説明

予備混合即時使用静脈内ボーラス組成物および使用方法

ニカルジピンの予備混合即時使用ボーラス投与用医薬組成物または薬学的に許容できる塩、ならびに心血管および脳血管の病態の処置における使用方法が、本明細書に提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照として本明細書にその全体が援用されている、35U.S.C.§119(e)の下2006年4月18日に出願された米国仮特許出願第60/793,074号に基く優先権を主張する。
【0002】
連邦政府委託の研究または開発の下でなされた発明者に対する権利に関する記述
適用不能
【0003】
コンパクトディスク上に提示された「配列一覧」、表、コンピュータプログラム一覧添付書の引用
適用不能
【背景技術】
【0004】
ジヒドロピリジンカルシウムチャネルブロッカーは、心血管および脳血管の障害の処置に有用である。これらの薬剤は、血管の平滑筋細胞内へのカルシウム取り込みを抑制し、カルシウムの細胞内貯蔵からのカルシウム動員によって作用する。血管平滑筋が弛緩して、血管拡張、末梢血管抵抗性の低下および血圧低下に至る。ジヒドロピリジンカルシウムチャネルブロッカーの例としては、アムロジピン(NORVASC(登録商標))、ベプリジル、ジルチアゼム(CARDIZEM(登録商標))、フェロジピン(PLENDIL(登録商標))、イスラジピン(DYNACIRC(登録商標))、ミベフラジル、ニカルジピン(CARDENE(登録商標))、ニフェジピン(ADALAT(登録商標)およびPROCARDIA(登録商標))、ニモジピン(NIMOTOP(登録商標))、ニソルジピン(SULAR(登録商標))、ベラパミル(CALAN(登録商標)、ISOPTIN(登録商標)およびVERELAN(登録商標))およびニルバジピンが挙げられる。
【0005】
ニカルジピン(nicardipine)は、塩酸塩(例えば、IUPAC化学名(±)−2−(ベンジル−メチルアミノ)エチルメチル1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(m−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートモノハイドロクロライド)などの多数の薬学的に許容できる塩を有する。塩酸ニカルジピンの調製および使用は、米国特許第3,985,758号に記載されている。CARDENE(登録商標)は、いくつかの形態で市販されている。例えば、塩酸ニカルジピンは、即時放出経口カプセル剤、徐放経口カプセル剤として、また、患者への投与前に、薬学的に許容できる希釈剤中に大幅に希釈されるアンプル(すなわち、CARDENE(登録商標)I.V.)として提供される濃縮調製物として入手できる。CARDENE(登録商標)I.V.は、経口療法が実施できないか、または望ましくない場合に、高血圧の短期処置のために適用される(CARDENE(登録商標)I.V.に関する製品添付文書を参照)。
【0006】
ニカルジピンの「注射用」製剤が記載されている。例えば、米国特許第4,880,823号の再発行である米国再発行特許第RE.34,618号は、耐光性褐色アンプルに保存され、該製剤中、特に等張化剤としての塩化ナトリウムの使用を避ける塩酸ニカルジピンの注射用組成物を記載している。米国特許第5,164,405号は、非経口投与のために設計されているニカルジピンを含有する緩衝化医薬組成物を記載している。この組成物もまた、アンプル内に保存される。これらの双方のアンプル製剤の欠点は、患者に投与する前に、薬学的に許容できる希釈剤中に大幅に希釈しなければならないことである。
【0007】
ニカルジピンは経口形態および注射用形態で存在しているが、ニカルジピンのボーラス製剤はFDAに認可されていない。それにも関わらず、ニカルジピンは、ボーラス注射としてオフラベルで投与される。投与には、濃縮アンプル製剤の希釈が必要である。例えば、Deanna Cheungら、Am Heart J.、119巻、438〜442頁(1990);Albert Cheungら、Anesth Analg、89巻、1116〜1123頁(1999);(著者)、Anesth Analg、85巻、1247〜1251頁(1997);Yunan Zhangら、Anesth Analg、100巻、378〜381頁(2005);ohn L Atleeら、Anesth Analg、90巻、280〜285頁(2000);HJ Yangら、J.Int Med Research、(引用);Jean−Louis Vincentら、J.CardiothoracicVasc Anesth、11巻、160〜164頁(1997);Chia−Chen Chenら、Acta Anaesthesiol Sin、34巻、197〜202頁(1996);YL Kwakら、J.Int Med Research、32巻、342〜350頁(2004);P Colsonら、Acta Anaesth Scand、42巻、1114〜1119頁(1998);Jean−Marc Bernardら、Anesth Analg、75巻、179〜85頁(1992);Hiroshi Endohら、J.Clin Anesthesia、11巻、545〜549頁(1999);AGM Ayaら、Intensive Care Med、25巻、1277〜1281頁(1999);S.Elatrousら、Intensive Care Med、28巻、1282〜1286頁(2002);Joseph Flynnら、J.Pediatr、139巻、38〜43頁(2001);および他の引用文献を参照されたい。
【0008】
アンプルで供給される医薬組成物は、いくつかの重要な欠点を有する。例えば、これらのアンプル製剤は、使用前に、薬学的に許容できる希釈剤中に希釈しなければならない。したがって、それらは救急設定などにおいて、直ちに使用可能ではない。使用前に希釈しなければならないアンプル組成物は、希釈を行う際の投与ミスおよびガラスアンプルの使用に関連した安全上の問題を生ぜしめる。さらに、病院設定における混合(予備混合)製品の投与に関する指針によると、混合溶液は、微生物汚染の危険を最少化するために、24時間以内に使用する必要がある。米国薬局方第1巻、349頁(2007)を参照されたい。アンプル製剤のオフラベル使用に一般的に関連した懸念に加えて、CARDENE(登録商標)I.V.には、さらに2つの問題がある。CARDENE(登録商標)I.V.の製品添付文書に記載されているとおり、濃縮アンプル製剤は種々の希釈剤に希釈できることから、希釈溶液のpHが大幅に変化する。第2に、CARDENE(登録商標)I.V.の製品添付文書に記載されているとおり、希釈溶液は、室温で24時間だけ安定である。したがって、希釈溶液は比較的速やかに使用しなければならず、さもないと期限切れとなる。
【0009】
溶血、沈殿、フェレビティス(phelebitis)および痛みの可能性を最少化するために、循環系に直接注入される薬剤は、保存中、および投与後の血液との接触および引き続いての希釈の際に、沈殿物をほとんど乃至まったく有さないことが必要である(例えば、Yalkowskyら、1998年、J.Pharmaceutical Sciences、87(7):787〜796頁を参照)。ニカルジピンは、7.2のpKaを有する弱い有機塩基で、水ベース製剤中、特に生理学的pHでは、溶解不良である。より濃縮形態で投与する場合、ニカルジピンの沈殿を避けるために、その水溶性不良を克服しなければならない。したがって、より濃縮された、低容量製剤において非経口投与される場合、保存中にほとんど分解または沈殿することのない、治療的に有効な用量を提供することのできる、ニカルジピンの低容量で安定な水性製薬製剤が長い間求められている。
【特許文献1】米国仮特許出願第60/793,074号
【特許文献2】米国特許第3,985,758号
【特許文献3】米国再発行特許第RE.34,618号
【特許文献4】米国特許第5,164,405号
【非特許文献1】Deanna Cheungら、Am Heart J.、119巻、438〜442頁(1990)
【非特許文献2】Albert Cheungら、Anesth Analg、89巻、1116〜1123頁(1999)
【非特許文献3】Albert Cheungら、Anesth Analg、85巻、1247〜1251頁(1997)
【非特許文献4】Yunan Zhangら、Anesth Analg、100巻、378〜381頁(2005)
【非特許文献5】ohn L Atleeら、Anesth Analg、90巻、280〜285頁(2000)
【非特許文献6】HJ Yangら、J.Int Med Research
【非特許文献7】Jean−Louis Vincentら、J.CardiothoracicVasc Anesth、11巻、160〜164頁(1997)
【非特許文献8】Chia−Chen Chenら、Acta Anaesthesiol Sin、34巻、197〜202頁(1996)
【非特許文献9】YL Kwakら、J.Int Med Research、32巻、342〜350頁(2004)
【非特許文献10】P Colsonら、Acta Anaesth Scand、42巻、1114〜1119頁(1998)
【非特許文献11】Jean−Marc Bernardら、Anesth Analg、75巻、179〜85頁(1992)
【非特許文献12】Hiroshi Endohら、J.Clin Anesthesia、11巻、545〜549頁(1999)
【非特許文献13】AGM Ayaら、Intensive Care Med、25巻、1277〜1281頁(1999)
【非特許文献14】S.Elatrousら、Intensive Care Med、28巻、1282〜1286頁(2002)
【非特許文献15】Joseph Flynnら、J.Pediatr、139巻、38〜43頁(2001)
【非特許文献16】米国薬局方第1巻、349頁(2007)
【非特許文献17】Yalkowskyら、1998年、J.Pharmaceutical Sciences、87(7):787〜796頁
【非特許文献18】Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2003年
【特許文献5】米国特許第5,079,237号
【特許文献6】米国特許第5,519,012号
【特許文献7】米国特許第5,904,929号
【特許文献8】米国特許第5,134,127号
【特許文献9】米国特許第5,376,645号
【特許文献10】米国仮特許出願第60/793,084号
【非特許文献19】Avramovら、1998年、J.Clinical Anesthesia、10:394〜400頁
【非特許文献20】Dormanら、2001年、J.Clinical Anesthesia、13:16〜19頁
【非特許文献21】Songら、2001年、Anesth Analg.、85:1247〜51頁
【非特許文献22】Center for Drug Evaluation and Research(CDER)およびCenter for Veterinary Medicine(CVM)、「Guidance for Industry for the Submission Documentation for Sterilization Process Validation in Applications for Human and Veterinary Drug Products」(1994年11月)
【非特許文献23】Conners,K.A.ら、Chemical Stability of Pharmaceuticals、A Handbook for Pharmacists、John Wiley & Sons、第2版、1986年
【非特許文献24】Yalkowskyら、Journal of Pharmaceutical Sciences、第92巻、第8号、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本明細書に提供される組成物は、臨床的使用に十分安定で、しかも非経口投与により、希釈なしで、即時使用にとって好適なニカルジピン濃度を提供する、ニカルジピンの比較的低容量の予備混合即時使用注射用製剤を提供することによって、これらおよび他の必要に取り組んでいる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらおよび他の必要を満たすために、対象への直接的な非経口ボーラス投与のためのニカルジピンの医薬組成物および対象における急性の血圧上昇を予防または処置するための該組成物の使用方法が、本明細書に提供される。該組成物は、皮下、筋内、および静脈内などの非経口経路によって、患者に投与することができる。
【0012】
第1の態様により、ヒト対象への、直接的ボーラス静脈内投与のためのニカルジピン医薬組成物が提供される。この態様において、該医薬組成物は各々、0.1mMから100mMの濃度および約3.5から5.5(両端を含む)のpHにおける1つまたは複数の緩衝剤、および1つまたは複数の追加の薬学的に許容できる賦形剤または担体を有する水性製剤中、0.25mg/mlから5.0mg/ml(両端を含む)のニカルジピン(ニカルジピン塩基またはその塩酸塩に関して算出)を含む。いくつかの実施形態において、該緩衝剤は、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、ヒスチジン、炭酸、酒石酸、リン酸、または2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)のうちの1つまたは複数の塩および酸であり得る。任意に、該組成物は、等張化剤および/または補助溶媒を含む。好適な等張化剤としては、限定はしないが、デキストロースおよび塩化ナトリウムを含む。好適な補助溶媒としては、限定はしないが、0.1%w/vから25%w/vで変動する濃度範囲における、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、およびエタノールが挙げられる。該組成物は典型的には、低容量の予備混合即時使用ボーラス注射用水性医薬組成物として提供される。あるいは、該組成物を凍結乾燥し、水、生理食塩水または薬学的に許容できる水性担体中に再構成して、ボーラス注射として使用するための組成物を提供することができる。
【0013】
さらにいくつかの実施形態において、急性の血圧上昇の予防または処置を必要とするヒト対象における急性の血圧上昇の予防または処置のための上記組成物の製造におけるニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩の使用が提供される。
【0014】
第2の態様では、ニカルジピンおよび/または薬学的に許容できるその塩とスルホアルキル化β−シクロデキストリンとの包接錯体を含む、ヒト対象へのボーラス直接静脈内投与のために製剤化された医薬組成物が提供される。該製剤中のスルホアルキル化β−シクロデキストリンの濃度は典型的に、0.1%(w/v)から25%(w/v)(両端を含む)である。該医薬組成物は各々、0.1mMから100mMの濃度および約3.5から7.5(両端を含む)のpHにおける1つまたは複数の緩衝剤、および1つまたは複数の追加の薬学的に許容できる賦形剤または担体を有する水性製剤中、0.25mg/mlから5.0mg/ml(両端を含む)のニカルジピン(ニカルジピン塩基またはその塩酸塩に関して算出)を含む。いくつかの実施形態において、該緩衝剤は、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、ヒスチジン、炭酸、リン酸、酒石酸、またはMESのうちの1つまたは複数の酸または塩であり得る。任意に、該組成物は、等張化剤および/または補助溶媒を含む。本明細書に提供される組成物中に使用される好適な等張化剤としては、限定はしないが、デキストロースおよび塩化ナトリウムを含む。本明細書に提供される組成物中に使用される好適な補助溶媒としては、限定はしないが、0.1%w/vから25%w/vで変化する濃度範囲における、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、およびエタノールが挙げられる。該組成物は典型的に、低容量の予備混合即時使用ボーラス注射用の水性医薬組成物として提供される。あるいは、該組成物を凍結乾燥し、水、生理食塩水または薬学的に許容できる水性担体中に再構成して、ボーラス注射として使用するための組成物を提供することができる。
【0015】
さらにいくつかの実施形態において、急性の血圧上昇の予防または処置を必要とするヒト対象における急性の血圧上昇の予防または処置のための上記組成物の製造におけるニカルジピンおよびスルホアルキル化β−シクロデキストリン誘導体の使用が提供される。
【0016】
上記態様のいずれかにおける医薬組成物は、注射器、アンプル、またはバイアルなどの種々の容器内での使用のためにパッケージすることができる。該組成物は典型的に、ニカルジピンを光から保護する材料でパッケージされる。
【0017】
ニカルジピンの薬学的に許容できる塩の例は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩および酒石酸塩である。いくつかの実施形態において、ニカルジピンの薬学的に許容できる塩は、塩酸ニカルジピンである。
【0018】
第3の態様において、急性の血圧上昇の予防または処置を必要とするヒト対象における急性の血圧上昇を予防または処置する方法が、該対象に上記のボーラス医薬組成物を静脈内投与することによって提供される。該対象は、浮腫、腎不全、腹水、脳浮腫、または他の体液過負荷、うっ血性心不全、肝不全、またはCNS傷害などのいくつかの既存の医学的状態によって容量制限されている場合が考えられる。該用量は、種々の時間の長さにわたって投与することができ、一般に、約5秒間から30秒間など、30秒未満の時間にわたって投与される。いくつかの実施形態において、対象は、150mmHg以上の収縮期値での血圧上昇を有する。他の実施形態において、対象は、90mmHg以上の拡張期値での血圧上昇を有する。用量は、高血圧の重症度および投与中の個々の患者の応答に依存して個別化することができる。
【0019】
第4の態様において、手術中の低血圧誘導の必要なヒト対象に手術中の低血圧を誘導するための方法が、該対象に上記のボーラス製剤を静脈内投与することによって提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
静脈内ボーラスとして投与するための低容量で治療的薬剤量を提供するニカルジピンの医薬組成物が、本明細書に提供される。提供されるニカルジピン製剤は、保存の際に安定であり、ヒト対象への静脈内注射の際にほとんど沈殿しない。迅速な血圧制御が必要なため、または経口投与自体が適していないために、経口投与が実施できない場合に、該組成物のボーラス形態は、血圧の急性上昇の処置に特に有用である。
【0021】
ニカルジピンおよびその薬学的に許容できる塩、それらの調製、およびそれらの使用は、当技術分野で知られている。それらは例えば、他の文献の中でも、参照として本明細書にその全体が援用されている米国特許第3,985,758号に開示されている。ニカルジピンの薬学的に許容できる塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩および酒石酸塩が挙げられる。ニカルジピンの薬学的に許容できる好ましい塩は、塩酸ニカルジピンである。該医薬組成物は、0.25mg/mlから5.0mg/mlのニカルジピンまたはその薬学的に許容できるその塩を含む。一実施形態において、該濃度は、0.25mg/mlから1.0mg/mlである。該組成物は、シクロデキストリンなどの複合化剤を任意に含むことができる。いくつかの実施形態において、該組成物は、1つまたは複数の緩衝剤を含む。mg/mlで表される場合、ニカルジピンの濃度は、記述された量の塩酸ニカルジピンにより提供されたモルに相当するモルであるニカルジピン塩基の量に関する。
【0022】
定義
本明細書および添付の請求項で用いられる単数形態の「a」「an」および「the」は、文脈で明白に別様に指示しない限り、複数記述を含む。
【0023】
本明細書に記載される1つまたは複数の非対称中心を含む組成物中に使用される化合物は、ラセミ体およびラセミ混合物、単独の鏡像体として生じ得る。該組成物は、このような化合物のすべての異性体形態を包含することが意図されている。
【0024】
記述された範囲はすべて、別様に指示されない限り、当該範囲の境界値のそれぞれを含む。したがって、4.0から5.0のpHは、4.0のpHおよび5.0のpH、ならびに間にある種々の増分値、例えば、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、および5.0を含む。
【0025】
濃度がパーセントの単位で示される場合、該パーセントは、別様に指示されない限り、重量対容量(w/v)である。1%の溶液は、最終容量100mlの溶液中に1gの溶質が溶解していることになる。
【0026】
用語「医薬組成物」とは、該活性成分、および担体を構成する不活性成分、ならびに本明細書に記載された任意の2つ以上の成分の組合せ、錯化、または凝集化から、または、1つまたは複数の該成分の解離から、または1つまたは複数の該成分の他のタイプの反応または相互作用から、直接的にまたは間接的に生じる任意の生成物を含む製品を包含することが意図されている。医薬組成物は一般に、治療有効量のニカルジピン、1つまたは複数の緩衝剤、および本明細書に記載された他の成分を含む。
【0027】
「治療有効量」は、血圧の急性上昇を処置または予防する上で、または対象への単独で、または複数用量の1つとして投与される際に低血圧を誘導する上で十分な薬剤量である。「治療有効量」は、製剤、血圧上昇の重症度、年齢、全身の健康状態、および処置される対象の体重に依存して変化する。
【0028】
本明細書に用いられる用語「予備混合」とは、販売前のパッケージングおよび/または製造の時点からすでに混合されていて、対象への投与前に再構成または希釈を必要としない医薬組成物を意味する。
【0029】
本明細書に用いられる用語「安定な」とは、患者への投与に好適であり、特定の期間にわたって該製剤中の該活性成分の効力に実質的な変化を受けない状態または状況を保持することを意味する。いくつかの実施形態において、組成物は、室温で維持された場合に、少なくとも6カ月間、通常は少なくとも12カ月間、一般的には少なくとも18カ月間または24カ月間安定である。該組成物はまた、28℃で保存された場合、より長期間にわたって安定であることが好ましい。効力の実質的な変化とは、特定の期間、目標濃度から15%を超える該薬剤濃度が低下する変化である。別様に指示されない限り、安定な組成物は、少なくとも6カ月間、その状態(例えば、沈殿なし、分解なしまたは容器への吸着なし)でニカルジピンの元の量の少なくとも85%を保持する組成物である。
【0030】
該医薬組成物の担体および賦形剤ならびに他の成分は、該製剤の他の成分に適合性であり、そのレシピエントにとって有害でないという意味で、「薬学的に許容できる」ことが必要である。したがって、用語「薬学的に許容できる塩」とは、使用条件下で非毒性である対イオンによって調製され、安定な製剤に適合性である活性化合物の塩形態を称する。比較的酸性の官能基を含有する化合物では、このような化合物の中性形態を、ニートの、または好適な不活性溶媒中の所望の塩基の十分な量に接触させることによって、塩基付加塩を得ることができる。薬学的に許容できる塩基付加塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、有機アミノ塩、もしくはマグネシウム塩、または類似の塩が挙げられる。薬学的に許容できる有機非毒性塩基から誘導される塩としては、第一級、第二級、および第三級アミン類、天然置換アミン類などの置換アミン類、環式アミン類、エタノールアミン、2−ジエチルアミノエタノール、リシン、アルギニン、およびヒスチジンが挙げられる。
【0031】
比較的塩基性の官能基を含有する化合物では、このような化合物の中性形態を、ニートの、または好適な不活性溶媒中の所望の塩基の十分な量に接触させることによって、酸付加塩を得ることができる。「薬学的に許容できる塩基付加塩」(すなわち、生物学的有効性、および生物学的にまたは他に望ましくないものではない遊離塩基の性質を保持している塩)の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸類、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸などの有機酸類などによって形成することができる。
【0032】
用語「薬学的に許容できる担体または賦形剤」とは、許容できる副作用プロファイルを有し、該組成物が製剤化または使用される投与条件下で、該活性成分の保存または投与のための媒介物を提供するのに役立つ、医薬組成物の調製に有用な担体または賦形剤を意味する。該担体または賦形剤は、該製剤の他の成分と適合性であり、そのレシピエントにとって有害でない。本明細書および請求項に用いられる「薬学的に許容できる担体または賦形剤」には、このような担体または賦形剤の1つおよび2つ以上の双方が含まれる。薬学的に許容できる担体は、投与される特定の組成物により、ならびに該組成物の投与に用いられる特定の方法により、部分的に決定される。本発明の医薬組成物の好適な多種多様な製剤がある(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2003年、上記、を参照)。
【0033】
「等張化剤」は、製剤の浸透圧重量モル濃度を、血液または血漿などの体液の浸透圧に近づけるように改変するために用いられる作用物質である。該組成物が生理学的に適合性であることを考慮すると、該組成物は特定の浸透圧重量モル濃度を必要としない。したがって、該組成物は、低張性、等張性、または高張性であり得る。該製薬製剤は典型的に、約250mOsm/kgから350mOsm/kgの間の浸透圧重量モル濃度を有する。該医薬組成物の張性は、等張化剤、補助溶媒、複合化剤、緩衝剤、または賦形剤のうちの1つまたは複数の濃度を調整することによって調整することができる。好適な等張化剤としては、限定はしないが、NaClの無水形態または含水形態、デキストロース、スクロース、キシリトール、フルクトース、グリセロール、ソルビトール、マンニトール、KCl、CaCl、およびMgClが挙げられる。
【0034】
「緩衝剤」は、製剤のpHを制御するために用いられる作用物質である。種々の緩衝剤が好適であり、該組成物中に単独で、または一緒に用いることができる。好適な緩衝剤としては、限定はしないが、酢酸、グルタミン酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、アスコルビン酸、乳酸、アミノ酸、グルコン酸、コハク酸、MES、およびリン酸の酸および塩が挙げられる。該緩衝剤は、0.1mMから100mM(両端を含む)、0.1mMから0.5mM、0.5mMから1mM、1mMから5mM、5mMから20mM(両端を含む)、5mMから50mM(両端を含む)、または50mMから100mM(両端を含む)の濃度であり得る。
【0035】
該pHは、適切な酸または酸性塩(例えば、HCl、アスコルビン酸、リン酸)、または塩基または塩基性塩の添加により、記述されるpH範囲、または目標pHへと調整することができる。例えば、pHは、NaOH、KOH、またはLiOHなどのアルカリ金属の水酸化物、またはMg(OH)またはCa(OH)などのアルカリ土類金属の水酸化物、または炭酸塩などの塩基によって調整することができる。該緩衝剤は、ニカルジピンの塩を生じさせる種の酸形態または塩基形態であり得る。
【0036】
「補助溶媒」は、水の重量未満の重量であって、ニカルジピンまたはニカルジピンとスルホアルキル化β−シクロデキストリンの包接錯体の可溶化を助ける、水性製剤に添加される溶媒である。例えば、補助溶媒は、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)およびエタノールからなる群から選択することができる。補助溶媒は典型的に、0.1%から25%の濃度である。
【0037】
製薬製剤
A.緩衝剤を含む医薬組成物
ヒト対象への直接的静脈内投与用のニカルジピンの医薬組成物が提供される。ニカルジピンは、薬学的に許容できる塩(例えば、塩酸塩、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、または酒石酸塩)として提供することができる。いくつかの実施形態において、いくつかの実施形態において、ニカルジピンの濃度は、0.3mg/mlから0.7mg/ml;0.4mg/mlから0.6mg/mlの範囲;または0.5mg/mlである。いくつかの実施形態において、ニカルジピンの濃度は、1.0mg/mlから0.9mg/ml、0.9mg/mlから0.8mg/ml、0.8mg/mlから0.7mg/ml、0.7mg/mlから0.6mg/ml、0.6mg/mlから0.5mg/ml、0.5mg/mlから0.4mg/ml、0.4mg/mlから0.3mg/ml、0.3mg/mlから0.25mg/mlである。
【0038】
第1の態様において、CAPTISOL(登録商標)を欠く製剤が考慮されている。この態様において、該医薬組成物は、0.25mg/mlから5.0mg/ml(両端を含む)のニカルジピン(ニカルジピン塩基またはその塩酸塩のいずれかに関して算出)を含む。一実施形態において、該組成物は、0.25mg/ml〜1.0mg/mlのニカルジピンを含む。一実施形態において、該組成物は0.5mg/mlのニカルジピンを含む。
【0039】
該組成物は各々、0.1mMから100mMの濃度、および約3.5から5.5(両端を含む)のpHである1つまたは複数の緩衝剤を有する水性製剤中にある。例えば、いくつかの実施形態において、該組成物は、0.5mMから50mMの濃度、および3.5より高く、5.0未満のpHである緩衝剤を含む。いくつかの実施形態において、該緩衝剤は、クエン酸、マレイン酸、ギ酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、ヒスチジン、炭酸、酒石酸、リン酸またはMESの酸または塩のうちの1つまたは複数であり得る。いくつかの実施形態において、該緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、およびリン酸塩からなる群から選択される単一の緩衝剤である。いくつかの実施形態において、該組成物は、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の異なる緩衝剤を含む。例えば、いくつかの実施形態において、該組成物は、酢酸塩とクエン酸塩;酢酸塩とリン酸塩;酢酸塩とコハク酸塩;クエン酸塩とリン酸塩;クエン酸塩とコハク酸塩;およびコハク酸塩とリン酸塩からなる群から選択される2つの緩衝剤を含む。他の実施形態において、該組成物は、酢酸塩、リン酸塩およびコハク酸塩;クエン酸塩、リン酸塩および酢酸塩;コハク酸塩、リン酸塩およびクエン酸塩;およびクエン酸塩、酢酸塩およびコハク酸塩の緩衝剤からなる群から選択される3つ以上の緩衝剤を含む。
【0040】
場合によっては、該組成物は、等張化剤および/または補助溶媒を含み得る。いくつかの実施形態において、該等張化剤は、デキストロースまたは塩化ナトリウムである。いくつかの実施形態において、該補助溶媒は、0.1%w/vから25%w/vで変化する濃度範囲にある多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、およびエタノールである。他の実施形態において、該補助溶媒の濃度は、0.1%w/vから10%w/vである。該組成物は典型的に、低容量の予備混合即時使用注射用ボーラス水性医薬組成物として提供される。
【0041】
いくつかの実施形態において、該製剤は、(a)ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩(例えば塩酸ニカルジピン)、(b)少なくとも1つの緩衝剤;(c)等張化剤;および(d)場合によっては補助溶媒を含み、該組成物のpHは、3.5と5.5との間である。代表的な製剤を表1に示す。
【表1】



【0042】
B.錯化剤を含む医薬組成物
第2の態様において、ヒト対象への静脈内投与のために製剤化され、ニカルジピンおよび/または薬学的に許容できるその塩とスルホアルキル化β−シクロデキストリンとの包接錯体を含む医薬組成物が提供される。ニカルジピンは、薬学的に許容できる塩(例えば、塩酸塩、塩化物塩、硫酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、酢酸、フマル酸塩、マレイン酸、または酒石酸塩)として提供することができる。いくつかの実施形態において、ニカルジピンの濃度は、0.3mg/mlから0.7mg/ml;0.4mg/mlから0.6mg/mlの範囲、または0.5mg/mlである。いくつかの実施形態において、ニカルジピンの濃度は、1.0mg/mlから0.9mg/ml;0.9mg/mlから0.8mg/ml;0.8mg/mlから0.7mg/ml;0.7mg/mlから0.6mg/ml;0.6mg/mlから0.5mg/ml;0.5mg/mlから0.4mg/ml;0.4mg/mlから0.3mg/ml;0.3mg/mlから0.25mg/mlである。
【0043】
スルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体は、シクロデキストリン分子1個当たり、1個と7個との間のスルホブチルエーテル基の平均置換度を有するスルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンである。一般に、本明細書に記載された組成物中には、高置換のブチルスルホン酸またはプロピルスルホン酸が利用される。というのは、それらは、赤血球溶血試験による判定で、膜崩壊を引き起こすことがより少ないからである。本明細書に記載された製剤に使用できる高置換ブチルスルホン酸の一例は、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンであり、CAPTISOL(登録商標)(シクロデキストリン分子1個当たり、スルホブチルエーテル基の平均置換度7を有する)として市販品を入手できる。
【0044】
他の実施形態において、米国特許第5,079,237号は、製剤と天然のα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、またはγ−シクロデキストリンとの包接錯体を記載している。米国特許第5,519,012号は、製剤と2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、3−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、2−ヒドロキシエチル−β−シクロデキストリン、2,3−ジヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンなどのヒドロキシアルキル化β−シクロデキストリン類との包接錯体を記載している。米国特許第5,904,929号は、ペルC2〜18アシル化シクロデキストリンとの製剤において、経粘膜または経皮投与用の多数の製剤を記載している。該シクロデキストリンは、α、β、またはγ−シクロデキストリンであり得る。米国特許第5,134,127号および米国特許第5,376,645号は、スルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体、および経口、経鼻または非経口投与ならびに静脈内および筋肉内投与用に、水に不溶性のいくつかの製剤のための可溶化剤としてのそれらの使用を開示している。開示されたスルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体の例としては、β−シクロデキストリンのモノスルホブチルエーテルおよびβ−シクロデキストリンのモノスルホプロピルエーテルが挙げられる。
【0045】
該製剤中のスルホアルキル化β−シクロデキストリンの濃度は、典型的には、0.1%(w/v)から25%(w/v)(両端を含む)である。一実施形態において、該濃度は、0.5%(w/v)〜10%(w/v)である。
【0046】
一態様において、該医薬組成物は、0.25mg/mlから5mg/ml(両端を含む)のニカルジピン(ニカルジピン塩基またはその塩酸塩に関して算出)を含む。一実施形態において、該組成物は、0.25mg/mlから1mg/mlのニカルジピンを含む。一実施形態において、該組成物は、0.5mg/mlのニカルジピンを含む。
【0047】
該組成物は各々が、0.1mMから100mMの濃度、および3.5から7.5(両端を含む)のpHである1つまたは複数の緩衝剤を有する水性製剤中にある。いくつかの実施形態において、該製剤は各々が、0.5mMから50mMの濃度、および3.5より高く5.5以下のpHである1つまたは複数の緩衝剤を含む。いくつかの実施形態において、該緩衝剤は、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、コハク酸、酢酸、プロピオン酸、ヒスチジン、炭酸、リン酸、またはMESのうちの1つまたは複数の酸または塩であり得る。一実施形態において、該緩衝剤は、酢酸、クエン酸、リン酸、およびコハク酸からなる群から選択される。該組成物は、第1の態様に関して、上記の1つ、2つ、3つまたはそれ以上の緩衝剤を含み得る。例えば、いくつかの実施形態において、該組成物は、酢酸とクエン酸;酢酸とリン酸;酢酸とコハク酸;クエン酸とリン酸;クエン酸とコハク酸;およびコハク酸とリン酸からなる群から選択される2つの緩衝剤を含む。いくつかの実施形態において、該組成物は、酢酸、リン酸およびコハク酸;クエン酸、リン酸および酢酸;コハク酸、リン酸およびクエン酸;およびクエン酸、酢酸およびコハク酸の緩衝剤からなる群から選択される3つ以上の緩衝剤を含む。
【0048】
場合によっては、該組成物は、等張化剤および/または補助溶媒を含む。いくつかの実施形態において、該等張化剤は、デキストロースまたは塩化ナトリウムである。いくつかの実施形態において、好適な該補助溶媒としては、限定はしないが、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、およびエタノールが挙げられる。いくつかの実施形態において、該補助溶媒はソルビトールである。典型的に、該補助溶媒の濃度は、0.1%w/vから25%w/vで変化する。いくつかの実施形態において、該補助溶媒の濃度は、0.1%w/vから10%w/vで変化する。
【0049】
該組成物は典型的に、低容量の予備混合即時使用注射用ボーラス水性医薬組成物として提供される。あるいは、該組成物を凍結乾燥し、水、生理食塩水、または薬学的に許容できる水性担体中に再構成して、該組成物を提供することができる。
【0050】
したがって、(a)ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩(例えばニカルジピン)、(b)錯化剤、および(c)場合によっては、少なくとも1つの補助製剤をおよび/または等張化剤、(d)該組成物のpHを3.5と7.5との間になる緩衝剤を含む、注射用水性医薬組成物が、本明細書において提供される。好適な緩衝剤としては、酢酸、コハク酸、グルタミン酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、乳酸、ヒスチジン、グルコン酸およびリン酸のうちの少なくとも1つの酸または塩が挙げられる。好適な補助溶媒としては、多価アルコール(例えば、ソルビトール、マンニトール、キシリトール)、グリコール類(例えば、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール)、およびエタノールが挙げられる。一般に該錯化剤は、シクロデキストリンを含む。いくつかの実施形態において、シクロデキストリンは、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、α−シクロデキストリン、およびスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンのうちの少なくとも1つを含む。好適な等張化剤としては、塩化ナトリウムおよびデキストロースが挙げられる。
【0051】
例えば、いくつかの実施形態において、該組成物は、(a)ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩(例えば塩酸ニカルジピン)、(b)錯化剤、および(c)該組成物のpHが3.5と7.5との間になる緩衝剤を含む。これらの作用物質を組み込んでいる代表的製剤を表2に示す。
【表2】







該組成物は、1つまたは複数の追加の薬学的に許容できる賦形剤または担体を含むこと
ができる。
【0052】
いくつかの実施形態において、該医薬組成物は、本明細書に参照として援用されている、2006年4月18日に出願された米国仮特許出願第60/793,084号に記載されている任意のものである。
【0053】
処置の方法
第3の態様において、急性血圧上昇の予防または処置を必要とするヒト患者における急性血圧上昇の予防または処置のために、上記の医薬組成物が用いられる。いくつかの実施形態において、処置される患者は、共存している医学的状態により、容量制限されている場合が考えられる。低容量製剤の投与が有利であると考えられる医学的状態の例としては、腎不全、腹水、脳浮腫、うっ血性心不全、肝不全、またはCNS傷害が挙げられる。用量は、高血圧の重症度および投与中の個々の患者の応答に依存して個別化することができる。典型的に該容量は、30秒未満の時間にわたってボーラス用量として投与されるか、または予備混合製品の連続注入として投与することができる。いくつかの実施形態において、該患者は、150mmHg以上の収縮期血圧の上昇を有する。他の実施形態において、対象は、90mmHg以上の拡張期値での血圧上昇を有する。
【0054】
いくつかの実施形態において、該医薬組成物は、種々の医学的操作に関連する急性血圧上昇を予防するために使用することができる。急性血圧上昇に関連する医学的操作の例としては、限定はしないが、電気痙攣療法(例えば、Avramovら、1998年、J.Clinical Anesthesia、10:394〜400頁を参照)、頚動脈動脈内膜切除術(例えば、Dormanら、2001年、J.Clinical Anesthesia、13:16〜19頁を参照)、気管挿管(Songら、2001年、Anesth Analg.、85:1247〜51頁)および皮膚切開(Songら、2001年、Anesth Analg.、85:1247〜51頁)が挙げられる。
【0055】
いくつかの実施形態において、該医薬組成物は、一定の心血管病態および脳血管病態による急性血圧上昇を処置するために使用することができる。急性血圧上昇に関連する心血管病態の例としては、限定はしないが、本態性高血圧、狭心症、急性虚血、全身性動脈高血圧、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不整脈、心筋症および動脈硬化症が挙げられる。急性血圧上昇に関連する脳血管病態の例としては、限定はしないが、肺性高血圧、脳不全および偏頭痛が挙げられる。他の実施形態において、該医薬組成物は、腎障害による急性血圧上昇を処置するために使用することができる。
【0056】
いくつかの実施形態において、該医薬組成物は、限定はしないが、心胸手術、脊髄手術ならびに頭部および頚部手術などの手術操作中に低血圧を誘導するために使用することができる。
【0057】
ボーラス投与では、該組成物は典型的に、単位用量様式で提供され、該単位用量は、単位用量中または充填容量中、0.5mlから10ml(両端を含む)の治療有効量のニカルジピンを提供する。例えば、該単位用量または充填容量は、0.5mlから1.0ml、1.2mlから2ml、2mlから3ml、3mlから4ml、4mlから5ml、5mlから6ml、6mlから7ml、7mlから8ml、8mlから9ml、および9mlから10mlであり得る。
【0058】
該単位用量または充填容量は、バイアルまたは注射器などの薬学的に許容できる容器内で提供することができる。いくつかの実施形態において、該容器は、極性ポリマー、例えばポリ塩化ビニルを含まない。該組成物を遮光するために、琥珀色のバイアルまたは注射器を使用することができ、および/またはパッケージングが光バリアをさらに含むことができる。該光バリアはアルミニウムオーバーパウチであり得る。
【0059】
該処置方法は、緩衝剤および/またはスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリンと共製剤化したニカルジピン医薬組成物は、注射部位にニカルジピンが沈殿する可能性を減少させ、特定のpH値の範囲にわたって保存中のニカルジピンを安定化させるという出願者の発見に関するものである。本発明はさらに、3.5〜7.5のpH範囲にわたって十分な緩衝能力が得られるような種々のpKaを有する緩衝剤の使用が、注射部位にニカルジピンが沈殿する可能性を最少化するのに有効であり得るという該出願者の発見に関するものである。
【0060】
図2Bに示されるとおり、CAPTISOL(登録商標)の使用により、ニカルジピンの溶解性が高まり、該組成物の保存の際、特に高pHの場合、形成される総不純物を減少させることを該出願者は発見した。この発見により、生理的pH範囲により近いpHでのニカルジピンを含む製剤のより高濃度の展開が可能になり、該製剤は、希釈することなく直接的静脈内投与に使用することができる。
【0061】
医薬組成物の調製
ニカルジピンとスルホアルキル化−β−シクロデキストリン誘導体との包接錯体は、慣例的方法に従って、ニカルジピンおよび該誘導体の水溶液、スラリーまたはペーストから調製することができる。溶液は、ニカルジピン塩の緩衝化溶液にシクロデキストリンの水溶液を、混合するまで攪拌しながら加えることによって調製することができる。
【0062】
いくつかの実施形態において、(a)予備混合溶液を形成するために、ニカルジピンおよび/または薬学的に許容できるその塩の有効量を、少なくとも1つの緩衝剤および少なくとも1つの補助溶媒および包接錯体を含有する好適な液体に溶解させること;(b)3.5と7.5との間のpH範囲に該予備混合溶液のpHを調整すること、および(c)薬学的に許容できる容器に該予備混合溶液を充填することにより、非経口投与に有用な安定な製剤が作製される。
【0063】
他の実施形態において、(a)予備混合溶液を形成するために、ニカルジピンおよび/または薬学的に許容できるその塩の有効量を、少なくとも1つの緩衝剤および少なくとも1つの補助溶媒を含有する好適な液体に溶解させること;(b)3.5と7.5との間のpH範囲に該予備混合溶液のpHを調整すること、および(c)薬学的に許容できる容器に該予備混合溶液を充填することにより、非経口投与に有用な安定な製剤が作製される。
【0064】
薬学的に許容できる容器に該医薬組成物を充填する操作および引き続くそれらの処理は、当技術分野で知られている。本明細書に用いられる滅菌組成物とは、滅菌状態にされ、引き続く微生物汚染に曝露されていない組成物を意味し、すなわち、滅菌組成物を保持する容器は汚染されていない。健康管理に必要とされることが多い滅菌製薬製品の製造に、これらの操作を使用することができる。例えば、Center for Drug Evaluation and Research(CDER)およびCenter for Veterinary Medicine(CVM)、「Guidance for Industry for the Submission Documentation for Sterilization Process Validation in Applications for Human and Veterinary Drug Products」(1994年11月)を参照されたい。滅菌製薬製品を製造するための好適な操作の例としては、限定はしないが、終末湿熱滅菌、エチレンオキシド、放射線照射(すなわち、ガンマ線および電子線)、および無菌処理操作が挙げられる。本明細書に記載された滅菌製薬組成物を製造するために、これらの滅菌操作のうちのいずれか1つを使用することができる。
【0065】
いくつかの実施形態において、該組成物は、終末滅菌される。終末滅菌は、該医薬組成物を含有する最終の密封容器内のすべての生存微生物を破壊するために用いることができる。熱、放射線照射、および化学的滅菌手段が利用できる。最終パッケージング内の薬剤製品の終末熱滅菌を達成するために、典型的にはオートクレーブが用いられる。最終製品の終末滅菌を達成するための製薬業界における典型的なオートクレーブサイクルは、121℃で少なくとも10分間である。さらなる滅菌手段としては、ガンマ線照射およびエチレンオキシド処理が挙げられる。
【0066】
滅菌された医薬組成物はまた、無菌処理操作を用いて調製することもできる。滅菌は、滅菌材料の使用および作業環境の管理によって維持される。すべての容器および器具を、充填前に熱滅菌によって滅菌することが好ましい。次いで、フィルターに該組成物を通して単位を充填するなどの無菌条件下で、該容器に充填する。したがって、該組成物は、容器内に滅菌充填して、終末滅菌の熱ストレスを避けることができる。
【0067】
シクロデキストリンの調製
本明細書に記載された組成物に用いるための好適なスルホアルキル化β−シクロデキストリンとしては、参照としてその全体、特にそこに開示されたスルホアルキル化β−シクロデキストリン誘導体の構造、性質、および製造についての記述が援用されている米国特許第5,376,645号に記載されたスルホアルキルエーテルβ−シクロデキストリン誘導体が挙げられる。これらの誘導体は、以下の式のものであり:
【化1】


式中、nは、4、5または6であり;R、R、R、R、R、R、R、RおよびRは各々独立して、OまたはO−(C2〜6アルキレン)SO基であり、RおよびRの少なくとも1つは、独立して、O−(C2〜6アルキレン)−SO基、好ましくは、O−(CH)mSO基であり、mは2から6、またはそれ以上であるか、または2から4であり(例えば、OCHCHCHSOまたはOCHCHCHCHSO);およびS、S、S、S、S、S、S、SおよびSは各々独立して、例えば、H、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属(例えば、Ca+2、Mg+2)、アンモニウムイオン、アミン類カチオン類、例えばC1〜6アルキルアミン、ピペリジン、ピラジン、C1〜6アルカノールアミンおよびC4〜8シクロアルカノールアミンなどを含む薬学的に許容できるカチオンである。
【0068】
他の好ましい実施形態において、Rは、O−(C2〜6アルキレン)−SO基、O−(CH)mSO基(例えば、OCHCHCHSOまたはOCHCHCHCHSO);RからRはO;およびSからSは上記に定義したとおりである。
【0069】
他の好ましい実施形態において、R、RおよびRは、各々独立して、O−(C2〜6−アルキレン)−SO基、好ましくは、O−(CH)mSO基(例えば、OCHCHCHSOまたはOCHCHCHCHSO);RからRはO;およびSからSは上記に定義したとおりである。
【0070】
他の好ましい実施形態において、RからRは、上記に定義したとおりであり、R、RおよびSの少なくとも1つは、O−C2〜6−アルキレン−SO基、好ましくは、O−(CH)mSO基(例えば、OCHCHCHSOまたはOCHCHCHCHSO)であり、;R、RおよびRはO;およびSからSは上記に定義したとおりである。
【0071】
他の実施形態において、誘導体化β−シクロデキストリンは、β−シクロデキストリンのモノスルホブチルエーテルである。さらに他の実施形態において、誘導体化β−シクロデキストリンは、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリン(CAPTISOL(登録商標))である。CAPTISOL(登録商標)は、スルホブチル化の程度が異なる複数の種のスルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンを含有する異種材料であり、親β−シクロデキストリン上の利用可能な21のヒドロキシルの平均7つがスルホブチルエーテル基で誘導体化されている。CAPTISOL(登録商標)の化学名およびCAS登録番号は、β−シクロデキストリンスルホブチルエーテル、ナトリウム塩〔182410−00−0〕である。化学式は、C4270−n・(CSONa)Oであり、n=およそ6.5である。したがって、CAPTISOL(登録商標)は、2、3、4、5、6、7、8、9、10のいくつかの材料、および、おそらく、1および11の置換度のきわめて小さい量を含有する。CAPTISOL(登録商標)は一般に、置換度(DS)の平均が約7、一般的に6.0と7.1との間であるように製造される。したがって、いくつかの実施形態において、スルホブチル化β−シクロデキストリンは、平均4から8、6から8、5から7、または6から7.5のスルホブチル化度を有するものである。他の実施形態において、該スルホブチル化β−シクロデキストリンは、4、5、6、7、8、または9のスルホブチル化度または上記式当たり、任意のスルホブチル化度の1つまたは複数を有する種を含む。したがって、いくつかの実施形態において、スルホブチル化β−シクロデキストリンは、平均4から8、6から8、5から7、または6から7.5のスルホブチル化度を有するものである。
【0072】
他の実施形態において、R、R、R、R、RおよびRは各々独立して、O−(C2〜6−アルキレン)−SO基、O−(CH)mSO基(例えば、OCHCHCHSOまたはOCHCHCHCHSO)であり;R、RおよびRはOであり;SからSは上記に定義したとおりである。
【0073】
スルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体(例えば、O−(C2〜6−アルキレン)−SO基またはアルキルアミンにおいて)の式に関する用語「アルキレン」および「アルキル」には、線状および分枝状、飽和および不飽和(すなわち、1つの二重結合を含む)、二価のアルキレン基および一価のアルキル基それぞれの双方が含まれる。同様に、スルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体に関する用語「アルカノール」には、アルカノール基の線状および分枝状、飽和および不飽和のアルキル要素双方が含まれ、ヒドロキシ基は、該アルキル部分上の任意の位置にあり得る。用語「シクロアルカノール」には、非置換および置換(例えば、メチルまたはエチルにより)環式アルコール類が含まれる。
【0074】
ニカルジピンおよびシクロデキストリン誘導体を含む組成物に関して。いくつかの実施形態において、該誘導体は、式(1)に記載された構造を有し、該組成物は全体で、シクロデキストリン分子1個当たり、平均少なくとも1つで、3n+6までのアルキルスルホン酸部分を含有する(nは4、5または6)。本発明はまた、特に単独のタイプのみのシクロデキストリン誘導体を含有するニカルジピン組成物を提供する。
【0075】
好適なシクロデキストリン誘導体は、第一級ヒドロキシ基の少なくとも1つにおいて置換されている(すなわち、RからRの少なくとも1つが置換されている)か、または第一級ヒドロキシ基と3位のヒドロキシ基の双方において置換されている(すなわち、RからRの少なくとも1つおよびR、RおよびRの少なくとも1つの双方が置換されている)。
【0076】
スルホアルキルエーテルシクロデキストリン誘導体の作製方法は当技術分野でよく知られており、米国特許第5,376,645号に教示されている。該誘導体と薬剤との複合体を形成する方法もまた当技術分野でよく知られており、米国特許第5,376,645号に開示されている。
【0077】
代替の態様
代替の態様において、本発明は、心臓薬または薬学的に許容できるその塩、ならびに補助溶媒と錯化剤の少なくとも1つ、および緩衝剤を含む予備混合された即時使用注射用医薬組成物に関する。該組成物は等張化剤をさらに含み得る。該組成物は等張であることが好ましい。該組成物のpHは3と7との間であることが好ましい。該組成物は、静脈内用バッグ、注射器またはバイアルなどの薬学的に許容できる容器内にパッケージされていることが好ましい。該組成物は、心血管および脳血管の病態の処置に使用されることが好ましい。本発明はまた、このような組成物を調製する方法に関する。この他の態様において、本明細書に用いられる用語「予備混合された」とは、製造の時点ですでに混合されており、投与前に希釈またはさらなる処理を必要としない医薬組成物を意味する。用語「予備混合された」はまた、該液体溶液および活性製薬成分が製造時点から分離されており、該溶液が静脈内用バッグに保存される場合、活性製薬成分が凍結乾燥され、患者への投与直前まで、該バッグに接続はしているが、該溶液との液体接触はしていないバイアル内に保存されるなどして保存される医薬組成物を意味する。該医薬組成物は、注射により投与される水溶液であることが好ましい。あるいは、該医薬組成物を凍結乾燥し、次いで、例えば静脈内投与の前に、等張性の生理食塩水中で再構成することができる。
【0078】
この代替態様において、本発明の医薬組成物は、心臓薬または薬学的に許容できるその塩を含む。心臓薬のクラス例としては、ベータブロッカー、カルシウムチャネル拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素阻害剤、利尿薬、血管拡張薬、ニトロ化合物、抗血小板薬および抗凝固薬が挙げられる。該心臓薬は、カルシウムチャネル拮抗薬または薬学的に許容できるその塩であることが好ましい。該心臓薬は、ジヒドロピリジン誘導体または薬学的に許容できるその塩であることがより好ましい。該心臓薬は、ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩であることが最も好ましい。ニカルジピンの薬学的に許容できる塩の例は、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩および酒石酸塩である。ニカルジピンの薬学的に許容できる好ましい塩は、塩酸ニカルジピンである。該医薬組成物は、0.05〜1.5mg/mlのニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩を含むことができる。該医薬組成物は、0.15〜0.35mg/mlのニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩を含むことが好ましい。該組成物は、0.2〜0.3mg/mlのニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩を含むことがより好ましい。ニカルジピンおよび薬学的に許容できるその塩、それらの調製、およびそれらの使用は当技術分野で知られている。例えば、それらは、他にも文献はあるが中でも、参照としてその全体が本明細書に援用されている米国特許第3,985,758号に開示されている。
【0079】
いくつかの実施形態において、該医薬組成物は、0.1〜15mg/mlのニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩を含む。例えば、ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩の好適な濃度としては、限定はしないが、0.1〜15mg/ml、0.1〜10mg/ml、0.1〜5mg/ml、0.1〜3.0mg/ml、0.1〜2.0mg/ml、0.1〜1.0mg/ml、0.9mg/ml、0.8mg/ml、0.7mg/ml、0.6mg/ml、0.5mg/ml、0.4mg/ml、0.3mg/ml、0.2mg/mlまたは0.1mg/mlが挙げられる。
【0080】
この代替態様において、心臓病態を処置するために該医薬組成物を使用することができる。心血管および脳血管の病態など、カルシウムチャネル拮抗薬の投与によって緩和する病態を処置するために、該組成物を用いられることが好ましい。本発明の医薬組成物によって処置することのできる心血管病態としては、狭心症、虚血、全身性動脈高血圧、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋梗塞、心不整脈、心筋症および動脈硬化症が挙げられる。本発明の医薬組成物によって処置することのできる脳血管病態としては、肺性高血圧、脳不全および偏頭痛が挙げられる。該組成物は、高血圧の処置に用いられることが好ましい。
【0081】
この代替態様において、本発明の医薬組成物はまた、補助溶媒および錯化剤の少なくとも1つを含む。したがって、該組成物は、1つの補助溶媒、1つの錯化剤、複数の補助溶媒、複数の錯化剤、1つの補助溶媒と1つの錯化剤、1つの補助溶媒と複数の錯化剤、1つの錯化剤と複数の補助溶媒、または複数の補助溶媒と複数の錯化剤を含み得る。
【0082】
この代替態様において、ニカルジピンおよび薬学的に許容できるその塩は、水にわずかにしか溶解しない。補助溶媒および錯化剤は、該医薬組成物の水溶液にニカルジピンを可溶化するのを助ける。補助溶媒および錯化剤は、本発明の組成物中など、高濃度のニカルジピンが存在する場合に特に有利である。本発明の組成物の利点は、該組成物が、低容量の静脈内用液体を用いて該組成物を投与することを可能にする高濃度のニカルジピンを有することである。このような組成物は、多数の患者、特に容量制限された患者に対する処置の選択肢となり得る。
【0083】
この代替態様において、高濃度で低容量のニカルジピンから利益を得ることのできる患者および医学的病態としては、限定はしないが、以下のものが挙げられる:急性うっ血性心不全;小児科;体液の過負荷が大きな問題である高齢患者における高血圧急性発症;血圧を制御するために、AIS、ICHおよびSAHなどのすべての急性発作領域;心胸手術(CABG、大動脈の縮窄など)、脊髄手術、ならびに頭部および頚部手術などの手術操作中の低血圧制御;および頚動脈内膜切除術、外傷性脳傷害ならびに高血圧および血管痙攣の可能性のある処置の後のブレイクスルー高血圧制御のための神経手術。
【0084】
この代替態様において、補助溶媒および錯化剤は、溶解性の増大に加えて、該医薬組成物の安定性を高める。さらに、該医薬組成物の張性を調整するために、該医薬組成物中の補助溶媒および錯化剤の濃度の変更を行うことができる。薬学的に許容できる補助溶媒は当技術分野で知られており、市販品を入手できる。典型的な補助溶媒としては、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、エタノールおよびソルビトールが挙げられる。該補助溶媒の濃度は、0.1〜10%重量/容量パーセントであることが好ましく、これは該組成物のpHに依存する。該補助溶媒の濃度は、0.1〜5%であることがより好ましい。該補助溶媒の濃度は、0.1〜2%であることが最も好ましい。該医薬組成物にとって好ましい補助溶媒は、プロピレングリコールおよびソルビトールである。プロピレングリコールの濃度は、0.1〜2%であることが好ましい。プロピレングリコールの濃度は、0.1〜1%であることがより好ましい。プロピレングリコールの濃度は、0.3%であることが最も好ましい。ソルビトールの好ましい濃度は、0.1〜2%である。ソルビトールのさらに好ましい濃度は、0.1〜1%である。ソルビトールの最も好ましい濃度は、0.5%である。
【0085】
この代替態様において、薬学的に許容できる錯化剤は当技術分野で知られており、市販品を入手できる。典型的な錯化剤としては、天然のシクロデキストリンおよび化学修飾されたシクロデキストリンなどのシクロデキストリン類が挙げられる。該錯化剤はベータシクロデキストリンであることが好ましい。該医薬組成物にとって好ましい錯化剤は、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(2HPBCD)およびスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン(SBEBCD)である。該錯化剤の濃度は、0.1〜25%重量/容量パーセントであることが好ましい。該複合化剤の濃度は、0.1〜10%であることがより好ましい。該錯化剤の濃度は、0.1〜5%であることが最も好ましい。2HPBCDの濃度は、15〜25%であることが好ましい。2HPBCDの濃度は、20〜25%であることがより好ましい。SBEBCDの好ましい濃度は、0.1〜10%である。SBEBCDのさらに好ましい濃度は、0.1〜5%である。SBEBCDの最も好ましい濃度は、0.75〜1%である。
【0086】
さらに、この代替態様における医薬組成物は、緩衝剤を含むことができる。しかし、該組成物は複数の緩衝剤を含むことができる。本発明の医薬組成物は、投与の際の静脈炎の発生を最少化するために、生理的pHに近いことが好ましい。しかし、該医薬組成物のpHは、該組成物中のニカルジピンの溶解性および安定性にも影響を及ぼす。一般に、該医薬組成物のpHが増加するにつれて、ニカルジピンの水溶性は低下する。その結果、生理的pHに近いニカルジピンを可溶化することは難しい。さらに、該組成物は、該溶液が投与された時、血液による希釈の際に沈殿しないように十分な緩衝能力を有することが望ましい。
【0087】
この代替態様においても同様に、該医薬組成物のpHを調整するために緩衝剤が用いられる。該組成物のpHは3.5と7.5との間が好ましい。該組成物のpHは4と6との間がより好ましい。該組成物のpHは4.0と5.5との間がさらに好ましい。該組成物のpHは4.5と5.2との間が最も好ましい。
【0088】
この代替態様において、典型的な緩衝剤としては、酢酸、グルタミン酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、乳酸、ヒスチジンまたは他のアミノ酸、グルコン酸、リン酸およびコハク酸が挙げられる。好ましい緩衝剤は、酢酸およびコハク酸である。好ましい緩衝剤の濃度は、1〜100mMである。より好ましい緩衝剤の濃度は、1〜50mMである。さらに好ましい緩衝剤の濃度は、25〜35mMである。
【0089】
この代替態様において、本発明の医薬組成物は等張性、すなわち、270〜328mOsm/kgの範囲であることが好ましい。しかし、該組成物は、250〜350mOsm/kgの範囲の張性を有し得る。したがって、該組成物は、わずかに低張性である250〜269mOsm/kgであっても、わずかに高張性である329〜350mOsm/kgであってもよい。該医薬組成物の張性は、該溶液中の補助溶媒、錯化剤および緩衝剤のいずれか1つまたは複数の濃度を調整することによって等張性にすることが好ましい。
【0090】
この代替態様において、本発明の医薬組成物は等張化剤をさらに含み得る。しかし該組成物は、複数の等張化剤をさらに含み得る。等張化剤は当技術分野でよく知られており、市販品が入手できる。典型的な等張化剤としては、塩化ナトリウムおよびデキストロースが挙げられる。好ましい等張化剤は塩化ナトリウムである。好ましい等張化剤の濃度は1〜200mMである。より好ましい等張化剤の濃度は75〜125mMである。さらに好ましい等張化剤の濃度は90〜110mMである。
【0091】
この代替態様において、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容できる容器内にパッケージされることが好ましい。薬学的に許容できる容器としては、静脈内用バッグ、ボトル、バイアル、および注射器が挙げられる。好ましい容器としては、好ましくはポリマーベースの静脈内用バッグおよび注射器、ならびに、好ましくはガラス製のバイアルおよび静脈内用ボトルが挙げられる。また、該医薬組成物に接触する該容器の成分は、ポリ塩化ビニル(PVC)を含有しないことが好ましい。最も好ましい容器は、該医薬組成物に接触するPVC含有成分を有さない静脈内用バッグである。また、該医薬組成物を遮光することも望ましい。したがって、該容器は場合によっては、光遮断剤をさらに含み得る。好ましい光遮断剤はアルミニウムオーバーパウチである。
【0092】
また、この代替態様によって、滅菌の医薬組成物を調製するための上記の方法も提供される。
【0093】
[実施例]
以下の実施例は、例示を意図したものであり、全体の開示を限定する意図はない。実施例6から11までは、本明細書に記載された代替態様を原理的に示す医薬組成物の特定の実施形態を開示している。
【実施例1】
【0094】
pHの関数として、ニカルジピンHClとCAPTISOL(登録商標)との錯体生成を評価するための相溶解度試験
この相溶解度試験において、3.6〜7.4のpH範囲にある緩衝剤を含有し、2〜40%w/vの濃度範囲にあるCAPTISOL(登録商標)を含有するバイアル内に、溶解度を超える量のニカルジピンHClを入れた。これらの評価はまた、CAPTISOL(登録商標)を含有しない緩衝溶液に関しても行った。該バイアルを密封し、平衡に達するまで、室温で振とうした。引き続き、試験サンプルのアリコートを取り、ろ過し、UV検出器を有するRP−HPLCによって、薬物濃度を判定した。
【0095】
図1に示されるとおり、ニカルジピンHClの溶解度は、pHの増加につれて低下した。所与のpH値において、CAPTISOL(登録商標)の濃度が増加するにつれて、ニカルジピンHClの溶解度は増加した。溶解度におけるこの有意な増加のため、CAPTISOL(登録商標)の使用により、該薬物の可溶化を生理的pHにより近づけることが可能になる。
【実施例2】
【0096】
ニカルジピンHCl製剤の安定性の評価
10mMの酢酸Na緩衝液中、目標濃度0.5mg/mlのニカルジピンHClを試験した。すべての製剤をコートされたエラストマー栓(例えば、Daikyo Flurotech Stoppers)を有する琥珀色のガラスバイアルに充填し、終末滅菌した。評価したpH値には、3.5、4.0、4.5、5.0および5.5が含まれる。製剤は、CAPTISOL(登録商標)を含有しないか、または2%もしくは5%のCAPTISOL(登録商標)を含有した。バイアルを反転させ、55℃で、およそ5週間まで保存した。各安定性時点で、試験サンプルのアリコートを取り出し、ニカルジピン濃度および不純物レベルを、UV検出器を有するRP−HPLCによって判定した。
【0097】
(1)ニカルジピンHCl濃度(効力)の損失(図2Aを参照)および(2)時間の関数としての製品関連の総不純物の形成(図2B)をモニターすることにより、安定性の評価を行った。これらのストレス条件下で行われた試験により、製品分解の促進が助けられ、より短期間での関連保存条件における製品の存在可能性が予測される。
【0098】
公開された文献に基づくと、薬物分解のための活性化エネルギーは通常、12Kcal/molから24Kcal/molの範囲に入り、典型的な値は19Kcal/molから20Kcal/molである。これらの条件下(仮定Ea=19.4Kcal/mol)、55℃で約2.9週間の保存は、製品が25℃で18カ月間の使用期限を有することに相当する(例えば、Conners,K.A.ら、Chemical Stability of Pharmaceuticals、A Handbook for Pharmacists、John Wiley & Sons、第2版、1986年を参照)。
【0099】
図2Aに示されるとおり、CAPTISOL製剤では、製品の効力(すなわち、薬物濃度)の損失は、3.5から5.5の範囲のpHにわたって減少する。例えば、CAPTISOL(登録商標)なしの製剤に関し、pH5.0および5.5における製剤において、0.5mg/mlの目標濃度を達成することができなかった。しかし、2%および5%のCAPTISOL(登録商標)を有する製剤に関しては、4.0〜5.5のpH範囲にあるすべての製剤で、薬物の損失は5%未満であった。
【0100】
すべての製品関連不純物の形成が図2Bに示されている。CAPTISOL(登録商標)なしのpH3.5の製剤で不純物レベルが最高であることが見られた。このpHで、CAPTISOL(登録商標)濃度が増加するにつれて、不純物レベルが低下した。CAPTISOL(登録商標)製剤と非CAPTISOL(登録商標)製剤とでは、不純物形成に及ぼすpHの影響が異なることも見られた。非CAPTISOL(登録商標)製剤では、%不純物レベルはpHと共に増加したが、すべてのCAPTISOL(登録商標)製剤では、逆の傾向が見られた(図2Bを参照)。該製剤中のCAPTISOL(登録商標)濃度が増加するにつれて、総不純物レベルの低下が見られた。例えば、5%のCAPTISOL(登録商標)を含有する製剤では総不純物レベルが最低であった。
【0101】
これらの安定性結果に基づくと、CAPTISOL(登録商標)製剤と非CAPTISOL(登録商標)製剤の双方に関して、室温で許容できる安定性を有する薬剤製品の開発を可能にするpH範囲を同定することができる。非CAPTISOL(登録商標)製剤に関して、pH範囲は、3.5<pH<5.0に限定される。CAPTISOL(登録商標)製剤では、製品開発に関してより広いpH範囲、3.5<pH≦5.5が許容され、生理的により近い製剤の開発が可能になる。さらに、pH>3.5では、CAPTISOL(登録商標)製剤は、薬学的に許容できる容器システム内での保存の際、吸着性の薬物損失および総不純物形成の減少にも関連していた。
【実施例3】
【0102】
静力学的沈殿モデルにおける塩酸ニカルジピンの沈殿に及ぼすCAPTISOL(登録商標)製剤の影響
この試験において、0〜3%w/vのCAPTISOL(登録商標)を含有する30mMの酢酸Na緩衝液、pH4.5中で作製された0.3mg/mLのニカルジピンHCl製剤を、注射部位におけるそれらの沈殿可能性に関して評価した。血液と同等の緩衝能力を有する、pH7.4の溶液(例えば、pH7.4のゼーレンセンリン酸緩衝液)を用いて、各製剤の種々の希釈物を調製し、分光計を用いて、490nmの波長における光透過%をモニターすることにより、サンプルの不透過率を測定した。アッセイ精度の向上のため、この方法を、96ウェルプレート様式を用いて展開した。1.0の希釈率は、pH7.4の緩衝液による希釈なしの試験サンプルに対応し、0.5の希釈率は、該製剤がpH7.4の緩衝液により1:1に容量希釈されている試験サンプルに対応し、同様に、ゼロの希釈率は、pH7.4の緩衝液のみを含有する試験サンプルに対応することになる。
【0103】
図3は、評価されたCAPTISOL(登録商標)製剤に関する希釈因子の関数としての透過率を示す。%透過測定値における減少は、薬物の沈殿による不透過率の増加を示している。該製剤中のCAPTISOL(登録商標)濃度が増加するにつれて、注射部位における血液による希釈の際の薬物沈殿の可能性を示すサンプル不透過率が著しく減少することを、試験結果は明らかに裏付けている。動的モデル(血液の流速に維持された流動溶液中に該錯体が注入される)による予備的結果(実施例5を参照)は、沈殿を減少させるCAPTISOL(登録商標)の能力を同様に裏付けている。
【実施例4】
【0104】
静力学的沈殿モデルにおける塩酸ニカルジピンの沈殿に及ぼす混合緩衝液製剤の影響
図4は、実施例3と同じ操作で評価された混合緩衝液製剤に関する希釈因子の関数としての不透過率測定値を示している。該製剤は以下のとおりであった:
酢酸−クエン酸−リン酸製剤:0.3mg/mlのニカルジピンHCl、30mMの酢酸塩、30mMのクエン酸塩、69.5mMのNaCl、pH4.5、
酢酸−クエン酸−製剤:0.3mg/mlのニカルジピンHCl、30mMの酢酸塩、30mMのクエン酸塩、97mMのNaCl、pH4.5。
【0105】
CAPTISOL(登録商標)製剤に関して見られるとおり、不透過率の減少は、3.5〜7.5のpH範囲で十分な緩衝能力が得られるような種々のpKaを有する緩衝液の組合せの使用もまた、注射部位における薬物沈殿の可能性を最少化するための有効な方法であることを明らかに裏付けている。
【実施例5】
【0106】
動的インビトロ沈殿モデルを用いた、注射部位におけるニカルジピン沈殿の可能性を評価する試験
図5は、動的インビトロ試験操作(参照:Yalkowskyら、Journal of Pharmaceutical Sciences、第92巻、第8号、2003年)を用いた、薬物沈殿の可能性を予測するための実験結果を示している。このモデルは、静脈内への製剤の注入をシミュレートし、沈殿を検出する。図5における製剤はすべて0.5mg/mlのニカルジピンHClを含有した。図5における製剤は、左から右へ以下のとおりであった:
− 生理食塩水を用いて、現在の2.5mg/mLのアンプル製品から希釈した0.5mg/mLのニカルジピンHCl
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、50mMの酢酸塩、50mMのコハク酸塩および50mMのリン酸塩の緩衝液、106mMのNaCl、pH4.2
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、30mMの酢酸塩、30mMのコハク酸塩および30mMのリン酸塩の緩衝液中、138mMのNaCl、pH4.2
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、10mMの酢酸塩、10mMのコハク酸塩および10mMのリン酸塩の緩衝液中、152mMのNaCl、pH4.2
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、50mMの酢酸塩緩衝液中、130mMのNaClおよび2.5%(w/v)のCAPTISOL(登録商標)、pH4.5
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、50mMの酢酸塩緩衝液中、90mMのNaClおよび5.0%(w/v)のCAPTISOL(登録商標)、pH4.5
− 0.5mg/mLのニカルジピンHCl、50mMの酢酸塩緩衝液中、20mMのNaClおよび10.0%(w/v)のCAPTISOL(登録商標)、pH4.5
【0107】
上記製剤の各々を、血液(pH7.4、5ml/分の流速を有する)と同等の緩衝能力を有する流動等張性ゼーレンセンリン酸緩衝溶液中に5ml/分の注入速度で(三重)注入した。種々の製剤とゼーレンセン緩衝液の混合物をUV検出器の流動セルに通し、540nmでの吸光度をモニターすることにより、生じた沈殿を測定した。最高吸光度の減少は沈殿可能性の減少を示す。静力学的モデルにおいて示された結果(図3および図4)と一致して、動的インビトロ沈殿モデルからの図5における結果は、CAPTISOL(登録商標)が、薬物の沈殿を最少化するために有効であることを示している。例えば、CAPTISOL(登録商標)の濃度が、2.5%(w/v)から10.0%(w/v)に増加すると、沈殿レベルは低下する。また、混合緩衝液製剤の使用によっても、薬物沈殿の可能性は減少した。
【0108】
[実施例6から11]
実施例6〜11は、特定の実施形態を用いて実施された実験を示している。実施例6〜11における実験は、比較的短期間に十分な製品の分解を引き起こすストレス条件をシミュレートするために、45℃で実施した。分解プロファイルにおける相対的な違いを評価するために、対照製剤(CF)および/または市販製品製剤(CPF)に対して安定性の比較を行った。CPFは市販の薬物製品であり、したがって、該分子の分解挙動は、温度および時間の関数として十分に認識されている。室温、22℃〜27℃、および40℃で、36カ月までの該市販製品に関する安定性データが入手できる。
【0109】
この予備スクリーニング評価に用いられた原理は、評価された製剤のプロトタイプの分解動態学が、ストレス温度でのCPFと同等であったならば、薬物製品の安定性は、室温では同等か、またはより良好であろうというものである。現在のプロトタイプ製剤は、25℃少なくとも18カ月間安定であり、したがって、評価された製剤プロトタイプは、同等か、またはより良好な安定性を有し得ることが予測される。
【実施例6】
【0110】
製剤の調製および分析
ソルビトールまたはプロピレングリコールなどの所望の補助溶媒、および/またはSBEBCDまたは2HPBCDなどの錯化剤を含有する酢酸塩またはコハク酸塩などの適切な緩衝剤を調製した。塩化ナトリウムなどの適切な等張化剤を調製し、いくつかの該医薬組成物に加えた。最終製剤容量および目標の薬物濃度、通常0.2〜0.3mg/mLに基づき、ニカルジピンを、適切なガラス容器に量り入れ、調製した緩衝剤を加えて該薬物を溶解させた。次いで、適宜等張化剤を加えた。次いで、薬物溶解を促進するために、該溶液を45分間まで超音波処理した。薬物溶解後、0.45μmのシリンジフィルター(Life SciencesからのAcrodisc LC13mmSyringe filter、PVDF Membrane、PN4452T)を通して該溶液をろ過した。ろ過の際、最初の数滴を捨て、残りの溶液を回収して別のガラス容器に入れた。調製した製剤を引き続き、バイアルまたは静脈内用バッグに分け入れた。
【0111】
上記のプロトコルに従って、以下の等張性医薬組成物を作製した:
医薬組成物1(PC1):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、3.7%のソルビトール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは5.0
医薬組成物2(PC2):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.7%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは5.0
医薬組成物3(PC3):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、2.8%のソルビトール、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物4(PC4):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.1%のプロピレングリコール、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物5(PC5):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、4.1%のソルビトール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは3.5
医薬組成物6(PC6):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.9%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは3.5
医薬組成物7(PC7):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、4.1%のソルビトール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは4.5
医薬組成物8(PC8):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは4.5
医薬組成物9(PC9):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、6.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物10(PC10):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、6.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは6.0
医薬組成物11(PC11):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、8.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物12(PC12):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、8.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは6.0
医薬組成物13(PC13):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、8.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは5.0
医薬組成物14(PC14):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、8.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのクエン酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物15(PC15):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、22.5%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは5.0
医薬組成物16(PC16):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、22.5%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
医薬組成物17(PC17):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、17.5%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMの酢酸Na、該組成物のpHは5.0
医薬組成物18(PC18):0.2〜0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、17.5%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸Na、該組成物のpHは5.5
市販製品(アンプル)製剤(CPF):2.5mg/mlの塩酸ニカルジピン、2.5mMのクエン酸塩、および5%のソルビトール、該組成物のpHは3.5
対照製剤(CF):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、2.5mMのクエン酸塩、および5%のソルビトール、該組成物のpHは3.5
医薬組成物19(PC19):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、50mMの酢酸ナトリウム、50mMのクエン酸ナトリウム、および50mMのコハク酸二ナトリウム、該組成物のpHは3.5
医薬組成物20(PC20):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、50mMの酢酸ナトリウム、50mMのクエン酸ナトリウム、および50mMのコハク酸二ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物21(PC21):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、50mMの酢酸ナトリウム、50mMのクエン酸ナトリウム、および50mMのコハク酸二ナトリウム、該組成物のpHは5.0
医薬組成物22(PC22):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、50mMの酢酸ナトリウム、50mMのクエン酸ナトリウム、および25mMのコハク酸二ナトリウム、該組成物のpHは5.5
医薬組成物23(PC23):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、4.1%のソルビトール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは3.5
医薬組成物24(PC24):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、4.1%のソルビトール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物25(PC25):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、3.7%のソルビトール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.0
医薬組成物26(PC26):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、2.8%のソルビトール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.5
医薬組成物27(PC27):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.9%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物28(PC28):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物29(PC29):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.7%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.0
医薬組成物30(PC30):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.1%のプロピレングリコール、および50mMのコハク酸ナトリウム、該組成物のpHは5.5
医薬組成物31(PC31):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、6.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸ナトリウム、該組成物のpHは5.5
医薬組成物32(PC32):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、6.5%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸ナトリウム、該組成物のpHは6.0
医薬組成物33(PC33):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、22.5%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.0
医薬組成物34(PC34):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、17%の2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、および50mMのコハク酸二ナトリウム、該組成物のpHは5.5
医薬組成物35(PC35):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.3%のプロピレングリコール、0.5%のソルビトール、30mMの酢酸ナトリウムおよび90mMのNaCl、該組成物のpHは5.2
医薬組成物36(PC36):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.3%のプロピレングリコール、2.0%のソルビトール、30mMの酢酸ナトリウムおよび45mMのNaCl、該組成物のpHは5.2
医薬組成物37(PC37):1.5mg/mlの塩酸ニカルジピン、9%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および30mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物38(PC38):1.5mg/mlの塩酸ニカルジピン、9%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、および30mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.0
医薬組成物39(PC39):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、および30mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは3.5
医薬組成物40(PC40):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、および30mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.0
医薬組成物41(PC41):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、および30mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは4.5
医薬組成物42(PC42):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および110mMのNaCl、該組成物のpHは5.0
医薬組成物43(PC43):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、0.3%のプロピレングリコール、30mMの酢酸ナトリウム、および85mMのNaCl、該組成物のpHは5.0
医薬組成物44(PC44):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および110mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物45(PC45):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および200mMのデキストロース、該組成物のpHは4.5
医薬組成物46(PC46):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.75%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物47(PC47):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.0%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物48(PC48):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、3.4%のソルビトール、および50mMのコハク酸ナトリウム、該組成物のpHは5.6
医薬組成物49(PC49):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.3%のプロピレングリコール、および50mMの酢酸ナトリウム、該組成物のpHは5.6
医薬組成物50(PC50):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.8%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および110mMのNaCl、該組成物のpHは5.0
医薬組成物51(PC51):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.75%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物52(PC52):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.0%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物53(PC53):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.5%のソルビトール、0.3%のプロピレングリコール、30mMの酢酸ナトリウムおよび90mMのNaCl、該組成物のpHは5.2
医薬組成物54(PC54):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、1.0%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物55(PC55):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.75%のスルホブチルエーテル−β−シクロデキストリン、30mMの酢酸ナトリウム、および125mMのNaCl、該組成物のpHは4.5
医薬組成物56(PC56):0.3mg/mlの塩酸ニカルジピン、0.5%のソルビトール、0.3%のプロピレングリコール、50mMの酢酸ナトリウムおよび90mMのNaCl、該組成物のpHは5.2
【0112】
対照製剤(CF)中の賦形剤濃度は、市販製品製剤(CPF)、CARDENE(登録商標)I.V(アンプル)と等しい。しかし、活性成分の濃度は、市販製剤と対照製剤とで異なる。市販製品製剤(CPF)では、アンプル中の塩酸ニカルジピンの濃度は、希釈前に2.5mg/mLであり、投与前に適切なIV液による希釈後は0.1mg/mlである。静脈内用液体によるさらなる希釈が必要とされないように予備混合即時使用静脈内用バッグのために設計されている対照製剤(CF)は、0.3mg/mLの塩酸ニカルジピン濃度を有する。対照製剤の目的は、評価される製剤の分解性向の評価を助けることである。ストレス条件における同等の分解プロファイルは、同等の製剤安定性を示す。
【実施例7】
【0113】
ソルビトールおよびプロピレングリコール製剤によるバイアル安定性データ
補助溶媒および緩衝剤を含む本発明の医薬組成物のバイアル中での安定性を、対照製剤および市販製品製剤と比較した。下記組成物に関する経時的薬物濃度を比較することにより、安定性を判定した。具体的に下記組成物は、実施例6の方法に従って調製した:
50mMの酢酸Na、pH3.5、4.1%のソルビトール(PC5)
50mMの酢酸Na、pH3.5、1.9%のプロピレングリコール(PC6)
50mMの酢酸Na、pH4.5、4.1%のソルビトール(PC7)
50mMの酢酸Na、pH4.5、1.8%のプロピレングリコール(PC8)
50mMの酢酸Na、pH5.0、3.7%のソルビトール(PC1)
50mMの酢酸Na、pH5.0、1.7%のプロピレングリコール(PC2)
対照製剤:0.3mg/mL、2.5mMのクエン酸塩、5%のソルビトール、pH3.5(CF)、および
市販製品製剤:2.5mg/ml、2.5mMのクエン酸塩、5%のソルビトール、pH3.5(CPF)
【0114】
これらの安定性試験は、2mlのガラスバイアル中、高温条件、この場合45℃で実施した。製剤の安定性は、標準曲線に対してRP−HPLCによる薬物濃度を測定することによってモニターした。薬物濃度の測定は、実験開始時および46日目に測定を行った市販製品製剤を除いては、実験開始時、7日目および21日目に行った。次いで、ある期間後に残存する薬物のパーセンテージを示すために、これらの測定値をパーセンテージに変換した。
【0115】
これらの安定性試験のデータを下表に示す。
【表3】


【表4】

【0116】
このデータは、補助溶媒を含有する本発明の医薬組成物のバイアル中の安定性、経時的薬物濃度が、対照製剤(CF)および現在の製品製剤(CPF)の双方と同等であることを示している。また、該組成物は、対照製剤に比較してさらなる分解産物はなかった(データは示していない)。
【実施例8】
【0117】
SBEBCD製剤によるバイアル安定性データ
錯化剤および緩衝剤を含む本発明の医薬組成物のバイアル中の安定性を、対照製剤および市販の製品製剤と比較した。安定性は、下記の組成物に関して経時的に薬物濃度を比較することによって判定された。具体的に、下記の組成物が、実施例6の方法に従って調製された:
50mMの酢酸Na、8.5%のSBE−ベータシクロデキストリン、pH5.0(PC13)、
50mMの酢酸Na、8.5%のSBE−ベータシクロデキストリン、pH5.5(PC14)、
50mMのコハク酸Na、8.5%のSBE−ベータシクロデキストリン、pH5.5(PC11)、
50mMのコハク酸Na、8.5%のSBE−ベータシクロデキストリン、pH6.0(PC12)、
対照製剤:0.3mg/mL、2.5mMのクエン酸塩、5%のソルビトール、pH3.5(CF)、および市販製品製剤:2.5mg/mL、2.5mMのクエン酸塩、5%のソルビトール、pH3.5(CPF)。
【0118】
これらの安定性試験は、2mlのガラスバイアル中、高温条件、この場合45℃で実施された。製剤の安定性は、標準曲線に対しRP−HPLCによる薬物濃度を測定することによってモニターされた。実験開始時および46日目に測定が行われた市販製品製剤を除いて、薬物濃度の測定は、実験開始時、6日目、13日目および30日目に行われた。次いで、ある期間後の残存薬物のパーセンテージを示すために、これらの測定値をパーセンテージに変換した。
これらの安定性試験からのデータを下表に示す。
【表5】

【表6】

【0119】
このデータは、SBEBCDを含有する本発明の医薬組成物のバイアル中の安定性、経時的薬物濃度が、対照製剤(CF)および現在の製品製剤(CPF)の双方と同等であることを示している。また、該組成物は、対照製剤に比較してさらなる分解産物はなかった(データは示していない)。また、0.2〜0.3mg/mLの目標の濃度は、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンの存在下で容易に達成し得ることも、注目に値する。
【実施例9】
【0120】
ソルビトールおよびプロピレングリコール製剤による静脈内用バッグの安定性データ
補助溶媒および緩衝剤を含む本発明の医薬組成物の静脈内用バッグ中の安定性を、対照製剤と比較した。安定性は、下記の組成物に関して経時的に薬物濃度を比較することによって判定された。具体的に、下記の組成物が、実施例6の方法に従って調製された:
50mMの酢酸Na、pH3.5、4.1%のソルビトール(PC5)、
50mMの酢酸Na、pH3.5、1.9%のプロピレングリコール(PC6)、および
対照製剤:0.3mg/mL、2.5mMクエン酸塩、5%のソルビトール、pH3.5(CF)。
【0121】
これらの安定性試験は、50mlの静脈内用バッグ中、高温条件、この場合45℃で実施された。製剤の安定性は、標準曲線に対しRP−HPLCによる薬物濃度を測定することによってモニターされた。薬物濃度の測定は、実験開始時、7日目および21日目に行われた。次に、ある期間後の残存薬物のパーセンテージを示すために、これらの測定値をパーセンテージに変換した。
【0122】
これらの安定性試験からのデータを下表に示す。
【表7】

【0123】
このデータは、補助溶媒を含有する本発明の医薬組成物の静脈内バッグ中の安定性、経時的薬物濃度が、対照製剤と同等であることを示している。さらに、該組成物は、対照製剤に比較してさらなる分解産物はなかった(データは示していない)。最終的に、該バッグ表面上の薬物吸着はpH3.5で最少であった。
【実施例10】
【0124】
HPCD製剤による静脈内用バッグの安定性データ
錯化剤および緩衝剤を含む本発明の医薬組成物の安定性を、バイアルおよび静脈内用バッグの双方において評価した。安定性は、下記の組成物に関して経時的に薬物濃度を比較することによって判定された。具体的に、下記の組成物が、実施例6の方法に従って調製された:
50mMの酢酸Na、pH5.0、22.5%のHPCD(PC15)。
【0125】
これらの安定性試験は、50mlの静脈内用バッグ中、高温条件、この場合45℃で実施された。この安定性評価は、直立型および倒立型双方のバッグ配置において10mLの充填容量で実施された。これらの評価は、対照として2mlのガラスバイアル中、同じ製剤に関して実施された。製剤の安定性は、標準曲線に対しRP−HPLCによる薬物濃度を測定することによってモニターされた。薬物濃度の測定は、実験開始時、1日目、2日目、6日目、9日目および16日目に行われた。
【0126】
これらの安定性試験からのデータを下表に示す。
【表8】

【0127】
このデータは、錯化剤を含有する本発明の医薬組成物の安定性、経時的薬物濃度が、バッグの直立型配置においてより有望であることを示している。またこのデータは、薬物製品の回収が倒立型バッグの配置においてより不良であることを示している。
【0128】
該組成物が、倒立型静脈内バッグと比較して、直立型静脈内バッグ中でより安定であるのはなぜかを判定するために、さらなる実験が実施された。薬物濃度の低下は、いずれの新たな分解産物によるものではなかった(データは示していない)。薬物濃度の低下はバッグ表面上の薬物吸着によるものであったと、我々は考えている。多数の疎水性薬物に関して、PVC表面上の吸着については、一般に懸念が報告されている。したがって、我々が認めた、倒立型配置における有意な吸着は、該薬物がPVC表面と接触することによる可能性が高い。これらの結果により、薬物製品の十分な回収のために、薬物吸着を最少にする実行可能なオプションとして非PVCバッグの使用および/またはバッグサイズ(溶液容量)の慎重な評価が示唆される。
【実施例11】
【0129】
ソルビトール製剤による静脈内用バッグの安定性データ
補助溶媒および緩衝剤を含む本発明の医薬組成物の安定性を、バイアルおよび静脈内用バッグの双方において評価した。安定性は、下記の組成物に関して経時的に薬物濃度を比較することによって判定された。具体的に、下記の組成物が、実施例6の方法に従って調製された:
50mMの酢酸Na、pH5.0、3.7%のソルビトール(PC1)。
【0130】
これらの安定性試験は、50mlの静脈内用バッグ中、高温条件、この場合45℃で実施された。この安定性評価は、直立型および倒立型双方のバッグ配置において10mLおよび50mL双方の充填容量で実施された。これらの評価は、対照として2mLのガラスバイアル中、同じ製剤に関して実施された。製剤の安定性は、標準曲線に対しRP−HPLCによる薬物濃度を測定することによってモニターされた。薬物濃度の測定は、実験開始時、1日目、2日目、5日目、9日目および16日目に行われた。
【0131】
これらの安定性試験からのデータを下表に示す。
【表9】

【0132】
このデータは、補助溶媒を含有する本発明の医薬組成物の安定性、経時的薬物濃度が、バッグの直立型配置においてより有望であることを示している。またこのデータは、薬物製品の回収が倒立型バッグの配置においてより不良であることを示している。
【0133】
該組成物が、倒立型静脈内バッグと比較して、直立型静脈内バッグ中でより安定であるのはなぜかを判定するために、さらなる実験が実施された。薬物濃度の低下は、新たな分解産物によるものではなかった(データは示していない)。薬物濃度の低下はバッグ表面上の薬物吸着によるものであったと、我々は考えている。多数の疎水性薬物に関して、PVC表面上の吸着については、一般に懸念が報告されている。したがって、我々が認めた、倒立型配置における有意な吸着は、該薬物がPVC表面と接触することによる可能性が高い。この考えは、50mLの充填形態に比較して10mLの充填形態で薬物の回収がより不良であったことを認めた事実によりさらに裏付けされるが、この回収不良は、10mL充填形態が、容量に対してより高い表面積比を有し、このことが薬物吸着および回収に悪影響を与えるという事実にある程度よるものと思われる。結論として、これらの結果により、薬物製品の十分な回収のために、薬物吸着を最少にする実行可能なオプションとして非PVCバッグの使用および/またはバッグサイズ(溶媒容量)の慎重な評価が示唆される。
【0134】
当然のことながら、本明細書に記載された実施例および実施形態は、例示のみを目的としており、それらを考慮して種々の修飾または変更が、当業者に示唆されるであろうし、本出願の趣旨および権限ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるものとする。本明細書に引用されたすべての刊行物、特許、特許出願は、すべての目的のために参照としてそれらの全体が本明細書に援用されている。本明細書に引用された参考文献と本明細書の具体的な教示との間の矛盾はいずれも、後者に有利になるように解決されることとする。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】pHの関数として、ニカルジピンHClとCAPTISOL(登録商標)との錯体化を評価するための相溶解度試験を示す図である。
【図2A】55℃での保存時間の関数としてのニカルジピンHClの濃度変化を評価するための、pHおよびCAPTISOL(登録商標)濃度の関数としてのニカルジピンHCl製剤の安定性試験を示す図である。
【図2B】55℃での保存時間の関数としての%総不純物形成を評価するための、pHおよびCAPTISOL(登録商標)濃度の関数としてのニカルジピンHCl製剤の安定性試験を示す図である。
【図3】インビトロ静力学的沈殿モデルにおける、評価したCAPTISOL(登録商標)製剤に関する希釈因子の関数としての沈殿可能性評価の図である。
【図4】インビトロ静力学的沈殿モデルにおける、評価した混合緩衝液製剤に関する希釈因子の関数としての沈殿可能性評価の図である。
【図5】インビトロ動態学的沈殿モデルにおける、CAPTISOL(登録商標)製剤および混合緩衝液製剤の沈殿可能性評価の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性担体中にニカルジピンの薬学的に許容できる塩、1つまたは複数の緩衝剤を含み、約3.5から約5.5の範囲内のpHを有する医薬組成物であって、組成物中のニカルジピンの濃度が、0.25mg/mlから5.0mg/ml(両端を含む)であり、組成物中の各緩衝剤の濃度が、0.1mMから100mMであり、ヒトへの直接的非経口ボーラス投与用に製剤化されることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
製剤中のニカルジピンの濃度が0.25mg/mlから1.0mg/ml(両端を含む)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ニカルジピンの濃度が0.5mg/mlである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
緩衝剤が、酢酸、クエン酸、コハク酸、およびリン酸緩衝剤の塩類または酸類からなる群から選択される1種または複数の作用物質である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
緩衝剤が、酢酸塩とクエン酸塩との緩衝剤、酢酸塩とリン酸塩との緩衝剤、クエン酸塩とリン酸塩との緩衝剤、コハク酸塩とリン酸塩との緩衝剤;酢酸塩とコハク酸塩との緩衝剤;およびクエン酸塩とコハク酸塩との緩衝剤を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
緩衝剤が、酢酸塩とリン酸塩とクエン酸塩との緩衝剤;コハク酸塩とクエン酸塩とリン酸塩との緩衝剤;コハク酸塩と酢酸塩とリン酸塩との緩衝剤;およびクエン酸塩と酢酸塩とコハク酸塩との緩衝剤を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
等張化剤をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
等張化剤が、デキストロースおよび塩化ナトリウムの1つまたは複数を含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
0.1%(w/v)から25%(w/v)の濃度で少なくとも1つの補助溶媒をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
補助溶媒の濃度が0.1%(w/v)から10%(w/v)である、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1種の補助溶媒が、エタノール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、またはプロピレングリコールのうちの任意の1つまたは複数を含む、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
pHが、pH3.5より高くpH5.0未満である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
請求項1に記載のボーラス組成物をヒト対象に非経口投与することを含む、高血圧の対象を処置する方法。
【請求項14】
対象が容量制限されている、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象が、浮腫、腎不全、腹水、脳浮腫、または他の体液過負荷、うっ血性心不全、肝不全、またはCNS傷害を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組成物が30秒未満の時間にわたって投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
高血圧が軽減される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
高血圧が制御または予防される、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
ニカルジピンまたは薬学的に許容できるその塩とスルホアルキル化β−シクロデキストリンとの包接錯体。
【請求項20】
スルホアルキル化β−シクロデキストリンがスルホブチル化β−シクロデキストリンである、請求項19に記載の包接錯体。
【請求項21】
スルホブチル化β−シクロデキストリンがスルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンである、請求項20に記載の包接錯体。
【請求項22】
ニカルジピンの薬学的に許容できる塩がニカルジピン塩酸塩である、請求項20に記載の包接錯体。
【請求項23】
ヒト対象への非経口ボーラス投与用に製剤化されたことを特徴とする請求項19に記載の包接錯体を含む医薬組成物。
【請求項24】
スルホアルキル化β−シクロデキストリンが、平均5から8のスルホブチル化度を有するスルホブチル化β−シクロデキストリンである、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
平均5から8のスルホブチル化度を有するスルホブチル化β−シクロデキストリンが、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンである、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
1つまたは複数の緩衝剤を含有する非経口注射用水性担体中にニカルジピンの薬学的に許容できる塩を含み、約3.5から約7.5の範囲内のpHを有する、請求項23に記載の医薬組成物であって、組成物中のニカルジピンの濃度が、0.25mg/mlから5mg/ml(両端を含む)であり、組成物中のスルホアルキル化β−シクロデキストリンの濃度が、0.1%(w/v)から25%(w/v)(両端を含む)であり、組成物中の各緩衝剤の濃度が、0.1mMから100mMである医薬組成物。
【請求項27】
スルホアルキル化β−シクロデキストリンが、平均5から8のスルホブチル化度を有するスルホブチル化β−シクロデキストリンである、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】
平均5から8のスルホブチル化度を有するスルホブチル化β−シクロデキストリンが、スルホブチルエーテルβ−シクロデキストリンである、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
ニカルジピンが、0.25mg/mlから1mg/mlの濃度である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項30】
ニカルジピンの濃度が約0.5mg/mlである、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項31】
スルホブチル化β−シクロデキストリンの濃度が、0.5%(w/v)から10%(w/v)である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項32】
スルホブチル化β−シクロデキストリンの濃度が、0.1%(w/v)から0.5%(w/v)である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項33】
単位用量様式にあり、単位用量が、0.5mlから20ml(両端を含む)の容量で製剤を含有する、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項34】
水性製剤中のニカルジピンの濃度が、0.3mg/mlから0.7mg/ml(両端を含む)である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項35】
水性製剤のニカルジピンの濃度が、約0.5mg/mlである、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項36】
緩衝剤が、酢酸、クエン酸、コハク酸、およびリン酸緩衝剤からなる群から選択される1種または複数の作用物質である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項37】
緩衝剤が、酢酸塩とクエン酸塩との緩衝剤、酢酸塩とリン酸塩との緩衝剤、クエン酸塩とリン酸塩との緩衝剤、コハク酸塩とリン酸塩との緩衝剤;酢酸塩とコハク酸塩との緩衝剤;およびクエン酸塩とコハク酸塩との緩衝剤を含む、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
緩衝剤が、酢酸塩とリン酸塩とクエン酸塩との緩衝剤;コハク酸塩とクエン酸塩とリン酸塩との緩衝剤;コハク酸塩と酢酸塩とリン酸塩との緩衝剤;およびクエン酸塩と酢酸塩とコハク酸塩との緩衝剤を含む、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項39】
等張化剤をさらに含む、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項40】
等張化剤が、デキストロースおよび塩化ナトリウムの1つまたは複数を含む、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
0.1%(w/v)から25%(w/v)の濃度で少なくとも1種の補助溶媒をさらに含む、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項42】
少なくとも1種の補助溶媒の濃度が、0.1%(w/v)から10%(w/v)である、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項43】
少なくとも1種の補助溶媒が、エタノール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、またはプロピレングリコールの任意の1つまたは複数を含む、請求項41に記載の医薬組成物。
【請求項44】
pHが、pH3.5より高くpH5.5以下である、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項45】
急性高血圧の処置を必要とするヒト対象における急性高血圧を処置する方法であって、請求項26に記載の非経口ボーラス組成物を投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項46】
対象が容量制限されている、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
対象が、浮腫、腎不全、腹水、脳浮腫、または他の体液過負荷、うっ血性心不全、肝不全、またはCNS傷害を有する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
組成物が30秒未満の時間にわたって投与される、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
高血圧が軽減される、請求項45に記載の方法。
【請求項50】
急性高血圧の予防を必要とするヒト対象における急性高血圧を予防する方法であって、請求項26に記載の非経口ボーラス組成物を投与することを含むことを特徴とする方法。
【請求項51】
低血圧の誘導を必要とするヒト対象における低血圧を誘導する方法であって、請求項26に記載の非経口ボーラス組成物を投与することを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−534409(P2009−534409A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506753(P2009−506753)
【出願日】平成19年4月18日(2007.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/066897
【国際公開番号】WO2007/121483
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(309009708)イーケーアール セラピューティクス, インク. (2)
【Fターム(参考)】