説明

乳腺炎の処置

本発明は、エンロフロキサシンまたはシプロフロキサシンを用いる、特にウシにおける、乳腺炎の簡易処置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンロフロキサシン(enrofloxacin)またはシプロフロキサシンを用いる、特にウシの場合の、乳腺炎の簡易処置に関する。
【背景技術】
【0002】
活性化合物エンロフロキサシンは、動物の、細菌を感染源とする感染症の処置に、長年にわたり多国で成功裏に用いられてきた(Baytril(登録商標))。古典的な使用領域は本来呼吸器および腸の疾患を含むが、皮膚感染、尿路感染、乳頭感染および関節感染も成功裏に処置される。これに関する常套の処置スキームは、3ないし5日の期間にわたる反復投与を想定している。用量のサイズを維持したままで処置期間を短縮する試みは、過去に、意図する治療効力の喪失を招いた。
【0003】
US5756506は、エンロフロキサシンなどのフルオロキノロン類の単回投与を用いる感染症の処置に関する;しかしながら、この処置は顕著に高い用量を使用する。
【発明の開示】
【0004】
この度、驚くべきことに、非経腸投与されたエンロフロキサシンは、投与回数を低減でき、それにより処置が簡略化されるなどの、乳腺炎(乳房の炎症)の処置に予想外に良好な効果を有することが見出された。
【0005】
従って、本発明は、細菌を感染源とする乳腺炎の非経腸的処置用の、多くても2回投与される医薬を製造するための、エンロフロキサシンの使用に関する。
【0006】
本発明はさらに、細菌を感染源とする乳腺炎の処置方法に関し、その方法では、エンロフロキサシンを、多くても2回、対象動物に非経腸投与する。
【0007】
これにより発明が限定されることはないが、この驚くべき知見は以下の試験結果により説明できる:
投与後、エンロフロキサシンが少ない比率でシプロフロキサシンに代謝されることが、血清の動態学的試験で既に知られていた。しかしながら、エンロフロキサシンの効果は、通常、事実上本質的に同分子に起因し、その代謝物であるシプロフロキサシンには起因しない。エンロフロキサシンの非経腸投与後の牛乳中の抗菌効果を有する物質の試験に関連して、我々は、驚異的に高い割合(90%台の大きさ)のシプロフロキサシンおよび驚異的に低い割合のエンロフロキサシン(10%台の大きさ)に伴う高い抗菌活性(血清濃度と比較して活性化合物に富む)を乳中に見出した;これは、予測された比率のおおよそ逆である。インビトロの活性比較は、乳腺炎の病原体として重要な役割を果たす細菌種の場合、シプロフロキサシンはエンロフロキサシンよりも顕著に強力な効果を有することを示す。
【0008】
従って、他の実施態様によると、本発明は、乳腺炎の処置用の医薬を製造するための、シプロフロキサシンの使用に関する。
エンロフロキサシンは、体系的化学名1−シクロプロピル−7−(4−エチル−1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸を有するフルオロキノロンカルボン酸である:
【化1】

【0009】
シプロフロキサシンは、体系的化学名1−シクロプロピル−7−(1−ピペラジニル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−3−キノロンカルボン酸を有する:
【化2】

【0010】
活性化合物は、それらの医薬的に許容し得る塩、特に、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸もしくはリン酸などの無機酸、または、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸および酒石酸などの有機酸、グルコン酸、ガラクツロン酸およびグルクロン酸などのポリヒドロキシカルボン酸、グルタミン酸およびアスパラギン酸などのアミノ酸、並びにメタンスルホン酸およびエタンスルホン酸などのスルホン酸との塩の形態で、使用できる。塩の形成に適する塩基は、例えば、NaOH、KOH、Ca(OH)およびアンモニアなどの無機塩基、並びに例えばモノ−、ジ−およびトリアルキルアミン類などのアミン類、エタノールアミンなどの置換アミン類、モルホリンまたはピペラジンなどの環状アミン類、アルギニン、リジンおよびコデインなどの塩基性アミノ酸、またはN−メチルグルカミンなどの有機塩基である。活性化合物およびそれらの製造は、例えば、US4670444に記載されている。
【0011】
非経腸投与用の製剤は、同様に、原則として知られており、例えば、US4772605およびUS5998418を参照すること。これらの刊行物を出典明示により本明細書の一部とする。
乳剤、懸濁剤、特に、液剤が非経腸投与に適する。
【0012】
好ましい溶媒は、水であり、それは、必要に応じて、他の溶媒との混合物においても使用できる。これらの他の溶媒には:一価または多価の第一級または第二級または第三級アルコールなどのアルコール類(例えば、エタノール、ブタノール、ベンジルアルコール、グリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールおよびプロピレングリコール)並びにN−メチルピロリドンが含まれる。
【0013】
しかしながら、油を基材とした製剤を構想することも可能である;これらは、通常は懸濁剤である。本発明による製剤中、活性化合物は、一般的に、0.1ないし30重量%、好ましくは0.5ないし20重量%、特に好ましくは1ないし10重量%の濃度で存在する。
【0014】
非経腸投与可能な液剤を製造するための高純度のキノロンカルボン酸の使用は、EP−A−287926に記載されている;この文書を出典明示により本明細書の一部とする。
【0015】
酸性の製剤を使用できる;好ましいpH値は、pH3ないし6.5、特に好ましくは3ないし5の範囲にある。用いる酸は、原則として塩の形成のために上記したものであり得る;好ましい例は、乳酸およびグルコノラクトンである。注射目的に適するキノロンカルボン酸、特にシプロフロキサシンの乳酸塩の液剤は、EP−A−138018に記載されている;シプロフロキサシンの他の酸性点滴用液剤は、EP−A−219784に開示されている;エンロフロキサシンの酸性注射用液剤は、US5998418に記載されている;これらの3つの文献を、出典明示により本明細書の一部とする。
【0016】
好ましいのは、等モルより過剰量の塩基を含有する塩基性製剤である;これらの製剤は、pH8ないし12.5、好ましくは9ないし12、特に好ましくは9.5ないし11.5を有する。適する塩基は、例えば、塩に関して上記したものであり、好ましくは、NaOHなどのアルカリ金属水酸化物、特にKOHである。また特に好ましい塩基はアルギニンである。これらの製剤は、例えば、US4772605により詳細に記載されている;この文書を出典明示により本明細書の一部とする。
【0017】
医薬製剤は、常套の補助物質も含み得る;これらは、希釈剤、増粘剤、吸収促進剤、吸収阻害剤、結晶成長阻害剤、錯体化剤、光安定化剤、抗酸化剤および防腐剤などの非毒性の医薬物質である。以下のものは、例として言及し得る:増粘剤として、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンおよびゼラチン;防腐剤として、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類、フェノール類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、エタノール、ブタノール、1,3−ブタンジオール、クロロヘキシジン(chlorohexidine)塩、安息香酸および塩、並びにソルビン酸;抗酸化剤として、アスコルビン酸、L−システイン、チオジプロピオン酸、チオ乳酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、メタ重亜硫酸ナトリウム(sodium metadisulphite)または亜硫酸ナトリウム;錯体化剤として、エチレンジアミンテトラ酢酸のナトリウム塩、リン酸塩、酢酸塩およびクエン酸塩;結晶成長阻害剤として、ポリビニルピロリドン。プロカイン塩酸塩またはリドカイン塩酸塩などの局所麻酔剤を、必要に応じて添加できる。用い得る可能性のある補助物質の濃度は大幅に変動し、常套の製剤では、存在する補助物質の全量で0.1ないし30重量%の範囲にあり得る。
【0018】
塩化ナトリウム、グルコース、フルクトース、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、スクロース、キシリトールまたはこれらの物質の混合物は、例えば、等張条件を確立するのに適する量で添加できる。
【0019】
原則として、細菌を感染源とする、特に大腸菌型の乳腺炎は、本発明によると、全ての哺乳動物で処置できる。しかしながら、乳生産用動物の処置は特に重要である;言及し得る好ましい例は:ヒツジ、ヤギ、および、特にウシである。以下の病原体は、特にこれに関して言及し得る:大腸菌、クレブシエラ属、エンテロバクター属、サルモネラ属、シトロバクター属、セラチア属、シゲラ属、エドワージエラ属、ハフニア属、モルガネラ属、プロビデンシア属、エルシニア属、黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌属、シュードモナス属、マイコプラズマ属、およびエルウィニア属、並びに非大腸菌型細菌に起因する乳腺の感染。
【0020】
投与は、非経腸で、通常は注射を利用して、例えば筋肉内に、好ましくは静脈内または皮下に行う。
【0021】
この処置では、1日に、体重1kg当たり1ないし10mg、好ましくは2ないし8mg、特に好ましくは2.5ないし7mgの活性化合物を通常投与する。投与は、好ましくは、2日連続して行う。通常、1日に1回の投与が必要とされるのみである。
【0022】
加えて、頻繁に起こる複合および単純感染、または例えば大腸菌およびブドウ球菌またはマイコプラズマとの複合感染は、満足に処置される。
【実施例】
【0023】
実施例
製剤の実施例
以下の実施例の製剤を、本発明に従い用いることができる。それらの製造は、先行技術で開示されている:
実施例1
100mlは、以下を含有する:
エンロフロキサシン10.0g
グルコノラクトン8.0g
ベンジルアルコール1.40g
亜硫酸ナトリウム0.1g
水(注射用)86.7g
pH=3.90
【0024】
実施例2
100mlは、以下を含有する:
エンロフロキサシン5.0g
グルコノラクトン3.0g
ベンジルアルコール1.00g
亜硫酸ナトリウム0.1g
水(注射用)93.6g
pH=4.40
【0025】
実施例3
100mlは、以下を含有する:
エンロフロキサシン5.0g
n−ブタノール3.0g
pH11までのKOH
水(注射用)適量(q.s.)
【0026】
実施例4
100mlは、以下を含有する:
エンロフロキサシン10.0g
n−ブタノール3.0g
pH11までのKOH
水(注射用)適量
【0027】
実施例5
100mlは、以下を含有する:
エンロフロキサシン10.0g
n−ブタノール3.0g
ベンジルアルコール2.0g
L−アルギニン20.0g
水(注射用)適量
【0028】
実施例6
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシン200mg
乳酸溶液321.8mg
NaCl900mg
塩酸140mg
水(注射用)適量
【0029】
実施例7
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシン200mg
10%(w/w)乳酸372.5mg
NaCl900mg
塩酸10.4mg
水(注射用)適量
pH=3.7
【0030】
実施例8
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシン100mg
10%(w/w)乳酸320mg
NaCl625mg
水(注射用)適量
pH=4.4
【0031】
実施例9
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシンカルシウム塩42.4mg
2%(w/w)乳酸644mg
塩酸5.06mg
グリセロール520mg
水(注射用)適量
pH=4.3
【0032】
実施例10
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシンx5HO 254.5mg
5%(w/w)乳酸1284mg
塩酸3.3mg
グルコース2500mg
水(注射用)適量
pH=4.2
【0033】
実施例11
100mlは、以下を含有する:
シプロフロキサシンカリウム塩233mg
20%(w/w)乳酸277mg
0.1M塩酸8.86ml
グルコース5000mg
水(注射用)適量
pH=4.6
【0034】
生物学的実施例
臨床研究
臨床研究では、乳腺炎の処置におけるエンロフロキサシン(Baytril(登録商標)10%注射用液剤、市販品)の効力を、乳腺炎の処置に常套に使用されているセフキノム(cefquinome)をベースとする市販品(Cobactan LC(登録商標))のものと比較した。エンロフロキサシンを、5mg/体重kgの用量で1日1回、2日続けて静脈内投与した。セフキノムを、感染した乳房のクオーター位への乳房内投与により、12時間毎に75mgの用量で、3回の連続した搾乳の後に投与した。
【0035】
結果:
総括すると、エンロフロキサシン群は、処置後に、比較品で処置した群より良好な状態であった。
エンロフロキサシンによる処置は、全てのウシに良好に耐容された。
【0036】
本研究は、上述の通りの投与で、エンロフロキサシンの製品は乳牛の急性大腸菌型乳腺炎の処置に適することを示す。全身的および局所的症状、搾乳能率および細菌学的な結果を評価したとき、エンロフロキサシンは比較品よりも優れていることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多くても2回の投与で乳腺炎を非経腸的に処置するための医薬を製造するための、エンロフロキサシンの使用。
【請求項2】
多くても2回エンロフロキサシンを対象動物に非経腸投与する、乳腺炎の処置方法。
【請求項3】
乳腺炎の処置用の医薬を製造するための、シプロフロキサシンの使用。

【公表番号】特表2008−519781(P2008−519781A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540532(P2007−540532)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/011553
【国際公開番号】WO2006/050826
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(503412148)バイエル・ヘルスケア・アクチェンゲゼルシャフト (206)
【氏名又は名称原語表記】Bayer HealthCare AG
【Fターム(参考)】