAC−3及びIMAC−30バイオチップは、Cu2+やNi2+のような遷移金属イオンをキレート化により吸着するニトリロ酢酸官能基を有す。このような固定化金属イオンは、配位結合によりペプチド及びタンパク質を吸着させることができる。PS−10バイオチップは、タンパク質上の共有結合のための基と反応することができるカルボイミドゾール(carboimidizole)官能基を有し、PS−20バイオチップは、タンパク質と共有結合するためのエポキシド官能基を有す。一連のPSバイオチップは、抗体、受容体、レクチン、ヘパリン、プロテインA,ビオチン/ストレプトアビジンのような生体特異的吸着剤をサンプルからの検体を特異的に捕捉する機能を有するチップ表面に結合させるのに有用である。PG−20バイオチップは、プロテインGが結合するPS−20チップである。LSAX−30(陰イオン交換)、LWCX−30(陽イオン交換)及びIMAC−40(金属キレート)バイオチップは、表面に機能付与されたラテックスビーズを有す。このようなバイオチップは、WO 00/66265(Rich et al.,“Probes for a Gas Phase Ion Spectrometer”,2000年11月9日);WO 00/67293(Beecher et al.,“Sample Holder with Hydrophobic Coating for Gas Phase Mass Spectrometer”,2000年11月9日);米国特許出願公開第20030032043A1号明細書(Pohl and Papanu, “Latex Based Adsorbent Chip”,2002年7月16日)及び米国特許出願公開第60/350,110号明細書(Um et al.,“Hydrophobic Surface Chip”,2001年11月8日)にさらに記載されている。
【0037】
反応培地又はバイオチップのような基質上に捕捉される際に、検体は、例えば気相イオン分光分析法、光学的方法、電気化学的方法、原子間力顕微鏡法、及び高周波法より選択される各種検出方法により検出することができる。本明細書では気相イオン分光分析法について記述する。特に関心があるのは質量分析法、とりわけSELDIを利用することである。光学的方法は、例えば蛍光、発光、化学発光、吸光度、反射率、透過率、複屈折、もしくは屈折率(例えば表面プラズモン共鳴法、偏光解析法、共振ミラー法、グレーティング・カップラ・ウェイブガイド法(grating coupler waveguide method)又は干渉分光法)の検出を含む。光学的方法としては、光学顕微鏡法(共焦点及び非共焦点)、画像法及び非画像法が挙げられる。様々なフォーマットの免疫測定法(例えばELISA)は、固相に捕捉される検体を検出するのに人気の高い方法である。電気化学的方法としては、電解電流法や電流測定法が挙げられる。高周波法としては、多極共鳴分光分析法(multipolar resonance spectroscopy)が挙げられる。
【0038】
本発明の文中で使われている「マーカー」とは、コントロール被験動物(例えば診断が陰性であった被験動物、検出できなかった癌を有する被験動物、正常な被験動物又は健康な被験動物)から採取された比較可能なサンプルと比較して、ヒト癌を有する患者から採取されたサンプル中に異なった形で存在する(特定の、明らかな分子量を持つ)ポリペプチドのことをいう。
「異なった形で存在」という語句は、コントロール被験動物と比較して、ヒト癌を有する患者から採取されたサンプル中に存在するマーカーの量及び/又は頻度の相違のことをいう。例えば、マーカーは、コントロール被験動物のサンプルと比較して、ヒト癌患者のサンプル中で、高い濃度、あるいは低い濃度で存在するポリペプチドであってもよい。また、マーカーは、コントロール被験動物のサンプルと比較して、ヒト癌患者のサンプル中で、高い頻度、あるいは低い頻度で検出されるポリペプチドであってもよい。マーカーは、量、頻度、あるいはその両方の点からみて、異なった形で存在するかもしれない。
【0039】
一つのサンプル中のポリペプチド量が、他方のサンプル中のポリペプチド量と比べて統計的に有意に異なる場合は、ポリペプチドは二つのサンプル間で異なった形で存在する。例えば、他方のサンプルに存在するポリペプチドと比較して、少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、あるいは少なくとも約1000%多く存在する場合、あるいは一つのサンプル中には検出することができ、他方では検出することができない場合は、ポリペプチドは二つのサンプル間で異なった形で存在する。
また、ヒト癌患者のサンプルにおいてポリペプチドを検出する頻度が、コントロールサンプルと比較して統計的に有意に高い、あるいは低い場合は、ポリペプチドは、二つのサンプルセット間で異なった形で存在する。例えば、他方のサンプルセットと比較して、1つのサンプルセット中に少なくとも約120%、少なくとも約130%、少なくとも約150%、少なくとも約180%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約500%、少なくとも約700%、少なくとも約900%、あるいは少なくとも約1000%高頻度、あるいは低頻度にポリペプチドが観察される場合、ポリペプチドは二つのサンプルセット間で異なった形で存在する。
【0040】
「診断」とは、病態の有無あるいは性質を同定することを意味する。診断法は、その感度及び特異度で異なる。診断検査の「感度」は、検査で陽性反応を示す罹患者の割合である(「真の陽性者」の割合)。当該検査により検出されない罹患者は「偽陰性者」である。罹患してなく、当該検査において陰性反応を示す被験動物は「真の陰性者」と呼ばれる。診断検査の「特異度」は、1から偽陽性率を引いた値である。ここで「偽陽性」率は、検査で陽性反応を示す非罹患者の割合として定義される。特定の診断法は、状態について決定的な診断を提供するものではないかもしれないが、その方法が診断を補助する陽性の表示を提供すれば、それで十分である。
【0041】
マーカーの「テスト量」とは、テストされるサンプル中に存在するマーカーの量のことをいう。テスト量は、絶対量(例えばμg/ml)でも相対量(例えば信号の相対強度)でもどちらでもよい。
マーカーの「診断量」とは、ヒト癌の診断と一致する被験動物サンプル中のマーカーの量のことをいう。診断量は、絶対量(例えばμg/ml)でも相対量(例えば信号の相対強度)でもどちらでもよい。
マーカーの「コントロール量」とは、任意の量あるいはマーカーのテスト量に対して比較されるべき量の範囲のことをいう。例えば、マーカーのコントロール量は、ヒト癌に罹患していない人におけるマーカーの量であるかもしれない。コントロール量は、絶対量(例えばμg/ml)でも相対量(例えば信号の相対強度)でもどちらでもよい。
【0042】
「抗体」とは、免疫グロブリン遺伝子又は免疫グロブリン遺伝子群、あるいはそれらのフラグメントにより実質的にコードされているポリペプチドリガンドのことをいい、それはエピトープ(例えば抗原)に特異的に結合し、認識する。認識される免疫グロブリン遺伝子としては、κ及びλのL鎖の定常領域における遺伝子、α、γ、δ、ε及びμのH鎖の定常領域における遺伝子、及び無数の免疫グロブリンの可変領域における遺伝子が挙げられる。抗体は、例えば無処置の免疫グロブリンとして、あるいは各種ペプチダーゼを用いる消化により産生された、よく特徴付けられている多数のフラグメントとして存在している。これは、例えばFab’及びF(ab)’フラグメントを含む。本明細書で使用される「抗体」という用語は、完全な抗体を改変することにより産生された、あるいは組み換えDNA法を用いて新たに合成された抗体フラグメントも包含する。この用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいは単鎖抗体も包含する。抗体の「Fc」部とは、H鎖の定常領域ドメインであるCH,CH及びCHの1種以上からなるが、H鎖の可変領域を含まない免疫グロブリンにおけるH鎖の部位のことをいう。
「免疫測定法」とは、抗原(例えばマーカー)に特異的に結合する抗体を用いる測定法のことをいう。免疫測定法は、抗原を単離する、対象とする、及び/又は定量するために、特定の抗体の特異的な結合性を利用することにより特徴付けられている。
【0043】
抗体に「特異的に(あるいは選択的に)結合する」又は「特異的に(あるいは選択的に)免疫反応する」という語句は、タンパク質又はペプチドについて言及する場合、異種のタンパク質の集団及び他の生物製剤中に当該タンパク質が存在していることを決定する結合反応のことをいう。従って、指定された免疫測定の条件下では、指定された抗体は、バックグランドの少なくとも2倍特定のタンパク質に結合し、実質的にサンプル中に存在する他のタンパク質に対し、有意な量結合することはない。このような条件下での抗体への特異的な結合には、特定のタンパク質に対する特異性について選択される抗体を要するかもしれない。例えば、ラット、マウス、あるいはヒトのような特定の種から産生されたマーカーBr1と反応するポリクローナル抗体は、マーカーBr1と特異的に免疫反応し、多形性変異体及びマーカーBr1の対立遺伝子を除く他のタンパク質とは特異的に免疫反応しないポリクローナル抗体のみが得られるように選択することができる。この選択は、他の種からマーカーBr1分子と交差反応する抗体を取り除くことにより達成されるだろう。特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために、各種のイムノアッセイフォーマットを用いてもよい。例えば、固相ELISA免疫測定法が、タンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択するために日常的に使用される(特定の免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイフォーマット及び条件の記述については、例えば、Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual(1988)を参照する)。特異的又は選択的反応は、典型的にはバックグランドシグナルあるいはノイズの少なくとも2倍、さらに典型的にはバックグランドの10倍から100倍以上である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
本発明は、乳癌のための腫瘍バイオマーカーを同定するための、高い特異性及び高い感度を有する方法に関する。
乳癌の病期に関連する15(14)種のバイオマーカーが同定された。当該14種のバイオマーカーにおけるタンパク質又はタンパク質のフラグメントは、SELDI(表面強調レーザー脱離/イオン化)プロテインチップ/マススペクトルの強度ピークとして表され、分子質量が以下に示す値のあたりに集中している。
マーカーI(BC1): 4283ダルトン
マーカーII(BC2): 8126ダルトン
マーカーIII(BC3): 8932ダルトン
マーカーIV: 4465ダルトン
マーカーV: 4060ダルトン
マーカーVI: 8322ダルトン
マーカーVII: 17046ダルトン
マーカーVIII: 17696ダルトン
マーカーIX: 10240ダルトン
マーカーX: 5891ダルトン
マーカーXI: 8426ダルトン
マーカーXII: 7541ダルトン
マーカーXIII: 9413ダルトン
マーカーXIV: 16244ダルトン
マーカーI〜XIVのこれらの質量は、開示されているSELDI−質量分析のプロトコルにより決定された規定値の0.15%以内の範囲で正確であると考えられる。
【0045】
我々は、マーカーI〜XIVが、コントロール被験動物と比較して、ヒト乳癌に罹患している患者から採取したサンプル中の量及び/又は頻度の面で以下のように異なった形で存在することを発見し、特に、癌患者のサンプル中でマーカーが上方制御される(すなわち、コントロール被験動物からのサンプルと比較し、乳癌患者のサンプル中の濃度が上昇する)、あるいはマーカーが下方制御される(すなわち、コントロール被験動物からのサンプルと比較し、乳癌患者のサンプル中の濃度が低下する)ことを発見した。
マーカーI(BC1): 癌患者のサンプルにおいて下方制御される
マーカーII(BC2): 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーIII(BC3): 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーIV: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーV: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーVI: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーVII: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーVIII: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーIX: 癌患者のサンプルにおいて下方制御される
マーカーX: 癌患者のサンプルにおいて下方制御される
マーカーXI: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーXII: 癌患者のサンプルにおいて下方制御される
マーカーXIII: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
マーカーXIV: 癌患者のサンプルにおいて上方制御される
【0046】
マーカーI〜XIVと乳癌の有無の関連は、様々な病期における腫瘍の切除及び治療をする前の乳癌を有する患者(n=103)、良性の乳房疾患を有する女性(n=25)及び公知の腫瘍性疾患を有してない女性健常者(n=41)において確立された。乳癌の異なる病期を識別するバイオマーカーを同定するために使用される当該方法が高い特異度及び高い感度を有することは、これらのバイオマーカーのうち3種(4283(BC1),8126(BC2),及び8932(BC3))のみを使用することにより強調され、異なる病期の乳癌患者のうち93%が正確に同定された(ステージ0/I期(93%)、ステージII期(85%)及びステージIII期(94%))。1種のバイオマーカー(BC3)のみを使用した場合でも、ステージ0/I期(88%)、ステージII期(78%)及びステージIII期(92%)を示し、乳癌患者のうち85%の正確な同定が達成された。
【0047】
特に、乳癌に罹患しているもしくは罹患していない被験動物からの169の血清サンプルにおけるタンパク質プロファイルの同時分析が実施され、その結果、本明細書に記載された方法が高い特異性及び高い選択性を有することが実証された。被験動物の169の血清サンプルから、3種の識別バイオマーカーが同定され、これらの組み合わせにより、癌に罹患していないコントロールからの乳癌の検出において、高い感度(93%)及び高い特異度(91%)の両方が達成された。
【0048】
上記のように、マーカーI〜XIVは、吸着剤に対する親和性、特に以下で説明する実施例の概説の項目でのプロテインチップ分析で指定されている条件下における固定化Niキレート(IMAC)基質表面に対する結合に基づいて特徴付けることもできる。この条件は、以下の条件を含む。30μlの8M尿素、1%CHAPSを含むPBS(pH7.4)を20μlの血清サンプルに加え、その希釈サンプルを4℃で15分間ボルテックスし、PBSで1:40の比で希釈する。固定化金属アフィニティーキャプチャーチップ(IMAC3)をメーカー(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州)の使用説明書に従って、50mMのNiSOで活性化し、96−ウェル・バイオプロセッサ(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州)を用いて、その希釈した血清サンプルを50μlずつ、プロテインチップアレイ上の各スポットに分注する。プラットフォームシェーカー上で60分間室温にて結合させた後、100μlのPBSで5分間のアレイの洗浄を2回行い、その後100μlのdHOで2回リンスする。結合は、質量リーダーで検出することができる。本明細書で説明する、特定のタンパク質マーカーをIMAC−Ni吸着剤と結合するとして特徴付けることができることは、当該マーカーとこのような条件下で処理した血清サンプルとの結合が検出されることを示す。
【0049】
バイオマーカーを同定するための以下に示す本発明の具体的な例は、本発明を限定するあるいは解釈することを意図しているものでは決してない。乳癌の早期発見を可能とする血清バイオマーカーを同定するために、ステージ0期とI期の癌患者からの試料のタンパク質プロファイルを癌に罹患していないコントロールからのものと比較した。次に選択されたバイオマーカーについて、バイオマーカー選択プロセスに含まれていないステージII期及びIII期の乳癌患者からのデータを用いて試験した。複合タンパク質の発現パターンのハイスループット・プロファイリングにより、大量の有望なマーカーを同時にスクリーニングすることが非常に容易になる。UMSAアルゴリズムは、あらかじめ定義された二つの診断グループの分離に対する寄与に応じて、多数のピークを集合的にランク付けするための効率的なモデルを提供した。ProPeakブートストラップモジュールを用いてランダム摂動(random perturbation)を導入し、上位にランク付けされたピークの一貫性を検査するために、これを複数回実行し、複数回の実行から計算されたランクの標準偏差によりそれを判断した。その成績が単なる偶然とみなされないためのピークのランクにおける標準偏差のカットオフ値の上限を確立するために、実際のデータ分布をシミュレートする、ランダムに作成されたデータセットに同じブートストラップ手順を適用した。この「シミュレートされたピーク」からのランクの標準偏差の最小値は、ピークが無作為の偶然により得られる可能性の一貫性の程度を示す。この最小値は、更に検討するために、元の147のピークを上位にランク付けされた15のピークのサブセットまでに減らすために手助けとなるカットオフとして用いた。このようなピークの成績は、データにおける無作為なアーティファクトに起因するものとはなりにくいと考えられる。
【0050】
簡単にするために、複合指数は、単純多変量ロジスティック回帰により導き出された。これらの選択されたバイオマーカーをさらにバリデートするときは、より複雑な非線形分類モデルを利用して、複数のバイオマーカーを組み合わせてもよい。注意深くスクリーニングされ、検査されたバイオマーカーについて複雑なモデリング法を利用することにより、一般に多数の質量ピークからの生データに関してそのような方法を直接適用するよりも頑強な成績が提供されるはずである。選択されたバイオマーカーの識別能は、ステージII〜III期のデータを個々のテストセットとして用いることにより実証された。成績のブートストラップ・クロスバリデーション評価により、将来のデータにわたる、これらのバイオマーカーの一般化可能性(generalizability)について統計的信頼度が提供される。選択されたこの3種のバイオマーカーについて、これらのマーカーの濃度と腫瘍サイズ又はリンパ節転移間における有意な相関は何もみられなかった。従って、これらのマーカーの識別能は、腫瘍の進行よりもそれの悪性を反映している可能性が非常に高い。
【0051】
本明細書で使われている「腫瘍の病期」又は「腫瘍の進行」とは、腫瘍の異なる臨床病期のことをいう。腫瘍の臨床病期は、医学の分野で確立されている様々なパラメータにより定義される。そのパラメータの例としては、形態、腫瘍サイズ、患者の体内への転移の度合いなどが挙げられる。
ヒト癌は、前悪性状態から悪性そして最終的に患者を死に至らしめる転移性疾患への進行を含む多段階のプロセスであるようにみえる。ヒトにおける疫学的研究は、ある病態が悪性腫瘍のリスクの増加に関連しているのを受けて、それを「前癌性」であると規定した。癌予防戦略として、前浸潤性病変を検出し、取り除く前例がある。例えば、子宮頚部の異形成及び上皮内癌は、細胞学的スクリーニング法により子宮頚癌の予防に利用されて成功した前癌性の例である。残念なことに、乳房は、子宮頚部ほど簡単にサンプル採取できないので、乳房の前癌性のためのスクリーニング法の開発には、子宮頚癌を検出するために現在使用されている細胞形態学的スクリーニング法よりも複雑な手段を要する。
【0052】
前癌性乳房疾患も、異型の異常増殖から上皮内癌(前浸潤性癌)へ、そして最終的には広がり、転移し、患者を死に至らしめる浸潤性癌までの見かけ上の形態的進行によって特徴付けられる。乳房バイオプシーについての注意深い組織学的検査により、他のものではなく、このような特徴のいくつかを要する中間ステージが実証された。詳細な疫学的研究により、異なる形態の病変が異なる速さで、(リスクの低い)異型の異常増殖から患者において高い確率で浸潤性癌に進行する面皰性非浸潤性乳管癌(DCIS)まで様々な形で進行することが確立された(London et al.,1991;Page et al.,1982;Page et al.,1985;Page et al.,1991;及びPage et al.,1978)。家族歴もまた、乳癌の発症における重要な危険因子であり、前癌性病変の相対リスクを増加させる(Dupont et al.,1985;Dupon et al,1993;及びLondon et al,1991)。特に関心があるのは、非面皰性上皮内癌が、コントロールグループと比較して乳癌の相対リスクが10倍以上増加したことに関連していることである(Ottesen et al.,1992;Page et al.,1982)。相対リスクの増加のほかに、以下に示す二つの理由も、DCISが前癌性であるという概念をサポートする。1)乳癌がこのような患者に発生する場合、それはDCISが発見されたのと同じ乳房の同じ領域にいつも発生する。2)DCISはしばしば浸潤性乳癌に隣接する組織に存在する(Ottesen et al.,1992;Schwartz et al.,1992)。これらの理由により、DCISが、女性の浸潤性乳癌の発症における律速段階に相当する可能性が極めて高い。
【0053】
I.好ましい実施の形態の例
好ましい実施の形態では、本発明は、1種以上のマーカー、例えばマーカー4283(BC1),8126(BC2)及び8932(BC3)を用いてヒト癌の診断を補助するための方法を提供する。これらのマーカーは、ヒト癌の診断を補助する際に単独で、あるいは任意のセット中の他のマーカーもしくは全く異なるマーカー(例えばCA15.3やCA27.29)と組み合わせて使用することができる。当該マーカーは、ヒト癌患者(例えば乳癌患者)及びヒト癌を検出することができない正常な被験動物からのサンプル中に異なった形で存在する。例えば、当該マーカーのいくつかは正常な被験動物と比べてヒト癌患者において、高い濃度で発現する及び/又は高い頻度で存在する。従って、人における1種以上のこれらのマーカーの検出は、その人がヒト癌を有しているかもしれない可能性について有用な情報を提供し、また腫瘍の臨床病期を決定することができると考えられる。
【0054】
このようにして、本発明の実施の形態は、(a)バイオチップアレイを用いて生物学的マーカーの第一セットを表す第一データセットを作成し;(b)被験動物のサンプル中の少なくとも1種以上のタンパク質バイオマーカーを検出する第一データセットを評価し;(c)1種以上のタンパク質バイオマーカーの検出と正常な被験動物とを比較して癌の進行性悪性病期とを相関させることにより、癌の異なる悪性病期を診断及び識別するための方法を含む。この相関は、コントロール(例えばヒト癌を検出することができない正常な被験動物)のマーカー又はマーカー群の量と比較したサンプル中のマーカー又はマーカー群の量を考慮してもよいし(マーカー又はマーカー群の上方制御あるいは下方制御)、テストサンプル中のマーカーの有無及びコントロール中の同じマーカーの検出の頻度を考慮してもよいし、被験動物がヒト癌を有しているかいないかの決定を容易にするこのようなファクターを両方考慮してもよい。
【0055】
マーカーを検出するために、任意の適切なサンプルを被験動物から得ることができる。サンプルは、好ましくは被験動物からの血清サンプルである。必要ならば、サンプルは、マーカーの検出能を増強させるために上記のように調製することができる。例えば、マーカー4283(BC1),8126(BC2),及び8932(BC3)の検出能を増加させるために、被験動物からの血清サンプルは、好ましくは、例えばチバクロンブルーアガロースクロマトグラフィー、単鎖DNAアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィーなどにより分画することができる。プレ分画のプロトコルのようなサンプルの調製は任意であり、用いられる検出法に応じてマーカーの検出能を増強させる必要がないかもしれない。例えば、もしサンプル中のマーカーの有無を検出するためにマーカーに特異的に結合する抗体を使用するならば、サンプルの調製は不要であるかもしれない。
【0056】
サンプル中のマーカー又はマーカー群を検出するために、任意の適切な方法を用いることができる。例えば、気相イオン分光分析法や免疫測定法を上記のように使用することができる。
これらの方法を用いて、1種以上のマーカーを検出することができる。サンプルは、複数のマーカーの有無について試験されるのが好ましい。単独のマーカーよりも複数のマーカーの有無を検出する方が、診断医により多くの情報を与えることになると考えられる。具体的に、サンプル中の複数のマーカーの検出は、真の陽性診断及び真の陰性診断の割合を増加させ、また偽陽性診断又は偽陰性診断の割合を減少させると考えられる。
次に、マーカー又はマーカー群の検出をヒト癌の推定診断と相関させる。ある実施の形態では、マーカーの量を測らずに、単なるマーカーの有無の検出が有用であり、その検出とヒト癌の推定診断及び腫瘍の臨床病期の決定とを相関させることができる。例えば、これらのバイオマーカーのうち3種(マーカー4283(BC1),8126(BC2),及び8932(BC3))のみを使用することにより、93%の乳癌患者が以下の病期において正確に同定された:ステージ0/I期(93%)、ステージII期(85%)及びステージIII期(94%)。1種のバイオマーカー(BC3)のみを使用しても、ステージ0/I期(88%)、ステージII期(78%)及びステージIII期(92%)を示し、85%の乳癌患者が正確に同定された。こうして、試験される被験動物における1種以上のこれらのマーカーの単なる検出により、その被験動物が腫瘍の異なる臨床病期に進行していることが示される。
【0057】
他の実施の形態では、マーカーの検出が、マーカーの検出とヒト癌の推定診断とを相関させるために、マーカーを定量することを関与させることができる。従って、検査される被験動物において検出されるマーカーの量がコントロール量と比較して高い場合は、検査される当該被験動物が、ヒト癌を有している可能性がより高い。
同様に、他の実施の形態では、マーカーの検出がさらに、当該マーカーの量が正常な被験動物からの血清サンプル中に含まれる量よりもヒト癌患者からの血清サンプル中に含まれる量が少ない場合における、マーカーの検出とヒト癌の推定診断とを相関させるために、マーカーを定量することを関与させることができる。従って、検査される被験動物において検出されるマーカーの量がコントロール量と比較して低い場合は、検査される当該被験動物が、ヒト癌を有している可能性がより高い。
【0058】
マーカーを定量する時は、それをコントロールと比較することができる。コントロールは、例えばヒト癌を検出することができない正常な被験動物の比較できるサンプル中に存在するマーカー量の平均値もしくは中央値でもよい。コントロール量は、テスト量を測定する場合と同じあるいは実質的に同様の実験条件下で測定される。例えば、テストサンプルを被験動物の血清サンプルから取得し、マーカーを特定のプローブを用いて検出する場合、マーカーのコントロール量は同じプローブを用いて患者の血清サンプルから決定されるのが好ましい。マーカーのコントロール量は、多数のヒト癌を有していない正常な被験動物からのサンプルに基づいて決定されるのが好ましく、そうすることにより、その集団のマーカー量のばらつきが反映される。
質量分析により作成されたデータは、次にコンピュータソフトウェアにより分析することができる。ソフトウェアは、質量分析計からの信号をコンピュータに読み込み可能な形式に変換するコードにより構成することができる。また、当該ソフトウェアは、当該信号が本発明のマーカーあるいは他の有用なマーカーに相当する信号における「ピーク」を表しているかどうかを決定するための信号の分析に、アルゴリズムを適用するコードを含むこともできる。また、当該ソフトウェアは、テストサンプルからの信号を、「正常な」及びヒト癌の特徴を示す典型的な信号と比較するアルゴリズムを実行し、またその二つの信号間の適合の接近性を決定するコードを含むこともできる。当該ソフトウェアはまた、どのテストサンプルが最も接近しているかを示すコードも含むことができ、これにより推定診断が提供される。
【0059】
本発明、すなわち本明細書に記述されている方法によれば、悪性腫瘍に進行する前浸潤性腫瘍の原因になるバイオマーカーを同定することにより、前浸潤性腫瘍、あるいは良性の腫瘍でさえも診断が可能かもしれない。同定されるバイオマーカーのタイプ及びバイオマーカーの量は、前浸潤性腫瘍から悪性段階の腫瘍へのジャンプと相関している可能性がある。その腫瘍が浸潤性になる前に、直ちにその腫瘍を切除するような治療法、あるいは化学療法や放射線療法のような治療法を実行することができる。前浸潤性バイオマーカーの同定は、例えば乳癌におけるマンモグラムの利用のような従来の方法を用いる診断に利用することができる。
こうして、本発明は、このような腫瘍に関連するバイオマーカーを同定することにより前浸潤性腫瘍の迅速な同定を提供し、それにより患者は救命治療が与えられるかもしれない。さらに、癌患者の長期治療の費用も削減されると考えられる。
【0060】
より具体的には、本発明は、ヒト癌患者及びコントロールの被験動物のサンプル中に異なった形で存在するタンパク質マーカーの発見、及びこの発見をヒト癌の診断を補助する方法、及び腫瘍の病期の進行を同定する方法への適用に基づく。これらのタンパク質マーカーのいくつかは、コントロール(例えばヒト癌を検出することができない女性)と比較して、ヒト癌患者からのサンプル中において、高い濃度及び/又は高い頻度で検出される。従って、コントロールと比較して、テストサンプル中に検出される1種以上のマーカーの量、又はテストサンプル中の1種以上のマーカーの単なる検出が、検査された被験動物がヒト癌を有しているか否かの可能性に関する有用な情報を提供する。
【0061】
本発明のタンパク質マーカーは、他にも多くの用途がある。例えば、インビトロ又はインビボにおける当該マーカーの発現を調節する化合物をスクリーニングするために、当該マーカーを使用することができる。その化合物は患者に対するヒト癌の治療や予防に有用であるかもしれない。他の例では、ヒト癌の任意の治療に対する反応をモニターするために、マーカーを使用することができる。さらに他の例では、当該マーカーを遺伝に関する研究に用いることがきる。例えば、任意のマーカーは、遺伝学的に関連しているかもしれない。これは、例えば、家族がヒト癌の経歴を有しているヒト癌患者の集団からのサンプルを分析することにより決定することができる。その結果を次に、例えば家族がヒト癌の経歴を有していないヒト癌患者から得られたデータと比較することができる。遺伝子学的に関連しているマーカーは、家族がヒト癌の経歴を有する被験動物がヒト癌に罹患しやすいかどうかを決定する手段として使用されるかもしれない。
【0062】
他の態様では、本発明はヒト癌患者とコントロール(例えばヒト癌を検出することができない女性)のサンプル中に異なる形で存在するマーカーを検出するための方法を提供する。このマーカーは多数の生体サンプル中に検出することができる。サンプルは、好ましくは生体液のサンプルである。本発明において有用な生体液のサンプルとしては、例えば血液、血清、血漿、乳頭吸引液、尿、涙、唾液などが挙げられる。全てのマーカーが血清中に検出されるので、血清が本発明の実施の形態における好ましいサンプル源である。
本明細書に記載された1種以上のマーカーを検出するために、任意の適切な方法を用いることができる。これらの方法は、質量分析法(例えばレーザー脱離/イオン化質量分析法)、蛍光法(例えばサンドイッチ免疫測定法)、表面プラズモン共鳴法、偏光解析法及び原子間力顕微鏡法を含むが、これに限定されない。
【0063】
好ましい実施の形態では、当該分離方法は、質量分析プローブの表面が、マーカーが結合する吸着剤より構成される表面増強レーザー脱離/イオン化(SELDI)質量分析法に関連する。SELDIは、化学修飾された表面(ProteinChip(登録商標)アレイ、サイファージェン・バイオシステムズ社、フレモント、カリフォルニア州)にタンパク質が選択的に吸着され、バッファーで洗浄することにより不純物が取り除かれるという親和性に基づく質量分析法である。異なる表面を有するアレイと洗浄条件とを組み合わせることにより、高速、高分解クロマトグラフ分離がチップ上で達成される(M.Merchant et al.,Electrophoresis,2000;21:1164−67)。
【0064】
SELDI TOF−MSは、ハイスループットタンパク質プロファイリングを提供する。他の多くのタイプのハイスループット発現データのように、タンパク質アレイデータは、小さいサンプルサイズ(検体の数)に対して、多数の変数(マスピーク)によりしばしば特徴付けられる。疾患に関連するバイオマーカーをスクリーニングするためにこのようなデータを分析する際の重要な問題点は、限られた数のサンプルからできるだけ多くの情報を抽出すること、及び成績がデータにおける疾患と関連がないアーティファクトにより主に影響されるバイオマーカーの選択を回避することである。バイオインフォマティクス手段の効果的で適切な使用が、非常に重要となってくる。
【0065】
他の好ましい実施の形態では、乳癌の早期発見のための有望な血清バイオマーカーをスクリーニングするために、固定化金属アフィニティープロテインチップアレイ及びSELDIがハイスループットスクリーニングに使用される。例えば、乳癌を有しているあるいは有していない患者から全部で169の遡及的血清サンプルをジョーンズ・ホプキンス臨床化学血清バンク(Johns Hopkins Clinical Chemistry Serum Banks)から入手し、同時に分析した。キレート化された金属(ヒスチジン、トリプトファン、システイン又はリン酸化アミノ酸を介して)に結合したタンパク質をPBS−IIマスリーダー(サイファージェン・バイオシステムズ社、フレモント、カリフォルニア州)上で分析した。複合タンパク質プロファイルは、収集されたバイオインフォマティクス手段を用いて分析した。ステージ0〜I期の乳癌患者と癌を有していないコントロール(健康+良性)との最適な分離に対して一貫して有意に寄与したことを根拠として、3種のバイオマーカーパネルを選択した。次に、この選択されたバイオマーカーの有効性をステージII〜III期の乳癌患者からの個々のデータを用い、ブートストラップのクロスバリデーションにより検査を行った。
【0066】
II.マーカーの調製
サンプルはバイオマーカーの検出を行う前に調製するのが好ましい。典型的には、これは検査されるべき被験動物からのサンプルを収集することに関与する。サンプルは、被験動物からの任意の生体サンプルとすることができる。血液、血漿、血清、尿、リンパ液、あるいは管の洗浄液などの生体液又はそれらの由来物質が好ましく、サンプルが血清であるのが最も好ましい。
サンプルをプレ分画し、バイオマーカーを含んでいると決定されたフラクションを集めるのが有用であるかもしれない。プレ分画の方法としては、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ヘパリンクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逐次抽出法、ゲル電気泳動法及び液体クロマトグラフィーが挙げられる。検体もまた検出を行う前に改変してもよい。これらの方法は、さらに分析を行う場合、サンプルを単純化するのに有用である。例えば、分析を行う前にアルブミンのような多量のタンパク質を血液から除去することが有用であるかもしれない。しかし、本発明のマーカーは、血液から血清を単離した後は、それ以上分画を行わないでもSELDIにより検出可能である。
【0067】
一つの実施の形態では、サンプルは、サイズ排除クロマトグラフィーを利用してサンプル中のタンパク質のサイズに従ってプレ分画することができる。入手できるサンプル量が少ない生体サンプルについては、サイズセレクションスピンカラムを用いるのが好ましい。例えば、K30スピンカラム(プリンストン・セパレーション(Princeton Separation)、サイファージェン・バイオシステムズ社などから入手できる)を使用することができる。一般に、カラムから溶離される最初のフラクション(フラクション1)は高分子量のタンパク質の割合が高く、フラクション2は高分子量のタンパク質の割合がそれより低く、フラクション3は高分子量のタンパク質の割合がさらに低く、フラクション4は高分子量のタンパク質の割合が最も低く、このように、後になるほど高分子量のタンパク質の割合が低くなる。次に各フラクションは、気相イオン分光分析法によりマーカーの検出について分析することができる。
【0068】
他の実施の形態では、サンプルは、陰イオン交換クロマトグラフィーによりプレ分画することができる。陰イオン交換クロマトグラフィーは、帯電特性におおざっぱに従ってサンプル中のタンパク質のプレ分画をすることができる。例えば、Q陰イオン交換樹脂(例えばQ HyperD F,Biosepra)を用いることができ、サンプルは、異なるpHの溶離剤で連続して溶離することができる(図3及び実施例、セクションVI B参照)。陰イオン交換クロマトグラフィーは、より負に帯電したサンプル中の生体分子を他のタイプの生体分子から分離することができる。高いpHの溶離剤で溶離されたタンパク質は、弱く負に帯電していることが多く、また、低いpHの溶離剤で溶離されるフラクションは、強く負に帯電していることが多い。従って、サンプルの複雑度を減少させるほかに、陰イオン交換クロマトグラフィーは、結合特性に従ってタンパク質を分離する。
【0069】
さらに他の実施の形態では、サンプルは、ヘパリンクロマトグラフィーによりプレ分画することができる。ヘパリンクロマトグラフィーは、ヘパリンとの親和性相互作用及び帯電特性にも基づいて、サンプル中のマーカーのプレ分画をすることができる。硫酸化ムコ多糖であるヘパリンは、正に帯電した部分を有するマーカーに結合し、サンプルは、異なるpHの溶離剤もしくは塩濃度の溶離剤で連続して溶離することができる。低いpHの溶離剤で溶離されたマーカーは弱く正に帯電していることが多く、高いpHの溶離剤で溶離されるマーカーは、強く正に帯電していることが多い。従って、ヘパリンクロマトグラフィーもまた、サンプルの複雑度を減少させ、結合特性に従ってマーカーを分離する。
【0070】
さらに他の実施の形態では、サンプルは、サンプル中に多量に存在するタンパク質、あるいはマーカーの検出を妨げるかもしれないタンパク質を除去することによりプレ分画することができる。例えば、血清サンプル中には血清アルブミンが多量に存在し、マーカーの分析を分かりにくくしているかもしれない。従って、血清サンプルは、血清アルブミンを除去することにより、プレ分画することができる。血清アルブミンは、血清アルブミンに特異的に結合する吸着剤からなる基質を用いて除去することができる。例えば、チバクロンブルーアガロース(血清アルブミンに対する高い親和性を有する)や抗血清アルブミン抗体からなるカラムを用いることができる(例えば、図2と4を参照)。
【0071】
さらに他の実施の形態では、サンプルは、特定の特性を有するタンパク質、例えばグリコシル化されたタンパク質を単離することによりプレ分画することができる。例えば、血清サンプルは、レクチンクロマトグラフィーカラム(糖に対する高い親和性を有する)にサンプルを通過させることにより、分画することができる。グリコシル化タンパク質は、レクチンカラムに結合し、非グリコシル化タンパク質はフローとともに通過する。次にグリコシル化タンパク質は、糖、例えばN−アセチルグルコサミンを含む溶離剤によりレクチンカラムから溶離され、更なる分析のために用いることができる。
【0072】
血清サンプルをプレ分画するのに適するアフィニティー吸着剤は、多くのタイプが存在する。サンプルをプレ分画するために使用できる別のタイプのアフィニティークロマトグラフィーの例としては、単鎖DNAスピンカラムが挙げられる。このカラムは、基本的なタンパク質又は正に帯電したタンパク質に結合する。結合したタンパク質は次に、変性剤を含む溶離剤又は高いpHの溶離剤を用いてカラムから溶離される。
このように、サンプル中のタンパク質の結合特性、あるいはサンプル中のタンパク質の特性に基づいて、サンプルの複雑度を減少させる方法はたくさんある。
【0073】
さらに他の実施の形態では、サンプルは逐次抽出プロトコルを用いて分画することができる。逐次抽出法では、サンプルから異なるタイプの生体分子を抽出するために、サンプルを一連の吸着剤に接触させる。例えば、特定のタンパク質を抽出するために、サンプルを第一吸着剤にアプライし、非吸着性タンパク質(すなわち第一吸着剤に結合しなかったタンパク質)を含む溶離液を回収する。次に、そのフラクションを第二の吸着剤に接触させる。これにより、様々なタンパク質がフラクションからさらに抽出される。この第二のフラクションは、次に第三の吸着剤に接触させ、同様にして、逐次溶離液を次の吸着剤に接触させる。
【0074】
サンプルの逐次抽出を実行するために、任意の適切な物質及び方法を用いることができる。例えば、異なる吸着剤からなる一連のスピンカラムを用いることができる。他の例では、底に異なる吸着剤を含むマルチウェルを用いることができる。他の例では、気相イオン分光分析装置の使用に適応したプローブの表面が、生体分子に結合するための吸着剤からなるプローブ上で逐次抽出を実行することができる。本実施の形態では、当該プローブ上で第一吸着剤にサンプルをアプライし、次に溶離剤でそれを洗浄する。第一吸着剤に結合しないマーカーは、溶離剤で除去される。このフラクション中に存在するマーカーは、当該プローブ上の第二吸着剤にアプライすることができ、同様にして、逐次溶離液を次の吸着剤にアプライする。気相イオン分光分析装置のプローブ上で逐次抽出を行う長所は、気相イオン分光分析装置を用いて、逐次抽出プロトコルの各ステージにおいて様々な吸着剤と結合するマーカーを直接分析することができることである。
【0075】
さらに他の実施の形態では、高分解能電気泳動法、例えば一次元又は二次元ゲル電気泳動法により、サンプル中の生体分子を分離することができる。マーカーを含むフラクションを単離することができ、気相イオン分光分析法によりさらにそれを分析することができる。1種以上のマーカーを含む生体分子スポットの二次元アレイを作成するために、二次元ゲル電気泳動法を用いるのが好ましい(例えば、Jungblut and Thiede,Mass Spectr.Rev.16:145−162(1997)参照)。
【0076】
二次元ゲル電気泳動法は、当該技術分野で公知の方法を用いて実行することができる(例えば、Deutscher ed.,Methods In Enzymology vol.182.参照)。典型的には、サンプル中の生体分子は、例えば等電点電気泳動法によって分離される。その間、正味荷電がゼロ(すなわち等電点)であるスポットに達するまでpH勾配によってサンプル中の生体分子が分離される。この第一分離工程により、生体分子の一次元アレイが得られる。一次元アレイの生体分子は、第一分離工程で使用したものと一般に異なる技術を用いてさらに分離される。例えば、第二の様相では、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS−PAGE)の存在下でポリアクリルアミドゲル電気泳動法のようなポリアクリルアミドゲルを用いて、等電点電気泳動法により分離された生体分子をさらに分離する。SDS−PAGEゲルは、生体分子の分子質量に基づいてさらに分離することができる。典型的には、二次元ゲル電気泳動法は、複合混合物内の1,000〜200,000Daの範囲の分子質量における化学的に異なる生体分子を分離することができる。
【0077】
二次元アレイでの生体分子は、当該技術分野で公知である任意の適切な方法を用いて検出することができる。例えば、ゲル中の生体分子は、標識又は染色(例えばクマシーブルー又は銀染色)することができる。ゲル電気泳動により、1種以上の本発明のマーカーの分子量に相当するスポットが生成されるならば、そのスポットを、気相イオン分光分析法によりさらに分析する。例えば、スポットをゲルから切り取り、気相イオン分光分析法によりそれを分析する。あるいは、電界を与えることにより、生体分子を含むゲルを不活性膜に移すこともできる。次に、マーカーの分子量にほぼ相当する膜上のスポットを気相イオン分光分析法により分析することができる。気相イオン分光分析法では、スポットは、MALDIやSELDI(例えばProteinChip(登録商標)アレイを用いて)のような任意の適切な技術を用いて分析することができる。
【0078】
気相イオン分光分析の前に、プロテアーゼ(例えばトリプシン)のような切断剤を用いて、スポット中の生体分子をより小さいフラグメントに切断するのが望ましいかもしれない。生体分子を小断片に消化することにより、スポット中の生体分子のマスフィンガープリントが供与され、これは必要ならば、マーカーの同一性を決定するために使用することができる。
さらに他の実施の形態では、極性、帯電、サイズのような異なる物理的特性に基づいてサンプル中の生体分子の混合物を分離するために、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いることができる。HPLC装置は、典型的には移動相の貯蔵槽、ポンプ、インジェクター、分離カラム及び検出器より構成される。サンプル中の生体分子は、サンプルのアリコットをカラムに注入することにより分離される。混合物中の異なる生体分子は、移動液相と固定相との間の分配挙動が異なるために、異なる速度でカラムを通過する。1種以上のマーカーの分子量及び/又は物理的特性に相当するフラクションを収集することができる。このフラクションは、次にマーカーを検出するために気相イオン分光分析法により分析することができる。例えば、以下で詳しく説明するMALDI又はSELDI(例えばProteinChip(登録商標)アレイを用いて)のいずれか一方を用いて、当該スポットを分析することができる。
【0079】
状況に応じて、マーカーは、その分解能を改善するためもしくはその同一性を決定するために、分析前に改変することができる。例えば、当該マーカーは、分析前にタンパク質分解させてもよく、任意のプロテアーゼを用いることができる。トリプシンのようなプロテアーゼは、マーカーを不連続の数のフラグメントに切断することが多いので、特に有用である。消化により生成したフラグメントは、マーカーのフィンガープリントとして機能し、これにより間接的にそれらを検出することができる。これは、同じような分子質量を有するマーカーが複数存在し、問題となっているマーカーが混同されるかもしれない場合に、特に有用である。また、より小さいマーカーの方が質量分析により簡単に分離されるので、タンパク質分解による断片化は、高分子量のマーカーにも有用である。他の例では、検出分解能を改善するために、生体分子を改変することができる。例えば、陰イオン性吸着剤(例えば陽イオン交換ProteinChip(登録商標)アレイ)への結合を改善するため及び検出分解能を改善するために、糖タンパク質から末端シアル酸残基を除去するためにノイラミニダーゼを用いることができる。他の例では、さらにマーカーを識別できるように、分子マーカーと特異的に結合する特定の分子量のタグを結合させることにより、マーカーを改変することができる。状況に応じて、そのような改変されたマーカーを検出した後、改変されたマーカーの物理化学的特性をプロテインデータベース(例えばSwissProt)において適合させることにより、マーカーの同一性をさらに決定することができる。
【0080】
III.マーカーの捕捉
バイオマーカーは、本明細書に記載された任意のバイオチップ、マルチウェルマイクロタイタープレート、又は樹脂のような固体の担体に固定化された捕捉試薬を用いて捕捉されるのが好ましい。特に、本発明のバイオマーカーは、SELDIプロテインバイオチップ上に捕捉されるのが好ましい。捕捉は、クロマトグラフの表面上か生体特異的表面上で行うことができる。本発明のバイオマーカーを捕捉し、検出するために、反応性表面からなる任意のSELDIプロテインバイオチップを用いることができる。しかし、本発明のバイオマーカーは、固定化金属キレートによく結合する。従って、Cu2+やNi2+のような遷移金属イオンをキレート化により吸着するニトリロ酢酸官能基を有するIMAC−3及びIMAC−30バイオチップが、本発明のバイオマーカーを補足する好ましいSELDIバイオチップである。SELDIバイオチップもまた、当該バイオマーカーを特異的に捕捉する抗体を用いて誘導体化することができる、あるいは免疫グロブリンに結合するプロテインAやプロテインGのような捕捉試薬を用いて誘導体化することができる。次に、特定の抗体を用いて溶液中のバイオマーカーを捕捉することができ、その捕捉されたマーカーは、捕捉試薬を介してチップ上で単離することができる。
【0081】
一般に、血清のような、バイオマーカーを含むサンプルを、バイオチップの活性表面上に結合させるために十分な時間、サンプルを配置する。次に、リン酸緩衝生理食塩水のような適切な溶離剤を用いて結合しなかった分子を表面から洗浄する。一般に、溶離剤がより厳しいものであるほど、タンパク質は洗浄後でも保持されているようにより堅く結合していなければならない。次に、その保持されたタンパク質バイオマーカーは適切な方法により検出することができる。
【0082】
IV.マーカーの検出及び特徴づけ
A.分光分析法
プロテインバイオチップの表面に捕捉された検体は、当該技術分野に公知である任意の方法により検出することができる。この方法としては、例えば質量分析法、蛍光法、表面プラズモン共鳴法、偏光解析法及び原子間力顕微鏡法が挙げられる。質量分析法、特にSELDI質量分析法が、本発明のバイオマーカーの検出に対し特に有用な方法である。好ましくは、レーザー脱離飛行時間型質量分析計を本発明の実施の形態で用いる。
【0083】
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化質量分析法、すなわちMALDI−MSは、しばしばマトリックスと呼ばれる、プローブの表面からタンパク質をそのまま脱離させるためのエネルギー吸収分子を用いる質量分析法である。MALDIは、例えば米国特許第5,118,937号明細書(Hillenkamp et al.)及び米国特許第5,045,694号明細書(Beavis and Chait)に記載されている。MALDI−MSでは、サンプルは典型的にはマトリックス物質と混合され、不活性プローブの表面に配置される。模範的なエネルギー吸収分子としては、ケイヒ皮酸誘導体、シナピン酸(SPA),シアノ−ヒドロキシ−ケイ皮酸(CHCA)及びジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。他の適切なエネルギー吸収分子は、当業者に公知である。マトリックスは乾燥させ、検体分子を封入する結晶を形成させる。次にその検体分子をレーザー脱離/イオン化質量分析法により検出する。MALDI−MSは、上記の調製方法を用いてサンプルの複雑度がかなり減少されれば、本発明のバイオマーカーを検出するのに有用である。
【0084】
表面増強レーザー脱離/イオン化質量分析法、すなわちSELDI−MSは、複合混合物中に存在するタンパク質のような生体分子を分画及び検出するためのMALDIにおける改良体に相当し、本発明の好ましい方法である。SELDIは、プロテインバイオチップに結合した捕捉試薬を用いてそのプロテインバイオチップの表面にタンパク質のような生体分子を捕捉する質量分析法である。典型的には、結合しない分子は、検査する前にプローブの表面から洗浄する。SELDI技術は、ProteinChip(登録商標)システムの一部として、サイファージェン・バイオシステムズ社、フレモント、カリフォルニア州から入手できる。ProteinChip(登録商標)アレイはSELDIでの使用に特に適応している。SELDIは、例えば米国特許第5,719,060号明細書(”Method and Apparatus for Desorption and Ionization of Analytes”,Hutchens and Yip,1998年2月17日)、米国特許第6,225,047号明細書(”Use of Retentate Chromatography to Generate Difference Maps”,Hutchens and Yip,2001年5月1日)及びWeinbergerらの Encyclopedia of Analytical Chemistry, R.A.Meyers,ed.,pp11915−11918 John Wiley & Sons Chichester,2000中の“Time−of−flight mass spectrometry”に記載されている。
【0085】
基質表面上のマーカーは、気相イオン分光分析法を用いて脱離及びイオン化することができる。気相イオン分光分析計は、基質上のマーカーを分解することができれば、任意の適切なものを使用することができる。好ましくは、気相イオン分光分析計はマーカーの定量ができるものである。好ましくは、プロテインバイオチップ上に捕捉されたマーカーは、本明細書に記載されているレーザー脱離飛行時間型質量分析計を用いて検出される。
レーザー脱離質量分析法では、マーカーを含む基質又はプローブはインレットシステムに導入される。マーカーはイオン源からのレーザー光により気相中に脱離及びイオン化される。生成されたイオンは、イオン・オプティック・アセンブリ(ion optic assembly)により収集され、次いで飛行時間型質量分析計において、イオンは短時間の高圧領域を通って加速され、高真空チャンバーへと漂流される。高真空チャンバーの末端部では、この加速されたイオンが高感度の検出器の表面を異なる時間に衝突する。この飛行時間はイオンの質量における機能なので、帯電率に対する特定の質量のマーカーの有無を確認するために、イオンが形成されてからイオン検出器に衝突するまでの経過時間を利用することができる。
【0086】
他の実施の形態では、マーカーを検出するためにイオン移動度分光計を用いることができる。イオン移動度分光計の原理は、このイオンの異なる移動度に基づいている。具体的に、イオン化により生成されたサンプルのイオンは、例えば質量、帯電あるいは形状の違いにより、電界の影響を受けた管の中を異なる速度で移動する。このイオン(典型的には電流の形の)は検出器に登録され、それはその後マーカーあるいはサンプル中の他の物質を同定するために使用することができる。イオン移動度分光法の長所は、常圧で操作が可能であることである。
さらに他の実施の形態では、マーカーを検出し、特徴付けるために全イオン電流測定装置を用いることができる。この装置は、基質が1種のマーカーのみを有する場合に使用することができる。1種のマーカーが基質上にある場合、イオン化されたマーカーから生成された全電流は、マーカーの量及び他の特徴を反映する。マーカーより生成された全イオン流は、次にコントロール(例えば公知の化合物の全イオン流)と比較することができる。マーカーの量及び他の特徴は次に決定することができる。
【0087】
B.免疫測定法
他の実施の形態では、サンプル中のマーカーを検出及び分析するために免疫測定法を用いることができる。この方法は、(a)マーカーに特異的に結合する抗体を提供すること;(b)サンプルをその抗体に接触させること;及び(c)そのサンプルについてそのマーカーに結合した抗体の複合体の有無を検出することからなる。
マーカーに特異的に結合する抗体を調製するために、精製されたマーカー又はその核酸配列を用いることができる。マーカーについての核酸配列及びアミノ酸配列は、これらのマーカーをさらに特徴付けることによって入手することができる。例えば、各マーカーは、多くの酵素(例えばトリプシン、V8プロテアーゼなど)を用いてマッピングされたペプチドにすることができる。各マーカーから消化により生成されたフラグメントの分子量を用いてSwissProtデータベースのようなデータベースを検索し、その各種酵素により生成された消化フラグメントの分子量と一致する配列を得ることができる。この方法を用いて、他のマーカーの核酸及びアミノ酸の配列を、もしそのマーカーがデータベースにおける公知のタンパク質ならば、同定することができる。
【0088】
あるいは、プロテイン・ラダー・シークエンス法を用いてタンパク質の塩基配列を決定することができる。プロテイン・ラダーは、例えば分子を断片化し、そのフラグメントを酵素消化することにより、あるいはフラグメントの末端から単一アミノ酸を連続的に除去する他の方法により作成することができる。プロテイン・ラダーの作成方法は、例えば国際公開第WO 93/24834号明細書(Chait et al.)及び米国特許第5,792,664号明細書(Chait et al.)に記述されている。ラダー・フラグメントは、次に質量分析法により分析される。ラダー・フラグメントの質量の差により、分子の末端から除去されたアミノ酸が同定される。
【0089】
マーカーがデータベースにおいて未知のタンパク質ならば、核酸及びアミノ酸の配列は、たとえマーカーの一部のアミノ酸配列でもその知識を用いて決定することができる。例えば、マーカーのN末端アミノ酸配列に基づいて変性プローブを作成することができる。これらのプローブを用いて、次に、マーカーを最初に検出したサンプルから作成したゲノムライブラリーあるいはcDNAライブラリーをスクリーニングすることができる。陽性クローンを同定し、増幅し、そしてよく知られた方法を用いて組み換えDNA配列をサブクローニングすることができる(例えば、Current Protocols for Molecular Biology(Ausubel et al.,Green Publishing Assoc.and Wiley−Interscience 1989)、及びMolecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd Ed.(Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Laboratory,NY 2001)参照)。
【0090】
当該技術分野で公知である任意の適切な方法を用いて、精製されたマーカー又はその核酸配列を使用し、マーカーに特異的に結合する抗体を作成することができる(例えば、Coligan,Current Protocols in Immunology(1991);Harlow & Lane, Antibodies:A Laboratory Manual(1988);Goding, Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2d ed.1986);及びKohler & Milstein,Nature 256:495−497(1975)参照)。このような方法には、ファージあるいは同様のベクターを用いて、組み換え抗体のライブラリーから抗体を選択することにより抗体を作成する方法、及び免疫ラット又は免疫マウスによりポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体を作成する方法が含まれるが、これに限定されない(例えば、Huse et al.,Science 246:1275−1281(1989);Ward et al.,Nature 341:544−546(1989)参照)。
【0091】
抗体が提供された後は、当該技術分野に公知である任意の適切な免疫結合法(immunological binding assay)を用いてマーカーを検出及び/又は定量することができる(例えば、米国特許第4,366,241;4,376,110;4,517,288;及び4,837,168号明細書参照)。有用な測定法としては、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)のような酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA),ウエスタンブロット法及びスロットブロット法が挙げられる。これらの方法もまた、例えば、Methods in Cell Biology:Antibodies in Cell Biology,volume 37(Asai,ed.1993);Basic and Clinical Immunology (Stites & Terr,eds.,7th ed.1991);及びHarlow & Lane,supraに記述されている。
【0092】
一般に、被験動物から得られたサンプルは、マーカーと特異的に結合する抗体に接触させることができる。状況に応じて、抗体は洗浄及び次の工程である複合体の単離を容易にするために、抗体とサンプルを接触させる前に抗体を固体の担体に固定することができる。固体の担体としては、例えばマイクロタイタープレート、スティック、ビーズ、あるいはマイクロビーズの形状のガラスあるいはプラスチックが挙げられる。また、抗体は上記のプローブ基質又はProteinChip(登録商標)アレイに結合させることもできる。サンプルは、好ましくは被験動物から採取した生体液である。生体液のサンプルとしては、例えば血液、血清、血漿、乳頭吸引液、尿、涙、唾液などが挙げられる。好ましい実施の形態では、生体液は血清からなる。このサンプルは、抗体と接触させる前に、適切な溶離剤で希釈することができる。
【0093】
サンプルを抗体とともにインキュベートした後は、この混合物を洗浄し、形成された抗体とマーカーの複合体を検出することができる。これは、洗浄した混合物を検出試薬とともにインキュベートすることにより遂行することができる。この検出試薬は、例えば検出可能なラベルで標識された二次抗体でもよい。模範的な検出可能なラベルとしては、電磁ビーズ(例えばDYNABEADS(登録商標))、蛍光色素、放射標識、酵素(例えばホースラディシュペルオキシダーゼ、アルカリ・ホスファターゼ及びELISAで一般に使用される他の酵素)、及び金コロイド、着色ガラス、プラスチックビーズのような比色標識(colorimetric label)が挙げられる。あるいは、結合したマーカー特異的抗体を検出するために、例えば二次の標識抗体を使用する間接的測定法を用いて、及び/又は、例えば、マーカーの特有のエピトープと結合するモノクローナル抗体を混合物とともに同時にインキュベートする競合試験法又は阻止試験法を用いてサンプル中のマーカーを検出することができる。
【0094】
これらのアッセイの間、それぞれの試薬を組み合わせた後は、インキュベーション及び/又は洗浄工程を要するかもしれない。インキュベーション工程は、約5秒から数時間までと様々であり、好ましくは、約5分から約24時間である。しかし、インキュベーション時間はアッセイフォーマット、マーカー、溶液の量、濃度等に応じて変わる。アッセイは10℃〜40℃のような温度範囲にわたって実行することができるが、通常は常温で行われる。
免疫測定法は、サンプル中のマーカーの有無及びサンプル中のマーカーの量を決定するために用いることができる。まず、サンプル中のマーカーのテスト量を上記の免疫測定法を用いて検出することができる。もしマーカーがサンプル中に存在するならば、上記の適切なインキュベーション条件下でマーカーに特異的に結合する抗体を用いて、抗体とマーカーの複合体が形成される。抗体とマーカーの複合体の量は、標準品と比較することにより決定することができる。標準品は、例えば公知の化合物あるいはサンプル中に存在することが公知である他のタンパク質とすることができる。上記のように、マーカーのテスト量は、その測定単位がコントロールと比較することが可能ならば、絶対単位で測定する必要は無い。
【0095】
サンプルについてのこれらのマーカーを測定する方法は、多くの用途がある。例えば、ヒト癌の診断又は予後診断を補助するために、1種以上のマーカーを測定することができる。他の例では、癌の治療に対する被験動物の反応をモニターするために、このマーカーの検出方法を用いることができる。他の例では、インビボあるいはインビトロにおけるこれらのマーカーの発現を調節する化合物を測定するため及び同定するために、このマーカーを検出する方法を使用することができる。好ましい例では、腫瘍の進行における異なる段階を識別するためにバイオマーカーが使用され、従って、適切な治療及び腫瘍の転移の度合いを決定するのに役立つ。
【0096】
V.データ分析
質量分析によるデータ作成は、イオン検出器によりイオンを検出することから始まる。典型的なレーザー脱離質量分析計は337.1nmの窒素レーザーを使用することができる。有用なパルス幅は約4ナノ秒であり、一般に約1〜25Jの出力が使用される。検出器に衝突するイオンは電位を生成し、それはアナログ信号をデジタル化して捕集する高速時間配列記録装置によりデジタル化される。サイファージェンのProteinChip(登録商標)システムは、これを実行するためにアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)を使用する。ADCは、一定時間ごとに検出器のアウトプットを時間依存性ビン(time−dependent bins)に統合する。時間間隔は、典型的には1から4ナノ秒である。さらに、最終的に分析される飛行時間スペクトルは、典型的にはサンプルに対するイオン化エネルギーの単一パルスからの信号ではなく、多数のパルスからの信号の合計を表す。これはノイズを減少させ、ダイナミック・レンジを増加させる。この飛行時間データは、次にデータ処理される。サイファージェンのProteinChip(登録商標)ソフトウェアでは、データ処理は典型的には、TOFからM/Zへの変換、ベースライン減算、高周波ノイズフィルタリングを含む。
【0097】
TOFからM/Zへの変換は、飛行時間を質量電荷比(M/Z)に変換するアルゴリズムの適用に関連する。この工程では、信号は、タイム・ドメインからマス・ドメインに変換される。すなわち、各飛行時間は、質量電荷比(M/Z)に変換される。キャリブレーションは内部からあるいは外部から行うことができる。内部キャリブレーションでは、分析されるサンプルに、公知のM/Zの検体が1種以上含まれる。これらの集団の検体を表す飛行時間における信号ピークに、公知のM/Zが付与される。これらの付与されたM/Z比に基づいて、飛行時間をM/Zに変換する数学関数によってパラメータが算出される。外部キャリブレーションでは、事前の内部キャリブレーションによって作成されたような飛行時間をM/Zに変換する関数が、内部キャリブラント(internal calibrant)を使用しないで飛行時間スペクトルに適用される。
【0098】
ベースライン減算は、スペクトルを乱す、人工的で再現可能な装置のオフセットを排除することによりデータの定量化を改善する。これは、ピーク幅のようなパラメータを組み入れるアルゴリズムを用いてスペクトルベースラインを算出し、次にマススペクトルからそのベースラインを差し引くことに関連する。
高周波ノイズ信号は、平滑化関数を適用することにより排除される。典型的な平滑化関数は、移動平均機能を各時間依存性ビン(time−dependent bin)に適用される。改良版では、移動平均フィルターは、例えばピークバンド幅の関数としてフィルターのバンド幅が異なる可変幅のデジタルフィルターであり、一般に飛行時間が増加するにつれて広くなる(例えば、国際公開第WO 00/70648号明細書、2000年11月23日(Gavin et al.,“Variable Width Digital Filter for Time−of−flight Mass Spectrometry”)参照)。
【0099】
コンピュータは、得られたスペクトルを、ディスプレイのための様々なフォーマットに変換することができる。「スペクトル図又は保持マップ(spectrum view or retentate map)」と呼ばれる一つのフォーマットでは、標準スペクトル図を表示することができ、その中でその図は、特定の分子量ごとに検出器に到達した検体の量を示す。「ピークマップ」と呼ばれる他のフォーマットでは、スペクトル図からピークの高さ及び質量の情報のみが保持され、よりきれいな画像を生み出し、ほぼ同じ分子量を持つ検体をより簡単に認識することができる。「ゲル図」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、それぞれのピークの高さに基づいて、ピーク図からのそれぞれの質量を濃淡画像に変換することができ、その結果、外観が電気泳動ゲル上のバンドのように見える。「3Dオーバーレイ」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、相対的なピークの高さのわずかな変化を観察するために、いくつかのスペクトルを重ね合わせることができる。「相違マップ図」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、独特の検体及びサンプル間において上方制御あるいは下方制御される検体を簡便に強調表示することにより、2つ以上のスペクトルを比較することができる。
【0100】
分析は一般に、検体からの信号を表すスペクトルにおけるピークの同定に関連する。ピークの選択は、もちろん視覚的に行うことができる。しかし、ピークの検出を自動化することができるサイファージェンのProteinChip(登録商標)ソフトウェアの一部としてソフトウェアを利用することができる。一般に、このソフトウェアは、選択された閾値よりも高い信号対雑音比を持つ信号を同定し、ピーク信号の中心にあるピークの質量を標識することにより機能する。一つの有用な適用では、選択されたある割合のマススペクトル中に存在する同一のピークを同定するために、多くのスペクトルが比較される。このソフトウェアの一つのバージョンは、指定された質量範囲内の様々なスペクトル中に現れた全てのピークを集めて、質量(M/Z)集団の中間点に近い全てのピークに、質量(M/Z)を付与する。
【0101】
1つ以上のスペクトルからのピークデータは、例えば、各行が特定のマススペクトルを表し、各列がその質量により規定されたスペクトルのピークを表し、各セルがその特定のスペクトルにおけるピークの強度を含む集計表を作製することにより、さらに分析することができる。様々な統計的アプローチ又はパターン認識的アプローチをそのデータに適用することができる。
本発明の実施の形態で生成されたスペクトルは、分類モデルを使用するパターン認識処理を用いて分類することができる。一般に、スペクトルは少なくとも二つの異なるグループからのサンプルを表し、そのための分類アルゴリズムが探求される。そのグループは、例えば病的対非病的(例えば、癌対非癌)、薬物反応者対薬物非反応者、毒性反応対非毒性反応、病期が進行する人対病期が進行しない人、表現型条件がある人対表現型条件がない人等が挙げられる。
【0102】
ある実施の形態では、「公知のサンプル」のようなサンプルを用いて生成されたスペクトル(例えばマススペクトル又は飛行時間スペクトル)から得られたデータは、次に分類モデルを「訓練(train)」するために使用することができる。「公知のサンプル」は事前に分類されたサンプルである。スペクトルから得られ、分類モデルを作成するために使用されるデータは、「トレーニングデータセット」と呼ぶことができる。いったん訓練されると、分類モデルは、未知のサンプルを用いて生成されたスペクトルから得られたデータのパターンを認識することができる。この分類モデルは、次に未知のサンプルをいくつかのクラスに分類するために使用することができる。これは、例えばある生体サンプルが、特定の生物学的条件(例えば罹患している対罹患していない)に関連しているかどうかを予測するのに有用であるかもしれない。
【0103】
分類モデルを作成するために使用されるトレーニングデータセットは、生データ又は事前に処理されたデータより構成されてもよい。ある実施の形態では、生データは飛行時間スペクトル又はマススペクトルから直接得ることができ、次いで、状況に応じて上記のようにそれを「事前に処理」してもよい。
分類モデルは、データ中に存在する目的のパラメータに基づいてデータ本体をクラスに分類しようとする任意の適切な統計的な分類(又は「学習」)法を用いて作成することができる。分類法は、教師付きでも教師なしでもどちらでもよい。教師付き分類及び教師なし分類処理の例は、Jain,“Statistical Pattern Recognition:A Review”,IEEE Transactions on Pattern Analysis and Machine Intelligence,Vol.22,No.1,January 2000に記述されている。
【0104】
教師付き分類では、公知のカテゴリーの例を含むトレーニングデータが、公知のクラスをそれぞれ規定する1セット以上の関連性を学習する学習機構に提供される。新しいデータは学習機構に適用されてもよく、次に学習された関連性を用いてその新しいデータを分類する。教師付き分類処理としては、例えば、線形回帰処理(例えば、多重線形回帰(MLR)、部分最小二乗(PLS)回帰、及び主成分回帰(PCR))、二分決定木(例えば、CART(分類木と回帰木)のような再帰的分割処理)、バックプロパゲーション・ネットワークのような人工神経ネットワーク、判別分析(例えば、ベイズ分類器(Bayesian classifier)又はフィッシャー分析)、ロジスティック分類器(logistic classifier)及びサポート・ベクトル分類器(Support vector machine)が挙げられる。
【0105】
好ましい教師付き分類法は、再帰的分割処理である。再帰的分割処理は、未知のサンプルから得られるスペクトルを分類するために再帰的分割木が用いられる。再帰的分割処理については、米国特許仮出願公開第60/249,835号明細書(出願日:2000年11月16日)及び第60/254,746号明細書(出願日:2000年12月11日)及び米国特許本出願公開第09/999,081号明細書(出願日:2001年11月15日)及び第10/084,587号明細書(出願日:2002年2月25日)にさらに詳しく説明されている。これら全ての米国特許仮出願及び本出願は、あらゆる目的で、本明細書にそのまま参照として取り込まれる。
【0106】
他の実施の形態では、作成される分類モデルを、教師なし学習法を用いて作成することができる。教師なし分類法は、トレーニングデータセットが得られたスペクトルを事前に分類しないで、トレーニングデータセットにおける類似性に基づいて分類法を学習しようとする。教師なし学習法はクラスター分析を含む。クラスター分析はデータを「集落(クラスター)」すなわち、理想的には互いに非常に似ており、他の集落の要素とは非常に異なっている要素を有するグループに分類しようとする。次に、データアイテム間の距離を測定するある距離メトリックを用いて類似性を測定し、互いに距離が近いデータアイテムを集めて集落にする。クラスタリングの方法としては、MacQueenのK−平均アルゴリズム及びKohonenの自己組織化マップアルゴリズムが挙げられる。
【0107】
分類モデルは、任意の適切なデジタルコンピュータ上で作成し、使用することができる。適切なデジタルコンピュータとしては、ユニックス、ウィンドウズ(登録商標)、リナックス(登録商標)ベースのオペレーティングシステムなどの、任意の標準オペレーティングシステム又は専門オペレーティングシステムを用いるマイクロコンピュータ、ミニコンピュータ及び大型コンピュータが挙げられる。使用されるこのデジタルコンピュータは、関心があるスペクトルを生成するために使用される質量分析計と物理的に分離されていてもよいし、連結されていてもよい。
本発明の実施の形態によるトレーニングデータセット及び分類モデルは、デジタルコンピュータにより実行される、あるいは使用されるコンピュータコードにより統合することができる。このコンピュータコードは、光ディスク、磁気ディスク、スティック、テープなど、任意の適切なコンピュータ可読の媒体に保存することができ、且つC,C++、ビジュアルベーシックなどの、任意の適切なコンピュータプログラミング言語で書き込むことができる。
【0108】
マーカーの脱離及び検出により作成されたデータは、任意の適切な手段を用いて分析することができる。一つの実施の形態では、プログラム可能なデジタルコンピュータを利用して、データが分析される。コンピュータプログラムは一般にコードを保存する可読媒体を含む。あるコードは、プローブ上のそれぞれの特徴づけるものの場所、その特徴づけるものに対する吸着剤の同一性及びその吸着剤を洗浄するために用いられる溶離条件を含むメモリーに専念することができる。また、コンピュータもインプットとして、プローブ上の特定のアドレス可能な場所から受け取る、様々な分子質量に対する信号の強度に関するデータを受け取るコードを含む。このデータは、各マーカーにより生成された信号の強度を含み、検出されたマーカーの数を示すことができる。
【0109】
データ分析は、検出されるマーカーの信号強度(例えばピークの高さ)を決定する工程及び「外れ値」(所定の統計的分布から逸脱したデータ)を取り除く工程を含むことができる。観察されたピークは正規化することができ、それによりある基準に対するそれぞれのピークの高さが算出される。例えば、基準は装置や化学物質(例えばエネルギー吸収分子)により生成されたバックグラウンドノイズとすることができる。これはスケールにおいてゼロに設定される。次に各マーカー又は他の生体分子について検出された信号強度を所望のスケール(例えば100)における相対強度の形で表示することができる。あるいは、サンプルについて標準品(例えば血清タンパク質)を承認し、各マーカー又は他の検出されるマーカーについて観察される信号の相対強度を算出するために、その標準品のピークを基準として用いることができる。
【0110】
コンピュータは、得られたデータを、ディスプレイのための様々なフォーマットに変換することができる。「スペクトル図又は保持マップ(spectrum view or retentate map)」と呼ばれる一つのフォーマットでは、標準スペクトル図を表示することができ、その中でその図は、特定の分子量ごとに検出器に到達したマーカーの量を示す。「ピークマップ」と呼ばれる他のフォーマットでは、スペクトル図からピークの高さ及び質量の情報のみが保持され、よりきれいな画像を生み出し、ほぼ同じ分子量を持つマーカーをより簡単に認識することができる。「ゲル図」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、それぞれのピークの高さに基づいて、ピーク図からのそれぞれの質量を濃淡画像に変換することができ、その結果、外観が電気泳動ゲル上のバンドのように見える。「3Dオーバーレイ」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、相対的なピークの高さのわずかな変化を観察するために、いくつかのスペクトルを重ね合わせることができる。「相違マップ図」と呼ばれるさらに他のフォーマットでは、独特のマーカー及びサンプル間において上方制御あるいは下方制御されるマーカーを簡便に強調表示することにより、2つ以上のスペクトルを比較することができる。任意の二つのサンプルからのマーカープロファイル(スペクトル)は、視覚的に比較してもよい。さらに他のフォーマットでは、スポットファイア・スキャタ・プロット(Spotfire Scatter Plot)を用いることができ、これは検出されるマーカーを点でプロットし、プロットの一つの軸は検出されたマーカーの見かけの分子を示し、他方の軸は検出されたマーカーの信号強度を示す。それぞれのサンプルについて、検出されたマーカー及びサンプル中に存在するマーカーの量をコンピュータ可読媒体に保存することができる。このデータは次にコントロール(例えば、ヒト癌を検出することができない女性などのコントロール中に検出されたマーカーのプロファイル又は量)と比較することができる。
【0111】
V.被験動物の状態の決定
任意のバイオマーカーが個別的に、乳癌の状態の決定を補助するのに有用である。まず、被験動物のサンプル中の選択されたバイオマーカーを本明細書に記述した方法(例えば、SELDI IMAC−Niバイオチップ上で捕捉し、次に質量分析法により検出する)を用いて測定する。次に、その測定値を診断量又は乳癌の状態を癌に罹患していない状態から識別するコントロールと比較する。診断量は、特定のバイオマーカーが癌に罹患していない状態と比較すると、癌の状態において上方制御又は下方制御されるという本明細書での情報を反映する。当該技術分野でよく知られているように、使用される特定の診断量は、診断医の好みに応じて、診断検査の感度又は特異度が増加するように調整することができる。従って、テスト量と診断量を比較することにより、乳癌の状態が示される。
【0112】
個々のバイオマーカーは有用な診断マーカーであるが、バイオマーカーを組み合わせると、単独のマーカーよりも予測値が高くなることが分かっている。より具体的には、マーカーBC1、BC2及びBC3が、単独でも組み合わせてでも、最も高い識別力を示すバイオマーカーである。
このバイオマーカーを組み合わせて使用するためには、ロジスティック回帰アルゴリズムが有用である。テストデータより診断アルゴリズムを作成するためにUMSAアルゴリズムが特に有用である。このアルゴリズムは、Z.Zhang et al.,Applying classification separability analysis to microaary dataに開示されている。(In:Lin,SM,Johnson,KF,eds.Methods of Microarray data analysis:papers from CAMDA ’00.Boston:Kluwer Academic Publishers,2001:125−136;and Z.Zhang et al.,Fishing Expedition −a Supervised Approach to Extract Patterns from a Compendium of Expression Profiles. In Lin SM, Johnson,KF,eds.Microarray Data Analysis II:Papers from CAMDA ’01.Boston:Kluwer Academic Publishers,2002)
【0113】
学習アルゴリズムは、操作者が所望する特定の特異度及び感度に合わせた多変量分類(診断)アルゴリズムを生成する。次に、乳癌の状態を決定するためにその分類アルゴリズムを使用することができる。この方法もまた、被験動物のサンプル中の選択されたバイオマーカー(例えば、マーカーBC1、BC2及びBC3)を測定することに関連する。これらの測定値について分類アルゴリズムを実行する。分類アルゴリズムは、乳癌の状態を示す指標スコアを生成する。
【0114】
以下の実施例は、例として提供されるものであり、限定することを意図していない。今まで具体的な例を提供してきたが、上記の記述は例示であって制限的なものではない。先に説明した実施の形態における任意の1つ以上の特質は、任意の方法により、本発明の任意の他の実施の形態における1つ以上の特質と組み合わせることができる。さらに、本明細書を精査すれば、本発明における多くの変形が当業者にとって明らかとなるだろう。従って、本発明の範囲は、上記の説明を参照して決定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲を参照して、それらの同等物の全容とともに決定されるべきである。
本出願に引用された全ての出版物及び特許文献は、個々の出版物又は特許文献がそのように個別に示されているのと同程度のあらゆる目的で、その全内容は本明細書に参照として取り込まれる。各種の参考文献を本明細書に引用することにより、本出願者らは任意の特定の参考文献が本発明の「先行技術」であるとは認めない。
【0115】
実施例
概説
以下の実施例では、以下に示す材料と方法が使用された。
サンプル
遡及的血清サンプルは、臨床試験におけるジョーンズ・ホプキンス・ジョイント・コミティー(Johns Hopkins Joint Committee on Clinical Investigation)が承認したプロトコルに従って、ジョーンズ・ホプキンスの臨床化学血清バンクから入手した。本試験には、全部で169の検体が含まれた。癌グループは、異なる臨床病期(ステージ0期(n=4)、ステージI期(n=38)、ステージII期(n=37)及びステージIII期(n=24))の乳癌患者から103の血清サンプルより構成された。診断は病理学的に確認し、検体は治療前に入手した。これらの患者のうち、6名の年齢の情報が入手できなかった。残り96名の患者の年齢は34歳から87歳の範囲にわたり、中央値は56歳だった。癌に罹患していないコントロールグループは、25名の良性の乳房疾患(BN)及び41名の健康な女性(HC)からの血清より構成された。21名の健康な女性からは、正確な年齢の情報を入手できなかった。残り20名の健康な女性の年齢は39歳から57歳の範囲にわたり、中央値は45歳だった。良性状態のグループの年齢は21歳から78歳の範囲にわたり、中央値は48歳だった。全てのサンプルは、使用するまで−80℃で保存した。
【0116】
プロテインチップ分析
20μlの各血清サンプルに、30μlの8Mの尿素、1%のCHAPSを含むPBS(pH7.4)を加えた。混合液は4℃で15分間ボルテックスし、PBSで1:40の比となるように希釈した。固定化金属アフィニティーキャプチャーチップ(IMAC3)は、メーカーの使用説明書(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州)に従って、50mMのNiSOで活性化させた。50μlの希釈したサンプルを、96ウェルバイオプロセッサ(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州)を用いてプロテインチップアレイ上のスポットにそれぞれアプライした。プラットフォームシェーカー上で室温にて60分間結合させた後、100μlのPBSで5分間のアレイの洗浄を2回行い、次に100μlのdHOで2回すばやくリンスした。風乾した後、50%のアセトニトリル及び0.5%のトリフルオロ酢酸で調製した0.5μlの飽和シナピン酸(SPA)を各スポットに2回アプライした。キレート化した金属(ヒスチジン、トリプトファン、システイン又はリン酸化アミノ酸を介して)に結合したタンパク質は、PBS−IIマスリーダーで検出した。強度を240、検出器の感度を8にして、80のレーザーショットを平均化することにより、データを収集した。再現性は2つの代表的な血清サンプル(一つは健常コントロールから、もう一つは癌患者から)を用いて評価した。二つのバイオプロセッサのそれぞれにおいて、一つのIMAC−Niチップの8ベイト表面の全てに、各血清サンプルをスポットした。変動係数は、選択されたマスピークについて評価した。
【0117】
バイオインフォマティクス及び生物統計学
2K〜150K間のM/Zを有する認定されたマスピーク(S/N>5、及び0.3%のクラスター・マス・ウィンドウ(cluster mass window))を選択し、プロテインチップ・ソフトウェア3.0(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州)を用いてピーク強度を全イオン流に対して正規化した。更なる事前の処理工程は、目的のスペクトル(M/Z=2kD〜150kD)の全ての範囲にわたって、より一貫性のあるレベルのデータのばらつきを得るために、ピーク強度のデータに適用された対数変換が含まれた。
【0118】
二つの診断グループの最適な分離に対するそれぞれのピークの寄与率を計算し、ランク付けるために、ソフトウェア・パッケージ・ProPeak(3Z Informatics、サウスカロライナ州)を使用した。ProPeakは、マイクロアレイデータ分析において使用したことが最初に報告された統合最大分離可能度分析(Unified Maximum Separability Analysis(UMSA))アルゴリズムの線形バージョンを実行する(Z.Zhang et al.,Applying Classification Separability Analysis to Microarray Data,in Proc.of Critical Assessment of Techniques for Microarray Data Analysis(CAMDA ’00),Kluwer Academic Publishers,2001)。UMSAアルゴリズムの鍵となる特性は、二つのデータのクラスが最もよく分離される方向を同定するために、データ分布情報を構造的リスク最小化学習(structural risk minimization−learning)アルゴリズムに組み入れたことである(Vapnik VN, Statistical Learning Theory,John Wiley & Sons,Inc.,New York,199814)。この方向は、元の変数の一次結合(加重和)として表される。この結合におけるそれぞれの変数に割り当てられた重みは、二つのデータクラスの分離に対する変数の寄与率を測定する。
【0119】
ProPeakは3種のUMSAベースの分析モジュールを提供する。第一のモジュールは、それぞれの検体を個々の点として3次元の成分空間に投影する成分分析モジュールである。この成分(軸)は、元のスペクトルピーク強度の一次結合である。この軸は、二つの事前に規定したデータグループが最大の分離可能度を達成する方向に相当する。二つのデータグループ間の分離は、双方向性3Dディスプレイで点検することができる。第二のモジュールは、それぞれのピークについての有意性スコアを計算し、二つの事前に規定したデータグループの最大の分離に対するそれらの集積された寄与率に従ってランク付けするためのUMSAを適用するために後進ステップワイズ変数選択(backward stepwise selection)プロセスを用いるステップワイズ・セレクション・モジュールである。スコアの絶対値がデータ分離に対する相対的な重要度を表すのに対し、正のスコア及び負のスコアは、罹患グループについて相当するマスピークの発現レベルが相対的に増加した及び減少したことをそれぞれ示す。データ中の関係のないアーティファクトのみに基づいたピークの選択を避けるために、第三のProPeakのモジュール、すなわちブートストラップは、毎回両方のグループから定率のサンプルをランダムに除去する操作を複数回実行するためのUMSAを繰り返すブートストラップ手順を使用する。中央値及び平均ランク、及び相当する標準偏差がピークごとに推定される。有望なバイオマーカーは、中央値及び平均ランクが上位であり、標準偏差のランクが最小であるピークであるべきである。目的物の選択基準を確立する方法としては、同じブートストラップ手順が、実際のデータの分布をピークからピークへ順次シミュレートするランダムデータセットにも適用される。一貫性のある成績を有するピークを選択するための標準偏差のランクに関する統計的に適切なカットオフ値を設定するために、実際のデータからの結果をシミュレートされたデータからのものと比較する。
【実施例1】
【0120】
乳癌を早期段階で検出するバイオマーカーの同定
乳癌を早期段階で検出することができる有望なバイオマーカーを同定するために、ステージ0〜I期の乳癌患者からの検体のタンパク質プロファイルを癌に罹患していないコントロールのものと比較した。分析は、ProPeakの三種全てのモジュールを用い、複数回繰り返して行った。この繰り返しの過程で、元の完全なスペクトルは、二つの選択された診断グループ間の最適な分離において高レベルの有意性を一貫して実証するマスピークの小さいサブセットまでに削減された。
【0121】
バイオマーカーの小さいパネルを選択し、ステージII期及びIII期の癌患者からのデータを用いて、そのマーカーの乳癌検出能を個別的に試験した。その全部のデータセットに基づいて、多変量ロジスティック回帰を用いて複合指数を導き出した。二標本t検定からのp値を含む記述統計を推定した。次に、選択されたバイオマーカーと複合指数について受診者動作特性(ROC)曲線分析を実行した。ブートストラップ手順を用いて、感度及び特異度のような複合指数の成績評価基準を推定した(Efron B and Tibshirani R.Bootstrap Methods for Standard Errors,Confidence Intervals,and Other Measures of Statistical Accuracy.Statistical Science.1986;1:54−75)。この手順では、感度及び特異度を計算するためのロジスティック回帰及びテストセットにより複合指数を導き出すために、ランダムリサンプリングにより、患者のデータセットの全てをトレーニングセットに分割した。このリサンプリングプロセスは何度も繰り返した。感度及び特異度におけるブートストラップ推定を作成するために、複数回の実行により得られた結果を最後に集約した。
【実施例2】
【0122】
ピーク検出及びデータ処理
IMAC−Ni2+チップ上に保持された血清タンパク質は、PBS−IIマスリーダーで分析した。全部で147の2KDを超えるM/Zを有する定量化したマスピーク(S/N>5、及び0.3%のクラスター・マス・ウィンドウ(cluster mass window))を選択した。2KDに満たないM/Zのピークは、マトリックスからの干渉を排除するために除外される。オール・イン・1・プロテイン標準品(All In 1 Protein Standard(サイファージェン・バイオシステムズ社、カリフォルニア州))を用いて外部キャリブレーションにより0.1%の質量の正確性が達成された。このような分析から得られた代表的なスペクトルを図2に示す。対数変換をピーク強度値に適用した。図3のプロットは、対数変換によるばらつき低減及び同等化の効果を示す。
【実施例3】
【0123】
早期癌及び癌に罹患していないコントロールに基づくバイオマーカーの選択
乳癌を早期に検出する可能性があるバイオマーカーを同定するために、早期癌の罹患者を陽性グループ(ステージ0〜I期、n=42)及び癌に罹患していないコントロールを陰性グループ(HC+BN、n=66)として用い、UMSAを実行した。まず、147のマスピーク全ての一次結合から導き出されたUMSAを用いて、二つのグループ間の分離可能度を試験した。早期癌は、全てのタンパク質プロファイルを比較した際に、癌に罹患していないグループから分離することができた。図4Aは、UMSA成分3D空間における早期癌に罹患しているグループ(淡色)と癌に罹患していないグループ(濃色)をプロットしたものである。
一貫して良い成績を示すバイオマーカーを選択するために、ProPeakブートストラップモジュールを用いてUMSAを繰り返し適用し、毎回30%の除外率で合計100回行った。同様の手順を、シミュレートされたランダムデータセットにも適用した。シミュレートされたデータから導き出された最小標準偏差は7だった。実験データでは、15のマスピークがこの値よりも小さい標準偏差を有していた。このマスピークのサブセットは、さらに分析するために、候補バイオマーカーとして選択した。これらの平均ランク及び相当する標準偏差をプロットしたものを図4に示す。
【0124】
この削減された候補バイオマーカーのセットについて、それらのピークをさらにランク付けるために、ProPeakのステップワイズ・セレクション・モジュールを適用した。15のピーク(表4参照)における相対的有意性スコアの絶対値を降順にプロットしたものを図8Aに示す。これにより、最初の6つのピークが二つのグループ間の大部分の分離可能度に寄与していることが分かる。これらの6つのピークのうち4つが特徴的である。他の2つは、その特徴的なピークのうちの2つの二重荷電の形態であることが、ProteinChipソフトウェア3.0を用いて確認された。このピークの二重荷電の形態と1重荷電の形態の両方の認識は、それらがその選択された2つの診断グループを識別するのに重要であることを示唆する。この二重荷電の形態を取り除き、4つの特徴的なピークを再結合し、ステップワイズ・セレクションを用いて再び評価した。再び算出した相対的有意性スコアをプロットしたものを図6Bに示す。上位スコアの3つのピーク(BC1、BC2及びBC3と称される)は、最終的に乳癌の検出に有望なバイオマーカーとして選択された。BC1は下方制御(スコア値が負)され、BC2及びBC3は上方制御(スコア値が正)されているように観察された。これら3種のバイオマーカーを用いたステージ0〜I期の乳癌と癌に罹患していないコントロールとを比較する3Dプロットを図4Bに示す。
【実施例4】
【0125】
選択されたバイオマーカーの評価
これら3種のバイオマーカーの記述統計を表1に記載する。図7はROC分析の結果を示す。この3種のバイオマーカーのうち、BC3が最も個別的な診断力を示した。癌患者の臨床病期を含む診断グループにわたるBC3の寄与をプロットし、これを図8Aに示す。診断グループを識別するために、0.8のカットオフ値でBC3のみを用いた際の感度及び特異度を表2Aに記載する。
対数変換したピーク強度の推定CVは、BC1については6%、BC2については7%、そしてBC3については13%だった(データは図示せず)。この3種のバイオマーカーのうち、BC3が最も高い13%のCVを有していた。これに対し、癌患者におけるBC3の平均値は、癌に罹患していないコントロールの平均値よりもほぼ90%高かった(表1のデータの基づいて算出)。
【0126】
【表1】

【実施例5】
【0127】
3種の選択されたバイオマーカーを組み合わせた使用
図9は、ペアにしたバイオマーカーの全ての組み合わせにおける、癌に罹患していないコントロールに対する全臨床病期の癌患者の分布を比較したものである。この観察に基づいて、3種の選択されたバイオマーカーを組み合わせるために多変量ロジスティック回帰を使用し、単一値の複合指数を作成した。この複合指数の記述統計は、表1に付加する。様々な診断グループにわたる分布をプロットし、これを図8Bに示す。複合指数のROC曲線分析により、個々のバイオマーカーからのものと比較して非常に改善されたAUCが提供された(図7)。
【0128】
複合指数の診断成績を推定するためにブートストラップ・クロスバリデーションを使用した(20回実行;それぞれの実行において、複合指数を導出するために70%のサンプルをランダムに選択し、残りの30%を検査した)。推定感度及び推定特異度を表2Bに記載する。
また、pT(腫瘍サイズ)及びpN(リンパ節転移)のカテゴリーに関して、この3種の有望なバイオマーカーのレベルも評価した。有意な相関は何もみられなかった。
【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【実施例6】
【0131】
ProteinChip(登録商標)アレイ及びSELDI−質量分析法を用いた血清プロテオミクスの分析による乳房の上皮内癌の検出
乳癌を有している及び有していない女性からの169の血清サンプルのタンパク質プロファイルを分析し、3種のタンパク質(8.9KD、8.1KD、4.3KD)のパネルが、組み合わせて使用することにより、高い感度(ステージ0〜III期:93%)及び高い特異度(健康なコントロール+良性:91%)で乳癌を検出することができることを確認した。この3種のマーカーのうち、8.9KDのタンパク質が最も良い成績を示し、85%の感度及び91%の特異度を達成した。
【0132】
非浸潤性乳管癌(DCIS)及び上皮内小葉癌(LCIS)は、非浸潤性乳癌における最初期の形態(ステージ0期)である。この早期において乳癌であると診断された女性はほとんど100%治療することができる。乳癌の早期検出についてこれらのマーカーをバリデートするために、共同研究している機関により収集された血清を用いてこの3種の事前に同定されたバイオマーカーの能力を評価した。このサンプル集団は、17名のDCISを有する女性、1名のLCISを有する女性、8名の良性乳癌を有する女性及び40名の年齢をマッチングした、外見上健康なコントロール(45〜65歳)から構成された。タンパク質プロファイルは、IMAC−Ni(固定金属アフィニティーキャプチャー)プロテインチップアレイを用い、上記と同じ実験条件下で3つ作成した。二標本t検定を用いて、3種のタンパク質のそれぞれについての対数の相対強度を異なる診断グループ間で比較した。3つのマーカーのうち二つ(8.9KD及び8.1KD)の発現パターンは前の結果と一致した。これら2つのバイオマーカーのp値及びROC曲線下面積を表3にまとめた。
【0133】
【表4】

【0134】
本発明を特定の実施の形態を参照して詳しく説明したが、当然のことながら、当業者はこの開示を考慮して、本発明の精神及び範囲内で改変を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1A〜NはマーカーI〜XIVのマススペクトルをそれぞれ示したものである。これらの図の中で、指定されたマーカーのマススペクトルピークは、矢印で示されたスペクトルの範囲内に示される。図の表示は、参照されるスペクトルの上にそれぞれ配置される。
【図2】IMAC−Ni2+チップ上に保持された血清タンパク質のSELDI分析より得られた代表的な質量ピークスペクトルを示したものである。上段はスペクトル図を示し、下段は4,000〜10,000間のM/Z(質量依存速度)の同じスペクトルにおける疑似ゲル図を示す。
【図3】データのばらつきの削減及び平衡化における対数変換の結果を示したものである。
【図4】癌に罹患していないコントロール(白抜き四角)に対する乳癌(黒い四角)のステージ0〜I期についての三次元UMSA成分プロットを示したものである。 図4Aは、全147ピークにおける線形結合より導き出されたUMSAを用いて達成された分離の結果を示したものである。 図4Bは、三つの選択されたピークを用いた線形結合より導き出されたUMSAを用いて達成された分離の結果を示したものである。
【図5】ProPeakブートストラップ分析より導き出された上位の平均ランクと最小ランクの標準偏差を持つ15のピークを示すグラフである。7.0にある横線は、ランダムに作成した、元のデータの分布をシミュレートするデータセットに同じ手順を適用させて計算した最小ランクの標準偏差である。
【図6】ステージ0〜I期の乳癌と癌に罹患していないコントロールとの間の分離に対する寄与に基づいて選択されたピークについての相対的有意性スコアの絶対値のプロットを示すグラフである。 図6Aは、ProPeakブートストラップ分析より選択された、ランク標準偏差が7.0より小さい、15ピークの結果を示したものである。 図6Bは、図5Aより選ばれた上位4ピークを再評価したスコアを示すグラフである。
【図7】BC1,BC2及びBC3の受信者動作特性(ROC)曲線分析及びロジスティック回帰より導き出された複合指数を示すグラフである。個々のバイオマーカーと複合指数とのAUC(曲線下面積)比較より得られたp値は、図中に記載した。
【図8】癌患者の臨床病期を含む全ての診断グループにわたる、選択されたバイオマーカー(又はマーカー群)の分布を示す散乱プロットである。 図8Aは、BC3のみを用いて得られた結果を示す散乱プロットである。 図8Bは、BC1,BC2及びBC3を用いた、ロジスティック回帰より導き出された複合指数の結果を示す散乱プロットである。
【図9】全ての患者サンプルの分布を表す2次元散乱プロットを示す3枚のパネルである。
【図1−A】

【図1−B】

【図1−C】

【図1−D】

【図1−E】

【図1−F】

【図1−G】

【図1−H】

【図1−I】

【図1−J】

【図1−K】

【図1−L】

【図1−M】

【図1−N】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験動物からのサンプルについて、少なくとも1種のバイオマーカーを測定すること、及び
(b)前記測定値と乳癌の状態とを相関させること、
を含んで成る被験動物の乳癌を認定する方法において、前記バイオマーカーが、
マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII
マーカーXIV
及び、これらの組み合わせ
からなる群より選択される方法。
【請求項2】
(c)前記の状態に基づいて被験動物の治療を管理することを更に含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験動物の治療を管理することが、より多くの休息を命令すること、手術を実施すること、及び更なる措置を取らないことより選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
(d)被験動物の管理後、前記少なくとも1種のバイオマーカーを測定することを更に含んで成る、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
乳癌の状態が、被験動物の癌のリスク、疾病の有無、疾病の病期、及び治療の有効性からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
測定することが、質量分析法により検出することを含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のバイオマーカーが、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、及びマーカーIII(BC3)より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
被験動物からのサンプルについて、公知の乳癌におけるバイオマーカーを測定すること、及び公知のバイオマーカーの測定値及びマーカーI〜XIVのうちのいずれか1種以上の測定値と、乳癌の状態とを相関させることを更に含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
公知のバイオマーカーが、CA15.3又はCA27.29から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、及びマーカーIII(BC3)を測定することを含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
被験動物からのサンプルについて、公知の乳癌におけるバイオマーカーを測定すること、公知のバイオマーカーの測定値及びマーカーI〜XIVのうちのいずれか1種以上の測定値と、乳癌の状態とを相関させることを更に含んで成る、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
公知のバイオマーカーが、CA15.3又はCA27.29から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
測定することが、
(a)血液又は血液由来物質の被験動物のサンプルを用意すること、
(b)サンプルからマーカーI〜XIVのうち1種以上を、タンパク質バイオマーカーと結合する捕捉試薬を含有する基質の表面に捕捉させること、
を含んで成る、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
基質が、IMAC−Ni表面を含有するSELDIプローブであり、タンパク質バイオマーカーがSELDIにより検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
基質が、マーカーI〜XIVのうち1種以上と結合する生体特異的親和性試薬を含有するSELDIプローブであり、タンパク質バイオマーカーが、SELDIにより検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
基質が、マーカーI〜XVのうち1種以上と結合する生体特異的親和性試薬を含有するマイクロタイタープレートであり、タンパク質バイオマーカーが、免疫測定法により検出される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
測定することが、バイオマーカー(又はバイオマーカー群)の有無を検出すること、そのマーカー(又はマーカー群)の量を測定すること、及びバイオマーカーのタイプを認定することから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも1種のバイオマーカーが、バイオチップアレイを用いて測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
バイオチップアレイが、プロテインチップアレイである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
バイオチップアレイが、核酸アレイである、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1種のバイオマーカーが、バイオチップアレイに固定化されている、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質バイオマーカーが、SELDIにより測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質バイオマーカーが、免疫測定法により測定される、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
相関させることが、分類アルゴリズムソフトウェアにより行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
(a)被験動物からのサンプルについて、複数のバイオマーカーを測定すること、
を含んで成る方法において、複数のバイオマーカーが、
マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
からなる群より選択される方法。
【請求項27】
複数のバイオマーカーが、マーカーI(BC1)、マーカーII(BC2)、及びマーカーIII(BC3)を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
公知のバイオマーカーを測定することを更に含んで成る、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
公知のバイオマーカーが、CA15.3又はCA27.29から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
タンパク質バイオマーカーが、SELDI又は免疫測定法により検出される、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
(a)被験動物からのサンプルについて、少なくとも1種のバイオマーカーを測定すること、を含んで成る方法において、前記バイオマーカーが、
マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
及び、これらの組み合わせ
からなる群より選択される方法。
【請求項33】
公知のバイオマーカーを測定することを更に含んで成る、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
公知のバイオマーカーが、CA15.3又はCA27.29から選択される、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
タンパク質バイオマーカーが、SELDI又は免疫測定法により検出される、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
サンプルが、血液、血清及び血漿から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項37】
(a)マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
及び、これらの組み合わせ
からなる群より選択されるバイオマーカーと結合する捕捉試薬、及び
(b)少なくとも1種の前記バイオマーカーを含有する容器、
を含んで成るキット。
【請求項38】
捕捉試薬が複数のバイオマーカーと結合するキットである、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
捕捉試薬がSELDIプローブであるキットである、請求項37に記載のキット。
【請求項40】
さらにCA15.3又はCA27.29と結合する捕捉試薬を更に含んで成る、請求項37に記載のキット。
【請求項41】
第一の捕捉試薬が結合しないバイオマーカーの一つに結合する第二の捕捉試薬を更に含んで成る、請求項37に記載のキット。
【請求項42】
(a)マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
からなる群より選択される、少なくとも1種のバイオマーカーと結合する第一の捕捉試薬、及び
(b)第一の捕捉試薬が結合しない前記バイオマーカーのうち少なくとも一種に結合する第二の捕捉試薬、
を含んで成るキット。
【請求項43】
少なくとも1種の捕捉試薬が抗体である、請求項42に記載のキット。
【請求項44】
少なくとも1種の捕捉試薬と結合する、もしくは結合できるMSプローブを更に含んで成る、請求項42に記載のキット。
【請求項45】
捕捉試薬が、固定化金属キレート(IMAC)である、請求項42に記載のキット。
【請求項46】
洗浄後、他のバイオマーカーと比較して、捕捉試薬に結合しているバイオマーカーの保持を選択的に可能にする洗浄液を更に含んで成る、請求項42に記載のキット。
【請求項47】
(a)マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
からなる群より選択される、少なくとも1種のバイオマーカーと結合する第一の捕捉試薬、及び
(b)前記バイオマーカーを検出する前記捕捉試薬の使用説明書
を含んで成るキット。
【請求項48】
捕捉試薬が抗体である、請求項47に記載のキット。
【請求項49】
捕捉試薬と結合する、もしくは結合できるMSプローブを更に含んで成る、請求項47に記載のキット。
【請求項50】
捕捉試薬が、固定化金属キレート(IMAC)である、請求項47に記載のキット。
【請求項51】
洗浄後、他のバイオマーカーと比較して、捕捉試薬に結合しているバイオマーカーの保持を選択的に可能にする洗浄液を更に含んで成る、請求項47に記載のキット。
【請求項52】
癌の検出のためのキットの使用説明書を更に含んで成る、請求項47に記載のキット。
【請求項53】
使用説明書がテストサンプルを捕捉試薬に接触させ、捕捉試薬により保持された1種以上のバイオマーカーを検出する方法を提供する、請求項52に記載のキット。
【請求項54】
(a)マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
からなる群より選択される、少なくとも2種のバイオマーカーと結合する少なくとも1種の捕捉試薬、
を含んで成る製造品。
【請求項55】
公知のバイオマーカーと結合する捕捉試薬を更に含んで成る、請求項54に記載の製造品。
【請求項56】
公知のバイオマーカーがCA15.3又はCA27.29である、請求項55に記載の製造品。
【請求項57】
(a)それぞれの捕捉試薬が、
マーカーI(BC1)
マーカーII(BC2)
マーカーIII(BC3)
マーカーIV
マーカーV
マーカーVI
マーカーVII
マーカーVIII
マーカーIX
マーカーX
マーカーXI
マーカーXII
マーカーXIII、及び
マーカーXIV
からなる群より選択される、異なるバイオマーカーと結合した複数の捕捉試薬、
を含んで成るシステム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2006−508326(P2006−508326A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−575071(P2003−575071)
【出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【国際出願番号】PCT/US2003/006850
【国際公開番号】WO2003/076896
【国際公開日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【出願人】(301059640)ジョンズ ホプキンス ユニバーシティ (34)
【Fターム(参考)】