説明

乳酸発酵果汁含有の麦芽発酵飲料の製造方法

【課 題】 ビールや発泡酒の良さに加えて、果実の長所も生かし、消費者の多様な嗜好価値を満足させることができるまろやかな酸味、フルーティーさをもった辛口の発酵飲料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 発酵飲料の製造方法において、果汁を約50乃至約100%含む発酵原料を乳酸発酵させる第一発酵帯域と、生成した乳酸発酵液と、さらに糖化液とを含む発酵原料を酵母発酵させる第二発酵帯域を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果汁を含有する発酵飲料の製造方法に関する。さらに詳しくはビールや発泡酒の短所である重い香味が少なく、まろやかな酸味をもつフルーティーな辛口のアルコール含有発酵飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麦を原料とした発泡性のアルコール飲料としてビール及び発泡酒がよく知られている。ビールや発泡酒は、5%前後の低アルコールであることや、含有する炭酸ガスの発泡性で爽快感、喉越しが良いこと、甘みが残らないことなどにより広く飲まれており、食中酒としても飲用されている。しかし一方で、穀物様の香りが強いこと、および酸味が低すぎることなどにより重く感じるなど、特有のテーストを嫌う人も増えてきている。
【0003】
その中で、酸味を付与したビールも知られており、ベルギーのランビックのように、麦を原料として自然発酵でつくられた独特の香りや酸味を付与したビールがある。一方、ベルギーにはクリーク(フルーツランビック)のようにランビックにチェリーなどのフルーツを浸漬して発酵したアルコール飲料もある。しかし、ランビックやフルーツランビックは、麦汁を自然発酵させているため極めて酸味が強いものである。酸味が強すぎるものは好まれない傾向があるが、果実の適度な酸味は清涼感があるので、ビールまたは発泡酒の原料に果汁を用いる場合がある。しかしながら、この場合には、果汁には各種有機酸がかなり含まれるから酸味を適度な量に調節する必要がある。
【0004】
果汁を含有する発酵飲料の製造方法としては、糖液、果汁、麦芽汁および穀類を原料とした糖化液を主としてなる発酵原料液を第一発酵帯域で酵母による発酵に付し、生成した発酵液を次いで第二発酵帯域で酸生成菌による発酵に付することを特徴とする発酵飲料、または第一発酵帯域を酸生成菌による発酵、第二発酵帯域を酵母による発酵とする発酵飲料の製造方法が知られている(特許文献1参照。)。
しかし、上記製造方法によると、発酵飲料に酸味を付与することを課題としており、酸味の効いたビールや発泡酒を得ることができるが、この方法では酸味の制御が不十分であり、ビールや発泡酒が本来有する香味に配慮されているとは言い難かった。また、上記製造方法は、麦汁成分を乳酸発酵する工程を経ることにより品質に影響を受け、穀物本来の香味に関しても必ずしも充分に配慮されているとは言い難かった。
【0005】
また、原料に果汁を用いるアルコール飲料として、例えば、ホップを含む穀類発酵液に果汁、糖類、酸味料、起泡剤および炭酸ガスを含有させたアルコール飲料が知られているが、酸味の低減に関しては言及されていない(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−312581号公報
【特許文献2】特開2001−103954公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ビールや発泡酒の良さに加えて、果実の長所も生かし、消費者の多様な嗜好価値を満足させることができるまろやかな酸味、フルーティーさをもった辛口の発酵飲料およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、果実中の有機酸と、ビールや発泡酒由来の有機酸の組成が異なることに着目し鋭意検討した。特に、果実に多く含まれていて鋭い酸味を呈するリンゴ酸を、乳酸発酵(特にマロラクティック発酵)によって、まろやかな酸味を呈する乳酸発酵の工程と、糖化液をアルコール発酵させる工程の組合せ方法について、鋭意検討した。
その結果、第一発酵帯域においては果汁を中心とした原料について乳酸発酵(主にはマロラクティック発酵)を施すことにより、果汁中のリンゴ酸を乳酸に変換することで、鋭い酸味を呈するリンゴ酸が少なく、口当たりのよい酸味を呈する乳酸を多く含んだ乳酸発酵液を作成することができる。次に、得られた乳酸発酵液を、麦芽糖化液、糖液および穀物糖化液の1種またはこれらを任意に混合した糖化液と混合し、アルコール産生能のある酵母を用いた第二発酵帯域(アルコール発酵)を施すことにより、本発明の目的とするところの、まろやかな酸味、フルーティーさ、辛口を特徴とする発酵飲料を得ることができることを見出し、さらに研究をすすめ本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1) 果汁を50乃至100%(W/W)含む発酵原料を乳酸発酵させる第一発酵帯域と、生成した乳酸発酵液と、さらに糖化液とを含む発酵原料を酵母発酵させる第二発酵帯域を含むことを特徴とする発酵飲料の製造方法、
(2) 果汁を含み、糖化液を実質的に含まない発酵原料を乳酸発酵させる第一発酵帯域と、生成した乳酸発酵液と、さらに糖化液とを含む発酵原料を酵母発酵させる第二発酵帯域を含むことを特徴とする発酵飲料の製造方法、
(3) 糖化液が、麦芽糖化液、糖液および穀物糖化液から選択される1種または2種以上であることを特徴とする上記(1)または(2)記載の発酵飲料の製造方法、
(4) 第二発酵帯域の発酵原料中の乳酸発酵液の含有量が、1から20%(W/W)であることを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(5) 第二発酵帯域の発酵原料がさらに果汁を含むことを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(6) 最終製品のアルコール濃度が0.5〜10%である上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(7) 第二発酵帯域で用いる酵母が、ワイン酵母またはビール酵母であることを特徴とする、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(8) 乳酸発酵が、マロラクティック発酵であることを特徴とする、上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(9) 果汁が、ブドウ果汁、リンゴ果汁、ピーチ果汁またはチェリー果汁であることを特徴とする、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法、
(10) 上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の製造方法で得られる発酵飲料、および
(11) 中味の見える密封容器に充填されたことを特徴とする上記(10)記載の発酵飲料、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の発酵飲料の製造方法によれば、発酵原料に含む果汁を先に乳酸発酵に付すことにより、果汁中の酸味成分、特にリンゴ酸を乳酸に変換できるので、その後のアルコール発酵により得られる発酵飲料は、鋭い酸味が和らげられまろやかな酸味、フルーティーな味わいが得られる。
また、本発明の発酵飲料の製造方法によれば、発酵飲料の本来の香味や含まれる果汁の香りを引き出した発酵飲料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、さらに詳細且つ具体的に説明する。
本発明において、第一発酵帯域は、果汁を約50乃至約100%(W/W)、好ましくは約70乃至約100%(W/W)、より好ましくは約80乃至約100%(W/W)、さらに好ましくは約90乃至約100%(W/W)、とりわけ好ましくは約95乃至約100%(W/W)含む発酵原料を乳酸発酵する工程である。ここでは、発酵原料は、アルコール発酵酵母の資化成分である糖液原料の糖化液(例えば、麦芽糖化液、糖液、穀物糖化液など)を実質的に含まないか、含んだとしても少量にとどめることが望ましい。特に麦芽糖化液、穀物糖化液については、乳酸発酵工程を経ることによる品質の変化の影響を受け、穀物本来の香味の良さが低下しやすいことから、第一発酵帯域を経ないことが好ましい。
【0011】
第一発酵帯域の主原料である果汁は通常用いられる果汁であれば特に限定されないが、リンゴ酸を多く含む果汁を好適に用いることができ、総酸が約0.2〜2.0g/100mL(酒石酸換算)の果汁が好ましい。例えば、ブドウ果汁、リンゴ果汁、カンキツ果汁(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライムなどの果汁)、熱帯果実果汁(パイナップル、グアバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツなどの果汁)のほか、チェリー、カキ、スモモ、アンズ、ビワ、モモ、ナシ、ウメ、ベリー、キウイフルーツ、イチゴ、メロンの各果汁などが挙げられる。中でも、ブドウ、リンゴ、チェリー、モモ、ナシ、カキ、スモモ、アンズ、ビワまたはバナナの各果汁など、リンゴ酸を多く含む果汁が好適に用いられる。特にブドウ果汁を好適に用いることができる。
果皮に色素をもつブドウまたはチェリーなどの果実から着色果汁を得る場合は、低温長時間加熱法〔約45〜50℃まで加熱し、約6〜10時間タンクで保持後圧搾して約20℃まで冷却(ワイン学、産調出版、p.245)〕により好ましい着色果汁を得ることができる。
このようにして得られた着色果汁を用いることにより、好ましい着色を有する発酵飲料を得ることができる。
ブドウ果汁としては、醸造用品種が好ましく、例えばメルロ、ピノ・ノワールまたはマスカット・ベリーA等から得られる搾汁赤ブドウ果汁、シャルドネ、リースリングまたは甲州等から得られる搾汁白ブドウ果汁などが挙げられる。
これらの各種果汁の産地や形態は特に限定されず、例えば果実を搾汁した果汁や市販の果汁を用いることができる。
通常、保管スペースや輸送コストなどの点から、搾汁した果汁は水分を除いて濃縮されることがあり、また、濃縮果汁は場合によって、糖類またははちみつ等で糖度が調整されたり、酸度が調整されたりする。本発明においては搾汁した果汁、濃縮果汁、希釈された果汁または濃縮果汁還元液など、いずれの果汁でも用いることができる。これらの果汁の濃度はマロラクティック発酵が行われる濃度であれば特に限定されず、第一発酵帯域の果汁の使用比率や果汁の種類によって適宜調整することができる。例えば搾汁した果汁の濃度に対し、約0.5倍〜5倍の濃度の果汁を好適に用いることができる。
【0012】
第一発酵帯域における乳酸発酵は、果汁の鋭い味覚を呈するリンゴ酸のみを低減させ、口当たりがまろやかな乳酸を増加させる、いわゆるマロラクティック発酵が好ましい。マロラクティック発酵は公知の方法によって行うことができる。予め殺菌又は除菌で無菌にした果汁に乳酸菌を添加し、リンゴ酸が約100ppm以下になるまで乳酸発酵を行う。
【0013】
ここで用いる乳酸菌は、マロラクティック発酵を誘起する乳酸菌が好ましい。マロラクティック発酵を誘起する乳酸菌としては、ホモ型では、Lactobacillus plantarumなど、ヘテロ型では、Lactobacillus brevis、Leuconostoc mensenteroidesまたはLeuconostoc oenosなどを用いることができる。ここでは主にホモ型の乳酸菌を用いるのがよく、Lactobacillus plantarumを好適に用いることができる。一般にマロラクティック発酵は、乳酸菌により原料中のリンゴ酸が脱炭酸して乳酸と二酸化炭素に変換されることによって行なわれる。従って、マロラクティック発酵には、付随的効果として原材料のリンゴ酸に基づく酸味の低減と同時に香味をよくする効果を期待できる。このためリンゴ酸を多く含む果汁の段階でマロラクティック発酵を行えば、効率よくリンゴ酸を乳酸に変換でき、口当たりがまろやかな酸味を持つ乳酸発酵液を用意することができる。
【0014】
乳酸菌は、約10〜10個/mL、好ましくは約1×10〜5×10個/mL添加するのが好ましい。発酵温度は、約10〜40℃程度が好ましく、さらに好ましくは約20〜30℃程度である。発酵時間は、約24〜100時間程度が好ましく、さらに好ましくは約48〜72時間程度である。前記殺菌又は除菌は、公知の方法で行なうことができ、例えば加熱滅菌(例えば約60〜90℃、約0.5〜30分など)又はろ過除菌などが挙げられる。
【0015】
発酵原料中の糖化液の比率が高いと糖質を利用する乳酸発酵が優位となり効率のよいマロラクティック発酵は期待できず、リンゴ酸の多くは発酵原料中に存在したままになってしまい、酸味のバランスが崩れるなど、発酵飲料の品質に影響する。すなわち、第一発酵帯域においては、効率のよいマロラクティック発酵が期待できる程度、言い換えれば、糖を消費する発酵を起こさせない程度に、第一発酵帯域の原料中のリンゴ酸濃度を高く制御することがポイントである。
【0016】
得られた乳酸発酵液は糖化液、例えば麦芽糖化液、糖液または穀物(例えば大麦、小麦、米、粟、サツマイモ、ソバなど)を原料とした穀物糖化液などと混合された後、アルコール発酵酵母を用いる第二発酵帯域に付される。糖化液は上記した麦芽糖化液、糖液または穀物糖化液を1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上組み合わせる場合、第二発酵帯域における酵母発酵に必要な炭素源(糖化液)となる原料に占める麦芽の使用比率は特に限定されないが、果汁由来の色を強調したい場合には、麦芽由来の色調を抑えるために、例えば麦芽の比率は約50質量%以下とすることが好ましい。
必要によりホップを添加してもよいが、製品の泡もちがよくなることから、入れることが好ましい。特に原料の果汁が着色果汁の場合、通常のビールで白色の泡が、着色果汁の色の泡となり、見た目に美しいことから、泡もちが改善できるホップを添加することが好ましい。
第二発酵帯域の発酵原料に占める乳酸発酵液の割合は、約1〜20%(W/W)が好ましい。乳酸発酵液の添加のタイミングは、いつでもいいが、糖化液が約90℃の時に添加すると、殺菌効果も期待できるので好適である。
【0017】
また、第二発酵帯域の発酵原料には、アルコール発酵酵母の発酵を妨げない範囲であれば、上記した乳酸発酵液および糖化液以外に、さらに果汁やその他の成分を添加してもよい。該果汁は上記した果汁の他、リンゴ酸などの酸度の低い果汁であってもよい。
【0018】
第二発酵帯域のアルコール発酵用の酵母としては、果汁の使用による低pHでの発酵が可能な酵母であれば特に限定されないが、発酵飲料としての香味を考慮した場合、ビール酵母やワイン酵母が好ましい。中でも、またフルーティーな香味の付与のためには、Saccharomyces cerevisiaeやSaccharomyces bayanusといったワイン酵母が望ましい。その他の原料、発酵時間や発酵温度といった発酵条件、ろ過、殺菌または充填などの製造条件は、製造する飲料に持たせる特徴を考慮し適宜設定するか、或いはビールや発泡酒の常法に従えばよい。
【0019】
アルコール発酵酵母は、約10〜10個/mL、好ましくは約5×10〜5×10個/mL添加されるのが好ましい。発酵温度は、約10〜30℃程度が好ましく、さらに好ましくは約15〜25程度℃である。発酵時間は、約7〜20日程度が好ましく、さらに好ましくは約10〜15日程度である。
【0020】
得られる発酵飲料のアルコール濃度は特に限定されないが、好ましくは約0.5〜10%程度、特に好ましくは約3〜8%程度である。
上記アルコール濃度の発酵飲料を得るためには、第二発酵帯域の発酵原料中の糖化液の糖濃度は、約11〜14%であることが望ましい。
また、第二発酵帯域におけるアルコール発酵の程度は、糖類の濃度を測定することにより、決定することができる。例えば単糖類の濃度が、約0.5g/100mL以下になるまでアルコール発酵を進めることで、辛口の発酵飲料を得ることができる。
なお、第一発酵帯域と第二発酵帯域以外に、必要により、他の複数の発酵を適宜組み合わせても良い。
【0021】
本発明の発酵飲料は各種の密封容器に保存することができる。例えばビン、缶またはプラスチック容器(例えば、ペット容器等)などが挙げられる。本発明の飲料は、果汁に由来するカラフルな色を有する飲料であることから、中でも、中味の見える容器(透明容器、半透明の容器など)を好適に用いることができる。
【0022】
以下に本発明において好ましい実施例および試験例について述べるが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
果汁以外の糖化液の原料について、第一発酵帯域の乳酸発酵の有無の違いを検討した。すなわち、第一発酵帯域の原料を果汁のみとした場合(実施例1)と、果汁と他の糖化液との混合液(比較例1)とした場合について、アルコール発酵飲料を製造した。
糖度20°の赤ブドウ果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて72時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて、糖化液を2L作成した。これに先ほど調整した乳酸発酵液を5%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度13.0%、麦芽比率24%の混合糖化液を得た。これに、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例1の発酵飲料と称する。
【0024】
一方、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて、糖化液を2L作成した。これに糖度20°の赤ブドウ果汁を5%(W/W)添加混合し、最終的に原麦汁エキス13.0%、麦芽比率24%の混合糖化液を得た。これに乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて72時間のマロラクティック発酵を行った。その後遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施した。これにワイン酵母Saccharomyces bayanusを15×10cells/mL接種し、アルコール発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を比較例1の発酵飲料と称する。
【0025】
得られた2種の発酵飲料について、アルコール濃度、pH、有機酸濃度(リンゴ酸、乳酸、酢酸)を測定した。アルコール濃度の測定方法としては、SCABA法を用いた。pHは、pHメーターを用いて測定した。また、リンゴ酸濃度、乳酸濃度および酢酸濃度は、HPLCを用いて測定した。
結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
また、得られた2種の発酵飲料について官能評価を行った。官能評価は、香味の好ましさについて識別能力を有する熟練したパネル5名により、飲みやすさについて、香味および酸味のバランスが極めて良く美味(5点):香味および酸味のバランスが良く飲みやすい(4点):普通(3点):香味が劣り酸味が勝りやや飲みにくい(2点):酸味が強く香味が悪く飲みにくい(1点)の5段階で評価した。
結果を表2に示す。
実施例1の発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。一方、比較例1の発酵飲料は、やや鋭い酸味を感じる口当たりで、重みも感じる味わいであった。
有機酸濃度の測定値を比較すると、実施例1の発酵飲料は比較例1の発酵飲料に比較して、pH、乳酸濃度、および酢酸濃度は同程度であったが、鋭い酸味の原因であるリンゴ酸濃度が低いことから、まろやかな口当たりを呈したと考えられる。
【0028】
【表2】

【実施例2】
【0029】
乳酸発酵工程を経る果汁と、経ない果汁とで調製したアルコール発酵飲料を比較検討した。
糖度20°の白ブドウ果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて、糖化液を2L作成した。これに先ほど調整した乳酸発酵液を4%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度13.3%、麦芽比率10%の混合糖化液を得た。これに、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを22×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例2の発酵飲料と称する。
【0030】
既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて、糖化液を2L作成した。これに糖度20°の白ブドウ果汁を4%(W/W)添加混合し、最終的に原麦汁エキス13.3%、麦芽比率10%の混合糖化液を得た。これにワイン酵母Saccharomyces bayanusを22×10cells/mL接種し、20℃にて14日間アルコール発酵を行った。得られた発酵飲料を比較例2の発酵飲料と称する。
【0031】
得られた2種の発酵飲料について、アルコール濃度、pHまたは有機酸濃度(リンゴ酸、乳酸、酢酸)の測定および官能評価を行った。評価方法は実施例1の方法に準じた。
結果を表3および表4に示す。
実施例2の発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。一方、比較例2の発酵飲料は、フルーティーさは感じるものの、硬さと鋭い酸味を感じる口当たりであった。
有機酸の測定値によれば、比較例の発酵飲料に比較して、本実施例の発酵飲料では鋭い酸味の原因であるリンゴ酸濃度が低減し、乳酸値が向上しており、まろやかな口当たりを呈したと考えられる。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【実施例3】
【0034】
糖度20°の赤ブドウ果汁100Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて糖化液を1,000L作成した。これに先ほど調整した乳酸発酵液を4%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度12.8%、麦芽比率20%の混合糖化液を得た。これに、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを17×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。
得られた発酵液を、ろ過、滅菌を行ない、660mL瓶に充填し、本発明のアルコール飲料500本を得た。
得られた発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。
【実施例4】
【0035】
糖度20°の白ブドウ果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて糖化液を2L作成し、これに先ほど調整した乳酸発酵白ブドウ果汁を4%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度13.1%の混合糖化液を得た。これに、ビール酵母Saccharomyces cerevisiaeを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例4−1の発酵飲料と称する。
また先に得られた原麦汁エキス濃度13.1%の混合糖化液に、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例4−2の発酵飲料と称する。
【0036】
得られた2種の発酵飲料について、アルコール濃度、pH、有機酸濃度(リンゴ酸、乳酸、酢酸)を測定した。アルコール濃度の測定方法は、SCABA法を用いた。pHは、pHメーターを用いて測定した。また、リンゴ酸濃度、乳酸濃度および酢酸濃度は、HPLCを用いて測定した。結果を表5に示す。
【0037】
【表5】

【0038】
実施例4−1の発酵飲料は、ビールらしいほのかな苦味を呈しつつも、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。また実施例4−2の発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。
有機酸の測定値によれば、実施例4−1、実施例4−2の発酵飲料とも、鋭い酸味の原因であるリンゴ酸濃度は低く、乳酸値は比較的高いことから、まろやかな口当たりを呈したと考えられる。
【実施例5】
【0039】
糖度13°の青リンゴ果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Leuconostoc oenosを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて糖化液を2L作成し、これに先ほど調整した乳酸発酵青リンゴ果汁を10%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度12.2%の混合糖化液を得た。これに、ビール酵母Saccharomyces cerevisiaeを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵液を実施例5の発酵飲料と称する。得られた発酵飲料は口あたりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。
【実施例6】
【0040】
糖度20°のピーチ果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて糖化液を2L作成し、これに先ほど調整した乳酸発酵ピーチ果汁を5%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度12.3%の混合糖化液を得た。これに、ビール酵母Saccharomyces cerevisiaeを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例6−1の発酵飲料と称する。
また先に得られた原麦汁エキス濃度12.3%の混合糖化液に、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例6−2の発酵飲料と称する。
実施例6−1の発酵飲料は、ビールらしいほのかな苦味を呈しつつも、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。また実施例6−2の発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。
【実施例7】
【0041】
糖度20°のチェリー果汁1Lを、80℃にて30分の処理を施して殺菌した後に、乳酸菌Lactobacillus plantarumを1×10cells/mL添加し、25℃にて48時間のマロラクティック発酵を行った。これを遠心分離により乳酸菌を除去し、さらに80℃にて30分の殺菌を施し、第一発酵帯域の発酵を経た乳酸発酵液を得た。
別途、既存の発泡酒の製造方法に従い、麦汁と糖化スターチ液とホップを用いて糖化液を2L作成し、これに先ほど調整した乳酸発酵チェリー果汁を5%(W/W)混合し、最終的に原麦汁エキス濃度13.1%の混合糖化液を得た。これに、ビール酵母Saccharomyces cerevisiaeを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例7−1の発酵飲料と称する。
また先に得られた原麦汁エキス濃度13.1%の混合糖化液に、ワイン酵母Saccharomyces bayanusを15×10cells/mL接種し、第二発酵帯域の発酵を20℃にて14日間行った。得られた発酵飲料を実施例7−2の発酵飲料と称する。
実施例7−1の発酵飲料は、ビールらしいほのかな苦味を呈しつつも、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。また実施例7−2の発酵飲料は、口当たりまろやかな酸味を呈し、フルーティーな味わいであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、ビールや発泡酒の短所である重い香味が少なく、まろやかな酸味をもつフルーティーな辛口のアルコール含有発酵飲料の新規な製造方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果汁を含み、糖化液を実質的に含まない発酵原料を乳酸発酵させる第一発酵帯域と、生成した乳酸発酵液と、さらに糖化液とを含む発酵原料を酵母発酵させる第二発酵帯域を含むことを特徴とする発酵飲料の製造方法。
【請求項2】
果汁を50乃至100%(W/W)含む発酵原料を乳酸発酵させる第一発酵帯域と、生成した乳酸発酵液と、さらに糖化液とを含む発酵原料を酵母発酵させる第二発酵帯域を含むことを特徴とする発酵飲料の製造方法。
【請求項3】
糖化液が、麦芽糖化液、糖液および穀物糖化液から選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項4】
第二発酵帯域の発酵原料中の乳酸発酵液の含有量が、1から20%(W/W)であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項5】
第二発酵帯域の発酵原料がさらに果汁を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項6】
最終製品のアルコール濃度が0.5〜10%である請求項1乃至5のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項7】
第二発酵帯域で用いる酵母が、ワイン酵母またはビール酵母であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項8】
乳酸発酵が、マロラクティック発酵であることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項9】
果汁が、ブドウ果汁、リンゴ果汁、ピーチ果汁またはチェリー果汁であることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の製造方法で得られる発酵飲料。
【請求項11】
中味の見える密封容器に充填されたことを特徴とする請求項10に記載の発酵飲料。

【公開番号】特開2011−30577(P2011−30577A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257451(P2010−257451)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【分割の表示】特願2004−356089(P2004−356089)の分割
【原出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】