乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法
【課題】隙間部分に電着塗料の塗液が浸入していてもこの電着塗料の塗液がタレ不良をおこすことがない乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法の提供。
【解決手段】電着塗装が完了した車体Wを乾燥する乾燥炉1であって、上流側の予熱炉11の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の本乾燥炉21の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側の予熱炉11には車体Wの部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する熱風吹き出し口を設け、熱風吹き出し口は車体Wの上側の隙間箇所から順次下側の隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする。
【解決手段】電着塗装が完了した車体Wを乾燥する乾燥炉1であって、上流側の予熱炉11の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の本乾燥炉21の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側の予熱炉11には車体Wの部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する熱風吹き出し口を設け、熱風吹き出し口は車体Wの上側の隙間箇所から順次下側の隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電着塗装を終えた車体等の被塗装物を乾燥させる乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電着塗装された車体を乾燥炉内で焼付ける際、特にドアサッシュ部の鋼板合わせ部、ドアの袋状部下端の鋼板合わせ部の隙間内から電着塗料液が噴出し、あるいは流れ出て、電着塗料が下方にタレて車体のサイドシルの上面、側面などで硬化し電着塗料タレ不良となる不具合が発生していた。このような電着塗料タレ不良が生じたときは、タレた部位を削り落としてサイドシルの電着塗装硬化面と平滑になるようにしていた。
ところが、タレを起こした部位を削り落とす作業は工数がかかり、削り落とす際の削りくずが再度車体に付着する等の課題がある。
【0003】
これに対して電着塗装を終えた車体を乾燥炉に搬送する搬送路にヒータとシャワー装置を設け、ヒータによってルーフ及びピラー部とロッカー部のような電着塗料の塗液が侵入する可能性がある小さな隙間が開口した車体の表面を熱風で局所加熱して沸騰させ、隙間に浸入した電着塗料の流動性を高めて熱膨張させて隙間から流出させ、流出した電着塗料をシャワー装置のシャワー水により洗浄除去するものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−086495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒータとシャワー装置を用いたものでは、車体上部の開口した隙間から滲み出た電着塗料の塗液がシャワー水によりその濃度は下がるものの、再び車体下部の開口した隙間内に侵入してしまう課題がある。また、隙間内には、表面張力によりヒータによる加熱では流出しなかった電着塗料が残留しており、塗液の濃度は上昇する。そして、電着乾燥炉の加熱により再び電着塗料タレとして流れ出るおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、隙間部分に電着塗料の塗液が浸入していてもこの電着塗料の塗液がタレ不良をおこすことがない乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、電着塗装が完了した被塗装物(例えば、実施形態における車体W)を乾燥する乾燥炉(例えば、実施形態における乾燥炉1)であって、上流側(例えば、実施形態における予熱炉11)の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側(例えば、実施形態における本乾燥炉21)の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側には被塗装物の部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する加熱手段(例えば、実施形態における熱風吹き出し口13、14、第1の熱風吹き出し口23、第2の熱風吹き出し口24)を設け、前記加熱手段は前記被塗装物の上側の前記隙間箇所から順次下側の前記隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする。
このように構成することで、上流側では加熱手段により被塗装物に存在する部材接合部の隙間部分を局所的に加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、下流側においてガラス転移点以上の温度に加熱することで電着塗料の塗液を被塗装物になじませることができる。また、加熱に際しては被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることで上側の隙間部位に滞る電着塗料の塗液が加熱による膨張等で下方にタレ、その直下の未乾燥で未焼付け乾燥の隙間部位に導かれる。前記と同様のことが繰り返されて電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができる。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記乾燥炉の下流側(例えば、実施形態における本乾燥炉21)を、上流側から下流側へと徐々に高くして被塗装物を斜めに傾斜させる山型炉として構成したことを特徴とする。
このように構成することで、下流側で大部分が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した被塗装物の後部から未だ乾燥してない被塗装物の表面に落としてなじませることができる。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記乾燥炉の前記下流側には、前記被塗装物の乾燥し難い底部(例えば、実施形態におけるサイドシルWa)を局所的に加熱する加熱手段(例えば、実施形態における第2の熱風吹き出し口24)を設けることを特徴とする。
このように構成することで、乾燥し難い底部の乾燥時間を多く確保することが可能となる。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記被塗装物が車体であることを特徴とする。
このように構成することで、車体の電着塗装工程後の乾燥工程において手直しなどの作業が必要なくなる。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記上側隙間箇所がドアサッシュ(例えば、実施形態におけるサッシュ部Da)であり、前記下側隙間箇所がドアスキン(例えば、実施形態におけるドアスキン部Db)であることを特徴とする。
このように構成することで、チャンネル材を備えたドアサッシュや、補強用の板材を備えたドアスキンのように多くの電着塗料の塗液が滞留し易い部材の乾燥を確実に行うことができる。
【0011】
請求項6に記載した発明は、前記乾燥し難い箇所が車体のサイドシル(例えば、実施形態におけるサイドシルWa)であることを特徴とする。
このように構成することで、サイドシルの乾燥状態を良好にできる。
【0012】
請求項7に記載した発明は、前記加熱手段がスリット状の熱風吹き出し口であることを特徴とする。
このように構成することで、局所的な部位のみを均一に加熱することができる。
【0013】
請求項8に記載した発明は、電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉における乾燥方法であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉な温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側では被塗装物を局所的に加熱し、加熱する際には被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1及び請求項8に記載した発明によれば、乾燥炉の上流側では加熱手段により被塗装物に存在する部材接合部の隙間部分を局所的に加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、乾燥炉の下流側においてガラス転移点以上の温度に加熱することで電着塗料の塗液を被塗装物になじませることができるため、沸騰により飛散させること無く電着塗料の塗液の量を減少させ、タレを生じ難くすることができる効果がある。また、加熱に際しては被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることで隙間部位に滞る電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができるため、下方の部材へ電着塗料の塗液がタレるのを防止できる効果がある。
請求項2に記載した発明によれば、下流側で大部分が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した被塗装物の後部から未だ乾燥してない被塗装物の表面に落としてなじませることができるため、万一タレが生じた場合であっても電着塗料の塗液のタレ不良が生じることはない効果がある。
請求項3に記載した発明によれば、乾燥し難い底部の乾燥時間を多く確保することが可能となる底部の確実な乾燥を確保できるという効果がある。
請求項4に記載した発明によれば、車体の電着塗装工程後の乾燥工程において手直しなどの作業が必要なくなり作業時間を短縮できる効果がある。
請求項5に記載した発明によれば、チャンネル材を備えたドアサッシュや、補強用の板材を備えたドアスキンのように多くの電着塗料の塗液が滞留し易い部材の乾燥を確実に行うことができるため、外観品質の向上に寄与できる効果がある。
請求項6に記載した発明によれば、サイドシルの乾燥状態を良好にできるため、車体の他の部分との乾燥時間のマッチングを図ることができる効果がある。
請求項7に記載した発明によれば、局所的な部位のみを均一に加熱することができるため、効果的に局所を乾燥することが可能となり、電着塗料の塗液のタレを効率的に防止できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
この発明の実施形態の乾燥炉は自動車の車体(ホワイトボディ)をワークとした電着塗装工程の後段で電着塗料の塗液を熱風により乾燥させるものである。
図1は乾燥炉の模式的平断面図、図2は乾燥炉の模式的縦断面図である。図1、図2に示すように、乾燥炉1は前段工程で電着塗装を終えた搬送台車31上の車体Wを搬送コンベア30ごと受け入れるものである。
【0016】
乾燥炉1は上流側の予備乾燥を行う予熱炉11と下流側の本乾燥を行う山型の本乾燥炉21とで構成されている。乾燥炉1は、前段の電着塗装工程を終え順次搬送されてくる搬送コンベア30の搬送台車31上の車体Wに付着した電着塗料の塗液を予熱炉11及び本乾燥炉21で乾燥させ次段工程に搬送する。尚、車体WにはドアDが取り付けられた状態になっている。
【0017】
予熱炉11は前段のサッシュ予熱部11bと後段のドアスキン(ドアアウタパネル)予熱部11cとで構成され、本乾燥炉21は、上流側から下流側へと徐々に高くなり車体Wを斜め上に傾斜させた状態で乾燥させる入口傾斜部21Aと車体Wを水平に搬送した状態で乾燥させる水平部21Bと上流側から下流側へと徐々に低くなり車体Wを斜め下に傾斜させた状態で乾燥させる出口傾斜部21Cとで構成されている。入口傾斜部21Aと水平部21Bと出口傾斜部21Cとにより水平部21Bにおいてより高温状態を維持し易い山型の本乾燥炉21が構成されている。
【0018】
図3は予熱炉11のサッシュ予熱部11bの内壁12a(後述する内壁15aを含む)を示し、図4は予熱炉11のドアスキン予熱部11cの内壁12a(後述する内壁15aを含む)を示し、図5は本乾燥炉21の内壁22a(後述する内壁25aを含む)を示している。
【0019】
図3〜図5に示すように、各内壁12a,22aには上段部分に横長の複数の熱風排出口16が形成されている。各熱風排出口16は所定間隔を隔てて配置されており、予熱炉11及び本乾燥炉21内に供給された熱風を排出するものである。
図3に示すサッシュ予熱部11bの内壁12aには上下方向中央上部に、縦長のスリット状の熱風吹き出し口13が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられている。
図4に示すドアスキン予熱部11cの内壁12aには、上下方向中央下部に縦長のスリット状の熱風吹き出し口14が上下2段4個が一組となって所定間隔を隔てて複数組設けられている。ここで、各熱風吹き出し口14は上側に指向している。
図5に示す本乾燥炉21の内壁22aには上下方向中央上部に縦長のスリット状の第1の熱風吹き出し口23が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられ、上下方向下部に縦長のスリット状の第2の熱風吹き出し口24が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられている。
【0020】
図6〜図8は予熱炉11、本乾燥炉21の横断面図である。
具体的に図6、図7に示すように、予熱炉11は角型断面形状の炉外壁11aを備えている。炉外壁11aの側壁から所定間隔を隔てた両内側に車体Wの搬送空間の両側下半部を内壁12aと外壁12bと上壁Uと底壁Bとで囲む熱風供給路12が区画形成されている。また、熱風供給路12の上方には、内壁12aの上方に連なる内壁15aと炉外壁11aとで区画された熱風排出路15が形成されている。ここで予熱炉11は、常時炉内温度が80度となるように設定されている。
【0021】
図6に示す予熱炉11のサッシュ予熱部11bにおいては、熱風供給路12の内壁12aの上部に熱風吹き出し口13が形成され、熱風排出路15の内壁15aの上部に熱風排出口16が形成されている。
ここで、両内壁12a間には、搬送コンベア30が配設され、搬送コンベア30の搬送台車31上に車体Wが載置されている(図7、図8においても同様)。車体WはドアDが図示しない治具により若干開いた状態となっていて、熱風吹き出し口13はドアDのサッシュ部Daに対向するように開口している。また、熱風排出口16は車体Wの上方で水平方向に炉内の熱風を排出するように開口している。尚、Dbはドアスキン部、Deはアウタースキン、Waはサイドシルを示している。
【0022】
図7に示す予熱炉11のドアスキン予熱部11cにおいては、内壁12aの熱風供給路12の上下方向中央上部に熱風吹き出し口14が形成され、熱風排出路15の内壁15aの上部に熱風排出口16が形成されている。
ここで、熱風吹き出し口14は斜め上方に指向して開口しており、車体Wに取り付けられたドアDのドアスキン部DbのアウタースキンDe内面に接合されたスチフナーDf等の構造部材またはドアスキン部Db上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgに指向するように形成されている(図9、図10参照)。この熱風吹き出し口14の上側の内壁12aは外側斜め下側に傾斜して、ガイド部Gを形成している。尚、熱風排出口16が車体Wの上方で水平方向に炉内の熱風を排出するように開口している点は上述したサッシュ予熱部11bと同様である。尚、図9において黒塗り部分は電着塗料の塗液を示す。
【0023】
また、図8に示すように、本乾燥炉21も角型断面形状の炉外壁21aを備えている。炉外壁21aの側壁から所定間隔を隔てた両内側に車体Wの搬送空間の両側下半部を内壁22aと外壁22bと上壁Uと底壁Bとで囲む熱風供給路22が区画形成されている。また、熱風供給路22の上方には、内壁22aの上方に連なる内壁25aと炉外壁21aとで区画された熱風排出路25が形成されている。熱風供給路22の内壁22aの上部に第1の熱風吹き出し口23が形成され、内壁22aの下部に第2熱風吹き出し口24が形成されている。また、熱風排出路25の内壁25aの上部には熱風排出口16が形成されている。
【0024】
具体的には、熱風供給路22においては内壁22aと外壁22bの幅が上部に比べて下部が広く、つまり内壁22aの下部に、両内壁22aが下部に行くほど互いに近づくように傾斜した傾斜部22cが形成され、この傾斜部22cに搬送台車31によって搬送される車体WのサイドシルWaに指向するように斜め上側に指向する第2の熱風吹き出し口24が形成されている。また、内壁22aの上部には車体Wに取り付けられドアDに形成されたドアガラス開口部Dhに指向するように水平方向に指向する第1の熱風吹き出し口23が形成されている。
ここで、予熱炉11と本乾燥炉21の熱風供給路12,22と熱風排出路15,25は分離して形成され、各熱風供給路12,22は図示しない加熱装置に別々に接続されている。
【0025】
次に、作用について説明する。
前段工程で電着塗装が完了した車体Wが乾燥炉1の予熱炉11に搬入されると、図6に示すように、先ずサッシュ予熱部11bの熱風吹き出し口13から吹出される80度の熱風によりサッシュ部Daが加熱される。これによりサッシュ部Daの表面に塗着した残留した電着塗料の塗液中の水分が未沸騰の状態で蒸発して表面が乾燥する。また、サッシュ部Daを形成するために屈曲され、複数枚積層された鋼板間の隙間に侵入している電着塗料の塗液についてもその水分が未沸騰の状態で蒸発し、水分量が低下する。
【0026】
次に、図7に示すように、車体Wが予熱炉11のドアスキン予熱部11cに搬入されると、ドアスキン予熱部11cの熱風吹き出し口14から吹出される80度の熱風により、ドアスキン部Db表面に塗着した電着塗料の水分が未沸騰の状態で蒸発して表面が乾燥する。また、ドアDのアウタースキンDe内面とスチフナーDf間及び、ドアスキン部Db上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgを形成する複数枚の鋼板間の隙間に侵入している電着塗料の塗液についてもその水分が未沸騰の状態で蒸発して水分量が低下する。
【0027】
次に、車体Wは、図8に示すように、第1の熱風吹き出し口23及び第2の熱風吹き出し口24からの熱風により炉内雰囲気温度が170度〜180度に設定された本乾燥炉21に搬入される。
図2に示すように、先ず、車体Wは本乾燥炉21の比較的温度が低い入口傾斜部21Aに搬入される。入口傾斜部21Aでは車体Wが後部を下側に向けて傾斜した状態で搬送されるため、ドアDのサッシュ部Daの鋼板間の隙間、ドアDのアウタースキンDeとこれに接合された構造部材間の隙間、アウタースキンDe上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgの鋼板間の隙間から電着塗料の塗液が垂れ落ちようとする(図9参照)。ところが、鋼板間の隙間の電着塗料の塗液量は水分が蒸発しているため僅かであり、仮に残っていたとしても本乾燥炉21の入口傾斜部21Aで全てタレ落ち切る。また、この時、車体WのサイドシルWaは未乾燥で焼付け乾燥されていない状態にあるため、電着塗料の塗液がタレ落ちても、未乾燥部分になじむため問題はない。
【0028】
次に、車体Wは本乾燥炉21の上部に位置し温度の高い水平部21Bに搬入され、炉内雰囲気温度が170度〜180度で熱風により焼付け乾燥される。この時、第2の熱風吹き出し口24は、車体Wの部位で鋼板の積層枚数が最も多く、昇温し難いサイドシルWaに指向して熱風を吹き出しているため、車体Wは全体として均一に昇温し、車体Wに塗装された電着塗料がガラス転移点に達する、電着塗膜が急激な粘度低下を生じてタレによるレベリング作用で綺麗な塗膜を形成する。そして、塗膜が形成された以降、ドアDのサッシュ部Da、ドアDのアウタースキンDeに接合された構造部材、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgから熱膨張により電着塗料の塗液がサイドシルWaに垂れることが無くなり、電着タレ不良は生ずることはない。
そして、車体Wは本乾燥炉21の出口傾斜部21Cを経て次段工程に搬送される。
【0029】
上記実施形態によれば、上流側の予熱炉11においては加熱手段により車体Wに存在するドアDなどの部材接合部の隙間部分を局所的に80度で加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、本乾燥炉21においてガラス転移点以上の温度である170度〜180度に加熱することで電着塗料の塗液を車体Wになじませることができるため、沸騰により飛散させること無く電着塗料の塗液の量を減少させ、タレを生じ難くすることができる。
【0030】
また、車体Wを加熱するにあたっては、先ず図6に示すように、サッシュ予熱部11bにおいて車体Wの上側であるドアDのサッシュ部Daを加熱し、次に図7に示すように、ドアスキン予熱部11cにおいて車体Wの下側であるドアDのドアスキン部Dbを加熱することで順次加熱部位を変位させるため、隙間部位に滞る電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができる。よって、下方の部材へ電着塗料の塗液がタレるのを防止できる。
【0031】
そして、本乾燥炉21は入口傾斜部21Aから水平部21Cへと徐々に高くなっているため、予熱炉11において残留する電着塗料の塗液が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した車体Wの後部から未だ乾燥してない車体Wの表面、例えばサイドシルWaに落としてなじませることができるため、万一タレが生じた場合であっても電着塗料の塗液のタレ不良が生じることはない。
【0032】
更に、本乾燥炉21において乾燥し難いサイドシルWaを第2の熱風吹き出し口24により乾燥させ、熱量を他に比べて多く確保することが可能となるため、補強のため構成部品が多く電着塗装の塗液が残留し易いサイドシルWaを確実に乾燥でき、手直し等の作業が必要なくなり作業時間を短縮できると共に外観品質を向上できる。
また、このように乾燥し難いサイドシルWaを集中的に乾燥させるため、他の部分との乾燥時間のマッチングを図ることができ、この点でも作業時間を短縮できる。
そして、乾燥の形態が熱風の風圧を利用して電着塗料の塗液を押し出しながら加熱する形態であるため、風圧で押し出された電着塗料の塗液を車体Wの部材表面に広げることで、受熱面積を広くして乾燥を早めることができるので、乾燥時間を早めることができる。
【0033】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、図7においては、熱風吹出し口14をドアDのアウタースキンDe内面のスチフナーDfと、ドアスキン部Db上端のドアガラス開口部Dh付近を指向する別々の熱風吹出し口14により構成したが、図11に示すように、これらにまとめて熱風を供給することができれば1つのスリット状の熱風吹出し口14に集約してもよい。ここで図11において他の構成作用については図8と同様であるので同一部分に同一符号を付して説明は省略する。
【0034】
また、予熱炉11と本乾燥炉21の熱風供給路12,22と熱風排出路15,25が分離して形成され、各熱風供給路12,22は図示しない加熱装置に別々に接続されている場合について説明したが、予熱炉11の熱風供給路12と本乾燥炉21の熱風排出路25を接続するようにしてもよく、予熱炉11と本乾燥炉21の加熱装置を共用してもよい。
予熱炉11の加熱温度は蒸発を促し沸騰しない温度であれば80度に限られず、本乾燥炉21の加熱温度はガラス転移点以上の温度であればである170度〜180度に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施形態の乾燥炉の模式的平断面図である。
【図2】この発明の実施形態の乾燥炉の模式的縦断面図である。
【図3】この発明の実施形態の予熱炉のサッシュ予熱部の縦断面図である。
【図4】この発明の実施形態の予熱炉のドアスキン部の縦断面図である。
【図5】この発明の実施形態の本乾燥炉の縦断面図である。
【図6】図1のA矢視図である
【図7】図1のB−B断面図である。
【図8】図1のC−C断面図である。
【図9】図1のE−E断面図である。
【図10】ドアを車室側から見た部分破断図である。
【図11】この発明の他の実施形態を示す図8に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 乾燥炉
11 予熱炉(上流側)
13 熱風吹き出し口(加熱手段)
14 熱風吹き出し口(加熱手段)
21 本乾燥炉(下流側)
23 第1の熱風吹き出し口(加熱手段)
24 第2の熱風吹き出し口(加熱手段)
Da サッシュ部(ドアサッシュ)
Db ドアスキン部(ドアスキン)
Wa サイドシル(底部)
W 車体(被塗装物)
【技術分野】
【0001】
この発明は、電着塗装を終えた車体等の被塗装物を乾燥させる乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電着塗装された車体を乾燥炉内で焼付ける際、特にドアサッシュ部の鋼板合わせ部、ドアの袋状部下端の鋼板合わせ部の隙間内から電着塗料液が噴出し、あるいは流れ出て、電着塗料が下方にタレて車体のサイドシルの上面、側面などで硬化し電着塗料タレ不良となる不具合が発生していた。このような電着塗料タレ不良が生じたときは、タレた部位を削り落としてサイドシルの電着塗装硬化面と平滑になるようにしていた。
ところが、タレを起こした部位を削り落とす作業は工数がかかり、削り落とす際の削りくずが再度車体に付着する等の課題がある。
【0003】
これに対して電着塗装を終えた車体を乾燥炉に搬送する搬送路にヒータとシャワー装置を設け、ヒータによってルーフ及びピラー部とロッカー部のような電着塗料の塗液が侵入する可能性がある小さな隙間が開口した車体の表面を熱風で局所加熱して沸騰させ、隙間に浸入した電着塗料の流動性を高めて熱膨張させて隙間から流出させ、流出した電着塗料をシャワー装置のシャワー水により洗浄除去するものがある(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−086495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ヒータとシャワー装置を用いたものでは、車体上部の開口した隙間から滲み出た電着塗料の塗液がシャワー水によりその濃度は下がるものの、再び車体下部の開口した隙間内に侵入してしまう課題がある。また、隙間内には、表面張力によりヒータによる加熱では流出しなかった電着塗料が残留しており、塗液の濃度は上昇する。そして、電着乾燥炉の加熱により再び電着塗料タレとして流れ出るおそれがある。
【0005】
そこで、この発明は、隙間部分に電着塗料の塗液が浸入していてもこの電着塗料の塗液がタレ不良をおこすことがない乾燥炉及び乾燥炉における乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載した発明は、電着塗装が完了した被塗装物(例えば、実施形態における車体W)を乾燥する乾燥炉(例えば、実施形態における乾燥炉1)であって、上流側(例えば、実施形態における予熱炉11)の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側(例えば、実施形態における本乾燥炉21)の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側には被塗装物の部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する加熱手段(例えば、実施形態における熱風吹き出し口13、14、第1の熱風吹き出し口23、第2の熱風吹き出し口24)を設け、前記加熱手段は前記被塗装物の上側の前記隙間箇所から順次下側の前記隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする。
このように構成することで、上流側では加熱手段により被塗装物に存在する部材接合部の隙間部分を局所的に加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、下流側においてガラス転移点以上の温度に加熱することで電着塗料の塗液を被塗装物になじませることができる。また、加熱に際しては被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることで上側の隙間部位に滞る電着塗料の塗液が加熱による膨張等で下方にタレ、その直下の未乾燥で未焼付け乾燥の隙間部位に導かれる。前記と同様のことが繰り返されて電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができる。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記乾燥炉の下流側(例えば、実施形態における本乾燥炉21)を、上流側から下流側へと徐々に高くして被塗装物を斜めに傾斜させる山型炉として構成したことを特徴とする。
このように構成することで、下流側で大部分が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した被塗装物の後部から未だ乾燥してない被塗装物の表面に落としてなじませることができる。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記乾燥炉の前記下流側には、前記被塗装物の乾燥し難い底部(例えば、実施形態におけるサイドシルWa)を局所的に加熱する加熱手段(例えば、実施形態における第2の熱風吹き出し口24)を設けることを特徴とする。
このように構成することで、乾燥し難い底部の乾燥時間を多く確保することが可能となる。
【0009】
請求項4に記載した発明は、前記被塗装物が車体であることを特徴とする。
このように構成することで、車体の電着塗装工程後の乾燥工程において手直しなどの作業が必要なくなる。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記上側隙間箇所がドアサッシュ(例えば、実施形態におけるサッシュ部Da)であり、前記下側隙間箇所がドアスキン(例えば、実施形態におけるドアスキン部Db)であることを特徴とする。
このように構成することで、チャンネル材を備えたドアサッシュや、補強用の板材を備えたドアスキンのように多くの電着塗料の塗液が滞留し易い部材の乾燥を確実に行うことができる。
【0011】
請求項6に記載した発明は、前記乾燥し難い箇所が車体のサイドシル(例えば、実施形態におけるサイドシルWa)であることを特徴とする。
このように構成することで、サイドシルの乾燥状態を良好にできる。
【0012】
請求項7に記載した発明は、前記加熱手段がスリット状の熱風吹き出し口であることを特徴とする。
このように構成することで、局所的な部位のみを均一に加熱することができる。
【0013】
請求項8に記載した発明は、電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉における乾燥方法であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉な温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側では被塗装物を局所的に加熱し、加熱する際には被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1及び請求項8に記載した発明によれば、乾燥炉の上流側では加熱手段により被塗装物に存在する部材接合部の隙間部分を局所的に加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、乾燥炉の下流側においてガラス転移点以上の温度に加熱することで電着塗料の塗液を被塗装物になじませることができるため、沸騰により飛散させること無く電着塗料の塗液の量を減少させ、タレを生じ難くすることができる効果がある。また、加熱に際しては被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることで隙間部位に滞る電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができるため、下方の部材へ電着塗料の塗液がタレるのを防止できる効果がある。
請求項2に記載した発明によれば、下流側で大部分が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した被塗装物の後部から未だ乾燥してない被塗装物の表面に落としてなじませることができるため、万一タレが生じた場合であっても電着塗料の塗液のタレ不良が生じることはない効果がある。
請求項3に記載した発明によれば、乾燥し難い底部の乾燥時間を多く確保することが可能となる底部の確実な乾燥を確保できるという効果がある。
請求項4に記載した発明によれば、車体の電着塗装工程後の乾燥工程において手直しなどの作業が必要なくなり作業時間を短縮できる効果がある。
請求項5に記載した発明によれば、チャンネル材を備えたドアサッシュや、補強用の板材を備えたドアスキンのように多くの電着塗料の塗液が滞留し易い部材の乾燥を確実に行うことができるため、外観品質の向上に寄与できる効果がある。
請求項6に記載した発明によれば、サイドシルの乾燥状態を良好にできるため、車体の他の部分との乾燥時間のマッチングを図ることができる効果がある。
請求項7に記載した発明によれば、局所的な部位のみを均一に加熱することができるため、効果的に局所を乾燥することが可能となり、電着塗料の塗液のタレを効率的に防止できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
この発明の実施形態の乾燥炉は自動車の車体(ホワイトボディ)をワークとした電着塗装工程の後段で電着塗料の塗液を熱風により乾燥させるものである。
図1は乾燥炉の模式的平断面図、図2は乾燥炉の模式的縦断面図である。図1、図2に示すように、乾燥炉1は前段工程で電着塗装を終えた搬送台車31上の車体Wを搬送コンベア30ごと受け入れるものである。
【0016】
乾燥炉1は上流側の予備乾燥を行う予熱炉11と下流側の本乾燥を行う山型の本乾燥炉21とで構成されている。乾燥炉1は、前段の電着塗装工程を終え順次搬送されてくる搬送コンベア30の搬送台車31上の車体Wに付着した電着塗料の塗液を予熱炉11及び本乾燥炉21で乾燥させ次段工程に搬送する。尚、車体WにはドアDが取り付けられた状態になっている。
【0017】
予熱炉11は前段のサッシュ予熱部11bと後段のドアスキン(ドアアウタパネル)予熱部11cとで構成され、本乾燥炉21は、上流側から下流側へと徐々に高くなり車体Wを斜め上に傾斜させた状態で乾燥させる入口傾斜部21Aと車体Wを水平に搬送した状態で乾燥させる水平部21Bと上流側から下流側へと徐々に低くなり車体Wを斜め下に傾斜させた状態で乾燥させる出口傾斜部21Cとで構成されている。入口傾斜部21Aと水平部21Bと出口傾斜部21Cとにより水平部21Bにおいてより高温状態を維持し易い山型の本乾燥炉21が構成されている。
【0018】
図3は予熱炉11のサッシュ予熱部11bの内壁12a(後述する内壁15aを含む)を示し、図4は予熱炉11のドアスキン予熱部11cの内壁12a(後述する内壁15aを含む)を示し、図5は本乾燥炉21の内壁22a(後述する内壁25aを含む)を示している。
【0019】
図3〜図5に示すように、各内壁12a,22aには上段部分に横長の複数の熱風排出口16が形成されている。各熱風排出口16は所定間隔を隔てて配置されており、予熱炉11及び本乾燥炉21内に供給された熱風を排出するものである。
図3に示すサッシュ予熱部11bの内壁12aには上下方向中央上部に、縦長のスリット状の熱風吹き出し口13が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられている。
図4に示すドアスキン予熱部11cの内壁12aには、上下方向中央下部に縦長のスリット状の熱風吹き出し口14が上下2段4個が一組となって所定間隔を隔てて複数組設けられている。ここで、各熱風吹き出し口14は上側に指向している。
図5に示す本乾燥炉21の内壁22aには上下方向中央上部に縦長のスリット状の第1の熱風吹き出し口23が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられ、上下方向下部に縦長のスリット状の第2の熱風吹き出し口24が4個組となって複数組、所定間隔を隔てて設けられている。
【0020】
図6〜図8は予熱炉11、本乾燥炉21の横断面図である。
具体的に図6、図7に示すように、予熱炉11は角型断面形状の炉外壁11aを備えている。炉外壁11aの側壁から所定間隔を隔てた両内側に車体Wの搬送空間の両側下半部を内壁12aと外壁12bと上壁Uと底壁Bとで囲む熱風供給路12が区画形成されている。また、熱風供給路12の上方には、内壁12aの上方に連なる内壁15aと炉外壁11aとで区画された熱風排出路15が形成されている。ここで予熱炉11は、常時炉内温度が80度となるように設定されている。
【0021】
図6に示す予熱炉11のサッシュ予熱部11bにおいては、熱風供給路12の内壁12aの上部に熱風吹き出し口13が形成され、熱風排出路15の内壁15aの上部に熱風排出口16が形成されている。
ここで、両内壁12a間には、搬送コンベア30が配設され、搬送コンベア30の搬送台車31上に車体Wが載置されている(図7、図8においても同様)。車体WはドアDが図示しない治具により若干開いた状態となっていて、熱風吹き出し口13はドアDのサッシュ部Daに対向するように開口している。また、熱風排出口16は車体Wの上方で水平方向に炉内の熱風を排出するように開口している。尚、Dbはドアスキン部、Deはアウタースキン、Waはサイドシルを示している。
【0022】
図7に示す予熱炉11のドアスキン予熱部11cにおいては、内壁12aの熱風供給路12の上下方向中央上部に熱風吹き出し口14が形成され、熱風排出路15の内壁15aの上部に熱風排出口16が形成されている。
ここで、熱風吹き出し口14は斜め上方に指向して開口しており、車体Wに取り付けられたドアDのドアスキン部DbのアウタースキンDe内面に接合されたスチフナーDf等の構造部材またはドアスキン部Db上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgに指向するように形成されている(図9、図10参照)。この熱風吹き出し口14の上側の内壁12aは外側斜め下側に傾斜して、ガイド部Gを形成している。尚、熱風排出口16が車体Wの上方で水平方向に炉内の熱風を排出するように開口している点は上述したサッシュ予熱部11bと同様である。尚、図9において黒塗り部分は電着塗料の塗液を示す。
【0023】
また、図8に示すように、本乾燥炉21も角型断面形状の炉外壁21aを備えている。炉外壁21aの側壁から所定間隔を隔てた両内側に車体Wの搬送空間の両側下半部を内壁22aと外壁22bと上壁Uと底壁Bとで囲む熱風供給路22が区画形成されている。また、熱風供給路22の上方には、内壁22aの上方に連なる内壁25aと炉外壁21aとで区画された熱風排出路25が形成されている。熱風供給路22の内壁22aの上部に第1の熱風吹き出し口23が形成され、内壁22aの下部に第2熱風吹き出し口24が形成されている。また、熱風排出路25の内壁25aの上部には熱風排出口16が形成されている。
【0024】
具体的には、熱風供給路22においては内壁22aと外壁22bの幅が上部に比べて下部が広く、つまり内壁22aの下部に、両内壁22aが下部に行くほど互いに近づくように傾斜した傾斜部22cが形成され、この傾斜部22cに搬送台車31によって搬送される車体WのサイドシルWaに指向するように斜め上側に指向する第2の熱風吹き出し口24が形成されている。また、内壁22aの上部には車体Wに取り付けられドアDに形成されたドアガラス開口部Dhに指向するように水平方向に指向する第1の熱風吹き出し口23が形成されている。
ここで、予熱炉11と本乾燥炉21の熱風供給路12,22と熱風排出路15,25は分離して形成され、各熱風供給路12,22は図示しない加熱装置に別々に接続されている。
【0025】
次に、作用について説明する。
前段工程で電着塗装が完了した車体Wが乾燥炉1の予熱炉11に搬入されると、図6に示すように、先ずサッシュ予熱部11bの熱風吹き出し口13から吹出される80度の熱風によりサッシュ部Daが加熱される。これによりサッシュ部Daの表面に塗着した残留した電着塗料の塗液中の水分が未沸騰の状態で蒸発して表面が乾燥する。また、サッシュ部Daを形成するために屈曲され、複数枚積層された鋼板間の隙間に侵入している電着塗料の塗液についてもその水分が未沸騰の状態で蒸発し、水分量が低下する。
【0026】
次に、図7に示すように、車体Wが予熱炉11のドアスキン予熱部11cに搬入されると、ドアスキン予熱部11cの熱風吹き出し口14から吹出される80度の熱風により、ドアスキン部Db表面に塗着した電着塗料の水分が未沸騰の状態で蒸発して表面が乾燥する。また、ドアDのアウタースキンDe内面とスチフナーDf間及び、ドアスキン部Db上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgを形成する複数枚の鋼板間の隙間に侵入している電着塗料の塗液についてもその水分が未沸騰の状態で蒸発して水分量が低下する。
【0027】
次に、車体Wは、図8に示すように、第1の熱風吹き出し口23及び第2の熱風吹き出し口24からの熱風により炉内雰囲気温度が170度〜180度に設定された本乾燥炉21に搬入される。
図2に示すように、先ず、車体Wは本乾燥炉21の比較的温度が低い入口傾斜部21Aに搬入される。入口傾斜部21Aでは車体Wが後部を下側に向けて傾斜した状態で搬送されるため、ドアDのサッシュ部Daの鋼板間の隙間、ドアDのアウタースキンDeとこれに接合された構造部材間の隙間、アウタースキンDe上端であり、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgの鋼板間の隙間から電着塗料の塗液が垂れ落ちようとする(図9参照)。ところが、鋼板間の隙間の電着塗料の塗液量は水分が蒸発しているため僅かであり、仮に残っていたとしても本乾燥炉21の入口傾斜部21Aで全てタレ落ち切る。また、この時、車体WのサイドシルWaは未乾燥で焼付け乾燥されていない状態にあるため、電着塗料の塗液がタレ落ちても、未乾燥部分になじむため問題はない。
【0028】
次に、車体Wは本乾燥炉21の上部に位置し温度の高い水平部21Bに搬入され、炉内雰囲気温度が170度〜180度で熱風により焼付け乾燥される。この時、第2の熱風吹き出し口24は、車体Wの部位で鋼板の積層枚数が最も多く、昇温し難いサイドシルWaに指向して熱風を吹き出しているため、車体Wは全体として均一に昇温し、車体Wに塗装された電着塗料がガラス転移点に達する、電着塗膜が急激な粘度低下を生じてタレによるレベリング作用で綺麗な塗膜を形成する。そして、塗膜が形成された以降、ドアDのサッシュ部Da、ドアDのアウタースキンDeに接合された構造部材、ドアガラス開口部Dh下端のアウタースキン折返し部Dgから熱膨張により電着塗料の塗液がサイドシルWaに垂れることが無くなり、電着タレ不良は生ずることはない。
そして、車体Wは本乾燥炉21の出口傾斜部21Cを経て次段工程に搬送される。
【0029】
上記実施形態によれば、上流側の予熱炉11においては加熱手段により車体Wに存在するドアDなどの部材接合部の隙間部分を局所的に80度で加熱して電着塗料の塗液の水分を沸騰させることなく蒸発させ、本乾燥炉21においてガラス転移点以上の温度である170度〜180度に加熱することで電着塗料の塗液を車体Wになじませることができるため、沸騰により飛散させること無く電着塗料の塗液の量を減少させ、タレを生じ難くすることができる。
【0030】
また、車体Wを加熱するにあたっては、先ず図6に示すように、サッシュ予熱部11bにおいて車体Wの上側であるドアDのサッシュ部Daを加熱し、次に図7に示すように、ドアスキン予熱部11cにおいて車体Wの下側であるドアDのドアスキン部Dbを加熱することで順次加熱部位を変位させるため、隙間部位に滞る電着塗料の塗液を徐々に下側に導くことができる。よって、下方の部材へ電着塗料の塗液がタレるのを防止できる。
【0031】
そして、本乾燥炉21は入口傾斜部21Aから水平部21Cへと徐々に高くなっているため、予熱炉11において残留する電着塗料の塗液が加熱されてはいるものの僅かに残った隙間箇所の電着塗料の塗液を隙間箇所から出して傾斜した車体Wの後部から未だ乾燥してない車体Wの表面、例えばサイドシルWaに落としてなじませることができるため、万一タレが生じた場合であっても電着塗料の塗液のタレ不良が生じることはない。
【0032】
更に、本乾燥炉21において乾燥し難いサイドシルWaを第2の熱風吹き出し口24により乾燥させ、熱量を他に比べて多く確保することが可能となるため、補強のため構成部品が多く電着塗装の塗液が残留し易いサイドシルWaを確実に乾燥でき、手直し等の作業が必要なくなり作業時間を短縮できると共に外観品質を向上できる。
また、このように乾燥し難いサイドシルWaを集中的に乾燥させるため、他の部分との乾燥時間のマッチングを図ることができ、この点でも作業時間を短縮できる。
そして、乾燥の形態が熱風の風圧を利用して電着塗料の塗液を押し出しながら加熱する形態であるため、風圧で押し出された電着塗料の塗液を車体Wの部材表面に広げることで、受熱面積を広くして乾燥を早めることができるので、乾燥時間を早めることができる。
【0033】
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、図7においては、熱風吹出し口14をドアDのアウタースキンDe内面のスチフナーDfと、ドアスキン部Db上端のドアガラス開口部Dh付近を指向する別々の熱風吹出し口14により構成したが、図11に示すように、これらにまとめて熱風を供給することができれば1つのスリット状の熱風吹出し口14に集約してもよい。ここで図11において他の構成作用については図8と同様であるので同一部分に同一符号を付して説明は省略する。
【0034】
また、予熱炉11と本乾燥炉21の熱風供給路12,22と熱風排出路15,25が分離して形成され、各熱風供給路12,22は図示しない加熱装置に別々に接続されている場合について説明したが、予熱炉11の熱風供給路12と本乾燥炉21の熱風排出路25を接続するようにしてもよく、予熱炉11と本乾燥炉21の加熱装置を共用してもよい。
予熱炉11の加熱温度は蒸発を促し沸騰しない温度であれば80度に限られず、本乾燥炉21の加熱温度はガラス転移点以上の温度であればである170度〜180度に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施形態の乾燥炉の模式的平断面図である。
【図2】この発明の実施形態の乾燥炉の模式的縦断面図である。
【図3】この発明の実施形態の予熱炉のサッシュ予熱部の縦断面図である。
【図4】この発明の実施形態の予熱炉のドアスキン部の縦断面図である。
【図5】この発明の実施形態の本乾燥炉の縦断面図である。
【図6】図1のA矢視図である
【図7】図1のB−B断面図である。
【図8】図1のC−C断面図である。
【図9】図1のE−E断面図である。
【図10】ドアを車室側から見た部分破断図である。
【図11】この発明の他の実施形態を示す図8に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 乾燥炉
11 予熱炉(上流側)
13 熱風吹き出し口(加熱手段)
14 熱風吹き出し口(加熱手段)
21 本乾燥炉(下流側)
23 第1の熱風吹き出し口(加熱手段)
24 第2の熱風吹き出し口(加熱手段)
Da サッシュ部(ドアサッシュ)
Db ドアスキン部(ドアスキン)
Wa サイドシル(底部)
W 車体(被塗装物)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側には被塗装物の部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する加熱手段を設け、前記加熱手段は前記被塗装物の上側の前記隙間箇所から順次下側の前記隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする乾燥炉。
【請求項2】
前記乾燥炉の下流側を、上流側から下流側へと徐々に高くして被塗装物を斜めに傾斜させる山型炉として構成したことを特徴とする請求項1に記載の乾燥炉。
【請求項3】
前記乾燥炉の前記下流側には、前記被塗装物の乾燥し難い底部を局所的に加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求項1または請求項2記載の乾燥炉。
【請求項4】
前記被塗装物が車体であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の乾燥炉。
【請求項5】
前記上側隙間箇所がドアサッシュであり、前記下側隙間箇所がドアスキンであることを特徴とする請求項4記載の乾燥炉。
【請求項6】
前記乾燥し難い箇所が車体のサイドシルであることを特徴とする請求項3記載の乾燥炉。
【請求項7】
前記加熱手段がスリット状の熱風吹き出し口であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の乾燥炉。
【請求項8】
電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉における乾燥方法であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉な温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側では被塗装物を局所的に加熱し、加熱する際には被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることを特徴とする乾燥炉における乾燥方法。
【請求項1】
電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉内温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側には被塗装物の部材接合部に形成される隙間箇所を局所的に加熱する加熱手段を設け、前記加熱手段は前記被塗装物の上側の前記隙間箇所から順次下側の前記隙間箇所に加熱部位を変位させることを特徴とする乾燥炉。
【請求項2】
前記乾燥炉の下流側を、上流側から下流側へと徐々に高くして被塗装物を斜めに傾斜させる山型炉として構成したことを特徴とする請求項1に記載の乾燥炉。
【請求項3】
前記乾燥炉の前記下流側には、前記被塗装物の乾燥し難い底部を局所的に加熱する加熱手段を設けることを特徴とする請求項1または請求項2記載の乾燥炉。
【請求項4】
前記被塗装物が車体であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の乾燥炉。
【請求項5】
前記上側隙間箇所がドアサッシュであり、前記下側隙間箇所がドアスキンであることを特徴とする請求項4記載の乾燥炉。
【請求項6】
前記乾燥し難い箇所が車体のサイドシルであることを特徴とする請求項3記載の乾燥炉。
【請求項7】
前記加熱手段がスリット状の熱風吹き出し口であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の乾燥炉。
【請求項8】
電着塗装が完了した被塗装物を乾燥する乾燥炉における乾燥方法であって、上流側の炉内温度を電着塗料中の水分が沸騰する温度未満とし、下流側の炉な温度をガラス転位点以上とした状態で、上流側では被塗装物を局所的に加熱し、加熱する際には被塗装物の上側から下側に順次加熱部位を変位させることを特徴とする乾燥炉における乾燥方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−132957(P2010−132957A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308909(P2008−308909)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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